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特許7526367イオントラップ型量子コンピュータにおけるもつれゲートの実装のための運動モード構成
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-23
(45)【発行日】2024-07-31
(54)【発明の名称】イオントラップ型量子コンピュータにおけるもつれゲートの実装のための運動モード構成
(51)【国際特許分類】
   G06N 10/40 20220101AFI20240724BHJP
   G06E 3/00 20060101ALI20240724BHJP
【FI】
G06N10/40
G06E3/00
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2023530865
(86)(22)【出願日】2021-11-19
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-07
(86)【国際出願番号】 US2021060090
(87)【国際公開番号】W WO2022146577
(87)【国際公開日】2022-07-07
【審査請求日】2023-06-29
(31)【優先権主張番号】63/119,235
(32)【優先日】2020-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】520132894
【氏名又は名称】イオンキュー インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100185269
【弁理士】
【氏名又は名称】小菅 一弘
(72)【発明者】
【氏名】リー ミン
(72)【発明者】
【氏名】アミニ ジェイソン エム.
(72)【発明者】
【氏名】ナム ユンソン
【審査官】渡辺 一帆
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2020/0369517(US,A1)
【文献】BLUMEL, Reinhold et al.,"Power-optimal, stabilized entangling gate between trapped-ion qubits",arXiv.org [online],2019年,pp. 1-20,[retrieved on 2024.06.21], Retrieved from the Internet: <URL: https://arxiv.org/abs/1905.09292v1>,<DOI: 10.48550/arXiv.1905.09292>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06N 10/00-10/80
G06E 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
量子コンピュータを使用して計算を実行する方法であって、
複数のトラップイオンの運動モード構造を変調するステップであって、前記複数のトラップイオンの各々がキュービットを定義する2つの周波数分離状態を有する、変調するステップと、
レーザパルスの離調周波数関数および振幅関数を計算するステップであって、前記複数のトラップイオンのうちのトラップイオンのペアの間にもつれ相互作用を引き起こす、計算するステップと、
計算された前記離調周波数関数および前記振幅関数を有するレーザパルスを、ゲート持続時間の間、前記トラップイオンのペアに印加することによって前記量子コンピュータにおいて量子計算を実行するステップと
を含む、方法。
【請求項2】
運動モード周波数が、前記ゲート持続時間で割った4πの整数倍であるように、前記運動モード構造の変調が、前記複数のトラップイオンをトラップするイオントラップの閉じ込め電位を調整するステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記レーザパルスが、同じ前記離調周波数関数および同じ前記振幅関数であるが、逆位相である2つの連続するパルスセグメントを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記レーザパルスの前記振幅関数が、前記ゲート持続時間の間、一定であり、
前記レーザパルスの前記離調周波数関数が、前記ゲート持続時間で割った2πの整数倍である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記レーザパルスの前記離調周波数関数および前記振幅関数を計算するステップは、ゼロ以外のもつれ相互作用の第1のゲート要件に基づく、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記レーザパルスの前記離調周波数関数および前記振幅関数を計算するステップは、前記レーザパルスが最小ピーク出力を有する第2のゲート要件に基づく、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記レーザパルスの前記離調周波数関数および前記振幅関数を計算するステップは、前記複数のトラップイオンについてのイオンモードデカップリングの第3のゲート要件に基づく、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
コンピュータプログラム命令を含む不揮発性コンピュータ可読媒体であって、プロセッサによって実行されると、前記プロセッサに、
レーザパルスの離調周波数関数および振幅関数を計算させて、複数のトラップイオンのうちのトラップイオンのペアの間にもつれ相互作用を引き起こし、
計算された前記離調周波数関数および前記振幅関数を有するレーザパルスを、ゲート持続時間の間、前記トラップイオンのペアに印加することによって量子コンピュータにおいて量子計算を実行させ、
前記複数のトラップイオンの運動モード周波数が、前記ゲート持続時間で割った4πの整数倍であるように変調される、不揮発性コンピュータ可読媒体。
【請求項9】
前記レーザパルスが、同じ前記離調周波数関数および同じ前記振幅関数であるが、逆位相である2つの連続するパルスセグメントを含む、請求項8に記載の不揮発性コンピュータ可読媒体。
【請求項10】
前記レーザパルスの前記振幅関数が、前記ゲート持続時間の間、一定であり、
前記レーザパルスの前記離調周波数関数が、前記ゲート持続時間で割った2πの整数倍である、請求項8に記載の不揮発性コンピュータ可読媒体。
【請求項11】
前記レーザパルスの前記離調周波数関数および前記振幅関数の計算が、ゼロ以外のもつれ相互作用の第1のゲート要件に基づく、請求項8に記載の不揮発性コンピュータ可読媒体。
【請求項12】
前記レーザパルスの前記離調周波数関数および前記振幅関数の計算が、前記レーザパルスが最小ピーク出力を有する第2のゲート要件に基づく、請求項11に記載の不揮発性コンピュータ可読媒体。
【請求項13】
前記レーザパルスの前記離調周波数関数および前記振幅関数の計算が、前記複数のトラップイオンについてのイオンモードデカップリングの第3のゲート要件に基づく、請求項12に記載の不揮発性コンピュータ可読媒体。
【請求項14】
イオントラップにおける複数のトラップイオンであって、前記トラップイオンの各々がキュービットを定義する2つの超微細状態を有する、前記複数のトラップイオンと、
内部に記憶された、いくつかの命令を有する不揮発性メモリを備えるコントローラとを備える、量子コンピューティングシステムであって、
前記命令がプロセッサによって実行されると、前記量子コンピューティングシステムに、
レーザパルスの離調周波数関数および振幅関数を計算して、前記複数のトラップイオンのうちのトラップイオンのペアの間にもつれ相互作用を引き起こすステップと、
計算された離調周波数関数および振幅関数を有するレーザパルスを、ゲート持続時間の間、前記トラップイオンのペアに印加することによって量子コンピュータにおいて量子計算を実行するステップと
を含む操作を実行させ、
前記複数のトラップイオンの運動モード周波数が、前記ゲート持続時間で割った4πの整数倍であるように、前記イオントラップの閉じ込め電位が変調される、量子コンピューティングシステム。
【請求項15】
前記トラップイオンの各々が核スピンと電子スピンとの差がゼロであるように核スピンおよび電子スピンを有するイオンである、請求項14に記載の量子コンピューティングシステム。
【請求項16】
前記レーザパルスが、同じ前記離調周波数関数および同じ前記振幅関数であるが、逆位相である2つの連続するパルスセグメントを含む、請求項14に記載の量子コンピューティングシステム。
【請求項17】
前記レーザパルスの前記振幅関数が、前記ゲート持続時間の間、一定であり、
前記レーザパルスの前記離調周波数関数が、前記ゲート持続時間で割った2πの整数倍である、請求項14に記載の量子コンピューティングシステム。
【請求項18】
前記レーザパルスの前記離調周波数関数および前記振幅関数の計算が、ゼロ以外のもつれ相互作用の第1のゲート要件に基づく、請求項14に記載の量子コンピューティングシステム。
【請求項19】
前記レーザパルスの前記離調周波数関数および前記振幅関数の計算が、レーザパルスが最小ピーク出力を有する第2のゲート要件に基づく、請求項18に記載の量子コンピューティングシステム。
【請求項20】
前記レーザパルスの前記離調周波数関数および前記振幅関数の計算が、前記複数のトラップイオンについてのイオンモードデカップリングの第3のゲート要件に基づく、請求項19に記載の量子コンピューティングシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、概して、イオントラップ型量子コンピュータにおけるもつれゲートを生成する方法に関し、より具体的には、パルスが実際に実装され得るように構成された運動モード構造を用いてもつれゲートを生成するための単純なレーザパルスを構築する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
量子コンピューティングでは、古典的(デジタル)コンピュータにおける「0」と「1」を表すビットに類似した量子ビットまたはキュービットは、計算プロセス中にほぼ完全に制御した状態で、準備し、操作し、測定(読み出し)する必要がある。キュービットの制御が不完全であると、計算プロセスにおいて誤差が蓄積することがあり、信頼性の高い計算を実行できる量子コンピュータのサイズが制限される。
【0003】
大規模な量子コンピュータを構築するために提案されている物理システムの中に、電磁界によってトラップされて真空中に浮遊するイオンの鎖(例えば、電荷を帯びた原子)がある。イオンは、数GHz範囲内の周波数によって分離され、キュービットの計算状態(「キュービット状態」と呼ばれる)として使用することができる内部超微細状態を有する。これらの超微細状態は、レーザから提供される放射線を使用して制御することができるか、場合によっては本明細書ではレーザビームとの相互作用と呼ばれることもある。イオンは、このようなレーザ相互作用を使用して、運動基底状態の近くまで冷却することができる。イオンはまた、2つの超微細状態のいずれかに高精度で光学的に励起し(キュービットの準備)、レーザビームにより2つの超微細状態間で操作することができ(単一キュービットのゲート操作)、共鳴レーザビームの適用時に蛍光によってそれらの内部超微細状態が検出される(キュービットの読み出し)。1ペアのイオンは、イオン間のクーロン力の相互作用により発生する、トラップイオンの鎖の集合運動モードにイオンを結合するレーザパルスを使用して、キュービット状態に依存する力によって制御可能にもつれることができる(2キュービットのゲート操作)。
【0004】
しかしながら、大規模な量子計算における計算プロセスを実行するための一連のレーザパルスは、このようなレーザパルスを変調するための光学および電子機器において技術的複雑性をもたらす。したがって、物理システムにおける複雑性を低減して所望の計算プロセスを実行するためにキュービットを制御するための手順が必要である。
【発明の概要】
【0005】
本開示の実施形態は、量子コンピュータを使用して計算を実行する方法を提供する。この方法は、複数のトラップイオンの運動モード構造を変調するステップであって、複数のトラップイオンの各々がキュービットを定義する2つの周波数分離状態を有する、ステップと、レーザパルスの離調周波数関数および振幅関数を計算して、複数のトラップイオンのうちのトラップイオンのペアの間にもつれ相互作用を引き起こすステップと、計算された離調周波数関数および振幅関数を有するレーザパルスを、ゲート持続時間の間、トラップイオンのペアに印加することによって量子コンピュータにおいて量子計算を実行するステップとを含む。
【0006】
本開示の実施形態はまた、コンピュータプログラム命令を含む不揮発性コンピュータ可読媒体を提供する。コンピュータプログラム命令は、プロセッサによって実行されると、プロセッサに、レーザパルスの離調周波数関数および振幅関数を計算させて、複数のトラップイオンのうちのトラップイオンのペアの間にもつれ相互作用を引き起こし、計算された離調周波数関数および振幅関数を有するレーザパルスを、ゲート持続時間の間、トラップイオンのペアに印加することによって量子コンピュータにおいて量子計算を実行させる。複数のトラップイオンの運動モード周波数は、ゲート持続時間で割った4πの整数倍であるように変調される。
【0007】
本開示の実施形態は、量子コンピューティングシステムをさらに提供する。量子コンピューティングシステムは、イオントラップにおける複数のトラップイオンであって、トラップイオンの各々がキュービットを定義する2つの超微細状態を有する、複数のトラップイオンと、内部に記憶された、いくつかの命令を有する不揮発性メモリを備えるコントローラとを備え、命令がプロセッサによって実行されると、量子コンピューティングシステムに、レーザパルスの離調周波数関数および振幅関数を計算して、複数のトラップイオンのうちのトラップイオンのペアの間にもつれ相互作用を引き起こすステップと、計算された離調周波数関数および振幅関数を有するレーザパルスを、ゲート持続時間の間、トラップイオンのペアに印加することによって量子コンピュータにおいて量子計算を実行するステップとを含む操作を実行させる。複数のトラップイオンの運動モード周波数が、ゲート持続時間で割った4πの整数倍であるように、イオントラップの閉じ込め電位が変調される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
本開示の上記特徴を詳細に理解することができるように、上で簡単に要約された本開示のより具体的な記載は、いくつかが添付の図面に示されている実施形態を参照することによって説明することができる。しかしながら、添付の図面は、本開示の典型的な実施形態のみを説明しており、その範囲を限定すると見なされるべきではないことに留意されたい。なぜなら、本開示は、他の同等に有効な実施形態を認めることができるからである。
【0009】
図1】一実施形態に従うイオントラップ型量子コンピュータの部分図である。
図2】一実施形態に従って、イオンを鎖に閉じ込めるためのイオントラップの概略図を示す。
図3図3A図3B、および図3Cは、5つのトラップイオンの鎖のいくつかの概略的な集合横運動モード構造を示す。
図4】一実施形態に従って、トラップイオンの鎖内の各イオンの概略エネルギー図を示す。
図5】ブロッホ球の表面上の点として表されるイオンのキュービット状態を示す。
図6A】一実施形態に従って、各イオンの運動側波帯スペクトルおよび運動モードの概略図を示す。
図6B】一実施形態に従って、各イオンの運動側波帯スペクトルおよび運動モードの概略図を示す。
図7】一実施形態に従って、電極をトラップするために印加される静的(DC)電圧Vの数値的に計算されたプロファイルを示す。
図8】一実施形態に従って、数値的に計算されたゲート出力比|χij/Ωτ|を示す。
図9A】一実施形態に従って、数値的に計算されたパルス関数を示す。
図9B】一実施形態に従って、数値的に計算されたパルス関数を示す。
図10】一実施形態に従って、モード周波数における変動δωに対する数値的に計算された残留結合αを示す。
図11】量子コンピュータを使用して計算を実行するために使用した方法1100を示すフローチャートを示す。
【0010】
理解を容易にするために、可能な場合には、図に共通する同一の要素を示すために同一の参照番号を使用する。図および以下の説明では、X軸、Y軸、およびZ軸を含む直交座標系を使用する。図面の矢印で表される方向は、便宜上、正の方向であると想定される。いくつかの実施形態で開示された要素は、具体的な明記なく、他の実装で有益に利用されてよいと考えられる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書に記載の実施形態は、概して、量子計算中に2つのトラップイオンの間でもつれゲート操作を実行するためのパルスを構築および送達するための方法およびシステムに関し、より具体的には、システムの複雑性を単純化し、さらにもつれゲート操作の高い忠実度、または2つのイオン間でもつれゲート操作を実行した後、少なくとも2つのイオンが意図したキュービット状態にある高い確率を達成しながらシステムに実際に実装することができるパルスを設計する方法に関する。2つのイオン間のもつれゲート操作のための方法が本明細書に記載されるが、この方法はまた、2つより多いイオン間の単一キュービット操作およびもつれ操作にも使用できることに留意されたい。
【0012】
トラップイオンを使用して量子計算を実行できるシステム全体には、古典的コンピュータ、システムコントローラ、および量子レジスタが含まれる。古典的コンピュータは、グラフィックス処理ユニット(GPU)などのユーザインターフェイスを使用して実行する量子アルゴリズムの選択、選択した量子アルゴリズムの一連のユニバーサル論理ゲートへのコンパイル、量子レジスタに印加するためのレーザパルスへの一連のユニバーサル量子論理ゲートの変換、および中央処理ユニット(CPU)を使用してレーザパルスを最適化するパラメータの事前の計算を含むサポートおよびシステム制御タスクを実行する。量子アルゴリズムを分解して実行するタスクを実行するためのソフトウェアプログラムは、古典的コンピュータ内の不揮発性メモリに記憶されている。量子レジスタには、様々なハードウェアと結合されたトラップイオンが含まれ、これらのハードウェアには、トラップイオンの内部超微細状態(キュービット状態)を操作するレーザ、およびトラップイオンの内部超微細状態(キュービット状態)を読み出す音響光学変調器が含まれる。システムコントローラは、古典的コンピュータから、量子レジスタで選択されたアルゴリズムの実行の開始時にパルスの事前計算されたパラメータを受け取り、量子レジスタで選択されたアルゴリズムを実行するために使用されるいずれかおよび全ての態様の制御に関連する様々なハードウェアを制御し、量子レジスタの読み出し値を戻し、こうして、アルゴリズムの実行の最後に、量子計算の結果を古典的コンピュータに出力する。
【0013】
本明細書に記載の方法およびシステムは、論理ゲートを量子レジスタに印加されるレーザパルスに変換するためのプロセス、および量子レジスタに印加され、量子コンピュータの性能を向上させるために使用されるレーザパルスを最適化するパラメータを事前計算するためのプロセスをも含む。
【0014】
任意の量子アルゴリズムを分解することができるユニバーサル論理ゲートのいくつかの既知のセットのうち、一般的に{R,XX}と表記されるユニバーサル論理ゲートのセットは、本明細書に記載されているトラップイオンの量子コンピューティングシステムに固有のものである。ここで、Rゲートは、トラップイオンの個々のキュービット状態の扱い(manipulation)に対応し、XXゲート(「もつれゲート」とも呼ぶ)は、2つのトラップイオンのもつれ(entanglement)の扱いに対応する。当業者にとって明らかであるように、Rゲートは、ほぼ完全な忠実度で実装できるが、XXゲートの形成は、複雑なので、XXゲートの忠実度を向上させ、量子コンピュータ内の計算の誤差を回避または削減するためには、いくつかの要因を挙げれば、トラップイオンの所定のタイプと、トラップイオンの鎖内のイオンの数と、トラップイオンがトラップされるハードウェアおよび環境との最適化が必要である。以下の論述では、向上した忠実度を有するXXゲートの形成に基づいて計算を実行するために使用されるパルスを生成し、最適化する方法を説明する。
【0015】
量子コンピュータのサイズが大きくなるにつれて、量子計算を実行するために使用されるもつれゲート操作がますます複雑になり、これらのもつれゲート操作を実行するために使用されるパルスもますます複雑になる。複雑さが増えるとパルスを実装する際に実際に制限される場合がある。本開示で説明される方法およびシステムは、キュービットの正確な制御を犠牲にせずに実際に実装することができるようにこのようなパルスを修正する。
【0016】
一般的なハードウェア構成
図1は、一実施形態に係るイオントラップ型量子コンピュータまたはシステム100の部分図である。システム100は、古典的(デジタル)コンピュータ101と、システムコントローラ118と、Z軸に沿って延びる、トラップイオン(例えば、5つを示す)の鎖102である量子レジスタとを含む。トラップイオンの鎖102内の各イオンは、核スピンIと電子スピンSとの差がゼロであるように核スピンIおよび電子スピンSを有するイオン、例えば、正のイッテルビウムイオン171Yb、正のバリウムイオン133Ba、正のカルシウムイオン111Cdまたは113Cdであり、これらの全ては、核スピンI=1/2および1/2超微細状態を有する。いくつかの実施形態では、トラップイオンの鎖102内の全てのイオンは、同じ種および同位体(例えば、171Yb)である。いくつかの他の実施形態では、トラップイオンの鎖102は、1つ以上の種または同位体を含む(例えば、いくつかのイオンは171Ybであり、いくつかの他のイオンは133Baである)。なおさらなる実施形態では、トラップイオンの鎖102は、同じ種の様々な同位体(例えば、Ybの異なる同位体、Baの異なる同位体)を含み得る。トラップイオンの鎖102内のイオンは、別々のレーザビームで個別に処理される。
【0017】
古典的コンピュータ101は、中央処理ユニット(central processing unit;CPU)、メモリ、およびサポート回路(またはI/O)を含む。メモリは、CPUに接続されており、読み取り専用メモリ(read-only memory;ROM)、ランダムアクセスメモリ(random access memory;RAM)、フロッピーディスク、ハードディスク、または任意の他の形式のデジタルストレージなどで、ローカルまたはリモートで、すぐに利用できるメモリの1つ以上であり得る。ソフトウェア命令、アルゴリズム、およびデータは、CPUに命令するためにコード化され、メモリ内に記憶され得る。サポート回路(図示せず)も、従来の方法でプロセッサをサポートするためにCPUに接続されている。サポート回路は、従来のキャッシュ、電源、クロック回路、入力/出力回路、サブシステムなどを含み得る。
【0018】
例えば、開口数(numerical aperture;NA)が0.37の対物レンズなどのイメージング対物レンズ104は、イオンからY軸に沿って蛍光を収集し、個々のイオンを測定するために、各イオンをマルチチャネル光電子増倍管(photo-multiplier tube;PMT)106にマッピングする。X軸に沿って提供される、レーザ108からの非共伝搬ラマンレーザビームは、イオンに対して操作を実行する。回折ビームスプリッタ110は、マルチチャネル音響光学変調器(acousto-optic modulator;AOM)114を使用して個別に切り替えられる静的ラマンビーム112のアレイを作成し、かつ個々のイオンに選択的に作用するように構成される。グローバルラマンレーザビーム116は、イオンを一度に照射する。いくつかの実施形態では、個々のラマンレーザビーム(図示せず)の各々は、個々のイオンを照射する。システムコントローラ(「RFコントローラ」とも呼ばれる)118は、AOM114を制御する。システムコントローラ118は、中央処理ユニット(CPU)120、読み取り専用メモリ(ROM)122、ランダムアクセスメモリ(RAM)124、記憶ユニット126などを含む。CPU120は、RFコントローラ118のプロセッサである。ROM122は、様々なプログラムを記憶し、RAM124は、様々なプログラムおよびデータの作業メモリである。記憶ユニット126は、ハードディスクドライブ(hard disk drive;HDD)またはフラッシュメモリなどの不揮発性メモリを含み、電源が切られても様々なプログラムを記憶する。CPU120、ROM122、RAM124、および記憶ユニット126は、バス128を介して相互接続されている。RFコントローラ118は、ROM122または記憶ユニット126に記憶され、RAM124を作業領域として使用する制御プログラムを実行する。制御プログラムは、データの受信および分析、ならびに本明細書で説明されたイオントラップ型量子コンピュータシステム100を作成するために使用される方法およびハードウェアの任意および全ての態様の制御に関連する様々な機能を実行するためにプロセッサによって実行することができるプログラムコード(例えば、命令)を含む1つ以上のソフトウェアアプリケーションを含む。
【0019】
図2は、一実施形態に係る、鎖102内にイオンを閉じ込めるイオントラップ200(ポールトラップとも呼ばれる)の概略図を示す。閉じ込め電位は、静的(DC)電圧と無線周波数(RF)電圧の両方によって印加される。静的(DC)電圧Vがエンドキャップ電極(「DC制御電極」とも呼ばれる)210および212に印加されて、Z軸(「軸方向」、「長手方向」または「第1の方向」とも呼ばれる)に沿ってイオンを閉じ込める。鎖102内のイオンは、イオン間のクーロン相互作用のために、軸方向にほぼ均等に分布している。いくつかの実施形態では、イオントラップ200は、Z軸に沿って延びる4つの双曲線形状の電極(「RFレール」とも呼ばれる)202、204、206、および208を含む。
【0020】
操作中、(振幅VRF/2を有する)正弦波電圧Vは、対向する一対の電極202、204に印加され、正弦波電圧Vから180°の位相シフト(および振幅VRF/2)を有する正弦波電圧Vは、駆動周波数ωRFで対向する他対の電極206、208に印加されて、四重極(quadrupole)電位を生成する。いくつかの実施形態では、正弦波電圧は、対向する一対の電極202、204のみに印加され、対向する他対の電極206、208は、接地される。四重極電位は、トラップされた各イオンに対してZ軸に垂直なX-Y平面(「半径方向」、「横方向」または「第2の方向」とも呼ばれる)に有効な閉じ込め力を生成し、その閉じ込め力は、RF電界が消失する鞍点(saddle point)(すなわち、軸方向(Z方向)の位置)からの距離に比例する。各イオンの半径方向(すなわち、X-Y平面の方向)の運動は、半径方向の鞍点に向かう復元力を伴う調和振動(「経年運動」と呼ばれる)として近似され、それぞれ以下でより詳細に説明されるようなばね定数kとkによってモデル化できる。いくつかの実施形態では、半径方向のばね定数は、四重極電位が半径方向に対称である場合に等しいものとしてモデル化される。しかしながら、望ましくない場合には、半径方向のイオンの運動は、物理的なトラップ構成のある程度の非対称性、電極の表面の不均一性による小さなDCパッチ電位などのために歪む場合があり、これらおよび他の外部の歪みの原因により、イオンは、鞍点から中心を外れる場合がある。
【0021】
図2に示した従来の巨視的イオントラップの具体例は、イオンを閉じ込めるためのイオントラップの可能な例に過ぎず、本開示に係るイオントラップの可能な構成、仕様などを限定するものではないことに留意されたい。例えば、イオントラップは、イオンをトラップするために必要な電磁閉じ込め電位が半導体チップの表面上に形成される、微細加工された表面トラップであってもよい。このような表面トラップの例としては、サンディア(Sandia)高光アクセス(high-optical access;HOA)2.0トラップ及びGTRI/ハネウェル(Honeywell)ボールグリッドアレイ(ball-grid array;BGA)トラップが挙げられ、両方とも当該技術分野で公知である。このような微細加工された表面トラップは、イオントラップの形状を設計し、手動で組み立てられた巨視的イオントラップと比較して、高い再現性および製造収率で電磁閉じ込め電位の様々なパラメータを構成する優れた能力を提供することが知られている。
【0022】
トラップイオン構成および量子ビット情報
図3A図3B、および図3Cは、例えば、5つのトラップイオンの鎖102のいくつかの概略的な集合横運動モード構造(単に「運動モード構造」とも呼ばれる)を示す。ここで、エンドキャップ電極210および212に印加された静的電圧Vによる閉じ込め電位は、半径方向の閉じ込め電位と比較して弱い。トラップイオンの鎖102の横方向の集合運動モードは、イオントラップ200によって生成された閉じ込め電位とトラップイオン間のクーロン相互作用との組み合わせによって決定される。トラップイオンは、集合横方向運動(「集合横運動モード」、「集合運動モード」、または単に「運動モード」と呼ばれる)を起こし、各モードには、それに関連する異なるエネルギー(または同等に、周波数)がある。以下では、エネルギーがp番目に低い運動モード(または同等に、モード周波数ω)を│nphと呼び、ここで、nphは、運動モードの運動量子の数(エネルギー励起の単位で、「フォノン」と呼ばれる)を表し、所定の横方向の運動モードの数Pは、鎖102内のトラップイオンの数Nに等しい。図3A図3Cは、鎖102内に配置された5つのトラップイオンによって経験され得る異なるタイプの集合横運動モードの例を概略的に説明する。図3Aは、最も高いエネルギーを有する一般的な運動モード(「質量中心(COM)モード」とも呼ばれる)│nphの概略図であり、ここで、Pは、モードの数および運動モードの総数の両方である。一般的な運動モード│nphでは、全てのイオンは、横方向に同位相で振動する。図3Bは、2番目に高いエネルギーを有する傾斜運動モード(単に「傾斜モード」と呼ばれる)│nphP-1の概略図である。傾斜運動モードでは、両端のイオンは、横方向に位相がずれて(すなわち、反対方向に)移動する。図3Cは、傾斜運動モード│nphP-1よりもエネルギーが低く、イオンがより複雑なモードパターンで移動する高次運動モード(「ジグザグモード」とも呼ばれる)│nphP-3の概略図である。
【0023】
なお、上記特定の構成は、本開示によるイオンを閉じ込めるトラップのいくつかの可能な例のうちの1つに過ぎず、本開示によるトラップの可能な構成、仕様などを限定するものではない。例えば、電極の形状は、上記双曲線電極に限定されない。他の例では、調和振動として半径方向にイオンの運動を引き起こす実効電界を生成するトラップは、複数の電極層が積層され、対角線上にある2つの電極にRF電圧が印加される多層トラップであってもよく、または全ての電極がチップ上の単一平面に配置されている表面トラップであってもよい。さらに、トラップは、いくつかのセグメントに分割することができ、その隣接するペアが1つ以上のイオンを往復させてリンクすることもでき、または光子相互接続によって結合することもできる。トラップは、また、微細加工されたイオントラップチップ上に互いに近接して配置された個々のトラップ領域のアレイであってもよい。いくつかの実施形態では、四重極電位は、上記RF成分に加えて、空間的に変化するDC成分を有する。
【0024】
図4は、一実施形態に係る、トラップイオンの鎖102内の各イオンの概略エネルギー図400を示す。トラップイオンの鎖102内の各イオンは、核スピンIと電子スピンSとの差がゼロになるように核スピンIおよび電子スピンSを有するイオンである。一例では、各イオンは、ω01/2π=12.642812GHzの周波数差(「キャリア周波数」と呼ばれる)に対応するエネルギー分割を有する核スピンI=1/2および1/2超微細状態(すなわち、2つの電子状態)を有する、正のイッテルビウムイオン171Ybであってもよい。他の例では、各イオンは、全てが、核スピンI=1/2および1/2超微細状態を有する、正のバリウムイオン133Ba、正のカドミウムイオン111Cdまたは113Cdであってもよい。キュービットは、│0〉と│1〉で表される2つの超微細状態で形成され、超微細基底状態(すなわち、1/2超微細状態のうちの低エネルギー状態)が│0〉を表すために選択される。以下、「超微細状態」、「内部超微細状態」および「キュービット」という用語は、│0〉と│1〉を表すために交換可能に使用されることがある。各イオンは、ドップラー冷却または分解サイドバンド冷却などの既知のレーザ冷却法で、フォノン励起なし(すなわち、nph=0)で任意の運動モードpの運動基底状態│0〉の近くまで冷却し(すなわち、イオンの運動エネルギーが低下することができる)、次にキュービット状態が光ポンピングによって超微細基底状態│0〉で準備することができる。ここで、│0〉は、トラップイオンの個々のキュービット状態を表し、下付き文字pが付いた│0〉は、トラップイオンの鎖102の運動モードpの運動基底状態を表す。
【0025】
各トラップイオンの個々のキュービット状態は、例えば、励起された1/2レベル(|e〉で表される)を介して355ナノメートル(nm)のモードロックレーザ(mode-locked laser)によって操作することができる。図4に示すように、レーザからのレーザビームは、ラマン構成で一対の非共伝搬レーザビーム(周波数ωを有する第1のレーザビームおよび周波数ωを有する第2のレーザビーム)に分割され、図4で説明するように、|0〉と|e〉の間の遷移周波数ω0eに関して、一光子遷移離調周波数Δ=ω-ω0eによって離調され得る。二光子遷移離調周波数δは、トラップイオンに第1および第2のレーザビームによって提供されるエネルギー量の調整を含み、それらを組み合わせて使用すると、トラップイオンが超微細状態|0〉と|1〉との間で移動する。一光子遷移離調周波数Δが二光子遷移離調周波数(単に「離調周波数」とも呼ばれる)δ=ω-ω-ω01(以下、±μで表され、μは正の値である)よりもはるかに大きい場合、それぞれ状態|0〉と|e〉の間、および状態|1〉と|e〉の間でラビ振動(Rabi flopping)が発生する単一光子ラビ周波数Ω0e(t)とΩ1e(t)(時間に依存し、第1と第2のレーザビームの振幅と位相によって決定される)、ならびに励起状態|e〉からの自然放出率、2つの超微細状態│0〉と│1〉の間のラビ振動(「キャリア遷移」と呼ばれる)は、二光子ラビ周波数Ω(t)で誘導される。二光子ラビ周波数Ω(t)は、Ω0eΩ1e/2Δに比例する強度(すなわち、振幅の絶対値)を有し、ここで、Ω0eとΩ1eは、それぞれ第1と第2のレーザビームによる単一光子ラビ周波数である。以下、キュービットの内部超微細状態(キュービット状態)を操作するためのラマン構成におけるこの非共伝搬レーザビームのセットは、「複合パルス」または単に「パルス」と呼ばれてもよく、結果として生じる二光子ラビ周波数Ω(t)の時間依存パターンは、パルスの「振幅」または単に「パルス」と呼ばれてもよく、それらは、以下で図示され、さらに説明される。離調周波数δ=ω-ω-ω01は、複合パルスの離調周波数またはパルスの離調周波数と呼ばれることがある。第1および第2のレーザビームの振幅によって決定される二光子ラビ周波数Ω(t)の振幅は、複合パルスの「振幅」と呼ばれることがある。
【0026】
なお、本明細書に提供される説明で使用される特定の原子種は、イオン化されたときに安定し、かつ明確に定義された2レベルエネルギー構造と、光学的にアクセス可能な励起状態とを有する原子種の一例にすぎないため、本開示によるイオントラップ型量子コンピュータの可能な構成、仕様などを限定することを意図するものではない。例えば、他のイオン種は、アルカリ土類金属イオン(Be、Ca、Sr、Mg、およびBa)または遷移金属イオン(Zn、Hg、Cd)を含む。
【0027】
図5は、方位角φおよび極性角θを有するブロッホ球(Bloch ball)500の表面上の点として表されるイオンのキュービット状態を視覚化するのを助けるために提供される。上記のように、複合パルスを適用すると、キュービット状態│0〉(ブロッホ球の北極として表される)と│1〉(ブロッホ球の南極として表される)との間でラビ振動が発生する。複合パルスの持続時間と振幅を調整すると、キュービット状態を│0〉から│1〉に(すなわち、ブロッホ球の北極から南極へ)反転させるか、キュービット状態を│1〉から│0〉に(すなわち、ブロッホ球の南極から北極へ)反転させる。複合パルスのこの適用は、「πパルス」と呼ばれる。さらに、複合パルスの持続時間と振幅を調整することにより、キュービット状態│0〉を、2つのキュービット状態│0〉と│1〉が加算され、同位相で均等に重み付けされた重ね合わせ状態│0〉+│1〉(重ね合わせ状態の正規化係数は、便宜上、以下省略される)に変換することができ、そして、キュービット状態│1〉を、2つのキュービット状態│0〉と│1〉が加算され、均等に重み付けされているが、位相がずれる重ね合わせ状態│0〉-│1〉に変換することができる。複合パルスのこの適用は、「π/2パルス」と呼ばれる。より一般的には、加算されて均等に重み付けされた2つのキュービット状態│0〉と│1〉の重ね合わせは、ブロッホ球の赤道上にある点によって表される。例えば、重ね合わせ状態│0〉±│1〉は、方位角φがそれぞれゼロとπである赤道上の点に対応する。方位角φの赤道上の点に対応する重ね合わせ状態は、│0〉+eiφ│1〉(例えば、φ=±π/2の場合は│0〉±i│1〉である)として表される。赤道上の2点間の変換(すなわち、ブロッホ球のZ軸の周りの回転)は、複合パルスの位相をシフトすることで実装できる。
【0028】
イオントラップ型量子コンピュータでは、運動モードは、2つのキュービット間のもつれを仲介するデータバスとして機能することができ、このもつれは、XXゲート操作を実行するために使用される。つまり、2つのキュービットのそれぞれが運動モードともつれて、そして、以下に説明するように、もつれは、運動の側波帯励起(sideband excitation)を使用することによって、2つのキュービット間のもつれに転送される。図6Aおよび図6Bは、一実施形態に係る、モード周波数ωを有する運動モード│nphでの鎖102内のイオンの運動側波帯スペクトルの図を概略的に示す。図6Bに示すように、複合パルスの離調周波数がゼロの場合(すなわち、第1と第2のレーザビーム間の周波数差がキャリア周波数δ=ω-ω-ω01=0に調整される場合)、キュービット状態│0〉と│1〉の間で単純なラビ振動(キャリア遷移)が発生する。複合パルスの離調周波数が正の場合(すなわち、第1と第2のレーザビーム間の周波数差が、キャリア周波数よりも高く調整されている場合、δ=ω-ω-ω01=μ〉0、「青側波帯」と呼ばれる)、組み合わされたキュービット運動状態│0〉│nphと│1〉│nph+1〉の間でラビ振動が発生する(すなわち、キュービット状態│0〉が│1〉に反転する場合、│nphで表されるnフォノン励起を伴うp番目の運動モードから│nph+1〉で表される(nph+1)フォノン励起を伴うp番目の運動モードへの遷移が発生する)。複合パルスの離調周波数が負の場合(すなわち、第1と第2のレーザビーム間の周波数差が、モード周波数ω│nphによってキャリア周波数よりも低く調整されている場合、δ=ω-ω-ω01=-μ<0、「赤側波帯」と呼ばれる)、組み合わされたキュービット運動状態│0〉│nphと│1〉│nph-1〉の間のラビ振動が発生する(すなわち、キュービット状態│0〉から│1〉に反転する場合、運動モード│nphから、フォノン励起が1つ少ない運動モード│nph-1〉への遷移が発生する)。キュービットに適用された青側波帯のπ/2パルスは、組み合わされたキュービット運動状態│0〉│nphを、│0〉│nphと│1〉│nph+1〉の重ね合わせに変換する。キュービットに適用された赤側波帯のπ/2パルスは、組み合わされたキュービット運動状態│0〉│nphを、│0〉│nphと│1〉│nph-1〉の重ね合わせに変換する。二光子ラビ周波数Ω(t)が離調周波数δ=ω-ω-ω01=±μと比較して小さい場合、青側波帯遷移または赤側波帯遷移を選択的に駆動することができる。したがって、キュービットは、π/2パルスなどの適切なタイプのパルスを適用することにより、所望の運動モードでもつれることができ、その後、別のキュービットともつれることができ、2つのキュービット間のもつれをもたらす。イオントラップ型量子コンピュータでXXゲート操作を実行するには、キュービット間のもつれが必要である。
【0029】
上記のように、組み合わされたキュービット運動状態の変換を制御および/または指示することにより、2つのキュービット(i番目およびj番目のキュービット)に対してXXゲート操作を実行することができる。一般に、(最大もつれを有する)XXゲート操作は、2キュービット状態|0〉|0〉、|0〉|1〉、|1〉|0〉および|1〉|1〉をそれぞれ次のように変換する。
【数1】
例えば、2つのキュービット(i番目とj番目のキュービット)が両方とも最初に超微細基底状態|0〉(|0〉|0〉で表される)にあり、その後、青側波帯のπ/2パルスがi番目のキュービットに適用される場合、i番目のキュービットと運動モード|0〉|nphの組み合わせ状態は、|0〉|nphと|1〉|nph+1〉の重ね合わせに変換されるため、2つのキュービットと運動モードの組み合わせ状態は、|0〉|0〉|nphと|1〉|0〉|nph+1〉の重ね合わせに変換される。赤側波帯のπ/2パルスがj番目のキュービットに適用される場合、j番目のキュービットと運動モード|0〉|nphの組み合わせ状態は、|0〉|nphと|1〉|nph-1〉の重ね合わせに変換されるため、組み合わせ状態|0〉|nph+1〉は、|0〉|nph+1〉と|1〉|nphの重ね合わせに変換される。
【0030】
したがって、i番目のキュービットに青側波帯のπ/2パルスを適用し、j番目のキュービットに赤側波帯のπ/2パルスを適用すると、2つのキュービットと運動モード|0〉|0〉|nphの組み合わせ状態を|0〉|0〉|nphと|1〉|1〉|nphの重ね合わせに変換することができ、2つのキュービットは、今やもつれ状態にある。当業者にとって明らかであるように、フォノン励起の初期数nphとは異なる数(すなわち、|1〉|0〉|nph+1〉と|0〉|1〉|nph-1〉)のフォノン励起を有する運動モードともつれる2つのキュービット状態は、十分に複雑なパルスシーケンスによって除去できるため、XXゲート操作後の2つのキュービットと運動モードの組み合わせ状態は、p番目の運動モードでのフォノン励起の初期数nphがXXゲート操作の終了時に変化しないので、もつれが解消された(disentangled)と考えてもよい。したがって、XXゲート操作の前後のキュービット状態は、一般に、運動モードを含まずに、以下で説明する。
【0031】
より一般的には、側波帯の複合パルスを持続時間τ(「ゲート持続時間」と呼ばれる)にわたって適用することによって変換され、振幅関数Ω(t)と離調周波数関数μ(t)を有するi番目とj番目のキュービットの組み合わせ状態は、もつれ相互作用χi,j(τ)の観点から次のように記述することができる。
【数2】
ここで、
【数3】
であり、η i、jは、i番目(j番目)のイオンとモード周波数ωを有するp番目の運動モードの間の結合強度を定量化するラムディッケ(Lamb-Dicke)パラメータであり、g(t)は、g(t)=Ω(t)sin(ψ(t))と定義されるパルス関数であり、ψ(t)はパルスの累積位相関数(単に「位相関数」とも呼ばれる)
【数4】
であり、ψは、一般性を失うことなく、簡単にするために以下ゼロ(0)と見なすことができる初期位相であり、Pは運動モードの数(鎖102内のイオンの数Nに等しい)である。
【0032】
もつれゲート操作のためのパルスの構築
上記の2つのキュービット(トラップイオン)間のもつれを使用して、XXゲート操作を実行できる。XXゲート操作(XXゲート)は、単一キュービット操作(Rゲート)とともに、所望の計算プロセスを実行するように量子コンピュータを構築するために使用できるユニバーサルゲート{R,XX}のセットを形成する。鎖102内の2つのトラップイオン(例えば、i番目およびj番目のトラップイオン)の間でXXゲート操作を実行するために、トラップイオンの鎖102に送達するためのパルスを構築する際に、パルスの振幅関数Ω(t)および離調周波数関数μ(t)は、次のゲート要件を課すことによって、パルスが目的のXXゲート操作を確実に実行するように制御パラメータとして調整される。
【0033】
ゲート要件1:第1に、所望の回転角度θij(0<θij≦π/2)でXXゲート操作XX(θij)を実行するために、パルスによってi番目とj番目のトラップイオンとの間に生成されるもつれ相互作用χijは、回転角度θij/4と等しくなければならない。完全なもつれXXゲートは、θij=π/2を必要とする。この第1の要件はまた、ゼロ以外のもつれ相互作用の要件と呼ばれる。
【0034】
ゲート要件2:第2に、構築されたパルスが最適出力であるようにパルスを実装するために必要なレーザ出力を最小限にすることができる。この第2の要件は、レーザパルスが最小ピーク出力を有する要件とも呼ばれる。
【0035】
ゲート要件3:第3に、運動モードがパルスの送達によって励起されるときに初期位置から移動している鎖102内の全てのトラップイオンは、XXゲート操作の終了時に初期位置に戻らなければならない。この第3の要件は、運動モードによって励起されるトラップイオンが、それらの元の位置及び運動量値に戻る、イオンモードデカップリングの要件とも呼ばれる。
【0036】
しかしながら、大規模な量子計算における計算プロセスを実行するために上記のように構築された一連のレーザパルスは、そのようなレーザパルスを変調するために使用される光学および電子機器に関して複雑な技術的問題を引き起こす。本明細書に記載される実施形態では、イオントラップ102などのイオンを閉じ込めるためのイオントラップの設計および製造における自由度が、光学および電子機器における追加された技術的複雑性の一部を補償するために新たに導入される。したがって、構築されたパルスが単純化されるようにモード周波数ωを構成するために、イオントラップの閉じ込め電位を変調するイオントラップを設計および製造することが望ましい。いくつかの実施形態では、ゲート操作をよりロバストにするために、パルスのゲート持続時間の中間点で反転するパルスの位相などの、特定の対称性を有するようにパルスが選択される。したがって、XXゲート操作を実行するために使用されるパルスを構成する際に、次の構成条件が課される。
【0037】
条件1:モード周波数ωが、わずかな誤差δkで、4π/τの整数倍であるように運動モード構造が変調され、ここで、τはゲート持続時間であり、kは正の整数(すなわち、ω=4(k+δk)π/τ)である。
【0038】
条件2:パルス関数g(t)は、t∈[0,π/2]の場合、対称性g(t+π/2)=-g(t)を有するように選択される。すなわち、パルスは、逆位相であるが、同じ形状の2つの連続するパルスセグメント(すなわち、同じ離調周波数μ(t)および同じ振幅関数Ω(t))の組み合わせである。
【0039】
条件3:一例では、パルスは、パルスの振幅関数Ω(t)が、ゲート持続時間τの間に定数Ωを必要とすることによってさらに簡略化することができ、パルスの離調周波数関数μ(t)は2π/τの整数倍、μ(t)=2lπ/τであり、ここで、lは正の整数である。すなわち、パルス関数は、t∈[0,π/2]の場合、g(t)=Ωsin(2lπt/τ)と記述される。したがって、パルスの一定の振幅Ωおよびパルスの離調周波数μを決定する正の整数lは、XXゲート操作を実行するために使用されるパルスを構築する際に調整される制御パラメータである。
【0040】
上記のように、ゲート要件1(ゼロ以外のもつれ相互作用の要件とも呼ばれる)は、パルスによってi番目とj番目とのトラップイオンの間に生成されるもつれ相互作用χijが、回転角度の値θij(0<θij≦π/2)を有することを必要とする。
【0041】
条件1、2および3が課されると、もつれ相互作用χijは、
【数5】
として簡略化することができ、ここで、pは2kpl=lを満たす。
【0042】
ゲート要件2(レーザパルスが最小ピーク出力を有する要件とも呼ばれる)は、ラムディッケパラメータη i、jおよびモード周波数ωの所与のセットに関して、ゼロ以外のもつれ相互作用の要件を満たすために一定振幅Ωが最低の値であるように正の整数lが選択されることを必要とする。すなわち、無次元量|χij/Ωτ|によって定義されるゲート出力比が最大化されるように正の整数lが選択される。正の整数lが選択されると、一定振幅Ωをゲート要件1、χij=θij/4に基づいて計算することができる。
【0043】
ゲート要件3(イオンモードデカップリングの要件とも呼ばれる)は、パルスの送達によって励起されるトラップイオンが初期位置に戻ることを必要とする。ゲート持続時間τの間のパルスの印加後、i番目およびj番目のトラップイオンを有するp番目の運動モードの残留結合αが、ラムディッケパラメータη i、j、パルスのパルス関数g(t)、およびp番目の運動モードのモード周波数ωによって決定され、εのエラーバジェット(error budget)より小さいことが必要とされ、それによって位相空間における初期位置からのi番目およびj番目のトラップイオンの変位は、
【数6】
として制限され、ここで、φは、時間t=0でのp番目の運動モードに関連する初期位相であり、Tは、p番目の運動モードの温度であり、hは、換算プランク定数であり、kは、ボルツマン定数である。
【0044】
条件1、2および3が課されると、残留結合αは、
【数7】
として簡略化することができる。
【0045】
平均フォノン数nphが、公知のレーザ冷却法、例えばドップラー冷却または分解サイドバンド冷却によって1未満(nph<1)であり、p番目の運動モードに関連する初期位相φが、一般性を失うことなく簡単にするためにゼロであるように運動モードが十分に冷却されたと仮定すると、残留結合αは、
【数8】
であるので、
【数9】
に制限される。
【0046】
運動周波数ωの誤差δkが小さい範囲(すなわち、|δk|<<1)では、残留結合αの上限は、
【数10】
のような誤差δkの異なる次数の項の級数(series of terms)として展開することができ、ここで、
【数11】
である。
【0047】
なお、残留結合αの所与のエラーバジェットεに関して、k=l/2を満たす運動モードpが存在しない場合、モード周波数ωにおいて必要な誤差δkの範囲(bound)は、正の整数lが偶数であるパルスの場合、正の整数lが奇数であるパルスよりもはるかに厳しくない。したがって、いくつかの実施形態では、正の整数lは偶数であるように選択される。
【0048】
また、なお、本明細書に記載の方法で構築されたパルスは、XXゲート操作が操作されることを目的とするイオンの近くにある傍観イオンによって被るクロストークエラーを抑制するために容易に適合することができる。XXゲート、XX(θij)は、2つのXXゲートXX(θij/2)と単一キュービットゲートの組み合わせとして条件2を満たすパルスによって実装することができる。条件1および2のために、ゲート持続時間τの前半で蓄積したもつれ回転角度は、ゲート持続時間τの後半で蓄積したものと既に同じになる。すなわち、
【数12】
である。条件2のようなパルスの位相に反転させ、傍観イオンの位相を変化しないままにしておくことによって、クロストークは抑制される。
【0049】
モード構成
本明細書に記載される実施形態では、イオンを閉じ込めるためのイオントラップは、条件1(すなわち、モード周波数ωが、わずかな誤差δkで4π/τの整数倍、ω=4(k+δk)π/τであり、ここで、kは正の整数であり、τはゲート持続時間である)を満たすように操作される。すなわち、静的(DC)電圧Vおよび閉じ込め電位を与えるためにイオントラップ200の制御電極に印加された無線周波数(RF)電圧は、結果として生じる運動モード構造が条件1を満たすように調整される。図7は、結果として生じる運動モード構造が条件1を満たすように、3つのイオン702、704および706を閉じ込める、例示的なサンディア高光アクセス(HOA)2.0トラップ700のいくつかの電極に印加された静的(DC)電圧Vの数値的に計算されたプロファイルを示す。この例のイオントラップ700において、XXゲート操作を実行するために構築するパルスは、ゲート持続時間τ=69.466μsを有するように選択され、3つの運動モードである、質量中心(COM)モード、傾斜モード、およびジグザグモードは、それぞれ正の整数k=97、95、および92に対応するモード周波数ωを有する。この例のHOA2.0トラップ700において、50.6MHzの周波数での無線周波数(RF)電圧が、289.71Vの振幅でトラップ電極にさらに印加される。図7に示される静的(DC)電圧Vのプロファイルは、約71μmの距離でイオントラップ700の表面上で約4.3μmの間隔で鎖内に直線的に整列された3つのイオン702、704、および706をトラップする。静的(DC)電圧Vは、中心イオン704上で、端部イオン702および704上よりわずかに高い半径方向の閉じ込めを生成し、COMモードの場合、2.793×2πMHz、傾斜モードの場合、2.735×2πMHz、およびジグザグモードの場合、2.649×2πMHzのモード周波数ωを生成する。これらのモード周波数ωは、条件1を満たす、それぞれ正の整数k=97、95、および92に対応するモード周波数ωからわずかに外れる。しかしながら、下記に説明しているように、この偏差(誤差δkによって特徴付けられる)の影響は小さい。
【0050】
図8は、図7に示される例において、μ=2lπ/τとして離調周波数μを決定する正の整数lの関数としてイオン702と704との間のもつれ相互作用のために数値的に計算されたゲート出力比|χij/Ωτ|800を示す。正の整数lが偶数であるならば、正の整数lが192であり、正の整数lが奇数であるならば193であるように選択される場合、ゲート出力比|χij/Ωτ|は最大化される(ゲート要件2)。l=192のパルスは、l=193のパルスの場合の0.101MHzと比較してΩ/2π=0.133MHzでわずかに大きな出力を必要とする。
【0051】
図9Aおよび9Bは、図7に示される例において、それぞれ193および192の正の整数lを選択して数値的に計算されたパルス関数g(t)902および904を示す。図9Bのl=192のパルス関数g(t)904は、ゲート持続時間τ=69.466μsの中間点で尖点を示し、これは、図9Aのl=193のパルス関数g(t)902には存在しない。しかしながら、l=192のパルス関数g(t)904のこの尖点は、尖点の点において適切な単一キュービットゲートを適用することによって効果的に除去することができる。
【0052】
図10は、図7に示される例において、モード周波数ωの変動δωの関数として数値的に計算された残留結合αを示す。簡単にするために、3つ全ての運動モードが、同じ周波数変動δωを有するように選択される。l=193の残留結合α1002およびl=192の残留結合α1004の両方は、運動モード構成の静誤差(すなわち、条件1を正確に満たすモード周波数ωの値からのモード周波数ωの偏差)のためだけに周波数変動δω=0でゼロ以外の値を含み、ゼロ以外の値の周波数変動δωにおけるより大きなゼロ以外の値は、ハードウェアエラーまたはノイズのために増加する。l=192(偶数)の残留結合α1004は、上記のように、奇数lの場合のδk 依存性の代わりに偶数lの場合の残留結合αのδk 依存性のため、l=193(奇数)の残留結合α1002よりはるかに小さい。なお、奇数lに対する偶数lのこの利点は、本明細書に記載される例の場合のように任意の運動モードに関してl≠2kの場合に存在する。トレードオフは、l=192のパルスが、l=193のパルスと比較して約30%高い出力を必要とすることである。偶数lと奇数lとの間の選択は、ハードウェアの制限を十分に考慮しながらケースバイケースで行う必要がある。
【0053】
図11は、量子コンピュータを使用して計算を実行する方法1100を示すフローチャートを示す。
【0054】
ブロック1110において、複数のトラップイオンの運動モード構造が変調される。複数のトラップイオンの各々は、キュービットを定義する2つの周波数分離状態を有する。
【0055】
ブロック1120において、レーザパルスの離調周波数関数および振幅関数が使用されて、複数のトラップイオンのうちのトラップイオンのペアの間にもつれ相互作用が計算される。
【0056】
ブロック1130において、量子計算は、計算された離調周波数関数および振幅関数を有するレーザパルスを、ゲート持続時間の間、トラップイオンのペアに印加することによって量子コンピュータにおいて実行される。
【0057】
上記のように、鎖内の2つのトラップイオン間でもつれゲート操作を実行するためにパルスを生成する際に、ゲート要件を満たすように制御パラメータ(パルスの離調周波数関数および振幅関数)が決定される。そうすることで、構築されたパルスが単純になり、速度および帯域幅が制限されたハードウェアにおいて実際に実装できるように鎖内のトラップイオンの運動モード構造が構成される。イオンを閉じ込めて運動モード構造を所望の方法で変調するイオントラップを設計する場合、イオントラップの電極は所望の閉じ込め電位を提供するように構造化することができる。適切な技術の進歩により、電極の数の増加および電極の様々な形状を利用して、所望の閉じ込め電位を誘導することができる。本明細書に記載される実施形態は、実用的な大規模量子コンピュータを構築するために克服しなければならない技術的な複雑性を再配分する方法を提供する。
【0058】
上記は特定の実施形態を対象としているが、他のさらなる実施形態は、その基本的な範囲から逸脱することなく考案することができ、その範囲は、以下の特許請求の範囲によって決定される。
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4
図5
図6A
図6B
図7
図8
図9A
図9B
図10
図11