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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-23
(45)【発行日】2024-07-31
(54)【発明の名称】オイルポンプの製造方法
(51)【国際特許分類】
   F04C 2/10 20060101AFI20240724BHJP
   F16H 57/05 20060101ALI20240724BHJP
【FI】
F04C2/10 341B
F16H57/05
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020045493
(22)【出願日】2020-03-16
(65)【公開番号】P2021148003
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2023-01-25
(73)【特許権者】
【識別番号】519196405
【氏名又は名称】株式会社IJTT
(74)【代理人】
【識別番号】100128509
【弁理士】
【氏名又は名称】絹谷 晴久
(74)【代理人】
【識別番号】100119356
【弁理士】
【氏名又は名称】柱山 啓之
(72)【発明者】
【氏名】木村 淳
【審査官】所村 陽一
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-299669(JP,A)
【文献】実開平05-089880(JP,U)
【文献】特開2002-195147(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 2/10
F16H 57/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに噛合するインナーロータとしての第1歯車及びアウターロータとしての第2歯車と、前記第1及び第2歯車を回転可能に収容するケースと、前記第1及び第2歯車の軸方向の一方の端面と他方の端面とに設けられた樹脂膜と、を有するオイルポンプの製造方法であって、
前記ケースは、前記第1及び第2歯車を軸方向に挟んで互いに締結される第1ケース部材及び第2ケース部材を有し、
前記第1及び第2歯車の一方の端面に対向する前記第1ケース部材の第1壁面には、吸入ポート及び吐出ポートが形成され、
前記製造方法は、
前記第1及び第2歯車の一方の端面と他方の端面とに前記樹脂膜を被覆する樹脂膜被覆工程と、
前記樹脂膜被覆工程の後に前記第1ケース部材及び前記第2ケース部材を互いに締結するときに、前記一方の端面と前記第1壁面とで前記樹脂膜を塑性変形させると共に、前記他方の端面とこれに対向する前記第2ケース部材の第2壁面とで前記樹脂膜を塑性変形させる塑性変形工程であって、塑性変形後に前記樹脂膜と、これに対向する前記第1及び第2壁面との隙間がゼロになり、かつ塑性変形後に前記樹脂膜に圧縮応力が発生しないように前記樹脂膜を塑性変形させる塑性変形工程と、
を備え
前記塑性変形工程において、前記一方の端面に被覆された前記樹脂膜は、その塑性変形前に、前記吸入ポート及び前記吐出ポートの半径方向内側及び外側の位置においてのみ前記第1壁面に当接され、前記一方の端面に被覆された前記樹脂膜の位置および形状は、当該樹脂膜が塑性変形したときに前記吸入ポート及び前記吐出ポートに侵入しないように設定されている
ことを特徴とする製造方法。
【請求項2】
前記オイルポンプは、車両において、全輪駆動と後輪駆動または前輪駆動とを切り替えるためのトランスファーに設けられ、前記トランスファーの被潤滑部分にオイルを供給する
請求項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、オイルポンプの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
オイルポンプとしては、互いに噛合する第1及び第2歯車と、第1及び第2歯車を回転可能に収容するケースと、を有する歯車ポンプが知られている。
【0003】
例えば、内接歯車ポンプでは、第1歯車としてのインナーロータと、第2歯車としてのアウターロータとが、ケース内で互いに噛合して回転することで、ロータ同士の歯面間でオイルが加圧され、ケースの吐出ポートからオイルが吐出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平10-299689号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記のオイルポンプでは、オイルの吐出効率の低下を抑制すべく、第1及び第2歯車の軸方向の端面とその端面に対向するケースの壁面との隙間が、小さく設定されることが望ましい。
【0006】
しかしながら、この隙間が小さいと、対向する面同士の摺動抵抗が増加する虞がある。
【0007】
そこで、本開示は、かかる事情に鑑みて創案され、その目的は、オイルの吐出効率の低下と摺動抵抗を抑制できるオイルポンプの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一の態様によれば、互いに噛合する第1及び第2歯車と、前記第1及び第2歯車を回転可能に収容するケースと、前記第1及び第2歯車の軸方向の端面と前記端面に対向する前記ケースの壁面との少なくとも一方に設けられた樹脂膜と、を有するオイルポンプの製造方法であって、前記ケースは、前記第1及び第2歯車を軸方向に挟んで互いに締結される第1ケース部材及び第2ケース部材を有し、前記製造方法は、前記第1ケース部材及び前記第2ケース部材を互いに締結するときに、前記樹脂膜と、これに対向する前記壁面または前記端面との隙間がゼロになるように、前記端面と前記壁面とで前記樹脂膜を塑性変形させる塑性変形工程を備えることを特徴とする製造方法が提供される。
【0009】
好ましくは、オイルポンプの製造方法は、前記塑性変形工程の前に、前記端面及び前記壁面の少なくとも一方に前記樹脂膜を被覆する樹脂膜被覆工程を更に備える。
【0010】
また、前記オイルポンプは、車両において、全輪駆動と後輪駆動または前輪駆動とを切り替えるためのトランスファーに設けられ、前記トランスファーの被潤滑部分にオイルを供給する。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、オイルの吐出効率の低下と摺動抵抗を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】オイルポンプが設けられたトランスファーの概略断面図である。
図2】オイルポンプの拡大断面図である。
図3図2に示したIII-III線の拡大断面図である。
図4】オイルポンプの製造方法を示す工程図である。
図5】樹脂膜被覆工程を示す拡大断面図である。
図6】塑性変形工程において塑性変形前の状態を示す拡大断面図である。
図7】塑性変形工程において塑性変形後の状態を示す拡大断面図である
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して本開示の実施形態を説明する。なお、図中に示す前後方向は、説明の便宜上定められたものに過ぎないものとする。
【0014】
先ず、図1図3を参照して、本実施形態のオイルポンプ100の構造について説明する。本実施形態の前後方向は、オイルポンプ100を備えた車両(不図示)の前後方向と一致する。
【0015】
図1に示すように、オイルポンプ100は、車両のトランスファー1に設けられる。車両は、FR車(フロントエンジン・リアドライブ車)ベースのAWD(All Wheel Drive:全輪駆動)車であり、トランスファー1は、全輪駆動と後輪駆動とを切り替えるように構成される。
【0016】
本実施形態のトランスファー1は、ハウジング2と、ハウジング2内に収容された主軸3、副軸4、多板クラッチ5及びアクチュエータ6と、を備える。
【0017】
ハウジング2は、トランスミッションのハウジング(不図示)の後端部に接続される。主軸3及び副軸4は、それぞれ前後方向に延びて、互いに平行に配置される。
【0018】
主軸3の前端部は、トランスミッションの出力軸7に接続され、主軸3の後端部は、プロペラシャフト8の前端部に接続される。副軸4の前端部は、前輪駆動用のプロペラシャフト9の後端部に接続される。
【0019】
主軸3の外周部には、第1スプロケット3aが回転自在に設けられる。一方、副軸4の外周部には、第2スプロケット4aが一体に設けられる。第1スプロケット3a及び第2スプロケット4aには、チェーンCが掛け回される。
【0020】
多板クラッチ5は、主軸3及び第1スプロケット3aを断接可能に接続する。アクチュエータ6は、電磁石6aによって駆動され、多板クラッチ5の締結力を調整するように構成される。
【0021】
本実施形態では、エンジンからの回転駆動力が、トランスミッションの出力軸7及びトランスファー1の主軸3を介して、プロペラシャフト8に伝達される。また、多板クラッチ5が接のとき、主軸3からプロペラシャフト8に伝達される回転駆動力の一部は、スプロケット3a,4a及び副軸4を介して、前輪駆動用のプロペラシャフト9に分配される。
【0022】
本実施形態のオイルポンプ100は、トランスファー1の主軸3に取り付けられる。図2及び図3に示すように、オイルポンプ100には、内接歯車ポンプが用いられる。
【0023】
オイルポンプ100は、互いに噛合する第1歯車としてのインナーロータ10及び第2歯車としてのアウターロータ20と、インナーロータ10及びアウターロータ20を回転可能に収容するケース30と、を備える。
【0024】
インナーロータ10は、金属製の外歯歯車であり、トロコイド曲線からなる複数(図示例では、9個)の外歯11を有する。アウターロータ20は、金属製の内歯歯車であり、トロコイド曲線からなる複数(図示例では、10個)の内歯21を有する。
【0025】
インナーロータ10の中心軸X1及びアウターロータ20の中心軸X2は、前後方向にそれぞれ延び、互いに偏心して配置される。
【0026】
インナーロータ10の径方向の中心部分には、スプライン穴12が形成される。スプライン穴12には、主軸3が同軸に挿入されてスプライン嵌合される。一方、アウターロータ20は、ケース30内に同軸かつ回転可能に配置される。
【0027】
図2に示すように、インナーロータ10及びアウタ-ロータ20は、軸方向において、互いに同じ厚さD1を有する。
【0028】
ケース30は、第1ケース部材としてのポンプケース31と、第2ケース部材としてのポンプカバー32と、を有する。
【0029】
ポンプケース31及びポンプカバー32は、金属材料で形成され、インナーロータ10及びアウターロータ20を軸方向に挟んで互いに締結される。但し、ポンプケース31及びポンプカバー32は、任意の材質であって良く、例えば、樹脂材料で形成されても良い。
【0030】
ポンプケース31は、前後方向に延びる中心軸X2を有する有底円筒状に形成される。ポンプケース31の前端は、底部31aによって閉止され、ポンプケース31の後端は、開放される。
【0031】
また、ポンプケース31は、アウターロータ20の外径よりも僅かに大きい内径を有し、インナーロータ10及びアウターロータ20を回転可能に収容する。また、ポンプケース31は、ブラケット(不図示)を介して、トランスファー1のハウジング2(図1を参照)に固定支持される。
【0032】
底部31aの径方向の中央部分には、主軸3が挿通される挿通穴H1が形成される。また、底部31aの後面部には、吸込ポート33及び吐出ポート34が形成される。
【0033】
吸込ポート33及び吐出ポート34は、周方向に延びる溝状にそれぞれ形成され、挿通穴H1に対して、互いに軸対称となるように配置される。
【0034】
吸込ポート33は、底部31aの外周部に形成された吸込口35に連通する。吸込口35には、オイル供給管35aが接続される。
【0035】
吐出ポート34は、挿通穴H1の内周面に形成された吐出口36(図3を参照)に連通する。吐出口36は、主軸3に形成された油路3bに接続される。
【0036】
ポンプケース31の外周部には、ボルト挿通穴37aを有するケース側フランジ37が、周方向に間隔を空けて複数(本実施形態では、4つ)形成される。
【0037】
ポンプカバー32は、円盤状に形成されており、ポンプケース31に同軸に接続され、ポンプケース31の後端を後側から覆って閉止する。ポンプカバー32の径方向の中央部分には、主軸3が挿通される挿通穴H2が形成される。
【0038】
ポンプカバー32の外周部には、ボルト挿通穴38aを有するカバー側フランジ38が、ケース側フランジ37に対応して複数(本実施形態では、4つ)形成される。ポンプケース31及びポンプカバー32は、ボルト39a及びナット39bを用いて、互いにフランジ締結される。
【0039】
本実施形態のオイルポンプ100では、主軸3によってインナーロータ10が回転駆動され、これに伴ってアウターロータ20が連れ回り(差動回転)される。これにより、トランスファー1のオイル貯留部(不図示)に貯留されたオイルが、オイル供給管35aを通り、吸込口35から吸込ポート33に吸い込まれる。吸込ポート33に吸い込まれたオイルは、インナーロータ10の歯面11a及びアウターロータ20の歯面21aの間で加圧され、吐出ポート34から吐出口36に吐出される。吐出口36から吐出されたオイルは、図1に示すように、主軸3に形成された油路3bを通り、トランスファー1の被潤滑部分である第1スプロケット3a、多板クラッチ5、及びアクチュエータ6等に供給される。
【0040】
ところで、オイルポンプ100内では、インナーロータ10の前面f1及びアウターロータ20の前面f2が、ポンプケース31の底部31aの壁面(後壁面f3)に対向して配置される。また、インナーロータ10の後面f4及びアウターロータ20の後面f5は、ポンプカバー32の壁面(前壁面f6)に対向して配置される。これらの面f1~f6は、軸方向に対して垂直な平面状に形成される。
【0041】
インナーロータ10及びアウターロータ20の軸方向の厚さD1は、ポンプケース31の後壁面f3とポンプカバー32の前壁面f6との間の距離D2よりも小さくなるように設定される(D1<D2)。
【0042】
図示しないが、一般的に、オイルポンプでは、このような軸方向に対向する面同士の隙間が大きいと、歯面間で加圧されたオイルが、この隙間を通じて吐出ポートから吸込ポートに戻され、オイルの吐出効率が低下してしまう。そのため、オイルポンプでは、軸方向に対向する面同士の隙間が小さく設定されることが望ましい。
【0043】
しかしながら、この隙間が小さいと、対向する面同士の摺動抵抗が増加する虞がある。その結果、トランスファーの主軸の回転抵抗が増加して、エンジンの燃費が悪化する虞がある。また、トランスファーに設けられたオイルポンプは、車両の走行中、全輪駆動及び後輪駆動に拘わらず、主軸の回転駆動力によって常時作動するので、摺動抵抗を抑えることが特に求められる。
【0044】
そこで、本実施形態のオイルポンプ100は、インナーロータ10及びアウターロータ20の前面f1,f2に設けられた樹脂膜としての前側樹脂膜40と、インナーロータ10及びアウターロータ20の後面f4,f5に設けられた樹脂膜としての後側樹脂膜50と、を備える。
【0045】
以下、図4図7を参照して、これら樹脂膜40,50を備えたオイルポンプ100の製造方法を説明する。
【0046】
図4に示すように、本実施形態の製造方法は、樹脂膜被覆工程S100と、塑性変形工程S101と、を備える。
【0047】
図5に示すように、樹脂膜被覆工程S100では、塑性変形工程S101の前に、インナーロータ10及びアウターロータ20の前面f1,f2に前側樹脂膜40を被覆し、インナーロータ10及びアウターロータ20の後面f4,f5に後側樹脂膜50を被覆する。
【0048】
樹脂膜40,50は、塑性変形し易いフッ素系樹脂やナイロン等の任意の樹脂、好ましくはナイロン(例えば、ナイロン11)で形成される。
【0049】
本実施形態では、例えば、加熱したロータ10,20の前面f1,f2及び後面f4,f5に、固体粉状のナイロンを付着させて溶かすことで、樹脂膜40,50を被覆する。
【0050】
また、詳細は後述するが、前側樹脂膜40は、塑性変形した後に、対向するポンプケース31の後壁面f3との隙間S1(図7を参照)がゼロになるような厚さで被覆される。また、後側樹脂膜50は、塑性変形した後に、対向するポンプカバー32の前壁面f6との隙間S2(図7を参照)がゼロになるような厚さで被覆される。
【0051】
すなわち、樹脂膜被覆工程S100では、樹脂膜40,50及びロータ10,20の軸方向の全体の厚さD3が、ポンプケース31とポンプカバー32とが締結された後の壁面f3,f6間の距離D2(図7を参照)よりも大きくなるように、樹脂膜40,50を被覆する(D3>D2)。
【0052】
後側樹脂膜50は、インナーロータ10の後面f4と、アウターロータ20の後面f5との全体に被覆される。
【0053】
一方、前側樹脂膜40は、インナーロータ10の前面f1と、アウターロータ20の前面f2との所定位置に被覆される。
【0054】
図6及び図7に示すように、この所定位置は、塑性変形工程S101のときに、前側樹脂膜40が吸込ポート33及び吐出ポート34に侵入しないような位置を意味する。
【0055】
塑性変形工程S101では、ポンプケース31及びポンプカバー32を互いに締結するときに、これらの間でロータ10,20を挟み、樹脂膜40,50を軸方向に圧縮して、厚さを薄くするように塑性変形させる。すなわち、ロータ10,20の前面f1,f2とポンプケース31の後壁面f3とで、前側樹脂膜40を塑性変形させ、また同時に、ロータ10,20の後面f4,f5とポンプカバー32の前壁面f6とで、後側樹脂膜50を塑性変形させる。
【0056】
また、塑性変形工程S101では、前側樹脂膜40とポンプケース31の後壁面f3との隙間S1、及び、後側樹脂膜50とポンプカバー32の前壁面f6との隙間S2が、それぞれゼロになるように、樹脂膜40,50を塑性変形させる。
【0057】
具体的には、図6に示すように、塑性変形工程S101では、先ず、インナーロータ10及びアウターロータ20をポンプケース31内に配置して、塑性変形する前の前側樹脂膜40を、ポンプケース31の後壁面f3に当接させる。また、ここでは、前側樹脂膜40が塑性変形したときに吸込ポート33及び吐出ポート34に侵入しないように、前側樹脂膜40の位置、形状が設定される。
【0058】
次に、後側樹脂膜50にポンプカバー32の前壁面f6を当接させると共に、ポンプケース31及びポンプカバー32のボルト挿通穴37a,38aを、互いに同軸に配置する。
【0059】
最後に、図7に示すように、ボルト挿通穴37a,38aにボルト39aを挿通して、ボルト39aの雄ネジ部にナット39bを締め込む。これにより、ポンプケース31及びポンプカバー32が、互いに軸方向に密着して締結され、オイルポンプ100が完成する。
【0060】
そして、このとき、樹脂膜40,50は、ロータ10,20の前面f1,f2及び後面f4,f5と、ケース31の壁面f3,f6とで、軸方向に圧縮されて塑性変形する。これにより、樹脂膜40,50の軸方向の厚さが薄くなる。
【0061】
樹脂膜40,50が塑性変形した後、前側樹脂膜40とポンプケース31の後壁面f3との隙間S1、及び、後側樹脂膜50とポンプカバー32の前壁面f6との隙間S2は、それぞれゼロになる。ここでいう「ゼロ」とは、樹脂膜40,50と壁面f3,f6とが互いに当接し、かつ、樹脂膜40,50に圧縮応力が発生しない状態を意味する。
【0062】
本実施形態の製造方法によれば、オイルポンプ100において、ロータ10,20の前面f1,f2及び後面f4,f5と、これに対向するケース30の壁面f3,f6との隙間を、樹脂膜40,50によって塞ぎ、ゼロにすることができる。
【0063】
これにより、ロータ10,20の歯面11a,21a間で加圧されたオイルが、吐出ポート34から吸込ポート33に戻されるのを抑制できる。その結果、オイルの吐出効率の低下を抑制できる。
【0064】
また、ケース30の壁面f3,f6により樹脂膜40,50の圧縮応力を発生させないので、樹脂膜40,50と壁面f3,f6との摺動抵抗を抑制できる。
【0065】
よって、本実施形態であれば、オイルの吐出効率の低下を抑制すると共に、摺動抵抗を抑制できる。その結果、トランスファー1の主軸3の回転抵抗を抑えて、エンジンの燃費の悪化を抑制できる。
【0066】
また、本実施形態によれば、樹脂膜40,50を設けたことで、ロータ10,20の前面f1,f2及び後面f4,f5と、これに対向するケース30の壁面f3,f6の加工精度を緩和することができる。
【0067】
ところで、このような樹脂膜を備えたオイルポンプの製造方法としては、次のような第1及び第2比較例が考えられる。
【0068】
図示しないが、第1比較例では、ロータの前面及び後面とケースの壁面とで樹脂膜を圧縮し、樹脂膜に圧縮応力が発生した状態で、ポンプケース及びポンプカバーを互いに締結する。そして、ロータを回転させて、樹脂膜の圧縮応力が無くなるまで、ケースの壁面によって樹脂膜を研磨処理する。
【0069】
しかしながら、この第1比較例では、研磨処理によって樹脂の摩耗粉が発生するため、ポンプケースとポンプカバーの締結を一旦解除して、ケース内からロータを取り出し、摩耗粉を除去する作業が必要になる。そのため、オイルポンプの完成までの作業時間が増加し、オイルポンプの製造コストが増加する可能性がある。また、摩耗粉が樹脂膜にめり込む等して、完全に除去できない可能性がある。
【0070】
これに対して、図7に示したように、本実施形態の製造方法であれば、上記のように、樹脂膜40,50とケース30の壁面f3,f6との隙間S1,S2がゼロになるように、樹脂膜40,50を塑性変形させるので、第1比較例のような研磨処理は不要である。また、ロータ10,20を回転させても、樹脂膜40,50の摩耗粉は実質的に発生しないので、摩耗粉の除去作業も不要であり、ポンプケース31及びポンプカバー32を互いに締結するだけで、オイルポンプ100を完成できる。これにより、作業時間の増加を抑えて、オイルポンプ100の製造コストを抑制できる。
【0071】
他方、第2比較例では、ロータの前面及び後面とケースの壁面とで樹脂膜を圧縮(変形)させず、かつ、樹脂膜と壁面との隙間がゼロになるような厚さの樹脂膜を被覆する。
【0072】
しかしながら、この第2変形例では、精度良く樹脂膜を被覆する必要があり、樹脂膜と壁面との隙間をゼロにするのが難しい可能性がある。
【0073】
これに対して、図5及び図7に示したように、本実施形態の製造方法であれば、樹脂膜40,50を塑性変形させるので、樹脂膜40,50及びロータ10,20の軸方向の全体の厚さD3が、ケース30の壁面f3,f6間の距離D2よりも厚くなるように、樹脂膜40,50を被覆しておけば、樹脂膜40,50とケース30の壁面f3,f6との隙間S1,S2を容易にゼロにできる。
【0074】
以上、本開示の基本実施形態を詳細に述べたが、本開示は以下のような変形例またはそれら変形例の組み合わせとすることができる。なお、下記の説明において、基本実施形態と同一または対応する構成要素には同じ符号を用い、それらの詳細な説明を省略する。
【0075】
(変形例1)
樹脂膜40,50は、ロータ10,20の前面f1,f2及び後面f4,f5ではなく、ケース30の壁面f3,f6に設けられても良い。
【0076】
図示しないが、変形例1の樹脂膜被覆工程では、ポンプケース31の後壁面f3に前側樹脂膜を被覆し、ポンプカバー32の前壁面f6に後側樹脂膜を被覆する。
【0077】
また、変形例1の塑性変形工程では、前側樹脂膜とロータ10,20の前面f1,f2との隙間、及び、後側樹脂膜とロータ10,20の後面f4,f5との隙間が、それぞれゼロになるように、樹脂膜を塑性変形させる。
【0078】
この場合にも、上記の基本実施形態と同様の作用効果が得られる。但し、変形例1の樹脂膜は、ケース30の壁面f3,f6において、塑性変形工程のときに、ロータ10,20の歯面11a,21a間の隙間に侵入しない位置、厚さで被覆する必要がある。
【0079】
なお、樹脂膜は、ロータ10,20の前面f1,f2及び後面f4,f5と、ケース30の壁面f3,f6との両面に設けられても良い。
【0080】
(変形例2)
前側樹脂膜40及び後側樹脂膜50の内、何れか一方は省略されても良い。
【0081】
(変形例3)
オイルポンプ100は、外接歯車ポンプであっても良く、また、トランスファー1以外に設けられても良い。
【0082】
前述の各実施形態の構成は、特に矛盾が無い限り、部分的にまたは全体的に組み合わせることが可能である。本開示の実施形態は前述の実施形態のみに限らず、特許請求の範囲によって規定される本開示の思想に包含されるあらゆる変形例や応用例、均等物が本開示に含まれる。従って本開示は、限定的に解釈されるべきではなく、本開示の思想の範囲内に帰属する他の任意の技術にも適用することが可能である。
【符号の説明】
【0083】
1 トランスファー
10 インナーロータ(第1歯車)
20 アウターロータ(第2歯車)
30 ケース
31 ポンプケース(第1ケース部材)
32 ポンプカバー(第2ケース部材)
40 前側樹脂膜(樹脂膜)
50 後側樹脂膜(樹脂膜)
100 オイルポンプ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7