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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-24
(45)【発行日】2024-08-01
(54)【発明の名称】水性貼付剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 9/70 20060101AFI20240725BHJP
   A61K 47/44 20170101ALI20240725BHJP
   A61K 47/04 20060101ALI20240725BHJP
   A61K 31/045 20060101ALI20240725BHJP
   A61K 31/167 20060101ALI20240725BHJP
   A61P 23/02 20060101ALI20240725BHJP
   A61P 25/02 20060101ALI20240725BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20240725BHJP
【FI】
A61K9/70 405
A61K47/44
A61K47/04
A61K31/045
A61K31/167
A61P23/02
A61P25/02
A61P29/00
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021528204
(86)(22)【出願日】2020-06-15
(86)【国際出願番号】 JP2020023346
(87)【国際公開番号】W WO2020262057
(87)【国際公開日】2020-12-30
【審査請求日】2023-03-10
(31)【優先権主張番号】P 2019116551
(32)【優先日】2019-06-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000215958
【氏名又は名称】帝國製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】稲付 昌弘
【審査官】辰己 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/191293(WO,A1)
【文献】特開昭63-222113(JP,A)
【文献】特開2002-154950(JP,A)
【文献】特開2007-039451(JP,A)
【文献】特開2014-152172(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K9/00-9/72
A61K31/00-33/44
A61K47/00-47/69
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
膏体中に、薬物、
l-メントール:0.5質量%以上、10質量%以下、
油分:0.2質量%以上、19質量%以下、及び
シリカ:0.1質量%以上、5.5質量%以下を含有し、
前記薬物は、局所麻酔薬及びその薬学的に許容される塩よりなる群から選ばれる少なくとも1種であり、
前記油分の質量に対する、前記薬物の質量と前記l-メントールの質量の合計の割合は0.30以上、12以下であることを特徴とする水性貼付剤。
【請求項2】
前記膏体中、前記薬物の含量は0.5質量%以上、10質量%以下である請求項1に記載の水性貼付剤。
【請求項3】
前記薬物は、リドカイン及びその薬学的に許容される塩よりなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1または2に記載の水性貼付剤。
【請求項4】
前記油分の質量に対する前記シリカの質量の割合は0.06以上である請求項1~のいずれかに記載の水性貼付剤。
【請求項5】
前記膏体中に、更に水溶性高分子材料を含み、前記油分の質量に対する前記水溶性高分子材料の質量の割合は0.65以上である請求項1~のいずれかに記載の水性貼付剤。
【請求項6】
前記シリカは、JIS Z 8830に規定する比表面積測定方法により測定される比表面積が30m/g以上、420m/g以下の粉体である請求項1~のいずれかに記載の水性貼付剤。
【請求項7】
前記油分は、植物油、動物油、炭化水素、脂肪酸、脂肪酸エステル、シリコンオイル、高分子量ポリエチレングリコール、クロタミトン、ディート、及びトコフェロール酢酸エステルよりなる群から選択される少なくとも1種である請求項1~のいずれかに記載の水性貼付剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、l-メントールを含有する水性貼付剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来メントールは、局所麻酔剤や抗炎症薬を含む外用剤中等に清涼化剤として配合されていた。例えば市販の製剤の場合、メントールは製剤中に約1質量%以下の割合で配合されていた。
【0003】
このようなメントール含有の外用剤は種々知られている。例えば特許文献1では、l-メントールが0.75質量%の割合で配合されたリドカインを含有する含水系の膝関節痛・五十肩等の治療用貼付剤が開示されている。また特許文献2には、l-メントールが0.5質量%の割合で配合されたフェルビナク含有パップ剤が開示されている。更に特許文献3には、メントールが約4重量%~16重量%の割合で配合された経皮投与形の製剤が開示されている。特許文献4には、l-メントール又はハッカ油が0.1~4重量%の割合で配合された貼付剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2001-302501号公報
【文献】特開2005-179312号公報
【文献】特開昭60-152413号公報
【文献】特開平5-310598号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の通り、これまでにl-メントールを含有する種々の水性貼付剤が知られているが、l-メントールは水性基剤に対する溶解性が低いものであるため、従来の水性貼付剤ではl-メントールの結晶が析出するおそれがあった。本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、水性貼付剤としての基本物性が低下し難く、且つl-メントールの結晶が析出し難い水性貼付剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決することのできた本発明に係る水性貼付剤は、以下の構成からなる。
[1]膏体中に、l(エル)-メントール:0.5質量%以上、10質量%以下、
油分:0.2質量%以上、19質量%以下、及び
シリカ:0.1質量%以上、5.5質量%以下を含有することを特徴とする水性貼付剤。
[2]上記膏体中に、更に薬物:0.5質量%以上、10質量%以下を含有し、
上記薬物は、局所麻酔薬及びその薬学的に許容される塩よりなる群から選ばれる少なくとも1種である[1]に記載の水性貼付剤。
[3]上記油分の質量に対する、上記薬物の質量と上記l-メントールの質量の合計の割合は0.10以上、12以下である[2]に記載の水性貼付剤。
[4]上記膏体中に、薬物:0.3質量%以上、5質量%以下を含有し、
上記薬物は、抗炎症薬及びその薬学的に許容される塩よりなる群から選ばれる少なくとも1種である[1]に記載の水性貼付剤。
[5]上記油分の質量に対する、上記薬物の質量と上記l-メントールの質量の合計の割合は0.10以上、6以下である[4]に記載の水性貼付剤。
[6]上記油分の質量に対する上記シリカの質量の割合は0.06以上である[1]~[5]のいずれかに記載の水性貼付剤。
[7]上記膏体中に、更に水溶性高分子材料を含み、上記油分の質量に対する上記水溶性高分子材料の質量の割合は0.65以上である[1]~[6]のいずれかに記載の水性貼付剤。
[8]上記シリカは、JIS Z 8830に規定する比表面積測定方法により測定される比表面積が30m/g以上、420m/g以下の粉体である[1]~[7]のいずれかに記載の水性貼付剤。
[9]上記油分は、植物油、動物油、炭化水素、脂肪酸、脂肪酸エステル、シリコンオイル、高分子量ポリエチレングリコール、クロタミトン、ディート、及びビタミンE誘導体よりなる群から選択される少なくとも1種である[1]~[8]のいずれかに記載の水性貼付剤。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、上記構成により、水性貼付剤としての基本物性が低下し難く、且つl-メントールの結晶が析出し難い水性貼付剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の水性貼付剤は、膏体中に、l-メントール:0.5質量%以上、10質量%以下、油分:0.2質量%以上、19質量%以下、及びシリカ:0.1質量%以上、5.5質量%以下を含有するものである。
【0009】
まず本発明者は、水性の膏体において、所定量のl-メントールに対して、所定量の油分を配合することにより、l-メントールの結晶が析出し難くなることを見出した。一方、水性の膏体中に油分を配合すると、製造時に基布から膏体が裏抜けしてしまったり、長期保存後に乳化が崩れて基布から油分が染み出してしまって、保形性、粘着性が低下してしまう場合があることが分かった。このような問題に対して本発明者は、鋭意検討した結果、水性の膏体中に所定量のシリカを配合すれば、油分の染み出しを低減することができ、更には保形性、粘着性を維持することができることを見出した。即ち、本発明の水性貼付剤によれば、水性貼付剤としての基本物性である膏体の保形性、粘着性を有しながら、比較的高濃度のl-メントールを長期間に渡って溶解状態で維持することができる。
【0010】
以下では本発明の水性貼付剤を構成する各成分について詳細を説明する。
【0011】
[l-メントール]
l-メントールを膏体中に含有させることにより、鎮痛性、局所麻酔性、止痒性等の効果が発揮される。l-メントールを配合するに当たっては、ハッカ油、ミント油、またはl-メントールを含有する香料等の形態で配合してもよい。なおハッカ油、ミント油等の形態でl-メントールが配合される場合には、l-メントールの含量は、含有されているl-メントールの含量に基づいて算出することができる。
【0012】
膏体中、l-メントールの含量は0.5質量%以上、10質量%以下である。l-メントールの含量が0.5質量%以上であることにより、鎮痛性、局所麻酔性、止痒性等の効果が発揮され易くなる。更に、l-メントールによる薬物の皮膚透過性の向上機能が発揮され易くなる。l-メントールの含量は、好ましくは1.0質量%以上、より好ましくは2.0質量%以上、更に好ましくは2.5質量%以上、更により好ましくは3.5質量%以上、特に好ましくは4.0質量%以上である。一方、l-メントールの含量が10質量%以下であることにより、l-メントールの結晶が析出し難くなる。更に膏体が均一になって粘着力が向上し易くなる。l-メントールの含量は、好ましくは8.5質量%以下、より好ましくは7.0質量%以下、更に好ましくは6.0質量%以下、更により好ましくは5.5質量%以下、特に好ましくは5.0質量%以下である。
【0013】
[油分]
油分は、植物油、動物油、炭化水素、脂肪酸、脂肪酸エステル、シリコンオイル、高分子量ポリエチレングリコール、クロタミトン、ディート、及びビタミンE誘導体よりなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。これらは、それぞれ単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。なお高分子量ポリエチレングリコールとは、重量平均分子量が1000以上のポリエチレングリコールを意味する。更に油分は、植物油、炭化水素、脂肪酸、脂肪酸エステル、クロタミトン、及びビタミンE誘導体よりなる群から選択される少なくとも1種であることがより好ましく、植物油、脂肪酸、及び脂肪酸エステルよりなる群から選択される少なくとも1種であることが更に好ましく、植物油、及び脂肪酸エステルよりなる群から選択される少なくとも1種であることが特に好ましい。これらの油分を配合することによりl-メントールが溶解し易くなり、比較的高濃度のl-メントールが膏体中に配合されていても、長時間に渡ってl-メントールの結晶析出を抑制し易くすることができる。
【0014】
植物油としては、トウモロコシ油、ゴマ油、オリブ油、アルモンド油、ラッカセイ油、ナタネ油、ダイズ油等が挙げられる。これらは、それぞれ単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0015】
動物油としては、スクワレン、スクワランが挙げられる。これらは、それぞれ単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0016】
炭化水素としては、流動パラフィン、ポリブテン、ポリイソプレン等が挙げられる。これらは、それぞれ単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0017】
脂肪酸としては、イソステアリン酸、オレイン酸、パルミチン酸等が挙げられる。これらは、それぞれ単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0018】
脂肪酸エステルとしては、ミリスチン酸イソプロピル、ひまし油等のグリセリン脂肪酸エステル、ソルビトール脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル等が挙げられる。これらは、それぞれ単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0019】
ビタミンE誘導体としては、トコフェロール酢酸エステル等が挙げられる。
【0020】
膏体中、油分の含量は0.2質量%以上、19質量%以下である。油分の含量が0.2質量%以上であることにより、配合時に高濃度のl-メントールが溶解され易くなると共に、経時的なl-メントールの結晶の析出を防止し易くすることができる。そのため油分の含量は好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1.0質量%以上、更に好ましくは2.0質量%以上、更により好ましくは3.0質量%以上、特に好ましくは4.0質量%以上である。一方、油分の含量が19質量%以下であることにより、基布から油分が染み出し難くなり、膏体の保形性を向上し易くすることができる。そのため、油分の含量は好ましくは17質量%以下、より好ましくは15質量%以下、更に好ましくは13質量%以下、更により好ましくは10質量%以下、特に好ましくは8質量%以下である。
【0021】
油分は、JIS Z 8803の細管粘度計を用いた粘度計測定方法により測定される20℃における粘度が15mPa・s以上、2000mPa・s以下であることが好ましく、30mPa・s以上、1500mPa・s以下であることがより好ましく、50mPa・s以上、1000mPa・s以下であることが更に好ましい。これにより、l-メントールの結晶の析出の防止と、膏体の保形性の向上を両立し易くすることができる。
【0022】
膏体中、l-メントールの質量に対する油分の質量の割合(油分の質量/l-メントールの質量)は、好ましくは0.5以上、19以下である。上記割合が0.5以上であることにより、l-メントールの結晶が析出し難くなり、更に薬物の皮膚透過性が向上し易くなる。そのため、上記割合は、より好ましくは1.0以上、更に好ましくは1.2以上である。一方、上記割合が19以下であることにより、基布から油分が染み出し難くなる。そのため、上記割合は、より好ましくは15以下、更に好ましくは10以下、更により好ましくは5以下、特に好ましくは3以下である。
【0023】
[シリカ]
シリカとしては、軽質シリカが挙げられる。軽質シリカとしては、日本薬局方に「軽質無水ケイ酸」として記載されているものを用いることができる。
【0024】
シリカは、JIS Z 8830に規定する比表面積測定方法により測定される比表面積が30m/g以上、420m/g以下の粉体であることが好ましい。シリカの比表面積が30m/g以上であることにより、膏体の染み出しを防止し易くすることができる。そのためシリカの比表面積は、より好ましくは50m/g以上、更に好ましくは100m/g以上である。一方、シリカの比表面積が420m/g以下であることにより二次凝集を防止しやすくできる。そのためシリカの比表面積は、より好ましくは400m/g以下、更に好ましくは380m/g以下である。なおシリカは、表面が疎水性であってもよいが、表面が親水性である方が好ましい。
【0025】
膏体中、シリカの含量は0.1質量%以上、5.5質量%以下である。シリカの含量が0.1質量%以上であることにより、膏体の染み出しを防止し易くすることができる。そのため、シリカの含量は、好ましくは0.3質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、更に好ましくは0.8質量%以上である。一方、シリカの含量が5.5質量%以下であることにより、シリカが水分を吸収し過ぎたり、凝集したりすることによる膏体の粘着性の低下を防止し易くすることができる。そのため、シリカの含量は、好ましくは5.0質量%以下、より好ましくは3.5質量%以下、更に好ましくは2.5質量%以下、更により好ましくは2.0質量%以下である。
【0026】
油分の質量に対するシリカの質量の割合(シリカの質量/油分の質量)は0.06以上であることが好ましい。これにより膏体の染み出しを防止し易くすることができる。また膏体の粘着性が向上し易くなる。一方、上記割合が5以下であることにより、シリカが水分を吸収し過ぎることによる膏体の粘着性の低下を防止し易くすることができ、膏体の粘着性が向上し易くなる。そのため上記割合は、好ましくは5以下、より好ましくは4以下、更に好ましくは3以下、更により好ましくは2以下である。
【0027】
膏体中、水の含量は、好ましくは10質量%以上、75質量%以下、より好ましくは20質量%以上、70質量%以下、更に好ましくは30質量%以上、65質量%以下である。
【0028】
[その他の成分]
膏体中には、その他に、薬物、水溶性高分子材料、粘着増強剤、架橋剤、保湿剤、pH調整剤、抗酸化剤、粘着付与樹脂、無機粉末、安定化剤、精製水等を配合することができる。これらは、それぞれ単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0029】
[薬物]
薬物は、局所麻酔薬及びその薬学的に許容される塩よりなる群から選ばれる少なくとも1種(以下では、単に局所麻酔薬と呼ぶ場合がある)であることが好ましい。
【0030】
薬物が局所麻酔薬である場合、膏体中、薬物の含量は0.5質量%以上、10質量%以下であることが好ましい。薬物の含量が0.5質量%以上であることにより、薬物の薬効が発揮され易くなる。そのため薬物の含量は、より好ましくは0.7質量%以上、更に好ましくは1.0質量%以上、更により好ましくは2.0質量%以上、特に好ましくは2.5質量%以上である。一方、薬物の含量が10質量%以下であることにより、薬物の析出物が生じ難くなるため、薬物の経皮吸収性が向上し易くなる。そのため薬物の含量は、より好ましくは8質量%以下、更に好ましくは6質量%以下、更により好ましくは5質量%以下である。
【0031】
薬物が局所麻酔薬である場合、油分の質量に対する、薬物の質量とl-メントールの質量の合計の割合[(薬物の質量+l-メントールの質量)/油分の質量]は0.10以上、12以下であることが好ましい。上記割合が12以下であることにより、薬物とl-メントールの溶解性が向上するため、膏体中の析出物の発生を防止し易くすることができる。そのため上記割合は、より好ましくは10以下である。一方、上記割合が0.10以上であることにより、油分が多すぎることによる保形性、粘着性の低下を防止し易くすることができる。そのため上記割合は、より好ましくは0.30以上である。
【0032】
局所麻酔薬としては、リドカイン、メピバカイン、ジブカイン、ブピバカイン、ロピバカイン、レボブピバカイン、テトラカイン等が挙げられる。これらは、それぞれ単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。薬学的に許容される塩としては、特に限定されないが、塩酸塩、リン酸塩、酢酸塩、乳酸塩、酒石酸塩等が挙げられる。これらは、それぞれ単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0033】
薬物は、抗炎症薬及びその薬学的に許容される塩よりなる群から選ばれる少なくとも1種(以下では、単に抗炎症薬と呼ぶ場合がある)であることも好ましい。
【0034】
薬物が抗炎症薬である場合、膏体中、薬物の含量は0.3質量%以上、5質量%以下であることが好ましい。薬物の含量が0.3質量%以上であることにより、薬物の薬効が発揮され易くなる。そのため薬物の含量は、より好ましくは0.5質量%以上、更に好ましくは0.7質量%以上である。一方、薬物の含量が5質量%以下であることにより、薬物の析出物が生じ難くなる。そのため薬物の含量は、より好ましくは4質量%以下、更に好ましくは3質量%以下である。
【0035】
薬物が抗炎症薬である場合、油分の質量に対する、薬物の質量とl-メントールの質量の合計の割合[(薬物の質量+l-メントールの質量)/油分の質量]は0.10以上、6以下であることが好ましい。上記割合が6以下であることにより、薬物とl-メントールの溶解性が向上するため、膏体中の析出物の発生を防止し易くすることができる。そのため上記割合は、より好ましくは4以下であり、更に好ましくは3以下である。一方、上記割合が0.10以上であることにより、油分が多すぎることによる保形性、粘着性の低下を防止し易くすることができる。
【0036】
抗炎症薬としては、ロキソプロフェン、ケトプロフェン、インドメタシン、フルルビプロフェン、イブプロフェン、ザルトプロフェン、フェンブフェン、プラノプロフェン、ピロキシカム、メロキシカム、フェルビナク、ジクロフェナク、サリチル酸メチル、サリチル酸グリコール等が挙げられる。これらは、それぞれ単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。薬学的に許容される塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩のようなアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩のようなアルカリ土類金属塩等が挙げられる。これらは、それぞれ単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0037】
[水溶性高分子材料]
膏体は、更に水溶性高分子材料(以下では単に水溶性高分子と呼ぶ場合がある)を含むことが好ましい。水溶性高分子は、水に溶解して増粘機能を発揮することができる。更に架橋剤を用いて架橋体を形成することにより膏体の粘着力を高めることができる。このような水溶性高分子の増粘機能や粘着性により、膏体の保形性を維持し易くすることができる。
【0038】
膏体中、水溶性高分子の含量は2質量%以上、20質量%以下であることが好ましい。水溶性高分子の含量が2質量%以上であることにより、水溶性高分子の上記効果が発揮され易くなる。そのため水溶性高分子の含量は、より好ましくは3質量%以上、更に好ましくは5質量%以上である。一方、水溶性高分子の含量が20質量%以下であることにより、水溶性高分子は溶解し易くなるため、膏体が均一になって保形性を一定に保ち易くすることができる。そのため水溶性高分子の含量は、より好ましくは17質量%以下、更に好ましくは15質量%以下である。
【0039】
油分の質量に対する水溶性高分子の質量の割合(水溶性高分子の質量/油分の質量)は0.65以上であることが好ましい。これにより油分の粘着面における油浮きを防止し易くすることができ、水溶性高分子の粘着性が発揮されやすくなる。一方、上記割合の上限は特に限定されないが、例えば25以下であってもよく、17以下であってもよく、10以下であってもよく、5以下であってもよい。
【0040】
水溶性高分子は、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸の塩類、セルロース誘導体、ポリビニルアルコール、カルボキシビニルポリマー、及びゼラチンよりなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸の塩類、及びセルロース誘導体よりなる群から選択される少なくとも1種であることがより好ましい。これらは、それぞれ単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0041】
ポリアクリル酸とポリアクリル酸の塩類は、水に溶解して増粘性を発揮する。更に架橋剤により架橋体を形成させて膏体の粘着力を高めることもできる。これらの例としては、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリル酸部分中和物等が挙げられる。これらは、それぞれ単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0042】
セルロース誘導体は、水に溶解して増粘性を発揮する。更に膏体の保形性を制御する機能も発揮する。セルロース誘導体として、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース等が挙げられる。このうち特にカルボキシメチルセルロースナトリウムが好ましい。これらは、それぞれ単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0043】
[粘着増強剤]
粘着増強剤としては、アクリル酸メチル・アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸エステル・メタクリル酸エステル、メタクリル酸・アクリル酸n-ブチルコポリマー等の(メタ)アクリル酸系水性樹脂エマルジョンが挙げられる。膏体中において(メタ)アクリル酸系水性樹脂エマルジョンは油分と相性がよく、粘着性を向上し易くできる。これらは、それぞれ単独で膏体の粘着性を向上することができるが、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0044】
膏体中、粘着増強剤の含量は、好ましくは1質量%以上、15質量%以下、より好ましくは3質量%以上、10質量%以下、更に好ましくは5質量%以上、8質量%以下である。
【0045】
[架橋剤]
架橋剤は、ポリアクリル酸誘導体等の架橋体を形成させるものであることが好ましい。これにより、膏体の保形性を維持し易くさせることができる。架橋剤は、具体的には難溶性多価金属塩であることが好ましく、ジヒドロキシアルミニウムアミノアセテート、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、水酸化アルミニウム、合成ヒドロタルサイト等がより好ましい。このうちジヒドロキシアルミニウムアミノアセテート、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、合成ヒドロタルサイトが更に好ましい。これらは、それぞれ単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0046】
膏体中、架橋剤の含量は、好ましくは0.02質量%以上、3.5質量%以下、より好ましくは0.03質量%以上、2質量%以下である。0.02質量%以上であると架橋体が形成され易くなり、膏体の保形性が維持され易くなる。一方、3.5質量%以下であることにより、架橋体が形成され過ぎることによる粘着性の悪化を回避し易くすることができる。
【0047】
[保湿剤]
保湿剤は、皮膚への保湿効果を高め、膏体の保形性を維持できるものが好ましい。具体的には、保湿剤は、水溶性の多価アルコールが好ましく、グリセリン、1,3-ブチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、イソプレングリコール、ポリプロピレングリコール、D-ソルビトール、低分子量ポリエチレングリコール等がより好ましい。これらは、それぞれ単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。このうちグリセリン、プロピレングリコール、D-ソルビトールが更に好ましい。なお低分子量ポリエチレングリコールとは、重量平均分子量が1000未満のポリエチレングリコールを意味する。
【0048】
膏体中、保湿剤の含量は、好ましくは5質量%以上、60質量%以下、より好ましくは、10質量%以上、50質量%以下、更により好ましくは15質量%以上、40質量%以下である。5質量%以上であると、膏体の保形性が維持され易くなる。一方、60質量%以下であると、他の配合成分、特に水が不足することによる膏体の粘着性、保形性の低下を回避し易くすることができる。
【0049】
[pH調整剤]
pH調整剤は、膏体のpHを調節するものである。pH調整剤は、有機酸であることが好ましく、酒石酸、乳酸、リンゴ酸等がより好ましい。これらは、それぞれ単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0050】
膏体中、pH調整剤の含量は、好ましくは、0.2質量%以上、10質量%以下、より好ましくは0.5質量%以上、5質量%以下である。pH調整剤を当該範囲の含量で配合することにより、膏体のpHを4~8の範囲に調整し易くすることができ、膏体中の薬物を溶解状態に維持して膏体の粘着力と保形性を維持し易くすることができる。
【0051】
[抗酸化剤]
抗酸化剤としては、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)、アスコルビン酸、トコフェロール等が挙げられる。これらは、それぞれ単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0052】
[粘着付与樹脂]
粘着付与樹脂としては、ポリイソブチレン等の液状ゴム、ロジン、ロジンのグリセリンエステル、水添ロジン、水添ロジンのグリセリンエステル、脂環族飽和炭化水素樹脂、脂肪族系炭化水素樹脂、テルペン樹脂等が挙げられる。これらは、それぞれ単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0053】
[無機粉末]
無機粉末としては、タルク、カオリン、酸化チタン、酸化亜鉛、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム等が挙げられる。これらは、それぞれ単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0054】
[安定化剤]
安定化剤としては、オキシベンゾン、エデト酸ナトリウム等が挙げられる。これらは、それぞれ単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0055】
膏体には、他の治療効果のある薬物が配合されていてもよい。更に必要に応じて、一般的に水性貼付剤に使用される材料、例えば界面活性剤、溶解補助剤、防腐剤、吸収促進剤、着香剤、着色剤等の他の材料が配合されていてもよい。
【0056】
膏体の塗工量は、300g/m以上、1400g/m以下であることが好ましい。300g/m以上であることにより、粘着性や付着性が持続し易くなる。そのため、より好ましくは400g/m以上、更に好ましくは450g/m以上である。一方、1400g/m以下であることにより、凝集力や保形性を向上し易くすることができる。そのため、より好ましくは1200g/m以下、更に好ましくは1000g/m以下である。
【0057】
膏体は、冷蔵3か月保管後、後記する実施例に記載の方法により測定されるボールタック試験により測定される粘着性が、No.10以上であることが好ましい。上限は特に限定されないが、例えばNo.32以下であってもよく、No.30以下であってもよい。
【0058】
水性貼付剤は、上記膏体を含むものであり、具体的には支持体、膏体、及び剥離層を含む経皮吸収型貼付製剤であることが好ましい。
【0059】
支持体としては、塗布した膏体を保持できるものであれば、特に限定されるものではないが、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、ナイロン、ポリウレタン、レーヨン等の多孔体、発泡体、織布、不織布、フィルム、シートが挙げられる。これらは、それぞれ単独で、または2種以上を組み合わせて積層体として使用することができる。
【0060】
剥離層としては、膏体表面を被覆できれば特に限定されないが、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリ塩化ビニル等のプラスチックフィルム、剥離紙等が挙げられる。これらは、それぞれ単独で、または2種以上を組み合わせて積層体として使用することができる。更にこれらの表面にシリコーン処理、コロナ放電処理、凹凸処理、プラズマ処理等を施したものを用いることもできる。
【0061】
水性貼付剤は、公知の方法により製造することができる。例えば所定の成分が配合された膏体組成物を支持体上に展延し、膏体の表面をプラスチックフィルムで被覆することにより水性貼付剤を得ることができる。得られた水性貼付剤は、疾患患部に応じ、適当な形状、サイズに切断して用いることができる。
【0062】
本願は、2019年6月24日に出願された日本国特許出願第2019-116551号に基づく優先権の利益を主張するものである。2019年6月24日に出願された日本国特許出願第2019-116551号の明細書の全内容が、本願に参考のため援用される。
【実施例
【0063】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例によって制限されず、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0064】
実施例1~3:(リドカイン含有の水性貼付剤)
下記表1に記載の割合(質量%)で各成分を配合し、均一に混合して膏体を調製した。得られた膏体を目付量が100g/mの不織布(支持体)に、膏体の塗工量が700g/mになるよう展延した。次いで、その膏体表面をプラスチックフィルム(剥離層)で被覆した。更に10cm×14cmの矩形に裁断して水性貼付剤を得た。
【0065】
比較例1、2:(リドカイン含有の水性貼付剤)
下記表1に記載の割合(質量%)で各成分を配合し、実施例1と同様にして水性貼付剤を得た。
【0066】
得られた実施例1~3、比較例1、2の水性貼付剤について、下記の各評価を行った。
【0067】
[膏体の染み出し]
各水性貼付剤の作製後の初期において、支持体からの膏体の染み出しの有無を目視にて観察した。
【0068】
[結晶析出]
各水性貼付剤をアルミ積層フィルムで包み、周囲を熱シールし密閉して3℃の恒温槽に3ヵ月保管した後(冷蔵3か月保管後)の膏体中のl-メントールとリドカインの結晶の析出の有無を、偏光顕微鏡を使用して観察した。l-メントールとリドカインの結晶が観察されなかったものを「無」、l-メントールとリドカインの結晶が観察されたものを「有」として評価した。なお、特にl-メントールの結晶は特徴的な針状結晶であるため、リドカインの結晶とは容易に判別することができる。
【0069】
[粘着性]
日局傾斜式ボールタック試験法に基づいて、各水性貼付剤の膏体上にスチールボールを転がし、粘着面で停止した最大のボールのナンバー(No.)を測定値とした。この測定値が大きい程、粘着性に優れることを示す。水性貼付剤の作製後の初期値と、水性貼付剤をアルミ積層フィルムで包み周囲を熱シールし密閉して3℃の恒温槽に3ヵ月保管した後(冷蔵3か月保管後)の値をそれぞれ求めた。
【0070】
【表1】
【0071】
表1に示すように、実施例1~3では膏体中に薬物の析出はなく、膏体の保形性と粘着性も良好であった。更に膏体の染み出しも無かった。一方、比較例1では膏体に薬物とl-メントールの結晶析出があった。比較例2では、膏体が支持体より染み出してしまい、保形性が悪くなり、更に粘着性は顕著に劣っていた。
【0072】
実施例4~6:(ケトプロフェン含有の水性貼付剤)
下記表2に記載の割合(質量%)で各成分を配合し、均一に混合して膏体を調製した。得られた膏体を目付量が90g/mの不織布(支持体)に、膏体の塗工量が500g/mになるよう展延した。次いで、その膏体表面をプラスチックフィルム(剥離層)で被覆した。更に貼付剤を7cm×10cmの矩形に裁断して水性貼付剤を得た。
【0073】
比較例3、4:(ケトプロフェン含有の水性貼付剤)
下記表2に記載の割合で各成分を配合し、実施例4~6と同様にして水性貼付剤を調製した。
【0074】
得られた実施例4~6、比較例3、4の水性貼付剤について、実施例1と同様に、膏体の染み出し、結晶析出、粘着性の評価を行った。
【0075】
【表2】
【0076】
表2に示すように、実施例4~6では膏体中に薬物とl-メントールの結晶析出はなく、粘着性(No.12~18)と保形性も良好であった。一方、比較例3では膏体に薬物とl-メントールの結晶析出があり、膏体の粘着性も低かった。比較例4では、膏体に結晶析出はなかったが、シリカの量が多すぎるため二次凝集が起り、製剤中に膏体のムラができた。また、粘着性もNo.6と顕著に低かった。
【0077】
実施例7~10:(リドカイン含有の水性貼付剤)
下記表3に記載の割合(質量%)で各成分を配合し、均一に混合して膏体を調製した。得られた膏体を、目付量が110g/mの不織布(支持体)に、膏体の塗工量が1000g/mになるよう展延した。次いで、その膏体表面をプラスチックフィルム(剥離層)で被覆した。更に10cm×14cmの矩形に裁断し、水性貼付剤を得た。
【0078】
比較例5:(リドカイン含有の水性貼付剤)
下記表3に記載の割合(重量%)で、各成分を配合し、実施例7~10と同様にして水性貼付剤を得た。
【0079】
得られた実施例7~10、比較例5の水性貼付剤について、実施例1と同様に、膏体の染み出し、結晶析出、粘着性の評価を行った。
【0080】
【表3】
【0081】
表3に示すように、実施例7~10は、オレイン酸、流動パラフィン、ミリスチン酸イソプロピル、トコフェロール酢酸エステル、クロタミトンの油分を、単独もしくは2種以上含有しており、冷蔵3か月保管後における薬物とl-メントールの結晶析出はなく、膏体の保形性と粘着性も良好であった。一方、これらの油分を含有しない比較例5では膏体に薬物とl-メントールの結晶析出が認められた。
【0082】
実施例11~13:(高濃度l-メントール/リドカイン含有の水性貼付剤)
下記表4に記載の割合(質量%)で各成分を配合し、実施例1と同様にして水性貼付剤を得た。
【0083】
比較例6~8:(リドカイン含有の水性貼付剤)
下記表4に記載の割合(質量%)で各成分を配合し、実施例1と同様にして水性貼付剤を得た。
【0084】
得られた実施例11~13、比較例6~8の水性貼付剤について、実施例1と同様に、膏体の染み出し、初期の粘着性の評価を行った。更に、水性貼付剤作成後の初期の結晶析出の評価も行った。更に、下記のヘアレスラット腹部摘出皮膚を使用した薬物のin vitro皮膚透過試験を行って薬物透過性を評価した。
【0085】
[薬物透過性]
ヘアレスラットの腹部の皮膚を摘出しフランツ型拡散セルに取り付けた。次いでリン酸緩衝液を注入し、温度を37℃に保ちながら緩衝液を撹拌した。次いで直径14mmの円にカットした水性貼付剤を摘出した皮膚に貼付し、水性貼付剤から皮膚を通過して緩衝液に移行した薬物量(透過量)を、液体クロマトグラフ装置を用い測定した。具体的には、試験開始24時間後の累積リドカイン透過量(μg/cm)を測定した。
【0086】
【表4】
【0087】
表4に示す通り、比較例6の水性貼付剤は、l-メントールと油分を含まないものであり、薬物の結晶が析出して透過量は著しく低くなった。比較例7は、l-メントールを含まないものであり、薬物の透過量は低くなった。比較例8の水性貼付剤は、実施例12の水性貼付剤と同じ含量でl-メントールを含むが油分を含まないものであり、薬物、l-メントール共に結晶が析出し、実施例12と比べて薬物の透過量が低くなった。
【0088】
一方、実施例11~13の水性貼付剤は、それぞれ油分の含量が同じでl-メントールの含量を変化させたものであるが、l-メントール含量に相関してリドカインの透過量が増加した。そのうち実施例13の水性貼付剤は、最も高いリドカインの透過量を示した。この結果より、本発明の水性貼付剤は、l-メントールの溶解状態を長期間安定的に維持することができ、薬物の経皮吸収性も高いものであることがわかる。
【0089】
実施例14、15、比較例9~11:(リドカイン含有の水性貼付剤)
下記表5に記載の割合(質量%)で各成分を配合したこと以外は実施例2と同様にして水性貼付剤を得た。
【0090】
実施例16~18:(ケトプロフェン含有の水性貼付剤)
下記表5に記載の割合(質量%)で各成分を配合したこと以外は実施例4と同様にして水性貼付剤を得た。
【0091】
得られた実施例14~18、比較例9~11の水性貼付剤について、実施例1と同様に、膏体の染み出しの評価を行った。更に、保管条件を1か月としたこと以外は実施例1と同様に結晶析出の評価を行い、保管条件を40℃、1か月としたこと以外は実施例1と同様に、粘着性の評価を行った。
【0092】
【表5】
【0093】
表5に示す通り、比較例9の水性貼付剤は、シリカを含まないものであり、初期の膏体の染み出しは無かったが、40℃、1か月保管後においては、支持体の端に染み出しがあった。比較例10の水性貼付剤は、l-メントールの量が多いものであり、膏体表面に油分が浮き、粘着力を全く示さなかった。比較例11の水性貼付剤は、シリカの量が多いものであり、保形性が悪く、粘着力を全く示さなかった。
【0094】
一方、実施例14~18では膏体中に薬物の析出はなく、膏体の保形性も良好であり、膏体の染み出しも無かった。更に、40℃の高温条件下における粘着性の低下を低減することができた。なお、実施例17の水性貼付剤においては、冷蔵3か月保管後に結晶が僅かに析出する可能性がある。