(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-24
(45)【発行日】2024-08-01
(54)【発明の名称】マウス腸管オルガノイドを腸内分泌細胞に指向性分化するように誘導する培地及びその使用
(51)【国際特許分類】
C12N 5/00 20060101AFI20240725BHJP
C12N 5/071 20100101ALI20240725BHJP
C12M 3/00 20060101ALN20240725BHJP
【FI】
C12N5/00
C12N5/071
C12M3/00 A
(21)【出願番号】P 2023179718
(22)【出願日】2023-10-18
【審査請求日】2023-10-19
(31)【優先権主張番号】2023106655434
(32)【優先日】2023-06-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】517062562
【氏名又は名称】合肥工▲業▼大学
【氏名又は名称原語表記】HeFei University of Technology
【住所又は居所原語表記】No.193, Tunxi Road, Baohe District, HeFei, Anhui, China
(73)【特許権者】
【識別番号】507255592
【氏名又は名称】南京▲農業▼大学
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【氏名又は名称】木内 光春
(74)【代理人】
【識別番号】100112564
【氏名又は名称】大熊 考一
(74)【代理人】
【識別番号】100163500
【氏名又は名称】片桐 貞典
(74)【代理人】
【識別番号】230115598
【氏名又は名称】木内 加奈子
(74)【代理人】
【識別番号】110000073
【氏名又は名称】弁理士法人プロテック
(74)【代理人】
【識別番号】100108051
【氏名又は名称】小林 生央
(72)【発明者】
【氏名】呉 文達
(72)【発明者】
【氏名】張 傑
(72)【発明者】
【氏名】李 図帥
(72)【発明者】
【氏名】徐 宝才
(72)【発明者】
【氏名】秦 子慧
(72)【発明者】
【氏名】楽 建銘
(72)【発明者】
【氏名】張 華月
【審査官】田名部 拓也
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-510999(JP,A)
【文献】国際公開第2018/161064(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第115637251(CN,A)
【文献】特表2019-527068(JP,A)
【文献】特表2019-506153(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00 ー 7/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マウス小腸組織からマウス小腸陰窩幹細胞を得るマウス小腸陰窩幹細胞分離ステップと、
前記マウス小腸陰窩幹細胞分離ステップにて得たマウス小腸陰窩幹細胞をAdvanced DMEM培地10~15ml、Glutamax 100~150μL、Hepes buffer 100~150μL、N-2 supplement 100~150μL、B-27 supplement 100~150μL、マイシリン 100~150μL、Noggin 80~120ng/ml、R-spondin1 400~600ng/ml、EGF 30~80ng/mlを含む培地であるENR培地を用いて継代培養を行い、マウス小腸オルガノイドを得る継代培養ステップと、
前記継代培養ステップにて3回継代培養をしたのち、前記ENR培地10~15mL、Mek阻害剤PD0325901 0.5~2μ
M、Wnt阻害剤IWP-2 3~8μ
M及びNotch阻害剤DAPT 8~15μ
Mを含む誘導培地を用いて前記マウス小腸オルガノイドを培養する誘導培地培養ステップと
からなるマウス小腸オルガノイドを腸内分泌細胞に指向性分化するように誘導する誘導方法。
【請求項2】
請求項1に記載の誘導方法であって、
前記マウス小腸陰窩幹細胞分離ステップは、
マウス小腸組織をEDTAで消化処理した後、外部の機械的力の作用の下で分離する
ことを特徴とする誘導方法。
【請求項3】
前記誘導培地培養ステップにおける培養の条件は35~37℃、5%CO
2であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記
誘導培地培養ステップで、
マウスの小腸オルガノイドの分化が開始してから2日ごとに培地を更新し、4日間分化した後、培養液を吸引して取り除き、PBS緩衝液を追加して吹き付け、遠心分離し、上澄み液を捨て、4℃Advanced DMEMにおいて、再懸濁し、遠心分離し、上澄み液を捨て、Advanced DMEM及びMatrigelマトリゲルに再懸濁することを特徴とする請求項1に記載の誘導方法。
【請求項5】
前記遠心分離の条件は、0~4℃で、280~290gを2~8min遠心分離することであることを特徴とする請求項4に記載の誘導方法。
【請求項6】
前記マウス小腸オルガノイドは、
前記継代培養ステップにて、
マウス小腸陰窩幹細胞を前記ENR培地において、5~7日間培養した後に継代培養して得られたものであることを特徴とする請求項1に記載の誘導方法。
【請求項7】
前記継代培養の継代比率は1:3~1:5であることを特徴とする請求項6に記載の誘導方法。
【請求項8】
請求項1に記載の誘導方法を用いて、マウス腸内分泌細胞オルガノイドモデルの構築を行う方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オルガノイドの誘導培養の技術分野に属し、具体的にはマウス腸管オルガノイドを腸内分泌細胞に指向性分化するように誘導する培地及びその使用である。
【背景技術】
【0002】
小腸内分泌細胞は、小腸幹細胞から分化されてなり、腸管全体に分布し、腸管分泌、運動、消化吸収、血糖調節及び代謝等の生理的活動を調節する。それはさまざまな種類の腸管ホルモンを分泌でき、内分泌と傍分泌を通じて、腸管蠕動、血管収縮、栄養吸収、上皮成長及び中枢生物リズム調節等において重要な役割を果たす。同時に、医薬、栄養、組織プロジェクト向けの非臨床的および臨床システムに関する研究において、重要な役割を伴う。過去には、腸内分泌細胞の体外研究は常に細胞系のレベルにとどまり、単一層で培養され、通常の腸内分泌細胞に比べて、細胞環境、遺伝的背景、機能的特性に大きな差異がある。
【0003】
研究では、腸管内のLgr5+腸管幹細胞は、パネート細胞、内分泌細胞、腸上皮細胞などを含む、腸上皮に全ての型の細胞に分化する可能性があることが示されている。したがって、小腸陰窩におけるLgr5+腸管幹細胞を抽出して誘導すると、自分自身を維持して増殖できる腸管オルガノイドを形成できる。該オルガノイド内には、すべての腸管上皮細胞型が含まれ、腸管と類似の細胞環境を持ち、さらに、腸管ホルモンの発現方式は天然腸管に類似する。ただし、腸管オルガノイドでは、腸内泌細胞は、1%だけであり、現在の培養方法は、その特定の分化方向を制御することにより腸内分泌細胞群を取得しにくいことを考慮し、したがって、安定的、効率的、便利なマウス腸管内分泌細胞誘導モデルの構築方法を開発することが緊急である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これを考慮して、本発明は、マウスの小腸オルガノイドを処理して成熟腸内分泌細胞への指向性分化を成功且つ、迅速に行うことができる誘導培地を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記発明の目的を達成するために、本発明は以下の技術的解決手段を提供する。
【0006】
本発明は、誘導培地を提供し、前記培地成分は、腸管オルガノイド標準条件ENR培地10~15mL、Mek阻害剤PD0325901 0.5~2μm、Wnt阻害剤IWP-2 3~8μm及びNotch阻害剤DAPT 8~15μmを含み、前記ENR培地成分はAdvanced DMEM培地10~15ml、Glutamax 100~150μL、Hepes buffer 100~150μL、N-2 supplement 100~150μL、B-27 supplement 100~150μL、マイシリン 100~150μL、Noggin 80~120ng/ml、R-spondin1 400~600ng/ml、EGF 30~80ng/mlである。
【0007】
本発明はまた、前記誘導培地を使用してマウス小腸オルガノイドを培養するステップを含むマウス腸管オルガノイドを腸内分泌細胞に指向性分化するように誘導する方法を提供する。
【0008】
好ましくは、前記培養の条件は35~37℃、5%CO2である。
【0009】
好ましくは、マウスの小腸オルガノイドの分化が開始してから2日ごとに培地を更新し、4日間分化した後、培養液を吸引して取り除き、PBS緩衝液を追加して吹き付け、遠心分離し、上澄み液を捨て、4℃Advanced DMEMにおいて再懸濁し、遠心分離し、上澄み液を捨て、Advanced DMEM及びMatrigelマトリゲルに再懸濁する。
【0010】
より好ましくは、前記遠心分離の条件は、0~4℃で、280~290gを2~8min遠心分離することである。
【0011】
好ましくは、前記マウス小腸オルガノイドは、マウス小腸陰窩乾細胞を腸管オルガノイド標準条件ENR培地において、5~7日間培養した後に継代培養して得られたものである。
【0012】
より好ましくは、前記腸管オルガノイド標準条件ENR培地成分はAdvanced DMEM培地10~15ml、Glutamax 100~150μL、Hepes buffer 100~150μL、N-2 supplement 100~150μL、B-27 supplement 100~150μL、マイシリン 100~150μL、Noggin 80~120ng/ml、R-spondin1 400~600ng/ml、EGF 30~80ng/mlである。
【0013】
より好ましくは、前記継代比率は1:3~1:5である。
【0014】
より好ましくは、前記マウス小腸陰窩乾細胞は、マウス小腸組織をEDTAで消化処理して得られたものである。
【0015】
本発明はまた、前記誘導培地又は前記方法の、マウス腸内分泌細胞オルガノイドモデルの構築における使用を提供する。
【発明の効果】
【0016】
従来技術と比較して、本発明は以下の有益な効果を有する。
本発明によって提供される誘導培地は、マウスの小腸オルガノイドを腸内分泌細胞に指向性分化する。免疫蛍光検出により、対照群と比較して、本発明の誘導培地で処理された腸内分泌細胞マーカーの数は985%増加し、qRT-PCRによりオルガノイドにおける各種の細胞マーカーmRNA発現量を検出し、CCK(I細胞)、GLP-1(L細胞)、Ghrelin(A細胞)、Secrtin(S細胞)、GIP(K細胞)及びSomatostatin(D細胞)等の、小腸の一般的な内分泌細胞サブ型の標識したホルモンmRNA発現量はすべて、大幅に増加した。結果は、本発明の誘導培地で、マウスの小腸オルガノイドを処理して成熟腸内分泌細胞への指向性分化を可能にし、マウス腸管内分泌細胞の誘導モデルをうまく構築することに有利であることを示している。該モデルは、2D細胞モデルより腸管細胞環境をよりよくシミュレートでき、これは、さまざまな疾患モデルの、腸内分泌細胞及びその腸管ホルモンの分泌への影響及び分子メカニズムを探求するために使用でき、また、腸管の栄養と健康、腸管内分泌疾患のスクリーニング及び安全評価を研究するためにも使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】腸管オルガノイド標準条件ENR培地を使用して培養したマウス小腸オルガノイドの1~8日間の培養成長状態図である。
【
図2】異なる培地条件下での小腸オルガノイドの0日目と4日目の成長状態図である。
【
図3】異なる培地条件下での小腸オルガノイドの腸内分泌細胞マーカー免疫蛍光検出結果である。
【
図4】本発明の誘導培地条件下での小腸オルガノイドにおける細胞マーカーmRNA発現量結果である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、誘導培地を提供し、前記培地成分は好ましくは、腸管オルガノイド標準条件ENR培地10~15mL、Mek阻害剤PD0325901 0.5~2μm、Wnt阻害剤IWP-2 3~8μm及びNotch阻害剤DAPT 8~15μmを含み、前記腸管オルガノイド標準条件ENR培地成分は好ましくは、Advanced DMEM培地10~15ml、Glutamax 100~150μL、Hepes buffer 100~150μL、N-2 supplement 100~150μL、B-27 supplement 100~150μL、マイシリン 100~150μL、Noggin 80~120ng/ml、R-spondin1 400~600ng/ml、EGF 30~80ng/mlであり、より好ましくは、前記培地成分は、腸管オルガノイド標準条件ENR培地12mL、Mek阻害剤PD0325901 1μm、Wnt阻害剤IWP-2 5μm及びNotch阻害剤DAPT 10μmを含み、前記腸管オルガノイド標準条件ENR培地成分はより好ましくは、Advanced DMEM培地12ml、Glutamax 120μL、Hepes buffer 120μL、N-2 supplement 120μL、B-27 supplement 120μL、マイシリン 120μL、Noggin 100ng/ml、R-spondin1 500ng/ml、EGF 50ng/mlである。本発明において、前記Mek阻害剤PD0325901、Wnt阻害剤IWP-2及びNotch阻害剤DAPT阻害剤はMedChemExpressから購入し、前記Advanced DMEM 培地、Glutamax、Hepes buffer、N-2 supplement、B-27 supplement及びマイシリンは、Thermo Scientificから購入し、前記Noggin、R-spondin1及びEGFは、Propertechから購入する。
【0019】
本発明はまた、マウス腸管オルガノイドを腸内分泌細胞に指向性分化するように誘導する方法を提供し、前記誘導培地を使用してマウス小腸オルガノイドを培養するステップを含む。
【0020】
本発明において、前記培養の条件は35~37℃、5%CO2である。
【0021】
本発明において、マウスの小腸オルガノイドの分化が開始してから2日ごとに培地を更新し、4日間分化した後、培養液を吸引し取り除き、PBS緩衝液を追加して吹き付け、遠心分離し、上澄み液を捨て、4℃Advanced DMEMにおいて、再懸濁し、遠心分離し、上澄み液を捨て、Advanced DMEM及びMatrigelマトリゲルに再懸濁する。
【0022】
本発明において、前記遠心分離の条件は好ましくは、0~4℃で、280~290gを2~8min遠心分離することである。
【0023】
本発明において、前記マウス小腸オルガノイドは、マウス小腸陰窩乾細胞を腸管オルガノイド標準条件ENR培地において、5~7日間培養した後に継代培養して得られたものである。本発明の具体的な実施例において、前記培養条件は、37℃及び5%CO2で培養することである。本発明において、前記継代回数は好ましくは、3~4回であり、継代培養により、オルガノイドの状態をよく保持できる。
【0024】
本発明において、前記腸管オルガノイド標準条件ENR培地成分は好ましくは、Advanced DMEM培地10~15ml、Glutamax 100~150μL、Hepes buffer 100~150μL、N-2 supplement 100~150μL、B-27 supplement 100~150μL、マイシリン 100~150μL、Noggin 80~120ng/ml、R-spondin1 400~600ng/ml、EGF 30~80ng/mlであり、より好ましくは、腸管オルガノイド標準条件ENR培地成分はAdvanced DMEM培地12ml、Glutamax 120μL、Hepes buffer 120μL、N-2 supplement 120μL、B-27 supplement 120μL、Glutamax 120μL、Hepes buffer 120μL、N-2 supplement 120μL、B-27 supplement 120μL、マイシリン 120μL、Noggin 100ng/ml、R-spondin1 500ng/ml、EGF 50ng/mlである。
【0025】
本発明において、前記継代比率は好ましくは1:3~1:5、より好ましくは1:4である。本発明の継代比率は、陰窩の状態に応じて継代比率を適切に調整することができる。
【0026】
本発明において、前記マウス小腸陰窩乾細胞は、マウス小腸組織をEDTAで消化処理して得られたものである。EDTAで消化した後、小腸組織は緩くなり、外部の機械的力の作用の下で、小腸陰窩は組織から分離され、外部の機械的力により数回繰り返して、異なる留分混合を得ることができ、また、より高い陰窩の含有量とより少ない柔細胞を持つ留分を選択して細胞培養用プレートにおいて、培養することもできる。本発明の具体的な実施例において、得られた小腸組織切片を25mL 4℃的EDTA溶液に再懸濁し、且つ0~4℃の条件下で振動台に置いて、20rpm回転速度で30~60分間培養し、EDTAを含む上澄み液を除去し、PBSで3回洗い流し、組織切片を0.1%BSAを含む4℃PBSに再懸濁し、ピペットを使用して上下に3回吹き付ける。ほとんどの腸組織切片が底に沈むまで、静置し、上澄み液を慎重に除去し、70μmフィルターを使用して濾過し、ろ液をEP管に収集し、ろ液を「留分1」としてマークし、ステップを3回繰返し、留分2~4を得る。本発明の具体的な実施例において、好ましくは、留分3及び留分4を使用して後続培養用の陰窩を行う。
【0027】
本発明はまた、前記誘導培地又は前記方法の、マウス腸内分泌細胞オルガノイドモデルの構築における使用を提供する。
【0028】
本発明によって提供される技術的解決手段は、実施例を参照しながら以下に詳細に説明されるが、それらは、本発明の保護の範囲を制限するものとして理解することはできない。
【0029】
実施例1
誘導培地は、腸管オルガノイド標準条件(ENR)培地12ml、Mek阻害剤PD0325901 1μm、Wnt阻害剤IWP-2 5μm及びNotch阻害剤DAPT 10μmを含み、前記腸管オルガノイド標準条件(ENR)培地成分はAdvanced DMEM培地12ml、Glutamax 120μL、Hepes buffer 120μL、N-2 supplement 120μL、B-27 supplement 120μL、マイシリン 120μL、Noggin 100ng/ml、R-spondin1 500ng/ml、EGF 50ng/mlを含有した。
【0030】
実施例2
誘導培地は、腸管オルガノイド標準条件(ENR)培地10ml、Mek阻害剤PD0325901 0.5μm、Wnt阻害剤IWP-2 3μm及びNotch阻害剤DAPT 8μmを含み、前記腸管オルガノイド標準条件(ENR)培地成分はAdvanced DMEM培地10ml、Glutamax 100 μL、Hepes buffer 100μL、N-2 supplement 100μL、B-27 supplement 100μL、Hepes buffer 100μL、N-2 supplement 100μL、B-27 supplement 100μL、マイシリン 100μL、Noggin 80ng/ml、R-spondin1 400ng/ml、EGF 30ng/mlであった。
【0031】
実施例3
誘導培地は、腸管オルガノイド標準条件(ENR)培地15ml、Mek阻害剤PD0325901 2μm、Wnt阻害剤IWP-2 8μm及びNotch阻害剤DAPT 15μmを含み、前記腸管オルガノイド標準条件(ENR)培地成分はAdvanced DMEM培地15ml、Glutamax 150μL、Hepes buffer 150μL、N-2 supplement 150μL、B-27 supplement 150μL、マイシリン 150μL、Noggin 120ng/ml、R-spondin1 600ng/ml、EGF 80ng/mlであった。
【0032】
比較例1
実施例1と異なることは、Wnt阻害剤IWP-2およびNotch阻害剤DAPTを添加しないことであり、他の成分や投与量は変更されなかった。
【0033】
比較例2
実施例1と異なることは、Mek阻害剤PD0325901およびNotch阻害剤DAPTを添加しないことであり、他の成分や投与量は変更されなかった。
【0034】
比較例3
実施例1と異なることは、Mek阻害剤PD0325901およびWnt阻害剤IWP-2を添加しないことであり、他の成分や投与量は変更されなかった。
【0035】
比較例4
実施例1と異なることは、Notch阻害剤DAPTを追加しないことであり、他の成分や投与量は変更されなかった。
【0036】
比較例5
実施例1と異なることは、Wnt阻害剤IWP-2を添加しないことであり、他の成分や投与量は変更されなかった。
【0037】
比較例6
実施例1と異なることは、Mek阻害剤PD0325901を添加しないことであり、他の成分や投与量は変更されなかった。
【0038】
実施例4
マウス小腸オルガノイドを腸内分泌細胞に指向性分化ように誘導する方法は、
マウスを頸椎を脱臼させてマウスを屠殺した後、マウスの胃の近くで約20cmの長さの小腸を取り、鑷子を使用して、腸管外部の膜、血管、脂肪を除去し、縦方向に解剖した後、1%マイシリン含有の4℃で予冷された無菌PBS緩衝液ピペットを使用して、吹き付けてきれいになるまで洗い流したステップ(1)と、
処理された小腸セグメントを眼科用剪刀で約2~5mmの腸セグメントに剪断し、50mlの無菌EP管内に移し、10mLのピペットをPBSで事前に湿潤し、かつ腸管切片を上下に3回パージし、その後に静置して切片を重力により沈降させ、上澄み液を吸引し、15mL PBSを追加し、上澄み液が浄化になるまで上記ステップを15から20回繰返したステップ(2)と、
上澄み液を除去し、組織セグメントを25mL4℃のEDTA溶液に再懸濁し、4℃の条件下で振動台に置いて20rpmの回転速度で30分間培養したステップ(3)と、
EDTAを含む上澄み液を除去し、PBSで3回洗い流し、組織切片を0.1%BSAを含む10mLの4℃ PBSに再懸濁し、ピペットを使用して上下に3回吹き付けた。ほとんどの腸組織切片が底に沈むまで、静置し、上澄み液を慎重に除去し、70μmフィルターを使用して濾過し、ろ液を50mLのEP管に収集し、ろ液を「留分1」としてマークし、ステップを3回繰返し、留分2~4を得たステップ(4)と、
4℃ですべての留分を290gで5分間遠心分離し、上澄み液を慎重に捨て、0.1%BSAを含む10mLのPBS緩衝液に再懸濁し、各試験管の懸濁液を15mLのEP管に移し、4℃で200gを5分間遠心分離し、10mLの4℃ Advanced DMEMに再懸濁したステップ(5)と、
すべての留分から10μLを取り出し、反転顕微鏡を使用して留分の質量を確認し、一般的な場合、留分3及び4は、後続培養用の陰窩により適したステップ(6)と、
10μLサンプルにおける陰窩の数量を計算し、それにより留分における1ミリリットルあたりの陰窩の数を計算し、必要な孔数*200個陰窩1ミリリットルあたりの留分を抽出し、4℃で200gを5分間遠心分離し、必要な孔数*25μL腸管オルガノイド標準条件(ENR)培地に再懸濁し、必要な孔数*25μL Matrigelマトリゲルを追加し、上下に吸引して吹き付けて沈殿を再懸濁し、気泡の生成を避けるために注意し、ここで、腸管オルガノイド標準条件(ENR)培地成分はAdvanced DMEM培地15ml、Glutamax 150 μL、Hepes buffer 150μL、N-2 supplement 150μL、B-27 supplement 150μL、Glutamax 150μL、Hepes buffer 150μL、N-2 supplement 150μL、B-27 supplement 150μL、マイシリン 150μL、Noggin 120ng/ml、R-spondin1 600 ng/ml、EGF 80ng/mlであったステップ(7)と、
陰窩を事前に予熱した24ウェルプレートに追加し、サンプルは、各孔の中央に凝固液滴を形成する必要があり、マトリゲルが完全に凝固するまで培養用プレートを37℃で10分間静置し、ピペットを使用して孔側壁に沿って各孔に500μL腸管オルガノイド標準条件(ENR)培地を軽く添加し、無菌PBSを他の液滴が接種されていない孔に添加し、培養器に入れて37℃及び5%CO2で培養し、3日ごとに培地を置換し、一般的には、5~7日間後に継代培養を行い、継代比率は1:4であったステップ(8)と、
3回継代した後、陰窩をプレートに広げ、マトリゲルが完全に凝固するまで500μL実施例1の誘導培地を追加し、培養器に入れて37℃及び5%CO2で培養し、分化が開始してから2日ごとに培地を更新したステップ(9)と、
4日間分化した後、細胞培養用プレートにおける培養液を吸引し、各孔に4℃で予冷された1mLのPBS緩衝液を追加し、10回吹き付け、腸管オルガノイドを壊れ、4℃で290gを5分間遠心分離し、上澄み液を捨て、10mLの4℃ Advanced DMEMに再懸濁し、4℃で200gを5分間遠心分離し、上澄み液を捨て、必要な孔数*25μL Advanced DMEM及びマトリゲルに再懸濁したステップ(10)と、
陰窩を均一に広げ、マトリゲルが完全に凝固するまで500μL Advanced DMEMを追加し、実験処理を待ったステップ(11)と、を含む。
【0039】
試験例1
実施例4のステップによれば、ステップ(9)の誘導培養中、実施例1の誘導培地をそれぞれ、比較例1~比較例6の誘導培地に置き換えて小腸オルガノイドに対して誘導培養を行い、単独の腸管オルガノイド標準条件(ENR)培地で培養したマウス小腸オルガノイドを対照として、合計8組であった。異なる培養条件下でのオルガノイドの形態及び成長状態を観察した。
【0040】
図1によると、腸管オルガノイド標準条件(ENR)培地で培養して得られたマウス小腸オルガノイドの1~8日間の培養成長状態が分かり、抽出されたマウス腸管陰窩乾細胞は、マトリゲルにおいて培養して分化され、気球状の中空腸オルガノイドを形成し、その中央の空洞には絨毛のような上皮細胞が含まれた。2~4日間培養した後、陰窩乾細胞は絶えず増殖し、上皮細胞に分化して、腸オルガノイドの体積を増加させた。4~6日間培養した後、オルガノイド上皮細胞から外向きに折り畳み新しい萌芽のような構造ドメインを形成し、内部には、腸管陰窩乾細胞を含み、それを分離すると、新しい腸管オルガノイドを形成することができる。培養時間が増えると、死亡した上皮細胞が中央の空洞に落ち、8日目に顕微鏡の下に黒い影を形成し、大量の細胞アポトーシス因子が含まれた。
【0041】
図2によると、小腸オルガノイドの、異なる培地(単独のMEK、Wnt、Wnt、Notch阻害剤で処理又は共同処理後)条件下での0日目と4日目の成長状態が分かり、明らかに、4日後、iMek/iWnt/iNotch(3i)組の成長状態は良好であったが、iNotch、iMek、iMek/iNotch組には、多くのオルガノイド死があった。実験では、Wnt、Notch及びMek経路を組み合わせて抑制することのみによって、腸管陰窩幹細胞の増殖を防ぎ、オルガノイド全体の過度の増加によりアポトーシスプロセスを開始することを避けることができることが示された。
【0042】
試験例2
ChgA検出:遠心分離によりMatrigelマトリゲルを取り外し、試験例1で得られた異なる培養条件下での腸管オルガノイドをそれぞれリジンでコーティングされているスライドガラスに移し、4%パラホルムアルデヒドを使用して、4℃の冷蔵庫で一晩固定した。パラホルムアルデヒドを吸着し、PBSで3回洗浄し、室温で0.5% Triton X-100で細胞膜を10分間破砕し、PBSで3回洗浄した。次に3%BSAを用いて室温で30分間閉じ、スライドガラスを3回洗浄した後、一次抗体(クロモグラニンA(Chromogranin A、ChgA)抗体、abcam)及び二次抗体(ヤギ抗ウサギIgG H&L、abcam)を培養し、封入し、観察して撮影した。ここでDPAIは細胞核の位置をマークし、ChgAは腸内分泌細胞をマークした。
【0043】
図3の結果によると、免疫蛍光により検出された各組の各オルガノイドの腸内分泌細胞マーカーChgAの数(ChgAは緑、DPAIは青)を示し、結果は、ENR組に比べて、iMek/iWnt/iNotch(3i)によって共同で処理された腸内分泌細胞マーカーの数が985%増加し、差異が顕著であったことを示した。
【0044】
試験例3
遺伝子検出:実施例1の誘導培地で4日間培養した後のマウス腸内分泌オルガノイド又はENR培地で培養したマウス小腸オルガノイドを、ウェルプレート内の培地を吸引し、各孔に直接400μL Trizolを追加して溶解し、吹き付けて室温で5分間静置し、RNA抽出及び逆転写を行った。qRT-PCRによりオルガノイドにおける各種の細胞マーカーmRNA発現量、腸内分泌細胞の成熟マーク遺伝子、小腸の一般的な内分泌細胞サブ型の標識したホルモンmRNA発現量を検出した。
【0045】
図4の結果によると、qRT-PCRによりオルガノイドにおける各種の細胞マーカーmRNA発現量を検出し、Wnt/Notch/Mekの共同抑制経路で4日間後、腸上皮細胞、杯状細胞及び内分泌細胞のmRNA発現量はすべて、大幅に増加し、それぞれ13.2倍、8.4倍、28.8倍増加したが、パネート細胞及び腸管乾細胞のmRNA発現量は、大幅に低下した(
図4A)ことが分かり、qRT-PCRにより腸内分泌細胞の成熟マーク遺伝子を検出したと、Wnt/Notch/Mekの共同抑制経路で4日間後、isl1遺伝子の発現量は、neurog3遺伝子の発現量より顕著に増加したことが分かり(
図4B)、qRT-PCRにより小腸の一般的な内分泌細胞サブ型の標識したホルモンmRNA発現量を検出したと、Wnt/Notch/Mekの共同抑制経路で4日間後、CCK(I細胞)、GLP-1(L細胞)、Ghrelin(A細胞)、Secrtin(S細胞)、GIP(K細胞)及びSomatostatin(D細胞)等の、小腸の一般的な内分泌細胞サブ型の標識したホルモンmRNA発現量はすべて、大幅に増加したことが分かり、ENR組に比べて差異が顕著(
図4C)であり、それにより、MEK、Wnt、Notch阻害剤(3i)で共同にマウスの小腸オルガノイドを処理すると、成熟腸内分泌細胞への指向性分化を可能にすることができると結論付けることができる。
【0046】
実施例8
実施例7と異なることは、ステップ(8)の継代比率が1:5であり、残りのステップは変更されていなかった。
【0047】
実施例9
実施例7と異なることは、ステップ(8)の継代比率が1:3であり、残りのステップは変更されていなかった。
【0048】
上記は本発明の好ましい実施形態に過ぎず、当業者にとって、本発明の原理から逸脱しないという前提の下で、いくつかの改善と修飾を行うことができ、これらの改善と修飾も本発明の保護範囲に属すべきであることを指摘する必要がある。
【要約】
【課題】マウス腸管オルガノイドを腸内分泌細胞に指向性分化するように誘導する培地及びその使用を提供する。
【解決手段】本発明は、マウス小腸オルガノイド標準条件(ENR)培地にMek阻害剤PD0325901、Wnt阻害剤IWP-2、Notch阻害剤DAPTを添加してマウス小腸オルガノイドを成熟腸内分泌細胞に分化するように誘導し、マウス腸管内分泌細胞誘導モデルの構築を実現する。この誘導培地を使用してマウス腸管オルガノイドを腸内分泌細胞に指向性分化するように誘導する。マウスの小腸オルガノイドの分化が開始してから2日ごとに培地を更新し、4日間分化した後、培養液を吸引して取り除き、PBS緩衝液を追加して吹き付け、遠心分離し、上澄み液を捨て、4℃Advanced DMEMにおいて、再懸濁し、遠心分離し、上澄み液を捨て、Advanced DMEM及びMatrigelマトリゲルに再懸濁する。
【選択図】
図4