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特許7526026炭素繊維強化プラスチック板、加工品および炭素繊維強化プラスチック板の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-23
(45)【発行日】2024-07-31
(54)【発明の名称】炭素繊維強化プラスチック板、加工品および炭素繊維強化プラスチック板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 5/00 20060101AFI20240724BHJP
   B32B 5/28 20060101ALI20240724BHJP
   D04H 1/4242 20120101ALI20240724BHJP
   D04H 1/74 20060101ALI20240724BHJP
   C08J 5/04 20060101ALI20240724BHJP
【FI】
B32B5/00 A
B32B5/28 A
D04H1/4242
D04H1/74
C08J5/04 CFC
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020077559
(22)【出願日】2020-04-24
(65)【公開番号】P2021172012
(43)【公開日】2021-11-01
【審査請求日】2022-08-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000201814
【氏名又は名称】双葉電子工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100134832
【弁理士】
【氏名又は名称】瀧野 文雄
(74)【代理人】
【識別番号】100165308
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100115048
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 康弘
(74)【代理人】
【識別番号】100161001
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 篤司
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 亮
(72)【発明者】
【氏名】保科 有佑
【審査官】川口 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/191073(WO,A1)
【文献】特開平04-286633(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 5/00
B32B 5/28
D04H 1/4242
D04H 1/74
C08J 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維長が10~70mmの炭素繊維を含み、配向方向を有する第1炭素繊維不織布と、母材とを有する第1炭素繊維強化プラスチック層と、
繊維長が10~70mmの炭素繊維を含み、前記第1炭素繊維強化プラスチック層の前記第1炭素繊維不織布の配向方向と直交する配向方向を有する第2炭素繊維不織布と、母材とを有する第2炭素繊維強化プラスチック層と、を備え、
前記第1炭素繊維不織布は、質量300~1500g/m2の炭素繊維不織布であり、
前記第2炭素繊維不織布は、質量300~1500g/m2の炭素繊維不織布であり、
少なくとも前記第1炭素繊維強化プラスチック層と前記第2炭素繊維強化プラスチック層とが1層ずつ同数積層する、炭素繊維強化プラスチック板。
【請求項2】
繊維長が10~70mmの炭素繊維を含み、前記第1炭素繊維強化プラスチック層の前記第1炭素繊維不織布の配向方向および前記第2炭素繊維強化プラスチック層の前記第2炭素繊維不織布の配向方向と45度の角度で交差する配向方向を有する第3炭素繊維不織布と、母材とを有する第3炭素繊維強化プラスチック層と、
繊維長が10~70mmの炭素繊維を含み、前記第3炭素繊維強化プラスチック層の前記第3炭素繊維不織布の配向方向と直交し、かつ前記第1炭素繊維強化プラスチック層の前記第1炭素繊維不織布の配向方向および前記第2炭素繊維強化プラスチック層の前記第2炭素繊維不織布の配向方向と45度の角度で交差する配向方向を有する第4炭素繊維不織布と、母材とを有する第4炭素繊維強化プラスチック層と、を備え、
前記第3炭素繊維不織布は、質量300~1500g/m2の炭素繊維不織布であり、
前記第4炭素繊維不織布は、質量300~1500g/m2の炭素繊維不織布であり、
前記第1炭素繊維強化プラスチック層と、前記第2炭素繊維強化プラスチック層と、前記第3炭素繊維強化プラスチック層と、前記第4炭素繊維強化プラスチック層とが少なくとも1層ずつ同数積層する、請求項1に記載の炭素繊維強化プラスチック板。
【請求項3】
前記第1炭素繊維強化プラスチック層の前記第1炭素繊維不織布の配向方向と平行な方向における第1曲げ強度と、
前記第2炭素繊維強化プラスチック層の前記第2炭素繊維不織布の配向方向と平行な方向における第2曲げ強度と、
前記第1炭素繊維強化プラスチック層の前記第1炭素繊維不織布の配向方向および前記第2炭素繊維強化プラスチック層の前記第2炭素繊維不織布の配向方向と45度の角度で交差する交差方向と平行な方向における第3曲げ強度と、の強度比が1:0.8~1.2:0.8~1.2である、請求項1または2に記載の炭素繊維強化プラスチック板。
【請求項4】
前記第1炭素繊維強化プラスチック層の前記第1炭素繊維不織布の配向方向と平行な方向における第1曲げ弾性率と、
前記第2炭素繊維強化プラスチック層の前記第2炭素繊維不織布の配向方向と平行な方向における第2曲げ弾性率と、
前記第1炭素繊維強化プラスチック層の前記第1炭素繊維不織布の配向方向および前記第2炭素繊維強化プラスチック層の前記第2炭素繊維不織布の配向方向と45度の角度で交差する交差方向と平行な方向における第3曲げ弾性率と、の比率が1:0.8~1.2:0.8~1.2である、請求項1~3のいずれかに記載の炭素繊維強化プラスチック板。
【請求項5】
前記母材が熱硬化性樹脂である、請求項1~4のいずれかに記載の炭素繊維強化プラスチック板。
【請求項6】
前記炭素繊維強化プラスチック板に対する炭素繊維不織布の繊維体積含有率が20~40体積%である、請求項1~5のいずれかに記載の炭素繊維強化プラスチック板。
【請求項7】
前記炭素繊維強化プラスチック板の表面の平面度が50mmあたり0.005~0.05mmである、請求項1~6のいずれかに記載の炭素繊維強化プラスチック板。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載の炭素繊維強化プラスチック板を研削加工した加工品。
【請求項9】
前記加工品がローラーであり、当該ローラーの使用面は炭素繊維強化プラスチックである、請求項8に記載の加工品。
【請求項10】
前記加工品が研削用ホイールであり、当該研削用ホイールの使用面は炭素繊維強化プラスチックである、請求項8に記載の加工品。
【請求項11】
請求項1~7のいずれかに記載の炭素繊維強化プラスチック板の製造方法であって、
母材を含浸させた積層体を硬化させる硬化工程を含み、
前記積層体は、少なくとも前記第1炭素繊維強化プラスチック層と前記第2炭素繊維強化プラスチック層とが1層ずつ同数積層した積層体である、炭素繊維強化プラスチック板の製造方法。
【請求項12】
前記硬化工程後、前記積層体の表面をフライス加工するフライス加工工程を含む、請求項11に記載の炭素繊維強化プラスチック板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維強化プラスチック板、加工品および炭素繊維強化プラスチック板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維強化プラスチック(以下、「CFRP」とする場合がある)は、軽量で高い強度を有し、釣竿やゴルフクラブのシャフト等のスポーツ用途、自動車や航空機等の産業用途などの他、建築物の補強等の建設分野等にも幅広く用いられている。
【0003】
例えば、特許文献1には、トウ状の炭素繊維糸の複数本が互いに並列に配列されてなるシートの複数枚が、それぞれのシートの炭素繊維糸の配列方向が基準とする方向に対して異なる角度をもって積層された状態で、ステッチ糸で一体化されたステッチ基材について、開示されている。
【0004】
また、特許文献2では、強化繊維束を単糸1000本当たりの幅が1.3mm以上になるように開繊拡幅して得られた一軸配向強化繊維シートに目付け10g/m以下のホットメルト接着剤から成る繊維ウェブを接合してなる複合材料用の強化繊維配向シートについて、開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第4534409号公報
【文献】特開2005-231151号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1、2のように、炭素繊維の織布に母材を含侵させたCFRPの場合、炭素繊維の織布の配向方向と同一方向に対する強度に優れているものの、炭素繊維の織布の配向方向とは異なる方向に対しては、強度に劣る。そのため、炭素繊維の織布を用いたCFRPとしては強度に異方性があることとなり、ローラーや研削用ホイール等の、強度に極端な偏りが無い程度に等方性の要求される加工品の用途としてこのようなCFRPは不向きである。
【0007】
そこで、本発明は、極端な偏りが無い程度に等方性のある強度を満足することのできる、炭素繊維強化プラスチック板、加工品および炭素繊維強化プラスチック板の製造方法を提供することを目的とする。
【0008】
上記課題を解決するため、本発明の炭素繊維強化プラスチック板は、繊維長が10~70mmの炭素繊維を含み、配向方向を有する第1炭素繊維不織布と、母材とを有する第1炭素繊維強化プラスチック層と、繊維長が10~70mmの炭素繊維を含み、前記第1炭素繊維強化プラスチック層の前記第1炭素繊維不織布の配向方向と直交する配向方向を有する第2炭素繊維不織布と、母材とを有する第2炭素繊維強化プラスチック層と、を備え、少なくとも前記第1炭素繊維強化プラスチック層と前記第2炭素繊維強化プラスチック層とが1層ずつ同数積層する。
【0009】
繊維長が10~70mmの炭素繊維を含み、前記第1炭素繊維強化プラスチック層の前記第1炭素繊維不織布の配向方向および前記第2炭素繊維強化プラスチック層の前記第2炭素繊維不織布の配向方向と45度の角度で交差する配向方向を有する第3炭素繊維不織布と、母材とを有する第3炭素繊維強化プラスチック層と、繊維長が10~70mmの炭素繊維を含み、前記第3炭素繊維強化プラスチック層の前記第3炭素繊維不織布の配向方向と直交し、かつ前記第1炭素繊維強化プラスチック層の前記第1炭素繊維不織布の配向方向および前記第2炭素繊維強化プラスチック層の前記第2炭素繊維不織布の配向方向と45度の角度で交差する配向方向を有する第4炭素繊維不織布と、母材とを有する第4炭素繊維強化プラスチック層と、を備え、前記第1炭素繊維強化プラスチック層と、前記第2炭素繊維強化プラスチック層と、前記第3炭素繊維強化プラスチック層と、前記第4炭素繊維強化プラスチック層とが少なくとも1層ずつ同数積層してもよい。
【0010】
前記第1炭素繊維強化プラスチック層の前記第1炭素繊維不織布の配向方向と平行な方向における第1曲げ強度と、前記第2炭素繊維強化プラスチック層の前記第2炭素繊維不織布の配向方向と平行な方向における第2曲げ強度と、前記第1炭素繊維強化プラスチック層の前記第1炭素繊維不織布の配向方向および前記第2炭素繊維強化プラスチック層の前記第2炭素繊維不織布の配向方向と45度の角度で交差する交差方向と平行な方向における第3曲げ強度と、の強度比が1:0.8~1.2:0.8~1.2であってもよい。
【0011】
前記第1炭素繊維強化プラスチック層の前記第1炭素繊維不織布の配向方向と平行な方向における第1曲げ弾性率と、前記第2炭素繊維強化プラスチック層の前記第2炭素繊維不織布の配向方向と平行な方向における第2曲げ弾性率と、前記第1炭素繊維強化プラスチック層の前記第1炭素繊維不織布の配向方向および前記第2炭素繊維強化プラスチック層の前記第2炭素繊維不織布の配向方向と45度の角度で交差する交差方向と平行な方向における第3曲げ弾性率と、の比率が1:0.8~1.2:0.8~1.2であってもよい。
【0012】
前記母材が熱硬化性樹脂であってもよい。
【0013】
前記炭素繊維強化プラスチック板に対する炭素繊維不織布の繊維体積含有率が20~40体積%であってもよい。
【0014】
前記炭素繊維強化プラスチック板の表面の平面度が50mmあたり0.005~0.05mmであってもよい。
【0015】
また、上記課題を解決するために、本発明の加工品は、本発明の炭素繊維強化プラスチック板を研削加工した加工品である。
【0016】
前記加工品がローラーであってもよい。
【0017】
前記加工品が研削用ホイールであってもよい。
【0018】
また、上記課題を解決するために、本発明の炭素繊維強化プラスチック板の製造方法は、本発明の炭素繊維強化プラスチック板の製造方法であって、母材を含浸させた積層体を硬化させる硬化工程を含み、前記積層体は、少なくとも前記第1炭素繊維強化プラスチック層と前記第2炭素繊維強化プラスチック層とが1層ずつ同数積層した積層体である。
【0019】
前記積層体は、前記第1炭素繊維強化プラスチック層と、前記第2炭素繊維強化プラスチック層と、前記第3炭素繊維強化プラスチック層と、前記第4炭素繊維強化プラスチック層とが少なくとも1層ずつ同数積層した積層体であってもよい。
【0020】
前記硬化工程後、前記積層体の表面をフライス加工するフライス加工工程を含んでもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、極端な偏りが無い程度に等方性のある強度を満足することのできる、炭素繊維強化プラスチック板、加工品および炭素繊維強化プラスチック板の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】炭素繊維の配向方向について説明する炭素繊維不織布の模式斜視図である。
図2】本発明の一実施形態に係る炭素繊維強化プラスチック板200の模式斜視図である。
図3図2とは異なる態様の、本発明の一実施形態に係る炭素繊維強化プラスチック板300の模式斜視図である。
図4】炭素繊維強化プラスチック板200、300の模式斜視図である。
図5】ローラー400、研削用ホイール500の斜視図である。
図6】実施例において、炭素繊維強化プラスチック板について行った曲げ強度の評価結果を示すグラフである。
図7】実施例において、炭素繊維強化プラスチック板について行った弾性率の評価結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係る炭素繊維強化プラスチック板、加工品および炭素繊維強化プラスチック板の製造方法の一実施形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、本発明は以下の例に限定されるものではない。
【0024】
[炭素繊維強化プラスチック板]
本発明の炭素繊維強化プラスチック板は、第1炭素繊維強化プラスチック層と、第2炭素繊維強化プラスチック層と、を備える。CFRPシートやプリプレグ、フィルムのように曲げられるような柔軟性はなく、硬く剛性のある板である。
【0025】
〈第1炭素繊維強化プラスチック層〉
第1炭素繊維強化プラスチック層は、第1炭素繊維不織布と、母材とを有する層である。炭素繊維として不織布を採用し、母材と組み合わせた複合材料層とする。
【0026】
(第1炭素繊維不織布)
本発明に用いることのできる炭素繊維不織布は、炭素繊維を織らずニードルパンチ法によって3次元に絡み合わせたシート状の布である。炭素繊維は、軽くて強いという長所があり、例えば鉄と比較すると比重で1/4倍、比強度で10倍、比弾性率が7倍ある。その他にも、耐摩耗性、耐熱性、熱伸縮性、耐酸性、電気伝導性に優れる。例えば、アクリル繊維またはピッチを原料とし、原料を高温で炭化して作ることが可能であり、炭素繊維としては有機繊維の前駆体を加熱炭素化処理して得られる、質量比で90%以上が炭素で構成される繊維が挙げられる。
【0027】
炭素繊維として、アクリル繊維を使った炭素繊維はPAN(Polyacrylonitrile)系炭素繊維、ピッチを使った炭素繊維はピッチ(PITCH)系炭素繊維と区分される。さらにピッチ系炭素繊維の場合、等方性ピッチ系炭素繊維からは汎用の炭素繊維が製造され、メソフェーズピッチ系からは高強度で高弾性率の炭素繊維が製造される。本発明では、PAN系炭素繊維およびピッチ系炭素繊維のいずれも使用することができる。例えば、剛性のあるCFRPを得るために、剛性に優れるピッチ系炭素繊維を使用することができ、また、強度のあるCFRPを得るために、強度に優れるPAN系炭素繊維を使用することができる。
【0028】
このような炭素繊維不織布としては、例えばPAN系の炭素繊維を基本とし、質量300~1500g/m、厚みが3~15mmのものを使用することができる。また、炭素繊維へレイヨン繊維、アクリル繊維、可塑性樹脂繊維、その他各種繊維を所定比率で複合した混合繊維を用いることもできる。
【0029】
炭素繊維不織布として、航空機の端材を再利用することができるため、連続繊維の中間基材を炭素繊維不織布にしたものと比較して、航空機の端材を再利用した炭素繊維不織布の方が、コストが安い点がメリットとなる。また、炭素繊維不織布は、炭素繊維織布と比べてフライス加工等の加工時に毛羽立ちが抑えられるため、加工性に優れ、また、加工後の加工品の表面状態が平滑で仕上がり性にも優れる。
【0030】
(炭素繊維の繊維長)
炭素繊維不織布は繊維長が10~70mmの炭素繊維を含む。繊維長が10~70mmであることにより、ニードルパンチ法により炭素繊維を3次元に絡み合わせることが出来ると共に、炭素繊維に配向性を付与することができる。繊維長が10mm未満の場合には、炭素繊維を3次元に絡み合わせること困難となり、不織布を形成することができない場合がある。また、繊維長が70mmよりも長い炭素繊維は、繊維長が長すぎることにより炭素繊維に配向性を付与することが困難となるおそれがある。
【0031】
(炭素繊維不織布の繊維の配向方向)
炭素繊維不織布の繊維の配向方向について、図1を用いて説明する。図1は、炭素繊維の配向方向について説明する炭素繊維不織布の模式斜視図である。炭素繊維不織布シート100は、ニードルパンチ法により形成されたシートであり、矢印で示す配向方向に炭素繊維が配向している。この配向方向は、ニードルパンチ法において、例えばバーブと呼ばれる突起のついた針を数10回/cm以上突き刺すことにより繊維同士を機械的に絡ませて不織布に加工する際の、炭素繊維の進行方向(すなわちマシンディレクション)と直交する。
【0032】
ただし、織布とは異なり、不織布の場合には炭素繊維の全てが同一方向に配向するのではなく、点線で示す繊維のように、配向方向とは異なる方向を向く炭素繊維も存在する。本発明では、配向している割合が一番高い方向を配向方向とする。配向比率が一番高い方向の機械特性が一番高くなる。
【0033】
(母材)
本発明の炭素繊維強化プラスチック板において、母材は炭素繊維の間隙を充填する材料であり、合成樹脂や天然樹脂を用いることができる。CFRP板としての強度を確保する観点から、エポキシ樹脂やウレタン樹脂等の熱硬化性樹脂を母材として用いることができる。また、炭素繊維との相溶性の点から、ポリブチレンサクシネート(PBS)やポリフェニレンサルファイド(PPS)も用いることができる。
【0034】
特に、母材としてエポキシ樹脂を使用する場合には、ビスフェノールAやビスフェノールFとエピクロルヒドリンとの共重合体を主剤とし、種々のポリアミンや無水フタル酸等の酸無水物を硬化剤として使用することができる。また、CFRP板に溶剤が含まれないよう、また、板としての痩せが生じないよう、無溶剤型の樹脂を使用することが好ましく、炭素繊維との複合の容易性の観点から、常温で固形の樹脂よりも液状の樹脂を用いることが好ましい。
【0035】
エポキシ樹脂としては、具体的にはエポキシ当量150~300の液状無溶剤型のビスフェノールAを主剤とし、これと相溶し反応硬化可能なビスアミノ化合物を硬化剤として使用することができる。例えば、これらの主剤と硬化剤を混合後、ポットライフ以前に炭素繊維と複合化することで、CFRP板とすることができる。
【0036】
〈第2炭素繊維強化プラスチック層〉
第2炭素繊維強化プラスチック層は、繊維長が10~70mmの炭素繊維を含み、前記第1炭素繊維強化プラスチック層の前記第1炭素繊維不織布の配向方向と直交する配向方向を有する第2炭素繊維不織布と、母材とを有する層である。母材の詳細については、〈第1炭素繊維強化プラスチック層〉の項目において説明した内容と同様であるため、ここでは説明は省略する。
【0037】
(第2炭素繊維不織布)
第2炭素繊維不織布に用いることのできる炭素繊維不織布の詳細については、〈第1炭素繊維強化プラスチック層〉の項目において説明した内容と同様であるため、ここでは説明は省略する。
【0038】
(第2炭素繊維不織布の配向方向)
第2炭素繊維不織布は、配向方向が第1炭素繊維不織布の配向方向と直交する点で、第1炭素繊維不織布とは異なる。そこで、第1炭素繊維不織布と同様の不織布の配向方向を変えたものを第2炭素繊維不織布として使用してもよく、第1炭素繊維不織布とは異なる不織布を使用してもよい。ただし、炭素繊維強化プラスチック板の強度の等方性を考慮すると、第1炭素繊維不織布と同様の不織布の配向方向を変えたものを第2炭素繊維不織布として使用することが好ましい。なお、配向方向の詳細については、〈第1炭素繊維強化プラスチック層〉の項目において説明した内容と同様であるため、ここでは説明は省略する。
【0039】
本発明の炭素繊維強化プラスチック板の具体例について、図2を用いて説明する。図2は、本発明の一実施形態に係る炭素繊維強化プラスチック板の模式斜視図である。図2(a)は4枚の炭素繊維不織布シート100を積層する順に重ねたものである。シート平面において左右方向(図2の横方向)をx方向とした場合、x方向に対して90度の方向d1が炭素繊維の配向方向となる炭素繊維不織布のシートを第1炭素繊維不織布シート101とすると、x方向に対して0度の方向、すなわちx方向と平行な方向d2が炭素繊維の配向方向となる炭素繊維不織布のシートが、第2炭素繊維不織布シート102となる。
【0040】
図2(b)は、図2(a)の4枚の炭素繊維不織布シート100が、第1炭素繊維不織布シート101と第2炭素繊維不織布シート102とが交互に2枚ずつ積層して母材で固められ、炭素繊維強化プラスチック板200となったものである。炭素繊維強化プラスチック板200では、第1炭素繊維不織布シート101と第2炭素繊維不織布シート102が、母材で固められて第1炭素繊維強化プラスチック層111と第2炭素繊維強化プラスチック層112となっている。
【0041】
炭素繊維強化プラスチック板200は、少なくとも第1炭素繊維強化プラスチック層111と第2炭素繊維強化プラスチック層112とが1層ずつ同数積層する。このように炭素繊維の配向方向が異なる炭素繊維強化プラスチック層が同数積層し、さらに、それぞれの炭素繊維強化プラスチック層において、配向方向とは異なる方向を向く炭素繊維が存在することにより、極端な偏りが無い程度に等方性のある強度を満足することのできる、炭素繊維強化プラスチック板となる。
【0042】
〈第3炭素繊維強化プラスチック層〉
第3炭素繊維強化プラスチック層は、繊維長が10~70mmの炭素繊維を含み、前記第1炭素繊維強化プラスチック層の前記第1炭素繊維不織布の配向方向および前記第2炭素繊維強化プラスチック層の前記第2炭素繊維不織布の配向方向と45度の角度で交差する配向方向を有する第3炭素繊維不織布と、母材とを有する層である。母材の詳細については、〈第1炭素繊維強化プラスチック層〉の項目において説明した内容と同様であるため、ここでは説明は省略する。
【0043】
(第3炭素繊維不織布)
第3炭素繊維不織布に用いることのできる炭素繊維不織布の詳細については、〈第1炭素繊維強化プラスチック層〉の項目において説明した内容と同様であるため、ここでは説明は省略する。
【0044】
(第3炭素繊維不織布の配向方向)
第3炭素繊維不織布は、配向方向が第1炭素繊維強化プラスチック層の第1炭素繊維不織布の配向方向および第2炭素繊維強化プラスチック層の第2炭素繊維不織布の配向方向と45度の角度で交差する点で、第1炭素繊維不織布および第2炭素繊維不織布とは異なる。そこで、第1炭素繊維不織布および第2炭素繊維不織布と同様の不織布の配向方向を変えたものを第3炭素繊維不織布として使用してもよく、第1炭素繊維不織布や第2炭素繊維不織布とは異なる不織布を使用してもよい。ただし、炭素繊維強化プラスチック板の強度の等方性を考慮すると、第1炭素繊維不織布および第2炭素繊維不織布と同様の不織布の配向方向を変えたものを第3炭素繊維不織布として使用することが好ましい。なお、配向方向の詳細については、〈第1炭素繊維強化プラスチック層〉の項目において説明した内容と同様であるため、ここでは説明は省略する。
【0045】
〈第4炭素繊維強化プラスチック層〉
第4炭素繊維強化プラスチック層は、繊維長が10~70mmの炭素繊維を含み、前記第3炭素繊維強化プラスチック層の前記第3炭素繊維不織布の配向方向と直交し、かつ前記第1炭素繊維強化プラスチック層の前記第1炭素繊維不織布の配向方向および前記第2炭素繊維強化プラスチック層の前記第2炭素繊維不織布の配向方向と45度の角度で交差する配向方向を有する第4炭素繊維不織布と、母材とを有する層である。母材の詳細については、〈第1炭素繊維強化プラスチック層〉の項目において説明した内容と同様であるため、ここでは説明は省略する。
【0046】
(第4炭素繊維不織布)
第4炭素繊維不織布に用いることのできる炭素繊維不織布の詳細については、〈第1炭素繊維強化プラスチック層〉の項目において説明した内容と同様であるため、ここでは説明は省略する。
【0047】
(第4炭素繊維不織布の配向方向)
第4炭素繊維不織布は、配向方向が前記第3炭素繊維強化プラスチック層の前記第3炭素繊維不織布の配向方向と直交し、かつ前記第1炭素繊維強化プラスチック層の前記第1炭素繊維不織布の配向方向および前記第2炭素繊維強化プラスチック層の前記第2炭素繊維不織布の配向方向と45度の角度で交差する点で、第1炭素繊維不織布、第2炭素繊維不織布および第3炭素繊維不織布とは異なる。そこで、第1炭素繊維不織布、第2炭素繊維不織布および第3炭素繊維不織布と同様の不織布の配向方向を変えたものを第4炭素繊維不織布として使用してもよく、第1炭素繊維不織布、第2炭素繊維不織布または第3炭素繊維不織布とは異なる不織布を使用してもよい。ただし、炭素繊維強化プラスチック板の強度の等方性を考慮すると、第1炭素繊維不織布、第2炭素繊維不織布および第3炭素繊維不織布と同様の不織布の配向方向を変えたものを第4炭素繊維不織布として使用することが好ましい。なお、配向方向の詳細については、〈第1炭素繊維強化プラスチック層〉の項目において説明した内容と同様であるため、ここでは説明は省略する。
【0048】
図2とは異なる態様の、本発明の炭素繊維強化プラスチック板の具体例について、図3を用いて説明する。図2とは異なる態様の、本発明の一実施形態に係る炭素繊維強化プラスチック板の模式斜視図である。図3(a)は8枚の炭素繊維不織布シート100を積層する順に重ねたものである。シート平面において左右方向(図3の横方向)をx方向とした場合、x方向に対して90度の方向d1が炭素繊維の配向方向となる炭素繊維不織布のシートを第1炭素繊維不織布シート101とすると、x方向に対して0度の方向、すなわちx方向と平行な方向d2が炭素繊維の配向方向となる炭素繊維不織布のシートが、第2炭素繊維不織布シート102となる。
【0049】
そして、x方向に対して45度の方向d3が炭素繊維の配向方向となる炭素繊維不織布のシートが第3炭素繊維不織布シート103となる。第3炭素繊維不織布シート103の炭素繊維の配向方向は、第1炭素繊維不織布シート101の炭素繊維の配向方向および第2炭素繊維不織布シート102の炭素繊維の配向方向と45度の角度で交差する。
【0050】
さらに、x方向に対して135度の方向d4が炭素繊維の配向方向となる炭素繊維不織布のシートが第4炭素繊維不織布シート104となる。第4炭素繊維不織布シート104の炭素繊維の配向方向は、第1炭素繊維不織布シート101の炭素繊維の配向方向および第2炭素繊維不織布シート102の炭素繊維の配向方向と45度の角度で交差し、かつ第3炭素繊維不織布シート103の炭素繊維の配向方向と直交する。
【0051】
図3(b)は、図3(a)の8枚の炭素繊維不織布シート100が、第1炭素繊維不織布シート101、第4炭素繊維不織布シート104、第3炭素繊維不織布シート103、第2炭素繊維不織布シート102が順番に2枚ずつ積層して母材で固められ、炭素繊維強化プラスチック板300となったものである。炭素繊維強化プラスチック板300では、第1炭素繊維不織布シート101、第2炭素繊維不織布シート102、第3炭素繊維不織布シート103、第4炭素繊維不織布シート104が、母材で固められて第1炭素繊維強化プラスチック層111、第2炭素繊維強化プラスチック層112、第3炭素繊維強化プラスチック層113、第4炭素繊維強化プラスチック層114となっている。
【0052】
炭素繊維強化プラスチック板300は、第1炭素繊維強化プラスチック層111、第2炭素繊維強化プラスチック層112、第3炭素繊維強化プラスチック層113、第4炭素繊維強化プラスチック層114が少なくとも1層ずつ同数積層する。このように炭素繊維の配向方向が異なる炭素繊維強化プラスチック層が同数積層し、さらに、それぞれの炭素繊維強化プラスチック層において、配向方向とは異なる方向を向く炭素繊維が存在することにより、極端な偏りが無い程度に等方性のある強度を満足することのできる、炭素繊維強化プラスチック板となる。また、第3炭素繊維強化プラスチック層113および第4炭素繊維強化プラスチック層114を備えることにより、炭素繊維強化プラスチック板300は炭素繊維強化プラスチック板200よりもより等方性のある強度を満足することができる。
【0053】
(その他の構成)
本発明の炭素繊維強化プラスチック板は、第1炭素繊維強化プラスチック層~第4炭素繊維強化プラスチック層に加え、他の構成を備えてもよい。例えば、第1炭素繊維強化プラスチック層~第4炭素繊維強化プラスチック層のそれぞれの層を接着して積層する場合には、これらの層の間に母材との相性の良い樹脂系の接着剤層を備えることができる。また、第1炭素繊維強化プラスチック層~第4炭素繊維強化プラスチック層のいずれかの表面に傷が発生したり、表面が汚染したりしないよう、炭素繊維強化プラスチック板を使用する直前まで、炭素繊維強化プラスチック板の表面を保護する保護層や保護フィルム等を備えてもよい。
【0054】
図4に炭素繊維強化プラスチック板200、300の模式斜視図を示す。炭素繊維強化プラスチック板200、300のそれぞれの同一平面上において、第1炭素繊維強化プラスチック層の第1炭素繊維不織布の配向方向についてD1を付した矢印、第2炭素繊維強化プラスチック層の第2炭素繊維不織布の配向方向についてD2を付した矢印、第1炭素繊維強化プラスチック層の第1炭素繊維不織布の配向方向D1および第2炭素繊維強化プラスチック層の第2炭素繊維不織布の配向方向D2と45度の角度で交差する交差方向についてD3を付した矢印で示す。なお、炭素繊維強化プラスチック板300において、交差方向D3は、第3炭素繊維強化プラスチック層の第3炭素繊維不織布の配向方向であり、かつ、第4炭素繊維強化プラスチック層の第4炭素繊維不織布の配向方向である。
【0055】
炭素繊維強化プラスチック板200、300では、第1炭素繊維強化プラスチック層の第1炭素繊維不織布の配向方向D1と平行な方向における曲げ強度(第1曲げ強度)、第2炭素繊維強化プラスチック層の第2炭素繊維不織布の配向方向D2と平行な方向における曲げ強度(第2曲げ強度)、第1炭素繊維強化プラスチック層の第1炭素繊維不織布の配向方向D1および第2炭素繊維強化プラスチック層の第2炭素繊維不織布の配向方向D2と45度の角度で交差する交差方向D3と平行な方向における曲げ強度(第3曲げ強度)との強度比が、以下の比となることが好ましい。
【0056】
第1曲げ強度:第2曲げ強度:第3曲げ強度=1:0.8~1.2:0.8~1.2
【0057】
強度比が上記の比を満たすことにより、本発明の炭素繊維強化プラスチック板は、より等方性のある強度を満足することができる。強度比が上記の比を満たさない場合には、強度に異方性が生じてしまうことにより、所定の方向における強度が極端に小さくなってしまうおそれがある。
【0058】
なお、炭素繊維強化プラスチック板300では、方向D1および方向D3と22.5度の角度で交差する交差方向D4、および、方向D2および方向D3と22.5度の角度で交差する交差方向D5についても、方向D1の80%~120%の曲げ強度を有する。そのため、炭素繊維強化プラスチック板200と比べて、炭素繊維強化プラスチック板300はより等方性のある強度を満足することができる。
【0059】
また、炭素繊維強化プラスチック板200、300では、第1炭素繊維強化プラスチック層の第1炭素繊維不織布の配向方向D1と平行な方向における曲げ弾性率(第1曲げ弾性率)、第2炭素繊維強化プラスチック層の第2炭素繊維不織布の配向方向D2と平行な方向における曲げ弾性率(第2曲げ弾性率)、第1炭素繊維強化プラスチック層の第1炭素繊維不織布の配向方向D1および第2炭素繊維強化プラスチック層の第2炭素繊維不織布の配向方向D2と45度の角度で交差する交差方向D3と平行な方向における曲げ弾性率(第3曲げ弾性率)との比率が、以下の比となることが好ましい。
【0060】
第1曲げ弾性率:第2曲げ弾性率:第3曲げ弾性率=1:0.8~1.2:0.8~1.2
【0061】
弾性率の比率が上記の比を満たすことにより、本発明の炭素繊維強化プラスチック板は、より等方性のある弾性を満足することができる。弾性率の比率が上記の比を満たさない場合には、弾性に異方性が生じてしまうことにより、所定の方向における弾性が極端に小さくなってしまうおそれがある。
【0062】
また、炭素繊維強化プラスチック板300では、方向D1および方向D3と22.5度の角度で交差する交差方向D4、および、方向D2および方向D3と22.5度の角度で交差する交差方向D5についても、方向D1の80%~120%の弾性率を有する。そのため、炭素繊維強化プラスチック板200と比べて、炭素繊維強化プラスチック板300はより等方性のある弾性を有することができる。
【0063】
本発明の炭素繊維強化プラスチック板としては、板の厚みが5~100mmであることが一般的であり、特には8~40mmの厚みの板が汎用的に用いられる。
【0064】
本発明では、本発明の炭素繊維強化プラスチック板に対する炭素繊維不織布の繊維体積含有率(Vf)が、第1炭素繊維強化プラスチック層~第4炭素繊維強化プラスチック層のいずれにおいても20~40体積%であることが好ましい。Vfが高いと、機械特性や物理特性に優れるという長所があるが、母材の量が少なくなるため、第1炭素繊維強化プラスチック層~第4炭素繊維強化プラスチック層を形成することが困難となるおそれがある。また、Vfが高いと、靱性や加工性、表面平滑性に劣るおそれがある。一方で、Vfが低いと、母材の特性が優先的に発現してしまい、炭素繊維による強化向上効果が損なわれるおそれがある。これらの点を考慮して、第1炭素繊維強化プラスチック層~第4炭素繊維強化プラスチック層の場合には、いずれの層においてもVfを20~40体積%とすることで、加工性や表面の平滑性を満足することができる。
【0065】
本発明では、本発明の炭素繊維強化プラスチック板の表面の平面度が50mmあたり0.005~0.05mmであってもよい。例えば、炭素繊維強化プラスチック板の表面をフライス加工することにより、このような平面度の表面を得ることができる。なお、炭素繊維強化プラスチック板の表面の平滑性が要求される場合には、本発明の炭素繊維強化プラスチック板の表面の平面度を100mmあたり0.005~0.05mmとすることがより好ましい。また、炭素繊維強化プラスチック板の表面の平滑性が更に厳密に要求される場合には、本発明の炭素繊維強化プラスチック板の表面の平面度を500mmあたり0.005~0.05mmとすることが更に好ましい。
【0066】
[加工品]
本発明の加工品は、上記した本発明の炭素繊維強化プラスチック板を研削加工した加工品である。このような加工品としては、特に限定されない。例えば、ある程度の等方性のある強度が求められる加工品として、回転させて使用するローラーや研削用ホイールが挙げられる。図5に、一例としてローラー400、研削用ホイール500の斜視図を示す。
【0067】
ローラーや研削用ホイールを回転させて使用する間は、それらの使用面410、510やその付近に均等に負荷がかかるため、使用面410、510の強度は均等であることが好ましい。本発明の炭素繊維強化プラスチック板は、このような使用面に要求される強度を満たすことができる程度に、等方性のある強度を満足することができる。
【0068】
[炭素繊維強化プラスチック板の製造方法]
次に、上記した本発明の炭素繊維強化プラスチック板について、その製造方法を説明する。
【0069】
〈硬化工程〉
硬化工程は、母材を含浸させた積層体を硬化させる工程である。例えば母材が熱硬化性樹脂であれば、加熱させることで硬化させることができる。また、熱可塑性樹脂であれば、加熱溶融させた状態で炭素繊維不織布に樹脂を含浸させた後に、常温まで冷却することで硬化させることができる。
【0070】
(積層体)
積層体は、少なくとも第1炭素繊維強化プラスチック層101と第2炭素繊維強化プラスチック層102とが1層ずつ同数積層した積層体であってもよい。このような積層体を硬化させることにより、炭素繊維強化プラスチック板200や炭素繊維強化プラスチック板300を製造することができる。
【0071】
また、積層体は、第1炭素繊維強化プラスチック層101と、第2炭素繊維強化プラスチック層102と、第3炭素繊維強化プラスチック層103と、第4炭素繊維強化プラスチック層104とが少なくとも1層ずつ同数積層した積層体であってもよい。このような積層体を硬化させることにより、炭素繊維強化プラスチック板300を製造することができる。
【0072】
本発明の炭素繊維強化プラスチック板の製造手順としては、硬化工程の前に、第1炭素繊維強化プラスチック層101および第2炭素繊維強化プラスチック層102等を積層して積層体とし、この積層体に母材を含浸させて、その後に硬化工程を実施する手順とすることができる。また、第1炭素繊維強化プラスチック層101および第2炭素繊維強化プラスチック層102等のそれぞれに母材を含浸させてから、これらを積層して積層体とし、その後に硬化工程を実施する手順により、炭素繊維強化プラスチック板を製造してもよい。
【0073】
また、複数の炭素繊維強化プラスチック板200を接着剤によって接着し、厚みを増した炭素繊維強化プラスチック板200を形成してもよい。炭素繊維強化プラスチック板300の場合も同様に、複数の炭素繊維強化プラスチック板300を接着剤によって接着し、厚みを増した炭素繊維強化プラスチック板300を形成してもよい。なお、接着剤層があることによって炭素繊維強化プラスチック板の強度が低下するおそれがある場合には、例えばVaRTM法により、積層体に母材を含浸させて、その後に室温硬化と加熱硬化を行うことにより、接着剤層が存在しない炭素繊維強化プラスチック板を製造することができる。
【0074】
〈フライス加工工程〉
本発明では、硬化工程後、前記積層体の表面をフライス加工する工程を設けてもよい、CFRP板の表面平滑性を向上させるべく、例えば表面の平面度は50mmあたり0.005~0.05mmにする場合には、フライス加工を行えばよい。
【0075】
(その他の工程)
本発明の炭素繊維強化プラスチック板の製造方法は、硬化工程やフライス加工工程に加え、他の構成を備えてもよい。例えば、積層体を得るべく、第1炭素繊維不織布~第4炭素繊維不織布のそれぞれについて、繊維の配向方向を調整して積層する積層工程や、積層体へ母材を含浸させる含浸工程が挙げられる。
【実施例
【0076】
以下、本発明について、実施例を用いてさらに具体的に説明するが、本発明は、実施例に何ら限定されるものではない。以下の実施例では、炭素繊維強化プラスチック板を製造し、製造した炭素繊維強化プラスチック板に対してフライス加工、曲げ強度および弾性率の評価を行った。
【0077】
[炭素繊維強化プラスチック板の製造]
〈実施例1〉
金型(内部寸法:15×15×1cm)内に、ニードルパンチ法により製造された炭素繊維不織布シート(日本ポリマー産業株式会社製CFZ-1000SD)を4層配置した。ここで、炭素繊維不織布シートの配置は図2(a)に示すように、炭素繊維の配向方向が90度異なるように第1炭素繊維不織布シート101と第2炭素繊維不織布シート102とを交互に2枚ずつ積層した。なお、第1炭素繊維不織布シート101と第2炭素繊維不織布シート102としては、同一の炭素繊維不織布シートを用いた。そして、エポキシ樹脂主剤(三菱ケミカル株式会社製jER806)と硬化剤(東京化成工業株式会社製4,4’-メチレンビス(2-メチルシクロヘキシルアミン))を質量比で100:36の割合で混合後、100℃に加熱して密閉した金型内に混合した樹脂を0.5MPaの圧力で加圧注入した。混合した樹脂の注入後、100℃で20分の加熱硬化を行い、厚みが10mm、Vf21%の炭素繊維強化プラスチック板200を得た。なお、炭素繊維織布は使用しなかった。
【0078】
〈実施例2〉
金型(内部寸法:15×15×1cm)内に、ニードルパンチ法により製造された炭素繊維不織布シート(日本ポリマー産業株式会社製CFZ-1000SD)を8層配置した。ここで、炭素繊維不織布シートの配置は図3(a)に示すように、第1炭素繊維不織布シート101、第4炭素繊維不織布シート104、第3炭素繊維不織布シート103、第2炭素繊維不織布シート102の順に2枚ずつ積層した。なお、第1炭素繊維不織布シート101、第2炭素繊維不織布シート102、第3炭素繊維不織布シート103、および第4炭素繊維不織布シート104としては、同一の炭素繊維不織布シートを用いた。そして、エポキシ樹脂主剤(三菱ケミカル株式会社製jER806)と硬化剤(東京化成工業株式会社製4,4’-メチレンビス(2-メチルシクロヘキシルアミン))を質量比で100:36の割合で混合後、100℃に加熱して密閉した金型内に混合した樹脂を0.5MPaの圧力で加圧注入した。混合した樹脂の注入後、100℃で20分の加熱硬化を行い、厚みが20mm、Vf21%の炭素繊維強化プラスチック板300を得た。なお、炭素繊維織布は使用しなかった。
【0079】
〈比較例1〉
縦12cm、横12cmの炭素繊維織布(東レ株式会社製BT70-20)を10層重ねた炭素繊維を金属板上に配置し、母材が漏えいしないように炭素繊維の周囲をフィルムとシーラントで密閉した。そして、エポキシ樹脂主剤(三菱ケミカル株式会社製jER806)と硬化剤(三菱ガス化学株式会社製1,3-BAC)を質量比で100:21の割合で混合後、VaRTM法により、混合した樹脂を炭素繊維へ注入した。注入後に室温硬化させ、さらに150℃、60分の条件で加熱硬化を行い、厚さが2mm、Vf57体積%の炭素繊維強化プラスチック板を得た。なお、炭素繊維不織布は使用しなかった。
【0080】
〈比較例2〉
金型(内部寸法:15×15×1cm)内に、ニードルパンチ法により製造された炭素繊維不織布シート(日本ポリマー産業株式会社製CFZ-1000SD)を4層配置した。ここで、各層の炭素繊維不織布シートは、炭素繊維の配向方向を同一方向に揃えて積層した。そして、エポキシ樹脂主剤(三菱ケミカル株式会社製jER806)と硬化剤(東京化成工業株式会社製4,4’-メチレンビス(2-メチルシクロヘキシルアミン))を質量比で100:36の割合で混合後、100℃に加熱して密閉した金型内に混合した樹脂を0.5MPaの圧力で加圧注入した。混合した樹脂の注入後、100℃で20分の加熱硬化を行い、厚みが10mm、Vf21%の炭素繊維強化プラスチック板を得た。なお、炭素繊維織布は使用しなかった。
【0081】
[フライス加工後の平面度の評価]
〈フライス加工処理〉
製造した実施例1、実施例2、比較例1および比較例2の炭素繊維強化プラスチック板を3体使用し、以下の条件により表面を0.5mm研削するフライス加工を行った。
【0082】
(フライス加工条件)
装置:スクリューオン式汎用正面フライス(三菱マテリアル製)
カッタ型式:ASX44R10005D
インサート:SEGT13T3AGFN-JP HTi10
回転数:S=615min-1(V=193m/min)
送り速度:F=369mm/min
【0083】
フライス加工後の実施例1、実施例2、比較例1および比較例2の炭素繊維強化プラスチック板について、これらの表面の平面度(平面形体の幾何学的に正しい平面からの狂いの大きさ)を、3次元精密測定機(ZEISS社製 型番:UPMC850)を用いて測定した。各例の炭素繊維強化プラスチック板3体の平面度の平均値を、表1に示す。
【0084】
【表1】
【0085】
実施例1、実施例2および比較例2の炭素繊維強化プラスチック板では、炭素繊維織布は使用せず、炭素繊維不織布を用いたことにより、フライス加工後の平面度に問題は無く、平面性は高い結果となった。
【0086】
一方で、炭素繊維不織布を使用せずに炭素繊維織布を用いた比較例1の炭素繊維強化プラスチック板は、フライス加工によって繊維が毛羽立ち、毛羽立ちによって平面度の値が大きくなり平面性の低い板であった。
【0087】
[曲げ強度および弾性率の評価]
実施例1の炭素繊維強化プラスチック板200について、JIS K7074に基づき以下の条件にて、図4(a)に示すD1、D2、D3方向の曲げ試験を実施し、D1方向の曲げ強度および弾性率を100%とした場合のD2、D3方向の曲げ強度および弾性率を比較した。曲げ強度の結果を図6、弾性率の結果を図7に示す。また、比較例1の炭素繊維強化プラスチック板についても同様に、D1、D2、D3方向の曲げ強度および弾性率を比較し、図6、7に示した。
【0088】
試験片の寸法:100×15mm、厚み2mm
試験速度:5mm/分
支点間距離L:L=40×h(80mm)
圧子の半径R1:R1=5mm
支持台の半径R2:R2=2mm
曲げ弾性率:接線法
【0089】
実施例1の炭素繊維強化プラスチック板は、D1~D3方向の曲げ強度比が、D1:D2:D3=100:101:98であり、また、曲げ弾性率の比率がD1:D2:D3=100:101:96であることから、極端な偏りが無い程度に等方性のある強度および弾性を満足することがわかった。この炭素繊維強化プラスチック板であれば、回転させて使用するローラーや研削用ホイールとしての用途に有用であった。
【0090】
一方で、比較例1の炭素繊維強化プラスチック板は、D1~D3方向の曲げ強度比が、D1:D2:D3=100:114:30であり、また、曲げ弾性率の比率がD1:D2:D3=100:88:30であることから、D3方向の強度および弾性が弱い結果となった。比較例1に使用した炭素繊維織布は、縦糸および横糸を用いて織られた織布であり、D1方向およびD2方向が炭素繊維織布の縦糸および横糸のいずれかと平行な方向であることにより、一定の強度および弾性を有した。その一方で、D3方向は縦糸および横糸と45度の角度で交差する方向であり、炭素繊維による補強効果が十分ではないことにより、D1方向やD2方向と比べて強度および弾性が劣る結果となった。この結果より、比較例1の炭素繊維強化プラスチック板は、D3方向の強度および弾性が弱く、強度および弾性に異方性があるため、回転させて使用するローラーや研削用ホイールとしての用途には不向きであることが明らかとなった。
【0091】
〈まとめ〉
このように、本発明の炭素繊維強化プラスチック板であれば、極端な偏りが無い程度に等方性のある強度を満足することができ、また、フライス加工性やフライス加工後の平滑性を満足することができる。そのため、本発明の炭素繊維強化プラスチック板は、回転させて使用するローラーや研削用ホイール等の用途に有用である。
【符号の説明】
【0092】
100 炭素繊維不織布シート
101 第1炭素繊維不織布シート
102 第2炭素繊維不織布シート
103 第3炭素繊維不織布シート
104 第4炭素繊維不織布シート
111 第1炭素繊維強化プラスチック層
112 第2炭素繊維強化プラスチック層
113 第3炭素繊維強化プラスチック層
114 第4炭素繊維強化プラスチック層
200 炭素繊維強化プラスチック板
300 炭素繊維強化プラスチック板
400 ローラー
410 使用面
500 研削用ホイール
510 使用面
D1 配向方向
D2 配向方向
D3 交差方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7