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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-23
(45)【発行日】2024-07-31
(54)【発明の名称】金属有機構造体の製造及び使用
(51)【国際特許分類】
   C07F 5/06 20060101AFI20240724BHJP
   C09K 3/00 20060101ALI20240724BHJP
   C07F 19/00 20060101ALI20240724BHJP
   C07F 15/02 20060101ALI20240724BHJP
【FI】
C07F5/06 D
C09K3/00 108B
C07F19/00
C07F15/02
【請求項の数】 23
(21)【出願番号】P 2021559977
(86)(22)【出願日】2020-04-01
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-04-28
(86)【国際出願番号】 US2020026211
(87)【国際公開番号】W WO2020210103
(87)【国際公開日】2020-10-15
【審査請求日】2022-11-07
(31)【優先権主張番号】62/832,919
(32)【優先日】2019-04-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】523025539
【氏名又は名称】エクソンモービル テクノロジー アンド エンジニアリング カンパニー
【氏名又は名称原語表記】ExxonMobil Technology and Engineering Company
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100138885
【弁理士】
【氏名又は名称】福政 充睦
(72)【発明者】
【氏名】ファルコフスキー,ジョセフ エム
(72)【発明者】
【氏名】コルトゥノフ,パヴェル
(72)【発明者】
【氏名】ジョシ,ヨゲシュ ブイ
(72)【発明者】
【氏名】マハノ,ヘラルド ホタ
【審査官】石田 傑
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-530718(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109364756(CN,A)
【文献】HUANG, D et al.,Preparation of metal-organic frameworks with bimetallic linkers and corresponding properties,New Journal of Chemistry,2019年,Vol.43,pp.7243-7250
【文献】KIM, M et al.,Postsynthetic Ligand and Cation Exchange in Robust Metal-Organic Frameworks,Journal of the American Chemical Society,2012年,Vol.134,pp.18082-18088
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性構造を有し、アルミニウム及び鉄のカチオンを含むバイメタルテレフタレート金属有機構造体(MOF)の製造方法であって:
(a)水と極性有機溶媒とのフッ化物非含有混合物を提供するステップと;
(b)水溶性アルミニウム塩と、キレート鉄化合物と、1,4-ベンゼンジカルボン酸又はその誘導体若しくは塩とを前記混合物に200℃未満の反応温度で接触させて、前記MOFを含む固体反応生成物を生成するステップと;
(c)前記混合物から前記MOFを回収するステップとを含み、
の流動雰囲気下で200℃においてX線回折分析を行うと、前記回収されたMOF生成物が、少なくとも表1:
【表1】
に列挙される特性線を含むパターンを示す、方法。
【請求項2】
前記極性有機溶媒が、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、及びエチレングリコールの少なくとも1つを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記キレート鉄化合物がジオン酸鉄化合物を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記キレート鉄化合物が、鉄アセチルアセトネート、トリス(2,6-ジメチル-3,5-ヘプタンジオン酸)鉄、及び/又はトリス(2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタンジオン酸)鉄の少なくとも1つを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記接触ステップ(b)中に前記キレート鉄化合物がその場で形成される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記キレート鉄化合物があらかじめ形成され、前記接触ステップ(b)に加えられる、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記反応温度が25℃~150℃である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記接触が少なくとも6時間行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
(c)で回収される前記MOFが、エネルギー分散型X線分光分析(EDX)によって測定して、前記MOFの全金属含有量を基準として少なくとも10モル%のアルミニウムを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
(c)で回収される前記MOFが、エネルギー分散型X線分光分析(EDX)によって測定して、前記MOFの全金属含有量を基準として最大90モル%のアルミニウムを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
可撓性構造を有し、アルミニウム及び鉄のカチオンを含むバイメタルテレフタレート金属有機構造体(MOF)の製造方法であって:
(a)水と極性有機溶媒とのフッ化物非含有混合物を提供するステップと;
(b)水溶性アルミニウム塩と、キレート鉄化合物と、1,4-ベンゼンジカルボン酸又はその誘導体若しくは塩とを前記混合物に200℃未満の反応温度で接触させて、前記MOFを含む固体反応生成物を生成するステップと;
(c)前記混合物から前記MOFを回収するステップとを含み、
30℃においてメタン吸着測定を行うと、前記回収されたMOF生成物が8bar未満の圧力において、変曲点を含むメタン吸着等温線を示す、方法。
【請求項12】
30℃においてメタン吸着測定を行うと、前記MOF生成物が、20barのメタンにおいて2mmol/gを超える吸着容量を示す、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記極性有機溶媒が、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、及びエチレングリコールの少なくとも1つを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記キレート鉄化合物がジオン酸鉄化合物を含む請求項11に記載の方法。
【請求項15】
前記キレート鉄化合物が、鉄アセチルアセトネート、トリス(2,6-ジメチル-3,5-ヘプタンジオン酸)鉄、及び/又はトリス(2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタンジオン酸)鉄の少なくとも1つを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項16】
前記接触ステップ(b)中に前記キレート鉄化合物がその場で形成される、請求項11に記載の方法。
【請求項17】
前記キレート鉄化合物があらかじめ形成され、前記接触ステップ(b)に加えられる、請求項11に記載の方法。
【請求項18】
前記反応温度が25℃~150℃である、請求項11に記載の方法。
【請求項19】
前記接触が少なくとも6時間行われる、請求項11に記載の方法。
【請求項20】
(c)で回収される前記MOFが、エネルギー分散型X線分光分析(EDX)によって測定して、前記MOFの全金属含有量を基準として少なくとも10モル%のアルミニウムを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項21】
(c)で回収される前記MOFが、エネルギー分散型X線分光分析(EDX)によって測定して、前記MOFの全金属含有量を基準として最大90モル%のアルミニウムを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項22】
少なくとも1つのC4-炭化水素を含むガスの吸着方法であって、請求項1に記載の方法によって製造される、MIL-53の構造を有し、鉄及びアルミニウムのカチオンを含む金属有機構造体(MOF)に前記ガスを接触させるステップを含む方法。
【請求項23】
少なくとも1つのC4-炭化水素を含むガスの吸着方法であって、請求項11に記載の方法によって製造される、MIL-53の構造を有し、鉄及びアルミニウムのカチオンを含む金属有機構造体(MOF)に前記ガスを接触させるステップを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、金属有機構造体(MOF)、特に、MIL-53及びMIL-53に類似のMOFなどの可撓性構造を有するテレフタレートMOFの製造及び使用に関する。
【背景技術】
【0002】
金属有機構造体(MOF)は、金属イオン及び有機リガンドの自己組織化によって調製された多孔質結晶性材料である。MOFは、大きな細孔容積、及び8,000m/gまでの大きさの見かけの表面積の表面積を有することができる。MOFは、構造的多様性及び化学的多様性を併せ持ち、そのため、ガス貯蔵、ガス分離及び精製、検出、触媒反応、並びに薬物送達などの多くの潜在的用途で関心が持たれている。より伝統的な多孔質材料に対するMOFの最も顕著な利点は、MOFが形成される適切な構成単位、すなわち金属イオン及び有機リガンドを選択することによって、ホスト/ゲスト相互作用を調整できることである。さらに、純粋に無機ゼオタイプと比較すると、MOFは独特の構造的特徴を示すことができ、その顕著な一例は大きな構造的可撓性であり、温度変化、又はゲスト分子の導入及び除去に応答して、可逆的な膨張及び収縮が起こりうる。
【0003】
特に関心の高いMOF材料の1つはMIL-53である。この材料は、一般的な化学組成がMIII(BDC)(OH)であり、1,4-ベンゼンジカルボキシレート(BDC)ジアニオンによって互いに架橋したトランス結合金属-酸化物八面体の1次元(1-D)鎖からなる。この材料の最も単純な形態では、金属は、三価であり、八面体環境において、1,4-ベンゼンジカルボキシレートからの4つの酸素原子、及びトランス架橋するμ2-ヒドロキシル基からの2つの酸素原子に配位する。1-D金属-酸化物鎖とBDCリンカーとの相互接続性によって、ヒドロキシド鎖と平行に走る1-D菱形チャネルを有する構造が得られる。これらのチャネルは、典型的には溶媒及び/又は未反応の1,4-ベンゼンジカルボン酸によって占められ、高温又は減圧を用いて除去することができる。MIL-53構造の可撓性は十分に実証されており、温度、圧力、又はゲスト分子の添加によって、フレームワークは、数オングストロームの原子の変位を伴う大きな膨張を引き起こす場合があるが、構造のトポロジーは維持される。
【0004】
MIL-53構造の可撓性は、金属及び有機結合アニオンの性質にも依存する。現在まで、MIL-53材料の可撓性及び吸着特性を変化させようとする試みは、種々の官能基で有機リンカーを変性させることに主として集中している。しかし、MIL-53挙動を変化させるより単純でより直感的な方法は、特に構造の可撓性に拮抗する挙動を有する金属を用いたバイメタルMIL-53材料を合成することである。例えば、クロム及びアルミニウム材料は、加熱によって完全に開放された、すなわち「LP」(大細孔)構造に変換され、細孔容積が大きく増加し、一方、鉄類似体ではその構造のわずかな収縮が起こる。さらに加熱される場合でさえも、MIL-53(Fe)の膨張はごくわずかであり、実質的に「NP」(小細孔)構造のままとなる。
【0005】
MIL-53の吸着特性を調整するためのバイメタル方法の1つが、非特許文献1に記載される。この方法では、金属塩化物を1,4-ベンゼンジカルボン酸とともに、N,N’-ジメチルホルムアミド、水、及びフッ化水素酸の混合物中170~200℃の温度で最長3日間加熱することによって、MIL-53の混合鉄-バナジウム類似体が合成された。しかし、得られる最大バナジウム含有量が50%であったという点で、この方法によるMIL-53の組成を調整する能力が限定された。著者らによると、この値を超えるまでバナジウム含有量を増加させようとする試みでは、「周知のV(III)相MIL-68(V)の形成」(“to the formation of the known V(III) phase MIL-68(V)”)が起こった。
【0006】
MIL-53(Cr-Fe)を生成するための類似の直接合成方法が非特許文献2に記載される。この方法は、硝酸クロム、鉄粉末、フッ化水素酸、及びテレフタル酸の水中の化学量論混合物を453Kで4日間加熱することを含む。しかし、著者らは、著者らの合成技術によってカチオン含有量、したがって吸着特性を精密に調整する能力を示していないだけでなく、この合成は、クロムをベースとする材料中に鉄の組み込みを可能にするために過酷な無機化条件(高温、フッ化水素酸)も必要である。
【0007】
例えばMIL-53(Al)とMIL-53(Fe)との間の固固カチオン交換を伴う別の方法の1つが、非特許文献3に記載される。この機構は、間接的であることに加えて、広い範囲の金属組成を有する材料が得られた。それらの実験において、著者らは、>60%の材料が変化しないままであった(すなわち、依然として100%のFe又は100%のAlを含んだ)ことを確認している。さらに、著者らは、どのような鉄及びアルミニウムの濃度を得ることができるかを説明していない。しかし、示される結果に基づくと、非常に広い分布のみ得られると予想される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【文献】Breeze,M.I.;Clet,G.;Campo,B.C.;Vimont,A.;Daturi,M.;Greneche,J-M.;Dent,A.J.;Millange,F.and Walton,F.I.によるタイトル“Isomorphous Substitution in a Flexible Metal-Organic Framework:Mixed-Metal,Mixed-Valent MIL-53 Type Materials”の論文,Inorg.Chem.2013,52,8171-8172
【文献】Nouar,F.;Devic,T.;Guillou,N.;Gibson,E.;Clet,G.;Daturi,M.;Vimont,A.;Greneche J-M.;Breeze,M.I.;Walton,R.I.;Llewellyn,P.L.;and Serre,C.,“Tuning the breathing behaviour of MIL-53 by cation mixing”,Chem.Commun.2012,48,10237-10239
【文献】Kim,M.;Cahill,J.F;Fei,H.;Prather,K.A.;and Cohen,S.M.によるタイトル“Postsynthetic Ligand and Cation Exchange in Robust Metal-Organic Frameworks”の論文,J.Am.Chem.Soc.2012,134,18082-18088
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、広い程度にわたって細かい制御で金属比を調整することができ、さらに腐食性/毒性の溶媒を使用せずに穏やかな条件下で行うことができる、バイメタル形態のMIL-53及び類似の可撓性MOFの新規な製造方法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によると、MIL-53に一致する可撓性構造を有するAl/Fe含有テレフタレートMOFを、比較的穏やかな条件下でフッ化物非含有混合溶媒系から生成できることが分かった。この方法は、広範囲にわたって細かい制御でAl:Fe比を調整することができ、独特で予測可能な吸着現象を実現できる。
【0011】
したがって、一態様では、可撓性構造を有し、アルミニウム及び鉄のカチオンを含むテレフタレート金属有機構造体(MOF)の製造方法であって:
(a)水と極性有機溶媒とのフッ化物非含有混合物を提供するステップと;
(b)水溶性アルミニウム塩と、キレート鉄化合物と、1,4-ベンゼンジカルボン酸又はその誘導体若しくは塩とを上記混合物に200℃未満の反応温度で接触させて、MOFを含む固体反応生成物を生成するステップと;
(c)混合物からMOFを回収するステップとを含み、
の流動雰囲気下で200℃においてX線回折分析を行うと、回収されたMOF生成物が、少なくとも表1に列挙される特性線を含むパターンを示す、方法が提供される。
【0012】
【表1】
【0013】
別の一態様では、可撓性構造を有し、アルミニウム及び鉄のカチオンを含むテレフタレート金属有機構造体(MOF)の製造方法であって:
(a)水と極性有機溶媒とのフッ化物非含有混合物を提供するステップと;
(b)水溶性アルミニウム塩と、キレート鉄化合物と、1,4-ベンゼンジカルボン酸又はその誘導体若しくは塩とを上記混合物に200℃未満の反応温度で接触させて、MOFを含む固体反応生成物を生成するステップと;
(c)混合物からMOFを回収するステップとを含み、
メタン吸着測定によって分析すると、回収されたMOF生成物が8bar未満の圧力(純粋なMIL-53(Fe)吸着等温線の変曲の圧力)においてメタン吸着等温線の変曲を示す、方法が提供される。
【0014】
さらに別の態様では、本発明は、本明細書に記載の方法によって製造される可撓性構造を有するAl/Fe含有テレフタレートMOF、及び得られたMOFのメタンの吸着における使用にある。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】それぞれ200℃(上)及び30℃(下)で行った実施例1~3のMOF生成物(アルミニウム及び鉄を異なる量で含有する)のX線回折パターンを示している。
図2】実施例1~3のMOF生成物に対して30℃で行った重量メタン吸着等温線を、100%アルミニウム及び100%鉄を含む試料の吸着等温線と比較している。
図3】実施例1のMOF生成物(EDXによって測定して、全金属含有量を基準として約50モル%のAlを含む)の30℃で行った体積メタン吸着等温線を示している。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本開示は、可撓性構造を有し、アルミニウム及び鉄のカチオンを含むテレフタレート金属有機構造体(MOF)の新規で有利な製造方法を提供する。本発明の方法は、水と極性有機溶媒とのフッ化物非含有混合物を提供するステップと、次にこの混合物を水溶性アルミニウム塩と、キレート鉄化合物と、1,4-ベンゼンジカルボン酸又はその塩とに200℃未満の反応温度で接触させて、MIL-53に類似の可撓性構造を有するAl/Fe含有MOFを含む固体反応生成物を生成するステップとを含む。MOFは次に混合物から回収することができる。
【0017】
水と混和性の溶媒、及び水と非混和性の溶媒などの極性有機溶媒を、フッ化水素酸の非存在下で水と混合して、フッ化物非含有混合物を形成することができる。適切な極性有機溶媒の例としては、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、ジメチルフロムアミド(dimethylfromamide)、及びエチレングリコールが挙げられる。溶媒の水に対する体積比は重要ではないが、一般に水/溶媒混合物は、少なくとも50体積%、例えば少なくとも60体積%、例えば少なくとも70体積%の水を含み、残りが極性有機溶媒である。
【0018】
あらゆる水溶性アルミニウム塩を本発明の方法に使用することができ、例えば、塩化アルミニウム、臭化アルミニウム、ヨウ化アルミニウム、フッ化アルミニウム、硝酸アルミニウム、酢酸アルミニウム、ギ酸アルミニウム、及び硫酸アルミニウムなどを使用することができる。一般に硝酸アルミニウムが好ましい。
【0019】
同様に、あらゆる周知のキレート鉄化合物、特にFe3+化合物を本発明の方法に使用することができる。特に、従来の鉄塩と比較してキレート鉄出発物質を使用することは、MOFのフレームワーク中への鉄の混入のより良い制御に重要であると思われることが分かった。適切な鉄キレートとしては、ジオン酸鉄化合物、例えば鉄アセチルアセトネート、トリス(2,6-ジメチル-3,5-ヘプタンジオン酸)鉄、又はトリス(2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタンジオン酸)鉄が挙げられる。これらの鉄キレートは、直接加えることができ、又はその場で生成することができる。
【0020】
本発明の方法に使用される反応混合物中のアルミニウム塩及び鉄キレートの相対量は、最終MIL-53材料の所望の組成によって決定されることになるが、一般に反応混合物は、混合物の全金属含有量を基準として少なくとも10モル%、例えば18~90モル%のアルミニウム塩を含むべきである。
【0021】
アルミニウム塩及び鉄キレートに加えて、本発明の方法に使用される反応混合物は、1,4-ベンゼンジカルボン酸、又はその置換誘導体若しくは塩を含む。適切な1,4-ベンゼンジカルボン酸塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、及びアンモニウム塩が挙げられる。適切な1,4-ベンゼンジカルボン酸誘導体としては、ハロ置換誘導体、例えばクロロ置換誘導体が挙げられる。幾つかの実施形態では、反応混合物中に存在する1,4-ベンゼンジカルボン酸成分の量は、反応混合物中のアルミニウム塩及び鉄キレートの総量の50~300モル%、例えば150~250モル%で変動する。
【0022】
混合水及び極性有機溶媒の存在下でのアルミニウム塩、鉄キレート、及び1,4-ベンゼンジカルボン酸の間の反応は、広範囲にわたる温度及び時間で行うことができ、多いMOF生成のためにはより低温ではより長時間が必要となる。実施形態では、反応温度は、200℃未満、例えば25℃~150℃、例えば50℃~150℃、例えば75℃~125℃である。反応時間は、通常少なくとも6時間、例えば12~96時間である。
【0023】
本明細書に記載の方法の生成物は、MIL-53と類似又は同様の可撓性構造を有し、鉄及びアルミニウムのカチオンを含むテレフタレート金属有機構造体(MOF)である。Nの流動雰囲気下で200℃においてX線回折分析を行うと、結果として、少なくとも表1に列挙される特性線を含むパターンが示される。
【0024】
【表2】
【0025】
本明細書に報告されるすべてのX線回折データは、Xceleratorマルチチャネル検出器を有し、ゲルマニウム固体検出器が取り付けられたPanalyticalX’PertPro回折システムを用いて、銅Kα線を使用し、Nの流動雰囲気下で200℃に設定したAntonPaarHTK600試料ステージ上で収集した。回折データは、0.02度の2θ(ここでθはブラッグ角である)におけるステップ走査により、各ステップ2秒の有効カウント時間を用いて記録した。面内間隔のd間隔は、オングストローム単位で計算し、線の相対強度I/Iは、バックグラウンドの上のピーク強度の最強線の強度に対する比である。強度は、ローレンツ効果及び偏極効果に関しては補正されていない。相対強度は記号のvs=非常に強い(75~100)、s=強い(50~74)、m=中間(25~49)、及びw=弱い(0~24)で示される。
【0026】
特に、最終材料のアルミニウム含有量が増加すると、X線粉末回折パターンは、大細孔型のMIL-53の存在の増加を示すことが分かった。以下の実施例で議論されるように、これは特に、6.5Å~10Åの間のd間隔値が中心のX線の強度及び位置のばらつきから明らかである。
【0027】
本明細書に記載の方法の生成物は、生成物が8bar未満のメタン圧力(純粋なMIL-53(Fe)のメタン吸着等温線の変曲の圧力)、典型的には6bar以下のメタン圧力において重量メタン吸着等温線の変曲を示すという点で、メタン吸着によってさらに特徴づけることができる。幾つかの実施形態では、30℃においてメタン吸着測定を行うと、MOF生成物は、20barのメタン圧力において2mmol/gMOF生成物を超える吸着容量を示す。ガス吸着等温線は、Hiden Isochema IGA重量ガス吸着分析装置上で30℃で測定した。
【0028】
本発明の方法によって製造されるアルミニウム及び鉄を含有するMIL-53は、種々の用途、例えば触媒として、又は小さい炭化水素分子、特にC4-分子、特にメタン含有混合物、例えば天然ガスの吸着剤として有用である。周知のように、天然ガスは、典型的には>85モル%のメタン、<10モル%のエタン、並びにより少量のプロパン及びブタンを含む。
【0029】
実施形態
実施形態1。可撓性構造を有し、アルミニウム及び鉄のカチオンを含むバイメタルテレフタレート金属有機構造体(MOF)の製造方法であって:
(a)水と極性有機溶媒とのフッ化物非含有混合物を提供するステップと;
(b)水溶性アルミニウム塩と、キレート鉄化合物と、1,4-ベンゼンジカルボン酸又はその誘導体若しくは塩とを上記混合物に200℃未満の反応温度で接触させて、MOFを含む固体反応生成物を生成するステップと;
(c)前記混合物からMOFを回収するステップとを含み、
の流動雰囲気下で200℃においてX線回折分析を行うと、回収されたMOF生成物が、少なくとも表1に列挙される特性線を含むパターンを示す、方法。
【0030】
【表3】
【0031】
実施形態2。可撓性構造を有し、アルミニウム及び鉄のカチオンを含むバイメタルテレフタレート金属有機構造体(MOF)の製造方法であって:
(a)水と極性有機溶媒とのフッ化物非含有混合物を提供するステップと;
(b)水溶性アルミニウム塩と、キレート鉄化合物と、1,4-ベンゼンジカルボン酸又はその誘導体若しくは塩とを上記混合物に200℃未満の反応温度で接触させて、MOFを含む固体反応生成物を生成するステップと;
(c)上記混合物からMOFを回収するステップとを含み、
30℃においてメタン吸着測定を行うと、回収されたMOF生成物が8bar未満の圧力においてメタン吸着等温線の変曲を示す、方法。
【0032】
実施形態3。30℃においてメタン吸着測定を行うと、MOF生成物が、20barのメタンにおいて2mmol/gを超える吸着容量を示す、実施形態2の方法。
【0033】
実施形態4。極性溶媒が、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、及びエチレングリコールの少なくとも1つを含む、実施形態1~3のいずれか1つの方法。
【0034】
実施形態5。キレート鉄化合物がジオン酸鉄化合物を含む実施形態1~4のいずれか1つの方法
【0035】
実施形態6。キレート鉄化合物が、鉄アセチルアセトネート、トリス(2,6-ジメチル-3,5-ヘプタンジオン酸)鉄、及び/又はトリス(2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタンジオン酸)鉄の少なくとも1つを含む、実施形態1~5のいずれか1つの方法。
【0036】
実施形態7。接触ステップ(b)中に前記キレート鉄化合物がその場で形成される、実施形態1~6のいずれか1つの方法。
【0037】
実施形態8。キレート鉄化合物があらかじめ形成され、接触ステップ(b)に加えられる、実施形態1~6のいずれか1つの方法。
【0038】
実施形態9。反応温度が25℃~150℃である、実施形態1~8のいずれか1つの方法。
【0039】
実施形態10。接触が少なくとも6時間行われる、実施形態1~9のいずれか1つの方法。
【0040】
実施形態11。(c)で回収されるMOFが、エネルギー分散型X線分光分析(EDX)によって測定して、MOFの全金属含有量を基準として少なくとも10モル%のアルミニウムを含む、実施形態1~10のいずれか1つの方法。
【0041】
実施形態12。(c)で回収されるMOFが、エネルギー分散型X線分光分析(EDX)によって測定して、MOFの全金属含有量を基準として最大90モル%のアルミニウムを含む、実施形態1~11のいずれか1つの方法。
【0042】
実施形態13。実施形態1~12のいずれか1つの方法によって製造される、MIL-53の構造を有し、鉄及びアルミニウムのカチオンを含む金属有機構造体(MOF)。
【0043】
実施形態14。少なくとも1つのC4-炭化水素を含むガスの吸着方法であって、ガスを実施形態13に記載のMOFに接触させるステップを含む、方法。
【0044】
これより、以下の非限定的な実施例及び添付の図面を参照しながら、より詳細に本発明を説明する。
【実施例
【0045】
実施例1:MIL-53(Fe54/Al46)の合成
82mgのテレフタル酸と、244mgの鉄(III)アセチルアセトネートと、112mgの硝酸アルミニウム九水和物とをジメチルスルホキシドの水中の20%(v/v)溶液10mL中に溶解させた。この溶液を120℃で3日間磁気撹拌しながら加熱した。室温まで冷却した後、遠心分離によって固形物を単離した。これらの固形物を水(10mL×2)で洗浄し、続いてジメチルホルムアミド(10mL×1)で洗浄した。固形物を次に100℃のジメチルホルムアミド中に終夜懸濁させて、可溶性不純物を除去した。固形物を次に再び回収し、メタノール(10mL×3)で洗浄し、70℃で乾燥させた。Nの流動雰囲気下200℃における、得られた生成物のX線回折パターンが以下の表2中に示され、これは生成物がMIL-53(Al)の大細孔相及び小細孔相の混合物であることを示唆しており、恐らくは鉄が存在するために一部の線がシフトしている。
【0046】
【表4】
【0047】
Hitachi 4800 HR-SEM上でThermoFisher Scientific UltraDry EDS Detectorを用いたエネルギー分散型X線分光分析(EDX)によって、得られたMOF材料の金属含有量の評価を行った。この試験では、MOF生成物の鉄及びアルミニウムの含有量は、反応混合物の含有量(すなわち約50:50のFe/Alモル比)と一致することが示されたが、EDX測定は本来は半定量的であり、得られる値は±20%の誤差範囲を有しうる。
【0048】
実施例2:MIL-53(Fe30/Al70)の合成
鉄(III)アセチルアセトネート及び硝酸アルミニウム九水和物の量をそれぞれ104mg及び262mgに調節したことを除けば、実施例1の方法を繰り返した。Nの流動雰囲気下200℃における、得られた生成物のX線回折パターンが以下の表3中に示され、この場合も生成物がMIL-53(Al)の大細孔相及び小細孔相の混合物であることを示唆しており、恐らくは鉄が存在するために一部の線がシフトしている。
【0049】
【表5】
【0050】
この場合もEDX測定によって、MOF生成物のFe/Alモル比が出発混合物のモル比と一致することが示された。
【0051】
実施例3:MIL-53(Fe83/Al17)の合成
鉄(III)アセチルアセトネート及び硝酸アルミニウム九水和物の量をそれぞれ174mg及び186mgに調節したことを除けば、実施例1の方法を繰り返した。Nの流動雰囲気下200℃における、得られた生成物のX線回折パターンが以下の表4中に示され、この場合も生成物がMIL-53(Al)の大細孔相及び小細孔相の混合物であることを示唆しており、恐らくは鉄が存在するために一部の線がシフトし、強度が変化している。
【0052】
【表6】
【0053】
この場合もEDX測定によって、MOF生成物のFe/Alモル比が出発混合物のモル比と一致することが示された。
【0054】
図1は、実施例1~3の生成物の可変温度X線回折分析の結果を示しており、パターンは30℃及び200℃において得られる。最終材料中により多くのアルミニウムが存在すると、粉末回折パターンが、より「大細孔」の性質を示し始めることが分かるであろう。これは、13.5°2θが中心のピーク及び17.5°2θが中心のピークの相対強度の減少より明らかである。さらに、図1は、これらの材料を200℃まで加熱すると、「小細孔」の特徴が減少することを示している。これは特に、9°2θが中心のピーク及び17.5°2θが中心のピークの相対強度を観察すれば明らかである。このデータはMIL-53材料の1次元構造特性が、3つすべての合成条件からの生成物において無傷であることを示している。
【0055】
図2は、実施例1~3の生成物に対して30℃で行った重量メタン吸着等温線を100%アルミニウム及び100%鉄を含有するMIL-53試料の等温線と比較している。100%アルミニウム及び100%鉄のMIL-53材料は、それぞれ古典的なタイプI及びタイプVの等温線を示すことが分かるであろう。実施例1~3の混合金属材料の等温線は、材料が大細孔型に「開く」圧力が、Al/Fe比の変化によってシフトしうることを示している。さらに、本発明の方法によって製造される材料は、一部の中間相とは対照的に「大細孔」相に開く所望の性質を有する。
【0056】
図3は、実施例1の生成物の30℃で行った体積メタン吸着等温線を示している。このMOFの特定の組成は、細孔の開放の2段階プロセス(0~5bar及び10~40barの間)を経由することが分かるであろう。各相変化は吸熱性である。この吸熱相変化は、メタン貯蔵用途の重要な性質である吸着熱を補償する。
【0057】
特定の実施形態を参照することによって本発明を説明し例証してきたが、本発明が、本明細書に必ずしも示されていない変形形態に役立つことが当業者には認識されるであろう。このため、本発明の真の範囲を明らかにするためには、添付の請求項のみを参照すべきである。
図1
図2
図3