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特許7526230バッテリーセルの電極用の活物質およびその製造のための方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-23
(45)【発行日】2024-07-31
(54)【発明の名称】バッテリーセルの電極用の活物質およびその製造のための方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/485 20100101AFI20240724BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20240724BHJP
   H01M 4/131 20100101ALI20240724BHJP
   C01G 31/00 20060101ALI20240724BHJP
【FI】
H01M4/485
H01M4/62 Z
H01M4/131
C01G31/00
【請求項の数】 15
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022128602
(22)【出願日】2022-08-12
(65)【公開番号】P2023059819
(43)【公開日】2023-04-27
【審査請求日】2022-08-12
(31)【優先権主張番号】21202798.1
(32)【優先日】2021-10-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】510010894
【氏名又は名称】ベレノス・クリーン・パワー・ホールディング・アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】ヨアン・メタン
【審査官】山下 裕久
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-094516(JP,A)
【文献】特開2013-171837(JP,A)
【文献】特開2014-123564(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/13-62
C01G 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッテリーセルの電極用の活物質であって、H2-xを含み、xは0.01~0.99であることを特徴とする、活物質。
【請求項2】
xは0.20~0.99である、請求項1に記載の活物質
【請求項3】
xは0.21~0.99である、請求項2に記載の活物質。
【請求項4】
xは0.25~0.95である、請求項2に記載の活物質。
【請求項5】
請求項1に記載の活物質を含む電極。
【請求項6】
電極の総重量ベースで、50重量%~99重量%の活物質を含む、請求項5に記載の電極。
【請求項7】
炭素ベースの導電性材料をさらに含む、請求項5に記載の電極。
【請求項8】
電極の総重量ベースで、0.5重量%~20重量%の炭素ベースの導電性材料を含む、請求項7に記載の電極。
【請求項9】
バインダーをさらに含む、請求項5に記載の電極。
【請求項10】
電極の総重量ベースで、0.5重量%~20重量%のバインダーを含む、請求項9に記載の電極。
【請求項11】
請求項5に記載の電極を含むバッテリーセル。
【請求項12】
非水性電解質をさらに含む、請求項11に記載のバッテリーセル。
【請求項13】
活物質を含む電極を生産するための方法であって、
を生成する工程と、
前記Hと、導電性材料と、バインダーとを含む混合物を調製する工程と、
前記混合物を含む溶媒を集電体に塗布する工程と、
前記混合物を含む前記溶媒を乾燥させて、参照カソードを生成する工程と、
前記参照カソードを、80℃~150℃で酸化させる工程と
を備え、
前記参照カソードに含まれる前記Hの酸化は、式(A)に従う、方法。
+0.25xO→H2-x+0.5xHO (A)
【請求項14】
前記参照カソードに含まれる前記Hの酸化は酸化剤の存在下で実施される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記酸化剤は乾燥空気である、請求項14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バッテリーまたはバッテリーセルの電極用の活物質に関する。本発明は、活物質を含む電極、およびそのような電極を含むバッテリーまたはバッテリーセルにさらに関する。本発明は、バッテリーまたはバッテリーセルの電極用の活物質を生産するための方法にさらに関する。
【背景技術】
【0002】
昨今、充電式バッテリーはよく知られている。しかし、現世代の充電式バッテリーは、いくつかの難点、例えば重量が大きいこと、容量が小さいこと、充電が遅いことならびに劣化が早いこと、すなわち、充電/放電サイクルを繰り返した後に、容量およびエネルギー密度などの特性の低減が早いことを未だ有する。
【0003】
無機材料、特にセラミックが、バッテリーおよびバッテリーセルにしばしば使用される。無機材料の具体的な一例はHであり、通常は繊維、例えばナノファイバーの形態で使用される。Hは、1960~1970年代から既知の化合物であり、その構造が、水素原子(プロトン)の位置を除いて、1990年代に部分的に分析された。プロトンの位置は、2015年に部分的に分析された。
【0004】
は、多量のアルカリ金属イオンおよび遷移金属イオン、特にリチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、マグネシウム(Mg)および亜鉛(Zn)を可逆的に交換することができる。このことによりHは、金属イオンバッテリー、例えばLiイオンバッテリーおよびMgイオンバッテリー(MIB)における活物質としての使用のための、興味深い化合物となる。
【0005】
活物質としてのHはバッテリーの容量に寄与し、高い率の性能を有する。例えば、リチウムベースのバッテリーでは、容量400mAh/g超が達成されうる。MIBでは、60℃での初期放電容量231mAh/g、さらに電解質0.5M Mg(ClO4)2のアセトニトリル溶液における平均放電電圧約1.9V対Mg/Mg2+が得られ、高いエネルギー密度440Wh/kgが生じる。
【0006】
EP2698854は、活物質を得るために熱分解される、(部分的にリチウム化された)Hを含む、粒子ベースの電極材料を生産するための方法を開示する。
【0007】
US2017/0250449は、水性電解質を含む充電式の亜鉛イオンバッテリーにおける、カソード用の活物質としてのHおよびZn0.25.HOの使用を開示する。段落[0081]では、Hが、Zn0.25.HOよりも小さい構造上の剛性および柔軟性を有し、充電/放電サイクルを繰り返した際の容量の保持がわずかに不十分となることが報告される。
【0008】
の難点の1つは限定的な化学的安定性であり、充電/放電を繰り返す間に経時的に、不十分な電気化学的安定性(サイクル安定性)が生じる。言い換えれば、充電/放電を繰り返した際の、バッテリーにおける金属の可逆的な交換に関連する体積変化により、経時的にH材料が損傷することが指摘されている。このことが、経時的なバッテリーセルの容量の顕著な低減につながる。
【0009】
昨今、Hの構造は、直方格子構造中に交換可能なプロトンを含むことが知られている。プロトン(水素原子)の性質は、水様部分から移動性のプロトンまで及ぶものと説明されうる。直方晶構造をそのままの形に保つには一定量の水素が必要であるが、式単位あたり2つの水素原子は、1つのバナジウム原子が4+イオンとして固定される、すなわち酸化状態4+を有することを意味する。酸化状態5+を有するバナジウム原子と比較して、酸化状態4+は、挿入されるアルカリ金属(例えばリチウム)が1つ少ない当量であること、ゆえにバッテリーセルの容量がより小さいことを意味する。
【0010】
のさらなる難点は、交換可能なプロトンが、活物質の腐食および/または分解、集電体の腐食、ならびに電解質およびアノードの阻害を引き起こすおそれがあることである。そのような損傷の結果は、バッテリーセルの容量の低減である。
【0011】
EP2784847は、化学的にリチウム化されたH、Li2-xを開示し、ここでxは0.1~1.5であり、好ましくは1.5に近い。化学的にリチウム化されたHの表面は、活物質としての、コーティングされた化学的にリチウム化されたHを含むカソードのサイクル安定性を改善するため、例えばコーティングの堆積により、Al(OH)で処理される。化学的にリチウム化されたH、Li2-xを得るための方法の難点は、リチウム化および脱水素が2つの別々の処理ステップで実行され、それにより、材料を製造するための期間全体が増大することである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】EP2698854
【文献】US2017/0250449
【文献】EP2784847
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上記欠点のうちの1つまたは複数を克服することが本発明の目的である。バッテリーセルの電極用の活物質を提供することが本発明の目的であり、活物質は改善された化学的安定性、すなわち改善された化学的不活性を有する。バッテリーセルにおける電極に使用された場合、最先端の活物質よりも、長期にわたりより大きい容量およびより高い電気化学的安定性を有し、特にカソードの繰り返しの被覆/剥離の間およびバッテリーセルの繰り返しの充電/放電の間、容量が安定である、活物質を提供することが本発明のさらなる目的である。
【0014】
バッテリーセルの電極用の活物質を生産するための方法を提供することが本発明のさらなる目的であり、方法はより複雑でなく、かつ/または加工期間もしくは時間の低減を必要とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の第1の態様によれば、添付の請求項で開示される、バッテリーセルの電極用の活物質が提供される。
【0016】
活物質はH2-xを含み、xは0.01~0.99である。有利には、xは0.20~0.99、例えば0.21~0.99、または0.25~0.95である。
【0017】
本発明の第2の態様によれば、添付の請求項で開示される電極が提供される。有利には、電極はバッテリーセルの電極である。電極は、カソードであってもアノードであってもよい。電極は、本発明の第1の態様の活物質を含む。有利には、電極は、電極の総重量ベースで、50重量%~99重量%、好ましくは75重量%~95重量%の活物質を含む。
【0018】
有利には、電極は、導電性材料、好ましくは炭素ベースの導電性材料をさらに含む。有利には、電極は、電極の総重量ベースで、好ましくは炭素ベースの、0.5重量%~20重量%、好ましくは2重量%~10重量%の導電性材料を含む。
【0019】
有利には、電極はバインダーをさらに含む。有利には、電極は、電極の総重量ベースで、0.5重量%~20重量%、好ましくは1重量%~10重量%のバインダーを含む。
【0020】
本発明は、本発明の電極を含むバッテリーセルをさらに提供する。有利には、バッテリーセルは、電解質、好ましくは非水性電解質をさらに含む。電解質は、固体電解質であっても液体電解質であってもよい。
【0021】
本発明の第3の態様によれば、添付の請求項で開示される、電極用の活物質を生産するための方法が提供される。
【0022】
方法は、Hの酸化、それにより、xは0.01~0.99、例えば0.20~0.99、0.21~0.99、または0.25~0.95である、活物質としてのH2-xを得るステップを含む。
【0023】
有利には、酸化は、温度80℃~150℃、好ましくは100℃~130℃で実施される。
【0024】
有利には、Hの酸化は酸化剤の存在下で実施される。有利には、酸化剤は乾燥空気である。
【0025】
本発明の活物質の利点は、以下に限定されるものではないが、活物質が、先行技術の活物質と比較して、より高い化学的不活性により表される、より高い化学的安定性を有することである。バッテリーセルの電極に使用された場合、本発明の活物質の利点は、長期にわたるより高い電気化学的安定性、およびバッテリーセルの繰り返しの充電/放電の間維持されるより大きい容量である。
【0026】
本発明の態様はここで、添付の図を参照してより詳細に記載され、同じ参照番号は同じ図を示す。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】典型的なコインセルの構成を概略的に表す図である。
図2】単一の放電サイクルにおける、電圧対比放電容量の結果を表すグラフである。
図3図1によるバッテリーセルの放電容量プロファイルを表すグラフであり、カソードは、活物質としてH2v3O8(参照バッテリーセル)およびH2-xV3O8(本発明のバッテリーセル)をそれぞれ含む。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明はここで、本発明の実施形態が示される添付の図を参照して、以下でより完全に記載される。しかし本発明は、多くの様々な形態で具体化されてよく、本明細書で示される実施形態に限定されるものとして解釈されるべきでなく、むしろこれらの実施形態は、網羅性および完全性のために提供される。
【0029】
本発明は特に、金属、特にアルカリ金属またはアルカリ土類金属を含むバッテリーセル、例えば金属イオンバッテリーに関する。アルカリ金属の好ましい例はリチウム(Li)およびナトリウム(Na)であり、対応する金属イオンバッテリーはそれぞれ、Liイオンバッテリー(つまりLIB)またはNaイオンバッテリー(つまりSIB)である。アルカリ土類金属の好ましい例はマグネシウム(Mg)であり、対応する金属イオンバッテリーはMgイオンバッテリー(つまりMIB)である。
【0030】
本発明は特に、バッテリーの電極用の活物質にさらに関し、活物質はバナジウム(V)を含む。
【0031】
バナジウムを含む活物質については、金属イオンバッテリーの電極に使用された場合、バナジウムが酸化状態4+またはさらにそれ未満の代わりに酸化状態5+を有していれば、より多くの金属イオン(例えば、バッテリーがLiイオンバッテリーであればリチウムイオン)が活物質中に蓄えられることが既知である。これによって、バッテリーレベルについて、より大きい開回路電圧がもたらされ、それにより平均放電電圧、およびそれゆえにバッテリーにより蓄えられるエネルギーが増大する。
【0032】
本発明の第1の態様によれば、バッテリーセルの電極用の活物質はH2-xを含み、xは0.01~0.99、例えば0.05~0.99、0.10~0.99、好ましくは0.20~0.99、例えば0.21~0.99、0.22~0.98、または0.25~0.95である。
【0033】
が直方結晶格子を有することが、当技術分野で既知である。Hのバナジウム原子が酸化状態4+または5+を有し、4+対5+の平均比率が2対1であることが、当技術分野でさらに既知である。結果として、Hの平均酸化状態は4.66+と考えられる。発明者らは、平均酸化状態を値5+に増大させるために、例えばHをHVに酸化させることにより、酸化状態4+~5+を有するH中のバナジウム原子の酸化状態を改変させると、H2-xの直方格子構造が失われることによって、不可逆的な構造上の変化が引き起こされることを発見した。
【0034】
しかし、発明者らは驚くべきことに、特にHの結晶格子中の交換可能なプロトンの一部のみを除去することにより、Hの直方格子構造を改変することも失うこともなく、Hを、水素を枯渇させたH、つまりH2-xに変換することができることを発見した。このことは、優れた化学的不活性、およびそれゆえに優れた化学的安定性をもたらす。発明者らは特に、本発明の方法により、Hの結晶構造中に存在するこれらの交換可能なプロトンの一部を除去することが可能となることを発見した。いかなる理論にも縛られることを望むものではないが、発明者らは、酸化状態4+を有する最小限の量のバナジウム原子の存在が、Hの直方格子構造を維持するのに必要であると考える。
【0035】
有利には、H2-xは、4.67+~4.99+、すなわちHの平均酸化状態より大きく、かつ酸化状態4+を有する一部のバナジウムが依然として存在することで5+より小さい平均酸化状態を有する。
【0036】
本発明の第2の態様によれば、本発明の第1の態様の活物質を含むバッテリーセルの電極が提供される。
【0037】
有利には、電極は、電極の総重量ベースで、25重量%~99.7重量%、例えば40重量%~99.5重量%、好ましくは50重量%~99重量%、例えば60重量%~97.5重量%、より好ましくは75重量%~95重量%の活物質を含む。
【0038】
有利には、電極は導電性材料をさらに含む。有利には、導電性材料は、炭素を含む材料、例えば炭素繊維、カーボンナノチューブ、粒状炭素(例えば粉末)、またはそれらの2つ以上の組み合わせを含む。有利には、導電性材料は炭素ベースの導電性材料、例えばグラファイトである。
【0039】
有利には、電極は、電極の総重量ベースで、0.1重量%~30重量%、例えば0.25重量%~25重量%、好ましくは0.5重量%~20重量%、例えば1重量%~15重量%、より好ましくは2重量%~10重量%の導電性材料を含む。
【0040】
有利には、電極はバインダーをさらに含む。バインダーは、当技術分野で既知の任意のバインダー、特にバナジウム、特にHを含む活物質に使用される典型的なバインダーであってよい。バインダーの好ましい例は、ゴム、例えばスチレン-ブタジエンゴム(SBR)またはラテックス、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、およびポリビニルピロリドン(PVP)、特に高分子量PVPである。
【0041】
有利には、電極は、電極の総重量ベースで、0.1重量%~30重量%、例えば0.25重量%~25重量%、好ましくは0.5重量%~20重量%、例えば0.75重量%~15重量%、より好ましくは1重量%~10重量%のバインダーを含む。
【0042】
有利には、電極は集電体をさらに含む。集電体は、当技術分野で既知の任意の集電体、例えばアルミニウム(Al)および/またはチタン(Ti)を含むフィルムまたはホイルまたはシート、例えばアルミホイルおよび下塗りしたアルミホイル、例えば下塗り剤としてカーボンブラックを含むアルミホイルであってよい。
【0043】
有利には、活物質、導電性材料およびバインダーは、集電体上に存在する、すなわち集電体に堆積しているか取り付けられている。
【0044】
本発明による電極はカソードであってもアノードであってもよい。
【0045】
有利には、電極に含まれる活物質は、活物質の総重量ベースで、本発明の活物質を25重量%~100重量%、例えば本発明の活物質を少なくとも30%、少なくとも50%、好ましくは少なくとも75%、少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、例えば少なくとも95%含む。好ましくは、電極の活物質は本発明の活物質からなる。あるいは、電極の活物質は、本発明の活物質、および当技術分野で既知の1種または複数の他の活物質、例えばグラファイトを含んでいてよい。
【0046】
本発明は、本発明の電極を含むバッテリーセルをさらに提供する。図1は、バッテリーセル10の例示的な実施形態を表す。バッテリーセル10は、CR2450型構成として当技術分野で既知のコインセル構成を有する。バッテリーセル10は、アノード11およびカソード12を含む。バッテリーセル10は、アノード11およびカソード12の間に電解質13をさらに含む。有利には、バッテリーセル10は、コインセル蓋14、コインセル基部15、スペーサー16およびばね17をさらに含む。スペーサー16およびばね17は、バッテリーセル10の他の構成要素11、12、13、14、15の間の良好な接触をもたらす。
【0047】
有利には、バッテリーセルは金属イオンバッテリーセルであり、金属はアルカリ金属またはアルカリ土類金属である。有利には、アルカリ金属はリチウム(Li)またはナトリウム(Na)である。有利には、アルカリ土類金属はマグネシウム(Mg)である。
【0048】
有利には、カソード12またはアノード11は本発明による電極であり、アノード11またはカソード12はそれぞれ、当技術分野で既知の標準的な電極である。
【0049】
有利には、バッテリーセルが金属イオンバッテリーセルである場合、本発明による電極(すなわちカソード12またはアノード11)は実質的に金属不含であり、他方の電極(すなわちそれぞれアノード11またはカソード12)は金属を含む。金属を含む電極は、金属のフィルム、ホイルまたはシートであってよい。
【0050】
電解質13は液体電解質であってよい。液体電解質はバインダーを含んでいてよい。電解質はイオン液体であってよく、任意で、有機構成要素を含むイオン液体、塩-溶媒混合物、好ましくは過飽和塩-溶媒混合物であってよい。例えば、液体電解質は、リチウム塩がそこに溶解したイオン液体、または溶解したリチウム塩を有する、イオン液体および有機液体の混合物であってよい。使用可能な液体の例は、ポリエチレングリコールジメチルエーテル(PEG DME)または有機溶媒、例えばジメチルエーテルと混合されたジオキソランを含む。液体電解質は、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(PEGDME)およびリチウムビス(トリフルオロスルホニル)イミド(LiTFSI)の化合物を含んでいてよい。あるいは、液体電解質は、1,2-ジメトキシエタンおよびLiTFSIの化合物を含んでいてよい。有用なイオン液体は、メチル-ブチルピリジニウムトリフルオロスルホニルイミド(PYR14TFSI)である。電解質は、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFMSI)も含んでいてよい。例えば電解質は、2.2Mリチウムビス(トリフルオロスルホニル)イミド(LiFSI)の1,2-ジメトキシエタン溶液であってよい。
【0051】
あるいは、電解質13は固体状態の電解質であってもよい。固体状態の電解質は、固体ポリマーまたは固体無機材料、例えば固体無機ガラスまたはセラミック材料、例えばガーネット材料であってよい。例えば、固体状態の電解質は、硫化リチウムの固体状態の電解質、好ましくはLiPSもしくはLiPSBrであってよく、またはバッテリーセルの金属(特にリチウム、ナトリウムまたはマグネシウム)の塩がポリ(エチレンオキシド)(PEO)のポリマーマトリックス中に分散したPEOであってよい。あるいは、固体状態の電解質は、ガーネットセラミック、例えばリチウムを詰めたガーネット材料、例えばリチウムランタンジルコニウムオキシド(LiLaZr12、LLZOと略される)であってよい。
【0052】
あるいはさらに、電解質はゲル電解質であってもよい。ゲル電解質はポリマー-ゲル化有機媒体であってよい。例えば、ゲル電解質は、ポリ(メタクリル酸メチル)(PMMA)、リチウム塩および少量の液体の混合物であってよい。
【0053】
有利には、電解質13は非水性電解質である。
【0054】
有利には、電解質13が液体電解質またはゲル電解質である場合、バッテリーセル10は、アノード11およびカソード12の間にバッテリーセパレーター(示さない)を含む。バッテリーセパレーター膜は、多孔質のセパレーター膜であってよい。当技術分野で既知のポリマーバッテリーセパレーター膜、例えば多孔質ポリプロピレン(PP)膜または多孔質ポリエチレン(PE)膜が使用可能である。例えば、厚さ25μmおよび多孔率50%を有するポリプロピレン膜が使用可能である。PPおよびPEは、それらの化学的に不活性な特質から好ましい材料である。しかしこれらは、多孔質のセパレーターは液体電解質を吸収しうることが好ましいにもかかわらず、容易には湿らない。この目的のため、疎水性のPPおよびPEは、表面処理またはコーティング、例えばスプレーコーティング、ディップコーティングまたはプラズマコーティング-大気圧プラズマもしくは低圧プラズマで処理されてよい。あるいは、バッテリーセパレーター膜はセラミック材料であってもよい。
【0055】
本発明の第3の態様によれば、電極用の活物質を生産するための方法が提供される。有利には、方法は、Hの酸化、それにより、活物質としてのH2-xを得るステップを含み、xは0.01~0.99、例えば0.05~0.99、0.10~0.99、好ましくは0.20~0.99、例えば0.21~0.99、0.22~0.98、または0.25~0.95である。
【0056】
有利には、水素原子が酸化ステップの間にHから除去される。有利には、水素原子は化学的方法で除去される。
【0057】
有利には、酸化は、温度50℃~200℃、例えば75℃~225℃、好ましくは80℃~150℃、より好ましくは100℃~130℃で実施される。
【0058】
有利には、Hの酸化は酸化剤の存在下で実施される。特に、酸化剤はHと接触する。
【0059】
好ましくは、酸化剤は気体または蒸気、すなわち気相中に混入させた固体または液体酸化剤である。有利には、酸化剤は乾燥空気である。有利には、乾燥空気は最大で2000ppmの水を含む。酸化剤の別の例は純酸素(O)、すなわち純度少なくとも99%、好ましくは少なくとも99.5%、より好ましくは少なくとも99.9%を有する酸素である。酸化剤の他の例は、NOならびにOおよびNの混合物、例えばOおよびNの5/95~最大95/5混合物である。
【0060】
任意で、本発明の方法は、触媒、例えばカーボンブラック、カーボンナノチューブまたはグラフェンの存在下で実行されてよい。
【0061】
発明者らは、本発明の方法により、Hの水素原子の一部のみを除去することが可能となり、それによりHの直方結晶格子構造が維持され、このことがバッテリーセルにおけるバナジウム分解の低減を有する活物質をもたらし、化学的安定性(化学的不活性)の改善をもたらすことを見出した。
【実施例
【0062】
[実施例1]
1:5の重量比のVおよびV、ならびに脱イオン水6リットルを含む混合物を、密閉反応器内で一定の撹拌下で保持し、30分~5時間、好ましくは1~2時間の期間200℃に加熱した。次いで反応混合物を室温に冷却し、過剰の水を濾過により除去した。さらに、反応混合物中の残留水を真空乾燥により除去し、それによりHを得た。
【0063】
[実施例2]
活物質として実施例1のHを含む参照カソードを生産した。H90重量%、導電性材料としてのカーボンナノチューブ(供給業者:Cnano Technology)5重量%、およびバインダーとしての高分子量ポリビニルピロリドン(PVP)(供給業者:Ashland)5重量%を含む混合物を調製した。混合物を、溶媒としての脱イオン水中の40重量%スラリーとして調合した。次いで、脱イオン水中に混合物を含む化合物を、集電体としての20μm厚のアルミホイルに塗布し、続いて真空下で乾燥させて水を除去し、それにより参照カソードを得た。
【0064】
活物質としてHを含む参照カソードを、温度80℃~150℃、好ましくは約120℃で、1時間~48時間、好ましくは約10時間の期間、乾燥空気の流れに暴露する(接触させる)ことにより、本発明によるカソードを得た。以下の式(I)に従って、乾燥空気中の酸素によりHを酸化させた。
+0.25xO→H2-x+0.5xHO(I)
【0065】
実施例2のカソード(参照バッテリーセル)および実施例3のカソード(本発明のバッテリーセル)をそれぞれ使用して、図1によるCR2450コインセルバッテリーを調製した。200μm厚のリチウム金属ホイルをアノードとして使用した。2.2Mリチウムビス(トリフルオロスルホニル)イミド(LiFSI、日本触媒により供給)の1,2-ジメトキシエタン(供給業者:Merck)溶液を液体電解質として使用した。2層のTeijin MFS FZA1601(供給業者:Teijin Lielsort Korea)を、カソードをアノードと分離するためのバッテリーセパレーターとして使用した。圧力80MPaを使用する空気プレスにより、バッテリーセルを密封した。
【0066】
[実施例3]
得られた本発明によるバッテリーセルおよび参照バッテリーセルを、25℃で繰り返しの充電/放電にかけた。比放電容量を各充電/放電サイクルについて測定した。
【0067】
図2は、放電期間10時間に対応する、参照バッテリーセル(21)および本発明のバッテリーセル(20)についての、一定の電流0.26mA/gでの、最初の放電サイクルにおける比放電容量に対する電圧対Li/Liを示す。参照バッテリーセルの開回路電圧、すなわち100%充電状態(100%SOC)で測定された電圧対Li/Liは、3.3V対Li/Liであり、一方本発明のカソードを含むバッテリーセルは、開回路電圧3.5V対Li/Liを有していた。図2から、ある特定の電圧では、本発明のバッテリーセルが参照バッテリーセルよりも大きい比放電容量を示すことがさらに明らかである。言い換えれば、ある特定の比放電容量では、本発明のバッテリーセルについて、参照バッテリーセルよりも高い電圧が測定される。
【0068】
図3は、本発明によるバッテリーセル(30)および参照バッテリーセル(31)についての、200サイクルまでの充電/放電サイクルの回数の関数としての比放電容量結果を示す。1時間の放電期間中にバッテリーセルに一定の電流2.6mA/gが印加され、ここでgはカソード活物質のグラムでの質量を表す。図3から、本発明によるバッテリーセル(30)の比放電容量が、どの時点でも参照バッテリーセル(31)の容量より大きいことが明らかである。さらに、参照バッテリーセルの比放電容量は、150回の充電/放電サイクル後に減少し始めるが、本発明のバッテリーセルの比放電容量は、(少なくとも)200サイクルまでは安定なままである。
【符号の説明】
【0069】
10 バッテリーセル
11 アノード
12 カソード
13 電解質
14 コインセル蓋
15 コインセル基部
16 スペーサー
17 ばね
20 本発明のバッテリーセル
21 参照バッテリーセル
30 本発明によるバッテリーセル
31 参照バッテリーセル
図1
図2
図3