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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-23
(45)【発行日】2024-07-31
(54)【発明の名称】トルク変動抑制装置
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/14 20060101AFI20240724BHJP
【FI】
F16F15/14 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020180315
(22)【出願日】2020-10-28
(65)【公開番号】P2022071388
(43)【公開日】2022-05-16
【審査請求日】2023-10-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000149033
【氏名又は名称】株式会社エクセディ
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】弁理士法人新樹グローバル・アイピー
(72)【発明者】
【氏名】冨田 雄亮
【審査官】大山 広人
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-132159(JP,A)
【文献】特開2020-139522(JP,A)
【文献】実開平07-014248(JP,U)
【文献】実開昭52-117749(JP,U)
【文献】実開昭60-145644(JP,U)
【文献】特開平09-021446(JP,A)
【文献】実開昭55-130951(JP,U)
【文献】特開2017-053467(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0167778(US,A1)
【文献】特開平07-238991(JP,A)
【文献】特開平03-004032(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
気中で用いられ、原動機のトルク変動を抑制するためのトルク変動抑制装置であって、
回転可能に配置される第1回転体と、
前記第1回転体と回転するとともに、前記第1回転体と相対回転可能に配置される第2回転体と、
前記第1回転体と前記第2回転体との間のねじり剛性を、前記第1回転体又は前記第2回転体の回転数に応じて変化させる可変剛性機構と、
を備え、
前記トルク変動抑制装置は、その固有振動数が前記原動機の燃焼周波数よりも大きくなるように設計され
前記第1回転体は、クランクシャフトに取り付けられるフライホイールであり、
前記フライホイールは、
前記クランクシャフトに取り付けられる円板部と、
前記円板部の外周部に取り付けられる取付部と、
を有し、
前記第2回転体は、軸方向において、前記円板部と前記取付部との間に配置されるイナーシャリングであり、
前記取付部は、前記イナーシャリングを貫通して前記円板部まで延びる凸部を有する、
トルク変動抑制装置。
【請求項2】
前記トルク変動抑制装置は、その固有振動数が前記原動機の燃焼周波数の1.1倍以上となるように設計される、
請求項1に記載のトルク変動抑制装置。
【請求項3】
前記トルク変動抑制装置は、その固有振動数が前記原動機の燃焼周波数の1.4倍以下となるように設計される、
請求項1又は2に記載のトルク変動抑制装置。
【請求項4】
前記フライホイールは、前記取付部の外周面に形成されるリングギアを有する、
請求項1から3のいずれかに記載のトルク変動抑制装置。
【請求項5】
前記可変剛性機構は、
前記第1回転体又は前記第2回転体の回転による遠心力を受けて径方向に移動可能に配置される遠心子と、
前記遠心子に作用する遠心力を受けて、前記遠心力を前記第1回転体と前記第2回転体とのねじれ角が小さくなる方向の円周方向力に変換するように構成されるカム機構と、
を有する、
請求項1からのいずれかに記載のトルク変動抑制装置。
【請求項6】
前記カム機構は、
前記遠心子に形成されるカム面と、
前記カム面と当接し、前記遠心子と前記第2回転体との間で力を伝達するカムフォロアと、
を有する、
請求項に記載のトルク変動抑制装置。
【請求項7】
前記可変剛性機構は、前記第1回転体又は前記第2回転体の回転数が高くなるにつれて、前記第1回転体と前記第2回転体との間のねじり剛性を大きくするように構成される、
請求項1からのいずれかに記載のトルク変動抑制装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トルク変動抑制装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
トルク変動抑制装置は、エンジンなど原動機からのトルク変動を抑制するように構成されている。例えば、特許文献1に記載のトルク変動抑制装置は、エンジンの回転数に応じて、ハブフランジとイナーシャリングとの間のねじり剛性を変化させる。具体的には、トルク変動抑制装置は、エンジンの回転数が高くなるにつれて大きくなるような可変ねじり剛性を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-53467号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
原動機からのトルク変動が大きい場合、トルク変動抑制装置のねじり角が大きくなり過ぎるおそれがある。例えば、マニュアルミッション車にトルク変動抑制装置を取り付ける場合、トルク変動抑制装置は原動機とダンパ装置との間に配置することが好ましい。この場合、トルク変動抑制装置には、ダンパ装置で減衰する前のトルク変動が入力されるため、ねじり角が大きくなり過ぎるという問題が生じ得る。
【0005】
トルク変動抑制装置におけるねじり角が大きくなり過ぎると、適切にトルクを変動できなくなったり、遠心子がハブフランジと衝突して打音を発生したりするというような問題が生じ得る。このように、トルク変動抑制装置におけるねじれ角が大きくなり過ぎると種々の問題を引き起こすおそれがある。
【0006】
そこで、本発明の課題は、トルク変動抑制装置のねじれ角が大きくなり過ぎることを抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある側面に係るトルク変動抑制装置は、気中で用いられるように構成されている。トルク変動抑制装置は、原動機のトルク変動を抑制するように構成されている。トルク変動抑制装置は、第1回転体と、第2回転体と、可変剛性機構と、を備える。第1回転体は、回転可能に配置される。第2回転体は、第1回転体と回転するとともに、第1回転体と相対回転可能に配置される。可変剛性機構は、第1回転体と第2回転体との間のねじり剛性を、第1回転体又は前記第2回転体の回転数に応じて変化させる。トルク変動抑制装置は、その固有振動数が原動機の燃焼周波数よりも大きくなるように設計される。
【0008】
上述したトルク変動抑制装置は、その固有振動数が原動機の燃焼周波数よりも大きくなるように設計されている。すなわち、トルク変動抑制装置は、ある回転数において、最適な固有振動数よりも大きい固有振動数となるように設計される。この結果、トルク変動抑制機能がある程度低下する一方で、トルク変動抑制装置のねじり角が大きくなり過ぎることを抑制することができる。
【0009】
好ましくは、トルク変動抑制装置は、その固有振動数が原動機の燃焼周波数の1.1倍以上となるように設計される。
【0010】
好ましくは、トルク変動抑制装置は、その固有振動数が原動機の燃焼周波数の1.4倍以下となるように設計される。
【0011】
好ましくは、第1回転体は、クランクシャフトに取り付けられるフライホイールである。
【0012】
好ましくは、フライホイールは、円板部と、取付部とを有する。円板部は、クランクシャフトに取り付けられる。取付部は、円板部の外周部に取り付けられる。
【0013】
好ましくは、第2回転体は、イナーシャリングである。イナーシャリングは、軸方向において、円板部と取付部との間に配置される。取付部は、イナーシャリングを貫通して円板部まで延びる凸部を有する。
【0014】
好ましくは、フライホイールは、取付部の外周面に形成されるリングギアを有する。
【0015】
好ましくは、可変剛性機構は、遠心子及びカム機構を有する。遠心子は、第1回転体又は第2回転体の回転による遠心力を受けて径方向に移動可能に配置される。カム機構は、遠心子に作用する遠心力を受けて、遠心力を第1回転体と第2回転体とのねじれ角が小さくなる方向の円周方向力に変換するように構成される。
【0016】
好ましくは、カム機構は、カム面と、カムフォロアとを有する。カム面は、遠心子に形成される。カムフォロアは、カム面と当接し、遠心子と第2回転体との間で力を伝達する。
【0017】
好ましくは、可変剛性機構は、第1回転体又は第2回転体の回転数が高くなるにつれて、第1回転体と第2回転体との間のねじり剛性を大きくするように構成される。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、トルク変動抑制装置のねじれ角が大きくなり過ぎることを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】動力伝達経路を示す概略図。
図2】クラッチ装置の断面図。
図3】一方のイナーシャリングを取り外した状態におけるトルク変動抑制装置の平面図。
図4】エンジン回転数とトルク変動抑制装置のねじり角度との関係を示すグラフ。
図5】エンジン回転数と、トルク変動抑制装置から出力されるトルク変動との関係を示すグラフ。
図6】一方のイナーシャリングを取り外した状態におけるトルク変動抑制装置の平面図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本実施形態に係るトルク変動抑制装置について図面を参照しつつ説明する。なお、以下の説明において、軸方向とはトルク変動抑制装置の回転軸Oが延びる方向である。また、円周方向とは、回転軸Oを中心とした円の円周方向であり、径方向とは、回転軸Oを中心とした円の径方向である。
【0021】
[全体構成]
図1に示すように、トルク変動抑制装置10は、エンジン101(原動機の一例)とトランスミッション102との間に配置されている。なお、トランスミッションは、例えばマニュアルトランスミッションである。トルク変動抑制装置10は、エンジン101とダンパ124との間に配置されている。トルク変動抑制装置10は、気中で用いられる。すなわち、トルク変動抑制装置10は油中に配置されていない。トルク変動抑制装置10は、エンジンのトルク変動を抑制するように構成されている。
【0022】
図2に示すように、トルク変動抑制装置10は、クラッチ装置100に組み込まれている。クラッチ装置100は、トルク変動抑制装置10、クラッチカバー組立体11、及びクラッチディスク組立体12を有している。
【0023】
[トルク変動抑制装置]
図2及び図3に示すように、トルク変動抑制装置10は、フライホイール2(第1回転体の一例)、一対のイナーシャリング3(第2回転体の一例)、及び可変剛性機構4を有している。
【0024】
<フライホイール>
図2に示すように、フライホイール2は、回転可能に配置される。フライホイール2は、クランクシャフト103に取り付けられている。フライホイール2は、クランクシャフト103と一体的に回転する。
【0025】
フライホイール2は、円板部21と、取付部22と、リングギア23とを有している。円板部21は、円板状に形成されている。円板部21の内周部がクランクシャフト103に連結されている。例えば、ボルトなどの締結部材によって、円板部21はクランクシャフト103に固定されている。円板部21は、外周部において、径方向外側に開口する凹部211が形成されている。凹部211は、径方向外方に開くように形成され、所定の深さを有している。
【0026】
取付部22は、環状に形成されている。取付部22は、周方向に延びている。取付部22は、円板部21に取り付けられている。例えば、取付部22は、リベットなどの締結部材によって円板部21に固定されている。取付部22は、円板部21と一体的に回転する。取付部22は、複数の凸部221と、環状凸部222と、摩擦面223と、を有している。
【0027】
凸部221は、円板部21に向かって突出している。各凸部221は、周方向に間隔をあけて配置されている。凸部221は、一方のイナーシャリング3を貫通している。凸部221の先端面は円板部21に当接している。
【0028】
環状凸部222は、周方向に延びる環状である。環状凸部222は、取付部22の外周端部に配置されている。環状凸部222は、円板部21から離れる方向に突出している。すなわち、環状凸部222は、凸部221と反対側に突出している。
【0029】
摩擦面223は、トランスミッション側を向いている。この摩擦面223に、後述するクラッチディスク組立体12のクラッチディスク121が押圧される。
【0030】
リングギア23は、取付部22の外周面に設けられている。リングギア23は、取付部22と一体的に回転する。リングギア23は、取付部22と別部材によって構成されていてもよいし、一つの部材によって構成されていてもよい。
【0031】
<イナーシャリング3>
イナーシャリング3は、フライホイール2とともに回転可能で、かつフライホイール2に対して相対回転可能である。すなわち、イナーシャリング3は、フライホイール2に弾性的に連結されている。イナーシャリング3は、環状のプレートである。詳細には、イナーシャリング3は、連続した円環状に形成されている。イナーシャリング3は、トルク変動抑制装置10の質量体として機能する。
【0032】
一対のイナーシャリング3は、フライホイール2を挟むように配置されている。詳細には、一対のイナーシャリング3は、フライホイール2の円板部21を挟むように配置されている。一対のイナーシャリング3は、軸方向においてフライホイール2の両側に所定の隙間をあけて配置されている。フライホイール2と一対のイナーシャリング3とは、軸方向に並べて配置されている。一方のイナーシャリング3は、軸方向において、円板部21と取付部22との間に配置されている。イナーシャリング3は、フライホイール2の回転軸と同じ回転軸を有する。
【0033】
一対のイナーシャリング3は、リベット31によって互いに固定されている。したがって、一対のイナーシャリング3は、互いに、軸方向、径方向、及び円周方向に移動不能である。
【0034】
<可変剛性機構4>
図3に示すように、可変剛性機構4は、フライホイール2とイナーシャリング3との間のねじり剛性を、フライホイール2又はイナーシャリング3の回転数に応じて変化させるように構成されている。なお、本実施形態では、可変剛性機構4は、上記ねじり剛性を、フライホイール2の回転数に応じて変化させるように構成されている。詳細には、可変剛性機構4は、フライホイール2の回転数が高くなるにつれて、フライホイール2とイナーシャリング3との間のねじり剛性を大きくする。
【0035】
可変剛性機構4は、遠心子41、及びカム機構42を有している。遠心子41は、フライホイール2に取り付けられている。詳細には、遠心子41は、フライホイール2の凹部211内に配置されている。遠心子41は、凹部211内において、径方向に移動可能に配置されている。遠心子41は、フライホイール2の回転による遠心力を受けて径方向に移動可能である。
【0036】
詳細には、遠心子41は、複数のガイドローラ411を有している。遠心子41が径方向に移動することによって、ガイドローラ411は凹部211の内壁面上を転がる。これによって、遠心子41は径方向にスムーズに移動できる。
【0037】
遠心子41はカム面412を有している。カム面412は、正面視(図3のように、軸方向に沿って見た状態)において、径方向内側に窪む円弧状に形成されている。なお、カム面412は、遠心子41の外周面である。この遠心子41のカム面412は、後述するように、カム機構42のカムとして機能する。
【0038】
カム機構42は、遠心子41に作用する遠心力を受けて、フライホイール2とイナーシャリング3との間にねじれ(円周方向における相対変位)が生じたときには、遠心力をねじれ角が小さくなる方向の円周方向力に変換するように構成されている。
【0039】
カム機構42は、カムフォロア421と、遠心子41のカム面412とから構成されている。なお、遠心子41のカム面412がカム機構42のカムとして機能する。カムフォロア421は、リベット31の胴部に取り付けられている。すなわち、カムフォロア421はリベット31に支持されている。なお、カムフォロア421は、リベット31に対して回転可能に装着されているのが好ましいが、回転不能に装着されていてもよい。カム面412は、カムフォロア421が当接する面であり、軸方向視において円弧状である。フライホイール2とイナーシャリング3とが所定の角度範囲で相対回転した際には、カムフォロア421はこのカム面412に沿って移動する。
【0040】
カムフォロア421とカム面412との接触によって、フライホイール2とイナーシャリング3との間にねじれ角(回転位相差)が生じたときに、遠心子41に生じた遠心力は、ねじれ角が小さくなるような円周方向の力に変換される。
【0041】
<固有振動数>
トルク変動抑制装置10の固有振動数fVDDがエンジン101の燃焼周波数fよりも大きくなるように、トルク変動抑制装置10は設計されている。例えば、トルク変動抑制装置10の固有振動数fVDDは、エンジンの燃焼周波数fの1.1倍以上とすることが好ましい。また、トルク変動抑制装置10の固有振動数fVDDは、エンジン101の燃焼周波数fの1.4倍以下とすることが好ましい。
【0042】
トルク変動抑制装置10の固有振動数fVDDは、以下の式によって表される。
【0043】
【数1】
なお、kはトルク変動抑制装置10のねじり剛性(Nm/rad)を示し、Iはトルク変動抑制装置10のイナーシャ量(kgm)を示す。ねじり剛性は、トルク変動抑制装置10のフライホイール2の回転数N(r/min)に応じて変化し、以下の式によって表される。
【0044】
【数2】
このため、トルク変動抑制装置10の固有振動数fVDDは、以下の式(3)によって表される。
【0045】
【数3】
ここで、ねじり剛性k=f(N)は、次の式によって表すことができる。
【0046】
【数4】
ここで、Rは回転軸Oからカムフォロア421の中心までの距離、mは遠心子41の質量、rは回転軸Oから遠心子41の重心までの距離、ωはフライホイール2の回転速度(rad/s)、θはP0の方向と分力P2の方向とがなす角度(図6参照)、αはねじり角度(図6参照)を示す。
【0047】
また、エンジン101の燃焼周波数fは、以下の式によって表される。
【0048】
【数5】
なお、nはエンジン101の気筒数を示し、Neはエンジン101の回転数(rpm)を示す。
【0049】
図4は、エンジン101の回転数と、トルク変動抑制装置10のねじり角度との関係を示すグラフである。横軸はエンジン101の回転数、縦軸はねじり角度を示している。図4において、線Aは、トルク変動抑制装置10の固有振動数fVDDをエンジン101の燃焼周波数fと同じに設定した場合における特性を示している。また、線Bは、トルク変動抑制装置10の固有振動数fVDDをエンジン101の燃焼周波数fの1.1倍に設定した場合における特性を示している。また、線Cは、トルク変動抑制装置10の固有振動数fVDDをエンジン101の燃焼周波数fの1.2倍に設定した場合における特性を示している。また、線Dは、トルク変動抑制装置10の固有振動数fVDDをエンジン101の燃焼周波数fの1.4倍に設定した場合における特性を示している。図4に示すように、トルク変動抑制装置10の固有振動数fVDDを、エンジン101の燃焼周波数fよりも大きくすることによって、トルク変動抑制装置10のねじり角度を小さくすることができる。
【0050】
図5は、エンジン101の回転数と、トルク変動抑制装置10から出力されるトルク変動との関係を示すグラフである。横軸はエンジン101の回転数、縦軸はトルク変動(回転速度変動)を示している。線Aは、トルク変動抑制装置10の固有振動数fVDDをエンジン101の燃焼周波数fと同じに設定した場合における特性を示している。また、線Bは、固有振動数fVDDを燃焼周波数fの1.2倍に設定した場合における特性、線Cは1.4倍、線Dは1.5倍、線Eは1.6倍、線Fは1.7倍に設定した場合における特性を示している。また、線Gは、動吸振器を設置しない場合の特性を示している。
【0051】
図5に示すように、動吸振器を設置しない場合では、エンジン回転数が3000rpm付近でトルク変動が増加する。これに対して、線Aで示すように、トルク変動抑制装置10の固有振動数fVDDを燃焼周波数fと同じに設定した場合では、トルク変動の増加はなく、また、他の領域においてもトルク変動は、動吸振器を設置しない場合に比べて小さい。
【0052】
線B~線Fで示すように、トルク変動抑制装置10の固有振動数fVDDを燃焼周波数fの1.2~1.7倍に設定した場合においても、動吸振器を設置しない場合に比べて、全体的にトルク変動は小さい。一方で、線D~線Fに示すように、トルク変動抑制装置10の固有振動数fVDDを燃焼周波数fの1.5倍以上に設定した場合、エンジン回転数が3000rpm付近においてトルク変動が増幅することが分かる。このため、固有振動数fVDDは、燃焼周波数fの1.4倍以下とすることが好ましい。
【0053】
[トルク変動抑制装置の作動]
図3及び図6を用いて、トルク変動抑制装置10の作動について説明する。
【0054】
エンジン101からのトルクは、フライホイール2に伝達される。本実施形態では、エンジン101からトルクは、ダンパ124を介さずにフライホイール2に伝達される。
【0055】
トルク伝達時にトルク変動がない場合は、図3に示すような状態で、フライホイール2及びイナーシャリング3は回転する。この状態では、カム機構42のカムフォロア421はカム面412のもっとも径方向内側の位置(円周方向の中央位置)に当接する。また、この状態では、フライホイール2とイナーシャリング3とのねじれ角は実質的に0である。
【0056】
なお、フライホイール2とイナーシャリング3との間のねじれ角とは、図3及び図6では、遠心子41及びカム面412の円周方向の中央位置と、カムフォロア421の中心位置と、円周方向のずれを示すものである。
【0057】
トルクの伝達時にトルク変動が存在すると、図6に示すように、フライホイール2とイナーシャリング3との間には、ねじれ角αが生じる。図6は+R側にねじれ角+αが生じた場合を示している。
【0058】
図6に示すように、フライホイール2とイナーシャリング3との間にねじれ角+αが生じた場合は、カム機構42のカムフォロア421は、カム面412に沿って相対的に図6における右側に移動する。このとき、遠心子41には遠心力が作用しているので、遠心子41に形成されたカム面412がカムフォロア421から受ける反力は、図6のP0の方向及び大きさとなる。この反力P0によって、円周方向の第1分力P1と、遠心子41を径方向内側に向かって移動させる方向の第2分力P2と、が発生する。
【0059】
そして、第1分力P1は、カム機構42及び遠心子41を介してフライホイール2を図6における右方向に移動させる力となる。すなわち、フライホイール2とイナーシャリング3とのねじれ角αを小さくする方向の力が、フライホイール2に作用することになる。また、第2分力P2によって、遠心子41は、遠心力に抗して内周側に移動させられる。
【0060】
なお、逆方向にねじれ角が生じた場合は、カムフォロア421がカム面412に沿って相対的に図6の左側に移動するが、作動原理は同じである。
【0061】
以上のように、トルク変動によってフライホイール2とイナーシャリング3との間にねじれ角が生じると、遠心子41に作用する遠心力及びカム機構42の作用によって、フライホイール2は、両者のねじれ角を小さくする方向の力(第1分力P1)を受ける。この力によって、トルク変動が抑制される。
【0062】
以上のトルク変動を抑制する力は、遠心力、すなわちフライホイール2の回転数によって変化するし、回転位相差及びカム面412の形状によっても変化する。したがって、カム面412の形状を適宜設定することによって、トルク変動抑制装置10の特性を、エンジン仕様等に応じた最適な特性にすることができる。
【0063】
上述したように、トルク変動抑制装置10によってトルク変動を抑制する力は、フライホイール2の回転数によって変化する。具体的には、エンジン101が高回転のとき、フライホイール2も高回転であるため、遠心子41に作用する遠心力は大きい。このため、可変剛性機構4によるねじり剛性も大きくなり、フライホイール2とイナーシャリング3とのねじれ角は小さくなる。一方、エンジン101が低回転のとき、フライホイール2も低回転であるため、遠心子41に作用する遠心力は小さい。このため、可変剛性機構4によるねじり剛性も小さくなり、フライホイール2とイナーシャリング3とのねじれ角は大きくなる。
【0064】
このように、可変剛性機構4によるねじり剛性は、フライホイール2の回転数に追従して変化する。フライホイール2が低回転数のとき、可変剛性機構4によるねじり剛性は小さくなるので、フライホイール2とイナーシャリング3とのねじれ角が大きくなりやすい。
【0065】
[クラッチカバー組立体]
図2に示すように、クラッチカバー組立体11は、クラッチカバー111と、プレッシャプレート112と、ダイヤフラムスプリング113と、を有している。
【0066】
クラッチカバー111は、環状であって、周方向に延びている。クラッチカバー111は、フライホイール2の取付部22に固定されている。詳細には、クラッチカバー111の外周部が、例えばボルトなどの締結部材によって、取付部22の環状凸部222に固定される。
【0067】
プレッシャプレート112は、環状の部材である。プレッシャプレート112は、フライホイール2にクラッチディスク121を押し付けるように構成されている。詳細には、プレッシャプレート112は、ダイヤフラムスプリング113によって、フライホイール2側に付勢されている。
【0068】
ダイヤフラムスプリング113は、プレッシャプレート112をフライホイール2に向かって付勢するように構成されている。プレッシャプレート112は、ダイヤフラムスプリング113に付勢されることによって、クラッチディスク121をフライホイール2に向かって押圧している。
【0069】
[クラッチディスク組立体]
クラッチディスク組立体12は、クラッチディスク121、入力側回転体122、出力側回転体123、及びダンパ124を有している。クラッチディスク121は、フライホイール2と摩擦係合するように構成されている。
【0070】
ダンパ124は、入力側回転体122と出力側回転体123とを弾性的に連結している。ダンパ124は、複数のコイルスプリングを有している。各コイルスプリングは、周方向に間隔をあけて配置されている。
【0071】
[変形例]
本発明は以上のような実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱することなく種々の変形又は修正が可能である。
【0072】
<変形例1>
上記実施形態では、第1回転体の一例としてフライホイール2を例示しているが、第1回転体はこれに限定されない。すなわち、フライホイール2とは異なる回転体を第1回転体とすることができる。
【0073】
<変形例2>
上記実施形態では、フライホイール2がリングギア23を有していたが、この構成に限定されない。例えば、イナーシャリング3の外周面にリングギアが設けられていてもよい。この場合、トルク変動抑制装置10を介して、エンジン101を始動させる。
【0074】
<変形例3>
上記実施形態では、トルク変動抑制装置10を、クラッチ装置100に取り付けているが、ダンパ装置などの他の動力伝達装置にトルク変動抑制装置10を取り付けることもできる。
【符号の説明】
【0075】
2 フライホイール
21 円板部
22 取付部
221 凸部
3 イナーシャリング
4 可変剛性機構
41 遠心子
412 カム面
42 カム機構
421 カムフォロア
10 トルク変動抑制装置
103 クランクシャフト
図1
図2
図3
図4
図5
図6