(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-23
(45)【発行日】2024-07-31
(54)【発明の名称】杭打機の表示システム
(51)【国際特許分類】
E02D 13/06 20060101AFI20240724BHJP
E02D 7/00 20060101ALI20240724BHJP
【FI】
E02D13/06
E02D7/00 Z
(21)【出願番号】P 2020188027
(22)【出願日】2020-11-11
【審査請求日】2023-10-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000004617
【氏名又は名称】日本車輌製造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100128358
【氏名又は名称】木戸 良彦
(74)【代理人】
【識別番号】100086210
【氏名又は名称】木戸 一彦
(72)【発明者】
【氏名】田中 重希
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 幸洋
【審査官】坪内 優佳
(56)【参考文献】
【文献】特許第3647445(JP,B1)
【文献】特開2017-190579(JP,A)
【文献】特開2007-085137(JP,A)
【文献】特開2018-112010(JP,A)
【文献】特開2018-112011(JP,A)
【文献】特開2019-100082(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0108598(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 7/00-13/10
E02D 1/00- 3/115
E21B 1/00-49/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベースマシンの前部に作業装置を備えた杭打機に実装され、施工現場における杭の埋設予定位置及びこれに対応する目標深度を設定した施工計画データを記憶する記憶部と、動作制御のための施工管理プログラムを実行する制御部と、該制御部で作成された実施工データを前記目標深度と比較可能な形式で表示画面に表示させるディスプレイとを備えている杭打機の表示システムにおいて、
前記実施工データは、深度毎の施工負荷を示す施工負荷情報と、前記施工計画データに含まれる杭番号とを関連付けて前記記憶部に記憶され、
前記制御部は、前記作業装置の運転操作を始める運転者の求めに応じて、該運転者が指定した複数の前記杭番号に対応する複数の前記施工負荷情報を前記記憶部から読み出し、該読み出した複数の施工負荷情報から統計的処理により推定施工負荷情報を求めてグラフ表示データを作成し、前記運転操作の間、前記表示画面に前記グラフ表示データを表示させておくことを特徴とする杭打機の表示システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、杭打機の表示システムに関し、詳しくは、運転者による杭打機の運転操作を支援する機能を備えた杭打機の表示システムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、杭の埋設や地盤改良などを行う杭打機には、各種工法を制御するための施工管理プログラムを記憶した施工管理装置が搭載されている。施工管理装置は、鋼管杭や中空ロッドなどの施工部材を地中に圧入する場合に、運転室内に設けた制御装置(コントロールボックス)によって施工管理プログラムを実行させて、リーダやオーガなどの各種部品に設けた複数のセンサ、例えば、エンコーダを使用した深度センサ、オーガのトルクを圧力又は電流で検出するトルクセンサ、オーガの回転パルスを検出する回転センサなどから各データを得るとともに、各データから、深度、速度、トルク、回転数などを求めてディスプレイに表示させ、メモリに記録しながら施工を行っている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
上述の施工管理装置を用いた杭施工方法では、基礎となる支持層の位置や深さなどを知るための事前のボーリング調査が行われているが、費用の観点から施工する杭の場所全てで行うことは難しいという事情がある。そこで、近年の情報技術の発展に伴い、少ない地盤調査地点数から作成した支持層データに対し、杭打ち作業において逐次取得される支持層到達深度情報を加えて更新を行い、その精度の高い更新結果に基づいて後続の杭打ち作業を行うことが可能な杭施工方法が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2005-213937号公報
【文献】特開2019-100082号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2に記載された杭施工方法では、大規模な現場であっても地盤調査地点数を極力少なくして地盤調査に要する期間や費用を抑えることができる。しかしながら、地盤の状況は同じ現場でも施工地点によって様々であり、設計で決められた支持層到達深度で施工を行うと、当初予想していなかった地層の変化、例えば支持層が傾斜している状態や、支持層の一部が軟弱地盤中にとどまっている状態などもあり得る。したがって、地盤調査地点数が少なくなれば、それだけ設計で決めた深度と実際の深度との間にギャップが生じてしまう。こうしたギャップを施工結果に基づいて解消していく方法をとる限り、杭打機の運転者は予測できない地盤の状況に応じた運転を強いられることになる。
【0006】
そこで本発明は、埋設する杭の支持層への到達予測が可能な支援機能を備えた杭打機の表示システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の杭打機の表示システムは、ベースマシンの前部に作業装置を備えた杭打機に実装され、施工現場における杭の埋設予定位置及びこれに対応する目標深度を設定した施工計画データを記憶する記憶部と、動作制御のための施工管理プログラムを実行する制御部と、該制御部で作成された実施工データを前記目標深度と比較可能な形式で表示画面に表示させるディスプレイとを備えている杭打機の表示システムにおいて、前記実施工データは、深度毎の施工負荷を示す施工負荷情報と、前記施工計画データに含まれる杭番号とを関連付けて前記記憶部に記憶され、前記制御部は、前記作業装置の運転操作を始める運転者の求めに応じて、該運転者が指定した複数の前記杭番号に対応する複数の前記施工負荷情報を前記記憶部から読み出し、該読み出した複数の施工負荷情報から統計的処理により推定施工負荷情報を求めてグラフ表示データを作成し、前記運転操作の間、前記表示画面に前記グラフ表示データを表示させておくことを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明の杭打機の表示システムによれば、施工開始時において、運転者が求める杭番号に対応する施工負荷情報を読み出し、該読み出した施工負荷情報を運転操作の間、表示画面にグラフで表示させておくので、既に施工を終えた隣接杭の負荷情報を手がかりにして、これから想定される施工負荷を運転者に容易に把握できる形で提示することが可能となる。これにより、埋設する杭の支持層への到達予測が立ち、運転者の安心かつ安全な作業に資するものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一形態例を示す表示システムが適用される杭打機の側面図である。
【
図2】ディスプレイに表示される杭選択画面を示す図である。
【
図3】ディスプレイに表示される施工画面における第1の表示を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1乃至
図7は、本発明を小型の杭打機に適用した一形態例を示すものである。杭打機11は、
図1に示すように、クローラを備えた下部走行体12と、該下部走行体12上に旋回可能に設けられた上部旋回体13とで構成されたベースマシン14と、上部旋回体13の前部に起伏可能に設けられたリーダ15と、該リーダ15を後方から支持するリーダ用の起伏シリンダ16とを備えている。また、上部旋回体13の前部には、リーダ15を起伏可能に支持するフロントブラケット17が設けられ、上部旋回体13の前部上方には、配管を支持する配管支持部材18が設けられている。さらに、上部旋回体13の右側部には運転室19が、左側部にはエンジンや油圧ユニットを収納した機器室20がそれぞれ設けられている。
【0012】
リーダ15は、複数のリーダ部材を互いに着脱可能に連結したもので、上端部にはトップシーブ21が、下端部には下部ガイド22がそれぞれ装着されており、リーダ15の前面には作業装置の一例であるオーガ23が昇降可能に装着されている。オーガ23は、ギヤケース23a内に挿通したドライブロッド24を把持してこれに回転力を付与するもので、具体的には、ドライブロッド24の角軸部をオーガ23の下側に設けられたチャック装置23bに係合させてドライブロッド24の軸方向の移動を規制し、この状態で出力機構をオーガ駆動用油圧モータで駆動させることによってドライブロッド24を回転させる。
【0013】
オーガ23の上下には、リーダ15の下端部に設けられた駆動スプロケット25と、上端部に設けられた従動スプロケット26との間に架け渡された昇降用チェーン27の両端がそれぞれ取り付けられ、チェーン式の昇降装置を構成する。昇降装置は、駆動スプロケット25をオーガ昇降用油圧モータによって駆動し、該駆動スプロケット25と従動スプロケット26とに掛け回された昇降用チェーン27を上下方向に移動させることにより、リーダ15の前面に沿ってオーガ23を昇降させる。
【0014】
杭打機11を鋼管杭の埋設を目的として使用する場合には、施工部材に鋼管杭28が使用される。鋼管杭28は、ドライブロッド24の下端に設けられたキャップロッド29を介して連結され、ドライブロッド24を回転させながらオーガ23を下降させることによって地中に圧入される。また、杭打機11を地盤改良を目的として使用する場合には、施工部材に中空ロッド(図示せず)が使用される。中空ロッドは、上端がオーガ23の上方でスイベルと連結されるとともに下端が撹拌ロッドと連結される。この中空ロッドを回転させながら、中空ロッドを通じて撹拌ロッドの先端から噴射したセメントミルクなどの地盤改良剤が地盤内に注入される。
【0015】
こうした杭の埋設や地盤改良などの各種工法を行うために、運転室19内には、走行や旋回、オーガ23の昇降・回転駆動などを行う操作レバーや操作ペダル、押しボタンスイッチ、タッチパネル式のディスプレイなどの機器が操作性を考慮して運転席の近傍に集約的に配置されており、さらに、これらの機器や杭打機11の動作検出手段などと電気的に接続された施工管理装置が設置されている。
【0016】
施工管理装置は、各種工法制御のための施工管理プログラムを実行して、データ処理や判定などの演算処理を行う制御部(CPU)を中心に構成されており、施工管理プログラムを記憶するFLASH ROMや処理中の各種データを一時的に記憶するRAM、さらには、施工現場における杭の埋設予定位置、目標深度などを設定した施工計画データ及び施工管理プログラムの実行により作成された実施工データの各種データを記憶する記憶部(ハードディスク)や、運転者が施工管理プログラムの実行結果を表示画面で確認したり、タッチパネル操作でデータ入力を行ったりする表示装置(ディスプレイ)などを備えている。
【0017】
ここで、オーガ23の動作検出手段を構成する複数のセンサにはトルクセンサや深度センサ、回転センサなどが挙げられる。トルクセンサは、オーガ23に把持された施工部材のトルクを測定するセンサであって、オーガ駆動用油圧モータの油圧回路の供給側と電磁比例弁の油圧回路の二次側とにそれぞれ圧力センサを設け、各圧力センサによってオーガ駆動用油圧モータの作動圧力及び制御圧力を検出している。検出された信号は制御部に伝達され、圧力及びオーガ駆動用油圧モータの容量に基づき、施工負荷として施工トルクが算出される。また、深度センサは、従動スプロケット26の回転角度をエンコーダで検出している。検出された信号は制御部に伝達され、回転角度及びスプロケット径に基づいて深度及び昇降速度が算出される。回転センサは、出力機構の歯車の歯を近接センサで検出し、そのパルス信号をカウントしている。検出された信号は制御部に伝達され、累計カウントに基づいて積算回転数及び回転速度が算出される。
【0018】
また、施工管理装置は、通信接続によって施工管理プログラムや施工計画データなどをダウンロードすることが可能である。施工計画データは、施工現場におけるボーリング調査(地盤調査の一例)の結果などを踏まえて作成した施工計画書に基づき、あらかじめ事務所内のコンピュータに入力されるもので、杭番号の他、該杭番号に関連付けられた施工順序や、目標深度、フィード速度、回転数、セメントミルク流量などの各種の施工目標値が含まれる。施工計画データの入力作業は、施工図面と対比して杭位置データを入力することによって行われ、具体的には、施工地点(杭の埋設予定位置)を、座標上の原点からの相対的位置(距離)として二次元座標で指定することになる。
【0019】
作成された施工計画データは、施工現場の住所の位置情報や施工する杭打機11の号機情報などが付加されて、ネットワーク上のデータサーバにアップロードされる。また、施工計画データに基づいて実施される工法、例えば既製杭工法のための施工管理プログラムや、該施工管理プログラムの設定パラメータのデータも作成され、同様にして、データサーバにアップロードされる。
【0020】
このように構成された施工管理装置は、追加的に組み込まれる制御プログラムを実行させることにより、杭打機11の運転操作、特にオーガ23の運転操作を支援する表示システムを機能させる。以下では、表示システムの具体的な動作について、
図2乃至
図7に示す表示画面を参照しながら説明する。
【0021】
まず、施工現場において施工管理装置の電源を起動すると、制御部では基本プログラムが実行され、ディスプレイにログイン画面が表示される。ここで、作業者IDによりシステムにログインするとともに、メニュー画面から目的に応じて条件を設定すると、必要な施工管理プログラムや施工計画データなどがダウンロードされ、
図2に示すように、ディスプレイには施工計画杭配置画面(杭選択画面)が表示される。
【0022】
施工計画杭配置画面は、施工現場の全体が表示されるように縮尺が調整された表示画面であって、二次元座標で図形的に表示されている。円形で表された複数の杭表示体Pは施工地点を示し、円の内側の数字(0~22)は施工順序、外側の4桁数字(0000~0022)は杭番号をそれぞれ示している。また、対角上2地点にある円形内部をグレーで塗り潰した杭表示体、つまり杭番号「0000」,「0012」では、既にボーリング調査結果が得られており、この調査結果に基づいて施工計画データが作成されている。すなわち、これら2地点は支持層の位置や深さ、土質などの地盤状況が明らかになっている。
【0023】
ここで、例えば、杭番号「0001」を施工する場合、杭打機11を施工地点(杭芯)に位置合わせした後、タッチパネルの操作で1番の杭表示体Pを選択する。そして、
図3に示すように、表示を施工画面に切り替えた状態で、実施工データを作成しながら目標深度に到達するまで計画通りに杭打ち作業が進められる。画面中には、「杭番号」や「目標深度」,「施工トルク」などの各種数値データとともに、縦軸を深度、横軸を施工負荷情報(施工トルクや積分トルクなど)の大きさで示したグラフ表示データとして、二次元座標の折れ線グラフが表示されている。施工負荷情報は、種類毎に定めた色のグラフで波形変化が視覚的に認識され、該波形変化を、例えば土質(砂、礫、粘土)の変化と捉えて地盤の構成をある程度判断することができる。
【0024】
作成された実施工データは、オーガ23の運転操作に従って、施工画面に数値やグラフ形式により現在の実施工データとしてリアルタイムに表示され、これと同時に、深度毎の施工負荷を示す施工トルク(施工負荷情報)と、杭番号「0001」とが関連付けられて施工管理装置の記憶部に逐次記憶される。そして施工完了後、隣接する次の杭番号「0002」の地点を施工する場合も同様にして、
図2に示されるように杭選択画面からタッチパネルの操作で2番の杭表示体Pを選択し、表示を施工画面に切り替えた状態で運転操作やデータ処理が行われ、画面に表示された目標深度と、前の杭番号「0001」の施工結果とから支持層の位置をある程度予測しながら、目標深度に対して計画通りに杭打ち作業が進められる。
【0025】
ところで、ボーリング調査地点間で地中内の地盤の構成が均一に変化しているとは限らないので、ボーリング調査地点の数が少なくなれば、それだけ設計時の目標深度と実際の深度との間にギャップが生じやすくなり、こうしたギャップはボーリング調査地点から遠くなるほど顕著になる。この場合、杭打機11の運転者は予測できない地盤の状況に応じた運転を強いられ、万一、途中で杭長の過不足が発生した場合には、作業の中断や管理者への報告など、非定常的な作業に労力を要することとなる。
【0026】
そこで、例えばボーリング調査地点から離れた地点である杭番号「0003」を施工する場合には、施工履歴取得メニューから隣接する前の杭番号「0002」を指定し、この指定状態で3番の杭表示体Pを選択する。このとき、運転者の求めに応じて、制御部では運転者が指定した杭番号「0002」に対応する施工トルク(施工負荷情報)の値を記憶部から読み出し、これを実績施工トルク(実績施工負荷情報)とするグラフ表示データを作成して施工画面に表示させる。この場合、実績施工トルクは、オーガ23の運転操作の間、
図4の破線で示す波形変化のように、現在の施工トルクなどと同一の座標軸の折れ線グラフで表示され、終了操作や表示切替え操作が行われるまで画面に表示されている。
【0027】
表示された実績施工トルクは、例えば、目標深度8mに対し、その8m付近で値が大きく上昇している(
図4)。これにより、運転操作を始める運転者は、深度8m付近から施工トルクが必要になるという見通しが立ち、その負荷を覚悟しながら運転操作を行うことができる。また、運転操作の間は、同一座標軸に現在の施工トルクが重畳的に表示されるので、運転者は実績施工トルクと現在の施工トルクとのグラフの重なり具合を確認しながら、注意深く運転操作を行うことができる。
【0028】
このように構成された表示システムでは、同一現場における様々な地盤の状況に対応することが可能であり、例えば、表示された実績施工トルクが、
図5の破線で示す波形変化のように、目標深度8mに対し5m付近で値が上昇している場合でも、これは硬い中間層の存在に起因したものであると判断することができる。また、
図6の破線で示す波形変化のように、目標深度8mに対し、実際は6m付近の深度に支持層がある場合でも、当初の計画よりも浅い深度で打ち止めとする判断が行える。これと反対に、
図7の破線で示す波形変化のように、目標深度6mに対し、実際は8m付近の深度に支持層がある場合では、実績施工トルクの表示から、更に2m延長する必要があるという判断が行える。
【0029】
後続の施工地点についても同様に施工を行っていくと、これに連れて読み出しが可能な杭番号の数も多くなってくる。そこで、表示システムでは、複数の施工地点における施工結果に基づいて、現在の施工地点における必要な施工トルクを推定し、これをグラフ表示することが可能になっている。例えば、施工現場の中心部に位置する杭番号「0021」を施工する場合、施工履歴取得メニューから複数の杭番号「0018」,「0019」,「0020」を指定し、この指定状態で9番の杭表示体Pを選択する。
【0030】
このとき、運転者の求めに応じて、制御部では運転者が指定した複数の杭番号「0018」,「0019」,「0020」にそれぞれ対応する複数の施工トルク(施工負荷情報)の値を記憶部から読み出し、これらの実績施工トルク(実績施工負荷情報)から統計的処理により推定施工トルク(推定施工負荷情報)を求める。統計的処理では、平均、最小二乗法などを適用して複数の値から一つの代表値を推定するための処理が行われ、特に現在の施工地点と参照する複数の施工地点との位置関係(距離)を考慮してもよい。これにより、例えば各地点で得た施工結果から施工現場における支持層の傾斜や起伏を読み取り、これに基づいて精度の高い推定施工負荷情報が求められる。統計的処理で求めた推定施工トルクの値はグラフ表示データとして作成され、
図4などの破線で示す波形変化と同様の形式(折れ線グラフ)で表示される。
【0031】
このように、本発明の杭打機11の表示システムによれば、施工開始時において、運転者が求める杭番号に対応する施工負荷情報を読み出し、該読み出した施工負荷情報を運転操作の間、表示画面にグラフで表示させておくので、既に施工を終えた隣接杭の負荷情報を手がかりにして、これから想定される施工負荷を運転者に容易に把握できる形で提示することが可能となる。これにより、埋設する杭の支持層への到達予測が立ち、運転者の安心かつ安全な作業に資するものである。
【0032】
また、杭打機11の運転者が交代した場合でも、途中から運転を引き継いだ者は、表示画面から得た指標である既設杭の施工負荷情報に基づいて必要な運転操作や措置を講じることが可能となる。こうした杭打機11の運転支援機能により、安全で効率的な杭施工方法が達成されるとともに、従来からの経験や勘に頼る不安定な運転操作、すなわち、作業装置などの故障の原因をなくして杭打機11の長寿命化にも寄与するものである。
【0033】
さらに、グラフ表示データが複数の施工負荷情報から統計的処理により求めた推定施工負荷情報を用いて作成されるので、規模が大きい施工現場であっても施工の進捗に連れて精度の高い支持層到達予測が立ち、杭打機11を使用した杭施工方法をより効率的に達成することができる。とりわけ、施工管理装置については、ハード的な変更はほとんど不要であって、ソフト的な変更を行うだけで済むことから、既存の施工管理システムへの適用が容易となる。この場合、複数台の杭打機11で作成した実施工データを相互に共有するなど、データ活用の促進につなげることができる。
【0034】
なお、本発明は、前記形態例に限定されるものではなく、表示される施工負荷情報には施工トルクや積分トルクの他、電流値や積分電流値などの各種データが含まれる。また、表示システムの画面構成は、あくまで一例であり、数値データやグラフ表示データを複数の杭番号から個別に作成してもよく、表示領域を様々な観点から分割したり、まとめて一つの領域として構成したりすることができる。さらに、杭番号の指定や各種処理などは、例えば、杭打機にGPS機能を搭載して、これにより得た位置情報に基づいて行うなどの自動化を図ってもよい。加えて、実施例では、小型杭打機を例に挙げて説明したが、これに限定されるものではなく、3点式杭打機のような大型杭打機にも適用することができる。この場合、電動駆動される作業装置の電気的負荷抵抗に基づいて施工負荷情報を取得することができる。
【符号の説明】
【0035】
11…杭打機、12…下部走行体、13…上部旋回体、14…ベースマシン、15…リーダ、16…起伏シリンダ、17…フロントブラケット、18…配管支持部材、19…運転室、20…機器室、21…トップシーブ、22…下部ガイド、23…オーガ、23a…ギヤケース、23b…チャック装置、24…ドライブロッド、25…駆動スプロケット、26…従動スプロケット、27…昇降用チェーン、28…鋼管杭、29…キャップロッド