IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ポスコの特許一覧 ▶ リサーチ インスティチュート オブ インダストリアル サイエンス アンド テクノロジーの特許一覧 ▶ ポスコヒューチャーエム株式会社の特許一覧

特許7526266正極活物質およびこれを含むリチウム二次電池
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-23
(45)【発行日】2024-07-31
(54)【発明の名称】正極活物質およびこれを含むリチウム二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20240724BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20240724BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2022538320
(86)(22)【出願日】2020-12-18
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-28
(86)【国際出願番号】 KR2020018716
(87)【国際公開番号】W WO2021125898
(87)【国際公開日】2021-06-24
【審査請求日】2022-06-20
(31)【優先権主張番号】10-2019-0172337
(32)【優先日】2019-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコホールディングス インコーポレーティッド
(73)【特許権者】
【識別番号】592000705
【氏名又は名称】リサーチ インスティチュート オブ インダストリアル サイエンス アンド テクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(73)【特許権者】
【識別番号】523180436
【氏名又は名称】ポスコヒューチャーエム株式会社
【氏名又は名称原語表記】POSCO FUTURE M CO. LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100195257
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 一志
(72)【発明者】
【氏名】ナム、 サン チョル
(72)【発明者】
【氏名】イ、 サン ヒョク
(72)【発明者】
【氏名】チェ、 クォン ヤン
(72)【発明者】
【氏名】ソン、 ジュン フン
【審査官】結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-132572(JP,A)
【文献】国際公開第2009/060603(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/096525(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/525
H01M 4/505
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム、ニッケル、コバルト、マンガンおよびドーピング元素を含むリチウム金属酸化物粒子を含み、
前記リチウム金属酸化物粒子の内部に第1ドメインおよび第2ドメインを含み、
前記第1ドメインは層状構造を含み、
前記第2ドメインはキュービック構造を含み、
前記金属酸化物粒子は、1次粒子を含む2次粒子から構成されたものであり、
前記1次粒子は、前記第1ドメインおよび第2ドメインを含む、リチウム二次電池用正極活物質。
【請求項2】
前記リチウム金属酸化物粒子の結晶粒の大きさは、127nm~139nmである、請求項に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項3】
前記ドーピング元素は、Zr、Al、TiおよびBを含む、請求項1又は2に記載のリチウム二次転移用正極活物質。
【請求項4】
前記Zrのドーピング量は、ニッケル、コバルト、マンガンおよびドーピング元素100モル%に対して、0.2モル%~0.5モル%である、請求項に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項5】
前記Alのドーピング量は、ニッケル、コバルト、マンガンおよびドーピング元素100モル%に対して、0.5モル%~1.2モル%である、請求項又はに記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項6】
前記Tiのドーピング量は、ニッケル、コバルト、マンガンおよびドーピング元素100モル%に対して、0.05モル%~0.13モル%である、請求項のいずれか一項に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項7】
前記Bのドーピング量は、ニッケル、コバルト、マンガンおよびドーピング元素100モル%に対して、0.25モル%~1.25モル%である、請求項のいずれか一項に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項8】
前記リチウム金属酸化物粒子内金属のうちのニッケルの含量は80モル%以上である、請求項1~のいずれか一項に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項9】
前記リチウム二次電池用正極活物質は、X線回折パターン測定時、
(104)面のピーク強度に対する(003)面のピーク強度比であるI(003)/I(104)は1.210~1.230である、請求項1~のいずれか一項に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項10】
前記リチウム二次電池用正極活物質は、X線回折パターン測定時、
下記式1で表されるR-ファクター(R factor)値が0.510~0.524である、請求項1~のいずれか一項に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
[式1]
R-ファクター={I(006)+I(102)}/I(101)
【請求項11】
請求項1~1のいずれか一項の正極活物質を含む正極;
負極;および
非水電解質
を含むリチウム二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
正極活物質およびこれを含むリチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気自動車の爆発的な需要増大と走行距離増大要求にこたえてこれに適用させることができる高容量および高エネルギー密度を有する二次電池の開発が全世界的に活発に行われている。
【0003】
特に、このような高容量電池を製造するためには、高容量正極活物質を使用しなければならない。よって、高容量正極活物質としてニッケル含量の高いニッケルコバルトマンガン系正極活物質を適用する方案が提案されている。
【0004】
しかし、ニッケル含量の高いニッケルコバルトマンガン系正極活物質は、ニッケル含量増加による構造的不安定性増加によって、充電状態における温度増加時に分解される温度が低下するという問題点がある。
【0005】
したがって、ニッケル含量の高いニッケルコバルトマンガン系正極活物質の構造的安定性を向上させ、優れた容量を確保しながらも寿命および抵抗特性に優れ熱安定性も優れた正極活物質の開発が急がれる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本実施形態では、リチウム金属酸化物粒子内部に複数のドメインを含む正極活物質を提供しようとする。これにより、高い容量を維持しつつ、初期抵抗および抵抗増加率を減少させ、熱安定性に優れた正極活物質を提供することができる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一実施形態によるリチウム二次電池用正極活物質は、リチウム、ニッケル、コバルト、マンガンおよびドーピング元素を含むリチウム金属酸化物粒子を含み、前記リチウム金属酸化物粒子の内部に第1ドメインおよび第2ドメインを含むことができる。
【0008】
他の実施形態によるリチウム二次電池は、一実施形態による正極活物質を含む正極、負極、および非水電解質を含むことができる。
【発明の効果】
【0009】
一実施形態による正極活物質は、リチウム金属酸化物粒子の内部に複数のドメインを含むため、ニッケル含量が高いにもかかわらず、正極活物質の熱分解温度を上昇させて正極活物質の構造的安定性を向上させることができる。
【0010】
また、本実施形態の正極活物質をリチウム二次電池に適用する場合、高容量を確保しつつ、寿命および熱安定性を向上させることができる。
【0011】
同時に、本実施形態の正極活物質を適用する場合、リチウム二次電池の初期抵抗特性に優れ、抵抗増加率を顕著に減少させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1a】実施例1によって製造した正極活物質をFIBでミリング処理した後の断面を示したものである。
図1b図1aで1領域に対してSAEDパターン(Selected Area Diffraction Pattern)を得た結果である。
図1c図1aで領域に対してSAEDパターン(Selected Area Diffraction Pattern)を得た結果である。
図2a】比較例2によって製造した正極活物質をFIBでミリング処理した後の断面を示したものである。
図2b図2aで1領域に対してSAEDパターン(Selected Area Diffraction Pattern)を得た結果である。
図2c図2aで領域に対してSAEDパターン(Selected Area Diffraction Pattern)を得た結果である。
図3a】比較例3によって製造した正極活物質をFIBでミリング処理した後の断面を示したものである。
図3b図3aで1領域に対してSAEDパターン(Selected Area Diffraction Pattern)を得た結果である。
図3c図3aで領域に対してSAEDパターン(Selected Area Diffraction Pattern)を得た結果である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
第1、第2および第3などの用語は多様な部分、成分、領域、層および/またはセクションを説明するために使用されるが、これらに限定されない。これら用語はある部分、成分、領域、層またはセクションを他の部分、成分、領域、層またはセクションと区別するためにのみ使用される。したがって、以下で叙述する第1部分、成分、領域、層またはセクションは本発明の範囲を逸脱しない範囲内で第2部分、成分、領域、層またはセクションと言及できる。
【0014】
ここで使用される専門用語は単に特定実施形態を言及するためのものであり、本発明を限定することを意図しない。ここで使用される単数形態は文句がこれと明確に反対の意味を示さない限り複数形態も含む。明細書で使用される“含む”の意味は特定特性、領域、整数、段階、動作、要素および/または成分を具体化し、他の特性、領域、整数、段階、動作、要素および/または成分の存在や付加を除外させるのではない。
【0015】
ある部分が他の部分“の上に”または“上に”あると言及する場合、これは直ぐ他の部分の上にまたは上にあり得るか、その間に他の部分が伴われることがある。対照的に、ある部分が他の部分“の真上に”あると言及する場合、その間に他の部分が介されない。
【0016】
異なるように定義しなかった場合、ここに使用される技術用語および科学用語を含むすべての用語は本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が一般に理解する意味と同一の意味を有する。通常使用される辞典に定義された用語は関連技術文献と現在開示された内容に符合する意味を有すると追加解釈され、定義されない限り理想的であるか非常に公式的な意味に解釈されない。
【0017】
また、特に言及しない限り、%は重量%を意味し、1ppmは0.0001重量%である。
【0018】
以下、本発明の実施形態について本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に実施することができるように詳しく説明する。しかし、本発明は様々の異なる形態に実現でき、ここで説明する実施形態に限定されない。
【0019】
一実施形態によるリチウム二次電池用正極活物質は、リチウム、ニッケル、コバルト、マンガンおよびドーピング元素を含むリチウム金属酸化物粒子を含む。
【0020】
前記リチウム金属酸化物粒子は、1次粒子を含む2次粒子から構成される。
【0021】
本実施形態では、前記リチウム金属酸化物粒子は内部に第1ドメインおよび第2ドメインを含むことができ、より具体的には、前記1次粒子は第1ドメインおよび第2ドメインを含むことができる。
【0022】
ここで、ドメインとは、リチウム金属酸化物粒子内に、即ち、1次粒子内に別途の独立した結晶構造を有する各領域を意味する。
【0023】
本実施形態では、リチウム金属酸化物内にこのように複数のドメインを含むため、充放電中Liの移動によって一部結晶構造が変わっても全体的なドメイン領域の数が維持され、安定的な構造を維持することができる。
【0024】
前記ドーピング元素はZr、Al、TiおよびBを含む。
【0025】
リチウム金属酸化物をドーピングして寿命および多様な電気化学的性能を確保するためにはドーピング元素の選定が重要である。現在まで知られたドーピング元素としては、例えば、Ag、Naのような1価イオン(mono-valent)と、Co2+、Cu2+、Mg2+、Zn2+、Ba2+、Al3+、Fe3+、Cr3+、Ga3+、Zr4+、Ti4+のような2価以上の多価イオン(multi-valent)などがある。このような元素は、それぞれ電池の寿命および出力特性に与える影響が異なる。
【0026】
本実施形態では、このようなドーピング元素のうちのZr、Al、TiおよびBを含むことによって、高容量を確保しつつ、常温および高温寿命特性と熱安定性を向上させ、初期抵抗特性および抵抗増加率を顕著に減少させることができる。
【0027】
具体的には、Ti4+がNCM層状構造内にドーピングされる場合、Ni2+がLi部位に移動することを抑制させて正極活物質の構造を安定化させることができる。
【0028】
また、Al3+は、Alイオンがtetragonal lattice siteに移動して層状構造がスピネル構造に劣化することを抑制する。層状構造はLiイオンの脱挿入が容易であるが、スピネル構造はLiイオンの移動が円滑でない。
【0029】
Zr4+は、ZrイオンがLi siteを占めるため、一種のピラー(pillar)役割を果たすようになり、充放電過程中のリチウムイオン経路(lithium ion path)の収縮を緩和させて層状構造の安定化をもたらすようになる。このような現象は、即ち、陽イオン混合(cation mixing)を減少させ、リチウム拡散係数(lithium diffusion coefficient)を増加させてサイクル寿命を増加させることができる。
【0030】
前記ドーピング元素と共にB(Boron)をドーピングする場合、正極活物質焼成時、結晶粒の大きさを減少させて初期抵抗を減少させることができる。同時に、寿命特性および熱分解温度を増加させることができる。
【0031】
即ち、本実施形態の正極活物質は、単一元素ドーピングとは異なり、少なくとも4個のドーピング元素を共に含むためシナジー効果を示すことができる。
【0032】
本実施形態では、前記Zrのドーピング量は、ニッケル、コバルト、マンガンおよびドーピング元素100モル%に対して、0.2モル%~0.5モル%、より具体的には、0.25モル%~0.45モル%または0.3モル%~0.4モル%であってもよい。Zrのドーピング量が前記範囲を満たす場合、優れた常温および高温寿命特性と熱安定性を確保することができ、初期抵抗値を減少させることができる。
【0033】
前記Alのドーピング量は、ニッケル、コバルト、マンガンおよびドーピング元素100モル%に対して、0.5モル%~1.2モル%、より具体的には、0.7モル%~1.1モル%または0.8モル%~1.0モル%であってもよい。Alのドーピング量が前記範囲を満たす場合、高容量を確保すると同時に熱安定性および寿命特性を向上させることができ、抵抗増加率および平均漏れ電流を減少させることができる。
【0034】
前記Tiのドーピング量は、ニッケル、コバルト、マンガンおよびドーピング元素100モル%に対して、0.05モル%~0.13モル%、より具体的には、0.07モル%~0.12モル%または0.08モル%~0.11モル%であってもよい。Tiのドーピング量が前記範囲を満たす場合、優れた放電容量および効率を確保することができ、常温および高温寿命特性を向上させることができ、抵抗増加率および平均漏れ電流値を減少させることができる。
【0035】
前記Bのドーピング量は、ニッケル、コバルト、マンガンおよびドーピング元素100モル%に対して、0.25モル%~1.25モル%、より具体的には、0.4モル%~1.2モル%または0.5モル%~1.1モル%であってもよい。Bのドーピング量が前記範囲を満たす場合、正極活物質焼成時、結晶粒大きさを減少させるため、初期抵抗値を減少させることができ、常温および高温寿命特性および熱分解温度を増加させることができる。
【0036】
このように、本実施形態の正極活物質はドーピング元素としてZr、Al、TiおよびBを含むため、これを適用したリチウム二次電池は優れた放電容量を示すと同時に、向上した初期効率、優れた常温および高温寿命特性を示す。また、初期抵抗、抵抗増加率、平均漏れ電流、発熱ピーク温度および発熱量を顕著に減少させることができる。
【0037】
このような効果はZr、Al、TiおよびBの四元系ドーピング元素を使用する場合に得られるものであって、もしこのうちの一つでも含まない場合には所望の物性が得られない。
【0038】
一方、本実施形態では、前記リチウム金属酸化物内金属のうちのニッケルの含量は80モル%以上、より具体的には、85モル%以上または90モル%以上であってもよい。
【0039】
本実施形態のようにリチウム金属酸化物内金属のうちのニッケルの含量が80%以上である場合、高出力特性を有する正極活物質を実現することができる。このような組成を有する本実施形態の正極活物質は体積当りエネルギー密度が高まるので、これを適用する電池の容量を向上させることができ、電気自動車用として使用するにも適合する。
【0040】
本実施形態では、前記リチウム金属酸化物粒子の結晶粒の大きさは127nm~139nmの範囲であってもよい。結晶粒の大きさが127nm以上である場合、高容量を確保することができ、残留リチウムを顕著に減少させることができ、抵抗特性および高温貯蔵特性を向上させることができる。また、結晶粒の大きさが139nm以下である場合、寿命特性を向上させることができる。即ち、結晶粒の大きさが前記範囲を満たす場合、正極活物質の結晶化が適切に行われたことを示すため、寿命および電気化学特性が全て向上する。
【0041】
本実施形態の正極活物質は、X線回折パターン測定時、(104)面のピーク強度に対する(003)面のピーク強度比であるI(003)/I(104)は1.210~1.230の範囲であってもよい。
【0042】
一般に、ピーク強度値はピークの高さ値またはピークの面積を積分して得られた積分面積値を意味し、本実施形態におけるピーク強度値はピークの面積値を意味する。
【0043】
ピーク強度比I(003)/I(104)が前記範囲に含まれる場合には容量減少なく、構造安定化が増進されて、正極活物質の熱安全性を向上させることができる。
【0044】
また、ピーク強度比I(003)/I(104)は陽イオン混合インデックス(cation mixing index)であって、I(003)/I(104)値が減少する場合、正極活物質の初期容量および律速特性が低下することがある。しかし、本実施形態では、I(003)/I(104)が1.210~1.230の範囲を満たすので、容量および律速特性に優れた正極活物質を実現することができる。
【0045】
また、前記正極活物質は、X線回折パターン測定時、下記式1で表されるR-ファクター(R factor)値が0.510~0.524の範囲であってもよい。
【0046】
[式1]
R-ファクター={I(006)+I(102)}/I(101)
【0047】
R-ファクター値が減少することはNi含量の高い正極活物質において結晶粒の巨大化を促進するため、これを適用したリチウム二次電池の電気化学的性能減少を引き起こす。したがって、正極活物質が適切な範囲のR-ファクターを有する場合、優れた性能を有するリチウム二次電池を実現することができることを意味する。
【0048】
一方、本実施形態の正極活物質は、大粒径粒子および小粒径粒子が混合されたバイモーダル(bi-modal)形態であってもよい。前記大粒径粒子は平均粒径(D50)が10μm~20μmの範囲であってもよく、前記小粒径粒子は平均粒径(D50)が3μm~7μmであってもよい。このとき、前記大粒径粒子および前記小粒径粒子も少なくとも一つの1次粒子が組み立てられた2次粒子形態であってもよいのはもちろんである。また、大粒径粒子および小粒径粒子の混合比率は、全体100重量%基準で大粒径粒子が50~80重量%であってもよい。このようなバイモーダル粒子分布によってエネルギー密度を改善させることができる。
【0049】
一実施形態では、前記正極活物質は、リチウム金属酸化物粒子表面に位置するコーティング層をさらに含んでもよい。前記コーティング層は、アルミニウム、アルミニウム酸化物、リチウムアルミニウム酸化物、ボロン、ボロン酸化物、リチウムボロン酸化物、タングステン酸化物、リチウムタングステン酸化物またはこれらの組み合わせを含むことができる。但し、これは例示に過ぎず、正極活物質に使用される多様なコーティング物質が使用できる。また、前記コーティング層の含量および厚さは適切に調節することができ、特別に限定する必要はない。
【0050】
本発明の他の実施形態では、前述の本発明の一実施形態による正極活物質を含む正極、負極活物質を含む負極、および前記正極および負極の間に位置する電解質を含むリチウム二次電池を提供する。
【0051】
前記正極活物質に関する説明は、前述の本発明の一実施形態と同一であるため省略するようにする。
【0052】
前記正極活物質層は、バインダーおよび導電材を含むことができる。
【0053】
前記バインダーは正極活物質粒子を互いによく付着させ、また正極活物質を電流集電体によく付着させる役割を果たす。
【0054】
前記導電材は電極に導電性を付与するために使用されるものであって、構成される電池において、化学変化を引き起こさず電子伝導性材料であればいずれのものでも使用可能である。
【0055】
前記負極は集電体および前記集電体の上に形成された負極活物質層を含み、前記負極活物質層は負極活物質を含む。
【0056】
前記負極活物質としては、リチウムイオンを可逆的にインターカレーション/ジインターカレーションすることができる物質、リチウム金属、リチウム金属の合金、リチウムをドープおよび脱ドープすることができる物質、または遷移金属酸化物を含む。
【0057】
前記リチウムイオンを可逆的にインターカレーション/ジインターカレーションすることができる物質としては炭素物質であって、リチウムイオン二次電池で一般に使用される炭素系負極活物質はいずれのものでも使用することができ、その代表的な例としては結晶質炭素、非晶質炭素またはこれらを共に使用することができる。
【0058】
前記リチウム金属の合金としては、リチウムとNa、K、Rb、Cs、Fr、Be、Mg、Ca、Sr、Si、Sb、Pb、In、Zn、Ba、Ra、Ge、AlおよびSnからなる群より選択される金属の合金が使用できる。
【0059】
前記リチウムをドープおよび脱ドープすることができる物質としては、Si、SiO(0<x<2)、Si-Y合金(前記Yはアルカリ金属、アルカリ土類金属、13族元素、14族元素、遷移金属、希土類元素およびこれらの組み合わせからなる群より選択される元素であり、Siではない)、Sn、SnO、Sn-Y(前記Yはアルカリ金属、アルカリ土類金属、13族元素、14族元素、遷移金属、希土類元素およびこれらの組み合わせからなる群より選択される元素であり、Snではない)などが挙げられる。
【0060】
前記遷移金属酸化物としては、バナジウム酸化物、リチウムバナジウム酸化物などが挙げられる。前記負極活物質層はまたバインダーを含み、選択的に導電材をさらに含んでもよい。
【0061】
前記バインダーは、負極活物質粒子を互いによく付着させ、また負極活物質を電流集電体によく付着させる役割を果たす。
【0062】
前記導電材は電極に導電性を付与するために使用されるものであって、構成される電池において、化学変化を引き起こさず電子伝導性材料であればいずれのものでも使用可能である。
【0063】
前記集電体としては、銅箔、ニッケル箔、ステレンス鋼箔、チタン箔、ニッケル発泡体(foam)、銅発泡体、伝導性金属がコーティングされたポリマー基材、およびこれらの組み合わせからなる群より選択されるものを使用することができる。
【0064】
前記負極と正極は活物質、導電材および結着剤を溶媒中で混合して活物質組成物を製造し、この組成物を電流集電体に塗布して製造する。このような電極製造方法は当該分野に広く知られた内容であるので、本明細書で詳細な説明は省略する。前記溶媒としてはN-メチルピロリドンなどを使用することができるが、これに限定されるのではない。
【0065】
前記電解質は、非水性有機溶媒とリチウム塩を含む。
【0066】
前記非水性有機溶媒は、電池の電気化学的反応に関与するイオンが移動できる媒質の役割を果たす。
【0067】
前記リチウム塩は、有機溶媒に溶解されて、電池内でリチウムイオンの供給源として作用して基本的なリチウム二次電池の作動を可能にし、正極と負極の間のリチウムイオンの移動を促進する役割を果たす物質である。
【0068】
リチウム二次電池の種類によって正極と負極の間にセパレータが存在することもある。このようなセパレータとしてはポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフッ化ビニリデンまたはこれらの2層以上の多層膜が使用でき、ポリエチレン/ポリプロピレンの2層セパレータ、ポリエチレン/ポリプロピレン/ポリエチレンの3層セパレータ、ポリプロピレン/ポリエチレン/ポリプロピレンの3層セパレータなどのような混合多層膜が使用できるのはもちろんである。
【0069】
リチウム二次電池は使用するセパレータと電解質の種類によってリチウムイオン電池、リチウムイオンポリマー電池およびリチウムポリマー電池に分類でき、形態によって円筒形、角型、コイン型、パウチ型などに分類でき、サイズによってバルクタイプと薄膜タイプに分けることができる。これら電池の構造と製造方法はこの分野に広く知られているので詳細な説明は省略する。
【実施例
【0070】
以下、本発明の実施例を詳しく説明する。但し、これは例示として提示されるものであって、これによって本発明が制限されず、本発明は後述の請求範囲の範疇によってのみ定義される。
【0071】
製造例1-大粒径および小粒径前駆体の製造
大粒径正極活物質前駆体および小粒径正極活物質前駆体は、一般的な共沈法によって製造した。
大粒径および小粒径前駆体製造時、共通して、ニッケル原料物質としてはNiSO・6HO、コバルト原料物質としてはCoSO・7HO、マンガン原料物質としてはMnSO・HOを使用した。これら原料を蒸留水に溶解させて金属塩水溶液を製造した。
その次に、共沈反応器を準備した後、共沈反応時金属イオンの酸化を防止するためにNをパージング(purging)し、反応器温度は50℃を維持した。
前記共沈反応器にキレーティング剤としてNH(OH)を投入し、pH調節のためにNaOHを使用した。
共沈工程によって得られた沈殿物をろ過し、蒸留水で洗浄した後、100℃オーブンで24時間乾燥して大粒径前駆体および小粒径前駆体を製造した。
【0072】
具体的に、大粒径前駆体は(Ni0.92Co0.04Mn0.04)(OH)組成を有し、平均粒度の直径が14.3μmになるように成長させた。また、小粒径前駆体は同一な組成で平均粒度の直径が4.5μmになるように製造した。
【0073】
実施例1-Zr、Al、Ti、Bの四元系元素ドーピング
(1)正極活物質の製造
前記製造例1で製造した大粒径前駆体および小粒径前駆体それぞれに対して前駆体1モルを基準にして、LiOH・HO(森田化学、battery grade)1.07モルとドーピング原料を均一に混合して混合物を製造した。前記混合物を高温で焼成した後、同一な組成を有する大粒径および小粒径正極活物質をそれぞれ製造した。
このとき、ドーピング原料としては、ZrO(Aldrich、3N)、Al(Aldrich、3N)、TiO(Aldrich、3N)およびHBO(Aldrich、3N)を使用した。
ドーピング組成は、金属元素がドーピングされていないLiNi0.92Co0.04Mn0.04を基準にしてM=Ni0.92Co0.04Mn0.04と表記し、Mとドーピングされた量の総合計が1molになるようにドーピング原料の投入量を調節した。即ち、Li(M)1-x(D)(M=NCM、D=ドーピング素材)構造を有するようになる。実施例1の大粒径および小粒径活物質で、四元系元素がドーピングされた組成はLi(M)0.986Zr0.0035Al0.0085Ti0.0010.001である。
焼成条件は480℃で5h、その後740~780℃で15h維持し、昇温速度は5℃/minであった。
【0074】
このように焼成された大粒径および小粒径正極活物質を重量比として80:20(大粒径:小粒径)で均一に混合してバイモーダル(bi-modal)形態の正極活物質を製造した。
【0075】
(2)コイン型半電池製造
具体的に、正極活物質、ポリフッ化ビニリデンバインダー(商品名:KF1100)およびデンカブラック導電材を92.5:3.5:4の重量比で混合し、この混合物を固形分が約30重量%になるようにN-メチル-2-ピロリドン(N-Methyl-2-pyrrolidone)溶媒に添加して正極活物質スラリーを製造した。
前記スラリーを、ドクターブレード(Doctor blade)を用いて正極集電体であるアルミ箔(Al foil、厚さ:15μm)上にコーティングし、乾燥した後、圧延して正極を製造した。前記正極のローディング量は約14.6mg/cmであり、圧延密度は約3.1g/cmであった。
前記正極、リチウム金属負極(厚さ300μm、MTI)、電解液とポリプロピレンセパレータを使用して通常の方法で2032コイン型半電池を製造した。前記電解液は1M LiPFをエチレンカーボネート、ジメチルカーボネートおよびエチルメチルカーボネート(EMC)の混合溶媒(混合比EC:DMC:EMC=3:4:3体積%)に溶解させて混合溶液を使用した。
【0076】
比較例1-Zr、Al、Tiのみドーピングされた正極活物質製造
(1)正極活物質の製造
前記製造例1で製造した大粒径前駆体および小粒径前駆体を用いて、ドーピング原料としてZrO(Aldrich、3N)、Al(Aldrich、3N)およびTiO(Aldrich、3N)のみを使用したことを除いては実施例1と同様な方法で大粒径および小粒径正極活物質を製造した後、バイモーダル正極活物質を製造した。
比較例1の大粒径および小粒径活物質の組成は、Li(M)0.987Zr0.0035Al0.0085Ti0.001である。
【0077】
(2)コイン型半電池製造
比較例1の(1)で製造した正極活物質を用いて実施例1の(2)と同様な方法で2032コイン型半電池を製造した。
【0078】
比較例2-層状構造1次粒子およびキュービック構造1次粒子を含む2次粒子
(1)正極活物質の製造
比較例1と同一な組成の正極活物質を製造した。
但し、焼成後水洗工程を追加し、水洗は蒸留水を用いて、固液比を1:1にして約30分間行った。
【0079】
(2)コイン型半電池製造
比較例2の(1)で製造した正極活物質を用いて実施例1の(2)と同様な方法で2032コイン型半電池を製造した。
【0080】
比較例3-層状構造1次粒子を含む2次粒子
(1)正極活物質の製造
前記製造例1で製造した大粒径前駆体および小粒径前駆体を用いて、ドーピング原料としてZrO(Aldrich、3N)、Al(Aldrich、3N)のみを使用したことを除いては実施例1と同様な方法で大粒径および小粒径正極活物質を製造した後、バイモーダル正極活物質を製造した。
比較例3の大粒径および小粒径活物質の組成は、Li(M)0.988Zr0.0035Al0.0085である。
【0081】
(2)コイン型半電池製造
比較例3の(1)で製造した正極活物質を用いて実施例1の(2)と同様な方法で2032コイン型半電池を製造した。
【0082】
実施例2-Bドーピング量を0.0025molに変更
(1)正極活物質の製造
前記製造例1で製造した大粒径前駆体および小粒径前駆体を用いて、Bのドーピング量が0.0025モルになるようにしたことを除いては実施例1と同様な方法で大粒径および小粒径正極活物質を製造した後、バイモーダル正極活物質を製造した。
【0083】
(2)コイン型半電池製造
実施例2の(1)で製造した正極活物質を用いて実施例1の(2)と同様な方法で2032コイン型半電池を製造した。
【0084】
実施例3-Bドーピング量を0.005molに変更
(1)正極活物質の製造
前記製造例1で製造した大粒径前駆体および小粒径前駆体を用いて、Bのドーピング量が0.005モルになるようにしたことを除いては実施例1と同様な方法で大粒径および小粒径正極活物質を製造した後、バイモーダル正極活物質を製造した。
【0085】
(2)コイン型半電池製造
実施例3の(1)で製造した正極活物質を用いて実施例1の(2)と同様な方法で2032コイン型半電池を製造した。
【0086】
実施例4-Bドーピング量を0.0075molに変更
(1)正極活物質の製造
前記製造例1で製造した大粒径前駆体および小粒径前駆体を用いて、Bのドーピング量が0.0075モルになるようにしたことを除いては実施例1と同様な方法で大粒径および小粒径正極活物質を製造した後、バイモーダル正極活物質を製造した。
【0087】
(2)コイン型半電池製造
実施例4の(1)で製造した正極活物質を用いて実施例1の(2)と同様な方法で2032コイン型半電池を製造した。
【0088】
実施例5-Bドーピング量を0.01molに変更
(1)正極活物質の製造
前記製造例1で製造した大粒径前駆体および小粒径前駆体を用いて、Bのドーピング量が0.01モルになるようにしたことを除いては実施例1と同様な方法で大粒径および小粒径正極活物質を製造した後、バイモーダル正極活物質を製造した。
【0089】
(2)コイン型半電池製造
実施例5の(1)で製造した正極活物質を用いて実施例1の(2)と同様な方法で2032コイン型半電池を製造した。
【0090】
実施例6-Bドーピング量を0.0125molに変更
(1)正極活物質の製造
前記製造例1で製造した大粒径前駆体および小粒径前駆体を用いて、Bのドーピング量が0.0125モルになるようにしたことを除いては実施例1と同様な方法で大粒径および小粒径正極活物質を製造した後、バイモーダル正極活物質を製造した。
【0091】
(2)コイン型半電池製造
実施例6の(1)で製造した正極活物質を用いて実施例1の(2)と同様な方法で2032コイン型半電池を製造した。
【0092】
参考例1-Bドーピング量を0.015molに変更
(1)正極活物質の製造
前記製造例1で製造した大粒径前駆体および小粒径前駆体を用いて、Bのドーピング量が0.015モルになるようにしたことを除いては実施例1と同様な方法で大粒径および小粒径正極活物質を製造した後、バイモーダル正極活物質を製造した。
【0093】
(2)コイン型半電池製造
参考例1の(1)で製造した正極活物質を用いて実施例1の(2)と同様な方法で2032コイン型半電池を製造した。
【0094】
参考例2-Bドーピング量を0.02molに変更
(1)正極活物質の製造
前記製造例1で製造した大粒径前駆体および小粒径前駆体を用いて、Bのドーピング量が0.02モルになるようにしたことを除いては実施例1と同様な方法で大粒径および小粒径正極活物質を製造した後、バイモーダル正極活物質を製造した。
【0095】
(2)コイン型半電池製造
参考例2の(1)で製造した正極活物質を用いて実施例1の(2)と同様な方法で2032コイン型半電池を製造した。
【0096】
実施例7-Zrドーピング量を0.002molに変更
(1)正極活物質の製造
前記製造例1で製造した大粒径前駆体および小粒径前駆体を用いて、Al 0.0085モル、Ti 0.001モル、およびB 0.005モルに固定させた状態で、Zrドーピング量のみ0.002モルになるようにしたことを除いては実施例1と同様な方法で大粒径および小粒径正極活物質を製造した後、バイモーダル正極活物質を製造した。
【0097】
(2)コイン型半電池製造
実施例7の(1)で製造した正極活物質を用いて実施例1の(2)と同様な方法で2032コイン型半電池を製造した。
【0098】
実施例8-Zrドーピング量を0.005molに変更
(1)正極活物質の製造
前記製造例1で製造した大粒径前駆体および小粒径前駆体を用いて、Al 0.0085モル、Ti 0.001モル、およびB 0.005モルに固定させた状態で、Zrドーピング量のみ0.005モルになるようにしたことを除いては実施例1と同様な方法で大粒径および小粒径正極活物質を製造した後、バイモーダル正極活物質を製造した。
【0099】
(2)コイン型半電池製造
実施例8の(1)で製造した正極活物質を用いて実施例1の(2)と同様な方法で2032コイン型半電池を製造した。
【0100】
参考例3-Zrドーピング量を0.006molに変更
(1)正極活物質の製造
前記製造例1で製造した大粒径前駆体および小粒径前駆体を用いて、Al 0.0085モル、Ti 0.001モル、およびB 0.005モルに固定させた状態で、Zrドーピング量のみ0.006モルになるようにしたことを除いては実施例1と同様な方法で大粒径および小粒径正極活物質を製造した後、バイモーダル正極活物質を製造した。
【0101】
(2)コイン型半電池製造
参考例3の(1)で製造した正極活物質を用いて実施例1の(2)と同様な方法で2032コイン型半電池を製造した。
【0102】
実施例9-Alドーピング量を0.005molに変更
(1)正極活物質の製造
前記製造例1で製造した大粒径前駆体および小粒径前駆体を用いて、Zr 0.0035モル、Ti 0.001モル、B 0.005モルに固定させた状態で、Alドーピング量のみ0.005モルになるようにしたことを除いては実施例1と同様な方法で大粒径および小粒径正極活物質を製造した後、バイモーダル正極活物質を製造した。
【0103】
(2)コイン型半電池製造
実施例9の(1)で製造した正極活物質を用いて実施例1の(2)と同様な方法で2032コイン型半電池を製造した。
【0104】
実施例10-Alドーピング量を0.012molに変更
(1)正極活物質の製造
前記製造例1で製造した大粒径前駆体および小粒径前駆体を用いて、Zr 0.0035モル、Ti 0.001モル、B 0.005モルに固定させた状態で、Alドーピング量のみ0.012モルになるようにしたことを除いては実施例1と同様な方法で大粒径および小粒径正極活物質を製造した後、バイモーダル正極活物質を製造した。
【0105】
(2)コイン型半電池製造
実施例10の(1)で製造した正極活物質を用いて実施例1の(2)と同様な方法で2032コイン型半電池を製造した。
【0106】
参考例4-Alドーピング量を0.015molに変更
(1)正極活物質の製造
前記製造例1で製造した大粒径前駆体および小粒径前駆体を用いて、Zr 0.0035モル、Ti 0.001モル、B 0.005モルに固定させた状態で、Alドーピング量のみ0.015モルになるようにしたことを除いては実施例1と同様な方法で大粒径および小粒径正極活物質を製造した後、バイモーダル正極活物質を製造した。
【0107】
(2)コイン型半電池製造
参考例4の(1)で製造した正極活物質を用いて実施例1の(2)と同様な方法で2032コイン型半電池を製造した。
【0108】
実施例11-Tiドーピング量を0.0005molに変更
(1)正極活物質の製造
前記製造例1で製造した大粒径前駆体および小粒径前駆体を用いて、Zr 0.0035モル、Al 0.0085モル、B 0.005モルに固定させた状態で、Tiドーピング量のみ0.005モルになるようにしたことを除いては実施例1と同様な方法で大粒径および小粒径正極活物質を製造した後、バイモーダル正極活物質を製造した。
【0109】
(2)コイン型半電池製造
実施例11の(1)で製造した正極活物質を用いて実施例1の(2)と同様な方法で2032コイン型半電池を製造した。
【0110】
実施例12-Tiドーピング量を0.0008molに変更
(1)正極活物質の製造
前記製造例1で製造した大粒径前駆体および小粒径前駆体を用いて、Zr 0.0035モル、Al 0.0085モル、B 0.005モルに固定させた状態で、Tiドーピング量のみ0.0013モルになるようにしたことを除いては実施例1と同様な方法で大粒径および小粒径正極活物質を製造した後、バイモーダル正極活物質を製造した。
【0111】
(2)コイン型半電池製造
実施例12の(1)で製造した正極活物質を用いて実施例1の(2)と同様な方法で2032コイン型半電池を製造した。
【0112】
参考例5-Tiドーピング量を0.004molに変更
(1)正極活物質の製造
前記製造例1で製造した大粒径前駆体および小粒径前駆体を用いて、Zr 0.0035モル、Al 0.0085モル、B 0.005モルに固定させた状態で、Tiドーピング量のみ0.004モルになるようにしたことを除いては実施例1と同様な方法で大粒径および小粒径正極活物質を製造した後、バイモーダル正極活物質を製造した。
【0113】
(2)コイン型半電池製造
参考例5の(1)で製造した正極活物質を用いて実施例1の(2)と同様な方法で2032コイン型半電池を製造した。
【0114】
(実験例1)X線回折評価
前記実施例1~12、比較例1~3および参考例1~5によって製造された正極活物質の格子定数を、CuKα線を使用してX線回折測定で得た。測定されたa軸長さおよびc軸長さを下記表1に示した。また、結晶軸間の距離比(c/a軸比)を下記表1に共に示した。
【0115】
また、活物質の結晶粒の大きさ(crystalline size)を測定して、下記表1に示した。
【0116】
その次に、正極活物質に対してCuKα線をターゲット線にして、X'Pert powder(PANalytical社)XRD装備を使用して、測定条件は2θ=10°~130°、スキャンスピード(°/S)=0.328、ステップサイズは0.026°/ステップ条件でX線回折測定試験を実施して、(003)面および(104)面の強度(ピーク面積)を得た。この結果からI(003)/I(104)を求めて、その結果を下記表1に示した。
【0117】
ドーピングによる結晶学的考察のためにハイスコアプラスリートベルトソフトウェア(high score plus Rietveld software)を用いてリートベルト(Rietveld)分析を実施し、この結果をR-ファクター(factor)として下記表1に示した。
【0118】
リートベルト(Rietveld)分析のためのXRD測定はCuKα線をターゲット線にして、X’Pert powder(PANalytical社)XRD装備を使用して、測定条件は2θ=10°~130°、スキャンスピード(°/S)=0.328、ステップサイズは0.026°/ステップ条件で実施して、(006)面、(102)面および(101)面の強度を得て、この結果から下記式1によってR-ファクターを求めて、その結果を下記表1に示した。この結果で、GOF(Goodness of Fit)値が1.2以内に計算されることによって、Rietveld構造分析結果は信頼できる数値と言える。
【0119】
[式1]
R-ファクター={I(006)+I(102)}/I(101)
【0120】
【表1】
【0121】
表1を参照すれば、ドーピング元素およびドーピング量によってXRDで分析される結晶構造を示す因子値が変化するのを確認することができる。
【0122】
a値はBドーピング量増加によって大きな変化は測定されなかったが、c軸はBドーピング時若干減少することが分かった。
【0123】
一方、Bがドーピングされれば結晶粒の大きさ(crystalline size)が減少するのを確認することができる。具体的には、比較例1のようにZr、Al、およびTiの三元系元素のみドーピングした正極活物質の場合には結晶粒の大きさが140nmである反面、前記三元系元素にBを追加的にドーピングした実施例1~8の正極活物質は結晶粒の大きさが140nm未満に減少することが分かる。
【0124】
このような結晶粒の大きさは、結晶化が適切によく行われたかを確認することができる指標である。即ち、表1の実施例1~8の正極活物質のように結晶粒の大きさが130nm付近である場合、結晶化が適切によく行われて寿命およびその他の電気化学特性が大きく改善される。このような結果を参照するとき、Bドーピングが結晶粒の大きさに影響を与えることが分かる。
【0125】
陽イオン混合インデックス(Cation mixing index)であるI(003)/I(104)値はBドーピング時に増加した。即ち、Zr、Al、およびTiと共にBをドーピングした実施例1~8のすべての正極活物質でI(003)/I(104)値が1.22以上を示すので、Bドーピング時、陽イオン混合(cation mixing)が減少することが分かる。
【0126】
同時に、R-ファクター値もZr、Al、およびTiと共にBをドーピングした実施例1~8の場合、Zr、Al、およびTiのみをドーピングした比較例1と比較すると、減少するのを確認することができる。即ち、Bドーピングが正極活物質の性能に肯定的な影響を与えるのをもう一度確認することができる。
【0127】
(実験例2)電気化学性能評価
(1)容量評価
実施例1~6、比較例1~3、および参考例1~2によって製造されたコイン型半電池を常温(25℃)で10時間エイジング(aging)した後、充放電テストを行った。
容量評価は205mAh/gを基準容量とし、充放電条件はCC/CV2.5~4.25V、1/20C cut-offを適用した。初期容量は0.1C充電/0.1C放電後、0.2C充電/0.2C放電条件で行った。
常温サイクル寿命特性は常温(25℃)で、高温サイクル寿命特性は高温(45℃)で0.3C充電/0.3C放電条件で30回を測定後、一番目容量に対する30番目容量比率を測定した。これに対する結果は下記表2、表4、表6、表8に示した。
【0128】
(2)抵抗特性測定
高温初期抵抗(直流内部抵抗:DC-IR(Direct current internal resistance))は電池を45℃で定電流-定電圧2.5V~4.25V、1/20Cカット-オフ条件で、0.2C充電および0.2C放電を1回実施し、4.25V充電100%で放電電流印加後、60秒後の電圧値を測定して、これを計算して、その結果を下記表2b、表3b、表4b、表5bに示した。
抵抗増加率は高温(45℃)で初期に測定した抵抗(高温初期抵抗)に対するサイクル寿命30回後の初期抵抗測定方法と同一に実施して抵抗を測定し、その上昇率を百分率(%)に換算して、その結果を下記表3に示した。
平均漏れ電流(Average leakage current)は55℃の高温で半電池を4.7Vで維持時、120時間経過する間の電流発生を測定して、その値の平均値を求めて、その結果を下記表3、表5、表7、表9に示した。
【0129】
(3)熱安定性評価
示差重量熱分析(DSC:Differential Scanning Calorimetry)分析は、半電池を初期0.1C充電条件で4.25Vまで充電後、半電池を分解して正極のみ別途に得て、この正極をジメチルカーボネートで5回洗浄して準備した。DSC用ルツボに洗浄された正極を電解液で含浸させた後、温度を265℃まで上昇させながらDSC機器としてMettler toledo社のDSC1 star systemを用いて、熱量変化を測定して、得られたDSCピーク温度および発熱量結果を下記表3、表5、表7、表9に示した。DSCピーク温度は発熱ピークが現れた温度を示す。
【0130】
【表2】
【0131】
【表3】
【0132】
表2および表3は、Bがドーピングされる場合、その含量による性能を比較するための電気化学特性測定結果である。
【0133】
表2および表3を参照すれば、Bが全くドーピングされていない比較例1の場合、放電容量は219.1mAh/g、高温寿命83.7%、抵抗増加率156.7%、平均漏れ電流0.86mAおよびDSC分解温度217.3℃を示した。これに対し、比較例1と比較すると、Bを追加してドーピングした実施例1~8の場合、容量、寿命およびDSC分解温度は増加し、常温初期抵抗、抵抗増加率および発熱量は減少するのを確認することができる。
【0134】
例えば、Bを0.005molドーピングした実施例3の場合、放電容量222mAh/g、高温寿命87.1%、常温初期抵抗24ohm、抵抗増加率は87.1%、平均漏れ電流は0.22mAであって性能が大きく改善されることが分かる。
【0135】
特に、熱安定性を示すDSC熱分解温度の場合、実施例3は230.8℃であって大きく増加することが分かり、発熱量も500J/g以上減少することによって安定性も改善効果が大きいことが分かる。
【0136】
しかし、参考例1および2のように四元系ドーピングをしてもBの含量が0.015molを超過する場合、放電容量が減少すると同時に常温および高温寿命特性も低下するので、Bのドーピング量は本実施形態で提示する範囲が最適範囲であるのを確認することができる。
【0137】
【表4】
【0138】
【表5】
【0139】
表4および表5は、Alは0.0085モル、Tiは0.001モル、Bは0.005モルに固定させた状態でZrのドーピング量のみ変化させた実施例3、実施例7~8および参考例3の正極活物質に対する電気化学特性を評価した結果である。
【0140】
表4および表5を参照すれば、Zrドーピング量が0.002モルから徐々に増加するにつれて、常温および高温寿命の特性が増加し、また、常温初期抵抗、抵抗増加率および平均漏れ電流は減少することが分かる。
【0141】
しかし、四元系ドーピングを行ってもZrを0.006モルドーピングした参考例2の場合、容量が197.3mAh/gであって大きく減少し、初期効率および常温初期抵抗も大きく悪くなる結果を示した。このような結果を考慮すると、Zrのドーピング量は本実施形態で提示する範囲が最適範囲であるのを確認することができる。
【0142】
【表6】
【0143】
【表7】
【0144】
表6および表7は、Zr 0.0035モル、Ti 0.001モル、B 0.005モルに固定させた状態でAlのドーピング量のみ変化させた実施例3、実施例9~10および参考例4の正極活物質に対する電気化学特性を評価した結果である。
【0145】
表6および表7を参照すれば、Alの含量が増加するにつれてDSC peak温度は上昇し、発熱量は減少する傾向性を示すことが分かる。
【0146】
これに対し、Alを0.015モル含む参考例3の正極活物質は、高温寿命が減少し、特に容量が216.6mAh/gであって大きく減少するのを確認することができる。
【0147】
したがって、Alのドーピング量は本実施形態で提示する範囲が最適範囲であるのを確認することができる。
【0148】
【表8】
【0149】
【表9】
【0150】
表8および表9は、Zr 0.0035モル、Al 0.0085モル、B 0.005モルに固定させた状態でTiのドーピング量のみを変化させた実施例3、実施例11、12および参考例の正極活物質に対する電気化学特性を評価した結果である。
【0151】
表8および表9を参照すれば、Tiの含量が0.0005モルから増加するにつれて、常温および高温寿命の特性が増加し、同時に、常温初期抵抗、抵抗増加率および平均漏れ電流は減少することを確認した。
【0152】
これに対し、四元系ドーピングを行ってもTiを0.004モルになるようにドーピングした参考例の場合、放電容量が215.8mAh/gであって大きく減少し、初期効率も減少した。また、常温初期抵抗も28.6ohmであって大きく増加することが分かる。
【0153】
このような結果を考慮すると、Tiのドーピング量は本実施形態で提示する範囲が最適範囲であるのを確認することができる。
【0154】
(実験例3)ドメイン分析
実施例1および比較例2~3によって製造された正極活物質をFIB(Focused Ion Beam、Seiko 3050SE)法を用いてミリング処理した後、これをSTEM(Scanning Transmission Electron Microscopy、Jeol ARM200F)で結晶構造分析を行った。
【0155】
図1aは実施例1によって製造した正極活物質をFIBでミリング処理した後の断面を示したものであり、図1bおよび図1cは図1aで1領域および2領域に対してSAEDパターン(Selected Area Diffraction Pattern)を得た結果をそれぞれ示したものである。
【0156】
図1a~図1cを参照すれば、1領域では典型的な層状構造であるロムボヒドラル(Rhombohedral)構造(a=b=0.28831nm、c=1.41991nm)が観察され、2領域では層状構造と異なる結晶構造であるキュービック(cubic)構造(a=b=c=0.835nm)が観察された。
【0157】
即ち、実施例1によって製造された正極活物質は一つの1次粒子内に含まれる1領域と2領域で互いに異なる結晶構造が観察されたので、1次粒子内に別途の独立した結晶構造を有する領域であるドメインが少なくとも二つ以上存在するのを確認することができる。
【0158】
図2aは比較例2によって製造した正極活物質をFIBでミリング処理した後の断面を示したものであり、図2bおよび図2cは図2aで1領域および2領域に対してSAEDパターン(Selected Area Diffraction Pattern)を得た結果をそれぞれ示したものである。
【0159】
また、図3aは比較例3によって製造した正極活物質をFIBでミリング処理した後の断面を示したものであり、図3bおよび図3cは図3aで1領域および2領域に対してSAEDパターン(Selected Area Diffraction Pattern)を得た結果をそれぞれ示したものである。
【0160】
図2a~図2cを参照すれば、1領域ではロムボヒドラル(Rhombohedral)構造が観察され、2領域ではキュービック(cubic)構造が観察された。比較例2の正極活物質は、複数の1次粒子を含むが、そのうちの一部の1次粒子は層状構造を含み、他の一部の1次粒子はキュービック構造を含むものである。結果的に比較例2の正極活物質は、実施例1のように1次粒子内に二つ以上のドメインでなく一つのドメインを含む1次粒子複数個が含まれている構造であることが分かる。
【0161】
図3a~図3cを参照すれば、1、2領域で全てロムボヒドラル(Rhombohedral)構造が観察された。比較例3の正極活物質は、複数の1次粒子を含み、前記複数の1次粒子が全て層状構造を有することが分かる。
【0162】
本発明は前記実施例に限定されるのではなく、互いに異なる多様な形態に製造でき、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者は本発明の技術的な思想や必須の特徴を変更せず他の具体的な形態に実施できるのを理解することができる。したがって、以上で記述した実施例は全ての面で例示的なものであり、限定的ではないと理解しなければならない。
図1a
図1b
図1c
図2a
図2b
図2c
図3a
図3b
図3c