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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-23
(45)【発行日】2024-07-31
(54)【発明の名称】安定化A/M/X材料
(51)【国際特許分類】
   C09K 11/08 20060101AFI20240724BHJP
   H01L 31/10 20060101ALI20240724BHJP
   H01L 31/08 20060101ALI20240724BHJP
   C09K 11/61 20060101ALI20240724BHJP
   C09K 11/85 20060101ALI20240724BHJP
   C09K 11/65 20060101ALI20240724BHJP
   C09K 11/66 20060101ALI20240724BHJP
   C09K 11/89 20060101ALI20240724BHJP
   C09K 11/75 20060101ALI20240724BHJP
   C09K 11/74 20060101ALI20240724BHJP
   C09K 11/87 20060101ALI20240724BHJP
   C09K 11/68 20060101ALI20240724BHJP
   C09K 11/80 20060101ALI20240724BHJP
   C09K 11/62 20060101ALI20240724BHJP
   C01G 21/00 20060101ALI20240724BHJP
【FI】
C09K11/08 G
H01L31/10
H01L31/08 Z
C09K11/61
C09K11/08 A
C09K11/85
C09K11/65
C09K11/66
C09K11/89
C09K11/75
C09K11/74
C09K11/87
C09K11/68
C09K11/80
C09K11/62
C01G21/00
【請求項の数】 25
(21)【出願番号】P 2021500802
(86)(22)【出願日】2019-07-12
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-09-13
(86)【国際出願番号】 GB2019051963
(87)【国際公開番号】W WO2020012195
(87)【国際公開日】2020-01-16
【審査請求日】2022-07-04
(31)【優先権主張番号】1811538.6
(32)【優先日】2018-07-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】516245900
【氏名又は名称】オックスフォード ユニバーシティ イノベーション リミテッド
【氏名又は名称原語表記】OXFORD UNIVERSITY INNOVATION LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】酒井 誠弥
(72)【発明者】
【氏名】ウェンガー,バーナード
(72)【発明者】
【氏名】スネイス,ヘンリー ジェームズ
【審査官】黒川 美陶
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第106848063(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第106654020(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第105870341(CN,A)
【文献】特開2009-137835(JP,A)
【文献】特開2019-215516(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0037815(US,A1)
【文献】国際公開第2018/000704(WO,A1)
【文献】特表2018-525776(JP,A)
【文献】Chun Sun,Highly luminescent, stable, transparent and flexible perovskite quantum dot gels towards light-emitting diodes,Nanotechnology,2017年,28,365601,DOI: 10.1088/1361-6528/aa7c86
【文献】Mu Yang,In situ silica coating-directed synthsis of orthorhombic methylammonium lead bromide pervskite quantum dots with high stability,Journal of Colloid and Interface Science,509,2018年,32-38,DOI: 10.1016/j.jcis.2017.08.094
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 11/00-11/89
H01L 33/50
H05B 33/
C01G 21/
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
安定化結晶質A/M/X材料を製造する方法であって、前記安定化結晶質A/M/X材料が、式[Z]pOqの酸化物及びペロブスカイトである式[A]a[M]b[X]cの化合物を含み、
前記安定化結晶質A/M/X材料が、式[A]a[M]b[X]cの化合物を含む複数の結晶子及び前記結晶子間の複数の粒界を含む多結晶質材料であり、式[Z]pOqの酸化物が粒界に沿って分布し
[式中、
[Z]は、少なくとも3eVのバンドギャップを有する酸化物を形成することができる少なくとも1種の元素Zを含み、それぞれの元素Zが、Al、Si、Zr、Ga、Ba、Nb、Mg、Y、Ti、Ni及びZnから選択され、
p及びqは正の数であり、
[A]は1種以上のAカチオンを含み、それぞれのAカチオンが、アルカリ金属カチオン、又はアミン、C16アルキルアミン、イミン、C16アルキルイミン、C16アルキル、C26アルケニル、C36シクロアルキル及びC612アリールから選択される1つ以上の置換基で置換されていてもよい、C110アルキルアンモニウム、C210アルケニルアンモニウム、イミニウム、C110アルキルイミニウム、C310シクロアルキルアンモニウム及びC310シクロアルキルイミニウムから選択され、
[M]は1種以上のMカチオンを含み、それぞれのMカチオンが、Li+、Na+、K+、Rb+、Cs+、Cu+、Ag+、Au+、Hg+、Ca2+、Sr2+、Cd2+、Cu2+、Ni2+、Mn2+、Fe2+、Co2+、Pd2+、Ge2+、Sn2+、Pb2+、Yb2+、Eu2+、Bi3+、Sb3+、Cr3+、Fe3+、Co3+、Ga3+、As3+、Ru3+、Rh3+、In3+、Ir3+及びAu3+から選択され、
[X]は1種以上のXアニオンを含み、それぞれのXアニオンが、F-、Cl-、Br-及びI-から選択され、
aは1~6の整数であり、
bは1~6の整数であり、
cは1~18の整数である]、
方法が、
(a)Aカチオンを含むA前駆体、及び
(b)Mカチオンを含むM前駆体
を、元素Zを含む酸化物前駆体で処理するステップを含み、
当該ステップは、1種以上のXアニオン源の存在下で処理し、A、M、及びX前駆体、並びに酸化物前駆体が独立して、溶解形態又は蒸気形態であるステップである、
方法。
【請求項2】
A前駆体、M前駆体及び酸化物前駆体が溶液中に存在する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記A前駆体及び前記M前駆体が第1の溶液中に存在し、前記第1の溶液がA前駆体、M前駆体及び第1の溶媒を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
第1の溶媒が、有機溶媒、好ましくはジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン、ガンマ-ブチロラクトン及びそれらの混合物である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記酸化物前駆体が第2の溶液中に存在し、前記第2の溶液が前記酸化物前駆体及び第2の溶媒を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
式[A]a[M]b[X]cの化合物が前記第2の溶媒に不溶性であり、好ましくは、第2の溶媒がトルエン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、アニソール、酢酸メチル、酢酸エチル、ジエチルエーテル及びクロロホルムのうちの1種である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
A前駆体及びM前駆体を酸化物前駆体で処理するステップが水の存在下で行われる、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
A前駆体及びM前駆体を酸化物前駆体で処理するステップの前に、A前駆体及びM前駆体を基材上に配置するステップを含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
それぞれの元素Zが、Al、Zr又はSiから選択され、好ましくはAlである、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
それぞれのAカチオンが、Cs+、Rb+、メチルアンモニウム、エチルアンモニウム、プロピルアンモニウム、ブチルアンモニウム、ペンチルアンモニウム、ヘキシルアンモニウム、ヘプチルアンモニウム、オクチルアンモニウム、ホルムアミジニウム、ベンジルアンモニウム、フェニルエチルアンモニウム、ベンジルアンモニウム、ナフチルメチルアンモニウム及びグアニジニウムのうちの1種以上から選択される、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
それぞれのMカチオンが、Cu+、Ag+、Au+、Sn2+、Pb2+、Cu2+、Ge2+、Ni2+、Bi3+及びSb3+から選択され、好ましくはPb2+又はSn2+である、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
それぞれのXアニオンが、Cl-又はBr-から選択される、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
[A]が2種以上の異なるAカチオンを含む、且つ/又は[X]が2種以上の異なるXアニオンを含む、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
A前駆体が、Aカチオン又はAカチオンのうち1種のハロゲン化物塩を含む、且つ/又はM前駆体が、Mカチオン又はMカチオンのうち1種のハロゲン化物塩を含む、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
酸化物前駆体が、式ZRnの1種以上の化合物を含み
[式中、nは1~6の数であり、
それぞれのRは独立して、置換されていてもよい、C110アルキル、C210アルケニル、C310シクロアルキル、C110アルキルオキシ、C210アルケニルオキシ、ヒドリド及びハライドから選択され、好ましくは、無置換の、C110アルキル、C210アルケニル、C310シクロアルキル、C110アルキルオキシ、C210アルケニルオキシ、ヒドリド及びハライドから選択される]、
好ましくは、
ZRnが有機金属化合物であり、式中、nが2~4の数であり、それぞれのRが独立して、無置換のC16アルキル及びC16アルキルオキシから選択され、好ましくはRがメチルであり、nが3である、
請求項1から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
酸化物前駆体がトリメチルアルミニウムである、請求項1から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記1種以上のAカチオンがモノカチオンであり、前記1種以上のMカチオンがジカチオンである、請求項1から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
式[A]a[M]b[X]cの化合物が式[A][M][X]3の化合物である、請求項1から17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
存在する任意の溶媒を安定化結晶質A/M/X材料から除去するステップをさらに含む、請求項1から18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記A前駆体及び前記M前駆体が第1の溶液中に存在し、前記第1の溶液がA前駆体、M前駆体及び第1の溶媒を含み、
前記酸化物前駆体が第2の溶液中に存在し、前記第2の溶液が前記酸化物前駆体及び第2の溶媒を含み、
第1の溶媒及び第2の溶媒を安定化結晶質A/M/X材料から除去するステップをさらに含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項21】
脂肪族リガンドの非存在下で行われる、請求項1から20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
安定化結晶質A/M/X材料であって、ペロブスカイトである式[A]a[M]b[X]cの化合物を含む複数の結晶子及び前記結晶子間の複数の粒界を含む多結晶質材料であり、式[Z]pOqの酸化物が粒界に沿って分布している[式中、
[Z]は、少なくとも3eVのバンドギャップを有する酸化物を形成することができる少なくとも1種の元素Zを含み、それぞれの元素Zが、Al、Si、Zr、Ga、Ba、Nb、Mg、Y、Ti、Ni及びZnから選択され、
p及びqは正の数であり、
[A]は1種以上のAカチオンを含み、それぞれのAカチオンが、アルカリ金属カチオン、又はアミン、C 1 6 アルキルアミン、イミン、C 1 6 アルキルイミン、C 1 6 アルキル、C 2 6 アルケニル、C 3 6 シクロアルキル及びC 6 12 アリールから選択される1つ以上の置換基で置換されていてもよい、C 1 10 アルキルアンモニウム、C 2 10 アルケニルアンモニウム、イミニウム、C 1 10 アルキルイミニウム、C 3 10 シクロアルキルアンモニウム及びC 3 10 シクロアルキルイミニウムから選択され、
[M]は1種以上のMカチオンを含み、それぞれのMカチオンが、Li + 、Na + 、K + 、Rb + 、Cs + 、Cu + 、Ag + 、Au + 、Hg + 、Ca 2+ 、Sr 2+ 、Cd 2+ 、Cu 2+ 、Ni 2+ 、Mn 2+ 、Fe 2+ 、Co 2+ 、Pd 2+ 、Ge 2+ 、Sn 2+ 、Pb 2+ 、Yb 2+ 、Eu 2+ 、Bi 3+ 、Sb 3+ 、Cr 3+ 、Fe 3+ 、Co 3+ 、Ga 3+ 、As 3+ 、Ru 3+ 、Rh 3+ 、In 3+ 、Ir 3+ 及びAu 3+ から選択され、
[X]は1種以上のXアニオンを含み、それぞれのXアニオンが、F - 、Cl - 、Br - 及びI - から選択され、
aは1~6の整数であり、
bは1~6の整数であり、
cは1~18の整数である]、安定化結晶質A/M/X材料。
【請求項23】
請求項22に記載の安定化結晶質A/M/X材料を含む粗粒粉末。
【請求項24】
請求項22に記載の安定化結晶質A/M/X材料を含む薄膜。
【請求項25】
請求項22に記載の安定化結晶質A/M/X材料、請求項23に記載の粗粒粉末又は請求項24に記載の薄膜を含む、光電子デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願に至ったプロジェクトは、Marie Sklodowska-Curie助成金契約番号:706552で欧州連合のホライズン2020の研究及びイノベーションプログラムからの資金を受けている。
【0002】
本発明は、酸化物及び式[A]a[M]b[X]cの化合物を含む安定化A/M/X材料を製造する方法、並びにこの方法によって得られ得る生成物に関する。本発明は、その全表面上に酸化物被膜を有する式[A]a[M]b[X]cの化合物の結晶を含む安定化結晶質A/M/X材料も提供する。本発明は、A/M/X材料を含む複数の結晶子及び結晶子間の粒界に沿って分布している酸化物を含む多結晶質材料である安定化結晶質A/M/X材料も提供する。本発明は安定化A/M/X材料を含む光電子デバイスにも関する。
【背景技術】
【0003】
電気エネルギーを光に及びその逆に変換する光活性半導体材料に対する世界的に大きな需要がある。このような材料は広範囲の半導体デバイスにおいて有用である。例えば、発光材料は、応用、例えば、ルミネセントスクリーン及び発光ダイオード(LED)の製造において有用である。光吸収材料は、太陽電池の製造において高い需要がある。
【0004】
有機種は現在、デバイス、例えば、発光デバイスの製造において広く使用されている。しかしながら有機種は、多くの場合可視スペクトルの青色領域において発光が弱いというデメリットを有する。有機LED(OLED)は典型的には、可視発光スペクトルの赤色及び緑色領域において最大で20%の変換効率を有する。しかしながらそれらは多くの場合、可視スペクトルの青色領域において最大で10%の変換効率しか達成することができない。この1つの重要な理由は、OLEDにおける高効率の赤色及び緑色の発光が一重項及び三重項励起子の放射再結合に依拠することである。一般に有機エミッターにおけるスピン禁制である三重項-三重項電子遷移は、リン光性金属錯体の導入によって可能になる。しかしながら、このような金属錯体は多くの場合、スペクトルの青色領域において利用できないか又は安定性及び効率性が欠如している。
【0005】
無機材料、例えばペロブスカイトでは、有機種と同程度までスピン禁制遷移が難しいということはない。そのため、可視スペクトルの青色領域において強く発光することができる無機光活性材料の提供にはかなりの関心が存在する。
【0006】
しかしながら、安定であり、かつ可視スペクトルの青色領域において強く発光する無機材料の提供はこれまでにかなりの困難に直面している。多くの興味深い無機材料は、光、酸素及び湿気に曝露された場合に化学分解を受けることが見出されている。加えて、このような材料の発光の波長が経時的に変化することが見出されており、これは通常、照明及びディスプレイ用途では許容されず、したがって、このような材料の商業的用途を制限する。
【0007】
ペロブスカイト材料、特にハロゲン化鉛ペロブスカイトは、高発光性の半導体材料であるため、光活性材料として望ましい候補である。ハロゲン化鉛ペロブスカイトは、式APbX3の材料[式中、Xは1種以上のハライドである]である。しかしながら今までのところ、青色発光スペクトルを有する最も高発光性のペロブスカイト(「高発光性ペロブスカイト」とは薄膜において20%以上の放射外部量子効率を有するペロブスカイトを意味する)には前述の問題がある。特に、それらは光及び空気中で安定性が不十分であることが示されている。
【0008】
例えば、「Blue-green color tunable solution processable organolead chloride-bromide mixed halide perovskites for optoelectronic applications」、Sadhanalaら、Nano Letters、15巻(9号)、6095~6101頁という論文は、ペロブスカイトMAPbBr3への塩化物イオンの添加がその光ルミネセンスの寿命に害を及ぼすことを明確に示している。すなわち、塩化物の存在は、ペロブスカイト中の欠陥濃度を増加させ、その光ルミネセンスの寿命を減少させる。
【0009】
ペロブスカイト材料の安定性が不十分であることに対する解決手段として可能なものは、国際公開第2017/001542号の出願において提案されている。この文献は、ペロブスカイト結晶を含む膜上にカプセル化マトリックス又は層を堆積させる方法を記載している。この技法は、トリメチルアルミニウム(TMA)を使用して、個々のペロブスカイト結晶の表面上で架橋脂肪族リガンドによってペロブスカイトCsPbBr3の緑色発光ナノ粒子をカプセル化するために使用される。同じ技法が、ペロブスカイトCsPb(Br1-xIx)3の赤色発光ナノ粒子をカプセル化するためにも使用される。カプセル化された緑色及び赤色ナノ粒子は、カプセル化において良好な光ルミネセンス量子効率を保持することを示す。しかしながら、式CsPb(Br1-xClx)3の青色発光ペロブスカイトをカプセル化するのを試みたところ、困難に直面した。これらの種の光ルミネセンス量子効率が、カプセル化の際に著しく減少することが見出された。また、放射の際に、この種の発光波長プロファイルが赤色の方に著しくシフトすることが見出された。発光スペクトルにおけるこの赤色シフトは、ハライドの分離に起因する(Liら、「Highly efficient perovskite nanocrystal light-emitting diodes enabled by a universal crosslinking method」、Adv. Mater.、28巻、3528~3534頁、2016年)。
【0010】
国際公開第2017/001542号の方法に関してさらに困難なのは、気相堆積ステップが必要なことである。このステップは、光活性材料のためにペロブスカイトを製造する方法を複雑にし、製造、例えば光電子デバイスの製造のための印刷技法と適合しない。また、ペロブスカイトはカプセル化ステップが行われる前に分解する場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】国際公開第2017/001542号
【文献】国際公開第2017/001542号
【非特許文献】
【0012】
【文献】Sadhanalaら、Nano Letters、15巻(9号)、6095~6101頁
【文献】Adv. Mater.、28巻、3528~3534頁、2016年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ペロブスカイトの性能劣化は、太陽電池の製造などの用途において望ましくなく、吸収の開始波長のわずかな変化が、性能の劇的な喪失をもたらし得る。したがって、安定な青色発光材料、例えば、ペロブスカイトを提供するために使用することができる、安定化材料、特にペロブスカイト材料を製造する簡素な方法に対する必要性が依然としてある。このような方法によって得られるA/M/X材料に対する必要性も残されている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らはここで、優れた安定性、したがって並外れた長寿命を有する結晶質A/M/X材料を調製するための新たな技法を提供する。この方法は、結晶質A/M/X材料の関連前駆体を酸化物前駆体に曝露するステップを含む。したがって、酸化物前駆体はA/M/X材料の形成の間に存在し、A/M/X材料の上に安定化する酸化物をすぐに形成する。この酸化物によって安定化されたA/M/X材料と一緒に酸化物が形成されると、環境因子、例えば、水及び酸素に対する安定化A/M/X材料のための即時保護を提供すると推測される。これは、本発明の方法の生成物において観察される優れた安定性をもたらし得る。
【0015】
したがって、本発明は、安定化結晶質A/M/X材料を製造する方法であって、安定化結晶質A/M/X材料が、式[Z]pOqの酸化物及び式[A]a[M]b[X]cの化合物を含み
[式中、
[Z]は、少なくとも3eVのバンドギャップを有する酸化物を形成することができる少なくとも1種の元素Zを含み、
p及びqは正の数であり、
[A]は1種以上のAカチオンを含み、
[M]は1種以上のMカチオンを含み、
[X]は1種以上のXアニオンを含み、
aは1~6の整数であり、
bは1~6の整数であり、
cは1~18の整数である]、
方法が、
(a)Aカチオンを含むA前駆体、及び
(b)Mカチオンを含むM前駆体
を、元素Zを含む酸化物前駆体で処理するステップを含む、
方法を提供する。
【0016】
本発明の方法は、好都合には溶液中で行われ得る。溶液相の方法は、それらがより高価な真空装置に対する必要性を回避することができ、高忠実性の印刷に適合するので、気相の方法と比べて有利である。したがって、本発明の好ましい方法において、A前駆体、M前駆体及び酸化物前駆体のそれぞれは溶液中に存在する。
【0017】
本発明のさらなる驚くべき利点は、以前のコーティング技法とは違い、光ルミネセンスの過度の喪失又は青色領域から離れる発光波長のシフトを引き起こすことなく、青色発光結晶質A/M/X材料を安定化するために使用することができることである。実際に、安定化A/M/X材料が青色発光材料であるいくつかの実施形態において、安定化A/M/X種は、安定化する酸化物の存在なしの対応するA/M/X種と同じ又はさらに良好な光ルミネセンス量子収量(PLQY)を有する。
【0018】
したがって、本発明の方法の好ましい実施形態において、安定化A/M/X材料は、可視スペクトルの青色領域、例えば500nm以下、好ましくは495nm以下又は490nm以下の波長で発光する。発光スペクトルが460~480nmの間に最大値を有することが特に好ましい。例えば、いくつかの実施形態において、安定化A/M/X材料は、式[A][M][X]3のA/M/X材料[式中、[A]は2種以上の異なるAカチオンを含み、及び/又は[X]は2種以上の異なるXアニオンを含む]を含む。
【0019】
本発明は、本発明の方法によって得られ得る及び/又は得られる生成物も提供する。
【0020】
本発明は、式[A]a[M]b[X]cの化合物の結晶を含む安定化結晶質A/M/X材料であって、結晶がその全表面上に式[Z]pOqの酸化物被膜を有する[式中、
[Z]は、少なくとも3eVのバンドギャップを有する酸化物を形成することができる少なくとも1種の元素Zを含み、
p及びqは正の数であり、
[A]は1種以上のAカチオンを含み、
[M]は1種以上のMカチオンを含み、
[X]は1種以上のXアニオンを含み、
aは1~6の整数であり、
bは1~6の整数であり、
cは1~18の整数である]、
安定化結晶質A/M/X材料をさらに提供する。
【0021】
安定化結晶質A/M/X材料は多結晶質であってもよい。したがって、本発明は、安定化結晶質A/M/X材料であって、式[A]a[M]b[X]cの化合物を含む複数の結晶子及び前記結晶子間の複数の粒界を含む多結晶質材料であり、式[Z]pOqの酸化物が粒界に沿って分布している[式中、
[Z]は、少なくとも3eVのバンドギャップを有する酸化物を形成することができる少なくとも1種の元素Zを含み、
p及びqは正の数であり、
[A]は1種以上のAカチオンを含み、
[M]は1種以上のMカチオンを含み、
[X]は1種以上のXアニオンを含み、
aは1~6の整数であり、
bは1~6の整数であり、
cは1~18の整数である]、
安定化結晶質A/M/X材料をさらに提供する。
【0022】
本発明の安定化結晶質A/M/X材料は、その光ルミネセンスの特徴を非常に長時間にわたって維持することができることを意味する、非常に優れた安定性を有する。例えば、本発明の安定化A/M/X材料は、高温で全スペクトルの模擬フルスペクトルに曝露されている間、減衰することなく6000時間にわたって15%を上回る光ルミネセンス量子収量を維持することが示されている(図5を参照のこと)。
【0023】
また、[A]、[M]及び[X]の選択並びにそれらの相対的な割合に応じて、本発明の安定化結晶質A/M/X材料は、驚くべき高い光ルミネセンス量子収量、及び当然ながら優れた安定性で可視スペクトルの青色領域において発光することができる。例えば、本発明の安定化A/M/X材料は、12%を超える量子収量で300時間の間にわたって475nmで発光することが示されている。それに反して、非安定化A/M/X材料(酸化物を含まない)は、この波長で8%以下のPLQYを明らかにし、これは測定の期間内に1%以下まで減衰する(図7を参照のこと)。
【0024】
したがって、好ましい態様において、本発明の安定化結晶質A/M/X材料は、式[A][M][X]3のA/M/X材料[式中、[A]は2種以上の異なるAカチオンを含み、及び/又は[X]は2種以上の異なるXアニオンを含む]を含む。この実施形態の特に好ましい態様において、[A]は2種の異なるAカチオンを含み、1方がCs+であり、他方がRb+である。このような安定化A/M/X材料は強い青色エミッターである。
【0025】
本発明の安定化A/M/X材料は、任意の形態で提供し得る。例えば、本発明は、本明細書に定義される安定化A/M/X材料を含む粗粒粉末を提供し、本発明は、本明細書に定義される安定化A/M/X材料を含む薄膜も提供する。
【0026】
本発明の安定化結晶質A/M/X材料の優れた安定性及び有利な光学特性は、光電子デバイスの製造において非常に望ましい。したがって、本発明は、本明細書に定義される安定化A/M/X材料、例えば、本明細書に定義される粗粒粉末又は薄膜を含む光電子デバイスを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】(a)PVB、EVAによって保護されたガラス基材上にスピンコーティングによって堆積されたCsPbBr3ナノ結晶、及び(b)ポリメチルメタクリレート(PMMA)又はポリスチレン(PS)に分散されたCsPbBr3ナノ結晶の正規化された光ルミネセンス(「PL」)スペクトルを示すグラフである。試料を12時間にわたって模擬太陽光に曝露した。
図2】150時間の期間にわたるPLQYを示すことによって、模擬太陽光に曝露されたナノ結晶(NC)コロイド溶液及びペロブスカイト前駆体(薄膜)から堆積したCsPbBr3の薄膜の安定性を示すグラフである。
図3】異なるAl3+/Pb2+の比を有する前駆体から作成されたCsPbBr3薄膜の吸収スペクトル(図3a)、定常状態の光ルミネセンススペクトル(図3b)及び正規化された定常状態の蛍光スペクトル(図3c)を示すグラフである。
図4】4(a)において、CsPbBr3薄膜の正規化されたPLQYを、模擬太陽光下(70℃で76mW・cm-2)の曝露時間の関数として示すグラフである。図4(b)は、TMAの存在下で調製されたCsPbBr3薄膜の正規化された定常状態の光ルミネセンススペクトルのエージング時間に伴う小さな変化を示すグラフである。
図5】TMAで処理されたものを含むCsPbBr3薄膜のPLQYを、6000時間までの曝露についての模擬太陽光下(70℃で76mW・cm-2)の曝露時間の関数として示すグラフである。
図6】逆溶媒中でTMAを使用してTMA前駆体の存在下で調製した(TMAクエンチング方法と称する)安定化結晶質A/M/X材料の吸収スペクトル(図6a)及び正規化された定常状態の光ルミネセンススペクトル(図6b)を示すグラフである。式[A]a[M]b[X]cの化合物はCsPb(Br0.7Cl0.3)3である。材料は薄膜形態であり、逆溶媒中で異なるTMA濃度で調製した。
図7】6に関して記載された通りに調製したCsPb(Br0.7Cl0.3)3薄膜のPLQY(円)、及びTMAの非存在下で調製したCsPb(Br0.7Cl0.3)3薄膜のPLQY(四角)を、模擬太陽光下(70℃で76mW・cm-2)の曝露時間の関数として示すグラフである。曝露時間は、最長300時間である。
図8】異なるTMAのクエンチングタイミングを有するTMAでクエンチされたCsPb(Br0.7Cl0.3)3薄膜の正規化された定常状態の光ルミネセンススペクトルを示すグラフである。四角で示される薄膜(「スピンコーティングの間」)は、図6に関して議論された通りに調製した、円で示される薄膜(「結晶化後」)は、CsPb(Br0.7Cl0.3)3の結晶化が起こった後にTMAの添加を伴った。
【発明を実施するための形態】
【0028】
上記で述べたように、本発明は、安定化A/M/X生成物を製造する方法、本発明の方法によって得られる及び/又は得られ得る安定化A/M/X材料、安定化A/M/X材料、安定化A/M/X材料を含む薄膜又は粗粒粉末、並びに本発明の安定化A/M/X材料を含む光電子デバイスを提供する。
【0029】
ここで、これらをより詳細に記載する。以下の定義は、本質的に一般的なものであり、本発明の生成物及び方法の両方に適用されることに留意すべきである。例えば、式[A]a[M]b[X]cの化合物の記載は、本発明の方法の生成物及び本発明の安定化A/M/X材料の生成物に含まれる化合物に等しく適用される。
【0030】
定義
本明細書で使用される「安定化」という用語は、本発明の(又は本発明の方法によって得られるか若しくは得られ得る)A/M/X材料が酸化物の存在によって安定化されていることを示す。「安定化」とは、A/M/X材料の発光及び吸収特性が、非安定化A/M/X材料の対応する特性よりも経時的に変化が少ないことを意味する。
【0031】
本明細書で使用される「処理する(treating)」という用語は、1つの化合物を別の化合物と反応又は相互作用させる任意のプロセスを指す。別の前駆体化合物で処理される前駆体化合物は、それ自身として(例えば、溶解形態又は蒸気形態で)、又はいくつかのプロセスによって前駆体化合物それ自身に変換される初期化合物として、前記別の前駆体に添加されてもよい。
【0032】
本明細書で使用される「反応混合物」という用語は、A前駆体、M前駆体及び酸化物前駆体を組み合わせることによって得られる気体又は液体を示す。「反応混合物」という用語は、前駆体を安定化結晶質A/M/X材料を製造するために一緒に反応させる前、その間及びその後のA、M及び酸化物の前駆体の組み合わせを示すために使用される。したがって、これらの前駆体を組み合わせた直後に、反応混合物は非常に少量の安定化結晶質A/M/X材料を含有する。しかしながら、これらの前駆体が反応する時間があった後(例えば、数秒)、反応混合物は、より多くの量の安定化結晶質A/M/X材料及びより少ない量の前記前駆体を含有する。
【0033】
本明細書で使用される「有機化合物」及び「有機溶媒」という用語は、当技術分野におけるそれらの典型的な意味を有し、当業者に容易に理解されるだろう。
【0034】
本明細書で使用される場合、「に配置する(disposing on)」という用語は、1つの成分を別の成分上で利用可能にすること又は別の成分上に置くことを指す。第1の成分は、第2の成分上で利用可能にされてもよく、若しくは第2の成分上に直接置かれてもよく、又はそれらは第1及び第2の成分の間に介在する第3の成分が存在してもよい。例えば、第1の層が第2の層上に配置される場合、これは、第1及び第2の層の間に介在する第3の層が存在する場合を含む。しかしながら、典型的には、「に配置する」は、1つの成分を別の成分の上に直接置くことを指す。
【0035】
本明細書で使用される場合、「多孔質」という用語は、その中に細孔が配列された材料を指す。したがって、例えば、多孔質材料において、細孔は材料が存在しない足場内の容積である。材料中の細孔は、開いた細孔だけでなく「閉じた」細孔を含んでいてもよい。閉じた細孔は、非連結空洞である材料中の細孔、すなわち、材料内で隔絶され、任意の他の細孔と連結せず、したがって材料が曝露される流体によって到達され得ない細孔である。一方で「開いた細孔」は、このような流体によって到達可能であろう。開いた孔及び閉じた孔の概念は、J. Rouquerolら、「Recommendations for the Characterization of Porous Solids」、Pure & Appl. Chem.、66巻、8号、1739~1758頁、1994年において詳細に議論されている。したがって、開いた孔は、流体の流れが有効に起こる多孔質材料の総容積のごく一部を指す。したがって、これは閉じた細孔を除外する。「開いた孔」という用語は、「連結した孔」及び「有効な孔」という用語と互換可能であり、当技術分野において通常、単に「孔」に短縮される。したがって、本明細書で使用される場合、「開いた孔なし」という用語は、有効な孔を有さない材料を指す。本明細書で使用される「非多孔質」という用語は、任意の孔がない、すなわち、開いた孔がなく、かつ閉じた孔もない、材料を指す
【0036】
本明細書で使用される場合、「層」という用語は、実質的に薄層状の形態(例えば、実質的に2つの垂直方向に伸長しているが、第3の垂直方向へのその伸長が制限される)である任意の構造を指す。層は、層の範囲にわたって変わる厚さを有していてもよい。典型的には、層はおよそ一定の厚さを有する。本明細書で使用される場合、層の「厚さ」は層の平均厚さを指す。層の厚さは、例えば、顕微鏡法、例えば、膜の断面の電子顕微鏡法を使用することによって、又は例えば、スタイラス表面形状測定装置を使用する表面プロフィロメトリーによって、容易に測定され得る。
【0037】
本明細書で使用される場合、「バンドギャップ」という用語は、材料中の上位の価電子帯と下位の伝導帯との間のエネルギー差を指す。当業者は、当然ながら、過度の実験の必要なく周知の手順を使用することによって、半導体のバンドギャップ(ペロブスカイトのバンドギャップを含む)を容易に測定することが可能である。例えば、半導体のバンドギャップは、半導体から光起電力ダイオード又は太陽電池を構築し、光起電力作用スペクトルを決定することによって、推定することができる。或いは、バンドギャップは、透過分光光度法を介するか若しくは光熱偏向分光法によるかのいずれかで光吸収スペクトルを測定することによって推定することができ、又は光ルミネセンススペクトルから好都合に得てもよい。バンドギャップは、吸収係数×光子エネルギーの積の2乗を、x軸の光子エネルギーに対してY軸にプロットし、x軸との吸収端の直線切片が半導体の光学バンドギャップを与える、Tauc、J.、Grigorovici、R.及びVancu、a. Optical Properties and Electronic Structure of Amorphous Germanium、Phys. Status Solidi、15巻、627~637頁(1966年)に記載のTaucプロットを作製することによって決定することができる。或いは、光学バンドギャップは、[Barkhouse DAR、Gunawan O、Gokmen T、Todorov TK、Mitzi DB、Device characteristics of a 10.1% hydrazineprocessed Cu2ZnSn(Se,S)4 solar cell、Progress in Photovoltaics: Research and Applications 2012年;オンラインで公開、DOI: 10.1002/pip.1160.]に記載の入射する光子と電子の変換効率の開始を取ることによって、推定され得る。
【0038】
本明細書で使用される場合、「半導体」又は「半導体材料」という用語は、導体と誘電体との間の中間の大きさの電気伝導性を有する材料を指す。半導体は、負(n)型半導体、正(p)型半導体又は真性(i)半導体であってもよい。半導体は、0.5~3.5eV、例えば、0.5~2.5eV又は1.0~2.0eV(300Kで測定された場合)のバンドギャップを有していてもよい。
【0039】
本明細書で使用される場合、「n型領域」という用語は、1種以上の電子輸送性(すなわち、n型)材料の領域を指す。同様に、「n型層」という用語は、電子輸送性(すなわち、n型)材料の層を指す。電子輸送性(すなわち、n型)材料は、単一の電子輸送性の化合物若しくは元素材料(elemental material)、又は2種以上の電子輸送性の化合物若しくは元素材料の混合物である。電子輸送性の化合物又は元素材料は、ドープされていなくてもよく、又は1種以上のドーパント元素でドープされていてもよい。
【0040】
本明細書で使用される場合、「p型領域」という用語は、1種以上の正孔輸送性(すなわち、p型)材料の領域を指す。同様に、「p型層」という用語は、正孔輸送性(すなわち、p型)材料の層を指す。正孔輸送性(すなわち、p型)材料は、単一の正孔輸送性の化合物若しくは元素材料、又は2種以上の正孔輸送性の化合物若しくは元素材料の混合物である。正孔輸送性の化合物又は元素材料は、ドープされていなくてもよく、又は1種以上のドーパント元素でドープされていてもよい。
【0041】
本明細書で使用される場合、「電極材料」という用語は、電極における使用に適切な任意の材料を指す。電極材料は、高い電気伝導性を有する。本明細書で使用される「電極」という用語は、電極材料からなるか、又は本質的に電極材料からなる領域又は層を示す。
【0042】
本明細書で使用される場合、「置換されていてもよい」という用語は、問題となっている基が、置換基を有していてもよく、又は有していなくてもよいことを意味し、すなわち、これは、無置換又は置換であり得る。例えば、基は、0、1、2、3つ又はそれ以上の置換基、典型的には0、1又は2つの置換基を有していてもよい。置換基は、典型的には、置換又は無置換のC1~C20アルキル、置換又は無置換のアリール(本明細書に定義される通り)、シアノ、アミノ、C1~C10アルキルアミノ、ジ(C1~C10)アルキルアミノ、アリールアミノ、ジアリールアミノ、アリールアルキルアミノ、アミド、アシルアミド、ヒドロキシ、オキソ、ハロ(halo)、カルボキシ、エステル、アシル、アシルオキシ、C1~C20アルコキシ、アリールオキシ、ハロアルキル、スルホン酸、スルフヒドリル(すなわち、チオール、-SH)、C1~C10アルキルチオ、アリールチオ及びスルホニルから選択され得る。
【0043】
本明細書で使用される場合、アルキル基は、置換又は無置換の直鎖状又は分枝鎖状の飽和基であり得、これは、多くの場合置換又は無置換の直鎖状の飽和基であり、より多くの場合無置換の直鎖状の飽和基である。アルキル基は、典型的には1~20個の炭素原子、通常1~10個の炭素原子を含む。C1~10アルキル基は、1~10個の炭素原子を有する無置換又は置換の直鎖状又は分枝鎖状の飽和炭化水素基である。C1~6アルキル基は、1~6個の炭素原子を有する無置換又は置換の直鎖状又は分枝鎖状の飽和炭化水素基である。典型的には、これは、例えばメチル、エチル、プロピル、i-プロピル、n-プロピル、ブチル、t-ブチル、s-ブチル、n-ブチル、ペンチル又はヘキシルである。多くの場合、アルキル基はC1~4アルキル基である。「アルキル」という用語が本明細書のどこかで炭素の数を特定する接頭語なしで使用される場合、これは一般に1~20個の炭素を有する(これは本明細書において言及される任意の他の有機基にも適用される)。
【0044】
本明細書で使用される場合、アルケニル基は、置換又は無置換の直鎖状又は分枝鎖状の不飽和基であり得、これは、多くの場合置換又は無置換の直鎖状の不飽和基であり、より多くの場合無置換の直鎖状の不飽和基である。アルケニル基は、1個以上の炭素-炭素二重結合、例えば1、2又は3個の二重結合を含み得る。典型的には、アルケニル基は1個の二重結合を含む。アルケニル基は、典型的には2~20個の炭素原子、通常2~10個の炭素原子を含む。C2~10アルケニル基は、2~10個の炭素原子を有する無置換又は置換の直鎖状又は分枝鎖状の不飽和炭化水素基である。C2~6アルケニル基は、2~6個の炭素原子を有する無置換又は置換の直鎖状又は分枝鎖状の不飽和炭化水素基である。典型的には、これは、例えば、ビニル、プロペニル、プロパ-1-エニル、プロパ-2-エニル、ブテニル、ブタ-1-エニル、ブタ-2-エニル、ブタ-4-エニル、ペンテニル、ペンタ-1-エニル、ペンタ-2-エニル、ペンタ-3-エニル、ペンタ-4-エニル、ヘキセニル、ヘキサ-1-エニル、ヘキサ-2-エニル、ヘキサ-3-エニル、ヘキサ-4-エニル又はヘキサ-5-エニルである。
【0045】
本明細書で使用される場合、シクロアルキル基は、置換又は無置換の環状の飽和基であり得、これは、多くの場合無置換の環状の飽和基である。シクロアルキル基は、典型的には3~20個の炭素原子を含む。C3~10シクロアルキル基は、3~10個の炭素原子を有する無置換又は置換の環状の飽和炭化水素基である。C3~6シクロアルキル基は、3~6個の炭素原子を有する無置換又は置換の環状の飽和炭化水素基である。典型的には、これは、例えばシクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル又はシクロヘキシルである。
【0046】
本明細書で使用される場合、シクロアルケニル基は、置換又は無置換の環状の不飽和基であり得、これは、多くの場合無置換の環状の不飽和基である。シクロアルケニル基は、典型的には3~20個の炭素原子を含む。シクロアルケニル基は、1個以上の二重結合を含み得る(環中に存在する炭素原子の数に依存する)。C4~10シクロアルケニル基は、4~10個の炭素原子を有する無置換又は置換の環状の不飽和炭化水素基である。C4~10シクロアルケニル基は、3~6個の炭素原子を有する無置換又は置換の環状の不飽和炭化水素基である。典型的には、これは、例えばシクロブテニル、シクロペンテニル又はシクロヘキセニルである。
【0047】
本明細書で使用される場合、アルキルオキシ基は、酸素基に結合した本明細書に定義されるアルキル基を含む基である。すなわち、アルコキシ基は、式-O-アルキル[式中、アルキル基は、本明細書に定義される通りである]を有する。したがって、C1~10アルキルオキシ基は、式-O-アルキル[式中、アルキル基は、本明細書に定義されるC1~10アルキル基である]の基である。
【0048】
本明細書で使用される場合、アルケニルオキシ基は、酸素基に結合した本明細書に定義されるアルケニル基を含む基である。すなわち、アルケニルオキシ基は、式-O-アルケニル[式中、アルケニル基は、本明細書に定義される通りである]を有する。したがって、C1~10アルケニルオキシ基は、式-O-アルケニル[式中、アルケニル基は、本明細書に定義されるC1~10アルケニル基である]の基である。
【0049】
本明細書で使用される「ハライド」という用語は、周期表のVIII族中の元素の一価アニオンを示す。「ハライド」としては、フルオリド、クロリド、ブロミド、及びヨージドが挙げられる。
【0050】
本明細書で使用される「ハロ」という用語はハロゲン原子を示す。例示的なハロ種としては、フルオロ、クロロ、ブロモ及びヨード種が挙げられる。
【0051】
本明細書で使用される場合、アリール基は、典型的には、環部分に、6~14個の炭素原子、多くの場合6~12個の炭素原子、好ましくは6~10個の炭素原子を含有する、置換又は無置換の単環式又は二環式の芳香族基である。C6~12アリール基は、6~12個の炭素原子を含有する置換又は無置換の単環式又は二環式の芳香族基である。例としては、フェニル、ナフチル、インデニル及びインダニル基が挙げられる。
【0052】
本明細書で使用される場合、アミノ基は、式-NR2[式中、それぞれのRは置換基である]の基である。Rは通常、水素、アルキル、アルケニル、シクロアルキル又はアリールから選択され、ここで、アルキル、アルケニル、シクロアルキル及びアリールのそれぞれは本明細書に定義される通りである。典型的には、それぞれのRは、水素、C1~10アルキル、C2~10アルケニル及びC3~10シクロアルキルから選択される。好ましくは、それぞれのRは、水素、C1~6アルキル、C2~6アルケニル及びC3~6シクロアルキルから選択される。より好ましくは、それぞれのRは、水素及びC1~6アルキルから選択される。
【0053】
典型的なアミノ基はアルキルアミノ基であり、これは式-NR2[式中、少なくとも1つのRは本明細書に定義されるアルキル基である]の基である。C1~6アルキルアミノ基は、1~6個の炭素原子を含むアルキルアミノ基である。
【0054】
本明細書で使用される場合、イミノ基は、式R2C=N-又は-C(R)=NR[式中、それぞれのRは置換基である]の基である。すなわちイミノ基は、C=N部分を含む基であり、基部分が前記C=N結合のN原子上に存在するか又はC原子に結合している。Rは、本明細書に定義される通りであり、すなわち、Rは通常、水素、アルキル、アルケニル、シクロアルキル又はアリールから選択され、ここで、アルキル、アルケニル、シクロアルキル及びアリールのそれぞれは本明細書に定義される通りである。典型的には、それぞれのRは、水素、C1~10アルキル、C2~10アルケニル及びC3~10シクロアルキルから選択される。好ましくは、それぞれのRは、水素、C1~6アルキル、C2~6アルケニル及びC3~6シクロアルキルから選択される。より好ましくは、それぞれのRは、水素及びC1~6アルキルから選択される。
【0055】
典型的なイミノ基は、アルキルイミノ基であり、これは式R2C=N-又は-C(R)=NR[式中、少なくとも1つのRは本明細書に定義されるアルキル基である]の基である。C1~6アルキルイミノ基は、R置換基が1~6個の炭素原子を含むアルキルイミノ基である。
【0056】
本明細書で使用される「エステル」という用語は、式アルキル-C(=O)-O-アルキル[式中、アルキル基は、同一又は異なり、本明細書に定義される通りである]の有機化合物を示す。アルキル基は置換されていてもよい。
【0057】
本明細書で使用される「エーテル」という用語は、本明細書に定義される2個のアルキル基で置換された酸素原子を示す。アルキル基は、置換されていてもよく、同一又は異なっていてもよい。
【0058】
本明細書で使用される場合、「ペロブスカイト」という用語は、CaTiO3の構造に関連する三次元結晶構造を有する材料、又は層がCaTiO3の構造に関連する構造を有する材料の層を含む材料を指す。CaTiO3の構造に関連する三次元結晶構造を有する材料は「3Dペロブスカイト構造」を有すると称する場合があり、したがって、この定義によるペロブスカイトは「3Dペロブスカイト」と称する場合がある。CaTiO3の構造は式ABX3[式中、A及びBは異なるサイズのカチオンであり、Xはアニオンである]によって表すことができる。単位格子において、Aカチオンは(0,0,0)にあり、Bカチオンは(1/2,1/2,1/2)にあり、Xアニオンは(1/2,1/2,0)にある。Aカチオンは、通常Bカチオンよりも大きい。当業者は、A、B及びXが変わると、異なるイオンサイズが、ペロブスカイト材料の構造を、CaTiO3によって採用される構造から離れて対称性の低い歪んだ構造に歪め得ることを認識する。対称性はまた、材料がCaTiO3の構造に関連する構造を有する層を含む場合、低くなる。ペロブスカイト材料の層を含む材料は周知である。例えば、K2NiF4型構造を採用する材料の構造はペロブスカイト材料の層を含む。これらは、当技術分野において、上述の3Dペロブスカイトと構造が異なる「2D層状ペロブスカイト」と称される。2D層状ペロブスカイトは、式[A]2[M][X]4[式中、[A]は少なくとも1種のカチオンであり、[M]はカチオンAと異なるサイズの少なくとも1種のカチオンであり、[X]は少なくとも1種のアニオンである]によって表すことができる。
【0059】
当業者は、ペロブスカイト材料が式[A][B][X]3[式中、[A]は少なくとも1種のカチオンであり、[B]は少なくとも1種のカチオンであり、[X]は少なくとも1種のアニオンである]によって表すことができることを認識する。ペロブスカイトが2種以上のAカチオンを含む場合、異なるAカチオンは、秩序的又は無秩序な方法でAの部位上に分布していてもよい。ペロブスカイトが2種以上のBカチオンを含む場合、異なるBカチオンは、秩序的又は無秩序な方法でBの部位上に分布していてもよい。ペロブスカイトが2種以上のXアニオンを含む場合、異なるXアニオンは、秩序的又は無秩序な方法でXの部位上に分布していてもよい。2種以上のAカチオン、2種以上のBカチオン又は2種以上のXカチオンを含むペロブスカイトの対称性は、CaTiO3の対称性よりも低い。
【0060】
本明細書で使用される場合、「金属ハライドペロブスカイト」という用語はペロブスカイトを指し、この式は、少なくとも1種の金属カチオン及び少なくとも1種のハライドアニオンを含有する。
【0061】
本明細書で使用される「混合ハライドペロブスカイト」という用語は、少なくとも2種類のハライドアニオンを含有するペロブスカイト又は混合ペロブスカイトを指す。
【0062】
本明細書で使用される「混合カチオンペロブスカイト」という用語は、少なくとも2種類のAカチオンを含有する混合ペロブスカイトのペロブスカイトを指す。
【0063】
本明細書で使用される場合、「ヘキサハロメタレート(hexahalometallate)」という用語は、式[MX6]n-[式中、Mは金属原子であり、それぞれのXは独立してハライドアニオンであり、nは1~4の整数である]のアニオンを含む化合物を指す。
【0064】
本明細書で使用される場合、「光電子デバイス」という用語は、光を調達、制御、検出又は放出するデバイスを指す。光は、任意の電磁放射線を含むと理解される。光電子デバイスの例としては、光起電力デバイス、光ダイオード、太陽電池、光検出器、光トランジスタ、光電子増倍管、フォトレジスター、発色デバイス、感光性トランジスタ、発光デバイス、発光ダイオード及び電荷注入レーザーが挙げられる。
【0065】
「本質的に~からなる」という用語は、他の成分が組成物の本質的な特徴に物質的に影響を及ぼさないという条件で、組成物を本質的に構成する成分及び他の成分を含む組成物を指す。典型的には、本質的にある成分からなる組成物は、95重量%以上のそれらの成分又は99重量%以上のそれらの成分を含む。
【0066】
方法
本発明の方法は、Aカチオンを含むA前駆体及びMカチオンを含むM前駆体の両方を、元素Zを含む酸化物前駆体で処理するステップを含む。したがって、本発明の方法は、本明細書に定義されるA前駆体、本明細書に定義されるM前駆体及び本明細書に定義される酸化物前駆体を接触させるステップを含む。
【0067】
典型的には、方法は流体相中で起こる。いくつかの実施形態において、方法は気相で起こる。例えば、いくつかの実施形態において、方法は、ガス状のA前駆体及びガス状のM前駆体をガス状の酸化物前駆体で処理するステップを含む。
【0068】
いくつかの実施形態において、方法は液相で起こる。例えば、いくつかの実施形態において、方法は、溶液中のA前駆体及び溶液中のM前駆体を溶液中の酸化物前駆体で処理するステップを含む。
【0069】
さらに他の実施形態において、方法は、液相及び気相の両方が関与してもよい。例えば、方法は、溶液中のA前駆体及び溶液中のM前駆体をガス状の酸化物前駆体で処理するステップを含んでいてもよい。「溶液中」とは、関連する前駆体が、1種以上の溶媒を含有する溶液に溶解していることを意味する。
【0070】
方法が液相中又は溶液中で起こる実施形態は、それらが気化した前駆体化合物の発生及び制御を必要としないので、利便性の理由のために好ましい。したがって、好ましくは、A前駆体、M前駆体及び酸化物前駆体のうちの1種以上が溶液中に存在する。本発明の方法の好ましい実施形態において、A前駆体、M前駆体及び酸化物前駆体のそれぞれは、溶液中に存在する。そのような場合において、方法は、溶液中のA前駆体及び溶液中のM前駆体を溶液中の酸化物前駆体で処理するステップを含み得る。
【0071】
A前駆体、M前駆体及び酸化物前駆体は、1種以上の溶液を含んでいてもよい。いくつかの実施形態において、それぞれの前駆体は、最初に、本発明の方法の開始時に異なる溶液中に存在する。例えば、方法は、第1の溶液(第1の溶液はM前駆体及び第1の溶媒を含む)を第2の溶液(第2の溶液は酸化物前駆体及び第2の溶媒を含む)及び第3の溶液(第3の溶液はA前駆体及び第3の溶媒を含む)で処理するステップを含んでいてもよい。典型的には、これらの実施形態において、方法は、前記第1の溶液、前記第2の溶液及び前記第3の溶液を混合するステップを含む。例えば、この実施形態の1つの態様において、方法は、前記第1の溶液、前記第2の溶液及び前記第3の溶液を一緒に基材上に配置するステップを含んでいてもよい。
【0072】
他の実施形態において、2種の前駆体は同じ溶液中に存在していてもよい。このような実施形態は、それらがより少ない溶液の操作を必要とするので、好ましくあり得る。したがって、本発明の方法のこれらの実施形態の典型的な例において、前記A前駆体及び前記M前駆体は第1の溶液中に存在し、この第1の溶液は、A前駆体、M前駆体及び第1の溶媒を含む。すなわち、方法は、A前駆体、M前駆体及び第1の溶媒を含む第1の溶液を酸化物前駆体で処理するステップを含んでいてもよい。
【0073】
本発明の方法のいくつかの実施形態において、酸化物前駆体は第2の溶液中に存在し、この第2の溶液は酸化物前駆体及び第2の溶媒を含む。
【0074】
多くの場合、本発明の方法は2つの溶液が関与する。したがって、本発明の方法において、1種以上の前駆体が第1の溶液中に存在していてもよく、1種以上の前駆体が第2の溶液中に存在していてもよい。2種以上の異なる溶液を使用する利点は、前駆体を別々に保つことができ、そのため、第1及び第2の溶液が接触するまで反応しない点である。例えば、方法は、第1の溶液を第2の溶液で処理するステップを含んでいてもよく、ここで、
第1の溶液はM前駆体及び第1の溶媒を含み、
第2の溶液は酸化物前駆体及び第2の溶媒を含み、
第1の溶液又は第2の溶液のいずれかがA前駆体を含む。
【0075】
好ましい態様において、方法は、第1の溶液を第2の溶液で処理するステップを含んでいてもよく、ここで、
第1の溶液はA前駆体、M前駆体及び第1の溶媒を含み、
第2の溶液は酸化物前駆体及び第2の溶媒を含む。
【0076】
上記の方法によれば、安定化A/M/X材料を生成する反応は、A前駆体、M前駆体及び酸化物前駆体のすべてが出会う場合に起こる。方法は、その後に酸化物前駆体で処理されるA/M/X材料を生成するよりもむしろ、安定化A/M/X材料を生じる。
【0077】
存在する場合、前記第1の溶液は、前記第1の溶媒及びM前駆体を含む。したがって、典型的には、第1の溶媒は、M前駆体を溶解することができる溶媒である。通常、第1の溶媒は、有機溶媒、好ましくは極性有機溶媒である。極性有機溶媒は、それらが通常イオン化合物を溶解することができ、M前駆体が多くの場合有機化合物であるので、好ましい。第1の溶媒の適切な例は、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)及びガンマ-ブチロラクトン(GBL)である。
【0078】
第1の溶液は、M前駆体化合物及び第1の溶媒に加えて、1種以上の化合物及び/又は1種以上の溶媒を含んでいてもよいことに留意すべきである。例えば、第1の溶液は、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ガンマ-ブチロラクトン(GBL)から選択される第1の溶媒、及び典型的にはこの群からそれぞれ選択される1種以上の追加溶媒を含んでいてもよい。
【0079】
存在する場合、前記第2の溶液は、前記第2の溶媒及び酸化物前駆体を含む。したがって、典型的には、第2の溶媒は、酸化物前駆体を溶解することができる溶媒である。したがって、第2の溶媒の性質は特に限定されない。一般に、第2の溶媒は、極性又は非極性であってもよい有機溶媒である。しかしながら、多くの場合、第2の溶媒は、弱い極性又は非極性の溶媒である。典型的には、第2の溶媒は、置換されていてもよいアリール種、置換されていてもよいエステル及び置換されていてもよいエーテルから選択され得る。例示的な第2の溶媒としては、例えば、トルエン、クロロベンゼン、アニソール、酢酸メチル、酢酸エチル、ジエチルエーテル、クロロホルム及びジクロロベンゼンが挙げられる。
【0080】
第2の溶液は、酸化物前駆体化合物及び第2の溶媒に加えて、1種以上の化合物及び/又は1種以上の溶媒を含んでいてもよいことに留意すべきである。例えば、第2の溶液は、置換されていてもよいアリール種、置換されていてもよいエステル又は置換されていてもよいエーテルから選択される第2の溶媒、及びこの群から選択される1種以上の追加溶媒を含んでいてもよい。特に、第2の溶液は、トルエン、クロロベンゼン、アニソール、酢酸メチル、酢酸エチル、ジエチルエーテル、クロロホルム及びジクロロベンゼンから選択される第2の溶媒、並びに典型的にはこの群からそれぞれ選択される1種以上の追加溶媒を含んでいてもよい。
【0081】
いくつかの実施形態において、A前駆体は第3の溶液中に存在する。存在する場合、前記第3の溶液は、前記第3の溶媒及びA前駆体を含む。したがって、典型的には、第3の溶媒は、A前駆体を溶解することができる溶媒である。通常、第3の溶媒は、有機溶媒、好ましくは極性有機溶媒である。極性有機溶媒は、それらが通常イオン化合物を溶解することができ、A前駆体が多くの場合有機化合物であるので、好ましい。第3の溶媒の適切な例は、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)及びガンマ-ブチロラクトン(GBL)である。第3の溶液は、A前駆体化合物及び第3の溶媒に加えて、1種以上の化合物及び/又は1種以上の溶媒を含んでいてもよい。例えば、第3の溶液は、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)及びガンマ-ブチロラクトン(GBL)から選択される第3の溶媒、並びに典型的にはこの群からそれぞれ選択される1種以上の追加溶媒を含んでいてもよい。
【0082】
したがって、本発明の方法の例示的な実施形態において、方法は、第1の溶液を第2の溶液で処理するステップを含み、ここで、
第1の溶液は、第1の溶媒、及びMカチオンを含むM前駆体を含み、
第2の溶液は、第2の溶媒、及び元素Zを含む酸化物前駆体を含み、
第1の溶液又は第2の溶液のいずれか(好ましくは第1の溶液)は、Aカチオンを含むA前駆体を含み、
第1の溶媒は、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)又はガンマ-ブチロラクトン(GBL)から選択され、
第2の溶媒は、トルエン、クロロベンゼン、アニソール、酢酸メチル、酢酸エチル、ジエチルエーテル、クロロホルム又はジクロロベンゼンから選択される。
【0083】
本発明の方法の好ましい実施形態において、方法は、A前駆体、M前駆体及び酸化物前駆体を逆溶媒で処理するステップを含む。逆溶媒は、安定化A/M/X材料が難溶性又は不溶性である溶媒である。「不溶性」及び「難溶性」は、ここで、当業者に対するそれらの通常の意味を有する。典型的には、逆溶媒への安定化A/M/X材料の溶解度は、10g/l以下、好ましくは1g/l以下、例えば0.1g/l以下又は0.01g/l以下である。
【0084】
したがって、本発明の方法の好ましい実施形態において、方法は、A前駆体及びM前駆体を、酸化物前駆体及び第2の溶媒を含む第2の溶液で処理するステップを含み、ここで、式[A]a[M]b[X]cの化合物は前記第2の溶媒に不溶性である。前記第2の溶液は、A前駆体を含んでいてもよい。
【0085】
逆溶媒は、典型的には、弱い極性又は非極性の有機溶媒である。例示的な逆溶媒としては、置換アリール種(典型的には置換ベンゼン)又はベンゼン、置換されていてもよいエステル又は置換されていてもよいエーテルが挙げられる。特に好ましくは、逆溶媒は、トルエン、クロロベンゼン、アニソール、酢酸メチル、酢酸エチル、ジエチルエーテル、クロロホルム、イソプロパノール、エタノール、メタノール又はジクロロベンゼンから選択される。
【0086】
第2の溶媒が逆溶媒である場合、第2の溶液は1種以上の追加溶媒を含んでいてもよい。例えば、第2の溶液は、逆溶媒でもある1種以上の追加溶媒を含んでいてもよい。
【0087】
逆溶媒の利点は、逆溶媒が、本発明の安定化A/M/X材料が形成されるとすぐに安定化A/M/X材料の沈殿を促す点である。
【0088】
逆溶媒は、任意の前駆体種と一緒に提供される必要はない。したがって、いくつかの実施形態において、方法は、A前駆体及びM前駆体をM前駆体と酸化物前駆体で処理するステップ、このようにして反応混合物を形成するステップ、並びにその後、反応混合物を本明細書に定義される逆溶媒で処理するステップを含む。例えば、例示的な実施形態において、方法は、第1の溶液を第2の溶液で処理して反応混合物を形成するステップであって、ここで、
第1の溶液は、第1の溶媒、及びMカチオンを含むM前駆体を含み、
第2の溶液は、第2の溶媒、及び元素Zを含む酸化物前駆体を含み、
第1の溶液又は第2の溶液のいずれか(好ましくは第1の溶液)は、Aカチオンを含むA前駆体を含む、ステップ、並びに
その後、反応混合物を逆溶媒で処理するステップ
を含む。
【0089】
上記で述べたように、存在する場合、第1の溶液、第2の溶液及び第3の溶液のそれぞれは、追加の成分を含んでいてもよい。しかしながら、本発明の好ましい実施形態において、これらの溶液(存在する場合)のそれぞれは、脂肪族リガンドを含まない。したがって、好ましい実施形態において、本発明の方法は、脂肪族リガンドの非存在下で行われる。
【0090】
「脂肪族リガンド」とは、炭化水素尾部を含むリガンドを意味する。脂肪族リガンドの典型的な例としては、アミン、脂肪族リン酸及びカルボン酸が挙げられる。例えば、脂肪族リガンドとしては、L1COOH及びL1L2L3Nが挙げられる。L1は、置換されていてもよい、C4~C20アルキル、C4~C20アルケニル及びC4~C20シクロアルキルから、好ましくは無置換の、C4~C20アルキル、C4~C20アルケニル及びC4~C20シクロアルキルから選択される。L2及びL3は、それぞれ独立して、H、置換されていてもよい、C1~C6アルキル、C2~C6アルケニル及びC3~C6シクロアルキルから、好ましくはH、又は無置換の、C1~C6アルキル、C2~C6アルケニル及びC3~C6シクロアルキルから選択され、最も好ましくはHである。
【0091】
本発明の方法において、酸化物前駆体は酸化物[Z]pOqを生成する。この酸化物は、酸化物前駆体の酸化によって生じる。したがって、本発明の方法において、酸化物前駆体は酸化剤で処理される。適切な酸化剤としては、酸素及び水が挙げられ、最も一般的には酸化剤は水である。したがって、本発明の方法において、A前駆体及びM前駆体を酸化物前駆体で処理するステップは、通常水の存在下で行われる。
【0092】
通常、本発明の方法において、酸化剤、例えば水の添加のステップを含む必要はない。酸化剤前駆体は、典型的には、酸化剤(典型的には水)と容易に反応する反応種である。多くの場合、大気中、又は例えば存在する第1の溶媒及び/若しくは第2の溶媒中の痕跡量の酸化剤(通常酸素又は水、最も一般的には水)は、本発明の方法のために十分な酸素を提供するために依拠することができる。
【0093】
いくつかの実施形態において、本発明の方法は、A前駆体及びM前駆体を酸化物前駆体及び水で処理するステップを含む。上記で議論したように、水は、大気中又は方法で使用する溶媒中に存在していてもよい。或いは、水を反応混合物に積極的に添加してもよい。例えば、反応は、水を第1の溶媒(一般に、本発明の方法の前に水と酸化物前駆体の反応を回避するために、第2の溶媒ではない)に添加するステップを含んでいてもよい。他の実施形態において、例えば方法が気相で行われる場合、方法は、水蒸気又は蒸気を、ガス状のA前駆体若しくはガス状のM前駆体、又はガス状の反応混合物に提供するステップを含んでいてもよい。典型的には、痕跡量の水又は酸素に依拠し、水又は酸素の積極的な添加の必要はない。
【0094】
典型的には、本発明の方法は、基材上に安定化結晶質A/M/X材料を生成する。したがって、通常、方法は、
(a)Aカチオンを含むA前駆体、及び
(b)Mカチオンを含むM前駆体
を、基材の存在下、元素Zを含む酸化物前駆体で処理するステップを含む。
【0095】
前駆体は、混合して反応混合物を形成してもよく、その後、反応混合物を基材に曝露する(例えば配置する)。しかしながら、他の実施形態において、方法は、1種以上の前駆体を他の前駆体で処理する前に、基材上に前記前駆体を配置するステップを含む。この後者の実施形態は、それにより安定化結晶質A/M/X材料を所望の基材上に直接生成させるのを可能にするので、好ましい。
【0096】
好ましい実施形態において、方法は、A前駆体及びM前駆体を酸化物前駆体で処理する前に、A前駆体及びM前駆体を基材上に配置するステップを含む。
【0097】
反応が気相で行われる場合、典型的には、方法は、ガス状の反応混合物を基材に曝露するステップを含む。この実施形態において、方法は、通常、基材の存在下、ガス状のA前駆体及びガス状のM前駆体をガス状の酸化物前駆体で、並びに任意選択で水蒸気で処理するステップを含む。例えば、方法は、ガス状のA前駆体、ガス状のM前駆体、ガス状の酸化物前駆体、及び任意選択で水蒸気を含む反応混合物を基材に曝露するステップを含んでいてもよい。
【0098】
反応が液相で行われる場合、典型的には、方法は、液状の反応混合物を基材に曝露するステップを含む。いくつかの実施形態において、方法は、最初に、A前駆体、M前駆体及び酸化物前駆体を含む液状の反応混合物を調製するステップ、並びにその後、前記液状の反応混合物を基材に曝露するステップを含んでいてもよい。他の実施形態において、1種以上の前駆体は、1種以上の他の前駆体での処理の前に基材上に配置される。
【0099】
したがって、いくつかの実施形態において、本発明の方法は、
第1の溶液を基材上に配置するステップ、及び
第1の溶液を第2の溶液で処理するステップ
を含み、ここで、
第1の溶液は、第1の溶媒、及びMカチオンを含むM前駆体を含み、
第2の溶液は、第2の溶媒、及び元素Zを含む酸化物前駆体を含み、
第1の溶液又は第2の溶液のいずれか(好ましくは第1の溶液)は、Aカチオンを含むA前駆体を含む。
【0100】
基材は固体である。基材の性質は特に限定されない。例えば、基材は、単にガラス、例えばガラススライドであってもよい。より典型的には、基材は、本明細書に定義される光電子デバイスの製造において有用である材料である。例えば、基材は、半導体、n-型半導体、p-型半導体、電極、誘電足場材料、及び本明細書に定義されるポリマーのうちの1種以上を含んでいてもよい。
【0101】
方法は、前駆体を調製するために、1以上の予備ステップを含んでいてもよい。方法が全体として気相で起こる場合、例えば、方法は、ガス状形態のそれぞれの前駆体を生じさせるステップを含んでいてもよい。このような方法は、任意選択で低圧不活性ガス雰囲気下又は真空下、前駆体を加熱するステップを含んでいてもよい。ガス状前駆体は、一緒に生じさせてもよく、又はそれぞれ別々に生じさせてもよい。
【0102】
方法が溶液中で起こる場合、方法は、1種以上の溶液を生じさせるステップを含んでいてもよい。例えば、方法は、
第1の溶媒に溶解したM前駆体を含む第1の溶液を生じさせるステップ、
第2の溶媒に溶解した酸化物前駆体を含む第2の溶液を生じさせるステップ、
第3の溶媒に溶解したA前駆体を含む第3の溶液を生じさせるステップ、並びに
第1の溶液及び第3の溶液を第2の溶液で処理するステップ
を含んでいてもよい。
【0103】
好ましくは、方法の処理ステップは、2つの溶液のみを混合するステップを含んでいてもよい。例えば、方法は、
第1の溶媒に溶解したM前駆体及び任意選択でA前駆体を含む第1の溶液を生じさせるステップ、
第2の溶媒に溶解した酸化物前駆体及び任意選択でA前駆体を含む第2の溶液を生じさせるステップ、並びに
第1の溶液を第2の溶液で処理するステップ
を含んでいてもよい。
【0104】
方法は、好ましくは、基材上に第1の溶液を配置するステップをさらに含み、任意選択で、基材上に第2の溶液を配置するステップもさらに含む。
【0105】
本発明の方法はまた、安定化結晶質A/M/X材料を処理するためのステップをさらに含んでいてもよい。
【0106】
典型的には、本発明の方法は、安定化結晶質A/M/X材料を反応混合物から回収するステップをさらに含む。例えば、本発明の方法は、存在する任意の溶媒を安定化結晶質A/M/X材料から除去するステップをさらに含んでいてもよい。好ましくは、本発明の方法は、第1の溶媒及び第2の溶媒を安定化結晶質A/M/X材料から除去するステップを含む。他の任意のさらなる方法のステップとしては、安定化結晶質A/M/X材料を洗浄するステップ、又は安定化結晶質A/M/X材料を乾燥するステップが挙げられる。
【0107】
方法の生成物は、本明細書に記載の生成物である。したがって、本発明の方法は、安定化結晶質A/M/X材料を製造する方法であって、安定化結晶質A/M/X材料が、式[A]a[M]b[X]cの化合物の結晶を含み、結晶がその全表面上に式[Z]pOqの酸化物被膜を有し、
[式中、
[Z]は、少なくとも3eVのバンドギャップを有する酸化物を形成することができる少なくとも1種の元素Zを含み、
p及びqは正の数であり、
[A]は1種以上のAカチオンを含み、
[M]は1種以上のMカチオンを含み、
[X]は1種以上のXアニオンを含み、
aは1~6の整数であり、
bは1~6の整数であり、
cは1~18の整数である]、
方法が、
(a)Aカチオンを含むA前駆体、及び
(b)Mカチオンを含むM前駆体
を、元素Zを含む酸化物前駆体で処理するステップを含む、
方法であり得る。
【0108】
典型的には、方法は、式[A]a[M]b[X]cの化合物の結晶を含む多結晶質材料である安定化A/M/X材料を製造する方法であって、結晶がその全表面上に式[Z]pOqの酸化物被膜を有する、方法である。
【0109】
したがって、方法は、式[A]a[M]b[X]cの化合物の結晶を含む多結晶質材料である安定化A/M/X材料を製造する方法であって、結晶がその全表面上に式[Z]pOqの酸化物被膜を有し、前記酸化物被膜の少なくとも一部が結晶の粒界に位置する、方法であってもよい。
【0110】
方法は、式[A]a[M]b[X]cの化合物を含む複数の結晶子及び前記結晶子間の複数の粒界を含む多結晶質材料である安定化A/M/X材料を製造する方法であって、式[Z]pOqの酸化物が粒界に沿って分布している[式中、
[Z]は、少なくとも3eVのバンドギャップを有する酸化物を形成することができる少なくとも1種の元素Zを含み、
p及びqは正の数であり、
[A]は1種以上のAカチオンを含み、
[M]は1種以上のMカチオンを含み、
[X]は1種以上のXアニオンを含み、
aは1~6の整数であり、
bは1~6の整数であり、
cは1~18の整数である]、
方法であってもよい。
【0111】
典型的には、結晶子は酸化物を実質的に含まない。例えば、結晶子は、20重量%未満の酸素、好ましくは10重量%未満の酸素又は5重量%未満の酸素を含んでいてもよい。
【0112】
酸化物
本発明の安定化A/M/X材料は酸化物を含む。酸化物は、環境因子、例えば水及び酸素からA/M/X材料を保護する。また、酸化物は結晶質A/M/X材料を安定化し、その光ルミネセンスの寿命を延長する。これは、材料内の電子トラップ密度の低減を示す。酸化物は、典型的には、結晶質A/M/X材料の光ルミネセンス収量も増加させる。
【0113】
光ルミネセンス収量に対する上記の有利な効果及び増加した光ルミネセンスの減衰寿命を得るために、酸化物はA/M/X材料自身によって放出される光を吸収してはならない。したがって、酸化物は、少なくとも3eVのバンドギャップを有する。3eVはおよそ413nmの波長に相当する。そのため、本発明の酸化物は、典型的には413nmを超える波長を有する光を吸収しない。好ましくは、酸化物は、およそ405nmの波長に相当する3.06eVよりも広いバンドギャップを有する。これは、A/M/X材料を、GaN LED中の発光層のInドーピングに応じて405nm程度の短い発光波長を有し得るGaN LEDによって光励起できるようにするためである。その結果、酸化物のバンドギャップは十分に大きいので、酸化物は、A/M/X材料によって又はA/M/X材料を励起するために通常使用される光励起源によって放出される任意の光(特に青色光)を吸収しない。
【0114】
これは、デバイスが可視光、例えば、青色光を放出する光源を含む光電子デバイス、例えば、LED又はリン光体の製造に特に有利である。酸化物の大きなバンドギャップはまた、酸化物が光電子デバイス中の光源によって放出される光を吸収するのを防ぐ。
【0115】
したがって、酸化物は少なくとも3eVのバンドギャップを有する。好ましくは、酸化物は少なくとも3.5eV又は少なくとも4eVのバンドギャップを有する。
【0116】
好ましくは、酸化物は可視光を通過させる。これは、酸化物が好ましくは420nm~700nmの波長の光を吸収しないことを意味する。より好ましくは、酸化物は400nm~750nmの波長の光を吸収しない。「光」とは電磁放射線を意味する。
【0117】
また好ましくは、酸化物は水又は酸素に対して反応性ではない。例えば、酸化物は300Kで水又は酸素と反応することができない。
【0118】
酸化物は式[Z]pOqの化合物[式中、[Z]は、少なくとも3eVのバンドギャップを有する酸化物を形成することができる少なくとも1種の元素Zを含み、p及びqは正の数である]である。
【0119】
p及びqの正確な値は[Z]中に存在する1種以上の元素に依存する。p及びqの数は両方ともゼロよりも大きい。一般に、p及びqは0よりも大きく20よりも小さい。例えば、p及びqは、典型的には0.01以上で20以下である。
【0120】
通常、pは整数である。また通常、qは整数である。典型的には、p及びqはそれぞれ1~10である。したがって、pは、一般に1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10であり得、qは、一般に1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10であり得る。通常、pは1~5である。また通常、qは0~5である。例えば、p及びqは両方ともそれぞれ1、2、3、4又は5であり得る。好ましくは、pは1又は2である。また好ましくは、qは、1、2、3又は4である。
【0121】
酸化物[Z]pOqは成分[Z]を含み、これは1種以上の元素Zを含んでいてもよい。例えば、[Z]は2、3又は4種の元素Zを含んでいてもよい。好ましい実施形態において、[Z]は1種のみの元素Zからなってもよい。
【0122】
それぞれの元素Zは、少なくとも3eVのバンドギャップを有する酸化物を形成することができる元素である。一般に、それぞれの元素Zは、式ZppOqqの酸化物[式中、pp及びqqは正の整数である]を形成することができる元素である。典型的には、ppは1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10である。また典型的には、qqは1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10である。通常、ppは1~5である。また通常、qqは0~5である。例えば、pp及びqqは両方ともそれぞれ1、2、3、4又は5であり得る。好ましくは、ppは1又は2である。また好ましくは、qqは、1、2、3又は4である。
【0123】
元素Zが選択され得る元素の適切な例としては、Al、Si、Zr、Ga、Ba、Nb、Mg、Y、Ti、Ni及びZnが挙げられる。したがって、典型的な実施形態において、酸化物は、Al、Si、Zr、Ga、Ba、Nb、Mg、Y、Ti、Ni及びZnから選択される元素Zを含む。[Z]が2種以上の元素Zを含むこの実施形態の好ましい態様において、それぞれの元素Zは、Al、Si、Zr、Ga、Ba、Nb、Mg、Y、Ti、Ni及びZnから選択される。
【0124】
好ましくは、元素Zは、Al、Zr又はSiから選択され得る。したがって、本発明の好ましい実施形態において、酸化物は、Al、Zr又はSiから選択される元素Zを含む。[Z]が2種又は3種の元素Zを含むこの実施形態の好ましい態様において、それぞれの元素Zは、Al、Zr又はSiから選択される。
【0125】
本発明の特に好ましい実施形態において、[Z]は、Alである1種の元素Zからなる。
【0126】
例えば、本発明の酸化物は、アルミナ(Al2O3)、ケイ酸アルミニウム(Al2SiO5)、ジルコニア(ZrO2)、シリカ(SiO2)又はそれらの混合物のうちの1種以上を含んでいてもよい。
【0127】
酸化物前駆体
酸化物前駆体は、酸化剤と反応して、本明細書に定義される酸化物を生成することができる種である。したがって、酸化物(式[Z]pOqを有する)が2種以上の元素Zを含む場合、酸化物前駆体も前記2種以上の元素Zを含む。酸化物前駆体は、酸化物[Z]pOq中に存在するすべての元素Zを含む。
【0128】
したがって、本明細書において、「酸化物前駆体」という用語は、単一の元素Zを含む単一化合物、複数の元素Zを含む単一化合物又は1種以上の元素Zをそれぞれ含む複数の化合物を示し得る。本明細書における「酸化物前駆体」への言及は、したがって、単一種及び複数の成分の種の両方ともを指すことが理解されるべきである。複雑さを最小化する目的のために、酸化物前駆体が、[Z]中に存在するすべての元素Zを含有する単一化合物を含むことが好ましい。
【0129】
酸化物前駆体は、典型的には、酸化剤に対して反応性である。例えば、酸化物前駆体は、典型的には、水及び/又は酸素に対して反応性である。「水に対して反応性」とは、H2Oが液状又はガス状の形態であるかに関わらず、酸化物前駆体がH2Oと反応することを示すことを意味することに留意すべきである。好ましい実施形態において、酸化物前駆体は水に対して反応性である。特に好ましい実施形態において、酸化物前駆体は、300Kで水と自発的に反応して酸化物[Z]pOqを生成する。
【0130】
通常、酸化物前駆体は、1種以上の元素Z、及び変化しやすい1つ以上のリガンドを含む。「変化しやすい」は、当技術分野におけるその通常の意味を取る。当業者は、本発明の方法において使用される酸化物前駆体に適切な変化しやすい1つ以上のリガンドを選択することが容易に可能であろう。変化しやすいリガンドの適切な例としては、不安定な有機リガンドが挙げられる。
【0131】
不安定な有機リガンドの特定の例としては、アルキル、アルケニル、シクロアルキル、アルキルオキシ、アルケニルオキシ及びヒドリドリガンドが挙げられる。
【0132】
本発明の方法のいくつかの実施形態において、酸化物前駆体は式ZRnの1種以上の化合物を含む[式中、
nは1~6の数であり、
それぞれのRは独立して、置換されていてもよい、C1~10アルキル、C2~10アルケニル、C3~10シクロアルキル、C1~10アルキルオキシ、C2~10アルケニルオキシ、ヒドリド及びハライドから選択され、好ましくは、無置換又は置換(unsubstituted substituted)の、C1~10アルキル、C2~10アルケニル、C3~10シクロアルキル、C1~10アルキルオキシ、C2~10アルケニルオキシ、ヒドリド及びハライドから選択される]。
【0133】
好ましくは、nは1~6の整数である。
【0134】
方法の特定の好ましい実施形態において、酸化物前駆体は式ZRnの1種以上の有機金属化合物を含む[式中、nは1~5(好ましくは2~4)の数(好ましくは整数)であり、それぞれのRは独立して、無置換のC1~6アルキル及びC1~6アルキルオキシから選択される]。この実施形態の特に好ましい態様において、Rはメチルであり、nは3である。
【0135】
例示的な酸化物前駆体としては、トリエチルアルミニウム及びトリメチルアルミニウム、好ましくはトリメチルアルミニウムが挙げられる。
【0136】
式[A]a[M]b[X]cの化合物
本発明の安定化結晶質A/M/X材料は、式[A]a[M]b[X]cの化合物を含む。式[A]a[M]b[X]cの化合物は、通常結晶質である。この化合物内で、[A]は1種以上のAカチオンを含み、[M]は1種以上のMカチオンを含み、[X]は1種以上のXアニオンを含み、aは1~6の整数であり、bは1~6の整数であり、cは1~18の整数である。aは、多くの場合1~3の整数であり、bは、多くの場合1~3の整数であり、cは、多くの場合1~8の整数である。
【0137】
[A]が2種以上のAカチオンを含む実施形態において、それぞれの個々のAカチオンは、それぞれ、本明細書においてAI、AII、AIIIなどと示され得る。同様に、[M]が2種以上のMカチオンを含む場合、それぞれの個々のMカチオンはそれぞれ、MI、MII、MIIIなどと示され得、[X]が2種以上のXアニオンを含む場合、それぞれの個々のXアニオンはそれぞれ、XI、XII、XIIIなどと示され得る。
【0138】
式[A]a[M]b[X]cの化合物において、一般に、
[A]は、例えばアルカリ金属カチオン又は有機モノカチオンから選択され得る1種以上のAカチオンを含み、
[M]は、Pd4+、W4+、Re4+、Os4+、Ir4+、Pt4+、Sn4+、Pb4+、Ge4+、Te4+、Bi3+、Sb3+、Sn2+、Pb2+、Cu2+、Ge2+及びNi2+から選択される金属又は半金属カチオンである1種以上のMカチオンを含み、
[X]は、ハライドアニオン(例えば、Cl-、Br-及びI-)、O2-、S2-、Se2-及びTe2-から選択される1種以上のXアニオンを含み、
aは1~3の整数であり、
bは1~3の整数であり、
cは1~8の整数である。
【0139】
典型的には、安定化結晶質A/M/X材料はペロブスカイト又はヘキサハロメタレートを含む。好ましくは、安定化結晶質材料はペロブスカイトを含む。安定化結晶質材料は、多くの場合金属ハライドペロブスカイトを含む。
【0140】
典型的には、a=1、b=1及びc=3である。そのため、典型的には、結晶質A/M/X材料は式(I)のペロブスカイト:
[A][M][X]3 (I)
[式中、[A]はモノカチオンである1種以上のAカチオンを含み、[M]は金属又は半金属ジカチオンである1種以上のMカチオンを含み、[X]はハライドアニオンである1種以上のアニオンを含む]を含む。
【0141】
[A]は、有機及び/又は無機モノカチオンであり得る1種以上のAカチオンを含む。A種が有機モノカチオンである場合、Aは、典型的には、アミノ、C1~6アルキルアミノ、イミノ、C1~6アルキルイミノ、C1~6アルキル、C2~6アルケニル、C3~6シクロアルキル及びC6~12アリールから選択される1つ以上の置換基で置換されていてもよい、C1~10アルキルアンモニウム、C2~10アルケニルアンモニウム、C1~10アルキルイミニウム、C3~10シクロアルキルアンモニウム及びC3~10シクロアルキルイミニウムから選択される。例えば、Aは、(CH3NH3)+、(CH3CH2NH3)+、(CH3CH2CH2NH3)+、(N(CH3)4)+、(H2N-C(H)=NH2)+及び(H2N-C(CH3)=NH2)+から選択されてもよい。A種が無機モノカチオンである場合、Aは、典型的にはアルキル金属モノカチオン(すなわち、周期表の1族に見られる金属のモノカチオン)、例えばCs+又はRb+である。
【0142】
[A]は、通常、1、2又は3種のAモノカチオンを含む。好ましくは、Aは、(CH3NH3)+、(CH3CH2NH3)+、(CH3CH2CH2NH3)+、(N(CH3)4)+、(H2N-C(H)=NH2)+、(H2N-C(CH3)=NH2)+、Cs+及びRb+から選択される単一のカチオンを含む。或いは、[A]は、この群、例えばCs+及び(H2N-C(CH3)=NH2)+、又は例えばCs+及びRb+から選択される2種のカチオンを含んでいてもよい。
【0143】
[M]は、金属又は半金属ジカチオンである1種以上のMカチオンを含む。例えば、[M]は、Ca2+、Sr2+、Cd2+、Cu2+、Ni2+、Mn2+、Fe2+、Co2+、Pd2+、Ge2+、Sn2+、Pb2+、Yb2+及びEu2+から選択されるMカチオンを含んでいてもよい。[M]は、典型的には1種又は2種のMカチオンを含み、これらは、一般にCa2+、Sr2+、Cd2+、Cu2+、Ni2+、Mn2+、Fe2+、Co2+、Pd2+、Ge2+、Sn2+、Pb2+、Yb2+及びEu2+から、好ましくはPb2+又はSn2+から選択される。1つの特に好ましい実施形態において、[M]はPb2+からなる。別の特に好ましい実施形態において、[M]はPb2+及びSn2+からなる。
【0144】
[X]は1種以上のXアニオンを含む。例えば、[X]は、F-、Br-、Cl-及びI-から選択されるアニオンを含んでいてもよい。[X]は、典型的には1、2又は3種のXアニオンを含み、これらは、一般にBr-、Cl-及びI-から選択される。
【0145】
1つの実施形態において、ペロブスカイトは式(IA)のペロブスカイト:
[AI xAII 1-x]MX3 (IA)
[式中、AI及びAIIはAに関して上記に定義された通りであり、M及びXは上記に定義された通りであり、xは0よりも大きく1よりも小さい]である。好ましい実施形態において、AI及びAIIは、(CH3NH3)+、(CH3CH2NH3)+、(CH3CH2CH2NH3)+、(N(CH3)4)+、(H2N-C(H)=NH2)+、(H2N-C(CH3)=NH2)+、Cs+及びRb+からそれぞれ選択され、MはPb2+であり、XはBr-、Cl-及びI-から選択される。AI及びAIIは、例えば、それぞれ(H2N-C(CH3)=NH2)+及びCs+であってもよい。或いは、これらは、それぞれCs+及びRb+であってもよい。
【0146】
1つの実施形態において、ペロブスカイトは式(IB)のペロブスカイト化合物:
AM[XI yXII 1-y]3 (IA)
[式中、A及びMは上記に定義された通りであり、XI及びXIIはXに関して上記に定義された通りであり、yは0よりも大きく1よりも小さい]である。好ましい実施形態において、Aは、(CH3NH3)+、(CH3CH2NH3)+、(CH3CH2CH2NH3)+、(N(CH3)4)+、(H2N-C(H)=NH2)+、(H2N-C(CH3)=NH2)+、Cs+及びRb+から選択され、MはPb2+であり、XI及びXIIはBr-、Cl-及びI-からそれぞれ選択される。
【0147】
特に好ましい実施形態において、ペロブスカイトは式(IC)のペロブスカイト:
[AI xAII 1-x]M[XI yXII 1-y]3 (IC)
[式中、AI及びAIIはAに関して上記に定義された通りであり、Mは上記に定義された通りであり、XI及びXIIはXに関して上記に定義された通りであり、x及びyは両方とも0よりも大きく1よりも小さい]である。好ましい実施形態において、AI及びAIIは、(CH3NH3)+、(CH3CH2NH3)+、(CH3CH2CH2NH3)+、(N(CH3)4)+、(H2N-C(H)=NH2)+、(H2N-C(CH3)=NH2)+、Cs+及びRb+からそれぞれ選択され、MはPb2+であり、XI及びXIIはBr-、Cl-及びI-からそれぞれ選択される。
【0148】
さらに好ましい実施形態において、ペロブスカイトは式(ID)のペロブスカイト:
[A][MI zMII 1-z][X]3 (ID)
[式中、[A]及び[X]は本明細書に定義された通りであり、MIはPb2+であり、MIIはSn2+であり、zは0よりも大きく1よりも小さい]である。
【0149】
一般に、上記において、xは0.01~0.99である。例えば、xは0.05~0.95又は0.1~0.9であってもよい。同様に、上記において、yは、一般に0.01~0.99である。例えば、yは0.05~0.95又は0.1~0.9であってもよい。例示的な実施形態において、x及びyは両方とも0.1~0.9である。
【0150】
例示的な実施形態において、式[A]a[M]b[X]cの化合物は、CsPbBr3、CsPbCl3、CsPbI3、CsPb(BryCl1-y)3、CsPb(BryI1-y)3、CsPb(ClyI1-y)3、(CsxRb1-x)PbBr3、(CsxRb1-x)PbCl3、(CsxRb1-x)PbI3、(CsxRb1-x)Pb(BryCl1-y)3、(CsxRb1-x)Pb(BryI1-y)3及び(CsxRb1-x)Pb(ClyI1-y)3から選択される[式中、x及びyは両方とも0よりも大きく1よりも小さい]。好ましくは、これらの実施形態において、xは0.01~0.99であり、yは0.01~0.99であり、より好ましくは、xは0.05~0.95であり、yは0.05~0.95である。
【0151】
1つの実施形態において、a=2、b=1及びc=4である。この実施形態において、安定化結晶質A/M/X材料は、式(II)の化合物(「2D層状ペロブスカイト」):
[A]2[M][X]4 (II)
[式中、[A]はモノカチオンである1種以上のAカチオンを含み、[M]は金属又は半金属ジカチオンである1種以上のMカチオンを含み、[X]はハライドアニオンである1種以上のXアニオンを含む]を含む。この実施形態において、A及びMカチオン並びにXアニオンは、式(I)のペロブスカイトに関して上記に定義された通りである。
【0152】
別の実施形態において、a=2、b=1及びc=6である。この実施形態において、この場合、結晶質A/M/X材料は、式(III)のヘキサハロメタレート:
[A]2[M][X]6 (III)
[式中、[A]はモノカチオンである1種以上のAカチオンを含み、[M]は金属又は半金属テトラカチオンである1種以上のMカチオンを含み、[X]はハライドアニオンである1種以上のXアニオンを含む]を含み得る。
【0153】
混合モノカチオンヘキサハロメタレートにおいて、[A]はモノカチオンである少なくとも2種のAカチオンを含み、[M]は金属又は半金属テトラカチオンである少なくとも1種のMカチオンを含み(典型的には、[M]は金属又は半金属テトラカチオンである単一のMカチオンを含む)、[X]はハライドアニオンである少なくとも1種のXアニオンを含む(典型的には、[X]は単一のハライドアニオンを含む)。混合金属ヘキサハロメタレートにおいて、[A]は少なくとも1種のモノカチオンを含み(典型的には、[A]は単一のモノカチオンである)、[M]は少なくとも2種の金属又は半金属テトラカチオン(例えばGe4+及びSn4+)を含み、[X]は少なくとも1種のハライドアニオンを含む(典型的には、[X]は単一のハライドアニオンである)。混合ハライドヘキサハロメタレートにおいて、[A]は少なくとも1種のモノカチオンを含み(典型的には、[A]は単一のモノカチオンである)、[M]は少なくとも1種の金属又は半金属テトラカチオンを含み(典型的には、[M]は単一の金属テトラカチオンである)、[X]は少なくとも2種のハライドアニオン、例えばBr-及びCl-を含む。
【0154】
[A]は、任意の適切なモノカチオン、例えばペロブスカイトについて上記のものから選択される少なくとも1種のAモノカチオンを含んでいてもよい。ヘキサハロメタレートの場合において、それぞれのAカチオンは、典型的には、Li+、Na+、K+、Rb+、Cs+、NH4 +及び1価の有機カチオンから選択される。1価の有機カチオンは、単一の正に帯電した有機カチオンであり、これは、例えば500g/mol以下の分子量を有していてもよい。例えば、[A]は、Li+、Na+、K+、Rb+、Cs+、NH4 +及び1価の有機カチオンから選択される単一のAカチオンであってもよい。[A]は、好ましくは、Rb+、Cs+、NH4 +及び1価の有機カチオンから選択されるモノカチオンである少なくとも1種のAカチオンを含む。例えば、[A]は、Li+、Na+、K+、Rb+、Cs+及びNH4 +から選択される単一の無機Aモノカチオンであってもよい。別の実施形態において、[A]は少なくとも1種の一価の有機Aカチオンであってもよい。例えば、[A]は単一の一価の有機Aカチオンであってもよい。
【0155】
好ましくは、[A]は、単一の種類のAカチオンを含み、すなわち、ヘキサハロメタレートは式A2[M][X]6の化合物である。[A]は、K+、Rb+、Cs+、NH4 +、(CH3NH3)+、(CH3CH2NH3)+、(CH3CH2CH2NH3)+、(N(CH3)4)+、(N(CH2CH3)4)+、(N(CH2CH2CH3)4)+、(H2N-C(H)=NH2)+及び(H2N-C(CH3)=NH2)+から選択される単一のAモノカチオンであってもよい。好ましくは、[A]は、Cs+、NH4 +、(CH3NH3)+、(CH3CH2NH3)+、(N(CH3)4)+、(N(CH2CH3)4)+、(H2N-C(H)=NH2)+及び(H2N-C(CH3)=NH2)+から選択される単一のAモノカチオンである。1つの実施形態において、[A]は(CH3NH3)+である。別の実施形態において、[A]は(H2N-C(H)=NH2)+である。さらなる実施形態において、[A]は((NH2)2C(=NH))+である。
【0156】
[M]は、適切な金属又は半金属テトラカチオンから選択される1種以上のMカチオンを含んでいてもよい。金属としては、元素の周期表の3~12族の元素並びにGa、In、Tl、Sn、Pb、Bi及びPoが挙げられる。半金属としては、Si、Ge、As、Sb及びTeが挙げられる。例えば、[M]は、Ti4+、V4+、Mn4+、Fe4+、Co4+、Zr4+、Nb4+、Mo4+、Ru4+、Rh4+、Pd4+、Hf4+、Ta4+、W4+、Re4+、Os4+、Ir4+、Pt4+、Sn4+、Pb4+、Po4+、Si4+、Ge4+及びTe4+から選択される金属又は半金属テトラカチオンである少なくとも1種のMカチオンを含んでいてもよい。典型的には、[M]は、Pd4+、W4+、Re4+、Os4+、Ir4+、Pt4+、Sn4+、Pb4+、Ge4+及びTe4+から選択される少なくとも1種の金属又は半金属テトラカチオンを含む。例えば、[M]は、Pd4+、W4+、Re4+、Os4+、Ir4+、Pt4+、Sn4+、Pb4+、Ge4+及びTe4+から選択される単一の金属又は半金属テトラカチオンであってもよい。
【0157】
典型的には、[M]は、Sn4+、Te4+、Ge4+及びRe4+から選択される金属又は半金属テトラカチオンである少なくとも1種のMカチオンを含む。1つの実施形態において、[M]は、Pb4+、Sn4+、Te4+、Ge4+及びRe4+から選択される金属又は半金属テトラカチオンである少なくとも1種のMカチオンを含む。例えば、[M]は、Pb4+、Sn4+、Te4+及びGe4+から選択される少なくとも1種の金属又は半金属テトラカチオンであるMカチオンを含んでいてもよい。好ましくは、[M]は、Sn4+、Te4+及びGe4+から選択される少なくとも1種の金属又は半金属テトラカチオンを含む。上記で議論したように、ヘキサハロメタレート化合物は、混合金属又は単一金属のヘキサハロメタレートであってもよい。好ましくは、ヘキサハロメタレート化合物は単一金属のヘキサハロメタレート化合物である。より好ましくは、[M]は、Sn4+、Te4+及びGe4+から選択される単一の金属又は半金属テトラカチオンである。例えば、[M]は、Te4+である単一の金属又は半金属テトラカチオンであってもよい。例えば、[M]は、Ge4+である単一の金属又は半金属テトラカチオンであってもよい。最も好ましくは、[M]は、Sn4+である単一の金属又は半金属テトラカチオンである。
【0158】
[X]は、ハライドアニオンである少なくとも1種のXアニオンを含んでいてもよい。したがって、[X]は、F-、Cl-、Br-及びI-から選択される少なくとも1種のハライドアニオンを含む。典型的には、[X]は、Cl-、Br-及びI-から選択される少なくとも1種のハライドアニオンを含む。ヘキサハロメタレート化合物は、混合ハライドヘキサハロメタレート又は単一ハライドヘキサハロメタレートであってもよい。ヘキサハロメタレートが混合である場合、[X]は、F-、Cl-、Br-及びI-から選択される2、3又は4種のハライドアニオンを含む。典型的には、混合ハライド化合物において、[X]は、F-、Cl-、Br-及びI-から選択される2種のハライドアニオンを含む。
【0159】
典型的には、[A]は単一のモノカチオンであり、[M]は単一の金属又は半金属テトラカチオンである。そのため、結晶質材料は、例えば、式(IIIA)のヘキサハロメタレート化合物
A2M[X]6 (IIIA)
[式中、Aはモノカチオンであり、Mは金属又は半金属テトラカチオンであり、[M]は少なくとも1種のハライドアニオンである]を含んでいてもよい。[X]は、F-、Cl-、Br-及びI-から選択される、好ましくはCl-、Br-及びI-から選択される、1、2又は3種のハライドアニオンを含んでいてもよい。式(IIIA)において、[X]は、好ましくは、Cl-、Br-及びI-から選択される1又は2種のハライドアニオンである。
【0160】
結晶質材料は、例えば、式(IIIB)のヘキサハロメタレート化合物
A2MX6-yX'y (IIIB)
[式中、Aはモノカチオン(すなわち、第2のカチオン)であり、Mは金属又は半金属テトラカチオン(すなわち、第1のカチオン)であり、X及びX'はそれぞれ独立して、(異なる)ハライドアニオン(すなわち、2種の第2のアニオン)であり、yは0~6である]を含んでいてもよく、又はこれから本質的になっていてもよい。yが0又は6である場合、ヘキサハロメタレート化合物は、単一ハライド化合物である。yが0.01~5.99である場合、化合物は、混合ハライドヘキサハロメタレート化合物である。化合物が混合ハライド化合物である場合、yは0.05~5.95であってもよい。例えば、yは1.00~5.00であってもよい。
【0161】
ヘキサハロメタレート化合物は、例えばA2SnF6-yCly、A2SnF6-yBry、A2SnF6-yIy、A2SnCl6-yBry、A2SnCl6-yIy、A2SnBr6-yIy、A2TeF6-yCly、A2TeF6-yBry、A2TeF6-yIy、A2TeCl6-yBry、A2TeCl6-yIy、A2TeBr6-yIy、A2GeF6-yCly、A2GeF6-yBry、A2GeF6-yIy、A2GeCl6-yBry、A2GeCl6-yIy、A2GeBr6-yIy、A2ReF6-yCly、A2ReF6-yBry、A2ReF6-yIy、A2ReCl6-yBry、A2ReCl6-yIy又はA2ReBr6-yIy[式中、AはK+、Rb+、Cs+、(R1NH3)+、(NR2 4)+又は(H2N-C(R1)=NH2)+であり、R1はH、置換若しくは無置換のC1~20アルキル基又は置換若しくは無置換のアリール基であり、R2は置換又は無置換のC1~10アルキル基であり、yは0~6である]であってもよい。任意選択で、yは0.01~5.99である。ヘキサハロメタレート化合物が混合ハライド化合物である場合、yは、典型的には1.00~5.00である。Aは上記に定義された通りであり得る。例えば、Aは、Cs+、NH4 +、(CH3NH3)+、(CH3CH2NH3)+、(N(CH3)4)+、(N(CH2CH3)4)+、(H2N-C(H)=NH2)+又は(H2N-C(CH3)=NH2)+ 例えばCs+、NH4 +又は(CH3NH3)+であってもよい。
【0162】
ヘキサハロメタレート化合物は、典型的にはA2SnF6-yCly、A2SnF6-yBry、A2SnF6-yIy、A2SnCl6-yBry、A2SnCl6-yIy又はA2SnBr6-yIy[式中、AはK+、Rb+、Cs+、(R1NH3)+、(NR2 4)+又は(H2N-C(R1)=NH2)+であり、或いはAは本明細書に定義される通りであり、R1はH、置換若しくは無置換のC1~20アルキル基又は置換若しくは無置換のアリール基であり、R2は置換又は無置換のC1~10アルキル基であり、yは0~6である]であってもよい。
【0163】
別の実施形態において、ヘキサハロメタレート化合物は、A2GeF6-yCly、A2GeF6-yBry、A2GeF6-yIy、A2GeCl6-yBry、A2GeCl6-yIy又はA2GeBr6-yIy[式中、AはK+、Rb+、Cs+、(R1NH3)+、(NR2 4)+又は(H2N-C(R1)=NH2)+であり、或いはAは本明細書に定義される通りであり、R1はH、置換若しくは無置換のC1~20アルキル基又は置換若しくは無置換のアリール基であり、R2は置換又は無置換のC1~10アルキル基であり、yは0~6である]である。
【0164】
ヘキサハロメタレート化合物は、例えばA2TeF6-yCly、A2TeF6-yBry、A2TeF6-yIy、A2TeCl6-yBry、A2TeCl6-yIy又はA2TeBr6-yIy[式中、AはK+、Rb+、Cs+、(R1NH3)+、(NR2 4)+又は(H2N-C(R1)=NH2)+であり、或いはAは本明細書に定義される通りであり、R1はH、置換若しくは無置換のC1~20アルキル基又は置換若しくは無置換のアリール基であり、R2は置換又は無置換のC1~10アルキル基であり、yは0~6であるか、又はyは本明細書に定義される通りである]であり得る。
【0165】
多くの場合、yは1.50~2.50である。例えば、yは1.80~2.20であってもよい。これは、化合物が、下記で議論されるように2当量のAX'及び1当量のMX4を使用して生成される場合、起こり得る。
【0166】
いくつかの実施形態において、すべてのイオンは単一のアニオンである。そのため、結晶質材料は、式(IIIC)のヘキサハロメタレート化合物
A2MX6 (IIIC)
[式中、Aはモノカチオンであり、Mは金属又は半金属テトラカチオンであり、Xはハライドアニオンである]を含んでいてもよく、又はこれから本質的になっていてもよい。A、M及びXは本明細書に定義される通りであってもよい。
【0167】
ヘキサハロメタレート化合物は、A2SnF6、A2SnCl6、A2SnBr6、A2SnI6、A2TeF6、A2TeCl6、A2TeBr6、A2TeI6、A2GeF6、A2GeCl6、A2GeBr6、A2GeI6、A2ReF6、A2ReCl6、A2ReBr6又はA2ReI6[式中、AはK+、Rb+、Cs+、(R1NH3)+、(NR2 4)+又は(H2N-C(R1)=NH2)+であり、R1はH、置換若しくは無置換のC1~20アルキル基又は置換若しくは無置換のアリール基であり、R2は置換又は無置換のC1~10アルキル基である]であり得る。Aは、本明細書に定義される通りであってもよい。好ましくは、ヘキサハロメタレート化合物は、Cs2SnI6、Cs2SnBr6、Cs2SnBr6-yIy、Cs2SnCl6-yIy、Cs2SnCl6-yBry、(CH3NH3)2SnI6、(CH3NH3)2SnBr6、(CH3NH3)2SnBr6-yIy、(CH3NH3)2SnCl6-yIy、(CH3NH3)2SnCl6-yBry、(H2N-C(H)=NH2)2SnI6、(H2N-C(H)=NH2)2SnBr6、(H2N-C(H)=NH2)2SnBr6-yIy、(H2N-C(H)=NH2)2SnCl6-yIy又は(H2N-C(H)=NH2)2SnCl6-yBry[式中、yは0.01~5.99である]である。例えば、ヘキサハロメタレート化合物は、(CH3NH3)2SnI6、(CH3NH3)2SnBr6、(CH3NH3)2SnCl6、(H2N-C(H)=NH2)2SnI6、(H2N-C(H)=NH2)2SnBr6又は(H2N-C(H)=NH2)2SnCl6であってもよい。ヘキサハロメタレート化合物は、Cs2SnI6、Cs2SnBr6、Cs2SnCl6-yBry、(CH3NH3)2SnI6、(CH3NH3)2SnBr6又は(H2N-C(H)=NH2)2SnI6であってもよい。
【0168】
結晶質A/M/X材料は、ビスマス又はアンチモンのハロゲノメタレート(halogenometallate)を含んでいてもよい。例えば、結晶質A/M/X材料は、(i)1種以上のモノカチオン([A])又は1種以上のジカチオン([B])、(ii)1種以上の金属又は半金属トリカチオン([M])、及び(iii)1種以上のハライドアニオン([X])を含むハロゲノメタレート化合物を含んでいてもよい。化合物は、式BBiX5、B2BiX7又はB3BiX9の化合物[式中、Bは(H3NCH2NH3)2+、(H3N(CH2)2NH3)2+、(H3N(CH2)3NH3)2+、(H3N(CH2)4NH3)2+、(H3N(CH2)5NH3)2+、(H3N(CH2)6NH3)2+、(H3N(CH2)7NH3)2+、(H3N(CH2)8NH3)2+又は(H3N-C6H4-NH3)2+であり、XはI-、Br-又はCl-、好ましくはI-である]であってもよい。
【0169】
またさらなる実施形態において、本発明の安定化結晶質A/M/X材料は二重ペロブスカイトであってもよい。このような化合物は、国際公開第2017/037448号において定義されており、その全内容は参照によって本明細書に組み込まれる。典型的には、化合物は式(IV)の二重ペロブスカイト化合物:
[A]2[B+][B3+][X]6 (IV)
[式中、[A]は、本明細書に定義されるモノカチオンである1種以上のAカチオンを含み、[B+]及び[B3+]は、Mがモノカチオンである1種以上のMカチオン及びトリカチオンである1種以上のMカチオンを含む[M]と同等であり、[X]はハライドアニオンである1種以上のXアニオンを含む]である。
【0170】
[B+]に含まれるモノカチオンである1種以上のMカチオンは、典型的には金属及び半金属モノカチオンから選択される。好ましくは、モノカチオンである1種以上のMカチオンは、Li+、Na+、K+、Rb+、Cs+、Cu+、Ag+、Au+及びHg+から選択される。より好ましくは、モノカチオンである1種以上のMカチオンは、Cu+、Ag+及びAu+から選択される。最も好ましくは、モノカチオンである1種以上のMカチオンは、Ag+及びAu+から選択される。例えば、[B+]は、Ag+である1種のモノカチオンであってもよく、又は[B+]は、Au+である1種のモノカチオンであってもよい。
【0171】
[B3+]に含まれるトリカチオンである1種以上のMカチオンは、典型的には金属及び半金属トリカチオンから選択される。好ましくは、トリカチオンである1種以上のMカチオンは、Bi3+、Sb3+、Cr3+、Fe3+、Co3+、Ga3+、As3+、Ru3+、Rh3+、In3+、Ir3+及びAu3+から選択される。より好ましくは、トリカチオンである1種以上のMカチオンは、Bi3+及びSb3+から選択される。例えば、[B3+]は、Bi3+である1種のトリカチオンであってもよく、又は[B3+]は、Sb3+である1種のトリカチオンであってもよい。ビスマスは、重金属、例えば鉛と比較して、比較的低い毒性を有する。
【0172】
いくつかの実施形態において、([B+]中の)モノカチオンである1種以上のMカチオンは、Cu+、Ag+及びAu+から選択され、([B3+]中の)トリカチオンである1種以上のMカチオンは、Bi3+及びSb3+から選択される。
【0173】
典型的には、化合物が二重ペロブスカイトである場合、これは、式(IVa)の化合物:
A2B+B3+[X]6 (IVa)
[式中、Aカチオンは本明細書に定義される通りであり、B+は本明細書に定義されるモノカチオンであるMカチオンであり、B3+は本明細書に定義されるトリカチオンであるMカチオンであり、[X]はハライドアニオンである1種以上のXアニオン、例えば2種以上のハライドアニオン、好ましくは単一のハライドアニオンを含む]である。
【0174】
さらに別の実施形態において、化合物は式(V)の層状二重ペロブスカイト化合物:
[A]4[B+][B3+][X]8 (V)
[式中、[A]、[B+]、[B3+]及び[X]は上記に定義された通りである]であってもよい。この実施形態において、典型的には、層状二重ペロブスカイト化合物は、式(Va)の二重ペロブスカイト化合物:
A4B+B3+[X]8 (Va)
[式中、Aカチオンは本明細書に定義される通りであり、B+は本明細書に定義されるモノカチオンであるMカチオンであり、B3+は本明細書に定義されるトリカチオンであるMカチオンであり、[X]はハライドアニオンである1種以上のXアニオン、例えば2種以上のハライドアニオン、好ましくは単一のハライドアニオンを含む]である。
【0175】
したがって、一般に、式[A]a[M]b[X]cの化合物において、[A]は1種以上のAカチオンを含み、[M]は1種以上のMカチオンを含み、[X]は1種以上のアニオンを含む。
【0176】
典型的には、それぞれのAカチオンは、アルカリ金属カチオン、アミン、C1~6アルキルアミン、イミン、C1~6アルキルイミン、C1~6アルキル、C2~6アルケニル、C3~6シクロアルキル及びC6~12アリールから選択される1つ以上の置換基で置換されていてもよい、C1~10アルキルアンモニウム、C2~10アルケニルアンモニウム、C1~10アルキルイミニウム、C3~10シクロアルキルアンモニウム及びC3~10シクロアルキルイミニウムから選択される。好ましくは、それぞれのAカチオンは、Cs+、Rb+、メチルアンモニウム、エチルアンモニウム、プロピルアンモニウム、ブチルアンモニウム、ペンチルアンモニウム、ヘキシルアンモニウム、ヘプチルアンモニウム、オクチルアンモニウム、ホルムアミジニウム、ベンジルアンモニウム、フェニルエチルアンモニウム、ベンジルアンモニウム、ナフチルメチルアンモニウム及びグアニジニウムから選択される。典型的には、[A]は1、2又は3種のAカチオンを含み、好ましくは、[A]は1種のAカチオンである。好ましくは、それぞれのAカチオンはモノカチオンである。
【0177】
一般に、それぞれのMカチオンは、金属又は半金属カチオンから選択され、好ましくはLi+、Na+、K+、Rb+、Cs+、Cu+、Ag+、Au+、Hg+、Ca2+、Sr2+、Cd2+、Cu2+、Ni2+、Mn2+、Fe2+、Co2+、Pd2+、Ge2+、Sn2+、Pb2+、Yb2+、Eu2+、Bi3+、Sb3+、Cr3+、Fe3+、Co3+、Ga3+、As3+、Ru3+、Rh3+、In3+、Ir3+及びAu3+のうちの1種以上、好ましくはCu+、Ag+、Au+、Sn2+、Pb2+、Cu2+、Ge2+、Ni2+、Bi3+及びSb3+のうちの1種以上から選択され、特に好ましくはPb2+である。例えば、好ましくは、それぞれのMカチオンは金属又は半金属ジカチオンである。
【0178】
通常、それぞれのXアニオンは、F-、Cl-、Br-又はI-、好ましくはCl-又はBr-から選択される。
【0179】
通常、1種以上のAカチオンがモノカチオンであり、1種以上のMカチオンがジカチオンであることが好ましい。式[A]a[M]b[X]cの化合物が式[A][M][X]3の化合物[式中、それぞれのAカチオンはモノカチオンであり、それぞれのMカチオンは金属又は半金属ジカチオンである]であることが特に好ましい。
【0180】
好ましい実施形態において、[A]は2種以上の異なるAカチオンを含む。この実施形態の特に好ましい態様において、式[A]a[M]b[X]cの化合物は式[A][M][X]3のペロブスカイトである。これらの「混合カチオンペロブスカイト」は、特にスペクトルの青色領域において予想外の良好な光ルミネセンス特性を有することが実施例項において示されている。
【0181】
別の好ましい実施形態において、[X]は2種以上の異なるXアニオンを含む。これらの実施形態の特に好ましい態様において、式[A]a[M]b[X]cの化合物は式[A][M][X]3のペロブスカイトである。これらの「混合ハライドペロブスカイト」は、従来の安定化技法を使用して安定化される場合には、多くの場合ハライドの分離によって分解することが示されている。酸化物を含む本発明の安定化結晶質A/M/X材料ではこれらの困難がないことは明らかである。
【0182】
好ましい実施形態において、材料は「青色エミッター」である。これは、式[A]a[M]b[X]cの化合物が、電気エネルギー又は青色光、紫色光若しくは紫外光(例えば500nm以下の波長を有する光)の照射による刺激後、青色光を放出することが可能であり得ることを意味する。この実施形態において、式[A]a[M]b[X]cの化合物は、450~500nm、例えば455~495nm、好ましくは460~490nmの波長を有する光を放出することができる。
【0183】
A及びM前駆体
A前駆体は、M前駆体及び酸化物前駆体と反応して、本明細書に定義される安定化結晶質A/M/X材料を生成することができる種である。したがって、式[A]a[M]b[X]cの化合物が2種以上のAカチオンを含む場合、A前駆体も前記2種以上のAカチオンを含む。A前駆体は、式[A]a[M]b[X]cの化合物中に存在するすべてのカチオンAを含む。したがって、本明細書において、「A前駆体」という用語は、単一のAカチオンを含む単一化合物、複数のAカチオンを含む単一化合物又は1種以上のAカチオンをそれぞれ含む複数の化合物を示し得る。本明細書における「A前駆体」への言及は、したがって、単一種及び複数の成分の種の両方ともを指すことが理解されるべきである。複雑さを最小化する目的のために、A前駆体が、[A]中に存在するすべてのAカチオンを含有する単一化合物を含むことが好ましい。
【0184】
M前駆体は、A前駆体及び酸化物前駆体と反応して、本明細書に定義される安定化結晶質A/M/X材料を生成することができる種である。したがって、式[A]a[M]b[X]cの化合物が2種以上のMカチオンを含む場合、M前駆体も前記2種以上のMカチオンを含む。M前駆体は、式[A]a[M]b[X]cの化合物中に存在するすべてのカチオンMを含む。したがって、本明細書において、「M前駆体」という用語は、単一のMカチオンを含む単一化合物、複数のMカチオンを含む単一化合物又は1種以上のMカチオンをそれぞれ含む複数の化合物を示し得る。本明細書における「M前駆体」への言及は、したがって、単一種及び複数の成分の種の両方ともを指すことが理解されるべきである。複雑さを最小化する目的のために、M前駆体が、[M]中に存在するすべてのMカチオンを含有する単一化合物を含むことが好ましい。
【0185】
本発明の安定化結晶質A/M/X材料は、1種以上のアニオンXを含む成分[X]を含む。したがって、方法はこれらのアニオン源を必要とする。いくつかの実施形態において、方法はX前駆体を含む。X前駆体は、A前駆体、M前駆体及び酸化物前駆体と反応して、本明細書に定義される安定化結晶質A/M/X材料を生成することができる種である。X前駆体は、式[A]a[M]b[X]cの化合物中に存在するいくつかの又はすべてのXアニオンを含んでいてもよい。
【0186】
このような実施形態において、本発明の方法は、A前駆体、M前駆体及びX前駆体を酸化物前駆体で処理するステップを含む。
【0187】
しかしながら、より一般に、本発明の方法におけるXアニオン源は、A前駆体、M前駆体及び酸化物前駆体のうちの1種以上である。すなわち、典型的には、A前駆体、M前駆体及び酸化物前駆体のうちの1種以上は、安定化結晶質A/M/X材料を形成するために必要な1種以上のXアニオンを含む。当然ながら、追加のX前駆体は、追加的に本発明の方法に関与してもよい。
【0188】
本発明のこの実施形態の好ましい態様において、A前駆体若しくはM前駆体のいずれか、又はA前駆体及びM前駆体の両方は、1種以上のXアニオンを含む。この実施形態において、本発明の方法は、
(a)Aカチオン及び任意選択でXアニオンを含むA前駆体、並びに
(b)Mカチオン及び任意選択でXアニオンを含むM前駆体
を、元素Zを含む酸化物前駆体で処理するステップを含む。この実施形態の好ましい態様において、A前駆体及びM前駆体は一緒に、安定化結晶質A/M/X生成物を提供するために必要なすべてのXアニオンを含む。
【0189】
したがって、好ましくは、A前駆体は、[A]中に存在するそれぞれのAカチオンの1種以上の塩を含み、ここで塩は、[X]中に存在する1種以上のXアニオンを含む。同様に、M前駆体は、[M]中に存在するそれぞれのMカチオンの1種以上の塩を含むことが好ましく、ここで塩は、[X]中に存在する1種以上のXアニオンを含む。A前駆体及びM前駆体は一緒に、[X]中に存在するすべてのXアニオンを含むことが特に好ましい。
【0190】
典型的には、[X]は、ハライドアニオンである1種以上のXアニオンを含む。好ましくは、[X]は、そのすべてがハライドアニオンである1種以上のXアニオンを含む。したがって、A前駆体は、安定化結晶質A/M/X材料に含まれる1種以上のAカチオンのハロゲン化物塩を含むことが好ましい。例えば、A前駆体は、Aカチオン又はそれぞれのAカチオンのハロゲン化物塩であることが好ましい。同様に、M前駆体は、安定化結晶質A/M/X材料に含まれる1種以上のMカチオンのハロゲン化物塩を含むことが好ましい。例えば、M前駆体は、Mカチオン又はそれぞれのMカチオンのハロゲン化物塩であってもよい。
【0191】
特に好ましい実施形態において、A前駆体は、[A]中のAカチオン又はそれぞれのAカチオンの1種以上のハロゲン化物塩からなり、M前駆体は、[M]中のMカチオン又はそれぞれのMカチオンの1種以上のハロゲン化物塩からなる。
【0192】
安定化結晶質A/M/X材料
本発明の「生成物」とも称される本発明の安定化結晶質A/M/X材料は本明細書に定義される通りである。安定化結晶質A/M/X材料は本発明の方法によって得られ得る。したがって、本発明の安定化結晶質A/M/X材料の以下の定義は、本明細書に記載の本発明の方法の生成物に等しく適用される。同様に、本発明の方法の上記の記載のすべての態様は、本発明の生成物に等しく適用される。
【0193】
したがって、いくつかの実施形態において、本発明は、本明細書に定義される本発明の方法によって得られる又は得られ得る生成物を提供する。
【0194】
本発明の生成物は、酸化物が結晶質A/M/X材料を安定化するので、有利である。本発明の生成物の利点は、本明細書に提供されるデータにおいて説明される。
【0195】
最初に、比較のために、図1及び2は、従来の方法によって得られ得るA/M/X材料の一般的な安定性の困難を実証する。図1は、ペロブスカイト(CsPbBr3)ナノ結晶の形成の際及び12時間後の正規化された光ルミネセンス強度を示す。CsPbBr3ナノ結晶を様々なポリマーの安定化被膜でコーティングした。図1(a)は、ポリマーのポリビニルブチラール(PVB、四角)及びエチレン酢酸ビニル(EVA、丸)でコーティングされたナノ結晶の光ルミネセンスを示す。図1(b)は、ポリメチルメタクリレート(四角)及びポリスチレン(丸)に分散されたナノ結晶の光ルミネセンス特性を示す。すべての場合において、保護プラスチック層に関わらず、わずか12時間後にペロブスカイトの光ルミネセンス強度はその元の強度のほんのわずかまで低下する。図1(a)において、12時間後、目に見える光ルミネセンスは全く残っていない。
【0196】
図2は、図1において説明されたナノ結晶の安定性が不十分であることが薄膜中でも観察されることを示す。ペロブスカイトCsPbBr3の薄膜は、最初、光ルミネセンスのわずかな増加を示すが、およそ150時間後、その光ルミネセンス量子収量(PLQY)はその初期値のおよそ半分まで、及びその最大値の半分よりもはるかに低くまで下がる。これは図1におけるナノ結晶について観察されたよりもかなり長い寿命であるが、数か月又は数年続くと通常予想される光電子デバイスにおける使用のためには依然として不十分である。
【0197】
それに反して、本発明の生成物の非常に優れた光ルミネセンス特性を図3、4及び5に図示する。
【0198】
図3は、本発明の安定化結晶質A/M/X材料中の安定化する酸化物の存在が、下にあるA/M/X材料の光ルミネセンススペクトルを著しくシフトさせないことを示す。図3の安定化A/M/X材料は、下記の実施例項に記載の方法によって調製され、ここで、方法は第1の溶液を第2の溶液で処理するステップを含み、第1の溶液はA前駆体(Csハロゲン化物)、M前駆体(Pbハロゲン化物)及び第1の溶媒を含み、第2の溶液は酸化物前駆体(トリメチルアルミニウム、「TMA」)及び第2の溶媒を含む。Al3+前駆体とPb2+前駆体との比(モルパーセント、モル%)は0(TMAは存在しない)から6.4(前駆体溶液はそれぞれ100モルのPb2+に対して6.4モルのAl3+を含有する)まで変化する。図3から分かるように、生成物中で安定化アルミニウム酸化物を提供するTMAの存在は、吸収ピーク(図3(a)を参照のこと)又は発光ピーク(図3(b)を参照のこと)を著しく移動させない。吸収ピーク位置の類似は図3(c)において最も明確に見られ、ここで正規化された光ルミネセンススペクトルは重なる。したがって、典型的には、安定化する酸化物の存在は、光ルミネセンス及び吸収スペクトルのピーク位置を保持する(「ピーク位置」とは、最大光ルミネセンス/最大吸収の波長をそれぞれ意味する)。これらのピーク位置及びPLQYを下記の表1にまとめる。
【0199】
【表1】
【0200】
ピーク位置の移動は最大でわずか2nmである。
【0201】
また、安定化する酸化物はさらに有利な効果を有する:これは光ルミネセンス強度を増加させることができる。例えば、酸化物非存在下の図3(b)におけるCsPbBr3のスペクトル(四角)を最大量の酸化物を含有する安定化CsPbBr3のスペクトル(菱形)と比較すると、後者の最大光ルミネセンス強度は、対応する波長での非安定化CsPbBr3の光ルミネセンス強度よりもおよそ6倍高いことが明らかである。また、表1は、すべての場合におけるPLQY(光ルミネセンス量子収量)が非安定化ペロブスカイトのPLQYよりも少なくとも3倍大きいことを示す。
【0202】
したがって、本発明の好ましい実施形態において、安定化結晶質A/M/X材料は、対応する式[A]a[M]b[X]cの結晶質化合物の光ルミネセンス強度よりも高い又は同等の光ルミネセンス強度を有する。例えば、安定化結晶質A/M/X材料は、対応する式[A]a[M]b[X]cの結晶質化合物のPLQYよりも高い又は同等のPLQYを有する。特に、安定化結晶質A/M/X材料は、対応する式[A]a[M]b[X]cの結晶質化合物のPLQEよりも高い又は同等のPLQEを有し得る。光ルミネセンス強度、PLQE及びPLQYは、標準技法を使用して測定することができる。PLQYは光ルミネセンス量子収量を示し、これはPLQE(光ルミネセンス量子効率)と称される場合もある。
【0203】
安定化する酸化物は光ルミネセンス強度に対する有利な効果を有するだけでなく、これはまた、その高いPLQYが観察される時間の長さを大幅に増加させる。図1及び2において上記に示されるように、非安定化CsPbBr3ペロブスカイトのPLQYは、ナノ結晶について12時間以内及び薄膜について125時間以内に、その初期値をはるかに下回って低下する。それに反して、本発明の安定化A/M/X材料(安定化CsPbBr3によって例示される)は、それらがこの方法で減衰する前にはるかに長い寿命を有することが図4から分かる。図4(a)は、図3に関して議論される通りに調製されたCsPbBr3薄膜が少なくとも200時間、その初期値より高い又は同等のPLQYを維持することを図示する。図5は、この薄膜が実際に、200時間よりもはるかに長くその初期値よりも高いPLQYを維持することができることを確認し、膜は最大で6000時間まで試験されたが、その初期値に戻る又は下回る低下の兆候は示さなかった。それに反して、安定化する酸化物なしの対応する薄膜は125時間以内にその初期値を下回る。この長い寿命は、膜の並外れた安定性を示す。
【0204】
図4(b)は、本発明の安定化A/M/X材料の光ルミネセンススペクトルがこの時間で非常にわずかにシフトすることを確認する;152時間後にわずか2nmなど。
【0205】
したがって、本発明の特に好ましい実施形態において、本発明の安定化A/M/X材料の光ルミネセンス強度は、少なくとも100時間、例えば少なくとも150時間又は少なくとも500時間、好ましくは少なくとも1000時間、その初期値とほぼ同等又はそれよりも高い。この実施形態の1つの態様において、本発明の安定化A/M/X材料のPLQYは、少なくとも100時間、例えば少なくとも150時間又は少なくとも500時間、好ましくは少なくとも1000時間、その初期値と同等又はそれよりも高い。この実施形態のさらなる態様において、本発明の安定化A/M/X材料のPLQEは、少なくとも100時間、例えば少なくとも150時間又は少なくとも500時間、好ましくは少なくとも1000時間、その初期値と同等又はそれよりも高い。
【0206】
本発明の別の好ましい実施形態において、本発明の安定化A/M/X材料の光ルミネセンススペクトルのピーク波長は、その初期値と、100時間後、例えば150又は500時間後、好ましくは1000時間後に、5nm以下、好ましくは3nm以下、より好ましくは1nm以下異なる。
【0207】
「初期値」とは、その形成の際、例えば材料の調製の1時間以内又は30分以内に測定されたそのパラメーターの値を意味する。
【0208】
本発明の利点はまた、本発明の安定化A/M/X材料が本明細書において議論される逆溶媒を使用して調製される場合にも証拠付けられる。この実施形態において、安定化A/M/X材料は、下記の実施例項に記載の「クエンチング」方法によって調製され、ここで、方法は第1の溶液を第2の溶液で処理するステップを含み、第1の溶液はA前駆体(Csハロゲン化物)、M前駆体(Pbハロゲン化物)及び第1の溶媒を含み、第2の溶液は酸化物前駆体(トリメチルアルミニウム、「TMA」)及び逆溶媒を含む。逆溶媒中に存在するTMAの濃度は0~100mMに変化させた。
【0209】
図7及び8は、先の段落に記載の逆溶媒を用いて生成された本発明の安定化A/M/X材料の薄膜の特徴を示す。この例における酸化物はAl2O3であり、式[A]a[M]b[X]cの化合物は混合ハライドペロブスカイト:CsPb(Br0.7Cl0.3)3である。図6(a)は吸収スペクトルを示し、図6(b)は本発明によるこの材料の正規化された光ルミネセンス強度を示す。図3~5のCsPbBr3材料と同様に、光ルミネセンススペクトルが安定化する酸化物の存在によってシフトしないことが分かる。酸化物前駆体の非存在下(TMAの濃度がゼロである)で生じる吸収スペクトルにおけるピークは、これが逆溶媒中100mMのTMA濃度を用いて生じたものとほぼ正確に同じ場所にある。そのため、やはり、酸化物の存在は、光ルミネセンススペクトル又は吸収スペクトルをシフトさせない。
【0210】
図7に図示される薄膜のそれぞれにおけるPLQY、PLピーク位置(すなわち、光ルミネセンススペクトルのピーク)及び吸収についてのFWHMを下記の表2に示す。
【0211】
【表2】
【0212】
表2は、ピーク位置が酸化物の非存在下のその位置から最大でわずか4nm離れて移動することを示す。表2は、増加した光ルミネセンス、すなわち増加したPLQYの同じ利点が、逆溶媒技法も使用する方法において明らかであることも示す。
【0213】
図7は、本発明による安定化結晶質A/M/X材料の有利に延長された寿命を図示する。安定化する酸化物の非存在下において、CsPb(Br0.7Cl0.3)3の薄膜のPLQYは150時間以内に著しく減少する。それに反して、CsPb(Br0.7Cl0.3)3及びアルミナを含む本発明による安定化結晶質A/M/X材料のPLQYは、その初期値と150時間後に非常に類似した値を有する。PLQYの多量の喪失は、全300時間の実験期間にわたって、本発明の薄膜について観察されなかった。それに反して、300時間後、非安定化CsPb(Br0.7Cl0.3)3はPLQYがほぼ0までの減少を示す。
【0214】
したがって、本発明の好ましい実施形態において、その形成のおよそ100時間後、例えばその形成の少なくとも150時間後又は少なくとも500時間後、好ましくはその形成の少なくとも1000時間後に測定された本発明の安定化A/M/X材料の光ルミネセンス強度は、その初期値とほぼ同等又はそれよりも高い。この実施形態の1つの態様において、その形成のおよそ100時間後、例えばその形成の少なくとも150時間後又は少なくとも500時間後、好ましくはその形成の少なくとも1000時間後に測定された安定化A/M/X材料のPLQYは、その初期値とほぼ同等又はそれよりも高い。この実施形態のさらなる態様において、その形成のおよそ100時間後、例えばその形成の少なくとも150時間後又は少なくとも500時間後、好ましくはその形成の少なくとも1000時間後に測定された本発明の安定化A/M/X材料のPLQEは、その初期値とほぼ同等又はそれよりも高い。
【0215】
理論に縛られることを望まないが、本発明の上記の利点は、酸化物前駆体がA/M/X材料の前駆体と接触し、そのようにして酸化物が式[A]a[M]b[X]cの結晶質化合物と一緒に形成されるので、少なくとも部分的に生じ得ると推測される。安定化CsPb(Br0.7Cl0.3)3の薄膜が上記のTMAを含有する逆溶媒を使用して形成された実験を形成した。1つの実験において、TMAを含有する逆溶媒を本発明によるCs及びPb前駆体に添加した。別の実験において、TMAを含有する逆溶媒をCsPb(Br0.7Cl0.3)3が結晶化した後に添加した。得られた膜の正規化されたスペクトルを図8に示し、光ルミネセンスのピークがむしろ類似していることが分かる。しかしながら、光ルミネセンス強度を測定した場合、本発明の方法はかなり大きな光ルミネセンス強度を有する生成物を生じることが分かる。これらの結果を下記の表3に示す。表において「間」と表される、酸化物前駆体TMAを本発明の安定化結晶質A/M/X材料の形成の間に添加する場合、9.52のPLQYが観察される。それに反して、TMA及び逆溶媒をCsPb(Br0.7Cl0.3)3の結晶化後に添加する場合、わずか5.11のPLQYが観察される。
【0216】
【表3】
【0217】
本発明の安定化結晶質A/M/X材料は、式[A]a[M]b[X]cの化合物の結晶を含み、結晶はその全表面上に式[Z]pOqの酸化物被膜を有する[式中、
[Z]は、少なくとも3eVのバンドギャップを有する酸化物を形成することができる少なくとも1種の元素Zを含み、
p及びqは正の数であり、
[A]は1種以上のAカチオンを含み、
[M]は1種以上のMカチオンを含み、
[X]は1種以上のXアニオンを含み、
aは1~6の整数であり、
bは1~6の整数であり、
cは1~18の整数である]。
【0218】
[A]a[M]b[X]c、[Z]pOq、[A]、A、[M]、M、[X]、X、[Z]、Z、a、b、c、p及びqは本明細書に定義される通りである。
【0219】
本発明の安定化結晶質A/M/X材料において、[Z]と[M]とのモル比によって表される酸化物の量を定義することが好都合である。[Z]:[M]のモル比は典型的には1:1~1:10000である。好ましくは、[Z]:[M]のモル比は1:2~1:1000、例えば1:5~1:500、特に好ましくは1:5~1:100である。
【0220】
本発明の安定化結晶質A/M/X材料は結晶質である。本明細書で使用される「結晶質」という用語は、個々の結晶及び多結晶質材料を意味することを包含する。結晶質化合物は、広範な三次元結晶構造を有する化合物である。結晶質化合物は、典型的には結晶の形態であるか、又は多結晶質化合物の場合において結晶子(すなわち、1μm以下の粒径を有する複数の結晶)である。結晶は、多くの場合一緒に層を形成する。結晶質材料の結晶は任意のサイズであり得る。本発明の化合物の結晶は、結晶質形態(多結晶質形態ではない)の場合、典型的には1nm以上の最小直径及び100マイクロメートル(μm)以下の最大直径を有する。結晶が1nmから最大で1000nmの範囲の1つ以上の直径を有する場合、これらはナノ結晶と記載される場合がある。
【0221】
本発明の安定化結晶質A/M/X材料は、式[A]a[M]b[X]cの化合物の結晶を含み、これは式[Z]pOqの酸化物被膜と共に形成される。そのため、結晶質[A]a[M]b[X]c材料が形成され、式[Z]pOqの酸化物がその後その曝露された面に堆積される方法とは異なり、本発明の化合物は酸化物被膜が結晶の全表面上に存在する結晶を含む。「全表面上」とは、結晶の表面全体が、少なくとも1原子厚さの式[Z]pOqの酸化物の層でコーティングされることを意味する。
【0222】
当然ながら、本発明の安定化結晶質A/M/X材料は全体的に均一ではない。前記材料の大部分において、全表面上に酸化物被膜を有さないいくつかの結晶が存在していてもよい。しかしながら、典型的には、本発明の安定化結晶質A/M/X材料は式[A]a[M]b[X]cの化合物の複数の結晶を含み、ここでそれぞれの結晶はその全表面上に式[Z]pOqの酸化物被膜を有する。好ましい実施形態において、本発明の安定化結晶質A/M/X材料中の式[A]a[M]b[X]cの化合物の結晶の少なくとも半分は、それらの全表面上に式[Z]pOqの酸化物被膜を有する。好ましくは、本発明の安定化結晶質A/M/X材料中の式[A]a[M]b[X]cの化合物の結晶の少なくとも4分の3、より好ましくは少なくとも90%が、それらの全表面上に式[Z]pOqの酸化物被膜を有する。
【0223】
好ましい実施形態において、本発明の安定化結晶質A/M/X材料は多結晶質材料である。本明細書における「多結晶質材料」とは、結晶子間の粒界を含む結晶質材料を意味する。多結晶質材料ではない結晶質材料は、粒界なしの1つ以上の結晶を含む材料である。粒界は、結晶質固体内の異なる結晶配向(すなわち粒子)の領域を分離する面欠陥である。したがって、粒界は、結晶質材料中の2つの隣接する粒子又は結晶子間の境界面である。このような多結晶質材料は、特に有利な光学特性及び改善された安定性を有し得る。多結晶質材料の場合において、結晶、例えば「被膜を有する結晶」に対する言及は、結晶子に対する言及、例えば「被膜を有する結晶子」に対する言及を意味すると理解されるべきである。
【0224】
生成物が結晶子を含む多結晶質材料を含む場合、結晶子はA/M/X材料を含む。結晶子(酸化物被膜を除く)は、典型的には酸化物を実質的に含まない。例えば、結晶子は、典型的には20重量%以下の酸素、好ましくは10重量%以下の酸素、例えば5重量%以下の酸素又は1重量%以下の酸素を含む。結晶子は0.1重量%以下の酸素を含んでいてもよい。さらに、結晶子は、典型的には、20重量%以下の[Z]、好ましくは10重量%以下の[Z]、例えば5重量%以下の[Z]又は1重量%以下の[Z]を含む。結晶子は0.1重量%以下の[Z]を含んでいてもよい。
【0225】
したがって、好ましい実施形態において、本発明の安定化結晶質A/M/X材料は前記結晶(その全表面上に式[Z]pOqの酸化物被膜を有する)を含む多結晶質材料であり、前記酸化物被膜の少なくとも一部は結晶粒界に位置する。酸化物前駆体が多結晶質材料の形成の間に存在するので、結晶粒界での酸化物被膜の位置が生じ得る。結晶がすべての面で粒界によって囲まれている場合、式[Z]pOqの酸化物被膜の全体がこれらの粒界にある。
【0226】
したがって、生成物はその全表面上に式[Z]pOqの酸化物被膜を有する結晶を含む多結晶質材料を含んでいてもよく、ここで結晶は酸化物を実質的に含まず、前記酸化物被膜の少なくとも一部は結晶粒界に位置する。
【0227】
生成物はそれぞれの結晶の全表面上に式[Z]pOqの酸化物被膜を有する複数の結晶を含む多結晶質材料を含んでいてもよく、ここで結晶は酸化物を実質的に含まず、前記酸化物被膜の少なくとも一部は結晶粒界に位置する。
【0228】
安定化A/M/X材料は、式[A]a[M]b[X]cの化合物を含む複数の結晶子及び前記結晶子間の複数の粒界を含む多結晶質材料であってもよく、ここで式[Z]pOqの酸化物は粒界に沿って分布している[式中、
[Z]は、少なくとも3eVのバンドギャップを有する酸化物を形成することができる少なくとも1種の元素Zを含み、
p及びqは正の数であり、
[A]は1種以上のAカチオンを含み、
[M]は1種以上のMカチオンを含み、
[X]は1種以上のXアニオンを含み、
aは1~6の整数であり、
bは1~6の整数であり、
cは1~18の整数である]。
【0229】
典型的には、結晶子は酸化物を実質的に含まない。例えば、結晶子は、20重量%未満の酸素、好ましくは10重量%未満の酸素又は5重量%未満の酸素を含んでいてもよい。さらに、結晶子は、典型的には、20重量%以下の[Z]、好ましくは10重量%以下の[Z]、例えば5重量%以下の[Z]又は1重量%以下の[Z]を含む。結晶子は0.1重量%以下の[Z]を含んでいてもよい。
【0230】
好ましくは、多結晶質材料である安定化A/M/X材料は式[A]a[M]b[X]cの化合物の結晶を含み、結晶は、本明細書に記載される通り、その全表面上に式[Z]pOqの酸化物被膜を有する。
【0231】
非多結晶質材料の結晶を有する場合と同様に、酸化物被膜の分布は、安定化多結晶質A/M/X材料の大部分全体にわたって変わる。典型的には、安定化結晶質A/M/X材料が多結晶質材料である場合、前記材料は式[A]a[M]b[X]cの化合物の複数の結晶子を含み、それぞれの結晶子はその全表面上に式[Z]pOqの酸化物被膜を有する。好ましい実施形態において、本発明の安定化多結晶質A/M/X材料中の式[A]a[M]b[X]cの化合物の結晶子の少なくとも半分は、それらの全表面上に式[Z]pOqの酸化物被膜を有する。好ましくは、本発明の安定化多結晶質A/M/X材料中の式[A]a[M]b[X]cの化合物の結晶子の少なくとも4分の3、より好ましくは少なくとも90%は、それらの全表面上に式[Z]pOqの酸化物被膜を有する。1つの特定の実施形態において、本発明は、多結晶質材料である安定化結晶質A/M/X材料を提供し、ここで多結晶質材料中のそれぞれの結晶(すなわちそれぞれの結晶子)がその全表面上に前記被膜を有する。
【0232】
(粒界がない結晶質材料とは対照的に)多結晶質材料が形成されるか否かは、当技術分野において周知の技法に従って多様な結晶化条件によって制御することができる。多結晶質材料中の平均結晶サイズ又は結晶子サイズは、当技術分野において周知の技法に従って結晶化条件を変えることによって変えることもできる。
【0233】
本発明の安定化結晶質材料は、典型的には1nm~5μmの直径を有する結晶を含む。したがって、その全表面上に酸化物被膜を有する結晶は、典型的には1nm~5μmの直径を有する。「直径」とは、結晶内で全体的に適合し得る最小の球の直径を意味する(当然ながら、一般に「結晶」という用語は、結晶質材料が多結晶質材料である「結晶子」を指すことが理解されるべきである)。
【0234】
より一般に、本発明の安定化結晶質材料は、10nm~1μmの直径を有する結晶を含む。したがって、その全表面上に酸化物被膜を有する結晶は、典型的には10nm~1μmの直径を有する。1つの実施形態において、本発明の安定化結晶質材料は、少なくとも50nm又は少なくとも100nmの直径を有する結晶を含む。この実施形態において、その全表面上に酸化物被膜を有する結晶は、少なくとも50nm、好ましくは少なくとも100nmの直径を有する。
【0235】
酸化物被膜それ自身は、広範囲の厚さを有することができる。酸化物被膜の「厚さ」とは、被膜が存在する結晶面と垂直の方向で測定されたその平均高さを意味する。
【0236】
酸化物被膜は少なくとも1原子厚さである。酸化物被膜の最大厚さは特に限定されない。一般に、酸化物被膜の厚さは、結晶の直径よりも小さく、特に結晶の直径は50nm以上である。厚さは典型的には、安定化結晶質A/M/X材料の形成の間に使用される酸化物前駆体の量により変わる。しかしながら、本明細書に記載の方法による安定化結晶質A/M/X材料の形成後、安定化結晶質材料は、より厚い酸化物層をもたらす酸化物のさらなる堆積に付されてもよい。
【0237】
したがって、典型的には、本発明の安定化結晶質A/M/X材料において、酸化物被膜は0.1nmの最小厚さを有する。酸化物被膜は、例えば少なくとも1nm厚さ又は少なくとも2nm厚さ、例えば少なくとも5nm厚さであってもよい。酸化物被膜は、典型的には0.5nm厚さ~500nm厚さである。例えば、酸化物被膜は、1nm~100nm厚さ、例えば2nm~50nm厚さであってもよい。
【0238】
本発明の安定化結晶質A/M/X材料は、式[A]a[M]b[X]cの化合物及び式[Z]pOqの酸化物を含む。しかしながら、これは様々な他の種を含んでいてもよい。例えば、式[A]a[M]b[X]cの化合物及び/又は式[Z]pOqの酸化物のいずれかは、1種以上の不純物を含んでいてもよい。このような不純物としては、例えば、残留溶媒分子、残留A前駆体、残留M前駆体、残留酸化物前駆体、残留溶媒分子又は残留水が挙げられ得る。
【0239】
好ましい実施形態において、式[A]a[M]b[X]cの化合物は、不純物として少なくとも1種の元素Zを含む。この不純物は、元素Zが式[A]a[M]b[X]cの化合物の形成の間に存在するので、生じ得る。
【0240】
一般に、本発明の材料の光学特性の過度の破壊を回避するために、多量の不純物を回避することが望ましい。したがって、好ましい実施形態において、安定化A/M/X材料は、式[A]a[M]b[X]cの化合物及び式[Z]pOqの酸化物から本質的になる。特定の例示的な実施形態において、本発明の安定化結晶質A/M/X材料は、脂肪族リガンドを実質的に含まず、好ましくは脂肪族リガンドを全く含まず、ここで「脂肪族リガンド」は本明細書に定義される通りである。「脂肪族リガンドを実質的に含まない」とは、安定化結晶質A/M/X材料が、0.5重量%未満、好ましくは0.01重量%未満、より好ましくは0.001重量%未満の脂肪族リガンドを含むことを意味する。
【0241】
式[A]a[M]b[X]cの化合物及び式[Z]pOqの酸化物。簡潔には、pが1~3であり、qが1~8であることが好ましくあり得る。それぞれの元素Zは、Al、Si、Zr、Ga、Ba、Nb、Mg、Y、Ni及びZnから選択され、好ましくはAl、Zr又はSiであり、最も好ましくはAlである。
【0242】
それぞれのAカチオンは、一般に、アルカリ金属カチオン、アミン、C1~6アルキルアミン、イミン、C1~6アルキルイミン、C1~6アルキル、C2~6アルケニル、C3~6シクロアルキル及びC6~12アリールから選択される1つ以上の置換基で置換されていてもよい、C1~10アルキルアンモニウム(alkylamammonium)、C2~10アルケニルアンモニウム、イミニウム、C1~10アルキルイミニウム、C3~10シクロアルキルアンモニウム(cycloalkylamammonium)及びC3~10シクロアルキルイミニウムから選択され、好ましくはCs+、Rb+、メチルアンモニウム、エチルアンモニウム、プロピルアンモニウム、ブチルアンモニウム、ペンチルアンモニウム、ヘキシルアンモニウム、ヘプチルアンモニウム、オクチルアンモニウム、ホルムアミジニウム、ベンジルアンモニウム、フェニルエチルアンモニウム、ベンジルアンモニウム、ナフチルメチルアンモニウム及びグアニジニウムのうちの1種以上である。
【0243】
それぞれのMカチオンは、一般に、金属又は半金属カチオンから選択され、好ましくはLi+、Na+、K+、Rb+、Cs+、Cu+、Ag+、Au+、Hg+、Ca2+、Sr2+、Cd2+、Cu2+、Ni2+、Mn2+、Fe2+、Co2+、Pd2+、Ge2+、Sn2+、Pb2+、Yb2+、Eu2+、Bi3+、Sb3+、Cr3+、Fe3+、Co3+、Ga3+、As3+、Ru3+、Rh3+、In3+、Ir3+及びAu3+のうちの1種以上、好ましくはCu+、Ag+、Au+、Sn2+、Pb2+、Cu2+、Ge2+、Ni2+、Bi3+及びSb3+のうちの1種以上から選択され、特に好ましくはPb2+である。
【0244】
それぞれのXアニオンは、一般に、F-、Cl-、Br-又はI-、好ましくはCl-又はBr-から選択される。
【0245】
式[A]a[M]b[X]cの化合物が式[A][M][X]3の化合物であることが特に好ましい。このような化合物を本明細書に例示する。
【0246】
[A]が2種以上のAカチオンを含むことがさらに特に好ましく、好ましくは[A]はCs+及びRb+を含む。この種類の化合物は、従来の安定化の方法下で特に迅速に分解することが示されているが、本明細書に記載の酸化物の安定化に付した場合は、それらの光ルミネセンス特性を少なくとも300時間維持することを示した。
【0247】
本発明の結晶質生成物は、光電子デバイスにおける使用のために操作及び改変されてもよい。例えば、安定化結晶質A/M/X材料は粗粉末に粉砕されてもよい。例えば、粉末は、表面をコーティングするために使用されてもよく、又はキャリア材料、例えばポリマーに埋め込まれてもよい。粗粉末とは、結晶粒子以上の大きさの粒子の粉末を意味し、その結果、結晶上の酸化物被膜(存在する場合)は、通常損傷を受けずに残る。
【0248】
したがって、本発明は、本明細書に定義される安定化結晶質A/M/X材料を含む粗粒粉末を提供する。
【0249】
他の実施形態において、本発明の安定化結晶質A/M/X材料は薄膜として形成される。したがって、本発明は、本明細書に定義される安定化結晶質A/M/X材料を含む薄膜を提供する。
【0250】
光活性材料
本発明の安定化結晶質A/M/X材料は、典型的には半導体であり、典型的には可視光(すなわち約450nm~約700nmの波長を有する光)の強力で安定なエミッターである。したがって、安定化結晶質A/M/X材料は多種多様な電子デバイスにおいて非常に有用である。例示的な光電子デバイス及びそれらの製造は、国際公開第2013/171517号、国際公開第2013/171518号、国際公開第2013/171520号、国際公開第2014/045021号、国際公開第2017/017441号、国際公開第2017/037448号及び国際公開第2017/089819号に記載されており、その全内容は参照によって本明細書に組み込まれる。
【0251】
光電子デバイスへの組み込みのために、本発明の安定化結晶質A/M/X材料は、典型的には光活性材料として提供される。光活性材料は、本明細書に定義される安定化A/M/X材料から全体的になっていてもよく、又は他の成分を含んでいてもよい。したがって、本発明は、本発明の安定化結晶質A/M/X材料を含む光活性材料、例えば本発明の安定化結晶質A/M/X材料を含むルミネセンス材料を提供する。
【0252】
本明細書で使用される場合、「光活性材料」という用語は、光子を吸収及び/又は放出することができる材料を指す。光活性材料は以下のうちの1つ以上であり得る。
(i)光子を吸収し、これは次いで自由電荷キャリア、例えば電子及び正孔を生じ得る。これらの材料は光吸収材料と称する。
(ii)そのバンドギャップよりも高いエネルギーで光子を吸収し、バンドギャップのエネルギーで光子を再放出する(これらは光電子放出材料と称する)。ある種類の光電子放出材料はルミネセンス材料であり、これは光子の吸収後に発光する材料、例えばリン光又は蛍光材料である。
(iii)電子及び正孔の両方の電荷を受け入れ、これはその後再結合及び発光し得る。
【0253】
光活性材料は半導体材料の例である。本明細書で使用される半導体又は半導体材料は、導体及び誘電体の電気伝導性の間の中間の大きさの電気伝導性を有する材料を指す。半導体は、0.5~3.5eV、例えば、0.5~2.5eV又は1.0~2.0eV(300Kで測定される場合)のバンドギャップを有していてもよい。したがって、本発明は、本発明の安定化結晶質A/M/X材料を含む半導体材料を提供する。
【0254】
本発明の光活性材料は、一般に、スペクトルの可視領域、例えば可視スペクトルの青色領域において、光子を吸収及び/又は放出することができる。したがって、光活性材料は、光電子放出材料(すなわち発光することができる材料)又は光吸収材料(すなわち光を吸収することができる材料)として記載され得る。例えば、本発明の光活性材料は、典型的には、450~700nm、例えば450~650nmの少なくとも1つの波長の光子を放出及び/又は吸収することができる。好ましい実施形態において、本発明の安定化A/M/X材料は、450~500nm、好ましくは455~495nm、特に好ましくは460~490nmの範囲のピーク発光波長を有する。しかしながら、光子を吸収及び放出することができる光活性材料は、典型的には正確に同じ波長で吸収の開始及びピーク発光を示さない。
【0255】
吸収の開始とは、より長い波長からより短い波長の方への移動の観点から、光活性材料が光子を著しく吸収し始める波長を意味し、ピーク発光とは、光活性材料が最高強度で光子を放出する波長を意味する。典型的には、光活性材料のピーク発光は、1000nm以下、好ましくは700nm以下、例えば650nm以下である。好ましい実施形態において、本発明の安定化A/M/X材料は、450~500nm、好ましくは455~495nm、特に好ましくは460~490nmの範囲のピーク発光波長を有する。
【0256】
光活性材料は、5重量%以上の本発明の安定化結晶質A/M/X材料を含んでいてもよい。典型的には、光活性材料の重量の少なくとも50%は本明細書に定義される安定化結晶質A/M/X材料からなる。光活性材料は、本明細書において議論される追加成分、例えば、足場材料、マトリックス材料又は被膜を含んでいてもよい。しかし、典型的には、光活性材料は、80重量%以上の本明細書に定義される安定化結晶質A/M/X材料を含む。好ましくは、光活性材料は、95重量%以上の安定化結晶質A/M/X材料、例えば99重量%以上の安定化結晶質A/M/X材料を含む。光活性材料は、安定化結晶質A/M/X材料からなっていてもよく、又は安定化結晶質A/M/X材料から本質的になっていてもよい。
【0257】
光活性材料は典型的には固体である。
【0258】
光活性材料は、本明細書に定義される安定化結晶質A/M/X材料を含んでいてもよい。したがって、1つの実施形態において、光活性材料は安定化結晶質A/M/X材料の粗粒粉末を含む。別の実施形態において、光活性材料は安定化結晶質A/M/X材料の薄膜を含んでいてもよい。多くの場合、安定化結晶質A/M/X材料は多結晶質であり、したがって光活性材料は本発明の多結晶質の安定化結晶質A/M/X材料を含む。他の実施形態において、光活性材料は安定化結晶質A/M/X材料のナノ結晶を含む。
【0259】
光活性材料は任意の形態であってもよい。典型的には、光活性材料は層の形態である。層の形態の光活性材料は、典型的には少なくとも1nm厚さである。光活性材料の層は、例えば層がデバイスの自立する成分であることが意図される場合、最大で10mm厚さであり得る。通常、光活性材料の層は、2nm~1mm厚さ、より一般的に5nm~5μm厚さである。
【0260】
光活性材料の層は、前記層内に安定化結晶質A/M/X材料を含んでいてもよい。前記層内の前記材料の量は、層、例えば任意の被膜又はマトリックス又は足場材料中の他の成分に応じて、変わり得る。いくつかの実施形態において、光活性材料は本明細書に定義される安定化結晶質A/M/X材料の層から本質的になっていてもよい。例えば、光活性材料は、本発明の安定化結晶質A/M/X材料から全体的になっていてもよい。しかしながら、より典型的には、光活性材料は、少なくとも50重量%の安定化結晶質A/M/X材料、例えば少なくとも70、80又は80重量%の安定化結晶質A/M/X材料を含んでいてもよい。いくつかの実施形態において、光活性材料は少なくとも95重量%の安定化結晶質A/M/X材料を含んでいてもよい。典型的には、本発明による光活性材料の層は、最大で99.9重量%の安定化結晶質A/M/X材料を含む。
【0261】
光活性材料は複数の層を含んでいてもよい。このような層のいくつか又はすべてが安定化結晶質A/M/X材料を含んでいてもよい。
【0262】
光活性材料が層の形態である場合、安定化結晶質A/M/X材料は層全体にわたって均一又は不均一に分布していてもよい。例えば、光活性材料は、安定化結晶質A/M/X材料から本質的になるか、又は安定化結晶質A/M/X材料のみからなる層を含んでいてもよい。或いは又は加えて、光活性材料は前記基材(例えば例えば粗粒粉末形態又は薄膜形態)上に安定化結晶質A/M/X材料を有する基材を含んでいてもよい。
【0263】
いくつかの実施形態において、光活性材料は、薄膜の形態の1種以上の本発明の安定化結晶質A/M/X材料を含んでいてもよい。薄膜は、典型的には基材上に配置された多結晶質材料を含む。
【0264】
いくつかの実施形態において、本発明の光活性材料はマトリックス材料を含む。すなわち、本発明の光活性材料は、マトリックス材料と一緒に1種以上の本発明の安定化A/M/X材料を含んでいてもよい。
【0265】
本発明の光活性材料がマトリックス材料を含む場合、光活性材料は、典型的には、1種以上のマトリックス材料に懸濁された1種の本発明の安定化結晶質A/M/X材料の粒子を含む。「粒子」とは、安定化結晶質A/M/X材料の粗粒粉末又は結晶(例えばナノ結晶)を意味する。好ましくは、光活性材料がマトリックス材料を含む場合、光活性材料は、前記マトリックス材料に懸濁された1種以上の本発明の安定化結晶質A/M/X材料のナノ結晶を含む。
【0266】
適切なマトリックス材料は国際公開第2017/017441号に記載されており、その全内容は参照によって本明細書に組み込まれる。マトリックス材料は、複数のナノ粒子を懸濁し得る任意の適切な材料である。マトリックス材料は典型的には固体である。マトリックス材料は、典型的には、ナノ粒子又は発光デバイスの任意の他の部分(例えば金属成分)との化学反応を受けないという点で非反応性である。マトリックス材料は、典型的には、可視スペクトルの大部分にわたって光に対する高い透過性を有する。
【0267】
マトリックス材料は無機材料又は有機材料であり得る。マトリックス材料は、通常、150℃まで又は100℃までの温度で安定である。典型的には、マトリックス材料はポリマーマトリックス材料を含む。
【0268】
ポリマーマトリックス材料はポリマーを含むマトリックス材料である。ポリマーマトリックス材料は、典型的には、ポリアルケン(例えばポリエテン、ポリプロペン、ポリブテン、ポリメチルメタクリレート又はポリスチレン)、ポリエステル(例えばポリエチレンテレフタレート、ポリヒドロキシブチレート又はポリエチレンアジペート(polyethylene apidate))、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリアミド(例えばポリアミド6又はポリアミド66)又はエポキシ樹脂であるポリマーを含む。好ましくは、ポリマーマトリックス材料は、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリアミド又はエポキシ樹脂から選択されるポリマーを含む。
【0269】
無機マトリックス材料は、典型的には無機酸化物、例えば金属酸化物である。無機マトリックス材料の例としては、ZnO、NiO及びSnO2が挙げられる。無機マトリックス材料の他の例としては、大きなバンドギャップのペロブスカイト、例えば3eV以上、好ましくは4eV以上のバンドギャップを有するペロブスカイトが挙げられる。しかしながら、これらの大きなバンドギャップのペロブスカイトは、無機酸化物よりも好ましさが劣るマトリックス材料である。
【0270】
いくつかの実施形態において、マトリックス材料は半導体材料である。半導体マトリックス材料の適切な例としては、ポリビニルカルバゾール、ポリフルオレン誘導体及びCBP(4,4'-ビス(N-カルバゾリル)-1,1'-ビフェニル)が挙げられる。
【0271】
したがって、いくつかの実施形態において、光活性材料は、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリアミド、エポキシ樹脂、ZnO、NiO及びSnO2、ポリビニルカルバゾール、ポリフルオレン誘導体及びCBP(4,4'-ビス(N-カルバゾリル)-1,1'-ビフェニル)から選択されるマトリックス材料と一緒に本発明の1種以上の安定化結晶質A/M/X材料のナノ粒子を含む。
【0272】
光活性材料がマトリックス材料を含む場合、光活性材料は、典型的には最大で50重量%のマトリックス材料を含む。例えば、光活性材料は、典型的には最大で40重量%、最大で30重量%又は最大で20重量%のマトリックス材料を含む。このような実施形態において、光活性材料は、典型的には少なくとも50重量%の本発明の安定化結晶質A/M/X材料を含む。
【0273】
光活性材料がマトリックス材料を含む場合、光活性材料は典型的には層の形態で存在する。前記層の厚さは、典型的には100nm~4mm、例えば1μm~1000μm又は50μm~500μmである。いくつかの場合において、層は、例えば自立する層が構築される場合、1~4mmの厚さを有していてもよい。
【0274】
いくつかの実施形態において、光活性材料は足場材料を含む。足場材料は典型的には固体材料である。足場材料は、典型的には、1種以上の本発明の安定化結晶質A/M/X材料が分散している固体支持体である。
【0275】
いくつかの実施形態において、本発明の光活性材料は、1種以上の本発明の安定化結晶質A/M/X材料と一緒に多孔質足場を含む。典型的には、前記多孔質足場材料は前記1種以上の安定化結晶質A/M/X材料と接触している。多孔質足場材料の適切な例は国際公開第2013/171518号に記載されており、その全内容は参照によって組み込まれる。
【0276】
典型的には、本発明の安定化結晶質A/M/X材料は足場材料の表面上に配置される。典型的には、足場が多孔質足場である場合、安定化結晶質A/M/X材料は、それが足場内の細孔の表面上で支持されるように、多孔質足場材料の表面上に配置される。このような実施形態において、本発明の安定化結晶質A/M/X材料は、前記材料が足場材料内で分散していると言われ得るように、足場材料の内部表面又は表面上に分布される。この状況における安定化結晶質A/M/X材料は、典型的には、光吸収性の感光性材料及び電荷輸送材料としての機能を果たす。安定化結晶質A/M/X材料、及び足場材料、例えば多孔質足場材料を含む光活性材料は、有利には、光活性材料を通して電荷キャリアを迅速に輸送することができる。
【0277】
足場材料は、典型的には誘電足場材料又はn型足場材料である。好ましくは、足場材料は、多孔質誘電足場材料又は多孔質n型足場材料である。
【0278】
「誘電材料」とは絶縁材料を意味する。誘電足場材料は、3.6eV以上又は4eV以上のバンドギャップを有する材料を含んでいてもよい。誘電足場材料は、多くの場合誘電酸化物である。誘電足場材料は、典型的には、アルミニウム、ゲルマニウム、ジルコニウム、シリコン、イットリウム又はイッテルビウムのうちの1種以上の酸化物を含む。しかしながら、誘電足場材料は、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリスチレン、ポリカーボネート又はポリイミドのうちの1種以上を含んでいてもよい。誘電足場材料は、好ましくはアルミノケイ酸塩、ジルコニア、アルミナ及びシリカ、例えばアルミナ(Al2O3)から選択されてもよい。
【0279】
n型足場は、本明細書に記載の任意のn型材料、例えばチタニア(TiO2)から選択されてもよい。「n型材料」とは電子輸送材料を意味する。
【0280】
適切なn型材料は典型的には無機材料である。適切なn型無機材料は、金属酸化物、金属硫化物、金属セレン化物、金属テルル化物、ペロブスカイト、アモルファスSi、n型IV族半導体、n型III-V族半導体、n型II-VI族半導体、n型I-VII族半導体、n型IV-VI族半導体、n型V-VI族半導体及びn型II-V族半導体から選択され得、これらのいずれもドープされていても、ドープされていなくてもよい。より典型的には、n型材料は、金属酸化物、金属硫化物、金属セレン化物及び金属テルル化物から選択される。n型材料は、チタン、スズ、亜鉛、ニオブ、タンタル、タングステン、インジウム、ガリウム、ネオジム(neodinium)、パラジウム若しくはカドミウムの酸化物、又は2種以上の前記金属の混合物の酸化物から選択される無機材料を含んでいてもよい。例えば、n型材料は、TiO2、SnO2、ZnO、Nb2O5、Ta2O5、WO3、W2O5、In2O3、Ga2O3、Nd2O3、PbO又はCdOを含んでいてもよい。用いられ得る他の適切なn型材料としては、カドミウム、スズ、銅又は亜鉛の硫化物が、2種以上の前記金属の混合物の硫化物を含めて挙げられる。例えば、硫化物は、FeS2、CdS、ZnS又はCu2ZnSnS4であってもよい。n型材料は、例えば、カドミウム、亜鉛、インジウム若しくはガリウムのセレン化物又は2種以上の前記金属の混合物のセレン化物、或いはカドミウム、亜鉛、カドミウム若しくはスズのテルル化物又は2種以上の前記金属の混合物のテルル化物を含んでいてもよい。例えば、セレン化物はCu(In,Ga)Se2であってもよい。典型的には、テルル化物は、カドミウム、亜鉛、カドミウム又はスズのテルル化物である。例えば、テルル化物はCdTeであってもよい。n型材料は、例えば、チタン、スズ、亜鉛、ニオブ、タンタル、タングステン、インジウム、ガリウム、ネオジム、パラジウム、カドミウムの酸化物又は2種以上の前記金属の混合物の酸化物、カドミウム、スズ、銅、亜鉛の硫化物又は2種以上の前記金属の混合物の硫化物、カドミウム、亜鉛、インジウム、ガリウムのセレン化物又は2種以上の前記金属の混合物のセレン化物、或いはカドミウム、亜鉛、カドミウム若しくはスズのテルル化物又は2種以上の前記金属の混合物のテルル化物から選択される無機材料を含んでいてもよい。適切なn型材料であり得る他の半導体の例としては、例えばこれらがnドープされる場合、IV族化合物の半導体、アモルファスSi、III-V族半導体(例えばガリウムヒ素)、II-VI族半導体(例えばセレン化カドミウム)、I-VII族半導体(例えば塩化第一銅)、IV-VI族半導体(例えばセレン化鉛)、V-VI族半導体(例えばテルル化ビスマス)及びII-V族半導体(例えばヒ化カドミウム)が挙げられる。典型的には、n型材料はTiO2を含む。
【0281】
したがって、いくつかの実施形態において、本発明の光活性材料は、多孔質足場材料と一緒に本発明の安定化結晶質A/M/X材料を含んでいてもよく、好ましくは誘電足場材料はアルミナ、シリカ及びチタニアのうちの1種以上から選択される。
【0282】
光活性材料が足場材料を含む場合、光活性材料は典型的には層の形態で存在する。典型的には、前記層の厚さは、10nm~5000nmであり、例えば厚さは400nm~800nmであってもよい。多くの場合、前記層の厚さは100nm~700nmである。
【0283】
本発明の光活性材料の層は、開いた孔なしであってもよい。光活性材料の層は本発明の安定化結晶質A/M/X材料の層を含んでいてもよく、安定化結晶質A/M/X材料の層は開いた孔がない。或いは、光活性材料の層は多孔質であってもよく、又は光活性材料の層は本明細書に記載の多孔質足場上に配置されてもよい。
【0284】
光電子デバイス
本発明は、本明細書に定義される光活性材料を含む光電子デバイスをさらに提供する。したがって、本発明は、本明細書に定義される安定化結晶質A/M/X材料、本明細書に定義される粗粒粉末又は本明細書に定義される薄膜を含む光電子デバイスを提供する。
【0285】
本明細書で使用される「光電子デバイス」という用語は、光を調達、制御、検出又は放出するデバイスを指す。典型的には、光は可視光、例えば約450~700nmの波長を有する光である。好ましい実施形態において、デバイスは、青色光(すなわち、約450~500nm、好ましくは約455~495nm、より好ましくは約460~490nmの波長を有する光)を放出することができる。本発明の光電子デバイスは、本発明の光活性材料を含み、したがって、
(i)光子を吸収し、これは次いで自由電荷キャリア、例えば電子及び正孔を生じる、
(ii)そのバンドギャップよりも高いエネルギーで光子を吸収し、バンドギャップのエネルギーで光子を再放出する、並びに
(iii)電子及び正孔の両方の電荷を受け入れ、これはその後再結合及び発光し得る
のうちの1つ以上が可能である。
【0286】
1つの好ましい実施形態において、本発明は、本明細書に定義される光活性材料を含む光起電力デバイスである光電子デバイスを提供する。「光起電力デバイス」とは、本明細書において、電気エネルギーを光、特に可視光に変換することができるデバイスを意味する。好ましい実施形態において、前記光起電力デバイスは、電気エネルギーを青色光(すなわち、約450~500nm、好ましくは約455~495nm、より好ましくは約460~490nmの波長を有する光)に変換することができる。
【0287】
別の好ましい実施形態において、本発明は、可視スペクトルの外側、特に赤外領域、例えば700~1500nmで光子を生成することができる光電子デバイスを提供する。したがって、好ましい実施形態において、本発明は、電気エネルギーを700~1500nmの波長を有する光子に変換することができる発光ダイオードである光電子デバイスを提供する。このような光電子デバイスは、特に通信技術用の赤外線エミッターのための幅広い需要が存在するので、最も有用である。スペクトルのIR領域で放出し、このような光電子デバイスの製造において使用され得る多くのA/M/X材料が利用可能である。例えば、Sn系[A]PbySn1-x[X]3ファミリーの化合物は、700~1000nmの間の波長の光を放出する。これらの特定の材料は、一般に、結晶中の電荷を中性に維持し、Sn4+に酸化するために必要なSn2+イオンに起因する不安定性に悩まされている。そのため、本発明の方法によって付与される安定性は、これらの化合物の安定化において、並びにLED及び光起電力の適用を含む多種多様な光電子デバイスのためのこれらの種を含む光活性材料の生成において、最も有利である。
【0288】
別の好ましい実施形態において、本発明は、本明細書に定義される光活性材料を含む、発光デバイスである光電子デバイスを提供する。発光デバイスは発光ダイオード(LED)であってもよい。本発明の発光デバイスは、典型的には可視光を放出することができる。好ましい実施形態において、発光デバイスは、青色光(すなわち、約450~500nm、好ましくは約455~495nm、より好ましくは約460~490nmの波長を有する光)を放出することができる。
【0289】
いくつかの好ましい実施形態において、本発明の光電子デバイスは光活性材料を含み、光活性材料は層に配置される。光活性材料の層は本明細書に定義される。通常、光活性材料の前記層は少なくとも2nmの厚さを有する。しかしながら、層が自立することが意図されるいくつかの実施形態において、層はかなり厚くなり得る(例えば、最大で10mm厚さ、より一般的に最大で5mm厚さ)。
【0290】
いくつかの実施形態において、本発明の光電子デバイスは、例えば5nm~50nmの厚さを有する薄い感光層である光活性材料の層を含む。
【0291】
前記光活性材料の層がn型又はp型領域を有する平面ヘテロ接合を形成するデバイスにおいて、前記光活性材料の層は100nm以上の厚さを有していてもよい。好ましくは、前記光活性材料の層は、100nm~700nm、例えば200nm~500nmの厚さを有する。「平面ヘテロ接合」という用語は、本明細書で使用される場合、半導体材料とn型又はp型領域との間の接合を定義する表面が実質的に平面であり、低い粗さ、例えば25nm×25nmの領域にわたって20nm未満の二乗平均平方根粗さ、例えば25nm×25nmの領域にわたって10nm未満又は5nm未満の二乗平均平方根粗さを有することを意味する。
【0292】
光活性材料は、多くの場合、光電子デバイス内で光活性成分(例えば光吸収成分又は光放出成分)としての機能を果たす。他の実施形態において、半導体材料は、光電子デバイス、例えば太陽電池又はLED中でp型又はn型半導体の層を形成してもよい。
【0293】
典型的には、本発明の光電子デバイスは光起電力デバイスであり、光起電力デバイスは、
(a)少なくとも1つのn型層を含むn型領域、
(b)少なくとも1つのp型層を含むp型領域、及び、n型領域とp型領域との間に配置された、
(c)光活性材料の層
を含む。
【0294】
本発明の光電子デバイスの好ましい例としては、LED、光ダイオード、太陽電池、光検出器又は光センサーが挙げられ、LED、光ダイオード又は太陽電池が特に好ましい。
【0295】
例えば、光電子デバイスは、
少なくとも1つのn型層を含むn型領域、
少なくとも1つのp型層を含むp型領域、及び、n型領域とp型領域との間に配置された、
本発明の安定化結晶質A/M/X材料を含む(又は本質的にこれからなる)光活性材料の前記層
を含んでいてもよい。
【0296】
n型領域は少なくとも1つのn型層を含む。n型領域は典型的には1又は2つのn型層を含む。それぞれの層は多孔質であってもよく、又は緻密であってもよい。緻密層は、典型的には開いた孔がない(例えば任意のメソ又はマクロ孔が非存在)層である。p型領域は少なくとも1つのp型層を含む。p型領域は典型的には1又は2つのp型層を含む。それぞれの層は多孔質であってもよく、又は緻密であってもよい。緻密層は、典型的には開いた孔がない層である。これは非多孔質層であってもよい。
【0297】
いくつかの場合において、光電子デバイスは、開いた孔がない前記光活性材料の層を含む。開いた孔がない前記光活性材料の層は、典型的には開いた孔がない本発明による安定化結晶質A/M/X材料(好ましくはペロブスカイト)の結晶質層である。したがって、前記光活性材料の層は、95体積%以上の本発明の1種以上の安定化結晶質A/M/X材料(したがって5体積%未満の非存在の細孔の体積)を含んでいてもよい。開いた孔がない層は、典型的にはマクロ細孔又はメソ細孔を含まない。
【0298】
光活性材料の層は、典型的には、n型領域又はp型領域を有する平面ヘテロ接合を形成する。光活性材料の層は、典型的には、n型領域を有する第1の平面ヘテロ接合及びp型領域を有する第2の平面ヘテロ接合を形成する。これは、国際公開第2014/045021号に記載の種類の平面ヘテロ接合デバイスを形成する。本明細書で使用される「平面ヘテロ接合」という用語は、1つの領域が他の領域に入り込まない2つの領域の間の接合を指す。これは、接合が完全に平滑であることを必要とせず、1つの領域が他の領域の細孔に実質的に入り込まないことのみを必要とする。
【0299】
光活性材料の層がp型領域及びn型領域の両方を有する平面ヘテロ接合を形成する場合、これは典型的には薄膜デバイスを形成する。光活性材料の層の厚さは、50nm以上であり得る。
【0300】
いくつかの実施形態において、多孔質足場材料が存在することが望ましく、多孔質足場は本明細書に定義される通りである。足場材料は、光活性材料から隣接する領域に電荷を輸送するのを助け得る。足場材料はまた、又は或いは、デバイス構築の間に光活性材料の層の形成を助け得る。したがって、いくつかの実施形態において、光電子デバイスは、
少なくとも1つのn型層を含むn型領域、
少なくとも1つのp型層を含むp型領域、並びに、n型領域とp型領域との間に配置された、
(i)多孔質足場材料、及び
(ii)足場材料と接触する安定化結晶質A/M/X材料
を含む光活性材料の層
を含む。
【0301】
このようなデバイスの構造は国際公開第2014/045021号においてより詳細に記載されており、その全内容は参照によって本明細書に組み込まれる。
【0302】
多孔質足場材料及び安定化結晶質A/M/X材料を含む光活性材料の層は光活性材料の増感層を形成してもよい。したがって、光電子デバイスは増感デバイスであってもよい。
【0303】
光電子デバイス、例えば太陽電池の構造及びそれらのための適切な材料のさらなる詳細は、公開された出願の国際公開第2017/037448号に記載されており、その全内容は参照によって本明細書に組み込まれる。本発明の安定化結晶質A/M/X材料は、そこで半導体材料の代わりに使用されてもよい。
【0304】
いくつかの実施形態において、光電子デバイスは、
少なくとも1つのn型層を含むn型領域、
少なくとも1つのp型層を含むp型領域、並びに、n型領域とp型領域との間に配置された、
(i)多孔質足場材料及び前記安定化結晶質A/M/X材料を含む第1の層、並びに
(ii)前記第1の層に配置されたキャッピング層
を含み、このキャッピング層は開いた孔がない前記安定化結晶質A/M/X材料の層であり、
キャッピング層中の安定化結晶質A/M/X材料は第1の層中の安定化結晶質A/M/X材料と接触している。
【0305】
第1の層は、前記多孔質足場材料、及び足場材料の表面上に配置された前記安定化結晶質A/M/X材料を含む。本明細書で使用される「足場材料」という用語は、その機能が別の材料のための物理的支持体としての機能を果たすことを含む材料を指す。存在する場合において、足場材料は、第1の層中に存在する安定化結晶質A/M/X材料のための支持体としての機能を果たす。安定化結晶質A/M/X材料は、足場材料の表面上に配置されるか、又は支持される。多孔質足場材料は典型的には開いた細孔構造を有する。したがって、多孔質足場材料の「表面」は、ここで典型的には足場材料内の細孔の表面を指す。そのため、第1の層中の安定化結晶質A/M/X材料は、典型的には、足場材料内の細孔の表面上に配置される。
【0306】
いくつかの実施形態において、足場材料は多孔質であり、第1の層中の安定化結晶質A/M/X材料は足場材料の細孔に配置される。前記足場材料の有効な孔は、通常少なくとも50%である。例えば、有効な孔は約70%であってもよい。1つの実施形態において、有効な孔は、少なくとも60%、例えば少なくとも70%である。
【0307】
典型的には、第1の層中の安定化結晶質A/M/X材料(又は光活性材料)はp型及びn型領域の一方と接触し、キャッピング層中の安定化結晶質A/M/X材料はp型及びn型領域の他方と接触する。キャッピング層中の安定化結晶質A/M/X材料は、典型的にはp型領域又はn型領域を有する平面ヘテロ接合を形成する。
【0308】
1つの実施形態において、キャッピング層中の安定化結晶質A/M/X材料はp型領域と接触し、第1の層中の安定化結晶質A/M/X材料はn型領域と接触する。別の実施形態において、キャッピング層中の安定化結晶質A/M/X材料はn型領域と接触し、第1の層中の安定化結晶質A/M/X材料はp型領域と接触する(例えば反転デバイス(inverted device)において)。
【0309】
1つの実施形態において、キャッピング層中の安定化結晶質A/M/X材料はp型領域と接触し、第1の層中の安定化結晶質A/M/X材料はn型領域と接触する。通常、この実施形態において、足場材料は電子輸送足場材料又は誘電足場材料のいずれかである。典型的には、キャッピング層中の安定化結晶質A/M/X材料は、p型領域を有する平面ヘテロ接合を形成する。
【0310】
しかしながら、別の実施形態において、キャッピング層中の安定化結晶質A/M/X材料はn型領域と接触し、第1の層中の安定化結晶質A/M/X材料はp型領域と接触する。典型的には、この実施形態において、足場材料は正孔輸送足場材料又は誘電足場材料である。典型的には、キャッピング層中の安定化結晶質A/M/X材料は、n型領域を有する平面ヘテロ接合を形成する。
【0311】
キャッピング層の厚さは、通常、第1の層の厚さよりも大きい。したがって、任意の光活性(例えば光吸収又は発光)の大部分は、通常、キャッピング層で起こる。キャッピング層の厚さは、典型的には10nm~100μmである。より典型的には、キャッピング層の厚さは10nm~10μmである。好ましくは、キャッピング層の厚さは、50nm~1000nm又は例えば100nm~700nmである。キャッピング層の厚さは、100nm以上であってもよい。他方で、第1の層の厚さは多くの場合5nm~1000nmである。より典型的には、これは、5nm~500nm又は例えば30nm~200nmである。
【0312】
n型領域は、典型的にはn型層である。或いは、n型領域は、n型層及びn型励起子ブロッキング層を含んでいてもよい。このようなn型励起子ブロッキング層は、典型的にはn型層と安定化結晶質A/M/X材料を含む層との間に配置される。n型領域は50nm~1000nmの厚さを有していてもよい。例えば、n型領域は、50nm~500nm又は100nm~500nmの厚さを有していてもよい。
【0313】
好ましくは、n型領域はn型半導体の緻密層を含む。n型領域は、上記の多孔質足場材料(ここで、多孔質足場材料は電子輸送材料である)であり得るn型半導体の多孔質層をさらに含んでいてもよい。
【0314】
本発明の光電子デバイス中のn型領域は1つ以上のn型層を含む。多くの場合、n型領域は、1つのn型層、すなわち単一のn型層である。しかしながら、他の実施形態において、n型領域は、n型層及びn型励起子ブロッキング層を含んでいてもよい。n型励起子ブロッキング層が用いられる場合において、n型励起子ブロッキング層は、通常n型層と安定化結晶質A/M/X材料を含む層との間に配置される。
【0315】
励起子ブロッキング層は、安定化結晶質A/M/X材料よりも広いバンドギャップの材料であるが、安定化結晶質A/M/X材料のものと密接に一致したその伝導帯又は価電子帯のいずれかを有する。励起子ブロッキング層の伝導帯(又は最低空分子軌道エネルギーレベル)は、安定化結晶質A/M/Xの伝導帯と密接に整列しているならば、次いで電子は、安定化結晶質A/M/X材料から、励起子ブロッキング層に及び励起子ブロッキング層を通して、又は励起子ブロッキング層を通して及び安定化結晶質A/M/X材料に、通過することができ、本発明者らはこれをn型励起子ブロッキング層と称する。このような例は、P. Peumans、A. Yakimov及びS. R. Forrest、「Small molecular weight organic thin-film photodetectors and solar cells」、J. Appl. Phys.、93巻、3693頁(2001年)並びにMasaya Hirade及びChihaya Adachi、「Small molecular organic photovoltaic cells with exciton blocking layer at anode interface for improved device performance」、Appl. Phys. Lett.、99巻、153302頁(2011年)に記載のバソクプロインである。
【0316】
n型層は、電子輸送(すなわちn型)材料の層である。n型材料は、例えば、単一のn型化合物又は元素材料であってもよく、これはドープされていなくてもよく、又は1種以上のドーパント元素でドープされていてもよい。
【0317】
本発明の光電子デバイスにおいて用いられるn型層は、無機又は有機のn型材料を含んでいてもよい。
【0318】
適切な無機n型材料は、金属酸化物、金属硫化物、金属セレン化物、金属テルル化物、ペロブスカイト、アモルファスSi、n型IV族半導体、n型III-V族半導体、n型II-VI族半導体、n型I-VII族半導体、n型IV-VI族半導体、n型V-VI族半導体及びn型II-V族半導体から選択され得、これらのいずれもドープされていても、ドープされていなくてもよい。
【0319】
n型材料は、金属酸化物、金属硫化物、金属セレン化物、金属テルル化物、アモルファスSi、n型IV族半導体、n型III-V族半導体、n型II-VI族半導体、n型I-VII族半導体、n型IV-VI族半導体、n型V-VI族半導体及びn型II-V族半導体から選択され得、これらのいずれもドープされていても、ドープされていなくてもよい。
【0320】
より典型的には、n型材料は、金属酸化物、金属硫化物、金属セレン化物及び金属テルル化物から選択される。
【0321】
したがって、n型層は、チタン、スズ、亜鉛、ニオブ、タンタル、タングステン、インジウム、ガリウム、ネオジム、パラジウム若しくはカドミウムの酸化物又は2種以上の前記金属の混合物の酸化物から選択される無機材料を含んでいてもよい。例えば、n型層は、TiO2、SnO2、ZnO、Nb2O5、Ta2O5、WO3、W2O5、In2O3、Ga2O3、Nd2O3、PbO又はCdOを含んでいてもよい。用いられ得る他の適切なn型材料としては、カドミウム、スズ、銅又は亜鉛の硫化物が、2種以上の前記金属の混合物の硫化物を含めて挙げられる。例えば、硫化物は、FeS2、CdS、ZnS、SnS、BiS、SbS又はCu2ZnSnS4であってもよい。
【0322】
n型層は、例えば、カドミウム、亜鉛、インジウム若しくはガリウムのセレン化物又は2種以上の前記金属の混合物のセレン化物、或いはカドミウム、亜鉛、カドミウム若しくはスズのテルル化物又は2種以上の前記金属の混合物のテルル化物を含んでいてもよい。例えば、セレン化物はCu(In,Ga)Se2であってもよい。典型的には、テルル化物は、カドミウム、亜鉛、カドミウム又はスズのテルル化物である。例えば、テルル化物はCdTeであってもよい。
【0323】
n型層は、例えば、チタン、スズ、亜鉛、ニオブ、タンタル、タングステン、インジウム、ガリウム、ネオジム、パラジウム、カドミウムの酸化物又は2種以上の前記金属の混合物の酸化物、カドミウム、スズ、銅、亜鉛の硫化物又は2種以上の前記金属の混合物の硫化物、カドミウム、亜鉛、インジウム、ガリウムのセレン化物又は2種以上の前記金属の混合物のセレン化物、或いはカドミウム、亜鉛、カドミウム若しくはスズのテルル化物又は2種以上の前記金属の混合物のテルル化物から選択される無機材料を含んでいてもよい。適切なn型材料であり得る他の半導体の例としては、例えばこれらがnドープされる場合、IV族元素又は化合物の半導体、アモルファスSi、III-V族半導体(例えばガリウムヒ素)、II-VI族半導体(例えばセレン化カドミウム)、I-VII族半導体(例えば塩化第一銅)、IV-VI族半導体(例えばセレン化鉛)、V-VI族半導体(例えばテルル化ビスマス)及びII-V族半導体(例えばヒ化カドミウム)が挙げられる
【0324】
典型的には、n型層はTiO2を含む。
【0325】
n型層は、無機材料、例えばTiO2又は上記に列挙された任意の他の材料であり、これは前記無機材料の緻密層であってもよい。好ましくは、n型層はTiO2の緻密層である。
【0326】
有機及びポリマー電子輸送材料並びに電解質を含む他のn型材料を用いてもよい。適切な例としては、限定されるものではないが、フラーレン若しくはフラーレン誘導体(例えばC60又はフェニル-C61-酪酸メチルエステル(PCBM))、ペリレン若しくはその誘導体を含む有機電子輸送材料、又はポリ{[N,N0-ビス(2-オクチルドデシル)-ナフタレン-1,4,5,8-ビス(ジカルボキシイミド)-2,6-ジイル]-alt-5,50-(2,20-ビチオフェン)}(P(NDI2OD-T2))が挙げられる。
【0327】
p型領域は、典型的にはp型層である。或いは、p型領域は、p型層及びp型励起子ブロッキング層を含んでいてもよい。このようなp型励起子ブロッキング層は、典型的にはp型層と安定化結晶質A/M/X材料を含む層との間に配置される。p型領域は50nm~1000nmの厚さを有していてもよい。例えば、p型領域は、50nm~500nm又は100nm~500nmの厚さを有していてもよい。
【0328】
本発明の光電子デバイス中のp型領域は1つ以上のp型層を含む。多くの場合、p型領域は、1つのp型層、すなわち単一のp型層である。しかしながら、他の実施形態において、p型領域は、p型層及びp型励起子ブロッキング層を含んでいてもよい。p型励起子ブロッキング層が用いられる場合において、p型励起子ブロッキング層は、通常p型層と安定化結晶質A/M/X材料を含む層との間に配置される。励起子ブロッキング層の価電子帯(又は最高被占分子軌道エネルギーレベル)は、安定化結晶質A/M/X材料の価電子帯と密接に整列しているならば、次いで正孔は、安定化結晶質A/M/X材料から励起子ブロッキング層に及び励起子ブロッキング層を通して、又は励起子ブロッキング層を通して及び安定化結晶質A/M/X材料に通過することができ、本発明者らはこれをp型励起子ブロッキング層と称する。この例は、Masaya Hirade及びChihaya Adachi、「Small molecular organic photovoltaic cells with exciton blocking layer at anode interface for improved device performance」、Appl. Phys. Lett.、99巻、153302頁(2011年)に記載のトリス[4-(5-フェニルチオフェン-2-イル)フェニル]アミンである。
【0329】
p型層は、正孔輸送(すなわち、p型)材料の層である。p型材料は、単一のp型の化合物若しくは元素材料、又は2種以上のp型の化合物若しくは元素材料の混合物であってもよく、これはドープされていなくてもよく、又は1種以上のドーパント元素でドープされていてもよい。
【0330】
本発明の光電子デバイスにおいて用いられるp型層は、無機又は有機のp型材料を含んでいてもよい。典型的には、p型領域は有機p型材料の層を含む。
【0331】
適切なp型材料はポリマー又は分子正孔輸送体から選択されてもよい。本発明の光電子デバイスにおいて用いられるp型層は、例えば、スピロ-OMeTAD(2,2',7,7'-テトラキス-(N,N-ジ-p-メトキシフェニルアミン)9,9'-スピロビフルオレン))、P3HT(ポリ(3-ヘキシルチオフェン))、PCPDTBT(ポリ[2,1,3-ベンゾチアジアゾール-4,7-ジイル[4,4-ビス(2-エチルヘキシル)-4H-シクロペンタ[2,1-b:3,4-b']ジチオフェン-2,6-ジイル]])、PVK(ポリ(N-ビニルカルバゾール))、HTM-TFSI(1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド)、Li-TFSI(リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド)又はtBP(tert-ブチルピリジン)を含んでいてもよい。p型領域はカーボンナノチューブを含んでいてもよい。通常、p型材料は、スピロ-OMeTAD、P3HT、PCPDTBT及びPVKから選択される。好ましくは、本発明の光電子デバイスにおいて用いられるp型層はスピロ-OMeTADを含む。
【0332】
p型層は、例えば、スピロ-OMeTAD(2,2',7,7'-テトラキス-(N,N-ジ-p-メトキシフェニルアミン)-9,9'-スピロビフルオレン))、P3HT(ポリ(3-ヘキシルチオフェン))、PCPDTBT(ポリ[2,1,3-ベンゾチアジアゾール-4,7-ジイル[4,4-ビス(2-エチルヘキシル)-4H-シクロペンタ[2,1-b:3,4-b']ジチオフェン-2,6-ジイル]])又はPVK(ポリ(N-ビニルカルバゾール))を含んでいてもよい。
【0333】
適切なp型材料としては、分子正孔輸送体、ポリマー正孔輸送体及びコポリマー正孔輸送体も挙げられる。p型材料は、例えば、分子正孔輸送材料、以下の部分:チオフェニル、フェネレニル(phenelenyl)、ジチアゾリル、ベンゾチアゾリル、ジケトピロロピロリル(diketopyrrolopyrrolyl)、エトキシジチオフェニル、アミノ、トリフェニルアミノ、カルボゾイル(carbozolyl)、エチレンジオキシチオフェニル、ジオキシチオフェニル又はフルオレニルのうちの1種以上を含むポリマー又はコポリマーであってもよい。したがって、本発明の光電子デバイスにおいて用いられるp型層は、例えば、前述の分子正孔輸送材料、ポリマー又はコポリマーのいずれかを含んでいてもよい。
【0334】
適切なp型材料としては、m-MTDATA(4,4',4''-トリス(メチルフェニルフェニルアミノ)トリフェニルアミン)、MeOTPD(N,N,N',N'-テトラキス(4-メトキシフェニル)-ベンジジン)、BP2T(5,5'-ジ(ビフェニル-4-イル)-2,2'-ビチオフェン)、ジ-NPB(N,N'-ジ-[(1-ナフチル)-N,N'-ジフェニル]-1,1'-ビフェニル)-4,4'-ジアミン)、α-NPB(N,N’-ジ(ナフタレン-1-イル)-N,N'-ジフェニル-ベンジジン)、TNATA(4,4',4"-トリス-(N-(ナフチレン-2-イル)-N-フェニルアミン)トリフェニルアミン)、BPAPF(9,9-ビス[4-(N,N-ビス-ビフェニル-4-イル-アミノ)フェニル]-9H-フルオレン)、スピロ-NPB(N2,N7-ジ-1-ナフタレニル-N2,N7-ジフェニル-9,9'-スピロビ[9H-フルオレン]-2,7-ジアミン)、4P-TPD(4,4-ビス-(N,N-ジフェニルアミノ)-テトラフェニル)、PEDOT:PSS及びスピロ-OMeTADも挙げられる。
【0335】
p型層は、例えばtert-ブチルピリジン(tertbutyl pyridine)及びLiTFSIでドープされていてもよい。p型層は正孔密度を増加させるためにドープされていてもよい。p型層は、正孔密度を増加させるために、例えばNOBF4(ニトロソニウムテトラフルオロボレート)でドープされていてもよい。
【0336】
他の実施形態において、p型層は無機正孔輸送体を含んでいてもよい。例えば、p型層は、ニッケル、バナジウム、銅又はモリブデンの酸化物、CuI、CuBr、CuSCN、Cu2O、CuO又はCIS、ペロブスカイト、アモルファスSi、p型IV族半導体、p型III-V族半導体、p型II-VI族半導体、p型I-VII族半導体、p型IV-VI族半導体、p型V-VI族半導体及びp型II-V族半導体を含む無機正孔輸送体を含んでいてもよく、この無機材料はドープされていても、ドープされていなくてもよい。p型層は前記無機正孔輸送体の緻密層であってもよい。
【0337】
p型層は、例えば、ニッケル、バナジウム、銅又はモリブデンの酸化物、CuI、CuBr、CuSCN、Cu2O、CuO又はCIS、アモルファスSi、p型IV族半導体、p型III-V族半導体、p型II-VI族半導体、p型I-VII族半導体、p型IV-VI族半導体、p型V-VI族半導体及びp型II-V族半導体を含む無機正孔輸送体を含んでいてもよく、この無機材料はドープされていても、ドープされていなくてもよい。p型層は、例えば、CuI、CuBr、CuSCN、Cu2O、CuO及びCISから選択される無機正孔輸送体を含んでいてもよい。p型層は前記無機正孔輸送体の緻密層であってもよい。
【0338】
典型的には、p型層はポリマー又は分子正孔輸送体を含み、n型層は無機n型材料を含む。p型ポリマー又は分子正孔輸送体は、任意の適切なポリマー又は分子正孔輸送体、例えば上記に列挙されたもののいずれかであってもよい。同様に、無機n型材料は、任意の適切なn型無機物、例えば上記に列挙されたもののいずれかであってもよい。1つの実施形態において、例えば、p型層はスピロ-OMeTADを含み、n型層はTiO2を含む。典型的には、この実施形態において、TiO2を含むn型層はTiO2の緻密層である。
【0339】
他の実施形態において、n型層及びp型層は両方とも無機材料を含む。したがって、n型層は無機n型材料を含んでいてもよく、p型層は無機p型材料を含んでいてもよい。無機p型材料は、任意の適切なp型無機物、例えば上記に列挙されたもののいずれかであってもよい。同様に、無機n型材料は、任意の適切なn型無機物、例えば上記に列挙されたもののいずれかであってもよい。他の実施形態において、p型層は無機p型材料(すなわち無機正孔輸送体)を含み、n型層はポリマー又は分子正孔輸送体を含む。無機p型材料は、任意の適切なp型無機物、例えば上記に列挙されたもののいずれかであってもよい。同様に、n型ポリマー又は分子正孔輸送体は、任意の適切なn型ポリマー又は分子正孔輸送体、例えば上記に列挙されたもののいずれかであってもよい。
【0340】
例えば、p型層は無機正孔輸送体を含んでいてもよく、n型層は電子輸送材料を含んでいてもよく、電子輸送材料はフラーレン若しくはフラーレン誘導体、電解質、又は有機電子輸送材料を含み、好ましくは有機電子輸送材料はペリレン若しくはその誘導体又はポリ{[N,N0-ビス(2-オクチルドデシル)-ナフタレン-1,4,5,8-ビス(ジカルボキシイミド)-2,6-ジイル]-alt-5,50-(2,20-ビチオフェン)}(P(NDI2OD-T2))を含む。無機正孔輸送体は、例えば、ニッケル、バナジウム、銅又はモリブデンの酸化物、CuI、CuBr、CuSCN、Cu2O、CuO又はCIS、ペロブスカイト、アモルファスSi、p型IV族半導体、p型III-V族半導体、p型II-VI族半導体、p型I-VII族半導体、p型IV-VI族半導体、p型V-VI族半導体及びp型II-V族半導体を含んでいてもよく、この無機材料はドープされていても、ドープされていなくてもよい。より典型的には、無機正孔輸送体は、ニッケル、バナジウム、銅又はモリブデンの酸化物、CuI、CuBr、CuSCN、Cu2O、CuO又はCIS、p型IV族半導体、p型III-V族半導体、p型II-VI族半導体、p型I-VII族半導体、p型IV-VI族半導体、p型V-VI族半導体及びp型II-V族半導体を含み、この無機材料はドープされていても、ドープされていなくてもよい。したがって、無機正孔輸送体は、ニッケル、バナジウム、銅又はモリブデンの酸化物、CuI、CuBr、CuSCN、Cu2O、CuO又はCISを含んでいてもよい。
【0341】
光電子デバイスは、典型的には1つ以上の第1の電極及び1つ以上の第2の電極をさらに含む。1つ以上の第1の電極は、典型的には、n型領域が存在する場合、n型領域と接触している。1つ以上の第2の電極は、典型的には、p型領域が存在する場合、p型領域と接触している。典型的には、1つ以上の第1の電極はn型領域と接触しており、1つ以上の第2の電極はp型電極と接触しており、又は1つ以上の第1の電極はp型領域と接触しており、1つ以上の第2の電極はn型領域と接触している。第1及び第2の電極は任意の適切な導電性材料を含んでいてもよい。第1の電極は典型的には透明導電酸化物を含む。第2の電極は典型的には1種以上の金属を含む。典型的には、第1の電極は典型的には透明導電酸化物を含み、第2の電極は典型的には1種以上の金属を含む。
【0342】
透明導電酸化物は、上記に定義された通りであり得、多くの場合FTO、ITO又はAZO、典型的にはITOである。金属は任意の金属であってもよい。一般に、第2の電極は、銀、金、銅、アルミニウム、白金、パラジウム又はタングステンから選択される金属を含む。電極は、単一層を形成してもよく、又はパターン化されていてもよい。
【0343】
本発明による光電子デバイス、例えば増感太陽電池は、以下の層を以下の順序で含んでいてもよい:
I.本明細書に定義される1つ以上の第1の電極、
II.任意選択で、本明細書に定義される緻密n型層、
III.本明細書に定義されるn型材料の多孔質層、
IV.前記安定化結晶質A/M/X材料の層(例えば増感剤として)、
V.本明細書に定義されるp型領域、
VI.任意選択で、本明細書に定義されるさらなる緻密p型層、及び
VII.本明細書に定義される1つ以上の第2の電極。
【0344】
光起電力デバイスである本発明による光電子デバイスは、以下の層を以下の順序で含んでいてもよい:
I.本明細書に定義される1つ以上の第1の電極、
II.本明細書に定義される少なくとも1つのn型層を含むn型領域、
III.本明細書に定義される安定化結晶質A/M/X材料を含む光起電力材料の層、
IV.本明細書に定義される少なくとも1つのp型層を含むp型領域、及び
V.本明細書に定義される1つ以上の第2の電極。
【0345】
本発明による光起電力デバイスは、以下の層を以下の順序で含んでいてもよい:
I.透明導電酸化物、好ましくはFTOを含む1つ以上の第1の電極、
II.本明細書に定義される少なくとも1つのn型層を含むn型領域、
III.本明細書に定義される安定化結晶質A/M/X材料の層、
IV.本明細書に定義される少なくとも1つのp型層を含むp型領域、及び
V.金属、好ましくは銀又は金を含む1つ以上の第2の電極。
【0346】
本発明による光起電力デバイス(例えば反転デバイス)は、以下の層を以下の順序で含んでいてもよい:
I.本明細書に定義される1つ以上の第2の電極、
II.本明細書に定義される少なくとも1つのn型層を含むn型領域、
III.本明細書に定義される安定化結晶質A/M/X材料の層、
IV.本明細書に定義される少なくとも1つのp型層を含むp型領域、及び
V.本明細書に定義される1つ以上の第1の電極。
【0347】
本発明による光起電力デバイス、例えば増感太陽電池は、以下の層を以下の順序で含んでいてもよい:
I.金属を含む1つ以上の第2の電極、
II.本明細書に定義される少なくとも1つのメソ多孔質n型層を含むn型領域、
III.本明細書に定義される安定化結晶質A/M/X材料の増感層、
IV.本明細書に定義される少なくとも1つのp型層を含むp型領域、及び
V.透明導電酸化物を含む1つ以上の第1の電極。
【0348】
1つ以上の第1の電極は、100nm~700nm、例えば100nm~400nmの厚さを有していてもよい。1つ以上の第2の電極は、10nm~500nm、例えば50nm~200nm又は10nm~50nmの厚さを有していてもよい。n型領域は50nm~500nmの厚さを有していてもよい。p型領域は50nm~500nmの厚さを有していてもよい。
【0349】
上記の光電子デバイスの多くは、デバイス中の先の層(例えば半導体材料の層、n型半導体の層、p型半導体の層、足場材料など)上に配置された安定化結晶質A/M/X材料の層を含む。これらの場合において、デバイス中の安定化結晶質A/M/X材料の層は、本明細書、例えば23頁に記載の通り調製され得る。光電子デバイスはまた、安定化結晶質A/M/X材料の層上に配置された後続の層をさらに含んでいてもよい。安定化結晶質A/M/X材料の層上に配置された後続の層は国際公開第2017/037448号に記載の通り調製されてもよい。
【0350】
他の実施形態において、光活性材料は光電子デバイス中でリン光体として機能する。このような実施形態において、光電子デバイスは、典型的には光源及び本明細書に記載の光活性材料を含む。典型的には、光活性材料は、粗粒粉末の形態又はナノ結晶の形態で本発明の安定化結晶質A/M/X材料を含む。また典型的には、光活性材料は本明細書に定義されるマトリックス材料を含む。
【0351】
「リン光体として機能する」とは、光活性材料が、第1の波長の光を吸収し、その後異なるより長い波長の光を再放出することによって機能することを意味する。
【0352】
光源は、典型的には白色、青色又はUVの光源である。すなわち、光源は、典型的には500nm以下、より一般には480nm以下の波長で放出する電磁放射線源である。例えば、光源は、典型的には、400~480nmの波長を有する電磁放射線を放出する。
【0353】
光活性材料がリン光体として機能する光電子デバイスの例としては、ディスプレイスクリーン、例えばLEDディスプレイスクリーン、及び固体状態の照明デバイスが挙げられる。このようなデバイスは本発明のさらなる態様を表す。
【0354】
使用
さらなる態様において、本発明は、本発明の安定化結晶質A/M/X材料及び前記化合物を含む本発明の光活性材料の使用を提供する。
【0355】
第1の実施形態において、本発明は、光エミッター、好ましくは光、好ましくは可視光(すなわち450~700nmの領域の波長を有する光)を放出する光エミッターとしての本明細書に定義される安定化結晶質A/M/X材料又は光活性材料の使用を提供する。好ましい実施形態において、光エミッターは、青色光、すなわち450~500nm、より好ましくは455~495nm、さらに好ましくは460~490nmの範囲の波長の光を放出する。
【0356】
第2の実施形態において、本発明は、光電子デバイスの製造における本明細書に定義される安定化結晶質A/M/X材料又は光活性材料の使用を提供し、好ましくは前記光電子デバイスが光、好ましくは可視光を放出し、より好ましくは前記光電子デバイスが450~500nm、より好ましくは455~495nm、さらに好ましくは460~490nmの範囲の波長の青色光を放出する。
【0357】
第3の実施形態において、本発明は、リン光体としての本明細書に定義される安定化結晶質A/M/X材料又は光活性材料の使用を提供する。例えば、本発明は、スクリーン、特にLEDスクリーン、又は固体状態の照明デバイスの製造における本明細書に定義される光活性材料の使用を提供する。
【0358】
第4の実施形態において、本発明は、光、好ましくは可視光を発生する方法における、より好ましくは450~500nm、より好ましくは455~495nm、さらに好ましくは460~490nmの範囲の波長の光を発生する方法における、本明細書に定義される安定化結晶質A/M/X材料又は光電子デバイスの使用をさらに提供する。例えば、本発明は、光源を用いて本明細書に定義される安定化結晶質A/M/X材料又は光活性材料を放射するステップを含む光を発生する方法、したがって、450~500nm、より好ましくは455~495nm、さらに好ましくは460~490nmの範囲の波長で前記光活性材料からの光の放出を発生する方法を提供する。
【実施例
【0359】
1.材料
CsBr(99.9%)、CsCl(99.9%)、PbBr2(≧98%)、PbCl2(≧98%)、PbI2(≧98%)、HBr酸(水中48wt%)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、無水ジメチルスルホキシド(DMSO)、トリメチルアルミニウム(TMA)溶液(トルエン中2.0M)及びトルエン(無水99.8%)はSigma-Ardrichから購入した。HClはFisher Scientificから入手した(H2O中32%)。
【0360】
2.CsPbBr3前駆体溶液の製造
CsPbBr3を、1:9の体積比のDMF及びDMSOの混合溶媒に溶解されたCs:Pbが2:1のモル比のCsBr及びPbBr2によって調製して、所望の組成及び0.3MのPbBr2を有するペロブスカイト溶液を得、溶液を磁気撹拌棒を用いて40℃で60分より長く混合した。溶液をPTFEフィルター(細孔サイズ0.45μm)で濾過した。
【0361】
3.CsPbBr3前駆体溶液へのTMAの添加
異なる濃度のトリメチルアルミニウム(TMA)溶液を、調製されたCsPbBr3前駆体溶液に窒素フィールドグローブボックス中で添加した。溶液をボルテックスミキサーによって1分間混合し、グローブボックスに10分間放置した。最後に、混合された溶液をPTFEフィルター(細孔サイズ0.45μm)で濾過した。
【0362】
4.CsPb(Br1-xClx)3前駆体溶液の製造
CsPb(Br1-xClx)3を、化学量論量でPbBr2とPbCl2との同じモル比で組み合わせたCsBrとCsClとのモル比を変更することによって調製した。例えば、CsPb(Br0.7Cl0.3)3を1.490g(7mmol)のCsBr及び0.504g(3mmol)のCsClを用いて調製し、これを5mLの脱イオン化(DI)水に溶解し、溶液をボルテックスミキサーによって混合して澄明溶液になった。2.569g(7mmol)のPbBr2(Aldrich、≧98%)及び0.834g(3mmol)のPbCl2を、8.82mLのDMF及び1.68mLのHBr(H2O中48wt%、≧99.99%)、並びに3.15mLのDMF及び1.35mLのHCl(H2O中32%)にそれぞれ溶解した。PbBr2溶液及びPbCl2溶液を、磁気撹拌棒を用いて100℃でそれぞれ10分間及び5分間混合し、次いで2つの溶液を、磁気撹拌棒を用いて18~20℃で5分間一緒に混合した。
【0363】
CsBr0.7Cl0.3水溶液を、磁気撹拌棒を用いて18~20℃で撹拌しながら、Pb(Br0.7Cl0.3)2溶液にゆっくりと添加した。ある時点で、明るい黄色沈殿物が溶液中に現れる。10mLのエタノール(Aldrich:実験室試薬、96%)を沈殿を保持する溶液に添加し、それをボルテックスミキサーによって10~20秒間混合した。沈殿をアルファ-セルロース濾紙(Advantec)上に取り出し、エタノールで数回洗浄し、次いでそれを真空オーブン中、70℃で10時間乾燥した。製造された粉末をDMSOに溶解して、所望の組成及び0.2MのPbX2を有するペロブスカイト溶液を得、溶液を、磁気撹拌棒を用いて40℃で60分より長く混合した。溶液をPTFEフィルター(細孔サイズ0.45μm)で濾過した。
【0364】
5.薄膜の製造
ペロブスカイト前駆体溶液を、通常の実験室雰囲気(18~20℃、湿度40~60%)下、3000rpm(加速500rpm)で50秒間のスピンコーティングプロセスによってガラス基材上にコーティングし、次いでペロブスカイト膜を、同じ乾燥雰囲気下、100℃で5分間アニールした。
【0365】
TMA-溶媒クエンチング方法のために、80μLの前駆体溶液を基板ごとにスピンコーティングし、スピンコーティングプログラムの終了の10秒前に3000rpm(加速500rpm)で30秒間スピンさせ、スピンする基材を200μLのTMA混合逆溶媒でクエンチした。その後、ペロブスカイト膜を、同じ乾燥雰囲気下、100℃で5分間アニールした。
【0366】
すべての薄膜試料をポリ(メチルメタクリレート)(PMMA、クロロベンゼン中20mg/mL)でコーティングして、空気の湿気から保護した。
【0367】
6.ナノ結晶の製造
CsPbBr3NCを、Protesescuらによる以前の報告に従って、いくつかの改変を用いて合成した。典型的には、PbBr2(1g)(TCI)、オレイン酸(5mL)、オレイルアミン(oleyelamine) (5mL)及びODE(50mL)をすべて混合し、500mLの丸底フラスコ中で撹拌し、PbBr2が完全に溶解するまで、真空下120℃で1~2時間脱気した。次いで、フラスコをN2で満たし、温度を170℃に設定しながら、一定のN2流下で保った。予め100℃に加熱した以前に調製したCs-オレアート(7.5mL)前駆体を反応混合物に素早く注入した。反応を、氷浴へのフラスコの浸漬及び20mLの無水トルエンの添加によって、すぐに(注入のおよそ10秒後)停止及びクエンチした。
【0368】
7.PMMA及びPS中に分散されたナノ結晶の薄膜の製造
ナノ結晶分散液をポリ(メチルメタクリレート)(PMMA、トルエン中200mg/mL)及びポリスチレン(PS、トルエン中200mg/mL)に添加して、ポリマーマトリックスに薄膜を作製した。ポリマーの混合ナノ結晶溶液をドクターブレード法によりガラス基材にコーティングした。
【0369】
8.ナノ結晶薄膜PVB及びEVAのカプセル化
ポリビニルブチラール(PVB)及びエチレン酢酸ビニル(EVA)をバリアフィルムとして使用して、ナノ結晶をブロックした。バリアフィルムをガラスに配置されたナノ結晶と上部のカバーガラスとの間に挿入して、カプセル化した。
【0370】
9.特性評価
UV-可視吸収スペクトルを市販の分光光度計(Varian Cary 300 UV-Vis、米国)によって測定した。光ルミネセンス(PL)スペクトルを、市販の蛍光分光計(Horiba, Fluorolog)において365nmの励起波長及び3mmのスリット幅を使用して記録した。光ルミネセンス量子収量(PLQY)値を、積分球(Oriel Instruments 70682NS)において試料を照射する405nmのCWレーザー(RLTMDL-405、Roithner Lasertechnik GmbH)を使用して決定し、レーザー散乱及びPLをファイバー結合検出器(Ocean Optics MayaPro)を使用して収集した。PLQY計算を、確立された技法を使用して行った。レーザー強度を、光学密度フィルターを使用して調整した。安定性試験を、Atlas SUNTEST XLS+(1700Wの空冷キセノンランプ)での全スペクトルのシミュレーションされたAM1.5、76mA cm-2放射照度の下で行った。チャンバー温度はおよそ60~70℃である。光源は100Hzでパルスされる。
本発明は、以下の態様を含む。
[項1]
安定化結晶質A/M/X材料を製造する方法であって、前記安定化結晶質A/M/X材料が、式[Z] p O q の酸化物及び式[A] a [M] b [X] c の化合物を含み
[式中、
[Z]は、少なくとも3eVのバンドギャップを有する酸化物を形成することができる少なくとも1種の元素Zを含み、
p及びqは正の数であり、
[A]は1種以上のAカチオンを含み、
[M]は1種以上のMカチオンを含み、
[X]は1種以上のXアニオンを含み、
aは1~6の整数であり、
bは1~6の整数であり、
cは1~18の整数である]、
方法が、
(a)Aカチオンを含むA前駆体、及び
(b)Mカチオンを含むM前駆体
を、元素Zを含む酸化物前駆体で処理するステップを含む、
方法。
[項2]
A前駆体、M前駆体及び酸化物前駆体が溶液中に存在する、項1に記載の方法。
[項3]
前記A前駆体及び前記M前駆体が第1の溶液中に存在し、前記第1の溶液がA前駆体、M前駆体及び第1の溶媒を含む、項1又は2に記載の方法。
[項4]
第1の溶媒が、有機溶媒、好ましくはジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン、ガンマ-ブチロラクトン及びそれらの混合物である、項3に記載の方法。
[項5]
前記酸化物前駆体が第2の溶液中に存在し、前記第2の溶液が前記酸化物前駆体及び第2の溶媒を含む、項1から4のいずれか一項に記載の方法。
[項6]
式[A] a [M] b [X] c の化合物が前記第2の溶媒に不溶性であり、好ましくは、第2の溶媒がトルエン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、アニソール、酢酸メチル、酢酸エチル、ジエチルエーテル及びクロロホルムのうちの1種である、項5に記載の方法。
[項7]
A前駆体及びM前駆体を酸化物前駆体で処理するステップが水の存在下で行われる、項1から6のいずれか一項に記載の方法。
[項8]
A前駆体及びM前駆体を酸化物前駆体で処理するステップの前に、A前駆体及びM前駆体を基材上に配置するステップを含む、項1から7のいずれか一項に記載の方法。
[項9]
前記基材が、n型半導体、p型半導体、電極、誘電足場材料、ポリマー又はガラスのうちの1種以上を含む、項8に記載の方法。
[項10]
それぞれの元素Zが、Al、Si、Zr、Ga、Ba、Nb、Mg、Y、Ti、Ni及びZnから選択され、好ましくはAl、Zr又はSiであり、最も好ましくはAlである、項1から9のいずれか一項に記載の方法。
[項11]
それぞれのAカチオンが、アルカリ金属カチオン、アミン、C 1 6 アルキルアミン、イミン、C 1 6 アルキルイミン、C 1 6 アルキル、C 2 6 アルケニル、C 3 6 シクロアルキル及びC 6 12 アリールから選択される1つ以上の置換基で置換されていてもよい、C 1 10 アルキルアンモニウム、C 2 10 アルケニルアンモニウム、イミニウム、C 1 10 アルキルイミニウム、C 3 10 シクロアルキルアンモニウム及びC 3 10 シクロアルキルイミニウムから選択され、好ましくはCs + 、Rb + 、メチルアンモニウム、エチルアンモニウム、プロピルアンモニウム、ブチルアンモニウム、ペンチルアンモニウム、ヘキシルアンモニウム、ヘプチルアンモニウム、オクチルアンモニウム、ホルムアミジニウム、ベンジルアンモニウム、フェニルエチルアンモニウム、ベンジルアンモニウム、ナフチルメチルアンモニウム及びグアニジニウムのうちの1種以上である、項1から10のいずれか一項に記載の方法。
[項12]
それぞれのMカチオンが、金属又は半金属カチオンから選択され、好ましくはLi + 、Na + 、K + 、Rb + 、Cs + 、Cu + 、Ag + 、Au + 、Hg + 、Ca 2+ 、Sr 2+ 、Cd 2+ 、Cu 2+ 、Ni 2+ 、Mn 2+ 、Fe 2+ 、Co 2+ 、Pd 2+ 、Ge 2+ 、Sn 2+ 、Pb 2+ 、Yb 2+ 、Eu 2+ 、Bi 3+ 、Sb 3+ 、Cr 3+ 、Fe 3+ 、Co 3+ 、Ga 3+ 、As 3+ 、Ru 3+ 、Rh 3+ 、In 3+ 、Ir 3+ 及びAu 3+ から選択され、好ましくはCu + 、Ag + 、Au + 、Sn 2+ 、Pb 2+ 、Cu 2+ 、Ge 2+ 、Ni 2+ 、Bi 3+ 及びSb 3+ から選択され、特に好ましくはPb 2+ である、項1から11のいずれか一項に記載の方法。
[項13]
それぞれのXアニオンが、F - 、Cl - 、Br - 又はI - から選択され、好ましくはCl - 又はBr - から選択される、項1から12のいずれか一項に記載の方法。
[項14]
[A]が2種以上の異なるAカチオンを含む、項1から13のいずれか一項に記載の方法。
[項15]
[X]が2種以上の異なるXアニオンを含む、項1から14のいずれか一項に記載の方法。
[項16]
A前駆体が、Aカチオン又はAカチオンのうち1種のハロゲン化物塩を含む、項1から15のいずれか一項に記載の方法。
[項17]
M前駆体が、Mカチオン又はMカチオンのうち1種のハロゲン化物塩を含む、項1から16のいずれか一項に記載の方法。
[項18]
酸化物前駆体が、式ZR n の1種以上の化合物を含み
[式中、nは1~6の数であり、
それぞれのRは独立して、置換されていてもよい、C 1 10 アルキル、C 2 10 アルケニル、C 3 10 シクロアルキル、C 1 10 アルキルオキシ、C 2 10 アルケニルオキシ、ヒドリド及びハライドから選択され、好ましくは、無置換又は置換の、C 1 10 アルキル、C 2 10 アルケニル、C 3 10 シクロアルキル、C 1 10 アルキルオキシ、C 2 10 アルケニルオキシ、ヒドリド及びハライドから選択される]、
好ましくは、
ZR n が有機金属化合物であり、式中、nが2~4の数であり、それぞれのRが独立して、無置換のC 1 6 アルキル及びC 1 6 アルキルオキシから選択され、好ましくはRがメチルであり、nが3である、
項1から17のいずれか一項に記載の方法。
[項19]
酸化物前駆体がトリメチルアルミニウムである、項1から18のいずれか一項に記載の方法。
[項20]
前記1種以上のAカチオンがモノカチオンであり、前記1種以上のMカチオンがジカチオンである、項1から19のいずれか一項に記載の方法。
[項21]
式[A] a [M] b [X] c の化合物が式[A][M][X] 3 の化合物である、項1から20のいずれか一項に記載の方法。
[項22]
存在する任意の溶媒を安定化結晶質A/M/X材料から除去するステップ、好ましくは第1の溶媒及び第2の溶媒を安定化結晶質A/M/X材料から除去するステップをさらに含む、項1から21のいずれか一項に記載の方法。
[項23]
脂肪族リガンドの非存在下で行われる、項1から22のいずれか一項に記載の方法。
[項24]
安定化結晶質A/M/X材料が式[A] a [M] b [X] c の化合物の結晶を含み、前記結晶がその全表面上に式[Z] p O q の酸化物被膜を有する、項1から23のいずれか一項に記載の方法。
[項25]
安定化結晶質A/M/X材料が、式[A] a [M] b [X] c の化合物を含む複数の結晶子及び前記結晶子間の複数の粒界を含む多結晶質材料であり、式[Z] p O q の酸化物が粒界に沿って分布している、項1から24のいずれか一項に記載の方法。
[項26]
項1から25のいずれか一項に記載の方法によって得られる及び/又は得られ得る、生成物。
[項27]
式[A] a [M] b [X] c の化合物の結晶を含む安定化結晶質A/M/X材料であって、前記結晶がその全表面上に式[Z] p O q の酸化物被膜を有する[式中、
[Z]は、少なくとも3eVのバンドギャップを有する酸化物を形成することができる少なくとも1種の元素Zを含み、
p及びqは正の数であり、
[A]は1種以上のAカチオンを含み、
[M]は1種以上のMカチオンを含み、
[X]は1種以上のXアニオンを含み、
aは1~6の整数であり、
bは1~6の整数であり、
cは1~18の整数である]、
安定化結晶質A/M/X材料。
[項28]
多結晶質材料である、項27に記載の安定化結晶質A/M/X材料。
[項29]
前記結晶を含む多結晶質材料であり、前記酸化物被膜の少なくとも一部が結晶の粒界に位置する、項27又は28に記載の安定化結晶質A/M/X材料。
[項30]
前記被膜が0.5nmの最小厚さを有する、項27から29のいずれか一項に記載の安定化結晶質A/M/X材料。
[項31]
式[A] a [M] b [X] c の化合物が不純物として前記少なくとも1種の元素Zを含む、項27から29のいずれか一項に記載の安定化結晶質A/M/X材料。
[項32]
多結晶質材料であり、多結晶質材料中のそれぞれの結晶がその全表面上に前記被膜を有する、項27から31のいずれか一項に記載の安定化結晶質A/M/X材料。
[項33]
結晶が少なくとも50nm、好ましくは少なくとも100nmの直径を有する、項27から32のいずれか一項に記載の安定化結晶質A/M/X材料。
[項34]
脂肪族リガンドを実質的に含まず、好ましくは脂肪族リガンドを全く含まない、項27から33のいずれか一項に記載の安定化結晶質A/M/X材料。
[項35]
pが1~3であり、qが1~8である、項27から34のいずれか一項に記載の安定化結晶質A/M/X材料。
[項36]
Z、A、M及びXが、それぞれ項10から13に定義された通りである、項27から35のいずれか一項に記載の安定化結晶質A/M/X材料。
[項37]
式[A] a [M] b [X] c の化合物が式[A][M][X] 3 の化合物である、項27から36のいずれか一項に記載の安定化結晶質A/M/X材料。
[項38]
[A]が2種以上のAカチオンを含み、好ましくは[A]がCs + 及びRb + を含む、項27から37のいずれか一項に記載の安定化結晶質A/M/X材料。
[項39]
安定化結晶質A/M/X材料であって、式[A] a [M] b [X] c の化合物を含む複数の結晶子及び前記結晶子間の複数の粒界を含む多結晶質材料であり、式[Z] p O q の酸化物が粒界に沿って分布している[式中、
[Z]は、少なくとも3eVのバンドギャップを有する酸化物を形成することができる少なくとも1種の元素Zを含み、
p及びqは正の数であり、
[A]は1種以上のAカチオンを含み、
[M]は1種以上のMカチオンを含み、
[X]は1種以上のXアニオンを含み、
aは1~6の整数であり、
bは1~6の整数であり、
cは1~18の整数である]、
安定化結晶質A/M/X材料。
[項40]
安定化結晶質A/M/X材料が、式[A] a [M] b [X] c の化合物を含む複数の結晶子及び前記結晶子間の複数の粒界を含み、式[Z] p O q の酸化物が項39に定義される粒界に沿って分布している、項28から38のいずれか一項に記載の安定化結晶質A/M/X材料。
[項41]
項26から40のいずれか一項に記載の安定化結晶質A/M/X材料を含む粗粒粉末。
[項42]
項26から40のいずれか一項に記載の安定化結晶質A/M/X材料を含む薄膜。
[項43]
項26から40のいずれか一項に記載の安定化結晶質A/M/X材料、項41に記載の粗粒粉末又は項42に記載の薄膜を含む、光電子デバイス。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8