(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-24
(45)【発行日】2024-08-01
(54)【発明の名称】醗酵組成物および醗酵組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 5/00 20160101AFI20240725BHJP
A23F 5/10 20060101ALI20240725BHJP
A23F 5/14 20060101ALI20240725BHJP
A23G 1/32 20060101ALN20240725BHJP
A21D 13/80 20170101ALN20240725BHJP
【FI】
A23L5/00 J
A23F5/10
A23F5/14
A23G1/32
A21D13/80
(21)【出願番号】P 2023191887
(22)【出願日】2023-11-09
(62)【分割の表示】P 2022008485の分割
【原出願日】2022-01-24
【審査請求日】2023-11-10
(31)【優先権主張番号】P 2021010865
(32)【優先日】2021-01-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】597095348
【氏名又は名称】株式会社ソーイ
(74)【代理人】
【識別番号】100113804
【氏名又は名称】岩田 敏
(72)【発明者】
【氏名】石垣 哲治
【審査官】厚田 一拓
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2015-0094016(KR,A)
【文献】韓国登録特許第10-1296043(KR,B1)
【文献】韓国登録特許第10-1574608(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 2/00 - 35/00
A23F 3/00 - 5/50
A23G 1/00 - 9/52
A21D 2/00 - 17/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/FSTA/AGRICOLA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コーヒー滓およびコーヒー豆のシルバースキン(薄皮)を主材とし、ヌルクにて前記の主材を醗酵させた、食品として利用可能な醗酵組成物。
【請求項2】
前記の主材には、小麦粉、小麦胚芽、大豆、ゴマまたは米粉からなる群から選択される一または二以上の副材をさらに追加で含む請求項1に記載の醗酵組成物。
【請求項3】
コーヒー滓およびコーヒー豆のシルバースキン(薄皮)を主材としたものを除菌または静菌させる除菌工程と、
前記の主材の粒径を小さく粉砕する磨砕工程と、
ヌルクによる醗酵工程と、を含み、
前記の除菌工程は、前記の醗酵工程に必要な水分の補充を含む、食品として利用可能な醗酵組成物の製造方法。
【請求項4】
前記の醗酵工程の後工程として、濾過工程を含む請求項3に記載の醗酵組成物の製造方法。
【請求項5】
前記の醗酵工程の後工程として、殺菌工程を含む請求項3または請求項4のいずれかに記載の醗酵組成物の製造方法。
【請求項6】
前記の醗酵工程の後には、凍結および冷蔵による乾燥工程、およびその乾燥工程後の醗酵組成物にカカオバターを混ぜて練り固める混練工程を含むこととした
請求項3から請求項5のいずれかに記載の醗酵組成物の製造方法。
【請求項7】
前記の主材には、前記の醗酵工程を経て得た醗酵組成物を含むこととした
請求項3または請求項6のいずれかに記載の醗酵組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品加工の際に出る食品廃材を醗酵させた醗酵組成物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
農産物、海産物、畜産物といった原材料を加工して食品を製造する際の加工工程は、食品メーカーへの提供や最終消費者への提供の前段階として広く行われている。この加工工程では、「食品廃材」が発生することが多い。この食品廃材は、その原材料によっては、大量に発生する上、使い道に乏しいものが少なくない。
【0003】
次に、前記の食品廃材の具体例を説明する。コーヒー飲料の提供には、コーヒー豆を焙煎して熱湯を注いで得られるコーヒー抽出物が必要である。食品メーカーや最終消費者への提供前には、コーヒー豆からコーヒー抽出物を得ると、加工工程においてコーヒー豆の絞りかす(以下、「コーヒー滓」と記す)が食品廃材として発生することとなる。
【0004】
加工工程(家庭用などを除く趣旨)にて発生するコーヒー滓は、一般に、産業廃棄物と認定されている。コーヒー滓は、その一部が家畜飼料、食品残渣肥料、脱臭剤などとしてリサイクルされるが、焼却処分をしなければならない量も少なくない。コーヒー滓は、コーヒー抽出物の製造工程で含まれる水分を多く含む。このため、焼却処分の前に乾燥させ、多くの燃料を必要とする。この結果、処理時間または処理コストも多く掛かってしまう。加えて、温室効果ガスである二酸化炭素(炭酸ガス)も排出してしまう。
【0005】
コーヒー滓を焼却や埋め立てといった消極的な処理方法に供する以外に、コーヒー滓を家畜飼料に効率的に加工する技術(例えば、特許文献1を参照。)、及び肥料へ効率的に加工する技術(例えば、特許文献2を参照。)も知られている。これらは積極的な処理方法の代表例といえる。
【0006】
食品廃材は天然素材でもあるので、微生物によっていずれは分解される。その点に着目した場合、醗酵を用いて分解する際に、燃料として用いることができるガスを発生させ、回収して利用するといった技術(例えば、特許文献3を参照。)も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2010-142218号公報
【文献】特開2016-59880号公報
【文献】特開2016-77182号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
食品廃材が出ないように人間の口に入る食物に直接加工する技術として、大豆を豆腐へ加工する際に発生する大豆の絞り滓をおからとして食材に加工する、という例はよく知られている。しかし、現代人が口にしたときの食感における不快感や、充分な咀嚼を前提としない場合に消化に適していないといった食品廃材の方がはるかに多い。
【0009】
特許文献3に開示された技術では、食品廃材の全てを消失させて燃料ガスにできる訳ではなく、必ず残渣が残る。すなわち、食品廃材であったときの重量や体積を減らせることはできても、残渣の処分という工程が残る。
【0010】
また、特許文献1や特許文献2による技術は、間接的に食材となる加工にとどまっている。すなわち、特許文献1に開示された技術は、家畜の飼料へ加工することで、後に家畜を食肉へ加工することに間接的に関わっている技術である。特許文献2は、野菜や果物を収穫するための技術であり、やはり食品製造へ間接的に関わっている技術である。
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、食品廃材を処理した加工物を食品として直接利用できる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前述した課題を解決するため、本発明は、ヌルクを用いることで、食品廃材を食品へ加工することとする。
【0013】
(第一の発明)
第一の発明は、植物性の食品廃材を主材とし、ヌルクにて前記の主材を醗酵させた醗酵組成物に関する。
【0014】
ここで、「ヌルク」とは、特許第6489373号に記載されているように、「主に小麦などの穀物を練り自然に麹菌(クモノスカビ)を繁殖させ適温で熟成させた麹」である。なお、「麹菌」と表記した場合には、微生物そのものを指す(微生物である麹菌が穀物の上に集まったものが「麹」または「ヌルク」である)。
【0015】
(用語説明)
「植物性の食品廃材」とは、農産物を食品へ加工する際に出る食品廃材や、農産物を食品へ加工した後に時間が経過して食味が落ちた賞味期限切れ直前食品、規格外として一般市場に出荷できなかった農産物である。「農産物を食品へ加工する際に出る食品廃材」としては、コーヒー滓、コーヒー豆のシルバースキン(薄皮)、カカオ豆殻、ウィスキーモルト滓、ビールモルト滓、オリーブ滓、その他の油糧種子(ゴマ、大豆、菜種など)の絞り滓、お茶殻、そば殻、トウモロコシの芯、パイナップルやリンゴやキャベツの芯、芋類やタマネギやカボチャの皮、根菜類(大根、人参、牛蒡)の皮、小豆、アーモンドなどの豆類の皮、果実(バナナ、キウィ、ブドウ、パイナップル、蜜柑やレモン等の柑橘類、杏、桃、無花果、花梨)の皮など、いわゆる食品残渣を例示できる。
前述の「賞味期限切れ直前食品」としては、賞味期限切れ直前となった焙煎済みのコーヒー豆、所定の保存期間を経過してしまったことで市場に出せなくなった米、小麦などの穀物などが例示できる(
図2)。
【0016】
なお、一般に「食品廃材」には、前述の「植物性の食品廃材」の他に、畜産物または水産物の加工にて発生する動物性の食品廃材(皮革、内蔵、骨格など)があるが、本発明においては動物性の食品廃材を含まない。これは、動物性の食品廃材を主材として麹を用いた醗酵において、有用な醗酵組成物を得た実績が現在までに少ないためである。
【0017】
本発明における「醗酵組成物」は、主材としての「植物性の食品廃材」に何を選択したかによって異なる。例えば、食品廃材としてコーヒー滓を選択した場合、チョコレート様の食品が得られる。
「主材」は一種類である必要はなく、複数種類を組み合わせた主材としても良い。例えば、コーヒー滓およびコーヒー豆のシルバースキン(薄皮)の組み合わせを主材としても、チョコレート様の食品が得られる。
【0018】
(第一の発明のバリエーション)
第一の発明は、以下のように形成してもよい。すなわち、醗酵組成物は、上記主材のほに、小麦粉、小麦胚芽、大豆、ゴマまたは米粉からなる群から選択される一または二以上の副材を含む。主材は、副材に比して質量%が多ければ、醗酵組成物中に如何なる質量%占めていても良い。
【0019】
副材を含める理由は、植物性の食品廃材のみを醗酵させたものに対して、個性を薄めたり、別の個性を加えたりするためである。また、醗酵時間を短縮させられる場合もある。副材の方が主材のみよりも醗酵が早い場合が多いためである。
【0020】
副材としての一例である小麦粉、小麦胚芽、大豆、ゴマまたは米粉は、麹(ヌルクを含む)との相性が良いことが、経験的に把握できている。副材も醗酵させる必要から、小麦胚芽、大豆、ゴマは粉末状であることが好ましい。
「副材」もまた、一種類である必要はなく、複数種類を組み合わせた副材としても良い。
【0021】
(第二の発明)
第二の発明は、醗酵組成物の製造方法に関する。
すなわち、当該製造方法は、
植物性の食品廃材を除菌または静菌させる除菌工程(S2)と、
前記の食品廃材の粒径を小さく粉砕する磨砕工程(S3)と、
ヌルクによる醗酵工程(S5)と、を含み、
前記の除菌工程は(S2)、前記の醗酵工程(S5)に必要な水分の補充を含むこととした醗酵組成物の製造方法である(
図1を参照)。
【0022】
(用語説明)
除菌工程に用いるものとしては、加熱、紫外線、電気的分解された殺菌効果のある水; 次亜塩素酸ソーダ; アルコールでも良いが、オゾン水の方が望ましい。オゾン水は、下水処理施設や自然界に直接に流入したとしても環境負荷が小さいからである。オゾン水を採用することで、醗酵工程に必要な水分の補充も兼ねることができる。オゾン水による除菌工程とする場合、濃度は質量で0.5~5ppm、好ましく質量にて1~4ppmである。温度は、摂氏0~30度であり、好ましくは摂氏20~25度である。
【0023】
除菌工程は、食品廃材の量や除菌工程を実施する容器の容量などによって異なるが、除菌の完了が確認できる時間が必要である。オゾン水の場合、食品廃材の量や種類、オゾン水の濃度などによるが、少なくとも1分以上24時間以内(オゾンが自然分解されるまで)である。
【0024】
磨砕工程は、食品廃材の種類によって湿式または乾式の手法から選択される。食品廃材に液体(水や油など)が多く含まれている場合や除菌工程にて水分を含ませる場合には、湿式を採用する。その水分を脱水することなく磨砕工程へ移行する方が合理的なためである。磨砕工程を行う趣旨は、醗酵工程における醗酵の円滑さや、醗酵工程を経てでき上がる食品として提供される際に、ヒトの口の中に入った場合の異物感を抑制できる大きさとするためである。
【0025】
(第二の発明のバリエーション1)
醗酵工程(S5)の後工程としては、濾過工程(S6)を含むようにしてもよい。濾過工程(S6)の趣旨は、前記の磨砕工程や前記の醗酵工程を経てもなお、所定以上の大きさである粒状体を取り除くためであり、醗酵組成物を食品として口にした際の異物感を抑制するためである。
【0026】
(第二の発明のバリエーション2)
醗酵工程(S5)の後工程としては、「殺菌工程(S7)」を含むようにしてもよい。殺菌工程(S7)を含むのは、本発明に係る製造方法によって製造された醗酵組成物が流通する場合に、醗酵の酵素を失活させること、および微生物の活性を停止させることが望ましいからである。
【0027】
殺菌工程(S7)としては、加熱処理が最も一般的である。F値4となる殺菌の最低温度を用いて熱処理するのが好ましい。殺菌の手法は、殺菌を実行する装置の機種、加熱方法、主材の種類などにて変動する。殺菌処理後は、醗酵組成物を冷却し、所定の容器などに充填して製品化する。
【0028】
(第二の発明のバリエーション3)
第二の発明において、前記の食品廃材には、前記の醗酵工程を経て得た醗酵組成物を含むこととしてもよい。
たとえば、醗酵工程を経て得た醗酵組成物が、賞味期限切れ直前または消費期限切れ直前となった場合に、再び除菌工程(S2)、磨砕工程(S3)、醗酵工程(S5)を経て、醗酵組成物を得る製造方法も、本願発明に含まれる。
【0029】
第二の発明のバリエーション3によれば、賞味期限切れ直前または消費期限切れ直前という理由で廃棄される虞のある醗酵組成物を、再び醗酵組成物に加工して活用することができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、食品廃材を処理した加工物を食品として直接利用できる技術を提供できた。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】本発明の実施形態における製造手順のフローを示す。
【
図2】本発明において用いる食品廃材と、本発明との関係を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
図1および
図2を参照しながら、本発明に係る醗酵組成物およびその製造方法を説明する。
【0033】
(コーヒー滓からのチョコレート様食品の製造)
主材となる植物性の食品廃材として、コーヒー滓を選択する。「コーヒー滓」とは、コーヒー豆を焙煎して粉砕し、コーヒー抽出物を取り出した後の粉砕されたコーヒー豆を指す。
【0034】
(食品廃材中の含水量の測定):S1
まず、食品廃材中の含水量を測定する。これは、除菌用水の濃度及び量を決定する必要からである。
含水量を測定する意義は、通常であれば食品廃材を乾燥させる乾燥工程が必要となるが、本願では乾燥工程が不要である。乾燥工程で必要となる熱エネルギーに要する燃料費の節約およびトータルの製造時間の短縮になり、また燃料の燃焼による二酸化炭素の発生を抑えることにもなる。
【0035】
乾燥工程が不要であるのは、後述するS2で除菌するために腐敗が発生するおそれを減じることができ,且つ後述するS3、S4の工程において、加水量も減らすことができるからである。
【0036】
(除菌工程):S2
コーヒー滓は、乾燥したものでも水分を含んだものでも良い。いずれの場合であっても、除菌用水としてオゾン水にて除菌することが望ましい。なお、オゾン水では「殺菌」と言えるレベルまでには菌を減少させるに至らないことが多いので、「除菌」としている。オゾン水は、濃度を質量にて1~4ppmとし、温度を摂氏20~25度とし、時間を60分とした。
【0037】
(磨砕工程):S3およびS4
磨砕工程に先立ち、含水率を整える(含水量を増やすことが多い)。磨砕工程の開始時には、水:主材=4:1程度とする。磨砕の過程で水分が蒸発するため、水:主材=1.5~1:1となるまで磨砕を実行する。水と主材との割合は、最終的な醗酵組成物の種類によって異なる。磨砕の程度が充分な場合には次の工程に進むが、磨砕の程度が不十分な場合には磨砕を継続する。磨砕の程度が充分かどうかを判断する工程を、磨砕程度判断工程(S4)とし、磨砕工程(S3)と区別しても良い。
【0038】
磨砕のレベルは、最終食品の要求品質によって異なるが、チョコレート様の最上品では、平均粒径が20マイクロメートル以下となるまで磨砕する。普及品であれば、平均粒径は、50マイクロメートル以下のレベルでもよい。
磨砕工程に要する時間は、食品廃材の繊維質の長さによって異なる。繊維質が長いと磨砕時間を要するが、短ければ磨砕工程が短くて済む。
【0039】
(醗酵工程):S5
醗酵工程では、ヌルクを用いて醗酵させる。ヌルクとは、主に小麦などの穀物を練り自然に麹菌(クモノスカビ)を繁殖させ適温で熟成させた麹である。
醗酵は、摂氏0~60度、好ましくは摂氏30~35度にて実行する。醗酵容器内は、pH=4.6以下が望ましい。より好ましくはpH=4.1以下である。pHが低いほど、発酵が順調に進んでいることを把握できる。
【0040】
適切な醗酵時間は、主材の種類、磨砕の程度、醗酵させる温度などによって異なる。多くの場合、8時間以上170時間以下が好ましく、より好ましくは15~20時間の範囲であった。
【0041】
ヌルクを用いた醗酵工程を経ない場合(すなわち、ヌルク以外の麹または菌を用いた発酵工程の場合)、最終的な醗酵組成物に、いわゆる「えぐみ」や「渋み」が口の中に感じられる。ヌルクを用いた醗酵工程を経ることで、「えぐみ」や「渋み」を最終的な醗酵組成物から減じている。
【0042】
麹を用いる一般の醗酵食品の製造では、発酵工程の前に蒸煮(じょうに)工程を経ないと、麹菌を植え付けても麹が形成されない。それは、麹菌が消費するデンプンのアルファ化(糊化)が蒸煮工程を経ない場合には起きておらず、麹菌が繁殖できないためである。しかし、ヌルクであれば、蒸煮工程を経なくても菌が繁殖する特徴を持っているため、蒸煮工程を省略できる。したがって、蒸煮工程の省略による熱エネルギー削減、および蒸煮工程で発生する二酸化炭素の発生をなくすことができる。
【0043】
(濾過処理):S6
濾過工程によって、醗酵組成物から所定の大きさ以上の粒状体を取り除く。
【0044】
(殺菌工程):S7
殺菌工程としては、殺菌レベルをF値4まで殺菌できる最低温度とした。プレート殺菌機(高温瞬間殺菌機)では、摂氏125度以上で10~120秒間、好ましくは30~60秒間とした。オートクレーブ処理の場合には、摂氏121度で4分以上といった条件にて実行した。
【0045】
殺菌処理後は、醗酵組成物を冷却し、所定の容器などに充填して製品化した。なお、上記複数の工程の内、除菌工程、磨砕工程及び醗酵工程以外の工程は、オプションとしての工程である。主材の種類によっては、前記のオプション工程を含めた方が良い場合がある。
【0046】
(醗酵組成物としてのチョコレート様食品)
殺菌処理後の醗酵組成物を凍結および冷蔵によって乾燥して水分を蒸発させる乾燥工程と、その乾燥工程後の醗酵組成物にカカオバターを混ぜて練り固める混練工程と経ると、醗酵組成物(固体状物)としてチョコレート様の食品を得ることができた。
【0047】
なお、殺菌処理後の醗酵組成物を煮詰めて水分を蒸発させる乾燥工程と、その乾燥工程後の醗酵組成物にカカオバターを混ぜて練り固める混練工程とを経ることでも、醗酵組成物(固体状物)としてチョコレート様の食品を得ることができた。ただし、前述した「凍結および冷蔵による乾燥」という工程の方が、トータルとして二酸化炭素排出量の削減に貢献する。
【0048】
(醗酵組成物と最終生成物)
殺菌処理後の醗酵組成物(乾燥工程を経ない液状物)に対して、別途用意したコーヒー抽出物(一般飲料用のコーヒー飲料)を加えると、エスプレッソと遜色のない飲み物となった。また、殺菌処理後の醗酵組成物(乾燥工程を経ない液状物)に対して練乳等の乳製品または甘味料を加えると、甘さや乳飲料入りのコーヒー乳製品と同等の飲み物となった。
【0049】
前述した「コーヒー滓」の中に、賞味期限が近づいた焙煎済みのコーヒー豆を「食品廃材」に含めても、前述した実施形態と同様の製造工程を経て、ほぼ同レベルのチョコレート様の食品としての醗酵組成物(固体状物)や液状物たる醗酵組成物(エスプレッソと遜色のない飲み物の原料、練乳等の甘味料を加えたコーヒー乳製品と同等の飲み物の原料)を得ることが可能であった。
【0050】
(醗酵工程の効果)
植物性の食品廃材は、ヌルクを用いない醗酵工程の場合、不快な臭気を発生させ、腐敗が進むとその臭気は増加してしまうことが多い。しかし、ヌルクを用いた醗酵組成物は、そうした不快な臭気を低減させ、または脱臭する効果がある。
【0051】
(ウィスキーモルト滓およびビールモルト滓の場合)
ウィスキーモルト滓およびビールモルト滓を主材として選択した場合、磨砕工程に先立って含水率を整える場合、ウィスキー蒸留廃液を用いることができる。含水率を整えるために加える水の半分程度をウィスキー蒸留廃液とすると、pHが4未満(時には3以下)となる。その場合、酸性による殺菌効果があるので、磨砕工程前の除菌工程を簡略化できるという利点がある。別処理によって処分をしなければならなかったウィスキー蒸留廃液を有効利用できる、という利点もある。
【0052】
ウィスキーモルト滓およびビールモルト滓を主材として選択して前述の工程を経た場合、クッキーやクラッカーを製造する際の生地材料や、ノンアルコールビールの原料ができた。なお、クッキーやクラッカーを製造する際の生地材料は、副材として小麦粉を含有させることで、品質の異なる醗酵組成物を得ることができる。
【0053】
(副材に関する補足)
ウィスキーモルト滓およびビールモルト滓を主材とした場合に限らないが、副材として米粉を選択して含有させることで、煎餅のような米菓を製造する際の原料を得ることができる。
副材は、複数種類を選択しても良い。例えば、副材として小麦粉およびゴマ粉末を選択した場合、ゴマ風味のクッキー生地材料を製造することができる。
【0054】
(食品廃材の特性による分類)
植物性の食品廃材を、前述した各工程との関係で分類すると、食品廃材に含有されている油分の多少、および食品廃材に含有されている食物繊維の多少、という組み合わせにて大別することができる。
【0055】
(食物繊維が多くて油分が少々含まれる食品廃材)
たとえば、油分が少なく食物繊維が多く含まれているのは、前述したコーヒー滓のほか、コーヒー豆のシルバースキン(薄皮)、ウィスキーモルト滓、ビールモルト滓、オリーブ滓、その他の油糧種子(ゴマ、大豆、菜種など)の絞り滓、お茶殻、そば殻、芋類の皮、根菜類(大根、人参、牛蒡)の皮、小豆、アーモンドなどの豆類の皮、などである。
【0056】
ウィスキーモルト滓およびビールモルト滓を主材とした場合、ノンアルコールの醗酵モルト液や食物繊維が豊富なモルト発酵液を、醗酵組成物として得ることができる。
また、オリーブ滓を主材とした場合、オリーブ臭のする醗酵スムージー液を、醗酵組成物として得ることができる。
【0057】
(食物繊維、油分ともに多く含まれる食品廃材)
食物繊維、油分ともに多く含まれる食品廃材としては、カカオ豆殻や柑橘類の皮が代表的である。
カカオ豆殻を主材とした場合、虫歯予防食品を醗酵組成物として得ることができる。抗菌性が高いためである。
【0058】
なお、カカオ豆殻を主材として選択し、その一部について醗酵工程を経ない場合、石けん製造およびキャンドル製造の材料とすることができた。油分が多いためである。
【0059】
(食経験の少ない、ほぼ食物繊維の食品廃材)
食物繊維の含有量が多量であるが、そのままでは食経験の少ない食品廃材(例えば、トウモロコシの芯、サトイモやヤーコンなどのイモの皮、タマネギの皮、バナナの皮、キウィの皮、カボチャの皮、パイナップルの皮や芯、)を主材とする場合、可食な副材(たとえば小麦胚芽、小麦粉、米粉など)を含ませることで、本願発明に係る醗酵組成物を得ることができる。
なお、ここに列記した食品廃材は繊維質が長いものが多く、磨砕時間が比較的多く必要であった。
【0060】
(副材としての活用、副材による活用)
所定の保存期間を経過してしまったことで市場に出せなくなった米や小麦などの穀物の粉末を、副材として用いることも可能である。
また、前述の食物繊維の含有量が多量な食品廃材と、油分を多少含有する食品廃材(たとえば、オリーブ滓)とを組み合わせて主材とし、前述した工程(S1~S7)を経ることによっても、本願発明に係る醗酵組成物を得ることができる。
【0061】
(主材の選択とフードロス軽減)
前述したように、農産物を食品へ加工する際に出る食品廃材を主材として選択することで、これまでは利用価値や経済的な価値がなく、処分費用の掛かっていた食品廃材を、食品材料に加工することができる。
【0062】
また、賞味期限切れ直前食品(たとえば賞味期限直前となった焙煎済みのコーヒー豆)を主材として選択した場合は、これまでは利用価値や経済的な価値が小さく、店頭からの引き上げ費用や処分費用を必要としていた食品も、食品材料に加工することができる。主材または副材として所定の保存期間を経過してしまったことで市場に出せなくなった米、小麦などの穀物、規格外野菜を選択した場合も、その処分費用という必要経費(経済的なマイナス)を、食品材料という経済的なプラスに転じることが可能となる。同時に、フードロス軽減にも寄与する。
【0063】
(
図2)
図2では、農作物と本願発明に係る食品廃材との関係を図示している。
農作物は、可食部と非食部とに分け、可食部のみを食品として活用し、非食部は食品残渣として廃棄されてきた。前記の可食部と非食部とに分ける工程を産業的に実施する場合、非食部はまとまった量となり、廃棄費用も必要であった。
【0064】
前述してきた実施形態では、廃棄費用が必要となる非食部である植物性の食品廃材を、
図1に示した工程(
図2中で「SS」と表記)によって醗酵組成物に加工し、食品として活用することができる。すなわち、食品廃材を廃棄処理するという付加価値の低かった産業(可食部と非食部とに分ける産業においては必要経費)を、それよりも付加価値の高い食品加工業とすることができる。
【0065】
また、農作物から得た可食部が消費期限切れ直前または賞味期限切れ直前となってしまった場合にも、廃棄費用が必要となっていた。すなわち、廃棄される可食部は焼却されて付加価値がゼロ(焼却の燃料費などを考慮すると付加価値はマイナス)か、家畜の餌(飼料)や肥料に加工されるものの、付加価値の低い製品にとどまっていた。
しかし、前述してきた実施形態によれば、消費期限切れ直前または賞味期限切れ直前となってしまった食材であっても、主材または副材としてSSを経て醗酵組成物に加工し、食品として活用することができる。すなわち、食品廃材や期限切れ直前食品を焼却灰や肥料などとして自然界に戻すのではなく、廃棄対象に付加価値を付けるアップサイクルを達成し、いわゆるフードロスの軽減にも貢献することができる。
【0066】
前述した「アップサイクル」とは、リサイクルの一形態であり、捨てられるはずの廃棄物に対してデザインやアイデアといった新たな付加価値を持たせることで、別の新しい製品にアップグレードして生まれ変わらせることである。前述してきた実施形態は、食品廃材や期限切れ直前食品に対し、蒸煮工程を省略しつつ醗酵工程などを経ることで二酸化炭素の排出量を減らし、且つ食品として人が口にすることのできる醗酵組成物にアップグレードしている、と言うことができる。
【0067】
なお、醗酵組成物に加工した後に消費期限切れ直前または賞味期限切れ直前となってしまった場合であっても、主材または副材として再びSSを経て醗酵組成物に加工し、食品として活用することができる(
図2における点線にて図示)。
【0068】
たとえば、醗酵工程を経て得た醗酵組成物たるチョコレート様食品が賞味期限切れ直前または消費期限切れ直前となった場合に、再び除菌工程(S2)、磨砕工程(S3)、醗酵工程(S5)を経ることで、チョコレート様食品を再び得ることができる。
【0069】
醗酵工程を経て得た醗酵組成物たるチョコレート様食品以外にも、賞味期限切れ直前または消費期限切れ直前となった場合に、再び除菌工程(S2)、磨砕工程(S3)、醗酵工程(S5)を経ることで、再び醗酵組成物を得ることができる。
たとえば、ウィスキーモルト滓およびビールモルト滓を主材としたクッキーやクラッカーを製造する際の生地材料や、オリーブ滓を主材とした醗酵スムージー液も、再び醗酵組成物を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明は、植物性の食品廃材を加工食品として活用または提供することに関わる食品加工業、植物性の食品廃材を処理する処理業、食品提供に関わるサービス業などにおいて産業上の利用可能性を有する。