IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 新宮領 拓郎の特許一覧

特許7526436缶蓋シェルとその製造方法並びに成形装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-24
(45)【発行日】2024-08-01
(54)【発明の名称】缶蓋シェルとその製造方法並びに成形装置
(51)【国際特許分類】
   B65D 8/04 20060101AFI20240725BHJP
   B21D 24/00 20060101ALI20240725BHJP
   B21D 51/44 20060101ALI20240725BHJP
【FI】
B65D8/04 G
B21D24/00 H
B21D24/00 F
B21D51/44 S
B65D8/04 L
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2024506183
(86)(22)【出願日】2023-07-21
(86)【国際出願番号】 JP2023026734
【審査請求日】2024-01-31
(31)【優先権主張番号】P 2023006121
(32)【優先日】2023-01-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】523021427
【氏名又は名称】新宮領 拓郎
(74)【代理人】
【識別番号】100101465
【弁理士】
【氏名又は名称】青山 正和
(72)【発明者】
【氏名】新宮領 拓郎
【審査官】加藤 信秀
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-119588(JP,A)
【文献】特開2022-016093(JP,A)
【文献】特開2016-084144(JP,A)
【文献】特開2006-122990(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 8/04
B21D 24/00
B21D 51/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
缶蓋シェルであって、
円形の周縁を有するパネル部と、
前記パネル部の前記周縁に沿って形成されていて窪んだカウンターシンク部と、
前記カウンターシンク部の縁から立ち上がるチャックウォール部と、
前記チャックウォール部の上端から張り出したフランジ部と、を備え、
前記パネル部と、前記カウンターシンク部と、前記チャックウォール部との内側に設定される内部空間を有し、
前記カウンターシンク部は、前記内部空間に向けて凸となる第一曲面部を含み、
前記チャックウォール部は、前記第一曲面部につながっていて前記内部空間から凹となる第二曲面部を含み、
前記第二曲面部及び前記第一曲面部の厚さは、前記フランジ部側の縁から前記パネル部側の縁へ向かい増大しており、
前記カウンターシンク部は、前記第二曲面部との間に前記第一曲面部を配置して前記第一曲面部とつながって前記内部空間に向けて凸となり更に厚さが前記パネル部側の縁から前記第一曲面部とつながる縁へいくにつれて増して成形されている第三曲面部を備えており、
前記第一曲面部と前記第三曲面部との接続部において厚さが最大に形成されていることを特徴とする、缶蓋シェル。
【請求項2】
前記第二曲面部から前記第三曲面部まで前記缶蓋シェルの表面又は裏面から窪んで形成されていて前記缶蓋シェルの周方向に離れて複数設けられた薄肉部と前記缶蓋シェル、前記薄肉部の間に設けられた前記薄肉部よりも厚い厚肉部とを備え、
複数の前記薄肉部と複数の前記厚肉部とは、前記缶蓋シェルの平面視又は底面視で前記缶蓋シェルの半径に沿った寸法が前記半径の方向とは直交する方向に沿った寸法よりも長いことを特徴とする、請求項に記載の缶蓋シェル。
【請求項3】
下型と上型とを備えていて、円形ブランクを前記下型と前記上型とで挟んで缶蓋シェルを成形する成形装置であって、
前記下型が、ダイコアリングと、このダイコアリングの内部に配置されたパネルパンチと、を備え、
前記上型が、筒状のアッパピストンと、このアッパピストンの内部に配置された筒状のインナスリーブと、このインナスリーブの内部に配置されたダイセンターと、を備え、
前記ダイコアリングの先端部の外側部分と、前記アッパピストンの先端部とが対向して配置され、
前記ダイコアリングの前記先端部の内側部分と、前記インナスリーブの先端部とが対向して配置され、
前記パネルパンチと、前記ダイセンターとが対向して配置されており、
前記ダイコアリングの前記先端部の内側部分は、前記インナスリーブへ向けて凹となる第一下型曲面部と、この第一下型曲面部につながり更に中心軸側に位置をずらして配置され前記インナスリーブへ向けて凸となる第二下型曲面部と、を備え、
前記インナスリーブの前記先端部は、前記第一下型曲面部へ向けて凸となる第一上型曲面部と、この第一上型曲面部につながり更に前記中心軸側に位置をずらして配置され、且つ曲率半径が前記第一上型曲面部の曲率半径と相違する円弧で前記第一下型曲面部へ向けて凸となる第二上型曲面部と、この第二上型曲面部につながり更に前記中心軸側に位置をずらして配置され前記第二下型曲面部へ向けて凹となる第三上型曲面部と、を備え、
前記ダイコアリングの前記第一下型曲面部及び前記第二下型曲面部と前記インナスリーブの前記第二上型曲面部及び前記第三上型曲面部との間に構成される金型クリアランスは、前記円形ブランクの板厚以上の間隔であり、さらに前記中心軸へいくにつれて広がっており、
前記第一上型曲面部と前記第一下型曲面部との間の間隔は一定に形成されていることを特徴とする、成形装置。
【請求項4】
下型と上型とを備えていて、円形ブランクを前記下型と前記上型とで挟んで缶蓋シェルを成形する成形装置であって、
前記下型が、ダイコアリングと、このダイコアリングの内部に配置されたパネルパンチと、を備え、
前記上型が、筒状のアッパピストンと、このアッパピストンの内部に配置された筒状のインナスリーブと、このインナスリーブの内部に配置されたダイセンターと、を備え、
前記ダイコアリングが、前記下型に固定して設けられる筒状の固定部と、この固定部の内部に設けられた可動部と、中心軸に沿って伸縮自在に構成されており前記可動部を下から支持すると共に前記可動部を付勢する付勢部材と、を備え、
前記ダイコアリングの前記固定部の先端部と前記アッパピストンの先端部とが対向して配置され、
前記ダイコアリングの前記可動部の前記先端部と前記インナスリーブの先端部とが対向して配置され、
前記パネルパンチと前記ダイセンターとが対向して配置されており、
前記可動部の先端部は前記インナスリーブへ向けて凸となる下型曲面部を備え、
前記インナスリーブの前記先端部は、前記下型曲面部へ向けて凹となる上型曲面部を備え、
前記可動部の前記下型曲面部と前記インナスリーブの前記上型曲面部との間に構成される金型クリアランスは、前記円形ブランクの板厚以上の間隔であり、さらに前記中心軸に近づくにつれて広がっており、
前記可動部は前記円形ブランクを深絞りする際に中間成形体に押されて前記付勢部材へ向けて後退するものであり、
前記下型は、前記ダイコアリングの外周面の一部を囲う筒状のロアピストンをさらに備え、
前記固定部は、該固定部の前記内部から前記固定部の外部に通じる貫通穴と、この貫通穴に配置されたブロックと、を備え、
前記ブロックは、前記固定部の前記外部に張り出す外側傾斜面と、前記固定部の前記内部に張り出す内側傾斜面と、を有し、
前記ロアピストンは前記ブロックの前記外側傾斜面に当る内側傾斜面を有し、
前記可動部は前記ブロックの前記内側傾斜面に当る外側傾斜面を有し、
前記ロアピストンが前記上型に押されて下降すると前記ロアピストンの前記内側傾斜面が前記ブロックの前記外側傾斜面に当たり、且つ後退した前記可動部の前記外側傾斜面が前記ブロックの前記内側傾斜面に当った状態で、前記ロアピストンがさらに下降することで、前記可動部が前記インナスリーブへ向けて移動することを特徴とする、成形装置。
【請求項5】
下型と上型とで円形ブランクを挟んで缶蓋シェルを成形する缶蓋シェルの製造方法であって、
前記円形ブランクをトレー状の第一成形体に成形する深絞り工程と、
パネルパンチとダイセンターとに挟まれた前記第一成形体の底の平坦部を上方に移動させて前記平坦部のまわりに窪んだカウンターシンク部を形成するリバース工程と、を備え、
前記深絞り工程では、ダイコアリングの先端部とインナスリーブの先端部とで前記円形ブランクの一部を変形させて、前記第一成形体の前記平坦部とフランジ部との間に凹面と凸面とで成る第一変曲部を成形し、
前記リバース工程では、前記ダイコアリングの前記先端部と前記インナスリーブの前記先端部との間が中心軸に近づくにつれて広がっている金型クリアランスとして構成されている状態で、前記ダイコアリングの先端部と前記インナスリーブの先端部とで前記第一変曲部が挟持されており、前記金型クリアランスのうち、前記第一変曲部で埋められていない隙間に、前記パネルパンチと前記ダイセンターとの間からはみ出ている前記第一成形体の一部を押し込み、前記第一変曲部を増厚した第二変曲部に成形することを特徴とする、缶蓋シェルの製造方法。
【請求項6】
前記ダイコアリングは、前記ダイコアリングの前記先端部のうち、前記インナスリーブの前記先端部と対向する部分を構成する可動部と、前記中心軸に沿って伸縮自在に構成されており前記可動部を下から支持して前記金型クリアランスを構成する位置に前記可動部を保持する付勢部材を備えていて、
前記深絞り工程では、中間成形体が前記可動部を押して、前記可動部が前記付勢部材へ向けて後退することを特徴とする、請求項に記載の缶蓋シェルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飲料用缶の缶蓋シェルと、その製造法と、成形装置に関する。本願は、2023年1月18日に出願された特許題2023-006121号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
飲料用缶の缶蓋シェル700は、アルミニウム合金板から打ち抜かれた円形ブランクをプレス加工して製造されていて、図35に示すように、パネル部710と、パネル部710のまわりに設けられたカウンターシンク部720と、カウンターシンク部720の外側の壁部分から延びて断面がフック状に形成されていて、缶本体のフランジを巻き締めする取付部730と、を備えている。この缶蓋シェル700に対して、開口用のティアラインや開口操作用のタブがコンバージョンプレスで設けられて、缶蓋が製造される。
【0003】
また、従来、図36に示す厚さを薄くして軽量化した缶蓋シェル800が知られている(特許文献1)。
【0004】
缶蓋シェル700と缶蓋シェル800とを比べると、缶本体のフランジを巻き締めしてチャックウォールを形成するための箇所が、従来の缶蓋シェル700では、図35に破線で囲うように直線状であったが、缶蓋シェル800では、図36に破線で囲うように、複数の曲面を連ねて構成されている。
【0005】
有底筒状の缶本体に内容物とガス(COまたはN)を充填した後に、図37に実線で示すように、缶蓋シェル800を缶本体900のフランジ部に巻締めして、缶蓋シェル800が取り付けられた缶製品が完成する。ただし図37において、次工程のコンバージョン工程でパネル部810に付加されるタブリベット、ティアライン、デボス加工などは図示省略している。
【0006】
また、缶蓋シェル800を取り付けた缶製品では、カウンターシンクのピッチ径PD2が缶蓋シェル700のカウンターシンクのピッチ径PD1よりも小さく(PD2<PD1)、さらにパネル部810の面積が小さくなるように設計されている。
【0007】
缶蓋シェル800ではパネル部810が小さく形成されているため、缶内圧が同じであっても缶蓋シェル700のパネル部710が受ける内圧力よりも、小さい内圧力がパネル部810に作用する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2022-119588号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
内容物やガスを缶本体に充填して缶蓋で閉じる充填プロセスや流通過程において、缶製品が過度の高温下に曝されて缶内圧が上昇し缶蓋の耐圧強度の限界を超えると、図37に破線で示すように、缶製品の缶蓋の一部が外方に突出する現象、いわゆるバックリングが発生する。このように缶蓋の一部が外方に突出してしまうと、突出した部分やティアラインに亀裂が生じて内容物やガスが漏洩し、または開缶不能などの不具合が生じる。
【0010】
そこで、本発明は、バックリングを防止する缶蓋シェルと、この缶蓋シェルの製造方法と、成形装置と、を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の缶蓋シェルは、円形の周縁を有するパネル部と、前記パネル部の前記周縁に沿って形成されていて窪んだカウンターシンク部と、前記カウンターシンク部の縁から立ち上がるチャックウォール部と、前記チャックウォール部の上端から張り出したフランジ部と、を備えている。そして、前記パネル部と前記カウンターシンク部と前記チャックウォール部との内側に設定される内部空間を有し、前記カウンターシンク部は前記内部空間に向けて凸となる第一曲面部を含み、前記チャックウォール部は、前記第一曲面部につながっていて前記内部空間から凹となる第二曲面部を含む。さらに前記第一曲面部と前記第二曲面部との厚さは、前記フランジ部側の縁から前記パネル部側の縁へ向かい増大する。
【0012】
本発明の缶蓋シェルでは、曲面の向きが凹と凸とに異なる前記第一曲面部と前記第二曲面部とを厚肉化することで、前記第一曲面部と前記第二曲面部とでなる変曲部の機械的強度が増して耐圧強度を高めることができる。これにより、更なる缶蓋の薄肉軽量化が可能となる。
【0013】
本発明の缶蓋シェルは、好ましくは、前記カウンターシンク部は、前記第二曲面部との間に前記第一曲面部を配置して前記第一曲面部とつながって前記内部空間に向けて凸となり更に厚さが前記パネル部側の縁から前記第一曲面部とつながる縁へいくにつれて増して成形されている第三曲面部を備えている。第三曲面部を厚肉化することで、機械的強度が増して耐圧強度を高めることができる。
【0014】
本発明の缶蓋シェルは、好ましくは、前記第二曲面部から前記第三曲面部まで窪んで形成されていて缶蓋シェルの周方向に離れて複数設けられた薄肉部を前記缶蓋シェルの表面又は裏面に備え、前記薄肉部の間が前記薄肉部よりも厚い厚肉部を構成しており、複数の前記薄肉部と複数の前記厚肉部とは、前記缶蓋シェルの平面視又は底面視で前記缶蓋シェルの半径に沿った寸法が前記半径の方向とは直交する方向に沿った寸法よりも長く設定されている。
【0015】
本発明の缶蓋シェルでは、内部空間側へ向けて凸となる前記第一曲面部が、前記第二曲面部から前記第三曲面部まで延びた薄肉部と厚肉部を周方向に複数備えている。第二曲面部から第三曲面部にわたる箇所は増厚された増厚部を構成して、この増厚部に、薄肉部と厚肉部とからなる第一曲面部を備えることで、前記内部空間側へ折れ曲がる等の変形を防止する。これにより、前記第一曲面部と前記第二曲面部とでなる変曲部を含む増厚部の機械的強度が一層高められており、耐圧強度が向上する。
【0016】
本発明は、下型と上型とを備えていて、円形ブランクを前記下型と前記上型とで挟んで缶蓋シェルを成形する成形装置であって、前記下型が、ダイコアリングと、このダイコアリングの内部に配置されたパネルパンチと、を備え、前記上型が、筒状のアッパピストンと、このアッパピストンの内部に配置された筒状のインナスリーブと、このインナスリーブの内部に配置されたダイセンターと、を備えている。
【0017】
この成形装置において、前記ダイコアリングの先端部の外側部分と前記アッパピストンの先端部とが対向して配置され、前記ダイコアリングの先端部の内側部分と前記インナスリーブの先端部とが対向して配置され、前記パネルパンチと前記ダイセンターとが対向して配置されている。前記ダイコアリングの先端部の内側部分は、前記インナスリーブへ向けて凹となる第一下型曲面部と、この第一下型曲面部につながり更に中心軸側に位置をずらして配置され前記インナスリーブへ向けて凸となる第二下型曲面部と、を備えている。
【0018】
前記インナスリーブの先端部は、前記第一下型曲面部へ向けて凸となる第一上型曲面部と、この第一上型曲面部につながり更に中心軸側に位置をずらして配置され、且つ曲率半径が前記第一上型曲面部の曲率半径と相違する円弧で前記第一下型曲面部へ向けて凸となる第二上型曲面部と、この第二上型曲面部につながり更に中心軸側に位置をずらして配置され前記第二下型曲面部へ向けて凹となる第三上型曲面部と、を備えている。
【0019】
前記ダイコアリングの前記第一下型曲面部及び前記第二下型曲面部と前記インナスリーブの第二上型曲面部及び前記第三上型曲面部との間に構成される金型クリアランスは、前記円形ブランクの板厚以上の間隔であり、さらに中心軸に近づくにつれて広がっている。
【0020】
本発明の成形装置では、金型クリアランスが前記ダイコアリングの前記第一下型曲面部及び前記第二下型曲面部と前記インナスリーブの第二上型曲面部及び前記第三上型曲面部との間に構成され、さらにこの金型クリアランスは中心軸に近づくにつれて広がっている。この金型クリアランスが加工対象の円形ブランクの板厚以上の間隔を有することで、加工により円形ブランクの一部を増厚させることができる。
【0021】
本発明は、下型と上型とを備えていて、円形ブランクを前記下型と前記上型とで挟んで缶蓋シェルを成形する成形装置であって、前記下型が、ダイコアリングと、このダイコアリングの内部に配置されたパネルパンチと、を備え、前記上型が、筒状のアッパピストンと、このアッパピストンの内部に配置された筒状のインナスリーブと、このインナスリーブの内部に配置されたダイセンターと、を備えている。
【0022】
この成形装置において、前記ダイコアリングが、前記下型に固定して設けられる筒状の固定部と、この固定部の内部に設けられた可動部と、中心軸に沿って伸縮自在に構成されており前記可動部を下から支持すると共に前記可動部を付勢する付勢部材と、を備え、前記ダイコアリングの前記固定部の先端部と前記アッパピストンの先端部とが対向して配置され、前記ダイコアリングの前記可動部の先端部と前記インナスリーブの先端部とが対向して配置され、前記パネルパンチと前記ダイセンターとが対向して配置されている。
【0023】
前記可動部の先端部は前記インナスリーブへ向けて凸となる下型曲面部を備え、前記インナスリーブの先端部は、前記下型曲面部へ向けて凹となる上型曲面部を備え、前記可動部の前記下型曲面部と前記インナスリーブの前記上型曲面部との間に構成される金型クリアランスは、前記円形ブランクの板厚以上の間隔であり、さらに中心軸に近づくにつれて広がっており、さらに前記可動部は前記円形ブランクを深絞りする際に中間成形体に押されて前記付勢部材へ向けて後退する。
【0024】
ここで、中間成形体とは、円形ブランクが深絞り工程によって第一成形体に至るまで、変形途中の形態を意味する。
【0025】
本発明の成形装置は、好ましくは、前記ダイコアリングの外周面の一部を囲う筒状のロアピストンをさらに備え、前記固定部は、該固定部の前記内部から前記固定部の外部に通じる貫通穴と、この貫通穴に配置されたブロックと、を備え、前記ブロックは、前記固定部の前記外部に張り出す外側傾斜面と、前記固定部の前記内部に張り出す内側傾斜面と、を有し、前記ロアピストンは前記ブロックの外側傾斜面に当る内側傾斜面を有し、前記可動部は前記ブロックの内側傾斜面に当る外側傾斜面を有し、前記ロアピストンが前記上型に押されて下降すると前記ロアピストンの前記内側傾斜面が前記ブロックの外側傾斜面に当たり、且つ後退した前記可動部の前記外側傾斜面が前記ブロックの前記内側傾斜面に当った状態で、前記ロアピストンがさらに下降することで、前記可動部が前記インナスリーブへ向けて移動する。
【0026】
本発明の成形装置では、可動部を支持する前記付勢部材を備えて、可動部が中間成形体によって後退することで、深絞りの際に可動部との摩擦による中間成形体の板厚の減少を抑えることができる。付勢部材は、例えばスプリング、空圧式のピストンなどを用いることができる。
【0027】
本発明は、下型と上型とで円形ブランクを挟んで缶蓋シェルを成形する缶蓋シェルの製造方法であって、前記円形ブランクをトレー状の第一成形体に成形する深絞り工程と、パネルパンチとダイセンターとに挟まれた前記第一成形体の底の平坦部を反対方向に移動させて前記平坦部のまわりに窪んだカウンターシンク部を形成するリバース工程と、を備えている。前記深絞り工程では、ダイコアリングの先端部とインナスリーブの先端部とで前記円形ブランクの一部を変形させて、前記第一成形体の前記平坦部とフランジ部との間に凹面と凸面とで成る第一変曲部が成形される。
【0028】
前記リバース工程では、前記ダイコアリングの先端部と前記インナスリーブの先端部との間が中心軸に近づくにつれて広がっている金型クリアランスとして構成されている状態で、前記金型クリアランスのうち、前記第一変曲部で埋められていない隙間に、前記パネルパンチと前記ダイセンターとの間からはみ出ている前記第一成形体の一部を押し込み、前記第一変曲部を増厚した第二変曲部に成形する。
【0029】
本発明の缶蓋シェルの製造方法では、加工対象の第一成形体の一部を変形させて金型クリアランスに押し込み、前記第一成形体とこれに隣接する箇所が、平坦部側からフランジ部側へ向けて圧縮されて板厚が増加する。圧縮の加工硬化と板厚増加によって缶蓋の耐圧強度が向上する。
【0030】
なお、前記金型クリアランスは、深絞りの途中、或いはリバース工程を開始する時点、又はリバース工程の途中で構成することができる。
【0031】
本発明の缶蓋シェルの製造方法は、好ましくは、前記ダイコアリングは、前記ダイコアリングの先端部のうち、前記インナスリーブの先端部と対向する部分を構成する可動部と、前記金型クリアランスを構成する位置に前記可動部を保持する付勢部材を備えていて、前記深絞り工程では、中間成形体が前記可動部を押して、前記可動部が前記付勢部材へ向けて後退する。
【0032】
本発明では、リバース工程を行う前に、可動部が中間成形体によって後退することで、深絞りの際に可動部との摩擦による円形ブランクの板厚が減少することを抑えることができる。また、このように板厚の減少を抑えた状態で第一成形体を成形し、この第一成形体に対して第一曲面部及び第二曲面部の成形を行うことで、リバース工程の開始の段階で湾曲部の変形や歪を抑えることができる。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、凹の曲面と凸の曲面とを有する変曲部が耐圧強度を高く構成されているため、バックリングを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1図1Aは本発明の第一実施形態に係る缶蓋シェルを示す平面図である。図1B図1AのS1-S1線に沿った缶蓋シェルの断面を示す図である。
図2図2図1Bの一点鎖線の円で囲った箇所の切断端面を拡大した図である。
図3図3は本発明の第一実施形態に係る缶蓋シェルの変曲部の断面を拡大した図である。
図4図4は本発明の第一実施形態に係る缶蓋シェルを成形する成形装置の断面を示す図である。
図5図5図4の成形装置の下型と上型の一部を拡大した断面図である。
図6図6図5の一点鎖線の円で囲った箇所を拡大した図である。
図7図7は本発明の第一実施形態に係る缶蓋シェルの製造方法を示す図である。
図8図8A図8Bは本発明の第一実施形態に係る缶蓋シェルの製造方法におけるブランキング工程を説明するための図である。
図9図9A図9Bは本発明の第一実施形態に係る缶蓋シェルの製造方法における深絞り工程を説明するための図である。
図10図10A図10Bは本発明の第一実施形態に係る缶蓋シェルの製造方法におけるリバース工程を説明するための図である。
図11図11は第一成形体の断面を示す図である。
図12図12は本発明の第一実施形態に係る缶蓋シェルの製造方法を説明するための図である。
図13図13は本発明の第一実施形態に係る缶蓋シェルの製造方法を説明するための図である。
図14図14Aは本発明の第二実施形態に係る缶蓋シェルを示す平面図であり、図14B図14AのS2-S2線に沿った缶蓋シェルの断面を示す図である。
図15図15図14Aの一点鎖線の円で囲った箇所を拡大した図である。
図16図16図15のS3-S3線に沿ったシェルの断面を示す図である。
図17図17図14Bの一点鎖線で囲った箇所を拡大した図である。
図18図18は本発明の第二実施形態に係る缶蓋シェルの凹部と凸部の変形例を示す拡大図である。
図19図19は本発明の第二実施形態に係る缶蓋シェルの凹部と凸部の変形例を示す拡大図である。
図20図20は本発明の第二実施形態に係る缶蓋シェルの凹部と凸部の変形例を示す拡大図である。
図21図21は本発明の第二実施形態のリフォーム工程を説明するための図である。
図22図22図21の一点鎖線で囲った箇所を拡大した図である。
図23図23は本発明の第一変形例に係る成形装置の断面を示す図である。
図24図24はダイコアリングの断面を示す図である。
図25図25は可動部とアッパピストン対向部の断面の一部を拡大した図である。
図26図26は本発明の第一変形例に係る成形装置の断面の一部を拡大した図である。
図27図27A図27Dは本発明の第一変形例に係る成形装置によるシェルの製造方法を説明するための図である。
図28図28は本発明の第一変形例に係る成形装置によるシェルの製造方法を説明するための図である。
図29図29は本発明の第二変形例に係る成形装置の断面を示す図である。
図30図30はダイコアリングとロアピストンと可動部とブロックとスプリングの断面を示す図である。
図31図31はブロックの断面を拡大した図である。
図32図32はロアピストンの延出部の断面を拡大した図である。
図33図33は可動部の断面を拡大した図である。
図34図34は本発明の第二変形例に係る成形装置によるシェルの製造方法を説明するための図である。
図35図35は従来の缶蓋シェルの断面を示す図である。
図36図36は軽量化した缶蓋の断面を示す図である。
図37図37はバックリングするときの缶蓋の断面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
図面を参照しながら本発明の第一実施形態に係る缶蓋シェル10を説明する。
【0036】
缶蓋シェル10は、図1A及び図1Bに示すように、平面視での輪郭が円形に形成されたパネル部11と、パネル部11の周縁に沿って形成されていて窪んだカウンターシンク部12と、カウンターシンク部12の縁から立ち上がっていてパネル部11及びカウンターシンク部12と共に内部空間SP1を画するチャックウォール部13と、チャックウォール部13の上端(半径外方向Do側の端部)から張り出したフランジ部14と、を備えている。内部空間SP1とは、図1Bに示すように、チャックウォール部13の内側であってパネル部11上の空間である。
【0037】
以下の説明では、パネル部11の中心をとおってパネル部11と直交する中心軸Cから半径に沿った方向のうち、中心軸Cから外に向かう方向を半径外方向Doと称し、外から中心軸Cに向かう方向を半径内方向Diと称す。また、中心軸Cに沿ってカウンターシンク部12側からチャックウォール部13へ向かう方向を第一方向D1と称し、この第一方向D1とは逆に中心軸Cに沿ってチャックウォール部13からカウンターシンク部12側へ向かう方向を第二方向D2と称す(図2参照)。
【0038】
缶蓋シェル10の表裏の面として、内部空間SP1を画する箇所やこれに隣接したフランジ部14の一方の面を含めて缶蓋シェル10の表面SF1とし、この表面SF1とは反対側にある面を裏面SF2とする。
【0039】
図1B及び図2は、中心軸Cを通り半径外方向Doに広がる仮想面に沿って切断した際の、缶蓋シェル10の断面形状を表している。以下、缶蓋シェル10の断面の形状について説明する。
【0040】
(パネル部11)
パネル部11は、平たい円板として形成されており、その厚さは略均一に設定されている。
【0041】
(カウンターシンク部12)
カウンターシンク部12は、深い箇所を構成する溝底部121と、溝底部121の半径内方向Di側の縁からパネル部11の周縁まで延びた第一溝壁部122と、溝底部121の半径外方向Do側の縁からチャックウォール部13の半径内方向Di側の縁まで延びた第二溝壁部123と、を備えている。
【0042】
溝底部121は、内部空間SP1に配置された中心C12から半径r12の円弧として断面が形成されており、内部空間SP1側から凹となる曲面を呈する。溝底部121には、最深部が配置されており、溝底部121と第一溝壁部122とがつながる接続箇所(第一接続点p1)は、最深部よりも半径内方向Di側にずれて配置されていると共に、最深部よりも第一方向D1へずれて配置されている。
【0043】
さらに、溝底部121と第二溝壁部123とがつながる接続箇所(第二接続点p2)は、最深部よりも半径外方向Do側にずれて配置されていると共に、最深部よりも第一方向D1へずれて配置されている。なお、図2では、各接続点の位置を〇印で表している。
【0044】
(第一溝壁部122)
第一溝壁部122は、溝底部121の半径内方向Di側の縁に一方の縁がつながり第一接続点p1を構成し更に中心軸Cに対する傾きが一定に形成された第一傾斜溝断面部122Aと、この第一傾斜溝断面部122Aの他方の縁からパネル部11の周縁まで形成されており内部空間SP1側へ凸となる円弧の第一凸型溝断面部122Bと、を備えている。
【0045】
第一傾斜溝断面部122Aと第一凸型溝断面部122Bとがつながる接続箇所(第三接続点p3)は、第一接続点p1よりも半径内方向Diにずれて配置されていると共に第一接続点p1よりも第一方向D1にずれて配置されている。
【0046】
第一凸型溝断面部122Bとパネル部11とがつながる接続箇所(第四接続点p4)は、第三接続点p3よりも半径内方向Di側にずれて配置されていると共に、第三接続点p3よりも第一方向D1へずれて配置されている。第一凸型溝断面部122Bは、第三接続点p3から第四接続点p4へ向けて漸次中心軸Cからの半径が小さく(縮径)なる曲面を呈する。
【0047】
(第二溝壁部123)
第二溝壁部123は、溝底部121の半径外方向Do側の縁に一方の縁がつながり第二接続点p2を構成し更に中心軸Cに対する傾きが一定に形成された第二傾斜溝断面部123Aと、この第二傾斜溝断面部123Aの他方の縁に一方の縁を接続されており内部空間SP1側へ凸となる円弧の第二凸型溝断面部123B(本発明の第三曲面部に相当)と、この第二凸型溝断面部123Bの他方の縁に一方の縁を接続されており第二凸型溝断面部123Bの曲率半径と異なる曲率半径で内部空間SP1側へ凸となる円弧の第三凸型溝断面部123C(本発明の第一曲面部に相当)と、を備えている。
【0048】
第二傾斜溝断面部123Aと第二凸型溝断面部123Bとがつながる接続箇所(第五接続点p5)は、第二接続点p2よりも半径外方向Doにずれて配置されていると共に第二接続点p2よりも第一方向D1にずれて配置されている。第二凸型溝断面部123Bと第三凸型溝断面部123Cとがつながる接続箇所(第六接続点p6)は、第五接続点p5よりも半径外方向Do側にずれて配置されていると共に、第五接続点p5よりも第一方向D1へずれて配置されている。
【0049】
第三凸型溝断面部123Cとチャックウォール部13とがつながる接続箇所(第七接続点p7)は、第六接続点p6よりも半径外方向Doにずれて配置されていると共に、第六接続点p6よりも第一方向D1へずれて配置されている。
【0050】
第二凸型溝断面部123Bは、第五接続点p5から第六接続点p6へ向けて漸次中心軸Cからの半径が大きく(拡径)なる曲面を呈する。
【0051】
第三凸型溝断面部123Cは、第六接続点p6から第七接続点p7へ向けて漸次中心軸Cからの半径が大きく(拡径)なる曲面を呈する。
【0052】
図3に示すように、缶蓋シェル10の表面SF1のうち、第二凸型溝断面部123Bが成す円弧の中心C56が外空間SP2に配置され、第三凸型溝断面部123Cが成す円弧の中心C67が外空間SP2に配置されており、第二凸型溝断面部123Bの円弧の中心C56は第三凸型溝断面部123Cの円弧の中心C67よりも、半径内方向Di側に若干ずれて配置されていると共に、第一方向D1へも若干ずれて配置されている。また、第二凸型溝断面部123Bの円弧の半径r56は、第三凸型溝断面部123Cの円弧の半径r67よりも小さく設定されている。
【0053】
また、缶蓋シェル10の裏面SF2のうち、第五接続点p5から第六接続点p6を経て第七接続点p7までは、中心C57から一定の半径r57の円弧として形成されている。
【0054】
第三凸型溝断面部123Cにおいて、表面SF1の円弧の中心C67は、裏面SF2の円弧の中心C57よりも、半径内方向Di側にずれて配置されていると共に、第一方向D1へもずれて配置されている。また、裏面SF2の円弧の半径r57は、第二凸型溝断面部123Bの円弧の半径r56や第三凸型溝断面部123Cの円弧の半径r67よりも小さく設定されている。
【0055】
(チャックウォール部13)
チャックウォール部13は、カウンターシンク部12の第二凸型溝断面部123Bの半径外方向Do側の縁に一方(半径内方Di側)の縁がつながり第六接続点p6を構成し内部空間SP1側へ凹となる円弧の第一凹型囲繞断面部131(本発明の第二曲面部に相当)と、第一凹型囲繞断面部131の他方(半径外方向Do側)の縁に一方(半径内方Di側)の縁がつながり第一凹型囲繞断面部131の曲率半径と異なる曲率半径で内部空間SP1側へ凹となる円弧の第二凹型囲繞断面部132と、第二凹型囲繞断面部132の他方(半径外方向Do側)の縁に一方(半径内方Di側)の縁がつながり更に中心軸Cに対する傾きが一定に形成された傾斜囲繞断面部133と、傾斜囲繞断面部133の他方(半径外方向Do側)の縁に一方(半径内方Di側)の縁がつながり内部空間SP1側へ凸となる円弧の凸型囲繞断面部134と、を備えている。
【0056】
(第一凹型囲繞断面部131)
第一凹型囲繞断面部131と第二凹型囲繞断面部132とがつながる接続箇所(第八接続点p8)は、第七接続点p7よりも半径外方向Doにずれて配置されていると共に、第七接続点p7よりも第一方向D1へずれて配置されている。第一凹型囲繞断面部131は、第七接続点p7から第八接続点p8へ向けて漸次中心軸Cからの半径が大きく(拡径)なる曲面を呈する。
【0057】
なお、チャックウォール部13の第一凹型囲繞断面部131と、カウンターシンク部12の第三凸型溝断面部123Cとは、曲面の曲がりの向きが反対であることから、第七接続点p7は変曲点を構成する。
【0058】
(第二凹型囲繞断面部132)
第二凹型囲繞断面部132と傾斜囲繞断面部133とがつながる接続箇所(第九接続点p9)は、第八接続点p8よりも半径外方向Doにずれて配置されていると共に、第八接続点p8よりも第一方向D1へずれて配置されている。第二凹型囲繞断面部132は、第八接続点p8から第九接続点p9へ向けて漸次中心軸Cからの半径が大きく(拡径)なる曲面を呈する。
【0059】
図3に示すように、第二凹型囲繞断面部132において表面SF1が成す円弧の中心C89が内部空間SP1内に配置され、第一凹型囲繞断面部131において表面SF1が成す円弧の中心C78が内部空間SP1内に配置されている。第二凹型囲繞断面部132において表面SF1がなす円弧の中心C89は、第一凹型囲繞断面部131の円弧の中心C78よりも、半径内方向Di側にずれて配置されていると共に、第一方向D1へもずれて配置されている。
【0060】
また、第二凹型囲繞断面部132において表面SF1がなす円弧の半径r89は、第一凹型囲繞断面部131において表面SF1がなす円弧の半径r78よりも大きく設定されている。
【0061】
缶蓋シェル10の裏面SF2のうち、第七接続点p7から第八接続点p8を経て第九接続点p9までは、中心C89から一定の半径r79の円弧として形成されている。
【0062】
(傾斜囲繞断面部133)
傾斜囲繞断面部133と凸型囲繞断面部134とがつながる接続箇所(第十接続点p10)は、第九接続点p9よりも半径外方向Doにずれて配置されていると共に第九接続点p9よりも第一方向D1にずれて配置されている。傾斜囲繞断面部133は、第九接続点p9から第十接続点p10へ向けて漸次中心軸Cからの半径が大きく(拡径)なり傾きが一定の傾斜面を呈する。
【0063】
(凸型囲繞断面部134)
凸型囲繞断面部134とフランジ部14とがつながる接続箇所(第十一接続点p11)は、第十接続点p10よりも半径外方向Doにずれて配置されていると共に第十接続点p10よりも第一方向D1にずれて配置されている。凸型囲繞断面部134は、第十接続点p10から第十一接続点p11へ向けて漸次中心軸Cからの半径が大きく(拡径)なる曲面を呈する。第十一接続点p11は、缶蓋シェル10において最深部から第一方向D1に沿った距離が最も離れた箇所であり、すなわち最も高い箇所(頂点)を構成する。
【0064】
(フランジ部14)
フランジ部14は、凸型囲繞断面部134の他方(半径外方向Do側)の縁に一方(半径内方向Di側)の縁がつながって第十一接続点p11(頂点)を構成し、半径外方向Doへ張り出している。フランジ部14の先端は、第十一接続点p11よりも半径外方向Doにずれて配置されていると共に第十一接続点p11より第二方向D2に位置をずらして配置されている。
【0065】
フランジ部14の先端側は図2に示すように、次工程のカーリング工程でカール状に形成される。
【0066】
このように構成された缶蓋シェル10では、チャックウォール部13とフランジ部14とが成す断面がフック状を呈し、さらにチャックウォール部13の凸型囲繞断面部134からフランジ部14の先端までが、フランジ状の形態を呈す。
【0067】
以下、缶蓋シェル10の補強構造について説明する。
【0068】
図3に示すように、缶蓋シェル10において、第五接続点p5から第六接続点p6を経て第七接続点p7(変曲点)までの裏面SF2は、中心C57から一定の半径r57の円弧で形成されている。缶蓋シェル10において、第五接続点p5から第六接続点p6までの表面SF1は、中心C57からずれて配置された中心C56から半径r57よりも長い半径r56の円弧で形成されている。第二凸型溝断面部123Bは第五接続点p5から第六接続点p6へ向けて厚さが漸次厚くなるように形成されている。
【0069】
図3の断面図では、表面SF1上の位置を表す●印と、裏面SF2上の位置を表す●印と、これらを結ぶ実線とで各接続点を表している。
【0070】
また、缶蓋シェル10において、第六接続点p6から第七接続点p7までの表面SF1は、その裏面SF2の円弧の中心C57からずれて配置された中心C67から半径r57よりも長い半径r67の円弧で形成されている。第三凸型溝断面部123Cは、第六接続点p6から第七接続点p7へ向けて漸次厚さが薄くなるように形成されている。
【0071】
缶蓋シェル10は、第七接続点p7から第八接続点p8を経て第九接続点p9までの裏面SF2は、中心C89から一定の半径r79の円弧で形成され、第八接続点p8から第九接続点p9までの表面SF1はその裏面SF2の円弧の中心C89と同心で半径r79よりも短い半径r89の円弧で形成されており、第二凹型囲繞断面部132は第八接続点p8から第九接続点p9へ向けて厚さが一定に形成されている。
【0072】
第七接続点p7は、第三凸型溝断面部123Cと第一凹型囲繞断面部131との変曲点であり、図中心C89と中心C57とを結ぶ仮想線LX1(一点鎖線で図示されている)上に配置されている。
【0073】
缶蓋シェル10は、第七接続点p7から第八接続点p8までの表面SF1は、その裏面の円弧の中心C89からずれて配置された中心C78から半径r89よりも短い半径r78で形成されている。第一凹型囲繞断面部131は、第七接続点p7から第八接続点p8へ向けて漸次厚さが薄くなるように形成されている。
【0074】
具体的には、缶蓋シェル10の変曲部の厚さは、第六接続点p6の厚さをt6とし、第七接続点p7の厚さをt7とし、第八接続点p8の厚さをt8とすると、t8<t7<t6の関係が成立する。厚さt6は中心C57から延びる仮想線(図示略)に沿った寸法であり、厚さt7は中心C57及び中心C89から延びる仮想線LX1に沿った寸法であり、厚さt8は中心C89から延びる仮想線(図示略)に沿った寸法である。
【0075】
このように、缶蓋シェル10では変曲点(第七接続点p7)を中間に配置して、カウンターシンク部12の第三凸型溝断面部123Cと、これとは曲がりの向きが反対方向に形成されたチャックウォール部13の第一凹型囲繞断面部131とでなる変曲部17を構成している。変曲部17の厚さは、第八接続点p8から第六接続点p6に行くにつれて増していて、第六接続点p6の近傍で厚さが最大に設定されている。
【0076】
変曲部17の厚さは、缶蓋シェル10を成形するための素板400(円形ブランク410)の厚み以上であり、例えば素板400(円形ブランク410)に対して106%以上の板厚である。
【0077】
さらに、缶蓋シェル10の厚さは、第五接続点p5から第六接続点p6に行くにつれて増している。第五接続点p5の厚さをt5とし、第六接続点p6の厚さをt6とすると、t5<t6の関係が成立する。厚さt5と厚さt6とは中心C57から延びる仮想線(図示略)に沿った寸法である。この第五接続点p5から第六接続点p6までの厚さも、缶蓋シェル10を成形するための素板400(円形ブランク410)の厚み以上である。
【0078】
このように、第五接続点p5から第八接続点p8までの箇所は、これに隣接する第二傾斜溝断面部123Aや第二凹型囲繞断面部132と比べて厚さが大きい。また、素板400(円形ブランク410)よりも厚さが増している。以下、変曲点(第七接続点p7)を含めて厚さが増して形成された、第五接続点p5から第八接続点p8までの箇所を増厚部18と称す。
【0079】
缶蓋シェル10では以上の断面構造が中心軸Cのまわりで全体にわたって構成されており、増厚された変曲部17が平面視で環状に配置されている。
【0080】
缶蓋シェル10は、アルミニウム合金(例えば5000系)からなる円形ブランク410をプレス加工して形成されている。缶蓋シェル10の各部の厚さは、例えば0.20mm以上0.26mm以下である。
【0081】
缶蓋は、上記の缶蓋シェル10と、缶蓋シェル10に形成された開口形成用のティアラインと、開口操作用のタブと、を備えている。
【0082】
缶蓋の製造方法は、缶蓋シェル10を成形する缶蓋シェル成形工程と、コンバージョンプレスによって缶蓋シェル10にティアラインやタブなどを設けるコンバージョン成形工程と、を備えている。
【0083】
以下、缶蓋の製造方法のうち、缶蓋シェル成形工程(缶蓋シェル10の製造方法)を行う成形装置2を説明する。
【0084】
(成形装置2)
図4に示すように、成形装置2は、下型200と上型300とを図示省略のプレス機に備えている。
【0085】
下型200および上型300の中心軸は、成形される缶蓋シェル10の中心軸Cと同軸に設定されており、これらの軸を以下、総称して中心軸Cと称す。また、以下の説明でも、中心軸Cから半径に沿った方向のうち、中心軸Cから外に向かう方向を半径外方向Doと称し、外から中心軸Cに向かう方向を半径内方向Diと称す。
【0086】
さらに中心軸Cに沿った方向のうち、下型200から上型300へ向かう方向が成形装置2内の缶蓋シェル10の第一方向D1に相当することから下型200から上型300へ向かう方向も第一方向D1と称し、上型300から下型200へ向かう方向を第二方向D2と称する場合がある。また、成形装置2において、第一方向D1を上方、第2方向D2を下方として説明する。
【0087】
(下型200)
下型200は、ロアリテーナ210と、ロアリテーナ210の上型300側(第一方向D1側)の先端部に保持されたカットエッジ部220と、ロアリテーナ210の内側に保持されたダイコアリング230と、このダイコアリング230の内側に設けられたパネルパンチピストン240と、このパネルパンチピストン240の先端部に固定されたパネルパンチ250と、ダイコアリング230の一部を囲うロアピストン260と、を備えている。
【0088】
ロアリテーナ210は、中央に貫通した穴部211Aを有するベース部211と、ベース部211の上部に固定され、穴部211Aよりも内径が大きい内周面を有する筒部212と、を備えている。筒部212は、ベース部211に固定される基端とは反対にある先端部の内側に段差部212Aを備えている。
【0089】
カットエッジ部220は、リング状に形成されていて、ロアリテーナ210の段差部212Aに配置されており、内周面221側がロアリテーナ210の筒部212の内周面よりも中心軸Cへむけて張り出している。カットエッジ部220の下面222は段差部212Aに固定され、下面222とは反対にある天面223と内周面221とで角部224が構成されている。
【0090】
ダイコアリング230は、ロアリテーナ210のベース部211の上面に固定される基部231と、中心軸Cから半径方向に沿った厚さが基部231よりも薄く、基部231からベース部211とは反対側に延びた延出部232と、を備え、中心軸Cに沿って貫通した穴を有しており、ロアリテーナ210の筒部212の内部に配置されている。
【0091】
パネルパンチピストン240は、ダイコアリング230の内周面に対して擦動するピストン本体部241と、ピストン本体部241から延びた延出部242とを一体に備えていて、中心軸Cに沿って移動することができる。ピストン本体部241とダイコアリング230とロアリテーナ210とで空間SP21が構成されている。この空間SP21に図示省略する流路を経てエアが供給されて、パネルパンチピストン240が制御される。
【0092】
パネルパンチ250は、図5に示すように、ダイセンター340の平坦部341と協働して円形ブランクを挟むパンチ平坦部251と、パンチ平坦部251の周縁に沿って設けられていてパンチ平坦部251よりもパネルパンチピストン240側にずれて形成された受面252Aを有するパンチ段差部252と、を備えている。受面252Aは、上型300へ向けて凹となる円弧に断面が形成されている。
【0093】
ロアピストン260は、ロアリテーナ210の内周面とダイコアリング230の外周面とに対して擦動するピストン本体部261と、中心軸Cから半径方向に沿った厚さがピストン本体部261よりも薄く、ピストン本体部261から延びた延出部262とを備えて、全体で筒状に形成されている。またロアピストン260は中心軸Cに沿って移動することができる。
【0094】
ロアピストン260のピストン本体部261とロアリテーナ210とダイコアリング230とで空間SP22が構成されている。この空間SP22に図示省略する流路を経てエアが供給されて、ロアピストン260が制御される。
【0095】
(上型300)
上型300は、アッパーリテーナ310と、アッパーリテーナ310に保持されたブランクドローダイ320と、アッパーリテーナ310の内側に設けられたダイセンターピストン330と、ダイセンターピストン330の先端部に固定されたダイセンター340と、ダイセンター340を囲うインナスリーブ350と、インナスリーブ350を囲うアッパピストン360と、を備えている。
【0096】
アッパーリテーナ310は、第一筒部311と、第一筒部311よりも内径が小さく形成された第二筒部312と、第二筒部312よりも内径が大きく形成された第三筒部313と、を一体に備えている。第三筒部313の内側が段差部313Aとして形成されていて、開口端を構成している。第一筒部311の内周面と第二筒部312の内周面との間が段差部314を構成している。
【0097】
ブランクドローダイ320は、リング状に形成された基部321と、中心軸Cから半径に沿った厚さが基部321よりも薄く基部321から延びた筒部322と、を備えている。基部321は、アッパーリテーナ310の段差部313Aに配置されており、内周面側がアッパーリテーナ310の第三筒部313よりも中心軸Cへ向けて張り出している。
【0098】
ダイセンターピストン330は、棒状に形成された棒状部331と、棒状部331の端に設けられてフランジ状に張り出した突出端部332と、を備えており、棒状部331をアッパーリテーナ310の下の開口端から下型200側へ向けて延出させて配置されている。
【0099】
ダイセンターピストン330は、中心軸Cに沿って移動することができ、突出端部332をアッパーリテーナ310の段差部314に当るように構成されている。突出端部332と第一筒部311の内側が、空間SP31を構成し、図示省略の流路を経てエアが供給されて、ダイセンターピストン330が制御される。
【0100】
インナスリーブ350は、アッパーリテーナ310の内周面とダイセンターピストン330とに対して擦動するピストン本体部351と、中心軸Cから半径方向に沿った厚さがピストン本体部351よりも薄く、ピストン本体部351から延びた延出部352とを一体に備え、全体で筒状に形成されている。インナスリーブ350は中心軸Cに沿って移動することができる。
【0101】
アッパピストン360は、アッパーリテーナ310の内周面とインナスリーブ350の延出部352とに対して擦動するピストン本体部361と、中心軸Cから半径方向に沿った厚さがピストン本体部361よりも薄く、ピストン本体部361から延びた延出部362とを備え、全体で筒状に形成されている。アッパピストン360は中心軸Cに沿って移動することができる。
【0102】
インナスリーブ350のピストン本体部351とダイセンターピストン330とアッパーリテーナ310とで空間SP32が構成される。インナスリーブ350のピストン本体部351とアッパーリテーナ310とアッパピストン360のピストン本体部361とで空間SP33が構成される。これらの空間SP32,SP33に図示省略する流路を経てエアが供給されて、インナスリーブ350やアッパピストン360が制御される。
【0103】
成形装置2では、図5に示すように、ロアピストン260とブランクドローダイ320とが、延出部262の先端部262Aの平坦面262Bと筒部322の先端部322Aの平坦面322Bとを合わせるように構成されている。ブランクドローダイ320の筒部322の先端部322Aは、平坦面322Bと内周面322Cとの間が円弧に断面が形成された丸み部322Dを有する。
【0104】
図5及び図6に示すように、ダイコアリング230の延出部232は、アッパピストン360の延出部362の先端部362Aとインナスリーブ350の延出部352の先端部352Aとに対向する先端部232Aを有する。
【0105】
ダイコアリング230の先端部232Aは、最も高い箇所に形成されていてアッパピストン360の延出部362の先端部362Aと対向し先端部362A側へ凸となる円弧に断面が形成された第一凸面部232Bと、この第一凸面部232Bの半径内方向Di側の縁に接続して形成されていて中心軸Cに対して一定の傾きに形成されて半径内方向Diに行くにつれて下る第一傾斜面部232Cと、第一傾斜面部232Cの下端に接続して形成されていて中心軸C側へ凹となる円弧に断面が形成された凹面部232D(本発明の第一下型曲面部に相当)と、凹面部232Dの半径内方向Di側の縁に接続して形成されていて中心軸C側へ凸となる円弧に断面が形成された第二凸面部232Eと(本発明の第二下型曲面部に相当)、この第二凸面部232Eの半径内方向Di側の縁に接続して形成されていて中心軸Cに対して一定の傾きに形成されて半径内方向Diに行くにつれて下る第二傾斜面部232Fと、を備えている。
【0106】
第一傾斜面部232Cと凹面部232Dとがつながる接続箇所(第一下型接続点P21)に対して、凹面部232Dと第二凸面部232Eとがつながる接続箇所(第二下型接続点P22)は、半径内方向Diにずれて配置されていると共に、第二方向D2にずれて配置されている。凹面部232Dは、第一下型接続点P21から第二下型接続点P22へ向けて漸次中心軸Cからの半径が小さく(縮径)する曲面を呈する。図6の断面図では、各接続点を●印で強調して表しているが、実際には滑らかな面である。
【0107】
第二凸面部232Eと第二傾斜面部232Fとがつながる接続箇所(第三下型接続点P23)は、第二下型接続点P22に対して、半径内方向Diにずれて配置されていると共に、第二方向D2にずれて配置されている。第二凸面部232Eは、第二下型接続点P22から第三下型接続点P23へ向けて漸次中心軸Cからの半径が小さく(縮径)する曲面を呈する。第二凸面部232Eとこれに隣接する凹面部232Dとは曲面の向きが反転して凸と凹とで異なるため、第二下型接続点P22は変曲点を構成する。
【0108】
アッパピストン360の先端部362Aは、図5に示すように、ダイコアリング230の第一凸面部232Bと対向する凹面部362Bを有する。アッパピストン360の先端部362Aの凹面部362Bと、ダイコアリング230の第一凸面部232Bとで後述の円形ブランクを挟んで、フランジ部14を形成する。
【0109】
インナスリーブ350の先端部352Aは、図6に示すように、最も低い箇所(最下点P30)に一方の縁を接続して最下点P30から半径外方向Doに延びておりダイコアリング230の先端部232A側へ凸となる円弧に断面が形成された第一スリーブ凸面部352Bと、この第一スリーブ凸面部352Bの半径外方向Do側の縁に接続して形成されていてダイコアリング230の先端部232A側へ凹となる円弧に断面が形成されたスリーブ凹面部352C(本発明の第三上型曲面部に相当)と、このスリーブ凹面部352Cの半径外方向Do側の縁に接続して形成されていてダイコアリング230の先端部232A側へ凸となる円弧に断面が形成された第二スリーブ凸面部352D(本発明の第二上型曲面部に相当)と、この第二スリーブ凸面部352Dの半径外方向Do側の縁に接続して形成されていて第二スリーブ凸面部352Dの円弧の曲率半径と異なる曲率半径でダイコアリング230の先端部232A側へ凸となる円弧に断面が形成された第三スリーブ凸面部352E(本発明の第一上型曲面部に相当)と、この第三凸面部352Eの半径外方向Do側の縁に接続して形成されていて中心軸Cに対して一定の傾きに形成されて半径外方向Doに行くにつれて拡径するスリーブ傾斜面部352Fと、を備えている。
【0110】
第一スリーブ凸面部352Bとスリーブ凹面部352Cとがつながる接続箇所(第一上型接続点P31)は最下点P30よりも半径外方向Doにずれて配置されていると共に、第一方向D1にずれて配置されている。第一スリーブ凸面部352Bは、最下点P30から第一上型接続点P31へ向けて漸次中心軸Cからの半径が大きく(拡径)する曲面を呈する。
【0111】
第二スリーブ凸面部352Dとスリーブ凹面部352Cとがつながる接続箇所(第二上型接続点P32)は第一上型接続点P31よりも半径外方向Doにずれて配置されていると共に、第一方向D1にずれて配置されている。スリーブ凹面部352Cは、第一上型接続点P31から第二上型接続点P32へ向けて漸次中心軸Cからの半径が大きく(拡径)する曲面を呈する。スリーブ凹面部352Cとこれに隣接する第一スリーブ凸面部352Bとは曲面の向きが凹と凸とで異なるため、第一上型接続点P31は変曲点を構成する。
【0112】
第三スリーブ凸面部352Eと第二スリーブ凸面部352Dとがつながる接続箇所(第三上型接続点P33)は第二上型接続点P32よりも半径外方向Doにずれて配置されていると共に、第一方向D1にずれて配置されている。第二スリーブ凸面部352Dは、第二上型接続点P32から第三上型接続点P33へ向けて漸次中心軸Cからの半径が大きくなる(拡径する)曲面を呈する。第二スリーブ凸面部352Dとこれに隣接するスリーブ凹面部352Cとは曲面の向きが凸と凹とで異なるため、第二上型接続点P32は変曲点を構成する。
【0113】
スリーブ傾斜面部352Fと第三スリーブ凸面部352Eとがつながる接続箇所(第四上型接続点P34)は第三上型接続点P33よりも半径外方向Doにずれて配置されていると共に、第一方向D1にずれて配置されている。第三スリーブ凸面部352Eは、第三上型接続点P33から第四上型接続点P34へ向けて漸次中心軸Cからの半径が大きくなる(拡径する)曲面を呈する。
【0114】
成形装置2では、ダイコアリング230の先端部232Aとインナスリーブ350の先端部352Aとで円形ブランク410を所定の圧力で挟んでプレス加工する。インナスリーブ350のピストン本体部351のフランジ部下面351A(第二方向D2側)には所定厚のスペーサ370が取り付けられている。
【0115】
深絞り工程の途中でインナスリーブ350がダイコアリング230へ向けて(第二方向D2に)下降したとき、スペーサ370がアッパピストンに接触することによって、ダイコアリング230の先端部232Aに対するインナスリーブ350の先端部352Aの位置が保持され、変曲部17を成形するための金型クリアランスCL1を、ダイコアリング230の先端部232Aとインナスリーブ350と間に構成することができる。
【0116】
図5図6図12及び図13に示すように、成形装置2では、インナスリーブ350の先端部352Aがダイコアリング230の先端部232Aに最も近づいて、ダイコアリング230の先端部232Aとインナスリーブ350の先端部352Aとの間に金型クリアランスCL1が設定される。金型クリアランスCL1は、インナスリーブ350の第三上型接続点P33から第一上型接続点P31までにおいて、素板400の厚さよりも大きく設定されている。
【0117】
スペーサ370が無い場合、円形ブランク410はインナスリーブ350とダイコアリング230とによって一定の圧力で挟み込まれた状態で深絞りされるため、第八接続点p8から第六接続点p6を含む変曲部の板厚は減少する。また、板厚の減少によってこの変曲部における金型クリアランスは小さくなる。
【0118】
以下、金型クリアランスCL1について説明する。
【0119】
図6にダイコアリング230の先端部232Aの表面を示す。凹面部232Dは、中心C212から一定の半径r212の円弧で形成されている。第二凸面部232Eは、中心C223から一定の半径r223の円弧で形成されている。
【0120】
インナスリーブ350がダイコアリング230に最も近づいた状態では、ダイコアリング230の先端部232Aの凹面部232Dと、インナスリーブ350の先端部352A第二スリーブ凸面部352Dと第三スリーブ凸面部352Eとが対向する。
【0121】
ここで、第三スリーブ凸面部352Eは、ダイコアリング230の凹面部232Dの中心C212と同一点を中心とする円弧であり、この円弧の半径r334はダイコアリング230の凹面部232Dの半径r212よりも短い。これにより、相互に最も近づいた状態のインナスリーブ350の第三スリーブ凸面部352Eとダイコアリング230の凹面部232Dとの間隔は一定となる。
【0122】
第二スリーブ凸面部352Dの円弧の中心C323は、ダイコアリング230の凹面部232Dの円弧の中心C212よりも半径外方向Doにずれて配置されていると共に、第二方向D2にもずれて配置されている。また、第二スリーブ凸面部352Dの円弧の半径r323は、ダイコアリング230の凹面部232Dの円弧の半径r212や第三スリーブ凸面部352Eの円弧の半径r334よりも短く設定されている。
【0123】
断面において、第二スリーブ凸面部352Dの第二上型接続点P32と第三上型接続点P33との間に配置される各点において接する第一接線T1を想定し、第三スリーブ凸面部352Dの第三上型接続点P33と第四上型接続点P34との間に配置される各点において接する第二接線T2を想定すると、第一接線T1と水平線HLとが成す角度θ1は、第二接線T2と水平線HLとが成す角度θ2よりも小さく(θ1<θ2)設定されている(第三上型接続点P33に接する接線を除く)。
【0124】
これにより、インナスリーブ350の第二スリーブ凸面部352Dとダイコアリング230の凹面部232Dとの間隔を、中心C212から延びた仮想線に沿った寸法で捉えると、インナスリーブ350の第三上型接続点P33から第二上型接続点P32へ行くにつれて広くなるように形成されている。
【0125】
スリーブ凹面部352Cの円弧の中心C312は、ダイコアリング230の第二凸面部232Eの円弧の中心C223よりも半径内方向Diにずれて配置されていると共に、第一方向D1にもずれて配置されている。また、スリーブ凹面部352Cの円弧の半径r312は、ダイコアリング230の第二凸面部232Eの円弧の半径r223よりも長く設定されている。
【0126】
ここで、いずれも変曲点としての、第2下型接続点P22と第二上型接続点P32とは、図に一点鎖線で示す中心C212と中心C223とを結ぶ仮想線LX2上に配置されている。
【0127】
スリーブ凹面部352Cとダイコアリング230の第二凸面部232Eとの間隔を、中心C223から延びた仮想線に沿った寸法で捉えると、インナスリーブ350の第二上型接続点P32から第一上型接続点P31へ行くにつれて広くなるように形成されている。
【0128】
このように金型クリアランスCL1は、インナスリーブ350の第三上型接続点P33から第一上型接続点P31へ行くにつれて広く形成されている。第三上型接続点P33におけるクリアランスの寸法をCL33とし、第二上型接続点P32におけるクリアランスの寸法をCL32とし、第一上型接続点P31におけるクリアランスの寸法をCL31とすると、CL33<CL32<CL31の関係が成立する。
【0129】
CL33は中心C212から第三上型接続点P33を通ってダイコアリング230内まで延びる仮想線に沿った寸法である。CL32は中心C212或いは中心223から延びていて第二上型接続点P32及び第二下型接続点P22を通る仮想線に沿った寸法である。CL31は中心223から第一上型接続点P31を通ってインナスリーブ350内まで延びる仮想線に沿った寸法である。
【0130】
なお、インナスリーブ350の第三上型接続点P33から第一上型接続点P31までにおける金型クリアランスCL1は、素板400の厚さよりも大きく設定されている。
【0131】
(缶蓋シェル10の製造方法)
図7に示すように、成形装置2による缶蓋シェル10の製造方法は、アルミニウム合金製の素板から円形ブランクを打ち抜くブランキング工程(図8)と、円形ブランクを深絞りして浅底の第一成形体に成形する深絞り工程(図9)と、第一成形体の底側を反対方向に移動させてカウンターシンク部12を形成するリバース工程(図10)と、を備えている。
【0132】
図8~10(図8A,8B,図9A,9Bおよび図10A,10B)を用いて各工程を説明する。なお、図8~10では、図4に示す成形装置2の中心軸Cより左側の部分を表している。
【0133】
(ブランキング工程)
先ず、図8Aに示すように上型300が下型200の上方に配置された状態で、下型200の上に素板400を載せる。下型200では、カットエッジ部220とロアピストン260の先端部262Aとが高さを揃えて配置されていて、これらの上端部で素板400を支える。
【0134】
そして、図8Bに示すように、上型300が下降して、ブランクドローダイ320で素板400の一部がカットエッジ部220の内側へ押されて、円形ブランク410の打ち抜きが行われる。打ち抜かれた円形ブランク410は、下型200のロアピストン260の先端部262Aと上型300のブランクドローダイ320の先端部322Aとに周縁部を挟まれて、保持されている。
【0135】
(深絞り工程)
深絞り工程では、先ず図9Aに示すように上型300が下降して、ダイコアリング230の先端部232Aとアッパピストン360の先端部362Aとで円形ブランク410を挟む。
【0136】
次に、図9Bに示すように上型300をさらに下降させて、ブランクドローダイ320の先端部322Aをカットエッジ部220とダイコアリング230との間に入れ、インナスリーブ350の先端部352Aをダイコアリング230の先端部232Aとの間に金型クリアランスCL1が構成されるまで近づかせ、ダイセンター340の平坦部341をダイコアリング230の内部に入れる。
【0137】
すなわち、ダイセンター340の平坦部341とパネルパンチ250のパンチ平坦部251とで円形ブランクの中央部分を挟んで第二方向に移動することで、深絞りが行われる。図9Bは、上型300が下死点にある状態であり、深絞り工程によって成形した第一成形体420を示している。
【0138】
第一成形体420は、図11に示すように、下型200のパネルパンチ250と上型300のダイセンター340とに挟まれた底部分(平坦部)421と、この底部分421よりも第一方向D1にずれて配置されていると共に半径外方向Doへも位置をずらして配置されておりダイコアリング230とアッパピストン360とに挟まれている挟持部(フランジ部)422と、インナスリーブ350の先端部352Aとダイコアリング230の先端部232Aとの金型クリアランスCL1に配置された第一変曲部423と、を備えている。
【0139】
第一変曲部423は、曲面の向きが第一成形体420の内部空間SP4へ向けて凸となる曲面に断面が形成された凸面部423Aと、この凸面部423Aより挟持部422側へ位置をずらして設けられていて内部空間SP4へ向けて凹となる曲面に断面が形成された凹面部423Bと、がつながって構成されている。以下の説明では、円形ブランク410が変形して第一成形体420に至るまでの中間の形態を中間成形体と称す。
【0140】
(リバース工程)
図10Aに示すように、下型200のパネルパンチ250と上型300とを上昇させる。下型200のパネルパンチ250と上型300が上昇する過程では、インナスリーブ350の先端部352Aとダイコアリング230の先端部232Aとの間の金型クリアランスCL1が保持される。
【0141】
下型200のパネルパンチ250と上型300の上昇に伴って、図12に示すように、パネルパンチ250とダイセンター340とに挟まれた第一成形体420の底部分421よりも外にはみ出ている部分が折り返して下方に凸となる断面U字型の湾曲部424が形成される。
【0142】
湾曲部424は、図12に示すように、インナスリーブ350の先端部352Aとダイコアリング230の先端部232Aとの間の金型クリアランスCL1には、これらによって第一成形体420の第一変曲部423が挟まれて配置されている。
【0143】
この金型クリアランスCL1では、第一成形体420の第一変曲部423で埋められていない微小の隙間(空間)CL0が、例えば第一変曲部423とインナスリーブ350のスリーブ凹面部352Cや第二スリーブ凸面部352Dとの間に、残っている。深絞り工程を終了した段階で、微小の隙間(空間)CL0が構成される。
【0144】
湾曲部424は、パネルパンチ250の上昇に従って深さ寸法hが漸次大きくなり、所定の深さになると、図10Bおよび図13に示すように、パネルパンチ250のパンチ平坦部251のまわりに設けられたパンチ段差部252の受面252Aに当たる。受面252Aに当たった後、湾曲部424は受面252Aに押されて第一方向D1へ移動(上昇)する。
【0145】
リバース工程では、湾曲部424をパネルパンチ250の受面252Aで押し上げて、図13に示すように、加工を施している第一成形体420の一部を変形させて微小の隙間(空間)CL0を埋める。これにより第一変曲部423が増厚されて第二変曲部425(変曲部17)に形成される。
【0146】
このように、第一成形体420の一部で微小の隙間(空間)CL0を埋めるまで、パネルパンチ250を所定の位置(高さ)まで第一方向D1に移動(上昇)させると、リバース工程が終了する。この終了段階の湾曲部424がカウンターシンク部12を構成し、成形された第二変曲部425が変曲部17を構成する。
【0147】
リバース工程が終了した後、上型300が上昇するとともにダイセンター340の平坦部341は、第一成形体420の底部分421から離れて第一方向D1に移動する。
【0148】
続いて、上型300を下型200の上方の位置にさらに移動させて、完成した缶蓋シェル10を取り出す。
【0149】
成形された缶蓋シェル10に対して、次工程のライニング工程において、塗布密封性を保つためのラバーが缶蓋シェル10の裏面SF2に塗布される。そして開口用のティアラインの形成や開口操作用のタブの取付などが次工程のコンバージョン工程で行われ、缶蓋が完成する。
【0150】
さらに、有底筒状の缶本体に内容物とガス(COまたはN)を充填した後に、缶蓋の缶蓋シェル10のフランジ部分(フランジ部14とチャックウォール部13の凸型囲繞断面部134)を缶本体のフランジ部に巻締めして缶蓋が取り付けられ、缶製品が完成する。
【0151】
本実施形態の缶蓋シェル10を備えた缶蓋を用いた缶製品では、缶製品の内圧が上昇して、缶蓋のカウンターシンク部12の一部を缶外に膨らませる内圧力が作用したとしても、カウンターシンク部12の周りにある変曲部17が補強して形成されており、カウンターシンク部12の変形を抑えることができる。
【0152】
例えば、図1Bに示す第二溝壁部123の裏面の凹状に開いている角度θ23を変化させる内圧力が作用しても、チャックウォール部13の第一凹型囲繞断面部131からカウンターシンク部12の第三凸型溝断面部123C、第二凸型溝断面部123Bへ向けて漸次厚さが増加して形成されているため、変形を抑えることができる。これによりバックリングを防止することができる。
【0153】
(第二実施形態)
図14A及び図14Bに示すように、第二実施形態に係る缶蓋シェル10Aは、第一実施形態に係る缶蓋シェル10と比べると、缶蓋シェル10Aの表面SF1に、変曲点の箇所を含めて半径方向に沿って形成された薄肉部(凹部)15を複数備えている。
【0154】
薄肉部15は、図15図16及び図17に示すように、窪んだ箇所として構成されている。缶蓋シェル10Aの平面視で、各薄肉部15はパネル部11の中心まわりに等角度の間隔で複数配置されている。さらに各薄肉部15は同じ形状(角丸長方形)に形成されている。また各薄肉部15は平面視で半径外方向Doに沿った寸法Daがこれと直交する幅寸法Dbと比べて長く形成されている。図15では半径外方向Doに沿った線を二点鎖線で表している。
【0155】
これらの薄肉部15の間にある箇所が、それぞれ薄肉部15よりも厚く形成された厚肉部(凸部)16を構成している。各厚肉部16も平面視で半径外方向Doに沿った寸法がこれと直交する幅寸法よりも長く形成されている。換言すると、中心軸Cに対する周方向に沿う各薄肉部15どうしの間隔は、寸法Daよりも小さい。
【0156】
図15の一点鎖線B11は第五接続点p5で構成される境界線を示し、一点鎖線B12は第六接続点p6で構成される境界線を示し、一点鎖線B13は第七接続点p7(変曲点)で構成される境界線を示し、一点鎖線B14は第八接続点p8で構成される境界線を示している。
【0157】
図15及び図17に示すように、各薄肉部15は、中心側に配置される一方の端部15Aが第六接続点p6よりも第五接続点p5側に配置され、フランジ部14側に配置される他方の端部15Bが第七接続点p7(変曲点)よりも第八接続点p8に配置され、例えば一方の端部15Aが第五接続点p5と第六接続点p6との間に配置され、他方の端部15Bが第七接続点p7と第八接続点p8との間に配置される。
【0158】
このように、薄肉部15は、増厚部18に形成されており、特に変曲点を成す第七接続点p7から最大厚を構成する位置(第六接続点p6)までの箇所を少なくとも含めて、構成される。
【0159】
薄肉部15の間に配置される厚肉部16も、中心側に配置される一方の端部16Aが第六接続点p6よりも第五接続点p5側に配置され、フランジ部14側に配置される他方の端部16Bが第七接続点p7(変曲点)よりも第八接続点p8に配置される。例えば一方の端部16Aが第五接続点p5と第六接続点p6との間に配置され、他方の端部16Bが第七接続点p7と第八接続点p8との間に配置される。つまり、厚肉部16も増厚部18に形成されており、特に変曲点を成す第七接続点p7から最大厚を構成する位置(第六接続点p6)までの箇所を少なくとも含めて、構成される。
【0160】
これにより、厚肉部16では、表面SF1から裏面SF2までの厚さが、端部16Bから第六接続点p6へ行くにつれて増しており、さらに端部16Aから第六接続点p6へ行くにつれても増している。つまり、厚肉部16の厚さは第6接続点p6において最も厚くなっている。
【0161】
これら薄肉部15と厚肉部16とが缶蓋シェル10Aの周方向に交互に配置された表面SF1は、図16に示すように、凹凸状に形成されている。
【0162】
薄肉部15や厚肉部16の形状は図示例に限らず、図18に示すように平面視で楕円状に形成されてもよい。また図19に示すように、平面視で薄肉部15および厚肉部16の延びる方向は、半径外方向Doに対して所定の角度θ15で交差してもよい。さらに図20に示すように平面視で弧状に延びてもよい。なお、薄肉部15や厚肉部16が延びる方向および半径外方向Doの一例を各図において二点鎖線で表している。
【0163】
(リフォーム工程)
第二実施形態の缶蓋シェル10Aは、第一実施形態の缶蓋シェル10に対してリフォーム工程を追加して行うことで製造できる。
【0164】
リフォーム工程を行うためのリフォーム装置40は、図21に示すようにリフォームダイ41と、リフォームパンチ42と、リフォームダイ41とリフォームパンチ42との間に缶蓋シェル10を搬送する搬送部43と、を備えている。リフォームダイ41とリフォームパンチ42とは図示省略のプレス機に備えられている。
【0165】
リフォーム工程では、図21の左半分に示すように、缶蓋シェル10はフランジ部分(フランジ部14等)を搬送部43のベルト43Aの穴43Bの縁に掛けてベルト43Aで支持された状態で、リフォームダイ41の上方の位置に搬送される。缶蓋シェル10が搬送された後に、図21の右半分に示すように、リフォームパンチ42を下降させて、リフォームパンチ42とリフォームダイ41とで缶蓋シェル10Aの増厚部18を挟み込んで、増厚部18を加工する。
【0166】
図22に示すように、リフォームパンチ42の缶蓋シェル10Aの増厚部18に当る当接面42Aには、突出した複数の突起部42Bが形成されている。突起部42Bが表面SF1から増厚部18に押し込まれて、薄肉部15が成形される。また、薄肉部15の間に配置されている箇所が厚肉部16として成形される。
【0167】
リフォームパンチ42の複数の突起部42Bを第三凸型溝断面部123C(増厚部18)に押し込む際に、増厚部18の裏面がリフォームダイ41で支えられ、このリフォームダイ41を下から支えるスプリング44がリフォームパンチ42からの荷重の一部を吸収する。
【0168】
(作用)
増厚部18では、各厚肉部16が少なくとも第六接続点p6から第七接続点p7の部分を含めて、第五接続点p5側から第八接続点p8側へ向けて延びて形成されており、増厚部18が内部空間SP1側へ折れ曲がる等の変形を防止する。このように、増厚部18(変曲部17)の機械的強度が一層高められており、缶蓋シェル10Aの耐圧強度が向上する。
【0169】
なお、薄肉部15や厚肉部16を増厚部18に形成するための突起部についてはリフォームパンチ42に設ける場合に限らない。リフォームダイ41の缶蓋シェル10Aの増厚部18に当る当接面に設けた複数の突起部を用いて、外空間SP2を臨む裏面SF2に薄肉部15を成す窪みを形成してもよい。この場合も、同様の機械的強度向上の効果が得られる。
【0170】
(第一変形例の成形装置2A)
図23に示す第一変形例の成形装置2Aは、第一実施形態の成形装置2と比べると、下型のダイコアリング500が第一実施形態のダイコアリング230と相違している。第一変形例のダイコアリング500の先端部では、インナスリーブ350の先端部と対向する内側部分が、アッパピストン360と対向する外側部分に対して可動に構成されている。第一実施形態の成形装置2と同じ構成には同じ符号を付して、それらの説明は省略する。
【0171】
図24に示すように、下型のダイコアリング500は、筒状の第一固定部(固定部)510及び第二固定部(固定部)520と、第二固定部520に保持されたスプリング(付勢部材)530と、第二固定部520の内側に設けられ更にスプリング530に下端を支えられて中心軸Cに沿って移動自在に設けられた筒状の可動部540と、を備えている。
【0172】
第一固定部510は、ロアリテーナ210に固定される基端部511と、半径方向に沿った厚みが基端部511の半径方向に沿った厚みよりも薄く形成されていて基端部511から延びたスプリング支持部512と、を備えている。第一固定部510の基端部511は、スプリング支持部512の外周面よりも半径外方向Doに突き出ていて、半径外方向Doに沿った載置面511Aを有する。スプリング支持部512は、スプリング530の一部を収容する凹部512Aを先端側に有する。この凹部512Aは基端側とは反対方向(第一方向D1)に口を開いている。
【0173】
第二固定部520は、図24および図25に示すように、第一固定部510の基端部511の載置面511Aに載せられて第一固定部510に固定された基端部521と、半径方向に沿った厚さが基端部521の半径方向に沿った厚みよりも薄く形成されていて基端部521から延びていてアッパピストン360と対向する先端部522Aを有するアッパピストン対向部522と、を備えている。
【0174】
アッパピストン対向部522は、筒状に形成されていて、内周面を可動部540が擦動し、外周面をロアピストン260が擦動する。アッパピストン対向部522の先端部522Aは、第一実施形態の成形装置2におけるダイコアリング230の第一凸面部232Bと同じ形状部分を有する。
【0175】
(スプリング530)
スプリング530は、第一固定部510と同軸に設けられていて、軸心(中心軸C)に沿って伸縮する。
【0176】
スプリング530は、可動部540を載せた状態で、下部がスプリング支持部512の凹部512Aに収まり、残りの先端部分が凹部512Aの外に配置される。
【0177】
(可動部540)
可動部540は、リング状に形成されている。可動部540は、スプリング530の先端部分に支えられる基端部541と、基端部541よりも半径方向に沿った厚みが薄く基端部541から筒状に延びてインナスリーブ350と対向するインナスリーブ対向部542と、を備えている。
【0178】
インナスリーブ対向部542の先端部542Aは、第一実施形態の成形装置2におけるダイコアリング230の第二凸面部232E(本発明の下型曲面部に相当)と同じ形状部分を備えている。
【0179】
可動部540は、その外周面を第二固定部520のアッパピストン対向部522の内周面に当てて、さらにインナスリーブ対向部542の内周面をパネルパンチ250の外周面に当てて、中心軸Cに沿って移動する。
【0180】
図25に示すように、可動部540は、スプリング530で押されて、外側に形成された可動側段差部543を第二固定部520のアッパピストン対向部522の内周面に形成された固定側段差部523に当てて、アッパピストン対向部522の先端部522Aに近接した位置に保持される。
【0181】
可動部540の外側は、下端に隣接して低い位置に配置される第一外周面540Aと、これよりも高い位置に配置される第二外周面540Bとを有する。第一外周面540Aの半径は第二外周面540Bよりも半径が大きい。これら第一外周面540Aおよび第二外周面542Aが可動側段差面540Cを介してつながって可動側段差部543を構成している。
【0182】
第二固定部520のアッパピストン対向部522の固定側段差部523は、可動部540の第一外周面540Aに当る第一内周面522Bと、可動部540の第二外周面540Bに当る第二内周面522Cとが、固定側段差面522Dを介してつながって構成されている。
【0183】
可動部540がスプリング530で押されて可動側段差部543が固定側段差部523に当って、可動部540がその移動範囲の中で最も高い位置に配置されている状態では、図26に示すように、インナスリーブ対向部542の先端部542Aの第二凸面部232Eがアッパピストン対向部522の先端部522Aの第一凸面部232Bよりも、半径内方向Diにずれて配置されていると共に第二方向D2にもずれて配置されている。
【0184】
また、可動部540が最も高い位置に配置されている状態で、インナスリーブ対向部542の先端部542Aがインナスリーブ350の先端部352Aの近くに配置されており、変曲部17を成形するための金型クリアランスCL2が設定される。
【0185】
この第一変形例の成形装置2Aの金型クリアランスCL2は、第一実施形態の成形装置2の金型クリアランスCL1と比べると、変曲部17の第三凸型溝断面部123Cを成形するように設定されていて、インナスリーブ350の第一上型接続点p31から第二上型接続点p32までの小さい範囲に構成される。この範囲では、可動部540の第二凸面部232Eの円弧の中心C223から延びる仮想の直線に沿った間隔が、第二上型接続点p32から第一上型接続点p31へ行くにつれて広くなる。
【0186】
可動部540の先端部542Aの第二凸面部232Eが成す円弧は、上端が中心C223の上方(鉛直線上)の位置P220に設定されており、第三下型接続点P23から第二下型接続点P22を経て上端の位置P220まで形成されている。
【0187】
また、可動部540の先端部542Aにおいて、第二凸面部232Eがなす円弧の上端の位置P220から半径外方向Doに延びた箇所は、中間成形体に非接触な面として配置されている。アッパピストン対向部522の先端部522Aは、第一凸面部232Bの中心軸C側の下端P24から第二方向D2に延びており中間成形体に非接触の非接触内周面522Eを備えている。
【0188】
(缶蓋シェル10の製造方法)
缶蓋シェル10の製造方法は、前記の実施形態と同様に、アルミニウム合金製の素板から円形ブランク410を打ち抜くブランキング工程と、円形ブランク410を深絞りして浅底の第一成形体420に成形する深絞り工程と、第一成形体420の底を上方(第一方向D1)に移動させてカウンターシンク部を形成するリバース工程と、を備えている。
【0189】
以下、深絞り工程と、リバース工程とについて説明する。
【0190】
(深絞り工程)
深絞り工程では、先ず、図27Aに示すように、インナスリーブ350の先端部352Aをダイコアリング500の可動部540の先端部542Aに近接する位置まで下降させて、円形ブランク410の一部をダイコアリング500のアッパピストン対向部522の内側に押し込む。その後、パネルパンチ250とダイセンター340とで円形ブランク410を挟んで第二方向D2に移動して、深絞りが行われる。
【0191】
深絞りが進行する過程で、インナスリーブ350に取り付けたスペーサ370がアッパピストン360に接触することによって、インナスリーブ350がアッパピストン360に対して独立して下降することが抑えられる。
【0192】
パネルパンチ250とダイセンター340とで挟む円形ブランク410の中央部分がアッパピストン360の下端より低くなると、パネルパンチ250とダイセンター340との間からはみ出した中間成形体410Aの一部が可動部540を押して、可動部540がスプリング530側へ後退(下降)する。
【0193】
中間成形体410Aが可動部540に当った後、可動部540の先端部542Aとインナスリーブ350の先端部352Aとの間隔は、プレス機によって上型300が下死点に至るまで漸次広くなる。
【0194】
図27Bは深絞りが終了し、上型300が下死点にあり、第一成形体420を成形した状態を示している。このとき、可動部540の可動側段差面540Cの第二固定部520の固定側段差面522Dからの間隔(図25参照)が最大となり、例えば0.25mmである。
【0195】
(リバース工程)
リバース工程では、パネルパンチ250とダイセンター340とに挟まれている第一成形体420の底部分421を下型200のパネルパンチ250及びパネルパンチピストン240で、深絞り方向(第二方向D2)とは逆の方向(第一方向D1)に移動させる。この底部分421の移動に伴って、パネルパンチ250とダイセンター340との間からはみ出ている第一成形体420の一部が折り返されて下方に凸となる断面U字型の湾曲部424が形成される(図12および図13参照)。
【0196】
パネルパンチ250の上昇に従って、この湾曲部424の中心軸Cに沿った内部の深さ寸法hが漸次大きくなる。また、第一成形体420が可動部540を押さえる荷重が低減して可動部540がインナスリーブ350の先端部352Aへ向けて移動することで、可動部540の先端部542Aとインナスリーブ350の先端部352Aとの間隔が漸次狭くなる。
【0197】
図27Cは、リバース工程の途中で、可動側段差面540Cが固定側段差面522Dに当って、可動部540の先端部542Aとインナスリーブ350の先端部352Aとが最も近づいた状態を示している。この状態では、図28の拡大図に示すように、可動部540の先端部542Aとインナスリーブ350の先端部352Aとの間には、変曲部17を成形するための金型クリアランスCL2が構成されている。
【0198】
金型クリアランスCL2が構成された時点では、インナスリーブ350の先端部352Aのスリーブ凹面部352C(本発明の上型曲面部に相当)と第一成形体420の第一変曲部423との間には微小の隙間CL0が配置されている。またインナスリーブ350に取り付けたスペーサ370はアッパピストン360に接触した状態にある(図23参照)。
【0199】
金型クリアランスCL2が構成された状態で、さらにリバース工程が進行すると、湾曲部424をパネルパンチ250の受面252Aで押し上げて、加工を施している第一成形体420の一部を金型クリアランスCL2に押し込む。第一成形体420の一部が変形して微小の隙間(空間)CL0が埋められる。これにより第一変曲部423が増厚されて第二変曲部425に形成されて、リバース工程が終了する(図27D)。
【0200】
第一変形例の製造方法の深絞り工程では、可動部540が中間成形体410Aによって押し下げられて、可動部540のインナスリーブ対向部542とインナスリーブ350との間隔が広がることで、インナスリーブ対向部542との接触による中間成形体410Aの変形が減少し、深絞り時の板厚減少を抑制することができる。
【0201】
このように成形された缶蓋シェル10を備えた缶蓋を用いた缶製品では、缶製品の内圧が上昇して、缶蓋のカウンターシンク部12の一部を缶外に膨らませる内圧力が作用したとしても、カウンターシンク部12の周りにある変曲部17が増厚して形成されており、一部のカウンターシンク部12が外へ向けて膨らみ状に変形するバックリングを抑えることができる。
【0202】
(第二変形例の成形装置2B)
図29に示す第二変形例の成形装置2Bは、第一変形例の成形装置2Aと比べると、ダイコアリング500、スプリング530、ロアピストン260に代えて、ダイコアリング1500、スプリング(付勢部材)1530、ロアピストン1260を備えて、深絞り工程を行う中で中間成形体410Aに押されて第一固定部510側に後退した可動部1540を中間成形体410Aによる押さえに抗してインナスリーブ350側へ押し上げるように構成されている。前記の成形装置2,2Aと同じ構成には同じ符号を付して、それらの説明は省略する。
【0203】
図30に示すようにダイコアリング1500は、前記の第一固定部510と、ブロック550と、このブロックを支持する第二固定部1520と、スプリング530よりもばね定数が小さく設定されたスプリング1530と、可動部1540と、を備えている。
【0204】
第二固定部1520は基端部521とアッパピストン対向部1522とを備えている。このアッパピストン対向部1522は、前記の第二固定部520のアッパピストン対向部522と比べると、ブロック550を通す貫通穴525を有する点が異なる。
【0205】
貫通穴525は、固定側段差面522D(図25参照)よりも低い位置で内部から外部に通じるようにアッパピストン対向部1522を貫通して形成されている。貫通穴525は、第二固定部1520の中心軸Cまわりに、例えば等角度の間隔で複数形成されている。
【0206】
(ブロック550)
図31に示すようにブロック550は、第二固定部1520のアッパピストン対向部1522の貫通穴525に配置された状態で、ロアピストン1260側に突出する外側端部551と、可動部1540側へ突出する内側端部552と、を備えている。
【0207】
外側端部551は、外側垂直面551Aと、この外側垂直面551Aの上縁から延びた外側傾斜面551Bと、を備えている。外側傾斜面551Bは、外側垂直面551Aの上縁から第一方向D1に行くにつれて中心軸Cからの半径(距離)が小さくなり、中心軸Cに対する傾きθ51が一定に設定されている。
【0208】
内側端部552は、内側垂直面552Aと、この内側垂直面552Aの上縁から延びた内側傾斜面552Bと、を備えている。内側傾斜面552Bは、内側垂直面552Aの上縁から第一方向D1に行くにつれて中心軸Cからの半径(距離)が大きくなり、中心軸Cに対する傾きθ52が一定に設定されている。外側端部551と内側端部552それぞれの水平面に対する角度θ51,θ52を比べると、外側端部551が水平面となす角度θ51が、内側端部552が水平面となす角度θ52よりも大きく設定されている。
【0209】
(ロアピストン1260)
ロアピストン1260はピストン本体部261と延出部1262とを備えている。延出部1262は前記のロアピストン260の延出部262と比べると、内周面の形状が相違する。
【0210】
図32に示すように延出部1262は、ピストン本体261側に形成される第一内周面262Cと、先端部262A側に設けられていて第一内周面262Cよりも径が小さく形成された第二内周面262Dと、第一内周面262Cと第二内周面262Dとの間に配置された内側傾斜面262Eと、を備えている。
【0211】
内側傾斜面262Eは、第一内周面262Cの上縁から第二内周面262Dの下縁に行くにつれて中心軸Cからの半径(距離)が小さくなり、中心軸Cに対する傾きが一定に設定されている。中心軸Cに対する内側傾斜面262Eの傾きの角度θ62は、ブロック550の外側傾斜面551Bの角度θ51と同等に設定されている。また、ロアピストン1260の下降において、ブロック550の外側傾斜面551Bは内側傾斜面262Eの移動軌跡上に配置されている。
【0212】
このように構成されたロアピストン1260は、中心軸Cに沿って所定距離下降することで、内側傾斜面262Eがブロック550の外側傾斜面551Bに当たり、さらに下降することでブロック550の外側傾斜面551Bを押して、ブロック550を半径内方向Diに移動させることができる。
【0213】
(可動部1540)
図33に示すように可動部1540の外周面は、下面の周縁から立ち上がる第一外周面1540Aと、この第一外周面1540Aよりも第一方向D1に位置をずらして形成されている前記の第二外周面540Bと、第一外周面1540Aと第二外周面540Bとの間に配置される第三外周面540Dと、第二外周面540Bと第三外周面540Dとの間に配置されてこれら共に可動側段差部543を構成する可動側段差面540Cと、第一外周面1540Aと第三外周面540Dとの間に配置された外側傾斜面540Eと、で形成されている。
【0214】
第一外周面1540Aの半径は第二外周面540Bの半径よりも小さく設定され、第三外周面540Dの半径は第二外周面540Bの半径よりも大きく設定されている。
【0215】
外側傾斜面540Eは、第一外周面1540Aの上縁から第三外周面540Dの下縁に行くにつれて中心軸Cからの半径(距離)が大きくなり、中心軸Cに対する傾きが一定に設定されている。水平面に対する第三外周面540Dの傾きの角度θ540は、ブロック550の内側傾斜面552Bの角度θ52と同等に設定されている。
【0216】
可動部1540の可動側段差面540Cから外側傾斜面540Eの上縁までの中心軸Cに沿った寸法h31は、アッパピストン対向部1522の固定側段差面522Dから貫通穴525の縁までの軸に沿った寸法h32(図30)よりも大きく設定されている。
【0217】
なお、図30に示すように、可動部1540がスプリング1530側に後退しておらず、且つブロック550が貫通穴525に後退していない状態(可動側段差面540Cを固定側段差面522Dに当てていると共に、ロアピストン1260の内側傾斜面262Eと非接触に外側傾斜面551Bをロアピストン1260へ向けて突き出している状態)では、可動部1540の外側傾斜面540Eとブロック550の内側傾斜面552Bとは離れており、ブロック550の内側傾斜面552Bは、その面のうち低い箇所を貫通穴525からアッパピストン対向部1522の内部に突出させて外側傾斜面540Eの下方に配置されている。
【0218】
なお、ブロック550の内側傾斜面552Bの低い箇所(内周側)の上方には、可動部1540の外側傾斜面540Eのうち、高い箇所(外周側)が配置されている。
【0219】
深絞り工程では、可動部1540が中間成形体410Aに押されてスプリング1530側へ後退するが、可動部1540の外側傾斜面540Eがブロック550の内側傾斜面552Bに当たることで可動部1540の後退は抑えられる。さらに可動部1540がブロック550に当っている状態で、ブロック550が内側傾斜面552Bで可動部1540の外側傾斜面540Eを半径内方向Diに押すことで、可動部1540をインナスリーブ350側へ移動させることができる。
【0220】
(缶蓋シェル10の製造方法)
缶蓋シェル10の製造方法は、前記の実施形態と同様に、アルミニウム合金製の素板から円形ブランク410Aを打ち抜くブランキング工程と、円形ブランク410を深絞りして浅底のトレー状の第一成形体420に成形する深絞り工程と、第一成形体420の底の平坦部をその上方に配置された口側に移動させて平坦部のまわりに窪んだカウンターシンク部を形成するリバース工程と、を備えている。
【0221】
以下、深絞り工程と、リバース工程とについて説明する。
【0222】
(深絞り工程)
深絞り工程では、先ず、図34Aに示すように、インナスリーブ350の先端部352Aを可動部1540の先端部542Aに近接する位置まで下降させて、円形ブランク410の一部をダイコアリング1500のアッパピストン対向部1522の内側に押し込む。その後、パネルパンチ250とダイセンター340とで円形ブランク410を挟んで軸心方向に移動して、深絞りが行われる。
【0223】
パネルパンチ250とダイセンター340とで挟む円形ブランク410の中央部分がアッパピストン360の下端より低くなると、パネルパンチ250とダイセンター340との間からはみ出した中間成形体410Aの一部が可動部1540を押して、可動部1540がスプリング1530側へ後退(下降)する。
【0224】
中間成形体410Aが可動部1540に当った後、可動部1540の先端部542Aとインナスリーブ350の先端部352Aとの間隔は、可動部1540がブロック550に当るまで漸次広くなる。
【0225】
また、パネルパンチ250とダイセンター340などの移動と共に、ブランクドローダイ320も下型200の内部に入り込み、ロアピストン1260もブランクドローダイ320に押されて下降する。ロアピストン1260が所定の距離下降すると、内側傾斜面262Eがブロック550の外側傾斜面551Bに当る。
【0226】
図34Bに示すように、ロアピストン1260の内側傾斜面262Eがブロック550の外側傾斜面551Bに当るタイミングと、可動部1540の外側傾斜面540Eがブロック550の内側傾斜面552Bに当るタイミングとが、同時となるように設計されている。このように可動部1540がブロック550に当たった状態で、可動側段差面540Cと固定側段差面522Dの中心軸Cに沿った間隔は、例えば0.5mmである。
【0227】
成形装置2Bでは、ロアピストン1260と可動部1540とがブロック550に当った後に、さらにロアピストン1260が下降することでブロック550を貫通穴525に後退させて、内側端部552をアッパピストン対向部1522の内部へより一層突出させる。これにより、ブロック550が可動部1540を押して、可動部1540がインナスリーブ350に近づく方向に移動する。
【0228】
このように、可動部1540のインナスリーブ350へ向かう移動が深絞りの途中から開始し、可動部1540の先端部542Aとインナスリーブ350の先端部352Aとの間隔が、パネルパンチ250とダイセンター340が深絞り工程が終了するまで、漸次狭くなる。
【0229】
図34Cに示すように、上型300が下死点に至った状態では、可動部1540の先端部542Aはインナスリーブ350の先端部352Aと最も近接した位置に配置される。またこのように近接した状態では、変形部17を成形するための金型クリアランスCL2が構成されている。また、可動部1540の可動側段差面540Cがアッパピストン対向部1522の固定側段差面522Dに当っている。スペーサ370がアッパピストン360に接触して、インナスリーブ対向部542の先端部542Aとの間(インナスリーブ350と可動部1540との間)に、金型クリアランスCL2が構成されている。
【0230】
(リバース工程)
リバース工程では、パネルパンチ250とダイセンター340とに挟まれている第一成形体420の底部分421を下型200のパネルパンチ250及びパネルパンチピストン240で、深絞り方向とは逆の方向に移動させる。第一成形体420の底部分421の移動に伴って、図34Dに示すように、パネルパンチ250とダイセンター340との間からはみ出ている第一成形体420の一部が折り返されて下方に凸となる断面U字型の湾曲部424が形成される。
【0231】
なお、湾曲部424がパンチ段差部252の受面252Aの上方に配置されている状態では、図28に示すように、インナスリーブ350の先端部352Aのスリーブ凹面部352Cと第一成形体420の第一変曲部423との間には微小の隙間CL0が配置されている。
【0232】
パネルパンチ250と共にロアピストン1260が上昇して、その内側傾斜面262Eがブロック550の外側傾斜面551Bから離れると、図34Dに示すように、ブロック550は、ロアピストン1260からの半径内方向Diへ後退させる力から解放されて、元の位置に戻る。なお、ダイコアリング1500には図示省略するブロック用スプリングが設けられており、このブロック用スプリングによってブロック550は後退位置から突出位置に戻ることができる。
【0233】
さらにリバース工程が進行すると、湾曲部424をパネルパンチ250の受面252Aで押し上げて、加工を施している第一成形体420の一部を金型クリアランスCL2に押し込む。第一成形体420の一部が変形して微小の隙間(空間)CL0が埋められる。これにより第一変曲部423が増厚されて第二変曲部に形成されて、リバース工程が終了する(図34E)。
【0234】
第二変形例の製造方法の深絞り工程では、可動部1540がインナスリーブ350に最も近づいて金型クリアランスCL2を構成する位置に可動部1540を保持するスプリング1530の力が、第一変形例の成形装置2Aのスプリング530の力よりも弱いため、深絞りの際に、変形する中間成形体410Aに押されて容易に後退する。これにより、深絞りの過程で中間成形体410Aが可動部1540(インナスリーブ対向部542)との接触による板圧の減少を一層抑えることができる。
【0235】
さらに、深絞り工程が進行している中で、ロアピストン1260の下降と共に、ブロック550を後退させ、且つ可動部1540をインナスリーブ350へ向けて移動させることで、厚みの減少を抑えた中間成形体410Aの一部を可動部1540(インナスリーブ対向部542)とインナスリーブ350とで挟んで第一変曲部423を成形する。
【0236】
このようにリバース工程の前に、深絞りに伴う板圧減少が抑制されることで、リバース工程の開始の段階に折り返されて形成される湾曲部424の変形や歪の発生を防止することができる。
【0237】
本発明は前記の説明や図示例に限らず、実施をすることができる。第一実施形態の製造方法について、成形装置(図4)を基に説明したが、本発明の要点は前記第一曲面部、前記第二曲面部に相対する上下金型間に前記金型クリアランスCL1を構成することにある。この金型クリアランスを構成できれば、図4に示す成形装置に限らず、他の成形装置を用いてもよい。カウンターシンク部、チャックウォール部、フランジ部の中心軸Cに沿った寸法の比率、パネル部、カウンターシンク部、チャックウォール部、フランジ部の中心軸Cに直交する方向に沿った寸法の比率、各円弧の中心まわりで拡開する角度など、変更してもよい。
【0238】
また缶蓋シェルの断面構造に関して、前記の説明や図面では、第三凸型溝断面部123C(本発明の第一曲面部に相当)、第一凹型囲繞断面部131(本発明の第二曲面部に相当)や第二凸型溝断面部123B(本発明の第三曲面部に相当)などが、表面SF1や裏面SF2を構成する面がそれぞれ円弧(真円の円弧)として形成される場合を示したが、第三凸型溝断面部123C(本発明の第一曲面部に相当)、第一凹型囲繞断面部131(本発明の第二曲面部に相当)や第二凸型溝断面部123B(本発明の第三曲面部に相当)などにおいて、表面SF1や裏面SF2を構成する面は、断面が真円の円弧ではないが弓なりに曲がった面としても形成されてもよい。
【0239】
このように断面が弓なりに曲がった曲面を備えた第三凸型溝断面部123C(本発明の第一曲面部に相当)、第一凹型囲繞断面部131(本発明の第二曲面部に相当)や第二凸型溝断面部123B(本発明の第三曲面部に相当)で、変曲部17や増厚部18を構成することもできる。このように円弧(真円の円弧)や弓なりに曲がった面からなる曲面で、変曲部17や増厚部18が構成されて、缶蓋シェルの耐圧強度を向上させることができる。
【実施例
【0240】
アルミニウム合金(5182)からなるアルミニウム板(厚さ0.208mm)の両面を変性エポキシ系塗料(両面の合計厚み0.012mm)で被覆した素板から口径が200径の飲料用缶の缶蓋シェルを製造して、耐圧強度を確認した。
【0241】
缶蓋シェルは、パネル部とカウンターシンク部とチャックウォール部とフランジ部とを備え、変曲点を間に配置してチャックウォール部で内部空間側に凹となる円弧の箇所とカウンターシンク部で内部空間側に凸となる円弧の箇所とで構成される変曲部を増厚したものを実施例、増厚していないものを比較例とした。
【0242】
実施例の缶蓋シェルは、第一実施形態の成形装置を用いて製造した。この成形装置では、金型クリアランスCL1が、図6に示す、インナスリーブ350の先端部352Aの第三上型接続点P33で0.220mm、第二上型接続点P32で0.234mm、第一上型接続点P31で0.250mmに設定されて、インナスリーブ350とダイコアリング230との間隔が第三上型接続点P33から第一上型接続点P31へ行くにつれて広がっている。
【0243】
また、成形装置の下型200のパネルパンチ250は素板が当たるパンチ平坦部251のまわりに段差状のパンチ段差部252を備え、カウンターシンク部を成形するリバース工程の際に、リバース工程の中で形成された湾曲部424をパンチ段差部252の受面252Aで押し上げて、加工を施している第一成形体の一部を変形させて金型クリアランスCL1に押し込み、これにより増厚した変曲部425を成形した。
【0244】
比較例の缶蓋シェルは、従来の成形装置を用いて製造した。
【0245】
発明実施例、比較例それぞれの50個の試料を製造し、それぞれの耐圧強度[psi]を測定し、それらを平均した値(平均耐圧強度)を算出した。また、試料の変曲部のうち、チャックウォール部で内部空間側に凹となる円弧の箇所とカウンターシンク部で内部空間側と凸となる円弧の箇所との変曲点における厚さを測定し、これを加工前の円形ブランクの厚さと比べて増加する割合(加工後の板厚/加工前の円形ブランクの板厚×100)[%]を算出した。なお、1[psi]=6894.76[Pa]である。
【0246】
表1に耐圧強度、厚さ、厚さの割合を示す。
【0247】
【表1】
【0248】
発明実施例の缶蓋シェルでは、変曲部が素板よりも厚みを約9%が増して成形され、平均耐圧強度も106.7[psi]と高く構成されている。
【0249】
比較例では、変曲部の厚さは素板の厚みに対する増分は確認できなかった。平均耐圧強度98.2[psi]は従来の缶蓋の強度に相当するものであった。
【産業上の利用可能性】
【0250】
バックリングを防止する缶蓋シェルと、この缶蓋シェルの製造方法と、成形装置と、を提供できる。
【符号の説明】
【0251】
2,2A 成形装置
10,10A 缶蓋シェル
11 パネル部
12 カウンターシンク部
123B 第二凸型溝断面部(第三曲面部)
123C 第三凸型溝断面部(第一曲面部)
13 チャックウォール部
131 第一凹型囲繞断面部(第二曲面部)
132 第二凹型囲繞断面部
133 傾斜囲繞断面部
134 凸型囲繞断面部
14 フランジ部
15 薄肉部(凹部)
16 厚肉部(凸部) 17 変曲部
18 増厚部
40 リフォーム装置
200 下型
210 ロアリテーナ
220 カットエッジ部
230 ダイコアリング
232A 先端部
232D 凹面部(第一下型曲面部)
232E 第二凸面部(第二下型曲面部)(下型曲面部)
240 パネルパンチピストン
250 パネルパンチ
260 ロアピストン
300 上型
310 アッパーリテーナ
320 ブランクドローダイ
330 ダイセンターピストン
340 ダイセンター
350 インナスリーブ
351 ピストン本体部
352A 先端部
352B 第一スリーブ凸面部
352C スリーブ凹面部(第三上型曲面部)(上型曲面部)
352D 第二スリーブ凸面部(第二上型曲面部)
352E 第三スリーブ凸面部(第一上型曲面部)
352F スリーブ傾斜面部
360 アッパピストン
362A 先端部
370 スペーサ
400 素板
410 円形ブランク
410A 中間成形体
420 第一成形体
421 底部分(平坦部)
422 挟持部(フランジ部)
423 第一変曲部
425 第二変曲部
500 ダイコアリング
510 第一固定部(固定部)
520 第二固定部(固定部)
522,1522 アッパピストン対向部
522A 先端部
523 固定側段差部
530 スプリング(付勢部材)
540 可動部
542 インナスリーブ対向部
542A 先端部
550 ブロック
551B 外側傾斜面
552B 内側傾斜面
2B 成形装置
1260 ロアピストン
262E 内側傾斜面
1500 ダイコアリング
1520 第二固定部(固定部)
525 貫通穴
1530 スプリング(付勢部材)
1540 可動部
540E 外側傾斜面
C 中心軸
CL1,CL2 金型クリアランス
SF1 表面
SF2 裏面
SP1 内部空間
【要約】
缶蓋シェル10であって、円形の周縁を有するパネル部11と、パネル部11の周縁に沿って形成されていて窪んだカウンターシンク部12と、カウンターシンク部12の縁から立ち上がるチャックウォール部13と、チャックウォール部13の上端から張り出したフランジ部14と、を備え、カウンターシンク部12が内部空間SP1へ凸となる第一曲面部123Cを備え、チャックウォール部13が第一曲面部123Cにつながっていて内部空間SP1へ凹となる第二曲面部131を備え、さらに第二曲面部131と第一曲面部123Cとは、フランジ部14側の縁p8からパネル部11側の縁p6へいくにつれて厚さが増して形成されている。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31
図32
図33
図34
図35
図36
図37