(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-23
(45)【発行日】2024-07-31
(54)【発明の名称】第14族元素がドープされたナノダイヤモンドの製造方法及び精製方法
(51)【国際特許分類】
C01B 32/28 20170101AFI20240724BHJP
B01J 3/08 20060101ALI20240724BHJP
B82Y 30/00 20110101ALI20240724BHJP
B82Y 40/00 20110101ALI20240724BHJP
【FI】
C01B32/28
B01J3/08 E
B01J3/08 M
B82Y30/00
B82Y40/00
(21)【出願番号】P 2021509074
(86)(22)【出願日】2020-03-16
(86)【国際出願番号】 JP2020011340
(87)【国際公開番号】W WO2020195999
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2023-01-23
(31)【優先権主張番号】P 2019058397
(32)【優先日】2019-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019212822
(32)【優先日】2019-11-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】間彦 智明
(72)【発明者】
【氏名】牧野 有都
(72)【発明者】
【氏名】鶴井 明彦
(72)【発明者】
【氏名】劉 明
(72)【発明者】
【氏名】西川 正浩
【審査官】佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/072137(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第104624358(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第1962964(CN,A)
【文献】特表2015-509904(JP,A)
【文献】特開2005-131711(JP,A)
【文献】国際公開第2017/141689(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/195997(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/195998(WO,A1)
【文献】DUFFY, E. et al.,Assessing the extent, stability, purity and properties of silanised detonation nanodiamond,Applied Surface Science,2015年09月02日,Vol.357,pp.397-406
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 3/08
B82Y 5/00 - 40/00
C01B 32/00 - 32/991
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
DWPI(Derwent Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Si、Ge、Sn及びPbからなる群から選ばれる少なくとも1種の第14族元素及び/又はその酸化物と前記第14族元素がドープされたナノダイヤモンドを含むナノダイヤモンド組成物をアルカリ処理して前記第14族元素及び/又はその酸化物を除去する工程を含む、
表面ヒドロキシ基(OH)のピーク面積(H)とダイヤモンドのピーク面積(D)の比(H/D)が0.1~5であり、かつ
表面カルボニル基(CO)のピーク面積(C)とダイヤモンドのピーク面積(D)の比(C/D)が0.01~1.5である第14族元素がドープされたナノダイヤモンドの製造方法。
【請求項2】
前記ナノダイヤモンド組成物をアルカリ処理して前記第14族元素及び/又はその酸化物を除去する工程の前に、少なくとも1種の爆薬と少なくとも1種の第14族元素化合物を含む爆薬組成物を密閉容器内で爆発させて、Si、Ge、Sn及びPbからなる群から選ばれる少なくとも1種の第14族元素がドープされたナノダイヤモンドを得る爆轟工
程をさらに含む
、請求項1に記載の第14族元素がドープされたナノダイヤモンドの製造方法。
【請求項3】
アルカリ処理工程の前又は後に前記第14族元素がドープされたナノダイヤモンドを濃硝酸と濃硫酸の混酸で処理する混酸処理工程をさらに含む、請求項1
又は2に記載の第14族元素がドープされたナノダイヤモンドの製造方法。
【請求項4】
前記爆薬組成物が、B、P、S、Cr、Al、Li、Na、K、Cs、Mg、Ca、Sr、Ba、Ti、Zr、V、Nb、Ta、Mo、W、Mn、Fe、Ni、Cu、Ag、Zn、Cd、Hg、Ga、In、Tl、As、Sb、Bi、Se、Te、Co、Xe、F、Y及びランタノイドからなる群から選ばれる少なくとも1種の第3元素を含む化合物をさらに含む、請求項
2又は
3に記載の第14族元素がドープされたナノダイヤモンドの製造方法。
【請求項5】
前記第14族元素がドープされたナノダイヤモンドが第14族元素Vセンターを有し、前記第14族元素Vセンターによる蛍光発光ピークを有する、請求項1~4のいずれか1項に記載の第14族元素がドープされたナノダイヤモンドの製造方法。
【請求項6】
前記第14族元素がドープされたナノダイヤモンドが第14族元素Vセンターを有し、前記第14族元素Vセンターの濃度が1×10
10
/cm
3
以上である、請求項1~5のいずれか1項に記載の第14族元素がドープされたナノダイヤモンドの製造方法。
【請求項7】
Si、Ge、Sn及びPbからなる群から選ばれる少なくとも1種の第14族元素及び/又はその酸化物と前記第14族元素がドープされたナノダイヤモンドを含むナノダイヤモンド組成物をアルカリ処理して前記第14族元素及び/又はその酸化物を除去する工程を含む、
表面ヒドロキシ基(OH)のピーク面積(H)とダイヤモンドのピーク面積(D)の比(H/D)が0.1~5であり、かつ
表面カルボニル基(CO)のピーク面積(C)とダイヤモンドのピーク面積(D)の比(C/D)が0.01~1.5である第14族元素がドープされたナノダイヤモンドの精製方法。
【請求項8】
前記ナノダイヤモンド組成物が混酸処理で得られたものである、請求項
7に記載の第14族元素がドープされたナノダイヤモンドの精製方法。
【請求項9】
前記ナノダイヤモンド組成物が、さらに、B、P、S、Cr、Al、Li、Na、K、Cs、Mg、Ca、Sr、Ba、Ti、Zr、V、Nb、Ta、Mo、W、Mn、Fe、Ni、Cu、Ag、Zn、Cd、Hg、Ga、In、Tl、As、Sb、Bi、Se、Te、Co、Xe、F、Y及びランタノイドからなる群から選ばれる少なくとも1種の第3元素及び/又はその酸化物を含む、請求項
7又は
8に記載の第14族元素がドープされたナノダイヤモンドの精製方法。
【請求項10】
前記ナノダイヤモンドに、B、P、S、Cr、Al、Li、Na、K、Cs、Mg、Ca、Sr、Ba、Ti、Zr、V、Nb、Ta、Mo、W、Mn、Fe、Ni、Cu、Ag、Zn、Cd、Hg、Ga、In、Tl、As、Sb、Bi、Se、Te、Co、Xe、F、Y及びランタノイドからなる群から選ばれる少なくとも1種の第3元素がさらにドープされてなる、請求項
7~
9のいずれか1項に記載の第14族元素がドープされたナノダイヤモンドの精製方法。
【請求項11】
前記第14族元素がドープされたナノダイヤモンドが第14族元素Vセンターを有し、前記第14族元素Vセンターによる蛍光発光ピークを有する、請求項7~10のいずれか1項に記載の第14族元素がドープされたナノダイヤモンドの精製方法。
【請求項12】
前記第14族元素がドープされたナノダイヤモンドが第14族元素Vセンターを有し、前記第14族元素Vセンターの濃度が1×10
10
/cm
3
以上である、請求項7~11のいずれか1項に記載の第14族元素がドープされたナノダイヤモンドの精製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第14族元素がドープされたナノダイヤモンドの製造方法及び精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイヤモンドの発光センターは、ナノサイズで化学的に安定な蛍光性発色団であり有機物の蛍光体に多く見られる生体内での分解、褪色、明滅を示さないために、蛍光イメージングのプローブとして期待されている。また発光センター内で励起される電子のスピン情報を外部より計測できる場合もあることにより、ODMR(Optically Detected Magnetic Resonance;光検出磁気共鳴法)や量子ビットとしての利用も期待されている。
【0003】
ダイヤモンドの発光センターの1種であるSiVセンターは、発光スペクトルにおいてZPL(Zero Phonon Level)と言われる鋭いピークを有する(非特許文献1)。
【0004】
ケイ素をドープしたダイヤモンドは、CVD法などにより製造されている(特許文献1~2)。
【0005】
非特許文献2は、隕石中のナノダイヤモンドについて分析をしているが、SiV(Silicon-Vacancy)センターを有するナノダイヤモンドは製造していない。非特許文献2は、シミュレーションにより1.1 nm~1.8 nmのナノダイヤモンド中でSiVセンターは熱力学的に安定であることを示している。
【0006】
非特許文献3のFigure 1は、AFMによりCVD法で調整したSiVセンターを有するナノダイヤモンドを開示しているが、Figure 1の右上のグラフにおいて縦軸は高さ(nm)、横軸は位置(ミクロン)が記載され、そのピーク高さは約9nmであるが、幅(位置)は少なくとも70nmはあることが明らかである。
【0007】
非特許文献4は、種溶液として3-4nmのナノダイヤモンドを用い、シリコンウェハ上でMWPECVD法により成長させて、SiVセンターを含む平均粒径73nmのナノダイヤモンドが得られることを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特表2014-504254
【文献】特開2004-176132
【非特許文献】
【0009】
【文献】E. Neu et al. APPLIED PHYSICS LETTERS 98, 243107 (2011)
【文献】Nat Nanotechnol. 2014 Jan;9(1):54-8. doi: 10.1038/nnano.2013.255. Epub 2013 Dec 8.
【文献】Adv Sci Lett. 2011 Feb 1;4(2):512-515.
【文献】Diamond and Related Materials, Volume 65, 2016, Pages 87-90
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の1つの目的は、ケイ素(Si)、ゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)などの第14族元素をドープしたナノダイヤモンドの製造方法及び精製方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、以下の第14族元素がドープされたナノダイヤモンドの製造方法及び精製方法を提供するものである。
項1. 少なくとも1種の爆薬と少なくとも1種の第14族元素化合物を含む爆薬組成物を密閉容器内で爆発させて、Si、Ge、Sn及びPbからなる群から選ばれる少なくとも1種の第14族元素がドープされたナノダイヤモンドを得る爆轟工程、第14族元素がドープされたナノダイヤモンドをアルカリ処理して前記第14族元素及び/又はその酸化物を除去する工程を含む、第14族元素がドープされたナノダイヤモンドの製造方法。
項2. アルカリ処理工程の前又は後に前記第14族元素がドープされたナノダイヤモンドを濃硝酸と濃硫酸の混酸で処理する混酸処理工程をさらに含む、項1に記載の第14族元素がドープされたナノダイヤモンドの製造方法。
項3. 前記爆薬組成物が、B、P、S、Cr、Al、Li、Na、K、Cs、Mg、Ca、Sr、Ba、Ti、Zr、V、Nb、Ta、Mo、W、Mn、Fe、Ni、Cu、Ag、Zn、Cd、Hg、Ga、In、Tl、As、Sb、Bi、Se、Te、Co、Xe、F、Y及びランタノイドからなる群から選ばれる少なくとも1種の第3元素を含む化合物をさらに含む、項1又は2に記載の第14族元素がドープされたナノダイヤモンドの製造方法。
項4. Si、Ge、Sn及びPbからなる群から選ばれる少なくとも1種の第14族元素及び/又はその酸化物と前記第14族元素がドープされたナノダイヤモンドを含むナノダイヤモンド組成物をアルカリ処理して前記第14族元素及び/又はその酸化物を除去する工程を含む、第14族元素がドープされたナノダイヤモンドの精製方法。
項5. 前記ナノダイヤモンド組成物が混酸処理で得られたものである、項4に記載の第14族元素がドープされたナノダイヤモンドの精製方法。
項6. 前記ナノダイヤモンド組成物が、さらに、B、P、S、Cr、Al、Li、Na、K、Cs、Mg、Ca、Sr、Ba、Ti、Zr、V、Nb、Ta、Mo、W、Mn、Fe、Ni、Cu、Ag、Zn、Cd、Hg、Ga、In、Tl、As、Sb、Bi、Se、Te、Co、Xe、F、Y及びランタノイドからなる群から選ばれる少なくとも1種の第3元素及び/又はその酸化物を含む、項4又は5に記載の第14族元素がドープされたナノダイヤモンドの精製方法。
項7. 前記ナノダイヤモンドに、B、P、S、Cr、Al、Li、Na、K、Cs、Mg、Ca、Sr、Ba、Ti、Zr、V、Nb、Ta、Mo、W、Mn、Fe、Ni、Cu、Ag、Zn、Cd、Hg、Ga、In、Tl、As、Sb、Bi、Se、Te、Co、Xe、F、Y及びランタノイドからなる群から選ばれる少なくとも1種の第3元素がさらにドープされてなる、項4~6のいずれか1項に記載の第14族元素がドープされたナノダイヤモンドの精製方法。
【発明の効果】
【0012】
Si、Ge、Sn及びPbからなる群から選ばれる少なくとも1種の第14族元素単体とその酸化物は混酸処理では容易に除去することはできないが、アルカリ処理により第14族元素がドープされたナノダイヤモンドからこれらを除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】ケイ素化合物としてトリフェニルシラノールを用い、添加量が外割で1質量%で得られたケイ素ドープナノダイヤモンドの(a)738nm輝点イメージング像、(b) 輝点の蛍光スペクトル。
図1(b)において、750nm付近に蛍光のサイドバンド(ショルダーピーク)が存在するが、このサイドバンドはサンプルによって存在しない場合もある。
【
図2】アルカリ処理前後のXRD測定結果。A:アルカリ処理後 B:アルカリ処理前
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のナノダイヤモンドは、第14族元素以外の元素がさらにドープされていてもよい。そのような元素としては、B、P、S、Cr、Al、Li、Na、K、Cs、Mg、Ca、Sr、Ba、Ti、Zr、V、Nb、Ta、Mo、W、Mn、Fe、Ni、Cu、Ag、Zn、Cd、Hg、Ga、In、Tl、As、Sb、Bi、Se、Te、Co、Xe、F、Y及びランタノイドからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素(以下、「第3元素」と呼ぶ)が挙げられる。第3元素がナノダイヤモンドにドープされる場合、爆薬組成物は、少なくとも1種の爆薬、少なくとも1種の第14族元素化合物及び少なくとも1種の第3元素化合物をさらに含む。
【0015】
本明細書において、第14族元素、必要に応じてさらに第3元素がドープされたナノダイヤモンドを単に「ドープナノダイヤモンド」と記載することがある。
【0016】
本発明の1つの実施形態において、本発明の製造方法は、少なくとも1種の爆薬と少なくとも1種の第14族元素化合物と、必要に応じて少なくとも1種の第3元素化合物を含む爆薬組成物を密閉容器内で爆発させて第14族元素、必要に応じてさらに第3元素がドープされたナノダイヤモンドを得る爆轟工程、第14族元素、必要に応じてさらに第3元素がドープされたナノダイヤモンドをアルカリ処理して第14族元素及び/又はその酸化物を除去する工程を含む。
【0017】
ナノダイヤモンドにドープされる第14族元素は、Si、Ge、Sn及びPbからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、好ましくはSiである。
【0018】
爆薬としては、特に限定されず、公知の爆薬を広く用いることができる。具体例としては、トリニトロトルエン(TNT)、シクロトリメチレントリニトラミン(ヘキソゲン、RDX)、シクロテトラメチレンテトラニトラミン(オクトゲン)、トリニトロフェニルメチルニトラミン(テトリル)、ペンタエリスリトールテトラニトレート(PETN)、テトラニトロメタン(TNM)、トリアミノ-トリニトロベンゼン、ヘキサニトロスチルベン、ジアミノジニトロベンゾフロキサンなどが挙げられ、これらを1種単独で、或いは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0019】
第14族元素化合物は、ケイ素化合物、ゲルマニウム化合物、スズ化合物及び鉛化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む。
【0020】
有機のケイ素化合物としては、
・アセトキシトリメチルシラン、ジアセトキシジメチルシラン、トリアセトキシメチルシラン、アセトキシトリエチルシラン、ジアセトキシジエチルシラン、トリアセトキシエチルシラン、アセトキシトリプロピルシラン、メトキシトリメチルシラン、ジメトキシジメチルシラン、トリメトキシメチルシラン、エトキシトリメチルシラン、ジエトキシジメチルシラン、トリエトキシメチルシラン、エトキシトリエチルシラン、ジエトキシジエチルシラン、トリエトキシエチルシラン、トリメチルフェノキシシランなどの低級アルキル基を有するシラン、
【0021】
・トリクロロメチルシラン、ジクロロジメチルシラン、クロロトリメチルシラン、トリクロロエチルシラン、ジクロロジエチルシラン、クロロトリエチルシラン、トリクロロフェニルシラン、ジクロロジフェニルシラン、クロロトリフェニルシラン、ジクロロジフェニルシラン、ジクロロメチルフェニルシラン、ジクロロエチルフェニルシラン、クロロジフルオロメチルシラン、ジクロロフルオロメチルシラン、クロロフルオロジメチルシラン、クロロエチルジフルオロシラン、ジクロロエチルフルオロシラン、クロロジフルオロプロピルシラン、ジクロロフルオロプロピルシラン、トリフルオロメチルシラン、ジフルオロジメチルシラン、フルオロトリメチルシラン、エチルトリフルオロシラン、ジエチルジフルオロシラン、トリエチルフルオロシラン、トリフルオロプロピルシラン、フルオロトリプロピルシラン、トリフルオロフェニルシラン、ジフルオロジフェニルシラン、フルオロトリフェニルシラン、トリブロムメチルシラン、ジブロムジメチルシラン、ブロムトリメチルシラン、ブロムトリエチルシラン、ブロムトリプロピルシラン、ジブロムジフェニルシラン、ブロムトリフェニルシランなどのハロゲン原子を有するシラン、
【0022】
・ヘキサメチルジシラン、ヘキサエチルジシラン、ヘキサプロピルジシラン、ヘキサフェニルジシラン、オクタフェニルシクロテトラシランなどのポリシラン
・トリエチルシラザン、トリプロピルシラザン、トリフェニルシラザン、ヘキサメチルジシラザン、ヘキサエチルジシラザン、ヘキサフェニルジシラザン、ヘキサメチルシクロトリシラザン、オクタメチルシクロテトラシラザン、ヘキサエチルシクロトリシラザン、オクタエチルシクロテトラシラザン、ヘキサフェニルシクロトリシラザンなどのシラザン、
・シラベンゼン、ジシラベンゼンなどの芳香環にケイ素原子が組み込まれた芳香族シラン
・トリメチルシラノール、ジメチルフェニルシラノール、トリエチルシラノール、ジエチルシランジオール、トリプロピルシラノール、ジプロピルシランジオール、トリフェニルシラノール、ジフェニルシランジオールなどの水酸基含有シラン
【0023】
・テトラメチルシラン、エチルトリメチルシラン、トリメチルプロピルシラン、トリメチルフェニルシラン、ジエチルジメチルシラン、トリエチルメチルシラン、メチルトリフェニルシラン、テトラエチルシラン、トリエチルフェニルシラン、ジエチルジフェニルシラン、エチルトリフェニルシラン、テトラフェニルシランなどのアルキルもしくはアリール置換シラン、
・トリフェニルシリルカルボン酸、トリメチルシリル酢酸、トリメチルシリルプロピオン酸、トリメチルシリル酪酸などのカルボキシル基含有シラン、
【0024】
・ヘキサメチルジシロキサン、ヘキサエチルジシロキサン、ヘキサプロピルジシロキサン、ヘキサフェニルジシロキサンなどのシロキサン、
・メチルシラン、ジメチルシラン、トリメチルシラン、ジエチルシラン、トリエチルシラン、トリプロピルシラン、ジフェニルシラン、トリフェニルシランなどのアルキル基もしくはアリール基と水素原子を有するシラン、
・テトラキス(クロロメチル)シラン、テトラキス(ヒドロキシメチル)シラン、テトラキス(トリメチルシリル)シラン、テトラキス(トリメチルシリル)メタン、テトラキス(ジメチルシラノリル)シラン、テトラキス(トリ(ヒドロキシメチル)シリル)シラン、テトラキス(ニトレートメチル)シラン、
などが挙げられる。
【0025】
無機ケイ素化合物としては、酸化ケイ素、酸窒化ケイ素、窒化ケイ素、酸化炭化ケイ素、窒化炭化ケイ素、シラン、或いはケイ素をドープした炭素材料等が挙げられる。ケイ素をドープする炭素材料としては黒鉛、グラファイト、活性炭、カーボンブラック、ケッチェンブラック、コークス、ソフトカーボン、ハードカーボン、アセチレンブラック、カーボンファイバー、メソポーラスカーボンなどが挙げられる。
【0026】
上記有機もしくは無機のケイ素化合物は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0027】
ゲルマニウム化合物としては、メチルゲルマン、エチルゲルマン、トリメチルゲルマニウムメトキシド、ジメチルゲルマニウムジアセテート、トリブチルゲルマニウムアセテート、テトラメトキシゲルマニウム、テトラエトキシゲルマニウム、イソブチルゲルマン、三塩化アルキルゲルマニウム、三塩化ジメチルアミノゲルマニウム等の有機ゲルマニウム化合物、ニトロトリフェノール錯体(Ge2(ntp)2O)、カテコール錯体(Ge(cat)2) 又はアミノピレン錯体(Ge2(ap)2Cl2)等のゲルマニウム錯体、ゲルマニウムエトキシド、ゲルマニウムテトラブトキシド等のゲルマニウムアルコキシドが挙げられる。
【0028】
上記ゲルマニウム化合物は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0029】
スズ化合物としては、例えば、酸化スズ(II)、酸化スズ(IV)、硫化スズ(II)、硫化スズ(IV)、塩化スズ(II)、塩化スズ(IV)、臭化スズ(II)、フッ化スズ(II)、酢酸スズ、硫酸スズなどの無機スズ化合物、テトラメチルスズのようなアルキルスズ化合物、モノブチルスズオキシドのようなモノアルキルスズオキシド化合物、ジブチルスズオキシドのようなジアルキルスズオキシド化合物、テトラフェニルスズのようなアリールスズ化合物、ジメチルスズマレエート、ヒドロキシブチルスズオキサイド、モノブチルスズトリス(2-エチルヘキサノエート)などの有機スズ化合物などが挙げられる。
【0030】
上記スズ化合物は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0031】
鉛化合物としては、例えば、一酸化鉛(PbO)、二酸化鉛(PbO2)、鉛丹(Pb3O4)、鉛白(2PbCO3・Pb(OH)2)、硝酸鉛(Pb(NO3)2)、塩化鉛(PbCl2)、硫化鉛(PbS)、黄鉛(PbCrO4、Pb(SCr)O4、PbO・PbCrO4)、炭酸鉛(PbCO3)、硫酸鉛(PbSO4)、フッ化鉛(PbF2)、4フッ化鉛(PbF4)、臭化鉛(PbBr2)、ヨウ化鉛(PbI2)等の無機鉛化合物、酢酸鉛(Pb(CH3COO)2)、4カルボン酸鉛(Pb(OCOCH3)4)、テトラエチル鉛(Pb(CH3CH2)4)、テトラメチル鉛(Pb(CH3)4)、テトラブチル鉛(Pb(C4H9)4)等の有機鉛化合物が挙げられる。
【0032】
上記鉛化合物は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0033】
第3元素化合物としては、有機第3元素化合物及び無機第3元素化合物が挙げられ、1種又は2種以上の第3元素化合物を併用してもよい。
【0034】
第3元素化合物を以下に例示する。
【0035】
ホウ素化合物としては、例えば、無機ホウ素化合物、有機ホウ素化合物などが挙げられる。
【0036】
無機ホウ素化合物としては、例えば、オルトホウ酸、二酸化二ホウ素、三酸化二ホウ素、三酸化四ホウ素、五酸化四ホウ素、三臭化ホウ素、テトラフルオロホウ酸、ホウ酸アンモニウム、ホウ酸マグネシウムなどが挙げられる。
【0037】
有機ホウ素化合物としては、例えば、トリエチルボラン、(R)-5,5-ジフェニル-2-メチル-3,4-プロパノ-1,3,2-オキサザボロリジン、ホウ酸トリイソプロピル、2-イソプロポキシ-4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン、ビス(ヘキシレングリコラト)ジボロン、4-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)-1H-ピラゾール、tert-ブチル-N-〔4-(4,4,5,5-テトラメチル-1,2,3-ジオキサボロラン-2-イル)フェニル〕カルバメート、フェニルボロン酸、3-アセチルフェニルボロン酸、三フッ化ホウ素酢酸錯体、三フッ化ホウ素スルホラン錯体、2-チオフェンボロン酸、トリス(トリメチルシリル)ボラートなどが挙げられる。
【0038】
リン化合物としては、例えば、無機リン化合物、有機リン化合物などが挙げられる。無機リン化合物としては、ポリリン酸アンモニウムなどが挙げられる。
【0039】
有機リン化合物としては、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリプロピルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリペンチルホスフェート、トリヘキシルホスフェート、ジメチルエチルホスフェート、メチルジブチルホスフェート、エチルジプロピルホスフェート、2-エチルヘキシルジ(p-トリル)ホスフェート、ビス(2-エチルヘキシル)p-トリルホスフェート、トリトリルホスフェート、ジ(ドデシル)p-トリルホスフェート、トリス(2-ブトキシエチル)ホスフェート、トリシクロヘキシルホスフェート、トリフェニルホスフェート、エチルジフェニルホスフェート、ジブチルフェニルホスフェート、フェニルビスドデシルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、p-トリルビス(2,5,5’-トリメチルヘキシル)ホスフェート、クレジル-2,6-キシレニルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、ヒドロキシフェニルジフェニルホスフェート、トリス(t-ブチルフェニル)ホスフェート、トリス(i-プロピルフェニル)ホスフェート、2-エチルヘキシルジフェニルホスフェート、ビス(2-エチルヘキシル)フェニルホスフェート、トリ(ノニルフェニル)ホスフェート、フェニルビスネオペンチルホスフェートなどのリン酸エステル、
1,3-フェニレン ビス(ジフェニルホスフェート)、1,4-フェニレン ビス(ジキシレニルホスフェート)、1,3-フェニレン ビス(3,5,5’-トリメチルヘキシルホスフェート)、ビスフェノールA ビス(ジフェニルホスフェート)、4,4’-ビフェニル ビス(ジキシレニルホスフェート)、1,3,5-フェニレン トリス(ジキシレニルホスフェート)などの縮合リン酸エステル、
トリメチルホスファイト、トリエチルホスファイト、トリフェニルホスファイト、トリクレジルホスファイトなどの亜リン酸エステル、
1,3-フェニレン ビス(ジフェニルホスファイト)、1,3-フェニレン ビス(ジキシレニルホスファイト)、1,4-フェニレン ビス(3,5,5’-トリメチルヘキシルホスファイト)、ビスフェノールA ビス(ジフェニルホスファイト)、4,4’-ビフェニル ビス(ジキシレニルホスファイト)、1,3,5-フェニレン トリス(ジキシレニルホスファイト)などの亜リン酸エステルが挙げられる。
【0040】
ニッケル化合物としては、例えば、塩化ニッケル(II)、臭化ニッケル(II)、ヨウ化ニッケル(II)等の二価のハロゲン化ニッケル、酢酸ニッケル(II)、炭酸ニッケル(II)などの無機ニッケル化合物、ニッケルビス(エチルアセトアセテート)、ニッケルビス(アセチルアセトナート)などの有機ニッケル化合物などが挙げられる。
【0041】
チタン化合物としては、例えば、二酸化チタン、窒化チタン、チタン酸ストロンチウム、チタン酸鉛、チタン酸バリウム、チタン酸カリウムなどの無機チタン化合物、テトラエトキシチタン、テトライソプロポキシチタン、テトラブチロキシチタン等のテトラアルコキシチタン;チタン酸テトラエチレングリコール、チタン酸ジ-n-ブチルビス(トリエタノールアミン)、ビス(アセチルアセトン)酸ジ-イソプロポキシチタン、オクタン酸イソプロポキシチタン、トリメタクリル酸イソプロピルチタン、トリアクリル酸イソプロピルチタン、イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリデシルベンゼンスルホニルチタネート、イソプロピルトリス(ブチルメチルピロホスフェート)チタネート、テトライソプロピルジ(ジラウリルホスファイト)チタネート、ジメタクリルオキシアセテートチタネート、ジアクリルオキシアセテートチタネート、ジ(ジオクチルホスフェート)エチレンチタネート、トリ(ジオクチルリン酸)イソプロポキシチタン、イソプロピルトリス(ジオクチルピロホスフェート)チタネート、テトライソプロピルビス(ジオクチルホスファイト)チタネート、テトラオクチルビス(ジトリデシルホスファイト)チタネート、テトラ(2,2-ジアリルオキシメチル-1-ブチル)ビス(ジ-トリデシル)ホスファイトチタネート、ビス(ジオクチルピロホスフェート)オキシアセテートチタネート、トリス(ジオクチルピロホスフェート)エチレンチタネート、イソプロピルトリ-n-ドデシルベンゼンスルホニルチタネート、イソプロピルトリオクタノイルチタネート、イソプロピルジメタクリロイルイソステアロイルチタネート、イソプロピルイソステアロイルジアクリルチタネート、イソプロピルトリ(ジオクチルホスフェート)チタネート、イソプロピルトリクミルフェニルチタネート、イソプロピルトリ(N-アミノエチル-アミノエチル)チタネートなどの有機チタン化合物などが挙げられる。
【0042】
コバルト化合物としては、例えば、コバルト無機酸塩、コバルトハロゲン化物、酸化コバルト、水酸化コバルト、ジコバルトオクタカルボニル、コバルト水素テトラカルボニル、テトラコバルトドデカカルボニル、アルキリジントリコバルトノナカルボニルなどの無機コバルト化合物、コバルトトリス(エチルアセトアセテート)、コバルトトリス(アセチルアセトナート)、コバルトの有機酸塩(例えば、酢酸塩、プロピオン酸塩、青酸塩、ナフテン酸塩、ステアリン酸塩;メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、オクタンスルホン酸塩、ドデカンスルホン酸塩などのアルキルスルホン酸塩(例えば、C6-18アルキルスルホン酸塩);ベンゼンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸塩、デシルベンゼンスルホン酸塩、ドデシルベンゼンスルホン酸塩などのアルキル基で置換されていてもよいアリールスルホン酸塩(例えば、C6-18アルキル-アリールスルホン酸塩))、有機コバルト錯体等が挙げられる。錯体を構成する配位子としては、OH(ヒドロキソ)、アルコキシ(メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシなど)、アシル(アセチル、プロピオニルなど)、アルコキシカルボニル(メトキシカルボニル、エトキシカルボニルなど)、アセチルアセトナート、シクロペンタジエニル基、ハロゲン原子(塩素、臭素など)、CO、CN、酸素原子、H2O(アコ)、ホスフィン(トリフェニルホスフィンなどのトリアリールホスフィンなど)のリン化合物、NH3(アンミン)、NO、NO2(ニトロ)、NO3(ニトラト)、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、ピリジン、フェナントロリンなどの窒素含有化合物などが挙げられる。
【0043】
キセノン化合物としては、例えば、XeF2、XeF4、XeF6、XeOF2,XeOF4,XeO2F4などのフッ化物、XeO3,XeO4などの酸化物,キセノン酸Xe(OH)6とその塩Ba3XeO6など,過キセノン酸H4XeO6とその塩Na4XeO6,金属カルボニルとの錯体M(CO)5Xe(M=Cr,Mo,W)、水和物などが挙げられる。
【0044】
クロム化合物としては、例えば、アセチルアセトンクロムなどのクロムアセチルアセトン錯体、クロム(III)イソプロポキシドなどのクロムアルコキシド、酢酸クロム(II)、二酢酸ヒドロキシクロム(III)などの有機酸クロム、トリス(アリル)クロム、トリス(メタリル)クロム、トリス(クロチル)クロム、ビス(シクロペンタジエニル)クロム(即ち、クロモセン)、ビス(ペンタメチルシクロペンタジエニル)クロム(即ち、デカメチルクロモセン)、ビス(ベンゼン)クロム、ビス(エチルベンゼン)クロム、ビス(メシチレン)クロム、ビス(ペンタジエニル)クロム、ビス(2,4-ジメチルペンタジエニル)クロム、ビス(アリル)トリカルボニルクロム、(シクロペンタジエニル)(ペンタジエニル)クロム、テトラ(1-ノルボルニル)クロム、(トリメチレンメタン)テトラカルボニルクロム、ビス(ブタジエン)ジカルボニルクロム、(ブタジエン)テトラカルボニルクロム、及びビス(シクロオクタテトラエン)クロムなどの有機クロム化合物が挙げられる。
【0045】
タングステン化合物としては、例えば、三酸化タングステン、タングステン酸アンモニウム、タングステン酸ナトリウムなどの無機タングステン化合物、エチルボリルエチリデン(ethylborylethylidene)配位子等のホウ素原子配位タングステン錯体;カルボニル配位子やシクロペンタジエニル配位子、アルキル基配位子、オレフィン系配位子等の炭素原子配位タングステン錯体;ピリジン配位子、アセトニトリル配位子等の窒素原子配位タングステン錯体;ホスフィン配位子、ホスファイト配位子等の配位したリン原子配位タングステン錯体;ジエチルカルバモジチオラト配位子等が配位した硫黄原子配位タングステン錯体などの有機タングステン化合物などが挙げられる。
【0046】
タリウム化合物としては、例えば、硝酸タリウム、硫酸タリウム、フッ化タリウム、塩化タリウム、臭化タリウム、ヨウ化タリウムなどの無機タリウム化合物、トリメチルタリウム、トリエチルタリウム、トリイソブチルタリウムなどのトリアルキルタリウム、ジアルキルタリウムハライド、アルケニルジアルキルタリウム、アルキニルジアルキルタリウム、トリフェニルタリウム、トリトリルタリウムなどのアリールタリウム、ジアリールタリウムハライド、2-エチルヘキサン酸タリウム、マロン酸タリウム、ギ酸タリウム、タリウムエトキシド、タリウムアセチルアセトナートなどの有機タリウム化合物が挙げられる。
【0047】
ジルコニウム化合物としては、例えば、硝酸ジルコニウム、硫酸ジルコニウム、炭酸ジルコニウム、水酸化ジルコニウム、フッ化ジルコニウム、塩化ジルコニウム、臭化ジルコニウム、ヨウ化ジルコニウムなどの無機ジルコニウム化合物、ジルコニウムn-プロポキシド、ジルコニウムn-ブトキシド、ジルコニウムt-ブトキシド、ジルコニウムイソプロポキシド、ジルコニウムエトキシド、ジルコニウムアセテート、ジルコニウムアセチルアセトナート、ジルコニウムブトキシアセチルアセトナート、ジルコニウムビスアセチルアセトナート、ジルコニウムエチルアセトアセテート、ジルコニウムアセチルアセトナートビスエチルアセトアセテート、ジルコニウムヘキサフルオロアセチルアセトナート、ジルコニウムトリフルオロアセチルアセトナートなどの有機ジルコニウム化合物などが挙げられる。
【0048】
亜鉛化合物としては、例えば、ジエチル亜鉛、ジメチル亜鉛、酢酸亜鉛、硝酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛、オレイン酸亜鉛、パルミチン酸亜鉛、ミリスチン酸亜鉛、ドデカン酸亜鉛、亜鉛アセチルアセトナート、塩化亜鉛、臭化亜鉛、ヨウ化亜鉛、カルバミン酸亜鉛等が挙げられる。
【0049】
銀化合物としては、例えば、酢酸銀、ピバル酸銀、トリフルオロメタンスルホン酸銀、安息香酸銀等の有機銀化合物;硝酸銀、フッ化銀、塩化銀、臭化銀、ヨウ化銀、硫酸銀、酸化銀、硫化銀、テトラフルオロホウ酸銀、ヘキサフルオロリン酸銀(AgPF6)、ヘキサフルオロアンチモン酸銀(AgSbF6)等の無機銀化合物等が挙げられる。
【0050】
アルミニウム化合物としては、例えば、酸化アルミニウムなどの無機アルミニウム化合物、トリメトキシアルミニウム、トリエトキシアルミニウム、イソプロポキシアルミニウム、イソプロポキシジエトキシアルミニウム、トリブトキシアルミニウム等のアルコキシ化合物;トリアセトキシアルミニウム、トリステアラートアルミニウム、トリブチラートアルミニウム等のアシロオキシ化合物;アルミニウムイソプロピレート、アルミニウムsec-ブチレート、アルミニウムtert-ブチレート、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、トリス(ヘキサフルオロアセチルアセトナート)アルミニウム、トリス(エチルアセトアセテート)アルミニウム、トリス(n-プロピルアセトアセテート)アルミニウム、トリス(iso-プロピルアセトアセテート)アルミニウム、トリス(n-ブチルアセトアセテート)アルミニウム、トリスサリチルアルデヒドアルミニウム、トリス(2-エトキシカルボニルフェノラート)アルミニウム、トリス(アセチルアセトナート)アルミニウム、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウムなどのトリアルキルアルミニウム、ジアルキルアルミニウムハライド、アルケニルジアルキルアルミニウム、アルキニルジアルキルアルミニウム、トリフェニルアルミニウム、トリトリルアルミニウムなどのアリールアルミニウム、ジアリールアルミニウムハライドなどの有機アルミニウム化合物などが挙げられる。
【0051】
バナジウム化合物としては、例えば、バナジン酸およびメタバナジン酸、ならびにこれらのアルカリ金属塩無機バナジウム化合物、トリエトキシバナジル、ペンタエトキシバナジウム、トリアミロキシバナジル、トリイソプロポキシバナジル等のアルコキシド;ビスアセチルアセトネートバナジル、バナジウムアセチルアセトネート、バナジルアセチルアセトネート、バナジウムオキシアセチルアセトネート等のアセトネート;ステアリン酸バナジウム、ピバリン酸バナジウム、酢酸バナジウム等の有機バナジウム化合物が挙げられる。
【0052】
ニオブ化合物としては、例えば、五塩化ニオブ、五フッ化ニオブなどのハロゲン化物、硫酸ニオブ、ニオブ酸、ニオブ酸塩などの無機ニオブ化合物、ニオブアルコキシドなどの有機ニオブ化合物などが挙げられる。
【0053】
タンタル化合物としては、例えば、TaCl5、TaF5などの無機タンタル化合物、Ta(OC2H5)5、Ta(OCH3)5、Ta(OC3H7)5 、Ta(OC4H9)5 、(C5H5)2TaH3、Ta(N(CH3)2)5などの有機タンタル化合物などが挙げられる。
【0054】
モリブデン化合物としては、例えば、三酸化モリブデン、モリブデン酸亜鉛、モリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸マグネシウム、モリブデン酸カルシウム、モリブデン酸バリウム、モリブデン酸ナトリウム、モリブデン酸カリウム、リンモリブデン酸、リンモリブデン酸アンモニウム、リンモリブデン酸ナトリウム、ケイモリブデン酸、二硫化モリブデン、二セレン化モリブデン、二テルル化モリブデン、ホウ化モリブデン、二ケイ化モリブデン、窒化モリブデン、炭化モリブデン等の無機モリブデン化合物、ジアルキルジチオリン酸モリブデン、ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデン等の有機モリブデン化合物が挙げられる。
【0055】
マンガン化合物としては、例えば、マンガンの水酸化物、硝酸塩、酢酸塩、硫酸塩、塩化物及び炭酸塩などの無機マンガン化合物、シュウ酸マンガン、アセチルアセトネート化合物、あるいはメトキシド、エトキシド、ブトキシド等のマンガンアルコキシドを含む有機マンガン化合物が挙げられる。
【0056】
鉄化合物としては、例えば、フッ化鉄(II)、フッ化鉄(III)、塩化鉄(II)、塩化鉄(III)、臭化鉄(II)、臭化鉄(III)、ヨウ化鉄(II)、 ヨウ化鉄(III)、酸化鉄(II)、酸化鉄(III)、四酸化三鉄(II、III)、硫酸鉄(II)、硫酸鉄(III)、硝酸鉄(II)、硝酸鉄(III)、水酸化鉄(II)、水酸化鉄(III)、過塩素酸鉄(II)、過塩素酸鉄(III)、硫酸アンモニウム鉄(II)、硫酸アンモニウム鉄(III)、酸化タングステン酸鉄(III)、四バナジン酸鉄(III)、セレン化鉄(II)、三酸化チタン鉄(II)、五酸化チタン二鉄(III)、硫化鉄(II)、硫化鉄(III)、りん化二鉄(II)、りん化三鉄(II)、りん化鉄(III)などの無機鉄化合物;酢酸鉄(II)、酢酸鉄(III)、ぎ酸鉄(II)、三ぎ酸鉄(III)、酒石酸鉄(II) 、酒石酸鉄(III)ナトリウム、乳酸鉄(II)、シュウ酸鉄(II)、シュウ酸鉄(III)、クエン酸アンモニウム鉄(III)、ラウリン酸鉄(III)、ステアリン酸鉄(III)、三パルミチン酸鉄(III)、ヘキサシアノ鉄(II)酸カリウム、ヘキサシアノ鉄(III)酸カリウム、ビス(2,4-ペンタンジオナト)ジアクア鉄(II)、トリス(2,4-ペンタンジオナト)鉄(III)、トリス(オキサラト)鉄(III)酸カリウム、トリス(トリフルオロメタンスルホン酸)鉄(III)、p-トルエンスルホン酸鉄(III)、ジメチルジチオカルバミン酸鉄(III)、ジエチルジチオカルバミン酸鉄(III)、フェロセン等の有機鉄化合物が挙げられる。
【0057】
銅化合物としては、例えば、シュウ酸銅、ステアリン酸銅、ギ酸銅、酒石酸銅、オレイン酸銅、酢酸銅、グルコン酸銅、サリチル酸銅などの有機銅化合物、炭酸銅、塩化銅、臭化銅、ヨウ化銅、リン酸銅、ハイドロタルサイト、スチヒタイト、パイロライト等の天然鉱物などの無機銅化合物が挙げられる。
【0058】
カドミウム化合物としては、例えば、フッ化カドミウム、塩化カドミウム、臭化カドミウム、ヨウ化カドミウム、酸化カドミウム、炭酸カドミウムなどの無機カドミウム化合物、フタル酸カドミウム、ナフタル酸カドミウムなどの有機カドミウム化合物が挙げられる。
【0059】
水銀化合物としては、例えば、塩化第二水銀、硫酸水銀、硝酸第二水銀などの無機水銀化合物、メチル水銀、塩化メチル水銀、エチル水銀、塩化エチル水銀、酢酸フェニル水銀、チメロサール、パラクロロ安息香酸水銀、フルオレセイン酢酸水銀などの有機水銀化合物が挙げられる。
【0060】
ガリウム化合物としては、例えば、テトラフェニルガリウム、テトラキス(3,4,5-トリフルオロフェニル)ガリウム等の有機ガリウム化合物、オキソ酸ガリウム、ハロゲン化ガリウム、水酸化ガリウム、シアン化ガリウムなどの無機ガリウム化合物が挙げられる。
【0061】
インジウム化合物としては、例えば、トリエトキシインジウム、2-エチルヘキサン酸インジウム、インジウムアセチルアセトナートなどの有機インジウム化合物、シアン化インジウム、硝酸インジウム、硫酸インジウム、炭酸インジウム、フッ化インジウム、塩化インジウム、臭化インジウム、ヨウ化インジウムなどの無機インジウム化合物が挙げられる。
【0062】
ヒ素化合物としては、例えば、三酸化二ヒ素、五酸化二ヒ素、三塩化ヒ素、五塩化ヒ素、亜ヒ酸、ヒ酸、及びそれらの塩として、亜ヒ酸ナトリウム、亜ヒ酸アンモニウム、亜ヒ酸カリウム、ヒ酸アンモニウム、ヒ酸カリウムなどの無機ヒ素化合物、カコジル酸、フェニルアルソン酸、ジフェニルアルソン酸、p-ヒドロキシフェニルアルソン酸、p-アミノフェニルアルソン酸、及びそれらの塩として、カコジル酸ナトリウム、カコジル酸カリウム等の有機ヒ素化合物が挙げられる。
【0063】
アンチモン化合物としては、例えば、酸化アンチモン、燐酸アンチモン、KSb(OH)、NH4SbF6などの無機アンチモン化合物、有機酸とのアンチモンエステル、環状アルキル亜アンチモン酸エステル、トリフェニルアンチモンなどの有機アンチモン化合物が挙げられる。
【0064】
ビスマス化合物としては、例えば、トリフェニルビスマス、2-エチルヘキサン酸ビスマス、ビスマスアセチルアセトナートなどの有機ビスマス化合物、硝酸ビスマス、硫酸ビスマス、酢酸ビスマス、水酸化ビスマス、フッ化ビスマス、塩化ビスマス、臭化ビスマス、ヨウ化ビスマスなどの無機ビスマス化合物が挙げられる。
【0065】
セレン化合物としては、例えば、セレノメチオニン、セレノシステイン、セレノシスチン等の有機セレン化合物、セレン酸カリウム等のアルカリ金属セレン酸塩、亜セレン酸ナトリウム等のアルカリ金属亜セレン酸塩を含む無機セレン化合物が挙げられる。
【0066】
テルル化合物としては、例えば、テルル酸及びその塩、酸化テルル、塩化テルル、臭化テルル、ヨウ化テルル及びテルルアルコキシドが挙げられる。
【0067】
マグネシウム化合物としては、例えばエチルアセトアセテートマグネシウムモノイソプロピレート、マグネシウムビス(エチルアセトアセテート)、アルキルアセトアセテートマグネシウムモノイソプロピレート、マグネシウムビス(アセチルアセトナート)などの有機マグネシウム化合物、酸化マグネシウム、硫酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、塩化マグネシウムなどの無機マグネシウム化合物が挙げられる。
【0068】
カルシウム化合物としては、例えば、2-エチルヘキサン酸カルシウム、カルシウムエトキシド、カルシウムメトキシド、カルシウムメトキシエトキシド、カルシウムアセチルアセトナートなどの有機カルシウム化合物、硝酸カルシウム、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、燐酸カルシウム、水酸化カルシウム、シアン化カルシウム、フッ化カルシウム、塩化カルシウム、臭化カルシウム、ヨウ化カルシウムなどの無機カルシウム化合物が挙げられる。
【0069】
ナノダイヤモンドにドープされる元素がLi、Na、K、Cs、S、Sr、Ba、F、Y、ランタノイドの化合物は、公知の有機又は無機の化合物が使用できる。
【0070】
爆薬と第14族元素化合物、必要に応じてさらに第3元素化合物を含む組成物中の爆薬の割合は、好ましくは80~99.9999質量%、より好ましくは85~99.999質量%、さらに好ましくは90~99.99質量%、特に好ましくは95~99.9質量%であり、第14族元素化合物の割合は、好ましくは0.0001~20質量%、より好ましくは0.001~15質量%であり、さらに好ましくは0.01~10質量%であり、特に好ましくは0.1~5質量%であり、第3元素化合物の割合は、好ましくは0~20質量%、より好ましくは0.001~15質量%であり、さらに好ましくは0.01~10質量%であり、特に好ましくは0.02~8質量%である。また、爆薬と第14族元素化合物と必要に応じてさらに第3元素を含む混合物中の第14族元素含量は、好ましくは0.000005~10質量%、より好ましくは0.00001~8質量%、さらに好ましくは0.0001~5質量%、特に好ましくは0.001~3質量%、最も好ましくは0.01~1質量%であり、第3元素含量は、好ましくは0~10質量%、より好ましくは0.00001~8質量%、さらに好ましくは0.00002~5質量%、特に好ましくは0.00003~3質量%、最も好ましくは0.00004~2質量%である。
【0071】
本発明の製造方法により得られる好ましいドープナノダイヤモンドは、第14族元素1モルに対し、第3元素を好ましくは0.001~100モル、より好ましくは0.002~10モル、さらに好ましくは0.003~5モル含む。
【0072】
爆薬と第14族元素化合物、必要に応じてさらに第3元素化合物の混合は、これらが固体の場合には粉体混合してもよく、溶融してもよく、適当な溶媒に溶解ないし分散させて混合してもよい。混合は、撹拌、ビーズミリング、超音波などにより行うことができる。
【0073】
好ましい1つの実施形態において、爆薬と第14族元素化合物、必要に応じてさらに第3元素化合物を含む爆薬組成物は、さらに冷却媒体を含む。冷却媒体は、固体、液体、気体のいずれであってもよい。冷却媒体を使用する方法として、爆薬と第14族元素化合物、必要に応じてさらに第3元素化合物の混合物を冷却媒体中で起爆する方法が挙げられる。冷却媒体としては、不活性ガス(窒素、アルゴン、CO)、水、氷、液体窒素、第14族元素含有塩の水溶液、結晶水和物、第3元素含有塩の水溶液、結晶水和物などが挙げられる。第14族元素含有塩としては、ヘキサフルオロケイ酸アンモニウム、ケイ酸アンモニウム、ケイ酸テトラメチルアンモニウムなどが挙げられる。冷却媒体は、例えば水や氷の場合、爆薬重量に対して5倍程度使用することが好ましい。
【0074】
本発明の1つの好ましい実施形態において、爆薬と第14族元素化合物、必要に応じてさらに第3元素化合物を含む爆薬組成物は、爆薬の爆発によって生成された高圧高温条件下での衝撃波による圧縮によってダイヤモンドに変換される(爆轟法)。爆薬の爆発の際に、ダイヤモンド格子に少なくとも1種の第14族元素原子、必要に応じてさらに少なくとも1種の第3元素が組み込まれる。ナノダイヤモンドの炭素源は、爆薬と有機第14族元素化合物、必要に応じてさらに第3元素化合物であり得るが、爆薬と第14族元素化合物、必要に応じてさらに第3元素化合物を含む混合物が第14族元素及び第3元素を含まない炭素材料をさらに含む場合、この炭素材料もナノダイヤモンドの炭素源となり得る。
【0075】
本発明の製造方法及び精製方法において、第14族元素の単体及び/又は酸化物、必要に応じてさらに第3元素の単体及び/又は酸化物を含む第14族元素、必要に応じてさらに第3元素がドープされたナノダイヤモンド組成物の精製は、アルカリ処理工程を含み、アルカリ処理と混酸処理を組み合わせて行ってもよい。好ましい精製工程はアルカリ処理と混酸処理を組み合わせ(順序は問わない)である。
【0076】
混酸は、濃硫酸と濃硝酸の混酸を挙げることができ、好ましくは濃硫酸:濃硝酸=1:1(体積比)の混酸を挙げることができる。混酸処理の温度は50~200℃であり、混酸処理の時間は0.5~24時間である。
【0077】
アルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物を挙げることができる。アルカリ金属水酸化物としては、0.1~10Nのアルカリ金属水酸化物水溶液が挙げられる。アルカリ処理の温度は30~150℃であり、アルカリ処理の時間は0.5~24時間である。
【0078】
爆薬と第14族元素化合物、必要に応じてさらに第3元素を含む爆薬組成物を容器内で爆発させると、ドープナノダイヤモンドの他に、グラファイト、金属不純物、第14族元素単体(Si単体、Ge単体、Sn単体、Pb単体)、第14族元素酸化物(SiO2、GeO2、SnO2、PbO2)、第3元素単体、第3元素酸化物などが生成する。グラファイトと金属不純物、第3元素単体、第3元素酸化物は混酸処理で除去することができ、第14族元素単体と第14族元素酸化物はアルカリ処理で除去することができる。
【0079】
本発明の製造方法もしくは精製方法で得られる第14族元素、必要に応じてさらに第3元素をドープした一つの好ましい実施形態のナノダイヤモンドは、720~770 nmの範囲内に蛍光発光ピークを有し、以下の(i)及び/又は(ii):
(i) BET比表面積が20~900 m2/gである、
(ii) 一次粒子の平均サイズが2~70 nmである、
の要件を満たす。
【0080】
本発明の好ましい1つの実施形態の製造方法もしくは精製方法で得られるドープナノダイヤモンドは、第14族元素V(vacancy)センター、必要に応じてさらに第3元素Vセンターを含み、それにより蛍光発光ピークを有する。第14族元素がSiの場合、蛍光発光ピークの波長は、第14族元素がケイ素を含む場合、好ましくは720~770 nm、より好ましくは730~760 nmであり、第14族元素がゲルマニウムを含む場合、好ましくは580~630 nm、より好ましくは590~620 nmであり、第14族元素がスズを含む場合、好ましくは590~650 nm、より好ましくは600~640 nmであり、第14族元素が鉛を含む場合、好ましくは540~600 nm、より好ましくは550~590 nmである。本発明のより好ましい1つの実施形態において、第14族元素がSiのナノダイヤモンドの蛍光発光ピークは、ZPL(Zero Phonon Level)と言われる約738nmの鋭いピークを含む。
【0081】
本発明の製造方法もしくは精製方法で得られる第14族元素、必要に応じてさらに第3元素ドープナノダイヤモンドにおける第14族元素Vセンターの濃度は、好ましくは1×1010/cm3以上であり、より好ましくは2×1010~1×1019/cm3であり、第3元素Vセンターの濃度は、好ましくは1×1010/cm3以上であり、より好ましくは2×1010~1×1019/cm3以上である。第14族元素Vセンター、第3元素Vセンターの濃度は、例えば共焦点レーザー顕微鏡、または蛍光吸光分光装置を利用することで特定できると推定される。なお、蛍光吸光分析によるMVセンター(Mは第14族元素又は第3元素)の濃度の決定は、文献(DOI 10.1002/pssa.201532174)を参照できる。
【0082】
本発明の製造方法もしくは精製方法で得られる第14族元素、必要に応じてさらに第3元素ドープナノダイヤモンドのBET比表面積は、好ましくは20~900 m2/g、より好ましくは25~800 m2/g、さらに好ましくは30~700 m2/g、特に好ましくは35~600 m2/gである。BET比表面積は、窒素吸着により測定することができる。BET比表面積の測定装置は、例えばBELSORP-miniII(マイクロトラック・ベル株式会社製)を挙げることができ、BET比表面積は、例えば以下の条件で測定することができる。
・測定粉末量:40mg
・予備乾燥:120℃、真空で3時間処理
・測定温度:-196℃(液体窒素温度)
本発明の製造方法もしくは精製方法で得られるドープナノダイヤモンドの一次粒子の平均サイズは、好ましくは2~70 nm、より好ましくは2.5~60 nm、さらに好ましくは3~55 nm、特に好ましくは3.5~50 nmである。一次粒子の平均サイズは、粉末X線回折法(XRD) の分析結果から、シェラーの式により求めることができる。XRDの測定装置は、例えば全自動多目的X線回折装置(株式会社リガク製)を挙げることができる。
【0083】
本発明の製造方法もしくは精製方法で得られるドープナノダイヤモンドの炭素含有量は、好ましくは70~99質量%、より好ましくは75~98質量%、さらに好ましくは80~97質量%である。
【0084】
本発明の製造方法もしくは精製方法で得られるドープナノダイヤモンドの水素含有量は、好ましくは0.1~5質量%、より好ましくは0.2~4.5質量%、さらに好ましくは0.3~4.0質量%である。
【0085】
本発明の製造方法もしくは精製方法で得られるドープナノダイヤモンドの窒素含有量は、好ましくは0.1~5質量%、より好ましくは0.2~4.5質量%、さらに好ましくは0.3~4.0質量%である。
【0086】
本発明の製造方法もしくは精製方法で得られるドープナノダイヤモンドの炭素、水素、窒素の含有量は、元素分析により測定することができる。
【0087】
本発明の製造方法もしくは精製方法で得られるドープナノダイヤモンドの第14族元素含有量は、好ましくは0.0001~10.0質量%、より好ましくは0.0001~5.0質量%、さらに好ましくは0.0001~1.0質量%であり、第3元素含有量は、好ましくは0.0001~10.0質量%、より好ましくは0.0001~5.0質量%、さらに好ましくは0.0001~1.0質量%である。第14族元素含有量、第3元素含有量は、例えば誘導結合プラズマ発光分析法(ICP-AES、XRF、SIMS(二次イオン質量分析)により測定することができ、ドープナノダイヤモンドはアルカリ融解後、酸性溶液として定量することができる。
【0088】
本発明の好ましい1つの実施形態の製造方法もしくは精製方法で得られるドープナノダイヤモンドは、ラマン分光法により、ラマンシフトのチャートにおいてダイヤモンド、グラファイト、表面ヒドロキシ基(OH)、表面カルボニル基(CO)に特徴的なピークを特定できる。ラマンシフトチャートにおけるダイヤモンドに特徴的なピークは1100~1400 cm-1であり、グラファイトに特徴的なピークは1450~1700cm-1であり、表面ヒドロキシ基(OH) に特徴的なピークは1500~1750cm-1であり、表面カルボニル基(CO) に特徴的なピークは1650~1800cm-1である。ダイヤモンド、グラファイト、表面ヒドロキシ基(OH)、表面カルボニル基(CO)に特徴的なピークの面積は、ラマン分光装置により示される。ラマン光源のレーザー波長は、例えば325nm又は488nmである。ラマン分光装置としては、共焦点顕微ラマン分光装置(例えば、商品名:顕微レーザーラマン分光光度計 LabRAM HR Evolution、堀場製作所株式会社製)を使用することができる。
【0089】
本発明の製造方法もしくは精製方法で得られる好ましい1つの実施形態のドープナノダイヤモンドにおいて、ダイヤモンドのピーク面積(D)とグラファイトのピーク面積(G)の比(D/G)は、好ましくは0.2~9、より好ましくは0.3~8、さらに好ましくは0.5~7である。
【0090】
本発明の製造方法もしくは精製方法で得られる好ましい1つの実施形態のドープナノダイヤモンドにおいて、表面ヒドロキシ基(OH)のピーク面積(H)とダイヤモンドのピーク面積(D)の比(H/D)は、好ましくは0.1~5、より好ましくは0.1~4.0、さらに好ましくは0.1~3.0である。
【0091】
本発明の製造方法もしくは精製方法で得られる好ましい1つの実施形態のドープナノダイヤモンドにおいて、表面カルボニル基(CO)のピーク面積(C)とダイヤモンドのピーク面積(D)の比(C/D)は、好ましくは0.01~1.5、より好ましくは0.03~1.2、さらに好ましくは0.05~1.0である。
【0092】
ナノダイヤモンドのラマン分析手法として、文献(例えば、Vadym N. Mochalin et al., NATURE NANOTECHNOLOGY, 7(2012)11-23、特にFigure 3)を参照することができる。
【0093】
本発明の他の1つの好ましい実施形態において、本発明の製造方法もしくは精製方法で得られるドープナノダイヤモンドの表面に少なくとも1種の酸素官能基終端及び/又は少なくとも1種の水素終端を有していてもよい。酸素官能基末端としては、OH、COOH、CONH2、C=O、CHOなどが挙げられ、OH、C=O、COOHが好ましい。水素終端としては、炭素数1~20のアルキル基が挙げられる。
【0094】
ドープナノダイヤモンドの表面に少なくとも1種の酸素官能基終端が存在することで、ナノダイヤモンド粒子の凝集が抑制されるので好ましい。ドープナノダイヤモンドの表面に少なくとも1種の水素終端が存在することで、ゼータ電位がプラスになり、酸性水溶液中で安定的かつ高分散するので好ましい。
【0095】
本発明の他の1つの好ましい実施形態において、本発明の製造方法もしくは精製方法で得られるドープナノダイヤモンドはコアシェル構造を有していてもよい。コアシェル構造のドープナノダイヤモンドのコアは第14族元素原子、必要に応じてさらに第3元素がドープされたナノダイヤモンド粒子である。このコアは、第14族元素Vセンター、必要に応じてさらに第3元素Vセンターを有し、蛍光を発するものであることが好ましい。シェルは非ダイヤモンド被覆層であり、sp2炭素を含んでいてもよく、さらに酸素原子を含有することが好ましい。シェルはグラファイト層であってもよい。シェルの厚さは、好ましくは5nm以下、より好ましくは3nm以下、さらに好ましくは1nm以下である。シェルは表面に親水性官能基を有していてもよい。
【0096】
ドープナノダイヤモンドは、好ましくは爆轟法で製造することができる。ドープナノダイヤモンドの形状は、好ましくは球状、楕円体状或いはそれらに近い多面体状である。
【0097】
円形度とは、画像などに描画されている図形の複雑さを表すための数値のことである。円形度は、最大値を1として、図形が複雑であればあるほど数値が小さくなっていく。円形度は、例えばドープナノダイヤモンドのTEM画像を画像解析ソフト(例えば、winROOF)で解析し、下記式により求めることができる。
円形度=4π×(面積)÷(周囲長)^2
例えば、半径10の真円の場合、「4π×(10×10×π)÷(10×2×π)^2」の計算式になり、円形度は1(最大値)という結果になる。つまり、円形度において真円は、最も複雑ではない図形ということになる。ドープナノダイヤモンドの円形度は、好ましくは0.2以上、より好ましくは0.3以上、さらに好ましくは0.35以上である。
【0098】
本発明の好ましい1つの実施形態において、ドープナノダイヤモンド粒子の中心は、sp3炭素とドープされた第14族元素、必要に応じてさらに第3元素を含むダイヤモンド構造を有し、その表面は、sp2炭素で構成されるアモルファス層で覆われている。さらに好ましい実施形態において、アモルファス層の外側は酸化グラファイト層で覆われていてもよい。また、アモルファス層と酸化グラファイト層の間には水和層が形成されていてもよい。
【0099】
本発明の好ましい1つの実施形態において、本発明の製造方法もしくは精製方法で得られるドープナノダイヤモンドは、プラス又はマイナスのゼータ電位を有する。ドープナノダイヤモンドのゼータ電位は、好ましくは-70~70mV、より好ましくは-60~30mVである。
【0100】
ドープナノダイヤモンドは、爆薬と第14族元素化合物、必要に応じてさらに第3元素化合物を含む爆薬組成物を混合する工程、得られた混合物を密閉容器内で爆発させる工程を含む製造方法により製造され得る。容器としては、金属製容器、合成樹脂製容器が挙げられる。爆薬と第14族元素化合物、必要に応じてさらに第3元素化合物を含む爆薬組成物は、圧搾法(pressing)、注填法(casting)によって成形することが好ましい。爆薬、第14族元素化合物、第3元素化合物の各々の粒子(乾燥粉体)を作るための方法として、晶析法、破砕法、スプレーフラッシュ法(spray flash evaporation)が挙げられる。爆薬組成物を圧搾法もしくは注填法により成形する場合、爆薬と第14族元素化合物、必要に応じてさらに第3元素化合物を乾燥粉もしくは溶融状態もしくは溶媒を用いて混合する。爆薬と第14族元素化合物の混合時の状態は、以下の4つのいずれの組み合わせであってもよい:
・爆薬(乾燥粉)と第14族元素化合物(乾燥粉)
・爆薬(乾燥粉)と第14族元素化合物(溶融状態)
・爆薬(溶融状態)と第14族元素化合物(乾燥粉)
・爆薬(溶融状態)と第14族元素化合物(溶融状態)
さらに第3元素化合物を混合して爆薬組成物を成形する場合、第3元素化合物は乾燥粉であっても溶融状態であってもよいので、爆薬と第14族元素化合物と第3元素化合物の混合時の乾燥粉と溶融状態の組み合わせは、8通りが存在する。
【0101】
爆薬と第14族元素化合物、必要に応じてさらに第3元素化合物の混合は、溶媒の存在下或いは非存在下のいずれであってもよく、混合後に圧搾法もしくは注填法により成形することができる。
【0102】
爆薬、第14族元素化合物、第3元素化合物の平均粒子径は、好ましくは10mm以下、より好ましくは5mm以下、さらに好ましくは1mm以下である。なお、これらの平均粒子径は、レーザ回折・散乱法、光学顕微鏡、ラマン法により測定することができる。
【0103】
爆発により得られた生成物は、さらにアルカリ処理、必要に応じてさらに混酸処理を含む精製工程、ポスト処理工程に供することができる。
【0104】
ポスト処理工程は、アニーリング、気相酸化を含むことができる。アニーリング処理により、ドープナノダイヤモンド中のドープされた第14族元素、必要に応じて第3元素と欠陥(Vacancy)が出会い、第14族元素Vセンター、必要に応じて第3元素Vセンターを形成することができる。また、気相酸化によりドープナノダイヤモンドの表面に形成されたグラファイト層を薄くするか、或いは除去することができる。任意の工程であるが、アニーリングの前に空孔形成工程を行ってもよい。空孔形成工程は、イオンビーム又は電子ビームの照射により行う。空孔形成工程を行わなくてもアニーリングにより第14族元素Vセンター、必要に応じてさらに第3元素Vセンターは形成されるが、空孔形成工程の後のアニーリングを行うことでより多くの第14族元素Vセンター、必要に応じてさらに第3元素Vセンターが形成され得る。イオンビーム照射又は電子ビーム照射により導入する空孔密度は、上限はダイヤモンドが破壊されてしまう濃度(>1×1021/cm3の空孔濃度)により限定されるが、下限に関しては例えば1×1016/cm3以上、さらに1×1018/cm3以上である。イオンビームは、好ましくは水素(H)又はヘリウム(He)のイオンビームである。例えば、水素のイオンビームのエネルギーは、好ましくは10~1500 keVであり、ヘリウムのイオンビームのエネルギーは、好ましくは20~2000 keVである。電子線のエネルギーは、好ましくは500~5000 keVである。
【0105】
アニーリングの温度は、好ましくは800℃以上であり、アニーリング時間は30分以上である。
【0106】
気相酸化は、大気雰囲気下で行うことができ、気相酸化温度は、好ましくは300℃以上であり、気相酸化時間は2時間以上である。
【実施例】
【0107】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
実施例1~6
爆薬としてTNTを用い、第14族元素化合物として表1に示すドーパントをTNT1モルに対し表1に示すモル数で用い、表1に示す温度(K)及び圧力(GPa)の条件で、常法に従い爆ごう法によるケイ素ドープナノダイヤモンドの製造を行うと、表1に示す割合でケイ素がドープされたナノダイヤモンドを得ることができる。
ケイ素をドープさせるために用いたドーパント分子(ケイ素化合物)1~6の名称と構造式を以下に示す。
ドーパント分子1:シリン(silline)
ドーパント分子2:テトラメチルシラン(SiMe4)
ドーパント分子3:テトラキス(ニトレートメチル)シラン(SiPETN)
ドーパント分子4:テトラキス(ジメチルシラノリル)シラン(Si(SiMe2OH)4)
ドーパント分子5:テトラキス(トリメチルシリル)シラン(Si(SiMe3)4)
ドーパント分子6:テトラキス(トリメチルシリル)メタン(C(SiMe3)4)
【0108】
【0109】
【0110】
表1から明らかなように、本発明によればケイ素原子を多量に導入したナノダイヤモンドが得られることが明らかである。
【0111】
実施例7
トリニトロトルエン(TNT)とシクロトリメチレントリニトラミン(RDX)を含む爆薬100質量部に、ケイ素化合物としてトリフェニルシラノールを各々10質量部、1質量部又は0.1質量部添加した爆薬組成物約60gを使用し、ナノダイヤモンド製造の常法に従い、ケイ素ドープナノダイヤモンドを製造した。得られたケイ素ドープナノダイヤモンドについて、以下の処理を行った。なお、爆薬中のトリフェニルシラノールの添加量は、10質量%、1質量%又は0.1質量%であった。
(i)混酸処理
濃硫酸:濃硝酸=11:1(重量比)の混酸2800gに爆轟試験で得たナノダイヤモンド15gを加え、撹拌しながら150℃で10時間処理した。
(ii)アルカリ処理
8Nの水酸化ナトリウム水溶液100mLに混酸処理したナノダイヤモンド1gを加え、撹拌しながら100℃で10時間処理した。
(iii)アニーリング
アルカリ処理後のナノダイヤモンドを真空雰囲気下、800℃で30分間アニーリングした。
(iv)気相酸化
アニーリングしたナノダイヤモンドを大気雰囲気下、300℃、2時間気相酸化処理することで、本発明のケイ素ドープナノダイヤモンドを得た。
(v)蛍光分析
気相酸化で得られた本発明のケイ素ドープナノダイヤモンドの10w/v%の水懸濁液をガラス基板上に滴下し、乾燥させて評価サンプルを作製した。得られた評価サンプルを顕微ラマン分光装置(商品名:顕微レーザーラマン分光光度計LabRAM HR Evolution、堀場製作所株式会社製)を用いて高速マッピングを行い、738nm輝点イメージングを行った。ケイ素化合物としてトリフェニルシラノールを用い、添加量が外割で1質量%で得られたケイ素ドープナノダイヤモンドの738nm輝点イメージング像を
図1(a)に示す。
図1(a)の輝点の蛍光スペクトルを
図1(b)に示す。SiVセンターのゼロフォノンライン(蛍光ピーク)が確認できる。得られたケイ素ドープナノダイヤモンドのSi含有量は、爆薬中のトリフェニルシラノールの添加量が10質量%のときに3.2質量%、1質量%のときに0.15質量%、0.1質量%のときに0.03質量%であった。
図1(b)より、本発明のケイ素ドープナノダイヤモンドがSVセンターに由来する738nmの蛍光を有することが確認された。さらに、得られたケイ素ドープナノダイヤモンドのXRDにより測定した一次粒子の平均サイズ、BET比表面積を以下の表2に示す。
【0112】
【0113】
・BET比表面積の測定
装置:BELSORP-miniII(マイクロトラック・ベル株式会社製)
測定粉末量:40mg
予備乾燥:120℃、真空で3時間処理
測定温度:-196℃(液体窒素温度)
・一次粒子の平均サイズの測定(粉末X線回折法(XRD))
装置:全自動多目的X線回折装置(株式会社リガク製)
・Si導入量の測定法(XRF)
装置:蛍光X線分析装置ZSX Primus IV 株式会社リガク製
アルカリ処理前後のXRF測定結果を表3に示し、アルカリ処理前後のXRD測定結果を
図2に示す。
【0114】
【0115】
表3において、XRFにより測定されたアルカリ処理後のSiの量が、アルカリ処理前と比べると、大きく減少したことから、アルカリ処理はSi除去に有効である。
【0116】
図2において、
・23°付近に非結晶質の化合物に由来するブロードなピークがある。
・XRF測定結果から、ダイヤモンド以外ではSiの量が最も多いので、このピークはSi化合物に由来すると考えられる。
・アルカリ処理後のグラフでは23°付近のブロードなピークがなくなったので、アルカリ処理によりSi化合物が除去できたと考えられる。
【0117】
実施例8
実施例7のトリフェニルシラノール1質量部に代えてトリフェニルシラノール0.5質量部とフェニルボロン酸0.5質量部を使用した以外は実施例7と同様にして、ケイ素とホウ素がドープされたナノダイヤモンドが得られる。
【0118】
実施例9
実施例7のトリフェニルシラノール1質量部に代えてトリフェニルシラノール0.5質量部とトリフェニルホスフィン0.5質量部を使用した以外は実施例7と同様にして、ケイ素とリンがドープされたナノダイヤモンドが得られる。