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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-23
(45)【発行日】2024-07-31
(54)【発明の名称】自動車用横置き型エンジン
(51)【国際特許分類】
   F02M 55/02 20060101AFI20240724BHJP
   F02M 35/10 20060101ALI20240724BHJP
   F02M 63/00 20060101ALI20240724BHJP
【FI】
F02M55/02 350H
F02M35/10 301U
F02M63/00 C
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2022053553
(22)【出願日】2022-03-29
(65)【公開番号】P2023146394
(43)【公開日】2023-10-12
【審査請求日】2023-05-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】100099966
【弁理士】
【氏名又は名称】西 博幸
(74)【代理人】
【識別番号】100134751
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 隆一
(72)【発明者】
【氏名】森 翔平
(72)【発明者】
【氏名】加藤 琢也
(72)【発明者】
【氏名】平澤津 健仁
(72)【発明者】
【氏名】仙田 智久
【審査官】藤村 泰智
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/063513(WO,A1)
【文献】特開2010-285916(JP,A)
【文献】特開2012-007581(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02M 55/00 ~ 55/02
F02M 35/10 ~ 35/116
F02M 63/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
気筒列方向である左右方向に並んだ吸気ポートが吸気側面に開口しているシリンダヘッドと、前記シリンダヘッドの吸気側面に固定された吸気マニホールドと、を備え、
前記吸気マニホールドは、サージタンクと、左右に並んで配置されて前記サージタンクに一体に設けられた複数本のブランチ管と、を有し、
前記吸気マニホールドの各ブランチ管は、前記サージタンクを巻くように配置されていて出口は前記サージタンクの上方において前記シリンダヘッドの吸気側面に向けて開口しており、前記各ブランチ管の出口側部分は、上部フランジを介して前記シリンダヘッドの吸気側端面に固定されている構成であって、
前記吸気マニホールドにおける各ブランチ管の出口側部分と前記上部フランジは前記サージタンクの上方にはみ出ており、前記サージタンクの上端面又は前記各ブランチ管における入口部の上端面と前記上部フランジとがジョイントリブによって一体に連結されていると共に、前記各ブランチ管の出口側部分と前記サージタンクの上端面との間に、前記ジョイントリブを挟んで前記シリンダヘッドと反対側の部位において前記シリンダヘッドに向けて開口した内向き空間部が形成されている一方、
前記シリンダヘッドにおける前記吸気ポートの下方の部位に、左右長手の燃料デリバリ管が、前記シリンダヘッドの吸気側端面から突出した状態でかつ前記吸気マニホールドの内向き空間部と対向するように配置されている、
自動車用横置き型エンジン。
【請求項2】
前記ジョイントリブは、厚さ方向が左右方向になった板状である
請求項1に記載した自動車用横置き型エンジン。
【請求項3】
前記ジョイントリブの上端部に脆弱部が形成されている、
請求項1又は2に記載した自動車用横置き型エンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、クランク軸を車幅方向に長い姿勢で自動車に搭載されるエンジンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
多気筒エンジンは吸気マニホールドを備えており、吸気マニホールドは、サージタンクとこれから分岐した複数本のブランチ管とを備えており、サージタンクに設けた吸気導入口にスロットルボデーが固定されて、スロットルバルブで流量が制御された吸気がサージタンクを介して各ブランチ管に分配されるようになっている。
【0003】
自動車用エンジンの吸気マニホールドは様々な態様があるが、特許文献1に開示されているように、サージタンクをブランチ管の群で巻いた形態のものが普及している。この場合、ブランチ管の出口側部分はサージタンクの上方に延びていて、出口はシリンダヘッドの吸気側面に向けて開口しており、各ブランチ管の出口側部分は、これに一体に設けた上部フランジを介してシリンダヘッドの吸気側面にボルト(及びナット)で固定されている。
【0004】
また、特許文献1では、クランク軸を車幅方向に長い姿勢でエンジンルームに搭載される横置き式エンジンにおいて、シリンダヘッドの吸気側の側面うち吸気ポートの直下部に直噴用の高圧デリバリパイプを重ね配置して、高圧デリバリパイプからインジェクタを分岐させると共に、高圧デリバリパイプに燃料を供給する金属製の高圧燃料パイプを高圧デリバリパイプの端部に上から接続し、高圧燃料パイプにより、吸気ポートの上方部に配置された低圧燃料デリバリパイプの圧力センサを保護することが記載されている。
【0005】
すなわち、自動車が衝突事故を起こすと、エンジン周りの部材が変形したり移動したりして圧力センサに衝突することがあるが、特許文献1は、金属製で強度が高い高圧燃料パイプを圧力センサの前方に配置することにより、高圧燃料パイプを圧力センサに対する保護部材に兼用している。また、特許文献1のエンジンは、吸気側面を車体前方に向けた前吸気タイプである事が請求項中に記載されている。
【0006】
他方、燃料デリバリパイプをブラケット類で保護することは、例えば特許文献2に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2019-163738号公報
【文献】特許第6318189号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の構成は、高圧燃料パイプを利用して圧力センサを保護するものであり、圧力センサの保護は簡易に行える。他方、特許文献1では高圧燃料デリバリパイプをシリンダヘッドの吸気側端面から突出した状態に配置しているが、高圧燃料デリバリパイプをシリンダヘッドの吸気側端面から突出した状態に配置し、かつ、特許文献1の様に吸気マニホールドの分岐管が高圧燃料デリバリパイプを覆うような形状にすると、軽衝突時はブランチ管が保護ブラケットとして作用するが、重い事故時に吸気マニホールド自身が破損すると、破損した吸気マニホールドの構造体が高圧燃料デリバリパイプに衝突して高圧燃料
デリバリパイプやインジェクタを変形・破損させるおそれがある。
【0009】
さりとて、特許文献2のように専用の保護ブラケットを設けると、それだけ構造が複雑化する問題がある。
【0010】
本願発明は、このような現状を改善すべく成されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明は、自動車用横置き型エンジンに関し、
「気筒列方向である左右方向に並んだ吸気ポートが吸気側面に開口しているシリンダヘッドと、前記シリンダヘッドの吸気側面に固定された吸気マニホールドと、を備え、
前記吸気マニホールドは、サージタンクと、左右に並んで配置されて前記サージタンクに一体に設けられた複数本のブランチ管と、を有し、
前記吸気マニホールドの各ブランチ管は、前記サージタンクを巻くように配置されていて出口は前記サージタンクの上方において前記シリンダヘッドの吸気側面に向けて開口しており、前記各ブランチ管の出口側部分は、上部フランジを介して前記シリンダヘッドの吸気側端面に固定されている」
という基本構成である。
【0012】
そして、基本構成において、
「前記吸気マニホールドにおける各ブランチ管の出口側部分と前記上部フランジは前記サージタンクの上方にはみ出ており、前記サージタンクの上端面又は前記各ブランチ管における入口部の上端面と前記上部フランジとがジョイントリブによって一体に連結されていると共に、前記各ブランチ管の出口側部分と前記サージタンクの上端面との間に、前記ジョイントリブを挟んで前記シリンダヘッドと反対側の部位において前記シリンダヘッドに向けて開口した内向き空間部が形成されている一方、
前記シリンダヘッドにおける前記吸気ポートの下方の部位に、左右長手の燃料デリバリ管が、前記シリンダヘッドの吸気側端面から突出した状態でかつ前記吸気マニホールドの内向き空間部と対向するように配置されている」
という特徴を備えている。
【0013】
本願発明は様々に具体化できる。その例として請求項2では、
前記ジョイントリブは、厚さ方向が左右方向になった板状である
という構成になっている。
【0014】
更に、請求項1又は2の展開例として、請求項3では、
「前記ジョイントリブの上端部に脆弱部が形成されている」
という構成になっている。
【発明の効果】
【0015】
本願発明では、ブランチ管の出口側部分はサージタンクの上方にはみ出ているため、衝突事故によって吸気マニホールドに前後方向の外力が作用した場合、外力が弱いと、ブランチ管の出口側部分が弾性変形して外力が吸収されて、吸気マニホールドの破損を免れることができる。
【0016】
すなわち、エンジンが前排気・後ろ吸気の場合は、衝突事故において、エンジン本体が後ろに押されて吸気マニホールドが隔壁に当たり、隔壁で支持されることによって吸気マニホールドに後ろ向きの負荷がかかるが、後ろ向きの負荷の程度が小さい場合は、ブランチ管の変形によって衝撃(負荷)が吸収される。
【0017】
また、前吸気・後ろ排気の場合は、衝突事故において、フロントグリル等の部材が後退して吸気マニホールドに前から当たり、このため吸気マニホールドに後ろ向きの負荷が作用するが、負荷の程度が小さい場合は、エンジンは後退せずにブランチ管の出口部が弾性変形することにより、衝撃が吸収される。
【0018】
他方、ブランチ管の出口側部分はサージタンクの上方にはみ出ていて最も強度が弱いため、事故の程度が大きくて外力が相当に強いと、ブランチ管の出口側部分が破断して、吸気マニホールドの本体部がシリンダヘッドやシリンダブロックに向けて相対的に接近動するが、吸気マニホールドの上部に内向き空間部が形成されているため、内向き空間部に燃料デリバリパイプが入り込んで、燃料デリバリパイプの損傷を防止できる。すなわち、内向き空間部が燃料デリバリパイプの逃がし空間として機能して、燃料デリバリパイプ、インジェクタの変形・破損を防止できる。従って、FH(ファイアーハザード)の発生リスクを低減させることができる。
【0019】
さらに、前排気・後ろ吸気の場合は、吸気マニホールドがエンジンで押されて隔壁に当たっても、吸気マニホールドの出口部が破損することにより、隔壁に対する衝撃力が緩和されて、隔壁が吸気マニホールドによって車室内に侵入することを防止できる。前吸気・後ろ排気の場合は、吸気マニホールドの出口部が破損することにより、エンジン本体に対する後ろ向きの力が軽減されて、エンジン本体の後退動を抑制できるので、排気系部品が隔壁を後退させて車室内に侵入することを防止できる。従って、いずれにおいても、事故時に乗員の生存空間が変形することを抑制できる。
【0020】
更に、上部フランジとサージタンク又はブランチ管の入口部とを板状のジョイントリブで連結すると、軽事故時にはブランチ管の出口側部分の弾性変形と重事故時のブランチ管の出口側部分の破断を許容しつつ、平常時における吸気マニホールドの振動を抑制できる。特に、請求項3のようにジョイントリブに脆弱部を設けると、重事故時にはジョイントリブが確実に破損・変形するため、燃料デリバリパイプを内向き空間部に逃がすことを確実化できて好適である。また、ジョイントリブによってシリンダヘッドに対する取り付け強度を向上できることにより、吸気マニホールドの全体の薄肉化によるコスト抑制や軽量化も可能になる。
【0021】
さて、吸気マニホールドはサージタンクとこれを巻いたブランチ管の群とで中空の円筒構造になっており、ブランチ管の群が外殻を成しているため、サージタンクの外側に露出したブランチ管の出口側部分を除いた本体部は、剛性が高くて変形しにくい構造になっている。このため、事故時に吸気マニホールドの本体部が燃料デリバリパイプに当たると、燃料デリバリパイプが金属製であっても、燃料デリバリパイプが損傷するおそれがある。
【0022】
そして、サージタンクをブランチ管群で取り巻いた吸気マニホールドが衝突時に押されると、最弱部となる上部フランジの根元(ブランチ管の出口側部分)に最大の曲げモーメントが作用するが、請求項3のようにジョイントリブに脆弱部を形成する事で、吸気マニホールドを補強するジョイントリブが有っても破断形態が安定するので、燃料デリバリパイプが内向き空間部に入り込むことを確実化できる。
【0023】
また、請求項2では、ジョイントリブは内向き空間部を塞ぐ位置に板状に設けられるが、燃料デリバリパイプが内向き空間部に入り込む過程で燃料デリバリパイプに直角に当たる。そして、重事故時に大きな外力が掛かったとき、燃料デリバリパイプは、ジョイントリブをサージタンクの天井面から引き剥がすような形態で突き破って、内向き空間部に入り込む。これにより、ジョイントリブが有っても燃料デリバリパイプが吸気マニホールドと干渉する事を回避できるので、燃料デリバリパイプやインジェクタの変形、破損を防止でき、FH(ファイアーハザード)の発生リスクを低減させることができる。
【0024】
更に言うと、ジョイントリブとブランチ管(サージタンク)との接合部を平面方向から見ると、ジョイントリブは車体の前後長手の姿勢になっているので、衝突時の外力に対しては強度が確保し易い。この事を利用してジョイントリブが繋がるサージタンク天井面からブランチ管外壁部との強度(肉厚)バランスを調整する事で、重事故時に、ジョイントリブが燃料デリバリパイプで押される事で、ジョイントリブが、サージタンク天井面をブランチ管外壁部から引き剥がす。
【0025】
ブランチ管の群がサージタンクの外殻を成して中空の円筒構造体を形成した高強度を有する吸気マニホールド本体部の外殻の一部を破壊する事になるので、吸気マニホールド本体部が潰れやすくできる。これにより、吸気マニホールドは自身が潰れる事で衝突エネルギーを吸収して、吸気マニホールド又はエンジン本体が隔壁を後退させ車室内に侵入することを防止できると共に、事故時に乗員が受ける衝撃G値を低減するようにチューニングすることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】実施形態の吸気マニホールドを自動車の正面視方向から見た斜視図である。
図2】実施形態の吸気マニホールドを自動車の正面視方向から見た正面図である。
図3】実施形態の吸気マニホールドを自動車の背面視方向から見た斜視図である。
図4】実施形態の吸気マニホールドを取り付けた状態でのエンジンの部分的な側面図である。
図5図2の V-V視断面図である。
図6図5のVI-VI 視方向から見た破断斜視図である。
図7】事故時の第1作用を示す側面図である。
図8】事故時の第2作用を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
次に、本願発明の実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態は、自動車用4気筒エンジンに適用している。エンジンは、クランク軸線を車幅方向に長い姿勢でエンジンルームに配置されており、自動車の前進方向に向かって排気側面を前、吸気側面を後ろに向けている。従って、エンジンは横置き前排気方式であり、吸気マニホールドは、自動車の前進方向に向いて後ろからシリンダヘッドの吸気側面に重なっている。
【0028】
以下では、方向を特定するため前後・左右の文言を使用するが、前後・左右は自動車の向きを基準にしており、前進方向が前で後進方向が後ろ、車幅方向が左右方向である。エンジンでは、クランク軸線方向を前後方向と呼ぶことが多いが、本実施形態では、一般的な呼び方とは前後・左右の関係が逆になっている。方向は、各図に適宜表示している。
【0029】
(1).吸気マニホールドの基本構造
吸気マニホールドMは、側面視ではラグビーボール又は卵形の形態を成して、正面視及び背面視では、大まかには少しいびつな四角形の形態を成している。そして、図4から理解できるように、吸気マニホールドMは、シリンダヘッド1に近い側に位置した内側部材2(第1ピース)と、シリンダヘッド1から遠い側に位置した外側部材3(第2ピース)と、両者に挟まれた中間部材4(第3ピース)とによって中空構造に構成されている。
【0030】
重なりあった部材2,3,4は、高周波又は超音波による振動溶着によって一体に接合されている。図3では、部材の境界を太線で表示している。例えば図1,2,6に示すように、重なり合った部材の接合部(溶着部)にはフランジ5が形成されている。
【0031】
図4から理解できるように、内側部材2と中間部材4とは、対向するように開口した凹
所を有しており、このため、吸気マニホールドMの内部には、主として内側部材2と中間部材4とによって、左右方向に長いサージタンク6が形成されている。そして、例えば図1図4に示すように、サージタンク6の外周を巻くように、左から順に(タイミングチェーンに近い順に)、第1~第4の4本のブランチ管7~10が配置されている。図3図5,6から理解できるように、サージタンク6は、左右幅よりも上下幅が少し大きい角形に近い断面形状を成している(円形や楕円形なども採用できる。)。
【0032】
図5から理解できるように、各ブランチ管7~10は、入口(上流端)11がサージタンク6のうちシリンダヘッド1に近い側の上部に接続されて、サージタンク6を下方に巻いてから上向きに方向を変えて、出口12はシリンダヘッド1に向いている。従って、サージタンク6の周りをほぼ一巻している。各ブランチ管7~10の出口12は、左右長手の上部フランジ13に接続されている。図1,2に示すように、上部フランジ13には、シリンダヘッド1に締結するためのボルト挿通穴14が空いている。
【0033】
シリンダヘッド1の各吸気ポート(図示せず)は左右一対で構成されている。そこで、図3に示すように、各ブランチ管7~10の出口12は隔壁15で左右に仕切られている。
【0034】
図1,2に示すように、サージタンク6を構成する外側部材3のうち第2ブランチ管8と第3ブランチ管9との間の部位に、吸気導入口16が開口した吸気導入ボス部17を一体に形成している。吸気導入ボス部17はサージタンク6の上部に接続されており、基本的に上向きであるものの、上に向けてシリンダヘッド1から遠ざかるように左右方向視(正面視又は背面視)で傾斜している。
【0035】
各ブランチ管7~10は、入口11から下端までの部位は内側部材2に形成されている。この構造は、旋回式のコアを有する金型を使用して実現できる。下端から上部フランジ13までの部位は、外側部材3と中間部材4とを接合して形成されている。吸気導入ボス部17の上端は、スロットルボデー(図示せず)を固定するための受け座(フランジ部)18になっている。吸気マニホールドMの左右幅はシリンダヘッド1における吸気ポートのピッチによって規定されるが、図2のとおり、各ブランチ管7~10のピッチは、出口12の箇所では一定になっている。
【0036】
例えば図1,2に示すように、吸気導入ボス部17に、燃料タンクで発生した揮発成分を吸気系に導くパージガス導入ポート19が形成されている。また、サージタンク6のうち吸気導入ボス部17の下方の部位に、PCVガス導入ポート20を設けている。PCVガス導入ポート20も、シリンダヘッド1と反対側の外側に向けて突出している。更に、第2ブランチ管8の下流部の上面に、スロットルボデー位置決めピン21を上向きに突設している。
【0037】
(2).吸気及びPCVガスのガイド構造
図5,6から理解できるように、各ブランチ管7~10の入口11は、サージタンク6の内部に向けてシリンダヘッド1と反対側の外向きに開口している。そして、吸気導入ボス部17からサージタンク6に流入した吸気は、サージタンク6の内面に当たって左右方向に分流して、次いで、サージタンク6を前向きに方向変換して各ブランチ管7~10の入口11に流入する。
【0038】
サージタンク6の底部のうち左右中間部に、正面視でM形のガイドリブ22を設けて、ガイドリブ22の上板を下向きに凹ませた吸気ガイド部23と成している。吸気が左右に方向変換するにおいて、吸気が吸気ガイド部23でジャンプ作用を受けることにより、吸気の相当量を第1,4ブランチ管7,10に向かわせて、各ブランチ管7~10への吸気
の分配量を均一化している。図5に示すように、サージタンク6の内面のうち吸気ガイド部23を挟んで吸気導入ボス部17と反対側の部位には、第2ブランチ管8と第3ブランチ管9との間に位置したセンター背板24が存在している。吸気は、センター背板24に当たって左右に方向変換する。
【0039】
図5に示すように、ガイドリブ22の下方には、PCVガス導入ポート20と前後に連通したPCVガス導入通路25が形成されており、PCVガス導入通路25は、ガイドリブ22で囲われた空間と上下に連通している。従って、ガイドリブ22で囲われた空間は、PCVガスを左右に分流させてサージタンク6の内部に放出するPCVガス分配通路26になっている(図6の点線矢印参照)。
【0040】
(3).吸気マニホールドの特徴構造及びシリンダヘッドとの関係
図1に示すように、4本のブランチ管7~10は、吸気マニホールドMの後面部では溝を介して互いに分離した状態になっているが、吸気マニホールドMの前面部では、図3に示すように、第1ブランチ管7の前壁と第2ブランチ管8の前壁とが一連に連続した左前壁28と、第3ブランチ管9と第4ブランチ管10との前壁が一体に連続した右前壁29とで構成されている。
【0041】
他方、例えば図3,5に示すように、各ブランチ管7~10は、サージタンク6及び前壁28,29の上方にはみ出た出口側部分30を有しており、各出口側部分30の先端が既述の上部フランジ13に一体に繋がっている。従って、出口側部分30及び上部フランジ13とサージタンク6及び前壁29,29の上端との間に、シリンダヘッド1に向けて前向きに開口した内向き空間部31が形成されている。
【0042】
そして、左右の前壁28,29の上面部と上部フランジ13とが、左右方向に分かれて配置された3枚ずつのジョイントリブ32によって接続されている(ジョイントリブ32は、ブランチ管7~10の入口11の上方に位置している。)。各ジョイントリブ32の板厚方向は左右方向(クランク軸方向)を向いて、背面視では上下長手の直線状の形態を成した形態であり、側面視形状は、上辺の前後幅が下辺の前後幅よりも小さい台形状であり、上端部は細幅の脆弱部32aになっていて、脆弱部32aが上部ブランジ13と一体に繋がっている。
【0043】
実施形態のジョイントリブ32について正確に述べると、各前壁28,29の左右中間部と左右端寄り部位との3か所ずつに配置されており、内側部材2に形成されて、前端面32bは側面視で直線に形成されている。
【0044】
図4に示すように、シリンダヘッド1の吸気側面1aは後ろ向きランド部33に形成されており、後ろ向きランド部33の下方の空間に、各燃焼室に向けて4本の直噴用燃料インジェクタ35が、左右方向に長い金属製の燃料デリバリパイプ34とシリンダヘッドのインジェクタ挿入孔とで挟みこんだ状態で固定され、金属製の燃料デリバリパイプ34がランド部33の下方のボスにブラケット36を介して強固に締結されることで、筒内噴射のための高圧燃料系の機密が保たれている。
【0045】
直噴用燃料インジェクタ35は、ランド部33の下面に設けた凹所33aに部分的に入り込んでいる。また、燃料デリバリパイプ34は、シリンダヘッド1の後ろ向きランド部33の吸気側面1aからある程度の寸法Lだけ突出している(シリンダヘッド1の小型化、軽量化のためである。)。
【0046】
図4のとおり、燃料デリバリパイプ34は内向き空間部31の開口方向に向いた部位に配置されている。見方を変えて述べると、内向き空間部31は、燃料インジェクタ35の
軸心方向に開口している。図示していないが、燃料デリバリパイプ34の右端又は左端に、燃料供給パイプが接続されている。図4,7,8では、シリンダブロック37も部分的に表示している。
【0047】
(4).まとめ
吸気マニホールドMの重心は、側面視において、おおまかにはサージタンク6の中央部に位置しているが、吸気マニホールドMは片持ちの上端でシリンダヘッド1に固定されているため、ブランチ管7~10の出口側部分30によって吸気マニホールドMの本体部を吊り下げた状態になっている。このため、エンジンの運転に起因した振動や走行に起因した振動により、各ブランチ管7~10の出口側部分30に大きな曲げ力(モーメント)が作用する。このため、何等の対策を施さないと、ブランチ管7~10の出口側部分30は弾性変形しやすく、振動や騒音の原因になるおそれがある。
【0048】
これに対して本実施形態のように、前壁28,29と上部フランジ13とをジョイントリブ32によって連結すると、サージタンク6とこれを囲うブランチ管7~10より成る本体部は前後2か所で上部フランジ13に接続されるため、ブランチ管7~10の出口側部分30に対する負荷を著しく低減できる。従って、吸気マニホールドMの振動・騒音を著しく抑制できる。また、吸気マニホールドMの全体を薄肉化することも可能になる。
【0049】
また、自動車が衝突事故を起こした場合、フロントグリルやラジエータなどがエンジン本体に前から当たって、エンジン本体が後退して吸気マニホールドMが隔壁Wに当たることがある。吸気マニホールドと隔壁Wの干渉程度が軽い事故の場合は、ブランチ管7~1
0の出口側部分30とジョイントリブ32とが弾性変形して衝撃が吸収されるため、吸気マニホールドMが燃料デリバリパイプ34に当たることはなくて、燃料の漏洩は生じない。また、隔壁Wが吸気マニホールドMに押されて車室内側に突出することもない。
【0050】
他方、エンジン本体に作用した外力がある程度以上に大きくなると、その外力の程度により、図7に示すように、各ブランチ管7~10の出口側部分30が破断・折損すると共にジョイントリブ32も破断するだけでなく、ブランチ管の群が外殻を成して中空の円筒構造体を形成した事で高い強度を有する吸気マニホールドMの本体部が、シリンダブロック37と隔壁Wに挟まれて弾性変形する。この時、ジョイントリブ32は内向き空間部31を塞ぐ位置に板状に設けられているが、燃料デリバリパイプ34が内向き空間部31に入り込む過程で燃料デリバリパイプ34に直角に当たる。そして、燃料デリバリパイプ34は、ジョイントリブ32をサージタンク6の天井面から引き剥がすような形態で突き破ることで、内向き空間部31に入り込む。
【0051】
この場合、ジョイントリブ32が存在することによって上部フランジ13に対する取り付け強度が高くなっているため、出口側部分30の破損限界強度が高くなっている。その結果、吸気マニホールドMが出口側部分30で折損するまでの耐荷重が上がり、吸気マニホールドMが折損により走行不能に陥るまでの耐衝撃性を向上できる。
【0052】
他方、仮にジョイントリブ32が存在しない場合でも、内向き空間部31は燃料デリバリパイプ34に向けて開口しているため、事故時に燃料デリバリパイプ34を内向き空間部31に逃がすことができる。従って、吸気マニホールドMが出口側部分30で折損しても、吸気マニホールドMが燃料デリバリパイプ34に衝突することを回避又は抑制して、FH(ファイアーバザード)の発生リスクを低減できる。
【0053】
重大事故の場合は、図8に示すように、シリンダヘッド1が大きく後退して吸気マニホールドMの本体部がシリンダブロック37と隔壁Wに挟まれて潰されるが、その過程において出口側部分30で折損した時に燃料デリバリパイプ34がジョイントリブ32をサー
ジタンク6の天井面から引き剥がすように破損させるのではなく、図8に示すように、吸気マニホールドMのサージタンク6における天井面の板厚を調整する等して、ジョイントリブ32とサージタンク6の天井面とを一緒に破壊させる事で、ブランチ管7~10の群が外殻を成して高強度の中空円筒構造体になっている吸気マニホールドMの一部を意図的に破壊するように、吸気マニホールドMの本体部が隔壁Wとエンジンブロック37に挟まれた時に潰れやすくチューニングし、吸気マニホールドMの本体部を潰すことで衝突エネルギーを吸収する事が可能である。これにより衝突時に乗員が受ける衝撃Gのピーク値を下げる事、乗員障害値を下げる事も可能になる。
【0054】
燃料デリバリパイプ34は金属製であってランド部33の下方の複数個所のボス部に強固に締結されているため高い強度を有し、左右に並んだ複数本の燃料インジェクタ35をプロテクトしているため、よほどの事故でも、燃料デリバリパイプ34と燃料インジェクタ35との接続箇所が変形することは起こりにくい。これにより、重大事故においても高圧燃料が漏れてFHに至る事を防止できる。
【0055】
なお、事故時にジョイントリブ32ごとサージタンク天井面を潰して吸気マニホールドMの本体部を破損させやすくする手段として、サージタンク6の天井面のうちジョイントリブ32が接続されている部位を薄肉化したり、ジョイントリブ32の付け根に沿ってV溝を形成したりすることができる。すなわち、サージタンク6における天井面のうちジョイントリブ32が接続されている箇所に、応力集中を起こさせる弱化手段を講じることが可能である。
【0056】
エンジンが前吸気・後ろ排気の場合は、吸気マニホールドが後退動してシリンダヘッド1に接近動するが、出口部30やジョイントリブ32の破断現象は後ろ吸気と同様である(図示の例とは、前後の関係が逆になるだけである。)。従って、上記の同じ作用・効果を発揮する。
【0057】
以上、本願発明の実施形態を説明したが、本願発明は他にも様々に具体化できる。例えば、実施形態では4気筒エンジン用の吸気マニホールドに6枚のジョイントリブを設けたが、1本のブランチ管に対応して1枚のジョイントリブを設けることも可能である。吸気導入口の配置など、吸気マニホールドの基本構造は任意に設計できる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本願発明は、自動車用横置きエンジンに具体化できる。従って、産業上利用できる。
【符号の説明】
【0059】
M 吸気マニホールド
1 シリンダヘッド
1a 吸気側面
2 内側部材
3 外側部材
4 中間部材
6 サージタンク
7~10 ブランチ管
13 上部フランジ
17 吸気導入ボス部
28,29 ブランチ管の前壁
30 ブランチ管の出口側部分
31 内向き空間部
32 ジョイントリブ
32a 脆弱部
33 後ろ向きランド部
34 燃料デリバリパイプ
35 燃料インジェクタ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8