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特許7526105ジアゾ化合物を使用するシクロプロパン化合物の調製のためのプロセス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-23
(45)【発行日】2024-07-31
(54)【発明の名称】ジアゾ化合物を使用するシクロプロパン化合物の調製のためのプロセス
(51)【国際特許分類】
   C07C 2/86 20060101AFI20240724BHJP
   C07B 37/10 20060101ALI20240724BHJP
   C07C 13/04 20060101ALI20240724BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20240724BHJP
【FI】
C07C2/86
C07B37/10
C07C13/04
C07B61/00 300
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020573008
(86)(22)【出願日】2019-06-25
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-10-21
(86)【国際出願番号】 EP2019066849
(87)【国際公開番号】W WO2020002338
(87)【国際公開日】2020-01-02
【審査請求日】2022-06-22
(31)【優先権主張番号】1810514.8
(32)【優先日】2018-06-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】501105842
【氏名又は名称】ジボダン エス エー
(74)【代理人】
【識別番号】110003971
【氏名又は名称】弁理士法人葛和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シュレーダー,フリッチョフ
(72)【発明者】
【氏名】シュテック,マルセル
【審査官】石田 傑
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-538335(JP,A)
【文献】特表2013-544238(JP,A)
【文献】国際公開第2017/046122(WO,A1)
【文献】LEHMANN, H.,A scalable and safe continuous flow procedure for in-line generation of diazomethane and its precursor MNU,GREEN CHEMISTRY,2017年,Vol.19, No.6,pp.1449-1453
【文献】LOEBBECKE, S et al.,MICROREACTORS FOR PROCESSING OF HAZARDOUS AND EXPLOSIBLE REACTIONS,IChemE SYMPOSIUM SERIES,2007年,No.153,pp.1-6
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに流体連通する少なくとも2つの接続された反応器を含む多段階連続的フロー反応器において、ジアゾ化合物および基質の反応生成物の連続的生成のためのプロセスであって、ここで、多段階順序の各段階において形成される反応生成物は、それが形成される上流の反応器から連続的に排出され、連続的な流体ストリームとして、下流の反応器へ供給され、すると、これはさらなる変換を受けることができ、プロセスは、上流の反応器において連続的に形成されるジアゾ化合物の前駆体化合物が、ジアゾ化合物への変換を導く条件下で、下流の反応器へ連続的に排出されることを特徴とし、およびここで該下流の反応器が、ジアゾ化合物が反応して、ジアゾ化合物および基質の反応生成物を形成する基質を含有
ジアゾ化合物がジアゾメタンであり、基質がオレフィンであり、およびそれらの反応生成物がシクロプロパン化化合物であり、
上流の反応器において形成されるジアゾメタン前駆体化合物を、オレフィン基質、触媒および有機溶媒と混合して有機相を形成し、この有機相を、塩基を含有する水相と混合して二相の反応混合物を形成し、反応混合物が反応してシクロプロパン化化合物を下流の反応器において形成する、
前記プロセス。
【請求項2】
基質が、ジ-またはポリオレフィンから選択されるオレフィンである、請求項に記載のプロセス。
【請求項3】
オレフィンが、イソプレン、ミルセン、ファルネセンおよびβ-スプリンゲンからなる群から選択される、請求項またはに記載のプロセス。
【請求項4】
ジアゾ化合物前駆体が、N-メチル-N-ニトロソ尿素(MNU)、N-メチル-N-ニトロソ-p-トルエンスルホンアミド(Diazald)、メチルN-メチル-N-ニトロソカルバマート、エチルN-メチル-N-ニトロソカルバマート、およびN-メチル-N-(2-メチル-4-オキソペンタン-2-イル)ニトロソアミド(Liquizald)からなる群から選択されるN-アルキル-N-ニトロソ化合物である、請求項1~のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項5】
上流の反応器において形成されるジアゾメタン前駆体化合物が二相の混合物の有機相に含有され、ジアゾメタン前駆体化合物を含有する有機相がオレフィン基質、触媒および有機溶媒と混合する前に、二相の混合物の水相から分離される、請求項1~4のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項6】
‐ 互いに流体連結する少なくとも2つの接続された反応器を含む、多段階連続的フロー反応器を提供すること;
‐ 反応の各段階において、反応生成物を形成することを導く条件下で、反応物の流体ストリームを方向づけられたフローにおいて反応器へ連続的に供給すること;
‐ 反応生成物の流体ストリームを反応器から連続的に排出すること、およびこれを連続した反応器に供給し、さらなる変換を受けて連続した反応生成物を形成すること;
のステップを含み、
反応器において反応生成物として形成されたジアゾメタン前駆体化合物が、前駆体化合物をジアゾメタンに変換することを導く条件下で、連続した反応器に連続的に供給されることを特徴とし、ここで該連続した反応器が、ジアゾメタンがこれと反応してシクロプロパン化化合物を形成するオレフィン基質を含有する、
請求項のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項7】
反応器から排出されるジアゾメタン前駆体化合物を、触媒、基質および溶媒と連続的に混合して有機相を形成し、連続した反応器において、この有機相を混合し、塩基を含有する水相と連続的に反応させ、それによってシクロプロパン化化合物を形成する、請求項に記載のプロセス。
【請求項8】
フロー条件下で行われる、請求項1~のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項9】
反応をマイクロ反応器において行う、請求項に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の分野
本発明は、ジアゾ化合物の生成およびさらなる変換のための改善された方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明の背景
ジアゾ化合物、ジアゾメタンは、化学合成において幅広く使用される反応性の高いガスである。とりわけ、シクロプロパンを形成するためにオレフィンとの環化付加反応において使用されてきた。残念ながら、ジアゾメタンは、爆発性、強力な発がん性でもあり、ならびにアレルギー性および毒性であり、工業的に有用な化合物の大規模合成におけるより広い採用に影響する、安全な取り扱いが難しいという問題がある。
【0003】
先行技術は、有機合成化学におけるジアゾメタンなどのジアゾ化合物の安全な取り扱いに関する問題を取り上げている。とりわけ、US 9,249,088においてPoechlauerは、ジアゾ化合物の連続的形成および連続的反応のためのプロセスを記載している。Poechlauerは、より具体的には、塩基の存在下で、ジアゾメタンの前駆体化合物(例えば、N-メチル-N-ニトロソ尿素)が連続的に形成され、連続的にジアゾメタンに変換されるフロープロセスを記載している。溶媒中のジアゾメタンは、疎水性膜を介してそれが形成される反応器から連続的に除去され、第2のフロー反応チャンバーに供給される。第2のフロー反応チャンバーは、形成されたジアゾメタンと反応性である基質を含有し、基質およびジアゾメタンが反応して所望の反応生成物を形成する。
【0004】
Poechlauerによれば、この連続的なプロセスは、相対的に低レベルのジアゾメタン(ならびに同様に毒性を有するその前駆体化合物)のみがフロー反応器内に形成されることを保証する。これは、大きな常在濃度のジアゾメタン(ならびにその前駆体化合物)の形成を伴う先行技術のバッチプロセスよりも改善されたことを表す。それにもかかわらず、Poechlauerのアプローチの問題点は、第1の反応器でジアゾメタンを形成し、膜を越えて第2の反応器に移動し、ここでそこに提供された基質とそれが反応することを教示していることである。換言すれば、このプロセスは必然的に、膜の片側に濃縮した危険なジアゾメタンを形成し、膜を超えたジアゾメタンの大量の移動を伴うが、これは瞬間的なものではなく、何らかの理由で膜を横切る通過がブロックされるか、または妨げられる場合はなおさらである。
【0005】
さらに、第1の反応器において形成されたジアゾメタン(ならびにその前駆体化合物)と、第2の反応器で反応させようとする基質との間に膜を介在させることは、ジアゾメタンが形成されて膜を通過する速度と、膜を通過した後に基質と反応する速度のバランスをとる必要があり、反応器から未反応のまま排出されるのではなく、完全に消費されるようにする必要があるというプロセス工学的な複雑さを生み出す。
【0006】
ジアゾ化合物、とりわけジアゾメタンを連続的に形成し、オレフィンなどの好適な基質と連続的に反応させるための改善されたプロセスを提供し、ジアゾ化合物の良好な変換および所望の反応生成物の非常に高い収率を確実にする必要がある。理想的には、ジアゾ化合物前駆体ならびにジアゾ化合物自体を定量的に変換し、これらの反応物による所望の反応生成物の混入を避ける必要がある。所与の反応の過程で生成されたジアゾ化合物/前駆体の総貯蔵量が、必然的に危険レベル内にあるかもしれないが、それにもかかわらず、いずれの時点においても、または反応器のいずれの領域または段階においても、ジアゾ化合物/前駆体化合物の濃度は、安全ではないおよび/または爆発性のレベルに達しないことを確実にすることによって、ジアゾ化合物およびその前駆体化合物の安全な取り扱いを保証するための改善されたプロセスも必要である。
【発明の概要】
【0007】
本発明の概要
本出願人は先行技術における欠陥に対処し、および本発明に従って、多段階連続的フロー反応器において、ジアゾメタンなどのジアゾ化合物を連続的に形成し、次いで基質によって消費され、ジアゾ化合物の存在に関連するあらゆる危険性なく、多段階連続的フロー反応器から排出することができるジアゾ化合物および基質の反応生成物を生成し、および反応の間、ジアゾ化合物は、同じ反応チャンバーにおいて形成され、かつ基質とさらに反応し、それによって該反応生成物を生成する、プロセスを提供する。
【0008】
結果的に、本発明は、第1の側面において、互いに流体連結する少なくとも2つの接続された反応器(反応チャンバーとも称される)を含む多段階連続的フロー反応器において、ジアゾ化合物および基質の反応生成物(いわゆる「ジアゾ反応生成物」)の連続的生成のためのプロセスであって、ここで多段階順序の各段階において形成される反応生成物は、それが形成される上流の反応器(または上流の反応チャンバー)から連続的に排出され、および連続的な流体ストリームとして、下流の反応器(または下流の反応チャンバー)へ供給され、すると、これはさらなる変換を受けることができ、プロセスは、上流の反応器(上流の反応チャンバー)において連続的に形成されるジアゾ化合物の前駆体化合物が、ジアゾ化合物への変換を導く条件下で、上流の反応器(上流の反応チャンバー)から下流の反応器(下流の反応チャンバー)へ連続的に排出されることを特徴とし、およびここで該下流の反応器(下流の反応チャンバー)が、ジアゾ化合物が反応して、ジアゾ反応生成物を形成する基質を含有する、前記プロセスを提供する。
【0009】
さらにまた、別の側面において、本発明は、本明細書に記載の上記プロセスを実施するために好適な多段階連続的フロー反応器である装置を提供する。
【0010】
本発明の詳細な説明
本発明の利点は、ジアゾ化合物が形成される同じ反応チャンバーに含有される基質を本質的に反応停止媒体として使用することにある。このように、ジアゾ化合物が形成された後、実質的に即時に基質によって消費され、ジアゾ反応生成物が形成されることを保証する。これにより、連続的な反応の全過程において大量のジアゾ化合物が形成される一方で、どの時点においても、また反応チャンバーまたは多段式連続流反応器のどの位置にも、危険な濃度のジアゾ化合物が存在しないことを保証する。
【0011】
本発明において有用なジアゾ化合物は、末端官能基として2個の連結した窒素原子を有するあらゆる化合物であり得る。これらの化合物の単純な形態は、ジアゾメタン、ジアゾエタンまたはジアゾアセタートを包含し、これらはすべて本発明における試薬として有用であり、とりわけジアゾメタンが使用される。
【0012】
ジアゾ化合物と反応し、所望されるジアゾ反応生成物を形成するために用いられる好適な基質は、オレフィン、アルデヒド、ケトン、環状のケトン、カルボン酸等を包含する。本発明における基質として具体的に関心があるのは、オレフィンであり、より具体的にジ-オレフィンまたはポリオレフィンであり、好ましくは少なくとも1つの末端(一置換)二重結合を有する。具体的に有用なオレフィンは、参照により本明細書に組み込まれるUS 9,718,741に記載されており、イソプレン、ミルセン、ファルネセンおよびβ-スプリンゲン(ファルネセンのジテルペノイド類似体)などのより具体的にポリプレーンタイプのオレフィン、具体的にファルネセンを含む。
【0013】
ジアゾ化合物前駆体は、当該技術分野において周知であり、典型的には、N-アルキル-N-ニトロソ化合物を包含する。アルキル基は、典型的にはメチルであるが、エチル類似体、またはプロピル、ブチル等々などの線状または分枝状であり得、置換または非置換であり得るより高級アルキル類似体を包含し得る。具体的に有用な前駆体化合物は、これらに限定されないが、N-メチル-N-ニトロソ尿素(MNU)、N-メチル-N-ニトロソ-p-トルエンスルホンアミド(Diazald)、メチルメチル(ニトロソ)カルバマート、エチルメチル(ニトロソ)カルバマート、およびN-メチル-N-(2-メチル-4-オキソペンタン-2-イル)ニトロソアミド(Liquizald)を包含し、Liquizaldは具体的に好ましい前駆体化合物を表す。
【0014】
本明細書において上で言及されたN-アルキル-N-ニトロソ前駆体化合物は、典型的に、対応するN-アルキル化合物、例えば、アルキルアミン、またはアルキルアミンの誘導体、例えばメチル尿素が、亜硝酸ナトリウムなどの亜硝酸イオンの水溶液、および有機酸または鉱酸の作用によってニトロソ誘導体に変換されるときに形成される。
【0015】
N-アルキル化合物またはその誘導体の例は、市販であるか、または市販の出発材料から調製することができる。具体的なN-アルキル化合物は、これらに限定されないが、N-メチル尿素、N-メチル-トルオールスルホニルアミド、エチルメチルカルバマート、および4-メチル-4-(メチルアミノ)ペンタン-2-オン、とりわけ4-メチル-4-(メチルアミノ)ペンタン-2-オンを包含する。
【0016】
本発明のプロセスは、連続的なプロセスであり、これは、プロセスが、試薬、反応物、溶媒または同種のものを含有する、1以上の連続的な流体ストリームを管を通して反応器(または反応チャンバー)へ供給することを伴い、それによって、該流体ストリームが互いに接触し化学的反応を起こし、形成された反応生成物を流体ストリームに連続的に排出することができ、任意にさらなる接続された反応器(または反応チャンバー)へ渡すことを意味する。これは、反応混合物または反応生成物のかなりの量が、反応混合物または反応生成物を排出することができる選択の瞬間まで反応槽内に保持されるバッチ式反応と対照的である。
【0017】
さらにまた、本発明に従うプロセスは多段階反応として実行してもよく、これは、ジアゾ反応生成物が、複数の連続した反応段階を用いて形成され、ここで反応の各段階の間、前の段階で形成された反応生成物が、これが生成された反応器(または反応チャンバー)から排出され、連続した反応器(反応チャンバー)に反応物として供給され、それによってさらなる化学的変換を受け、このプロセスが、ジアゾ反応生成物が生成されるまで繰り返されることを意味する。
【0018】
本発明に従うプロセスは、連続的なフロー条件のために設定された、あらゆる形態の反応器において実施することができる。マイクロ反応器などの連続的フロー反応器は、とりわけ、本発明に従って有用である。マイクロ反応器は、本質的に小型化されたフロー反応器であって、大抵チューブの形態であり、ほとんどの場合、チップ上またはチップ内に配置された、約1mmまでのマイクロメートルで測定される特徴的な管の直径を有する管を有する。かかる反応器は、当該技術分野において周知であり、本明細書において詳細な記載は必要とされないが、特にアップスケーリングを考慮する場合、管の直径を、センチメートルではなくてもミリメートルまで増大させることで、試薬、反応パートナー、溶媒および反応生成物の処理量を増大させることができることがよく理解さている。これらの寸法の範囲内において、単に「フロー反応器」という一般的な用語が使用され、対応する管の微細な構造または配置のあらゆる可能性を有する。代替的に、1つ以上のおよび原則として無制限のマイクロ反応器を並行して運転することも可能であり、これは元の単一のマイクロ反応器管の理論的な直径を増すことにもなる(いわゆる「拡大(outscaling)」)。
【0019】
多段階反応の具体的な段階において導入されることが意図される試薬、反応物、溶媒、または同種のものを、フィーダー管およびT-コネクターを用いて、流体ストリームを形成するために一緒に混合してもよく、混合物は、次いで単一のまたは複数の流体供給ストリームとして、さらなる管またはフロー反応器(または反応チャンバー)にさらに輸送され、ここで反応が起こり得、対応する反応生成物は反応器(または反応チャンバー)の出口を通って連続的に排出される。用語「反応器」および「反応チャンバー」は、交換可能である。ともに、全体的な多段階連続的フロー反応器の部分を表す。
【0020】
多段階プロセスにおいて、多段階連続的フロー反応器は、少なくとも2つの反応器または反応チャンバー、より具体的に少なくとも3つの反応器または反応チャンバー、およびさらにより具体的に少なくとも4つまたはそれ以上の反応器または反応チャンバーを含み、これらは接続され、互いに流体連結しており、それらの中へおよびそれらを通って、方向づけられたフローを適用することができる。反応器または反応チャンバーは、それぞれ、試薬および反応生成物夫々の流体ストリームを供給および排出するための入口および出口を備え、および反応器または反応チャンバーは、試薬、反応物、溶媒等が反応し、連続した反応生成物を形成する、内部の体積を規定する。
【0021】
フィーダー管およびT-コネクターは、温度、圧力などの最適な反応条件を制御するため、ならびに混合物の組成を制御するために、試薬、反応物、溶媒または同種のものを、混合し、供給し、および排出する様式を時間的におよび空間的の両方において制御するように組み立てることができ、それによって連続した反応生成物が、最適化された様式で形成されることを保証する。安全性および実施要件を満たすために、1以上の反応物、試薬、溶媒または同種のものが、最適化された時間的および分散された様式で、反応チャンバーへ供給されるプロセスが、本発明の具体的な目的である。
【0022】
本発明に従うプロセスは、オレフィン基質へのジアゾメタンの付加を引き起こして、基質上のオレフィン二重結合へのジアゾメタンの作用によって形成されたシクロプロパン官能基を含有するジアゾ反応生成物を提供することに、具体的に好適である。
【0023】
結果的に、具体的な本発明の側面において、シクロプロパン化化合物を生成する連続的なプロセスが提供され、当該プロセスは、
- 互いに流体連結する少なくとも2つ、より具体的に少なくとも3つ、およびよりさらに具体的に少なくとも4つまたはそれ以上の接続された反応チャンバーを含む、多段階連続的フロー反応器を提供すること;
- 反応の各段階において、反応生成物を形成することを導く条件下で、反応物、試薬、溶媒または同種のものの流体ストリームを方向づけられたフローにおいて、反応チャンバーへ連続的に供給すること;
- その反応チャンバーから、反応生成物の流体ストリームを連続的に排出し、連続した反応チャンバーにそれを供給し、さらなる変換を受けて連続した反応生成物を形成すること;
のステップを含み、反応チャンバーにおいて反応生成物として形成されたジアゾメタン前駆体化合物が、前駆体化合物をジアゾメタンに変換することを導く条件下で、その反応チャンバー(上流の反応器)から連続的に排出され、連続した反応チャンバー(下流の反応器)に連続的に供給されることを特徴とし、ここで該連続した反応チャンバーが、ジアゾメタンと反応して、所望されるシクロプロパン化化合物を形成するオレフィンを含有する基質を含有する、前記プロセス。
【0024】
本発明の態様において、シクロプロパン化化合物を形成するプロセスは、4-(アルキルアミノ)-4-メチルペンタン-2-オン、またはとりわけ4-メチル-4-(メチルアミノ)ペンタン-2-オンなどのN-アルキル化合物誘導体を反応生成物として形成することを導く条件下で、メシチルオキシドを含有する有機相およびアルキルアミンを含む水相を含む反応混合物の連続的な流体ストリームを第1の反応チャンバーへ供給するステップを含む。
【0025】
本発明の態様において、第1の反応チャンバーにおいて形成された、4-(アルキルアミノ)-4-メチルペンタン-2-オンなどの、および例えば4-メチル-4-(メチルアミノ)ペンタン-2-オンなどのN-アルキル化合物誘導体を含む有機相を、酸、および亜硝酸イオンを含む水相と混合して、反応混合物を形成し、この反応混合物の連続的なストリームを、反応生成物としてジアゾメタン前駆体N-メチル-N-(2-メチル-4-オキソペンタン-2-イル)亜硝酸アミド(Liquizaldとしても知られる)を形成することを導く条件下で、第1の反応チャンバーの下流の連続した反応チャンバーへ供給する。
【0026】
本発明の態様において、反応チャンバーにおいて形成されたN-メチル-N-(2-メチル-4-オキソペンタン-2-イル)亜硝酸アミド(Liquizald)を含み、水相から相分離によって分離した有機相を、ジアゾメタンの形成を導く条件下で、連続した反応チャンバーにおいて、オレフィン基質、パラジウム触媒および好適な塩基を含有する水相と混合し、ここで、形成したジアゾメタンが、オレフィン基質と反応してシクロプロパン化化合物を形成し、これは、反応チャンバーから連続的な流体ストリームとして排出される。
【0027】
以下の図は、本発明または本発明の特定の側面をさらに説明するために役立つ:
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】「ジアゾ反応生成物」の連続的生成のためのプロセスのために好適な多段階連続的フロー反応器の略図。
図2】フロープロセスにおいて、ジアゾ反応生成物が形成され、試薬の新たな添加モードが適用される、反応チャンバーの略図。
図3】フロープロセスにおいて、ジアゾ反応生成物が形成され、試薬のバッチに関連する添加モードが適用される、反応チャンバーの略図。
図4】「ジアゾ反応生成物」の連続的生成のためのプロセスに好適であり、複数の連続的撹拌タンク反応器(Continuously Stirred Tank Reactor:CSTR)および二相のセトラーをさらに含む、代替の多段階連続的フロー反応器の略図。
【0029】
前駆体化合物(例としてLiquizald)をジアゾメタンに、およびさらにジアゾ反応生成物に変換するプロセスにおいて、反応物および試薬の添加の順序が具体的に重要である。かかる合成ステップを、先行技術のバッチプロセスに説明されるように(例としてWO2015059290におけるように)実施する場合、トルエンなどの好適な有機溶媒中のLiquizaldは、ファルネセンなどのオレフィン二重結合を含有する基質、好適な触媒、例としてPd(acac)2、および塩基、例としてKOHを含む、激しく撹拌される二相の混合物に添加される。かかるバッチプロセスの代表的な例を、例(例1参照)に示す。しかしながら、連続的なフローを使用する本発明の方法においてこの添加順序を採用することには問題がある。より具体的に、これはLiquizaldの添加前に二相の混合物を予備混合およびポンピングする必要があるために、より多くの数のポンプおよびマイクロ反応器を必要とするという、装置セットアップにおいて追加の複雑さを生じさせる。さらにまた、反応は基質のより低い変換をもたらし、これは、反応器における、不均一な混合物のポンピングおよび貧弱な相混合におそらく起因しているであろう。これは、例においてさらに実証されており、およびより具体的に図3に従うセットアップを表す例7および8、ならびに図2および図3の比較において示されている。
【0030】
水相(例として水中のKOH)および有機相(トルエン中のPd(acac)2、LiquizaldおよびFarnesene)を、連続的に混合する添加順序は、変換の最適化および技術的なセットアップに関して、よりかなり効率的であり単純であることが見いだされた(図2)。反応器または反応チャンバーに対応する、単一のマイクロ反応器、および滞留ユニットにおけるこの反応の例を例2に示す。図2は、図1または図4における最後の反応チャンバーの配置を図示し、ここの中でジアゾ反応生成物が形成されるが、独立した連続的フロー反応器としてもみなすことができる。
【0031】
本明細書において上述したシクロプロパン化化合物を形成するための多段階プロセスにおけるステップは、有機および水相を含む二相の媒体において実施してもよい。一例として、4-メチル-4-(メチルアミノ)ペンタン-2-オンの形成後、プロセスの各段階の間に形成された連続した反応生成物は、有機相に可溶性または分散性である。したがって、所望される場合は、水溶性または分散性廃液または副生成物を、相分離技法を用いて有機相から連続的に分離することができる。
【0032】
前駆体化合物-Liquizald-の水相からの分離は、具体的に重要であり、これは、Liquizaldは酸性の条件下で形成され、一方でLiquizaldからのジアゾメタンの形成は、塩基性条件の下で二相の混合物において実行されるからである。結果的に、Liquizaldを反応チャンバーに連続的に供給して、ジアゾメタンを形成する前に、Liquizaldを含有する有機相を水相から好適な相分離手段によって分離することが所望され、およびこれに連続した合成ステップを行う前に、Liquizaldを含有する相から、好適な水性塩基の一部で洗浄することによって、酸の痕跡を除去することがさらに有益である。
【0033】
相分離および水性塩基での洗浄は、連続的なフロー条件下で、前駆体化合物(例としてLiquizald)を含有する二相の反応混合物を連続的撹拌タンク反応器(CSTR)などの連続的な抽出装置に通すことにより、実施することができる。マルチステップフロー順序における対流抽出の使用は、例えばK. P. Cole等によってScience 356, 1144-1150 (2017)に記載されている。理想的には、例えばLiquizaldの定常量を減少する、液-液分離器(LLS)および撹拌セル抽出器(ACX)で行うことができる抽出および洗浄、およびシクロプロパン化ステップのためのLiquizaldを含有する相の連続した反応器へ供給の間のLiquizaldの体積を小さくするためにCSTRは小型化される。液-液分離器(LLS)を使用する原理は、例えばZaiput Flow Technologiesなどの企業からの技術ノート、またはかかるLLSの使用を説明するマルチステップフロー刊行物に記載されている、例えばJ. Britton, C. L. Raston, Chem. Soc. Rev. 46, 1250-1271 (2017)参照。対流抽出のために撹拌セル抽出器を使用する原理は、一般に当該技術分野において周知あり、AM Technologyなどの企業からの技術ノート、またはかかる技法の原理を説明するレビューに記載されている、例えばF. Visscher, J. van der Schaaf, T. A. Nijhuis, J. C. Schouten, Chemical Engineering Research and Design 91, 1923-1940 (2013)参照。
【0034】
図1は、本発明の具体的に好ましい態様に従う、シクロプロパン化化合物の連続的生成のためのプロセスおよび装置の略図を描写し、この図および記載は、本発明をさらに説明することに役立つ。当該記載は、単純化のために、連続的なLiquizaldの合成、Farneseneのシクロプロパン化のためのその使用に言及するが、N-アルキル-N-(2-メチル-4-オキソペンタン-2-イル)亜硝酸アミド前駆体などのあらゆる他の前駆体化合物を作ることができ、およびあらゆる他のアルケン基質をシクロプロパン化のために使用することができる。以下の要素が、図1において配置されている:リザーバ101~107、ポンプ111~119、矢印で表される管内フロー、マイクロ反応器121、スタティック混合物を有する滞留コイル131、反応停止槽141、プラグフロー反応器151~152、液-液分離器(LLS)161、背圧レギュレータ171、撹拌セル抽出器(ACX)181、T-接合部191~194。
【0035】
図1を参照して:
- 第1のステップにおいて、メシチルオキシド(リザーバ101から、フィードAを介して、ポンプ111)およびメチルアミン(リザーバ102から、フィードBを介して、ポンプ112)は、T継手(191、T)およびプラグフロー反応器(151、pfr)において混合され、ここでこれらの成分が反応し、4-メチル-4-(メチルアミノ)ペンタン-2-オン(MOMA=メシチルオキシド/メチルアミン付加体)を形成する;
【0036】
‐ 第2および第3のステップにおいて、トルエン中の酸(リザーバ103から、フィードCを介して、ポンプ113)および水中の亜硝酸ナトリウム(リザーバ104から、フィードDを介して、ポンプ114)は、2つのこれに連続したT継手(192、Tおよび193、T)に添加され、すると、これらの成分は反応し、N-メチル-N-(2-メチル-4-オキソペンタン-2-イル)亜硝酸アミド(Liquizald)を、第3のT継手(193、T)およびこれに連続したプラグフロー反応器(152、pfr)において提供する。代替的に亜硝酸ナトリウムをまず添加し、次いで酸を添加する;
【0037】
‐ 第4のおよび第5のステップにおいて、ステップ3からの、その結果得られる二相の混合物を、液-液分離器(161、LLS、ステップ4)によって分離し、酸性の水性廃棄物を(背圧レギュレータ171を通して)除去する。有機相は前進し(ポンプ115)、および残余酸を、連続的な洗浄(ステップ5)によって撹拌セル抽出器(181、ACX)において除去し、ここへ水性塩基を添加する(リザーバ105からから、フィードEを介して、ポンプ116);
【0038】
‐ 第6のステップにおいて、Liquizaldを含有する有機層を、T継手(194、T)へポンプし(ポンプ117)、ここで、これをトルエン中のポリエン基質(Farnesene)および触媒と混合する(リザーバ106から、フィードFを介して、ポンプ118);
【0039】
‐ その結果得られるLiquizaldを含有する混合物を、マイクロ反応器(121)へポンプし、これを第7のステップにおいて、水性塩基と混合する(リザーバ107からから、フィードGを介して、ポンプ119)、すると、シクロプロパン化生成物が、マイクロ反応器121およびこれに連続した滞留コイル131において形成される。その結果得られるシクロプロパン化生成物混合物は、滞留コイルから反応停止溶液を含有する槽141へと方向づけられ、ここで二相の混合物を落ち着かせる。反応停止溶液は、安全性理由のために使用される。完全に変換されたLiquizaldおよびジアゾメタンの場合、反応停止は必要ではない。
【0040】
ステップ7の後、二相の混合物は、有機相中のシクロプロパン化化合物(ジアゾ反応生成物)および廃棄物混合物を含有する水相を含み、通常のバッチ-ワイズ分離によって分離することができ、それは、この混合物がいかなる未反応のLiquizaldおよび/またはジアゾメタンも含有しないことを保証するために、反応パラメータを調整することができるためである。任意に、フロー条件下での生成物のワークアップおよび精製で継続することももちろん実行可能である。
【0041】
以下に、本発明を説明するために役立つ一連の例が続く。以下の例は、本発明の好ましい態様を説明するために与えられる。これらの例は例示的なものであり、本発明はこれらに限定されるとは考えられないことが理解されるであろう。
【0042】
一般:
非極性GC条件:100℃、1min、240℃まで20℃/min、5min、240℃。HP 7890A Series GCシステムを備えたGCMS Agilent 5975C MSD。非極性カラム:Agilent TechnologiesからのHP-5、0.32mm×0.25mm×30m。キャリアガス:水素。インジェクタ温度:230℃。スプリット1:50。Liquizald80%(NMRによって判断)およびデカンでのGCキャリブレーション。rpa%=相対的なピーク面積。
【0043】
非極性GCMS-条件:50℃、2min、240℃まで20℃/min、270℃まで35℃/min。HP 7890A Series GCシステムを備えたGCMS Agilent 5975C MSD。非極性カラム:SGEからのBPX5、5%フェニル95%ジメチルポリシロキサン0.2mm×0.25mm×12m。キャリアガス:ヘリウム。インジェクタ温度:230℃。スプリット1:50。フロー:1.0ml/min。トランスファーライン:230℃。MS-四重極:150℃。MS-供給源:230℃。rpa%=相対的なピーク面積。
【0044】
例1(比較)
バッチ条件下でのシクロプロパン化反応を以下に示す:
【化1】
【0045】
トルエン中のLiquizald46%(18.3g、53mmol、1.7eq)を、45℃でおよび2hかけて、トルエン(27ml)中のFarnesene98%(6.4g、31mol)およびPd(acac)2(6.3mg、20μmol、0.065%)、および水(34ml)中のKOH(8g、0.12mol)の撹拌した二相の混合物に添加する。30分45℃で、およびGCで検出される完全な変換の後、反応混合物を酢酸(25ml)に注ぐ。相分離の後、有機相を、水で洗浄し、MgSO上で乾燥し、ろ過し、および溶媒を蒸発させる。茶オレンジ色の油(7g)は、GCに従って、92%Δ-Farnesene、8%のΔ-Farneseneを含有し、これは、GC-キャリブレーションした純度(84%)のΔ-Farneseneで、Farneseneに基づいて86%Δ-Farneseneの修正収率に相当する。
【0046】
【化2】
【0047】
例2
図2で表される、フロー条件下および0.065%Pd(acac)2での新しい添加モードのシクロプロパン化反応
機器:Sigma-Aldrich Microreaction Explorer Kit No. 19979-1kt, (c)2007, Version 1.02, Sigma Aldrich Production GmbH, Buchs, Switzerland。マイクロ反応プレート:MR #437383, Little Things Factory, Volume 0.7 ml, PTFE管、ホウケイ酸ガラス、セラミック、最高内圧6.5bar。2つの100ml丸底フラスコ。反応停止として酢酸入りの200mlスルホン化フラスコ。1つの酢酸入りガス洗浄瓶および1つの安全瓶。2つのIsmatecポンプ。レジデンスコイル:1.25mステンレス鋼管、5mm内径、18ml体積、19のスタティックポリプロピレンミキサーが充填された。自作の滞留ユニットは、Fabian Ruethiからの学士研究 (“TPO continuously for Silvanone”、72 および124頁、Zuercher Hochschule fuer Angewandte Wissenschaften, 2012)に記載されている:1.25mステンレス鋼管管、5mm内径、18ml体積、19スタティックミキサーが充填された。スタティックミキサー:6.5mm長さ、4.8mm直径。ポンプ、マイクロ反応器および滞留コイルは、1.5mm内径のテフロン(登録商標)チューブで接合されている。
【0048】
フィードA:3.4ml/minでマイクロ反応器および滞留ユニットへポンプされる、トルエン(5ml)中の98%純度のFarnesene(6.4g、31mmol)、Pd(acac)2(6.3mg、0.02mmol.0.065mol%)[注記1]、およびトルエン(13ml)に予備混合したLiquizaldトルエン中33%(25.7g、53.6mmol、1.7mol-eq)。フィードB:2.2ml/minで、マイクロ反応器および滞留ユニットへポンプされる、3.5M水性のKOH(34ml、117mmol)。
【0049】
フィードA(リザーバ201から)およびフィードB(リザーバ202から)を、図2のセットアップを介して、外側を75℃および内温を70~60℃に温めた油浴内のマイクロ反応器221および滞留コイル231へポンプする(ポンプ211および212)[注記2]。生成物フロー(5.6ml/min、マイクロ反応器および滞留ユニットにおける滞留時間3.3min)を、表面下でおよび冷却下で(HOAcの固化を避けるため10~20℃内温で)、酢酸(15g、0.25mol)を介して反応停止する(槽241内)[注記3]。二相の反応停止混合物を、分離漏斗に移し、相を分離し、有機相を水(100ml)で洗浄し、MgSO(30g)上で乾燥し、ろ過、減圧下で蒸発させる。粗Δ-Farnesene(6.9g)は、茶色油として、GC-およびNMR-キャリブレーションによる判断で、82.5%の純度で得られた[注記4]。この材料のGCMSは、Δ-Farnesene(92%rpa)およびΔ-Farnesene(8%rpa)への定量的変換およびLiquizaldの不在を示す。FarneseneからのΔ-Farneseneの収率(純度によって修正):84%[注記4]。Δ-FarneseneおよびΔ-Farneseneの分析データは、WO2015059290に記載されたものと同一であった。
【0050】
注記:
[1]触媒Pd(acac)2は、トルエンに可溶性である。
[2]マイクロ反応器中のセンサは、反応ストリームと接続されていない。
[3]マイクロ反応器における完全なシクロプロパン化を証明し、反応停止槽における可能な後反応を排除する必要があるため、純粋なHOAcを使用した。過剰のHOAc(使用したKOHに対して2×モル過剰)は、非塩基性の反応停止条件を保証した。窒素は、ジアゾメタンの制御された分解によってマイクロ反応器内で生成され、反応停止槽から純粋なHOAcで満たされた洗浄ボトルを介して導かれる。NMRにより、同じ洗浄ボトルを使用していくつかの同様の最適化実験を行った後にのみ、痕跡量のMeOAc(~0.02%)が洗浄ボトルから検出された。反応停止溶液は安全性の理由のために適用することができる。完全に変換されたLiquizaldおよびジアゾメタンの場合、反応停止は必要ではない。
[4]Δ-Farneseneの含量は、NMR-およびGC-キャリブレーションによって82.5%と判断された。
【0051】
例1(バッチ反応)および例2(フロー反応)の比較は、他の点で同一の条件下で、収率および純度は、バッチおよびフロー条件下において同様(2%の誤差内)であることを示す。
【0052】
例3
例2に記載のフロー反応を、大体同一の条件下で、同じ機器においてであるが、滞留ユニットなしで、繰り返した:
フィードA:1.7ml/minで滞留ユニットを有さないマイクロ反応器へポンプされる、トルエン(18ml)に予備混合した、トルエン中の、98%純度のFarnesene(6.76g、32mmol)、Pd(acac)2(6.5mg、21μmol、0.065mol%)およびLiquizald38%(23.34g、55.3mmol、1.7mol-eq)。フィードB:1ml/minで滞留ユニットを有さないマイクロ反応器へポンプされる、3.5M水性のKOH(33ml、114mmol)。
【0053】
フィードAおよびフィードBを、75℃外側および70~60℃内温に温めた油浴内のマイクロ反応器にポンプする(例2に記載されるように、連続しているが、滞留コイルを有しない)。生成物フロー(2.7ml/min、マイクロ反応器における滞留時間15sec)を、表面下でおよび冷却下で(10~20℃で)、酢酸(15g、0.25mol)を介して反応停止する。完全な反応停止の30分後に取ったGCは、Liquizald(26%)、Farnesene(67%)およびΔ-Farnesene(7%)を示す。
【0054】
この実験は、滞留ユニットが不在であることに起因して、滞留時間が20倍短縮され、FarneseneおよびLiquizaldのΔ-Farneseneへの変換を大幅に減少することを示す。
【0055】
例4
例2に記載のフロー反応を1.2mol-eqのLiquizald(1.7mol-eq対Farneseneの代わり)で実施した:
【0056】
フィードA:3.4ml/minで、マイクロ反応器および滞留ユニットへポンプされる、トルエン(22ml)に予備混合した、トルエン中の、98%純度のFarnesene(8.96g、43mmol)、Pd(acac)2(8.8mg、0.03mmol)およびLiquizald40%(20.8g、52.6mmol)。フィードB:1.4ml/minでマイクロ反応器および滞留ユニットへポンプされる、1.75M水性のKOH(23ml、40mmol)。
【0057】
フィードAおよびフィードBは、図2のセットアップを介して、75℃外側および70~60℃内温に温められた油浴内のマイクロ反応器および滞留コイルにポンプする。生成物フロー(4.8ml/min、滞留時間4min)を、表面下および冷却下(10-20℃)で酢酸(15g、0.25mol)を介して反応停止する[注記3]。二相の反応停止混合物を、分離漏斗に移し、相を分離し、有機相は、水(100ml)で洗浄し、MgSO(30g)上で乾燥させ、ろ過しおよび減圧下で蒸発させた。粗Δ-Farnesene(11.6g)は、茶色油として、GC-およびNMR-キャリブレーションによる判断で66%の純度で得られた]。この材料のGCMSは、Δ-Farnesene(85%rpa)およびΔ-Farnesene(6%rpa)への91%変換およびLiquizaldの不在を示す。FarneseneからのΔ-Farneseneの収率(純度によって修正):82%。
【0058】
例2と比較して、この結果は、より少ないLiquizald(Liquizald/Farnesene比率、1.7の代わりに1.2)で、Farneseneの変換は、それでも豊富であり、Δ-Farneseneのcorr.収率(82%)は、より多い(1.7eq)Liquizaldを使用して得られたそれ(例2における84%)にそれでも匹敵する。ビス-シクロプロパン化副生成物は再利用することができないのに対し、変換されていないFarneseneは、Δ-Farneseneからの蒸留分離の後、基質として再利用することができるため、不完全な変換は、Δ-Farneseneへの過剰なシクロプロパン化よりは許容し得ることを、ここで言及しなければならない。
【0059】
例5
例2において説明したフロー反応を、0.02%触媒(0.065%触媒の代わりに)で実行した。
フィードA:1.7ml/minでマイクロ反応器および滞留ユニットへポンプされる、トルエン(24ml)に予備混合される、トルエン中の98%純度のFarnesene(6.48g、31mmol)、Pd(acac)2(2mg、6.4μmol)およびLiquizald43%(19.8g、54mmol、1.7eq)。フィードB:1.1ml/minでマイクロ反応器および滞留ユニットへポンプされる、3.55M水性のKOH(34ml、120mmol)。
【0060】
フィードAおよびフィードBを、例2および図2において説明したように、マイクロ反応器および滞留コイルへポンプする。総フロー:2.8ml/min。滞留時間:6.5min。生成物フローを、酢酸を介して表面下で反応停止する。完全な反応停止の30分後に取ったGCは、Δ-Farnesene(77%rpa)およびΔ-Farnesene(4%rpa)への82%変換およびLiquizaldの不在を示す。
【0061】
この例は、より低い触媒濃度(0.065mol%の代わりに0.02)においても、許容し得る変換が、フローにおいて得られることを示す。
【0062】
例6
例5において説明したフロー反応を、バッチモードにおいて実行した。
トルエン中のLiquizald37%(23.1g、53mmol、1.7eq)を、45℃で2hかけて、トルエン(27ml)中のFarnesene98%(6.4g、31mol)およびPd(acac)2(2mg、6.3μmol、0.02%)、および水(34ml)中のKOH(8g、0.12mol)の撹拌した二相混合物へ、添加する。完全な反応停止の30分後に取ったGCは、Δ-Farnesene(70%)、Δ-Farnesene(4%)および別のモノシクロプロパン化副生成物(2%)への78%変換を示す。
【0063】
バッチ(例6)およびフローモード(例5)の結果の比較は、フロー条件下で得られた変換および純度(77%rpaを有する82%Δ-Farnesene)は、バッチ条件下で得られたそれよりも(70%rpaを有する77%Δ-Farnesene)より優れなくとも、少なくとも同程度に良好であることを示す。
【0064】
例7
0.065%触媒/基質比率で、および図3で表されるバッチ-(例1)に関する添加モードを用いた、フロー条件下のシクロプロパン化反応:
機器:例2におけるようであるが、(1つの代わりに)2つのマイクロ反応器および(2つの代わりに)3つポンプ。
【0065】
フィードA:1.5ml/minでポンプされる、トルエン(13ml)中の、98%純度のFarnesene(6.3g、31mmol)、Pd(acac)2(6.2mg、0.02mmol.0.065mol%)。フィードB:2.2ml/minでポンプされる、3.5M水性のKOH(34ml、118mmol)。フィードC:1.9ml/minでポンプされる、トルエン中のLiquizald33.5%(24.9g)およびトルエン(1ml)。
【0066】
フィードA(リザーバ301から)およびフィードB(リザーバ302から)を、図3のセットアップを介して、第1のマイクロ反応器(321、mrx 1)へポンプし(ポンプ311および312)、ここで二相の混合物が予備形成される。第1のマイクロ反応器から、フロー(3.7ml/min)は、第2のマイクロ反応器(322、mrx 2)へ方向づけられ、ここで、これがフィードC(リザーバ303から)と組み合わされ、これが、1.9ml/minで、第2のマイクロ反応器322へポンプされる(ポンプ313)。mrx 2から、フローが滞留コイル331へ方向づけられ、ここから、生成物フロー(5.6ml/min)を、表面下でおよび冷却下(10-20℃内温で、酢酸(15g、0.25mol)を介して、反応停止する(槽341)。例2において説明したワークアップは、変換されていないFarneseneおよび粗Δ-Farneseneの混合物(7g)を、茶色油として、GC-およびNMR-キャリブレーションによる判断で47%の純度で与える。この材料のGCは、Farnesene(44%rpa)、Δ-Farnesene(56%rpa)および痕跡量のLiquizaldおよびΔ-Farneseneを示す。FarneseneからのΔ-Farneseneの収率(純度によって修正):48%。
【0067】
この実験は、トルエン中のFarnesene、Pd(acac)2および水中のKOHの予備形成された2-相混合物にLiquizaldへ添加するバッチ例1の添加モードが、フロー条件下で2つの主な不利な点を有することを示す:
‐ より増した複雑さ(より多くのポンプおよびマイクロ反応器)
‐ Farneseneの有意により低下した変換(100%の代わりに56%)、これは恐らく、不均一な混合物(フィードA+フィードB)の第2のマイクロ反応器へのポンプに起因する。
【0068】
例8
0.02%触媒/基質比率のフロー条件下および図3で表されるバッチ(例1)に関する添加モードでのシクロプロパン化反応:
フィードA:0.74ml/minでポンプされる、トルエン(13ml)中の98%純度のFarnesene(6.4g、31mmol)およびPd(acac)2(1.9mg、0.02mmol、0.02mol%)。フィードB:1.1ml/minでポンプされる、3.5M水性のKOH(34ml、118mmol)。フィードC:0.96ml/minでポンプされる、トルエン中のLiquizald39%(21.3g)およびトルエン(5ml)。
【0069】
例7において説明したフロー反応を、同じ機器セットアップであるが、わずかに変更されたフィードおよび6.2mg(0.02mmol、0.065mol%)の代わりに2mg(6.4μmol、0.02mol%)Pd(acac)2で実施した。例2において説明したワークアップは変換されていないFarneseneおよび粗Δ-Farneseneの混合物(7g)を、茶色油として、GC-およびNMR-キャリブレーションによる判断で43%の純度で与えた。この材料のGCは、Farnesene(47%rpa)、Δ-Farnesene(50%rpa)、Δ-Farnesene(3%rpa)および痕跡量のΔ-FarneseneおよびLiquizaldを示す。FarneseneからのΔ-Farneseneの収率(純度によって修正):44%。
【0070】
【化3】
この実験は、例7におけるものと同様の効果を、より低い触媒濃度で示す。
【0071】
例9
図4で表されるマルチステップフロー実験。
機器:例2に記載され(図1によってあらわされる)フロー反応のようであって、いくつかの追加のデバイスを有する:
‐ 5つの追加の供給ポンプ(合計7つ)
‐ 6つの蠕動ポンプ
‐ 3つの追加のT-接合部(合計4つ)
‐ 2つのプラグフロー反応器(pfr)
‐ 追加の試薬、反応物および溶媒のための5つの追加のリザーバ(合計7つ)
‐ 二相セトラーを有する4つのCSTR(連続的撹拌タンク反応器)
‐ 2つの背圧レギュレータ
【0072】
ポンプ、T-接合部、マイクロ反応器、プラグフロー反応器およびCSTRは、テフロン(登録商標)チューブで接続される。T-接合部は、テフロン(登録商標)で作られ、例えば、Sigma-Aldrich(Merck)から入手可能である。プラグフロー反応器は、1.25mステンレス鋼管管である。スタティックミキサーが充填された滞留コイルは、例2において説明される。
【0073】
フィードA:メシチルオキシド(700g、7mol)。フィードB:水中のメチルアミン40%(580ml、7.5mol)。フィードC:700mlトルエン中の酸(11.4mol)。フィードD:水(820ml)中のNaNO(543g、7.6mol)。フィードE:水(1400ml)中の塩基25%。フィードF:Farnesene(640g、3mol)およびトルエン(550ml)中のPd(acac)2(0.2mg、0.65mmol.0.02mol%)。フィードG:3.5M水性のKOH(3400ml、11.7mol)。流速、滞留時間および管直径は、明確化のために省略する。
【0074】
フィードA(リザーバ401から)およびフィードB(リザーバ402から)を、上記のスキームのセットアップを介して、T-接合部T(491)および第1のプラグフロー反応器(451、pfr)へポンプし(ポンプ411および412)、ここでこれらの反応物は、メシチロキシドメチルアミン付加体(MOMA)へとマイケル付加を受け、これはT-接合部T(492)へ方向づけられ、ここで、トルエン中の酸(リザーバ403から、フィードCを介して)および水中のNaNO(リザーバ404から、フィードDを介して)を、2つのポンプ(413、414)を介して続いて添加する。T-接合部T(493)および第2のプラグフロー反応器(452、pfr)における、酸性ニトロ化の後、その結果得られるトルエンおよび水中の二相の混合物中のLiquizaldを、第1のCSTR(461a、連続的撹拌タンク反応器)および二相のセトラー(461b)へ供給し、ここで相を酸性の廃棄水ストリーム(背圧レギュレータ471を通る)およびトルエン中のLiquizaldストリームに分離し、これを数個の蠕動ポンプによって、次の3つのCSTR(462a、463a、464a)および対応する二相のセトラー(462b、463b、464b)に供給する。洗浄は、水性塩基(リザーバ405から、フィードE)に影響され、これは第4のCSTR(464a)およびその二相セトラー(464b)から、第3のCSTR(463a)およびその二相セトラー(463b)を介して、第2のCSTR(462a)へ向流方向にポンプされ(ポンプ415)、ここから、塩基性廃棄水ストリームは、二相セトラー(462b)および背圧レギュレータ472を通って廃棄される。トルエン中の酸-を含まないLiquizaldのストリームは、CSTR4(464a)の二相のセトラー464bからT-接合部T(494)へ方向づけられる(ポンプ416)。それと同時に、Farneseneおよび触媒Pd(acac)2(リザーバ406から、フィードF)は、T-接合部T(494)へポンプされ(ポンプ417)、均一な有機ストリームを与え、これは、スタティックミキサーが充填されたマイクロ反応器(421)および滞留ユニット(431)rcに方向づけられる。それと同時に、均一な水性塩基(リザーバ407から、フィードG)は、マイクロ反応器(421)および滞留ユニット(431、rc)へポンプされる(ポンプ418)。60℃で、スタティックミキサーが充填されたマイクロ反応器および滞留ユニットにおけるシクロプロパン化反応の後、生成物は、表面下で(槽441)および冷却下で、酢酸(1.5kg、22.5mol)を介して反応停止され、二相の反応停止混合物は、分離され、有機相を、水(10l)で洗浄し、減圧下で共沸乾燥し、蒸発させる。粗Δ-Farnesene(600g)は、Δ-Farnesene(3%rpa)および変換されていないFarnesene(16%rpa)を含む80%(GCrpa)の純度の茶色油として得られた。FarneseneからのΔ-Farneseneの収率(純度によって修正):78%。粗産物は蒸留によってさらに精製される。
図1
図2
図3
図4