(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-24
(45)【発行日】2024-08-01
(54)【発明の名称】アレーアンテナ
(51)【国際特許分類】
H01Q 13/22 20060101AFI20240725BHJP
【FI】
H01Q13/22
(21)【出願番号】P 2020155836
(22)【出願日】2020-09-16
【審査請求日】2023-07-12
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【氏名又は名称】春田 洋孝
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100154852
【氏名又は名称】酒井 太一
(72)【発明者】
【氏名】廣川 二郎
【審査官】赤穂 美香
(56)【参考文献】
【文献】特表2000-513553(JP,A)
【文献】米国特許第05541612(US,A)
【文献】特開昭50-081046(JP,A)
【文献】特開2005-167755(JP,A)
【文献】特開平09-046130(JP,A)
【文献】特開平05-022025(JP,A)
【文献】米国特許第06201507(US,B1)
【文献】米国特許第05619216(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 13/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のスロットが形成されたスロット面と、前記スロット面に対向する底面と、前記スロット面の長辺と前記底面の長辺との間に形成された一対の側面と、に囲まれた導波路が形成された方形導波管を備え、
前記スロットは、前記スロット面において管軸方向における中心線に沿って直線状に配置され、
前記導波路内には、前記スロットの位置に対応して一対の前記側面側から前記スロットに近位するように前記管軸方向に沿って交互に複数の励振部が形成され
、
前記方形導波管は、前記導波路の導波方向において前記励振部に隣接して配置され、進行波の反射を抑圧する反射抑圧用壁を備え、
前記反射抑圧用壁は、前記反射抑圧用壁で生じる反射波の位相が、前記励振部で生じる反射波の位相と180度ずれる位置に配置される、
アレーアンテナ。
【請求項2】
前記方形導波管は、前記導波路において進行波を励振し、
前記励振部は、前記スロットの長手方向のいずれかの側に沿って近位する壁状に形成され、前記スロットに磁界を結合させる、
請求項1に記載のアレーアンテナ。
【請求項3】
前記方形導波管は、前記導波路において定在波を励振し、
前記励振部は、前記スロットに近位する柱状に形成され、前記スロットに磁界を結合させる、
請求項1に記載のアレーアンテナ。
【請求項4】
前記励振部は、前記底面から前記スロット面の方向に突出し前記励振部に接続された容量性壁を備える、
請求項1または
3に記載のアレーアンテナ。
【請求項5】
前記励振部は、誘導性リアクタンスを発生し、
前記容量性壁は、前記誘導性リアクタンスを相殺する容量性リアクタンスを発生するように形成されている、
請求項
4に記載のアレーアンテナ。
【請求項6】
複数の放射スロットが形成された放射板と前記放射板と平行に配置された給電板とを有する放射部と、
入力される信号電力に基づいて電磁波を導波し前記給電板を介して前記放射部に電磁波を入力する前記方形導波管を備える給電部と、を備える、請求項1から
5のうちいずれか1項に記載のアレーアンテナ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、指向性の利得を向上させるアレーアンテナに関する。
【背景技術】
【0002】
指向性の高いミリ波を放射する平面アンテナとして、アンテナ素子が平面上に多数配列されたアレーアンテナが知られている(例えば、特許文献1参照)。アレーアンテナは、主に、信号電力を分配する給電回路を備える給電部と、給電部から入力された電力に基づいて電磁波を放射する複数の放射スロットが形成された放射部とを備えている。放射部は、例えば、複数の放射スロットがマトリクス状に配置されたスロット板を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、超高速無線通信の研究開発が進められている。アレーアンテナを更なる超高速、且つ、大容量の無線通信に対応させる場合、アンテナ特性の更なる向上が求められる。
【0005】
本発明は、利得を向上することができるアレーアンテナを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、複数のスロットが形成されたスロット面と、前記スロット面に対向する底面と、前記スロット面の長辺と前記底面の長辺との間に形成された一対の側面と、に囲まれた導波路が形成された方形導波管を備え、前記スロットは、前記スロット面において管軸方向における中心線に沿って直線状に配置され、前記導波路内には、前記スロットの位置に対応して一対の前記側面側から前記スロットに近位するように前記管軸方向に沿って交互に複数の励振部が形成されている、アレーアンテナである。
【0007】
本発明によれば、方形導波管のスロット面において、複数のスロットがオフセットされずに中心線に沿って形成されているため、各スロットから放射される電磁波の位相及び振幅を等しくすることで、平行平板によって形成された放射部内における領域の電磁界分布の一様度が向上し、結果として、アンテナの利得を向上させることができる。
【0008】
本発明の前記方形導波管は、前記導波路において進行波を励振し、前記励振部は、前記スロットの長手方向のいずれかの側に沿って近位する壁状に形成され、前記スロットに磁界を結合させてもよい。
【0009】
本発明によれば、励振部が導波路内に形成されていることにより、導波路内において進行波の磁界のループを交互にオフセットして導波することができ、スロット面においてスロットがオフセットされて形成されていなくても、スロットに磁界を結合させることができる。
【0010】
本発明の前記方形導波管は、前記導波路の導波方向において、前記励振部に隣接して進行波の反射を抑圧する反射抑圧用壁を備えていてもよい。前記反射抑圧用壁は、前記反射抑圧用壁で生じる反射波の位相が、前記励振部で生じる反射波の位相と180度ずれる位置に配置されることが好ましい。
【0011】
本発明によれば、導波路内において、励振部から発生する反射波と、反射抑圧用壁によって発生する反射波とを相殺させ、導波路内において発生する反射波を抑圧することができる。
【0012】
本発明の前記方形導波管は、前記導波路において定在波を励振し、前記励振部は、前記スロットに近位する柱状に形成され、前記スロットに磁界を結合させるように構成されていてもよい。
【0013】
本発明によれば、励振部が導波路内に形成されていることにより、導波路内において定在波の磁界のループを交互にオフセットして発生させることができ、スロット面においてスロットがオフセットされて形成されていなくても、スロットに磁界を結合させることができる。
【0014】
本発明の前記励振部は、前記底面から前記スロット面の方向に突出し前記励振部に接続された容量性壁を備えていてもよい。
【0015】
本発明によれば、容量性壁が形成されていることにより、スロットにおける等価回路に示される直列インピーダンスを調整することができる。
【0016】
本発明の前記励振部は、誘導性リアクタンスを発生し、前記容量性壁は、前記誘導性リアクタンスを相殺する容量性リアクタンスを発生するように形成されていてもよい。
【0017】
本発明によれば、容量性壁が形成されていることにより容量性リアクタンスを発生させ、励振部において発生する誘導性リアクタンスを相殺することができる。
【0018】
本発明は、複数の放射スロットが形成された放射板と前記放射板と平行に配置された給電板とを有する放射部と、入力される信号電力に基づいて電磁波を導波し前記給電板を介して前記放射部に電磁波を入力する前記方形導波管を備える給電部と、を備えていてもよい。
【0019】
本発明によれば、方形導波管を給電部に適用することにより、各スロットから放射される電磁波の振幅及び位相のばらつきを抑制し、放射部において発生する電磁界強度分布のリップルを低減し、アンテナの利得を大幅に向上することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、アレーアンテナの利得を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の実施形態に係るアレーアンテナの構成を示す斜視図である。
【
図2】アレーアンテナの構成を示す分解斜視図である。
【
図4】比較例1に係る方形導波管の原理を示す図である。
【
図5】比較例2に係る方形導波管の原理を示す図である。
【
図6】比較例に係るアレーアンテナの構成を示す分解斜視図である。
【
図7】比較例に係るアレーアンテナの特性を示す図である。
【
図8】比較例3に係る方形導波管の原理を示す図である。
【
図13】変形例に係る方形導波管の構成を示す分解斜視図である。
【
図14】変形例に係る方形導波管の構成を示す平面図である。
【
図15】変形例に係る方形導波管の等価回路を示す図である。
【
図16】変形例に係る方形導波管の特性を示す図である。
【
図17】変形例に係る方形導波管の特性を示す図である。
【
図18】変形例に係る方形導波管の特性を示す図である。
【
図19】変形例に係る方形導波管のスロット長の設定方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1及び
図2に示されるように、アレーアンテナ1は、電磁波を放射する放射部2と、放射部2に給電する給電部5とを備える。アレーアンテナ1は、例えば、平行平板スロットアレーアンテナである。
【0023】
放射部2は、矩形の板状に形成された放射板3と、矩形の板状に形成された給電板4とを備える。放射板3は、一面3A側から電磁波が放射される。放射板3の他面3B側と給電板4の一面4A側とは、対向して所定距離離間して平行に配置されている。放射板3と給電板4とは、所定距離を保持する構造(不図示)により接続されている。放射板3と給電板4との間には、空間Sが形成されている。
【0024】
空間Sには、給電部5から給電板4を介して入力された電磁波によって電磁波が励振される。空間Sには、励振される電磁波の波長を調整するための樹脂などにより形成された誘電体(不図示)が挿入されていてもよい。誘電体によって放射板3と給電板4とが接続されていてもよい。給電板4の他面4B側には、給電部5が設けられている。
【0025】
放射板3には、例えば、並置されたペアとなる放射スロットH1,H2が直線状に配置された放射スロット群Hが形成されている。放射板3には、複数の放射スロット群Hが平行に配置されている。隣接する放射スロット群H同士は、1管内波長間隔で配置され、各放射スロット群Hは、同相で励振される。放射スロットH1,H2は、略矩形の開口に形成されている。放射スロットH1,H2は、開口が完全な矩形ではなく、開口の両端が半円状に形成されていてもよい。
【0026】
放射スロットH1は、長手方向に沿って直線状に配置されている。放射スロットH1に平行に隣接して放射スロットH2が形成されている。放射スロットH2は、長手方向に沿って直線状に配置されている。放射スロットH2は、放射スロットH1に対して長手方向(配置方向)に1/4管内波長分オフセットされて配置されている。放射スロット群Hにおいて、ペアとなる放射スロットH1,H2と隣接するペアとなる放射スロットH1,H2とは、配置方向に沿って1/2周期分、離間している。
【0027】
放射スロットH1は、例えば、配置方向に沿って直線状に33個形成されている。放射スロットH2は、例えば、放射スロットH1に隣接して配置方向に沿って直線状に33個形成されている。放射スロット群Hは、例えば、26列が並置して形成されている。放射スロットH1,H2の数、放射スロット群Hの数は一例であり、所望の電波強度に応じて適宜変更されてもよい。
【0028】
対向する放射板3と給電板4との間の空間Sには、給電部5により入力された電磁波によって電界が生じる。空間Sには、生じた電界に基づいて平面波の電磁波が導波される。空間Sにおいて隣接する放射スロット群Hの間に沿って、生じた電界と直交方向に磁界が発生する。隣接する放射スロット群Hの間に生じた磁界によって、放射スロット群Hにおける各放射スロットH1,H2に磁界が励振される。
【0029】
放射スロットH1に磁界が結合すると、1/4波長分遅れて放射スロットH2にも磁界が結合する。放射スロットH1に磁界が励振されると、放射スロットH2にも磁界が励振される。同様の原理によって放射スロット群Hにおける複数のペアとなる放射スロットH1,H2に磁界が励振される。これにより、複数の放射スロット群Hから同相に電磁波が放射される。
【0030】
給電板4には、給電部5が有する後述の方形導波管10に形成されたスロットSの位置に対応して複数の給電スロット4Sが形成されている。給電スロット4Sは、略矩形の開口に形成されている。給電スロット4Sは、開口が完全な矩形ではなく、開口の両端が半円状に形成されていてもよい。複数の給電スロット4Sは、長手方向に沿って直線状に配置されている。
【0031】
給電部5は、例えば、給電板4の他面4B側から電磁波を入力する方形導波管10を備える。方形導波管10は、矩形断面の筒状体に形成されている。方形導波管10は、帯状の板状に形成されたスロット面11と、スロット面11と離間して対向し配置され、帯状の板状に形成された底面12と、スロット面11の長手方向の両側の長辺と底面12の長手方向の両側の長辺に対向して配置された一対の側面13,14とを備える。側面13,14は、帯状の板状に形成されている。スロット面11、底面12、及び一対の側面13,14に囲まれて導波路Dが形成される。スロット面11は、給電板4の他面4B側と一体に形成することにより省略されてもよい。
【0032】
方形導波管10は、例えば、一端が開口し、他端が閉塞して形成されている。一端側の開口は、信号電力が入力される給電口10Kである。給電口10Kから信号電力が入力されると導波路Dにおいて電磁波が導波方向D1に導波される。方形導波管10は、例えば、導波路Dにおいて進行波を励振するように形成されている。
【0033】
方形導波管10は、両端を閉塞し、給電口を導波路Dの中心位置に設けてもよい。給電口を導波路Dの中心位置に設ける場合、電磁波は、方形導波管10の中心から両端に向かう方向に導波される。この場合、方形導波管10は、中心から両端に向かう方向に対称に後述の内部構造が形成される。方形導波管10への給電は、底面12に給電用のスロットを形成し、給電用のスロットに励振された磁界に基づいて行われてもよい。
【0034】
方形導波管10は、例えば、金属の板状体等の導体によって形成されている。方形導波管10は、樹脂によって形成され、導波路Dに面する壁面が金属メッキで覆われて形成されていてもよい。導波路Dの導波方向D1は、給電口10Kの位置によって適宜設定される。
【0035】
図3に示されるように、方形導波管10は、図示される単位が管軸L方向に沿って連続して形成される。スロット面11は、複数のスロットS1,S2が管軸方向に沿って列状に形成されている。スロットS1,S2は、矩形の開口に形成されている。スロットS1,S2は、スロット面11において管軸L方向における中心線Cに沿って配置されている。スロットS1とスロットS2、スロットS2とさらに先のスロットS1の間隔は方形導波管10の管内波長の半分である。
【0036】
導波路D内において、一対の側面13,14側には、各スロットS1,S2の位置に対応して複数の励振部15,16が形成されている。励振部15は、例えば、側面13側からスロットS1側に突出する矩形の柱状体に形成されている。励振部16は、例えば、励振部15と管軸Lに関して対称に形成されている。励振部16は、側面14側から各スロットS2側に突出する矩形の柱状体に形成されている。各励振部15,16は、各スロットに近位するように管軸方向に沿って一対の側面13,14側に交互に配置されている。各励振部15,16は、スロット面11と、底面12との間を接続している。
【0037】
各励振部15,16は、各スロットS1,S2のいずれかの長手方向の側に沿って近位する壁状となるように配置されている。各励振部15,16は、側面13,14から分離されて柱状に形成されていてもよいし、スロット面11と底面12との間が中空に形成された筒状や板状に形成されていてもよい。
【0038】
導波路Dの導波方向D1において、各励振部15,16における上流側に隣接して、進行波の反射を抑圧する複数の反射抑圧用壁17,18がそれぞれ形成されている。各反射抑圧用壁17,18は、導波路Dの断面においていずれかの側面側の一部を閉塞するように矩形の板状に形成されている。各反射抑圧用壁17,18は、スロット面11と、底面12との間を接続している。
【0039】
次に、方形導波管10の動作原理について説明する。
【0040】
図4に示されるように、比較例1に係る方形導波管40は、スロット面において管軸40L方向に沿った中心線40Cに関して複数のスロット40Sが交互にオフセットされて形成されている。方形導波管40は、従来、アレーアンテナの放射部への給電用に用いられる場合がある。
【0041】
比較例1に係る方形導波管40の導波路40Dには、ある時点において管軸方向40Lに沿って1/2管内波長λg分の磁界のループG1,G2が隣接して発生する。磁界のループG1,G2において、磁界のベクトル方向は交互に反対方向である。磁界のループG1,G2は、交流磁界であり、導波された電磁波の進行に伴って反転し入れ替わる。
【0042】
例えば、方形導波管40から電磁波を放射するために、複数のスロット40Sを管軸方向における中心線40Cに対して交互に傾き方向を反転させて形成する。方形導波管40において隣接するスロット40S同士は、例えば、管軸40L方向における中心線40Cに対して長手方向の傾きが交互に反対方向となるように形成される。複数のスロット40Sは、磁界のループG1,G2の発生位置に対応して配置される。スロット40Sにおいて磁界が結合して長手方向に沿った方向の磁界が生じる。スロット40Sにおける磁界の方向は、導波路40Dにおいて導波方向40D1導波された電磁波の進行に伴って入れ替わる磁界のループG1,G2の磁界のベクトルに従って反転する。
【0043】
図5に示されるように、比較例2に係る方形導波管50において、複数のスロット50Sは、スロット面において管軸50Lに関して交互にオフセットされて配置されている。複数のスロット50Sは、管軸50Lの方向に沿って形成されている。複数のスロット50Sは、磁界のループG1,G2の発生位置に対応して配置される。スロット50Sにおいて磁界が結合して長手方向に沿った方向の磁界が生じる。スロット50Sにおける磁界の方向は、導波路50Dにおいて導波方向50D1導波された電磁波の進行に伴って入れ替わる磁界のループG1,G2の磁界のベクトルに従って反転する。
【0044】
図6に示されるように、比較例に係るアレーアンテナ100は、平行平板により形成された放射部20と、方形導波管40により形成された給電部30とを備える。放射部20は、アレーアンテナ1における放射部2と同様の構成を備える。給電部30は、例えば、比較例1に係る方形導波管40により形成されている。方形導波管40は、中央部から給電されるように給電導波管40Qが設けられている。
【0045】
放射部20は、放射板21と給電板22とを備える。放射板21には、放射部2と同様に複数の放射スロット群H(
図1参照)が形成されている。給電板22には、方形導波管40の複数のスロット40Sの位置に対応して複数の給電スロット22Sが形成されている。
【0046】
図7に示されるように、方形導波管40から平行平板により形成された放射部20に電磁波を導波する場合、複数のスロット40Sにおける隣接するスロット40S同士の傾いている方向が互いに逆になっているため、放射部20内において導波される電磁波には、2次元的に振幅のリップルが生じる。このため、放射板21の複数の放射スロットから放射される電磁波の強度が一様でなくなり、アンテナの利得が低下する。給電部30において、比較例に係る方形導波管50を適用した場合も同様に、放射部20内において導波される電磁波に、隣接するスロット50Sの
図5の左右方向の位置がずれているために2次元的に振幅のリップルが生じ、アンテナの利得が低下する。従って、方形導波管により形成された給電部によって平行平板の放射部に電磁波を入力する場合、複数のスロットから放射される電磁波の位相及び振幅は、等しいことが望ましい。
【0047】
図8に示されるように、比較例3に係る方形導波管60のスロット面において、複数のスロット60Sを導波路60Dにおいて管軸60Lに関してオフセットして配置せずに、管軸L方向における中心線60Cに沿って形成する。この場合、導波路60D内に発生する磁界に対してスロット60Sの長手方向が直交し、スロット60Sに磁界が結合しない。
【0048】
図9に示されるように、方形導波管10の導波路Dにおいて、側面13,14からスロットS1,S2に向かって近位するように壁状の励振部15,16を中心線Cに関して対称に形成する。この場合、導波路D内の磁界は、スロットS1,S2の長手方向に沿った励振部15,16の壁面を避けるように発生する。そうすると、励振部15,16の壁面に沿った磁界によってスロットS1,S2に磁界が結合する。
【0049】
励振部15,16は、導波方向に対する位置、壁面の長さ、スロットS1,S2と壁面との間の距離を調整して形成される。これにより、スロットS1,S2に励振される磁界の強度が調整される。導波路Dにおいて励振部15,16を設けると、導波方向D1に対して反対方向に、励振部15,16に反射した第1反射波R1,R2が発生する。第1反射波R1,R2には、スロットS1,S2から生じた反射波も含まれる。
【0050】
図10に示されるように、励振部15,16が形成されていない状態の導波路D内に反射抑圧用壁17,18を形成した場合、導波方向D1と反対方向に反射抑圧用壁17,18において反射した第2反射波R3,R4が生じる。第2反射波は、隣接する反射抑圧用壁の位置、大きさによって強度、振幅、位相が調整される。
【0051】
図11に示されるように、方形導波管10の導波路Dにおいて、励振部15,16の導波方向D1の上流側に反射抑圧用壁17,18を形成する。方形導波管10の導波路Dにおいて、上流側から反射された第2反射波は、反射抑圧用壁17,18の下流側の位置において、励振部15,16から発生した第1反射波と位相が180度ずれるように調整される。これにより、反射抑圧用壁17,18の下流側において、第1反射波と第2反射波とは相殺され、導波路Dにおいて反射波が
抑圧される。
【0052】
上記構成によって、方形導波管10内の導波路Dにおいては、磁界のループG1,G2が管軸L方向に関して交互にオフセットされて発生する。これにより、方形導波管10の複数のスロットSには磁界が結合し、電磁波を放射することができる。方形導波管10においては、スロットSがスロット面11の中心線Cに沿って形成されているため、複数のスロットSから同じ振幅、同じタイミングで電磁波が放射される。アレーアンテナ1の給電部5に方形導波管10を適用すると、放射部2内に電磁波が同位相、同振幅により入力される。
【0053】
図12に示されるように、アレーアンテナ1によれば、放射部2内において2次元的な振幅のリップルが低減される。この結果、アレーアンテナ1によれば、放射部2における振幅のリップルは、スロットがオフセットされた方形導波管が給電部に適用された比較例に係るアレーアンテナに比して低減される。アレーアンテナ1によれば、9.65GHzにおけるアレーアンテナ1の磁界分布の指向性利得は、37.2dBiであり、開口効率は90.5%である。
【0054】
これに比して、比較例に係るアレーアンテナ100(
図6参照)の放射部20の磁界分布の指向性利得は、36.0dBiであり、開口効率は67.5%である。アレーアンテナ1によれば、従来用いられていた方形導波管を適用した給電部を有するアレーアンテナに比して、アンテナ特性を大幅に向上させることができる。
【0055】
[変形例]
上記実施形態においては、方形導波管10は、進行波を導波するものとして構成されていた。変形例に係る方形導波管10Aは、定在波を導波するように構成されている。そして、方形導波管10Aを適用してアレーアンテナ1Aが構成される。以下の説明では、上記実施形態と同一の構成については同一名称、符号を用い、重複する説明は適宜省略する。
【0056】
図13及び
図14に示されるように、方形導波管10Aにおいて励振部P1,P2は、例えば、スロットS1,S2に近位する円形断面を有する少なくとも1つの柱状に形成されている。励振部P1,P2は、スロットS1,S2の長手方向に沿って2つ以上並置されて形成されていてもよい。
【0057】
励振部P1,P2は、一つの柱状に形成されている場合、スロットS1,S2における長手方向の中心位置に形成されている。励振部P1,P2は、円形断面以外の柱状に形成されていてもよく、スロット面11と底面12との間が中空の筒状に形成されていてもよい。励振部P1,P2は、底面12からスロット面11の方向に突出した容量性壁Q1,Q2を備える。励振部15Aは、側面13に連続して形成されていてもよい。同様に、励振部16Aは、側面14に連続して形成されていてもよい。
【0058】
方形導波管10Aは、導波路Dにおいて定在波を励振するように形成されている。上記の方形導波管10においては、進行波を導波し、各反射抑圧用壁17,18において各励振部15,16における反射を
抑圧していた(
図9から
図11参照)。変形例に係る方形導波管10Aは、定在波を導波し、後述の等価回路による回路設計において導波路Dにおいて全体的に反射波を
抑圧する状態を形成する。
【0059】
図15には、方形導波管10AのT型の等価回路Tが示されている。複数のスロットSn(nは、自然数)がスロット面11の中心線Cに沿って配置された方形導波管10Aを複数の励振部Pnによって励振した場合、方形導波管10Aは、T型の等価回路Tによって示される。等価回路Tは、スロット面11における直列インピーダンスZ1,Z2と、直列インピーダンスZ1,Z2の間に接続され、スロット面11と底面との間を接続する並列アドミッタンスY3とにより示される。n個の各スロットSnにおける等価回路Tは、例えば、各スロットSnに対応する直列インピーダンスZ1n,Z2n、及び並列アドミッタンスY3nの各パラメータによって示される。
【0060】
n個のスロットSnにおける等価回路は、各スロットSnに対応する等価回路Tを連結して示される。直列インピーダンスZ1n,Z2nが0(ゼロ)である場合、並列アドミッタンスY3nの和は、各並列アドミッタンスの総和が1となるように設定される。この場合、各スロットSnの並列アドミッタンスは、1/nである。
【0061】
直列インピーダンスZ1n,Z2nがゼロでない場合、複雑な行列計算を行い、直列インピーダンスZ1n,Z2n、及び並列アドミッタンスY3nを含む各パラメータを決定する必要がある。そこで、方形導波管10Aにおいては、形状を調整することによって、等価回路Tにおける直列インピーダンスZ1n,Z2nを0にするように形成される。
【0062】
図16は、等価回路Tにおける並列アドミッタンスY3の実部を示す。スロットSnにおける励振部Pnに加わる電圧に応じてスロットSから放射される電磁波に対応した値を示す。図示するように、スロットSnから放射される電磁波は、スロットSnにおける柱状の励振部Pnの径が増加するほど増加し、個数が増加するほど増加する。
【0063】
図17は、等価回路Tにおける並列アドミッタンスY3の虚部を示す。図示するように、並列アドミッタンスY3の虚部は、励振部Pnの径を増加させても負の値を示すと共に、励振部Pnの数を増加させても負の値を示す。並列アドミッタンスY3の虚部は、正の値のインピーダンスを有することを意味し、誘導性であることを示す。スロットSnに対応する励振部Pnは、スロット面11と底面12との間に電流を発生し、この電流によって生じる磁界の影響により誘導性リアクタンスを発生する。
【0064】
図18は、直列インピーダンスZ1,Z2の虚部を示す。図示するように、直列インピーダンスZ1n,Z2nの虚部は、励振部Pnが1本設けられている場合は0を示す。直列インピーダンスZ1n,Z2nは、励振部Pnが2本以上設けられている場合、励振部Pnの径を増加させても負の値を示すと共に、励振部Pnの数を増加させても負の値を示し、容量性であることを示す。従って、励振部Pnは、1本であることが設計を容易にする。
【0065】
容量性壁Qnは、例えば、スロット面11と底面12との間の距離を短くするように形成されている。容量性壁Qnは、例えば、励振部Pnの径と略同じ厚みに形成されている。上記構成により、容量性壁Qnは、容量性壁Qnが無い状態に比してスロット面11と底面12との間に生じる電界の強度を高め、容量性リアクタンスを発生するように形成されている。上述したように、励振部Pnは、誘導性リアクタンスを発生する。容量性壁Qnは、励振部Pnにおいて発生した誘導性リアクタンスを相殺するような容量性リアクタンスを発生するように形成されている。
【0066】
上記構成により、方形導波管10Aは、等価回路Tにおける直列インピーダンスZ1,Z2を0とすることができる。方形導波管10Aによれば、複数の等価回路Tが接続された並列アドミッタンスY3の総和を1とするように設計することができ、設計が容易となる。上述のように、方形導波管10Aの全体の等価回路は、各スロットSnに対応する個別の等価回路Tを複数個接続して示される。
【0067】
図19は、例えば、等価回路Tを4つ接続した場合(n=4)における方形導波管10Aにおいて、スロットSnの長さを変化させた際における、並列アドミッタンスY3の実部の変化と、並列アドミッタンスY3の虚部の変化とを示している。
【0068】
上記構成により、方形導波管10Aは、等価回路Tにおける直列インピーダンスZ1,Z2が0である。そのため、上述したように、並列アドミッタンスY3の和は、各並列アドミッタンスの総和が1となるように設定される。従って、スロットSnにおけるスロット長は、全体の等価回路における並列アドミッタンスの虚部を0とすると共に、並列アドミッタンスの実部の総和を1とするように設定されている。上記例においては、等価回路Tにおける並列アドミッタンスY3の実部が1/4=0.25であり、等価回路Tにおける並列アドミッタンスY3の虚部が0である交点におけるスロット長が設定される。上述した方形導波管10Aは、放射部2(
図1参照)に適用し、アレーアンテナを構成することができる。
【0069】
上述したように、方形導波管10Aは、スロット面11において中心線Cに沿って複数のスロットSnが形成され、アレーアンテナに適用することにより、アンテナ特性を大幅に向上させることができる(
図12参照)。方形導波管10Aによれば、励振部Pnに容量性壁Qnが設けられていることにより、導波路Dにおいて定在波を導波した際に生じる反射波を
抑圧することができる。
【0070】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。例えば、上記実施形態においては、方形導波管を給電部に適用するアレーアンテナを例示した。方形導波管は、放射部として用いてもよい。方形導波管は、複数個を並置して放射部を形成することで、導波管スロットアレーアンテナを形成してもよい。
【符号の説明】
【0071】
1、1A アレーアンテナ、2 放射部、3 放射板、4 給電板、4S 給電スロット、5 給電部、10、10A 方形導波管、10K 給電口、11 スロット面、12 底面、13 側面、14 側面、15、15A、16、16A 励振部、17、18 反射抑圧用壁、20 放射部、21 放射板、22 給電板、22S 給電スロット、30 給電部、40 方形導波管、40Q 給電導波管、40S スロット、50 方形導波管、50D 導波路、50S スロット、60 方形導波管、60D 導波路、60S スロット、100 アレーアンテナ、D 導波路、H 放射スロット群、H1 放射スロット、H2 放射スロット、P1 励振部、P2 励振部、Pn 励振部、Q1 容量性壁、Q2 容量性壁、Qn 容量性壁、S スロット、S1 スロット、S2 スロット、Sn スロット、T 等価回路