(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-23
(45)【発行日】2024-07-31
(54)【発明の名称】リポペプチド及びポリ(I:C)を含むアジュバントを使用したがん免疫療法組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 38/08 20190101AFI20240724BHJP
A61K 31/713 20060101ALI20240724BHJP
A61K 39/39 20060101ALI20240724BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240724BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240724BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20240724BHJP
A61K 31/704 20060101ALI20240724BHJP
【FI】
A61K38/08 ZNA
A61K31/713
A61K39/39
A61P35/00
A61P43/00 121
A61K45/00
A61K31/704
(21)【出願番号】P 2023572084
(86)(22)【出願日】2022-05-24
(86)【国際出願番号】 KR2022007348
(87)【国際公開番号】W WO2022250416
(87)【国際公開日】2022-12-01
【審査請求日】2024-02-05
(31)【優先権主張番号】10-2021-0065980
(32)【優先日】2021-05-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】520053843
【氏名又は名称】チャ ワクチン リサーチ インスティテュート カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】CHA VACCINE RESEARCH INSTITUTE CO.,LTD
【住所又は居所原語表記】560,Dunchon-daero,Jungwon-gu,Seongnam-si,Gyeonggi-do 13230 Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヨム,ジョンソン
(72)【発明者】
【氏名】チョ,ジョンギ
(72)【発明者】
【氏名】アン,ビョンチョル
(72)【発明者】
【氏名】チョン,スギョン
(72)【発明者】
【氏名】ホ,ユンギ
(72)【発明者】
【氏名】チョン,ホンジェ
(72)【発明者】
【氏名】キム,チャン
【審査官】伊藤 基章
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-506309(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2014-0119362(KR,A)
【文献】特表2020-531579(JP,A)
【文献】CUI, L. et al.,Front Cell Dev Biol,2021年01月,Vol. 8, Article No. 611444,pp. 1-15
【文献】SHARMA, N. et al.,Proc Natl Acad Sci U S A,2019年,Vol. 116, No. 21,pp. 10453-10462
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リポペプチド及びポリ(I:C)、並びに、免疫チェックポイント阻害剤、TLR(トール様受容体)リガンド、及びサポニンからなる群より選択される少なくとも1つを有効成分として含む、がんの予防又は処置に使用するための医薬合剤
、
ここで前記リポペプチドは、Pam3Cys-SKKKK、PHC-SKKKK、Ole2PamCys-SKKKK、Pam2Cys-SKKKK、PamCys(Pam)-SKKKK、Ole2Cys-SKKKK、Myr2Cys-SKKKK、PamDhc-SKKKK、PamCSKKKK及びDhc-SKKKKからなる群から選択される少なくとも1つである、前記医薬合剤。
【請求項2】
T細胞免疫応答を活性化することを介してがんを予防又は処置する、請求項1に記載の医薬合剤。
【請求項3】
リポペプチドが、Pam3Cys-SKKK
Kである、請求項1に記載の医薬合剤。
【請求項4】
リポペプチド及びポリ(I:C)が0.1~10:1の重量比で含まれる、請求項1に記載の医薬合剤。
【請求項5】
水溶液製剤である、請求項1に記載の医薬合剤。
【請求項6】
リポペプチド及びポリ(I:C)、並びに、免疫チェックポイント阻害剤を有効成分として含む、請求項1に記載の医薬合剤。
【請求項7】
免疫チェックポイント阻害剤が、抗CTLA4抗体、抗PD-L1抗体及び抗PD-1抗体からなる群から選択される少なくとも1つである、請求項6に記載の医薬合剤。
【請求項8】
リポペプチド及びポリ(I:C)、並びに、TLR(トール様受容体)リガンドを有効成分として含む、請求項1に記載の医薬合剤。
【請求項9】
TLR(トール様受容体)リガンドが、TLR1~13からなる群から選択される1つ以上のリガンドである、請求項8に記載の医薬合剤。
【請求項10】
リポペプチド及びポリ(I:C)、並びに、サポニンを有効成分として含む、請求項1に記載の医薬合剤。
【請求項11】
サポニンが、QS21、Quil A、QS7、QS17及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項10に記載の医薬合剤。
【請求項12】
対象における癌に対する免疫応答を発生させる
ための医薬の製造における、リポペプチド及びポリ(I:C)、並びに、免疫チェックポイント阻害剤、TLR(トール様受容体)リガンド、及びサポニンからなる群より選択される少なくとも1つを有効成分として含むがんの予防又は処置のための医薬合剤
の使用、
ここで前記リポペプチドは、Pam3Cys-SKKKK、PHC-SKKKK、Ole2PamCys-SKKKK、Pam2Cys-SKKKK、PamCys(Pam)-SKKKK、Ole2Cys-SKKKK、Myr2Cys-SKKKK、PamDhc-SKKKK、PamCSKKKK及びDhc-SKKKKからなる群から選択される少なくとも1つである、前記使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有効成分としてリポペプチド及びポリ(I:C)を含むアジュバントを含むがん免疫療法組成物に関する。
【0002】
本発明はまた、免疫チェックポイント阻害剤又は他のTLRリガンドとともにリポペプチド及びポリ(I:C)を含むアジュバントを共投与することによって抗がん免疫活性の向上を有するがん免疫療法組成物にも関する。
【背景技術】
【0003】
TLR(トール様受容体)は先天性免疫応答を誘導する細胞受容体である。TLRは、最初の病原体由来の病原体関連分子パターン(PAMP)を認識し、シグナル伝達経路を通し先天性免疫防御メカニズムを活性化させ、それによって初期から病原体侵襲を防御する。TLRはまた、樹状細胞を活性化し且つ適応性免疫応答、例えばT細胞及びB細胞を活性化することによって重要な免疫の役割を果たしている。
【0004】
TLRは、ほとんどの免疫細胞で発現すると知られているが、種々のがん細胞でも発現することも知られている(非特許文献1、Cancer Microenvironment (2009) 2 (Suppl 1):S205-S214, Cancer Cells Expressing Toll-like Receptors and the Tumor Microenvironment)。
【0005】
【0006】
がん細胞で発現するTLRは、がん細胞でのサイトカイン及びケモカインの分泌を通しがん細胞への免疫細胞の浸潤を誘導することによって、腫瘍微小環境での免疫応答を向上させることができる。
【0007】
加えて、TLR刺激物質(TLRリガンド)は、がん細胞に直接に処置させた場合、細胞死を誘導することが報告されてきた。TLRリガンドはがん細胞内でカスパーゼ経路を活性化することによってがん細胞のアポトーシスを誘導し、その結果、細胞死を引き起こし、TLRリガンドによって活性化されたI型IFNは免疫細胞の活性化を通しアポトーシスをさらに促進する。
【0008】
がん細胞は、TLRリガンドによって死滅される場合、内在タンパク質及び免疫原性細胞死マーカーを分泌し、このマーカーは樹状細胞を活性化し、次いでがん細胞特異的NK細胞及びT細胞ががん細胞を死滅させる。
【0009】
加えて、がん細胞がTLRリガンドにより死滅される場合、がん細胞に由来するがん抗原の曝露及びDAMP(ダメージ関連分子パターン)の分泌が促進される。曝露されたがん抗原は、TLRリガンドのアジュバント効果によりがん抗原特異的免疫応答を誘導することができる。したがって、TLRリガンドは、がん細胞死及びがん抗原特異的免疫応答を誘導することによりがん免疫薬として開発することができると期待される。
【0010】
免疫チェックポイントタンパク質は、免疫細胞の分化、増殖及び活性を阻害する細胞膜タンパク質であるが、免疫細胞においてだけではなくがん細胞においても発現する。免疫チェックポイントタンパク質、例えばがん細胞で発現したPD-L1は、がん特異的T細胞を不活化させることにより、T細胞の免疫攻撃からがん細胞を保護する上で重要な役割を果たし、それによって、がんの免疫回避メカニズムを誘導することが知られている。こういった免疫チェックポイントタンパク質の機能を阻害することによって、免疫チェックポイント阻害剤は、がん免疫薬ががん細胞を排除する一助となる。
【0011】
免疫チェックポイント阻害剤は、単独で処置された場合に患者のうちの約30%で高い治療効果があるが、残りの患者では治療効果がまったくないことが知られている。免疫チェックポイント阻害剤の限られた有効性の理由は、免疫チェックポイント阻害剤に対する低応答率及び抵抗性であることが知られている。
【0012】
免疫チェックポイント阻害剤の低応答率は、様々ながんにおいて免疫チェックポイントタンパク質の発現レベルが異なることに起因し、その場合、低発現のがんにおいて応答率はより低い。加えて、免疫チェックポイント阻害剤を通し回避メカニズムが抑制される場合であっても、がん細胞を死滅させることができるがん特異的免疫応答ががん抗原への曝露が低いことに起因して誘導されず、したがって低応答率がもたらされる。それ故、免疫チェックポイント阻害剤の限界は、がん抗原の曝露を高め且つがん特異的免疫応答を向上させることができる方法の併用を通してのみ、克服することができる。
【0013】
免疫チェックポイント阻害剤への抵抗性は、腫瘍特異的免疫細胞ががん組織へと侵入することができず、その結果がん組織内での免疫細胞の浸潤のない初期の低免疫原性環境を形成して、免疫療法に抵抗性をもたらすことになるために、発生する。
【0014】
免疫チェックポイント阻害剤の低応答率及び抵抗性を克服するために低免疫原性腫瘍環境を高免疫原性腫瘍環境へと転換することが必要であり、このことはTLRリガンドを使用して免疫原性を高めることによって解決することができる。
【0015】
本発明者らは、先行研究において、TLR2リガンドであるリポペプチドとTLR3リガンドであるポリ(I:C)とを含むワクチン組成物を開発し、このワクチン組成物が強力な免疫応答を誘導することを確認し(韓国特許第10-0900837号、韓国特許第10-1501583号)、そしてこのワクチン組成物をL-pampoと命名した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【文献】韓国特許第10-0900837号
【文献】韓国特許第10-1501583号
【非特許文献】
【0017】
【文献】Cancer Microenvironment (2009) 2 (Suppl 1):S205-S214, Cancer Cells Expressing Toll-like Receptors and the Tumor Microenvironment)
【発明の概要】
【0018】
本発明では、本発明者らは、L-Pampoが強力な免疫抗がん応答を誘導することを発見し、腫瘍細胞に投与されたL-Pampoは、腫瘍微小環境を変化させ且つがん抗原に特異的な免疫応答を誘導するという抗がん作用を使用することによって、がん細胞の増殖を阻害し、アポトーシスを誘導し且つ転移を阻害すること、並びに、他のTLRリガンド、サポニン又は免疫チェックポイント阻害剤とL-Pampoとの組み合わせが、がん細胞の免疫回避を克服し且つ抗がん効能を劇的に改善すること、を確認することによって本発明を完成した。
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
発明の概要
有効成分としてリポペプチド及びポリ(I:C)を含むアジュバントを含む、がんの予防又は処置のための医薬組成物を提供することが、本発明の一目的である。
【0020】
対象におけるがんに対する免疫応答を発生させる方法であって、有効成分としてリポペプチド及びポリ(I:C)を含むアジュバントを含む、がんの予防又は処置のための医薬組成物をヒト以外の対象に投与するステップを含む、方法を提供することが、本発明の別の目的である。
【0021】
リポペプチド及びポリ(I:C)を含むアジュバント並びに有効成分として免疫チェックポイント阻害剤を含む、がんの予防又は処置のための合剤(組み合わせ製剤)を提供することが、本発明の別の目的である。
【0022】
リポペプチド及びポリ(I:C)を含むアジュバント並びに有効成分としてTLRリガンドを含む、がんの予防又は処置のための合剤(組み合わせ製剤)を提供することが、本発明の別の目的である。
【0023】
リポペプチド及びポリ(I:C)を含むアジュバント並びに有効成分としてサポニンを含む、がんの予防又は処置のための合剤(組み合わせ製剤)を提供することが、本発明の別の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0024】
上記目的を達成するために、本発明の一態様では、本発明は、有効成分としてリポペプチド及びポリ(I:C)を含むアジュバントを含む、がんの予防又は処置のための医薬組成物を提供する。
【0025】
本発明の別の態様では、本発明は、対象におけるがんに対する免疫応答を発生させる方法であって、有効成分としてリポペプチド及びポリ(I:C)を含むアジュバントを含む、がんの予防又は処置のための医薬組成物をヒト以外の対象に投与するステップを含む、方法を提供する。
【0026】
本発明の別の態様では、本発明は、リポペプチド及びポリ(I:C)を含むアジュバント並びに有効成分として免疫チェックポイント阻害剤を含む、がんの予防又は処置のための合剤(組み合わせ製剤)を提供する。
【0027】
本発明の別の態様では、本発明は、リポペプチド及びポリ(I:C)を含むアジュバント並びに有効成分としてTLR(トール様受容体)リガンドを含む第2の成分を含む、がんの予防又は処置のための合剤(組み合わせ製剤)を提供する。
【0028】
本発明の別の態様では、本発明は、リポペプチド及びポリ(I:C)を含むアジュバント並びに有効成分としてサポニンを含む、がんの予防又は処置のための合剤(組み合わせ製剤)を提供する。
【発明の効果】
【0029】
本発明の一態様で提供されるリポペプチド及びポリ(I:C)を含むアジュバントを有効成分として含有するがん免疫療法組成物は、様々な癌に対して多大な治療効果を誘導することができ且つ、様々なメカニズムを有する、従来の抗がん薬、例えば化学抗がん薬、抗がんワクチン及び免疫チェックポイント阻害剤との併用投与を通し抗がん効果を著しく増強することにより、抗がん療法に効果的に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】マウス結腸がん細胞株においてがん免疫薬のカスパーゼ-3活性を確認するグラフである。
【
図2】黒色腫マウスモデルにおいてがん免疫薬の腫瘍抑制効能を確認するグラフである。
【
図3】結腸がんマウスモデルにおいてがん免疫薬の腫瘍抑制効能を確認するグラフである。
【
図4】結腸がんマウスモデルにおいて免疫蛍光染色法を使用して腫瘍内の免疫細胞浸潤に対するがん免疫薬の効果を解析した結果を示す1組の写真である。
【
図5】結腸がんマウスモデルにおいてフローサイトメトリーを使用して腫瘍内の免疫細胞浸潤に対するがん免疫薬の効果を解析した結果を示す1組のグラフである。
【
図6】結腸がんマウスモデルにおいてELISPOTアッセイを使用してがん免疫薬による腫瘍特異的な細胞性免疫応答の誘導を解析した結果を示す1組の写真及びグラフである。
【
図7】結腸がんマウスモデルにおいてがん免疫薬のアブスコパル効能を解析した結果を示す1組のダイアグラム及びグラフである。
【
図8】膀胱がんマウスモデルにおいてがん免疫薬の腫瘍抑制効能を確認するグラフである。
【
図9】膵臓がんマウスモデルにおいてがん免疫薬の腫瘍抑制効能を確認するグラフである。
【
図10】結腸がんマウスモデルにおいて免疫チェックポイント阻害剤との組み合わせでのがん免疫薬の効能を確認する1組のグラフである。
【
図11a】結腸がんマウスモデルにおいて他のTLRリガンド又はサポニンとの組み合わせでのがん免疫薬の効能(腫瘍サイズ)を確認するグラフである。
【
図11b】結腸がんマウスモデルにおいて他のTLRリガンド又はサポニンとの組み合わせでのがん免疫薬の効能(腫瘍重量)を確認するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0032】
本発明の実施形態は他の種々の形態に改変することができ、本発明の範囲は下記の実施形態に限定されるものではない。当技術分野に関する平均的な知識を有する当業者であれば、本発明の実施形態が本発明をより正確に説明するために与えられていることは十分に理解される。
【0033】
加えて、本明細書全体を通し、要素の「包含」とは、他の要素を除外するものではなく、具体的に別様に述べられていない限り他の要素を含むことができる。
【0034】
本発明の一態様では、本発明は、有効成分としてリポペプチド及びポリ(I:C)を含むアジュバントを含む、がんの予防又は処置のための医薬組成物を提供する。
【0035】
リポペプチドは、細菌及びマイコプラズマに由来するリポペプチドの合成アナログであり、J. Metzgerらによって最初に合成された(Metzger, J. et al., 1991, Synthesis of novel immunologically active tripalmitoyl-S-glycerylcysteinyllipopeptides as useful intermediates for immunogen preparations. Int. J. Peptide Protein Res. 37: 46-57)。以下の式(1)で表される化合物の分子構造は、N-パルミトイル-S-[2,3-ビス(パルミトイルオキシ)-(2RS)-プロピル]-[R]-システイン-SKKKK(pam3Cys-SKKKK)であり、その他種々のアナログが合成されてきた。
【0036】
【0037】
H. Schildらによれば、Pam3Cys-Ser-SerをインフルエンザウイルスT細胞エピトープと組み合わせ且つマウスに投与した場合、ウイルス特異的な細胞傷害性Tリンパ球(CTL)が誘導された。一般に、リポペプチドはTLR2に対するリガンドとして知られている。そのようなリポペプチドの使用はPam3Cys-SKKKKに限定されず、リポペプチドはグリセロール分子に結合した脂肪酸といくつかのアミノ酸から構成することができる。具体的な例としては、PHC-SKKKK、Ole2PamCys-SKKKK、Pam2Cys-SKKKK、PamCys(Pam)-SKKKK、Ole2Cys-SKKKK、Myr2Cys-SKKKK、PamDhc-SKKKK、PamCSKKKK、Dhc-SKKKK等が挙げられる。分子中の脂肪酸の数は、1個以上とすることができる。リポペプチド中のアミノ酸の数は1個以上とすることができる。加えて、脂肪酸及びアミノ酸は化学的に改変されていてもよい。さらに、リポペプチドは、分子の一部として又は分子全体としていずれかで、グラム陽性若しくはグラム陰性の細菌又はマイコプラズマに由来するリポタンパク質とすることができる。
【0038】
加えて、ポリ(I:C)は、in vitro及びin vivo研究において1型インターフェロンの強力な誘導体として使用されてきた。さらに、ポリ(I:C)は、哺乳動物において最も強力な抗原提示細胞である樹状細胞を安定的に且つ成熟して形成することが知られている(Rous, R. et al 2004. poly(I:C) used for human dendritic cell maturation preserves their ability to secondarily secrete bioactive Il-12, International Immunol. 16: 767-773)。これらの先行報告によれば、ポリ(I:C)は強力なIL-12インデューサーであり、IL-12はTh1の発達を促進し且つ細胞性免疫応答及びIgG2a又はIgG2bの形成を誘導する重要なサイトカインである。加えて、ポリ(I:C)はペプチド抗原に対する強力なアジュバント活性を有することが知られている(Cui, Z. and F. Qui. 2005. Synthetic double stranded RNA poly I:C as a potent peptide vaccine adjuvant: Therapeutic activity against human cervical cancer in a rodent model. Cancer Immunol. Immunotherapy 16: 1-13)。ポリ(I:C)は代表的なTLR3リガンドとして知られている。ポリ(I:C)の長さは50から5,000bpまで、好ましくは50から2,000bpまで、より好ましくは100から500bpまでの範囲とすることができるが、常にそれに限定されるわけではない。
【0039】
リポペプチド及びポリ(I:C)は、0.1~10:1、1.25~2:1、1.25~1.5:1、1.25:1又は1.25:1の重量比で医薬組成物に含めることができるが、特にそれに限定されるわけではなく、患者の状態に基づいて適当なレベルに調整してもよい。さらに、医薬組成物は水溶液製剤とすることができる。
【0040】
医薬組成物は、薬学的に許容される担体、希釈剤及びアジュバントからなる群から選択される少なくとも1つをさらに含むことができる。例えば、医薬組成物は薬学的に許容される担体を含むことができるとともにヒト用途又は獣医学用途向けに製剤化し且つ種々の経路を通して投与することができる。投与経路は、経口、腹腔内、静脈内、筋肉内、皮下、皮内等とすることができる。好ましくは、医薬組成物は注射剤として製剤化及び投与される。注射剤は、水性溶媒、例えば生理食塩水及びリンゲル液並びに非水性溶媒、例えば植物油、高級脂肪酸エステル(例えばオレイン酸エチル等)、アルコール(例えばエタノール、ベンジルアルコール、プロピレングリコール、グリセリン等)等を使用して調製することができ、且つ医薬担体、例えば劣化を防止するための安定化剤(例えばアスコルビン酸、亜硫酸水素ナトリウム、ピロ亜硫酸ナトリウム、BHA、トコフェロール、EDTA等)、乳化剤、pHを調整するための緩衝剤及び微生物の増殖を阻害するための保存剤(例えば硝酸フェニル水銀、チメロサール、塩化ベンザルコニウム、フェノール、クレゾール、ベンジルアルコール等)を含有することができる。医薬組成物は薬学的に有効な量で投与することができる。この場合、「薬学的に有効な量」という用語は、抗がん免疫効果を呈するのに十分な量であるが、副作用又は重度の若しくは過度の免疫応答を引き起こさないだけの量を指す。正確な投薬濃度は、投与される組成物に左右されるとともに、医学分野でよく知られている要因、例えば患者の年齢、体重、健康、性別、薬物に対する患者の感度、投与経路及び投与方法にしたがって当業者であれば容易に決定することができ且つ1回投与しても数回投与してもよい。
【0041】
本発明の別の態様では、本発明は、対象においてがんに対する免疫応答を発生させる方法であって、有効成分としてリポペプチド及びポリ(I:C)を含むアジュバントを含む、がんの予防又は処置のための医薬組成物をヒト以外の対象に投与するステップを含む、方法を提供する。
【0042】
医薬組成物は、ヒト(患者)に投与される場合、in vivoでの免疫応答を刺激するのに有効な量で投与することができる、例えば、ヒトに1回又は数回で投与してもよく、量は0.25~3.6mg、より好ましくは0.45~1.8mgとすることができるが、常にそれに限定されるわけではない。
【0043】
本発明の別の態様では、本発明は、リポペプチド及びポリ(I:C)を含むアジュバント並びに有効成分として免疫チェックポイント阻害剤を含む、がんの予防又は処置のための合剤を提供する。
【0044】
この場合、免疫チェックポイント阻害剤は、抗CTLA4抗体、抗PD-L1抗体及び抗PD-1抗体からなる群から選択される少なくとも1つとすることができる。
【0045】
より具体的には、免疫チェックポイント阻害剤は、抗CTLA4抗体、その誘導体又はその抗原結合断片、抗PD-L1抗体、その誘導体又はその抗原結合断片、抗LAG-3抗体、その誘導体又はその抗原結合断片、抗OX40抗体、その誘導体又はその抗原結合断片、抗TIM3抗体、その誘導体又はその抗原結合断片、及び抗PD-1抗体、その誘導体又はその抗原結合断片からなる群から選択することができる。例えば、CTLA-4を標的とする免疫チェックポイント阻害剤として、Yervoy(イピリマブ)を使用することができ;PD-L1を標的とする免疫チェックポイント阻害剤として、Tecentriq(アテゾリズマブ)、アベルマブ(Bavencio)、Imfinzi(デュルバルマブ)等を単独又は組み合わせで使用することができる;並びにPD-1を標的とする免疫チェックポイント阻害剤として、Keytruda(ペムブロリズマブ)、Opdivo(ニボルマブ)、Libtayo(セミプリマブ)等を単独又は組み合わせで使用することができる。
【0046】
本発明の別の態様では、本発明は、リポペプチド及びポリ(I:C)を含むアジュバント並びに有効成分としてTLR(トール様受容体)リガンドを含む、がんの予防又は処置のための合剤を提供する。
【0047】
この場合、TLR(トール様受容体)リガンドは、TLR1~13からなる群から選択される1つ以上のリガンドとすることができる。例えば、TLR7リガンド(Imiquimod等)、TLR7/8リガンド(イミダゾキノリン等)及びTLR9リガンド(CpG ODN等)を使用することができる。
【0048】
本発明の別の態様では、本発明は、リポペプチド及びポリ(I:C)を含むアジュバント並びに有効成分としてサポニンを含む、がんの予防又は処置のための合剤を提供する。
【0049】
この場合、サポニンは、QS21、Quil A、QS7、QS17及びそれらの組み合わせからなる群から選択することができる。
【0050】
本発明の一態様で提供される、有効成分としてリポペプチド及びポリ(I:C)を含むアジュバントを含むがん免疫療法組成物は、様々な癌に対して多大な治療効果を誘導することができ且つ、様々なメカニズムを有する、従来の抗がん薬、例えば化学抗がん薬、抗がんワクチン及び免疫チェックポイント阻害剤との併用投与を通し抗がん効果を著しく増強することにより、抗がん療法に効果的に使用することができる。
【0051】
具体的には、本発明のリポペプチド及びポリ(I:C)を含むアジュバントを含むがん免疫療法組成物(以下L-pampoと呼ぶ)は、リポペプチド又はポリ(I:C)を単独で処置した場合を超えて、がん細胞内でカスパーゼ経路のカスパーゼ-3をさらに活性化することによってがん細胞のアポトーシスを誘導することが確認された(
図1を参照のこと)。したがって、L-pampoは結腸がん細胞のアポトーシスを最も強く誘導することが確認された。
【0052】
加えて、L-pampoは、黒色腫マウスモデルにおいて腫瘍サイズを縮小させることが確認された(
図2を参照のこと)。結腸がんマウスモデルでは、L-pampoは腫瘍サイズを縮小させたが、このことにより、L-pampoは抗がん効能を有することが示唆される(
図3を参照のこと)。さらに、本発明のL-pampoは、結腸がんマウスモデルの腫瘍内へと多数のCD8 T細胞の浸潤を誘導しつつ、一方でTreg+細胞を抑制することにより、腫瘍を死滅させることができる免疫活性を誘導することが確認された(
図4及び
図5を参照のこと)。
【0053】
加えて、本発明のL-pampoは、結腸がんマウスモデルにおいてIFN-γの分泌を増加させることによって腫瘍特異的な細胞性免疫応答を強力に誘導することが確認された(
図6を参照のこと)。本発明のL-pampoはアブスコパル効能を示し、その結果、L-pampoで処置した腫瘍のサイズとともにL-pampoで処置しなかった腫瘍のサイズを縮小させることも確認された(
図7を参照のこと)。
【0054】
同時に、膀胱がんマウスモデルにおいてL-pampoは腫瘍サイズを縮小させることが確認された(
図8を参照のこと)。膵臓がんマウスモデルにおいてもL-pampoは腫瘍サイズを縮小させることが確認された(
図9を参照のこと)。上記の結果は、本発明のL-pampoが種々のがんにおいて抗がん活性を呈することを示唆している。
【0055】
他方で、本発明のL-pampoと免疫チェックポイント阻害剤であるPD-1抗体を組み合わせで投与した場合、単独で投与した場合と比較して腫瘍サイズは有意に縮小することが確認された(
図10を参照のこと)。したがって、L-pampoと免疫チェックポイント阻害剤の併用処置は、強力な抗がん効能を呈することがこと示唆された。加えて、本発明のL-pampoは、別のTLRリガンド(Imiquimod)又はサポニン(QS-21)と組み合わせで投与された場合、単独で投与された場合と比較して腫瘍サイズ及び重量が有意に縮小することが確認された(
図11a及び
図11bを参照のこと)。したがって、他のTLRリガンド又はサポニンとの本発明のがん免疫療法剤であるL-pampoの併用処置は相乗効果を有するとともに強力な抗がん効能を示すことができることが確認された。
【0056】
本発明のリポペプチド及びポリ(I:C)を含むL-pampoは、がん特異的な細胞性免疫応答を誘導し、多数のCD8+ T細胞を腫瘍内へと浸潤させ、腫瘍の成長を強力に阻害する強力な抗がん効能を示した。上記の結果より、L-pampoを含有するがん免疫療法組成物の腫瘍内投与は、がん細胞を死滅させ且つがん特異的免疫応答及び免疫細胞の腫瘍内浸潤を通し強力な抗がん効能を呈する免疫療法剤として使用できることが確認された。
【0057】
以下、本発明について以下の実施例及び実験例により詳細に説明する。
【0058】
しかし、以下の実施例及び実験例は本発明を単に例示するためのものであり、本発明の内容がそれらに限定されるものではない。
【0059】
[実施例1]
結腸がん細胞株MC38細胞におけるリポペプチド及びポリ(I:C)を含むがん免疫薬のカスパーゼ-3活性の解析
<1-1>細胞播種及び刺激
結腸がん細胞株MC38細胞を12ウェル培養プレートに1.5×105細胞/ウェルの密度で播種した。翌日、プレートを、TLR2リガンド(Pam3CSK4)、TLR3リガンド(Poly(I:C))、又はTLR2リガンド(Pam3CSK4)及びTLR3リガンド(Poly(I:C))の混合物であるL-pampoで処理し、次いで24時間培養した。このとき、TLR2リガンド(Pam3CSK4)50μgとTLR3リガンド(Poly(I:C))40μgを混合することによってL-pampoを調製した。
【0060】
<1-2>細胞抽出物の調製
24時間の刺激が終了したら、細胞を回収し、溶解緩衝液約100μLに再懸濁し、氷上で5分間培養した。1000×gで4℃で10分間遠心分離した後、上清の溶解物を新しいeチューブに移した。BCA解析により各試料の濃度を測定した後、全試料の濃度を同一であるように調整した。この細胞抽出物試料を、即時使用の場合は4℃で、長期保存の場合は-20℃で保存した。
【0061】
<1-3>カスパーゼ-3細胞活性アッセイ
アッセイはカスパーゼ-3細胞活性アッセイキット(Millipore、#235419)の取扱説明書に従って行った。ブランク、陰性対照(カスパーゼ-3阻害剤で処理した細胞抽出物)、陽性対照(精製カスパーゼ-3)及び各試料の細胞抽出物をカスパーゼ基質(Ac-DEVD-pNA)と反応させ、最短30分間~最長120分間、5分~10分間隔で発色によりOD450を測定した。基質標準を用いて、変換係数を算出し、各試料の活性をpmol/分として換算し表した。
【0062】
<1-4>カスパーゼ-3活性比較アッセイ
カスパーゼ-3の活性を、陰性対照、陽性対照、TLR2リガンド、TLR3リガンド及びL-pampoで処理した細胞抽出物試料中で比較し解析した。
【0063】
結果を
図1に示す。
図1は、マウス結腸がん細胞株においてがん免疫薬のカスパーゼ-3活性を確認するグラフである。
【0064】
図1に示すように、TLR2リガンド又はTLR3リガンドで処理した実験群と比較して、L-pampoで処理した実験群においてカスパーゼ-3活性が相対的により高く誘導されることが確認された。したがって、L-pampoは結腸がん細胞株であるMC38細胞のアポトーシスを最も強力に誘導することが確認された。
【0065】
[実施例2]
黒色腫マウスモデルにおけるリポペプチド及びポリ(I:C)を含むがん免疫薬の効能の確認
<2-1>黒色腫マウスモデルの構築
7週齢雌性C57BL/6マウス(OrientBio、韓国)の右脇腹に2×105個のB16F10マウス黒色腫細胞を皮下注射することによりマウスに腫瘍を発生させた。
【0066】
<2-2>がん免疫薬の調製及び投与
がん免疫薬L-pampoは、Pam3CSK4 50μgとポリ(I:C)40μgを混合することにより調製した。陰性対照群として緩衝剤投与群を設定し、上の実施例<2-1>で構築した黒色腫マウスモデルの腫瘍サイズが約100mm3に達した場合、L-pampo 90μg/用量を腫瘍内に3日間隔で3回投与した。
【0067】
<2-3>腫瘍抑制効能の解析
全実験群の腫瘍サイズを2~3日毎に測定した。腫瘍の長軸及び短軸を測定し、腫瘍サイズを[1/2×長軸のサイズ×(短軸のサイズ)2]として算出した。がん免疫薬の腫瘍抑制効能を算出された腫瘍サイズに基づいて解析した。
【0068】
結果を
図2に示す。
図2は、黒色腫マウスモデルにおいてがん免疫薬の腫瘍抑制効能を確認するグラフである。
【0069】
図2に示すように、がん免疫薬L-pampoを投与した実験群では、緩衝剤を投与した陰性対照群と比較して投与開始の12日後のD22に約52.8%で腫瘍サイズが縮小することが確認され、これは、がん免疫薬が黒色腫阻害活性を有することを示す。
【0070】
[実施例3]
結腸がんマウスモデルにおけるリポペプチド及びポリ(I:C)を含むがん免疫薬の効能の確認
<3-1>マウスモデルの構築
7週齢雌性C57BL/6マウス(OrientBio、韓国)の右脇腹に5×104個のMC38マウス結腸がん細胞を皮下注射することによりマウスに腫瘍を発生させた。
【0071】
<3-2>がん免疫薬の調製及び投与
がん免疫薬L-pampoは、Pam3CSK4 100μgとポリ(I:C)80μgを混合することにより調製した。陰性対照群として緩衝剤投与群を設定し、上の実施例<3-1>で構築した結腸がんマウスモデルの腫瘍サイズが約50mm3に達したときに、L-pampo 180μg/用量を腫瘍内に3日間隔で4回投与した。
【0072】
<3-3>腫瘍抑制効能の解析
全実験群の腫瘍サイズを3日毎に測定した。腫瘍の長軸及び短軸を測定し、腫瘍サイズを[1/2×長軸のサイズ×(短軸のサイズ)2]として算出した。がん免疫薬の腫瘍抑制効能を算出された腫瘍サイズに基づいて解析した。
【0073】
結果を
図3に示す。
図3は、結腸がんマウスモデルにおいてがん免疫薬の腫瘍抑制効能を確認するグラフである。
【0074】
図3に示すように、がん免疫薬L-pampoを投与した実験群では、緩衝剤を投与した陰性対照群と比較して投与開始の12日後のD19に約85.2%で腫瘍サイズが縮小することが確認されたが、このことが示すところは、がん免疫薬は強力な抗がん効能を有することである。これは、がん免疫薬L-pampoが結腸がんの成長を強力に阻害することができることを示す。
【0075】
<3-4>腫瘍内免疫細胞浸潤の解析
投与開始の12日後のD19に全てのマウスからの腫瘍を採取し、免疫蛍光染色及びフローサイトメトリー解析を使用して腫瘍内の免疫細胞浸潤を解析した。
【0076】
免疫蛍光染色を行うために、採取したマウス腫瘍を1%パラホルムアルデヒドに固定し、次いで20%スクロース溶液を使用して脱水した。腫瘍組織をOCT(最適な切断温度)コンパウンド中で凍結させ、凍結腫瘍組織をクリオトームを使用して50μmの厚さの切片にカットし、スライドに固定した。スライドに固定した腫瘍組織をブロッキング溶液と1時間反応させた。CD8抗体及びCD31抗体を1:200に希釈し、4℃で24時間腫瘍組織と反応させた。反応後、腫瘍組織をPBSTで洗浄し、次いで蛍光抗体及びDAPIと室温で2時間反応させた。マウントした後、共焦点顕微鏡を使用して蛍光画像を解析した。
【0077】
【0078】
図4は、結腸がんマウスモデルにおいて免疫蛍光染色法を使用して腫瘍内の免疫細胞浸潤に対するがん免疫薬の効果を解析した結果を示す1組の写真である。
【0079】
図4に示すように、L-pampoを投与した実験群では、陰性対照群である緩衝剤を投与した実験群におけるよりも、有意に多くのCD8+ T細胞(緑色蛍光)が腫瘍内へと浸潤した。これは、L-pampoが腫瘍内へと多数のCD8 T細胞の浸潤を誘導することにより免疫細胞によって腫瘍抑制を誘導し得ることを示す。
【0080】
フローサイトメトリーを行うために採取したマウス腫瘍を小片へとカットし、この小片をコラゲナーゼD及びDNase Iで処理し、37℃で1時間反応させた。反応物を70μmのセルストレーナーを通し濾過し、赤血球を溶解させ、次いでナイロンメッシュを通し再び濾過した。単一細胞懸濁液をCD16/32抗体でブロックし、次いで細胞生死判定染料で染色した。蛍光染料コンジュゲートCD45、CD3、CD8、CD4、Foxp3及びCD25で染色した後、CytoFLEXフローサイトメーターを使用して反応物を測定した。FlowJoソフトウェアを使用して測定結果を定量的に比較し解析した。
【0081】
【0082】
図5は、結腸がんマウスモデルにおいてフローサイトメトリーを使用して腫瘍内の免疫細胞浸潤に対するがん免疫薬の効果を解析した結果を示す1組のグラフである。
【0083】
図5に示すように、L-pampoを投与した実験群では、陰性対照群である緩衝剤を投与した実験群におけるよりも、有意に多くのCD8+ T細胞が腫瘍内へと浸潤した。加えて、L-pampoを投与した実験群では陰性対照群と比較して腫瘍内でT細胞の活性を抑制するTreg+細胞の数が有意により低かったことが確認された。これは、L-pampoが腫瘍内へと多数のCD8+ T細胞を浸潤させ且つTreg +細胞を抑制することによって腫瘍を死滅させることができる免疫活性を誘導し得ることを示す。
【0084】
<3-5>腫瘍特異的な細胞性免疫活性の解析
投与開始の12日後のD19に全てのマウスの脾臓を回収し、ELISPOTアッセイにより腫瘍特異的免疫活性を解析した。
【0085】
腫瘍特異的ELISPOTアッセイを行うために、採取した脾臓をセルストレーナーを通し磨砕し、脾臓細胞を分離し、死細胞を除去した。脾細胞とMC39結腸がん細胞を10:1の比で混合し、マウスIFN-γでコーティングした96ウェルプレートで一緒に培養した。細胞を、検出抗体とともに室温で2時間培養し、次いでストレプトアビジン-ALPとともに常温で1時間培養した。培養の後、基質溶液を添加することによりスポットを確認した。スポットはImage Jソフトウェアを使用して解析した。
【0086】
【0087】
図6は、結腸がんマウスモデルにおいてELISPOTアッセイを使用してがん免疫薬による腫瘍特異的な細胞性免疫応答の誘導を解析した結果を示す1組の写真及びグラフである。
【0088】
図6に示すように、L-pampoを投与した実験群では、陰性対照群である緩衝剤を投与した実験群と比較して、有意に多くのIFN-γスポット形成が誘導された。上記の結果より、がん免疫薬L-pampoの腫瘍内投与は、腫瘍特異的な細胞性免疫応答を強力に誘導することが確認された。
【0089】
<3-6>結腸がんマウスモデルにおけるアブスコパル効能の解析
アブスコパルモデルを構築するために、5×104個のMC38マウス結腸がん細胞を7週齢雌性C57BL/6マウス(OrientBio、韓国)の右脇腹に皮下注射し、4日後に、5×104個のMC38結腸がん細胞をマウスの左脇腹に皮下注射して、両側に腫瘍を発生させた。上の実施例<3-2>で調製したL-pampoを右側に形成された腫瘍のみに180μg/用量で投与した。両側に発生した腫瘍のサイズを3日間隔で測定して腫瘍抑制効能を解析した。
【0090】
【0091】
図7は、結腸がんマウスモデルにおいてがん免疫薬のアブスコパル効能を解析した結果を示す1組のダイアグラム及びグラフである。
【0092】
図7に示すように、陰性対照群である緩衝剤を投与した実験群とは異なり、L-pampoを投与した実験群は、がん免疫薬L-pampoを投与した腫瘍(右側)のサイズだけでなく、投与していない腫瘍(左側)のサイズも有意に低下することを示した。このことより、がん免疫薬L-pampoが腫瘍に投与された場合、L-pampoはがん細胞を死滅させるだけでなく、強力な腫瘍特異的免疫活性を誘導することによりL-pampoで処置していない腫瘍も死滅させることが確認され、これは、がん免疫薬L-pampoが転移したがん細胞も処置できることを示す。
【0093】
[実施例4]
膀胱がんマウスモデルにおけるにおけるリポペプチド及びポリ(I:C)を含むがん免疫薬の効能の確認
<4-1>膀胱がんマウスモデルの構築
7週齢雌性C57BL/6マウス(OrientBio、韓国)の右脇腹に5×105個のMB49マウス膀胱がん細胞を皮下注射することによりマウスに腫瘍を発生させた。
【0094】
<4-2>がん免疫薬の調製及び投与
がん免疫薬L-pampoは、Pam3CSK4 100μgとポリ(I:C)80μgを混合することにより調製した。陰性対照群として緩衝剤投与群を設定し、上の実施例<4-1>で構築した膀胱がんマウスモデルの腫瘍サイズが約50mm3に達した場合、L-pampo 180μg/用量を腫瘍内に3日間隔で4回投与した。
【0095】
<4-3>腫瘍抑制効能の解析
全実験群の腫瘍サイズを3日毎に測定した。腫瘍の長軸及び短軸を測定し、腫瘍サイズを[1/2×長軸のサイズ×(短軸のサイズ)2]として算出した。がん免疫薬の腫瘍抑制効能を算出された腫瘍サイズに基づいて解析した。
【0096】
結果を
図8に示す。
図8は、膀胱がんマウスモデルにおいてがん免疫薬の腫瘍抑制効能を確認するグラフである。
【0097】
図8に示すように、がん免疫薬L-pampoを投与した実験群では、緩衝剤を投与した陰性対照群と比較して投与開始の18日後のD24に約60.3%で腫瘍サイズが縮小することが確認されたが、これは、がん免疫薬が強力な抗がん効能を有することを示している。これは、がん免疫薬L-pampoが膀胱がんの成長を強力に阻害することができることを示す。
【0098】
[実施例5]
膵臓がんマウスモデルにおけるリポペプチド及びポリ(I:C)を含むがん免疫薬の効能の確認
<5-1>膵臓がんマウスモデルの構築
8週齢雌性C57BL/6マウス(OrientBio、韓国)の右脇腹に5×105個のKPCマウス膵臓がん細胞を皮下注射することによりマウスに腫瘍を発生させた。
【0099】
<5-2>がん免疫薬の調製及び投与
がん免疫薬L-pampoは、Pam3CSK4 100μgとポリ(I:C)80μgを混合することにより調製した。陰性対照群として緩衝剤投与群を設定し、上の実施例[5-1]で構築した膵臓がんマウスモデルの腫瘍サイズが約50mm3に達した場合、L-pampo 180μg/用量を腫瘍内に3日間隔で4回投与した。
【0100】
<5-3>腫瘍抑制効能の解析
全実験群の腫瘍サイズを3日毎に測定した。腫瘍の長軸及び短軸を測定し、腫瘍サイズを[1/2×長軸のサイズ×(短軸のサイズ)2]として算出した。がん免疫薬の腫瘍抑制効能を算出された腫瘍サイズに基づいて解析した。
【0101】
【0102】
図9は、膵臓がんマウスモデルにおいてがん免疫薬の腫瘍抑制効能を確認するグラフである。
【0103】
図9に示すように、がん免疫薬L-pampoを投与した実験群では、緩衝剤を投与した陰性対照群と比較して投与開始の13日後のD21に約82.9%で腫瘍サイズが縮小することが確認されたが、これは、がん免疫薬が強力な抗がん効能を有することを示している。これは、がん免疫薬L-pampoが膵臓がんの成長を強力に阻害することができることを示す。
【0104】
[実施例6]
結腸がんマウスモデルにおける免疫チェックポイント阻害剤との組み合わせでのリポペプチド及びポリ(I:C)を含むがん免疫薬の効能の確認
<6-1>結腸がんマウスモデルの構築
8週齢雌性C57BL/6マウス(OrientBio、韓国)の右脇腹に1×105個のMC38マウス結腸がん細胞を皮下注射することによりマウスに腫瘍を発生させた。
【0105】
<6-2>がん免疫薬L-pampoの調製及び投与
がん免疫薬L-pampoは、Pam3CSK4 27.8μgとポリ(I:C)22.2μgを混合することにより調製した。陰性対照群として緩衝剤投与群を設定し、上の実施例<6-1>で構築した結腸がんマウスモデルの腫瘍サイズが約50mm3に達した場合、L-pampo 50μg/用量を腫瘍内に3日間隔で4回投与した。
【0106】
<6-3>免疫チェックポイント阻害剤の投与
免疫チェックポイント阻害剤であるマウスPD-1抗体はBioXCellから購入した。併用対照群としてマウスPD-1抗体単独を投与した群を設定した。併用投与群は、L-pampoの腫瘍内投与の間に3日間隔で4回腹腔内投与したマウスPD-1抗体200μg/用量を用いて処置した。
【0107】
<6-4>腫瘍抑制効能の解析
全実験群の腫瘍サイズを3日毎に測定した。腫瘍の長軸及び短軸を測定し、腫瘍サイズを[1/2×長軸のサイズ×(短軸のサイズ)2]として算出した。腫瘍抑制効能を算出された腫瘍サイズに基づいて解析した。
【0108】
【0109】
図10は、結腸がんマウスモデルにおいて免疫チェックポイント阻害剤との組み合わせでのがん免疫薬の効能を確認する1組のグラフである。
【0110】
図10に示すように、PD-1抗体を投与した実験群では、緩衝剤を投与した陰性対照群と比較して投与開始の12日後のD19に約19.2%で腫瘍サイズが縮小することが確認された。他方では、がん免疫薬L-pampoを投与した実験群では、D19に約60.3%で腫瘍サイズが縮小することが確認され、このことが示すのは、がん免疫薬L-pampoが、免疫チェックポイント阻害剤であるPD-1抗体よりも強力な腫瘍抑制効果を示すことである。加えて、がん免疫薬L-pampoと免疫チェックポイント阻害剤PD-1抗体を一緒に投与した実験群では、D19に約80.7%で腫瘍サイズが縮小すること、及び8匹の動物のうちの1匹で腫瘍が完全に消失していることが確認された。上記の結果より、免疫薬L-pampo及び免疫チェックポイント阻害剤を用いる併用処置は強力な抗がん効能を示すことができることが確認された。
【0111】
[実施例7]
結腸がんマウスモデルにおける他のTLRリガンド又はサポニンとの組み合わせでのリポペプチド及びポリ(I:C)を含むがん免疫薬の効能の確認
<7-1>結腸がんマウスモデルの構築
8週齢雌性C57BL/6マウス(OrientBio、韓国)の右脇腹に1×105個のMC38マウス結腸がん細胞を皮下注射することによりマウスに腫瘍を発生させた。
【0112】
<7-2>がん免疫薬L-pampoの調製及び投与
がん免疫薬L-pampoは、Pam3CSK4 25μgとポリ(I:C)20μgを混合することにより調製した。陰性対照群として緩衝剤投与群を設定し、上の実施例<7-1>で構築した結腸がんマウスモデルの腫瘍サイズが約50mm3に達した場合、L-pampo 45μg/用量を腫瘍内に3日間隔で4回投与した。
【0113】
<7-3>がん免疫薬L-pampoの共投与物質の調製及び投与
共投与物質は、上の実施例<7-2>で調製したがん免疫薬L-pampo 45μg/用量をQS21(Creative biolabs)10μg/用量又はImiquimod(Invivogen)10μg/用量とそれぞれボルテックス混合することによって調製した。これを腫瘍内に3日間隔で4回投与した。
【0114】
<7-4>腫瘍抑制効能の解析
全実験群の腫瘍サイズを3日毎に測定した。腫瘍の長軸及び短軸を測定し、腫瘍サイズを[1/2×長軸のサイズ×(短軸のサイズ)2]として算出した。腫瘍抑制効能を算出された腫瘍サイズに基づいて解析した。
【0115】
【0116】
図11は、結腸がんマウスモデルにおいて他のTLRリガンド又はサポニンとの組み合わせでのがん免疫薬の効能を確認する1組のグラフである。
【0117】
図11aに示すように、別のTLRリガンドであるImiquimod(TLR7リガンド)を投与した実験群では、緩衝剤を投与した陰性対照群と比較して投与開始の12日後のD20に約39%で腫瘍サイズが縮小することが確認された。加えて、サポニンであるQS-21を投与した実験群では、D20に約57%で腫瘍サイズが縮小することが確認された。他方、L-pampoを投与した実験群では、D20に約78%で腫瘍サイズが縮小することが確認され、これは、単独投与群のうちで最も強力な腫瘍成長阻害効果を示した。それぞれImiquimod又はQS-21との組み合わせでのがん免疫薬L-pampoを投与した全ての実験群では、D20に84%超で腫瘍サイズが縮小することも確認された。
図11bに示すように、D20に各実験群の腫瘍重量を測定した結果でも腫瘍サイズの抑制に関して同様の傾向性が確認された。したがって、他のTLRリガンド又はサポニンとのがん免疫薬L-pampoの併用投与は相乗効果を示すことができるとともに強力な抗がん効能を示すことができることが確認された。
本開示は以下の実施形態を包含する。
[1] 有効成分としてリポペプチド及びポリ(I:C)を含むアジュバントを含む、がんの予防又は処置に使用するための医薬組成物。
[2] T細胞免疫応答を活性化することを介してがんを予防又は処置する、実施形態1に記載の医薬組成物。
[3] リポペプチドが、Pam3Cys-SKKKK、PHC-SKKKK、Ole2PamCys-SKKKK、Pam2Cys-SKKKK、PamCys(Pam)-SKKKK、Ole2Cys-SKKKK、Myr2Cys-SKKKK、PamDhc-SKKKK、PamCSKKKK及びDhc-SKKKKからなる群から選択される少なくとも1つである、実施形態1に記載の医薬組成物。
[4] リポペプチド及びポリ(I:C)が0.1~10:1の重量比で含まれる、実施形態1に記載の医薬組成物。
[5] 水溶液製剤である、実施形態1に記載の医薬組成物。
[6] 対象においてがんに対する免疫応答を発生させる方法であって、
有効成分としてリポペプチド及びポリ(I:C)を含むアジュバントを含む、がんの予防又は処置のための医薬組成物をヒト以外の対象に投与するステップを含む、
方法。
[7] リポペプチド及びポリ(I:C)を含むアジュバント、並びに、免疫チェックポイント阻害剤を有効成分として含む、がんの予防又は処置に使用するための医薬合剤。
[8] 免疫チェックポイント阻害剤が、抗CTLA4抗体、抗PD-L1抗体及び抗PD-1抗体からなる群から選択される少なくとも1つである、実施形態7に記載の医薬合剤。
[9] リポペプチド及びポリ(I:C)を含むアジュバント、並びに、TLR(トール様受容体)リガンドを有効成分として含む、がんの予防又は処置に使用するための合剤。
[10] TLR(トール様受容体)リガンドが、TLR1~13からなる群から選択される1つ以上のリガンドである、実施形態9に記載の合剤。
[11] リポペプチド及びポリ(I:C)を含むアジュバント、並びに、サポニンを有効成分として含む、がんの予防又は処置に使用するための合剤。
[12] サポニンが、QS21、Quil A、QS7、QS17及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、実施形態11に記載の合剤。
[13] リポペプチド及びポリ(I:C)を対象に投与するステップを含む、がんを予防又は処置する方法。
[14] リポペプチド、ポリ(I:C)及び免疫チェックポイント阻害剤を対象に投与するステップを含む、がんを予防又は処置する方法。
[15] リポペプチド、ポリ(I:C)及びTLR(トール様受容体)リガンドを対象に投与するステップを含む、がんを予防又は処置する方法。
[16] リポペプチド、ポリ(I:C)及びサポニンを対象に投与するステップを含む、がんを予防又は処置する方法。
[17] がんの予防、改善又は処置のための医薬の調製のためのリポペプチド及びポリ(I:C)の使用。
[18] がんの予防、改善又は処置のための医薬の調製のためのリポペプチド、ポリ(I:C)及び免疫チェックポイント阻害剤の使用。
[19] がんの予防、改善又は処置のための医薬の調製のためのリポペプチド、ポリ(I:C)及びTLR(トール様受容体)リガンドの使用。
[20] がんの予防、改善又は処置のための医薬の調製のためのリポペプチド、ポリ(I:C)及びサポニンの使用。