(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-23
(45)【発行日】2024-07-31
(54)【発明の名称】スピンドル及びこれを備えた圧延設備
(51)【国際特許分類】
F16D 3/44 20060101AFI20240724BHJP
F16N 21/00 20060101ALI20240724BHJP
B21B 35/14 20060101ALI20240724BHJP
F16D 3/26 20060101ALI20240724BHJP
【FI】
F16D3/44
F16N21/00
B21B35/14 A
F16D3/26 S
(21)【出願番号】P 2022545245
(86)(22)【出願日】2020-08-31
(86)【国際出願番号】 JP2020032846
(87)【国際公開番号】W WO2022044313
(87)【国際公開日】2022-03-03
【審査請求日】2023-01-20
(73)【特許権者】
【識別番号】314017543
【氏名又は名称】Primetals Technologies Japan株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 浩明
(72)【発明者】
【氏名】日浦 正
(72)【発明者】
【氏名】阿部 勇次
(72)【発明者】
【氏名】杉本 達則
【審査官】鈴木 貴晴
(56)【参考文献】
【文献】特開昭50-026934(JP,A)
【文献】実開平02-093592(JP,U)
【文献】実開平01-168090(JP,U)
【文献】米国特許第04103978(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 1/00
-9/00
F16N 21/00
B21B 35/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧延ロールに回転駆動力を伝達するためのスピンドルであって、
オスカップリング部の係合凸部を受入れ可能な係合凹部を一端側に有するメスカップリング部と、
前記メスカップリング部の他端側に設けられるとともに、前記メスカップリング部とともに回転するように構成された環状回転部、および、前記環状回転部の外周側に位置する環状静止部を含むロータリージョイントと、
を備え、
前記メスカップリング部は、前記係合凹部を画定する対向面をそれぞれ有する一対の突出部を前記一端側に含み、
前記メスカップリング部は、前記係合凹部に油を供給するための複数の油供給路を有し、
前記ロータリージョイントは、各々が前記複数の油供給路の何れかと連通する環状油路を複数本有し、
前記複数の油供給路は、前記スピンドルの軸方向に直交する断面内にて、前記係合凹部を、前記一対の対向面の間の中心線と、該中心線に直交する直線と、によって区分して得られる4つのエリアの各々に対応して設けられる少なくとも1つの油供給路を含み、
前記4つのエリアのうち一のエリアに対応して設けられる前記少なくとも1つの油供給路は、前記複数の環状油路のうち、前記4つのエリアのうち前記一のエリアに隣接するエリアに対応して設けられる前記少なくとも1つの油供給路が連通する環状油路とは異なる環状油路に連通
し、
前記4つのエリアのうち一のエリアに対応して設けられる前記少なくとも1つの油供給路の各々は、それぞれ、前記4つのエリアのうち前記一のエリアに隣接しないエリアに対応して設けられる前記少なくとも1つの油供給路の各々が連通する環状油路とは異なる環状油路に連通する
スピンドル。
【請求項2】
前記一対の突出部の間を、前記断面内にて前記直線に沿って延びるピンと、
前記ピンの両端部に支持されて、前記一対の突出部の前記対向面と摺動可能な第1面、及び、前記オスカップリング部と摺動可能な第2面をそれぞれ有する一対のスリッパメタルと、
を備える請求項
1に記載のスピンドル。
【請求項3】
前記4つのエリアの各々に対応して設けられる前記少なくとも1つの油供給路は、
前記突出部の前記対向面と、前記スリッパメタルの前記第1面との間の第1空間に連通する第1通路と、
前記オスカップリング部と、スリッパメタルの前記第2面との間の第2空間に連通する第2通路と、を含む
請求項
2に記載のスピンドル。
【請求項4】
圧延ロールに回転駆動力を伝達するためのスピンドルであって、
オスカップリング部の係合凸部を受入れ可能な係合凹部を一端側に有するメスカップリング部と、
前記メスカップリング部の他端側に設けられるとともに、前記メスカップリング部とともに回転するように構成された環状回転部、および、前記環状回転部の外周側に位置する環状静止部を含むロータリージョイントと、
を備え、
前記メスカップリング部は、前記係合凹部を画定する対向面をそれぞれ有する一対の突出部を前記一端側に含み、
前記メスカップリング部は、前記係合凹部に油を供給するための複数の油供給路を有し、
前記ロータリージョイントは、各々が前記複数の油供給路の何れかと連通する環状油路を複数本有し、
前記複数の油供給路は、前記スピンドルの軸方向に直交する断面内にて、前記係合凹部を、前記一対の対向面の間の中心線と、該中心線に直交する直線と、によって区分して得られる4つのエリアの各々に対応して設けられる少なくとも1つの油供給路を含み、
前記4つのエリアのうち一のエリアに対応して設けられる前記少なくとも1つの油供給路は、前記複数の環状油路のうち、前記4つのエリアのうち前記一のエリアに隣接するエリアに対応して設けられる前記少なくとも1つの油供給路が連通する環状油路とは異なる環状油路に連通し、
前記一対の突出部の間を、前記断面内にて前記直線に沿って延びるピンと、
前記ピンの両端部に支持されて、前記一対の突出部の前記対向面と摺動可能な第1面、及び、前記オスカップリング部と摺動可能な第2面をそれぞれ有する一対のスリッパメタルと、
を備え、
前記4つのエリアの各々に対応して設けられる前記少なくとも1つの油供給路は、
前記突出部の前記対向面と、前記スリッパメタルの前記第1面との間の第1空間に連通する第1通路と、
前記オスカップリング部と、スリッパメタルの前記第2面との間の第2空間に連通する第2通路と、を含み、
前記第1通路及び前記第2通路は、前記複数の環状油路のうち互いに異なる環状油路にそれぞれ連通す
る
スピンドル。
【請求項5】
前記複数の環状油路は、前記環状回転部の外周面又は前記環状静止部の内周面の少なくとも一方に設けられた周方向溝によって少なくとも部分的に形成される
請求項1乃至
4の何れか一項に記載のスピンドル。
【請求項6】
前記環状静止部は、前記複数の環状油路にそれぞれ油を供給するための複数の油供給口を含む請求項1乃至
5の何れか一項に記載のスピンドル。
【請求項7】
前記複数の環状油路は、前記軸方向において互いにずれて位置する
請求項1乃至
6の何れか一項に記載のスピンドル。
【請求項8】
前記メスカップリング部は、前記複数の油供給路の何れかと前記複数の環状油路の何れかとを連通する軸方向油路を複数本含み、
前記複数の軸方向油路は周方向において互いにずれて位置する
請求項1乃至
7の何れか一項に記載のスピンドル。
【請求項9】
前記複数の環状油路のうちの一対の環状油路の間に設けられ、該一対の環状油路同士における潤滑油の漏れを低減するためのシール部を備える
請求項1乃至
8の何れか一項に記載のスピンドル。
【請求項10】
請求項1乃至
9の何れか一項に記載のスピンドルと、
前記スピンドルに接続され、前記複数の環状油路にそれぞれ油を供給するための複数の油供給ラインと、
を備える圧延設備。
【請求項11】
前記複数の油供給ラインにそれぞれ設けられる複数のポンプを備える
請求項
10に記載の圧延設備。
【請求項12】
圧延ロールに回転駆動力を伝達するためのスピンドルを備え、
前記スピンドルは、
オスカップリング部の係合凸部を受入れ可能な係合凹部を一端側に有するメスカップリング部と、
前記メスカップリング部の他端側に設けられるとともに、前記メスカップリング部とともに回転するように構成された環状回転部、および、前記環状回転部の外周側に位置する環状静止部を含むロータリージョイントと、
を含み、
前記メスカップリング部は、前記係合凹部を画定する対向面をそれぞれ有する一対の突出部を前記一端側に含み、
前記メスカップリング部は、前記係合凹部に油を供給するための複数の油供給路を有し、
前記ロータリージョイントは、各々が前記複数の油供給路の何れかと連通する環状油路を複数本有し、
前記複数の油供給路は、前記スピンドルの軸方向に直交する断面内にて、前記係合凹部を、前記一対の対向面の間の中心線と、該中心線に直交する直線と、によって区分して得られる4つのエリアの各々に対応して設けられる少なくとも1つの油供給路を含み、
前記4つのエリアのうち一のエリアに対応して設けられる前記少なくとも1つの油供給路は、前記複数の環状油路のうち、前記4つのエリアのうち前記一のエリアに隣接するエリアに対応して設けられる前記少なくとも1つの油供給路が連通する環状油路とは異なる環状油路に連通し、
前記スピンドルに接続され、前記複数の環状油路にそれぞれ油を供給するための複数の油供給ラインと、
前記複数の環状油路の接続先を、前記複数の油供給ラインの間で切り替え可能な切替弁
と、を備え
る
圧延設備。
【請求項13】
前記複数の油供給ラインは互いに独立して設けられる
請求項
10乃至
12の何れか一項に記載の圧延設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、スピンドル及びこれを備えた圧延設備に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼板等の圧延設備では、モータの駆動力を圧延ロールに伝達するために、モータと圧延ロールとの間にスピンドルが設けられる。
【0003】
特許文献1には、スリッパメタルが組み込まれたスリッパ型のスピンドル自在継手が開示されている。このスピンドル継手は、電動機側に設けられるスピンドルカップリング(メスカップリング部)と、圧延ロール側に設けられ、スピンドルカップリングの係合凹部に挿入されるフォークエンド(オスカップリング部)と、これらの係合部においてスピンドルカップリングとフォークエンドとの間に設けられるスリッパメタルと、を備えている。スリッパメタルと、スピンドルカップリング及びフォークエンドとが摺動することで、モータの回転軸に対する圧延ロールの回転軸の傾きを許容しながら、モータの回転駆動力を圧延ロールに伝達するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、スピンドルのメスカップリング部とオスカップリング部との係合部において、主としてトルク伝達を担う周方向のエリア(高負荷エリア)と、トルク伝達量が比較的小さい周方向のエリア(低負荷エリア)とが存在し、運転時には、高負荷エリアでは部材間の隙間が狭くなり、低負荷エリアでは部材間の隙間は相対的に広くなる傾向がある。このため、部材間の隙間が相対的に狭い高負荷エリアには、相対的に潤滑油(油)が供給され難い。したがって、カップリングの係合部に十分な潤滑油を供給しようとすると低負荷エリアに過剰な量の潤滑油が供給されてしまう、又は、高負荷エリアに潤滑油が十分に供給されない、という問題が生じ得る。
【0006】
上述の事情に鑑みて、本発明の少なくとも一実施形態は、カップリングの係合部に油を適切に供給可能なスピンドル及びこれを備えた圧延設備を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の少なくとも一実施形態に係るスピンドルは、
圧延ロールに回転駆動力を伝達するためのスピンドルであって、
オスカップリング部の係合凸部を受入れ可能な係合凹部を一端側に有するメスカップリング部と、
前記メスカップリング部の他端側に設けられるとともに、前記メスカップリング部とともに回転するように構成された環状回転部、および、前記環状回転部の外周側に位置する環状静止部を含むロータリージョイントと、
を備え、
前記メスカップリング部は、前記係合凹部を画定する対向面をそれぞれ有する一対の突出部を前記一端側に含み、
前記メスカップリング部は、前記係合凹部に油を供給するための複数の油供給路を有し、
前記ロータリージョイントは、各々が前記複数の油供給路の何れかと連通する環状油路を複数本有し、
前記複数の油供給路は、前記スピンドルの軸方向に直交する断面内にて、前記係合凹部を、前記一対の対向面の間の中心線と、該中心線に直交する直線と、によって区分して得られる4つのエリアの各々に対応して設けられる少なくとも1つの油供給路を含み、
前記4つのエリアのうち一のエリアに対応して設けられる前記少なくとも1つの油供給路は、前記複数の環状油路のうち、前記4つのエリアのうち前記一のエリアに隣接するエリアに対応して設けられる前記少なくとも1つの油供給路が連通する環状油路とは異なる環状油路に連通する。
【0008】
また、本発明の少なくとも一実施形態に係る圧延設備は、
上述のスピンドルと、
前記スピンドルに接続され、前記複数の環状油路にそれぞれ油を供給するための複数の油供給ラインと、
を備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明の少なくとも一実施形態によれば、カップリングの係合部に油を適切に供給可能なスピンドル及びこれを備えた圧延設備が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】一実施形態に係る圧延設備の概略構成図である。
【
図2】一実施形態に係るスピンドルの概略図である。
【
図6】
図2に示すスピンドルの軸方向に沿った部分的な断面図である。
【
図7】一実施形態に係る圧延設備の概略構成図である。
【
図8】一実施形態に係る圧延設備の概略構成図である。
【
図9】一実施形態に係る圧延設備の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して本発明の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
【0012】
(圧延設備の構成)
図1は、幾つかの実施形態に係るスピンドルが適用される圧延設備の概略構成図である。同図に示す圧延設備10は、圧延材料を挟むように設けられる一対の圧延ロール(ワークロール)12と、一対の圧延ロール12を挟むように設けられる一対のバックアップロール18と、を備える。一対の圧延ロール12は、該圧延ロール12の軸端部に設けられる軸箱14,16によってハウジング(不図示)に回転自在に支持される。一対のバックアップロール18は、該バックアップロール18の軸端部に設けられる軸箱20,22によってハウジングに回転自在に支持される。
【0013】
圧延設備10は、一対の圧延ロール12を回転駆動する駆動力を生成するためのモータを含む駆動装置24と、駆動装置24で生成される駆動力を一対の圧延ロール12に伝達するための一対のスピンドル26と、を備えている。駆動装置24は、モータで生成される回転駆動力が伝達される一対の駆動シャフト30を含み、該一対の駆動シャフト30に一対のスピンドル26の一端部がそれぞれ嵌合している。一対のスピンドル26の他端部は、カップリング28(後述するメスカップリング部32及びオスカップリング部36を含む)を介して一対の圧延ロール12の軸端部にそれぞれ連結されている。
【0014】
なお、圧延設備10は、圧延設備10各構成機器に潤滑油等の油を供給するための機器(後述するスピンドル26に接続される油供給ライン等)を含む。
【0015】
(スピンドルの構成)
図2は、一実施形態に係るスピンドル26の概略図である。
図3~
図5は、それぞれ、
図2に示すスピンドル26の、軸方向に直交する断面を示す図である。
図3は、
図2のA-A断面を示す図であり、
図4は、
図2のB-B断面を示す図であり、
図5は、
図2のC-C断面を示す図である。
図6は、
図2に示すスピンドルの軸方向に沿った部分的な断面図である。
【0016】
図2に示すように、スピンドル26は、圧延ロール12の軸端部に設けられるオスカップリング部36と一端側にて係合可能なメスカップリング部32と、メスカップリング部32の他端側に位置するロータリージョイント60と、を備えている。
【0017】
図2及び
図3に示すように、メスカップリング部32は、一端側にて軸方向に突出する一対の突出部34A,34Bを有する。一対の突出部34A,34Bは、互いに対向する対向面35A,35Bをそれぞれ有する。突出部34Aと突出部34Bとの間に、一対の対向面35A,35Bによって画定される係合凹部33が形成される。係合凹部33は、軸方向に凹む形状を有する。係合凹部33は、オスカップリング部36の係合凸部38を受け入れ可能である。
【0018】
オスカップリング部36の係合凸部38は、軸方向に突出してフォーク部を構成する一対の突出部37A,37Bを含む。
図3に示すように、一対の突出部37A,37Bは、スピンドル26の軸方向に直交する断面内にて、メスカップリング部32の一対の対向面35A,35Bの間の中心線Lcに沿って配列される。オスカップリング部36の係合凸部38は、メスカップリング部32の係合凹部に挿入されるように構成される。
【0019】
スピンドル26は、メスカップリング部32の一対の突出部34A,34Bの間に設けられるピン42と、ピン42の両端部に支持される一対のスリッパメタル40A,40Bと、をさらに含む。
【0020】
図3に示すように、ピン42は、オスカップリング部36の一対の突出部37A,37Bの間を通過するように、メスカップリング部32の一対の突出部34A,34Bの間を、スピンドル26の軸方向に直交する断面内にて、中心線Lcに直交する直線Lnに沿って延びるように設けられる。なお、
図3において、直線Lnは、スピンドル26の回転軸Oを通り、かつ、上述の中心線Lcに直交する直線である。
【0021】
スリッパメタル40A,40Bは、メスカップリング部32の対向面35A,35Bと、オスカップリング部36の突出部37A,37Bとの間に設けられる。スリッパメタル40A,40Bは、メスカップリング32部の突出部34A,34Bに向かって突出する凸部98と、ピン42の両端部が係合可能な孔52と、を有する。スリッパメタル40A,40Bの孔52にピン42の両端部が挿入されるとともに、凸部98がメスカップリング部32の対向面35A,35Bに設けられる凹部31に係合される。
【0022】
このように、スリッパメタル40A,40Bが介在した状態で、メスカップリング部32とオスカップリング部36とが係合している。したがって、圧延設備10の運転時、モータ(駆動装置24)の回転駆動力は、スピンドル26のメスカップリング部32の突出部34A,34Bから、スリッパメタル40A,40Bを介して、オスカップリング部36の突出部37A,37Bに伝達される。これにより、オスカップリング部36に接続される圧延ロール12に回転駆動力が伝達される。
【0023】
スリッパメタル40A,40Bは、メスカップリング部32の突出部34A,34Bの対向面35A,35Bと摺動可能な第1面41をそれぞれ有する。また、スリッパメタル40A,40Bは、オスカップリング部36の突出部37A,37Bの面39A,39Bと摺動可能な第2面43をそれぞれ有する。
図2に示すように、メスカップリング部32の対向面35A,35B、及び、スリッパメタル40A,40Bの第1面41は、曲面形状を有する。また、オスカップリング部36の面39A,39B、及び、スリッパメタル40A,40Bの第2面43は、平面形状を有する。したがって、メスカップリング部32の対向面35A,35Bとスリッパメタル40A,40Bの第1面41、及び、オスカップリング部36の面39A,39Bとスリッパメタル40A,40Bの第2面43とがそれぞれ摺動することで、スピンドル26の回転軸が圧延ロール12の回転軸に対して傾斜した状態で、回転駆動力を伝達することができる。
【0024】
図3に示すように、係合凹部33にて、メスカップリング部32の突出部34A,34Bの対向面35A,35Bとスリッパメタル40A,40Bの第1面41との間には、第1空間94(94a~94d)が形成される。第1空間94は、スリッパメタル40A,40Bの第1面41に設けられた溝によって形成されてもよい。係合凹部33にて、オスカップリング部36の面39A,39Bとスリッパメタル40A,40Bの第2面43との間には、第2空間96(96a~96d)が形成される。第2空間96は、スリッパメタル40A,40Bの第2面43に設けられた溝によって形成されてもよい。
【0025】
ここで、スピンドル26の軸方向に直交する断面内にて、係合凹部33を、一対の対向面35A,35Bの中心線Lcと、中心線Lcに直交する直線Lnとによって区分して得られる4つのエリアを、周方向に並ぶ順に、エリアA1~A4と定義する(
図3参照)。
【0026】
メスカップリング部32は、係合凹部33に潤滑油(油)を供給するための複数の油供給路90,92を有する。複数の油供給路90は、4つのエリアA1~A4に対応して設けられる油供給路90a~90dを含む。複数の油供給路92は、4つのエリアA1~A4に対応して設けられる油供給路92a~92dを含む。複数の油供給路90,92の各々は、ロータリージョイント60に形成される複数の環状油路101,102のうち何れかに連通する。
【0027】
なお、
図2~
図6に示す実施形態では、ロータリージョイント60には2つの環状油路101,102が形成されている。他の実施形態では、ロータリージョイント60には、3以上の環状油路が形成されてもよい。なお、
図8及び
図9に示す例示的な実施形態(後述)では、ロータリージョイント60には、4つの環状油路101~104が形成されている。
【0028】
なお、
図2に示す例示的な実施形態では、メスカップリング部32とロータリージョイント60とが隣接して設けられており、後述するように、複数の油供給路90,92の何れかと複数の環状油路101,102の何れかとが、メスカップリング部32に形成される軸方向油路44を介して連通するようになっている。他の幾つかの実施形態では、メスカップリング部32とロータリージョイント60とは、隣接せずに互いに離れて位置してもよい。この場合、複数の油供給路90,92の何れかと複数の環状油路101,102の何れかとが、メスカップリング部32とロータリージョイント60との間に設けられる配管を介して連通するようになっていてもよい。
【0029】
図2及び3に示すように、複数の油供給路90(90a~90d)は、上述の第1空間94(94a~94d)に連通するように設けられる第1通路である。複数の油供給路90(90a~90d)は、それぞれ、メスカップリング部32に形成され、軸方向に沿って延びる軸方向油路44(44a~44d)に接続されるとともに、該軸方向油路44から第1空間94(94a~94d)に向かって、中心線Lcに直交する方向に沿って延びている。また、複数の油供給路90は、該軸方向油路44を介して、上述の環状油路101,102の何れかに連通している。環状油路101,102の何れかからの油が、複数の油供給路90(90a~90d)を介して、第1空間94(94a~94d)にそれぞれ供給されるようになっている。なお、第1空間94a~94dは、4つのエリアA1~A4に対応して設けられる。
【0030】
また、複数の油供給路92(92a~92d)は、上述の第2空間96(96a~96d)に連通するように設けられる第2通路である。複数の油供給路92(92a~92d)は、それぞれ、メスカップリング部32に形成され、軸方向に沿って延びる軸方向油路46(46a~46d)に接続されるとともに、該軸方向油路46から第2空間96(96a~96d)に向かって、中心線Lcに直交する方向に沿って延びている。また、複数の油供給路92は、該軸方向油路46を介して、上述の環状油路101,102の何れかに連通している。また、スリッパメタル40A,40Bには、上述の油供給路92(92a~92d)にそれぞれ連通する油供給路93(93a~93d)が設けられている。環状油路101,102の何れかからの油が、複数の油供給路92(92a~92d)、及び、複数の油供給路93(93a~93d)を介して、第2空間96(96a~96d)にそれぞれ供給されるようになっている。なお、第2空間96a~96dは、4つのエリアA1~A4に対応して設けられる。
【0031】
幾つかの実施形態では、
図3に示すように、メスカップリング部32に設けられる複数の軸方向油路44,46は、周方向において互いにずれて位置する。この場合、複数の軸方向油路44,46を、周方向において互いにずらして配置したので、複数の軸方向油路44,46と、複数の環状油路101,102とをそれぞれ連通させるための加工が比較的容易である。
【0032】
図2、
図4及び
図5に示すように、ロータリージョイント60は、メスカップリング部32の他端側(係合凹部33が設けられる一端側と反対側)に設けられる環状回転部62と、環状回転部62の外周側に位置する環状静止部76と、を含む。環状回転部62は、メスカップリング部32とともに回転するように構成される。
【0033】
ロータリージョイント60は、周方向に沿って設けられる複数の環状油路101,102を有する。複数の環状油路101,102の各々は、複数の油供給路90(90a~90d),92(92a~92d)の何れかと連通している。
環状静止部76は、複数の環状油路101,102にそれぞれ油を供給するための複数の油供給口84,86を含む。複数の油供給口84,86には、それぞれ、油供給ライン110(
図7~
図9参照)が接続される。なお、
図4及び
図5に示すように、環状油路101,102の各々に対して、複数の油供給口84,86が設けられてもよい。複数の油供給口84,86は、周方向に間隔を空けて配置されてもよい。
【0034】
複数の環状油路101,102は、環状回転部62の外周面63と、環状静止部76の内周面77との間に設けられる。したがって、メスカップリング部32及び環状回転部62を回転させながら、環状静止部76に設けられる油供給口84,86からの油を、メスカップリング部32の係合凹部33に適切に供給することができる。
【0035】
複数の環状油路101,102は、環状回転部62の外周面63、又は、環状静止部76の内周面77の少なくとも一方に設けられた周方向溝によって少なくとも部分的に形成されてもよい。
【0036】
図6に示す例示的な実施形態では、環状油路101は、環状回転部62の外周面63に設けられた環状の周方向溝64と、環状静止部76の内周面77に設けられた環状の周方向溝80と、によって形成されている。また、環状油路102は、環状回転部62の外周面63に設けられた環状の周方向溝70と、環状静止部76の内周面77に設けられた環状の周方向溝82と、によって形成されている。
【0037】
なお、幾つかの実施形態では、環状油路101は、環状回転部62の外周面63に設けられ、周方向において部分的に延在する周方向溝、又は、環状静止部76の内周面77に設けられ、周方向において部分的に延在する周方向溝によって形成されてもよい。
【0038】
幾つかの実施形態では、
図2及び
図6に示すように、複数の環状油路101,102は、軸方向において互いにずれて位置する。このように、軸方向において互いにずらして配置した複数の環状油路101,102を介して、異なる供給源からの潤滑油を、メスカップリング部32の係合凹部33に適切に供給することができる。
【0039】
環状油路101は、環状回転部62に設けられる軸方向通路68,69、および、環状油路101と軸方向通路68,69との間に設けれる径方向通路66,67を介して、メスカップリング部32の軸方向油路44,46の何れかに連通する。したがって、油供給口84を介して供給される油は、これらの通路を介して、メスカップリング部32の係合凹部33(第1空間94又は第2空間96等)に供給される。
【0040】
なお、
図2~
図6に示す例示的な実施形態では、環状回転部62の軸方向通路68と、メスカップリング部の軸方向油路44a,44cとが接続され、環状回転部62の軸方向通路69と、メスカップリング部の軸方向油路46a、46cとが接続されている。
【0041】
環状油路102は、環状回転部62に設けられる軸方向通路74,75、および、環状油路102と軸方向通路74,75との間に設けれる径方向通路72,73を介して、メスカップリング部32の軸方向油路44,46の何れかに連通する。したがって、油供給口86を介して供給される油は、これらの通路を介して、メスカップリング部32の係合凹部33(第1空間94又は第2空間96等)に供給される。
【0042】
なお、
図2~
図6に示す例示的な実施形態では、環状回転部62の軸方向通路74と、メスカップリング部の軸方向油路44b,44dとが接続され、環状回転部62の軸方向通路75と、メスカップリング部の軸方向油路46b,46dとが接続されている。
【0043】
図7~
図9は、それぞれ、一実施形態に係るスピンドルを含む圧延設備の概略構成図である。なお、
図7~
図9には、
図3と同様のメスカップリング部32の断面の模式図と、ロータリージョイント60を周方向に展開した模式図が含まれている。ロータリージョイント60に設けられる環状油路(101~104)は、直線的に図示されている。
【0044】
図7は、
図2~
図6に示す例示的な実施形態を、模式的に示したものである。
図8及び
図9に示す例示的な実施形態は、基本的な構成は
図7に示すものと同様であるが、ロータリージョイント60に4本の環状油路101~104が設けられている点で、
図7に示す実施形態と異なる。
【0045】
図7~
図9に示す実施形態では、圧延設備10は、上述したスピンドル26と、スピンドル26に接続され、複数の環状油路101~104(
図7では101,102)にそれぞれ油を供給するための複数の油供給ライン110A~110D(
図7では110A,110B)と、を備える。
【0046】
幾つかの実施形態では、例えば
図7~
図9に示すように、上述した4つのエリアA1~A4(メスカップリング部32の係合凹部33を、中心線Lc及び直線Lnによって区分される4つのエリア)のうち一のエリアに対応して設けられる油供給路90,92は、該一のエリアに隣接するエリアに対応して設けられる油供給路90、92が連通する環状油路とは異なる環状油路に連通する。
【0047】
具体的には、
図7に示す例示的な実施形態では、エリアA1に対応して設けられる油供給路90a及び油供給路92aは、環状油路101に連通する。当該環状油路101は、エリアA1に隣接するエリアA2及びA4に対応して設けられる、油供給路90b及び90d、及び、油供給路92b及び92dが連通する環状油路102とは異なる環状油路である。
【0048】
また、
図8に示す例示的な実施形態では、エリアA1に対応して設けられる油供給路90aは、環状油路101に連通するとともに、油供給路92aは、環状油路102に連通する。これらの環状油路101,102は、エリアA1に隣接するエリアA2及びA4に対応して設けられる、油供給路90b及び90dが連通する環状油路103、及び、油供給路92b及び92dが連通する環状油路104とは、それぞれ異なる環状油路である。
【0049】
また、
図9に示す例示的な実施形態では、エリアA1に対応して設けられる油供給路90a及び油供給路92aは、環状油路101に連通する。当該環状油路101は、エリアA1に隣接するエリアA2に対応して設けられる油供給路90b及び92bが連通する環状油路103とは異なる流路である。また、環状油路101は、エリアA1に隣接するエリアA4に対応して設けられる油供給路90d及び92dが連通する環状油路104とは異なる流路である。
【0050】
また、
図7~
図9に示す実施形態について、エリアA1以外のエリアA2~A4についても、上述と同様の説明が当てはまる。
【0051】
メスカップリング部32とオスカップリング部36との係合部における上述の4つのエリアA1~A4のうち、周方向にて互いに隣接する2つのエリア(A1とA2、A2とAA3、A3とA4、又は、A4とA1)の一方は、運転時にトルク伝達量が比較的大きい高負荷エリアであり、他方は、運転時にトルク伝達量が比較的小さい低負荷エリアである。例えば、エリアA1及びA3が高負荷エリアであるとき、エリアA2及びA4は低負荷エリアである。
【0052】
上述の実施形態では、4つのエリアのうち互いに隣接するエリア(一方は高負荷エリア、他方は低負荷エリア)にそれぞれ対応して設けられる油供給路90a~90d、92a~92dは、互いに異なる環状油路101~104に連通する。すなわち、高負荷エリア及び低負荷エリアのそれぞれに対応して設けられる油供給路に、互いに異なる油供給源からの油を供給可能である。よって、高負荷エリア及び低負荷エリアの両方に適切に潤滑油を供給することができる。
【0053】
幾つかの実施形態では、例えば
図7及び
図8に示すように、4つのエリアA1~A4のうち一のエリアに対応して設けられる少なくとも1つの油供給路90,92の各々は、それぞれ、4つのエリアA1~A4のうち前記一のエリアに隣接しないエリアに対応して設けられ油供給路90,92の何れかが連通する環状油路と同一の環状油路に連通する。
【0054】
具体的には、
図7に示す例示的な実施形態では、4つのエリアA1~A4のうち、エリアA1に対応して設けられる油供給路90a、92aの各々は、環状油路101に連通する。当該環状油路101は、エリアA1に隣接しないエリアA3に対応して設けられる油供給路90c、92cの各々が連通する環状油路101と同一の環状油路である。
【0055】
また、
図8に示す例示的な実施形態では、4つのエリアA1~A4のうち、エリアA1に対応して設けられる油供給路90aは環状油路101に連通する。当該環状油路101は、エリアA1に隣接しないエリアA3に対応して設けられる油供給路90cが連通する環状油路101と同一の環状油路である。また、エリアA1に対応して設けられる油供給路92aは環状油路102に連通する。当該環状油路102は、エリアA1に隣接しないエリアA3に対応して設けられる油供給路92cが連通する環状油路102と同一の環状油路である。
【0056】
また、
図7~
図8に示す実施形態について、エリアA1以外のエリアA2~A4についても、上述と同様の説明が当てはまる。
【0057】
4つのエリアA1~A4のうち、周方向にて互いに隣接しない2つのエリア(スピンドル26の回転軸Oを挟んで両側に位置する2つのエリア;例えばエリアA1とA3、又は、A2とA4)は、両方とも高負荷エリアであるか、両方とも低負荷エリアである。上述の実施形態によれば、一のエリア(例えばA1)に対応して設けられる油供給路(90a,92a)が、該一のエリアに隣接しないエリア(例えばA3)に対応して設けられる油供給路(90c、92c)が連通する環状油路(101)に連通するようにしたので、これらのエリアへの油供給経路を少なくとも部分的に共通化することができる。よって、比較的簡素な構成により、高負荷エリア及び低負荷エリアの両方に適切に潤滑油を供給することができる。
【0058】
幾つかの実施形態では、例えば
図9に示すように、4つのエリアA1~A4のうち一のエリアに対応して設けられる油供給路90,92の各々は、それぞれ、4つのエリアA1~A4のうち前記一のエリアに隣接しないエリアに対応して設けられる油供給路90,92の各々が連通する環状油路とは異なる環状油路に連通する。
【0059】
具体的には、
図9に示す例示的な実施形態では、エリアA1に対応して設けられる油供給路90a,92aは、環状油路101に連通している。当該環状油路101は、エリアA1に隣接しないエリアA3に対応して設けられる油供給路90c、92cが連通する環状油路103とは異なる環状油路である。
【0060】
また、
図9に示す実施形態について、エリアA1以外のエリアA2~A4についても、上述と同様の説明が当てはまる。
【0061】
上述の実施形態によれば、一のエリア(例えばA1)に対応して設けられる油供給路(90a,92a)と、該一のエリアに隣接しないエリア(A3)に対応して設けられる油供給路(90c、92c)とが、互いに異なる環状油路(101,103)に連通するようにしたので、これらのエリアへの油供給系統を分離することができる。すなわち、高負荷エリア同士又は低負荷エリア同士の間(例えばエリアA1とA3の間)で、油供給系統を分離することができるので、4つのエリアA1~A4のそれぞれに適した圧力レベルの潤滑油をそれぞれ供給することができる。よって、それぞれのエリアに対して、より適切に潤滑油を供給しやすくなる。
【0062】
幾つかの実施形態では、例えば
図8に示すように、4つのエリアA1~A4のそれぞれにおいて、第1通路(第1空間94に連通される油供給路90)及び第2通路(第2空間96に連通される油供給路92)は、複数の環状油路101~104のうち互いに異なる環状油路にそれぞれ連通する。
【0063】
具体的には、
図8に示す例示的な実施形態では、例えばエリアA1において、第1空間94aに連通される油供給路90a(第1通路)は、環状油路101に連通している。当該環状油路101は、エリアA1において、第2空間96aに連通される油供給路92a(第2通路)が連通する環状油路102とは異なる。
【0064】
また、
図8に示す実施形態について、エリアA1以外のエリアA2~A4についても、上述と同様の説明が当てはまる。
【0065】
上述の実施形態によれば、第1空間94に連通する第1通路(油供給路90)と、第2空間96に連通する第2通路(油供給路92)は、互いに異なる環状油路101~104にそれぞれ連通するので、第1空間94と第2空間96に対して異なる圧力レベルの潤滑油を供給することができる。よって、第1空間94と第2空間96の各々に対して、より適切に潤滑油を供給しやすくなる。
【0066】
幾つかの実施形態では、例えば
図7~
図9に示すように、圧延設備10は、複数の油供給ライン110A~110Dにそれぞれ設けられる複数のポンプ112A~112Dを備えてもよい。
【0067】
この場合、複数の油供給ライン110A~110Dに、個別にポンプ112A~112Dを設けたので、各油供給ライン110A~110Dの圧力レベルを個別に調節することができる。よって、4つのエリアのうち高負荷エリア及び低負荷エリアの両方に適切に潤滑油を供給することができる。
【0068】
幾つかの実施形態では、複数の油供給ライン110A~110Dうちの何れかに絞り部を設けてもよい。複数の油供給ライン110の何れかに絞り部を設けることで、当該油供給ライン110からメスカップリング部32に供給される油量を絞ることで、複数の油供給ライン110A~110Dによる油供給量のバランスを調節することができる。
【0069】
幾つかの実施形態では、複数の油供給ライン110A~110Dうちの2以上に、油を分配して供給するための分配弁が設けられていてもよい。この場合、分配弁によって
2以上の油供給ラインに対して油を分配するようにしたので、適切な分配比で複数の油供給ラインに油を供給することができる。
【0070】
幾つかの実施形態では、例えば
図7~
図9に示すように、圧延設備10は、複数の環状油路101~104の接続先を、複数の油供給ライン110A~110Dの間で切り替え可能な切替弁114を備える。
【0071】
図7に示す例示的な実施形態では、圧延設備10は、環状油路101と環状油路102の接続先を、油供給ライン110A,110Bの間で切り替え可能な切替弁114を備える。
【0072】
図8及び
図9に示す例示的な実施形態では、圧延設備10は、環状油路101と環状油路103の接続先を、油供給ライン110A,110Bの間で切り替え可能な切替弁114Aと、環状油路102と環状油路104の接続先を、油供給ライン110C,110Dの間で切り替え可能な切替弁114Bと、を備える。
【0073】
材料を往復させながら圧延するように構成されたリバース式の圧延装置では、材料の往路と復路とで、圧延ロール12及びスピンドル26の回転方向が逆方向になる。また、材料の往路と復路とで、メスカップリング部32の係合凹部33における上述の4つのエリアA1~A4における高負荷エリアと低負荷エリアが入れ替わる。例えば、往路ではエリアA1及びA3が高負荷エリアであるとともにエリアA2及びA4が低負荷エリアである場合、復路では、エリアA1及びA3が低負荷エリアになるとともに、エリアA2及びA4が高負荷エリアとなる。
【0074】
この点、上述の実施形態では、複数の環状油路101~104の接続先を、複数の油供給ライン110A~110Dの間で切り替え可能な切替弁114A,114Bを設けたので、圧延ロール12及びスピンドル26の回転方向の変更に合わせて、切替弁114を適切に作動させて各油供給ライン110A~110Dからの油の供給先のエリアA1~A4を切替えることができる。よって、リバース式の圧延装置において、材料の往路と復路の両方で、高負荷エリア及び低負荷エリアの両方に適切に潤滑油を供給することができる。
【0075】
なお、切替弁114を設ける場合、上述の絞り部は、油供給ライン110A~110Dにおいて切替弁114よりも上流側に設けられる。
【0076】
また、切替弁114を設ける場合、上述の分配弁は、油供給ライン110A~110Dにおいて切替弁114よりも上流側に設けられる。
【0077】
幾つかの実施形態では、複数の油供給ライン110A~110Dは互いに独立して設けられる。すなわち、複数の油供給ライン110A~110Dの各々(例えば油供給ライン110A)は、他の油供給ライン(油供給ライン110B~110D)から分岐したものではない。
【0078】
この場合、複数の油供給ライン110A~110Dは互いに独立して設けられるので、それぞれの環状油路101~104に対応する油供給系統の圧力レベルを適切に維持することができる。よって、メスカップリング部32の係合凹部33の高負荷エリア及び低負荷エリアの両方に適切に潤滑油を供給することができる。
【0079】
幾つかの実施形態では、複数の環状油路101~104のうち、互いに隣り合う環状油路の間に、これらの環状油路間での油の漏れを低減するためのシール部が設けられてもよい。例えば、
図6に示す実施形態では、軸方向に隣り合う環状油路101と環状油路102の間に、シール部88が設けられている。
【0080】
上述のシール部88を設けることにより、それぞれの環状油路101,102に対応する油供給系統の圧力レベルを適切に維持しやすくなる。
【0081】
なお、
図6に示すように、環状回転部62と環状静止部76との間に、環状油路101,102等からの油漏れを低減するためのシール部89を設けてもよい。また、
図6に示すように、環状回転部62とメスカップリング部32との間に、軸方向通路68,69等からの油漏れを低減するためのシール部87を設けてもよい。
【0082】
以下、幾つかの実施形態に係るスピンドル及びこれを備えた圧延設備について概要を記載する。
【0083】
(1)本発明の少なくとも一実施形態に係るスピンドルは、
圧延ロールに回転駆動力を伝達するためのスピンドルであって、
オスカップリング部の係合凸部を受入れ可能な係合凹部を一端側に有するメスカップリング部と、
前記メスカップリング部の他端側に設けられるとともに、前記メスカップリング部とともに回転するように構成された環状回転部、および、前記環状回転部の外周側に位置する環状静止部を含むロータリージョイントと、
を備え、
前記メスカップリング部は、前記係合凹部を画定する対向面をそれぞれ有する一対の突出部を前記一端側に含み、
前記メスカップリング部は、前記係合凹部に油を供給するための複数の油供給路を有し、
前記ロータリージョイントは、各々が前記複数の油供給路の何れかと連通する環状油路を複数本有し、
前記複数の油供給路は、前記スピンドルの軸方向に直交する断面内にて、前記係合凹部を、前記一対の対向面の間の中心線と、該中心線に直交する直線と、によって区分して得られる4つのエリアの各々に対応して設けられる少なくとも1つの油供給路を含み、
前記4つのエリアのうち一のエリアに対応して設けられる前記少なくとも1つの油供給路は、前記複数の環状油路のうち、前記4つのエリアのうち前記一のエリアに隣接するエリアに対応して設けられる前記少なくとも1つの油供給路が連通する環状油路とは異なる環状油路に連通する。
【0084】
メスカップリング部の係合凹部における上述の4つのエリアのうち、周方向にて互いに隣接する2つのエリアの一方は、運転時にトルク伝達量が比較的大きい高負荷エリアであり、他方は、運転時にトルク伝達量が比較的小さい低負荷エリアである。上記(1)の構成では、4つのエリアのうち互いに隣接するエリア(一方は高負荷エリア、他方は低負荷エリア)にそれぞれ対応して設けられる油供給路は、互いに異なる環状油路に連通する。すなわち、高負荷エリア及び低負荷エリアのそれぞれに対応して設けられる油供給路に、互いに異なる油供給源からの油を供給可能である。よって、高負荷エリア及び低負荷エリアの両方に適切に潤滑油を供給することができる。
【0085】
(2)幾つかの実施形態では、上記(1)の構成において、
前記4つのエリアのうち一のエリアに対応して設けられる前記少なくとも1つの油供給路の各々は、それぞれ、前記4つのエリアのうち前記一のエリアに隣接しないエリアに対応して設けられる前記少なくとも1つの油供給路の何れかが連通する環状油路と同一の前記環状油路に連通する。
【0086】
上述の4つのエリアのうち、周方向にて互いに隣接しない2つのエリア(回転軸を挟んで両側に位置する2つのエリア)は、両方とも高負荷エリアであるか、両方とも低負荷エリアである。上記(2)の構成によれば、一のエリアに対応して設けられる油供給路が、該一のエリアに隣接しないエリアに対応して設けられる油供給路が連通する環状油路に連通するようにしたので、これらのエリアへの油供給経路を少なくとも部分的に共通化することができる。よって、比較的簡素な構成により、高負荷エリア及び低負荷エリアの両方に適切に潤滑油を供給することができる。
【0087】
(3)幾つかの実施形態では、上記(1)の構成において、
前記4つのエリアのうち一のエリアに対応して設けられる前記少なくとも1つの油供給路の各々は、それぞれ、前記4つのエリアのうち前記一のエリアに隣接しないエリアに対応して設けられる前記少なくとも1つの油供給路の各々が連通する環状油路とは異なる環状油路に連通する。
【0088】
上記(3)の構成によれば、一のエリアに対応して設けられる油供給路と、該一のエリアに隣接しないエリアに対応して設けられる油供給路とが、互いに異なる環状油路に連通するようにしたので、これらのエリアへの油供給系統を分離することができる。すなわち、高負荷エリア同士又は低負荷エリア同士の間で、油供給系統を分離することができるので、4つのエリアのそれぞれに適した圧力レベルの潤滑油をそれぞれ供給することができる。よって、それぞれのエリアに対して、より適切に潤滑油を供給しやすくなる。
【0089】
(4)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(3)の何れかの構成において、
前記スピンドルは、
前記一対の突出部の間を、前記断面内にて前記直線に沿って延びるピンと、
前記ピンの両端部に支持されて、前記一対の突出部の前記対向面と摺動可能な第1面、及び、前記オスカップリング部と摺動可能な第2面をそれぞれ有する一対のスリッパメタルと、
を備える。
【0090】
上記(4)の構成によれば、上述の4つのエリアには、それぞれ、スリッパメタルの第1面とメスカップリング部との摺動部、及び、スリッパメタルの第2面とオスカップリング部との摺動部が含まれる。よって、これらの摺動部に、適切に潤滑油を供給することができる。
【0091】
(5)幾つかの実施形態では、上記(4)の構成において、
前記4つのエリアの各々に対応して設けられる前記少なくとも1つの油供給路は、
前記突出部の前記対向面と、前記スリッパメタルの前記第1面との間の第1空間に連通する第1通路と、
前記オスカップリング部と、スリッパメタルの前記第2面との間の第2空間に連通する第2通路と、を含む。
【0092】
上記(5)の構成によれば、突出部(メスカップリング部)とスリッパメタルの第1面との間の第1空間に連通する第1通路を介して該第1空間に潤滑油を供給可能であるとともに、オスカップリング部とスリッパメタルの第2面との間に連通する第2通路を介して該第2空間に潤滑油を供給可能である。よって、メスカップリング部とオスカップリング部との係合部に適切に潤滑油を供給することができる。
【0093】
(6)幾つかの実施形態では、上記(5)の構成において、
前記第1通路及び前記第2通路は、前記複数の環状油路のうち互いに異なる環状油路にそれぞれ連通する。
【0094】
上記(6)の構成によれば、第1空間に連通する第1通路と、第2空間に連通する第2通路は、互いに異なる環状油路にそれぞれ連通するので、第1空間と第2空間に対して異なる圧力レベルの潤滑油を供給することができる。よって、第1空間と第2空間の各々に対して、より適切に潤滑油を供給しやすくなる。
【0095】
(7)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(6)の何れかの構成において、
前記複数の環状油路は、前記環状回転部の外周面又は前記環状静止部の内周面の少なくとも一方に設けられた周方向溝によって少なくとも部分的に形成される。
【0096】
上記(7)の構成によれば、複数の環状油路は、ロータリージョイントの環状回転部の外周面又は環状静止部の内周面の少なくとも一方に設けられた周方向溝によって少なくとも部分的に形成されるので、環状静止部を介してスピンドルに供給される潤滑油を、環状油路を介して、環状回転部とともに回転するメスカップリング部の係合凹部に適切に供給することができる。
【0097】
(8)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(7)の何れかの構成において、
前記環状静止部は、前記複数の環状油路にそれぞれ油を供給するための複数の油供給口を含む。
【0098】
上記(8)の構成によれば、ロータリージョイントの環状静止部に設けられる油供給口を介してスピンドルに供給される潤滑油を、ロータリージョイントに設けられる環状油路を介して、環状回転部とともに回転するメスカップリング部の係合凹部に適切に供給することができる。
【0099】
(9)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(8)の何れかの構成において、
前記複数の環状油路は、前記軸方向において互いにずれて位置する。
【0100】
上記(9)の構成によれば、複数の環状油路を、軸方向において互いにずらして配置したので、異なる供給源からの潤滑油を、複数の環状油路をそれぞれ介して、メスカップリング部の係合凹部に適切に供給することができる。
【0101】
(10)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(9)の何れかの構成において、
前記メスカップリング部は、前記複数の油供給路の何れかと前記複数の環状油路の何れかとを連通する軸方向油路を複数本含み、
前記複数の軸方向油路は周方向において互いにずれて位置する。
【0102】
上記(10)の構成によれば、複数の軸方向油路を、周方向において互いにずらして配置したので、複数の軸方向油路と、複数の環状油路とをそれぞれ連通させるための加工が比較的容易である。
【0103】
(11)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(10)の何れかの構成において、
前記スピンドルは、
前記複数の環状油路のうちの一対の環状油路の間に設けられ、該一対の環状油路同士における潤滑油の漏れを低減するためのシール部を備える。
【0104】
上記(11)の構成によれば、一対の環状油路の間に、環状油路同士の間での潤滑油の漏れを低減するためのシール部を設けたので、それぞれの環状油路に対応する油供給系統の圧力レベルを適切に維持しやすい。よって、メスカップリング部の係合凹部の高負荷エリア及び低負荷エリアの両方に適切に潤滑油を供給することができる。
【0105】
(12)本発明の少なくとも一実施形態に係る圧延設備は、
上記(1)乃至(11)の何れか一項に記載のスピンドルと、
前記スピンドルに接続され、前記複数の環状油路にそれぞれ油を供給するための複数の油供給ラインと、
を備える。
【0106】
上記(12)の構成によれば、メスカップリング部の係合凹部の上述の4つのエリアのうち互いに隣接するエリア(一方は高負荷エリア、他方は低負荷エリア)にそれぞれ対応して設けられる油供給路は、互いに異なる環状油路に連通し、これらの環状油路には、別々の油供給ラインからの油が供給される。すなわち、高負荷エリア及び低負荷エリアのそれぞれに対応して設けられる油供給路に、互いに異なる油供給ライン(油供給源)からの油が供給される。よって、高負荷エリア及び低負荷エリアの両方に適切に潤滑油を供給することができる。
【0107】
(13)幾つかの実施形態では、上記(12)の構成において、
前記圧延設備は、
前記複数の油供給ラインにそれぞれ設けられる複数のポンプを備える。
【0108】
上記(13)の構成によれば、複数の油供給ラインに、個別にポンプを設けたので、各油供給ラインの圧力レベルを個別に調節することができる。よって、高負荷エリア及び低負荷エリアの両方に適切に潤滑油を供給することができる。
【0109】
(14)幾つかの実施形態では、上記(12)又は(13)の構成において、
前記圧延設備は、
前記複数の環状油路の接続先を、前記複数の油供給ラインの間で切り替え可能な切替弁を備える。
【0110】
材料を往復させながら圧延するように構成されたリバース式の圧延装置では、材料の往路と復路とで、圧延ロール及びスピンドルの回転方向が逆方向になる。また、材料の往路と復路とで、メスカップリング部の係合凹部における上述の4つのエリアにおける高負荷エリアと低負荷エリアが入れ替わる。この点、上記(14)の実施形態では、複数の環状油路の接続先を、複数の油供給ラインの間で切り替え可能な切替弁を設けたので、圧延ロール及びスピンドルの回転方向の変更に合わせて、切替弁を適切に作動させて各油供給ラインからの油の供給先のエリアを切替えることができる。よって、リバース式の圧延装置において、材料の往路と復路の両方で、高負荷エリア及び低負荷エリアの両方に適切に潤滑油を供給することができる。
【0111】
(15)幾つかの実施形態では、上記(12)乃至(14)の何れかの構成において、
前記複数の油供給ラインは互いに独立して設けられる。
【0112】
上記(15)の構成によれば、複数の油供給ラインは互いに独立して設けられるので、それぞれの環状油路に対応する油供給系統の圧力レベルを適切に維持することができる。よって、メスカップリング部の係合凹部の高負荷エリア及び低負荷エリアの両方に適切に潤滑油を供給することができる。
【0113】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されることはなく、上述した実施形態に変形を加えた形態や、これらの形態を適宜組み合わせた形態も含む。
【0114】
本明細書において、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
また、本明細書において、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
また、本明細書において、一の構成要素を「備える」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
【符号の説明】
【0115】
10 圧延設備
12 圧延ロール
14 軸箱
16 軸箱
18 バックアップロール
20 軸箱
22 軸箱
24 駆動装置
26 スピンドル
28 カップリング
30 駆動シャフト
31 凹部
32 メスカップリング部
33 係合凹部
34A 突出部
34B 突出部
35A 対向面
35B 対向面
36 オスカップリング部
37A 突出部
37B 突出部
38 係合凸部
39A 面
39B 面
40A スリッパメタル
40B スリッパメタル
41 第1面
42 ピン
43 第2面
44(44a~44d) 軸方向油路
46(46a~46d) 軸方向油路
52 孔
60 ロータリージョイント
62 環状回転部
63 外周面
64 周方向溝
66 径方向通路
67 径方向通路
68 軸方向通路
69 軸方向通路
70 周方向溝
72 径方向通路
73 径方向通路
74 軸方向通路
75 軸方向通路
76 環状静止部
77 内周面
80 周方向溝
82 周方向溝
84 油供給口
86 油供給口
87 シール部
88 シール部
89 シール部
90(90a~90d) 油供給路
92(92a~92d) 油供給路
93 油供給路
94(94a~94d) 第1空間
96(96a~96d) 第2空間
98 凸部
101~104 環状油路
110(110A~110D) 油供給ライン
112(112A~112D) ポンプ
114(114A,114B) 切替弁
A1~A4 エリア
Lc 中心線
O 回転軸