(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-23
(45)【発行日】2024-07-31
(54)【発明の名称】オフセット印刷機用洗浄剤および洗浄方法
(51)【国際特許分類】
B41N 3/06 20060101AFI20240724BHJP
C11D 7/50 20060101ALI20240724BHJP
C11D 7/24 20060101ALI20240724BHJP
C11D 7/08 20060101ALI20240724BHJP
C11D 7/36 20060101ALI20240724BHJP
C11D 7/20 20060101ALI20240724BHJP
B41F 35/04 20060101ALN20240724BHJP
B41F 35/06 20060101ALN20240724BHJP
【FI】
B41N3/06
C11D7/50
C11D7/24
C11D7/08
C11D7/36
C11D7/20
B41F35/04
B41F35/06
(21)【出願番号】P 2020138633
(22)【出願日】2020-08-19
【審査請求日】2023-07-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000219912
【氏名又は名称】東京インキ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】相原 勇介
(72)【発明者】
【氏名】長幡 大輔
【審査官】長田 守夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-204503(JP,A)
【文献】特開平6-155959(JP,A)
【文献】特開平6-32081(JP,A)
【文献】特開平7-32081(JP,A)
【文献】特開2000-229486(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41N 1/00-3/08
B41F 35/00-35/06
C11D 7/50
C11D 7/24
C11D 7/08
C11D 7/36
C11D 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水(a)と、
アミド硫酸、
および硝
酸のなかから選ばれた少なくとも一つの酸(b)と、
シリカ、マイカ、酸化チタン被覆マイカ、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム、チタン酸バリウム、酸化クロム、炭化ケイ素、炭化タングステン、および窒化ケイ素のなかから選ばれた少なくとも一つである微粒子無機化合物(c)と、
炭化水素系溶媒(d)と、
グリコールエーテル系溶媒(e)と、を含
み、
オフセット印刷機用洗浄剤の全量に対し、前記水(a)を5~17質量%、前記酸(b)を0.5~3質量%、前記微粒子無機化合物(c)を0.5~10質量%、前記炭化水素系溶媒(d)と前記グリコールエーテル系溶媒(e)との合計量として、60~90質量%を含有し、かつ、前記炭化水素系溶媒(d)と前記グリコールエーテル系溶媒(e)との含有比率d/eが10/90~40/60であることを特徴とするオフセット印刷機用洗浄剤。
【請求項2】
請求項
1に記載のオフセット印刷用洗浄剤と、インキ汚れおよび/またはグレーズが生じた被着体とを、接触させることで、前記インキ汚れおよび/またはグレーズを前記被着体から分離することを特徴とする洗浄方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オフセット印刷機用洗浄剤、特に、オフセット印刷用インキローラーおよびブランケットにおいて使用されるオフセット印刷機用の洗浄剤に関する。
【背景技術】
【0002】
オフセット印刷機のインキローラーの表面には無数の細かい孔が存在しており、これがポンプの役割を果たし、インキローラーから別のインキローラーへとインキを転移させている。インキを紙へ移す役割のブランケットの表面にも同様に無数の細かい孔が存在している。
印刷を継続しいくうちに、この孔に、インキのカス、紙粉、炭酸カルシウム、ガムなどが堆積し、表面が親水化してしまうことがしばしば起こる。特に炭酸カルシウムの水酸化による親水化は強力である。表面が親水化してしまう現象は、グレージングと称され、堆積物はグレーズと称される。表面が親水化されると、親油性であるインキの転移が阻害され、インキ転移性が不安定になり、印刷物の濃度ムラなどが発生する。一般的には、洗浄剤などを使用して表面を本来の親油性の状態に戻す必要があり、グレーズを除去するための洗浄剤には、水と酸を配合した親水性の洗浄剤が使われる。
【0003】
また、オフセット印刷での色替え、定期的なメンテナンス時に、インキローラーおよびブランケットなどに付着したインキは洗浄し、除去される。オフセット印刷インキは、親油性のものがほとんどであり、付着したインキ汚れは親油性である。このため、一般的に、インキ汚れを除去するには、炭化水素と界面活性剤を配合した洗浄剤が使用されている。
【0004】
上記のように、グレーズとインキ汚れの性質は相反するものであり、これらの除去には2種類の洗浄剤が必要である。そこで、グレーズとインキ汚れを1つの洗浄剤で同時に除去できれば、洗浄時間が短縮できるため、作業性の改善、洗浄コストの低減化を図ることができ、現在に至るまでインキ汚れとグレーズの除去が可能な洗浄剤に関する発明がなされてきた(特許文献1~2)。また、このような洗浄剤は、水と油を混ぜてエマルジョン化させているものが多く、洗浄性のみならず、保存安定性も洗浄剤を評価する上で重要である。さらに、保存安定性の面では、エマルジョンの形態よりも、水と油とが可溶化している形態の方が、好ましいとされている。
【0005】
特許文献1には、炭化水素類45~65重量%、HLB6~14のノニオン系界面活性剤10~25重量%、HLB16~18のノニオン系界面活性剤2~10重量%、多価アルコール脂肪酸エステル0.5~5重量%、及び水5~20重量%(但し、合計で100重量%)とからなる印刷機用洗浄剤が開示されており、安全性が高く環境への影響が少なく、しかも紙粉やインキに対する洗浄性が高いとともに印刷機のゴム、樹脂、金属等を変質させたり腐食させるおそれが少なく、またブランケットに付着した紙粉とインキとを一工程で洗浄可能であり、洗浄後に洗浄液がブランケット表面に残留して印字品質の低下をきたしたり、オフセット印刷用PS版の画線部を破壊するおそれがないと記載されている。
【0006】
特許文献2には、(a)オキシ酸、 (b)非イオン性及び/又は陰イオン性界面活性剤、 (c)アルキルベンゼン、パラフィン系炭化水素、ナフテン系炭化水素およびグリコールエーテルから選ばれた少なくとも1種の有機溶剤、を配合してなるインキローラー及びブランケット用洗浄剤が開示されており、原液で強力なインキ洗浄性を有し、ゴムの中に溜まったインキ滓等を強力に掻き出し、ついで、水を加えて洗浄操作を続けることにより洗浄剤成分中のオキシ酸によって炭酸カルシウムが分解除去され、併せて紙粉及びガムが洗浄され、インキローラー及びブランケットに堆積した異物を全て除去することができると記載されている。
【0007】
しかしながら、特許文献1は、インキと紙粉の洗浄性については評価しているが、グレーズの除去性についての評価は行われておらず、炭酸カルシウム拭き取り性が劣るおそれがある。
【0008】
また、特許文献2は、インキと紙粉の洗浄性に加えて、炭酸カルシウム分解性については評価しているが、洗浄剤の保存安定性についての評価は行なわれておらず、劣るおそれがある。なお、乳化性についての評価をしているが、あくまで、洗浄剤として水へどの程度乳化するかを評価しているものであって、保存安定性を評価したというべきものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2001-341457号公報
【文献】特開2013-216727号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明は、グレーズとインキ汚れの両方を簡単な洗浄操作で効果的に取り除くことができ、保存安定性が良好なオフセット印刷機用洗浄剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は鋭意検討した結果、オフセット印刷機用洗浄剤において、水、酸、微粒子無機化合物、炭化水素系溶媒、グリコールエーテル系溶媒を含有することにより、前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明は、
(1)水(a)と、
アミド硫酸、硝酸、有機リン酸、およびフィチン酸のなかから選ばれた少なくとも一つの酸(b)と、
微粒子無機化合物(c)と、
炭化水素系溶媒(d)と、
グリコールエーテル系溶媒(e)と、を含むことを特徴とするオフセット印刷機用洗浄剤、
(2)前記酸(b)が、アミド硫酸、および硝酸のなかから選ばれた少なくとも一つである(1)記載のオフセット印刷機用洗浄剤、
(3)前記微粒子無機化合物(c)が、シリカ、マイカ、酸化チタン被覆マイカ、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム、チタン酸バリウム、酸化クロム、炭化ケイ素、炭化タングステン、および窒化ケイ素のなかから選ばれた少なくとも一つである(1)または(2)に記載のオフセット印刷機用洗浄剤、
(4)前記オフセット印刷機用洗浄剤の全量に対し、前記水(a)を5~17質量%含有することを特徴とする(1)~(3)のいずれかに記載のオフセット印刷機用洗浄剤、
(5)前記オフセット印刷機用洗浄剤の全量に対し、前記酸(b)を0.5~3質量%含有することを特徴とする(1)~(4)のいずれかに記載のオフセット印刷機用洗浄剤、
(6)前記オフセット印刷機用洗浄剤の全量に対し、前記微粒子無機化合物(c)を0.5~10質量%含有量することを特徴とする(1)~(5)のいずれかに記載のオフセット印刷機用洗浄剤、
(7)前記オフセット印刷機用洗浄剤の全量に対し、前記炭化水素系溶媒(d)と前記グリコールエーテル系溶媒(e)との合計量として、60~90質量%含有し、かつ
前記炭化水素系溶媒(d)と前記グリコールエーテル系溶媒(e)との含有比率d/eが10/90~40/60であることを特徴とする(1)~(6)のいずれかに記載のオフセット印刷機用洗浄剤、
(8)(1)~(7)のいずれかに記載のオフセット印刷用洗浄剤と、インキ汚れおよび/またはグレーズが生じた被着体とを、接触させることで、前記インキ汚れおよび/またはグレーズを前記被着体から分離することを特徴とする洗浄方法、
に関するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、インキ汚れとグレーズの両方を簡単な洗浄操作で効果的に取り除くことができ、保存安定性が良好なオフセット印刷機用洗浄剤を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。なお、本実施形態は、本発明を実施するための一形態に過ぎず、本発明は本実施形態によって限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0015】
本明細書中、「~」は、特に明示しない限り、上限値と下限値を含むことを表す。
【0016】
本発明のオフセット印刷機用洗浄剤(以下、「洗浄剤」ともいう)は、水(a)と、アミド硫酸、硝酸、有機リン酸、およびフィチン酸のなかから選ばれた少なくとも一つの酸(b)と、微粒子無機化合物(c)と、炭化水素系溶媒(d)と、グリコールエーテル系溶媒(e)と、を含むことが好ましい。
【0017】
〔水(a)〕
本発明のオフセット印刷機用洗浄剤に含まれる水(a)は、アミド硫酸、硝酸、有機リン酸、およびフィチン酸のなかから選ばれた少なくとも一つの酸(b)の溶媒として含まれる。
水の硬度に関しては特に制限はなく、オフセット印刷機の洗浄に通常用いられる水であればいずれでもよい。
前記水(a)の含有量は、前記洗浄剤の全量に対し、5~17質量%含有することが好ましく、7~16質量%含有することがより好ましい。5質量%より少ないと、水性汚れ、特に炭酸カルシウムの洗浄力が不足し、17質量%より多いと、良好な保存安定性を維持できないおそれがある。
【0018】
〔アミド硫酸、硝酸、有機リン酸、およびフィチン酸のなかから選ばれた少なくとも一つの酸(b)〕
本発明のオフセット印刷機用洗浄剤には、オフセット印刷機の洗浄に通常用いられる酸であればいずれでもよいが、アミド硫酸、硝酸、有機リン酸、およびフィチン酸のなかから選ばれた少なくとも一つの酸(b)を含むことが好ましい。なかでも、アミド硫酸、硝酸が好ましく、アミド硫酸がより好ましい。なお、前記酸(b)は単独で用いても2種以上で用いてもよい。
前記アミド硫酸、硝酸、有機リン酸、およびフィチン酸のなかから選ばれた少なくとも一つの酸(b)の含有量は、前記洗浄剤の全量に対し、0.5~3質量%含有することが好ましく、1~2質量%含有することがより好ましい。0.5質量%より少ないと、水性汚れ、特にグレーズの除去力が不足し、3質量%より多いと、印刷版を腐食する可能性が生じてしまう。
【0019】
〔微粒子無機化合物(c)〕
本発明のオフセット印刷機用洗浄剤に含まれる微粒子無機化合物(c)は、インキ汚れとグレーズの両方を除去できる研磨剤として含まれる。
前記微粒子無機化合物は、物理的に汚れを除去するので、化学的に除去が困難であったインキ汚れとグレーズを除去できる。
前記微粒子無機化合物の平均一次粒子径は、BET吸着法による比表面積測定法(JIS Z8830に準じる)からの換算値で、1~250nmであることが好ましく、5~150nmであることがより好ましく、10~100nmであることがさらに好ましい。1nmより小さいと、インキ汚れとグレーズを除去できず、250nmより大きいと版やインキローラーを傷つけてしまうおそれがある。
前記微粒子無機化合物としては、シリカ、マイカ、酸化チタン、酸化チタン被覆マイカ、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム、チタン酸バリウム、酸化クロム、炭化ケイ素、炭化タングステン、窒化ケイ素などを挙げることができる。なかでも、シリカ、マイカ、酸化チタン、酸化チタン被覆マイカが好ましく、シリカがより好ましい。なお、微粒子無機化合物は単独で用いても2種以上で用いてもよい。
前記微粒子無機化合物の含有量は、前記洗浄剤の全量に対し、0.5~10質量%含有することが好ましく、1~8質量%含有することがより好ましく、2.5~5質量%含有することがさらに好ましい。0.5質量%より少ないと十分な洗浄力が得られず、10質量%より多いとインキローラーおよびブランケットを傷つけてしまうおそれがある。
【0020】
〔炭化水素系溶媒(d)〕
本発明のオフセット印刷機用洗浄剤に含まれる炭化水素系溶媒(d)は、印刷インキの洗浄剤に通常用いられるものであればいずれでもよく、芳香族系溶媒、ナフテン系溶媒、パラフィン系溶媒、ナフタレン系溶媒が好ましい。具体的に、芳香族系溶媒としては、キシレン、トルエン、トリメチルベンゼン、エチルメチルベンゼン、ジエチルベンゼン、メチルプロピルベンゼン、メチルイソプロピルベンゼン、テトラメチルベンゼン、ジエチルメチルベンゼン、メチルブチルベンゼン、ヘキサメチルベンゼン、リニアアルキルベンゼン、ビニルベンゼン、ソルベントナフサなどや市販されている混合物などが挙げられる。例えば、市販されている商品としては、イプゾール(出光興産(株)製)、スワゾール(丸善石油化学(株)製)、ソルベッソ(エクソンモービル社製)、ハイゾール(ENEOS(株)製)などが挙げられる。ナフテン系溶媒としては、シクロヘキサン、シクロヘキシルメタン、オクタデシルシクロヘキサン、メチルイソプロピルシクロヘキサン、デカヒドロナフタレンなどや市販されている混合物などが挙げられる。例えば、市販されている商品としては、シェルゾール(シェルケミカルズジャパン(株)製)、IPソルベント、IPクリーン(出光興産(株)製)、テクリーン、ナフテゾール(ENEOS(株)製)、エクソール(エクソンモービル社製)などが挙げられる。パラフィン系溶媒としては、ノルマルヘキサン、イソヘキサン、ノルマルヘプタンなどや市販されている混合物などが挙げられる。例えば、市販されている商品としては、アイソゾール、0号ソルベント(ENEOS(株)製)、ペガゾール、アイソパー(エクソンモービル社製)などが挙げられる。ナフタレン系溶媒としては、メチルナフタレン、ジメチルナフタレン、エチルナフタレン、テトラメチルナフタレン、1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン(テトラリン)などや市販されている混合物などが挙げられる。例えば、市販されている商品としては、テトラリン(富士フイルム和光純薬(株)製)などが挙げられる。なかでも、1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン(テトラリン)が好ましい。なお、炭化水素系溶媒(d)は単独で用いても2種以上で用いてもよい。
【0021】
〔グリコールエーテル系溶媒(e)〕
本発明のオフセット印刷機用洗浄剤に含まれるグリコールエーテル系溶媒(e)は、可溶化剤およびインキの洗浄剤として含まれる。グリコールエーテル系溶媒を加えると、乳化していた溶液が可溶化し、保存安定性が向上する。
前記グリコールエーテル系溶媒(e)としては、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール、3-メトキシ-1-ブタノール、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテルが挙げられる。このなかでも、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテルが好ましく、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノールがより好ましい。
なお、グリコールエーテル系溶媒(e)は単独で用いても2種以上で用いてもよい。
【0022】
前記炭化水素系溶媒(d)と前記グリコールエーテル系溶媒(e)との合計量として、60~90質量%含有することが好ましく、65~85質量%含有することがより好ましい。
さらに、前記炭化水素系溶媒(d)と前記グリコールエーテル系溶媒(e)との含有比率d/eが10/90~40/60であることが好ましく、20/80~30/70であることがより好ましい。
これらの範囲であれば、優れたインキ洗浄性を有するとともに、十分に可溶化させることができ、保存安定性が十分に確保できる。
【0023】
〔界面活性剤(f)〕
本発明のオフセット印刷機用洗浄剤には、界面活性剤(f)を含有してもよい。界面活性剤(f)は、洗浄剤に含まれる炭化水素系溶媒と水を乳化させる目的で配合される。
前記界面活性剤(f)は、非イオン性界面活性剤であることが好ましい。非イオン性界面活性剤としては、例えばポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル類、ポリオキシプロピレンアルキルエーテル類、ポリオキシプロピレンアルキルフェニルエーテル類、ポリオキシプロピレン脂肪酸エステル類、ソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、グリセリン脂肪酸エステル類などのほか、ポリオキシエチレンとポリオキシプロピレン共重合体をアルキルエーテル化、アルキルフェニルエーテル化、脂肪酸エステル化、ソルビタン脂肪酸エステル化した活性剤などを挙げることができる。これらの中でも、特にポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ジアルキルスルホコハク酸エステル類が好ましく、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテルがより好ましい。なお、界面活性剤は単独で用いても2種以上で用いてもよい。
前記界面活性剤(f)は、前記洗浄剤の全量に対し、0~15質量%含有することが好ましく、1~12質量%含有することがより好ましく、2~10質量%含有することがさらに好ましい。この範囲であれば、炭化水素系溶媒と水を十分に乳化させることができる。
【0024】
〔その他の成分〕
本発明のオフセット印刷機用洗浄剤には、本発明の効果を阻害しない範囲で、必要に応じて、消泡剤、防錆剤、安定剤、酸化防止剤などを添加してもよい。
【0025】
〔洗浄剤の製造方法〕
本発明の洗浄剤の製造方法は、特に制限はなく、上記各成分を公知の方法により混合撹拌することにより製造することができる。また、前記洗浄剤は、あらかじめ上記各成分を高濃度に含む濃縮液を溶媒などで薄めて作製することもできる。
【0026】
〔洗浄方法〕
本発明の洗浄方法は、前記オフセット印刷機用洗浄剤と、インキ汚れおよび/またはグレーズが生じた被着体とを、接触させることで、前記インキ汚れおよび/またはグレーズを前記被着体から分離することが好ましい。具体的には、従来のオフセット印刷機用洗浄剤と同じように使用することができ、特に制限はない。例えば、地汚れやインキ着肉不良などの原因となるインキ汚れやグレーズが発生した被着体を取り外すか、あるいは印刷機に取り付けたまま、本発明のオフセット印刷機用洗浄剤を接触させることで、前記インキ汚れやグレーズを前記被着体から分離、すなわち、洗浄することができる。
【0027】
前記インキ汚れやグレーズが発生した被着体としては、インキローラーやブランケットなどが挙げられる。
【0028】
前記オフセット印刷機用洗浄剤と、前記インキ汚れやグレーズが生じた前記被着体とを、接触させる方法としては、例えば、前記被着体を前記オフセット印刷機用洗浄剤中に浸漬する方法、前記被着体に対して前記オフセット印刷機用洗浄剤を噴霧する方法、前記オフセット印刷機用洗浄剤をウエスなどに浸み込ませて前記被着体を拭き取る方法などが挙げられる。なかでも、前記オフセット印刷機用洗浄剤をウエスやスポンジなどに十分な量を浸み込ませて前記被着体を拭き取る方法が簡便であるため有用である。余分なオフセット印刷機用洗浄剤および使用済みのオフセット印刷機用洗浄剤がある場合、きれいなスポンジなどを用いて拭き取ることが好ましい。
【実施例】
【0029】
以下、本発明を実施例によってさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、例中、「部」は「質量部」を表す。
【0030】
実施例1
水7.5部、アミド硫酸(富士フイルム和光純薬(株)製)1.5部、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール(ソルフィット、(株)クラレ製)60部、1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン(テトラリン、富士フイルム和光純薬(株)製)23部、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキル(C12-14)エーテル(エマルゲンLS-114、HLB=14、花王(株)製)3部、コロイダルシリカ(SiO248%、スノーテックス50-T、平均一次粒子径22nm、日産化学(株)製)5部を混合撹拌し、実施例1のオフセット印刷機用洗浄剤を作製した。
同様に表1~3の配合に従い実施例2~16、比較例1~7のオフセット印刷機用洗浄剤を作製した。
【0031】
使用した材料は、次のものである。
硝酸:富士フイルム和光純薬(株)製
クエン酸:昭和化工(株)製
BTG:トリエチレングリコールモノブチルエーテル(100%、日本乳化剤(株)製)
MFDG:ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(100%、日本乳化剤(株)製)
エマルゲン147:ポリオキシエチレンラウリルエーテル(HLB=16.3、花王(株)製)
C11パラフィン:カクタスノルマルパラフィンN-11(JXTGエネルギー(株)製)
レオドールMO-60:オレイン酸モノグリセライド(花王(株)製)
【0032】
【0033】
【0034】
【0035】
実施例1~16および比較例1~7のオフセット印刷機用洗浄剤について、保存安定性、インキ拭き取り性、炭酸カルシウム拭き取り性を評価し、同表1~3に示した。
【0036】
<保存安定性>
オフセット印刷機用洗浄剤作製後、室温で1週間静置したときの各洗浄剤の状態を目視にて観察し、評価した。洗浄剤の状態について、分離がみられるものが、保存安定性が良好と判断した。分離について、○:作製直後と変化がない、△:わずかに分離がみられる(実用上問題ない)、×:完全に分離するあるいは作製直後から分離している、の3段階で評価した。保存安定性が「×」の評価だったものは、よく振蕩して、均一に混合した状態にして、以下の評価を行なった。
【0037】
<インキ拭き取り性>
紫外線硬化型紅インキ(ジップキュアUV OL HLE紅、東京インキ(株)製)0.2ccを測り取り、ガラス板上に載せ、直径10cmの円状に広げて塗布後、洗浄剤5gを含ませたウエスでそのインキを拭き取ったときの拭き取りやすさを観察し、評価した。インキが拭き取りやすいものが、インキ拭き取り性が良好と判断した。インキの拭き取りやすさについて、〇:一度の拭き取りで完全にインキを拭き取ることができる、△:2または3回の拭き取りでインキを拭き取ることができる、×:4回以上の拭き取りでインキを拭き取ることができるあるいはインキを拭き取ることが困難、の3段階で評価した。
【0038】
<炭酸カルシウム拭き取り性>
炭酸カルシウム(白艶華O、白石工業(株)製)と蒸留水を重量比1:1で混合した試料を作製し、該試料0.5gを測り取り、ガラス板上に載せ、直径10cmの円状に広げて塗布後、約1日静置し、十分に乾燥させ、洗浄剤5gを含ませたウエスでその試料を拭き取ったときの拭き取りやすさを観察し、評価した。試料が拭き取りやすいものが、炭酸カルシウム拭き取り性が良好と判断した。試料の拭き取りやすさについて、〇:一度の拭き取りで完全に試料を拭き取ることができる、△:2または3回の拭き取りで試料を拭き取ることができる、×:4回以上の拭き取りで試料を拭き取ることができるあるいは試料を拭き取ることが困難、の3段階で評価した。
【0039】
表1~3によると、実施例1~16のオフセット印刷機用洗浄剤は、保存安定性、インキ拭き取り性、炭酸カルシウム拭き取り性について、優れることが明確である。比較例1~5のインキは、保存安定性、インキ拭き取り性、炭酸カルシウム拭き取り性のいずれかが劣ることが明確である。
引用文献1(実施例1)に類似の例である比較例6は、グレーズに対して効果がないことが明確である。引用文献2(実施例6)に類似の例である比較例7は、保存安定性が劣り、分離してしまい、使用前に振蕩する必要がある。