(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-23
(45)【発行日】2024-07-31
(54)【発明の名称】流体機械
(51)【国際特許分類】
F04D 29/16 20060101AFI20240724BHJP
F04D 29/08 20060101ALI20240724BHJP
【FI】
F04D29/16
F04D29/08 E
(21)【出願番号】P 2020153982
(22)【出願日】2020-09-14
【審査請求日】2023-03-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000152170
【氏名又は名称】株式会社酉島製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100111039
【氏名又は名称】前堀 義之
(72)【発明者】
【氏名】兼森 祐治
【審査官】大瀬 円
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-029797(JP,A)
【文献】特開昭60-098196(JP,A)
【文献】実開昭64-044399(JP,U)
【文献】特開2019-065829(JP,A)
【文献】特開2018-076866(JP,A)
【文献】実開平04-088566(JP,U)
【文献】特開2017-025843(JP,A)
【文献】特開2008-128099(JP,A)
【文献】実開平04-065986(JP,U)
【文献】特開2009-008021(JP,A)
【文献】特開2016-148308(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 29/16
F04D 29/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吸い込んで吐出するための液体流路と、前記液体流路に連通する開口部とを有するケーシングと、
前記ケーシングの前記開口部を塞ぐカバーと、
前記カバーを貫通して前記ケーシングの前記液体流路内に配置された取付部を有する回転可能な回転軸と、
前記回転軸の前記取付部に取り付けられ、前記ケーシングと対向する環状の第1シュラウドと、前記カバーと対向する第2シュラウドとを有する羽根車と、
前記第1シュラウドに向けて突出するように、前記ケーシングのうち前記第1シュラウドに対向する部分に前記羽根車の径方向に間隔をあけて設けられ、前記回転軸の軸線を中心とする環状で複数のケーシング側絞り凸部と、
前記第2シュラウドに向けて突出するように、前記カバーに前記羽根車の径方向に間隔をあけて設けられ、前記回転軸の軸線を中心とする環状で複数のカバー側絞り凸部と、
前記第1シュラウドの外周部を覆うように前記ケーシングに突設され、前記回転軸の軸線を中心とする環状の第1カバー部と、
前記第2シュラウドの外周部を覆うように前記カバーに突設され、前記回転軸の軸線を中心とする環状の第2カバー部と
を備え、
前記複数のカバー側絞り凸部は、前記複数のケーシング側絞り凸部に対して前記羽根車の径方向の異なる位置に配置され、
前記複数のケーシング側絞り凸部のうちの一部と前記第1カバー部は、前記ケーシングに取り付けられた円環状の第1リング部材に一体に設けられ、
前記複数のカバー側絞り凸部と前記第2カバー部は、前記カバーに取り付けられた円環状の第2リング部材に一体に設けられている、流体機械。
【請求項2】
前記第1リング部材と前記第2リング部材は、耐焼付き性に優れた樹脂系材料からなる、請求項1に記載の流体機械。
【請求項3】
前記羽根車の径方向に隣接した前記ケーシング側絞り凸部、前記ケーシング、及び前記第1シュラウドによって画定された複数の第1溝部と、
前記羽根車の径方向に隣接した前記カバー側絞り凸部、前記カバー、及び前記第2シュラウドによって画定された複数の第2溝部と
を備え、
前記複数の第1溝部の断面形状及び前記複数の第2溝部の断面形状はそれぞれ異なっている、請求項1又は2に記載の流体機械。
【請求項4】
前記ケーシング側絞り凸部は、第1絞り凸部と、前記羽根車の径方向において前記第1絞り凸部の内側に間隔をあけて設けられた第2絞り凸部と、前記羽根車の径方向において前記第2絞り凸部の内側に間隔をあけて設けられた第3絞り凸部とを含み、
前記第1絞り凸部、前記第2絞り凸部及び前記第3絞り凸部それぞれの先端と前記第1シュラウドとの間の隙間は、以下を満たす、請求項1から3のいずれか1項に記載の流体機械。
δ3≧21/2δ1
δ1≒δ2
δ1:第1絞り凸部の先端と第1シュラウドとの間の隙間
δ2:第2絞り凸部の先端と第1シュラウドとの間の隙間
δ3:第3絞り凸部の先端と第1シュラウドとの間の隙間
【請求項5】
前記ケーシング側絞り凸部は、第1絞り凸部と、前記羽根車の径方向において前記第1絞り凸部の内側に間隔をあけて設けられた第2絞り凸部と、前記羽根車の径方向において前記第2絞り凸部の内側に間隔をあけて設けられた第3絞り凸部とを含み、
前記カバー側絞り凸部は、前記羽根車の径方向において前記第1絞り凸部と前記第2絞り凸部の間に設けられた第4絞り凸部と、前記羽根車の径方向において前記第2絞り凸部と前記第3絞り凸部の間に位置する第5絞り凸部とを含み、
前記第1絞り凸部、前記第2絞り凸部及び前記第3絞り凸部それぞれの先端と前記第1シュラウドとの間の隙間、及び前記第4絞り凸部及び前記第5絞り凸部それぞれの先端と前記第2シュラウドとの間の隙間は、以下を満たす、請求項1から3のいずれか1項に記載の流体機械。
δ3≧21/2δ1
δ1≒δ2≧δ4
δ3≧δ4≧δ5
δ1:第1絞り凸部の先端と第1シュラウドとの間の隙間
δ2:第2絞り凸部の先端と第1シュラウドとの間の隙間
δ3:第3絞り凸部の先端と第1シュラウドとの間の隙間
δ4:第4絞り凸部の先端と第2シュラウドとの間の隙間
δ5:第5絞り凸部の先端と第2シュラウドとの間の隙間
【請求項6】
前記ケーシングに向けて突出するように前記第1シュラウドに設けられ、前記回転軸の軸線を中心とする環状の第1羽根車側絞り凸部と、
前記カバーに向けて突出するように前記第2シュラウドに設けられ、前記回転軸の軸線を中心とする環状の第2羽根車側絞り凸部と
を備える、請求項1から5のいずれか1項に記載の流体機械。
【請求項7】
前記ケーシングに向けて突出するように前記第1シュラウドに設けられ、前記回転軸の軸線を中心とする環状の第1羽根車側絞り凸部と、
前記カバーに向けて突出するように前記第2シュラウドに設けられ、前記回転軸の軸線を中心とする環状の第2羽根車側絞り凸部と
を備え、
第1羽根車側絞り凸部は、前記羽根車の径方向において前記第1絞り凸部に隣接して設けられた第1凸部と、前記羽根車の径方向において前記第2絞り凸部に隣接して設けられた第2凸部とを含み、
前記第1シュラウドには更に、前記第3絞り凸部を備えるウェアリングに前記羽根車の径方向に隣接して設けられた第3凸部が設けられており、
第2羽根車側絞り凸部は、前記羽根車の径方向において前記第4絞り凸部に隣接して設けられた第4凸部と、前記羽根車の径方向において前記第5絞り凸部に隣接して設けられた第5凸部とを含み、
前記第1絞り凸部と第1凸部との間の隙間、前記第2絞り凸部と第2凸部との間の隙間、前記ウェアリングと第3凸部との間の隙間、前記第4絞り凸部と第4凸部との間の隙間、及び前記第5絞り凸部と第5凸部との間の隙間は、以下を満たす、請求項5に記載の流体機械。
C1≒C2≒C3
C1≧C4≧C5
C1:第1絞り凸部と第1凸部との間の隙間
C2:第2絞り凸部と第2凸部との間の隙間
C3:ウェアリングと第3凸部との間の隙間
C4:第4絞り凸部と第4凸部との間の隙間
C5:第5絞り凸部と第5凸部との間の隙間
【請求項8】
前記羽根車の径方向における前記ケーシング側絞り凸部の幅は、前記ケーシング側絞り凸部の先端と第1シュラウドとの間の隙間の寸法に対して1倍以上5倍以下であり、
前記羽根車の径方向における前記カバー側絞り凸部の幅は、前記カバー側絞り凸部の先端と第2シュラウドとの間の隙間の寸法に対して1倍以上5倍以下である、
請求項1から7のいずれか1項に記載の流体機械。
【請求項9】
前記第1シュラウド又は前記第2シュラウド
には、前記羽根車の径方向にお
いて、前記複数のケーシング側絞り凸部及び前記複数のカバー側絞り凸部のうち最も内側に位置する1つよりも内側
に、前記羽根車の外部と内部を連通させるバランスホールが設けられている、請求項1から8のいずれか1項に記載の流体機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体機械に関する。
【背景技術】
【0002】
排水に用いられるポンプ、発電に用いられる発電機、及び排水と発電の両方に用いられるポンプ水車を含む流体機械は、液体を流動させるポンプケーシングを備える。ポンプケーシング内には、放射状に延びる複数の羽根板と、回転軸の軸方向における羽根板の両端に配置された一対のシュラウドとを備えるクローズド型の羽根車が配置されている。
【0003】
クローズド型の羽根車は、ポンプの場合、径方向内側から液体を吸い込み、径方向外側から液体を吐出し、水車の場合、径方向外側から液体を吸い込み、径方向内側から液体を吐出する。この際、吐出側の圧力は吸込側の圧力よりも高くなるため、圧力差によって吐出した液体の一部が、羽根車とポンプケーシングとの間の隙間を通って羽根車の吸込側へ逆流する。
【0004】
特許文献1には、流体機械の1つである片吸込ポンプが開示されている。この片吸込ポンプのポンプケーシングは、液体を吐出する流路が形成されたケーシング本体と、吸込口と対向するケーシング本体の開口部を塞ぐカバーとを備える。カバーのうち羽根車のシュラウドと対向する部分には、前述した液体の逆流を抑制するために、シュラウドに向けて突出する環状の絞り凸部が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の片吸込ポンプでは、半径流ラビリンスを構成する絞り凸部によって、カバーと羽根車との間の隙間を通した液体の逆流を抑制できる。しかし、ケーシング本体と羽根車との間の隙間を通る液体の逆流については何も考慮されていないため、特許文献1の流体機械には、液体の逆流に伴う漏れ損失の低減について、改良の余地がある。
【0007】
本発明は、ケーシングと羽根車との間の隙間を通した液体の逆流を抑制し、漏れ損失を低減できる流体機械を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、液体を吸い込んで吐出するための液体流路と、前記液体流路に連通する開口部とを有するケーシングと、前記ケーシングの前記開口部を塞ぐカバーと、前記カバーを貫通して前記ケーシングの前記液体流路内に配置された取付部を有する回転可能な回転軸と、前記回転軸の前記取付部に取り付けられ、前記ケーシングと対向する環状の第1シュラウドと、前記カバーと対向する第2シュラウドとを有する羽根車と、前記第1シュラウドに向けて突出するように、前記ケーシングのうち前記第1シュラウドに対向する部分に前記羽根車の径方向に間隔をあけて設けられ、前記回転軸の軸線を中心とする環状で複数のケーシング側絞り凸部と、前記第2シュラウドに向けて突出するように、前記カバーに前記羽根車の径方向に間隔をあけて設けられ、前記回転軸の軸線を中心とする環状で複数のカバー側絞り凸部と、前記第1シュラウドの外周部を覆うように前記ケーシングに突設され、前記回転軸の軸線を中心とする環状の第1カバー部と、前記第2シュラウドの外周部を覆うように前記カバーに突設され、前記回転軸の軸線を中心とする環状の第2カバー部とを備え、前記複数のカバー側絞り凸部は、前記複数のケーシング側絞り凸部に対して前記羽根車の径方向の異なる位置に配置され、前記複数のケーシング側絞り凸部のうちの一部と前記第1カバー部は、前記ケーシングに取り付けられた円環状の第1リング部材に一体に設けられ、前記複数のカバー側絞り凸部と前記第2カバー部は、前記カバーに取り付けられた円環状の第2リング部材に一体に設けられている、流体機械を提供する。
【0009】
本態様では、第1シュラウドに向けて突出する環状のケーシング側絞り凸部がケーシングに設けられている。そのため、半径流ラビリンスを構成するケーシング側絞り凸部によって、ケーシングと羽根車との間の隙間を通した液体の逆流を抑制できる。よって、従来と比較して液体の逆流に伴う漏れ損失を低減できる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の流体機械では、ケーシングと羽根車との間の隙間を通した液体の逆流を抑制し、漏れ損失を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る流体機械である片吸込ポンプを示す断面図。
【
図2】片吸込ポンプの羽根車を回転軸の軸方向から見た断面図。
【
図4】片吸込ポンプの軸スラストを説明するための図。
【
図5】第2実施形態に係る流体機械である片吸込ポンプにおける
図3Aと同じ位置の拡大断面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を図面に従って説明する。
【0013】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係る流体機械の一例である片吸込ポンプ10を示す。片吸込ポンプ10は、ポンプケーシング12、回転軸22、及び羽根車25を備え、ポンプケーシング12の吸込口14aから吸い込んだ液体を吐出口14dから吐出する。
【0014】
本実施形態では、回転軸22の軸線Aが延びる方向において、ポンプケーシング12の羽根車25と対向する部分に複数の絞り凸部37,41,45,48が設けられている。これらによって、羽根車25から吐出した液体の一部が、ポンプケーシング12と羽根車25との間の隙間(間隙部32A,32B)を通って逆流することを抑制する。なお、以下の説明では、回転軸22の軸線Aが延びる方向のことを、回転軸22の軸方向Aということがある。
【0015】
図1に示すように、ポンプケーシング12は、ケーシング本体(ケーシング)13、ケーシング本体13に取り付けられたカバー16、及びカバー16に取り付けられたベアリングケース18を備える。
【0016】
ケーシング本体13には、液体を吸い込んで吐出するための液体流路14が形成されている。
図1において左端に位置する開口は、液体流路14の入口を構成する円形状の吸込口14aである。
図1において吸込口14aの右側には、羽根車25を配置する空間である配置空間部14bが形成されている。回転軸22の軸線Aを中心とする配置空間部14bの外周部分には、ボリュート通路14cが形成されている。
図1において上端に位置する開口は、液体流路14の出口を構成する円形状の吐出口14dである。
図1において配置空間部14bの右側部分は、配置空間部14bに羽根車25を配置するための開口部15である。開口部15は、吸込口14aと対向するようにケーシング本体13の後側の壁部13bに形成され、配置空間部14bに空間的に連通している。
【0017】
カバー16は、ケーシング本体13の開口部15に取り付けられている。カバー16は、開口部15を液密に塞いでおり、配置空間部14bの一部を画定する。カバー16には、回転軸22を貫通させるためのシャフト孔16aが設けられている。シャフト孔16aを画定する孔壁16b内には、回転軸22との間の液密性を保持するためのメカニカルシール17が配置されている。
【0018】
ベアリングケース18は、
図1においてカバー16の右側、つまりカバー16のケーシング本体13とは反対側に配置されている。ベアリングケース18の内部には、一対のベアリング19が取り付けられている。
【0019】
回転軸22は、ポンプケーシング12に回転可能に取り付けられている。回転軸22は、カバー16を貫通してケーシング本体13内に配置された取付部22aと、ベアリングケース18内に配置された支持部22bと、ベアリングケース18から外部に突出した接続部22cとを備える。取付部22aには羽根車25が取り付けられている。支持部22bはベアリング19に回転可能に支持されている。接続部22cには、図示しない駆動装置(例えば電動モータ)が接続される。
【0020】
羽根車25は、ケーシング本体13の配置空間部14bに配置されている。羽根車25は、回転軸22の取付部22aに取り付けられ、駆動装置によって回転軸22と一体に回転する。羽根車25は、回転軸22の軸線Aが延びる方向から見て円形状であり、複数の羽根板26、概ね円環状の前シュラウド(第1シュラウド)27、及び概ね円板状の後シュラウド(第2シュラウド)28を備えるクローズド型である。
【0021】
図2を参照すると、複数の羽根板26は、回転軸22を中心として放射状に突出している。個々の羽根板26は、回転軸22が位置する径方向rの内側から径方向rの外側に向けて、時計回り(羽根車25の回転方向Rとは逆向き)に湾曲した円弧状である。
【0022】
図1を併せて
図3Aを参照すると、前シュラウド27は、回転軸22の軸方向Aにおいて、羽根板26のケーシング本体13側(
図1において左側)に一体に設けられている。前シュラウド27は、ケーシング本体13のうち配置空間部14bの一部を画定する前側(
図1において左側)の壁部13aと対向している。前シュラウド27には、回転軸22の軸線Aを中心とする円形状の開口である吸込口27aが設けられている。前シュラウド27は、外周部(径方向rの外端)27bから吸込口27aを画定する内周部(径方向rの内端)27cに向けて、吸込口14a側へ次第に湾曲した漏斗形状を呈している。
【0023】
後シュラウド28は、回転軸22の軸方向Aにおいて、羽根板26のカバー16側(
図1において右側)に一体に設けられている。後シュラウド28は、配置空間部14bの一部を画定するカバー16と対向し、前シュラウド27に対して回転軸22の軸方向Aに間隔をあけて配置されている。後シュラウド28の中心には、回転軸22を連結するためのハブ28aが設けられている。
【0024】
このように構成された羽根車25には、周方向に隣り合う一対の羽根板26、前シュラウド27及び後シュラウド28によって画定された複数の流路29が形成されている。個々の流路29は筒状であり、羽根車25の径方向rにおいて、内端側が流入口29aを構成し、外端側が流出口29bを構成する。
【0025】
図2に矢印Rで示す向き(反時計回り)に羽根車25が回転すると、吸込口27aから吸い込んだ液体が、流路29を通して径方向rの外側へ吐出される。これにより、流路29の流出口29b側が流入口29a側よりも高圧になる。この圧力差によって、羽根車25から吐出した液体の一部は、羽根車25とケーシング本体13との間隙部(隙間)32A、及び羽根車25とカバー16との間隙部(隙間)32Bを通り、吸込口27a側へ流れようとする(
図4参照)。このような逆流を抑制するために、本実施形態では、半径流ラビリンスを構成する絞り凸部37,41,45,48が設けられている。
【0026】
(ケーシング側絞り凸部の構成)
図3A及び
図3Bを参照すると、絞り凸部(ケーシング側絞り凸部)37は、ケーシング本体13の壁部13aに設けられている。絞り凸部37は、回転軸22の軸線Aを中心とする円環状であり、前シュラウド27に向けて回転軸22の軸方向Aに沿って突出している。本実施形態では、羽根車25の径方向rにおける異なる位置に、3個(複数)の絞り凸部37が同心円状に設けられている。以下の説明では、必要に応じて直径が大きい方から順番に、第1の絞り凸部37A、第2の絞り凸部37B、第3の絞り凸部37Cと言うことがある。
【0027】
絞り凸部37A~37Cはいずれも、前シュラウド27と対向する先端面37aと、径方向rの内側に位置する内周面37bと、径方向rの外側に位置する外周面37cとを備える。そのうち、絞り凸部37A,37Bは、リング部材35に一体に設けられ、ケーシング本体13の壁部13aに固着されている。残りの絞り凸部37Cは、配置空間部14bの吸込口14a側と前シュラウド27との間を仕切るウェアリング36に一体に設けられ、ケーシング本体13の壁部13aに固着されている。
【0028】
リング部材35は、羽根車25に接触しても焼付くことがない樹脂系の材料からなり、回転軸22の軸線Aを中心とする円環状の板体である。リング部材35の内周縁35aは、前シュラウド27の径方向rの中間領域に位置する直径である。リング部材35の外周縁35bは、前シュラウド27の外周部27bよりも径方向rの外側に位置する直径である。
【0029】
ウェアリング36は、例えばステンレス、鋳鉄、青銅等の摺動性が良好な材料からなり、羽根車25との干渉による損傷を防ぐ。ウェアリング36は、前シュラウド27の内周部27cを取り囲み、回転軸22の軸方向Aに延びる円筒体である。ウェアリング36の第1端36aは、前シュラウド27の内周部27cの前端よりも後シュラウド28側に配置されている。ウェアリング36の第2端36bは、前シュラウド27の内周部27cの前端よりも吸込口14a側に配置されている。ウェアリング36の内面と内周部27cの外面との間には、定められた間隔の隙間C3が確保されている。
【0030】
第1の絞り凸部(第1絞り凸部)37Aは、リング部材35の外周縁35b側に設けられている。より具体的には、絞り凸部37Aは、前シュラウド27の外周部27bの端よりも径方向rの内側に配置されている。つまり、絞り凸部37Aの内周面37bの直径Dr1は、前シュラウド27の外径Doよりも小さい。絞り凸部37Aの先端面37aと前シュラウド27の外面との間には、定められた間隔の隙間δ1が設けられている。この隙間δ1が流体絞りを構成する。
【0031】
第2の絞り凸部(第2絞り凸部)37Bは、リング部材35の内周縁35aに設けられている。より具体的には、第2の絞り凸部37Bは、第1の絞り凸部37Aよりも径方向rの内側に配置されている。つまり、第2の絞り凸部37Bの内周面37bの直径Dr2は、第1の絞り凸部37Aの内周面37bの直径Dr1よりも小さい。絞り凸部37Bの先端面37aと前シュラウド27の外面との間には、定められた間隔の隙間δ2が設けられている。この隙間δ2が流体絞りを構成する。
【0032】
第3の絞り凸部(第3絞り凸部)37Cは、径方向rの内側へ突出する突出部36cを介してウェアリング36の第2端36bに連なっている。絞り凸部37Cは、径方向rにおいて前シュラウド27の内周部27cと同じ位置に配置されている。より具体的には、第3の絞り凸部37Cは、第2の絞り凸部37Bよりも径方向rの内側に配置されている。つまり、第3の絞り凸部37Cの内周面37bの直径Dr3は、第2の絞り凸部37Bの内周面37bの直径Dr2よりも小さい。絞り凸部37Cは、軸方向Aにおいて前シュラウド27の内周部27cの端よりも吸込口14a側に配置されている。絞り凸部37Cの先端面37aと前シュラウド27との間には、定められた間隔の隙間δ3が設けられている。この隙間δ3が流体絞りを構成する。
【0033】
本実施形態では、前シュラウド27の外周部27bを覆うカバー部(第1カバー部)38が、リング部材35の外周縁35bに設けられている。カバー部38は、回転軸22の軸線Aを中心とする円環状であり、第1の絞り凸部37Aよりも径方向rの外側に配置されている。カバー部38の内側面38aと前シュラウド27の外周部27bとの間には、定められた間隔の隙間C0が確保されている。回転軸22の軸方向Aにおいて、カバー部38の先端面(内端)38bは、前シュラウド27の外周部27bの内面と外面との間に配置されている。これによりカバー部38は、前シュラウド27の外周部27bにオーバーラップするが、羽根車25の流出口29bを一部も遮らない。
【0034】
(カバー側絞り凸部の構成)
図3A及び
図3Cを参照すると、絞り凸部(カバー側絞り凸部)41は、カバー16に設けられている。絞り凸部41は、回転軸22の軸線Aを中心とする円環状であり、後シュラウド28に向けて回転軸22の軸方向Aに沿って突出している。本実施形態では、羽根車25の径方向rにおける異なる位置に、2個(複数)の絞り凸部41が同心円状に設けられている。これらの絞り凸部41はいずれも、径方向rにおいて絞り凸部37のいずれとも異なる位置に形成されている。以下の説明では、必要に応じて直径が大きい方から順番に、第1の絞り凸部41A、第2の絞り凸部41Bと言うことがある。
【0035】
絞り凸部41A,41Bはいずれも、後シュラウド28と対向する先端面41aと、径方向rの内側に位置する内周面41bと、径方向rの外側に位置する外周面41cとを備える。絞り凸部41A,41Bは、リング部材40に一体に設けられ、カバー16に固着されている。但し、絞り凸部41A,41Bは、カバー16に一体成形されてもよい。
【0036】
リング部材40は、羽根車25に接触しても焼付くことがない樹脂系の材料からなり、回転軸22の軸線Aを中心とする円環状の板体である。リング部材40の内周縁40aは、リング部材35の内周縁35aよりも径方向rの内側に位置する直径である。リング部材40の外周縁40bは、後シュラウド28の外周部28bよりも径方向rの外側に位置し、径方向rにおいてリング部材35の外周縁35bと同じ位置に位置する直径である。
【0037】
第1の絞り凸部(第4絞り凸部)41Aは、径方向rにおいてリング部材40の中間領域に設けられている。より具体的には、絞り凸部41Aは、径方向rにおいて、後シュラウド28の外周部28bの端よりも内側で、第1の絞り凸部37Aと第2の絞り凸部37Bの間に配置されている。絞り凸部41Aの内周面41bの直径Dr4は、第1の絞り凸部37Aの直径Dr1よりも小さく、第2の絞り凸部37Bの直径Dr2よりも大きい。絞り凸部41Aの先端面41aと後シュラウド28の外面との間には、定められた間隔の隙間δ4が設けられている。この隙間δ4が流体絞りを構成する。
【0038】
第2の絞り凸部(第5絞り凸部)41Bは、リング部材40の内周縁40aに設けられている。つまり、第2の絞り凸部41Bは、第1の絞り凸部41Aよりも径方向rの内側で、第2の絞り凸部37Bと第3の絞り凸部37Cの間に配置されている。第2の絞り凸部41Bの内周面41bbの直径Dr5は、第1の絞り凸部41Aの直径Dr4よりも小さく、第3の絞り凸部37Cの直径Dr3よりも大きい。絞り凸部41Bの先端面41aと後シュラウド28の外面との間には、定められた間隔の隙間δ5が設けられている。この隙間δ5が流体絞りを構成する。
【0039】
本実施形態では、後シュラウド28の外周部28bを覆うカバー部(第2カバー部)42が、リング部材40の外周縁40bに設けられている。カバー部42は、回転軸22の軸線Aを中心とする円環状であり、第1の絞り凸部41Aよりも径方向rの外側に配置されている。カバー部42の内側面42aと後シュラウド28の外周部28bとの間には、定められた間隔の隙間C0が確保されている。回転軸22の軸方向Aにおいて、カバー部42の先端面(内端)42bは、後シュラウド28の外周部28bの内面と外面との間に配置されている。これによりカバー部42は、後シュラウド28の外周部28bにオーバーラップするが、羽根車25の流出口29bを一部も遮らない。
【0040】
(第1羽根車側絞り凸部の構成)
図3A及び
図3Bを参照すると、絞り凸部(第1羽根車側絞り凸部)45は、前シュラウド27に設けられている。絞り凸部45は、回転軸22の軸線Aを中心とする円環状であり、ケーシング本体13の壁部13aに向けて回転軸22の軸方向Aに沿って突出している。本実施形態では、羽根車25の径方向rにおける異なる位置に、2個(複数)の絞り凸部45が同心円状に設けられている。これらの絞り凸部45はいずれも、径方向rにおいて絞り凸部37のいずれとも異なる位置に形成されている。以下の説明では、必要に応じて直径が大きい方から順番に、第1の絞り凸部45A、第2の絞り凸部45Bと言うことがある。
【0041】
絞り凸部45A,45Bはいずれも、ケーシング本体13の壁部13aと対向する先端面45aと、径方向rの内側に位置する内周面45bと、径方向rの外側に位置する外周面45cとを備える。絞り凸部45A,45Bはそれぞれ、前シュラウド27とは別体で設けられ、接合によって前シュラウド27と一体化されている。但し、絞り凸部45A,45Bは、前シュラウド27に一体成形されてもよい。
【0042】
第1の絞り凸部(第1凸部)45Aは、径方向rにおいて第1の絞り凸部37Aの内側に隣接して設けられている。より具体的には、絞り凸部45Aは、径方向rにおいて、ケーシング本体13側の絞り凸部37Aと、カバー16側の絞り凸部41Aとの間に配置されている。絞り凸部45Aの外周面45cの直径は、絞り凸部37Aの直径Dr1よりも小さい。これにより、絞り凸部45Aの外周面45cと絞り凸部37Aの内周面37bとの間には、定められた間隔の隙間C1が形成されている。絞り凸部45Aの先端面45aとリング部材35との間には、流体絞りを構成する定められた間隔の隙間が確保されている。
【0043】
第2の絞り凸部(第2凸部)45Bは、径方向rにおいて第2の絞り凸部37Bの内側に隣接して設けられている。より具体的には、絞り凸部45Bは、径方向rにおいて、ケーシング本体13側の絞り凸部37Bと、カバー16側の絞り凸部41Bとの間に配置されている。絞り凸部45Bの外周面45cの直径は、絞り凸部37Bの直径Dr2よりも小さい。これにより、絞り凸部45Bの外周面45cと絞り凸部37Bの内周面37bとの間には、定められた間隔の隙間C2が形成されている。絞り凸部45Bの先端面45aとケーシング本体13の内面との間には、流体絞りを構成する定められた間隔の隙間が確保されている。
【0044】
本実施形態の前シュラウド27では、絞り凸部37Cを備えるウェアリング36に隣接する内周部27cが、第3の絞り凸部46(第3凸部)を構成する。絞り凸部46(内周部27c)の外周には、ウェアリング36に対して定められた間隔の隙間C3を確保するために、切欠部46aが設けられている。また、絞り凸部46は、第3の絞り凸部37Cに対して回転軸22の軸方向Aに間隔(隙間δ3)をあけて位置する。
【0045】
(第2羽根車側絞り凸部の構成)
図3A及び
図3Cを参照すると、絞り凸部(第2羽根車側絞り凸部)48は、後シュラウド28に設けられている。絞り凸部48は、回転軸22の軸線Aを中心とする円環状であり、カバー16に向けて回転軸22の軸方向Aに沿って突出している。本実施形態では、羽根車25の径方向rにおける異なる位置に、2個(複数)の絞り凸部48が同心円状に設けられている。これらの絞り凸部48はいずれも、径方向rにおいて絞り凸部41のいずれとも異なる位置に形成されている。以下の説明では、必要に応じて直径が大きい方から順番に、第1の絞り凸部48A、第2の絞り凸部48Bと言うことがある。
【0046】
絞り凸部48A,48Bはいずれも、カバー16と対向する先端面48aと、径方向rの内側に位置する内周面48bと、径方向rの外側に位置する外周面48cとを備える。絞り凸部48A,48Bはそれぞれ、後シュラウド28とは別体で設けられ、接合によって後シュラウド28と一体化されている。但し、絞り凸部48A,48Bは、後シュラウド28に一体成形されてもよい。
【0047】
第1の絞り凸部(第4凸部)48Aは、径方向rにおいて第1の絞り凸部41Aの内側に隣接して設けられている。より具体的には、絞り凸部48Aは、径方向rにおいて、カバー16側の絞り凸部41Aと、ケーシング本体13側の絞り凸部37Bとの間に配置されている。絞り凸部48Aの外周面48cの直径は、絞り凸部41Aの直径Dr4よりも小さい。これにより、絞り凸部48Aの外周面48cと絞り凸部41Aの内周面41bとの間には、定められた間隔の隙間C4が形成されている。絞り凸部48Aの先端面48aとリング部材40との間には、流体絞りを構成する定められた間隔の隙間が確保されている。
【0048】
第2の絞り凸部(第5凸部)48Bは、径方向rにおいて第2の絞り凸部41Bの内側に隣接して設けられている。より具体的には、絞り凸部48Bは、径方向rにおいて、カバー16側の絞り凸部41Bと、ケーシング本体13側の絞り凸部37Cとの間に配置されている。絞り凸部48Bの外周面48cの直径は、絞り凸部41Bの直径Dr5よりも小さい。これにより、絞り凸部48Bの外周面48cと絞り凸部41Bの内周面41bとの間には、定められた間隔の隙間C5が形成されている。絞り凸部48Bの先端面48aとカバー16の内面との間には、流体絞りを構成する定められた間隔の隙間が確保されている。
【0049】
(絞り凸部の全体構成)
図3Aに示すように、間隙部32Aには複数の絞り凸部37,45が設けられ、間隙部32Bには複数の絞り凸部41,48が設けられている。そのうち、ケーシング本体13に形成された絞り凸部37A~37Cは、直径がD
r1~D
r3の円環状である(D
r1>D
r2>D
r3)。また、カバー16に形成された絞り凸部41A,41Bは、直径がD
r4,D
r5の円環状である(D
r1>D
r4>D
r2>D
r5>D
r3)。最も直径D
r3が小さい絞り凸部37C以外、つまり絞り凸部37A,37B,41A,41Bの直径D
r1,D
r2,D
r4,D
r5は、羽根車25の流入口29aの直径Deの1.2倍以上に設定されている。
【0050】
また、間隙部32A,32Bには、複数の絞り凸部37,41,45,48とカバー部38,42によって、断面形状が異なる複数の溝部50A~50Eが形成されている。言い換えれば、溝部50A~50Eの断面形状が異なるように、絞り凸部37A~37C,41A,41Bの直径Dr1~Dr5が設定されている。
【0051】
具体的には、間隙部32Aには、3つの溝部50A~50Cが形成されている。溝部50Aは、カバー部38、絞り凸部37A、リング部材35、及び前シュラウド27によって画定されている。溝部50Bは、絞り凸部45A、絞り凸部37B、リング部材35、及び前シュラウド27によって画定されている。溝部50Cは、絞り凸部45B、絞り凸部37C(ウェアリング36)、ケーシング本体13、及び前シュラウド27によって画定されている。
【0052】
間隙部32Bには、2つの溝部50D,50Eが形成されている。溝部50Dは、カバー部42、絞り凸部41A、リング部材40、及び後シュラウド28によって画定されている。溝部50Eは、絞り凸部48A、絞り凸部41B、リング部材40、及び後シュラウド28によって画定されている。
【0053】
溝部50A~50Eの径方向rの寸法がいずれも異なるように、前述した直径Dr1~Dr5が設定されている。これにより、溝部50A~50Eの断面形状が、いずれも異なるように構成されている。
【0054】
個々の溝部50A~50E内では、間隙部32A,32Bを逆流しようとする液体によって旋回流が生じる(
図4参照)。この旋回流によるポンプケーシング12の振動を抑制するために、複数の絞り凸部37,41と羽根車25との間に形成される隙間δ
1~δ
5、及び複数の絞り凸部37,41,45,48によって形成される隙間C
1~C
5を以下のように設定している。
【0055】
第1の絞り凸部(第1絞り凸部)37Aと前シュラウド27との隙間δ1、第2の絞り凸部(第2絞り凸部)37Bと前シュラウド27との隙間δ2、第3の絞り凸部(第3絞り凸部)37Cと前シュラウド27との隙間δ3、第1の絞り凸部(第4絞り凸部)41Aと後シュラウド28との隙間δ4、及び第2の絞り凸部(第5絞り凸部)41Bと後シュラウド28との隙間δ5の関係は、以下を満たす。
【0056】
【0057】
カバー部38と前シュラウド27の外周部27bとの隙間C0と、カバー部42と後シュラウド28の外周部28bとの隙間C0とは、同一である。これらの隙間C0、絞り凸部(第1絞り凸部)37Aと絞り凸部(第1凸部)45Aの隙間C1、絞り凸部(第2絞り凸部)37Bと絞り凸部(第2凸部)45Bの隙間C2、ウェアリング36と絞り凸部(第3凸部)46の隙間C3、絞り凸部(第4絞り凸部)41Aと絞り凸部(第4凸部)48Aの隙間C4、及び絞り凸部(第5絞り凸部)41Bと絞り凸部(第5凸部)48Bの隙間C5の関係は、以下を満たす。
【0058】
【0059】
隙間δ1~δ5と隙間C1~C5を上記数1及び数2のように設定することで、間隙部32A,32Bにおいて液体が流動可能な通路面積が絞られる。よって、羽根車25の吐出側(径方向外側)から吸込側(径方向内側)への液体の逆流を抑制できる。また、間隙部32A,32Bでの旋回流を抑制し、旋回流による振動を抑制できる。
【0060】
なお、第1の絞り凸部41Aと後シュラウド28との隙間δ4は、第2の絞り凸部41Bと後シュラウド28との隙間δ5よりも大きくすることが好ましい(δ4>δ5)。このようにすれば、羽根車25がカバー16側に移動した際、背面圧力の発生により背面側の軸スラストFbが発生し、羽根車25をケーシング本体13側に戻すような軸スラストを生じさせることができる。
【0061】
また、径方向rの寸法である、絞り凸部37,41の先端面37a,41aの幅Wは、個々の絞り凸部37,41と羽根車25との隙間の寸法に対して1倍以上5倍以下に設定されている。つまり、第1の絞り凸部37Aの幅Wは隙間δ1の1倍以上5倍以下に、第2の絞り凸部37Bの幅Wは隙間δ2の1倍以上5倍以下に、第3の絞り凸部37Cの幅Wは隙間δ3の1倍以上5倍以下に、第1の絞り凸部41Aの幅Wは隙間δ4の1倍以上5倍以下に、第2の絞り凸部41Bの幅Wは隙間δ5の1倍以上5倍以下に設定されている。絞り凸部37,41の幅Wを過度に小さくすると、絞り凸部37,41が流体絞りとして機能しない虞がある。絞り凸部37,41の幅Wを過度に大きくすると、前述した溝部50A~50Eの容積を確保できない。よって、絞り凸部37,41の幅Wは、上記定められた範囲に設定することが好ましい。
【0062】
また、後シュラウド28には、羽根車25の外部と内部を連通させ、外部の液体を流路29内に吐出するためのバランスホール52が形成されている。バランスホール52は、後シュラウド28において液体が流れる方向における上流側、つまり後シュラウド28の内周(ハブ28a)側に設けられている。
【0063】
より具体的には、
図3Aに示すように、バランスホール52は、絞り凸部48Bの径方向rの内側に設けられている。
図2を参照すると、バランスホール52は、個々の流路29に位置するように周方向に間隔をあけて複数設けられている。個々のバランスホール52は、羽根板26の翼面に沿って延びる楕円形状に設けられている。バランスホール52の長軸方向の寸法は、後シュラウド28のうち最も薄い部分の厚みtの0.8倍以上1.2倍以下に設定されている。但し、バランスホール52の形状は、円形であってもよく、必要に応じて変更が可能である。
【0064】
バランスホール52の形成位置は、軸線Aを中心とする半径Rrの位置である。この半径Rr(形成位置)は、キャビテーション泡が羽根板26に再付着して崩壊する位置に設定されている。このような位置に、バランスホール52を通して吐出圧力を加えることによりエロージョンを小さくできる。これにより、キャビテーションエロージョンを緩和できる。
【0065】
図4は片吸込ポンプ10の軸スラストFを説明する図である。
図4では、左側に羽根車25の前面(前シュラウド27)の圧力分布を示し、右側に羽根車25の背面(後シュラウド28)の圧力分布を示している。
【0066】
図4を参照すると、平衡点X0から羽根車25が右側(カバー16側)に+Δx移動すると、隙間δ
4,δ
5が狭くなる。そうすると、間隙部32Bでの逆流速度が遅くなり、羽根車25の背面の圧力が上昇する。したがって、平衡点X0のカバー16側の軸スラストFbが増大し、羽根車25を左側(ケーシング本体13側)に戻すような軸スラストFbを発生させる。軸スラストFbは、半径隙間C
1~C
5の大きさを上記数2のように設定することにより大きくなる。
【0067】
逆に、平衡点X0から羽根車25が左方向に-Δx移動すると、隙間δ4,δ5が広くなる。そうすると、間隙部32Bでの逆流速度が速くなり、羽根車25の背面の圧力が下降する。したがって、平衡点X0のカバー16側の軸スラストFbが減少し、羽根車25をカバー16側に戻すような軸スラストFsが発生する。
【0068】
カバー16側の軸スラストFbは、羽根車25の移動Δxに依存して変化する。したがって、ケーシング本体13側の軸スラストFsとカバー16側の軸スラストFbが一致する平衡位置で、羽根車25は安定的に留まる。ポンプ組立時に羽根車25をこの平衡位置に設置すると、軸スラストは自動的にバランスされ、安定した運転を実現できる。
【0069】
このように構成した片吸込ポンプ10は、以下の特徴を有する。
【0070】
前シュラウド27に向けて突出する環状の絞り凸部37がケーシング本体13に設けられている。そのため、半径流ラビリンスを構成する絞り凸部37によって、ケーシング本体13と羽根車25との間の間隙部32Aを通した液体の逆流を抑制できる。よって、従来と比較して液体の逆流に伴う漏れ損失を低減でき、ポンプ効率を上昇できる。
【0071】
後シュラウド28に向けて突出する環状の絞り凸部41がカバー16に更に設けられ、絞り凸部37と絞り凸部41とは羽根車25の径方向rの異なる位置に配置されている。そのため、半径流ラビリンスを構成する絞り凸部37と絞り凸部41とによって、羽根車25の両側でそれぞれ液体の逆流を抑制できる。よって、従来と比較して液体の逆流に伴う漏れ損失を確実に低減でき、ポンプ効率を上昇できる。
【0072】
前シュラウド27の外周部27bを覆うカバー部38がケーシング本体13に設けられ、後シュラウド28の外周部28bを覆うカバー部42がカバー16に設けられている。これらのカバー部38,42によって、間隙部32A,32Bへの液体の流入を大幅に抑制できる。よって、羽根車25の両側での液体の逆流を大幅に抑制できる。その結果、液体の逆流に伴う漏れ損失を確実に低減でき、ポンプ効率を上昇できる。
【0073】
絞り凸部37及び絞り凸部41はそれぞれ、羽根車25の径方向rに間隔をあけて複数設けられている。そのため、羽根車25の両側での液体の逆流を大幅に抑制できる。よって、液体の逆流に伴う漏れ損失を確実に低減でき、ポンプ効率を上昇できる。
【0074】
羽根車25の径方向rに隣接した絞り凸部37、ケーシング本体13、及び前シュラウド27によって複数の溝部50A~50Cが画定され、羽根車25の径方向に隣接した絞り凸部41、カバー16、及び後シュラウド28によって複数の溝部50D,50Eが画定されている。個々の溝部50A~50Eでは、液体が渦を巻くように流動することでキャビティ音が発生するが、複数の溝部50A~50Eの断面形状はそれぞれ異なっているため、個々の溝部50A~50Eで発生するキャビティ音の共鳴を防止できる。
【0075】
絞り凸部37は3個の絞り凸部37A~37Cを含み、これらと前シュラウド27との間の隙間δ1~δ3は、δ3≧21/2δ1とδ1≒δ2を満たす。よって、ケーシング本体13と羽根車25の間での液体の逆流を大幅に抑制できるとともに、液体の逆流に伴う漏れ損失を確実に低減できる。
【0076】
絞り凸部41は2個の絞り凸部41A,41Bを含み、絞り凸部37A~37Cと前シュラウド27との間の隙間δ1~δ3、及び絞り凸部41A,41Bと後シュラウド28との間の隙間δ4,δ5は、δ3≧21/2δ1、δ1≒δ2≧δ4、及びδ3≧δ4≧δ5を満たす。そのため、羽根車25の両側での液体の逆流を大幅に抑制できるとともに、液体の逆流に伴う漏れ損失を確実に低減できる。また、絞り凸部37,41間に形成される溝部50A~50E内での液体流動が、回転軸22の軸方向Aに羽根車25が移動しようとした際に抵抗として作用するため、羽根車25の移動を抑制でき、安定した運転を実現できる。
【0077】
前シュラウド27にはケーシング本体13に向けて突出する環状の絞り凸部45が設けられ、後シュラウド28にはカバー16に向けて突出する環状の絞り凸部48が設けられている。そのため、径方向rにおいて外側に位置する溝部から内側に位置する溝部への液体流動を効果的に抑制できる。よって、ケーシング本体13と前シュラウド27との間の溝部50A~50C、及びカバー16と後シュラウド28との間の溝部50D,50Eでの旋回流の発生を抑制できる。よって、旋回流に伴う振動の発生を抑制できる。
【0078】
絞り凸部37Aと絞り凸部45Aとの間の隙間C1、絞り凸部37Bと絞り凸部45Bとの間の隙間C2、ウェアリング36と絞り凸部46との間の隙間C3、絞り凸部41Aと絞り凸部48Aとの間の隙間C4、及び絞り凸部41Bと絞り凸部48Bとの間の隙間C5は、C1≒C2≒C3とC1≧C4≧C5を満たす。そのため、個々の溝部50A~50Eでの旋回流の発生を抑制できる。よって、旋回流に伴うキャビティ音の発生と振動の発生を抑制できる。
【0079】
絞り凸部37,41の幅Wは、絞り凸部37,41の先端とシュラウド27,28との間の隙間δ1~δ5の寸法に対して1倍以上5倍以下である。そのため、羽根車25の両側での液体の逆流を大幅に抑制できるとともに、液体の逆流に伴う漏れ損失を確実に低減できる。
【0080】
後シュラウド28の上流側に、羽根車25の外部と内部を連通させるバランスホール52が設けられている。そのため、羽根車25の上流側と下流側の圧力差によって、バランスホール52を通して羽根車25の外部の液体が内部に注入される。よって、羽根車25の上流側と下流側の圧力差を大幅に低減できるため、クローズド型の羽根車25の性能を大きく変えることなく、キャビテーションの発生を抑制し、吸込性能(必要NPSH)を改善できる。
【0081】
(第2実施形態)
図5は第2実施形態の片吸込ポンプの配置空間部14bを示す。この第2実施形態では、羽根車25が備えるシュラウド27,28に絞り凸部を設けていない点で第1実施形態と相違している。
【0082】
ケーシング本体13には前シュラウド27に向けて突出する絞り凸部37が設けられ、カバー16には後シュラウド28に向けて突出する絞り凸部41が設けられている。絞り凸部37は、リング部材35に形成された第1の絞り凸部37A、リング部材35に形成された第2の絞り凸部37B、及びウェアリング36に形成された第3の絞り凸部37Cを含む。絞り凸部41は、リング部材40に形成された第1の絞り凸部41A、及びリング部材35に形成された第2の絞り凸部41Bを含む。そのうち、絞り凸部41Bを形成する径方向rの位置は、バランスホール52を形成した径方向rの位置と対応している。
【0083】
個々の絞り凸部37A~37C,41A,41Bの直径Dr1~Dr5、及び絞り凸部37A~37C,41A,41Bとシュラウド27,28との間の隙間δ1~δ5は、第1実施形態と同様である。また、リング部材35,41にはそれぞれ、第1実施形態と同様のカバー部38,42が設けられている。
【0084】
絞り凸部37A~37C,41A,41Bによって、間隙部32A,32Bには溝部50A~50Eが形成されている。溝部50Aは、カバー部38、絞り凸部37A、リング部材35、及び前シュラウド27によって画定されている。溝部50Bは、径方向rに隣接した絞り凸部37A,37B、リング部材35、及び前シュラウド27によって画定されている。溝部50Cは、径方向rに隣接した絞り凸部37B,37C、ケーシング本体13の壁部13a、及び前シュラウド27によって画定されている。溝部50Dは、カバー部42、絞り凸部41A、リング部材40、及び後シュラウド28によって画定されている。溝部50Eは、径方向rに隣接した絞り凸部41A,41B、リング部材40、及び後シュラウド28によって画定されている。
【0085】
このように構成された第2実施形態の片吸込ポンプでは、第1実施形態と同様に、前シュラウド27に向けて突出する環状の絞り凸部37がケーシング本体13に設けられ、後シュラウド28に向けて突出する環状の絞り凸部41がカバー16に設けられている。また、絞り凸部37,41は羽根車25の径方向rの異なる位置に配置されている。そのため、半径流ラビリンスを構成する絞り凸部37,41によって、羽根車25の両側でそれぞれ液体の逆流を抑制できる。よって、従来と比較して液体の逆流に伴う漏れ損失を確実に低減でき、ポンプ効率を上昇できる。
【0086】
なお、本発明は、前記実施形態の構成に限定されず、種々の変更が可能である。
【0087】
例えば、カバー16側には絞り凸部を設けることなく、ケーシング本体13側(間隙部32A)だけに絞り凸部を設けてもよい。絞り凸部37,41,45,48の数は、それぞれ1個のみであってもよく、必要に応じて変更が可能である。絞り凸部37,41,45,48を形成する径方向rの位置も、必要に応じて変更が可能である。
【0088】
バランスホール52は、前シュラウド27側に設けてもよい。バランスホール52を形成する径方向rの位置と形状は、必要に応じて変更が可能である。
【0089】
前記実施形態では、排水に用いられる片吸込ポンプ10を例に挙げて本発明の流体機械を説明したが、この流体機械は、発電に用いられる発電機、及び排水と発電の両方に用いられるポンプ水車であってもよい。前記実施形態の羽根車25を水車のランナとして用いる場合、流路29は、羽根車25の径方向rにおいて、内端側が流出口を構成し、外端側が流入口を構成する。即ち、ポンプと水車とでは、液体の出入口が逆になる。また、この場合、バランスホール52は、液体が流れる方向の上流側である羽根車25の径方向rの外側に形成される。
【符号の説明】
【0090】
10…片吸込ポンプ
12…ポンプケーシング
13…ケーシング本体(ケーシング)
13a…前側の壁部
13b…後側の壁部
14…液体流路
14a…吸込口
14b…配置空間部
14c…ボリュート通路
14d…吐出口
15…開口部
16…カバー
16a…シャフト孔
16b…孔壁
17…メカニカルシール
18…ベアリングケース
19…ベアリング
22…回転軸
22a…取付部
22b…支持部
22c…接続部
25…羽根車
26…羽根板
27…前シュラウド(第1シュラウド)
27a…吸込口
27b…外周部
27c…内周部
28…後シュラウド(第2シュラウド)
28a…ハブ
28b…外周部
29…流路
29a…流入口
29b…流出口
32A,32B…間隙部(隙間)
35…リング部材
35a…内周縁
35b…外周縁
36…ウェアリング
36a…第1端
36b…第2端
36c…突出部
37…絞り凸部(ケーシング側絞り凸部)
37A…絞り凸部(第1絞り凸部)
37B…絞り凸部(第2絞り凸部)
37C…絞り凸部(第3絞り凸部)
37a…先端面
37b…内周面
37c…外周面
38…カバー部(第1カバー部)
38a…内側面
38b…先端面
40…リング部材
40a…内周縁
40b…外周縁
41…絞り凸部(カバー側絞り凸部)
41A…絞り凸部(第4絞り凸部)
41B…絞り凸部(第5絞り凸部)
41a…先端面
41b…内周面
41c…外周面
42…カバー部(第2カバー部)
42a…内側面
42b…先端面
45…絞り凸部(第1羽根車側絞り凸部)
45A…絞り凸部(第1凸部)
45B…絞り凸部(第2凸部)
45a…先端面
45b…内周面
45c…外周面
46…絞り凸部(第3凸部)
46a…切欠部
48…絞り凸部(第2羽根車側絞り凸部)
48A…絞り凸部(第4凸部)
48B…絞り凸部(第5凸部)
48a…先端面
48b…内周面
48c…外周面
50A~50E…溝部
52…バランスホール