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特許7526068サクラ色系ジルコニア焼結体、サクラ色系ジルコニア粉末、及び、サクラ色系ジルコニア粉末の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-23
(45)【発行日】2024-07-31
(54)【発明の名称】サクラ色系ジルコニア焼結体、サクラ色系ジルコニア粉末、及び、サクラ色系ジルコニア粉末の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/488 20060101AFI20240724BHJP
   A44C 27/00 20060101ALI20240724BHJP
   C01G 25/02 20060101ALI20240724BHJP
【FI】
C04B35/488
A44C27/00
C01G25/02
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020167613
(22)【出願日】2020-10-02
(65)【公開番号】P2022059792
(43)【公開日】2022-04-14
【審査請求日】2023-04-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000208662
【氏名又は名称】第一稀元素化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】國貞 泰一
【審査官】小川 武
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-002658(JP,A)
【文献】特開昭63-277560(JP,A)
【文献】国際公開第2009/157508(WO,A1)
【文献】特開2014-141393(JP,A)
【文献】特開2013-170109(JP,A)
【文献】特開2016-121063(JP,A)
【文献】特開平04-280864(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0315086(US,A1)
【文献】国際公開第2020/196650(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第2003-0079333(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00-35/84
C01G 25/00-25/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジルコニアと、イットリアと、エルビアと、アルミナと、酸化亜鉛と、シリカとからなり、
前記イットリアの含有量が、前記ジルコニアに対して0.7mol%以上1.5mol%以下であり、
前記エルビアの含有量が、前記ジルコニアに対して0.7mol%以上1.5mol%以下であり、
前記アルミナの含有量が、前記ジルコニア、前記イットリア、及び、前記エルビアの合計を100質量%としたときに、0.1質量%以上0.4質量%以下であり、
前記酸化亜鉛の含有量が、前記ジルコニア、前記イットリア、及び、前記エルビアの合計を100質量%としたときに、0.2質量%以上0.3質量%以下であり、
前記シリカの含有量が、前記ジルコニア、前記イットリア、及び、前記エルビアの合計を100質量%としたときに、0.05質量%以上0.1質量%以下であり、
相対焼結密度が99.5%以上であり、
厚さ5mmに調整し且つ鏡面研磨した後の、L表色系で規定されるLが75超え85以下であり、aが10超え20以下であり、bが-1以上5以下であることを特徴とするサクラ色系ジルコニア焼結体。
【請求項2】
前記イットリアの含有量が、前記ジルコニアに対して0.9mol%以上1.3mol%以下であり、
前記エルビアの含有量が、前記ジルコニアに対して0.9mol%以上1.3mol%以下であり、
前記アルミナの含有量が、前記ジルコニア、前記イットリア、及び、前記エルビアの合計を100質量%としたときに、0.2質量%超え0.4質量%以下であることを特徴とする請求項1に記載のサクラ色系ジルコニア焼結体。
【請求項3】
前記イットリアの含有量が、前記ジルコニアに対して1.0mol%以上1.2mol%以下であり、
前記エルビアの含有量が、前記ジルコニアに対して1.0mol%以上1.2mol%であり、
前記アルミナの含有量が、前記ジルコニア、前記イットリア、及び、前記エルビアの合計を100質量%としたときに、0.23質量%以上0.3質量%以下であり、
相対焼結密度が99.7%以上であることを特徴とする請求項2に記載のサクラ色系ジルコニア焼結体。
【請求項4】
前記Lが77超え83以下であり、前記aが12超え18以下であり、前記bが0超え3以下であることを特徴とする請求項1~3のいずれか1に記載のサクラ色系ジルコニア焼結体。
【請求項5】
3点曲げ強度が1100MPa以上であることを特徴とする請求項1~4のいずれか1に記載のサクラ色系ジルコニア焼結体。
【請求項6】
イットリアを0.7mol%以上1.5mol%以下の範囲内で含み、且つ、エルビアを0.8mol%以上1.5mol%以下の範囲内で含むジルコニアと、
アルミナと、
酸化亜鉛と、
シリカとからなり、
前記アルミナの含有量が、前記ジルコニア、前記イットリア、及び、前記エルビアの合計を100質量%としたときに、0.1質量%以上0.4質量%以下であり、
前記酸化亜鉛の含有量が、前記ジルコニア、前記イットリア、及び、前記エルビアの合計を100質量%としたときに、0.2質量%以上0.3質量%以下であり、
前記シリカの含有量が、前記ジルコニア、前記イットリア、及び、前記エルビアの合計を100質量%としたときに、0.05質量%以上0.1質量%以下であり、
比表面積が、5m/g以上20m/g以下であり、
平均粒子径が0.3μm以上0.8μm以下であり、
成型圧0.8t/cmで成型した後、大気圧下、1350℃2時間の条件で焼結した焼結体の、厚さ5mmに調整し且つ鏡面研磨した後の、L表色系で規定されるLが75超え85以下であり、aが10超え20以下であり、bが-1以上5以下であることを特徴とするサクラ色系ジルコニア粉末。
【請求項7】
前記イットリアの含有量が、前記ジルコニアに対して0.9mol%以上1.3mol%以下であり、
前記エルビアの含有量が、前記ジルコニアに対して0.9mol%以上1.3mol%以下であり、
前記アルミナの含有量が、前記ジルコニア、前記イットリア、及び、前記エルビアの合計を100質量%としたときに、0.2質量%超え0.4質量%以下であり、
前記比表面積が、5m/g以上15m/g以下であることを特徴とする請求項に記載のサクラ色系ジルコニア粉末。
【請求項8】
前記イットリアの含有量が、前記ジルコニアに対して1.0mol%以上1.2mol%以下であり、
前記エルビアの含有量が、前記ジルコニアに対して1.0mol%以上1.2mol%であり、
前記アルミナの含有量が、前記ジルコニア、前記イットリア、及び、前記エルビアの合計を100質量%としたときに、0.23質量%以上0.3質量%以下であり、
平均粒子径が0.3μm以上0.7μm以下であることを特徴とする請求項に記載のサクラ色系ジルコニア粉末。
【請求項9】
成型圧0.8t/cmで成型した後、大気圧下、1350℃2時間の条件で焼結した焼結体の3点曲げ強度が1100MPa以上となることを特徴とする請求項のいずれか1に記載のサクラ色系ジルコニア粉末。
【請求項10】
請求項のいずれか1に記載のサクラ色系ジルコニア粉末の製造方法であって、
塩基性硫酸ジルコニウムとイットリアゾル溶液とエルビアゾル溶液とを混合する工程Aと、
前記工程Aの後、混合液に塩基を混合して水酸化ジルコニウムを得る工程Bと、
前記工程Bの後、前記水酸化ジルコニウムを焼成してジルコニアを得、得られたジルコニアに、アルミナと酸化亜鉛とシリカとを混合する工程とを有することを特徴とするサクラ色系ジルコニア粉末の製造方法。
【請求項11】
請求項のいずれか1に記載のサクラ色系ジルコニア粉末を成型圧0.7t/cm以上0.9t/cm以下で成型し、成型体を得る工程Xと、
前記工程Xの後、前記成型体を1300℃以上1550℃以下、1時間以上10時間以下の条件で焼結する工程Yとを有するサクラ色系ジルコニア焼結体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サクラ色系ジルコニア焼結体、サクラ色系ジルコニア粉末、及び、サクラ色系ジルコニア粉末の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ジルコニア焼結体、特に正方晶相ジルコニア焼結体は、その高い強度と鏡面研磨後の表面光沢の美しさから、刃物等の家庭用品やゴルフシューズスパイク等のスポーツ用品への応用が進んでおり、さらに時計ケースやアクセサリー等の装飾部材への応用にも広がりをみせている。こうした用途拡大に対応するためには、各種のカラーを持ったジルコニアが強く要望されている。各種のカラーの中でも、サクラ色系のジルコニア焼結体の需要は大きい。
【0003】
特許文献1には、安定化剤を含むZrOに対し、Erを0.5~2.0モル%、ZnOを0.1~0.6モル%含有するピンク色ジルコニア焼結体が開示されている。
【0004】
特許文献2には、安定化剤としてYを2~5モル%、酸化エルビウムを1~3重量%、Alを0.5重量%未満含み、L表色系における明度Lが65~85、aが0~10、bが0~-3であるピンク色ジルコニア焼結体が開示されている。
【0005】
特許文献3には、2~4mol%のイットリア、0.02~0.8mol%のEr、Fe換算で20~2000ppm未満の鉄化合物及び0.005~0.2wt%未満のAlを含み、残部がジルコニアであるジルコニア焼結体であって、JIS-Z8729に規定された色彩パラメーターの明度Lが55~75、aが0~10、bが0~30であり、相対密度が99.80%以上、且つ、試料厚さ1mmにおけるD65光源による全光線透過率が18%以上40%以下である着色透光性ジルコニア焼結体が開示されている。
【0006】
特許文献4には、イットリア(Y)及びエルビア(Er)で安定化され、更にアルミナを0.005wt%以上0.2wt%未満含有するジルコニア焼結体であって、該焼結体中にエルビアを0.1mol%以上2mol%未満、イットリアを1mol%以上4mol%未満含み、ジルコニア焼結体のJISZ8729に規定された色彩パラメーターの明度Lが58~75、aが3~20、bが-8~-4であるピンク色ジルコニア焼結体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平04-2658号公報
【文献】特開2011-20875号公報
【文献】特開2014-141388号公報
【文献】特開2014-141393号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述したような従来のピンク色系ジルコニア焼結体は、色味のバランスがよいジルコニア焼結体であるとはいえない。また、ピンク色系のジルコニア粉末を用いたピンク色系ジルコニア焼結体を得る際の成型には、一般的に成型圧力として2t/cm程度を必要とし、工程負荷が高いという問題がある。
【0009】
本発明は、上述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、低い成型圧で製造されたとしても高強度であり、明るいながらも発色が鮮やかであり、色味のバランスがよいサクラ色系ジルコニア焼結体を提供することにある。また、当該サクラ色系ジルコニア焼結体を容易に製造することを可能とするサクラ色系ジルコニア粉末を提供することにある。また、当該サクラ色系ジルコニア粉末の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、ジルコニア焼結体について鋭意検討を行った。その結果、驚くべきことに、下記構成を採用することにより、低い成型圧で製造されたとしても高強度であり、明るいながらも発色が鮮やかであり、色味のバランスがよいサクラ色系ジルコニア焼結体が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明に係るサクラ色系ジルコニア焼結体は、
ジルコニアと、イットリアと、エルビアと、アルミナと、酸化亜鉛と、シリカとを含み、
前記イットリアの含有量が、前記ジルコニアに対して0.7mol%以上1.5mol%以下であり、
前記エルビアの含有量が、前記ジルコニアに対して0.7mol%以上1.5mol%以下であり、
前記アルミナの含有量が、前記ジルコニア、前記イットリア、及び、前記エルビアの合計を100質量%としたときに、0.1質量%以上0.4質量%以下であり、
前記酸化亜鉛の含有量が、前記ジルコニア、前記イットリア、及び、前記エルビアの合計を100質量%としたときに、0.2質量%以上0.3質量%以下であり、
前記シリカの含有量が、前記ジルコニア、前記イットリア、及び、前記エルビアの合計を100質量%としたときに、0.05質量%以上0.1質量%以下であり、
相対焼結密度が99.5%以上であることを特徴とする。
【0012】
イットリアは、着色に影響しない態様で安定化剤として機能する。一方、エルビアは、サクラ色のための着色剤として機能するとともに安定化剤としても機能する。アルミナ、酸化亜鉛、及び、シリカは、焼結助剤として機能するとともに、白さを上げて明度を向上させる。
本発明のサクラ色系ジルコニア焼結体は、イットリアと、エルビアと、アルミナと、酸化亜鉛と、シリカとを前記数値範囲内で含むため、低い成型圧で製造されたとしても高強度である。具体的に、本発明のサクラ色系ジルコニア焼結体は、相対焼結密度が99.5%以上であるため、高強度である。また、エルビアと、アルミナと、酸化亜鉛と、シリカとを前記数値範囲内で含むため、明るいながらも発色が鮮やかであり、色味のバランスがよい。
このように、本発明に係るサクラ色系ジルコニア焼結体は、イットリアと、エルビアと、アルミナと、酸化亜鉛と、シリカとを、前記数値範囲内で含むため、低い成型圧で製造されたとしても高強度であり、明るいながらも発色が鮮やかであり、色味のバランスがよい。このことは、実施例からも明らかである。
【0013】
前記構成においては、前記イットリアの含有量が、前記ジルコニアに対して0.9mol%以上1.3mol%以下であり、
前記エルビアの含有量が、前記ジルコニアに対して0.9mol%以上1.3mol%以下であり、
前記アルミナの含有量が、前記ジルコニア、前記イットリア、及び、前記エルビアの合計を100質量%としたときに、0.2質量%超え0.4質量%以下であることが好ましい。
【0014】
前記構成においては、前記イットリアの含有量が、前記ジルコニアに対して1.0mol%以上1.2mol%以下であり、
前記エルビアの含有量が、前記ジルコニアに対して1.0mol%以上1.2mol%であり、
前記アルミナの含有量が、前記ジルコニア、前記イットリア、及び、前記エルビアの合計を100質量%としたときに、0.23質量%以上0.3質量%以下であり、
相対焼結密度が99.7%以上であることが好ましい。
【0015】
前記構成においては、厚さ5mmに調整し且つ鏡面研磨した後の、L表色系で規定されるLが75超え85以下であり、aが10超え20以下であり、bが-1以上5以下であることが好ましい。
【0016】

前記構成においては、前記Lが77超え83以下であり、前記aが12超え18以下であり、前記bが0超え3以下であることが好ましい。
【0017】
前記L表色系で規定されるL、a、bが前記数値範囲内であると、明るいながらも発色がより鮮やかであり、色味のバランスがよりよい。
【0018】
前記構成においては、3点曲げ強度が1100MPa以上であることが好ましい。
【0019】
前記3点曲げ強度が前記数値範囲内であると、当該サクラ色系ジルコニア焼結体は、高強度なものといえる。
【0020】
また、本発明に係るサクラ色系ジルコニア粉末は、
イットリアを0.7mol%以上1.5mol%以下の範囲内で含み、且つ、エルビアを0.8mol%以上1.5mol%以下の範囲内で含むジルコニアと、
アルミナと、
酸化亜鉛と、
シリカとを含み、
前記アルミナの含有量が、前記ジルコニア、前記イットリア、及び、前記エルビアの合計を100質量%としたときに、0.1質量%以上0.4質量%以下であり、
前記酸化亜鉛の含有量が、前記ジルコニア、前記イットリア、及び、前記エルビアの合計を100質量%としたときに、0.2質量%以上0.3質量%以下であり、
前記シリカの含有量が、前記ジルコニア、前記イットリア、及び、前記エルビアの合計を100質量%としたときに、0.05質量%以上0.1質量%以下であり、
比表面積が、5m/g以上20m/g以下であり、
平均粒子径が0.3μm以上0.8μm以下であることを特徴とする。
【0021】
イットリアは、着色に影響しない態様で安定化剤として機能する。一方、エルビアは、サクラ色のための着色剤として機能するとともに安定化剤としても機能する。アルミナ、酸化亜鉛、及び、シリカは、焼結助剤として機能するとともに、白さを上げて明度を向上させる。
本発明のサクラ色系ジルコニア粉末は、イットリアと、エルビアと、アルミナと、酸化亜鉛とシリカとを前記数値範囲内で含むため、低い成型圧であっても、機械的強度の高いサクラ色系ジルコニア焼結体が得られる。特に、比表面積が、5m/g以上20m/g以下であり、平均粒子径が0.3μm以上0.8μm以下であるため高い成型密度をもつ成型体が得られやすく、焼結性及び焼結密度の低下が抑制されやすい。また、エルビアと、アルミナと、酸化亜鉛と、シリカとを前記数値範囲内で含むため、明るいながらも発色が鮮やかであり、色味のバランスがよい。
このように、本発明に係るサクラ色系ジルコニア粉末は、イットリアと、エルビアと、アルミナと、酸化亜鉛と、シリカとを、前記数値範囲内で含むため、低い成型圧であっても高強度であり、明るいながらも発色が鮮やかであり、色味のバランスがよいサクラ色系ジルコニア焼結体が得られる。このことは、実施例からも明らかである。
【0022】
前記構成においては、前記イットリアの含有量が、前記ジルコニアに対して0.9mol%以上1.3mol%以下であり、
前記エルビアの含有量が、前記ジルコニアに対して0.9mol%以上1.3mol%以下であり、
前記アルミナの含有量が、前記ジルコニア、前記イットリア、及び、前記エルビアの合計を100質量%としたときに、0.2質量%超え0.4質量%以下であり、
前記比表面積が、5m/g以上15m/g以下であることが好ましい。
【0023】
前記構成においては、前記イットリアの含有量が、前記ジルコニアに対して1.0mol%以上1.2mol%以下であり、
前記エルビアの含有量が、前記ジルコニアに対して1.0mol%以上1.2mol%であり、
前記アルミナの含有量が、前記ジルコニア、前記イットリア、及び、前記エルビアの合計を100質量%としたときに、0.23質量%以上0.3質量%以下であり、
平均粒子径が0.3μm以上0.7μm以下であることが好ましい。
【0024】
前記構成においては、成型圧0.8t/cmで成型した後、大気圧下、1350℃2時間の条件で焼結した焼結体の3点曲げ強度が1100MPa以上となることが好ましい。
【0025】
成型圧0.8t/cmで成型した後、大気圧下、1350℃2時間の条件で焼結した焼結体の3点曲げ強度が1100MPa以上であると、当該サクラ色系ジルコニア粉末を用いて製造されるサクラ色系ジルコニア焼結体は、低圧で成型されたとしても高強度なものとなる。
【0026】
また、本発明に係るサクラ色系ジルコニア粉末の製造方法は、
前記サクラ色系ジルコニア粉末の製造方法であって、
塩基性硫酸ジルコニウムとイットリアゾル溶液とエルビアゾル溶液とを混合する工程Aと、
前記工程Aの後、混合液に塩基を混合する工程Bとを有することを特徴とする。
【0027】
前記構成によれば、前記工程Aにおいて、塩基性硫酸ジルコニウムとイットリアゾル溶液とエルビアゾル溶液とを混合するため、元素の分散状態が均一となるように制御することができる。そして、このようにして得られるサクラ色系ジルコニア粉末を用いれば、低い成型圧であっても、機械的強度の高いサクラ色系ジルコニア焼結体を得ることができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、低い成型圧で製造されたとしても高強度であり、明るいながらも発色が鮮やかであり、色味のバランスがよいサクラ色系ジルコニア焼結体を提供することができる。また、当該サクラ色系ジルコニア焼結体を容易に製造することを可能とするサクラ色系ジルコニア粉末を提供することができる。また、当該サクラ色系ジルコニア粉末の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態について説明する。ただし、本発明はこれらの実施形態のみに限定されるものではない。なお、本明細書において、ジルコニアとは一般的なものであり、ハフニアを含めた10質量%以下の不純物金属化合物を含むものである。また、本明細書において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0030】
[サクラ色系ジルコニア粉末]
本実施形態に係るサクラ色系ジルコニア粉末(以下、ジルコニア粉末ともいう)は、
イットリアを0.7mol%以上1.5mol%以下の範囲内で含み、且つ、エルビアを0.8mol%以上1.5mol%以下の範囲内で含むジルコニアと、
アルミナと、
酸化亜鉛と、
シリカとを含み、
前記アルミナの含有量が、前記ジルコニア、前記イットリア、及び、前記エルビアの合計を100質量%としたときに、0.1質量%以上0.4質量%以下であり、
前記酸化亜鉛の含有量が、前記ジルコニア、前記イットリア、及び、前記エルビアの合計を100質量%としたときに、0.2質量%以上0.3質量%以下であり、
前記シリカの含有量が、前記ジルコニア、前記イットリア、及び、前記エルビアの合計を100質量%としたときに、0.05質量%以上0.1質量%以下であり、
比表面積が、5m/g以上20m/g以下であり、
平均粒子径が0.3μm以上0.8μm以下である。
【0031】
前記ジルコニア粉末は、ジルコニアを含有する。前記ジルコニアの含有量は、前記ジルコニア粉末を100質量%としたとき、好ましくは90質量%以上、より好ましくは92質量%以上、さらに好ましくは94質量%以上、特に好ましくは94.3質量%以上である。前記ジルコニアの含有量の上限値は、特に制限されないが、前記ジルコニアの含有量は、好ましくは97.5質量%以下、より好ましくは97.2質量%以下、さらに好ましくは97質量%以下、特に好ましくは96.9質量%以下である。
【0032】
前記ジルコニア粉末は、前記ジルコニアの全mol量に対して0.7mol%以上1.5mol%以下のイットリアを含む。イットリアは、安定化剤として機能する。イットリアはジルコニアと固溶体を形成して存在してもよく、混合物として存在してもよい。焼結時の元素分散性の観点から、イットリアはジルコニアと固溶体を形成して存在することが好ましい。つまり、イットリアは、イットリア安定化ジルコニアの形態で存在することが好ましい。
【0033】
前記イットリアの含有量は、0.8mol%以上が好ましく、0.85mol%以上がより好ましく、0.9mol%以上がさらに好ましく、0.95mol%以上が特に好ましく、0.98mol%以上が特別に好ましく、1.0mol%以上が格別に好ましい。前記イットリアの含有量は1.4mol%以下が好ましく、1.3mol%以下がより好ましく、1.2mol%以下がさらに好ましく、1.1mol%以下が特に好ましく、1.05mol%以下が特別に好ましい。
【0034】
前記ジルコニア粉末は、前記ジルコニアの全mol量に対して0.8mol%以上1.5mol%以下のエルビアを含む。エルビアは、サクラ色のための着色剤として機能するとともに安定化剤としても機能する。エルビアはジルコニアと固溶体を形成して存在してもよく、混合物として存在してもよい。焼結時の元素分散性の観点から、エルビアはジルコニアと固溶体を形成して存在することが好ましい。つまり、エルビアは、エルビア安定化ジルコニアの形態で存在することが好ましい。
【0035】
前記ジルコニア粉末は、なかでも、イットリア及びエルビアがジルコニアと固溶体を形成して存在することが好ましい。つまり、イットリア及びエルビアは、イットリア及びエルビア安定化ジルコニアの形態で存在することが好ましい。
【0036】
前記エルビアの含有量は、0.9mol%以上が好ましく、0.95mol%以上がより好ましく、1.0mol%以上がさらに好ましく、1.05mol%以上が特に好ましく、1.07mol%以上が特別に好ましい。前記エルビアの含有量は1.4mol%以下が好ましく、1.3mol%以下がより好ましく、1.2mol%以下がさらに好ましく、1.15mol%以下が特に好ましく、1.13mol%以下が特別に好ましい。
【0037】
前記ジルコニア粉末は、イットリアの一部の代替として他の成分が含まれていてもよい。他の成分としては、カルシア、マグネシアなどのアルカリ土類金属酸化物や、セリアなどの希土類酸化物が例示される。
【0038】
前記ジルコニア粉末は、酸化アルミニウム(アルミナ)を含む。前記アルミナの含有量は、前記ジルコニア、前記イットリア、及び、前記エルビアの合計を100質量%としたときに、0.1質量%以上0.4質量%以下である。アルミナを前記数値範囲内で含有量するため、焼結助剤として機能する。なお、焼結助剤としてアルミナのみの添加では、焼結温度が低いと(例えば、1350℃程度)充分に焼結させることができない。そこで、本実施形態では、比較的低温での焼結であっても、充分な焼結体を得るために、アルミナとともに、シリカと酸化亜鉛とを添加している。
【0039】
前記アルミナの含有量は、0.12質量%以上が好ましく、0.15質量%以上がより好ましく、0.20質量%越えがさらに好ましく、0.22質量%以上が特に好ましく、0.23質量%以上が特別に好ましく、0.24質量%以上が格別に好ましい。前記アルミナの含有量は、0.35質量%以下が好ましく、0.3質量%以下がより好ましく、0.28質量%以下がさらに好ましく、0.27質量%以下が特に好ましく、0.26質量%以下が特別に好ましく、0.25質量%以下が格別に好ましい。
【0040】
アルミナの形態は、特に限定されないが、ジルコニア粉末の調製時のハンドリング性や不純物残存を低減するという観点から、アルミナ粉末が好ましい。
【0041】
アルミナ粉末を添加する場合、その一次粒子の平均粒子径に特に制限はないが、0.02~0.4μmとすることができ、より好ましくは0.05~0.3μm、さらに好ましくは0.07~0.2μmである。アルミナの一次粒子の平均粒子径は、レーザー回折式粒子径分布測定装置「SALD-2300」(島津製作所社製)を用いて測定した値である。
【0042】
前記ジルコニア粉末は、酸化亜鉛を含む。前記酸化亜鉛の含有量は、前記ジルコニア、前記イットリア、及び、前記エルビアの合計を100質量%としたときに、0.2質量%以上0.3質量%以下である。酸化亜鉛は、シリカとともに添加されることにより、焼結助剤として機能するとともに、白さを上げて明度を向上させる。シリカを添加せずに酸化亜鉛を添加しても、相対焼結密度は向上しない傾向となる。詳細な理由は不明であるが、本発明者は、シリカと酸化亜鉛とが化合物をつくり、焼結助剤として働くと推察している。つまり、シリカと酸化亜鉛との両方が添加されると焼結助剤として好適に機能し、焼結を促進させながらも白さを上げて明度を向上させることができる。本実施形態に係るジルコニア粉末では、アルミナに加えてさらに、シリカと酸化亜鉛とを添加するため、1350℃と低い焼結温度でありながらも焼結を促進させ、且つ、白さも上げて明度を向上させることができる。なお、前記ジルコニア粉末は、1350℃と低い焼結温度でも充分に焼結を促進できるのであり、当然、前記ジルコニア粉末を用いて、1350℃以上の温度で焼結させて焼結体を得てもよい。
【0043】
前記酸化亜鉛の含有量は、0.12質量%以上が好ましく、0.15質量%以上がより好ましく、0.20質量%以上がさらに好ましく、0.22質量%以上が特に好ましく、0.24質量%以上が特別にく好ましい。前記酸化亜鉛の含有量は、0.35質量%以下が好ましく、0.3質量%以下がより好ましく、0.28質量%以下がさらに好ましく、0.27質量%以下が特に好ましく、0.26質量%以下が特別に好ましく、0.25質量%以下が格別に好ましい。
【0044】
酸化亜鉛の形態は、特に限定されないが、ジルコニア粉末の調製時のハンドリング性や不純物残存を低減するという観点から、酸化亜鉛粉末が好ましい。
【0045】
酸化亜鉛粉末を添加する場合、その一次粒子の平均粒子径に特に制限はないが、0.02~20μmとすることができ、より好ましくは0.1~10μm、さらに好ましくは0.05~7μmである。焼結性や焼結体の色ムラの観点から、ジルコニアと同程度の粒子径とすることが好ましい。酸化亜鉛の一次粒子の平均粒子径は、レーザー回折式粒子径分布測定装置「SALD-2300」(島津製作所社製)を用いて測定した値である。
【0046】
前記ジルコニア粉末は、シリカを含む。前記シリカの含有量は、前記ジルコニア、前記イットリア、及び、前記エルビアの合計を100質量%としたときに、0.05質量%以上0.1質量%以下である。シリカは、酸化亜鉛とともに添加されることにより、焼結助剤として機能するとともに、白さを上げて明度を向上させる。酸化亜鉛を添加せずにシリカを添加しても、相対焼結密度は向上しない傾向となる。上述したように、シリカと酸化亜鉛との両方が添加されると焼結助剤として好適に機能し、焼結を促進させながらも白さを上げて明度を向上させることができる。
【0047】
前記シリカの含有量は、0.055質量%以上が好ましく、0.06質量%以上がより好ましく、0.065質量%以上がさらに好ましく、0.067質量%以上が特に好ましい。前記シリカの含有量は、0.09質量%以下が好ましく、0.08質量%以下がより好ましく、0.075質量%以下がさらに好ましく、0.073質量%以下が特に好ましい。
【0048】
シリカの形態は、特に限定されないが、ジルコニア粉末の調製時のハンドリング性や不純物残存を低減するという観点から、シリカ粉末が好ましい。
【0049】
シリカ粉末を添加する場合、その一次粒子の平均粒子径に特に制限はないが、0.02~20μmとすることができ、より好ましくは0.1~10μm、さらに好ましくは0.05~7μmである。焼結性や焼結体の色ムラの観点から、ジルコニアと同程度の粒子径とすることが好ましい。シリカの一次粒子の平均粒子径は、レーザー回折式粒子径分布測定装置「SALD-2300」(島津製作所社製)を用いて測定した値である。
【0050】
前記ジルコニア粉末の平均粒子径は、0.3μm以上0.8μm以下である。ジルコニア粉末の平均粒子径が上記範囲であるため高い成型密度をもつ成型体が得られやすく、焼結性及び焼結密度の低下が抑制されやすい。また、ジルコニア粉末の平均粒子径が上記範囲であるため、粉砕工程の粉砕時間を長くする必要もない。また、ジルコニア粉末の平均粒子径が0.8μm以下であり、粉末中の単斜晶相が多くなり過ぎないので、高い焼結密度を有する焼結体が得られやすい。前記ジルコニア粉末の平均粒子径は、好ましくは0.35μm以上、より好ましくは0.4μm以上である。また、前記ジルコニア粉末の平均粒子径は、好ましくは0.75μm以下、より好ましくは0.7μm以下である。
ジルコニア粉末の平均粒子径は、レーザー回折式粒子径分布測定装置「SALD-2300」(島津製作所社製)を用いて測定した値である。より詳細には、実施例に記載の方法による。なお、本明細書に記載の平均粒子径は体積基準で測定される値である。
【0051】
前記ジルコニア粉末の比表面積は、5m/g以上20m/g以下である。前記ジルコニア粉末の比表面積が5m/g以上20m/g以下であるため、高い成型密度をもつ成型体が得られやすく、焼結性及び焼結密度の低下が抑制されやすい。前記ジルコニア粉末の比表面積は、好ましくは6m/g以上、より好ましくは6.5m/g以上、さらに好ましくは7m/g以上である。前記ジルコニア粉末の比表面積は、好ましくは18m/g以下、より好ましくは15m/g以下、さらに好ましくは13m/g以下である。
本明細書において、ジルコニア粉末の比表面積は、BET比表面積のことを指し、比表面積計「マックソーブ」、マウンテック製を用いて測定した値である。
【0052】
前記ジルコニア粉末は、成型圧0.8t/cmで成型した後、大気圧下、1350℃2時間の条件で焼結した焼結体の3点曲げ強度が1100MPa以上であることが好ましく、1150MPa以上であることがより好ましく、1200MPa以上であることがさらに好ましく、1350MPa以上であることが特に好ましい。また、前記3点曲げ強度は、大きいほど好ましいが、例えば、1500MPa以下、1450MPa以下、1400MPa以下等とすることができる。前記3点曲げ強度が1100MPa以上であると、当該ジルコニア粉末を用いて製造される焼結体は、低圧で成型されたとしても高強度なものとなる。
前記3点曲げ強度の測定方法の詳細は、実施例に記載の方法による。
なお、「成型圧0.8t/cmで成型した後、大気圧下、1350℃2時間の条件で焼結」との条件は、低圧成型後に焼結されるという製造条件を想定して、ジルコニア粉末の物性を評価するための成型、焼結条件であり、当該ジルコニア粉末を用いてジルコニア焼結体を製造する場合に、この条件で成型、焼結することを意味するものではない。
【0053】
以上、本実施形態に係るジルコニア粉末によれば、イットリアと、エルビアと、アルミナと、酸化亜鉛とシリカとを前記数値範囲内で含むため、低い成型圧であっても、機械的強度の高いサクラ色系ジルコニア焼結体が得られる。特に、比表面積が、5m/g以上20m/g以下であり、平均粒子径が0.3μm以上0.8μm以下であるため高い成型密度をもつ成型体が得られやすく、焼結性及び焼結密度の低下が抑制されやすい。また、エルビアと、アルミナと、酸化亜鉛と、シリカとを前記数値範囲内で含むため、明るいながらも発色が鮮やかであり、色味のバランスがよい。
このように、本実施形態に係るジルコニア粉末は、イットリアと、エルビアと、アルミナと、酸化亜鉛と、シリカとを、前記数値範囲内で含むため、低い成型圧であっても高強度であり、明るいながらも発色が鮮やかであり、色味のバランスがよいサクラ色系ジルコニア焼結体が得られる。このことは、実施例からも明らかである。
【0054】
以上、本実施形態に係るジルコニア粉末について説明した。
【0055】
[サクラ色系ジルコニア粉末の製造方法]
以下、サクラ色系ジルコニア粉末の製造方法の一例について説明する。ただし、サクラ色系ジルコニア粉末の製造方法は、以下の例示に限定されない。
【0056】
本実施形態に係るサクラ色系ジルコニア粉末の製造方法は、
塩基性硫酸ジルコニウムとイットリアゾル溶液とエルビアゾル溶液とを混合する工程Aと、
前記工程Aの後、塩基を混合する工程Bとを有する。
【0057】
本実施形態に係るサクラ色系ジルコニア粉末の製造方法においては、まず、塩基性硫酸ジルコニウムとイットリアゾル溶液とエルビアゾル溶液とを混合する(工程A)。前記工程Aにおいて、塩基性硫酸ジルコニウムとイットリアゾル溶液とエルビアゾル溶液とを混合するため、元素の分散状態が均一となるように制御することができる。
【0058】
前記塩基性硫酸ジルコニウムとしては、特に制限されず、例えばZrOSO・ZrO、5ZrO・3SO、7ZrO・3SO等で示される化合物の水和物が挙げられる。これらは1種又は2種以上で使用することができる。
一般に、これらの塩基性塩は、溶解度の小さい、光学的測定による粒径が数十オングストロームの微粒子の凝集体(すなわち、0.1~十数μmの粒径を有する凝集粒子)として得られるものであり、公知の製法で得ることができる。また、市販品を用いることもできる。例えば、「Gmelin Handbuch,TEIL 42;Zirkonium(ISBN3-540-93242-9,334-353,1958)」等に記載されたものも使用できる。
【0059】
イットリアの原料としては、本実施形態のように、イットリアゾルが好適である。イットリアゾルとしては、公知の製法で得られたもの又は市販品を用いることができる。
【0060】
イットリアゾルの平均粒子径としては、10~150nmが好ましく、15~120nmがより好ましく、20~100nmがさらに好ましく、30~80nmが特に好ましい。イットリアゾルの平均粒子径が10nm以上であると、イットリアのジルコニアへの分散の程度が好適となる。イットリアゾルの平均粒子径は、ゼータサイザーナノZS(スペクトリス(株)製)により求めた値である。
【0061】
前記イットリアゾル溶液の濃度は、特に限定されないが、1~30質量%が好ましく、3~25質量%がより好ましい。イットリアゾルの製法としては、例えば、特許4518844号などに開示された方法が挙げられる。
【0062】
サクラ色系ジルコニア粉末に対するイットリアゾルの添加量は、イットリア換算で0.07mol%以上1.5mol%以下である。イットリアゾルの添加量は、イットリア換算で0.8mol%以上が好ましく、0.85mol%以上がより好ましく、0.9mol%以上がさらに好ましく、0.95mol%以上が特に好ましく、0.98mol%以上が特別に好ましい。イットリアゾルの添加量は、イットリア換算で1.5mol%以下が好ましく、1.4mol%以下がより好ましく、1.3mol%以下がさらに好ましく、1.2mol%以下が特に好ましく、1.1mol%以下が特別に好ましく、1.05mol%以下が格別に好ましい。
【0063】
エルビアの原料としては、本実施形態のように、エルビアゾルが好適である。エルビアゾルとしては、公知の製法で得られたもの又は市販品を用いることができる。
【0064】
エルビアゾルの平均粒子径としては、10~150nmが好ましく、15~120nmがより好ましく、20~100nmがさらに好ましく、30~80nmが特に好ましい。エルビアゾルの平均粒子径が10nm以上であると、エルビアのジルコニアへの分散の程度が好適となる。エルビアゾルの平均粒子径は、ゼータサイザーナノZS(スペクトリス(株)製)により求めた値である。
【0065】
前記エルビアゾル溶液の濃度は、特に限定されないが、1~30質量%が好ましく、3~25質量%がよりに好ましい。エルビアゾルの製法としては、例えば、特許4488831号などに開示された方法が挙げられる。
【0066】
サクラ色系ジルコニア粉末に対するエルビアゾルの添加量は、エルビア換算で0.8mol%以上1.5mol%以下である。エルビアゾルの添加量は、エルビア換算で0.9mol%以上が好ましく、0.95mol%以上がより好ましく、1.0mol%以上がさらに好ましく、1.05mol%以上が特に好ましく、1.07mol%以上が特別に好ましい。エルビアゾルの添加量は、エルビア換算で1.5mol%以下が好ましく、1.4mol%以下がより好ましく、1.3mol%以下がさらに好ましく、1.2mol%以下が特に好ましく、1.15mol%以下が特別に好ましく、1.13mol%以下が格別に好ましい。
【0067】
塩基性硫酸ジルコニウムとイットリアゾル溶液とエルビアゾル溶液とを混合する際の溶媒としては、塩基性硫酸ジルコニウム、イットリアゾル、エルビアゾルを分散できるものであれば特に制限されないが、通常は極性溶媒である水(イオン交換水など)、アルコール類(例えば、メタノール、エタノール等)等が使用できる。コスト低減の観点から、溶媒は水が最も好ましい。塩基性硫酸ジルコニウムとイットリアゾル溶液とエルビアゾル溶液とを混合した後の混合液の濃度は、複合酸化物の組成比率等によって適宜変更できるが、通常1~25質量%程度、好ましくは10~20質量%とすればよい。
【0068】
塩基性硫酸ジルコニウムとイットリアゾル溶液とエルビアゾル溶液との配合割合は、前記の組成比率となるように、溶液の濃度等を適宜調節して決定することができる。
【0069】
前記混合液の温度は、通常80℃以下、好ましくは20~50℃とすればよい。
【0070】
塩基性硫酸ジルコニウムへのイットリアゾル溶液とエルビアゾル溶液との混合の順序は、特に限定されないが、塩基性硫酸ジルコニウムに、イットリアゾル溶液、エルビアゾル溶液のいずれかを混合し、その後、もう一方を混合することが好ましい。また、塩基性硫酸ジルコニウムに、イットリアゾル溶液とエルビアゾル溶液とを同時に混合してもよい。
【0071】
混合方法としては、塩基性硫酸ジルコニウムに対してイットリアゾル溶液、エルビアゾル溶液を少しずつ滴下することが好ましい。前記滴下時間は、比較的長時間とすることが好ましい。前記滴下時間は、具体的には、好ましくは1時間~10時間、より好ましくは2時間~5時間、さらに好ましくは2.5時間~4時間である。前記滴下時間とは、滴下を開始してから滴下が終了するまでの期間をいう。なお、前記滴下時間は、イットリアゾル溶液、エルビアゾル溶液のいずれか一方を滴下する時間である。つまり、塩基性硫酸ジルコニウムにイットリアゾル溶液、エルビアゾル溶液のいずれかを混合し、その後、もう一方を混合する場合、工程Aが完了するまでの時間は、イットリアゾル溶液の滴下時間とエルビアゾル溶液の滴下時間との合計となる。前記混合は、滴下に加えて、さらに攪拌を行うことが好ましい。滴下時間を1時間以上とすれば、イットリア及びエルビアの偏析をより抑制することができる。また、滴下時間を10時間以下とすれば、製造コストを抑制することができる。
【0072】
<工程B>
前記工程Aの後、前記混合液に塩基を混合する(工程B)。これにより、沈殿物(水酸化ジルコニウム)が生成される。
【0073】
前記塩基としては、特に制限されず、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム、アンモニア等の公知のアルカリ剤を用いることができる。前記塩基としては、特に水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の強アルカリを用いることが好ましい。また、前記塩基は、水溶液として混合することが好ましい。この場合、水溶液の濃度は、pH調整が可能な限り特に限定されないが、通常5~50質量%程度、好ましくは20~25質量%とすればよい。
【0074】
塩基を混合した後、必要に応じて、固液分離し、得られた水酸化ジルコニウムを水洗してもよい。固液分離の方法は、遠心分離等の一般的な方法に従えばよい。水洗処理した水酸化ジルコニウムを水等の分散媒に再分散し、水酸化ジルコニウムスラリーとすることができる。
【0075】
その後、前記水酸化ジルコニウムを1000℃~1200℃の温度雰囲気(焼成温度)で加熱する。この熱処理によって水酸化ジルコニウムが焼成され、ジルコニアが形成される。必要に応じて、その後、粉砕処理、分級処理等を実施してもよい。焼成温度が上記範囲であることで、粉砕、成型及び焼結の制御が容易となる。
【0076】
前記焼成温度は、好ましくは1040~1180℃である。焼成時の雰囲気は、大気中又は酸化性雰囲気中とすることができる。
【0077】
常温(25℃)から焼成温度までの昇温速度は、特に制限はないが、50~200℃/時間とすることができ、100~150℃/時間がより好ましい。
【0078】
前記粉砕処理における粉砕方法については、特に限定されず、例えば、遊星ミル、ボールミル、ジェットミル等の市販の粉砕機で粉砕する方法が挙げられる。
【0079】
次に、得られたジルコニアに、アルミナと酸化亜鉛とシリカとを混合する。ジルコニアとアルミナと酸化亜鉛とシリカとの混合方法は特に限定されない。ジルコニアと、アルミナと、酸化亜鉛と、シリカとを同時に混合してもよく、ジルコニアとアルミナとを混合してから、酸化亜鉛とシリカとを混合してもよい。なお、アルミナ粉末を用いる場合、アルミナは、焼成前の水酸化ジルコニウムスラリーに添加してもよい。
【0080】
前記アルミナの混合量は、前記ジルコニア、前記イットリア、及び、前記エルビアの合計を100質量%としたときに、0.1質量%以上0.4質量%以下とし、前記酸化亜鉛の含有量は、前記ジルコニア、前記イットリア、及び、前記エルビアの合計を100質量%としたときに、0.2質量%以上0.3質量%以下とし、前記シリカの含有量は、前記ジルコニア、前記イットリア、及び、前記エルビアの合計を100質量%としたときに、0.05質量%以上0.1質量%以下とする。
【0081】
前記アルミナの混合量は、前記ジルコニア、前記イットリア、及び、前記エルビアの合計を100質量%としたときに、0.12質量%以上が好ましく、0.15質量%以上がより好ましく、0.20質量%越えがさらに好ましく、0.22質量%以上が特に好ましく、0.23質量%以上が特別に好ましく、0.24質量%以上が格別に好ましい。前記アルミナの混合量は、前記ジルコニア、前記イットリア、及び、前記エルビアの合計を100質量%としたときに、0.35質量%以下が好ましく、0.3質量%以下がより好ましく、0.28質量%以下がさらに好ましく、0.27質量%以下が特に好ましく、0.26質量%以下が特別に好ましく、0.25質量%以下が格別に好ましい。
【0082】
前記酸化亜鉛の混合量は、前記ジルコニア、前記イットリア、及び、前記エルビアの合計を100質量%としたときに、0.21質量%以上が好ましく、0.22質量%以上がより好ましく、0.23質量%以上がさらに好ましく、0.24質量%以上が特に好ましく、0.245質量%以上が特別に好ましい。前記酸化亜鉛の混合量は、前記ジルコニア、前記イットリア、及び、前記エルビアの合計を100質量%としたときに、0.35質量%以下が好ましく、0.3質量%以下がより好ましく、0.28質量%以下がさらに好ましく、0.27質量%以下が特に好ましく、0.26質量%以下が特別に好ましく、0.25質量%以下が格別に好ましい。
【0083】
前記シリカの混合量は、前記ジルコニア、前記イットリア、及び、前記エルビアの合計を100質量%としたときに、0.055質量%以上が好ましく、0.06質量%以上がより好ましく、0.065質量%以上がさらに好ましく、0.067質量%以上が特に好ましい。前記シリカの混合量は、前記ジルコニア、前記イットリア、及び、前記エルビアの合計を100質量%としたときに、0.1質量%以下が好ましく、0.09質量%以下がより好ましく、0.08質量%以下がさらに好ましく、0.075質量%以下が特に好ましく、0.073質量%以下が特別に好ましい。
【0084】
前記混合には市販の装置を用いることができる。例えば、V型混合機、各種ブレンダーなどを用いることができる。混合後は、必要に応じてスプレードライ処理等により顆粒粉体としてもよい。
【0085】
本実施形態に係るサクラ色系ジルコニア粉末の製造方法では、必要に応じて、得られたジルコニア粉末を粉砕してスラリー化してもよい。その際、成型性を向上させるためにバインダーを添加することができる。スラリー化しない場合は、バインダーとジルコニア粉末とを混練機で均一に混合してもよい。
【0086】
前記バインダーは、有機バインダーが好ましい。有機バインダーは、酸化雰囲気の加熱炉にて成型体から除去しやすく、脱脂体を得ることができるので、最終的に焼結体中に不純物が残存しにくくなる。
【0087】
前記有機バインダーとしては、アルコールが挙げられる。また、前記有機バインダーとしては、アルコール、水、脂肪族ケトン及び芳香族炭化水素からなる群より選ばれる2種以上の混合液に対して溶解するものが挙げられる。具体的には、例えば、ポリエチレングリコール、グリコール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリビニルブチラール、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルエチルエーテル及びプロピオン酸ビニルからなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。前記有機バインダーは、アルコール、又は、前記混合液に対して不溶な1種以上の熱可塑性樹脂を含んでもよい。
【0088】
前記有機バインダー等を混合した後、公知の方法を適用して乾燥、粉砕等の処理をすることにより、目的とするジルコニア粉末を得ることができる。
【0089】
以上、本実施形態に係るジルコニア粉末の製造方法について説明した。
【0090】
[サクラ色系ジルコニア焼結体]
本実施形態に係るサクラ色系ジルコニア焼結体(以下、ジルコニア焼結体ともいう)は、
ジルコニアと、イットリアと、エルビアと、アルミナと、酸化亜鉛と、シリカとを含み、
前記イットリアの含有量が、前記ジルコニアに対して0.7mol%以上1.5mol%以下であり、
前記エルビアの含有量が、前記ジルコニアに対して0.7mol%以上1.5mol%以下であり、
前記アルミナの含有量が、前記ジルコニア、前記イットリア、及び、前記エルビアの合計を100質量%としたときに、0.1質量%以上0.4質量%以下であり、
前記酸化亜鉛の含有量が、前記ジルコニア、前記イットリア、及び、前記エルビアの合計を100質量%としたときに、0.2質量%以上0.3質量%以下であり、
前記シリカの含有量が、前記ジルコニア、前記イットリア、及び、前記エルビアの合計を100質量%としたときに、0.05質量%以上0.1質量%以下であり、
相対焼結密度が99.5%以上である。
【0091】
前記ジルコニア焼結体は、ジルコニアを含有する。前記ジルコニアの含有量は、前記ジルコニア焼結体を100質量%としたとき、好ましく90質量%以上、より好ましくは92質量%以上、さらに好ましくは94質量%以上、特に好ましくは94.3質量%以上である。前記ジルコニアの含有量の上限値は、特に制限されないが、前記ジルコニアの含有量は、好ましくは97.5質量%以下、より好ましくは97.2質量%以下、さらに好ましくは97質量%以下、特に好ましくは96.9質量%以下である。
【0092】
前記ジルコニア焼結体は、前記ジルコニアの全mol量に対して0.7mol%以上1.5mol%以下のイットリアを含む。
【0093】
前記イットリアの含有量は、0.8mol%以上が好ましく、0.85mol%以上がより好ましく、0.9mol%以上がさらに好ましく、0.95mol%以上が特に好ましく、0.98mol%以上が特別に好ましく、1.0mol%以上が格別に好ましい。前記イットリアの含有量は1.4mol%以下が好ましく、1.3mol%以下がより好ましく、1.2mol%以下がさらに好ましく、1.1mol%以下が特に好ましく、1.05mol%以下が特別に好ましい。
【0094】
前記ジルコニア焼結体は、前記ジルコニアの全mol量に対して0.8mol%以上1.5mol%以下のエルビアを含む。
【0095】
前記エルビアの含有量は、0.9mol%以上が好ましく、0.95mol%以上がより好ましく、1.0mol%以上がさらに好ましく、1.05mol%以上が特に好ましく、1.07mol%以上が特別に好ましい。前記エルビアの含有量は1.4mol%以下が好ましく、1.3mol%以下がより好ましく、1.2mol%以下がさらに好ましく、1.15mol%以下が特に好ましく、1.13mol%以下が特別に好ましい。
【0096】
前記ジルコニア焼結体は、酸化アルミニウム(アルミナ)を含む。前記アルミナの含有量は、前記ジルコニア、前記イットリア、及び、前記エルビアの合計を100質量%としたときに、0.1質量%以上0.4質量%以下である。
【0097】
前記アルミナの含有量は、0.12質量%以上が好ましく、0.15質量%以上がより好ましく、0.20質量%越えがさらに好ましく、0.22質量%以上が特に好ましく、0.23質量%以上が特別に好ましく、0.24質量%以上が格別に好ましい。前記アルミナの含有量は、0.35質量%以下が好ましく、0.3質量%以下がより好ましく、0.28質量%以下がさらに好ましく、0.27質量%以下が特に好ましく、0.26質量%以下が特別に好ましく、0.25質量%以下が格別に好ましい。
【0098】
前記ジルコニア焼結体は、酸化亜鉛を含む。前記酸化亜鉛の含有量は、前記ジルコニア、前記イットリア、及び、前記エルビアの合計を100質量%としたときに、0.2質量%以上0.3質量%以下である。
【0099】
前記酸化亜鉛の含有量は、0.12質量%以上が好ましく、0.15質量%以上がより好ましく、0.20質量%以上がさらに好ましく、0.22質量%以上が特に好ましく、0.24質量%以上が特別に好ましい。前記酸化亜鉛の含有量は、0.35質量%以下が好ましく、0.3質量%以下がより好ましく、0.28質量%以下がさらに好ましく、0.27質量%以下が特に好ましく、0.26質量%以下が特別に好ましく、0.25質量%以下が格別に好ましい。
【0100】
前記ジルコニア焼結体は、シリカを含む。前記シリカの含有量は、前記ジルコニア、前記イットリア、及び、前記エルビアの合計を100質量%としたときに、0.05質量%以上0.1質量%以下である。
【0101】
前記シリカの含有量は、0.055質量%以上が好ましく、0.06質量%以上がより好ましく、0.065質量%以上がさらに好ましく、0.067質量%以上が特に好ましい。前記シリカの含有量は、0.09質量%以下が好ましく、0.08質量%以下がより好ましく、0.075質量%以下がさらに好ましく、0.073質量%以下が特に好ましい。
【0102】
前記ジルコニア焼結体は、相対焼結密度が99.5%以上である。前記相対焼結密度は、99.6%以上であることがより好ましく99.7%以上であることがさらに好ましく、99.8%以上が特に好ましい。前記相対焼結密度が99.5%以上であるため、当該ジルコニア焼結体は、高強度である。
【0103】
前記相対焼結密度は、下記式(1)で表される相対焼結密度のことをいう。
相対焼結密度(%)=(焼結密度/理論焼結密度)×100・・・(1)
ここで、理論焼結密度(ρとする)は、下記式(2-1)によって算出される値である。ここでErのイオン半径がYのそれに近い等の近似を行っている。
ρ=100/[(Y/3.987)+(100-Y)/ρz]・・・(2-1)
ただし、ρzは、下記式(2-2)によって算出される値である。
ρz=[124.25(100-X)+[安定化剤の分子量]×X]/[150.5(100+X)AC]・・・(2-2)
ここで、前記安定化剤の分子量は、前記安定化剤がYで225.81、Erで382.52を用い、それぞれの混合割合から平均分子量を算出し、これを前記安定化剤の分子量とする。
また、X及びYはそれぞれ、安定化剤濃度(mol%)及びアルミナ濃度(質量%)である。また、A及びCはそれぞれ、下記式(2-3)及び(2-4)によって算出される値である。
A=0.5080+0.06980X/(100+X)・・・(2-3)
C=0.5195-0.06180X/(100+X)・・・(2-4)
式(1)において、理論焼結密度は、粉末の組成によって変動する。例えば、イットリア含有ジルコニアの理論焼結密度は、イットリア含有量が1mol%であり且つエルビア含有量が1mol%の場合、6.193g/cmである(Al=0質量%の場合)。酸化亜鉛、シリカを添加する場合においても、アルミナ添加と同様に計算することにより理論密度を算出することができる。焼結密度については、アルキメデス法にて計測することができる。より詳細には実施例に記載の方法による。
【0104】
前記ジルコニア焼結体は、L表色系で規定されるLが75超え85以下であることが好ましい。前記Lは、76以上がより好ましく、77以上がさらに好ましく、78以上が特に好ましく、79以上が特別に好ましい。前記Lは、4以下がより好ましく、83以下がさらに好ましく、82以下が特に好ましく、81以下が特別に好ましい。
【0105】
前記ジルコニア焼結体は、L表色系で規定されるaが10超え20以下であることが好ましい。前記aは、11以上がより好ましく、12以上がさらに好ましく、13以上が特に好ましく、14以上が特別に好ましい。前記aは、9以下がより好ましく、18以下がさらに好ましく、17以下が特に好ましく、16以下が特別に好ましい。
【0106】
前記ジルコニア焼結体は、L表色系で規定されるbが-1以上5以下であることが好ましい。前記bは、0.5以上がより好ましく、1以上がさらに好ましく、1.5以上が特に好ましく、2以上が特別に好ましい。前記bは、以下がより好ましく、3.5以下がさらに好ましく、3以下が特に好ましく、2.5以下が特別に好ましい。
【0107】
前記L表色系で規定されるL、a、bが前記数値範囲内であると、明るいながらも発色がより鮮やかであり、色味のバランスがよりよいサクラ色系となる。前記Lは、ジルコニア焼結体を鏡面研磨した後、測定する。より詳細な測定方法は実施例に記載の方法による。なお、L表色系は、国際照明委員会(CIE)が1976年に推奨した色空間であり、CIE1976(L)表色系と称される色空間のことを意味している。また、L表色系は、日本工業規格では、JIS Z 8729に規定されている。本明細書において前記L、a、bの値(色調の測定)は、ジルコニア焼結体を、厚さ5mmに調整し且つ粒径3μm以下のダイヤモンド砥粒を含むダイアモンドペーストを用いて鏡面研磨した後の測定値をいう。
【0108】
前記ジルコニア焼結体は、3点曲げ強度が1100MPa以上であることが好ましく、1150MPa以上であることがより好ましく、1200MPa以上であることがさらに好ましく、1350MPa以上であることが特に好ましい。また、前記3点曲げ強度は、大きいほど好ましいが、例えば、1500MPa以下、1450MPa以下、1400MPa以下等とすることができる。前記3点曲げ強度が1100MPa以上であると、高強度であるといえる。
前記3点曲げ強度の測定方法の詳細は、実施例に記載の方法による。
【0109】
以上、本実施形態に係るジルコニア焼結体によれば、イットリアと、エルビアと、アルミナと、酸化亜鉛と、シリカとを前記数値範囲内で含むため、低い成型圧で製造されたとしても高強度である。具体的に、本実施形態に係るジルコニア焼結体は、相対焼結密度が99.5%以上であるため、高強度である。また、エルビアと、アルミナと、酸化亜鉛と、シリカとを前記数値範囲内で含むため、明るいながらも発色が鮮やかであり、色味のバランスがよい。
このように、本実施形態に係るジルコニア焼結体は、イットリアと、エルビアと、アルミナと、酸化亜鉛と、シリカとを、前記数値範囲内で含むため、低い成型圧で製造されたとしても高強度であり、明るいながらも発色が鮮やかであり、色味のバランスがよい。このことは、実施例からも明らかである。
【0110】
前記ジルコニア焼結体は、以下に説明するサクラ色系ジルコニア焼結体の製造方法により、製造することができる。ただし、前記ジルコニア焼結体の製造方法は、この例に限定されない。
【0111】
以上、本実施形態に係るジルコニア焼結体について説明した。
【0112】
[サクラ色系ジルコニア焼結体の製造方法]
以下、ジルコニア焼結体の製造方法の一例について説明するが、以下の例示に限定されない。
【0113】
本実施形態に係るジルコニア焼結体の製造方法は、
前記ジルコニア粉末を成型圧0.7t/cm以上0.9t/cm以下で成型し、成型体を得る工程Xと、
前記工程Xの後、前記成型体を1300℃以上1550℃以下、1時間以上10時間以下の条件で焼結する工程Yとを有する。
【0114】
<工程X>
本実施形態に係るジルコニア焼結体の製造方法においては、まず、前記ジルコニア粉末を成型圧0.7t/cm以上0.9t/cm以下で成型し、成型体を得る(工程X)。前記成型圧は、0.75t/cm以上0.9t/cm以下が好ましく、0.75t/cm以上0.85t/cm以下がより好ましい。
【0115】
ジルコニア粉末を成型するにあたっては、市販の金型成型機や冷間等方圧加圧法(CIP)を採用できる。また、一旦、ジルコニア粉末を金型成型機で仮成型した後、CIP等のプレス成型で本成型してもよい。従来、ジルコニア粉末の成型体を作製する場合、高圧条件で行われていたが、本実施形態では、成型圧0.7t/cm以上0.9t/cm以下という比較的低い成型圧で成型体を作製する。本実施形態では、前記ジルコニア粉末を用いることにより、このような低い成型圧で成型体を作製しても、高強度を有する焼結体を得ることができる。
【0116】
<工程Y>
前記工程Xの後、前記成型体を1300℃以上1550℃以下、1時間以上10時間以下の条件で焼結する(工程Y)。これにより、本実施形態に係るジルコニア焼結体が得られる。
【0117】
前記焼結時の焼結温度は、1350℃以上1500℃以下が好ましく、1400℃以上1490℃以下がより好ましく、1420℃以上1480℃以下がさらに好ましい。
常温(25℃)から焼成温度までの昇温速度は、特に制限はないが、50~200℃/時間とすることができ、100~150℃/時間がより好ましい。
前記焼結時の保持時間は、1時間以上5時間以下が好ましく、2時間以上4時間以下がより好ましく、2時間以上3時間以下がさらに好ましい。焼結時の雰囲気は、大気中又は酸化性雰囲気中とすることができる。
【0118】
以上、本実施形態に係るジルコニア焼結体の製造方法について説明した。
【実施例
【0119】
以下、本発明に関し実施例を用いて詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例及び比較例において得られたジルコニア粉末中には、不可避不純物として酸化ハフニウムを酸化ジルコニウムに対して1.3~2.5質量%含有(下記式(X)にて算出)している。
<式(X)>
([酸化ハフニウムの質量]/([酸化ジルコニウムの質量]+[酸化ハフニウムの質量]))×100(%)
【0120】
[ジルコニア粉末の作製]
(実施例1)
塩基性硫酸ジルコニウム(酸化ジルコニウムとして100g含有)を水1000g中に分散し、塩基性硫酸ジルコニウムスラリーとした。また、濃度5%のイットリアゾル溶液(第一稀元素化学工業株式会社製、イットリアゾルの平均粒子径:30nm)をジルコニアに対して1mol%となるように計り取った。さらに濃度5%のエルビアゾル溶液(第一稀元素化学工業株式会社製、エルビアゾルの平均粒子径:40nm)をジルコニアに対して1mol%となるように計り取った。
なお、イットリアゾル及びエルビアゾルの平均粒子径は、ゼータサイザーナノZS(スペクトリス(株)製)を用いて得られた値である。具体的には、下記の通りである。
機種:ゼータサイザーナノZS(スペクトリス(株)製)
測定濃度:金属酸化物換算で30%
測定温度:25℃
散乱角度:173°
【0121】
塩基性硫酸ジルコニウムスラリーを撹拌しながら、まず計り取ったイットリアゾル溶液を3時間かけて滴下し、混合した。次に計り取ったエルビアゾル溶液を3時間かけて滴下し、混合した。これにより混合液を得た。
【0122】
次に、混合液に、25質量%水酸化ナトリウム水溶液をpHが13.5となるまで添加して沈殿物を得た。
【0123】
次に、生成した沈殿物をデカンテーションなどにより固液分離・洗浄し、不純物が微量になるまで数回繰り返し、所定の固形分を得た。
【0124】
次に、回収した固形分を大気中1100℃で2時間焼成し、ジルコニア(ジルコニウム酸化物)を得た。昇温速度は、100℃/時とした。
得られたジルコニアに一次粒子の平均粒子径0.1μmのアルミナ粉末をジルコニウム酸化物に対して0.25質量%、酸化亜鉛をジルコニウム酸化物に対して0.25質量%、及びシリカ粉末をジルコニウム酸化物に対して0.07質量%加え、水を分散媒とした湿式ボールミルにて30時間粉砕混合した。得られたスラリーを120℃にて恒量となるまで乾燥し、実施例1に係るサクラ色系ジルコニア粉末を得た。
【0125】
(実施例2~実施例5、比較例1~比較例3)
イットリアの含有量、エルビアの含有量、アルミナの含有量、酸化亜鉛の含有量、シリカの含有量を表1の通りに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2~実施例5、比較例1~比較例3のジルコニア粉末を得た。
【0126】
[ジルコニア粉末の組成測定]
実施例、比較例のジルコニア粉末の組成(酸化物換算)を、ICP-AES(「ULTIMA-2」HORIBA製)を用いて分析した。表1に示す。
【0127】
[ジルコニア粉末の平均粒子径]
実施例、比較例で得られたジルコニア粉末の平均粒子径を、レーザー回折式粒子径分布測定装置「SALD-2300」(島津製作所社製)を用いて測定した。より詳細には、サンプル0.15gと40mlの0.2%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液とを50mlビーカーに投入し、卓上超音波洗浄機「W-113」(本多電子株式会社製)で2分間分散した後、装置(レーザー回折式粒子径分布測定装置(「SALD-2300」島津製作所社製))に投入して測定した。結果を表1に示す。
【0128】
[ジルコニア粉末の比表面積の測定]
実施例、比較例で得られたジルコニア粉末の比表面積を、比表面積計(「マックソーブ」マウンテック製)を用いてBET法にて測定した。結果を表1に示す。
【0129】
[ジルコニア焼結体の3点曲げ強度]
実施例、比較例のジルコニア粉末を、成型圧0.8t/cmで成型した。その後、大気圧(1気圧)下、1350℃2時間の条件で焼結した。その後、得られた焼結体の3点曲げ強度を、JIS R 1601の3点曲げ強さに準拠して測定した。結果を表1に示す。
【0130】
[成型圧0.8t/cmで成型した後、大気圧下、1350℃2時間の条件で焼結した焼結体の相対焼結密度]
実施例、比較例のジルコニア粉末を、成型圧0.8t/cmで成型した。その後、大気圧(1気圧)下、1350℃2時間の条件で焼結した。その後、得られた焼結体の相対焼結密度を式(1)に従って求めた。
【0131】
相対焼結密度(%)=(焼結密度/理論焼結密度)×100・・・(1)
ここで、理論焼結密度(ρとする)は、下記式(2-1)によって算出される値である。ここでErのイオン半径がYのそれに近い等の近似を行っている。
ρ=100/[(Y/3.987)+(100-Y)/ρz]・・・(2-1)
ただし、ρzは、下記式(2-2)によって算出される値である。
ρz=[124.25(100-X)+[安定化剤の分子量]×X]/[150.5(100+X)AC]・・・(2-2)
ここで、前記安定化剤の分子量は、前記安定化剤がYで225.81、Erで382.52を用い、それぞれの混合割合から平均分子量を算出し、これを前記安定化剤の分子量とする。
また、X及びYはそれぞれ、安定化剤濃度(mol%)及びアルミナ濃度(質量%)である。また、A及びCはそれぞれ、下記式(2-3)及び(2-4)によって算出される値である。
A=0.5080+0.06980X/(100+X)・・・(2-3)
C=0.5195-0.06180X/(100+X)・・・(2-4)
式(1)において、理論焼結密度は、粉末の組成によって変動する。例えば、イットリア含有ジルコニアの理論焼結密度は、イットリア含有量が1mol%であり且つエルビア含有量が1mol%の場合、6.193g/cmである(Al=0質量%の場合)。酸化亜鉛、シリカを添加する場合においても、アルミナ添加と同様に計算することにより理論密度を算出することができる。焼結密度は、アルキメデス法にて計測した。
【0132】
[焼結体の色調]
実施例、比較例のジルコニア粉末を、成型圧0.8t/cmで成型した。その後、大気圧(1気圧)下、1350℃2時間の条件で焼結した。得られたジルコニア焼結体を厚さ5mmに調整した後、自動研磨機(「Ecomet 250」BUEHLER製)を使用し、鏡面研磨を行った。鏡面研磨の仕上げには、粒径3μmのダイヤモンド砥粒を含むダイアモンドペーストを用いた。その後、得られた焼結体の色調を、色彩色差計(商品名:CM-3500d、コニカミノルタ社製)を用いて測定した。結果を表1に示す。
【0133】
【表1】
【0134】
実施例1~5のジルコニア粉末から得られるサクラ色系ジルコニア焼結体は、ジルコニアと、イットリアと、エルビアと、アルミナと、酸化亜鉛と、シリカとを所定量含むため、低い成型圧で製造されたとしても高強度であり、明るいながらも発色が鮮やかであり、色味のバランスがよい。
一方、比較例1のジルコニア粉末は、酸化亜鉛を含んでいない。比較例2のジルコニア粉末は、シリカを含んでいない。比較例3のジルコニア粉末は、酸化亜鉛、及び、シリカを含んでいない。比較例1~3のジルコニア粉末から得られるジルコニア焼結体は、酸化亜鉛、及び/又は、シリカを含んでいないため、焼結が不足している。その結果、比較例1~3のジルコニア粉末から得られるジルコニア焼結体は、3点曲げ強度が劣る。また、比較例1~3のジルコニア粉末から得られるジルコニア焼結体は、透光性が低い(Lが高い)。