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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-23
(45)【発行日】2024-07-31
(54)【発明の名称】電動パーキングブレーキ装置
(51)【国際特許分類】
   B60T 8/00 20060101AFI20240724BHJP
   B60T 13/74 20060101ALI20240724BHJP
   B60T 8/17 20060101ALI20240724BHJP
【FI】
B60T8/00 Z
B60T13/74 H
B60T8/17 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022509269
(86)(22)【出願日】2020-12-18
(86)【国際出願番号】 JP2020047376
(87)【国際公開番号】W WO2021192457
(87)【国際公開日】2021-09-30
【審査請求日】2023-09-26
(31)【優先権主張番号】P 2020055904
(32)【優先日】2020-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】315019735
【氏名又は名称】日立Astemo上田株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116034
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 啓輔
(72)【発明者】
【氏名】碓井 広地
(72)【発明者】
【氏名】生川 宏夢
(72)【発明者】
【氏名】プラネ サンディプ
(72)【発明者】
【氏名】寺崎 勝一
(72)【発明者】
【氏名】稲毛 崇陽
【審査官】山田 康孝
(56)【参考文献】
【文献】特許第6297883(JP,B2)
【文献】特許第4466582(JP,B2)
【文献】特開2019-130938(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 7/12-8/1769
B60T 13/00-13/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パーキングブレーキの作動および解除が電動アクチュエータ(38)の作動に応じて切り替えられる電動パーキングブレーキ装置において、車輪速度を検出する車輪速度検出手段(64)と、当該車輪速度検出手段(64)の検出値に基づいて車両状態を判断する車両状態判断部(66)を有しつつ前記電動アクチュエータ(38)の作動を制御する制御ユニット(C)とを備え、
当該制御ユニット(C)は、前記電動アクチュエータ(38)の一時的な作動中断が生じた後の作動可能状態への復帰時に前記パーキングブレーキのアプライ制御の途中で前記作動中断が生じたと判断した場合に、
その復帰時の前記車両状態判断部(66)の判断結果が停車中であったときには前記パーキングブレーキのアプライ制御を再開し、
前記復帰時の前記車両状態判断部(66)の判断結果が走行中であったときには前記パーキングブレーキのアプライ制御の再開を停止することを特徴とする電動パーキングブレーキ装置。
【請求項2】
パーキングブレーキの作動および解除が電動アクチュエータ(38)の作動に応じて切り替えられる電動パーキングブレーキ装置において、車輪速度を検出する車輪速度検出手段(64)と、当該車輪速度検出手段(64)の検出値に基づいて車両状態を判断する車両状態判断部(66)を有しつつ前記電動アクチュエータ(38)の作動を制御する制御ユニット(C)とを備え、
当該制御ユニット(C)は、前記電動アクチュエータ(38)の一時的な作動中断が生じた後の作動可能状態への復帰時に前記パーキングブレーキのリリース制御の途中で前記作動中断が生じたと判断した場合に、
その復帰時の前記車両状態判断部(66)の判断結果が停車中であったときには、新たな作動要求に応じて前記電動アクチュエータ(38)の作動を制御し、
前記復帰時の前記車両状態判断部(66)の判断結果が走行中であったときには前記パーキングブレーキのリリース制御を再開することを特徴とする電動パーキングブレーキ装置。
【請求項3】
前記制御ユニット(C)は、前記電動アクチュエータ(38)の一時的な作動中断が生じた後の作動可能状態への復帰時に、前記パーキングブレーキのアプライ制御の途中で前記作動中断が生じたと判断した場合に、前記車両状態判断部(66)の判断結果が走行中であったときには新たな作動要求に応じて前記電動アクチュエータ(38)の作動を制御することを特徴とする請求項1に記載の電動パーキングブレーキ装置。
【請求項4】
前記制御ユニット(C)は、前記電動アクチュエータ(38)の一時的な作動中断が生じた後の作動可能状態への復帰時に、前記パーキングブレーキのアプライ制御の途中で前記作動中断が生じたと判断した場合に、前記車両状態判断部(66)の判断結果が走行中であったときに運転者が走行を意図していると判断したときには、前記パーキングブレーキのリリース制御を実行することを特徴とする請求項1に記載の電動パーキングブレーキ装置。
【請求項5】
一対のブレーキシュー(15,16)をブレーキドラム(14)に摺接させる動力を発揮するホイールシリンダ(17)を備えるドラムブレーキ(B)に、作動に応じてパーキングブレーキ状態を得るパーキングブレーキレバー(34)と、そのパーキングブレーキレバー(34)にパーキングブレーキケーブル(37)を介して連結される前記電動アクチュエータ(38)とが付設されることを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載の電動パーキングブレーキ装置。
【請求項6】
前記車両状態判断部(66)は、前記車輪速度検出手段(64)の検出値が所定値以上であるときに走行中であると判断し、前記車輪速度検出手段(64)の検出値が前記所定値未満であるときに停車中であると判断することを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載の電動パーキングブレーキ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パーキングブレーキの作動および解除が電動アクチュエータの作動に応じて切り替えられる電動パーキングブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
このような電動パーキングブレーキ装置は、特許文献1および特許文献2で知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】日本特許第4466582号公報
【文献】日本特許第6297883号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1で開示されたものでは、電動アクチュエータの一時的な作動中断後に作動可能状態に復帰したときにパーキングブレーキのリリース制御が未完了であった場合には、サービスブレーキ操作部材の非操作状態ではパーキングブレーキのリリース制御を実行しないようにして未完了であった制御を再開することで、電動アクチュエータの復帰に伴って車両が不所望に動き出してしまうような自体が生じるのを防止している。しかるにパーキングブレーキのアプライ制御の途中で電動アクチュエータの作動中断が生じた場合、電動アクチュエータの作動可能状態への復帰時に車両が走行中であるときには、運転者の意図に反してブレーキ力がかかってしまう可能性がある。
【0005】
また上記特許文献2で開示されたものでは、電動アクチュエータの一時的な作動中断後の作動可能状態への復帰時には、新たな作動要求に応じて電動アクチュエータの作動を制御することで、運転者の意志に応じた制御再開を可能としている。しかるに電動アクチュエータの一時的な作動中断の前後で車両状態が同じ状態にある場合には、未完了の制御が直ちに再開されないと、パーキングブレーキのリリース制御の場合には車両走行時のブレーキの引きずりが生じる可能性が高まり、またパーキングブレーキのアプライ制御の場合には停車状態でのブレーキ効力不足が生じる可能性がある。
【0006】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、電動アクチュエータの一時的な作動中断後の作動可能状態への復帰時に車両状態に応じた適切な制御が行なわれるようにした電動パーキングブレーキ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、パーキングブレーキの作動および解除が電動アクチュエータの作動に応じて切り替えられる電動パーキングブレーキ装置において、車輪速度を検出する車輪速度検出手段と、当該車輪速度検出手段の検出値に基づいて車両状態を判断する車両状態判断部を有しつつ前記電動アクチュエータの作動を制御する制御ユニットとを備え、当該制御ユニットは、前記電動アクチュエータの一時的な作動中断が生じた後の作動可能状態への復帰時に前記パーキングブレーキのアプライ制御の途中で前記作動中断が生じたと判断した場合に、その復帰時の前記車両状態判断部の判断結果が停車中であったときには前記パーキングブレーキのアプライ制御を再開し、前記復帰時の前記車両状態判断部の判断結果が走行中であったときには前記パーキングブレーキのアプライ制御の再開を停止することを第1の特徴とする。
【0008】
また本発明は、パーキングブレーキの作動および解除が電動アクチュエータの作動に応じて切り替えられる電動パーキングブレーキ装置において、車輪速度を検出する車輪速度検出手段と、当該車輪速度検出手段の検出値に基づいて車両状態を判断する車両状態判断部を有しつつ前記電動アクチュエータの作動を制御する制御ユニットとを備え、当該制御ユニットは、前記電動アクチュエータの一時的な作動中断が生じた後の作動可能状態への復帰時に前記パーキングブレーキのリリース制御の途中で前記作動中断が生じたと判断した場合に、その復帰時の前記車両状態判断部の判断結果が走行中であったときには前記パーキングブレーキのリリース制御を再開することを第2の特徴とする。
【0009】
本発明は、第1の特徴の構成に加えて、前記制御ユニットは、前記電動アクチュエータの一時的な作動中断が生じた後の作動可能状態への復帰時に、前記パーキングブレーキのアプライ制御の途中で前記作動中断が生じたと判断した場合に、前記車両状態判断部の判断結果が走行中であったときには新たな作動要求に応じて前記電動アクチュエータの作動を制御することを第3の特徴とする。
【0010】
本発明は、第1の特徴の構成に加えて、前記制御ユニットは、前記電動アクチュエータの一時的な作動中断が生じた後の作動可能状態への復帰時に、前記パーキングブレーキのリリース制御の途中で前記作動中断が生じたと判断した場合に、前記車両状態判断部の判断結果が走行中であったときに運転者が走行を意図していると判断したときには、前記パーキングブレーキのリリース制御を実行することを第4の特徴とする。
【0011】
本発明は、第2の特徴の構成に加えて、前記制御ユニットは、前記電動アクチュエータの一時的な作動中断が生じた後の作動可能状態への復帰時に、前記パーキングブレーキのアプライ制御の途中で前記電動アクチュエータの一時的な作動中断が生じたと判断した場合に、前記車両状態判断部の判断結果が停車中であったときには、新たな作動要求に応じて前記電動アクチュエータの作動を制御することを第5の特徴とする。
【0012】
本発明は、第1~第5の特徴の構成のいずれかに加えて、一対のブレーキシューをブレーキドラムに摺接させる動力を発揮するホイールシリンダを備えるドラムブレーキに、作動に応じてパーキングブレーキ状態を得るパーキングブレーキレバーと、そのパーキングブレーキレバーにパーキングブレーキケーブルを介して連結される前記電動アクチュエータとが付設されることを第6の特徴とする。
【0013】
さらに本発明は、第1~第6の特徴の構成のいずれかに加えて、前記車両状態判断部は、前記車輪速度検出手段の検出値が所定値以上であるときに走行中であると判断し、前記車輪速度検出手段の検出値が前記所定値未満であるときに停車中であると判断することを第7の特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の第1の特徴によれば、電動アクチュエータの一時的な作動中断が生じた後で電動アクチュエータが作動可能状態に復帰したときに、パーキングブレーキのアプライ制御の途中で作動中断が生じたと判断した場合の停車中には未完了であったパーキングブレーキのアプライ制御を直ちに再開することによって停車時のブレーキ効力の不足が生じることを防止することができ、また走行中であるときにはパーキングブレーキのアプライ制御の再開を停止するので運転者の意図に反してブレーキ力がかかってしまうことはない。
【0015】
また本発明の第2の特徴によれば、電動アクチュエータの一時的な作動中断が生じた後で電動アクチュエータが作動可能状態に復帰したときに、パーキングブレーキのリリース制御の途中で作動中断が生じたと判断した場合の停車中には未完了のパーキングブレーキのリリース制御を直ちに再開するので、ブレーキの引きずりの発生を防止することができる。
【0016】
本発明の第3の特徴によれば、電動アクチュエータが作動可能状態に復帰したときに、パーキングブレーキのアプライ制御の途中で作動中断が生じたと判断した場合の走行中には、新たな作動要求に応じて前記電動アクチュエータの作動を制御することによって、運転者の要求に即時に対応することができる。
【0017】
本発明の第4の特徴によれば、電動アクチュエータが作動可能状態に復帰したときに、パーキングブレーキのアプライ制御の途中で作動中断が生じたと判断した場合の走行中には、運転者の走行意図によってパーキングブレーキのリリース制御を実行するので、運転者の意図に即時に対応することができる。
【0018】
本発明の第5の特徴によれば、電動アクチュエータが作動可能状態に復帰したときに、パーキングブレーキのリリース制御の途中で電動アクチュエータの一時的な作動中断が生じたと判断した場合の停車中には、新たな作動要求に応じて前記電動アクチュエータの作動を制御するので、運転者の要求に即時に対応することができる。
【0019】
本発明の第6の特徴によれば、ホイールシリンダを有するドラムブレーキに本発明を適用することができる。
【0020】
さらに本発明の第7の特徴によれば、車輪速度検出手段の検出値によって車両が走行中であるか、停車中であるかを簡単に判断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1はドラムブレーキの正面図である。(第1の実施の形態)
図2図2はドラムブレーキの背面図である。(第1の実施の形態)
図3図3は電動アクチュエータを制御するための構成を示すブロック図である。(第1の実施の形態)
図4図4はパーキングブレーキのアプライ制御の途中で電動アクチュエータの一時的な作動中断が生じた後の復帰時に停車中であったときのタイミングチャートである。(第1の実施の形態)
図5図5はパーキングブレーキのアプライ制御の途中で電動アクチュエータの一時的な作動中断が生じた後の復帰時に走行中であったときのタイミングチャートである。(第1の実施の形態)
図6図6はパーキングブレーキのアプライ制御の途中で電動アクチュエータの一時的な作動中断が生じた後の復帰時に作動要求があったときのタイミングチャートである。(第1の実施の形態)
図7図7はパーキングブレーキのリリース制御の途中で電動アクチュエータの一時的な作動中断が生じた後の復帰時に走行中であったときのタイミングチャートである。(第1の実施の形態)
図8図8はパーキングブレーキのリリース制御の途中で電動アクチュエータの一時的な作動中断が生じた後の復帰時の停車中に作動要求があったときのタイミングチャートである。(第1の実施の形態)
【符号の説明】
【0022】
14・・・ブレーキドラム
15,16・・・ブレーキシュー
17・・・ホイールシリンダ
34・・・パーキングブレーキレバー
37・・・パーキングブレーキケーブル
38・・・電動アクチュエータ
64・・・車輪速度検出手段
66・・・車両状態判断部
B・・・ドラムブレーキ
C・・・制御ユニット
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の実施の形態について、添付の図1図8を参照しながら説明する。
【第1の実施の形態】
【0024】
先ず図1において、四輪車両の車輪たとえば左後輪にドラムブレーキBが設けられており、このドラムブレーキBは、前記左後輪の車軸11を貫通させる貫通孔12を中央部に有する固定のバックプレート13と、前記左後輪とともに回転するブレーキドラム14の内周に摺接することを可能として前記バックプレート13内に配置される第1および第2のブレーキシュー15,16と、第1および第2のブレーキシュー15,16が拡張作動する力を発揮するようにして前記バックプレート13に固定されるホイールシリンダ17と、第1および第2のブレーキシュー15,16および前記ブレーキドラム14間の間隙を自動的に調整する制動間隙自動調整手段(所謂オートアジャスタ)18と、第1および第2のブレーキシュー15,16間に設けられるリターンスプリング19とを備える。
【0025】
第1および第2のブレーキシュー15,16は、前記ブレーキドラム14の内周に沿うようにして弓形の平板状に形成される第1および第2のウエブ15a,16aと、それらの第1および第2のウエブ15a,16aの外周に直交するように連設される第1および第2のリム15b,16bと、第1および第2のリム15b,16bの外周に貼着される第1および第2のライニング15c,16cとから成る。
【0026】
前記バックプレート13には、第1および第2のブレーキシュー15,16の拡張、収縮時の支点となるアンカープレート21が、第1および第2のウエブ15a,16aの一端部(この実施の形態では下端部)を回動可能に支持するようにして固設される。また前記ホイールシリンダ17は、ブレーキペダルで操作されるマスタシリンダ(図示せず)の出力液圧によって作動して、前記アンカープレート21を支点として第1および第2のブレーキシュー15,16を拡張する側に駆動する力を発揮するようにして、第1および第2のブレーキシュー15,16の他端部間で前記バックプレート13に固定されており、このホイールシリンダ17が備える一対のピストン20の外端部は、第1および第2のウエブ15a,16aの他端部(この実施の形態では上端部)に対向するように配置される。
【0027】
第1および第2のウエブ15a,16aの前記一端部間には、それらの第1および第2のウエブ15a,16aの前記一端部を前記アンカープレート21側に付勢するコイルスプリング22が設けられ、第1および第2のウエブ15a,16aの他端部間には、第1および第2のブレーキシュー15,16を収縮方向に付勢する一対の前記リターンスプリング19が設けられる。
【0028】
前記制動間隙自動調整手段18は、第1および第2のブレーキシュー15,16が有する第1および第2のウエブ15a,16a間に設けられるとともにアジャストギヤ23の回動によって伸長し得る収縮位置規制ストラット24と、前記アジャストギヤ23に係合する送り爪25aを有して第1および第2のブレーキシュー15,16のうち第2のブレーキシュー16の前記第2のウエブ16aに回動可能に支持されるアジャストレバー25と、前記収縮位置規制ストラット24を伸長させる方向に前記アジャストギヤ23を回動させる側に前記アジャストレバー25を回動付勢するアジャストスプリング26とで構成される。
【0029】
前記収縮位置規制ストラット24は、第1および第2のブレーキシュー15,16の収縮位置を規制するものであり、第1および第2のブレーキシュー15,16のうち第1のブレーキシュー15が備える前記第1のウエブ15aの前記他端部寄りに係合する第1係合連結部27aを有する第1ロッド27と、第2のブレーキシュー16が備える第2のウエブ16aの前記他端部寄りに係合する第2係合連結部28aを有して第1ロッド27と同軸に配置される第2ロッド28と、第1ロッド27に一端部が軸方向相対移動可能に挿入されるとともに第2ロッド28に他端部が同軸に螺合されるアジャストボルト29とを有しており、前記アジャストギヤ23は、第1および第2ロッド27,28間に配置されて前記アジャストボルト29の外周に形成される。
【0030】
第1のウエブ15aの前記他端部寄りの前記車軸11側に臨む側縁には、第1係合連結部27aを係合させる第1係止凹部30が設けられ、また第2のウエブ16aの前記他端部寄りの前記車軸11側に臨む側縁には、第2係合連結部28aを係合させる第2係止凹部31が設けられる。
【0031】
前記アジャストギヤ23に係合する送り爪25aを有するアジャストレバー25は、前記第2のウエブ16aに支軸32を介して回動可能に支持され、前記第2のウエブ16aおよび前記アジャストレバー25間に前記アジャストスプリング26が設けられる。しかも前記アジャストスプリング26のばね力は、前記リターンスプリング19のばね力よりも小さく設定される。
【0032】
このような制動間隙自動調整手段18によれば、第1および第2のブレーキシュー15,16が前記ホイールシリンダ17の作動によって拡張作動する際に前記第1および第2のライニング15c,16cの摩耗に起因して一定値以上拡張した場合には、前記アジャストスプリング26のばね力によって前記アジャストレバー25が前記支軸32の軸線まわりに回動し、それによって前記アジャストギヤ23が回動するのに応じて前記収縮位置規制ストラット24の有効長さが増加補正される。
【0033】
ところで、このドラムブレーキBは、作動に応じてパーキングブレーキ力を発生させ得るパーキングブレーキレバー34を備えており、このパーキングブレーキレバー34は、第1のブレーキシュー15における前記第1のウエブ15aの一部に、前記ブレーキドラム14の回転軸線に沿う方向での正面視(図1で示す方向)で重なるように配置され、前記第1のウエブ15aの長手方向に沿って長く延びる。
【0034】
前記パーキングブレーキレバー34の一端部(この実施の形態では下端部)には、ブレーキケーブル37の一端部に固定された係合駒36が係合され、前記パーキングブレーキレバー34の他端部(この実施の形態では上端部)は、第1のブレーキシュー15における前記第1のウエブ15aの他端部にピン35を介して連結される。
【0035】
車両のパーキングブレーキ作動時には、前記ブレーキケーブル37から入力される牽引力により、前記パーキングブレーキレバー34が前記ピン35を支点として図1の反時計方向に回動、駆動されるものであり、このパーキングブレーキレバー34の回動によって、第2のブレーキシュー16に、当該ブレーキシュー16が有する前記第2のライニング16cを前記ブレーキドラム14の内周に圧接させる方向の力が前記収縮位置規制ストラット24を介して作用する。さらに前記パーキングブレーキレバー34が図1の反時計方向に続けて回動、駆動されると、前記パーキングブレーキレバー34が前記収縮位置規制ストラット24の第1係合連結部27aとの係合部を支点として回動し、今度は、前記ピン35を介して第1のブレーキシュー15が拡張作動し、第1のブレーキシュー15の前記第1のライニング15cが前記ブレーキドラム14の内周に圧接することになる。すなわち前記パーキングブレーキレバー34は、第1および第2のブレーキシュー15,16の前記第1および第2のライニング15c,16cが前記ブレーキドラム14の内周に圧接するようにした作動位置に作動し、この状態でパーキングブレーキ状態が得られることになる。
【0036】
また前記ブレーキケーブル37を緩めることで前記パーキングブレーキレバー34に対する回動駆動力の付与を停止したときには、前記ブレーキドラム14の内周から離反する方向に前記リターンスプリング19のばね力によって作動する第1および第2のブレーキシュー15,16とともに前記パーキングブレーキレバー34は非作動位置に戻ることになり、前記パーキングブレーキレバー34は非作動位置側に向けて付勢されている。
【0037】
図2を併せて参照して、前記ブレーキケーブル37は、電動アクチュエータ38が発揮する動力で牽引されるものであり、この電動アクチュエータ38は、前記ブレーキケーブル37に連結されるねじ軸39と、当該ねじ軸39をその回転を阻止しつつ軸線方向の往復運動を可能として支持するアクチュエータケース40と、正逆回転を自在として前記アクチュエータケース40内に収容される電動モータ41と、その電動モータ41で発生する回転運動を前記ねじ軸39の直線運動に変換することを可能としつつ前記電動モータ41および前記ねじ軸39間に介設されて前記アクチュエータケース40に収容される運動変換機構(図示せず)とを備える。
【0038】
この電動アクチュエータ38の前記アクチュエータケース40は、前記ホイールシリンダ17とは反対側で前記バックプレート13に取付け部材43を介して取付けられる。前記取付け部材43は、前記アクチュエータケース40に固着されており、この取付け部材43が複数個たとえば3個のボルト44で前記バックプレート13に締結される。
【0039】
前記電動アクチュエータ38の前記ねじ軸39は、ケーブルジョイント51を介して前記ブレーキケーブル37に連結されており、そのねじ軸39および前記ブレーキケーブル37の連結部は、前記アクチュエータケース40に結合される保護筒50で覆われる。
【0040】
前記バックプレート13の下部の車両前後方向に沿う前部には筒部13aが一体に突設されており、前記ブレーキケーブル37は、前記筒部13aから前記バックプレート13内に導入される。また前記保護筒50および前記筒部13a間で前記ブレーキケーブル37は、鉄製の線材をコイル状に巻回して成るアウターケーブル45で覆われる。そのアウターケーブル45の前記電動アクチュエータ38側の端部は、ガイドチューブ52を介して前記保護筒50に取付けられ、前記アウターケーブル45の前記バックプレート13側の端部はガイドチューブ53を介して前記筒部13aに取付けられる。
【0041】
また前記第1および第2のウエブ15a,16aの一端部間で、前記アンカープレート21を前記バックプレート13との間に挟む押さえ板46が、前記アンカープレート21とともに一対のリベット47によって前記バックプレート13の下部に取付けられ、前記押さえ板46に、前記アウターケーブル45とともに前記ブレーキケーブル37をガイドするガイド部46aが、略U字状の横断面形状を有するようにして一体に設けられる。
【0042】
図3において、前記電動アクチュエータ38における前記電動モータ41には、電源61の電力が駆動回路62を介して供給されるものであり、パーキングブレーキの作動および解除を切り替える前記電動モータ41の作動すなわち前記駆動回路62の作動は制御ユニットCで制御される。この制御ユニットCには、運転者が電動アクチュエータ38の作動によってパーキングブレーキ状態を得るための操作を行なったことを検出してパーキングブレーキ状態を得るための信号を出力する指示手段63と、車輪速度検出手段64と、運転者が走行を意図しているか否かを判断するためのアクセル操作量検出手段65とが接続される。一方、前記制御ユニットCは、前記車輪速度検出手段64の検出値に基づいて車両状態を判断する車両状態判断部66を有しており、当該車両状態判断部66は、前記車輪速度検出手段64の検出値が所定値以上であるときに走行中であると判断し、前記車輪速度検出手段64の検出値が前記所定値未満であるときに停車中であると判断する。
【0043】
ところでパーキングブレーキの作動および解除を切り替える前記電動モータ41の作動が、電源61の一時的な電圧低下等によって中断してしまう状態が生じる可能性があり、その様な場合の作動中断後に電動アクチュエータ38の作動が可能な状態に復帰したときに、前記制御ユニットCは前記電動アクチュエータ38を次のように制御する。
【0044】
先ず、前記電動アクチュエータ38の一時的な作動中断が生じた後の作動可能状態への復帰時に前記パーキングブレーキのアプライ制御の途中で前記作動中断が生じたと判断した場合に、前記制御ユニットCは、その復帰時の前記車両状態判断部66の判断結果が停車中であったときには前記パーキングブレーキのアプライ制御を再開し、前記復帰時の前記車両状態判断部66の判断結果が走行中であったときには前記パーキングブレーキのアプライ制御の再開を停止する。
【0045】
すなわち図4で示すように、パーキングブレーキの作動状態を得るための作動要求に応じて電動アクチュエータ38のアプライ制御を行なっている途中の時刻t1でシステムダウンによる前記電動アクチュエータ38の作動中断が生じた後に、システムの復帰によって前記電動アクチュエータ38の作動が可能となった時刻t2で、車両状態が停車中であったときにはその時刻t2で前記電動アクチュエータ38がパーキングブレーキ状態を得るための作動を再開することになる。
【0046】
また図5で示すように、パーキングブレーキの作動状態を得るための作動要求に応じて電動アクチュエータ38のアプライ制御を行なっている途中の時刻t3でシステムダウンによる前記電動アクチュエータ38の作動中断が生じた後に、システムの復帰によって前記電動アクチュエータ38の作動が可能となった時刻t4で、車両状態が走行中であったときには前記電動アクチュエータ38の作動は停止したままである。
【0047】
この際、上記時刻t4で新たな作動要求があったときには、図6で示すように、前記制御ユニットCはその作動要求に応じて前記電動アクチュエータ38の作動を制御し、また上記時刻t4で前記アクセル操作量検出手段65からの信号入力に応じて運転者が走行を意図していると判断したときには、前記制御ユニットCは、前記パーキングブレーキのリリース制御を実行する。
【0048】
また前記電動アクチュエータ38の一時的な作動中断が生じた後の作動可能状態への復帰時に前記パーキングブレーキのリリース制御の途中で前記作動中断が生じたと判断した場合に、前記制御ユニットCは、その復帰時の前記車両状態判断部66の判断結果が走行中であったときには前記パーキングブレーキのリリース制御を再開し、前記車両状態判断部66の判断結果が停車中であったときには新たな作動要求に応じて前記電動アクチュエータ38の作動を制御する。
【0049】
すなわち図7で示すように、パーキングブレーキの作動状態を得るための作動要求に応じて電動アクチュエータ38のリリース制御を行なっている途中の時刻t5でシステムダウンによる前記電動アクチュエータ38の作動中断が生じた後に、システムの復帰によって前記電動アクチュエータ38の作動が可能となった時刻t6で、車両状態が走行中であったときにはその時刻t6で前記パーキングブレーキを解除するように前記電動アクチュエータ38のリリース制御を再開することになる。また図8で示すように、システムの復帰によって前記電動アクチュエータ38の作動が可能となった時刻t6で、車両状態が停車中であって新たな作動要求があったときには、その作動要求に応じて前記電動アクチュエータ38の作動を制御する。
【0050】
次にこの実施の形態の作用について説明すると、車輪速度検出手段64の検出値に基づいて車両状態を判断する車両状態判断部66を有しつつ電動アクチュエータ38の作動を制御する制御ユニットCが、前記電動アクチュエータ38の一時的な作動中断が生じた後の作動可能状態への復帰時にパーキングブレーキのアプライ制御の途中で前記作動中断が生じたと判断した場合に、その復帰時の前記車両状態判断部66の判断結果が停車中であったときには前記パーキングブレーキのアプライ制御を再開し、前記復帰時の前記車両状態判断部66の判断結果が走行中であったときには前記パーキングブレーキのアプライ制御の再開を停止するので、パーキングブレーキのアプライ制御の途中で作動中断が生じたと判断した場合の停車中には未完了であったパーキングブレーキのアプライ制御を直ちに再開することによって停車時のブレーキ効力の不足が生じることを防止することができ、また走行中であるときにはパーキングブレーキのアプライ制御の再開を停止するので運転者の意図に反してブレーキ力がかかってしまうことはない。
【0051】
また前記制御ユニットCは、前記電動アクチュエータ38の一時的な作動中断が生じた後の作動可能状態への復帰時に、前記パーキングブレーキのアプライ制御の途中で前記作動中断が生じたと判断した場合に、前記車両状態判断部66の判断結果が走行中であったときには新たな作動要求に応じて前記電動アクチュエータ38の作動を制御するので運転者の要求に即時に対応することができ、運転者が走行を意図していると判断したときには前記パーキングブレーキのリリース制御を実行するので運転者の意図に即時に対応することができる。
【0052】
また前記制御ユニットCは、前記電動アクチュエータ38の一時的な作動中断が生じた後の作動可能状態への復帰時に前記パーキングブレーキのリリース制御の途中で前記作動中断が生じたと判断した場合に、その復帰時の前記車両状態判断部66の判断結果が走行中であったときには前記パーキングブレーキのリリース制御を再開するので、ブレーキの引きずりの発生を防止することができる。
【0053】
しかも前記制御ユニットCは、前記電動アクチュエータ38の一時的な作動中断が生じた後の作動可能状態への復帰時に、前記パーキングブレーキのリリース制御の途中で前記電動アクチュエータ38の一時的な作動中断が生じたと判断した場合に、前記車両状態判断部66の判断結果が停車中であったときには、新たな作動要求に応じて前記電動アクチュエータ38の作動を制御するので、運転者の要求に即時に対応することができる。
【0054】
またホイールシリンダ17を備えるドラムブレーキBに、作動に応じてパーキングブレーキ状態を得るパーキングブレーキレバー34と、そのパーキングブレーキレバー34にパーキングブレーキケーブル37を介して連結される前記電動アクチュエータ38とが付設されるので、ホイールシリンダ17を有するドラムブレーキBに本発明を適用することができる。
【0055】
さらに前記制御ユニットCが有する前記車両状態判断部66は、前記車輪速度検出手段64の検出値が所定値以上であるときに走行中であると判断し、前記車輪速度検出手段64の検出値が前記所定値未満であるときに停車中であると判断するので、前記車輪速度検出手段64の検出値によって車両が走行中であるか、停車中であるかを簡単に判断することができる。
【0056】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱することなく種々の設計変更を行うことが可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8