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特許7526175Bcl-2阻害剤のシクロデキストリンに基づく製剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-23
(45)【発行日】2024-07-31
(54)【発明の名称】Bcl-2阻害剤のシクロデキストリンに基づく製剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/5377 20060101AFI20240724BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20240724BHJP
   A61K 9/19 20060101ALI20240724BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20240724BHJP
   A61K 47/40 20060101ALI20240724BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240724BHJP
【FI】
A61K31/5377
A61K9/08
A61K9/19
A61K47/26
A61K47/40
A61P35/00
【請求項の数】 41
(21)【出願番号】P 2021523227
(86)(22)【出願日】2019-10-30
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-17
(86)【国際出願番号】 EP2019079644
(87)【国際公開番号】W WO2020089286
(87)【国際公開日】2020-05-07
【審査請求日】2022-10-07
(31)【優先権主張番号】62/753,164
(32)【優先日】2018-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500287019
【氏名又は名称】レ ラボラトワール セルヴィエ
【氏名又は名称原語表記】Les Laboratoires Servier
(73)【特許権者】
【識別番号】504389991
【氏名又は名称】ノバルティス アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】シュマン,カロリーヌ
(72)【発明者】
【氏名】トラン・トゥ,トゥイ
(72)【発明者】
【氏名】ペアン,ジャン-マニュエル
(72)【発明者】
【氏名】シャンリオン,マイア
【審査官】新留 素子
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-028018(JP,A)
【文献】国際公開第2018/015526(WO,A1)
【文献】ファルマシア,2006年,Vol.42, No.10,pp.1005-1010
【文献】薬学雑誌,2012年,Vol.132, No.1,pp.85-105
【文献】Cyclodextrins as bioavailability enhancers,Cyclodextrins in Pharmaceutics, Cosmetics, and Biomedicine: Current and Future Industrial Applications,2011年,pp.45-64
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
5-(5-クロロ-2-{[(3S)-3-(モルホリン-4-イルメチル)-3,4-ジヒドロイソキノリン-2(1H)-イル]カルボニル}フェニル)-N-(5-シアノ-1,2-ジメチル-1H-ピロール-3-イル)-N-(4-ヒドロキシフェニル)-1,2-ジメチル-1H-ピロール-3-カルボキサミドである化合物Aの塩酸塩又は硫酸水素塩、及びヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン(HP-β-シクロデキストリン)含む固体医薬組成物。
【請求項2】
HP-β-シクロデキストリンと化合物Aとのモル比が、5以上:1である、請求項に記載の固体医薬組成物。
【請求項3】
HP-β-シクロデキストリンと化合物Aとのモル比が、5:1である、請求項に記載の固体医薬組成物。
【請求項4】
HP-β-シクロデキストリンが、Cavitron(商標)W7HP5である、請求項のいずれか一項に記載の固体医薬組成物。
【請求項5】
HP-β-シクロデキストリンが、Kleptose(商標)HPBである、請求項のいずれか一項に記載の固体医薬組成物。
【請求項6】
1種以上の薬学的に許容し得る賦形剤を更に含む、請求項1~のいずれか一項に記載の固体医薬組成物。
【請求項7】
グルコース、マンニトール、スクロース、トレハロース及びソルビトールから選択される少なくとも1種の薬学的に許容し得る賦形剤を含む、請求項1~のいずれか一項に記載の固体医薬組成物。
【請求項8】
凍結乾燥物である、請求項1~のいずれか一項に記載の固体医薬組成物。
【請求項9】
5-(5-クロロ-2-{[(3S)-3-(モルホリン-4-イルメチル)-3,4-ジヒドロイソキノリン-2(1H)-イル]カルボニル}フェニル)-N-(5-シアノ-1,2-ジメチル-1H-ピロール-3-イル)-N-(4-ヒドロキシフェニル)-1,2-ジメチル-1H-ピロール-3-カルボキサミドである化合物Aの塩酸塩又は硫酸水素塩
ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン(HP-β-シクロデキストリン)、
及び
1種以上の溶媒
を含む医薬組成物。
【請求項10】
溶媒が、水性緩衝液又は水である、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項11】
溶媒が、水である、請求項9に記載の医薬組成物。
【請求項12】
2.5~4.3の間に含まれるpH値を有する、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項13】
2.5~3.5の間に含まれるpH値を有する、請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項14】
HP-β-シクロデキストリンが、Cavitron(商標)W7HP5又はKleptose(商標)HPBである、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項15】
HP-β-シクロデキストリンと化合物Aとのモル比が、5以上:1である、請求項14に記載の医薬組成物。
【請求項16】
HP-β-シクロデキストリンと化合物Aとのモル比が、5:1である、請求項15に記載の医薬組成物。
【請求項17】
HP-β-シクロデキストリンが、Cavitron(商標)W7HP5である、請求項14に記載の医薬組成物。
【請求項18】
HP-β-シクロデキストリンが、Kleptose(商標)HPBである、請求項14に記載の医薬組成物。
【請求項19】
200mg/mLの濃度のHP-β-シクロデキストリンを有する、請求項9~18のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項20】
20mg/mLの濃度の遊離塩基としての化合物Aを有する、請求項9~18のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項21】
張度調整剤を更に含む、請求項9~20のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項22】
張度調整剤が、グルコース、マンニトール、スクロース、トレハロース及びソルビトールから選択される、請求項21に記載の医薬組成物。
【請求項23】
化合物Aの硫酸水素塩及びCavitron(商標)W7HP5を含み、
2.5~4.3の間に含まれるpH値有する、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項24】
2.5~3.5の間に含まれるpH値を有する、請求項23に記載の医薬組成物。
【請求項25】
化合物Aの硫酸水素塩、Cavitron(商標)W7HP5、水及びグルコースを含み、2.5~4.4の間に含まれるpH値有する、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項26】
3.3~4.4の間に含まれるpH値を有する、請求項25に記載の医薬組成物。
【請求項27】
非経口投与のための、請求項9~26のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項28】
点滴又は静脈内注射のための、請求項27に記載の医薬組成物。
【請求項29】
非経口投与に適した請求項に記載の医薬組成物を調製するためのプロセスであって、請求項1~8のいずれか一項に定義される固体医薬組成物を水に溶解することを含むプロセス。
【請求項30】
5%グルコースの溶液で希釈する追加の工程を含む、請求項29に記載のプロセス。
【請求項31】
溶解が、患者への投与の直前に行われる、請求項29又は30に記載のプロセス。
【請求項32】
対象におけるBcl-2受容体活性を調節するための、請求項9~28のいずれか一項に記載の医薬組成物
【請求項33】
癌を処置するための、請求項9~28のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項34】
癌が、膀胱、脳、乳房及び子宮の癌、慢性リンパ性白血病、結腸直腸癌、食道及び肝臓の癌、リンパ芽球性白血病、急性骨髄性白血病、リンパ腫、黒色腫、悪性血液疾患、骨髄腫、卵巣癌、非小細胞肺癌、前立腺癌、膵臓癌及び小細胞肺癌から選択される、請求項33に記載の医薬組成物
【請求項35】
癌が、非ホジキンB細胞リンパ腫、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、多発性骨髄腫、骨髄異形成症候群、慢性リンパ性白血病及び急性骨髄性白血病から選択される、請求項34に記載の医薬組成物
【請求項36】
1回投与される、請求項32~35のいずれか一項に記載の医薬組成物
【請求項37】
医薬品として使用するための、請求項9~28のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項38】
癌を処置するための医薬品の調製のための、請求項1~8のいずれか一項に記載の固体医薬組成物の使用。
【請求項39】
癌が、膀胱、脳、乳房及び子宮の癌、慢性リンパ性白血病、結腸直腸癌、食道及び肝臓の癌、リンパ芽球性白血病、急性骨髄性白血病、非ホジキンB細胞リンパ腫及びびまん性大細胞型B細胞リンパ腫を含むリンパ腫、黒色腫、骨髄異形成症候群を含む悪性血液疾患、多発性骨髄腫を含む骨髄腫、卵巣癌、非小細胞肺癌、前立腺癌、膵臓癌及び小細胞肺癌から選択される、請求項38に記載の使用
【請求項40】
癌が、非ホジキンB細胞リンパ腫、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、多発性骨髄腫、骨髄異形成症候群、慢性リンパ性白血病及び急性骨髄性白血病から選択される、請求項39に記載の使用
【請求項41】
以下:
・ 請求項9~28のいずれか一項に記載の医薬組成物、及び
・ 同時、連続又は個別に使用するための1種以上の治療活性剤
を含む組合せ
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、本明細書では「化合物A」と呼ばれる、5-(5-クロロ-2-{[(3S)-3-(モルホリン-4-イルメチル)-3,4-ジヒドロイソキノリン-2(1H)-イル]カルボニル}フェニル)-N-(5-シアノ-1,2-ジメチル-1H-ピロール-3-イル)-N-(4-ヒドロキシフェニル)-1,2-ジメチル-1H-ピロール-3-カルボキサミド、又はその薬学的に許容し得る塩、及びシクロデキストリンを含む医薬組成物に関する。更に具体的には、本発明は、化合物A及びシクロデキストリンを含む固体医薬組成物、並びにこの固体医薬組成物を溶解することによって調製される非経口投与用の医薬組成物に関する。更に本発明は、癌の処置のためのこのような組成物の使用に関する。本明細書に使用されるとき「化合物A」は、その薬学的に許容し得る塩を場合により包含する。
【背景技術】
【0002】
化合物Aの構造は次のとおりである:
【化1】

5-(5-クロロ-2-{[(3S)-3-(モルホリン-4-イルメチル)-3,4-ジヒドロイソキノリン-2(1H)-イル]カルボニル}フェニル)-N-(5-シアノ-1,2-ジメチル-1H-ピロール-3-イル)-N-(4-ヒドロキシフェニル)-1,2-ジメチル-1H-ピロール-3-カルボキサミド。
【0003】
化合物Aの調製、癌の処置用のBcl-2阻害剤としてのその使用及びその医薬製剤は、WO 2015/011400に記載されており、その内容は引用例として取り込まれる。調製は、塩酸塩の形態としてWO 2015/011400の実施例386に具体的に開示されている。
【0004】
化合物Aは、生理的に適切なpHを包含する全てのpHにわたり限定された水溶解度を有する(pH=2.5で遊離塩基として<0.01mg/mL、「化合物A・HSO」として1.4mg/mL)。化合物Aの安全かつ有効な投与を可能にし、必要な治療効果を引き出すために、化合物Aは、その水溶解度よりも高い濃度で可溶化される必要がある。
【0005】
非経口投与用に難溶性化合物を可溶化するための様々な方法がある。典型的なアプローチは、pHの最適化又は共溶媒(例えば、PEG300、PEG400、プロピレングリコール、又はエタノール)の使用である。これらのアプローチが何らかの理由で実現不可能な場合は、界面活性剤の使用が検討され得る(例えば、Tween(登録商標)80又はKolliphor(商標)ELP)。しかし、これらのタイプの界面活性剤は、しばしば有害作用を伴っており、対象の化合物を標的濃度で常に可溶化できるとは限らない。シクロデキストリンは安全な可溶化剤として確立されているが、全ての化合物に対して有効な可溶化剤ではないため制限がある。
【0006】
本発明の目的は、臨床的有効性を有するための標的濃度で化合物Aを可溶化し、非経口的に送達するのに好都合に使用できる組成物を提供することである。特に、安全かつ有効な化合物A用の医薬組成物を提供する必要がある。更なる目的は、適切な条件及び容器内で安定であり、合理的な時間スケールにわたって妥当な用量の化合物Aの投与を可能にする組成物を提供することである。更なる目的において、本組成物は、非経口投与剤形の調製のための信頼性が高く堅牢なプロセスによって製造可能なはずである。
【0007】
概要
本発明は、患者への非経口投与に適した、化合物A及びシクロデキストリンを含む組成物を提供する。特に、そのような投与は、静脈内注射又は点滴によるものである。本発明は更に、非経口投与に適した組成物を提供するために、患者への投与の少し前に1種以上の溶媒に溶解することができる固体のシクロデキストリンに基づく組成物を提供する。好ましくは、本発明の固体のシクロデキストリンに基づく組成物は、水溶液にされる。このように調製された医薬組成物において、化合物Aは、シクロデキストリンによって可溶化される。
【0008】
好ましくは、本発明は、最適な物理的安定性を有する化合物Aを含む組成物を提供する;例えば、この固体組成物が水溶液にされ、更にグルコース溶液に希釈され、そして得られた医薬組成物が血漿に注入されると、成分の沈殿は回避される。
【0009】
好ましくは、本発明は、化学的及び物理的に安定である、化合物Aを含むシクロデキストリンに基づく医薬組成物を提供する。高いシクロデキストリン濃度では、薬物/シクロデキストリン複合体は、大きくて目に見える粒子を形成する傾向があることが周知である(Saokham et al, Molecules 2018 23 page 1161)。これらの固体微粒子は明らかに滅菌濾過操作を妨げる。興味深いことに、本発明の薬物/シクロデキストリン溶液は完全に清澄なままであり、0.2μmフィルターで非常に容易に濾過することができる。
【0010】
好ましくは、本発明は、注射用溶媒(更に好ましくは注射用水)中で許容し得る再構成時間を有し、よって非経口的に送達される医薬組成物の調製に使いやすくなる、固体医薬組成物を提供する。
【0011】
好ましくは、本発明は、化合物Aの迅速な可溶化及び静脈内投与後の良好な分布を可能にする、シクロデキストリンに基づく医薬組成物を提供する。
【0012】
全体として、本明細書に記載の発明は、化合物Aの困難な物理化学的特性にもかかわらず、患者への化合物Aの有効な投与を可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、RS4;11移植メスSCIDマウスに2週間にわたって週1回15及び40mg/kgを静脈内投与した後のシクロデキストリンに基づく製剤中の化合物Aの有効性を示す。
図2図2は、RS4;11移植メスSCIDマウスに2週間にわたって週1回15及び40mg/kgを静脈内投与した後のシクロデキストリンに基づく製剤中の化合物Aの忍容性を示す。体重減少は、処置後の時間に対して測定される。
【0014】
発明の詳細な説明
「化合物A」は、5-(5-クロロ-2-{[(3S)-3-(モルホリン-4-イルメチル)-3,4-ジヒドロイソキノリン-2(1H)-イル]カルボニル}フェニル)-N-(5-シアノ-1,2-ジメチル-1H-ピロール-3-イル)-N-(4-ヒドロキシフェニル)-1,2-ジメチル-1H-ピロール-3-カルボキサミドを意味する。
【0015】
「化合物A・HSO」は、5-(5-クロロ-2-{[(3S)-3-(モルホリン-4-イルメチル)-3,4-ジヒドロイソキノリン-2(1H)-イル]カルボニル}フェニル)-N-(5-シアノ-1,2-ジメチル-1H-ピロール-3-イル)-N-(4-ヒドロキシフェニル)-1,2-ジメチル-1H-ピロール-3-カルボキサミドが硫酸水素塩の形態であることを意味する。
【0016】
「遊離分子」及び「遊離塩基」は、本明細書では交換可能に使用され、塩の形態でないときの化合物Aのことをいう。
【0017】
本明細書に記載のシクロデキストリンは、天然又は誘導シクロデキストリンである。天然シクロデキストリンは、工業的に生産された3つの周知の(大小の)環状オリゴ糖を含む。最も一般的な天然シクロデキストリンは、6、7、及び8個のグルコピラノース単位からなるα、β、及びγである。誘導シクロデキストリンは、ヒドロキシエチルシクロデキストリン、ヒドロキシプロピルシクロデキストリン及びヒドロキシブチルシクロデキストリンからなる群より選択されるヒドロキシアルキル化シクロデキストリンを包含する。特定の実施態様において、シクロデキストリンは、β-シクロデキストリン自体又はその誘導体である。本明細書の誘導体は、メチル-β-シクロデキストリン、エチル-β-シクロデキストリン、(2-ヒドロキシプロピル)-β-シクロデキストリン、(3-ヒドロキシプロピル)-β-シクロデキストリン、(2-ヒドロキシエチル)-β-シクロデキストリン、カルボキシメチル-β-シクロデキストリン、カルボキシメチル-エチル-β-シクロデキストリン、ジエチル-β-シクロデキストリン、ジメチル-β-シクロデキストリン、トリメチル-β-シクロデキストリン、グルコシル-β-シクロデキストリン、ヒドロキシブテニル-β-シクロデキストリン、マルトシル-β-シクロデキストリン、ランダムにメチル化された-β-シクロデキストリン、スルホブチルエーテル-β-シクロデキストリン、2-セレン架橋β-シクロデキストリン、及び2-テルリウム架橋β-シクロデキストリンを包含する、種々の置換基を有するβ-シクロデキストリンを意味する。β-シクロデキストリンに加えて、2-ヒドロキシプロピル-γ-シクロデキストリンを本発明で使用することができる。誘導シクロデキストリンはまた、水溶性又は不溶性のいずれかの高分子量化合物である重合シクロデキストリンを包含する。重合シクロデキストリンの例は、可溶性アニオン性β-シクロデキストリンポリマー、可溶性γ-シクロデキストリンポリマー、及びエピクロロヒドリンβ-シクロデキストリンポリマーである。
【0018】
「α-シクロデキストリン」、「β-シクロデキストリン」及び「γ-シクロデキストリン」は、それぞれ「アルファデクス」、「ベータデクス」、及び「ガンマデクス」とも命名される。
【0019】
「HP-β-シクロデキストリン」は、「ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン」又は「2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン」又は「ヒドロキシプロピルベータデクス」とも命名される。特に、HP-β-シクロデキストリンは次の製品名で販売されている:Cavitron(商標)W7HP7(典型置換度:6.0~8.0;概算分子量:1520)、Cavitron(商標)W7HP5(典型置換度:4.1~5.1;概算分子量:1410)、Kleptose(商標)HPB又はKleptose(商標)HP。
【0020】
「SBE-β-シクロデキストリン」は、「ナトリウムスルホブチルエーテル-β-シクロデキストリン」又は「ベータデクススルホブチルエーテルナトリウム」とも命名される。特に、SBE-β-シクロデキストリンは、次の製品名で販売されている:Dexsolve(商標)又はCaptisol(商標)。
【0021】
本明細書に記載の医薬組成物は、特に、シクロデキストリンに基づく医薬組成物である。「シクロデキストリンに基づく医薬組成物」とは、医薬投与に適した、シクロデキストリンを含む組成物を意味する。
【0022】
「TPGS」とは、d-α-トコフェリルポリエチレングリコールスクシナート又はトコフェルソランを意味する。TPGSは、水溶性型ビタミンE(α-トコフェロール)である。
【0023】
「張度調整剤」とは、製剤に添加してヒト血漿と等張にすることができる薬学的に許容し得る化合物を意味する。張度調整剤は、例えば、デキストロース、グルコース、マンニトール、スクロース、ラクトース、トレハロース、グリセリン及びNaCl、特にスクロース又はグリセリン、とりわけスクロースを包含する。張度は「有効浸透圧」であり、膜全体に浸透力を及ぼす能力を持つ溶質の濃度の合計に等しい。非経口製剤は血漿と等張でなければならない。張度調整剤は当業者には周知である。
【0024】
「緩衝液」は、溶液のpHの変化を防ぐために使用され、適切な例は熟練の製剤技術者には周知である。
【0025】
「容器」とは、非経口投与用の組成物を収容するのに適した、ゴム栓及びキャップ付きのアンプル又はバイアル、シングル又はダブルチャンバーシリンジ、ポリマー材料又はガラスから作られた輸液バッグ又は輸液瓶を意味する。容器はまた、液体を保持するための任意の容器を包含する。
【0026】
本明細書に使用されるとき、「溶媒」という用語は、固体医薬組成物から出発して、非経口投与に適した医薬組成物の再構成に使用される溶媒である。固体医薬組成物は、好ましくは凍結乾燥物である。好ましい方式において、溶媒は水である。本発明に関連して、使用される水は注射用水である。
【0027】
本明細書に使用されるとき、「含む」という用語は、「包含する」を意味し、文脈が別のことを示唆しない限り、例えば、成分が合計で100%になる場合を除いて、任意の追加の成分の存在を除外することを意図しない。
【0028】
本明細書に使用されるとき、任意の疾患又は障害を「処置する」、「処置すること」又は「処置」という用語は、一実施態様において、疾患又は障害を改善すること(即ち、疾患又はその臨床症状の少なくとも1つの発症を遅延させるか、阻止するか、又は減少させること)をいう。別の実施態様において、「処置する」、「処置すること」又は「処置」は、患者には認識できない可能性があるものを包含する少なくとも1つの身体的パラメーターを軽減又は改善することをいう。更に別の実施態様において、「処置する」、「処置すること」又は「処置」は、身体的(例えば、認識できる症状の安定化)、生理学的(例えば、身体的パラメーターの安定化)のいずれかで、又は両方で、疾患又は障害を調節することをいう。
【0029】
本明細書に使用されるとき、「組成物の治療有効量」とは、患者に対して治療効果を引き出すための活性成分の有効用量を含有する本発明の組成物の有効量を意味する。本発明により投与される化合物Aの用量は、5mgから1000mg(遊離塩基として表される)である。
【0030】
「患者への投与の少し前」に混合するとは、患者への投与前3日以内、特に24時間以内、そして例えば、6時間以内を意味する。
【0031】
実施態様
以下に説明するのは、本発明の幾つかの実施態様である。
【0032】
E1. 5-(5-クロロ-2-{[(3S)-3-(モルホリン-4-イルメチル)-3,4-ジヒドロイソキノリン-2(1H)-イル]カルボニル}フェニル)-N-(5-シアノ-1,2-ジメチル-1H-ピロール-3-イル)-N-(4-ヒドロキシフェニル)-1,2-ジメチル-1H-ピロール-3-カルボキサミドである化合物A、又はその薬学的に許容し得る塩、及びシクロデキストリンを含む固体医薬組成物。
【0033】
E2. 化合物Aが塩酸塩の形態である、E1に記載の固体医薬組成物。
【0034】
E3. 化合物Aが硫酸水素塩の形態である、E1に記載の固体医薬組成物。
【0035】
E4. シクロデキストリンが、ナトリウムスルホブチルエーテル-β-シクロデキストリン(SBE-β-シクロデキストリン)又はヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン(HP-β-シクロデキストリン)である、実施態様E1~E3のいずれかに記載の固体医薬組成物。
【0036】
E5. スルホブチルエーテル-β-シクロデキストリンが、Dexsolve(商標)及びCaptisol(商標)から選択される、E4に記載の固体医薬組成物。
【0037】
E6. シクロデキストリンがHP-β-シクロデキストリン、とりわけCavitron(商標)W7HP7、Cavitron(商標)W7HP5、Kleptose(商標)HPB又はKleptose(商標)HPである、E1~E3に記載の固体医薬組成物。
【0038】
E7. HP-β-シクロデキストリンと化合物Aとのモル比が少なくとも5:1である、E6に記載の固体医薬組成物。別の実施態様において、HP-β-シクロデキストリンと化合物Aとの重量/重量比は、本発明の固体医薬組成物については少なくとも10:1である。
【0039】
E8. HP-β-シクロデキストリンと化合物Aとのモル比が5:1である、E7に記載の固体医薬組成物。別の実施態様において、HP-β-シクロデキストリンと化合物Aとの重量/重量比は、本発明の固体医薬組成物については10:1である。
【0040】
E9. HP-β-シクロデキストリンがCavitron(商標)W7HP5である、実施態様E6~E8のいずれかに記載の固体医薬組成物。
【0041】
E10. HP-β-シクロデキストリンがKleptose(商標)HPBである、実施態様E6~E8のいずれかに記載の固体医薬組成物。
【0042】
E11. 1種以上の薬学的に許容し得る賦形剤を更に含む、実施態様E1~E10のいずれかに記載の固体医薬組成物。別の実施態様において、薬学的に許容し得る賦形剤は界面活性剤である。
【0043】
E12. グルコース、マンニトール、スクロース、トレハロース及びソルビトールから選択される少なくとも1種の薬学的に許容し得る賦形剤を含む、実施態様E1~E10のいずれかに記載の固体医薬組成物。
【0044】
E13. 凍結乾燥物である、実施態様E1~E12のいずれかに記載の固体医薬組成物。
【0045】
E14. 5-(5-クロロ-2-{[(3S)-3-(モルホリン-4-イルメチル)-3,4-ジヒドロイソキノリン-2(1H)-イル]カルボニル}フェニル)-N-(5-シアノ-1,2-ジメチル-1H-ピロール-3-イル)-N-(4-ヒドロキシフェニル)-1,2-ジメチル-1H-ピロール-3-カルボキサミドである化合物A、又はその薬学的に許容し得る塩、シクロデキストリン及び1種以上の溶媒を含む医薬組成物。別の実施態様において、医薬組成物は界面活性剤を更に含む。
【0046】
E15. 溶媒が水性緩衝液又は水、とりわけ水である、E14に記載の医薬組成物。
【0047】
E16. 化合物Aが塩酸塩の形態である、E14又はE15に記載の医薬組成物。
【0048】
E17. 化合物Aが硫酸水素塩の形態である、E14又はE15に記載の医薬組成物。
【0049】
E18. 2.8~3.2の間に含まれるpH値、とりわけ2.9~3.1の間に含まれるpH値を有する、E17に記載の医薬組成物。
【0050】
E19. 2.5~4.3の間に含まれるpH値、とりわけ2.5~3.5の間に含まれるpH値を有する、E17に記載の医薬組成物。
【0051】
E20. シクロデキストリンが、ナトリウムスルホブチルエーテル-β-シクロデキストリン(SBE-β-シクロデキストリン)又はヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン(HP-β-シクロデキストリン)である、実施態様E14~E19のいずれかに記載の医薬組成物。
【0052】
E21. スルホブチルエーテル-β-シクロデキストリンが、Dexsolve(商標)及びCaptisol(商標)から選択される、E20に記載の医薬組成物。
【0053】
E22. シクロデキストリンがHP-β-シクロデキストリン、とりわけCavitron(商標)W7HP7、Cavitron(商標)W7HP5、Kleptose(商標)HPB又はKleptose(商標)HPである、実施態様E14~E19のいずれかに記載の医薬組成物。
【0054】
E23. HP-β-シクロデキストリンと化合物Aとのモル比が少なくとも5:1である、E22に記載の医薬組成物。別の実施態様において、HP-β-シクロデキストリンと化合物Aとの重量/重量比は、本発明の医薬組成物については少なくとも10:1である。
【0055】
E24. HP-β-シクロデキストリンと化合物Aとのモル比が5:1である、E23に記載の医薬組成物。別の実施態様において、HP-β-シクロデキストリンと化合物Aとの重量/重量比は、本発明の医薬組成物については10:1である。
【0056】
E25. HP-β-シクロデキストリンがCavitron(商標)W7HP5である、実施態様E22~E24のいずれかに記載の医薬組成物。
【0057】
E26. HP-β-シクロデキストリンがKleptose(商標)HPBである、実施態様E22~E24のいずれかに記載の医薬組成物。
【0058】
E27. 50~300mg/mLに含まれる濃度のHP-β-シクロデキストリンを有する、実施態様E22~E26のいずれかに記載の医薬組成物。
【0059】
E28. 200mg/mLの濃度のHP-β-シクロデキストリンを有する、E27に記載の医薬組成物。
【0060】
E29. 20mg/mLの濃度の化合物A(遊離塩基)を有する、実施態様E22~E26のいずれかに記載の医薬組成物。
【0061】
E30. 張度調整剤を更に含む、実施態様E14~E29のいずれかに記載の医薬組成物。
【0062】
E31. 張度調整剤が、グルコース、マンニトール、スクロース、トレハロース及びソルビトールから選択される、E30に記載の医薬組成物。
【0063】
E32. 「化合物A・HSO」及びCavitron(商標)W7HP5を含み、2.8~3.2の間に含まれるpH値、とりわけ2.9~3.1の間に含まれるpH値を有する、E14に記載の医薬組成物。別の実施態様において、医薬組成物は更に水を含む。
【0064】
E33. 「化合物A・HSO」及びCavitron(商標)W7HP5を含み、2.5~4.3の間に含まれるpH値、とりわけ2.5~3.5の間に含まれるpH値を有する、E14に記載の医薬組成物。別の実施態様において、医薬組成物に使用される溶媒は水である。
【0065】
E34. E14に記載の医薬組成物であって:
- 「化合物A・HSO」、Cavitron(商標)W7HP5及び水を含み、
- 2.5~4.3の間に含まれるpH値、とりわけ2.5~3.5の間に含まれるpH値を有する、医薬組成物であって
- Cavitron(商標)W7HP5と化合物A(遊離塩基)とのモル比が少なくとも5:1である、医薬組成物。
【0066】
E35. E14に記載の医薬組成物であって:
- 「化合物A・HSO」、Cavitron(商標)W7HP5及び水を含み、
- 2.5~4.3の間に含まれるpH値、とりわけ2.5~3.5の間に含まれるpH値を有する、医薬組成物であって、
- Cavitron(商標)W7HP5と化合物A(遊離塩基)とのモル比が5:1である、医薬組成物。
【0067】
E36. E14に記載の医薬組成物であって:
- 「化合物A・HSO」、Cavitron(商標)W7HP5及び水を含み、
- 2.5~4.3の間に含まれるpH値、とりわけ2.5~3.5の間に含まれるpH値を有する、医薬組成物であって、
- Cavitron(商標)W7HP5と化合物A(遊離塩基)との重量/重量比が少なくとも10:1である、医薬組成物。
【0068】
E37. E14に記載の医薬組成物であって:
- 「化合物A・HSO」、Cavitron(商標)W7HP5及び水を含み、
- 2.5~4.3の間に含まれるpH値、とりわけ2.5~3.5の間に含まれるpH値を有する、医薬組成物であって、
- Cavitron(商標)W7HP5と化合物A(遊離塩基)との重量/重量比が10:1である、医薬組成物。
【0069】
E38. 「化合物A・HSO」、Cavitron(商標)W7HP5、水及びグルコースを含み、2.5~4.4の間に含まれるpH値、とりわけ3.3~4.4の間に含まれるpH値を有する、E14に記載の医薬組成物。
【0070】
E39. E14に記載の医薬組成物であって:
- 「化合物A・HSO」、Cavitron(商標)W7HP5、水及びグルコースを含み、
- 2.5~4.4の間に含まれるpH値、とりわけ3.3~4.4の間に含まれるpH値を有する、医薬組成物であって、
- Cavitron(商標)W7HP5と化合物A(遊離塩基)とのモル比が少なくとも5:1である、医薬組成物。
【0071】
E40. E14に記載の医薬組成物であって:
- 「化合物A・HSO」、Cavitron(商標)W7HP5、水及びグルコースを含み、
- 2.5~4.4の間に含まれるpH値、とりわけ3.3~4.4の間に含まれるpH値を有する、医薬組成物であって、
- Cavitron(商標)W7HP5と化合物A(遊離塩基)とのモル比が5:1である、医薬組成物。
【0072】
E41. E14に記載の医薬組成物であって:
- 「化合物A・HSO」、Cavitron(商標)W7HP5、水及びグルコースを含み、
- 2.5~4.4の間に含まれるpH値、とりわけ3.3~4.4の間に含まれるpH値を有する、医薬組成物であって、
- Cavitron(商標)W7HP5と化合物A(遊離塩基)との重量/重量比が少なくとも10:1である、医薬組成物。
【0073】
E42. E14に記載の医薬組成物であって:
- 「化合物A・HSO」、Cavitron(商標)W7HP5、水及びグルコースを含み、
- 2.5~4.4の間に含まれるpH値、とりわけ3.3~4.4の間に含まれるpH値を有する、医薬組成物であって、
- Cavitron(商標)W7HP5と化合物A(遊離塩基)との重量/重量比が10:1である、医薬組成物。
【0074】
E43. 非経口投与のための、実施態様E14~E42のいずれかに記載の医薬組成物。
【0075】
E44. 点滴又は静脈内注射のための、E43に記載の医薬組成物。
【0076】
E45. 非経口投与に適したE14に記載の医薬組成物を調製するためのプロセスであって、E1~E13中と同義の固体医薬組成物を溶媒に、とりわけ水に溶解することを含むプロセス。
【0077】
E46. 輸液で、とりわけ5%グルコースの溶液で希釈する追加の工程を含む、E45に記載のプロセス。
【0078】
E47. 溶解が患者への投与の直前に行われる、E45又はE46に記載のプロセス。
【0079】
E48. 対象におけるBcl-2受容体活性を調節する方法であって、実施態様E14~E44のいずれかに記載の組成物の治療有効量を対象に投与することを含む方法。
【0080】
E49. 実施態様E14~E44のいずれかに記載の組成物の治療有効量を対象に投与することを含む、癌を処置する方法。
【0081】
E50. 癌が、膀胱、脳、乳房及び子宮の癌、慢性リンパ性白血病、結腸直腸癌、食道及び肝臓の癌、リンパ芽球性白血病、急性骨髄性白血病、リンパ腫、例えば、非ホジキンB細胞リンパ腫及びびまん性大細胞型B細胞リンパ腫、黒色腫、悪性血液疾患、例えば、骨髄異形成症候群、骨髄腫、例えば、多発性骨髄腫、卵巣癌、非小細胞肺癌、前立腺癌、膵臓癌及び小細胞肺癌から選択される、E49に記載の方法。
【0082】
E51. 癌が、非ホジキンB細胞リンパ腫、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、多発性骨髄腫、骨髄異形成症候群、慢性リンパ性白血病及び急性骨髄性白血病、とりわけ非ホジキンB細胞リンパ腫、多発性骨髄腫及び急性骨髄性白血病から選択される、E50に記載の方法。
【0083】
E52. 実施態様E14~E36のいずれかに記載の組成物が週1回投与される、実施態様E48~E51のいずれかに記載の方法。
【0084】
E53. 医薬品として使用するための、実施態様E14~E44のいずれかに記載の医薬組成物。
【0085】
E54. E53に記載の使用のための医薬組成物であって、前記使用が癌の処置におけるものであり、特に癌が、膀胱、脳、乳房及び子宮の癌、慢性リンパ性白血病、結腸直腸癌、食道及び肝臓の癌、リンパ芽球性白血病、急性骨髄性白血病、リンパ腫、例えば、非ホジキンB細胞リンパ腫及びびまん性大細胞型B細胞リンパ腫、黒色腫、悪性血液疾患、例えば、骨髄異形成症候群、骨髄腫、例えば、多発性骨髄腫、卵巣癌、非小細胞肺癌、前立腺癌、膵臓癌及び小細胞肺癌から選択される医薬組成物。
【0086】
E55. 前記癌が、非ホジキンB細胞リンパ腫、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、多発性骨髄腫、骨髄異形成症候群、慢性リンパ性白血病及び急性骨髄性白血病、とりわけ非ホジキンB細胞リンパ腫、多発性骨髄腫及び急性骨髄性白血病から選択される、実施態様E54に記載の使用のための医薬組成物。
【0087】
E56. 癌を処置するための医薬品の調製のための、E1~E13のいずれかに記載の固体医薬組成物の使用。
【0088】
E57. 癌が、膀胱、脳、乳房及び子宮の癌、慢性リンパ性白血病、結腸直腸癌、食道及び肝臓の癌、リンパ芽球性白血病、急性骨髄性白血病、リンパ腫、例えば、非ホジキンB細胞リンパ腫及びびまん性大細胞型B細胞リンパ腫、黒色腫、悪性血液疾患、例えば、骨髄異形成症候群、骨髄腫、例えば、多発性骨髄腫、卵巣癌、非小細胞肺癌、前立腺癌、膵臓癌及び小細胞肺癌、特に非ホジキンB細胞リンパ腫、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、多発性骨髄腫、骨髄異形成症候群、慢性リンパ性白血病及び急性骨髄性白血病、とりわけ非ホジキンB細胞リンパ腫、多発性骨髄腫及び急性骨髄性白血病から選択される、E56に記載の使用。
【0089】
E58. 以下:
・ 実施態様E14~E44のいずれかに記載の医薬組成物、及び
・ 同時、連続又は個別に使用するための1種以上の治療活性剤
を含む組合せ。
【0090】
有利には、本発明の特定の実施態様において、投与の少し前に溶媒、好ましくは水に溶解して透明な組成物を生成することができる、化合物A及びCavitron(商標)W7HP5を含む凍結乾燥物が提供される。別の実施態様において、先の溶液を5%グルコース溶液で更に希釈することができる。詳細には、これは本明細書に記載の化合物A及びCavitron(商標)W7HP5を含む医薬組成物を250mLグルコースバッグに移すことによって達成される。
【0091】
本発明の固体医薬組成物の調製は、乾燥前に初期溶液のpHを調整する工程を含み得る。詳細には、溶液のpHは、初期溶液に含有される化合物Aの濃度に応じて、HCl溶液又はNaOH溶液のいずれかを一滴ずつ加えることによって調整される。
【実施例
【0092】
実施例1:非経口経路に適した製剤を調製するための種々の担体中の化合物Aの溶解度試験
【0093】
これらの試験の目的は、ヒトでの投与の治療上の必要性を満たすのに十分に高い活性成分濃度を特徴とする注射液を処方することを目的として、化合物Aの飽和時の溶解度を決定することである。詳細には、担体自体の許容一日曝露量を考慮して、活性成分の高い一日投与可能用量の達成が可能な担体を用意する必要がある。詳細には、HP-β-シクロデキストリンの許容一日曝露量は320mg/kg/日になる。
【0094】
「化合物A・HSO」の溶解度は、以下:
- クエン酸緩衝液(pH=2;50mM)、酢酸緩衝液(pH=4;50mM)及びリン酸緩衝液(pH=6~7.4;67.7mM);
- スルホブチルエーテルβ-シクロデキストリン(SBE-β-シクロデキストリン)又はヒドロキシプロピルβ-シクロデキストリン(HP-β-シクロデキストリン)型のシクロデキストリン;より正確には、試験されたSBE-β-シクロデキストリンは、Cyclolabが販売するDexsolve(商標)であり、試験されたHP-β-シクロデキストリンは、Wackerが販売するCavitron(商標)W7HP7及びCavitron(商標)W7HP5;Roquetteが販売するKleptose(商標)HP及びKleptose(商標)HPBである。
- ポリソルベート80及びKolliphor(商標)ELPのような界面活性剤;
- PEG400/エタノール/0.9% NaCl(40/10/50)混合物
を包含する、種々の媒体中で試験された。
【0095】
試験される種々の担体を含有する媒体の調製:
【0096】
(i)20重量% シクロデキストリン溶液
試験されるシクロデキストリン5g(Dexsolve(商標)、Cavitron(商標)W7HP7、Cavitron(商標)W7HP5、Kleptose(商標)HP又はKleptose(商標)HPB)を20mLメスフラスコに量り取る。水約15mLを加え、得られた全体を磁気撹拌に付す。次に水を加えて容量を25mLにする。全体を10分間磁気撹拌下に置く。
【0097】
(ii)2重量% 界面活性剤溶液
試験される界面活性剤1gを50mLメスフラスコに量り取る。次に0.9% NaCl溶液を使用して容量を50mLにする。全体を1時間磁気撹拌下に置く。
【0098】
(iii)PEG/エタノール/0.9% NaCl溶液(40/10/50)v/v/v
PEG400 20mL、エタノール5mL及びNaCl 25mLを取る。全体を100mL三角フラスコに入れ、30分間磁気撹拌する。
【0099】
溶解度試験:
「化合物A・HSO」約340mgを5mLチューブに量り取る。次に試験される担体を含有する媒体3mLを加える。次に全体を2時間又は24時間磁気撹拌下に置く。こうして得られた懸濁液又は溶液を、0.2μmフィルター(PVDF膜-Millipore)に通し、次にHPLCで分析する。更に、化合物Aの分解生成物の存在を、周囲温度で72時間保存した試料で調査した。
【0100】
結果:
【表1】
【0101】
結論:
化合物Aの実質的な可溶化を可能にする5種の担体は次のとおりである:Cavitron(商標)W7HP5≒Kleptose(商標)HPB>Kleptose(商標)HP≒Dexsolve(商標)≒Cavitron(商標)W7HP7>PEG400>PEG400/EtOH/0.9% NaCl(40/10/50)。
これらの媒体への溶解度は、24時間の撹拌後、10~30mg/mLである。Cavitron(商標)W7HP5及びKleptose(商標)HPBは、化合物Aを可溶化するための、及びヒトへの非経口投与を目的とした十分な含有量の活性成分を含む溶液の製造を可能にするための最も有効な担体である。詳細には、HP-β-シクロデキストリンと化合物Aとのモル比が5:1である溶液は、薬物負荷と許容一日曝露量に応じたHP-β-シクロデキストリンの含有量との間の妥協点である。許容一日曝露量の範囲内で、より高い比率も許容可能である。
2時間の撹拌後に得られた溶解度は、同じ規模の大きさであった。試料中に有意な量(>0.1%)の分解生成物又は副生成物は測定されなかった。
【0102】
実施例2:pHの関数としてのHP-β-シクロデキストリン中の化合物Aの溶解度試験
【0103】
化合物A・HClから開始する試験1
化合物A・HClの溶解度は、HP-β-シクロデキストリンの存在下で、種々の緩衝液(酢酸緩衝液pH=4及びリン酸緩衝液pH=7.4)を用いてpHの関数として試験された。
【0104】
試験される種々の担体を含有する媒体の調製:
(i)酢酸緩衝液pH4
酢酸ナトリウム三水和物(NaC・3HO)0.75gを250mLメスフラスコに投入する。2N酢酸溶液(氷酢酸から生成)3.5mLを加える。次に0.9% NaCl溶液を使用して容量を250mLにして、次いで全体を撹拌する。次に1N HCl溶液を使用してpHを4に調整する。
【0105】
(ii)リン酸緩衝液pH7.4
一塩基性リン酸カリウム(KHPO)2.075g及び二塩基性リン酸ナトリウム(NaHPO)0.238gを水100mLに溶解する。可溶化が完了するまで全体を撹拌する。次に0.9% NaCl溶液を使用して容量を250mLにする。1N 水酸化ナトリウム溶液を使用して、pHを所望の値(7.4)に調整する。
【0106】
(iii)20重量%シクロデキストリン溶液
試験されるシクロデキストリン(Cavitron(商標)W7HP5)2gを、10mLメスフラスコに量り取る。次に、所望のpHに応じて、水/0.9% NaCl混合物(80/20)又は酢酸若しくはリン酸緩衝液を使用して、容量を10mLにする。
【0107】
最大溶解度の試験:
化合物A・HCl約10mgを秤量する。次に試験される担体、即ち、pH調整なしのCavitron(商標)W7HP5、pH=4に調整されたCavitron(商標)W7HP5、又はpH=7.4に調整されたCavitron(商標)W7HP5を含有する媒体1mLを加える。次に全体を磁気撹拌下に置く。次に、化合物A・HCl 5mgを加える。化合物が可溶化する場合は、この操作を繰り返す。混合物を24時間撹拌する。こうして得られた懸濁液を、0.45μmフィルターに通し、次にHPLCクロマトグラフィーで分析する。
【0108】
結果:
【表2】
【0109】
化合物A・HSOから開始する試験2
「化合物A・HSO」の溶解度は、HP-β-シクロデキストリンの存在下でpHの関数として試験された。
【0110】
20%m/vシクロデキストリン溶液(200mg/mL)の調製
試験されるシクロデキストリン(Cavitron(商標)W7HP5)10gを50mLメスフラスコに入れる。次に水40mLを加える。全体を磁気撹拌下に置く。次に水で容量を50mLにする。
【0111】
溶解度試験:
「化合物A・HSO」約856.7mgを秤量する。次に試験される担体、即ち、Cavitron(商標)W7HP5を含有する媒体30mLを加える。全体を24時間磁気撹拌下に置く。こうして得られた懸濁液を、0.2μmフィルター(PALL-PES膜-直径25mm)に通し、次にHPLCで分析する。
他の試験では、溶液のpHを0.1N NaOH溶液を使用してpH4及び8.8の値に達するまで調節し、次にHPLCクロマトグラフィーによる分析を行う。
【0112】
結果:
【表3】

pH3.2から沈殿物が目視観察される。
【0113】
結論:
これらの結果は、化合物AがCavitron(商標)W7HP5によって効果的に可溶化されることを確認している。溶解度は、溶液のpHに大きく依存する。「化合物A・HSO」では、pH3.2から沈殿が観察され、pHが上昇すると沈殿がより顕著になる。この臨界pH値は、プロセスパラメーターに依存する。沈殿が起こるpH値を正確に決定するために、最適化された錯体化及び溶解プロセスにより、更なる実験を実施した。この試験は実施例9に詳述される。
【0114】
実施例3:イヌ血漿に希釈した際の種々の担体中に処方された化合物Aの沈殿現象の試験
本試験の目的は、HP-β-シクロデキストリン(即ち、Cavitron(商標)W7HP5)に又はPEG400/EtOH/0.9% NaCl混合物(TPGSの存在下又は非存在下)に処方された化合物Aのイヌ血漿中の沈殿の可能性を評価することである。
次の7種の製剤が試験された:
- 水/0.9% NaCl混合物(70/30)中の200mg/mL Cavitron(商標)W7HP5溶液中の3mg/mL化合物A、
- 水/0.9% NaCl混合物(70/30)中の200mg/mL Cavitron(商標)W7HP5溶液中の6mg/mL化合物A、
- 水/0.9% NaCl混合物(70/30)中の200mg/mL Cavitron(商標)W7HP5溶液中の用量20mg/mLの化合物Aを含有する溶液を点滴用グルコース5%溶液(G5溶液)に希釈して得られる媒体中の3mg/mL化合物A、
- PEG400/EtOH/0.9% NaCl混合物(40/10/50)中の3mg/mL化合物A、
- PEG400/EtOH/0.9% NaCl混合物(40/10/50)中の6mg/mL化合物A、
- PEG400/EtOH/0.9% NaCl/TPGS混合物(40/10/49.5/0.5)中の3mg/mL化合物A、
- PEG400/EtOH/0.9% NaCl/TPGS混合物(40/10/49.5/0.5)中の6mg/mL化合物A。
血漿への製剤の添加の2つのプロトコールが試験された:
- 10μL/分、37℃で15分間、
- 7.5μL/分、37℃で10分間。
【0115】
試験される種々の担体を含有する媒体の調製:
(i)200mg/mLシクロデキストリン
Cavitron(商標)W7HP5 4gを20mLメスフラスコに量り取る。水/0.9% NaCl混合物(70/30)v/v約15mLを加える。成分が完全に溶解するまで、全体を磁気撹拌下に置く。水/0.9% NaClの必要量を加えて媒体の容量を20mLにし、全体を10分間磁気撹拌する。
【0116】
(ii)PEG400/EtOH/0.9% NaCl溶液
PEG400 8mL、エタノール2mL及び0.9% NaCl 10mLを取る。それらを25mL三角フラスコに投入し、全体を1時間磁気撹拌下に置く。
【0117】
(iii)PEG/EtOH/0.9% NaCl/TPGS溶液
PEG400 8mL、エタノール2mL及び0.9% NaCl 9.9mLを取る。それらを25mL三角フラスコに投入し、全体を1時間磁気撹拌下に置く。TPGS 100mgを秤量し、前記混合物に加える。16時間磁気撹拌する。
【0118】
(iv)溶解度試験のための混合物の調製
所望の量の「化合物A・HSO」(Xmg)を秤量する。試験される媒体(Cavitron(商標)W7HP5、PEG/EtOH/0.9% NaCl溶液、PEG/EtOH/0.9% NaCl/TPGS溶液)5mLを加える。こうして得られた媒体を周囲温度で24時間磁気撹拌下に置く。注目すべきは、シクロデキストリン中の化合物Aの20mg/mL溶液を調製するために、媒体を60℃で2時間加熱する必要があることである。シクロデキストリンに基づく溶液の場合は、pHを3に調整する。こうして得られた溶液を0.2μmフィルター(PVDF膜-Millipore)に通す。
【0119】
【表4】

20mg/mLで調製した溶液では、最終濃度が3mg/mLになるように、G5溶液での希釈を行う。
【0120】
血漿への溶解及び結果
適切な容量のバイアルに血漿1.0mLを入れる。バイアルを37℃に設定したオーブンに入れる。次に:
- 試験される各溶液を10μL/分で15分間加えるか、又は
- 試験される各溶液を7.5μL/分で10分間加える。
溶液を加えた後、手で振り混ぜ、混合物を静置する。
こうして得られた溶液を0.2μmフィルター(PVDF膜-Millipore)に通す。
試験された7つの製剤について、血漿に希釈後に測定されたpHは7.5~8の間であった。
【0121】
【表5】
【0122】
適用される添加プロトコールが何であれ、以下の全ての試料で沈殿が観察される:
- PEG/EtOH/0.9% NaCl 3及び6mg/mL
- PEG/EtOH/0.9% NaCl/TPGS 3及び6mg/mL
この沈殿は、TPGSを含まない試料では即時発生し、TPGSを含有する試料ではわずかに遅れて現れる。
沈殿は、用量6mg/mLの活性成分を含有するCavitron(商標)W7HP5の溶液での10μL/分で15分間の添加プロトコールでは8分後から観察される。
化合物AがCavitron(商標)W7HP5中に処方されている他の試験では、沈殿は目視観察されない。
【0123】
実施例4:他の賦形剤の存在下又は非存在下での化合物A及びHP-β-シクロデキストリンから製造された凍結乾燥物の物理的安定性の試験
グルコースの非存在下又は存在下での用量20mg/mLの化合物Aを含有する20%シクロデキストリン溶液の調製
100mLフラスコに、Cavitron(商標)W7HP5 20g及び「化合物A・HSO」2.26gを投入する。混合物の成分の可溶化が完了するまで、激しい磁気撹拌下で全体を60℃で加熱する。周囲温度に戻し、ビーカーに移してからpHを測定する。0.5N NaOH溶液でpHを3に調整する。該当する場合は、無水グルコース1.2gを加える。
水で容量を100mLにする。次にpH及び浸透圧を確認する。得られた溶液をセルロースシリンジフィルターで濾過する。こうして得られた溶液(グルコースの有無にかかわらず)を次に凍結乾燥する。
【0124】
グルコース、マンニトール、スクロース、トレハロース及びソルビトールを包含する様々な糖の非存在下又は存在下での用量15mg/mLの化合物Aを含有する20%シクロデキストリン溶液の調製
100mLフラスコに、Cavitron(商標)W7HP5 20g及び「化合物A・HSO」1.70gを投入する。混合物の成分の可溶化が完了するまで、激しい磁気撹拌下で全体を60℃で加熱する。周囲温度に戻し、ビーカーに移してからpHを測定する。1.0N NaOH溶液でpHを4.0に調整する。該当する場合は、無水グルコース、マンニトール、スクロース、トレハロース又はソルビトール1.0又は2.0gを加える。
水で容量を100mLにする。次にpH及び浸透圧を確認する。得られた溶液をセルロースシリンジフィルターで濾過する。こうして得られた溶液(グルコースの有無にかかわらず)を次に凍結乾燥する。
【0125】
結果
10~20mg/mLのグルコース、マンニトール、スクロース、トレハロース又はソルビトールを含有する溶液の浸透圧は400mOsm/kgを超えるが、グルコースを含まない溶液の浸透圧は約300mOsm/kgである。製剤からグルコースを省くということは、浸透圧を大幅に低下させる。しかし、非経口投与の目的には、グルコースを含まない溶液の浸透圧は許容可能である。
得られた凍結乾燥物は、グルコース、マンニトール、スクロース、トレハロース又はソルビトールの有無にかかわらず、堅牢な物理的特性、即ち、良好な固形物の外観及び許容し得る再構成時間を有する。
【0126】
結論
この試験は、グルコース、マンニトール、スクロース、トレハロース又はソルビトールの存在が凍結乾燥物の製剤において必須ではないことを示しており、これにより、この賦形剤に関連する分解のリスクを克服することができる。用量20mg/mLの化合物A及び200mg/mLのHP-β-シクロデキストリンを含有する溶液中での5%グルコース又は5%マンニトールの存在下での追加試験は、凍結乾燥物の物理的特性の改善をもたらさなかった。
【0127】
実施例5:20mLバイアル中のHP-β-シクロデキストリンに可溶化された化合物Aの凍結乾燥物の調製
凍結乾燥物は、非経口経路で投与される溶液を再構成することが可能である20mLバイアル中に調製される。これらは用量20mg/mLの化合物A(遊離塩基)を含有する20% Cavitron(商標)W7HP5溶液の凍結乾燥によって得られる。
【0128】
手順
5L反応器に、水1500gを秤量する。磁気撹拌により渦巻を作り、次にCavitron(商標)W7HP5 600gを流し込む。シクロデキストリンが完全に可溶化するまで媒体を周囲温度で撹拌し、「化合物A・HSO」68.16gを加え、溶液を60℃以下に加熱する。懸濁液を数時間磁気撹拌下に置き、次に媒体を30℃未満の温度に戻す。こうして得られた溶液のpHを測定し、次に0.5M NaOH溶液をゆっくりと注ぎ入れてpH3.0に調整する。磁気撹拌を維持しながら、水を加えて溶液を3Lの容量にする。
こうして得られた溶液を0.2μmフィルターに通す。
各バイアルが化合物A(遊離塩基として表される)少なくとも150mgを含有するように、20mLバイアルに濾過溶液を充填し、試料を凍結乾燥工程に付す。
得られた凍結乾燥物は、非経口投与用の医薬組成物の調製に使用することを目的としている。更なる実験は、上記の凍結乾燥物から開始して水中で再構成した後に化合物A 20mg/mLで投与された医薬組成物のpHが、凍結乾燥工程の前に観察された溶液のpHとほぼ同じであること、即ち、2.9~3.1の間に含まれることを示している。結果として、本医薬品のpH仕様は2.5~3.5の間に設定されている。
【0129】
実施例6:グルコース5%溶液(G5)250mLに希釈した際の化合物Aの溶液の安定性
この試験の目的は、Cavitron(商標)W7H5中に可溶化され、グルコース5%(G5溶液)250mLのバッグ中に希釈された7つの異なる濃度の化合物AのpHを決定すること、及び次に試験された異なる濃度(G5 250mL中、活性成分12mg、25mg、50mg、100mg、250mg、500mg及び1g)で沈殿がないことを目視確認することである。使用される化合物Aは、硫酸水素塩の形態である。また、溶液の目に見えない粒子混入は、光遮蔽法によって抑制された。
【0130】
手順
用量200mg/mLのCavitron(商標)W7H5及び20mg/mLの化合物A(遊離塩基として表される)を含有する母液を、実施例5に記載のように、凍結乾燥物を必要量の水に溶解することによって調製する。次にこうして得られた溶液を、グルコース5%溶液(G5)を使用して希釈する。
得られた溶液のpHを測定し、溶液の外観を観察する。沈殿が観察されるまで、NaOH 0.01N溶液を使用してpHを上げる。
【0131】
結果
G5溶液のpHは3.02~4.353の間である。
【0132】
【表6】
【0133】
Cavitron(商標)W7H5溶液によって可溶化された化合物Aの溶液は、12~1000mg/250mL G5溶液の濃度でG5溶液に希釈した際に沈殿しない。したがって本発明において処方された化合物Aは、非経口経路で投与される前に、水中で再構成されて、広範囲の濃度にわたって5%グルコース250mLのバッグで希釈されることが可能である。
【0134】
更には、経時的な物理的安定性の試験(24時間、48時間及び72時間)が、本明細書前記で得られた溶液で実行される。詳細には、これらの試験は、欧州薬局方2.9.19試験1.Bの本文に記載されている方法(即ち、光遮蔽による肉眼で見えない粒子の計数)による試験溶液の粒子計数を包含する。
【0135】
実験室の照明(1500ルクス)及び種々の熱条件(周囲温度、5℃)下での製品の安定性を確保するために、経時的な化学的安定性の試験(24時間、48時間及び72時間)も設定される。これらの試験は、特に活性成分及び分解生成物の量の測定を包含する。G5溶液に希釈されたCavitron(商標)W7H5溶液によって可溶化された化合物Aの医薬組成物は、以下の濃度について試験された:12mg/250mL、20mg/250mL及び1000mg/250mL G5溶液。72時間に試験された全ての条件で、顕著な化学分解生成物は観察されなかった。更に、光遮蔽法を使用して検出された肉眼で見えない粒子の割合は、欧州薬局方2.9.19の要件に準拠していた。結論として、上記の医薬組成物は、合理的な時間スケールにわたって妥当な用量の化合物Aの投与を可能にするために適切な条件及び容器において安定である。
【0136】
実施例7:週1回の静脈内投与スケジュールを使用したマウスのRS4;11異種移植モデルにおけるHP-β-シクロデキストリン中に処方された化合物Aの有効性
20% HP-β-シクロデキストリンw/vを含む溶液中に処方された化合物Aのインビボ治療効果は、静脈内投与後にRS4;11モデルにおいて決定された。
【0137】
材料と方法
ATCCから入手したRS4;11細胞株を、Charles Riverから提供されたメスのSCIDマウスに皮下注射した。腫瘍が適切な腫瘍体積に達したら、Easystatソフトウェアを使用してマウスをランダム化した。化合物A(遊離塩基として表される15mg/kg又は40mg/kg)を2週間にわたって週1回静脈内注射した。
【0138】
注射用溶液の調製:
100mLフラスコにCavitron(商標)W7HP5 20gを投入し、水/0.9% NaCl(70/30、v/v)溶液約75mLを加える。室温で15分間撹拌する。次に、磁気撹拌を維持しながら、前記の水/0.9% NaCl溶液を加えて溶液を100mLの容量にする。必要量の「化合物A・HSO」を秤量し、前記の20%w/v Cavitron(商標)W7H5溶液でこれを溶解する。混合物の成分の可溶化が完了するまで、激しい磁気撹拌下で全体を60℃で加熱する。得られた溶液のpHを測定する。化合物Aの濃度に応じて、HCl 0.1N又はNaOH 0.1Nのいずれかを一滴ずつ加えてpHを3に調整する。混合物を少なくとも1時間撹拌する。得られた溶液を0.2μmフィルターで濾過する。
この手順に従って、用量4mg/mLの化合物Aを含有する20%w/v Cavitron(商標)W7H5溶液を調製した。また、用量1.5mg/mLの化合物Aを含有する2番目の溶液を、前記溶液を20%w/v Cavitron(商標)W7H5溶液で更に希釈することによって調製した。
【0139】
マウスの腫瘍の発生及び体重を週3回モニターし、電子ノギスを使用して腫瘍のサイズを測定した。腫瘍体積は、式:(最小直径)(最大直径)/2を使用して、最小及び最大腫瘍直径を測定して推定された。全ての対照動物が試験中になお存在している最終日、腫瘍成長阻害は下記式:
【0140】
【数1】

[式中、「DxでのDTV(Delta Tumor Volume)」は以下のとおり計算される:
(DxでのTV)-(ランダム化時点のTV)
「TV」は「腫瘍体積」を意味する]を使用して計算された。
【0141】
腫瘍体積が2000mmを超えた最初の測定時又は動物の健康状態の悪化時にマウスを屠殺した。全ての実験は、2018年に施行されたフランスの法規に準拠して実施された。SCIDマウスは、施設のガイドラインに従って維持された。
【0142】
結果
20% HP-β-シクロデキストリン溶液中に処方され、週1回2週間静脈内投与された化合物Aは、RS4;11移植メスSCIDマウスに対して15mg/kg及び40mg/kgで抗腫瘍活性を有することが示された(図1)。試験終了時の21日目に、腫瘍成長阻害は、15mg/kgで57.83%、40mg/kgで75.52%であった(薬物曝露量はそれぞれ20463ng.h/ml及び46509ng.h/ml)。Cmaxは、14692ng/mlから23290ng/mlへと用量比例的に増加した(表1)。
【0143】
表1:20%HP-β-シクロデキストリン溶液中に処方された「化合物A・HSO」の15mg/kg及び40mg/kgの1回の静注処置後のRS4;11移植メスSCIDマウスについて測定されたPKパラメーター。
【0144】
【表7】

「AUC」は、投与時から最終時点までの観察された血中濃度対時間曲線下の面積に相当する。
【0145】
試験中に処置による臨床的に意義のある体重減少は観察されず(図2)、ほとんどのマウスで壊死を包含する他の臨床症状は見られなかった。結論として、体重変化に基づいて、シクロデキストリンに基づく製剤の両投与レジメンでは良好な忍容性を示した。
【0146】
実施例8:臨床試験プロトコール
再発又は難治性の急性骨髄性白血病、非ホジキンリンパ腫又は多発性骨髄腫の患者を対象に、静脈内投与の化合物Aを評価するために、第I相、非盲検、非ランダム化、非比較、多施設試験が設定された。患者約60人が試験に登録される。本試験は2つの部分で設計される:第1部は用量漸増、第2部は用量拡張。
【0147】
主要目的:
急性骨髄性白血病(AML)、非ホジキンリンパ腫(NHL)又は多発性骨髄腫(MM)の患者における化合物Aの安全性プロフィール(用量制限毒性(DLT)及び最大耐量(MTD)を包含する)及び忍容性、並びに安全性、PK及び予備的有効性の結果に応じた推奨される第II相用量(RP2D)を決定すること。
【0148】
二次的な目的:
- 血漿中及び尿中の化合物Aの薬物動態(PK)プロフィールを決定すること。
- 評価された各集団(AML、NHL、MM)に適切な応答基準を使用して、化合物Aの予備的な抗腫瘍活性を算定すること。
【0149】
試験薬:
- 化合物Aは中心静脈ライン又は末梢静脈ラインを介した点滴で静脈内投与される。
- 点滴用の溶液は、実施例5に記載のように、HP-β-シクロデキストリンで処方された化合物A(遊離塩基として表される)150mgを含有する20mLバイアルを使用して調製される。
- 予備的な安全性及びPKデータに基づいて、点滴の期間を合わせることができる。
【0150】
用量割り当て方法:
全ての適応症に対してまとめられ、過量投与制御を伴う用量漸増(EWOC)法によって導かれる、階層ベイズモデル(BHM)が、用量漸増を導くため、及びサイクル1中のDLTの発生に基づいてMTDを推定するために使用される。
あるいは、過量投与制御を伴う用量漸増(EWOC)法によって導かれる適応的ベイズロジスティック回帰モデル(BLRM)が、サイクル1中のDLTの発生に基づいて推奨用量を作成するため、及び単剤として投与された化合物AのMTD/RP2Dを推定するために使用される。
【0151】
処置期間:
処置の計画期間は、疾患進行までである。患者は、許容し得ない毒性のせいで治験薬による処置を早期に中断される可能性があるか、かつ/又は治験責任医師若しくは患者の裁量で処置が中断される。
【0152】
実施例9:HP-β-シクロデキストリン溶液へのNaOHの添加による化合物Aの沈殿pHの調査
本試験の目的は、HP-β-シクロデキストリン溶液からの化合物A(硫酸水素塩)の沈殿pHを決定して、沈殿のリスクをよりよく理解すること、及び医薬品のpHを選択することである。
【0153】
HP-β-シクロデキストリン及び化合物Aを含有する溶液の調製
50mLフラスコにCavitron(商標)W7H5 10gを量り取る。水26gを加え、次に磁気撹拌下でCavitron(商標)W7H5を可溶化する。磁気撹拌下で化合物A 1.14gを注意深く加え、次に水6.5mLを加える。60℃で磁気撹拌を使用して化合物Aを可溶化する。全体に可溶化した時点で、溶液を室温で冷却し、次にフラスコの上端を水0.5mLで濯ぐ。加えられた水の総量は35mLである。
【0154】
0.5M NaOH溶液を使用したpH調整
沈殿が目視観察されるまで、連続的に撹拌しながら0.5M NaOH溶液をゆっくり加える(各添加工程で100μLを加える)。実験は二重反復で実行した。沈殿した固体を、RMN、XRPD、XRF、及びHPLCで分析するために、分離し、乾燥させる。
【0155】
結果
薬物の沈殿はpH4.27で観察された。加えられたNaOHの容量は、pH3.0に達したときの最終バルク溶液の容量の5%に相当し、そしてpH4.27に達したときの最終バルク溶液の容量の6%に相当した。
この結果に基づいて、医薬組成物のpHを4.3まで上昇させることができた。
NMR及びXRPDの結果は、化合物Aが1:1.4のモル比でHP-β-シクロデキストリンの存在下で非晶形の遊離塩基として沈殿したことを示した。HPLCの結果は、沈殿物が追加の不純物の存在なしに25%w/w化合物Aによって構成されたことを示唆したが、これは、NMRによって見い出された化合物A:HP-β-シクロデキストリン比と一致する。
図1
図2