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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-23
(45)【発行日】2024-07-31
(54)【発明の名称】交通管制装置、および、交通管制方法
(51)【国際特許分類】
   G08G 1/00 20060101AFI20240724BHJP
   G08G 1/04 20060101ALI20240724BHJP
【FI】
G08G1/00 C
G08G1/04 C
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020191691
(22)【出願日】2020-11-18
(65)【公開番号】P2022080556
(43)【公開日】2022-05-30
【審査請求日】2023-10-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】成瀬 浩輔
(72)【発明者】
【氏名】上野 秀樹
【審査官】高島 壮基
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-024655(JP,A)
【文献】特開2020-061088(JP,A)
【文献】特開2020-135801(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両が走行する道路について、過去に前記道路において突発事象が発生したときの前記道路の映像データを入力データとし、前記突発事象が発生したこと、および、前記突発事象が前記道路の交通状況に影響を与える要素の情報である要素情報を出力データとする教師データに基づいて機械学習を行うことによって突発事象検知予測モデルを生成する突発事象検知予測モデル生成部と、
前記道路の映像データを入力データとし、前記突発事象検知予測モデルに基づいて、出力データとして、突発事象が発生した旨の情報、および、前記突発事象に対応する前記要素情報を取得する突発事象検知予測処理部と、
を備え
前記要素情報は、前記突発事象の状況にかかわる情報として、事故車両の自走可否、前記突発事象による車線閉鎖状況、の少なくともいずれかを含む情報である、交通管制装置。
【請求項2】
前記要素情報は、緊急車両の出動予測情報として、救急車両の出動有無、事故処理車両の出動有無、実況見分の規模情報、の少なくともいずれかを含む情報である、
請求項1に記載の交通管制装置。
【請求項3】
車両が走行する道路について、過去に前記道路において突発事象が発生したときの前記道路の映像データを入力データとし、前記突発事象が発生したこと、および、前記突発事象が前記道路の交通状況に影響を与える要素の情報である要素情報を出力データとする教師データに基づいて機械学習を行うことによって突発事象検知予測モデルを生成する突発事象検知予測モデル生成ステップと、
前記道路の映像データを入力データとし、前記突発事象検知予測モデルに基づいて、出力データとして、突発事象が発生した旨の情報、および、前記突発事象に対応する前記要素情報を取得する突発事象検知予測処理ステップと、
を含み、
前記要素情報は、前記突発事象の状況にかかわる情報として、事故車両の自走可否、前記突発事象による車線閉鎖状況、の少なくともいずれかを含む情報である、交通管制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、交通管制装置、および、交通管制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、高速道路等の道路について、将来の渋滞を予測することは、車両のドライバーや、交通管制業務を行う道路事業者などにとって重要である。また、道路上で事故(交通事故など)や落下物等のような突発事象が発生すると、車線閉鎖や通行止め等が発生して、それに伴う渋滞が発生する場合がある。つまり、突発事象発生時は交通流が大きく変化する場合がある。
【0003】
また、交通管制センタでは、路側センサ情報や、路側に設けられたCCTV(Closed Circuit Television)の画像等を用いて、突発事象が発生したと認識し、発生時刻、発生場所を特定する。そして、事故処理のために、必要に応じて、警察、救急車、レッカー車等の出動要請や、車線閉鎖/規制等の処置を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2005-149052号公報
【文献】特開2019-200490号公報
【文献】特表2009-529186号公報
【文献】特開2019-185232号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の従来技術では、道路における突発事象の検知のタイミングをもっと早くすることができれば有意義である。
【0006】
そこで、本発明の実施形態は、道路における突発事象の発生を迅速に検知することができる交通管制装置、および、交通管制方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態の交通管制装置は、車両が走行する道路について、過去に前記道路において突発事象が発生したときの前記道路の映像データを入力データとし、前記突発事象が発生したこと、および、前記突発事象が前記道路の交通状況に影響を与える要素の情報である要素情報を出力データとする教師データに基づいて機械学習を行うことによって突発事象検知予測モデルを生成する突発事象検知予測モデル生成部と、前記道路の映像データを入力データとし、前記突発事象検知予測モデルに基づいて、出力データとして、突発事象が発生した旨の情報、および、前記突発事象に対応する前記要素情報を取得する突発事象検知予測処理部と、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、実施形態における道路を模式的に示す図である。
図2図2は、実施形態の交通管制システムの全体構成を模式的に示す機能ブロック図である。
図3図3は、実施形態の事故検知予測モデルの学習時の処理の説明図である。
図4図4は、実施形態の渋滞予測モデル生成部の処理の一部の説明である。
図5図5は、実施形態の渋滞予測モデルの学習時の処理の説明図である。
図6図6は、実施形態の事故検知予測モデルの運用時の処理の説明図である。
図7図7は、実施形態の渋滞予測モデルの運用時の処理の説明図である。
図8図8は、実施形態の交通管制装置による運用時の全体処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の交通管制装置、および、交通管制方法の実施形態について、図面を参照して説明する。なお、以下に記載する実施形態の構成、ならびに当該構成によってもたらされる作用および結果(効果)は、例であって、本発明は以下の記載内容に限定されない。また、以下では、道路における事故や落下物などの突発事象のうち、主に事故を例にとって説明する。
【0010】
一般に、道路において、突発事象(事故や落下物等)が発生すると、事故処理を行う間は、必要に応じて一部の車線の規制が行われる。突発事象の規模が大きい場合は、道路自体を閉鎖(つまり、通行止め)が行われることもある。この場合、突発事象の発生個所の上流では、所定以上の交通量があると、渋滞が発生してしまう。
【0011】
発生する渋滞は、道路閉鎖(通行止め)の場合に最も規模が大きくなる。事故処理作業のため、一部車線の閉鎖の場合でも、交通容量が減少することになるため、渋滞が発生する。
【0012】
一般に、渋滞は、事故発生後から発生が始まり、突発事象の発生現場の事故処理作業が完了するまで拡大していく。事故処理の完了後は、交通容量が事故発生前に戻るため、徐々に渋滞が解消していく。
【0013】
このため、事故が発生した場合、その事故の状況をより迅速かつ詳細に把握することで、「突発事象(事故)処理に必要な時間を予測」し、更にその「突発事象(事故)処理が完了時点で予測される渋滞の規模の予測」を適切に行うことで、渋滞解消までの時間が予測でき、ひいては当該区間の走行所要時間の予測にもつながる。そこで、以下に、道路における突発事象の発生を迅速かつ詳細に検知する技術について説明する。
【0014】
図1は、実施形態における道路Rを模式的に示す図である。道路Rは、例えば、高速道路である。道路Rは、管理単位として、区間1,2,3,・・・に分割されている。各区間ごとに、車両感知器1と、CCTVカメラ2と、が設置されている。なお、以下では、道路Rの符号を省略して「道路」と表記する。また、突発事象には事故の他、落下物、故障車等の様々な事象があるが、以下では説明を簡単にするため、単に「事故」と表記する。
【0015】
図2は、実施形態の交通管制システムSの全体構成を模式的に示す機能ブロック図である。交通管制システムSは、車両感知器1と、CCTVカメラ2と、交通管制装置3と、情報出力装置4と、を備える。
【0016】
交通管制装置3は、コンピュータ装置であり、処理部31と、記憶部32と、入力部33と、表示部34と、通信部35と、管制情報提供システム36と、を備える。
【0017】
処理部31は、例えば、CPU(Central Processing Unit)と、ROM(Read Only Memory)と、RAM(Random Access Memory)と、を備え、各種処理を実行する。
【0018】
CPUは、交通管制装置3の動作を統括的に制御する。COMは、各種プログラムやデータを記憶する記憶媒体である。RAMは、各種プログラムを一時的に記憶したり、各種データを書き換えたりするための記憶媒体である。
【0019】
そして、MPUは、RAMをワークエリア(作業領域)として、ROM、記憶部32等に格納されたプログラムを実行する。処理部31の詳細については後述する。
【0020】
記憶部32は、HDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)などの記憶装置であり、各種情報を記憶する。記憶部32は、例えば、事故帳票データ321、事故検知予測モデル322(突発事象検知予測モデル)、渋滞予測モデル323を記憶する。
【0021】
事故帳票データ321は、過去に発生した道路における事故の詳細を記録した帳票データである。事故帳票データ321は、例えば、事故の発生地点、事故の発生原因、事故検知、緊急車両(救急車両、事故処理車両、パトカー等)出動情報、事故処理完了までの時間、車線閉鎖状況、負傷者情報、落下物の有無、事故車両の自走可否情報などの各種情報を含む。
【0022】
事故検知予測モデル322は、道路の画像の特徴から、突発事象(事故)の発生したことを検知する。更に、検知した突発事象(事故)の詳細情報を当該道路の画像から予測するための学習モデルである。この事故検知予測モデル322は、事故帳票データ321に記録された過去の事故の記録を機械学習することで、これらの予測を行うことができる(図3図6で後述)。
【0023】
渋滞予測モデル323は、道路において発生が予想される渋滞の規模を予測するための学習モデルである。渋滞予測モデル323は、過去に事故が発生したときの交通状況データ(例えば、交通量、平均速度、占有率など)や、その他の事故の詳細情報から、当該発生した事故による渋滞の規模、解消までの時間等を、予測するモデルである。(図4図5図7の説明で後述)。
【0024】
記憶部32は、ほかにも、道路の区間、車線数、インターチェンジ、パーキングエリアの場所等の情報である道路情報や、車両感知器1から取得したセンサ情報や、CCTVカメラ2から取得した映像データや、処理部31による各種演算処理結果などの各種情報を記憶する。
【0025】
入力部33は、交通管制装置3に対するユーザの操作を受け付ける入力装置であり、例えば、キーボード、マウス等である。
【0026】
表示部34は、入力部33の近傍にある表示部で、交通管制官毎に設けられる。表示部34は、例えば、液晶表示装置(LCD(Liquid Crystal Display))、有機EL(Electro-Luminescence)表示装置等により実現される。
【0027】
通信部35は、外部装置(車両感知器1、CCTVカメラ2、情報出力装置4等)と通信するための通信インタフェースである。
【0028】
管制情報提供システム36は、高速道路やその関連道路等の管制を統括するシステムであり、大型のディスプレイ装置36Mに、対象道路区間の渋滞関連情報等を表示する。
【0029】
処理部31は、機能構成として、取得部311、事故検知予測モデル生成部312(突発事象検知予測モデル生成部)、事故検知予測処理部313(突発事象検知予測処理部)、渋滞予測モデル生成部314、渋滞予測処理部315、渋滞処理部316、制御部317を備える。
【0030】
取得部311は、外部装置から各種情報を取得する。取得部311は、例えば、車両感知器1からセンサ情報(交通状況データ)を取得する。そして、例えば、取得部311は、センサ情報に基づいて、1分間単位や5分間単位で、交通量、平均速度、占有率などの情報を作成する。また、取得部311は、CCTVカメラ2から道路の映像データを取得する。
【0031】
事故検知予測モデル生成部312は、過去の事故事例である教師データに基づいて、事故検知予測モデル322に対して、機械学習を行うことによって事故検知予測モデル322を生成する(図3で後述)。ここで、学習に使用する教師データは、過去に道路において事故(突発事象)が発生したときの道路の映像データを入力データとし、事故が発生したこと、および、事故に関係し道路の交通状況に影響を与える要素の情報である事故詳細情報(要素情報)を出力データとした教師データである。
【0032】
事故検知予測処理部313は、運用時において、事故検知予測モデル322に対して、入力データとして事故が発生した場合の道路の映像データを入力し、出力データとして、事故が発生した旨の情報、および、事故に対応する事故詳細情報を取得することで、事故の検知と発生した事故の詳細情報を予測する(図6で後述)。
【0033】
渋滞予測モデル生成部314は、事故による道路の渋滞に関する情報である渋滞情報を出力データとする教師データに基づいて機械学習を行うことによって渋滞予測モデル323を生成する(図4図5の説明で後述)。ここで、教師データは、道路について、過去に事故が発生したときの交通状況データ(例えば、交通量、平均速度、占有率など)、および、過去の事故詳細情報を入力データとし、事故による道路の渋滞に関する情報である渋滞情報を出力データとする教師データである。
【0034】
渋滞予測処理部315は、運用時において、渋滞予測モデル323を用いて道路の渋滞情報を予測する。渋滞予測処理部315は、渋滞予測モデル323に対して、事故が発生したときの交通状況データ(車両感知器1のセンサ情報)、および、事故検知予測処理部313によって取得した事故詳細情報を入力データとし、出力データとして道路の渋滞情報を取得する(図4図7の説明で後述)。
【0035】
渋滞処理部316は、渋滞予測処理部315によって予測した渋滞情報に基づいて、所定区間の走行所要時間の算出等の渋滞処理を実行し、渋滞関連情報を作成する。
【0036】
制御部317は、各部311~316が実行する処理以外の処理を実行する。制御部317は、例えば、渋滞処理部316によって作成した渋滞関連情報を情報出力装置4に送信する。
【0037】
情報出力装置4は、例えば、道路情報板42、ハイウェイテレフォン43、ハイウェイ情報ターミナル44、通信装置45を含む。交通管制装置3の制御部317は、管制情報提供システム36、情報出力装置4、端末装置51、カーナビゲーションシステム52に、渋滞関連情報等を提供(送信)する。
【0038】
道路情報板42は、例えば、対象道路区間を含む道路の路肩や道路を跨ぐ状態で道路上方に設置される。道路情報板42は、主に文字表示により渋滞関連情報等を表示する。
【0039】
ハイウェイテレフォン43は、公衆回線により音声情報として提供する音声情報提供部である。ハイウェイテレフォン43は、道路利用者等が携帯する携帯電話や例えばサービスエリア(SA)やパーキングエリア(PA)等に設置された公衆電話や専用電話等で発呼することにより、渋滞関連情報等を音声情報として提供する。
【0040】
ハイウェイ情報ターミナル44は、サービスエリアやパーキングエリア等に設けられた情報提供装置であり、例えばサービスエリアやパーキングエリアを中心とした広範囲の渋滞関連情報等を道路利用者の操作にしたがって表示したり、関連する音声情報を提供したりする。
【0041】
また、情報出力装置4は、移動体通信網Nを経由して端末装置51に渋滞関連情報等を送信する。端末装置51は、道路利用者が利用可能な携帯電話やスマートフォン、タブレット等で、例えば所定のWEBページにアクセスすることで、渋滞関連情報等を道路利用者の操作にしたがい表示したり、関連する音声情報を提供したりする。
【0042】
また、情報出力装置4は、路側アンテナ等の通信装置45を経由してカーナビゲーションシステム52に渋滞関連情報等を送信する。カーナビゲーションシステム52は、道路利用者が乗車する車両に備えられ、GPS(Global Positioning System)により特定される自車位置に基づき、その周辺の道路に関する渋滞関連情報等を取得し道路利用者に提供する。
【0043】
以上で各装置の構成の説明を終了し、次に、実施形態の交通管制システムSの動作について、説明する。交通管制システムSの動作は、大きく分けると、モデル生成するための学習の処理と、モデルを使用して実際の予測を行う運用の処理に分けられる。
最初に、モデル学習の処理について、説明する。
まずは、事故検知予測モデル生成部312の処理の詳細について説明する。
【0044】
図3は、実施形態の事故検知予測モデル322の学習時の処理の説明図である。図3に示すように、学習時に与える説明変数(入力値。入力データの教師データ)は、例えば、以下の(1)~(3)の3つである。
(1)事故発生時の映像データ(CCTVカメラ、ドライブレコーダ映像等)
(2)事故周辺の交通状況データ(事故発生時の渋滞発生状況等)
(3)車両CAN(Controller Area Network)データ(事故車両のアクセル操作情報、ブレーキ操作情報等)
【0045】
具体的には、事故検知予測モデル生成部312は、上述の(1)~(3)のデータを用いて、機械学習により、事故検知予測モデル322を作成する。機械学習は、与えられたデータをもとに何らかの基準(例えば予測値と正解値との誤差など)に基づいて、望ましい出力が得られるように予測モデルのパラメータを調整するプロセスである。例えば、ニューラルネットワーク、深層学習、ランダムフォレスト、SVM(サポートベクターマシン)などを用いた手法である。
【0046】
また、目的変数(正解値。出力データの教師データ)は、例えば、事故帳票データ321における以下の(11)~(13)の3つである。
(11)事故発生情報(事故が発生した旨の情報)
(12)事故状況情報(事故車両の自走可否、負傷者情報、落下物の有無、突発事象(事故)による車線閉鎖状況等の事故詳細情報)
(13)緊急車両出動情報(救急車両の出動有無、事故処理車両の出動有無、実況見分の規模情報等の事故詳細情報)
【0047】
ここでは、目的変数と説明変数の組み合わせとなるような実績データをできる限り大量に準備し、この対の関係を機械学習により学習させ、事故検知予測モデル322内のパラメータを調整する。
【0048】
このようにして、上記の説明変数(入力値)と目的変数(正解値)を学習させることで事故検知予測モデル322を構築していく。このため、映像データ等から、事故が発生した旨だけでなく、事故詳細情報も取得できるように、事故検知予測モデル322の学習を行うことができる。なお、説明変数、目的変数は、それぞれ、上述のデータの組み合わせに限定されない。
【0049】
次に、渋滞予測モデル生成部314が行う渋滞予測モデル323の学習の処理の詳細について説明する。
渋滞予測モデル生成部314は、渋滞予測モデル323の精度を高めるために、事故多発地点(事故発生度が所定値以上の地点)か否かや、道路特性や、事故が発生したときの交通状況などに応じて、複数種類の渋滞予測モデル323を生成する。具体的には、渋滞予測モデル生成部314は、事故多発地点については、その地点ごとに、地点毎渋滞予測モデルを生成する。
【0050】
図4は、実施形態の渋滞予測モデル生成部314の処理の一部の説明である。図4において、渋滞予測モデル生成部314は、事故非多発地点(事故発生度が所定値未満の地点)について、事故が発生したときの車両感知器データ(交通状況データ)と、道路特性情報(道路の構造等の特性の情報)と、に応じて、渋滞予測モデル323のクラスタリングを行う。つまり、事故非多発地点について、複数の分類毎渋滞予測モデル(分類A渋滞予測モデル、分類B渋滞予測モデル、分類C渋滞予測モデル)を生成する。
【0051】
このように、渋滞予測モデル生成部314は、事故非多発地点については、道路特性、および、事故が発生したときの交通状況に応じて複数の分類毎渋滞予測モデルを生成する。
【0052】
図5は、実施形態のそれぞれの渋滞予測モデル323の学習時の処理の説明図である。この学習時の処理は、渋滞予測モデル323のうち、地点毎渋滞予測モデル、分類毎渋滞予測モデルのそれぞれについて行う。
【0053】
図5に示すように、学習時に与える説明変数(入力値。入力データの教師データ)は、例えば、以下の(31)~(33)の3つである。
(31)事故帳票データ321における事故状況情報
(32)事故帳票データ321における緊急車両出動情報
(33)車両感知器データ(事故発生時と、事故処理完了時の交通状況データ)
【0054】
また、目的変数(正解値。出力データの教師データ)は、以下の(41)~(43)の3つである。
(41)事故帳票データ321における事故処理完了までの時間
(42)事故帳票データ321における車両閉鎖状況情報
(43)車両感知器データ(事故発生時と、事故処理完了時の交通状況データ)
【0055】
ここで、目的変数と説明変数の組み合わせとなるような実績データをできる限り大量に準備し、この対の関係を機械学習により学習させ、渋滞予測モデル323内のパラメータを調整する。
【0056】
このようにして、上記の説明変数(入力値)と目的変数(正解値)を学習させることで渋滞予測モデル323を構築していく。更に、渋滞予測モデル323のうち、地点毎渋滞予測モデル、分類毎渋滞予測モデルのそれぞれごとに、高精度な学習を行うことができる。つまり、地点毎渋滞予測モデルについては、事故帳票データ321が多いことで、高精度な学習を行うことができる。また、事故非多発地点のそれぞれについては、事故帳票データ321が少ないが、地点毎ではなく、クラスタリングした後の分類毎渋滞予測モデルごとに学習を行うことで使用できる事故帳票データ321が多くなるので、高精度な学習を行うことができる。
なお、説明変数、目的変数は、それぞれ、上述のデータの組み合わせに限定されない。
【0057】
次に、運用時の動作について、説明する。まず、運用時の全体動作を説明する前に、各モデルの運用時の動作について説明する。
図6は、実施形態の事故検知予測モデル322の運用時の処理の説明図である。図6に示すように、運用時(予測時)に与える入力値としては、例えば、以下の(61)、(62)の2つである。
(61)事故発生時の映像データ
(62)事故周辺の交通状況データ(車両感知器データ)
【0058】
更に、取得が可能な場合は、以下の(63)の情報も追加してもよい。(この場合は、交通管制装置3に、車両CANデータを取得するための別途構成が必要になる。)
(63)車両CANデータ(事故車両のアクセル操作情報、ブレーキ操作情報等)
【0059】
そして、入力値と事故検知予測モデル322に基づいて、以下の(71)~(73)の3つの予測値を算出する。
(71)事故発生情報(事故が発生した旨の情報)
(72)事故状況情報(事故車両の自走可否、負傷者情報、落下物の有無、突発事象(事故)による車線閉鎖状況等の事故詳細情報)
(73)緊急車両出動情報(救急車両の出動有無、事故処理車両の出動有無、実況見分の規模情報等の事故詳細情報)
【0060】
このようにして、事故検知予測モデル322を用いて、映像データ等から、事故が発生した旨の情報だけでなく、事故詳細情報を取得することができる。
【0061】
図7は、実施形態の渋滞予測モデル323の運用時の処理の説明図である。この運用時(予測時)の処理は、渋滞予測モデル323のうち、地点毎渋滞予測モデル、分類毎渋滞予測モデルのそれぞれについて行う。
【0062】
渋滞予測処理部315は、事故検知予測処理部313によって取得した事故発生情報(事故が発生した旨の情報)における地点が、事故多発地点(事故発生度が所定値以上の地点)であった場合は、当該地点に対応する地点毎渋滞予測モデルを使用する。また、渋滞予測処理部315は、事故検知予測処理部313によって取得した事故発生情報における地点が、事故非多発地点(事故発生度が所定値未満の地点)であった場合は、道路特性、および、事故発生時の交通状況が類似する事故多発地点があれば、当該事故多発地点に対応する地点毎渋滞予測モデルを使用し、当該事故多発地点がなければ、道路特性、および、事故発生時の交通状況に基づいて対応する分類毎渋滞予測モデルを使用する。
【0063】
図7に示すように、運用時に与える入力値は、例えば、以下の(81)~(83)の3つである。
(81)事故検知予測処理部313が算出した事故状況情報((72)の情報)
(82)事故検知予測処理部313が算出した緊急車両出動情報((73)の情報)
(83)車両感知器データ(事故発生時の交通状況データ)
【0064】
そして、入力値と渋滞予測モデル323に基づいて、以下の(91)~(93)の3つの予測値を算出する。
(91)事故処理完了までの時間
(92)事故閉鎖状況情報
(93)事故発生時と、事故処理完了時の交通状況データ
【0065】
このようにして、渋滞予測モデル323のうち、事故発生の地点に対応する地点毎渋滞予測モデル、分類毎渋滞予測モデルのいずれかを用いて、上述の入力値から、上述の予測値を高精度に算出することができる。
【0066】
図8は、実施形態の交通管制装置3による運用時の全体処理を示すフローチャートである。この時点では、事故検知予測モデル322と渋滞予測モデル323には、それぞれ学習が行われてモデルが構築されている状態となっている。
【0067】
まず、ステップS1において、事故検知予測処理部313は、道路の映像データ等に基づいて、事故検知予測モデル322を用いて、突発事象発生(事故発生)を検知の有無を判定する。事故検知予測処理部313が事故発生を検知した(Yes)の場合はステップS2に進み、事故発生を検知していない(No)の場合はステップS1に戻る。
【0068】
ステップS2において、事故検知予測処理部313は、道路の映像データ等に基づいて、事故検知予測モデル322を用いて、事故詳細情報を取得する。ここで、事故詳細情報は、上述の通り、事故状況情報(事故車両の自走可否、負傷者情報、落下物の有無、突発事象(事故)による車線閉鎖状況等の事故詳細情報)と、緊急車両出動情報(救急車両の出動有無、事故処理車両の出動有無、実況見分の規模情報等の事故詳細情報)である。そして、事故検知予測処理部313が、事故詳細情報を取得した(Yes)の場合はステップS5に進み、事故詳細情報を取得していない(No)の場合はステップS3に進む。例えば、映像データに事故の特徴を示す映像があまり映っていなかった場合、ステップS2でNoとなる場合がある。
【0069】
ステップS3において、映像データより交通管制官が事故発生と認識した場合に、交通管制員が入力部33を用いた手動でのイベント(事故詳細情報)登録を入力する。この時、制御部317は、入力部33から入力されたイベント登録を受け付ける。
【0070】
次に、ステップS4において、制御部317は、交通管制官からの入力情報に基づいて、事故詳細情報(事故状況情報や緊急車両出動情報等)を取得し、ステップS5に進む。
【0071】
ステップS5において、渋滞予測処理部315は、検出された突発事象により発生する渋滞の予測を行う。上述のように渋滞予測モデル323は複数に分割されているため、どの渋滞予測モデル323を適用するかを判別する必要がある。このため、渋滞予測処理部315は、判別した事故の発生地点が事故多発地点か否かを判定する。ステップS5において、Yesの場合は、既に当該発生地点の渋滞予測モデルが構築されているため、ステップS11に進む。一方、ステップS5において、Noの場合はステップS6に進む。
【0072】
ステップS6において、渋滞予測処理部315は、検出した事故の発生地点と道路特性や事故発生時の交通状況が類似する事故多発地点があるか否かを判定する。ステップS6において、Yesの場合は、当該類似の発生地点の渋滞予測モデル323で予測を行うためステップS11に進む。一方、ステップS6において、Noの場合はステップS7に進む。
【0073】
次に、ステップS7において、渋滞予測処理部315は、道路特性や事故発生時の交通状況に基づいて、学習されている渋滞予測モデルの中から、最も対応する分類毎渋滞予測モデルを選択する。つまり、事故の発生地点が事故多発地点でなくても、道路特性や事故発生時の交通状況が類似する事故多発地点があれば、その事故多発地点の地点毎渋滞予測モデルを使うようにする。
【0074】
次に、ステップS8において、渋滞予測処理部315は、ステップS7で選択した分類毎渋滞予測モデルを用いて、事故処理完了までの時間や、事故発生後の交通状況等の渋滞情報を予測する。
【0075】
次に、ステップS9において、渋滞処理部316は、渋滞情報に基づいて所定区間の走行所要時間の算出等の渋滞処理を実行して渋滞関連情報を作成する。
【0076】
次に、ステップS10において、制御部317は、渋滞関連情報を管制情報提供システム36、情報出力装置4、端末装置51、カーナビゲーションシステム52に送信する。これにより、管制情報提供システム36、情報出力装置4、端末装置51、カーナビゲーションシステム52は、その渋滞関連情報を表示可能となる。
【0077】
また、ステップS11において、渋滞予測処理部315は、該当する地点毎渋滞予測モデルを選択する。
【0078】
次に、ステップS12において、渋滞予測処理部315は、ステップS9で選択した地点毎渋滞予測モデルを用いて、事故処理完了までの時間や、事故発生後の交通状況等の渋滞情報を予測する。
【0079】
次に、ステップS13において、渋滞処理部316は、渋滞情報に基づいて所定区間の走行所要時間の算出等の渋滞処理を実行して渋滞関連情報を作成する。
【0080】
次に、ステップS14において、制御部317は、渋滞関連情報を管制情報提供システム36、情報出力装置4、端末装置51、カーナビゲーションシステム52に送信する。これにより、管制情報提供システム36、情報出力装置4、端末装置51、カーナビゲーションシステム52は、その渋滞関連情報を表示可能となる。
【0081】
このように、本実施形態の交通管制装置3によれば、予め学習して生成した事故検知予測モデル322に基づいて、道路における事故の発生を迅速に検知することができる。
【0082】
また、事故検知予測モデル322を用いることで、図3で示す処理によって高精度に学習し、図6で示す処理によって高精度に事故の詳細情報(事故状況情報や緊急車両出動情報等)を予測できる。
【0083】
また、事故検知予測モデル322で予測した事故詳細情報や渋滞予測モデル323を用いて、事故処理時間と、事故発生時から事故処理完了時までに発生する渋滞に関する情報を高精度に予測することができる。つまり、事故による渋滞への影響を迅速かつ高精度に反映できる。
【0084】
その場合、渋滞予測モデル323として、地点毎渋滞予測モデルと分類毎渋滞予測モデルを使う分けることで、事故発生地点が事故多発地点か否かにかかわらず、高精度に渋滞情報を予測できる。
【0085】
また、渋滞情報に基づいて渋滞関連情報を算出し、情報出力装置4、端末装置51、カーナビゲーションシステム52等に表示させることで、例えば、交通流を分散させて渋滞を最小限に抑えることができる。
【0086】
また、渋滞関連情報を管制情報提供システム36に表示することで、交通管制員は、交通管制業務において、事故の影響を考慮することができる。
【0087】
本実施形態の交通管制装置3のCPUで実行されるプログラムは、インストール可能な形式又は実行可能な形式のファイルでCD-ROM、フレキシブルディスク(FD)、CD-R、DVD(Digital Versatile Disk)等のコンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録して提供するように構成してもよい。
【0088】
さらに、当該プログラムを、インターネット等のネットワークに接続されたコンピュータ上に格納し、ネットワーク経由でダウンロードさせることにより提供するように構成してもよい。また、本実施形態で実行される当該プログラムをインターネット等のネットワーク経由で提供または配布するように構成してもよい。
【0089】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、上記実施形態および変形例はあくまで一例であって、発明の範囲を限定することは意図していない。上記実施形態は、様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。上記実施形態およびその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0090】
例えば、映像データは、固定カメラによる映像データに限定されず、車両に搭載されたドライブレコーダによる映像データや、ドローンによる映像データなどを用いてもよい。ドライブレコーダによる映像データを用いる場合は、例えば、契約したタクシーやバスにおけるドライブレコーダによる映像データを用いればよいが、これに限定されない。
【0091】
また、渋滞予測の際に、対象道路区間の渋滞に影響するようなイベントや、気象条件などを条件に追加してもよい。
【0092】
また、対象の道路は、高速道路に限定されず、ほかに、高速道路以外の有料道路や、無料の一般道であってもよい。
【符号の説明】
【0093】
1…車両感知器、2…CCTVカメラ、3…交通管制装置、4…情報出力装置、31…処理部、32…記憶部、33…入力部、34…表示部、35…通信部、36…管制情報提供システム、42…道路情報板、43…ハイウェイテレフォン、44…ハイウェイ情報ターミナル、51…端末装置、52…カーナビゲーションシステム、311…取得部、312…事故検知予測モデル生成部、313…事故検知予測処理部、314…渋滞予測モデル生成部、315…渋滞予測処理部、316…渋滞処理部、317…制御部、321…事故帳票データ、322…事故検知予測モデル、323…渋滞予測モデル、C…車両、R…道路、S…交通管制システム
図1
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図8