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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-23
(45)【発行日】2024-07-31
(54)【発明の名称】接合体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H03H 9/25 20060101AFI20240724BHJP
   H01L 21/02 20060101ALI20240724BHJP
   H03H 3/08 20060101ALI20240724BHJP
【FI】
H03H9/25 C
H01L21/02 B
H03H3/08
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022520071
(86)(22)【出願日】2021-11-15
(86)【国際出願番号】 JP2021041871
(87)【国際公開番号】W WO2022201627
(87)【国際公開日】2022-09-29
【審査請求日】2022-04-11
(31)【優先権主張番号】P 2021051539
(32)【優先日】2021-03-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097490
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 益稔
(74)【代理人】
【識別番号】100097504
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 純雄
(72)【発明者】
【氏名】川崎 隆裕
(72)【発明者】
【氏名】富岡 卓哉
【審査官】工藤 一光
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-516966(JP,A)
【文献】特開2008-28980(JP,A)
【文献】特開2010-40877(JP,A)
【文献】特開2016-225537(JP,A)
【文献】国際公開第2020/095924(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H3/02-3/04
H03H3/08-3/10
H03H9/145-9/215
H03H9/25
H03H9/54-9/60
H03H9/64
H01L21/02-21/145
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコンからなり、表面を有する支持基板、
前記支持基板の前記表面に対向する対向面を有しており、ニオブ酸リチウム、タンタル酸リチウムおよびニオブ酸リチウム-タンタル酸リチウムからなる群より選ばれた材質からなり、厚さが0.2~60μmである圧電性材料基板、および
前記支持基板の前記表面上に設けられた厚さ0.01~10μmの接合層であって、珪素酸化物膜からなり、前記支持基板の前記表面と前記圧電性材料基板の前記対向面との間に存在する接合層
を有しており、前記接合層の屈折率が1.468以上、1.474以下であることを特徴とする、弾性表面波素子。
【請求項2】
前記圧電性材料基板上に設けられた、弾性表面波を励振する入力側櫛形電極および前記弾性表面波を受信する出力側櫛形電極を有しており、高周波歪みの低減された請求項1記載の弾性表面波素子。
【請求項3】
請求項1または2記載の弾性表面波素子を製造する方法であって、
シリコンターゲットを用いた反応性イオンスパッタリング法によって、少なくとも不活性ガスおよび酸素ガスを流しながら、シリコンからなる前記支持基板の表面上に前記珪素酸化物膜からなる前記接合層を成長させるのに際して、前記不活性ガスの流量の前記酸素ガスの流量に対する比率を1.5以上、2.0以下とし、かつ前記珪素酸化物膜の成膜速度を0.17nm/sec以上、0.4nm/sec以下とする工程、および
前記接合層を前記圧電性材料基板と接合する工程
を有することを特徴とする、弾性表面波素子の製造方法。
【請求項4】
弾性表面波を励振する入力側櫛形電極および前記弾性表面波を受信する出力側櫛形電極を前記圧電性材料基板上に設ける工程を有することを特徴とする、請求項3記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電性材料基板と、シリコンからなる支持基板との接合体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
携帯電話等に使用されるフィルタ素子や発振子として機能させることができる弾性表面波デバイスや、圧電薄膜を用いたラム波素子や薄膜共振子(FBAR:Film Bulk Acoustic Resonator)などの弾性波デバイスが知られている。こうした弾性波デバイスとしては、支持基板と弾性表面波を伝搬させる圧電性材料基板とを貼り合わせ、圧電性材料基板の表面に弾性表面波を励振可能な櫛形電極を設けたものが知られている。
【0003】
圧電性材料基板とシリコン基板とを接合するのに際して、圧電性材料基板表面に珪素酸化物膜を形成し、珪素酸化物膜を介して圧電性材料基板とシリコン基板とを直接接合することが知られている(特許文献1、2)。この接合の際には、珪素酸化物膜表面とシリコン基板表面とにプラズマビームを照射して表面を活性化し、直接接合を行う(プラズマ活性化法)。プラズマ活性化法では、比較的低温(400℃)で接合できる。
【0004】
一方、SOI(Silicon-on-Insulator、Siウエハー上にSiO膜を形成した構造)のウエハーを用いたSAWフィルタにおいて、SIO膜とSiウエハー界面に発生する固定電荷が影響して、高周波歪みが現れることが知られている(非特許文献1)。
【0005】
また、この固定電荷量は、SiO膜の膜質の違いによって変化し、SiO膜が低酸素になると、固定電荷が増えることが報告されている(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】「Impact of Si substrate resistivity on the non-linear behaviour of RF CPW transmission lines」(1/2008)Proceedings of the 3rd European Microwave Integrated Circuits Conference
【文献】「Control of fixed charge at Si-SiO2 interface by oxidation-reduction treatments」(1/1973))Appl. Phys. Lett., Vol. 22, No.8, 15 April 1973
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2016-225537
【文献】米国特許第7213314B2
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上の事から高周波歪みの抑制には、SiO膜の膜質制御が有効であることまでは推定できるが、膜質制御による高周波歪みの抑制およびその制御手法についてはこれまで明らかにはなっていない。
【0009】
本発明の課題は、シリコンからなる支持基板上に珪素酸化物膜からなる接合層を介して圧電性材料基板が接合された接合体において、高周波歪みを低減することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、
シリコンからなり、表面を有する支持基板、
前記支持基板の前記表面に対向する対向面を有しており、ニオブ酸リチウム、タンタル酸リチウムおよびニオブ酸リチウム-タンタル酸リチウムからなる群より選ばれた材質からなり、厚さが0.2~60μmである圧電性材料基板、および
前記支持基板の前記表面上に設けられた厚さ0.01~10μmの接合層であって、珪素酸化物膜からなり、前記支持基板の前記表面と前記圧電性材料基板の前記対向面との間に存在する接合層
を有しており、前記接合層の屈折率が1.468以上、1.474以下であることを特徴とする、弾性表面波素子に係るものである。
【0011】
また、本発明は、前記弾性表面波素子を製造する方法であって、
シリコンターゲットを用いた反応性イオンスパッタリング法によって、少なくとも不活性ガスおよび酸素ガスを流しながら、シリコンからなる前記支持基板の表面上に前記珪素酸化物膜からなる前記接合層を成長させるのに際して、前記不活性ガスの流量の前記酸素ガスの流量に対する比率を1.5以上、2.0以下とし、かつ前記珪素酸化物膜の成膜速度を0.17nm/sec以上、0.4nm/sec以下とする工程、および
前記接合層を前記圧電性材料基板と接合する工程
を有することを特徴とする、弾性表面波素子の製造方法に係るものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明者は、反応性スパッタリング装置で酸化珪素膜を形成する場合において、膜質と高周波歪みの関係を調査した。具体的には、膜質の評価手法として、膜の屈折率をエリプソメーターで測定して、波長633nmにおける値を算出し、指標とした。また、酸化珪素膜形成時にスパッタリング装置へ導入するアルゴンガス等の不活性ガスと酸素ガスとの流量比を変化させることで、酸化珪素膜の屈折率を変化させてみた。
【0013】
この結果、接合層の屈折率が1.468以上、1.474以下である場合に、高周波歪みが低減されることを発見した。
また、不活性ガス/酸素ガス流量比を1.5~2.0の範囲に制御することで、高周波歪み成分を抑制することができた。
こうした作用効果のメカニズムは明確ではないが、接合層を構成する酸化珪素膜中の酸素量が変化し、固定電荷量が減少したものと考えられる。
【0014】
この結果、本発明によれば、シリコンからなる支持基板上に珪素酸化物膜からなる接合層を介して圧電性材料基板が接合された接合体において、高周波歪みを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】(a)は、圧電性材料基板4の接合面4aをプラズマビームAによって活性化した状態を示し、(b)は、支持基板1の表面1aに接合層2を形成した状態を示し、(c)は、支持基板1上の接合層2の接合面2aをプラズマビームCによって活性化した状態を示す。
図2】(a)は、圧電性材料基板4と支持基板1を接合した状態を示し、(b)は、圧電性材料基板4Aを加工によって薄くした状態を示し、(c)は、圧電性材料基板4A上に電極6を設けた状態を示す。
図3】反応スパッタリング装置の概念図である。
図4】アルゴンガス/酸素ガス流量比とターゲット放電電圧との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、適宜図面を参照しつつ、本発明を詳細に説明する。
図1図2は、支持基板を圧電性材料基板に直接接合する製造例を説明するための模式図である。
【0017】
図1(a)に示すように、圧電性材料基板4は主面4aと4bとを有する。矢印Aのようにプラズマビームを圧電性材料基板4の主面4aに照射し、主面4aを活性化して活性化面とする。一方、図1(b)に示すように、支持基板1の接合面1a上に、酸化珪素膜からなる接合層2を設ける。1bは接合面1aとは反対側の主面である。次いで、図1(c)に示すように、接合層2の接合面2aにプラズマビームCを照射することによって活性化し、活性化面とする。
【0018】
次いで、図2(a)に示すように、接合層2の活性化された接合面2aと圧電性材料基板4の活性化された主面4aとを直接接合することによって、接合体5を得る。
次いで、接合体5の圧電性材料基板4の接合面4bを更に研磨加工し、図2(b)に示すように圧電性材料基板4Aの厚さを小さくし、接合体5Aを得る。4cは研磨面である。
【0019】
図2(c)では、圧電性材料基板4Aの研磨面4c上に所定の電極6を形成することによって、弾性波素子7を作製している。
【0020】
本発明では、支持基板はシリコンからなる。支持基板の相対密度は、接合強度の観点からは、95.5%以上が好ましく、100%であってもよい。相対密度はアルキメデス法によって測定する。また、支持基板の製法は特に限定されないが、焼結法であることが好ましい。
【0021】
支持基板を構成するシリコンは、高抵抗シリコンであることが好ましい。高抵抗シリコンとは、体積抵抗率が1000Ω・cm以上であるシリコンを意味する。高抵抗シリコンの体積抵抗率の上限は製造上の限界から通常は10kΩ・cmである。
【0022】
圧電性材料基板の材質は、LiAOの組成を有する単結晶が好ましい。ここで、Aは、ニオブおよびタンタルからなる群より選ばれた一種以上の元素である。このため、LiAOは、ニオブ酸リチウムであってよく、タンタル酸リチウムであってよく、ニオブ酸リチウム-タンタル酸リチウム固溶体であってよい。
【0023】
接合層の厚さは、0.01~10μmが好ましく、0.01~0.5μmが更に好ましい。
【0024】
接合層の屈折率は1.468以上、1.474以下とする。これによって高周波歪みを低減可能である。
【0025】
接合層の屈折率は、エリプソメーターにより、以下の条件下に測定する。
すなわち、Si基板上に珪素酸化物を400nm~500nm成膜し、分光型エリプソメーターで屈折率を測定する。入射角および反射角を70°に設定し、波長200nm~1000nmまでの入射光を基板へ照射し、反射光の偏光状態から屈折率を算出する。
【0026】
接合層の成膜方法は反応性スパッタリング(sputtering)法が好ましい。
すなわち、本発明者は、反応性スパッタリング装置で珪素酸化物膜を形成する場合において、膜質と高周波歪みの関係を調査した。この際、珪素酸化物膜の膜質の評価手法として、膜の屈折率をエリプソメーターで測定して、波長633nmにおける値を算出し、指標としてみた。
また、珪素酸化物膜の形成時に、スパッタリング装置へ導入する不活性ガスと酸素ガスの流量比を変化させることで意図的に屈折率を変化させることに成功した。
【0027】
反応性スパッタリング装置を用いた珪素酸化物膜の形成手順について、図3を参照しつつ更に述べる。
装置の筐体11の内部空間でターゲット14と支持基板1とを対向させる。電源13の正極は筐体12に接続されており、負極はターゲット14に接続されている。ターゲット14としてはシリコンターゲットを用いる。そして、筐体12の内部空間に不活性ガスと酸素ガスとを供給し、プラズマを生成させる。この結果、不活性ガスの原子17はターゲット14に向かって流れる。一方、酸素原子8およびシリコン原子9は支持基板1の表面に向かって流れる。余剰のガスは排出口16から矢印Dのように排出される。この過程で、支持基板1上で酸素とシリコンの反応物である珪素酸化物が生ずる。
【0028】
ここで、本発明者は、流量比(不活性ガス/酸素ガス)を0.9~3.5の範囲で変化させながら珪素酸化物膜からなる接合層を成膜してみたところ、1.5~2.0の範囲においては、高周波歪み成分を抑制することができた。また、これによって、接合層の屈折率を1.468~1.474(波長633nm)に調整することができた。接合層の屈折率は、酸化珪素膜中に含まれる酸素比率を反映しているものと考えられる。
【0029】
なお、流量比(不活性ガス/酸素ガス)が0.9以上、1.5未満の範囲である場合には、反応性スパッタリングにおける成膜モードが、金属モードから酸化物モードへ切り替わることがわかった。これは、ターゲット放電電圧値の変化をモニタリングすることで判断できた。
すなわち、図4は、定電力で放電を制御した場合における、不活性ガス(アルゴン)/酸素流量比率の変化と放電電圧の変化をプロットした結果を示すグラフである。前記流量比率が1.5以上になると前記放電電圧が安定する。しかし、前記流量比率が1.5未満になると、放電電圧が急激に低下し、かつヒステリシスが観測された。これは、筐体の内部空間が酸素リッチな状態となり、ターゲット表面が酸化することで、成膜モードが酸化物モードに切り替わったことによるものである。成膜モードが酸化物モードになると、成膜レートの低下や、ターゲット表面が酸化することで絶縁層が形成されて、異常放電(アーキング)が発生するので、接合層としては不適なものとなる。
【0030】
また、接合層を構成する酸化珪素膜の成膜速度は、0.17~0.4[nm/sec]の範囲であることが好ましく、この範囲において前述のような屈折率の接合層がえられやすい。
【0031】
接合層の具体的な製造条件はチャンバー仕様によるので適宜選択するが、好適例では、全圧を0.28~0.34Paとし、酸素分圧を1.2×10―3~5.7×10-2Paとすることが好ましい。また、成膜温度は、常温~250℃とすることが好ましい。
また、Siターゲットのドーパントとしては、Bを例示できる。
【0032】
反応性スパッタリング装置中に供給する不活性ガスとしては、アルゴンを例示できる。
また、反応性スパッタリング時の電流は5~10Aが好ましく、電圧は500~900Vが好ましい。
【0033】
好適な実施形態においては、接合層の活性化された接合面と圧電性材料基板の活性化された接合面とが直接接合されている。言い換えると、接合層と圧電性材料基板との界面に沿って直接接合界面がある。この場合には、接合層の活性化された接合面の算術平均粗さRaが1nm以下であることが好ましく、0.3nm以下であることが更に好ましい。また、圧電性材料基板の活性化された接合面の算術平均粗さRaが1nm以下であることが好ましく、0.3nm以下であることが更に好ましい。これによって圧電性材料基板と接合層との接合強度が一層向上する。
【0034】
以下、本発明の各構成要素について更に説明する。
本発明の接合体の用途は特に限定されず、例えば、弾性波素子や光学素子に好適に適用できる。
【0035】
弾性波素子としては、弾性表面波デバイスやラム波素子、薄膜共振子(FBAR)などが知られている。例えば、弾性表面波デバイスは、圧電性材料基板の表面に、弾性表面波を励振する入力側のIDT(Interdigital Transducer)電極(櫛形電極、すだれ状電極ともいう)と弾性表面波を受信する出力側のIDT電極とを設けたものである。入力側のIDT電極に高周波信号を印加すると、電極間に電界が発生し、弾性表面波が励振されて圧電性材料基板上を伝搬していく。そして、伝搬方向に設けられた出力側のIDT電極から、伝搬された弾性表面波を電気信号として取り出すことができる。
【0036】
圧電性材料基板の底面に金属膜を有していてもよい。金属膜は、弾性波デバイスとしてラム波素子を製造した際に、圧電性材料基板の裏面近傍の電気機械結合係数を大きくする役割を果たす。この場合、ラム波素子は、圧電性材料基板の表面に櫛歯電極が形成され、支持基板に設けられたキャビティによって圧電性材料基板の金属膜が露出した構造となる。こうした金属膜の材質としては、例えばアルミニウム、アルミニウム合金、銅、金などが挙げられる。なお、ラム波素子を製造する場合、底面に金属膜を有さない圧電性材料層を備えた複合基板を用いてもよい。
【0037】
また、圧電性材料基板の底面に金属膜と絶縁膜を有していてもよい。金属膜は、弾性波デバイスとして薄膜共振子を製造した際に、電極の役割を果たす。この場合、薄膜共振子は、圧電性材料基板の表裏面に電極が形成され、絶縁膜をキャビティにすることによって圧電性材料基板の金属膜が露出した構造となる。こうした金属膜の材質としては、例えば、モリブデン、ルテニウム、タングステン、クロム、アルミニウムなどが挙げられる。また、絶縁膜の材質としては、例えば、二酸化ケイ素、リンシリカガラス、ボロンリンシリカガラスなどが挙げられる。
【0038】
また、光学素子としては、光スイッチング素子、波長変換素子、光変調素子を例示できる。また、圧電性材料基板中に周期分極反転構造を形成することができる。
【0039】
本発明の対象が弾性波素子であり、圧電性材料基板の材質がタンタル酸リチウムである場合には、弾性表面波の伝搬方向であるX軸を中心に、Y軸からZ軸に36~47°(例えば42°)回転した方向のものを用いるのが伝搬損失が小さいため好ましい。また圧電性材料基板がニオブ酸リチウムからなる場合には、弾性表面波の伝搬方向であるX軸を中心に、Y軸からZ軸に60~68°(例えば64°)回転した方向のものを用いるのが伝搬損失が小さいため好ましい。更に、圧電性材料基板の大きさは、特に限定されないが、例えば、直径50~150mm,厚さが0.2~60μmである。
【0040】
本発明の接合体を得るためには、以下の方法が好ましい。
まず接合層の接合面および圧電性材料基板の接合面にプラズマを照射することで、各平坦面を活性化する。
表面活性化時の雰囲気は、窒素や酸素を含有する雰囲気とする。この雰囲気は、酸素のみであってよく、窒素のみであってよく、あるいは酸素と、窒素、水素、およびアルゴンとの混合ガスであってよい。混合ガスの場合には、特に限定されるものではないが、接合強度との関係によりその比率を適宜調整してもよい。
【0041】
表面活性化時の雰囲気圧力は、100Pa以下が好ましく、80Pa以下が更に好ましい。また、雰囲気圧力は、30Pa以上が好ましく、50Pa以上が更に好ましい。
プラズマ照射時の温度は150℃以下とする。これによって、接合強度が高く、かつ圧電性材料の劣化のない接合体7が得られる。この観点から、プラズマ照射時の温度を150℃以下とするが、100℃以下とすることが更に好ましい。
また、プラズマ照射時のエネルギーは、30~150Wが好ましい。また、プラズマ照射時のエネルギーと照射時間との積は、0.1~1.0Whが好ましい。
【0042】
好適な実施形態においては、プラズマ処理前に、圧電性材料基板の接合面4aおよび接合層の接合面2aを平坦化加工する。各接合面2a、4aを平坦化する方法は、ラップ(lap)研磨、化学機械研磨加工(CMP)などがある。また、平坦面の算術平均粗さRaは、1nm以下が好ましく、0.3nm以下が更に好ましい。
【0043】
次いで、圧電性材料基板の活性化された接合面と接合層の活性化された接合面とを接触させ、接合する。この後、好ましくは、接合体を熱処理することで、圧電性材料基板の研磨加工に耐える強度を与えることができる。こうした熱処理温度は、100~150℃とすることが好ましい。この実施形態においては、この熱処理の後に圧電性材料基板を加工することで厚さを小さくすることができる。
【0044】
次いで、真空雰囲気で、活性化面同士を接触させ、接合する。この際の温度は常温であるが、具体的には40℃以下が好ましく、30℃以下が更に好ましい。また、接合時の温度は20℃以上、25℃以下が特に好ましい。接合時の圧力は、100~20000Nが好ましい。
【実施例
【0045】
図1図3を参照しつつ説明した方法に従って、表1に示す各例の接合体を作製した。
具体的には、OF部を有し、直径が4インチ,厚さが250μmのタンタル酸リチウム基板(LT基板)を、圧電性材料基板4として使用した。LT基板は、弾性表面波(SAW)の伝搬方向をXとし、切り出し角が回転Yカット板である46°YカットX伝搬LT基板を用いた。圧電性材料基板4の接合面4aは、算術平均粗さRaが0.3nmとなるように鏡面研磨しておいた。ただし、Raは、原子間力顕微鏡(AFM)によって10μm×10μmの視野で測定する。
【0046】
一方、支持基板1として、オリエンテーションフラット(OF)部を有し、直径が4インチ,厚さが230μmの高抵抗(≧2kΩ・cm)シリコンからなる支持基板1を用意した。支持基板1の表面1a、1bは、化学機械研磨加工(CMP)によって仕上げ加工されており、各算術平均粗さRaは0.2nmとなっている。
【0047】
次いで、支持基板の表面上に、SiOからなる接合層2を1μm成膜し、その接合面2aをCMPで約0.1μm研磨し、平坦化した。
次いで、純水を用いた超音波洗浄を実施し、スピンドライにより圧電性材料基板および接合層の接合面を乾燥させた。次いで、洗浄後の支持基板をプラズマ活性化チャンバーに導入し、窒素ガスプラズマで30℃で接合面を活性化した。また、圧電性材料基板を同様にプラズマ活性化チャンバーに導入し、窒素ガスプラズマで30℃で接合層の接合面を表面活性化した。表面活性化時間は40秒とし、エネルギーは100Wとした。表面活性化中に付着したパーティクルを除去する目的で、上述と同じ超音波洗浄、スピンドライを再度実施した。
【0048】
次いで、圧電性材料基板の接合面と接合層の接合面の位置合わせを行い、室温で活性化した接合面同士を接触させた。重ね合わせた基板の中心を加圧した結果、基板同士の密着が広がる様子(いわゆるボンディングウェーブ)が観測され、良好に予備接合が行われたことが確認できた。次いで、接合体を窒素雰囲気のオーブンに投入し、130℃で4時間加熱した。
オーブンから取り出した接合体の圧電性材料基板の表面を研削加工、研磨加工により1μmまで薄化した。
【0049】
ここで、接合層2は、図3を参照しつつ説明した手順に従い、反応性スパッタリング法によって成膜した。ただし、筐体の内部空間の全圧を0.1~0.2Paとし、電流を5~10Aとし、電圧を500~900Vとした。また、アルゴンガスと酸素ガスとの流量比率を0.90~3.50の範囲内で変更した。
各例の接合層について、エリプソメーターによって633nmでの屈折率を測定し、結果を表1に示す。更に、得られた素子の2次高調波の大きさを表1に示す(比較例1の2次高調波の大きさを0.0%として規格化した)。
【0050】
【表1】
【0051】
この結果、流量比率0.9から1.5の範囲内では、図4に示すようにターゲット放電電圧が変化していた。すなわち、流量比率1.5未満では反応性スパッタリングにおける成膜モードが、金属モードから酸化物モードへ切り替わることがわかった。
【0052】
また、不活性ガスの流量/酸素ガスの流量)を1.5~2.0(特に好ましくは1.67以下)とすることで、接合層の屈折率を1.468以上、1.474以下(特に好ましくは1.472以上)で調整できた。また、珪素酸化物膜の成膜速度は0.17~0.4(nm/sec)であった。そして、こうした範囲内で、2次高調波の大きさを大きく低減することに成功した。

図1
図2
図3
図4