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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-24
(45)【発行日】2024-08-01
(54)【発明の名称】事前火災警報装置
(51)【国際特許分類】
   G08B 17/00 20060101AFI20240725BHJP
   G08B 25/08 20060101ALI20240725BHJP
【FI】
G08B17/00 C
G08B25/08 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020024998
(22)【出願日】2020-02-18
(65)【公開番号】P2021131588
(43)【公開日】2021-09-09
【審査請求日】2023-01-18
(73)【特許権者】
【識別番号】501359412
【氏名又は名称】株式会社リンテック21
(74)【代理人】
【識別番号】100144277
【弁理士】
【氏名又は名称】乙部 孝
(72)【発明者】
【氏名】富田 真次
【審査官】横田 有光
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-021237(JP,A)
【文献】特開昭60-134999(JP,A)
【文献】特開2019-101948(JP,A)
【文献】特開2016-111736(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08B 17/00-31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物品の温度を監視して事前火災警報を生じる事前火災警報装置であって、
対象物品の温度を時系列で2次元的に測定する温度測定手段と、
前記事前火災警報装置を用いる環境の温度を環境温度として測定する環境温度測定手段と
前記温度測定手段で得られた測定範囲での最も温度上昇の大きい部分の温度を監視温度として算出し、予め定めた対象物品の発火温度よりも低く設定された複数の危険温度を低い方から、第1危険温度、第2危険温度などと順番に設定し、前記環境温度を加味して前記監視温度と前記危険温度とを時間の経過とともに対比して処理結果を出力する温度処理手段と、を備え、
前記処理結果に基づいて装置の外部へ警報を通報する通報手段を備えることを特徴とする事前火災警報装置。
【請求項2】
前記警報が通知されて対象物品の置かれた場所での火災への対応措置に掛かる時間を一つの基準として前記危険温度が設定されることを特徴とする請求項1に記載の事前火災警報装置。
【請求項3】
前記監視温度が上昇して前記危険温度を順次超える速度から発火温度到達時刻を推定することを特徴とする請求項1または2に記載の事前火災警報装置。
【請求項4】
前記監視温度が上昇して第1危険温度を超え、第2危険温度に到達しないときは、要チェックの警報を通知することを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の事前火災警報装置。
【請求項5】
前記通報手段がWiFi又は公衆網に接続されていることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の事前火災警報装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、火災の発生を未然に防ぐために対象物が発火点温度に至る前に対象物の温度上昇を検出して警報を発生する事前火災警報装置である。
【背景技術】
【0002】
消防法で決められている工場や倉庫に設置される火災警報器は発煙又は発火などの現象が起こらないと警報を発生しないため、警報に気がついたときには初期消火が出来ない状態で手遅れになる可能性があった。また、広い倉庫などを監視するには多数の火災警報装置を用意する必要があった。
【0003】
火災警報を工場などの広域できめ細かく行うには火災警報装置を多数用意しなければならないが経費と多数の火災警報装置の管理負担が大きい。そこで、広域の対象物を視野に入れて温度を測定するサーモグラフィーの活用が行われている。たとえば、特許文献1に開示される火災警報装置は、サーモグラフィーカメラの画像と可視光カメラの画像を用いて広域の監視を行っている。また、特許文献2で開示された倉庫内を自走して消火を行う無人消火装置では火災の発生をサーモグラフィーの画像を用いて行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-167616号公報
【文献】特開2019-62970号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示される火災警報装置はサーモグラフィーからの情報に基づいてサーモグラフィーの画像領域をカバーする複数の可視光カメラから発火点を見出す操作が必要で全体の構成が大きくなり複雑なので構築が容易でないという問題点がある。また、特許文献2に開示される無人消火装置では、炎をサーモグラフィーの画像で確認するので、火災の事前警報には難がある。
【0006】
この発明の目的は、上述した事情に鑑みて広域をカバーして構成が簡単で構築が容易な事前火災警報装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の事前火災警報装置は、対象物品の温度を監視して事前火災警報を生じる事前火災警報装置であって、対象物品の温度を時系列で2次元的に測定する温度測定手段と、前記事前火災警報装置を用いる環境の温度を環境温度として測定する環境温度測定手段と、前記温度測定手段で得られた測定範囲での最も温度上昇の大きい部分の温度を監視温度として算出し、予め定められた対象物品の発火温度よりも低く設定された複数の危険温度を低い方から、第1危険温度、第2危険温度などと順番に設定し、前記環境温度を加味して前記監視温度と前記危険温度とを時間の経過とともに対比して処理結果を出力する温度処理手段とを備え、前記処理結果に基づいて装置の外部へ警報を通報する通報手段を備えることを特徴とする事前火災警報装置である。
【0008】
対象物品の温度を監視して事前火災警報を生じる事前火災警報装置であって、対象物品の温度を時系列で2次元的に測定する温度測定手段と、前記事前火災警報装置を用いる環境の温度を環境温度として測定する環境温度測定手段と、前記温度測定手段で得られた測定範囲での最も温度上昇の大きい部分の温度を監視温度として算出し、予め定められた対象物品の発火温度よりも低く設定された複数の危険温度を低い方から、第1危険温度、第2危険温度などと順番に設定し、前記環境温度を加味して前記監視温度と前記危険温度とを時間の経過とともに対比して処理結果を出力する温度処理手段とを備え、前記処理結果に基づいて装置の外部へ警報を通報する通報手段を備えるので火災になる前に火災に関する警報を離れた場所で知ることができる。
【0013】
請求項2に記載の発明は、前記警報が通知されて対象物品の置かれた場所での火災への対応措置に掛かる時間を一つの基準として前記危険温度が設定されることを特徴とする請求項1に記載の事前火災警報装置である
【0014】
警報が通知されて対象物品の置かれた場所での火災への対応措置に掛かる時間を一つの基準として危険温度が設定されるので火災への対応措置を取るために掛かる時間を加味して事前火災警報を発生するタイミングを決めることが可能になる。
【0015】
請求項3に記載の発明は、前記監視温度が上昇して前記危険温度を順次超える速度から発火温度到達時刻を推定することを特徴とする請求項1または2に記載の事前火災警報装置である。
【0016】
監視温度が上昇して危険温度を順次超える速度から発火温度到達時刻を推定するので温度上昇の速度により外部へ警報を出すタイミングの最適化を図れる
【0017】
請求項4に記載の発明は、前記監視温度が上昇して第1危険温度を超え、第2危険温度に到達しないときは、要チェックの警報を通知することを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の事前火災警報装置である。
【0018】
監視温度が上昇して第1危険温度を超え、第2危険温度に到達しないときは、要チェックの警報を通知するので前記監視温度が上昇して第1危険温度を超え、第2危険温度に到達しないときは、要チェックの警報を通知することで、火災の可能性を下げることができる。
【0019】
請求項5に記載の発明は、前記通報手段がWiFi又は公衆網に接続されていることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の事前火災警報装置である。
【0020】
通報手段がWiFi又は公衆網に接続されているのでWiFi接続可能な範囲でのシステム構成が簡便にでき、公衆網に接続されるとWiFiのカバー範囲を超えて警報を通知することができる
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】事前火災警報装置の構成図である。
図2】(A)対環境温度測定時の対象物品のサーモグラフィーの画像出力、(B)P-P’での温度分布である。
図3】(A)昇温時の対象物品のサーモグラフィーの画像出力、(B)P-P’での温度分布、(C)図2(B)で、図3(B)を補正した温度分布である。
図4】マイクロボロメータの説明図である。
図5】温度測定のフローチャートである。
図6】センサアレイのマッピング説明図である。
図7】監視温度の時間変化の説明図である。
図8】対象物品の発火温度である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1は、本発明に掛かる事前火災警報装置の構成図である。倉庫の棚などに収納されたダンボールなどの対象物品10を温度測定手段であるサーモグラフィーカメラ1で2次元的に測定して対象物品の温度を監視する。サーモグラフィーカメラ1の2次元画像は感熱素子上へ入射した熱量に対応した値により作られる。通常は対象物品以外からの熱線を避けるためにサーモグラフィーカメラの画角をBnのように対象物品内に収めるが、今回は図1のBwのように取ることで、漏れなく対象物品の温度をカバーすることができる。対象物品以外の部分からの熱線は雑音となるので環境により画角と対象物品の大きさを現場で決めることが望ましい。サーモグラフィーカメラ1には、環境温度測定手段5としてのIC温度計などから環境温度が入力される。
【0023】
サーモグラフィーカメラ1の出力は温度処理手段2へ送られて、温度測定手段1で得られた測定範囲での最も温度上昇の大きい部分の温度を監視温度として算出し、前記監視温度を予め定められた方法で処理して処理結果を外部への通報手段3へを送る。通報手段では、事前火災警報装置の近くに居る人に向けて、ブザーや警告灯の点灯などの通報を行う。また、通報手段3は無線によるWiFiインタフェイス4を用いてでWiFiのカバー範囲の人へ警報を通報する。警報はルータを介して公衆網に乗せることも容易なので、携帯やスマートフォンの所持者へ事前火災警報を送ることができる。
【0024】
通常サーモグラフィーカメラ1によって対象物品の正確な温度を測定するためには、対象物品の放射特性を知る必要がある。同じ温度でも、対象物品から放射される熱量が対象物品の放射特性により異なるからである。サーモグラフィー測定は対象物品の放射輝度に基づくものであるため、有効黒体放射輝度と温度を使って較正/測定を行うので正確な温度測定には、対象物品の放射率が必須になる。
【0025】
物体の放射特性は通常、完全黒体(完全放射体)との関係において示される。黒体から放出された放射エネルギー(Wbb)と同じ温度の一般の物体の放射エネルギー(Wobj )の比e(e = Wobj / Wbb)がその物体の放射率(e)となる。したがって、放射率は0と1の間にあり放射特性の高い物体ほど放射率は高くなる。
【0026】
多くの物質の放射率は放射波長によって変化し、さらに、温度や撮影角度などに影響を受けるので現場での放射率の取り扱いは困難である。多様な対象物品が日毎に変化する倉庫などでは、対象物品ごとに放射率を測定する事や既知の値を用いて補正することはかなり困難である。
【0027】
そこで、対象物品の放射率を知ることなしに、対象物品の温度を知る方策を考える。倉庫などに置かれた対象物品の表面温度は倉庫内の環境温度にほぼ等しくなるので、定常状態での対象物品の表面温度を基準として、観測時の温度は定常状態での物品の表面温度との差分として算出する。
【0028】
図2を用いて、定常状態の温度分布を基準とする温度測定を説明する。図2(A)はサーモグラフィーカメラからの2次元温度分布情報である。左端が多少黒くなっているのは、対象物品の熱容量の分布による発熱量の不均一を示す。
【0029】
ここで、2次元分布の線分P-P’上での温度分布を図2(B)に示す。左端の多少の黒色が図2(B)の温度分布における立ち上がりと減衰に対応している。
【0030】
図3(A)に測定時の2次元温度分布を示す。中央部分の黒色は温度が周辺に比べて上昇していることを示す。ここで、2次元分布の線分P-P’上での温度分布を図3(B)に示す。この図3(B)の温度分布から図2(B)の定常状態での温度分布を差し引くと図3(C)の温度分布が得られる。3(C)の温度分布は、定常状態からの温度上昇を示している。図3(B)と図3(C)の点線丸の部分では、定常状態での温度が引かれて、温度上昇は無かったとされる。
【0031】
このように、温度変化に着目して、定常状態での温度分布と測定時の温度分布の差分温度では、対象物品の放射率の変化を無視できると考えることで、放射率の取り扱いを避けることができる。
【0032】
定常状態では、対象物品の温度は環境温度とほぼ等しいと仮定すると、図1に示す環境温度測定手段5による環境温度を定常状態の図2(A)の白い部分の物品温度とすることができる。そうすると、上記の差分温度へ環境温度Taを加算することで正味の対象物品の温度を知ることができる。
【0033】
実験には、冷却の必要がないので比較的低コストでカメラの小型化を実現できるマイクロボロメータ検出器を用いた。マイクロボロメータの検出部の材料は非量子原理によって動作する金属や半導体で、マイクロボロメータの検出部は放射エネルギーによるバルク材の状態変化として応答する(ボロメータ効果)ので量子型に比べると低感度であり、波長選択性が殆どないので平坦な波長曲線を有し、バルク故に応答速度が遅い(時定数は約12ms)という特性がある。
【0034】
図4にマイクロボロメータ検出器の素子20の構造を示す。対象物品からの熱量を受ける吸収層21としてたとえばアモルファスシリコンを用い、抵抗層電極22へ電圧を印加して温度変化に伴う吸収層21の抵抗率変化を吸収層に流れる電流変化として、読み出し回路24により処理する。吸収層21は観測窓からの熱線以外による温度変化を避けるために真空中に置かれ、読み出し回路24との間には反射層23が置かれる。吸収層の電極部22には、電極からの熱の影響を避けるために、熱遮断用の切込み26が設けられる。2次元素子としては、図4に示す検出器を2次元に並べてMEMS技術により作製する。
【0035】
図5に対象物品の温度の測定方法のフローチャートを示す。S1:測定開始。S2:環境温度Taを環境温度測定手段5により測定して記録する。S3:定常状態での2次元アレイの各素子の温度を測定して各素子について基準温度Tsを得る。S4:各素子の温度Tbを測定する。S5:放射率補正温度Tc=Tb-Tsとして求める。S6:各素子の放射率補正温度Tcを比較して最大準監視温度Tmβを算出する。S7:監視温度Tm=準監視温度Tmβ+環境温度Taを求める。監視温度Tmの時間変化で警報を発生する。S8:カウンターCpを増やす。S9:所定の値CsとCpを比較する。Cp>Csに未到達ではS4:各素子温度測定へ戻り再び各素子の温度を測定する。Cp>CsになったらCp=0としてS2:環境温度測定へ戻る。
【0036】
Csは、2次元素子すべての温度を得る処理時間を1秒とすると、約5分に1回環境温度測定にもどるために、Cs=300とする。また、環境温度測定に戻る条件として、環境温度が所定の温度、例えば1℃変化したらS2:環境温度測定へ戻るようにしても良い。
【0037】
図6を用いて、最大温度としての監視温度の求め方を説明する。各素子の温度、TA1、TA2などを図5のS5で得た後、各素子の温度を順次比較して大きい温度を準監視温度Tmβとする。全素子の比較が終わると、Tmβは、最大温度に設定されることになる。温度比較はX軸方向で繰り返してA1~A5,B1~B5のように繰り返しても良いが、A1~E1,A2~E2のようにしてもよく、全素子を比較すれば比較方向は任意である。
【0038】
図5のフローチャートのS7で得られた監視温度を用いて事前火災警報を出す仕組みを図7を用いて説明する。監視温度TmがL1のように変化する場合、監視温度が第1危険温度O1に到達した時刻をT1,さらに温度が上昇して第2監視温度へ到達した時刻がT2とする。対象物品の発火温度より若干低い温度をO3とすると、対象物品の温度がO3に到達する時刻T3は線形近似でT3=T2+(O3-O2)/(O2-O1)*(T2-T1)として推定することができる。監視温度がT2を過ぎた段階で事前火災警報を通報する。
【0039】
次に、点線で表されるL2のような監視温度の時間変化の場合は、第2危険温度O2へ監視温度が到達しないので発火温度達時刻T3は算出されず、火災警報が発生することは無いが、火災の可能性が有るとして要チェック警報を通知する。
【0040】
図8に対象物品となりうる材料の発火点を示す。梱包の紐として使われるポリプロピレンは約200℃、梱包材になるダンボールを含む紙は約300℃である。図7のO3として対象物品で最も低い発火温度の材料に合わせることが安全である。
【0041】
第1危険温度O1は、例えば定常状態での環境温度にプラス10℃を加えて設定する。第2危険温度は、警報により対応する人が対象物品の場所へ到着するに要する時間で決める。到達時間を取るためには、第1危険温度と第2危険温度の狭くすることで、温度上昇の傾斜が早期に決まるので早い時期に警報を発生することができる。ただし、第1危険温度と第2危険温度を近づけると、図7の点線で示すL2の場合の誤報が多くなるリスクが発生する。
【0042】
上記に説明した実施例は本願発明の一部であって本願発明の技術思想を含む実施の態様は本願発明の技術思想に含まれる。
【符号の説明】
【0043】
1 サーモグラフィーカメラ(温度測定手段)
2 温度処理手段
3 通報手段
4 WiFiインタフェイス
10 対象物品
20 マイクロボロメータ素子
21 吸収層
22 抵抗層電極22
23 反射層
24 読み出し回路
25 読み出し回路接続端子
26 熱遮断用切込み
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8