(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-24
(45)【発行日】2024-08-01
(54)【発明の名称】迅速な手指消毒方法及び迅速手指消毒装置
(51)【国際特許分類】
A61L 2/10 20060101AFI20240725BHJP
A61L 2/18 20060101ALI20240725BHJP
【FI】
A61L2/10
A61L2/18
(21)【出願番号】P 2021518385
(86)(22)【出願日】2020-05-01
(86)【国際出願番号】 JP2020018423
(87)【国際公開番号】W WO2020226137
(87)【国際公開日】2020-11-12
【審査請求日】2023-04-18
(31)【優先権主張番号】P 2019087933
(32)【優先日】2019-05-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】519163751
【氏名又は名称】株式会社M&Cデザイン
(73)【特許権者】
【識別番号】504145320
【氏名又は名称】国立大学法人福井大学
(74)【代理人】
【識別番号】100150876
【氏名又は名称】松山 裕一郎
(72)【発明者】
【氏名】岩崎博道
(72)【発明者】
【氏名】田中栄司
(72)【発明者】
【氏名】飛田征男
(72)【発明者】
【氏名】別所信夫
【審査官】齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-265583(JP,A)
【文献】特表2018-518341(JP,A)
【文献】特開2004-155712(JP,A)
【文献】特開2018-114197(JP,A)
【文献】特開平11-241381(JP,A)
【文献】特表平07-500271(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 2/00-28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長190nm~230nmの紫外線照射とアルコール系消毒剤による処理との両方を行う消毒方法であ
って、
上記アルコール系消毒剤が、エタノール、プロパノール、或いは両者の混合物の何れかから選択されるアルコール剤と水とを含み、該アルコール剤の方が水よりも多く配合され、
消毒対象物へのアルコール系消毒剤の付着量が1mg/cm
2
~1.8mg/cm
2
となるようにアルコール系消毒剤処理を行い、紫外線照射量を0.2mJ/cm
2
~5mJ/cm
2
とすることを特徴とする消毒方法。
【請求項2】
紫外線の波長が206~208nmまたは221~223nmである
ことを特徴とする請求項1記載の消毒方法。
【請求項3】
アルコール系消毒剤を消毒対象物に付着させる消毒剤供給部と波長190nm~230nmの紫外線を消毒対象物に照射する紫外線照射部
を備え、
消毒剤供給部の噴霧量が、消毒対象物へのアルコール系消毒剤の付着量が1mg/cm
2
~1.8mg/cm
2
となる量であり、紫外線照射量が0.2mJ/cm
2
~5mJ/cm
2
であることを特徴とする消毒装置。
【請求項4】
紫外線の波長が206~208nmまたは221~223nmである
ことを特徴とする請求項3記載の消毒装置。
【請求項5】
更に、消毒対象物挿入空間を備え、上記消毒剤供給部は該消毒対象物挿入空間にアルコール系消毒剤を噴霧可能に構成され、且つ上記紫外線照射部は、該消毒対象物挿入空間内を照射可能に構成されており、上記消毒対象物挿入空間は、一部に開口を有するハウジングからなり、上記紫外線照射部、並びに上記消毒剤供給部及び上記紫外線照射部に電力を供給する通電装置が空間内に露出しないように、独立した空間とされており、噴霧されるアルコール系消毒剤の成分が上記紫外線照射部及び上記通電装置に侵入しないようになされていることを特徴とする請求項
3記載の消毒装置。
【請求項6】
上記開口の面積が200cm
2~450cm
2であることを特徴とする請求項
5記載の消毒装置。
【請求項7】
少なくとも消毒物挿入空間の壁面の一部が222nmの紫外線を反射する反射材からなることを特徴とする請求項
6記載の消毒装置。
【請求項8】
少なくとも消毒物挿入空間の壁面の一部が222nmの紫外線を反射する反射材からなることを特徴とする請求項
6記載の消毒装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人体の一部(主として手指)や各種製品、用具を簡易かつ簡便に、しかも高い殺菌力を持って殺菌消毒することができる消毒方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、手指等の人体の消毒には標準的にアルコール系消毒剤等が用いられて来たが、20~30秒かけて消毒を行うことが推奨されており、特に多忙な病院の看護師等においては手指消毒遵守率は低かった。(非特許文献1)他方、紫外線の殺菌効果を利用して対象物の消毒を行う技術は種々知られている。しかし、一般に、紫外線は人体に対しても害があるためその使用に際して照射量及び照射場所等制約も多かった。
しかし、近年、230nm以下の紫外線が人体に対する影響が少なく、しかも高い殺菌効果を発揮することがわかり(非特許文献2等)、この結果を応用した提案が複数行われている。
例えば、特許文献1~3及び5には、230nm以下の紫外線を用いた消毒装置が提案されている。
また、特許文献4には、紫外線と殺菌剤とを組み合わせた消毒方法が提案されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】WHO Guidelines on Hand Hygiene in Health Care, Summary whqlibdoc.who.int/hq/2009/WHO_IER_PSP_2009.07_eng.pdf
【文献】Germicidal Efficacy and Mammalian Skin Safety of 222-nm UV Light Radiat Res. 2017 April ; 187(4): 483-491
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-114197号公報
【文献】特開2016-220684号公報
【文献】特表2014-508612号公報
【文献】特開2007-82900号公報
【文献】特開2017-136145号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の提案のアルコール系消毒剤を用いる消毒方法及び非特許文献1並びに特許文献1~3及び5にかかる消毒方法及び装置では、未だに15秒以上の時間を消毒に要するという問題があった。また、特許文献4にかかる提案では、用いる紫外線が主に254nmの人体に害のある紫外線である他、用いている消毒剤がペルオキシカルボン酸を含む水性溶液であり、人体に使用した場合に肌荒れを起こしやすいとう問題がある。
要するに、従来の提案では、未だに迅速に消毒を行うことと、肌荒れなどの人体に対する影響を最小限に抑えるという問題点を解消してはおらず、この問題点を解消した提案が要望されているのが現状である。
したがって、本発明は、容易に短時間で手指などの消毒対象物を消毒でき、人体に用いた場合にも肌荒れなどの人体に対する悪影響の少ない、消毒方法及び消毒装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上述の課題を解消すべく鋭意検討した結果、特定の波長の紫外光と特定の消毒剤とを組み合わせることにより上記目的を達成しうることを知見し、本発明を完成するに至った。
本発明は以下の各発明を提供するものである。
1.波長190nm~230nmの紫外線照射とアルコール系消毒剤による処理との両方を行うことを特徴とする消毒方法
2.上記アルコール系消毒剤が、エタノール、プロパノール、或いは両者の混合物の何れかから選択されるアルコール剤と水とを含み、該アルコール剤の方が水よりも多く配合されることを特徴とする1記載の消毒方法。
3.紫外線の波長が206~208nmまたは221~223nmであることを特徴とする1~2のいずれかに記載の消毒方法。
4.消毒対象物へのアルコール系消毒剤の付着量が0.2mg/ cm2~2mg/ cm2となるようにアルコール系消毒剤処理を行い、紫外線照射量を0.2mJ/ cm2~5mJ /cm2とすることを特徴とする1~3のいずれかに記載の消毒方法。
5.アルコール系消毒剤を消毒対象物に付着させる消毒剤供給部と波長190nm~230nmの紫外線を消毒対象物に照射する紫外線照射部を備えた消毒装置。
6.紫外線の波長が206~208nmまたは221~223nmであることを特徴とする5に記載の消毒装置。
7.消毒剤供給部の噴霧量が、消毒対象物へのアルコール系消毒剤の付着量が0.2mg/ cm2~2mg/ cm2となる量であり、紫外線照射量が0.2mJ/ cm2~5mJ /cm2であることを特徴とする5又は6記載の消毒装置。
8.更に、消毒対象物挿入空間を備え、上記消毒剤供給部は該消毒対象物挿入空間にアルコール系消毒剤を噴霧可能に構成され、且つ上記紫外線照射部は、該消毒対象物挿入空間内を照射可能に構成されており、上記消毒対象物挿入空間は、一部に開口を有するハウジングからなり、上記紫外線照射部、並びに上記消毒剤供給部及び上記紫外線照射部に電力を供給する通電装置が空間内に露出しないように、独立した空間とされており、噴霧されるアルコール系消毒剤の成分が上記紫外線照射部及び上記通電装置に侵入しないようになされていることを特徴とする5~7のいずれかに記載の消毒装置。
9.上記開口の面積が200cm2~450cm2であることを特徴とする8記載の消毒装置。
10.少なくとも消毒物挿入空間の壁面の一部が222nmの紫外線を反射する反射材からなることを特徴とする5~9のいずれかに記載の消毒装置。
【発明の効果】
【0007】
本発明の消毒方法及び消毒装置によれば、容易に短時間で手指などの消毒対象物を消毒でき、人体に用いた場合にも肌荒れなどの人体に対する悪影響が少ない。
このため、本発明の消毒方法及び消毒装置は、医療従事者の衛生(学)的手指衛生(消毒)に対し短時間で手指を消毒することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は手指消毒装置を模式的に示す斜視図である。
【
図2】
図2は
図1に示す手指消毒装置のII-II断面を模式的に示す断面図である。
【
図3】
図3は
図1に示す手指消毒装置のIII-III断面を模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0009】
1:消毒装置、2:チャンバー、3:UVランプ、4:消毒剤タンク、5:パイプ、6:手、7:噴霧ノズル
【発明の実施の形態】
【0010】
以下、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら制限されるものではない。
以下、まず、本発明の消毒方法について説明する。
本発明の消毒方法は、波長190nm~230nmの紫外線照射とアルコール系消毒剤による処理との両方を行うことを特徴とする。
ここで、本発明の消毒方法における消毒対象物としては、人体の手指、各種装置器具等を挙げることができ、特に病院の医師、看護師等の医療従事者の手指を挙げることができる。ここで「手指」とは、手、指および手首、更に前腕の手首に近い部分を指す。また、上記装置器具としては、手術用具や治療用具、手袋等の各種器具、用具を挙げることができる。
【0011】
〔紫外線〕
本発明の消毒方法において照射される紫外線は190~230nmの範囲の波長を持つ紫外線である。ここで、「波長を持つ紫外線」とは、上記波長の紫外線を主成分とする紫外線であり、上記波長の紫外線以外の紫外線を含んでも良い。その場合、230nm以上の波長の紫外線の含有量は紫外線全体においてエネルギー換算で15%以下にすることが好ましい。該紫外線の波長分布は190~230nm の範囲の波長を持つものであれば特に限定されるものではなく、特定の波長に半値幅2nmの鋭いピークを示すものでも良いし、広いスペクトル分布を持つものでも良い。好ましくは該紫外線の波長範囲は200~225nmであり、好ましくは206~208(207)nm又は221~223(222)nmであり、特に好ましくは221~223(222)nmである。
190nm~230nmの紫外線を照射するランプとしては、エキシマランプ、LED(Light emitting diode)等を用いることができる。KrBrあるいはKrClを封入したエキシマランプを光源とする場合は放射光に230nmよりも長波長の成分が含まれる場合があるので、その場合はバンドパスフィルター等により230nmより長波長の光の放射を抑えることが好ましい。あるいは、含まれる長波長の光の照射量が人体に害を与えない範囲で用いることが好ましい。紫外線としては実際の入手性からピークトップが206~208(207)nm(KrBrを封入したエキシマランプ)、または、221~223(222)nmの(KrClを封入したエキシマランプ)の紫外線が用いられ、最も好ましくは221~223(222)nmのKrClを封入したエキシマランプの紫外線が用いられる。この他、これらの波長の光を発光するダイヤモンドLED等の紫外LEDが用いられる。エキシマランプを用いたUVランプは例えば特許文献1、2、3又は5等に記載されているものを用いることができるが、これに制限されるものではない。
【0012】
〔アルコール系消毒剤〕
アルコール系消毒剤としては以下のものを挙げることができる。
エタノール、プロパノール、或いは両者の混合物の水溶液を主とする速乾性のアルコール系消毒剤等。ヨウ素のアルコール溶液(ヨードチンキ)、ポビドンヨード(ポリビニルピロリドンとヨウ素の複合体)のアルコール溶液を主とするヨウ素系消毒剤;ベンザルコニウム塩化物及びベンゼトニウム塩化物のアルコール溶液を主体とする第四級アンモニウム塩系消毒剤;アルキルジアミノエチルグリシン塩酸塩のアルコール溶液を主体とする両性界面活性剤系消毒剤;クロルヘキシジングルコン酸塩のアルコール溶液を主体とするビグアナイド系消毒剤
【0013】
消毒力、安全性に加え、速乾性、水道、排水設備が不要と言う点から、エタノール、プロパノール、或いは両者の混合物の水溶液を主とする速乾性のアルコール系消毒剤が最も好ましい。この水溶液における水とアルコールとの配合割合は、アルコール含有量が50体積%以上であることが好ましく、60体積%以上であることがより好ましい。又、95体積%以下であることが好ましく、85体積%以下であることがより好ましい。アルコールの配合割合が低い場合には十分な殺菌消毒効果を奏さない傾向があり、塗布後の乾燥が遅くなる傾向がある。一方、アルコールの配合割合が高い場合には、十分な殺菌消毒効果を奏さず、乾燥が速くなりすぎる他、皮膚に対する刺激が強くなる傾向がある。低着火性などの安全性が重視される場合は、アルコール濃度は50体積%~60体積%が好ましい。上記アルコール系消毒剤としては、少量のベンザルコニウム塩化物、ベンゼトニウム塩化物、クロルヘキシジングルコン酸塩を含む消毒剤を含んでいても良く、また必要に応じて、少量のカルボキシビニルポリマーやセルロース系水溶性高分子化合物等の増粘剤を含んでいても良い。また、手荒れ防止のための保湿剤等を含むこともできる。
【0014】
〔紫外線照射及びアルコール系消毒剤による処理〕
アルコール系消毒剤による処理に際しては、アルコール系消毒剤を噴霧により手指に付着させるのが好ましい。これにより、手をこすり合わせることをせざるとも、爪の下、手指のしわや指紋の奥まで消毒剤を到達させて、本発明の所望の効果をより効率的に得ることができる。また、紫外線の供給を妨げることなく消毒剤を手に付着させる意味で霧滴のサイズが重要である。このように噴霧により処理する場合、霧滴のサイズは、平均粒径として500μm以下が好ましく、更に好ましくは200μm以下である。噴霧方法は、このような平均粒径を達成できれば特に制限されないが、超音波噴霧装置を用いる方法、エアスプレイ方式、エアレススプレイ方式等により行うことができる。なお、霧滴の平均粒径は、粒状の霧滴の最も径の大きな部分の平均をとったものであり、JISZ8825レーザー回析・散乱法による粒子径測定法などにより測定することができる。
【0015】
紫外線照射と消毒剤処理とを組み合わせて消毒する方法は特に制限されるものではない。消毒対象物に消毒剤を付着させた後紫外線照射を行う方法、付着させる(消毒剤処理)と同時に紫外線を照射する方法、紫外線照射後に消毒剤処理を行う方法のいずれを用いることもできる。特に、紫外線照射と消毒剤処理とを同時に行うのが好ましい。ここで「同時に」とは、消毒剤の噴霧を行う装置による噴霧と紫外線照射を行う装置による照射の開始とが、通常の制御回路又は制御機構により同時になるように制御されて、一緒に行われる状態を意味する。したがって、通常装置により生じる微差(1~3秒以内)程度の誤差があっても「同時に」の範囲内である。
また、上記消毒剤処理は、消毒対象物へのアルコール系消毒剤の付着量が0.2mg/ cm2~2mg/ cm2となるように噴霧又は塗工による処理を行い、紫外線照射量を0.2mJ/ cm2~5mJ /cm2とするのが、本発明の所望の効果を得る点から特に好ましい。ここで、アルコール系消毒剤の付着量は、後述する装置などを用いて、所定の空間体積を有する空間内に消毒剤を所定量噴霧することで実現することができる。
本発明の消毒方法は、特に、特定の消毒装置を用いて行うことにより、より効率的に本発明の所望の効果を得ることができる。
以下、本発明の消毒方法において好ましく用いることができる本発明の消毒装置の1実施形態について図面を参照して説明するが、本発明の消毒装置はこの例に限定されるものではない。
【0016】
〔消毒装置〕
図1及び2に示す本発明の消毒装置1は、アルコール系消毒剤を消毒対象物に付着させる消毒剤供給部と波長190nm~230nmの紫外線を消毒対象物に照射する紫外線照射部を備えている。更に詳述する。
【0017】
〔全体構造〕
図1及び2に示す本実施形態の消毒装置1は、消毒の対象物(本実施形態においては人体の手6)を挿入可能に形成された消毒対象物挿入空間2を形成する開口2aを有するハウジング2bと、ハウジング2bの上下に設けられた紫外線照射部としてのUVランプ3と、消毒剤供給部としての、消毒剤を保持するための消毒剤タンク4及び消毒剤タンク4にパイプ5を介して連結された消毒剤の噴霧ノズル7とを有する。
【0018】
〔消毒剤供給部〕
消毒剤供給部は、該消毒対象物挿入空間にアルコール系消毒剤を噴霧可能に構成されたものであり、噴霧ノズル7を具備することによりアルコール系消毒剤を噴霧することができる。この際用いられる噴霧ノズルとしては、市販のものを特に制限なく用いることができるが、好ましくは、上述の霧滴の平均粒子径を実現でき、少量の液体を広範囲に噴霧可能な噴霧ノズルが好ましい。具体的には、例えば、いけうち株式会社製、商品名「KBノズル」、「KBNノズル」等を用いることができる。すなわち、本体噴出口とクローザーとを備え、微霧を環状、円状等の形状にて噴霧可能になされたノズルであって、本体噴出口、クローザーがセラミックで形成されているノズル等を用いることができる。
この噴霧ノズル7による1回の噴霧量は、上述の0.2mg/cm
2~2mg/cm
2の付着量となるように調節され、ハウジングの内部体積にもよるが、10ml以下とするのが好ましい。
噴霧ノズル7は、
図2に示すように、ハウジング2bの一面としての開口2aの対向面側において、消毒対象物挿入空間の幅方向(
図1の矢印A方向)中央部で且つ空間における
図2の天井面から下方に突出した位置に配している。しかしながら、噴霧ノズル7の配設位置はこれに制限されず、ハウジング2bの一面としての開口2aの対向面における中央部に設ける態様、又は奥行方向(
図1の矢印B方向)中央における幅方向両側に各一つ設ける態様等が採用可能である。さらに、紫外線照射のためのUVランプ3を下方に設け、噴霧ノズル7を天井面に設ける態様を採用することもでき、この場合特に経済性に優れる。
【0019】
〔紫外線照射部〕
上記紫外線照射部は、消毒対象物挿入空間2内を照射可能に構成されており、ハウジング2bの上下に設けられたUVランプ3は、いずれもハウジング2bにおける開口2aから離隔された位置に設けられている。これによりUVランプ3から照射されるUV光がハウジング2bの外部に漏れにくい構造とされている。このような構造とするためにはUVランプの位置を開口2aからハウジング内方に5~20cm以上離間された位置とするのが好ましく、10~20cm以上とするのが更に好ましい。なお、UVランプ3により照射される紫外線の波長は、206~208nmまたは221~223nmであるのが好ましく、221~223nmであるのが特に好ましい。この際用いることができるランプとしては上述の紫外線照射に用いられるランプを適宜用いることができる。
【0020】
〔消毒対象物挿入空間〕
上記ハウジング2bは、六面体形状で、その内部が全て消毒対象物挿入空間2となっている。消毒対象物挿入空間2の内部は噴霧ノズル7を除き、全て封止されており、噴霧されたアルコール系消毒剤がUVランプ3や他の配線に直接付着して電気系統に悪影響を与えることがないように構成されている。具体的には、UVランプ3、並びに消毒剤供給部及び紫外線照射部に電力を供給する通電装置が消毒対象物挿入空間2内に露出しないように、ハウジング2bの内壁面は全て封止されている。噴霧ノズル7の設置箇所においても噴霧ノズル7の周囲を通常用いられるシール材によりシールしてハウジング2bの外部に噴霧したアルコール系消毒剤が滲出しないように構成されている。
ハウジング2bの一面に設けられた開口2aの面積は、手指を挿入する際に手指が開口部の縁に触れることなく挿入できる十分な広さが必要である一方、内部からの消毒剤の吹き出しを抑制するため過度に広くすべきではない。そのため、当該面積は30cm
2~500cm
2であるのが好ましく、200cm
2~450cm
2であるのが更に好ましい。
さらに、本実施形態においては、開口2aの設けられた一面において、開口2aの周囲に凸面2cが形成されている。この凸面2cが、アルコール系消毒剤の吹き出しに対する邪魔板として機能し、少ない噴霧量で手全体にアルコール系消毒剤を付着させることができ、効果的に手指などの消毒を行うことが可能となる。また、必要に応じて邪魔板をハウジング内壁における天井面、下面、左右両面の少なくともいずれかに、
図1の矢印A又はB方向に沿って設けても良い。
また、ハウジングの内壁は少なくともその一部が222nmの紫外線を反射する反射材からなる。具体的には、
図2に示すように、ハウジング2bの内面は反射材からなる反射面2dと透明で紫外線を透過する透過面2eとからなる。透過面2eはUVランプ3の表面に設けられており、それ以外の壁面は凸面2cの内面も含めて全て反射面とされている。反射面は、222nmの紫外線を反射する材料(反射鏡)からなることが好ましく、その材料としてはアルミニウム、銀、ステンレス鋼などが用いられる。また反射面は、金属材料の表面を222nm紫外線の透過率70%以上の材料(例えば 石英膜あるいはETFE等の透明フッ素樹脂など)で被覆したものを用いることもできる。透過面2eを構成する材料としては222nmの紫外線透過率が70%以上、好ましくは80%以上のもの、例えば、石英ガラスあるいはETFE等の透明フッ素フィルムなどを用いることが好ましい。石英材料としては、東ソー株式会社製商品「S」,「ES」,「EDA」,「EDH」、信越石英株式会社製のSUPRASILシリーズ等市販品を用いることができる。
このような装置の構造を採用することにより、上述の本発明の所望の効果が得られる。
【0021】
〔他の部材〕
紫外線照射中は照射中の表示がされることが好ましい。紫外線照射表示装置としては通電ランプあるいは、222nmの紫外線を受けて発光する蛍光物質を設置することが好ましい。
また、特に図示しないが、手を挿入したことを検知するセンサーが開口付近に設けられており、このセンサーが手の侵入を検知すると1~2秒後に噴霧ノズルからアルコール系消毒剤の噴霧が行われると共にUVランプによる紫外線照射が行われる。
【0022】
〔使用方法(本発明の消毒装置を用いた消毒方法)〕
次に、本実施形態の装置1を用いた消毒方法について説明する。
本実施形態の消毒方法においては、開口2aから手をハウジング内に入れることにより、特に図示しないセンサーが反応して噴霧ノズル7からアルコール系消毒剤が噴霧されると同時にUVランプ3による紫外線照射が行われる。
本実施形態の装置においては、上述のように一面の中央部(手を基準とした場合の正面中央)に噴霧ノズルを設け且つ手の上下位置にUVランプを設けており、更には凸面や反射面が設置されているので、消毒剤を手の全体に噴霧することが可能となり、かつUVランプ3によるUV照射による殺菌と噴霧ノズル7による消毒剤の吹き付けによる消毒とを同時に且つそれぞれの効果を阻害することなく、実行することが可能となる。
そして、このように構成されているので、噴霧時間は短時間とすることが可能であり、3秒以下、更には1秒以下とすることができる。
【0023】
本手指消毒装置におけるUVランプは、その照射強度が10mw/cm
2以下、照射量は100mJ/ cm
2以下とするのが、短時間消毒及び装置の小型化の面で好ましい。照射強度の下限は0.1mw/ cm
2程度、照射量の下限は0.2mJ/ cm
2程度である。
照射時間は好ましくは15秒以下、更に好ましくは5秒以下である。換言すると、アルコール系消毒剤による処理と紫外線照射とを併用しているので、照射時間を短くし、且つアルコール系消毒剤の使用量を少量としても十分な殺菌消毒が可能となる。この点、及び迅速に手指を消毒し且つ手荒れ等皮膚への有害な影響を小さくし、更には設備を小型化するためには、アルコール系消毒剤の噴霧量は実際の手指への付着量が0.1mg/cm
2~3mg/cm
2、より好ましくは0.2mg/cm
2~2mg/cm
2、となる量とするのが好ましい。また、紫外線照射量は好ましくは0.2mJ/ cm
2~10mJ/cm
2、より好ましくは0.2mJ/cm
2~5mJ/cm
2である。上記範囲よりも消毒剤の使用量が少ない、あるいは紫外線照射量が低い場合は消毒が不十分となるかあるいは消毒に長時間を要する。上記範囲よりも消毒剤の使用量が多い場合は手荒れの増大が懸念され、紫外線照射量が高い場合は装置が過大で高コストとなる。
ここで、消毒対象物へのアルコール系消毒剤の付着量が0.2mg/ cm
2~2mg/ cm
2となるようにアルコール系消毒剤処理を行い、紫外線照射量を0.2mJ/ cm
2~5mJ /cm
2とするのが最も好ましい、
(他の態様)
また、本発明の装置1においては、ハウジング2bの内部形態を
図3に示す形態とする事もできる。すなわち、
図2に示す形態ではハウジング2bの内部形態は長方体形状の空間が形成されるように形成されているが、
図3に示すように幅方向の断面が楕円形状となるように反射面2dを形成することができる。このように形成することでハウジング2b内部の反射面2dにおける反射効果を最大限得ることが可能となり、より短時間に高い消毒効果を得ることができる。
さらに、特に図示しないが、補助的な空気噴出ノズルを天井面又は下面に設置し、消毒剤の霧が空間内を舞うようにすることもできる。これにより、より手の隅々まで消毒剤を行き渡らせる事が可能となり、高い消毒効果を得ることができる。
【0024】
(効果)
本実施形態の消毒装置及び消毒方法によれば、医療従事者の衛生(学)的手指衛生(消毒)のためのASTM E1174の生体消毒薬のin vivo評価方法に準じ、特定の短時間消毒処理後の菌数が処理前に比べ1/100以下になるのに、従来よりも短時間の処理で実現可能であり、小型の装置で、少ない諸毒剤の使用量および紫外線照射量で実現できる。
【0025】
なお、本発明の消毒方法及び消毒装置は、上述の形態に制限されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
例えば、UVランプを一つのみとして、UVランプの対向面のみを反射面とすることもできる。また、反射面は、平面な反射鏡ではなく、非平面の反射鏡とすることもできる。
装置の構造は上述の構造に限られるものではなく、例えば消毒装置を壁面に設置する場合等には、手指を挿入するハウジングを装置の上部に設け、開口部を装置の上面に設けた構造として、手指を上から下へと挿入する態様とすることもできる。
また、UVランプの位置も上述の実施形態のように手の上面又は下面に対し垂直方向から照射する態様以外に、斜め方向から照射するなど種々の位置に設けることができる。
噴霧ノズルは二つまでの例をもって説明したが、三つ以上であっても良い。噴霧装置の位置については、指の先端側から手の面に平行に噴霧する態様で説明したが、手の上面あるいは下面に対し上下2つのノズルから手に対して垂直に噴霧する態様、斜め方向から噴霧する態様等種々の位置に設けることが可能である。
また、上述の例では、自動で噴霧と照射とが行われるが、手動としてもよく、また、紫外線の照射も噴霧後又は噴霧前とすることが可能である。
【実施例】
【0026】
以下、実験例及び比較例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら制限されるものではない。
【0027】
〔実験例1〕
ア)手指のモデルとしてニュークリポアフィルター (Whatman, 0.2μm pore size,φ47 mm, polycarbonate)を用い、同フィルターに前培養したSerratia marcescens(セラチア菌)を約8×10
6 CFU/mlに調整した細胞液10mlを接種、乾燥し試料とした。
イ)同試料を
図1及び2に示す消毒装置に挿入し、アルコール系消毒剤として日本薬局方消毒用エタノール(エタノール(C2H5OH)76.9-81.4vol%含有水溶液)を試料への付着量が1.0mg/cm
2(フィルター面積)となる様に噴霧ノズルから3秒間かけて噴霧した。噴霧と同時にUVランプとしての222nmエキシマランプ(センエンジニアリング社製、商品名「UMK20-22XE」)により照射強度0.24mw/cm
2で4秒間紫外線照射した(照射エネルギー1mJ/cm
2)。照射後に、予め SCDLP ブイヨン培地 (栄研) 10 mL を入れたシャーレに、消毒後のフィルターを投入し、培地を超音波音波洗浄機で2分間処理して、付着菌を洗い出し、これを菌数測定用試料液として菌数を測定した。菌数測定用試料液を生理食塩液で10倍段階希釈列を作成し、原液または希釈液を混釈平板法で培養を行い、生菌数(CFU)を測定した。培養は36 ± 2℃・40~48時間行った。
消毒結果を表1に示す。
【0028】
〔実験例2〕
実験例1において紫外線照射を照射強度0.7mw/cm2で5秒間 (照射エネルギー3.5mJ/cm2)とした以外は実験例1と同様に消毒実験を行った。消毒結果を表1に示す。
【0029】
〔実験例3〕
実験例1において試料への付着量が1.8mg/cm2(フィルター面積)となる様に噴霧を行い、紫外線照射を照射強度0.14mw/cm2で4秒間 (照射エネルギー0.56mJ/cm2)とした以外は実験例1と同様に消毒実験を行った。消毒結果を表1に示す。
【0030】
〔実験例4(比較対象としての実験例)〕
実験例1において試料への付着量が0.5mg/cm2(フィルター面積)となる様に噴霧を行った以外は実験例1と同様に消毒実験を行った。消毒結果を表1に示す。
【0031】
〔比較例1〕
実験例1において紫外線照射をせず、試料への付着量が1.0mg/cm2(フィルター面積)となる様に噴霧した以外は実験例1と同様に消毒実験を行った。消毒結果を表-1に示す。
【0032】
〔比較例2〕
実験例1において噴霧を行わず紫外線照射を照射強度0.4mw/cm2で5秒間 (照射エネルギー2mJ/cm2) とした以外は実施例1と同様に消毒実験を行った。消毒結果を表1に示す。
【0033】
〔実験例5〕
実験例1において、試料をStaphylococcus aureus(MRSA)を6.1 ×104 CFU/mlに調整した細胞液10mlを接種、乾燥したものとし、試料への付着量が1mg/cm2(フィルター面積)となる様に噴霧し、紫外線照射を照射強度0.8mw/cm2で5秒間照射 (照射エネルギー4mJ/cm2)した以外は 実験例1と同様に消毒実験を行った。消毒結果を表1に示す。
【0034】
〔比較例3〕
実験例5において紫外線照射をせず、試料への付着量が1mg/cm2(フィルター面積)となる様に日本薬局方消毒用エタノールを噴霧した以外は実験例5と同様に消毒実験を行った。消毒結果を表-1に示す。
【0035】
〔比較例4〕
実験例5において噴霧を行わず、紫外線照射を照射強度0.7mw/cm
2で4秒間(照射エネルギー2.8mJ/cm
2)とした以外は実験例5と同様に消毒実験を行った。消毒結果を表-1に示す。
【表1】
【0036】
先述のように、CDCやWHOのガイドラインでは1回あたりおよそ2~3mlのアルコール系消毒剤を手指に擦り込むこととしている。また、健康で標準的な日本の成人の前腕の1/3及び両手指の表面積は1000cm2程度と言われている(蔵澄ら(1994) 日本生気象学会雑誌. 1994 年 31 巻 1 号 p. 5-29)。したがってCDCやWHOのガイドラインでは2×10-3~3×10-3ml/cm2、およそ2~3mg/cm2のアルコール系消毒剤を手指に擦り込むことになる。一方セラチア菌に対する消毒用エタノールと222nm光の殺菌効果を評価したところ(表―1)、およそ1mg/cm2のエタノール付着でセラチア菌の数がおよそ1/600にまで低減し、確かにかなりの殺菌効果を示す(比較例1)。しかし、若干量(およそ1mJ/cm2)の222nm光の照射を併行することでおよそ1000倍と言う劇的な殺菌効果向上を見ることができる(残存セラチア菌数はおよそ1/1,000,000 (実験例1)。また、セラチア菌よりもアルコール耐性の高いMRSA(メシチリン耐性黄色ブドウ球菌)に対しても1mg/cm2のエタノール付着に4mJ/ cm2の222nm光の照射を併行することで、ほとんど完璧な殺菌効果を見ることができる(実験例5)。このことより、222nm紫外線の照射を併行することすることでで、一層少量のアルコール系消毒剤の使用でもCDCやWHOのガイドラインと同等の殺菌効果を得ることが可能であって、これは手指消毒におけるアルコール系消毒剤に起因する手荒れの軽減につながる。
アルコール系消毒剤噴霧装置を用いて噴霧により消毒剤を手指に付着させる場合は、噴霧量のおよそ10-60%が手指に付着するように装置を設計すると、1回の噴霧量は10ml程度以下とすることができる。