(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-23
(45)【発行日】2024-07-31
(54)【発明の名称】ビールテイストアルコール飲料およびその製法
(51)【国際特許分類】
C12C 5/00 20060101AFI20240724BHJP
C12C 7/00 20060101ALI20240724BHJP
C12G 3/02 20190101ALI20240724BHJP
【FI】
C12C5/00
C12C7/00 Z
C12G3/02
(21)【出願番号】P 2024529711
(86)(22)【出願日】2023-12-07
(86)【国際出願番号】 JP2023043845
【審査請求日】2024-05-17
(31)【優先権主張番号】P 2022197428
(32)【優先日】2022-12-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000253503
【氏名又は名称】キリンホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【氏名又は名称】反町 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100188651
【氏名又は名称】遠藤 広介
(72)【発明者】
【氏名】堀江 暁
(72)【発明者】
【氏名】望月 マユラ
(72)【発明者】
【氏名】谷垣 翔太
(72)【発明者】
【氏名】加藤 優
【審査官】関根 崇
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-227070(JP,A)
【文献】特開2020-137420(JP,A)
【文献】特開2015-192652(JP,A)
【文献】特開2005-110556(JP,A)
【文献】J. Agric. Food Chem.,2016年,Vol.64, No.44,pp.8397-8405
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12C
C12G
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/FSTA/AGRICOLA/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
飲料中の遊離型のカルボキシメチルリジン(CML)、遊離型のカルボキシエチルリジン(CEL)および遊離型のメチルグリオキサール由来ヒドロイミダゾロン-1(MG-H1)の合計含有量が500~903ppbであり、飲料中の結合型のCML、結合型のCELおよび結合型のMG-H1の合計含有量が200ppb以下である、ビールテイストアルコール飲料であって、
前記結合型のCML、結合型のCELおよび結合型のMG-H1が、分子量400~3,000Daのペプチド画分に含まれるものである、ビールテイストアルコール飲料。
【請求項2】
飲料中の遊離型CML、遊離型CELおよび遊離型MG-H1の合計含有量が540~903ppbである、請求項1に記載のビールテイストアルコール飲料。
【請求項3】
飲料中の結合型CML、結合型CELおよび結合型MG-H1の合計含有量が185ppb以下である、請求項1に記載のビールテイストアルコール飲料。
【請求項4】
麦芽使用比率が50~100質量%である、請求項1または2に記載のビールテイストアルコール飲料。
【請求項5】
前記ビールテイストアルコール飲料中のアルコール濃度が3~7体積%である、請求項1または2に記載のビールテイストアルコール飲料。
【請求項6】
前記ビールテイストアルコール飲料の20℃におけるガス圧が、0.05~0.4MPaである、請求項1または2に記載のビールテイストアルコール飲料。
【請求項7】
前記ビールテイストアルコール飲料のpHが、2.0~5.0である、請求項1または2に記載のビールテイストアルコール飲料。
【請求項8】
前記ビールテイストアルコール飲料が、炭酸ガスに加えて窒素ガスを含んでなる、請求項1または2に記載のビールテイストアルコール飲料。
【請求項9】
容器詰飲料である、請求項1または2に記載のビールテイストアルコール飲料。
【請求項10】
前記容器内の飲料にガスを供給するための中空挿入物を含んでなる、請求項9に記載のビールテイストアルコール飲料。
【請求項11】
ビールテイストアルコール飲料を製造する方法であって、
飲料中の遊離型CML、遊離型CELおよび遊離型MG-H1の合計含有量が500~903ppbに調整され、飲料中の結合型CML、結合型CELおよび結合型MG-H1の合計含有量が200ppb以下に調整され、
前記結合型CML、結合型CELおよび結合型MG-H1が、分子量400~3,000Daのペプチド画分に含まれるものである、方法。
【請求項12】
麦芽使用比率が50~100質量%である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記ビールテイストアルコール飲料の製造における発酵工程において、発酵前液の容量に対してホップの添加量が0.1~5g/Lとなるように調整される、請求項11または12に記載の方法。
【請求項14】
前記ビールテイストアルコール飲料の醸造原料が、麦芽、ホップ、水、米、とうもろこし、こうりゃん、馬鈴薯、でんぷん、糖類、果実、コリアンダー、タンパク質分解物、酵母エキス、色素、起泡・泡持ち向上剤、水質調整剤、発酵助成剤、および未発芽の麦類からなる群から選択される少なくとも一つのものを含んでなる、請求項11または12に記載の方法。
【請求項15】
ビールテイストアルコール飲料において、コクを増強するとともに、ざらつきを低減する方法であって、
飲料中の遊離型CML、遊離型CELおよび遊離型MG-H1の合計含有量が500~903ppbに調整され、飲料中の結合型CML、結合型CELおよび結合型MG-H1の合計含有量が200ppb以下に調整され、
前記結合型CML、結合型CELおよび結合型MG-H1が、分子量400~3,000Daのペプチド画分に含まれるものである、方法。
【請求項16】
前記ビールテイストアルコール飲料の麦芽使用比率が50~100質量%である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記ビールテイストアルコール飲料の製造における発酵工程において、発酵前液の容量に対してホップの添加量が0.1~5g/Lとなるように調整される、請求項15または16に記載の方法。
【請求項18】
前記ビールテイストアルコール飲料の醸造原料が、麦芽、ホップ、水、米、とうもろこし、こうりゃん、馬鈴薯、でんぷん、糖類、果実、コリアンダー、タンパク質分解物、酵母エキス、色素、起泡・泡持ち向上剤、水質調整剤、発酵助成剤、および未発芽の麦類からなる群から選択される少なくとも一つのものを含んでなる、請求項15または16に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビールテイストアルコール飲料およびその製法に関する。
【背景技術】
【0002】
ビール類においては、適度なコクを付与することが求められている。そのような効果をもたらす技術としては、アルコール類・アルデヒド類・各種甘味料等を添加する手法(特許文献1)などが知られている。
【0003】
しかし、いずれの手法も、コク以外の香味バランスに影響することが避けられず、多くの課題が残されている。
【0004】
また、メイラード反応によって得られる産物としては、1000~5000Daの分子量からなるペプチドが、コクの増強に寄与することが報告されている(非特許文献1)が、具体的な寄与成分は明らかにされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Food Chemistry, 99, 600-604
【発明の概要】
【0007】
本発明者らは、ビールテイストアルコール飲料、特に高麦芽比率のビールテイストアルコール飲料において、コクの付与を試みる場合、エキスによって原料コストが上昇したり、過度な加熱に伴ってざらつきが生じることで香味バランスを損ねたりするという問題に着目した。
【0008】
上記の問題について検討を重ねたところ、本発明者らは、加熱・熟成工程で生成するメイラード反応産物(MRP:Maillard reaction product)の一部が、特定の濃度範囲においてビールテイストアルコール飲料のコクに寄与するとともに、同濃度範囲において口内におけるざらつきを抑制し得ることを見出した。本発明はこの知見に基づくものである。
【0009】
従って、本発明は、コクが増強されるとともに、ざらつきが低減されたビールテイストアルコール飲料およびその製法を提供する。
【0010】
そして、本発明には、以下の発明が包含される。
(1)飲料中の遊離型のカルボキシメチルリジン(CML)、遊離型のカルボキシエチルリジン(CEL)および遊離型のメチルグリオキサール由来ヒドロイミダゾロン-1(MG-H1)の合計含有量が500~903ppbであり、飲料中の結合型のCML、結合型のCELおよび結合型のMG-H1の合計含有量が200ppb以下である、ビールテイストアルコール飲料であって、
前記結合型のCML、結合型のCELおよび結合型のMG-H1が、分子量400~3,000Daのペプチド画分に含まれるものである、ビールテイストアルコール飲料。
(2)飲料中の遊離型CML、遊離型CELおよび遊離型MG-H1の合計含有量が540~903ppbである、前記(1)に記載のビールテイストアルコール飲料。
(3)飲料中の結合型CML、結合型CELおよび結合型MG-H1の合計含有量が185ppb以下である、前記(1)または(2)に記載のビールテイストアルコール飲料。
(4)麦芽使用比率が50~100質量%である、前記(1)~(3)のいずれかに記載のビールテイストアルコール飲料。
(5)ビールテイストアルコール飲料を製造する方法であって、
飲料中の遊離型CML、遊離型CELおよび遊離型MG-H1の合計含有量が500~903ppbに調整され、飲料中の結合型CML、結合型CELおよび結合型MG-H1の合計含有量が200ppb以下に調整され、
前記結合型CML、結合型CELおよび結合型MG-H1が、分子量400~3,000Daのペプチド画分に含まれるものである、方法。
(6)麦芽使用比率が50~100質量%である、前記(5)に記載の方法。
(7)ビールテイストアルコール飲料において、コクを増強するとともに、ざらつきを低減する方法であって、
飲料中の遊離型CML、遊離型CELおよび遊離型MG-H1の合計含有量が500~903ppbに調整され、飲料中の結合型CML、結合型CELおよび結合型MG-H1の合計含有量が200ppb以下に調整され、
前記結合型CML、結合型CELおよび結合型MG-H1が、分子量400~3,000Daのペプチド画分に含まれるものである、方法。
(8)前記ビールテイストアルコール飲料の麦芽使用比率が50~100質量%である、前記(7)に記載の方法。
【0011】
本発明によれば、ビールテイストアルコール飲料において、コクを増強するとともに、ざらつきを低減することが可能となる。本発明は、特に、麦芽使用比率の高いビールテイストアルコール飲料においてこのような効果が得られる点で有利である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、様々なF-MRP濃度およびB-MRP濃度を有するサンプルについて、官能評価のスコアによって表されるコクの強さを大きさで表現したバブルプロットである。
【
図2】
図2は、様々なF-MRP濃度およびB-MRP濃度を有するサンプルについて、官能評価のスコアによって表されるざらつきを大きさで表現したバブルプロットである。
【
図3】
図3は、分子量既知のペプチドを用いて作成した、HPLCゲル濾過分析における保持時間と分子量の関係を示す検量線である。
【発明の具体的説明】
【0013】
本発明において有効成分とされる3物質:カルボキシメチルリジン(CML)、カルボキシエチルリジン(CEL)およびメチルグリオキサール由来ヒドロイミダゾロン-1(MG-H1)は、以下の化学構造を有するものである。
【化1】
【0014】
遊離型の上記3物質は、飲料中において、上記の構造そのもの、あるいは一部イオン化した状態で存在するものである。結合型の上記3物質は、飲料中において、分子量400~3,000Daのペプチド画分に含まれ、リジンないしアルギニンの側鎖が糖化修飾された残基として存在するものである。本発明において示される上記物質の量および濃度は、遊離型および結合型の両方について、上記の構造を有する化合物としての質量および濃度である。本明細書では、遊離型の上記3物質を「遊離型有効3成分」といい、結合型の上記3物質を「結合型有効3成分」ということがある。
【0015】
本発明において「ビールテイストアルコール飲料」とは、ビール(麦芽およびホップを原料として用い、ビール酵母による発酵によって得られるアルコール飲料)、またはビールと同様の風味を有するアルコール飲料を意味する。本発明において「アルコール飲料」とは、アルコール(エタノール)の濃度が1v/v%以上の飲料を意味する。本発明のビールテイストアルコール飲料は、好ましくはホップを原料として用いることによりホップの香気が付与された発酵飲料である。本発明のビールテイストアルコール飲料は、好ましくは発酵麦芽飲料、すなわち、原料として少なくとも麦芽を使用した飲料を意味する。このような発酵麦芽飲料としては、ビール、発泡酒、リキュール(例えば、酒税法上、「リキュール(発泡性)(2)」に分類される飲料)などが挙げられる。本発明のビールテイストアルコール飲料は、好ましくは麦芽使用比率0質量%以上100質量%以下、より好ましくは25質量%以上100質量%以下、さらに好ましくは50質量%以上100質量%以下の発酵麦芽飲料である。「麦芽使用比率」とは、平成30年4月1日が施行日の酒税法および酒類行政関係法令等解釈通達に従って計算された値を意味する。
【0016】
本発明において、「コク」とは、味の強さ、複雑さ、および持続性から成る総合評価により決定される風味をいう。本発明において、「ざらつき」とは、舌に残る刺激および引っかかりをいう。
【0017】
本発明において、「ppm」という単位は「mg/L」と同義であり、「ppb」という単位は「μg/L」と同義である。
【0018】
本発明のビールテイストアルコール飲料は、飲料中の遊離型有効3成分の合計含有量および結合型有効3成分の合計含有量がそれぞれ所定の範囲にあるものである。このようなビールテイストアルコール飲料は、その製造の際に、遊離型有効3成分の合計含有量および結合型有効3成分の合計含有量のそれぞれを調整することにより得ることができる。遊離型有効3成分および結合型有効3成分の濃度調整の具体的手段は特に限定されるものではなく、例えば、遊離型有効3成分または結合型有効3成分の添加、遊離型有効3成分または結合型有効3成分を含有する原料の使用量の増減、遊離型有効3成分または結合型有効3成分を最終製品内に生成する原料の使用量の増減、酵母による発酵によって遊離型有効3成分または結合型有効3成分に変換される物質の濃度調整等が挙げられる。
【0019】
本発明のビールテイストアルコール飲料中の遊離型有効3成分の合計含有量は、500~903ppbとされ、好ましくは540~903ppbとされる。遊離型有効3成分は、原料由来のものであってもよく、植物原料とは別に添加されたものであってもよく、さらに発酵により生成されたものであってもよい。遊離型有効3成分の濃度は、例えば、原料の組成および発酵条件などをコントロールすることにより、制御することができる。本発明の一つの実施態様によれば、遊離型有効3成分の合計含有量の上限は850ppbとされる。
【0020】
本発明のビールテイストアルコール飲料中の結合型有効3成分の合計含有量は、200ppb以下とされ、好ましくは185ppb以下とされる。ビールテイストアルコール飲料中の結合型有効3成分の合計含有量の下限は、本発明の効果が奏される限り特に限定されるものではなく、0ppbであってもよい。結合型有効3成分は、原料由来のものであってもよく、植物原料とは別に添加されたものであってもよく、さらに発酵により生成されたものであってもよい。結合型有効3成分の濃度は、例えば、原料の組成および発酵条件などをコントロールすることにより、制御することができる。本発明の一つの実施態様によれば、結合型有効3成分の合計含有量の上限は170ppbとされる。
【0021】
ビールテイストアルコール飲料中の遊離型有効3成分および結合型有効3成分の定量は、後述の実施例に記載するLC-MS/MS分析により行うことができる。さらに、より正確な濃度測定のためには、既知の濃度を有する幾つかの対照サンプルの測定値に基づいて作成した検量線を用いることが望ましい。
【0022】
本発明のビールテイストアルコール飲料中のアルコール濃度は、特に限定されるものではないが、好ましくは1体積%(v/v%)超とされ、より好ましくは2体積%(v/v%)以上とされ、さらに好ましくは3体積%(v/v%)以上とされ、さらに好ましくは3.5体積%以上とされ、さらに好ましくは4体積%以上とされる。ビールテイストアルコール飲料のアルコール濃度の上限は、本発明の効果が奏される限り特に限定されるものではないが、例えば20体積%、好ましくは10体積%、より好ましくは7体積%である。本発明の一つの実施態様によれば、本発明のビールテイストアルコール飲料中のアルコール濃度は、好ましくは2~10体積%以下とされ、より好ましくは3~10体積%以下、さらに好ましくは3~7体積%とされる。
【0023】
本発明のビールテイストアルコール飲料は、炭酸飲料とすることができる。炭酸ガス圧は好みに応じて適宜調整することができ、例えば、0.05~0.4MPa(20℃におけるガス圧)の範囲で調整することができる。
【0024】
本発明のビールテイストアルコール飲料は、pHを、例えば、2.0~5.0、好ましくは2.3~4.8、より好ましくは2.9~4.8に調整することができる。飲料のpHは市販のpHメーターを使用して容易に測定することができる。
【0025】
本発明のビールテイストアルコール飲料は、好ましくは容器詰飲料として提供される。本発明のビールテイストアルコール飲料に使用される容器は、飲料の充填に通常使用される容器であればよく、例えば、金属缶、樽容器、プラスチック製ボトル(例えば、PETボトル、カップ)、紙容器、瓶、パウチ容器等が挙げられるが、好ましくは金属缶、樽容器、プラスチック製ボトル(例えば、PETボトル)、または瓶とされる。
【0026】
本発明のビールテイストアルコール飲料には、炭酸ガスに加えて窒素を追加することもできる。その際の窒素濃度は、好みに応じて適宜調整することが可能である。飲料に窒素を加えるときに使用される窒素の形態は、当業者に公知のもの、例えば窒素ガスや液体窒素など、いずれの形態であってもよいが、好ましくは液体窒素である。本発明のビールテイストアルコール飲料における、窒素を含めたトータルのガス圧は、0.05~0.4MPa(20℃におけるガス圧)(ゲージ圧))の範囲内で調整することができる。窒素を加える目的は多々あるが、例えば、ビールテイストアルコール飲料の泡立ちをよりクリーミーにすることができる。
【0027】
また、本発明のビールテイストアルコール飲料に使用される容器内には、容器とは別体である、窒素等を効率的に容器内の飲料に供給するために用いられる中空挿入物、例えば、いわゆる「小物(widget)」を含んでもよい。小物の形状としては、球体、立方体等、様々なものがあり得るが、いずれの形状であってもよい。また、小物は、容器と固定されていても、固定されていなくてもよい。容器の開封前において、小物には、大気より高い容器の全圧と平衡状態にある加圧された窒素ガスを含む気体が含まれている。この状態から、飲料を飲用に供するために容器を開封すると、飲料が存在しない空寸スペースが解放され、その結果、圧力差が発生し、小物内に封入されている窒素が容器内に噴出される。容器と小物の配置は、容器の開封時に、小物内の窒素が液体内に直接噴出するような構造になっていることが望ましい。
【0028】
さらに、本発明のビールテイストアルコール飲料に窒素を含有させる方法は、小物を用いて窒素噴出させる方法や、飲料にもともと含まれている場合に加えて、液体窒素等を容器内に滴下して空寸スペースに窒素を充満させ、飲料中に窒素を飽和させるという方法を用いることもできる。この液体窒素の滴下は、ビールテイストアルコール飲料を容器に封入する際に同時に行うことができる。これらの方法によれば、本発明のビールテイストアルコール飲料においていわゆるカスケード泡現象が生じ、より特徴のある泡を発生させることができる。
【0029】
本発明の一つの実施態様によれば、本発明のビールテイストアルコール飲料は、飲料中の遊離型有効3成分および結合型有効3成分の濃度調整以外は、通常のビールテイストアルコール飲料の製造方法に従って製造することができる。通常の製法としては、例えば、少なくとも水および麦芽を含んでなる発酵前液を発酵させる方法、すなわち、麦芽等の醸造原料から調製された麦汁(発酵前液)に発酵用ビール酵母を添加して発酵を行い、所望により発酵液を低温にて貯蔵した後、ろ過工程により酵母を除去する方法が挙げられる。
【0030】
本発明のビールテイストアルコール飲料の製造過程では、いずれかの工程でホップ(ホップの加工品を含む)を添加することができる。ホップの添加量は、典型的には、発酵工程における発酵前液の容量に対して0.1~5g/Lとなるように調整することができ、好ましくは0.1~2g/L、より好ましくは0.2~1.5g/Lとすることができる。
【0031】
本発明では、麦芽、ホップおよび水以外に、米、とうもろこし、こうりゃん、馬鈴薯、でんぷん、糖類(例えば、液糖)、果実、コリアンダー等の酒税法で定める副原料や、タンパク質分解物、酵母エキス等の窒素源、色素、起泡・泡持ち向上剤、水質調整剤、発酵助成剤等のその他の添加物を醸造原料として使用することができる。また、未発芽の麦類(例えば、未発芽大麦(エキス化したものを含む)、未発芽小麦(エキス化したものを含む))を醸造原料として使用してもよい。
【0032】
本発明の別の態様によれば、ビールテイストアルコール飲料において、コクを増強するとともに、ざらつきを低減する方法が提供され、該方法では、飲料中の遊離型CML、遊離型CELおよび遊離型MG-H1の合計含有量が500~903ppbに調整され、飲料中の結合型CML、結合型CELおよび結合型MG-H1の合計含有量が200ppb以下に調整される。前記結合型CML、結合型CELおよび結合型MG-H1は、分子量400~3,000Daのペプチド画分に含まれるものである。
【実施例】
【0033】
以下の実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0034】
以下の実施例において示される遊離型メイラード反応産物(F-MRP)の濃度は、遊離型CML、遊離型CELおよび遊離型MG-H1の濃度の合計である。結合型メイラード反応産物(B-MRP)の濃度は、結合型CML、結合型CELおよび結合型MG-H1の濃度の合計である。
【0035】
実施例1:ビールテイスト飲料に適度なコクを付与するメイラード反応産物画分の特定
(1)ビールテイスト飲料の調製
粉砕した大麦麦芽及び多糖分解酵素を、50~60℃で保持された温水が入った仕込槽に投入した後、段階的に昇温して、糖化液を調製した。その後、濾過して麦芽粕を除去し、麦汁を得た。得られた麦汁に、ホップを添加して煮沸した後に固液分離処理し、冷却して清澄な麦汁を得た。酵母を添加し、発酵温度及び発酵時間を調整して得られた発酵液を濾過することで、ビールである試験用飲料をそれぞれ調製した。なお、それぞれの実施例、比較例及び参考例においては、糖化液を調製する際の原料麦芽の配合や設定温度および保持時間等を適宜設定し、表1に示す遊離型メイラード反応産物(F-MRP)濃度および結合型メイラード反応産物(B-MRP)濃度となるようにそれぞれ調整した。
【0036】
(2)官能評価
市販品および製造して得られたビールテイストアルコール飲料を対象に、5名の訓練されたパネラーにより官能評価を行った。評価項目は以下の通り設定した。
【0037】
評価項目1として、コクの強さ(味の強さ、複雑さ、持続性から成る総合評価)を1点(コクが弱い)~9点(コクが強い)の9段階で評価した。また、評価項目2として、ざらつき(舌に残る刺激や引っかかり)を1点(弱い)~9点(強い)の9段階で評価した。さらに、評価項目3として、後味・苦味におけるネガティブな要素を定性的に評価し、指摘したパネルの人数を記載した。なお、官能評価に際しては、市販品のサンプル1をコントロールとした。
【0038】
【0039】
表1に示されるように、市販のビールテイストアルコール飲料であるサンプル1および2において、コクの強さ、ネガティブな後味・苦味、ざらつきは、いずれも低い水準であった。
【0040】
一方、製造して得られたビールテイストアルコール飲料であるサンプル3,5~10では、サンプル1と比較してコクの強さが高めとなったのに対し、ネガティブな後味・苦味、ざらつきは同等程度であり、香味評価が良好になる傾向が認められた。
【0041】
サンプル11では、サンプル1と比較してコクの強さが顕著に高かった一方で、ネガティブな後味・苦味も強く、良好な香味とは言えなかった。
【0042】
サンプル4は、サンプル1と比較してざらつきが高くなり、刺激や引っかかりが際立つ傾向が認められた。
【0043】
すなわち、1、2、4、11はいずれも、コクの強度が弱過ぎる/強過ぎるという香味上の問題、および/または、ざらつきが目立つという香味上の問題を有しており、これらの結果として良質な飲みごたえが得られないという課題があった。
【0044】
一方、サンプル3、5~10ではこれらの問題がいずれも解決されており、適度なコクが感じられ、ざらつきが低減されるビールテイストアルコール飲料であった。
【0045】
図1に、コクの強さの官能評価結果をプロットしたグラフを示した。コクの強さが5.0以上かつネガティブな後味・苦味を指摘したパネルが半数以下のサンプルを枠で囲った。
【0046】
図2に、ざらつきの官能評価結果をプロットしたグラフを示した。ざらつきのスコアが6.0未満のサンプルを枠で囲った。
【0047】
以上の結果から、高麦芽比率のビールテイストアルコール飲料において、
図1と
図2の枠が重なる範囲、すなわちF-MRPの濃度が500~903ppbの範囲内であり、さらにB-MRPの濃度が200ppb以下の場合に適度なコクが感じられ、ざらつきが抑えられることが示された。
【0048】
また、F-MRPないしB-MRPの和がほぼ等しいが、個々の成分の組成が異なるサンプルの組合せと官能評価の結果を表2および表3に示した。
【0049】
【0050】
【0051】
サンプル6は、サンプル5と比較して遊離型のCEL、CMLが多く、MG-H1が少なくなっているが、3成分の合計量とコクの強さは同程度であった。
【0052】
サンプル7は、サンプル2と比較して結合型のMG-H1が多く、CELが少なくなっているが、3成分の合計量とざらつきは同程度であった。
【0053】
以上の結果から、遊離型有効3成分および結合型有効3成分は、個々の構成成分の組成によらず、合計量が同等であれば同等の香味上の効果が得られるものと考えられた。
【0054】
実施例2:遊離型および結合型MRP画分の精製
(1)遊離型メイラード反応産物(F-MRP)の定量
遊離型メイラード反応産物画分の定量はLC-MS/MSで行った。液体サンプルまたは凍結乾燥品に超純水を加えて再溶解した。そこに等量の6Nスルホサリチル酸を加えて撹拌し、13,000rpmで5分間遠心分離して得られた上清を採って1/3量の20%(v/v)メタノールと混合した。固相抽出カラム(Bond Elute C18,Agilent Technologies製)に分析サンプルをロードし、続いて等量の10%メタノールをロードすることで、得られた溶出液を合わせて撹拌した。その後、別途準備した標準液(CEL,CML:0,50,100,200ppb/MG-H1:0,100,200,400ppb)と1:1で混合し、以下の条件でLC-MS/MSに供した。得られた2イオンのピーク面積を使い、標準添加法でサンプル中のメイラード反応産物濃度を算出した。
【0055】
【0056】
【0057】
(2)ゲル濾過分画
サンプルを0.45μmフィルターで濾過し、濾過済み発酵液を計量して凍結乾燥した。乾燥物を100mM NaCl溶液で溶解して5倍濃縮液を調製した。得られた濃縮液を以下の条件でゲル濾過分画を行い、0.66CV(カラムボリューム)~0.86CVの画分を分取して分子量分析および結合型メイラード反応産物の定量に供した。
【0058】
【0059】
(3)HPLCゲル濾過法による分子量分析
(2)で分取した画分は、50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0 150mM NaCl含む)となるよう溶解した。これを分子量分析サンプルとして、以下の方法でHPLCゲル濾過を行った。
【0060】
【0061】
得られたクロマトグラムから分子量を算出するため、分子量既知のペプチドを0.1~5mg/mLで適宜超純水に溶解したものを50μL注入して同様の条件でHPLCゲル濾過分析を行い、保持時間を確認した(表8)。その保持時間、分子量から検量線(
図3)を作成し、(2)で分取した画分が示すクロマトグラムにおける主要なピークの始点から終点の保持時間に基づいて分子量範囲を求めた。その結果、当該画分の分子量は400~3,000Daであることがわかった。
【0062】
【0063】
(4)結合型メイラード反応産物(B-MRP)の定量
結合型メイラード反応産物の定量は、サンプル中のペプチドやタンパク質を酵素分解し、酵素ブランクの遊離型メイラード反応産物をLC-MS/MSで分析し、酵素ブランクとの差分を結合型メイラード反応産物量とした。サンプル処理は以下の通り行った。
【0064】
(2)で分取した画分を1kDaの透析膜で24時間透析し、内液を凍結乾燥した。その後、ペプシンを含む0.02M塩酸に溶解し、37℃で24時間反応した。続いて、プロナーゼEを含有するTris緩衝液(pH8.2)を加えて混合し、37℃で24時間反応した。さらに、アミノペプチダーゼMおよびプロリダーゼを加えて混合し、37℃で24時間反応することで、ペプチド結合を切断した。この酵素反応時に酵素を含まない緩衝液を添加するものをブランクとして、同様に37℃24時間の反応を3回実施した。サンプルを凍結乾燥し、超純水を加えて再溶解した。そこに等量の6Nスルホサリチル酸を加えて撹拌し、13,000rpmで5分間遠心分離して得られた上清を採って1/3量の20%(v/v)メタノールと混合した。固相抽出カラム(Bond Elute C18)に分析サンプルをロードし、続いて等量の10%メタノールをロードすることで、得られた溶出液を合わせて撹拌した。その後、別途準備した標準液(CEL,CML:0,50,100,200ppb/MG-H1:0,100,200,400ppb)と1:1で混合し、(1)と同様の条件でLC-MS/MSに供することで、標準添加法によりサンプル中の結合型メイラード反応産物濃度を算出した。
【0065】
実施例3:精製MRP画分の添加試飲
(1)メイラード反応産物画分の精製
実施例1に記載の発明品の範囲内に相当する試験製造品から、実施例2(2)の方法にて得た分取画分を、C18固相抽出カラム(Bond Elute C18)に吸着させた。純水で洗浄した後、得られた素通り画分および洗浄液をさらにダイヤイオンHP20(三菱ケミカル製)カラムに吸着させ、純水で洗浄処理を行った。C18固相抽出カラムの吸着物は、50%(v/v)エタノール水溶液にて溶出した。C18固相抽出カラムの溶出液は濃縮乾固を行い、これを純水にて復水することで、結合型メイラード反応産物の精製物とした。
【0066】
また、上記のダイヤイオンHP20カラムの素通り画分は、凍結乾燥濃縮を行い、分子量100~500の透析膜にて約10時間、NaClによる電気伝導度が低下するまで透析を行った。さらに透析外液を交換して20時間透析を行った。NaClを除去した後の透析外液を凍結乾燥した後、これを純水にて復水し、濃縮液とした。これを遊離型メイラード反応産物の精製物とした。
【0067】
各精製物に含まれる結合型メイラード反応産物(B-MRP)、および遊離型メイラード反応産物(F-MRP)は、それぞれ実施例2に記載の方法で定量し、添加試飲に用いた。
【0068】
(2)精製B-MRP画分の添加試飲
サンプル9に対して、実施例2(4)で得られた結合型メイラード反応産物画分の精製物を、表9に記載のメイラード反応産物濃度となるよう添加し、訓練された5名のパネルによりざらつきを指標として官能評価を行った。
【0069】
【0070】
B-MRP濃度が200ppb以下となるサンプル12~14では、官能評価スコア6.0以下の低いざらつきとなっていることが分かった。一方、濃度が200ppbを上回るサンプル15ではざらつきのスコアが6.8となり、良好な評価とは言えなかった。実施例1でざらつきにおいて良好な評価が得られた市販品および試験製造品の濃度範囲と一致した。
【0071】
(3)精製F-MRP画分の添加試飲
同様にサンプル1に対して、実施例2(4)で得られた遊離型メイラード反応産物画分の精製物を、表10に記載のメイラード反応産物濃度となるよう添加し、訓練された5名のパネルによりコクの強さを指標として官能評価を行った。
【0072】
【0073】
F-MRPを500ppb以上含むサンプル16~19では、サンプル1と比較してコクの強さが増強されることが分かった。一方、910ppb以上含むサンプル19では、コクの強さが高くなる反面、ネガティブな後味・苦味が過半数のパネルから指摘された。これらのサンプルで良好な評価が得られたF-MRPの濃度範囲は、実施例1でコクの強さにおいて良好な評価が得られた試験製造品の濃度範囲と合致した。
【0074】
以上の結果より、F-MRP濃度が500~903ppbの範囲内かつB-MRP濃度が200ppb以下となるようにすることで、適度なコクを付与し、ざらつきを抑えたビールテイストアルコール飲料に付与できることが明らかとなった。
【要約】
飲料中の遊離型のカルボキシメチルリジン(CML)、遊離型のカルボキシエチルリジン(CEL)および遊離型のメチルグリオキサール由来ヒドロイミダゾロン-1(MG-H1)の合計含有量が500~903ppbであり、飲料中の結合型のCML、結合型のCELおよび結合型のMG-H1の合計含有量が200ppb以下である、ビールテイストアルコール飲料であって、前記結合型のCML、結合型のCELおよび結合型のMG-H1が、分子量400~3000Daのペプチド画分に含まれるものである、ビールテイストアルコール飲料が開示されている。このビールテイストアルコール飲料では、コクが増強されるとともに、ざらつきが低減されている。