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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-23
(45)【発行日】2024-07-31
(54)【発明の名称】電池システム
(51)【国際特許分類】
   H02J 7/00 20060101AFI20240724BHJP
   H02J 7/10 20060101ALI20240724BHJP
   H02H 7/18 20060101ALI20240724BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20240724BHJP
   H01M 10/44 20060101ALI20240724BHJP
【FI】
H02J7/00 S
H02J7/00 302A
H02J7/10 H
H02H7/18
H01M10/48 P
H01M10/48 301
H01M10/44 P
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022062435
(22)【出願日】2022-04-04
(65)【公開番号】P2023152422
(43)【公開日】2023-10-17
【審査請求日】2023-04-05
(73)【特許権者】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】一之瀬 工資
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 快
(72)【発明者】
【氏名】原田 育幸
【審査官】木村 励
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-250610(JP,A)
【文献】特開2011-139634(JP,A)
【文献】特開2008-80967(JP,A)
【文献】特開2017-108566(JP,A)
【文献】特開2013-230023(JP,A)
【文献】特開2006-149181(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 7/00
H02J 7/10
H02H 7/18
H01M 10/48
H01M 10/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池を含む通電部品が配置される通電経路と、
前記通電経路を流れる電流を検出する電流センサと、
前記通電経路を流れる電流を制御する制御回路とを備え、
前記制御回路は、
前記電流センサの出力を所定周期で積算することによって電流積算値を算出し、
前記電流積算値に応じて前記通電部品の発熱保護のための電流制限値を設定し、
前記通電経路を流れる電流の大きさを前記電流制限値未満に制限し、
前記制御回路は、前記通電部品に連続的に通電可能な電流を基準値として、
前記電流センサの出力の大きさが前記基準値よりも大きい場合は前記電流センサの出力と前記基準値との差分に応じて前記電流積算値を増加させ、
前記電流センサの出力の大きさが前記基準値よりも小さい場合は前記電流センサの出力と前記基準値との差分に応じて前記電流積算値を減少させる、電池システム。
【請求項2】
前記制御回路は、前記通電部品の環境温度および前記通電部品の使用期間の少なくとも一方に応じて、前記電流積算値および前記電流制限値の少なくとも一方を変化させる、請求項に記載の電池システム。
【請求項3】
前記制御回路は、前記通電部品の環境温度が高いほど、および/または、前記通電部品の使用期間が長いほど、前記電流積算値を大きい値にする、請求項に記載の電池システム。
【請求項4】
前記制御回路は、前記通電部品の環境温度が高いほど、および/または、前記通電部品の使用期間が長いほど、前記基準値を低下させることによって前記電流積算値を大きい値にする、請求項に記載の電池システム。
【請求項5】
前記制御回路は、前記通電部品の環境温度が高いほど、および/または、前記通電部品の使用期間が長いほど、前記電流制限値を小さい値にする、請求項に記載の電池システム。
【請求項6】
前記制御回路は、連続通電時間と連続通電時間中の平均電流とで規定される前記通電部品の使用領域が予め定められた許容領域内に収まるように、前記電流制限値を設定する、請求項1~のいずれかに記載の電池システム。
【請求項7】
前記制御回路は、前記電池システムが作動状態から停止状態に変化するシステム停止時に電流積算値を記憶し、
前記制御回路は、前記電池システムの停止状態が継続した後に作動状態に変化するシステム起動時に、前記システム停止時に記憶された電流積算値と、前記電池システムの停止状態が継続していた時間とを用いて、前記システム起動時の電流積算値を算出する、請求項1~のいずれかに記載の電池システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電池システム内の通電部品の過熱を防止する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特許第5687340号公報(特許文献1)には、電池を構成する部品の過熱を防止する電池システムが開示されている。この電池システムにおいては、電池システム内の通電部品毎に、過熱を防止するための熱許容電流が設定されている。熱許容電流は、予め設定された複数の時間窓幅(連続通電時間)中にそれぞれ許容される複数の電流平均値として設定される。この電池システムは、複数の時間窓幅毎に平均電流を計算し、各平均電流が対応する熱許容電流を超過しないように電池を流れる電流を制限している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5687340号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許第5687340号公報に開示された電池システムのように予め設定された複数の連続通電時間幅毎に平均電流を計算する手法では、通電部品の熱保護に要する処理負荷が膨大となってしまう。たとえば、1つの連続通電時間幅が60秒であり0.1秒周期で電流を検出する場合、過去60秒間に検出された600点の電流検出値のデータをメモリに記憶しておき、これら600点の電流検出値の移動平均値を計算する必要がある。このような処理を、複数の連続通電時間幅毎に行なうことになるため、処理負荷が膨大となる。さらに、複数の通電部品毎に複数の連続通電時間幅を設定すると、処理負荷がさらに増大してしまう。
【0005】
本開示は、上述の課題を解決するためになされたものであって、その目的は、電池システム内の通電部品の熱保護に要する処理負荷を軽減することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(第1項) 本開示による電池システムは、電池を含む通電部品が配置される通電経路と、通電経路を流れる電流を検出する電流センサと、通電経路を流れる電流を制御する制御回路とを備える。制御回路は、電流センサの出力を所定周期で積算することによって電流積算値を算出し、電流積算値に応じて通電部品の発熱保護のための電流制限値を設定し、通電経路を流れる電流の大きさを電流制限値未満に制限する。
【0007】
(第2項) 第1項に記載の電池システムにおいて、制御回路は、通電部品に連続的に通電可能な電流を基準値として、電流センサの出力の大きさが基準値よりも大きい場合は電流センサの出力と基準値との差分に応じて電流積算値を増加させ、電流センサの出力の大きさが基準値よりも小さい場合は電流センサの出力と基準値との差分に応じて電流積算値を減少させる。
【0008】
(第3項) 第2項に記載の電池システムにおいて、制御回路は、通電部品の環境温度および通電部品の使用期間の少なくとも一方に応じて、電流積算値および電流制限値の少なくとも一方を変化させる。
【0009】
(第4項) 第3項に記載の電池システムにおいて、制御回路は、通電部品の環境温度が高いほど、および/または、通電部品の使用期間が長いほど、電流積算値を大きい値にする。
【0010】
(第5項) 第3項に記載の電池システムにおいて、制御回路は、通電部品の環境温度が高いほど、および/または、通電部品の使用期間が長いほど、基準値を低下させることによって電流積算値を大きい値にする。
【0011】
(第6項) 第3項に記載の電池システムにおいて、制御回路は、通電部品の環境温度が高いほど、および/または、通電部品の使用期間が長いほど、電流制限値を小さい値にする。
【0012】
(第7項) 第1~6項のいずれかに記載の電池システムにおいて、制御回路は、連続通電時間と連続通電時間中の平均電流とで規定される通電部品の使用領域が予め定められた許容領域内に収まるように、電流制限値を設定する。
【0013】
(第8項) 第1~7項のいずれかに記載の電池システムにおいて、制御回路は、電池システムが作動状態から停止状態に変化するシステム停止時に電流積算値を記憶し、制御回路は、電池システムの停止状態が継続した後に作動状態に変化するシステム起動時に、システム停止時に記憶された電流積算値と、電池システムの停止状態が継続していた時間とを用いて、システム起動時の電流積算値を算出する。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、電池システム内の通電部品の熱保護に要する処理負荷を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】電池システムの全体構成を概略的に示す図である。
図2】通電部品の熱限界特性を模式的に示す図(その1)である。
図3】電流積算値ΣIの算出手法を説明するための図(その1)である。
図4】電流積算値ΣIと電流制限値Ilimとの対応関係の一例を示す図である。
図5】電流積算値ΣI、電流制限値Ilimおよび電流Iの変化態様の一例を模式的に示す図である。
図6】制御回路が通電部品の熱保護制御を行なう場合の処理手順の一例を示すフローチャートである。
図7】通電部品の熱限界特性を模式的に示す図(その2)である。
図8】通電部品の熱限界特性を模式的に示す図(その3)である。
図9】係数マップを模式的に示す図である。
図10】電流積算値ΣIの算出手法を説明するための図(その1)である。
図11】制限値マップを模式的に示す図である。
図12】電流制限値の設定例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0017】
<システム構成>
【0018】
図1は、本実施の形態に係る電池システム1の全体構成を概略的に示す図である。電池システム1は、たとえば、負荷20の一例であるインバータおよびモータジェネレータを駆動力源とする車両に搭載される。
【0019】
電池システム1は、電池パック10と、負荷20と、正極線PLと、負極線NLと、制御回路100とを含む。電池パック10は、バッテリ11と、ヒューズ12と、監視ユニット13と、システムメインリレーSMRとを含む。
【0020】
バッテリ11は、複数のセルを含む組電池である。各セルは、たとえばリチウムイオン電池などの二次電池である。
【0021】
正極線PLは、バッテリ11の正極と負荷20とを電気的に接続する。負極線NLは、バッテリ11の負極と負荷20とを電気的に接続する。
【0022】
システムメインリレーSMRは、バッテリ11と負荷20との間に電気的に接続されている。システムメインリレーSMRは、制御回路100からの指令に従って閉成される。システムメインリレーSMRが閉成されることで、バッテリ11と負荷20との間の通電経路が形成される。
【0023】
ヒューズ12は、バッテリ11とシステムメインリレーSMRとの間に設けられている。ヒューズ12に大電流が流れると、内蔵の合金部品が溶断し、バッテリ11と負荷20との間の通電経路が電気的に遮断される。
【0024】
負荷20は、バッテリ11から供給する電力によって作動する電機部品である。たとえば、負荷20には、車両の駆動力を発生するモータジェネレータと、モータジェネレータを駆動するためのインバータとが含まれる。
【0025】
監視ユニット13は、電流センサ14、電圧センサ15、温度センサ16を含む。電流センサ14は、バッテリ11を流れる電流(通電経路を流れる電流I)を検出する。なお、電流センサ14によって検出される電流Iは、バッテリ11の放電時に正値、バッテリ11の充電時に負値となるものとする。電圧センサ15は、バッテリ11の電圧を検出する。温度センサ16は、バッテリ11の温度を検出する。監視ユニット13内の各センサは、検出結果を制御回路100に出力する。
【0026】
制御回路100は、CPU(Central Processing Unit)などのプロセッサ101と、ROM(Read Only Memory)およびRAM(Random Access Memory)などのメモリ102と、各種信号を入出力するためのポートとを含む(いずれも図示せず)。制御回路100は、メモリに記憶されたプログラムおよびマップ、ならびに各センサから受ける信号等に基づいて、システムメインリレーSMRを制御したり、負荷20を制御したりする。
【0027】
<通電部品の熱保護(過熱抑制)>
【0028】
電池システム1の通電経路には、上述のように、バッテリ11と複数の電装部品(システムメインリレーSMR、ヒューズ12等)とが配置されている。
【0029】
バッテリ11の最大入出力可能電流は、負荷20側の入出力要求を満たしつつ、通電経路上にある各部品(以下「通電部品」ともいう)の熱保護のために、各通電部品の熱限界特性を考慮して決められた定格電流(以下「熱許容電流」ともいう)を超えない範囲であることが望ましい。
【0030】
通電部品の熱限界特性は、通電部品の連続通電時間と、連続通電時間中の平均電流とで規定されることがある。
【0031】
図2は、通電部品の熱限界特性を模式的に示す図である。図2において、縦軸が連続通電時間を示し、横軸が連続通電時間中の平均電流を示す。なお、熱限界特性は通電部品毎に異なるが、図2にはヒューズ12の熱限界特性が代表的に示されている。
【0032】
図2に示されるように、通電部品の熱許容電流は、連続通電時間が長くなるほど小さくなる。これは、連続通電時間が長くなるほど、通電部品の発熱量が多く通電部品の温度が上昇するためである。通電部品の熱保護を適切に図るためには、通電部品の平均電流がその通電部品の熱許容電流を超えないように、通電経路を流れる電流Iを抑制することが望ましい。
【0033】
その手法として、従来では、上述の特許第5687340号公報に開示された電池システムのように、複数の連続通電時間幅を予め設定し、複数の連続通電時間幅毎に平均電流を計算する手法が採用される場合があった。
【0034】
しかしながら、この従来手法では、通電部品の熱保護に要する処理負荷が膨大となってしまうという問題がある。たとえば、1つの連続通電時間幅が60秒であり0.1秒周期で電流を検出する場合、過去60秒間に検出された600点の電流検出値のデータをメモリに記憶しておき、これら600点の電流検出値の移動平均値を計算する必要がある。このような処理を、複数の連続通電時間幅毎に行なうことになるため、処理負荷が膨大となる。さらに、複数の通電部品毎に複数の連続通電時間幅を設定すると、処理負荷がさらに増大してしまう。
【0035】
そこで、本実施の形態による制御回路100は、複数の連続通電時間幅毎の平均電流を算出するのではなく、通電経路を流れる電流Iの積算値(以下「電流積算値ΣI」ともいう)を算出し、電流積算値ΣIに基づいて電流制限値Ilimを設定し、通電経路を流れる電流Iの大きさを電流制限値Ilim未満に制限することによって、通電部品の過熱を抑制する。以下、電流積算値ΣIの算出手法、および電流制限値Ilimの設定手法について、順次説明する。
【0036】
<電流積算値ΣIの算出手法>
【0037】
図3は、電流積算値ΣIの算出手法を説明するための図である。図3において、横軸は時間を示し、縦軸は電流Iを示す。
【0038】
電流Iはバッテリ11の放電時に正値となりバッテリ11の充電時に負値となるが、通電部品の発熱量は電流Iの2乗に比例するため、通電部品の温度は、電流Iの正負に関わらず、電流Iの絶対値が大きいほど高くなる。この点を考慮して、電流積算値ΣIの算出には、電流Iの絶対値(以下「電流絶対値|I|」ともいう)が用いられる。なお、電流積算値ΣIの算出に、電流Iの2乗値を用いるようにしてもよい。
【0039】
通電部品の発熱と放熱とが釣り合うときの電流値を「連続通電可能電流I0」とするとき、制御回路100は、連続通電可能電流I0に係数kを乗じた値(=I0×k)を基準値Irefとして、電流絶対値|I|が基準値Irefよりも大きい場合は、電流絶対値|I|と基準値Irefとの差分の大きさを時間で積分した量を電流積算値ΣIに加算し、電流絶対値|I|が基準値Irefよりも小さい場合は、電流絶対値|I|と基準値Irefとの差分の大きさを時間で積分した量を電流積算値ΣIから減算する。
【0040】
たとえば、制御回路100は、下記の式(1)を用いて所定の演算周期pで電流積算値ΣIを算出する。
【0041】
ΣI(n)=ΣI(n-1)+(|I|-Iref)×p
=ΣI(n-1)+(|I|-I0×k)×p …(1)
【0042】
式(1)において、「ΣI(n)」は電流積算値ΣIの第n番目の値(今回値)、「ΣI(n-1)」は電流積算値ΣIの第(n-1)番目の値(前回値)である。
【0043】
なお、基準値Irefを「I0」(発熱と放熱とが釣り合う電流値)そのものではなく「I0×k」としているのは、係数kによって電流積算値ΣIの微調整を行なえるようにするためである。係数k=1として基準値Irefを連続通電可能電流I0としてもよい。
【0044】
<電流制限値Ilimの設定手法>
【0045】
制御回路100は、上述のように算出された電流積算値ΣIに基づいて電流制限値Ilimを設定する。
【0046】
図4は、電流積算値ΣIと電流制限値Ilimとの対応関係の一例を示す図である。図4に示すように、電流積算値ΣIが閾値th1未満である場合、電流制限値Ilimは制限値I1に設定される。電流積算値ΣIが閾値th4を超える場合、電流制限値Ilimは制限値I4に設定される。電流制限値Ilimが閾値th1以上かつ閾値th4未満である場合、電流制限値Ilimは、電流積算値ΣIが大きいほど、小さい値に設定される。
【0047】
図4に示す制限値I1は、図2に示す制限値I1、すなわち連続通電時間T1における電流制限値Ilimに対応する。図4に示す制限値I2は、図2に示す制限値I2、すなわち連続通電時間T2における電流制限値Ilimに対応する。図4に示す制限値I3は、図2に示す制限値I3、すなわち連続通電時間T3における電流制限値Ilimに対応する。図4に示す制限値I4は、図2に示す制限値I4、すなわち連続通電時間T4における電流制限値Ilimに対応する。
【0048】
なお、図2に示す電流制限値Ilimは、平均電流が熱許容電流を超えることを適切に抑制するために、熱許容電流よりも小さい値に設定されている。具体的には、電流制限値Ilimは、連続通電時間T1においては熱許容電流よりも小さい制限値I1に設定され、連続通電時間T2においては熱許容電流よりも小さい制限値I2に設定され、連続通電時間T3においては熱許容電流よりも小さい制限値I3に設定され、連続通電時間T4においては熱許容電流よりも小さい制限値I4に設定される。
【0049】
図4に示す閾値th1~th4は、それぞれ下記の式(2a)~(2d)を満たす値に設定される。
【0050】
th1=(I1-Iref)×T1=(I1-I0×k)×T1 …(2a)
【0051】
th2=(I2-Iref)×T2=(I2-I0×k)×T2 …(2b)
【0052】
th3=(I3-Iref)×T3=(I3-I0×k)×T3 …(2c)
【0053】
th4=(I4-Iref)×T4=(I4-I0×k)×T4 …(2d)
【0054】
図4に示す閾値th1~th4が式(2a)~(2d)を満たす値に設定されることにより、図4に示す電流制限値Ilimは、図2に示す電流制限値Ilimに対応した値となる。すなわち、電流Iの大きさが図4に示す電流制限値Ilim未満である場合には、図2において通電部品の使用領域が電流制限値Ilim未満の領域に収まることになる。
【0055】
制御回路100のメモリ102には、図4に示すような対応関係が電流制限値マップとして予め記憶されている。制御回路100は、メモリ102に記憶されている電流制限値マップを参照して、電流積算値ΣIに対応する電流制限値Ilimを設定する。
【0056】
そして、制御回路100は、電流Iの大きさが電流制限値Ilimを超えないように、バッテリ11の充放電を制御する。これにより、複数の連続通電時間幅毎の平均電流を算出することなく、通電部品の熱保護を図ることができる。
【0057】
図5は、電流積算値ΣI、電流制限値Ilimおよび電流Iの変化態様の一例を模式的に示す図である。図5の上段に電流積算値ΣIの変化態様が示され、図5の下段に電流制限値Ilimおよび電流Iの変化態様が示される。
【0058】
時刻t1以前においては、電流積算値ΣIが閾値th1未満であるため、電流制限値Ilimが制限値I1に設定される。
【0059】
時刻t1以降においては、電流積算値ΣIが閾値th1を超えているため、電流積算値ΣIが大きいほど、電流制限値Ilimが小さい値に設定される。
【0060】
電流Iは、電流制限値Ilim未満の範囲で、負荷20側の入出力要求を満たすように制御される。これにより、通電部品の過熱が適切に抑制される。
【0061】
<フローチャート>
【0062】
図6は、制御回路100が通電部品の熱保護を行なう場合の処理手順の一例を示すフローチャートである。このフローチャートは、電池システム1が停止状態から作動状態に変化するシステム起動時(たとえば、電池システム1が車両に搭載される場合には車両のユーザによるIGオン操作が行なわれた時)に開始される。
【0063】
まず、制御回路100は、前回のシステム停止時の電流積算値ΣIoffをメモリ102から読み出す(ステップS11)。
【0064】
次いで、制御回路100は、システム起動時の電流積算値ΣI(0)を下記の式(3)を用いて算出する(ステップS12)。
【0065】
ΣI(0)=ΣIoff-Iref×Toff …(3)
【0066】
式(3)において、「Toff」は、前回のシステム停止時から今回のシステム起動時までの時間(システム停止時間)である。すなわち、システム起動時の電流積算値ΣI(0)は、システム停止中の電流絶対値|I|が0であることを前提として、前回のシステム停止時の電流積算値ΣIoffから、基準値Irefとシステム停止時間Toffとの積を減算した値にされる。これにより、システム起動時の電流積算値ΣI(0)を、システム停止中の通電部品の放熱量を加味した値にすることができる。
【0067】
次いで、制御回路100は、所定の演算周期p毎に式(1)を用いて、電流積算値ΣI(n)を算出する(ステップS20)。
【0068】
次いで、制御回路100は、上述の図4に示した電流制限値マップをメモリ102から読み出す(ステップS21)。
【0069】
次いで、制御回路100は、電流制限値マップを参照して、電流積算値ΣI(n)に対応する電流制限値Ilimを設定する(ステップS22)。
【0070】
次いで、制御回路100は、電流Iの大きさが電流制限値Ilimを超えないようにバッテリ11の充放電(負荷20の動作状態)を制御する(ステップS23)。
【0071】
次いで、制御回路100は、電池システム1を停止させるためのシステム停止操作(たとえば電池システム1が車両に搭載される場合には車両のユーザによるIGオフ操作)が行なわれたか否かを判定する(ステップS24)。
【0072】
システム停止操作が行なわれていない場合(ステップS24においてNO)、制御回路100は、処理をステップS20に戻し、ステップS20~S23の処理を所定の演算周期pで繰り返し実行する。
【0073】
システム停止操作が行なわれた場合(ステップS24においてYES)、制御回路100は、電流積算値ΣI(n)をシステム停止時の電流積算値ΣIoffとしてメモリ102に記憶する(ステップS25)。
【0074】
以上のように、本実施の形態による制御回路100は、電流センサ14によって検出される電流Iを積算して電流積算値ΣIを算出し、電流積算値ΣIに基づいて電流制限値Ilimを設定し、通電経路を流れる電流Iの大きさを電流制限値Ilim未満に制限することによって、通電部品の過熱を抑制する。そのため、従来のように複数の連続通電時間幅毎の平均電流を算出する場合に比べて、通電部品の熱保護に要する処理負荷を軽減することができる。
【0075】
さらに本実施の形態による制御回路100は、通電部品の発熱と放熱とが釣り合う連続通電可能電流I0に対応する値(=I0×k)を基準値Irefとして、電流Iの大きさが基準値Irefよりも大きい場合は電流積算値ΣIを増加させ、電流Iの大きさが基準値Irefよりも小さい場合は電流積算値ΣIを減少させる。すなわち、制御回路100は、電池システム1を構成する通電部品の発熱および放熱の状態に応じて電流積算値ΣIを増加あるいは減少させる。そのため、電流積算値ΣIに基づいて、通電部品の熱保護のための電流制限値Ilimを適切に算出することができる。
【0076】
[変形例1]
【0077】
上述の実施の形態においては、上述の図2に示したように、通電部品の熱限界特性が通電部品の連続通電時間と連続通電時間中の平均電流とで規定される場合を想定していた。
【0078】
しかしながら、実際には、通電部品の熱限界特性は、通電部品の環境温度(暴露温度)、および通電部品の使用期間(劣化状態)によっても変化し得る。
【0079】
図7は、通電部品の環境温度が25℃、45℃、55℃である場合における、通電部品の熱限界特性を模式的に示す図である。図7に示すように、通電部品の許容電流値は、連続通電時間および平均電流が同じであっても、環境温度が高いほど低下する。
【0080】
図8は、通電部品の使用期間が新品(0年)、5年、10年である場合の通電部品の熱限界特性を模式的に示す図である。図8に示すように、通電部品の許容電流値は、連続通電時間および平均電流が同じであっても、使用期間が長いほど(経年劣化の度合いが大きいほど)低下する。特に、ヒューズ12は部品劣化による溶断温度が変化するため、使用期間の影響を受け易い傾向にある。
【0081】
この点に鑑み、本変形例1による制御回路100は、通電部品の環境温度および使用期間に応じて、電流積算値ΣIおよび電流制限値Ilimを変化させる。
【0082】
たとえば、制御回路100は、通電部品の環境温度および使用期間に応じて、上述の係数kを変化させることによって、電流積算値ΣIおよび電流制限値Ilimを変化させる。
【0083】
電流積算値ΣI(n)は、上述したように、式(1)を用いて算出される。また、電流制限値Ilimの設定に用いられる閾値th1~th4は、上述したように、式(2a)~(2d)を満たす。
【0084】
ΣI(n)=ΣI(n-1)+(|I|-I0×k)×p …(1)
【0085】
th1=(I1-Iref)×T1=(I1-I0×k)×T1 …(2a)
【0086】
th2=(I2-Iref)×T2=(I2-I0×k)×T2 …(2b)
【0087】
th3=(I3-Iref)×T3=(I3-I0×k)×T3 …(2c)
【0088】
th4=(I4-Iref)×T4=(I4-I0×k)×T4 …(2d)
【0089】
したがって、通電部品の環境温度および使用期間に応じて係数kを変化させることによって、電流積算値ΣIおよび電流制限値Ilimを変化させることができる。なお、通電部品の環境温度は、たとえば温度センサ16の検出結果から把握するようにすればよい。
【0090】
図9は、通電部品の環境温度と使用期間とに応じて係数kを変化させるための係数マップを模式的に示す図である。図9に示すように、通電部品の環境温度および使用期間をパラメータとして係数kを設定することによって、図7図8に示した特性に適合するように電流制限値Ilimを調整することができる。
【0091】
図10は、本変形例1による電流積算値ΣIの算出手法を説明するための図である。図10に示すように、通電部品の低温時および出荷直後(新品時)においては、係数kを大きい値にすることで基準値Iref(=I0×k)を引き上げる。これにより、電流積算値ΣIが減算され易くなり、電流制限値Ilimを大きい値に維持し易くすることができる。一方、通電部品の高温時および経年劣化時(数年使用時)においては、係数kを小さい値にすることで基準値Iref(=I0×k)を引き下げる。これにより、電流積算値ΣIが加算され易くなり、電流制限値Ilimを小さい値にし易くすることができる。
【0092】
このような基準値Irefの調整によって、図7図8に示した特性に適合するように電流制限値Ilimを調整することができる。
【0093】
また、通電部品の環境温度および使用期間に応じて、電流制限値Ilimの設定に用いられる制限値I1~I4を変化させてもよい。
【0094】
図11は、通電部品の環境温度と使用期間とに応じて制限値I1~I4を変化させるための制限値マップを模式的に示す図である。図11に示すように、環境温度および使用期間をパラメータとして各制限値I1~I4を設定することによって、図7図8に示した特性に適合するように電流制限値Ilimを調整することができる。
【0095】
なお、通電部品の環境温度および使用期間の少なくとも一方に応じて、電流積算値ΣIおよび電流制限値Ilimの少なくとも一方を変化させるようにしてもよい。すなわち、通電部品の環境温度が高いほど、および/または、通電部品の使用期間が長いほど、基準値を低下させる等の処理を施すことによって、電流積算値を大きい値にするようにしてもよい。また、通電部品の環境温度が高いほど、および/または、通電部品の使用期間が長いほど、電流制限値を小さい値にするようにしてもよい。
【0096】
[変形例2]
【0097】
上述の実施の形態においては通電部品の熱保護のために電流制限値を設定したが、電流を制限する目的は、通電部品の熱保護に限定されず、さまざまな目的が存在し得る。そのため、複数の目的に沿って複数の電流制限値をそれぞれ算出し、複数の電流制限値のうちの最小値を選択するようにしてもよい。
【0098】
図12は、本変形例2による電流制限値の設定例を示す図である。図12に示すように、通電部品の熱保護のための電流制限値、バッテリ11のSOC(State Of charge)、温度、劣化度等から算出される劣化抑制のための電流制限値、バッテリ11のリチウム析出保護のための電流制限値、電池システム1の許容する電流制限値をそれぞれ算出し、それらの電流制限値のうちの最小値を最終的な電流制限値として選択するようにしてもよい。
【0099】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0100】
1 電池システム、10 電池パック、11 バッテリ、12 ヒューズ、13 監視ユニット、14 電流センサ、15 電圧センサ、16 温度センサ、20 負荷、100 制御回路、101 プロセッサ、102 メモリ、NL 負極線、PL 正極線、SMR システムメインリレー。
図1
図2
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図10
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図12