(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-23
(45)【発行日】2024-07-31
(54)【発明の名称】マルチモーダル金属アフィニティー処理AAVカプシド
(51)【国際特許分類】
G01N 30/88 20060101AFI20240724BHJP
B01D 15/38 20060101ALI20240724BHJP
B01J 20/281 20060101ALI20240724BHJP
G01N 30/26 20060101ALI20240724BHJP
C12N 7/02 20060101ALI20240724BHJP
C12Q 1/6806 20180101ALI20240724BHJP
C12N 15/864 20060101ALN20240724BHJP
【FI】
G01N30/88 J
B01D15/38
B01J20/281 R
B01J20/281 X
G01N30/26 A
C12N7/02
C12Q1/6806 Z
C12N15/864 100Z
(21)【出願番号】P 2023512396
(86)(22)【出願日】2021-08-18
(86)【国際出願番号】 EP2021072877
(87)【国際公開番号】W WO2022038164
(87)【国際公開日】2022-02-24
【審査請求日】2023-04-20
(32)【優先日】2020-08-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2020-10-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】521262714
【氏名又は名称】ザルトリウス ビーアイエー セパレーションズ ディー.オー.オー.
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】レスコヴィチ、マーヤ
(72)【発明者】
【氏名】ドルモタ プレビル、サラ
(72)【発明者】
【氏名】ジゴン、ロック
(72)【発明者】
【氏名】ストランカー、アレス
(72)【発明者】
【氏名】ガニオン、ピーター スタンリー
【審査官】黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-046820(JP,A)
【文献】国際公開第2019/178495(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/242535(WO,A1)
【文献】特表2019-527058(JP,A)
【文献】特表2000-510682(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/00-30/96
B01D 15/00-15/42
B01J 20/00-20/34
C12N 1/00-7/08
C12Q 1/00-3/00
C12N 15/864
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フル(full)アデノ随伴ウイルス(AAV)カプシド及び空(empty)AAVカプシドを含む緩衝された混合物(buffered mixture)中の空AAVカプシドからフルAAVカプシドを分離する方法であって、
前記緩衝された混合物を、金属アフィニティーリガンドが結合した(attached)第1の基材と接触させるステップ、ここで前記金属アフィニティーリガンドは、3個以上の窒素原子を介して金属イオンを錯化する能力を有する、
前記金属アフィニティーリガンドに結合した多価金属カチオンの存在下で、pH勾配、塩勾配、金属イオン勾配、又はそれらの組み合わせで溶出することにより、フルAAVカプシドから空AAVカプシドを分離して、精製されたフルAAVカプシド画分を得るステップ
を含む方法。
【請求項2】
前記緩衝された混合物を前記第1の基材と接触させる前、前記緩衝された混合物を前記第1の基材と接触させる最中、及び/又は溶出中に、前記第1の基材に多価金属カチオンがロードされる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1の基材の前記金属アフィニティーリガンドが、ジエチルトリアミン;トリエチルテトラミン;テトラエチルペンタミン;ポリアミドアミン、ポリトリエチルアミン、デフェロキサミン、N,N-ビス(2-アミノエチル)-1,2-エタンジアミン、及びトリス(2-アミノエチル)アミン(TREN)からなる群より選択される、請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項4】
溶出中に存在する前記多価金属カチオンが、鉄(III)、マンガン(II)、銅(II)、亜鉛(II)、コバルト(II)、マグネシウム(II)、カルシウム(II)、バリウム(II)、ニッケル(II)、及びそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項1~請求項3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
勾配終点における多価金属カチオンの濃度が、0.1mM~200mM、又は1mM~100mM、又は2mM~50mM、又は5mM~25mMの範囲内である、請求項1~請求項4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
溶出が、pH6.0~pH10、pH7.0~pH9.75、pH8.0~pH9.5、pH8.5~pH9.5、pH9.0~pH9.5、pH8.75~pH9.25、pH8.9~pH9.1、又はpH8.95~pH9.05の範囲内のpH値で実施される、請求項1~請求項5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
溶出が、1M以下、1mM~500mM、2mM~250mM、3mM~125mM、5mM~60mM、又は7mM~30mMの範囲内で塩の濃度を上昇させることによって実施される、請求項1~請求項6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
溶出が、金属塩の濃度を上昇させることによって実施され、ここで金属イオンは多価金属カチオンである、請求項1~請求項7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
接触及び/又は溶出が、ボレート(borate)を含むバッファーを用いて実施される、請求項1~請求項8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記金属アフィニティーリガンドは溶出前に1種の多価金属カチオンを担持し、
前記空AAVカプシド、前記フルAAVカプシド、又は前記空AAVカプシドと前記フルAAVカプシドとの両方が、第2の種の多価金属カチオンの濃度を上昇させることによって溶出される、請求項1~請求項9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記緩衝された混合物又は精製された前記フルAAVカプシド画分と、金属アフィニティーリガンドを担持する第2の基材との接触が、前記金属アフィニティーリガンドに結合した多価金属カチオンの存在下で行われ、前記金属アフィニティーリガンドは2つ以上の負に荷電したカルボン酸残基を含む、請求項1~請求項10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記緩衝された混合物が、前記第1の基材及び前記第2の基材と同時に処理される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記第2の基材に取り付けられている前記金属アフィニティーリガンドが、アミノ-ジカルボン酸及びアミノトリカルボン酸からなる群より選択される、請求項11又は請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記第2の基材の前記金属アフィニティーリガンドが、鉄(III)、マンガン(II)、銅(II)、亜鉛(II)、コバルト(II)、マグネシウム(II)、カルシウム(II)、バリウム(II)、ニッケル(II)、及びそれらの組み合わせからなる群より選択される多価金属カチオンを担持している、請求項11~請求項13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記緩衝された混合物と前記第2の基材との接触が、pH6.0~pH10、pH7.0~pH9.75、pH8.0~pH9.5、pH8.5~pH9.5、pH9.0~pH9.5、pH8.75~pH9.25、pH8.9~pH9.1、又はpH8.95~pH9.05の範囲内のpH値で起こる、請求項11~請求項14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記緩衝された混合物と前記第2の基材との接触が、1M以下、又は0.1mM~1.0M、1mM~500mM、又は2mM~250mM、又は5mM~250、又は3mM~125mM、又は10mM~125mM、又は5mM~60mM、又は20mM~62mM、又は7mM~30mMの範囲内の塩濃度で起こる、請求項11~請求項15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記緩衝された混合物又は精製フルAAVカプシド画分中に存在する混入DNAが、前記混入DNAを前記第1の基材及び/又は第2の基材に結合させることによって除去される、請求項1~請求項16のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の方法は、空AAVカプシド(empty AAV capsids)及び混入DNA(contaminating DNA)からフルAAVカプシド(full AAV capsids)を分離するための改良された方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アデノ随伴ウイルス(AAV)は、遺伝子治療の分野におけるDNAプラスミドの充填及び送達のための一般的な候補として浮上している。その精製のための多くの材料及び方法が評価又は開発されつつある。アフィニティークロマトグラフィーは、操作が簡単であるため、一般的である。最も一般的には、抗体に由来するもののような生物学的リガンドが固相クロマトグラフィー表面上に固定化され、所望のAAV及び混入物質を含有する粗試料に曝露される。原則的に、AAVは結合するが、混入物は結合しない。未結合の混入物質は洗い流される。AAVは、リガンドとAAVとの間の相互作用を化学的に破壊することによって回収される。
【0003】
固定化金属アフィニティークロマトグラフィー(IMAC)は、多くの場合、生物学的アフィニティーの有効な代用物として認識されている[1、2]。イミノ二酢酸(IDA)リガンド又はニトリロ三酢酸(NTA)リガンド上に固定化されたニッケルイオンによってタンパク質を捕捉できるように、タンパク質上にポリヒスチジンテール(Hisタグ)を遺伝子的にコードするやり方が知られている。そのようなHisタグは一般に、直鎖配列中に6個以上のヒスチジル残基を含有する。Hisタグ付きAAVのIMAC精製は公知である[3、4]。非Hisタグ付きAAVの捕捉のためのIMACの技術は実用的な有用性を有さないと理解されている[3、4]が、これはそうでなければ、AAV上にHisタグをコードする必要がないからである。核酸の精製のためのIMACの使用は公知である[5、6]。
【0004】
国際規制当局によって認可されたIMAC精製Hisタグ生成物は知られておらず、これはおそらく、Hisタグタンパク質を捕捉するために最も一般的に推奨されるニッケルイオンが発がん性であるという事実を反映するものである。最終生成物からの完全なニッケル除去を達成するのは困難であり、またニッケルがタグに非常に強く結合してタンパク質上の他の部位に結合する可能性があることから、その証明はより困難である。有毒金属はまた、有害な廃棄物処分のためのコストを増大させ、IMAC-ニッケルカラムを用いて作業する人々にとっては懸念されるものである。ニッケルのような重金属イオンは、塩化ナトリウム又は塩酸グアニジニウムが飽和レベルであっても、タンパク質に結合したままである。キレート剤はそれらのレベルを低下させ得るが、キレート剤はAAVカプシドの安定性を脅かし、AAVカプシドの構造的完全性を維持するためのマグネシウム及び/又はカルシウムイオンを必要とする。
【0005】
バイオアフィニティークロマトグラフィー及びIMACの両方を含むアフィニティークロマトグラフィーの別の制限要因は、アフィニティーがAAVの精製要件に完全には対応できないことである。それは、治療用プラスミドDNAの意図された内部ペイロードを含有する所望のフルカプシドと共に、カプシド残屑、欠陥カプシド、及び空カプシドを無差別に捕捉する。「空カプシド」という用語は、患者への送達を意図した遺伝子治療DNAプラスミドを含まないAAVカプシドを指す。「カプシド残屑(capsid debris)」及び「欠陥カプシド(defective capsids)」という用語は、不正確なアセンブリ又は損傷のために不完全又は非機能性であるカプシドを指す。
【0006】
アフィニティークロマトグラフィーのさらなる制限要因は、患者の安全性及び規制当局への遵守を確実にするために必要な十分に低いレベルまで混入DNAを除去することはできないことである。混入DNAは、宿主細胞由来DNAの形態であり得、又はカプシドの外側にあるプラスミドDNAでありうる。AAVにはそのようなDNAをそのカプシド外部表面に結合する傾向を示し、アフィニティー法によるその共精製をもたらす。カプシド外面上のこの非特異的に結合したDNAはまた、空カプシドを除去するための後続の方法も妨害する。
【0007】
空カプシド及び混入DNA含量を減少させるための強アニオン交換体の使用は公知である[7~9]。空カプシドの除去は一部のAAV血清型に有効であるが、多くは部分的に有効であり、その他のAAV血清型にはほとんど有用ではない。弱アニオン交換体は、フルカプシドからの空AAVカプシドの分画には効果がないことが証明されている。
【0008】
「強アニオン交換体」という用語は、約pH2~pH13の範囲にわたって一貫した電荷を維持するアニオン交換リガンドを指す。それらは、典型的には第四級アミンの形態であって、それぞれ第四級アミノ、第四級アミノエチル、第四級アミノメチル、第四級アミノメチル、トリエチルアミノエチル、トリメチルアミノメチル、又はトリメチルアミノメチルを指す、Q、QA、QAE、QAM、TEAE、TMAM、又はTMAEなどの市販名を有する。
【0009】
「弱アニオン交換体」という用語は、高いpH値で電荷を失うアニオン交換リガンドを指す。それらは、最も一般的には第三級アミンの形態であり、その最も一般的なものはDEAE(ジエチルアミノエチル)である。DEAEはそのような分離が一般に、DEAEがその電荷の大部分を失っているpH9又はそれ以上に近いアルカリ性pH値を必要とするので、カプシド分離に有意な有用性を有さない。所望のカプシドを望ましくないカプシドからかなりの程度まで分画することができる程度でさえ、必要なpH範囲におけるその電荷の損失は、分離が製造のための実用的な価値を有さないところまでその能力を低下させる。これは、特に、強アニオン交換体による優れた性能の文脈において当てはまる。
【0010】
カチオン交換クロマトグラフィーは、所望のフルカプシドからの空カプシドの実際的な分離をほとんど又は全く達成しないことが知られている。それが全く分離を提供しない限り、それは、強アニオン交換体によって提供される分離よりも劣る。
【0011】
ボレート(borate)は、種々の炭水化物及びグリコシル化化合物上の特定のヒドロキシル構成と共有結合複合体を形成する能力のため、合成レクチンと呼ばれることがある。シス-ジオールとのホウ酸錯体は、負電荷を有する錯体を与える[10]。ボレートはまた、金属キレート部位の金属イオン選択性を変化させることができる[11]。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
固定化金属イオンへの結合を促進するためのHisタグ又は他の遺伝子改変を欠くAAVを捕捉するという驚くべき能力を有する、固定化金属アフィニティークロマトグラフィー(IMAC)リガンドの使用方法が開発されている。それは、カチオン性金属アフィニティーリガンドの使用を必要とする。それは有毒な重金属の使用を必要としない。これは、ヒトの生理に不可欠な多価金属カチオン種に有効である。
【0013】
本方法は、フルカプシドから空カプシドを分画し、それを行うための公知の方法よりも効果的にDNA混入を低減する、さらに驚くべき能力を提供する。本発明の基本的な方法の能力は、空カプシド及び/又はDNAの含有量をさらに減少させる方法と組み合わせることによって、例えばアニオン交換クロマトグラフィー、密度勾配遠心分離、又は他の技術の方法と組み合わせることなどによって、複合化される。
【課題を解決するための手段】
【0014】
一態様では、本発明は、フル(full)アデノ随伴ウイルス(AAV)カプシド及び空(empty)AAVカプシドを含む緩衝された混合物(buffered mixture)中の空AAVカプシドからフルAAVカプシドを分離する方法であって、
前記緩衝された混合物を、金属アフィニティーリガンドが結合した(attached)第1の基材と接触させるステップ、ここで前記金属アフィニティーリガンドは、3個以上の窒素原子を介して金属イオンを錯化する能力を有する;
前記金属アフィニティーリガンドに結合した多価カチオンの存在下で、pH勾配、塩勾配、金属イオン勾配、又はそれらの組み合わせで溶出することにより、フルAAVカプシドから空AAVカプシドを分離して、精製されたフルAAVカプシド画分を得るステップ
を含む方法に関連する。以下では簡明性のため、「3個以上の窒素原子を介して金属イオンを錯化する能力を有する金属アフィニティーリガンド」という表現は「カチオン性リガンド-金属固相」とも称される。
【0015】
本発明の方法の一実施形態では、前記緩衝された混合物を前記第1の基材と接触させる前、前記緩衝された混合物を前記第1の基材と接触させる最中、及び/又は溶出中に、前記第1の基材に多価カチオンがロードされる。
【0016】
本発明の方法のさらなる実施形態では、前記固相基材は、アルカリ性pHを有するバッファーで平衡化することができる。
【0017】
本発明の方法のさらに別の実施形態では、前記第1の基材の金属アフィニティーリガンドが、ジエチルトリアミン;トリエチルテトラミン;テトラエチルペンタミン;ポリアミドアミン、ポリトリエチルアミン、デフェロキサミン、N,N-ビス(2-アミノエチル)-1,2-エタンジアミン、及びトリス(2-アミノエチル)アミン(TREN)からなる群より選択される。
【0018】
本発明の方法のさらに別の実施形態では、溶出中に存在する前記多価金属カチオンが、鉄(III)、マンガン(II)、銅(II)、亜鉛(II)、コバルト(II)、マグネシウム(II)、カルシウム(II)、バリウム(II)、ニッケル(II)、及びそれらの組み合わせからなる群より選択されうる。特に、銅(II)、マグネシウム(II)、カルシウム(II)、又はそれらの組み合わせを使用することができる。本発明の方法の一実施形態では、前記金属アフィニティーリガンドに、溶出前に1種の多価カチオンを担持させる(charge)ことができ、前記AAVカプシドを、第2の種の多価金属カチオンの濃度を上昇させることによって溶出することができる。
【0019】
本発明の方法のさらなる実施形態では、前記溶出勾配が、多価金属カチオンの濃度を上昇させながら適用することによって(by applying an increasing concentration of multivalent metal cations)実施される。勾配終点における多価カチオンの濃度は、0.1mM~200mM、又は1mM~100mM、又は2mM~50mM、又は5mM~25mMの範囲であり得る。いくつかの実施形態では、多価イオンの種が、マグネシウム、カルシウム、もしくはバリウム、もしくは銅、又はそれらの混合物でありうる。
【0020】
本発明の方法のさらに別の実施形態では、フルAAVカプシド及び空AAVカプシドを溶出することによって分離するための前記勾配バッファー中の塩濃度は、500mM以下の範囲であり得る。典型的には、溶出は、1mM~500mM、2mM~250mM、3mM~125mM、5mM~60mM、又は7mM~30mMの範囲内で塩の濃度を上昇させることによって実施される。
【0021】
各血清型はそれぞれ異なる表面化学的特徴を有するため、任意の所与のAAV血清型についての塩の範囲は、実験的に決定される必要がある。この現象は、いくつかの血清型が他の血清型よりも強く結合し、除去のためにより多くの塩を必要とするイオン交換クロマトグラフィーの分野においては、周知である。溶出に必要な塩の量もpHに依存するが、カチオン性金属アフィニティー基材の場合では、pH依存性のパターンが、強アニオン交換体の場合とは異なる。強アニオン交換体上における結合は、pHが上昇すると強くなる。TREN上において最も強い結合はほぼ中性のpHで起こり、より高いpH値及びより低いpH値の両方でより弱くなる。これは、pH6又はpH9のいずれかよりもpH7での溶出に必要とされる塩が多いことを意味する。pH7では、NaClの勾配終点は500mM以上であることが適切であろう。pH9では、勾配終点は250mM未満が適切であり、pH6の場合も同様である。塩の濃度はまた、カチオン性金属アフィニティー基材に結合した金属イオンの選択によっても変化する。銅がカチオン性金属アフィニティー基材に結合している場合にカプシドを溶出するのに必要な塩の濃度は、一般的に、他のほとんどの金属の約3分の1よりも低い(lower than most other metals by a factor of about 3)。
【0022】
本発明の方法のさらなる実施形態において、フルAAVカプシド及び空AAVカプシドを分離するための勾配バッファーのpHは、pH6.0~pH10、pH7.0~pH9.75、又はpH8.0~pH9.5、又はpH8.5~pH9.5、又はpH9.0~pH9.5、又はpH8.75~pH9.25、又はpH8.9~pH9.1、又はpH8.95~pH9.05、又はpH8.75~pH9.25の範囲であり得る。溶出pHは、pH勾配溶出中の塩の存在によって下方シフトされる。一般に、塩の濃度が高いほど、カプシドが溶出するpHの低下は大きくなる。この一般則からの例外が可能であることが当業者には理解される。典型的には、塩が10mMの濃度で利用可能である場合よりも25mMの濃度で存在する場合、カプシドはより早く溶出する、などである。塩濃度はpH勾配溶出の間、一定に保たれてもよく、又はそれは独立して変動してもよい。
【0023】
本発明の方法のなおさらなる実施形態では、前記緩衝された混合物又は精製フルAAVカプシド画分中に存在する混入DNAは、前記DNAを前記第1及び/又は第2の基材に結合させることによって除去されうる。本発明の方法のバリエーションは、いくつかの実施形態において、前記第1の基材としてのカチオン性リガンド-金属固相上でカプシドを分画するために使用される条件と同じ条件下で、2つ以上の負に荷電したカルボン酸残基を含む金属アフィニティーリガンドが取り付けられた第2の基材に、AAVカプシドは結合することができないが、DNAは結合する、という驚くべきさらなる発見を利用して開発された。簡明性のため、用語「2つ以上の負に荷電したカルボン酸残基を含む金属アフィニティーリガンドが取り付けられた第2の基材(second substrate bearing a metal affinity ligand attached to the second substrate, which metal affinity ligand comprises two or more negatively charged carboxylic acid residues)」は「アニオン性リガンド金属固相」とも称される。
【0024】
カチオン性金属アフィニティーリガンドのステップを、アニオン性金属アフィニティーリガンド上で行われるステップと組み合わせることにより、DNA混入(DNA contamination)のより大幅な低減が達成される。第1の基材での処理の前に適用される場合、第2の基材処理は、第1の基材のカプシド結合能力を増加させ得る。
【0025】
緩衝された混合物又は精製されたフルAAVカプシド画分と、金属アフィニティーリガンドが結合した第2の基材との接触は、金属アフィニティーリガンドに結合した多価カチオンの存在下で行われ、前記金属アフィニティーリガンドは2つ以上の負に荷電したカルボン酸残基を含む。緩衝された混合物を、第1の基材(カチオン性リガンド金属固相)及び第2の基材(アニオン性リガンド金属固相)と同時に処理することも可能である。
【0026】
したがって、第2の態様では、本発明は、前記緩衝された混合物を、金属がロードされたアニオン性金属アフィニティーリガンドを有する第2の基材と接触させることによって前処理することができ、それによって前記フルAAVカプシドが前記第2の基材によって結合されないことに関する。
【0027】
いくつかの実施形態では、前記第1の基材が平衡化される条件が、前記第2の基材が平衡化される条件と異なってもよい。
【0028】
本発明の方法のさらなる実施形態では、前記緩衝された混合物中に存在する混入DNAが、混入DNAを第2の基材に結合させることによって除去されうる。
【0029】
本発明の方法のなおさらなる実施形態では、前記アニオン性金属アフィニティーリガンドが、アミノ-ジカルボン酸及びアミノトリカルボン酸からなる群より選択されうる。
【0030】
本発明の方法のなおさらなる実施形態では、前記アミノ-ジカルボン酸がイミノ二酢酸(IDA)であり得る。
【0031】
本発明の方法の別の実施形態では、前記アミノ-トリカルボン酸がニトリロ三酢酸(NTA)である。
【0032】
本発明の方法のさらに別の実施形態では、前記第2の基材が、pH6.0~pH10.0、又はpH7.0~pH9.5、又はpH8.0~pH9.25、又はpH8.5~pH9.0、又はpH8.75~pH9.25、又はpH8.9~pH9.1、又はpH8.95~pH9.05の範囲のバッファー、特にpH8.75~pH9.25の範囲のpHで平衡化される。
【0033】
本発明の方法のさらに別の実施形態では、前記第2の基材へのフルAAVカプシドの結合を防止するためのバッファーの塩濃度が、1M以下、又は0.1mM~1.0M、又は1mM~500mM、又は2mM~250mM、又は5mM~250、又は3mM~125mM、又は10mM~125mM、又は5mM~60mM、又は20~62、又は7mM~30mMの範囲である。
【0034】
本発明の方法のさらなる実施形態では、前記第1の基材を平衡化するためのバッファー及び/又は空AAVをフルAAVから分離するためのバッファーが、好ましくはカルシウム、マグネシウム、銅(第二銅)、鉄(第二鉄)、マンガン、亜鉛、バリウム、ニッケル、コバルト、及びそれらの組み合わせからなる群より選択される、少なくとも2価の正電荷(at least two positive charges)を有する金属イオンを含む。
【0035】
本発明の方法のさらなる実施形態では、前記第1の基材を平衡化するためのバッファーは、カプシドを溶出するために使用される金属カチオンの種とは異なる種の多価金属カチオンを使用する。
【0036】
カチオン性金属アフィニティーステップの全体的な有効性及びアニオン性金属アフィニティーステップとのその組み合わせは、完全な多段階精製手順の文脈において一方又は両方を置くことによって増加させることができる。
【0037】
1つの非限定的な例では、本発明の方法は、以下のように実施することができる。
・表面にカチオン性金属キレートリガンドN,N-ビス(2-アミノエチル)-1,2-エタンジアミンを有するクロマトグラフィー固相を、金属カチオンの溶液に曝露して、リガンドに金属カチオンを担持させ、その後、過剰な金属カチオンを洗い流し、リガンド:金属複合体を有する固相の表面を残す。
・カチオン性金属-リガンド固相は、同じ種の過剰な金属イオンを含有するバッファーで約9のpHに平衡化される。これは、2つの点で、IMACの分野における独特の特徴である。既知のアプローチは、その存在が標的上の結合部位について固定化された金属イオンと競合すると予想されることから、金属イオンを実行バッファーから特に省くことである。それはまた、IMACの多くの例において毒性である過剰な金属イオンを含有する溶出生成物をもたらす。操作pHが9.0であることも独特である。試料は、通常、中性に近いpHでIMACカラムに適用される。これは、処理のいずれの段階でも強アルカリ性pH条件を用いる唯一の公知のIMAC法である。
・空カプシド、フルカプシド、及び混入DNAのいくつかの組み合わせを含有する試料は、カチオン性金属-リガンド固相とほぼ同じ条件に平衡化される。
・試料をカチオン性金属-リガンド固相上にロードする。AAVカプシドは保持される。未結合の混入物質は保持されず、カチオン性金属-リガンド固相から濯がれる。
・空AAVカプシド及びフルAAVカプシドは、pHを約9に維持しつつ非キレート化塩勾配の濃度を上昇させることによって、互いから分画される。非キレート化塩の濃度の上昇が固定されたpHで固定化された金属からタンパク質を溶出させないので、これはIMACの分野における別の独特の特徴である。この特定の用途において、固定化された金属イオンは、フルカプシドからの空カプシドの分離を容易にする方法で、空カプシドに対する選択的な弱い誘引を媒介し、一方、固定化された金属はまた、DNAに対する高アフィニティー結合部位も提供すると思われる。
【0038】
この方法はまた、任意のIMACリガンド上の任意の固定化された金属種からの任意のタンパク質含有種の差次的分画を達成することが知られている唯一のIMAC方法として独特である。今日までのIMACの分野は、結合するか又は結合しないかのいずれかであるタンパク質によって特徴付けられている。結合するタンパク質は、固定化された金属との相互作用を停止させる単一のステップによって溶出される。密接に関連するタンパク質含有種の差次的溶出を達成するための先行技術は、当技術分野を定義する文献において見出されていない。
【0039】
別の非限定的な例では、本発明の方法は、以下のように実施することができる:
・表面にアニオン性金属キレート化リガンドイミノ二酢酸を有するクロマトグラフィー固相を、金属カチオンの溶液に曝露して、リガンドに金属カチオンを担持させせ、その後、過剰な金属カチオンを洗い流し、リガンド:金属複合体を有する固相の表面を残す。
・アニオン性金属-リガンド固相は、同じ種の過剰な金属イオンを含有するバッファーで約9のpHに平衡化される。
・空カプシド、フルカプシド、及び混入DNAのいくつかの組み合わせを含有する試料は、アニオン性金属-リガンド固相とほぼ同じ条件に平衡化される。
・試料をアニオン性金属-リガンド固相上にロードする。AAVカプシドは流れて通過する。DNAは結合される。
・カラムが濯がれて非結合AAVカプシドが完全に回収され、上記のカチオン性金属-リガンド固相方法によって分画される。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【
図1】
図1は、クロマトグラフィー固相上のTRENの異なる固定化構成を示す。(A)1個のアミノ基を介して固相に結合したリガンドを示す。正電荷は、プラス記号(+、(A)にのみ示される)として示される。各アミノ基の誘導体化状態は、第一級については1°、第二級については2°、第三級については3°という表記によって示される。(B)2つのアミノ基を介して固相に結合したリガンドを示す。(C)3個のアミノ基を介して固相に結合したリガンドを示す。(D)は、金属イオンに配位結合した単一アミノ結合型の(A)を示す。
【
図2】
図2は、260nm及び280nmでのUV吸光度のそれぞれの比による、空AAVカプシド及びフルAAVカプシドの同定を示す。4°という表記は、第四級アミン(QA)アニオン交換体を指す。勾配は塩化ナトリウムを用いて実施された。
【
図3】
図3は、DNAが挿入されたピコグリーンを検出するためのインライン蛍光モニタを用いた、空カプシドとフルカプシドの分離中のDNAの検出を示す。参照のために、
図2のUVクロマトグラムを薄灰色で示している。DNAの大部分は空カプシドの外面と結合していることに注意。
【
図4】
図4は、pH7.0における固定化TREN-マグネシウム上での空AAVカプシドとフルAAVカプシドの分離を示す。
【
図5】
図5は、pH9.0における固定化TREN-マグネシウム上での空カプシドとフルカプシドの分離を示す。
【
図6】
図6は、本発明の方法によって空カプシドとフルカプシドを分離した場合の混入DNA分布の比較を、強アニオン交換体上で塩勾配によって空カプシドとフルカプシドを分離した場合の混入DNA分布と比較して示す。
図4及び
図2をそれぞれ作成した実験のデータ。両方の場合においてフルカプシド画分は「F」で示される。他のすべての画分は空カプシド又は残屑を表す。
【
図7】
図7は、塩化ナトリウム勾配で溶出された強アニオン交換体上でのアニオン交換クロマトグラフィーによる、実施例2のTREN-Mg画分の分析を示す。
【
図8】
図8は、異なる溶出法を用いた異なるクロマトグラフィー媒体による空カプシドとフルカプシドの分離の比較結果を示す。4°アミンは、塩で溶出される第四級アミンアニオン交換体を指す。1°アミンは、上昇pH勾配で溶出される第一級アミンアニオン交換体を指す。TREN-Mgは、実施例2に記載の本発明の方法を指す。
【
図9】
図9は、金属なしのTREN及びマグネシウム担持TRENによる空カプシドフルカプシド分離の比較を示す。
【0041】
【
図10】
図10は、pH7.0でカルシウムを用いたTREN-金属クロマトグラフィーによる、空カプシド及びDNAからのフルカプシドの分離を示す。酢酸カルシウムを酢酸マグネシウムに切り替えたことを除いて、全ての条件は実施例2と同一である。
【
図11】
図11は、pH7.0の鉄第二鉄を用いたTREN-metalクロマトグラフィーによる、空カプシド及びDNAからのフルカプシドの分離を示す。塩化第二鉄を酢酸マグネシウムに切り替えたことを除いて、全ての条件は実施例2と同一である。
【
図12】
図12は、pH9.0でTREN-銅上においてカチオン交換で精製されたカプシドの分画を示す。
【
図13】
図13は、pH9.0におけるTREN-MgとTREN-Cuの溶出プロファイルの比較を示す。
【
図14】
図14は、カチオン交換精製AAVカプシドをpH9でマグネシウム担持(magnesium-charged)アニオン性金属アフィニティーリガンド(IDA)に適用したものを示す。
【
図15】
図15は、調製された試料のTREN-Mg上における初期捕捉を示す。全クロマトグラム。
【
図16】
図16は、調製された試料のTREN-Mg上における初期捕捉を示す。
図15のカプシド溶出及び洗浄ステップの領域。
【
図17】
図17は、
図16からのAAVフルカプシド画分のアニオン交換精製(anion exchange polishing)を示す。
【
図18】
図18は、2つの異なる捕捉カラムによって捕捉した後のアニオン交換精製プロファイルの比較を示す。両方の場合において、試料は、実施例6に記載のとおり調製された。左側のプロファイルは、公知のカチオン交換クロマトグラフィーの方法による捕捉後アニオン交換精製プロファイルである。右手プロファイルは、本発明の方法による捕捉後アニオン交換精製プロファイルである。
図17からの拡大画像。
【
図19】
図19は、pH勾配で溶出された第一級アミンアニオン交換体(左パネル)対塩勾配で溶出された第四級アミンアニオン交換体(右パネル)による、TREN-Mg捕捉後の空カプシドの低減(
図15、16)の比較を示す。
【0042】
【
図20】
図20は、マグネシウムをロードした固定化イミノ二酢酸による宿主細胞DNAの事前抽出がある場合及び無い場合の、pH9におけるTREN-MgによるAAV分離の比較を示す。
【
図21】
図21は、pH9においてマグネシウムがロードされたIDAモノリスを通るAAVカプシドの流れを示す。
【
図22】
図22は、マグネシウム担持イミノ二酢酸モノリスを用いた先行DNA抽出ステップ後の、マグネシウムがロードされたTRENカラムによる空カプシドとフルAAVカプシドの最適化された分離を示す。TRENカラムにカプシドをロードした後、空カプシドを10mM塩化マグネシウム洗浄液で退かせた。フルカプシドは塩化ナトリウム勾配で溶出された。
【
図23】
図23は、鉄担持TRENモノリス(iron-charged TREN monolith)上でのマグネシウム勾配溶出による空カプシドとフルAAVカプシドの分離を伴う、DNAの同時抽出を示す。
【
図24】
図24は、金属非含有トリスボレートバッファーで平衡化された鉄担持TRENモノリス上でのマグネシウム勾配溶出による空カプシドとフルAAVカプシドの分離を伴う、DNAの同時抽出を示す。
【
図25】
図25は、金属非含有トリスボレートバッファーで平衡化された鉄担持TRENモノリス上でのマグネシウム勾配溶出による空カプシドとフルAAVカプシドの分離を伴う、DNAの同時抽出を示す、
図24のズーム画像を示す。
【
図27】
図27は、金属非含有トリスホウ酸バッファーで平衡化された第四級アミンアニオン交換モノリス上でのマグネシウム勾配溶出による空カプシドとフルAAVカプシドの分離を示す。
【
図29】
図29は、
図24に示すTREN-Fe3モノリスと
図27に示す第四級アミンモノリスからの溶出勾配の重ね合わせ画像を比較したものである。
【発明を実施するための形態】
【0043】
本発明の基本バージョンを実施するためのカチオン性金属アフィニティーリガンドは、会合しているか又は会合するようになっていてもよい任意の金属カチオンとは独立して正電荷を少なくとも1価有する、アミノ系誘導体のファミリー由来のものである。1つ以上の正に荷電したアミノ残基は、1つ以上の第一級アミノ残基、第二級アミノ残基、第三級アミノ残基、第四級アミノ残基、イミド、又はイミンからなり得る。カチオン性アミノ残基は、任意の組み合わせ又はコンフォメーションでの前述の残基の任意の組み合わせを含み得る。カチオン性アミノ残基のうち少なくとも1つは、pH9.0で正電荷を維持しなければならない。リガンドはまた、正荷電アミノ誘導体が少なくとも1つ存在する限り、非荷電アミド窒素残基を含んでもよい。これらの要件を満たすカチオン性アミノ系リガンドの例としては、ジエチルトリアミン;トリエチルテトラミン;テトラエチルペンタミン;ポリトリエチルアミン、ポリアミドアミン;デフェロックス又はデスフェラールとしても知られるデフェロキサミン;及び2,2’,2’-ニトリロトリエチルアミン、又は2,2’,2’-トリアミノトリエチルアミン、又はトリス(2-アミノエチル)アミン、又はTAEA、又はTRENとしても知られるN,N-ビス(2-アミノエチル)-1,2-エタンジアミンが挙げられる。
【0044】
上記のカチオン性金属アフィニティーリガンドはいずれも、そのアミノ基の1つ以上を介して固相クロマトグラフィー表面に直接共有結合され得る。あるいは、それらはリガンドをより接近可能にするために、又は多価直鎖触手状、分枝状、もしくはデンドリマー状構成を作り出すために、直鎖状又は分枝状ポリマーを介して固相表面に間接的に連結されてもよい。デンドリマー状(dendrimeric)という用語は、枝が他の枝から分岐して枝の深いネットワークを生成し、各枝末端がリガンドを担持する樹形分岐パターンを指す。公知の例としては、世界的な供給業者から市販されているトリエチルアミン末端デンドリマー(ポリトリエチルアミン、pTEA)及びポリアミドアミン(PAMAM)デンドリマーが挙げられる。同じアプローチをアニオン性金属アフィニティーリガンドに適用することができる。
【0045】
一実施形態では、カチオン性金属アフィニティーリガンドはTRENである。非固定化リガンドは、中心の第三級アミンからエチル基を介して分岐する3種類の第一級アミン残基を含む。クロマトグラフィー固相上でのリガンドの固定化は以下の構成のいずれか一つ又は複数の組み合わせを含む:
1つの第一級アミノ残基を固相に連結させること、並びに、第三級アミノ残基に結合した1つのエチル基及び末端第一級アミノ残基に続く2つの別のエチル基が結合した第二級アミノ基に、前記残基を変換すること;
2つの第一級アミノ残基を固相に連結させること、並びに、それぞれに第三級アミノ残基に続く1つのエチル基及び末端第一級アミノ残基に続く1つの別のエチル基が結合した第二級アミノ基に、前記残基を変換すること;及び
それぞれにエチル基を介して中心の第三級アミノ残基に続く3つの第一級アミノ残基を固相に連結させること(
図1)。
【0046】
第一級アミノ基、第二級アミノ基、及び第三級アミノ基は全て、それらの個々のpKa値に従う様々な程度で弱いアニオン交換基であることが、当業者によって認識されるであろう。TRENは、約pH9以下の正電荷を維持するものとして市販の文献に示されている。このことはTRENの予想外の有用性を強調する。それは、弱いアニオン交換体DEAE(これもまた約pH9まで正電荷を維持する)がフルカプシドaからの空カプシドの分離のための実用的な有用性を欠くことが、当該分野において一般に認識されているためである。このことはまた、TRENの挙動が、一般に知られている弱アニオン交換体とは全般的に異なることを強調している。これは、多価金属カチオンに結合する構成で弱アニオン交換基の組合せを組み合わせるマルチアミノリガンドが、本発明の方法がその独特の結果を達成することを可能にする特有の特徴に寄与するものであることを示唆する。
【0047】
TRENを有するクロマトグラフィー固相は、商業的供給業者、すなわち<https://www.bio-works.com/product/iex-resin/workbeads-tren>から入手可能である。他の多くの世界的なクロマトグラフィー媒体供給者がアニオン交換体を生産し販売しており、このことは、本発明の方法を実施するのに適したクロマトグラフィー製品を合成する技術が広く利用可能であることを実証している。
【0048】
本発明の化合物バージョンを実施するためのアニオン性金属アフィニティーリガンドは、イミノ二酢酸(IDA)によって例示される、正電荷を欠くアミノ-ジカルボン酸のファミリーに由来するもの、又はニトリロ三酢酸(NTA)によって例示される、正電荷を欠くアミノ-トリカルボン酸のファミリーに由来するものである。
【0049】
IDA及びNTAなどのアニオン性金属アフィニティーリガンドを有するクロマトグラフィー固相は、世界中のすべての主要な商業的クロマトグラフィーの供給業者から広く入手可能である。
【0050】
本発明の方法は、バリウム、カルシウム、鉄、マグネシウム、マンガン、銅、及び/又は亜鉛を含む多種多様な多価金属イオンのいずれか、又は任意の組合せで実施することができる。このリストは、非毒性金属を支持する。有毒な重金属は肯定的な結果をもたらすかもしれないが、その使用は、最終製品からのそれらの除去を証明するための余分な作業を作り出すことから、推奨されない。既知のヒトの栄養価、治療的価値、又は一般的な健康価値を有する金属が一般に好まれ、それらの中で、最も好まれる種は、任意の特定のAAV血清型について空カプシドとフルカプシドの最良の分離及び/又はDNAの最良の低減を提供する種である。
【0051】
いくつかの実施形態では、クロマトグラフィーカラムを平衡化し、溶出を行うためのバッファーはまた、金属イオンを含有しうる。いくつかのそのような実施形態では、金属イオンの種(species)は、固相リガンドが担持しているものと同じである。いくつかの実施形態では、金属を固相リガンドに担持させるための先行ステップを実施する代わりに、金属を固相リガンドに担持させるためにそのようなバッファーを使用しうる。いくつかの実施形態では、平衡バッファー及び勾配バッファー中の金属イオンの種は、互いに異なっていてもよい。
【0052】
いくつかの実施形態では、カチオン性金属アフィニティーリガンドには、試料をカチオン性金属アフィニティー基材と接触させる前に、多価金属カチオンを担持させうる。他の実施形態では、カチオン性金属アフィニティーリガンドには、試料中の過剰な多価金属カチオンによって、多価金属カチオンを担持させうる。他の実施形態では、カチオン性金属アフィニティーリガンドに、試料をカチオン性金属アフィニティー基材と接触させた後で、多価金属カチオンを担持させうる。1つのそのような実施形態においては、溶出を開始する前に、カチオン性金属アフィニティーリガンドに、洗浄バッファーを用いて多価金属カチオンを担持させうる。密接に関連する実施形態では、カチオン性金属アフィニティー基材には、勾配開始バッファー中に多価金属カチオンを含ませることによって多価金属カチオンを担持させうる。別のそのような実施形態では、カチオン性金属アフィニティー基材には、勾配終点バッファー中にその含有物が含まれることによって、多価金属カチオンを担持させうる。
【0053】
様々な実施形態において、フルカプシドは、pH勾配を上昇させることによって、又は塩勾配を上昇させることによって、又は多価金属カチオンの勾配を上昇させることによって、溶出され得る。
【0054】
いくつかの実施形態では、勾配開始バッファーは、0.0mM~10.0mM、又は2.5mM~7.5mM、又は4.0mM~6.0mM、又はより低い、より高い、もしくは中間の範囲の濃度の、多価金属カチオンを含有し得る。最初のスクリーニングは、約5mMで行ってもよい。この濃度での結果に基づいて、最も望ましい結果を達成するために、金属含有量を上下に調節することができる。勾配開始バッファー中の金属イオンの濃度は、勾配終了バッファー中の金属イオンの濃度と同じであってもよい。
【0055】
いくつかの実施形態では、金属塩を溶出剤として使用することができ、金属塩がAAVカプシドの表面電荷特性を変化させてフルカプシドからの空カプシドの分離を改善することから好ましい場合がある。多価金属がカプシドの表面上の金属結合部位に結合する各事象は、カプシド上のジカルボキシ金属結合部位又はトリカルボキシ金属結合部位の等しい数の負電荷を中和する。負電荷はカチオン性金属アフィニティーリガンドとの相互作用に寄与するので、そのような金属結合はリガンドへのカプシドの誘引を低減する。この機構は、非金属塩による溶出とは基本的に異なる。それは、非金属塩は全体としてバルク移動相中の導電率を増加させることによってのみ作用するためである。非金属塩イオンは、電荷が存在する場所、それらのうちのいくつが互いに近接して存在するか、又はそれらが正であるか負であるかに関わらず、あらゆる種類のイオン相互作用を抑制する減衰場を作り出す。非金属塩による溶出は、場が特異的でない現象(non-specific field phenomenon)である。これは、カプシド表面上の金属結合部位に連関するアミノカルボキシル残基の局所電荷を中和する金属塩の局所的であり特異的である能力とは基本的に異なる。これは、金属塩が非金属塩よりも低い濃度でカプシドを溶出することができる理由を説明する。
【0056】
溶出が金属イオンの濃度を増加させることによって行われるいくつかの実施形態では、勾配は、0mM~200mM、又は0mM~100mM、又は0mM~50mM、又は0mM~25mM、又は1mM~25mM、又は2mM~20mM、又は5mM~15mM、又はより低い、より高い、又は中間の範囲の範囲をカバーし得る。最初のスクリーニングは、0mM~25mMの勾配範囲で行ってもよい。この濃度での結果に基づいて、勾配開始バッファー及び勾配終了バッファーの金属含有量を、最も望ましい結果を達成するために、上側又は下側に調整することができる。
【0057】
いくつかの実施形態では、金属アフィニティーリガンドは、受動的に金属イオンを担持させられてもよく、これは試料を導入する前に別個の金属担持ステップを有するのではなく、固相が平衡化バッファー中に金属イオンを含めることによって、緩衝平衡化中に金属が固相にロードされてもよいことを意味する。当業者は、用語「平衡化バッファー」がクロマトグラフィー法の意図される使用を可能にする特定の化学的環境を作り出す目的でクロマトグラフィー装置に通されるバッファーを表すと認識するであろう。
【0058】
いくつかの実施形態では、試料中に含有される金属イオンは、非担持カチオン性金属アフィニティーリガンド(uncharged cationic metal affinity ligands)を、本発明の方法を実施するためのそれらの金属複合体形態へと変換し得る。これは、試料への金属イオンの意図的な添加を通して起こり得るか、又は細胞培養回収物、溶解物、及び部分的に精製された試料中に不注意に残存する金属を通して不注意に起こり得る。
【0059】
金属種の選択が部分的に、本発明の方法を全体的な多段階精製プロセスの何処に配置することが望まれるかに依存しうることは、精製手順の開発に精通している人々には明らかであろう。実験データは、DNA及びエンドトキシンを含むその他のリン酸化した混入物質に対して第二鉄及びマンガンがより高いアフィニティーを有することを示す。これは、すでに高度に精製された試料を精製するためにこの方法が使用される場合、これらの金属が有利であり得ることを示唆する。高いDNA含量がカラムの全体的な結合能力の過剰な割合を消費する可能性があるため、鉄又はマンガンを使用して粗供給流からAAVを捕捉する場合には、DNAに対する高いアフィニティーは有利ではない可能性がある。そのような場合、DNAに対するアフィニティーがより低い金属、例えば、限定されないが、カルシウム又はマグネシウムが、より有利であることが判明し得る。
【0060】
いくつかの実施形態では、DNA除去の効率は、カチオン性金属アフィニティー基材を用いての試料処理をアニオン性金属アフィニティー基材による処理と組み合わせることによって高められ得る。
【0061】
いくつかの実施形態では、アニオン性金属アフィニティーリガンド上では鉄及びマンガンなどの強いDNA結合金属を使用し、カチオン性金属アフィニティーリガンド上ではカルシウム及び/又はマグネシウムなどのAAV安定化金属を使用することが、有利であり得る。
【0062】
カチオン性金属アフィニティーリガンドに関する本発明の方法は、pH6.0~10.0、又はpH7.0~pH9.75、又はpH8.0~pH9.5、又はpH8.5~pH9.5、又はpH9.0~pH9.5、又はpH9.0~pH9.5、又はpH8.75~pH9.25、又はpH8.9~pH9.1、又はpH8.95~pH9.05の範囲のpH値、又はより高い、より低い、又は中間の範囲のpH、好ましくはpH8.75~pH9.25の範囲のpHで実施されてよい。初期評価の目的のために、約9.0のpHでのスクリーニングが推奨され、結果を最適化する目的のために、より低い値及びより高い値を評価することがさらに推奨される。
【0063】
アニオン性金属アフィニティーリガンドに関する本発明の方法はpH6.0~pH10、又はpH7.0~pH9.5、又はpH8~pH9.25、又はpH8.5~pH9.5、又はpH8.75~pH9.25、又はより狭い、より広い、又は中間の範囲で実施することができる。
【0064】
いくつかの実施形態では、本方法はその全体が、本質的に一定のpHで実施される。このような一例では、カラム及び試料が約pH9に平衡化される。次いで、カラムにロードし、洗浄し、pH9.0で塩の上昇勾配を用いて溶出を行う。
【0065】
いくつかの実施形態では、カチオン性金属アフィニティーリガンドに適用される方法を実施するためのカラム及び試料は、最初にpH6.0~7.0の範囲などのより低いpH値に平衡化され得、カラムにロードされた試料及びカラムは未結合の混入物質を除去するために洗浄され、次いで、ロードされたカラムは溶出ステップのための準備において、より高いpH値に再平衡化される。AAVはpH7.0、pH8.0、又はpH9.0よりもpH6.0でカチオン性リガンド-金属複合体により強く結合するので、これは容量を増加させる予想外の利点をもたらす。pHの低下に伴う容量の増加は、プロトン化の根底にある増加を反映した、水素結合の増加に起因すると仮定される。試料が結合すると、カラムは、空カプシドとフルカプシドの分離を最大にするために所望される任意の条件に再平衡化され得る。驚くべきことに、固相TREN-金属表面が、中性又はアルカリ性pHよりも酸性pHでより強くDNAに結合することが見出されたので、低pH試料結合はDNAを除去するためのさらなる有用性を有する。
【0066】
いくつかの実施形態では、カチオン性金属アフィニティーカラムはpH9などのアルカリ性pHで平衡化され得るが、ロードされる試料はpH7などのより低いpH値であり得る。試料のより低いpHは、試料ロード中に、より低いpHへのカラムの一時的な再平衡化を引き起こす。実験データはAAVがpH7などのより低いpH値でTRENにより強く結合することを示し、これは一般に結合能力を増加させると理解されている。試料ロード段階が終了すると、平衡化バッファーの流れの回復が試料ロードの一時的効果を克服し、カラムをpH9に再平衡化する。試料をロードする前にpH7でのバッファー平衡化を必要としないので、これがより簡素化されたワークフローをもたらすことは、当業者によって認識されるであろう。
【0067】
一実施形態では、多価金属カチオンをロードしたカチオン性金属アフィニティー固相がトリスホウ酸バッファーでpH9.2に平衡化され、ここでトリスホウ酸バッファーを使用する特定の目的は低イオン強度で強い緩衝能を提供することである。このような一実施形態では、バッファー自体は多価金属カチオンを含有しない。一実施形態では、略生理学的条件で空AAVカプシド及びフルAAVカプシドを含有する試料が適用され、ここで、略生理学的という用語は、約pH6.5~pH7.5の範囲内のpH、及び約50mS/cm~約200mS/cmの範囲の導電率を意味すると理解される。試料は追加的なバッファー剤を含有してもよいが、含有は必須ではない。カラムへの試料の適用はカラムのpH及び導電率条件に対してカラムを非平衡化し、その後、平衡化バッファーの流れの再開は、溶出勾配を開始するための準備において、カラムをその元の平衡化条件に復元する。このような一実施形態では、カラムが多価金属カチオンへの線形勾配で溶出される。このような一実施形態では、金属カチオンはマグネシウムである。このような一実施形態では、金属カチオン勾配の後に、塩化ナトリウムなどの非金属塩の勾配又はステップを続けることができる。別の実施形態では、金属カチオン勾配に続いて、NaOHなどの洗浄剤へのステップを行うことができる。いくつかのそのような実施形態では、その洗浄能力を高める意図を持って、NaOHが他の薬剤、例えば塩化ナトリウムを伴ってもよい。いくつかのそのような実施形態では、洗浄バッファーが1MのNaOH及び1~3MのNaClを含有し得る。
【0068】
より低いpH値でのより強い結合が、既知のアニオン交換体上におけるタンパク質挙動に基づく予想に直接反することは、当業者によって認識されるであろう。アニオン交換体上のタンパク質保持は、pHの低下に伴って弱くなることが理解されている。それらを溶出するために低pHがしばしば使用されることから、より低いpH値でのより強い結合は、既知の金属アフィニティークロマトグラフィー媒体の挙動とも異なっている。これらの知見は、カチオン性リガンド-金属複合体を有するクロマトグラフィー固相はIMAC及びアニオン交換の両方に遡る影響を示すが、カチオン性リガンド-金属複合体はいずれかとは異なる正味の選択性を生じる、という点を強調する。
【0069】
AAVが9未満のpH値で捕捉されるいくつかの実施形態では、カチオン性金属アフィニティーカラムが塩勾配ではなく、pH勾配の増加で溶出され得る。1つのそのような例では、金属をロードしたカラムが、約15mM塩化ナトリウムを含有するバッファー中で約6のpHに平衡化される。試料条件はほぼ同じでありうる。カラムにAAVカプシドをロードし、未結合の試料成分を除去するために洗浄した後、カラムを、約100mMの塩化ナトリウムを含有するpH約9のバッファーに向かってpH勾配を上昇させて溶出させ、換言すれば、塩濃度を一定に保ちながらpH勾配を上昇させて溶出させる。複合pH溶出は、塩濃度がpHと並行して増加するときにも起こる。pHを増加させながら塩濃度を増加させ、pHを増加させながら塩濃度を減少させること、又はpH及び塩濃度を独立して変化させる一連のステップで溶出すること、を含むが、これらに限定されない、このアプローチの多くの変形が可能であることは、認識されるであろう。また、この特徴が、pHの上昇がAAVをより強く結合させる強アニオン交換体上でのアニオン交換クロマトグラフィーと、本発明の方法とを、さらに区別することも、認識されるであろう
【0070】
上記の範囲のそれぞれにおいて良好な緩衝能力を提供するバッファー化合物及び/又はバッファー化合物の組み合わせは、当技術分野において公知である。pH9の領域における緩衝能に寄与することが知られている能力を有する化合物としては、グリシン(pKa=9.6)、アルギニン(pKa=9.1)、ビストリスプロパン(pKa=9.0)、及びホウ酸(pKa=9.15~9.25)が挙げられる。そのようなバッファーは20mM~50mMの濃度で、当技術分野を通して一般に使用されるが、特別な要件の必要性を満たすために、濃度を減少又は増加させることができる。一般的に、カチオン性バッファーはカチオン性表面を使用するクロマトグラフィー、例えば、本発明の方法のために特定されたクロマトグラフィー固相と組み合わせて使用するのに好ましい。これは、上記リストからの最初の3種の使用に有利である。ホウ酸はアニオン性であり、負に帯電している。カチオン性クロマトグラフィー表面と共にアニオン性バッファーを使用することにおいてありうる制限要因は、バッファーと表面との間の相互作用が移動相からバッファーの大部分を抽出し、移動相に残るバッファーが不十分となることである。しかしながら、クロマトグラフィー表面と反対の電荷を有するバッファーを使用することは、所与の分離の利益に役立つ独特の選択性を時にはサポートし得ることも真実である。アニオン性及びカチオン性バッファー種の組み合わせ、並びに双性イオン性バッファーの使用及び双性イオン性バッファーとカチオン性及び/又はアニオン性バッファーとの組み合わせも可能である。pKaが9に近い双性イオンバッファーとしては、とりわけ、3-([1,1-ジメチル-2-ヒドロキシエチル]アミノ)-2ヒドロキシプロパンスルホン酸(AMPSO、pKa=9.36)、及びN-シクロヘキシル-3-アミノプロパンスルホン酸(CAPSO、pKa=9.43)が挙げられる。
【0071】
いくつかの実施形態では、バッファーが特に、低い導電率で良好な緩衝能を提供するそれらの能力に基づいて選択され得る。このような一実施形態では、ホウ酸が約9.0~9.2のpHでバッファーとして使用される。1つのそのような実施形態では、トリスがバッファーのpHを選択された標的pHまで滴定するための対イオンとして使用されるが、これはトリスがまた、低いモル導電率を具現化し、その緩衝容量がpH9.0~9.2の範囲のpH値でゼロであるからである。
【0072】
ボレートバッファーが使用されるいくつかの実施形態では、ボレート化学の技術分野の知識を有する者は、ボレートアニオンがいくつかの炭水化物上に見られるようなシスジオールと共有結合を形成する能力のために合成レクチンと呼ばれることがあることを認識するであろう。そのような結合の形成は、以前に非担持ヒドロキシル基(uncharged hydroxyl groups)が2つ存在した位置に負のボレートを担持する(negative borate charge)複合体を与える。前記結合は共有結合であるので、高塩濃度への曝露に耐える。シス-ジオール炭水化物を有するAAVカプシドの静電荷はより電気的に陰性になり、それらの正味の電気陰性度は、任意の所与のカプシドの表面上のシス-ジオールボレート結合事象の数に従って増強されることが理解されるであろう。空カプシド及びフルカプシドがシス-ジオール糖で差次的に与えられる程度まで、ホウ酸アニオンとの共有結合の形成は、それらの相対的電気陰性度を変化させ、カチオン性クロマトグラフィー支持体上でのそれらの相対的保持を変化させ得ることがさらに理解されるであろう。空カプシドにシス-ジオールが比較的豊富である限り、その保存が増加することが予測される。
【0073】
ボレートバッファーが使用される他の実施形態では、ボレートアニオンがいくつかの状況においてキレート剤及びキレート部位を有する化合物による金属結合の選択性を変更することが知られていることを、ボレート化学の技術分野の知識を有する者は認識するであろう。ひいては、そのような修飾は、金属をキレート化する能力を有する、AAVカプシドタンパク質を含むタンパク質の表面上の部位を、潜在的に含むと理解されるべきである。空カプシド及びフルカプシドがそれらの金属キレート部位に関して異なる限り、ボレートによるそれらのそれぞれの金属結合部位の金属結合選択性のさらなる修飾は、クロマトグラフィーによる空カプシドとフルカプシドの分離に影響を及ぼし得る。
【0074】
一実施形態では、上昇する塩の勾配でクロマトグラフィー固相を溶出することによって、空カプシドとフルカプシドの分離をカチオン性金属アフィニティー固相上で実施され、ここで塩は塩化ナトリウム、塩化カリウム、又は酢酸ナトリウム、又は酢酸カリウムである。一般的に、塩化ナトリウムは始めるのに適切な種であり、他のものを評価する必要はない。しかしながら、そうすることは、関心のある結果を生じ得る。異なる血清型由来のAAVカプシドはアニオン交換体に対して異なるアフィニティーを有することが知られており、したがって、開始点として、1Mの塩化ナトリウムで終わるものなどの広範な勾配が望ましいことが理解されるであろう。終点は、空カプシドとフルカプシドとの間の分離を最大にするために、後から調節することができる。AAV血清型2/8のある一例では、最初の50カラム体積(CV)直線勾配を1M NaClの終点まで実行した。その後の実験において、勾配長は維持されたが、終点は500mM NaClに減じられ、別のその後の実験では、250mMにまで減じられた。この性質の実験は、通常のプロセス開発の日常的な部分である。一般的な問題として、フルカプシドから空カプシドを分離し、フルカプシドの良好な回収を達成する最低塩濃度を有する勾配終点は、このような条件が固相に結合したDNAの割合を最大としたまま残すはずであるので、好ましい。
【0075】
いくつかの実施形態では、無機塩の代わりに、アルギニン、ヒスチジン、又はリシンを溶出剤として使用することができる。
【0076】
金属カチオンを結合する強力な能力を有する塩は、固相リガンドに結合した金属を除去する傾向があるため、推奨されない。それらはまた、DNAを時期尚早に溶出する傾向があり、潜在的に、本方法が可能であるべきDNA除去のレベルを達成することを妨げる。特に懸念される塩には、クエン酸塩、リン酸塩、ピロリン酸塩、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、別名エグタジル酸(EGTA)であるエチレングリコール-ビス(β-アミノエチルエーテル)-N,N,N’、N’-四酢酸、アスパラギン酸、グルタミン酸、グルタミン、及び他の公知のキレート化塩が含まれる。
【0077】
本発明の方法を実施するために使用されるバッファーは、AAVカプシドを安定化するか、又はクロマトグラフィー表面とAAVカプシドとの非特異的相互作用を抑制するための化合物を含有し得る。このような安定化化合物には、非イオン性又は双性イオン性界面活性剤、例えば、とりわけ、オクタグルコシド、ポロキサマー188、プルロニックF68、CHAPS、又はCHAPSOが含まれ得る。そのような安定化化合物はその代わりに、又はそれに加えて、糖、例えば、とりわけ、スクロース、ソルビトール、キシロース、マンニトール、又はトレハロースを含み得る。そのような安定化化合物はその代わりに、又はそれに加えて、とりわけ、ベタイン、タウロベタイン、アルギニン、ヒスチジン、又はリシンなどのアミノ酸を含み得る。4.0~7.5のpH範囲では、それらはグリシン及びアラニンも含み得る。これらの剤は全て、安定な生成物の溶解性及び/又は回収を改善する傾向があるため、バイオ医薬分野で知られている。場合によっては、それらはまた、望ましくない種からの所望の生成物の分画を改善する。それらは、典型的には本発明の方法の実施を妨げる可能性が低い低濃度で使用される。
【0078】
一実施形態では、糖又は尿素などの非イオン性又は双性イオン性の強い水素供与体-受容体の勾配を上昇させることによって、カチオン性リガンド-金属固相からAAVカプシドを溶出することが可能であり得る。この実施形態は最初に、カラムにAAVカプシドをロードし、次いで、pH及び塩濃度を、フルカプシドが溶出しない最高レベルまで上昇させることを必要とする。その時点から、尿素、又は糖、又は別の非イオン性水素供与体-受容体へのステップ又は勾配の適用によって、フルカプシドを溶出させることができる。1つのそのような実施形態において、フルカプシドは、同pH及び塩濃度で300mMまでのソルビトールの勾配で溶出される。別のそのような実施形態において、フルカプシドは、同じpH及び塩濃度で10Mまでの尿素の勾配で溶出される。
【0079】
いくつかの実施形態では、本発明の方法は、2つの異なる金属種の影響を同時に利用することができる。このような実施形態では、カチオン性金属アフィニティー基材に第二鉄を担持させ、一方、マグネシウムの濃度を増加させることによって生成される勾配を用いてAAVカプシドの溶出を行う。密接に関連する実施形態において、カチオン性金属アフィニティー基材に担持させるために使用される金属は、マンガンであってもよい。他の密接に関連する実施形態において、AAVカプシドの溶出を実施するために使用される金属は、カルシウム又はバリウム又は銅であり得る。
【0080】
本発明の有効性を実証するための分析は、公知の技術を用いて行うことができる。1つの一般的な方法は、クロマトグラフィー画分にわたって260nm及び280nmでのUV吸光度の比を測定することである。AAVカプシドは、UV光に対して部分的に透明である。これは、カプシド内部のDNA並びに外部タンパク質カプシド壁に関連するDNAを検出するためのクロマトグラムの標準的なUVモニタリングを可能にする。空カプシドは一般に、1未満、典型的には0.6~0.8の範囲の260/280比を示す。高度に精製されたフルカプシドは、典型的には1.3より大きい260/280比を示す(
図2)。比率が高いほど、対応するクロマトグラフィー画分中のフルカプシドの割合が高くなる。例えば、1.35の比は、1.33の比を有する画分よりも大きい割合のフルカプシドを含有すると理解され、次いで、1.31などの比を有する画分よりもフルカプシドがより富化されている。フルカプシド及び空カプシドの二次確認は、分析超遠心分離(AUC)及び低温透過型電子顕微鏡(cryoTEM)を含み得る。AAVカプシドの外側のDNAはまた、約1.5~2.2の範囲の特有の260/280比を有し、純粋なDNAの比は2.0をわずかに超えることから、波長比は、混入DNAがクロマトグラムにおいて溶出する箇所を示すためにも使用され得る。
【0081】
カプシド外面に付着したDNAの量は、クロマトグラフィーの前にピコグリーンと呼ばれる色素で試料をプレインキュベートすることによって推定することができる。ピコグリーンは、DNAの塩基対の間にそれ自体を挿入することができる染料のクラスの1つである。この挿入プロセスは、インターカレーションとして知られている。ピコグリーン自体は光学的に重要な性質を持たないが、DNAの塩基対の間にあるピコグリーンは、DNAの検出を増幅するのに用いることができる緑色の蛍光を発生する(
図3)。ピコグリーンは、カプシド外のDNAのみを検出することが実験的に示されている。したがって、UV及びピコグリーンの両方によるDNA含有量の推定は、いずれかの方法単独よりも深い知見を与える情報を提供することができる。
【0082】
UV吸光度に対してのピコグリーン蛍光の比は、カプシド自体に対してのカプシド外のDNAの相対量を示すために、例えば本発明の方法の実施から得られた一連の画分にわたって、プロットすることもできる。
【0083】
いくつかの実施形態では、本発明の方法は、DNA混入の量を低減するために試料を最初に処理した後に、実施することができる。1つのそのような実施形態において、試料は、DNAase酵素で前もって処理される。別のそのような実施形態では、DNAを粒子に結合させてから該DNAが結合した該粒子を除去することによってDNAを除去する目的で、試料が正に荷電した固相粒子で前もって処理される。関連する実施形態では、DNAとポリマーとの大きな不溶性複合体を形成して沈殿させ、遠心分離によって、又は濾過によって、又はその2つの組み合わせによって除去できるようにするする目的で、試料が正に荷電したポリマーで処理される。
【0084】
1つの化合物の実施形態では、AAVカプシド及びDNAを含有する試料をまず電気陽性固相で処理して、タンジェンシャルフロー濾過(TFF)による処理を容易にし、次いで試料を濃縮し、TFFによってヌクレアーゼ処理に適したバッファーに透析濾過する。次いで、試料をヌクレアーゼ酵素で処理してDNAを分解する。次いで、試料をさらに濃縮し、膜を通してヌクレオチド及びヒストンタンパク質を除去しながら透析濾過する。この最後の実施形態では、濾過媒体は、混入物質の多様性が最大であっても排除することができるように、AAVを保持する最大の細孔を有するように選択されることが好ましい。
【0085】
別の一連の実施形態では、カチオン性金属アフィニティーステップの後に、空カプシド及びDNAの含有量を減少させるための追加的方法を続けることができる。このような一実施形態では、追加的方法は、強アニオン交換体上におけるアニオン交換クロマトグラフィーなどのクロマトグラフィー法であってもよい。別のそのような実施形態では、追加的方法は、空カプシド及びフルカプシドが上昇するpH勾配で分離される、一次アミン交換体上におけるアニオン交換クロマトグラフィーであってもよい。別のそのような実施形態では、追加的方法は、密度勾配遠心分離であってもよい。
【0086】
別の一連の実施形態では、本発明の方法を実施する前に、試料がまずDNAの量を減少させるために処理され、さらに、空カプシド及びDNAの含有量をさらに減少させるための方法が続く。
【0087】
別の一連の実施形態では、本発明の方法は、混入物質の大部分を除去するためにすでに処理されている試料の空カプシド及びDNA含有量を減少させるための精製方法(polishing method)として使用される。1つのそのような実施形態において、第1の精製ステップは、カチオン交換クロマトグラフィーの公知の方法を用いて実施される。カチオン交換ステップの溶出画分の中から部分的に精製されたAAVを回収した後、これらのAAV画分を本発明の方法によって処理する。別のそのような実施形態では、第1の精製ステップは、バイオアフィニティークロマトグラフィーの公知の方法を用いて実施される。バイオアフィニティーステップの溶出画分の中から部分的に精製されたAAVを回収した後、これらのAAV画分を本発明の方法によって処理する。これらの実施形態のいずれにおいても、試料は第1のクロマトグラフィーステップの前にDNA含有量を減少させるために、上記のように予め処理されていてよい。
【0088】
一実施形態では、本発明の方法は、TREN-金属固相が第四級アミンアニオン交換固相と直列に配管される構成で実施することができる。このような一実施形態では、第四級アミン固相が順番の最初に配置されうる。両固相は、同じ平衡化バッファーによって、例えばpH9で共に平衡化される。試料をロードし、カラムを洗浄し、次いで塩勾配で溶出する。AAVは、カチオン性リガンド-金属固相からよりも低濃度の塩で強アニオン交換体から溶出するので、AAVカプシドは強アニオン交換体から溶出し、カチオン性リガンド-金属固相に再び結合する。しかしながら、カチオン性リガンド-金属固相からのカプシドの溶出全体を通して、DNAの大きなサブセットは、強アニオン交換体に結合したままである。このDNAの亜集団がカチオン性リガンド-金属固相上に存在しないようにすることによって、カチオン性リガンド-金属固相の全容量がカプシド分離に利用可能になる。両カラムを高塩及びNaOHでタンデムで洗浄して、強く結合した混入物質を放出することができる。別の実施形態では、固相の順序は逆である。
【0089】
関連する実施形態では、本発明の方法は、第一級アミンアニオン交換体を用いるステップと組み合わされる。1つのそのような実施形態では、一次アミノ固相が順番の最初に実行されてもよい。第一級アミンアニオン交換体は、pH7~pH8の範囲のpH値でロードされ、続いてpH勾配を用いて約10のpHまで溶出される。これは、空カプシド及びフルカプシドの部分的分離、並びに混入DNAの部分的減少を提供する。次いで、溶出されたフルカプシドをpH9以下に滴定し、本発明の方法によって処理して、空カプシド及び混入DNAのさらなる除去を達成することができる。いくつかの実施形態では、プロセス順序は逆であってもよい。
【0090】
別の密接に関連する実施形態では、本発明の方法は、カチオン性金属-リガンド固相がアニオン性固相と直列に配管される構成で実施され、ここでアニオン性金属-リガンド固相が最初の配列である。このような一実施形態において、アニオン性金属-リガンド固相は、イミノ二酢酸(IDA)である。別のそのような実施形態において、アニオン性金属-リガンド固相はニトリロ三酢酸である。このような一実施形態では、アニオン性固相にカチオン性金属-リガンド固相と同じ金属種が担持させられる。このような一実施形態では、アニオン性固相にカチオン性金属-リガンド固相とは異なる金属種が担持させられる。1つのそのような実施形態において、アニオン性金属-リガンド固相には鉄又はマンガンが担持させられ、一方、カチオン性金属-リガンド固相にはカルシウム、マグネシウム、又は別の非鉄、非マンガン種が担持させられる。これらの実施形態の全てにおいて、アニオン性金属-リガンド固相はそれがカチオン性金属-リガンド固相に接触する前に、リン酸化した混入物質を試料から除去する目的に役立つ。全てのそのような実施形態において、そのような高度にリン酸化した混入物は特に、DNA、RNA、エンドトキシン、並びに細胞小器官及び小胞由来の膜を含む細胞膜残屑を含む。全てのそのような実施形態において、これらの混入物を先行して除去することは、AAVカプシドのためのカチオン性金属-リガンド固相の能力を保存し、それらの混入物が所望の混入物と共にカラムに結合される場合よりもフルカプシドの純度を高くすることを可能にする。一実施形態では、タンデム法を用いて、精製されたフルAAVカプシドを単一ステップで生成する。
【0091】
別のそのような実施形態では、アニオン性金属-リガンド固相は、カチオン性金属-リガンド固相と順番に配管されない。このような一実施形態では、試料がカチオン性金属-リガンド固相法の実施に先立って、アニオン性金属リガンド固相で処理される。1つのそのような方法では、2つのステップが順次実行される。1つのそのような実施形態において、空AAVカプシド、フルAAVカプシド、及びDNAを含有する細胞培養回収物又は溶解物は、カチオン性金属-リガンド固相ステップの方法を実施する前に、アニオン性金属-リガンド固相で処理される。密接に関連する実施形態では、アニオン性金属-リガンドステップの後、及びカチオン性金属-リガンドステップの前に、1つ又は複数の追加のステップが実施される。1つのそのような実施形態では、フルカプシド、空カプシド、及びDNAを含有する細胞培養回収物又は溶解物を、アニオン性金属-リガンド固相で処理し、DNAが欠乏した溶液を、アフィニティークロマトグラフィーの技術によって分画し、その後、カチオン性金属-リガンド固相の方法を実施することによって、空カプシド及びフルカプシドを分離し続ける。別のそのような実施形態では、アニオン性金属-リガンド固相処理細胞培養採取物又は溶解物がカチオン性金属-リガンド固相の方法を実施することによって空カプシド及びフルカプシドを分離し続ける前に、カチオン交換クロマトグラフィーの方法によって分画される。
【0092】
一実施形態では、金属がロードされたアニオン性金属アフィニティー基材を用いたDNA低減ステップは、DNAse酵素を用いた同時DNA低減と組み合わされる。このような一実施形態では、DNAase酵素は耐塩性DNAseであり、金属がロードされたアニオン性金属アフィニティー基材は、複数の金属がロードされたアニオン性金属アフィニティーリガンドを有する可溶性ポリマー骨格の形態である。別のそのような実施形態では、金属がロードされたアニオン性金属アフィニティー基材は、複数の金属がロードされたアニオン性金属アフィニティーリガンドを有する固体不溶性粒子の形態である。両方のこのような場合において、複数の金属がロードされたアニオン性金属アフィニティーリガンドを有する基材は、DNAの酵素的溶解の間に存在する。いくつかのそのような場合において、アニオン性金属アフィニティーリガンドにロードされる金属種は、酵素によって必要とされる金属種補因子と同じである。1つのそのような場合において、金属イオンはマグネシウムであり、他のそのような場合において、アニオン性金属アフィニティーリガンドにロードされる金属種は、酵素によって必要とされる金属種補因子とは異なる。そのような場合の1つでは、可溶性酵素補因子はマグネシウムであるが、アニオン性金属アフィニティーリガンドには鉄が予めロードされている。別のそのような場合において、可溶性酵素補因子はマグネシウムであるが、アニオン性金属アフィニティーリガンドにはマンガンが予めロードされている。
【0093】
一実施形態では、カチオン性金属アフィニティーリガンドを有する固相は、1つ以上の多孔質粒子、又は1つ以上の多孔質膜、又は1つ以上のナノファイバー、又はモノリス、又はヒドロゲル、デプスフィルター、又は別の形態の固相の形態であってもよい。
【0094】
密接に関連する実施形態では、アニオン性金属アフィニティーリガンドを有する固相は、1つ以上の多孔質粒子、又は1つ以上の多孔質膜、又は1つ以上のナノファイバー、又はモノリス、又はヒドロゲル、デプスフィルター、又は別の形態の固相の形態であってもよい。
【0095】
一実施形態では、本発明の方法の任意の態様を実施するための固相は、クロマトグラフィー法の実施を容易にするためのフロースルーデバイスとして配置され得る。クロマトグラフィーを実施するためのフロースルー装置はそれらが含有する形態又は材料にかかわらず、一般にカラムと呼ばれる。
【0096】
一実施形態では、本発明の材料及び方法、任意の先の処理ステップ、及び任意の後続の処理ステップはマイクロプロセッサに配管され、マイクロプロセッサとインターフェースされて、多段階プロセスの自動化をエンドツーエンドで可能にし、所望であれば、連続ベースでプロセスを実施することができる。
【0097】
異なる血清型のAAVカプシドは多くの基本的な物理的及び化学的類似性を共有するが、それらはまた、それらの表面化学及び精製特性に関して有意な変動性を示すことが、当業者によって認識されるであろう。アフィニティークロマトグラフィー媒体は、1つ又はいくつかの血清型を認識する傾向がある。いくつかの広域スペクトルアフィニティーリガンドは多くのAAV血清型を認識するが、これはそれらが同じアフィニティーで結合し、同じ能力を与え、又は同じ条件下で溶出することを意味しない。イオン交換クロマトグラフィーの挙動に関しても多様性が観察される。異なるAAV血清型は異なる結合力でカチオン交換体に結合し、異なる条件下で溶出する。異なるAAV血清型はまた、異なる結合活性でアニオン交換体に結合し、異なる条件下で、及び空カプシド及びフルカプシドを異なる程度に分離して溶出する。任意の所定の血清型について任意の所定の方法を最適化するために過度の実験が必要とされないように、全てのそのような方法について最良の範囲が知られている。同様に、本発明の方法では、それらの結合、能力、溶出、及び空カプシド-フルカプシド分離特性に関して、血清型間で変動が観察されることが予想される。本明細書において提供される、適切な出発条件の予備知識、主要なプロセス変数の同定、それらが評価され得る範囲、及びそれらが産生する効果の種類を考慮すると、任意の所与のAAV血清型に最も適合する方法を最適化するために過度の実験は必要とされない。
【0098】
一実施形態では、本発明の方法によって処理されるAAV血清型は、AAV1、又はAAV2、又はAAV3、又はAAV4、又はAAV5、又はAAV6、又はAAV7、又はAAV8、又はAAV9、又はAAV10、又はAAV11、又は別の血清型であり得る。別の実施形態では、本発明の方法によって処理されるAAV血清型は、AAV2/8又はAAV2/9のような組換えハイブリッド血清型、又は別のハイブリッド血清型であってもよい。別の実施形態では、本発明の方法によって処理されるAAV血清型は、合成組換え血清型であってもよい。
【0099】
各血清型が任意の種類の吸着クロマトグラフィー媒体上で異なる保持特性を示すことは、当業者によって認識されるであろう。すべてのクロマトグラフィー法に伴うこの多様性の帰結は、任意の特定の血清型の最良の全体的精製を達成するためには条件は最適化される必要がある、ということである。
【0100】
一実施形態では、空カプシド、フルカプシド、及びDNAを含有する試料は、細胞培養回収物である。密接に関連する実施形態では、空カプシド、フルカプシド、及びDNAを含有する試料は、細胞溶解物である。別の密接に関連する実施形態では、空カプシド、フルカプシド、及びDNAを含有する試料は、部分的に処理された又は部分的に精製された調製物である。このような一実施形態では、空カプシド、フルカプシド、及びDNAを含有する試料は、DNAを溶解するために酵素で処理された細胞培養回収物又は溶解物である。別のそのような実施形態では、空カプシド、フルカプシド、及びDNAを含有する試料は、DNAを抽出するためにカチオン性ポリマー又はカチオン性固相で処理された細胞培養回収物である。別の実施形態では、空カプシド、フルカプシド、及びDNAを含有する試料は、カチオン性固相で処理され、次いで濃縮され、タンジェンシャルフロー濾過によって透析濾過され、次いで酵素で処理されてDNAを溶解させた細胞培養回収物又は溶解物である。その実施形態の拡張では、次いで、試料を濃縮し、クロマトグラフィー精製のための調製においてタンジェンシャルフロー濾過によって透析濾過する。別の実施形態では、細胞回収物又は溶解物を処理して、混入物質を沈殿させ、上清中にAAVを残す。別の実施形態では、細胞回収物又は溶解物を処理してAAVを沈殿させ、上清中に混入物質を残す。沈殿物を再懸濁し、上清から分離し、再懸濁し、ここで、最初に沈殿していない混入物質を含まない。別の実施形態において、細胞回収物又は溶解物は、クロマトグラフィー法によって部分的に精製される。そのような一実施形態では、回収物又は溶解物がアフィニティークロマトグラフィーによって部分的に精製される。別のそのような実施形態では、回収物又は溶解物が疎水性相互作用クロマトグラフィーによって部分的に精製される。別のそのような実施形態では、回収物又は溶解物がサイズ排除クロマトグラフィーによって部分的に精製される。別のそのような実施形態では、回収物又は溶解物がカチオン交換クロマトグラフィーによって部分的に精製される。別のそのような実施形態では、溶解物の回収物がアニオン交換クロマトグラフィーによって部分的に精製される。
【0101】
本発明は、以下の非限定的な実施例によってさらに説明される。
【実施例】
【0102】
実施例1 基準ベースラインの作成
カチオン交換クロマトグラフィーによって部分的に精製された空AAV8カプシドとフルAAV8カプシドの混合試料を、50mMトリス、pH9で平衡化された強力な(第四級(4°)アミン)モノリスクロマトグラフィーカラムに注入した。アニオン交換体を200mMまでの塩化ナトリウム勾配で溶出し、次いでカラムを500mM塩化ナトリウムまでのステップで洗浄した。溶出プロファイルを
図2に示す。溶出プロファイルは、単一の空カプシドピークの溶出があるものの単一のフルカプシドピークと重複している、空カプシドピーク及びフルカプシドの部分的分離を示す。フルカプシドピークは、260/280波長比1.307を示す。これは、ある割合の空カプシドが全カプシドの領域にも溶出し、波長比を低下させていることを意味すると理解される。空カプシドピークのサイズが比較的大きいことに留意されたい。
【0103】
実施例2 pH7.0及びpH9.0におけるTREN-Mgによる空カプシドとフルカプシドの分離の予備的評価
TREN表面を有するモノリスに、水中の100mM酢酸マグネシウムに曝露することによって、二価マグネシウムイオンをロードした。過剰のマグネシウムを、カラムを50mM HEPESでpH7.0に平衡化する間にすすぎ落とした。カラムを、1M塩化ナトリウムに対する直線勾配で溶出した。次いで、カラムを2Mの塩化ナトリウム、50mMのHEPESへのステップで洗浄し、次いで、1Mの水酸化ナトリウムへのステップでさらに洗浄した。フルカプシドピークは260/280波長比1.240を示す(
図4)。別の実験では、TREN表面を有するモノリスに、水中の100mM酢酸マグネシウムに曝露することによって、二価マグネシウムイオンをロードした。過剰のマグネシウムを、50mMのビス-トリス-プロパン、2mMの塩化マグネシウムでカラムをpH9.0に平衡化する間にすすぎ落とした。実施例1に使用したカチオン交換クロマトグラフィーによって部分的に精製された空AAV8カプシド及びフルAAV8カプシドと同じ試料を、TREN-Mgカラムに注入した。カラムを、500mM塩化ナトリウム、2mM塩化マグネシウムへの直線勾配で溶出した。次いで、それを2Mの塩化ナトリウム、50mMのビス-トリス-プロパン、2mMの塩化マグネシウムへのステップで洗浄し、次いで、1Mの水酸化ナトリウムへのステップでさらに洗浄した。溶出プロファイルを
図4に示す。溶出プロファイルが示しているのは、1つはフルカプシドピークの前に溶出し、1つは後に溶出している、2つの空カプシドピークがある、空カプシド及びフルカプシドの部分的分離である。フルカプシドピークは、260/280波長比1.377を示す(
図5)。これは、フルカプシドの領域において溶出する空カプシドの割合が、試料が実施例1に示される強アニオン交換体によって分画された場合よりも小さい、ということを意味すると理解される。全体的な結果は、空カプシドとフルカプシドとの間のある程度の分離がpH7.0で得られるものの、分離はpH9.0で実質的に改善されることを示す。その後のpH9.25での実験は本質的に同等の性能を示したが、pH9.5ではわずかに劣った結果が示された。
【0104】
図6は、カプシド外面上のDNAの分布が前記2つの方法の間で異なることを示す。バーの高さは、
図2及び
図4に示すクロマトグラムから、260nmでのUV吸光度によるピコグリーン蛍光のピーク面積を比較することによって推算された。Fと表示された画分はフルカプシド画分を示す。前記2つの方法はDNAの分布において明確に異なっており、それらの選択性が互いに異なるということの証拠に加えられる。これはまた、それらの相補性及びアニオン交換クロマトグラフィーによる本発明の方法に従うことの潜在的価値、又はその逆を強調する。
【0105】
図7は、元のカチオン交換精製試料を、
図6のフルカプシドを含む画分、及び2M塩化ナトリウム洗浄液の内容物を含む
図6の画分と比較する、アニオン交換分析プロファイル(第四級アミン)である。溶出プロファイルは、2つの理由から内因性トリプトファン蛍光に対してモニターした。第1の理由は、トリプトファン蛍光がタンパク質検出の感度を15~20倍増加させることであり、第2の理由は、トリプトファン蛍光がタンパク質によってのみ生成されることである。これはDNAを検出しない。これは、260nm及び280nmでのUV吸光度に対するタンパク質及びDNAの不確実な個々の寄与による混乱を回避する。図示されているとおり、元の試料は空カプシドで大きく優占されていた。フルカプシド画分はフルカプシドによって明らかに優占されていた。塩化ナトリウム洗浄画分は、空カプシドのみによって占められていた。これらの知見は、本発明の方法の選択性が任意の公知の方法とは異なっており、特に、強アニオン交換体を用いたアニオン交換クロマトグラフィーの方法とは異なっていることを実証する。
【0106】
実施例3 上昇pH勾配を用いた第一級アミノアニオン交換体上における空カプシドとフルカプシドの分離の比較
第一級アミンアニオン交換体を、10mMトリス、10mMビス-トリス-プロパン、2mM塩化マグネシウム、pH7.0で平衡化した。実施例1及び2を調製するために使用したのと同じ試料をロードした。
図8は、1°アミンと表示された右端の中央パネルにおける完全なピークを含む溶出領域を示す。これを、強アニオン交換体上の空カプシドとフルカプシドの分離を示す、
図2の対応する領域と比較する(左パネル)。また、本発明の方法による空カプシドとフルカプシドの分離を示す、
図5の対応する領域と比較する。示されるように、第一級アミンアニオン交換体からのフルカプシド画分の波長は1.30、対する第四級交換体については1.307であり、本発明の方法については1.377であった。全体として、
図8は、本発明の方法の選択性が両タイプのアニオン交換体とは異なることを強調し、また固定された金属イオンの効果を適示している。
【0107】
実施例4 クロマトグラフィーバッファーの金属補充を伴う及び伴わないカプシド分離の比較
図9は、金属イオンを欠く対照実験を行ったクロマトグラフィープロファイル(上側プロファイル)を比較する。TRENカラムには多価金属カチオンを担持させず、勾配バッファーは多価金属カチオンを含有しなかった。下側のプロファイルは、勾配バッファー中で2mMマグネシウムが使用された場合の結果を示す。これは、空カプシドの後期溶出画分への有意なシフト、及び主要溶出ピークにおけるフルカプシドの割合の実質的な改善を示す。これは、そのより高い260/280比によって示される。別の実験では、試料を適用する前に、TRENカラムをマグネシウムで平衡化した。結果(図示せず)は、マグネシウムを勾配バッファー中にのみ供給した場合に得られた結果と同一であった。マグネシウムの存在によって得られる改善された性能を確認するだけでなく、これらの結果は、試料適用の前に金属をロードする必要がないことを示しており、これはカチオン性金属アフィニティーリガンドがIMACの分野における古典的なアプローチである。金属は、カプシドの溶出前の任意の時点でリガンド上にロードすることができる。
【0108】
実施例5 異なる金属イオンを用いたクロマトグラフィーの比較
TREN固相にそれぞれ異なる金属を担持させたこと以外は、実施例2で実施した方法を繰り返した。カルシウム、鉄(第二鉄)、マンガン、銅(第二銅)、亜鉛、及びバリウムを用いて比較を行った。プロファイルは空カプシド及びフルカプシドが溶出した領域では著しく一貫していたが、洗浄ステップの領域では異なっていた。特に鉄とマンガンは、水酸化ナトリウムのクリーン・イン・プレース(clean-in-place)ピークにおいて劇的に大きなピークを示した。
図10にカルシウムのクロマトグラムを示す。
図11に鉄のクロマトグラムを示す。これらの違いは、DNAの鉄への結合が不釣り合いに強いことに起因していた。
図12は、pH9.0における銅(copper(cupric))のクロマトグラムを示す。銅が示した洗浄ピークはカルシウム又はマグネシウムより大きかったが、鉄よりは小さかった。マンガン(図示せず)の使用は、鉄と銅の中間のクリーニングピークを与えた。
図13は、マグネシウム及び銅について、カプシド除去領域における溶出プロファイルを比較している。留意されたいのは、銅中でカプシドがより早く溶出している、溶出プロファイル間のオフセットである。銅はまた、比較した中で最も好ましい波長比を生じており、これは銅が、空の粒子の割合が最も低いフルカプシド画分を生成したことを示す。フルカプシドピークも、銅を用いた場合が最も狭く、空カプシドの画分の中のバリアントの亜集団がより明確に解像された。
【0109】
実施例6 DNAの先行除去に係るマグネシウムがロードされたアニオン性金属アフィニティーリガンドの評価
イミノ二酢酸(IDA)キレート残基を有するモノリスにマグネシウムをロードし、pH9.0に平衡化した。カチオン交換精製したカプシドの試料を同じ条件に平衡化し、カラムにロードした。AAVカプシドは結合も分画もされずカラムを通過し、このことは空カプシドとフルカプシドの捕捉及び分離におけるカチオン性金属アフィニティーカラムの重要性を強調するものである。ただし、試料からのDNA及び混入物はカラムに結合していた(
図14)。
【0110】
実施例7 多段階精製法における本発明の方法の組み込み
DNA、空AAVカプシド及びフルAAVカプシドを含有する濾過細胞培養溶解物を、正電荷を付与するエチレンジアミンを表面に有する粒子で処理した。それらを負電荷SO
3基を有する粒子と混合した。混合した粒子を5%の体積比で試料に添加し、60分間混合しながらインキュベートした。粒子は、可溶性の宿主細胞DNAの大部分に結合した。粒子-DNA複合体を沈殿させ、上清を0.45μmの孔径カットオフを有する膜フィルターを通して濾過した。この処理は、タンジェンシャルフロー濾過による試料濃縮を可能にする程度まで濾過性を改善した。300kDaの孔径カットオフを有する膜を用いて試料を10倍に濃縮し、タンパク質を含む多くの小分子混入物の除去を可能にした。また、試料を、タンジェンシャルフロー濾過により、耐塩性ヌクレアーゼ酵素を用いたDNAの酵素的溶解を実施するのに適したバッファー(20mM Tris、500mM NaCl、pH8.0)中に透析濾過した。耐塩性ヌクレアーゼを5mM塩化マグネシウムと共に添加し、混合物を室温で16時間インキュベートした。タンジェンシャルフロー濾過を再開して、宿主細胞DNAの消化によって遊離したヒストンを除去し、DNA断片及びヌクレオチドを除去し、TREN-マグネシウム複合体を有するカラム上での捕捉のために試料を平衡化した。試料をカラムに適用し、実施例2に記載されるように処理した。フルカプシドを含有するTREN画分の一部を、pH勾配で溶出させる第一級アミンアニオン交換体上でさらに分画した。TREN画分の別の一部を、塩勾配で溶出させる強アニオン交換体上でさらに分画した。結果を、同じ条件下で行われるが最初のクロマトグラフィーステップはカチオン交換体上で実施される別の実験と比較した。
図15は、TREN-Mg上における初期捕捉ステップからの全クロマトグラムを示す。
図16は、
図15の溶出勾配及び洗浄ステップを強調したものである。
図17は、TREN-Mgによる捕捉からのフルカプシド画分のアニオン交換精製を強調したものである。
図18は、最初に本発明の方法で精製されたAAV(右のパネル)と、最初にカチオン交換クロマトグラフィーで精製されたAAV(左のパネル)のアニオン交換精製結果を比較する。相対ピーク高さに基づくと、本発明の方法による捕捉では、カチオン交換クロマトグラフィーによる捕捉よりも83%多くの空カプシドが排除された。本発明の方法による捕捉は、空カプシドのピークとフルカプシドのピークとの2つの間の重複を減少させ、その結果、アニオン交換クロマトグラフィーによる精製では空カプシドをより効率的に減少させることができた。
図19は、pH勾配で溶出される第一級アミンアニオン交換体(左パネル)対塩勾配で溶出される第四級アミンアニオン交換体(右パネル)によるTREN-Mg捕捉後の空カプシド減少(
図15、16)を比較する。両方の結果は、アニオン交換クロマトグラフィーとの本発明の方法の相補性を強調し、空カプシド含有量のより効果的な全体的減少を達成するため、いずれかの方法を単独で使用するよりも組み合わせを使用することの可能性を強調する。
【0111】
実施例8 異なる多段階精製プロセスへの本発明の方法の組み込み
元の捕捉ステップをカチオン交換クロマトグラフィーステップに置き換えることを除いて、実施例6の方法を繰り返す。次いで、試料を本発明の方法による処理のために調製し、そのように処理する。本方法の一変形形態では、TRENカラムに銅をロードする。本方法の別の変形例では、TRENカラムにマグネシウムを担持させる。
【0112】
実施例9 本発明の方法を、空カプシドとフルカプシドの分離を達成可能な別の方法と組み合わせることによって、DNAの除去及び前記分離を増進する
実施例6のTRENステップを通じて試料を処理した後、実施例1に示すように、塩勾配を用いて強アニオン交換体上で空カプシド及びフルカプシドを分離する公知の方法によって、フルカプシド画分を処理する。
【0113】
実施例10 本発明の方法を、空カプシドとフルカプシドの分離を達成可能な別の方法と組み合わせることによって、前記分離を増進する
塩勾配溶出を用いる強アニオン交換クロマトグラフィーの方法によって、又はpH勾配溶出を用いる第一級アミンアニオン交換クロマトグラフィーの方法によって、空カプシドとフルカプシドを分離した後、さらなる精製ステップとして本発明の方法を実施する。
【0114】
実施例11 本発明の方法を、空カプシドとフルカプシドの分離を達成可能な別の方法と組み合わせることによって、前記分離を増進する
DNA、空カプシド、及びフルカプシドを含有する試料を、最初にアフィニティークロマトグラフィーによって捕捉する。アフィニティーカラムから溶出されたAAV画分を本発明の方法によって処理して、過剰なDNAを除去し、フルカプシドから空カプシドを分離する。変形例では、アフィニティークロマトグラフィーに先立って、DNAの濃度を低下させるために、試料が、例えば実施例7に記載される方法のいずれかによって処理される。
【0115】
実施例12 カチオン性金属アフィニティー固相でフルカプシドと空カプシドを分離する前に、アニオン性金属アフィニティー固相で試料を処理することによって、DNAの低減及び空カプシドとフルカプシドの分離を増進する
DNA、フルカプシド、空カプシドを含む試料を約9のpHまで平衡化し、第二鉄をロードしたイミニオジアセト酸(IDA)カラムに適用する。DNAは結合するが、AAVカプシドは結合しない。処理後、試料を、マグネシウムを担持させたTRENカラムに、さらなる調製を行わずに適用する。空カプシドは、上昇する塩化ナトリウム勾配によってフルカプシドから分離される。このアプローチの1つの変形において、IDA固相は、ニトリロ三酢酸(NTA)酸固相で置換される。別の変形例では、アニオン性金属アフィニティー固相にマンガンをロードする。別の変形では、TREN固相にカルシウムをロードする。別の変形例では、両方の固相に同じ金属種をロードする。本方法の1つのバージョンでは、アニオン性金属アフィニティー固相がフロースルークロマトグラフィー装置の形態である。変形例では、アニオン性金属アフィニティークロマトグラフィー装置がTRENカラムと直列に配管される。別の変形では、アニオン性金属アフィニティー固相がフルカプシド、空カプシド、及びDNAを含有する試料に添加することができる粒子形態であり、DNAを結合させ、その後、DNAと一緒に粒子を除去する。別の変形例では、処理された試料が次にTREN固相によって処理される。別の変形例では、処理された試料がTREN固相によって処理される前に、カチオン交換体によって処理される。別の変形例では、処理された試料がTREN固相によって処理される前に、アフィニティークロマトグラフィーによって処理される。
【0116】
実施例13 マグネシウムをロードした固定化イミノ二酢酸による宿主細胞DNAの事前抽出の有無による、pH9でのTREN-MgによるAAV分離の比較
アニオン性金属アフィニティーリガンドイミノ二酢酸を有するモノリスにマグネシウムイオンをロードした。次いで、モノリスをpH9.0で50mMビス-トリス-プロパンで平衡化した。カチオン交換精製AAV8の試料をpH9.0に滴定した。試料をモノリスに通した。AAVは結合せず、流出通過した。DNAの大きな亜集団は結合し、それによって試料から除去された。マグネシウムをロードしたカチオン性金属アフィニティー(TREN)モノリスに試料を適用し、塩化ナトリウムの上昇勾配で溶出した。別の試料を、pH9への滴定によって、ただしマグネシウム-IDAモノリスによる処理なしに、カチオン交換精製AAVから調製した。TRENクロマトグラムを比較した
図20では、IDAカラムによる前処理がTRENカラム上における溶出挙動を変化させたことが分かる。
【0117】
実施例14 宿主細胞DNAの事前抽出
アニオン性金属アフィニティーリガンドイミノ二酢酸を有するモノリスにマグネシウムイオンをロードした。次いで、モノリスをpH9.0で50mMビス-トリス-プロパンで平衡化した。カチオン交換精製AAV8の試料をpH9.0に滴定した。試料をモノリスに通した。AAVは結合せず、流出通過した。DNAは結合し、それによってAAV含有試料から除去された。その後、IDAカラムに結合したDNAは、1M NaOHによる洗浄ステップによって除去された(
図21)。
【0118】
実施例15 IDA-マグネシウムカラムによる宿主細胞DNAの事前抽出後の、TREN-マグネシウムカラムからの空カプシドとフルカプシドの最適化された分離
実施例14に記載のように、カチオン交換精製AAVの試料からDNAを抽出した。試料をpH9でTREN-マグネシウムカラムに適用した。空カプシドを10mM塩化マグネシウムでカラムから洗浄した。フルカプシドを塩濃度上昇勾配で溶出した(
図22)。
【0119】
実施例16 第二鉄をロードしたイミノ二酢酸固相、次いでマグネシウムをロードしたTREN固相による勾配分離を用いての連続処理による、宿主細胞DNA抽出及び空カプシドとフルカプシドの分離の直列
IDAカラムに第二鉄をロードし、pH9に平衡化する。TRENカラムにマグネシウムをロードし、pH9に平衡化する。2つのカラムをIDAカラムが先になるよう一緒に配管し、次いでpH9でバッファーですすぐ。空カプシド、フルカプシド、及び宿主細胞DNAを含有する試料をpH9に平衡化する。試料を両カラムに通す。DNAは第二鉄-IDAカラムに結合する。AAVカプシドはIDAカラムを通過し、マグネシウム-TRENカラムによって捕捉される。両カラムを一緒に配管したままで平衡バッファーで洗浄し、次いで、上昇塩勾配によってTRENカラムを溶出させ、IDAカラムに結合したDNAを残す。所望のフルAAVカプシド画分を回収した後、カラムを1M NaOHで洗浄する。本方法の変形例では、洗浄ステップの後にIDAカラムをオフラインにして、TRENカラムを独立して溶出させる。
【0120】
実施例17 中間タンジェンシャルフロー濾過ステップを用いたアニオン性及びカチオン性金属アフィニティーによるAAV精製
AAV8及び宿主細胞DNAを含有する細胞溶解物を、pH7.0、100mM NaClに平衡化する。イミノ二酢酸を有する不溶性粒子には第二鉄がロードされる。粒子は、5%粒子の割合で細胞溶解物と混合される。試料を60分間混合してインキュベートし、粒子を容器の底部に沈降させる。上清を、約0.45ミクロンの平均多孔度を有する膜フィルターを通して濾過する。次いで、300kDaの分子量カットオフ(MWCO)を有する膜を使用するタンジェンシャルフロー濾過によって、試料を透析濾過する。透析濾過バッファーは、2mM塩化マグネシウム、25mMビス-トリス-プロパン、pH9.0を含有する。タンジェンシャルフロー濾過は6ダイアボリュームで行われ、その間、タンパク質及びより低分子量の混入物質は膜を通過することによって除去される。マグネシウムをロードしたTRENを有するカラムに試料を適用し、実施例15に記載の条件下で分画する。
【0121】
実施例18 第二鉄がロードされ塩化マグネシウム直線勾配で溶出されるカチオン性金属アフィニティー基材を用いる、同時DNA抽出及び空/フルカプシド分離
TRENモノリスに第二鉄を担持させ、25mMビス-トリス-プロパン、1%スクロース、0.1%ポロキサマー188、pH9.0に平衡化した。宿主DNAを含有したままのカチオン交換クロマトグラフィー精製AAV8カプシドを同じ条件に平衡化し、TREN-Feモノリスにロードした。カラムを平衡バッファーで洗浄して、非結合種をすすぎ流した。次いで、カラムを、25mMビス-トリス-プロパン、1%スクロース、0.1%ポロキサマー188、pH9.0中の25mM塩化マグネシウムへの50CV直線勾配、次いで25mMビス-トリス-プロパン、1%スクロース、0.1%ポロキサマー188、pH9.0中の50mM塩化マグネシウムへの10CV直線勾配で溶出した。洗浄ステップは25mMビス-トリス-プロパン、1%スクロース、0.1%ポロキサマー188、2.0M NaCl、pH9.0で行い、次いで1M NaOH、2M NaCl、pH13でより強力な洗浄ステップを行った。結果を
図23に示す。空カプシドの小さな亜集団が、フルカプシドの主要な集団の前に溶出した。空カプシドの別の亜集団は、フルカプシドのずっと後に溶出した。最初の洗浄ステップはカプシド残屑の小さな集団を除去し、NaOHステップは、宿主DNAの大きな集団を除去した。これらの結果は鉄がマグネシウムの存在下でTRENに結合したままであることを示唆し、これは、TRENがマグネシウムよりも鉄に対してより強いアフィニティーを有し得ることを示唆することに留意されたい。
【0122】
実施例19 マグネシウム勾配で溶出したTREN-Feによる空カプシドとフルカプシドの分離のための前駆体としてのIDA-FeとNTA-Feの比較
IDA粒子に第二鉄をロードし、50mMのHepes、pH7に平衡化した。NTA粒子も同様に調製した。カチオン交換クロマトグラフィーで精製したAAV8粒子の1つの試料に、IDA-Fe粒子を5%の最終割合で添加した。カチオン交換クロマトグラフィーで精製したAAV8粒子の別の試料に、IDA-Fe粒子を5%の最終割合で添加した。試料を120分間混合してインキュベートし、次いで粒子を遠心分離によって除去した。IDA-Fe処理試料を、pH7でTREN-Feカラムに適用した。次いで、カラムをpH9.0(25mMビス-トリス-プロパン、1%スクロース、0.1%ポロキサマー188)に再平衡化し、50mM塩化マグネシウム(同じ塩基バッファー中)への直線勾配で溶出した。次いで、カラムを洗浄し、まず2M NaCl、次いで1M NaOHで洗浄した。NTA-Fe処理した試料を同様に処理した。NTA-Feで処理した試料は、マグネシウムで溶出したTREN-Feの後、260/280比3.02を与えた。IDA-Feで処理した試料は、マグネシウムで溶出したTREN-Feの後、260/280比3.05を与えた。
【0123】
実施例20 ホウ酸バッファーの使用による空-フルカプシド分離の最適化
第二鉄を担持させた1mLのTRENモノリスを、100mMホウ酸、50mMトリス、1%スクロース、0.01%ポロキサマー188、pH9.0、導電率0.25mS/cmで平衡化した。1部のカチオン交換精製AAV8を、99部の400mMホウ酸、50mMトリス、1%スクロース、0.01%ポロキサマー188、pH7.0、導電率0.76mS/cmで希釈し、カラムにロードした。バッファーpH及び導電率が安定化するまで、平衡化バッファーで流れを回復させ、次いで、カラムを、100mMホウ酸、50mMトリス、50mM塩化マグネシウム、1%スクロース、0.01%ポロキサマー188、pH9.0、導電率9.6mS/cmまでの直線勾配で溶出した。空カプシドを2M NaClへのステップで溶出し、次いでカラムを1M NaOH、2M NaClで洗浄した。全クロマトグラムを
図24に示す。
図25では、フルカプシドの溶出に対応する領域を拡大している。試料希釈バッファーを25mM Hepes、1%スクロース、0.01%ポロキサマー188、pH7.0、導電率0.85mS/cmで置換したことを除いて、実験を繰り返した。結果は本質的に同一であった(示さず)。
図24及び
図25に示す結果は、他のすべての材料及び条件に対して劇的かつ好都合に対比する。
図2及び
図3に示されるように、塩勾配で溶出された強アニオン交換体上の同一の試料は、大きな空カプシドピークと、それに続く大きなフルカプシドピークとを特徴とするプロファイルを生成する。
図5、
図12、
図13、及び
図22に示すように、多価金属カチオンを担持したカチオン性金属アフィニティーカラム上での空カプシドとフルカプシドの分離は、通常、空カプシドが溶出し始め、フルカプシドピークの後縁境界と部分的に重なり合うプロファイルを生成する。
図24及び
図25では、フルカプシドが勾配の中央に溶出するにもかかわらず、フルカプシドピークの先頭側には小さな空カプシドピークしか存在せず、フルカプシドピークの後縁側には明らかな空カプシドは存在しない。代わりに、勾配の小さな最初のピークを除いて、空カプシドはすべて、マグネシウム勾配の後の2N塩段階で溶出する(
図26)。これは、それらの負電荷が増強されたことを示す。これは、ボレートが空カプシド上の負電荷の修飾によって分離を促進するという仮説を示唆している。
【0124】
実施例21 第四級アミン(QA)アニオン交換モノリスからのAAVカプシドの分画
AAV8カプシドを実施例20のように調製した。第四級アミンアニオン交換体を平衡化し、実施例20のように溶出した。溶出プロファイルを
図27に示す。これらの条件下で、NaOHピーク中のDNA量は、
図27の量と比較して少ない。これは、クロマチン除去が劣っていることを記録する。さらに、260nm及び280nmでのUV吸光度は、QAカラムがこれらの条件下で、フルカプシドから空カプシドを効果的に分離できなかったことを示す(
図28)。
図29にTREN-Fe3とQAの結果を比較した。相対的クロマチン抽出及び空カプシドとフルカプシドの分離における明らかな相違を超えて、この比較は、従来のアニオン交換クロマトグラフィーに対する本発明の方法の分離化学における劇的な相違を強調する。
【0125】
参照文献
本明細書に引用される全ての参考文献は、その組み込みが本明細書の明示的な教示と矛盾しない限り、参照により本明細書に組み込まれる。
【0126】
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本願発明の例示的な態様を以下に記載する。
<1> フル(full)アデノ随伴ウイルス(AAV)カプシド及び空(empty)AAVカプシドを含む緩衝された混合物(buffered mixture)中の空AAVカプシドからフルAAVカプシドを分離する方法であって、
前記緩衝された混合物を、金属アフィニティーリガンドが結合した(attached)第1の基材と接触させるステップ、ここで前記金属アフィニティーリガンドは、3個以上の窒素原子を介して金属イオンを錯化する能力を有する、
前記金属アフィニティーリガンドに結合した多価カチオンの存在下で、pH勾配、塩勾配、金属イオン勾配、又はそれらの組み合わせで溶出することにより、フルAAVカプシドから空AAVカプシドを分離して、精製されたフルAAVカプシド画分を得るステップ
を含む方法。
<2> 前記緩衝された混合物を前記第1の基材と接触させる前、前記緩衝された混合物を前記第1の基材と接触させる最中、及び/又は溶出中に、前記第1の基材に多価カチオンがロードされる、<1>に記載の方法。
<3> 前記第1の基材の前記金属アフィニティーリガンドが、ジエチルトリアミン;トリエチルテトラミン;テトラエチルペンタミン;ポリアミドアミン、ポリトリエチルアミン、デフェロキサミン、N,N-ビス(2-アミノエチル)-1,2-エタンジアミン、及びトリス(2-アミノエチル)アミン(TREN)からなる群より選択される、<1>又は<2>に記載の方法。
<4> 溶出中に存在する前記多価金属カチオンが、鉄(III)、マンガン(II)、銅(II)、亜鉛(II)、コバルト(II)、マグネシウム(II)、カルシウム(II)、バリウム(II)、ニッケル(II)、及びそれらの組み合わせからなる群より選択され、特に、マグネシウム(II)、カルシウム(II)、バリウム(II)、銅(II)、及びそれらの組み合わせからなる群より選択される、<1>~<3>のいずれか一項に記載の方法。
<5> 勾配終点における多価カチオンの濃度が、0.1mM~200mM、又は1mM~100mM、又は2mM~50mM、又は5mM~25mMの範囲内である、<1>~<4>のいずれか一項に記載の方法。いくつかの実施形態では、多価イオンの種は、マグネシウム、カルシウム、もしくはバリウム、もしくは銅、又はそれらの混合物であってもよい。
<6> 溶出が、pH6.0~pH10、pH7.0~pH9.75、pH8.0~pH9.5、pH8.5~pH9.5、pH9.0~pH9.5、pH8.75~pH9.25、pH8.9~pH9.1、又はpH8.95~pH9.05の範囲内のpH値で、特に、pH8.75~pH9.25の範囲内のpHで、実施される、<1>~<5>のいずれか一項に記載の方法。
<7> 溶出が、1M以下、1mM~500mM、2mM~250mM、3mM~125mM、5mM~60mM、又は7mM~30mMの範囲内で塩の濃度を上昇させることによって実施される、<1>~<6>のいずれか一項に記載の方法。
<8> 溶出が、金属塩の濃度を上昇させることによって実施され、ここで金属イオンは多価金属カチオンであり、好ましくは銅(II)、マグネシウム(II)、カルシウム(II)、又はそれらの組み合わせである、<1>~<7>のいずれか一項に記載の方法。
<9> 接触及び/又は溶出が、ボレート(borate)を含むバッファーを用いて実施される、<1>~<8>のいずれか一項に記載の方法。
<10> 前記金属アフィニティーリガンドは溶出前に1種の多価カチオンを担持し、前記AAVカプシドは第2の種の多価金属カチオンの濃度を上昇させることによって溶出される、<1>~<9>のいずれか一項に記載の方法。
<11> 前記緩衝された混合物又は精製された前記フルAAVカプシド画分と、金属アフィニティーリガンドを担持する第2の基材との接触が、前記金属アフィニティーリガンドに結合した多価カチオンの存在下で行われ、前記金属アフィニティーリガンドは2つ以上の負に荷電したカルボン酸残基を含む、<1>~<10>のいずれか一項に記載の方法。
<12> 前記緩衝された混合物が、前記第1の基材及び前記第2の基材と同時に処理される、<11>に記載の方法。
<13> 第2の基材に取り付けられている前記金属アフィニティーリガンドが、イミノ二酢酸などのアミノ-ジカルボン酸及びニトリロ三酢酸などのアミノトリカルボン酸からなる群より選択される、<10>~<12>のいずれか一項に記載の方法。
<14> 前記第2の基材の前記アニオン性金属アフィニティーリガンドが、鉄(III)、マンガン(II)、銅(II)、亜鉛(II)、コバルト(II)、マグネシウム(II)、カルシウム(II)、バリウム(II)、ニッケル(II)、及びそれらの組み合わせからなる群より選択される多価金属カチオン、特に鉄(III)を担持している、<10>~<13>に記載の方法。
<15> 前記緩衝された混合物と、金属を担持する前記アニオン性金属アフィニティー第2の基材との接触が、pH6.0~pH10、pH7.0~pH9.75、pH8.0~pH9.5、pH8.5~pH9.5、pH9.0~pH9.5、pH8.75~pH9.25、pH8.9~pH9.1、又はpH8.95~pH9.05の範囲内のpH値で、特に、pH8.75~pH9.25の範囲のpHで起こる、<10>~<14>のいずれか一項に記載の方法。
<16> 前記緩衝された混合物と前記第2の基材との接触が、1M以下、又は0.1mM~1mM~500mM、又は2mM~250mM、又は5mM~250、又は3mM~125mM、又は10mM~125mM、又は5mM~60mM、又は20~62、又は7mM~30mMの範囲内の塩濃度で起こる、<10>~<15>のいずれか一項に記載の方法。
<17> 前記緩衝された混合物又は精製フルAAVカプシド画分中に存在する混入DNAが、前記DNAを前記第1の基材及び/又は第2の基材に結合させることによって除去される、<1>~<16>のいずれか一項に記載の方法。