IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ビペルゲン エーピーエスの特許一覧

特許7526498細胞内のインビトロディスプレイライブラリのスクリーニング方法
<>
  • 特許-細胞内のインビトロディスプレイライブラリのスクリーニング方法 図1
  • 特許-細胞内のインビトロディスプレイライブラリのスクリーニング方法 図2
  • 特許-細胞内のインビトロディスプレイライブラリのスクリーニング方法 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-24
(45)【発行日】2024-08-01
(54)【発明の名称】細胞内のインビトロディスプレイライブラリのスクリーニング方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/02 20060101AFI20240725BHJP
   C12Q 1/6806 20180101ALI20240725BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALI20240725BHJP
   C40B 40/06 20060101ALI20240725BHJP
【FI】
C12Q1/02
C12Q1/6806 Z
C12Q1/686 Z ZNA
C40B40/06
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021541723
(86)(22)【出願日】2020-01-16
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-14
(86)【国際出願番号】 EP2020051047
(87)【国際公開番号】W WO2020152028
(87)【国際公開日】2020-07-30
【審査請求日】2022-12-27
(31)【優先権主張番号】19153025.2
(32)【優先日】2019-01-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】521318642
【氏名又は名称】ビペルゲン エーピーエス
【氏名又は名称原語表記】VIPERGEN APS
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ハンセン,ニルス,ヤコブ,ベスト
(72)【発明者】
【氏名】アンデルセン,ヤコブ
(72)【発明者】
【氏名】クリステンセン,オレ
(72)【発明者】
【氏名】クリステンセン,アラン,ベック
(72)【発明者】
【氏名】ピーターセン,ラルス,コルスター
【審査官】西村 亜希子
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-518607(JP,A)
【文献】特表2013-540440(JP,A)
【文献】Cell Chemical Biology,2016年,Vol.23,pp.435-441
【文献】Med. Chem. Comm.,2016年,Vol.7,pp.1332-1339
【文献】ACS Comb. Sci.,2015年,Vol.17,pp.722-731
【文献】J. Am. Chem. Soc.,2014年,Vol.136,pp.3264-3270
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q
C40B
C12N 15/
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞内で、ライブラリの小分子化合物の結合実体を目的のタンパク質又はRNA標的に結合させて、前記細胞内で目的のタンパク質又はRNA標的に結合することができる前記ライブラリの少なくとも1つの個々の化合物結合実体を同定するためのインビトロディスプレイライブラリのスクリーニング方法であって、
当該方法は、
(i): 細胞において少なくとも1つの標的分子(n=1以上)を発現する工程であって、前記少なくとも1つの標的分子はタンパク質又はRNAであり、ここで、前記標的分子の構造は、「T構造体」と呼ばれる、工程と、
(ii): (i)の前記細胞にインビトロディスプレイライブラリを導入する工程であって、
(a):前記ライブラリは、少なくとも1000個の異なる結合実体Bのライブラリであり、n=1000以上であり、各結合実体は核酸分子に結合しており、当該核酸分子は、前記結合実体を同定することを可能にする特異的核酸配列情報を含んでおり、前記核酸分子の特異的核酸配列情報がわかると、前記核酸分子に結合した特異的結合実体の構造が直接わかり、前記ライブラリの結合実体は、平均分子量MWが10000ダルトン未満の化合物であり、ここで、前記核酸分子に結合した前記結合実体の構造は、「B構造体」と呼ばれ、
(b):前記ライブラリは、標的分子に結合することができる結合実体を含むB構造体が、同じ標的分子に結合することができない結合実体を含むB構造体よりも、対応するT構造体により効率的に結合する条件であるところの結合条件下において、細胞に導入され、
当該細胞内で、少なくとも1つの結合実体を少なくとも1つの標的分子に結合させ、それにより、「BBoundToT構造体」と呼ばれる、T構造体に結合したB構造体を含む複合体を前記細胞内に作製する、
という(i)の前記細胞にインビトロディスプレイライブラリを導入する工程と、
(iii): (ii)の細胞を溶解して、細胞膜を破壊し、
(A):当該細胞から(ii)の前記BBoundToT構造体を得て、それにより、BBoundToT構造体を含む溶液を得ること、そして当該BBoundToT構造体は前記細胞内にはないこと、又は
(B):当該細胞から、工程(ii)で標的分子に結合し且つ工程(iii)の前に標識されたB構造体を、工程(ii)で標的分子に結合していないB構造体から当該標識されたB構造体を区別することを可能にするような方法で得て、それにより、結合剤標識B構造体を含む溶液を得ること、そして当該結合剤標識B構造体は細胞内にはないこと、
という(ii)の細胞を溶解する工程と、
(iv): (iii)の溶液と、前記B構造体の結合実体を同定することを可能にする特異的核酸配列情報を含む前記核酸分子の使用を介して、(ii)の細胞内で少なくとも1つの目的の標的分子に結合する少なくとも1つの個々の結合実体を同定する工程と、
を含むインビトロディスプレイライブラリのスクリーニング方法。
【請求項2】
前記標的分子Tがタンパク質であり、前記細胞が真核細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記細胞が、ゼノパス(Xenopus)卵母細胞である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記細胞が、アフリカツメガエル(Xenopus laevis)卵母細胞である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
請求項1の工程(ii)の細胞へのインビトロディスプレイライブラリの導入が、前記ゼノパス卵母細胞へのインビトロディスプレイライブラリの注入によって行われ、
請求項1の工程(ii)のインビトロディスプレイライブラリが、少なくとも10個の異なる結合実体B(n=10である)のライブラリである、
請求項3又は4に記載の方法。
【請求項6】
請求項1の結合工程(ii)(b)におけるT構造体の濃度が、少なくとも10-10Mである、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
請求項1の工程(iii)が工程(iii)(A)である、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
請求項1の工程(iv)が、次の二つの工程、即ち、
固体支持体への前記BBoundToT構造体の標的分子の結合を介して、前記溶液(iii)(A)のBBoundToT構造体を前記固体支持体に結合させて、標的分子に結合せずそれ故に前記固体支持体に結合しないB構造体を除去する工程と、
前記固体支持体に結合した前記BBoundToT構造体の結合実体を同定することを可能にする特異的核酸配列情報の使用を介して、(ii)の細胞内で少なくとも1つの目的の標的分子に結合する少なくとも1つの個々の結合実体を同定する工程と、
によって行われる、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
請求項7に記載の方法であって、当該方法が、
請求項1の(i)の前記T構造体が、プレイ(当該プレイは、標的分子-プレイ融合タンパク質である)を含み、請求項1の工程(ii)では、核酸分子に結合したベイトが導入され、前記核酸分子は、特異的標的分子を同定することを可能にする特異的核酸配列情報を含み、前記ベイトは請求項1の工程(ii)の前記標的分子のプレイに結合することによって、前記ベイトが標的分子の前記プレイに結合しているBBoundToT構造体を作製し、
溶解工程(iii)(A)後、前記BBoundToT構造体の核酸分子を標的分子の前記プレイに結合した前記ベイトと融合させ、前記融合した核酸分子は結合実体及び標的分子を同定することを可能にする配列情報を含み、
先行する工程の前記融合した核酸分子の前記結合実体及び標的分子を同定することを可能にする特異的核酸配列情報の使用を介して、請求項1の工程(iv)において、(ii)の細胞内で、少なくとも1つの目的の標的分子に結合する少なくとも1つの個々の結合実体を同定する、
ことを特徴とする方法。
【請求項10】
前記細胞がゼノパス卵母細胞であり、前記細胞がアフリカツメガエル卵母細胞である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
請求項9又は10に記載の方法において、
「前記BBoundToT構造体の核酸分子を標的分子の前記プレイに結合した前記ベイトと融合させること」の前に、細胞溶解工程(iii)から得られた溶液の希釈工程が行われ、前記希釈が、前記溶液を少なくとも10倍希釈することであり、
請求項1の工程(i)においてただ1つの標的分子(n=1)が存在し、
前記「同定する」工程(iv)が、結合実体及び標的分子についての配列情報を含んでなる前記融合した核酸分子が増幅される工程を含み、
ここで、「プレイ-ベイト」系は、
プレイ:四量体ストレプトアビジン及びベイト:ビオチン、
プレイ:単量体ストレプトアビジン及びベイト:ビオチン、
プレイ:His-タグ及びベイト:NTA、
プレイ:SNAP-tag(登録商標)及びベイト:ベンジルグアニン(BG)、
プレイ:Halo-Tag(登録商標)及びベイト:官能基に結合した反応性クロロアルカンリンカー、
プレイ:炭酸脱水酵素IX(CAIX)及びベイト:VD11-4-2、又は
プレイ:マルトース結合タンパク質(MBP)及びベイト:マルトースもしくはマルトトリオースであり、
前記ベイトに結合した核酸分子がDNAであり、前記B構造体の核酸分子がDNAである、ことを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項9~11のいずれか一項に記載の方法において、
前記ベイトに結合した核酸分子が、前記B構造体の核酸分子に対して相補的な付着末端を有し、
前記B構造体の核酸分子及び前記ベイトに結合した核酸分子の相補的付着末端のリン酸骨格に、ホスホロチオエート結合が組み込まれ、
ホスホロチオエート結合の数は、各核酸分子について、少なくとも2つのホスホロチオエート結合である、ことを特徴とする方法。
【請求項13】
請求項1~6のいずれか一項に記載の方法において、
請求項1の工程(iii)が工程(iii)(B)であり、
当該方法が、
請求項1の(i)の前記T構造体が、前記標的分子に融合した酵素を含み、この酵素は、B構造体を標識する前記BBoundToT構造体のB構造体上で反応を行うことができ、それによって、前記BBoundToT構造体のB構造体を、標的分子に結合していないB構造体から区別することを可能にする、請求項1の(ii)の前記BBoundToT構造体の結合実体及び標的分子の結合によって作り出された近接性に起因し、
前記標的分子に融合された前記酵素はリガーゼであり、請求項1の工程(ii)において、前記B構造体の核酸分子に相補的な付着末端を有する核酸分子も導入され、前記近接に起因する前記リガーゼは、前記導入された核酸分子を前記B構造体の核酸分子にライゲーションし、それによって前記B構造体を標識する、
という方法である、ことを特徴とする方法。
【請求項14】
請求項1の前記「同定する」工程(iv)が、前記B構造体の結合実体を同定することを可能にする特異的核酸配列情報を含む核酸分子が増幅される工程を含んでいる、
請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
請求項1の前記同定工程(iv)において、(ii)の細胞内で少なくとも1つの目的の標的分子に結合する少なくとも6つの異なる個々の結合実体が同定され、
請求項1の工程(i)において、ただ1つの標的分子(n=1)が存在する、
ことを特徴とする請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小分子化合物の細胞内で、ライブラリの結合実体(binding entity)を目的のタンパク質又はRNA標的に結合させて、目的のタンパク質又はRNA標的に細胞内で結合することができるライブラリの少なくとも1つの個々の化合物結合実体を同定するためのインビトロディスプレイライブラリをスクリーニングする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ディスプレイ技術は、核酸の情報保存及び増幅能力を他の化合物の機能活性と組み合わせるために開発されてきた。ディスプレイ技術は、機能的結合実体(すなわち、表現型)と、結合実体の構造に関する核酸配列情報(遺伝子型)との間の関係に依存する。注:表現型及び遺伝子型が同じ分子(DNA又はRNA)からなるため特別な場合であるが、核酸アプタマ技術はディスプレイ技術と見なされる。
【0003】
そのような方法の利点は、非常に大きなライブラリを構築でき、機能的結合実体の所望の活性についてプローブすることができることである。次いで、所望の活性を有するライブラリメンバを、所望の活性を有さないライブラリメンバから分けることができ、したがって、所望の活性を有するメンバの割合がより高い濃縮ライブラリを作製することができる。このプロセスは、選択又は濃縮(enrichment)と呼ばれる。いくつかのディスプレイ技術は、一巡の選択からの濃縮ライブラリが増幅され、新たな濃縮ディスプレイライブラリを調製するために使用され、次の選択の一巡で使用される等の選択の繰返しを可能にする。次いで、濃縮ライブラリ中のライブラリメンバの構造をそれらの同族核酸配列によって同定することができ、したがって、微量の物質からでさえも同定が可能になる。
【0004】
本明細書では、関連するライブラリは、当技術分野に従って、「インビトロディスプレイライブラリ」と呼ぶことができる。
【0005】
用語「インビトロディスプレイライブラリ」は、本明細書において、当技術分野に従って理解され、すなわち、ライブラリは数多くの異なる結合実体を含んでおり、各結合実体が核酸分子に結合し、核酸分子は結合実体を同定することを可能にする特異的核酸配列情報を含んでいるため、すなわち、核酸分子の特異的核酸配列情報がわかると、核酸分子に結合した特異的結合実体の構造が直接わかり、核酸分子に結合した結合実体(すなわち、表現型)の構造(遺伝子型)は、本明細書ではB構造体と呼ぶ。
【0006】
結合した核酸分子がDNA分子である場合、用語「インビトロディスプレイライブラリ」は、当技術分野では「DNAコード化ライブラリ(DEL)」と呼ばれることがある。また、用語「結合実体」(binding entity)は、当技術分野では「リガンド」と呼ばれることがある。
【0007】
先行技術は、そのようなインビトロディスプレイライブラリを作製するための多数の異なる方法を記載しており、ここでの好適な例には、例えば、欧州特許第1809743号B1(Vipergen - YoctoReactor(登録商標)(yR)library technology)、欧州特許第1402024号B1(Nuevolution)、欧州特許第1423400号B1(David Liu)、Nature Chem.Biol.(2009),5:647-654(Clark)、国際公開WO第00/23458号(Harbury)、Nature Methods(2006)、3(7)、561-570、2006(Miller)、Nat.Biotechnol.2004;22、568-574(Melkko)、Nature.(1990);346(6287)、818-822(Ellington)、又はProc Natl Acad Sci USA(1997).94(23):12297-302(Roberts)、国際公開WO2006/053571号A2(Rasmussen)が挙げられる。
【0008】
例えば上述の先行技術に記載されているように、今日、非常に多く(例えば1015)の特異的結合実体(例えば1015個の異なる化学化合物)を含むインビトロディスプレイライブラリを作製することができる。
【0009】
この多数の特異的結合実体を考慮すると、例えば、目的の標的(例えば、医療上重要な受容体分子)に結合する特異的結合実体(例えば、化学化合物)の構造を効率的に同定することを可能にするには、濃縮ライブラリを作製するためのそのようなライブラリの選択/濃縮工程が重要であることは明らかである。
【0010】
欧州特許第2622073号B1(Vipergen)の図3には、欧州特許第1809743号B1(Vipergen-YoctoReactor(登録商標)(yR)library technology)に記載されているようなインビトロディスプレイ技術の一例が示されており、欧州特許第2622073号B1の図3に見られるように、この例の選択工程は、標的(例えば、受容体)を固体表面(例えば、ビーズ又はガラスプレート)に固定化することによって行われ、非結合剤及び低親和性結合剤は典型的には洗い流されるが、結合剤が濃縮された集団は固体支持体から回収される。そのような固体支持体に基づく選択/濃縮方法の多数の例が当技術分野に記載されている。
【0011】
欧州特許第2622073号B1(Vipergen)は、共区画化による濃縮(ECC)と呼ばれる、又は代替的にBinder Trap Enrichment(登録商標)(BTE)と呼ばれる濃縮ライブラリを作製するための改良されたインビトロディスプレイに基づく方法に関する。例えば、欧州特許第2622073号B1の図1図2又はVipergen社のホームページhttp://www.vipergen.comを参照されたい。
【0012】
上述のように、多くの先行技術に記載されている「インビトロディスプレイライブラリ」法である特異的結合実体(例えば、化合物)を目的の標的(例えば、医療上重要な受容体分子)に結合させる選択/濃縮工程は、例えば標的(例えば、受容体)を固体表面(例えば、ビーズ又はガラスプレート)に固定化すること等、天然ではない人工的な状況で精製された異種発現タンパク質に依存すると呼ばれ得る方法で行われる。
【0013】
そのようないわゆる人工的な状況における結合/選択に関連して、Lynn MM et al.の論文(Identification of Ligand-Target Pairs from Combined Libraries of Small Molecules and Unpurified Protein Targets in Cell Lysates’’;J.Am.Chem.Soc.2014,136,3264-3270)は、「固定化された標的に対する選択の結果は、細胞状況から取り出された際の非天然の立体配座をとるタンパク質に対する生物学的関連性を欠くか、又はそれらの機能に不可欠な結合パートナ若しくは補因子を欠く場合がある」と記載している。
【0014】
これを考慮して、Lynnの論文は、細胞溶解物中のDNA結合リガンド及び未精製タンパク質標的のワンポット混合物からリガンド+標的対を同定するためのいわゆる未精製タンパク質を使用する相互作用決定(IDUP)について記載している。
【0015】
Zining Wu et al.の論文(Cell-Based Selection Expands the Utility of DNA-Encoded Small-Molecule Library Technology to Cell Surface Drug Targets..’’;ACS Comb.Sci.2015,17,722-731)は、小分子DNAコード化ライブラリ(DEL)からの、細胞表面標的に対する高親和性及び選択的リガンドを同定するための細胞系選択方法、すなわち結合が細胞表面上で行われ、それ自体は細胞内にはない方法について記載している。
【0016】
M.Schurmann et al.の論文(Small-Molecule Target Engagement in Cells’’;Cell Chemical Biology 23,April 21,2016)は、単一の特異的小分子化合物を細胞に導入することができ、次いで、時にはこの単一の(1つの特異的)化合物が標的(例えば、受容体)に結合するかどうかを同定/検出することが可能であり得ることを記載している。
【0017】
本文脈において当業者によって理解されるように、このM.Schurmannによる論文は、インビトロディスプレイライブラリ(例えば、DNAコード化ライブラリ等)、すなわち多数(例えば1010)の異なる結合実体を含むライブラリをスクリーニングする方法に関するものではない。
【0018】
簡潔には、このM.Schurmannの論文は、本質的に、目的の小分子が目的の標的(例えば、受容体)に結合することが既にわかっており、本質的に単に目的の細胞内でこれを確認したい、又は結合が物理的に起こる細胞の場所(例えば、どの区画であるか)を研究したい状況に関する。
【0019】
要約すると、理論に限定されるものではないが、本発明者らは、「細胞内で」小分子化合物の、ライブラリの結合実体を、目的のタンパク質又はRNA標的に結合させるためのインビトロディスプレイライブラリ(例えば、DNAコード化ライブラリ(DEL))をスクリーニングする方法、すなわち、特異的結合実体(例えば、化合物)を目的の標的(例えば、医療上重要な受容体分子)に結合させるライブラリ選択/濃縮工程が「細胞内で」行われる方法について直接的かつ明確に記載している先行技術文献はないと考える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【文献】欧州特許第1809743号B1
【文献】欧州特許第1402024号B1
【文献】欧州特許第1423400号B1
【文献】国際公開WO第00/23458号
【文献】国際公開WO2006/053571号A2
【文献】欧州特許第2622073号B1
【非特許文献】
【0021】
【文献】(本明細書末の[参考文献一覧(REFERENCE LIST)]参照)
【発明の概要】
【0022】
本発明が解決しようとする課題は、目的の小分子化合物を目的の標的(例えば、医療関連受容体)に結合させるためのインビトロディスプレイライブラリをスクリーニングするための改善された方法を提供することである(と見なし得る)。
【0023】
DNAコード化ライブラリ(DEL)スクリーニングの以前の例のほとんどは、細胞状況から取り出される組換え精製タンパク質に対して行われる。精製されたタンパク質は、それらの機能に必須の結合パートナ又は補因子を欠き、非天然立体配座をとり得る。したがって、細胞状況外の精製タンパク質に対するDELスクリーニングで同定された化学結合実体は、生物学的関連性を欠いている可能性がある。本発明では、細胞内で発現されたタンパク質に対してDELスクリーニングを行う。細胞内で、目的のタンパク質は、天然の環境において必須の結合パートナ及び補因子と相互作用することができる。したがって、細胞内のDELスクリーニングから同定された化学結合実体は、生物学的に活性である可能性がより高い。後者は、創薬に適用される化学結合実体に対して特に重要である。
【0024】
本発明は、細胞内で発現されたタンパク質に対してDELスクリーニングを実施することを可能にする。従って本発明は、DELスクリーニングの以前の例のほとんどに必要な組換え発現及び精製タンパク質を得るための労力のかかるプロトコルに依存しない。
【0025】
本明細書の実施例では、本発明者らが、「細胞(すなわち、アフリカツメガエル(Xenopus laevis)卵母細胞)内の」インビトロディスプレイライブラリ(DNAコード化ライブラリ)をスクリーニングの実施に成功した方法、及び、「細胞内で」目的のタンパク質標的に結合することができるライブラリの多くの個々の化合物結合実体(リガンド)の同定に成功した方法について記載する。
【0026】
上で議論されるように、また、理論に限定されることなく、本発明者らは、どの先行技術文献も、そのような「細胞内」方法、すなわち、特異的結合実体(例えば、化合物)を目的の標的(例えば、医療上重要な受容体分子)に結合させるライブラリ選択/濃縮工程が「細胞内で」行われる方法について直接的かつ明白に記載していないと考える。
【0027】
理論に限定されるものではないが、本明細書の実施例において記載された「細胞内」の非常に陽性な(positive)スクリーニング結果を得ることが可能であったことは、本発明者らにとっては一見したところ明白ではなく、これに関しては例えば、本明細書の実施例1の結論を参照されたい。
【0028】
この理由の1つは、細胞が非常に多くのタンパク質及び他の区画(compartments)を含むため、細胞内の「タンパク質密度」が非常に高いことが当技術分野で知られていることに関し、例えば、Ron Miloの論文(What is the total number of protein molecules per cell volume?..’’;Bioessays 35:1050-1055,2013)は、「我々は、細菌、酵母、及び哺乳動物細胞において、立法マイクロメートル(すなわち、1fL)当たり2百万~4百万の範囲のタンパク質が存在すると推定する」と示している。
【0029】
本発明のインビトロディスプレイライブラリをスクリーニングする方法に関連して、インビトロディスプレイライブラリは非常に多く(例えば1010)の異なる化合物結合実体を含むため、細胞内の高い「タンパク質密度」は、当業者にとっては一見したところ問題であると思われ、ライブラリ内の相当量の「良好な結合剤」が、実際に目的の標的(例えば、受容体)を見つけ、それによって目的の標的に結合することができることは、一見したところ理にかなっていないように思われる。
【0030】
言い換えれば、本「細胞内」発明の開示の前では、ライブラリ化合物結合実体のいずれも実際には細胞内の目的の標的(例えば、受容体)を見つけて、それによって結合することができない(又はごくわずかしか結合できない)、すなわち、そのようなシナリオでは、ライブラリの代表的な良好な結合剤化合物の量を同定しないため、「細胞内」のライブラリ結合剤スクリーニングは技術的に関連/有用ではないと一見したところ考えたかもしれない。
【0031】
本明細書で説明するように、本発明の「細胞内」ライブラリスクリーニング方法を使用することによって、本発明者らは、多くの個々の異なる良好な結合剤化合物結合実体、すなわち、ライブラリの許容可能な非常に多くの代表的良好な結合剤化合物を同定した。
【0032】
したがって、本発明の1つの関連する技術的寄与は、本発明が、「細胞内の」インビトロディスプレイライブラリ(DNAコード化ライブラリ)のスクリーニングの実施に成功し、それによって「細胞内で」目的のタンパク質標的に結合することができるライブラリの許容可能な代表的な非常に多くの個々の化合物結合実体(リガンド)を同定することが実際に可能であることを実証したという事実に関連すると見なすことができる。
【0033】
本明細書の実施例では、使用した細胞はアフリカツメガエル卵母細胞であった。
【0034】
しかし、上述の起こり得る問題/課題である細胞内の「タンパク質密度」は、アフリカツメガエル卵母細胞に関連するだけでなく、反対に、実質的に目的のどの細胞に対しても一般的な懸念事項と見なすことができる。
【0035】
したがって、本明細書の実施例が、アフリカツメガエル卵母細胞に作用する本発明の方法を実証する本明細書の実施例の事実によって、相当量の他の異なる細胞型(例えば、他の真核細胞型、例えばヒト(例えばCHO)細胞等)でも作用することが理にかなっている。
【0036】
したがって、本発明の第1の態様は、細胞内で、ライブラリの小分子化合物結合実体を目的のタンパク質又はRNA標的に結合させて、細胞内で目的のタンパク質又はRNA標的に結合することができるライブラリの少なくとも1つの個々の化合物結合実体を同定する、インビトロディスプレイライブラリのスクリーニング方法であって、
当該方法は、
(i): 少なくとも1つの標的T(式中、n=1以上)を細胞において発現させる工程であって、少なくとも1つの標的がタンパク質又はRNAであり、標的の構造体は、本明細書においてT構造体と呼ばれる、工程と、
(ii): インビトロディスプレイライブラリを(i)の細胞に導入する工程であって、
(a):ライブラリが、少なくとも1000個の異なる結合実体B(n=1000以上)のライブラリであり、各結合実体は核酸分子に結合しており、核酸分子は、結合実体を同定することを可能にする特異的核酸配列情報を含み、核酸分子の特異的核酸配列情報がわかると、核酸分子に結合した特異的結合実体の構造が直接わかり、ライブラリの結合実体は、平均分子量MWが10000ダルトン未満の化合物であり、核酸分子に結合した結合実体の構造体は、本明細書ではB構造体と呼ばれ、
(b):標的分子に結合することができる結合実体を含むB構造体は、同じ標的に結合することができない結合実体を含むB構造体よりも、対応するT構造体により効率的に結合する条件である結合条件下において、ライブラリが細胞に導入され、細胞内で、結合実体の少なくとも1つを少なくとも1つの標的に結合させ、それにより、BBoundToT構造体と呼ばれる、T構造体に結合したB構造体を含む複合体を細胞内に作製する、
インビトロディスプレイライブラリを(i)の細胞に導入する工程と、
(iii): (ii)の細胞の溶解を行い、細胞膜を破壊し、
(A):細胞から(ii)のBBoundToT構造体を取り出し、それによってBBoundToT構造体を含む溶液を得ること、そして当該BBoundToT構造体は細胞内にはないこと、又は、
(B):工程(ii)で標的に結合し且つ工程(iii)の前に標識されたB構造体を、工程(ii)で標的に結合しなかったB構造体から当該標識されたB構造体を区別することを可能にするような方法で細胞から取り出し、それにより、結合剤標識されたB構造体を含む溶液を得ること、そして当該結合剤標識されたB構造体は細胞内にはない、
(細胞の溶解を行う)工程と、
(iv): (iii)の溶液と、B構造体の結合実体を同定することを可能にする特異的核酸配列情報を含む核酸分子の使用を介して、(ii)の細胞内で少なくとも1つの目的の標的に結合する少なくとも1つの個々の結合実体の同定を可能にする工程と、
を(当該方法は)含む。
【0037】
細胞において少なくとも1つの標的を発現させることに関する工程(i)は、当技術分野に従って行うことができ、目的の細胞において目的のタンパク質又はRNA標的を発現させることは、当業者にとって日常的な作業である。
【0038】
多くの場合、標的は異種発現標的であることが好ましい可能性がある。
当該技術分野によれば、用語「異種」(heterologous)は、通常、標的(例えば、タンパク質)を作製(すなわち発現)しない細胞に実験的に入れられる標的(例えば、タンパク質)に関する。
【0039】
しかし、いくつかの場合において、標的は、細胞において天然に発現される標的、例えば、ヒト(例えばCHO)細胞において天然に発現されるヒト受容体標的であることが好ましい場合がある。標的は、トランスジェニック宿主に由来する細胞、例えばヒト受容体標的の改変バージョンで発現されることが好ましい場合がある。
【0040】
上述のように、先行技術は、インビトロディスプレイライブラリ自体を作製するための多くの異なる方法について記載しており、したがって、工程(ii)のインビトロディスプレイライブラリ自体を作製することは、そのようなインビトロディスプレイライブラリを作製するための既知の先行技術の技術に従って行うことができる。
【0041】
工程(ii)は、「インビトロディスプレイライブラリを(i)の細胞に導入する工程」を指し、本質的に、この工程は、従来技術の既知の技術に基づいて行うことができる。
【0042】
本明細書の実施例で説明するように、細胞がアフリカツメガエル卵母細胞である場合、先行技術の既知の注入技術を介してライブラリを卵母細胞に導入することができ、注入(例えば、マイクロインジェクション)が相当量の他の哺乳動物細胞型では機能しないと考える理由はない。
【0043】
あるいは、目的の細胞型に応じて、例えばトランスフェクション(例えば、エレクトロポレーション又は化学ベース)によって行うことができる。
【0044】
工程(ii)(b)に従って好適な「結合条件」を同定することは当業者にとって日常的な作業である。
【0045】
本質的に、工程(ii)(b)の「結合条件」は、一般に、細胞内の天然の結合条件であり、すなわち、本発明の利点の1つは、結合実体(リガンド)が、細胞内で天然の結合条件であり得る工程(ii)(b)の「結合条件」下で標的に結合することができることである。
【0046】
工程(iii)は、「(ii)の細胞を溶解して、細胞膜を破壊する工程」を指し、本質的に、この工程は、従来技術の既知の技術に基づいて行うことができる。
【0047】
また、工程(iv)は、例えば上述のような従来技術の既知の技術に基づいて行うことができる。
【0048】
簡潔には、本明細書で更に詳細に説明するように、工程(iv)のこの「(ii)の細胞内で少なくとも1つの目的の標的に結合する少なくとも1つの個々の結合実体を同定する工程」は、異なる方法で行うことができ、共通の一般知識及び本明細書の技術的教示に基づいて、この工程(iv)を行うことは当業者にとって日常的な作業である。
【0049】
簡潔には、本明細書の詳細な説明及び共通の一般知識に基づいて、当業者は、多くの異なる方法/実施形態で第1の態様の各工程(i)~工程(iv)のすべてを実行することができる。
【0050】
本発明の実施形態が、単なる例示的方法として以下に記載される。
【図面の簡単な説明】
【0051】
図1】本願の第1の態様(すなわち、クレーム1)の方法の実施形態の例を表す図である。
図2】プレイ-ベイトを使用した場合の、本願の第1の態様(すなわち、クレーム1)の方法の実施形態の例を表す図である。
図3】本願の実施例1の結果であり、更なる詳細については実施例1を参照のこと。
【発明の詳細な説明】
【0052】
[第1態様の工程(i)]
上述のように、工程(i)は、「(i)少なくとも1つの標的T(式中、n=1以上)を細胞において発現し、少なくとも1つの標的はタンパク質又はRNAであり、当該標的の構造体は、本明細書ではT構造体と呼ばれる」ことを示す。
【0053】
標的は、目的の任意の好適なタンパク質又はRNA標的であり得る。
【0054】
上述のように、目的の細胞において目的のタンパク質又はRNA標的を発現させることは当業者にとって日常的な作業(ルーチンワーク)である。
【0055】
本明細書の実施例で説明され、当技術分野で知られているように、細胞がアフリカツメガエル卵母細胞である場合、標的の発現はmRNAの注入によって行うことができ、それが好ましい場合がある。
【0056】
しかし、細胞における標的の発現は、他の周知の好適な方法によって、例えば、目的の細胞における目的の標的の日常的な組換え発現(例えばDNAから作製された発現ベクタの使用)によって行うことができる。
【0057】
多くの場合、標的は異種発現標的であることが好ましい可能性がある。
当該技術分野によれば、用語「異種」(heterologous)は、通常、標的(例えば、タンパク質)を作製(すなわち発現)しない細胞に実験的に入れられる標的(例えば、タンパク質)に関する。
【0058】
いくつかの場合、標的は、細胞内の特定の細胞区画、例えば核内で異種発現されることが好ましい場合がある。当業者にとって、これは、標的構築物にリーダ配列、すなわちシグナル配列を導入することで行うことができる。
【0059】
好ましくは、標的はタンパク質である。
【0060】
当技術分野で知られているように、好適な標的は、例えばヒトの体内に存在する受容体分子であり得、その受容体に結合することができる結合実体(例えば、化合物)を同定することに関心があるであろう。
従って、標的は、好ましくは受容体、例えば受容体タンパク質分子等であり得る。
【0061】
先行技術によれば、好適な例では、標的は、自己抗原、細菌タンパク質、血液タンパク質、細胞接着タンパク質、サイトカイン、細胞骨格タンパク質、DNA結合タンパク質、発生タンパク質、人口タンパク質、酵素、細胞外マトリックスタンパク質、GTP結合タンパク質レギュレータ、糖タンパク質、成長因子、熱ショックタンパク質、リポタンパク質、膜タンパク質、金属タンパク質、モータタンパク質、リンタンパク質、プリオン、タンパク質複合体、タンパク質ドメイン、RNA結合タンパク質、受容体、組換えタンパク質、種子貯蔵タンパク質、構造タンパク質、転写コレギュレータタンパク質、輸送タンパク質、ウイルスタンパク質又はそれらの断片であり得る。
【0062】
簡潔には、当業者は、本文脈において目的とすることができるよりも非常に多くの異なる可能な標的を認識している。
【0063】
場合によっては、発現した標的タンパク質を、例えばリン酸化、メチル化、アセチル化又は脱リン酸化によって修飾することが好ましい可能性がある。当業者によって、修飾酵素、例えば、キナーゼ、メチルトランスフェラーゼ、アセチルトランスフェラーゼ又はホスファターゼを、標的タンパク質と一緒に共発現させることにより、発現した標的タンパク質の修飾を行うことができる。
【0064】
上で説明したように、本明細書の実施例が、細胞がアフリカツメガエル卵母細胞である場合、本発明の方法が作用することを実証する本明細書の実施例の事実によって、相当量の他の異なる細胞型(例えば、他の真核細胞型、例えばヒト(例えばCHO)細胞等)でも作用することは理にかなっている。
【0065】
好ましくは、細胞は真核細胞、例えば哺乳動物細胞であり、好ましくは、哺乳動物細胞はヒト(例えばCHO)である。
【0066】
本明細書の実施例では、非常に多くの異なる結合実体を含むインビトロディスプレイライブラリを単一の個々の細胞(すなわち、アフリカツメガエル卵母細胞)に(注入によって)導入することが可能であることが示されている。
【0067】
したがって、好ましい実施形態では、細胞は、例えば、ゼノパス・トロピカリス(Xenopus tropicalis)卵母細胞又はアフリカツメガエル卵母細胞等のセノパス(Xenopus)卵母細胞であり、最も好ましくはアフリカツメガエル卵母細胞である。
【0068】
工程(i)の用語「細胞」は、単一の細胞(例えば、細胞がアフリカツメガエル卵母細胞である場合)であってもよい。
【0069】
しかし、本文脈において当業者によって理解されるように、工程(i)の用語「細胞」は、実際には多くの場合、細胞の集団を指してもよく、集団の個々の細胞は、目的の標的を組換え発現する。
【0070】
例えば、標的が、例えば、目的の細胞型(例えばヒトCHO細胞)における標的の標準的/日常的な組換え発現で発現ベクタの使用によって発現される場合、これは、一般に、細胞の集団を示し、集団の個々の細胞は、目的の標的を組換え発現する。
【0071】
第1の態様の工程(i)は、「少なくとも1つのT(n=1以上)」を示す。
【0072】
本明細書に記載の方法の利点は、効率的かつ迅速な方法で、例えば2つ以上の標的に結合することができる結合実体を同時にスクリーニングできることである。
【0073】
例えば、標的は2つの異なる受容体分子であり得、次いで、本明細書に記載の方法は、受容体のうちの1つに結合する1つの結合実体及び他の受容体に結合する他方の結合実体を同時に同定することができる。
【0074】
上記の例(2つの異なる、例えば受容体標的を有する)では、標的Tn(n=2)又は代替的にTを表す状況を有するであろう。
【0075】
上記に沿って、工程(i)において少なくとも2個の異なる標的を有すること[すなわち、Tn(n=2以上)]、又は工程(i)において少なくとも3個の異なる標的を有すること[すなわち、Tn(n=3以上)]、又は工程(i)において少なくとも10個の異なる標的を有すること[すなわち、Tn(n=10以上)]、又は工程(i)において少なくとも100個の異なる標的を有すること[すなわち、Tn(n=100以上)]は関連し得る。
【0076】
理論に限定されるものではないが、工程(i)において1000個を超える異なる標的、すなわち細胞において1000個を超える異なるT構造体を有することは困難であり得る。
【0077】
[第1の態様の工程(ii)]
上述のように、工程(ii)は以下のもの、即ち、
「(ii)インビトロディスプレイライブラリを(i)の細胞に導入する工程であって、
(a)前記ライブラリが、少なくとも1000個の異なる結合実体Bのライブラリであり、・・・ライブラリの結合実体が、10000ダルトン未満の平均分子量MWを有する化合物であり、
(b)前記ライブラリが結合条件下で細胞に導入されること、・・・」
に関する。
【0078】
工程(ii)は、「インビトロディスプレイライブラリを(i)の細胞に導入する」ことに言及し、本質的にこの工程は、従来の既知の技術に基づいて行うことができる。
【0079】
本明細書の実施例で説明するように、細胞がアフリカツメガエル卵母細胞である場合、先行技術の既知の注入技術を介してライブラリを卵母細胞に導入することができ、注入(例えば、マイクロインジェクション)が相当量の他の哺乳動物細胞型では機能しないと考える理由はない。
【0080】
あるいは、目的の細胞型に応じて、例えばトランスフェクション(例えば、エレクトロポレーション又は化学ベース)によって行うことができる。
【0081】
本明細書の実施例では、多数(約10)の異なる結合実体を含むインビトロディスプレイライブラリを、単一の個々の細胞(すなわち、アフリカツメガエル卵母細胞)に(注入によって)導入することが可能であることが示されている。
【0082】
工程(ii)の用語「細胞」は、単一の細胞(例えば、細胞がアフリカツメガエル卵母細胞である場合)であってもよい。
【0083】
しかし、上述のように、工程(i)の用語「細胞」は、実際には多くの場合、細胞の集団を指すことがあり、そのような場合、工程(ii)の用語「細胞」は、実際には工程(i)の細胞の集団であってよい。
【0084】
本文脈において当業者によって理解されるように、工程(ii)において、例えば、トランスフェクションによって、例えば、10個の異なる結合実体のインビトロディスプレイライブラリを工程(i)の細胞の集団(例えば、組換え発現した標的を有するヒトCHO)に導入する場合、例えば、集団のいくつかの細胞は、5個未満の結合実体(例えば1つの結合実体)を含むことができ、集団の他の細胞は、1000個を超える異なる結合実体を含むことができる等の、集団の各細胞に異なる数の結合実体を導入することができる。
【0085】
用語「インビトロディスプレイライブラリ」は、当技術分野に従って理解され、すなわち、ライブラリは非常に多くの異なる結合実体を含んでおり、各結合実体が核酸分子に結合し、核酸分子は結合実体を同定することを可能にする特異的核酸配列情報を含んでおり、すなわち、核酸分子の特異的核酸配列情報がわかると、核酸分子に結合した特異的結合実体の構造が直接わかり、核酸分子に結合した結合実体(すなわち、表現型)の構造(遺伝子型)は、本明細書ではB構造体と呼ばれる。
【0086】
結合した核酸分子がDNA分子である場合、用語「インビトロディスプレイライブラリ」は、当技術分野では「DNAコード化ライブラリ(DEL)」と呼ばれることがある。
用語「結合実体」は、当技術分野では「リガンド」と呼ばれることがある。
【0087】
本明細書で説明されるように、先行技術は、そのようなインビトロディスプレイライブラリ、すなわち工程(i)のインビトロディスプレイライブラリを作製するための多くの異なる方法について記載する。
【0088】
言い換えれば、核酸分子(遺伝子型)に結合した結合実体(すなわち、表現型)の構造体、すなわち本明細書で「B構造体」と呼ばれるものを好適に作製することは、今日では、当業者にとって日常的な作業(ルーチンワーク)である。
【0089】
当技術分野で既知のように、結合実体(すなわち、表現型)は、例えば共有結合又は例えば高親和性非共有結合によって核酸分子(遺伝子型)に結合することができる。
【0090】
本明細書では、結合実体(すなわち、表現型)が共有結合によって核酸分子(遺伝子型)に結合していることが好ましい場合がある。
【0091】
工程(i)のインビトロディスプレイライブラリは、多くの異なるB構造体、すなわち、上記に沿ったものを含み、工程(i)のインビトロディスプレイライブラリを作製することは、当業者にとって日常的な作業である。
【0092】
本明細書における好適な例には、例えば、欧州特許第1809743号B1(Vipergen)、欧州特許第1402024号B1(Nuevolution)、欧州特許第1423400号B1(David Liu)、Nature Chem.Biol.(2009),5:647-654(Clark)、国際公開第00/23458号(Harbury)、Nature Methods(2006),3(7),561-570,2006(Miller)、Nat.Biotechnol.2004;22,568-574(Melkko)、Nature.(1990);346(6287),818-822(Ellington)、又はProc Natl Acad Sci USA(1997).94(23):12297-302(Roberts)が挙げられる。
【0093】
言い換えれば、第1の態様の工程(i)のインビトロディスプレイライブラリは、先行技術に記載されているような多くの方法で作製することができる。
【0094】
理論に限定されるものではないが、インビトロディスプレイライブラリ技術の本明細書における好適な例としては、DNAコード化化学ライブラリ技術、アプタマ技術、RNA/DNAディスプレイ技術、例えばCISディスプレイ、リボソームディスプレイ、mRNAディスプレイ又はビーズディスプレイシステム(コード化のために核酸を使用する)が挙げられる。
【0095】
先行技術(例えば、欧州特許第1809743号B1(Vipergen)を参照されたい)に記載されているように、B構造体の核酸分子は、例えば、PNA、LNA、RNA、DNA又はそれらの組み合わせとすることができる。好ましくは、B構造体の核酸分子はDNAである。
【0096】
本発明の好ましい実施形態では、B構造体の結合実体(表現型)に結合した核酸分子(遺伝子型)は、2本鎖核酸分子でもよい。
【0097】
本発明の好ましい実施形態では、B構造体の結合実体(表現型)に結合した核酸分子(遺伝子型)は、少なくとも0%の2本鎖(すなわち、1本鎖)であってよく、少なくとも10%の2本鎖、少なくとも20%の2本鎖、少なくとも30%の2本鎖、少なくとも40%の2本鎖、少なくとも50%の2本鎖、少なくとも60%の2本鎖、少なくとも70%の2本鎖、少なくとも80%の2本鎖、少なくとも90%の2本鎖、又は100%の2本鎖であってよい。
【0098】
本発明の好ましい実施形態では、B構造体の結合実体(表現型)に結合した核酸分子(遺伝子型)は、1つのPCRプライミング部位又はその一部を含むことができる。
【0099】
本発明の好ましい実施形態では、B構造体の結合実体(表現型)に結合した核酸分子(遺伝子型)は、2つのPCRプライミング部位又はその一部を含むことができる。
【0100】
本発明の好ましい実施形態では、B構造体の結合実体(表現型)に結合した核酸分子(遺伝子型)は、少なくとも3つのPCRプライミング部位又はその一部を含むことができる。
【0101】
本発明のいくつかの実施形態では、PCRプライミング部位の一部は、少なくとも5ヌクレオチド、少なくとも6ヌクレオチド、少なくとも7ヌクレオチド、少なくとも8ヌクレオチド、少なくとも9ヌクレオチド、少なくとも10ヌクレオチド、少なくとも11ヌクレオチド、少なくとも12ヌクレオチド、少なくとも13ヌクレオチド、少なくとも14ヌクレオチド、少なくとも15ヌクレオチド、少なくとも16ヌクレオチド、少なくとも17ヌクレオチド、少なくとも18ヌクレオチド、少なくとも19ヌクレオチド、又は少なくとも20ヌクレオチドを含む。
【0102】
本発明のいくつかの実施形態では、B構造体の結合実体(表現型)に結合した核酸分子(遺伝子型)は、本明細書に記載の方法で使用される別の関連する核酸分子(遺伝子型)の1本鎖オーバーハングに対する1本鎖オーバーハング逆相補体を含むことができる(例えば、以下で説明するようにベイトに結合した核酸分子)。オーバーハングは、好ましくは、1ヌクレオチド、2ヌクレオチド、3ヌクレオチド、4ヌクレオチド、5ヌクレオチド、6ヌクレオチド、7ヌクレオチド、8ヌクレオチド、9ヌクレオチド、又は10ヌクレオチド長であってよい。
【0103】
結合実体は、目的の任意の好適な結合実体であってよく、ライブラリの結合実体は、平均分子量MWが10000ダルトン未満、より好ましくは平均分子量MWが5000ダルトン未満、更により好ましくは平均分子量MWが1000ダルトン未満の化合物である。
【0104】
本明細書に関連する化合物結合実体の好適な例は、先行技術において見出すことができ、例えば、欧州特許第1809743号B1(Vipergen)、欧州特許第1402024号B1(Nuevolution)、欧州特許第1423400号B1(David Liu)、Nature Chem.Biol.(2009),5:647-654(Clark)、国際公開第00/23458号(Harbury)、Nature Methods(2006),3(7),561-570,2006(Miller)、 Nat.Biotechnol.2004;22,568-574(Melkko)、 Nature.(1990);346(6287),818-822(Ellington)、又はProc Natl Acad Sci USA(1997).94(23):12297-302(Roberts)を参照されたい。
【0105】
簡潔には、当業者は、本文脈において目的とすることができるよりも非常に多くの異なる可能な結合実体を認識している。
【0106】
第1の態様の工程(ii)は、「少なくとも1000個の異なる結合実体B(式中、n=1000以上)」を示す。
【0107】
実際には、工程(i)のライブラリには、更に多くの異なる結合実体、例えば少なくとも10、少なくとも10又は少なくとも10の異なる結合実体が存在でき、すなわちn=少なくとも10、n=少なくとも10又はn=少なくとも10である。
【0108】
本明細書の実施例では、多数(約10)の異なる結合実体を含むインビトロディスプレイライブラリを、単一の個々の細胞(すなわち、アフリカツメガエル卵母細胞)に(注入によって)導入することが可能であることが示されている。
【0109】
したがって、ライブラリがちょうど10個の異なる結合実体を含む理論的状況を本明細書ではB(n=10)又はB10 として表すことができる。
【0110】
理論に限定されるものではないが、1020を超える異なる結合実体を有するライブラリを作製することは困難であり得る。
【0111】
工程(ii)(b)は、
「(b):標的分子に結合することができる結合実体を含むB構造体は、同じ標的に結合することができない結合実体を含むB構造体よりも、対応するT構造体により効率的に結合する条件である結合条件下において、ライブラリが細胞に導入され、細胞内で、結合実体の少なくとも1つを少なくとも1つの標的に結合させ、それにより、BBoundToT構造体と呼ばれる、T構造体に結合したB構造体を含む複合体を細胞内に作製する」
ことを示す。
【0112】
用語「より効率的に結合する」は、例えば、より高い親和性、より速いオンレート、又はより遅い解離速度等の一般的な方法に従って理解されるべきである。
【0113】
当業者に知られているように、本文脈において、この「より効率的に結合する」効果が得られる条件下で工程(ii)(b)を実施することは当業者にとって日常的な作業(ルーチンワーク)である。
【0114】
工程(ii)(b)の結合条件を最適化して、工程(ii)(b)の必要な「より効率的に結合する」効果を得ることは、当業者にとって日常的な作業であろう。
【0115】
上述のように、工程(ii)(b)の「結合条件」は、一般に、細胞内の天然の結合条件であり、すなわち、本発明の利点の1つは、結合実体(リガンド)が、細胞結合条件内で天然であり得る工程(ii)(b)の「結合条件」下で標的に結合できることである。
【0116】
当業者に知られているように、本明細書では、関連する最適化パラメータは、例えば、非イオン強度、温度等であってもよい。
【0117】
したがって、いずれの実際的な本明細書の関連状況下では、当業者は、(例えば結合条件の適切な日常的調整の後で)工程(ii)(b)の結合条件下で機能するか否かについて合理的な疑いはない。
【0118】
好ましい実施形態では、工程(ii)(b)は、標的分子に結合することができる結合実体を含むB構造体が、同じ標的に結合することができない結合実体を含むB構造体よりも10倍(より好ましくは100倍、更に好ましくは1000倍)効率的に対応するT構造体に結合する結合条件下で実施される。
【0119】
本明細書に記載の方法は、結合実体の標的への結合について主要な結合特性を最適化することを可能にする。例えば、結合実体及び標的の効力(親和性)、会合速度(オンレート)又は解離半減期(オフレート)である。
【0120】
親和性に基づいた選択は、結合工程(ii)(b)において、例えば平衡条件を使用することによって達成され、結合工程における標的濃度によって制御され、例えば、標的濃度より10倍小さいKを有するディスプレイライブラリの結合実体の分子の90%が結合した標的である結合条件、又は標的濃度より2倍小さいKを有するディスプレイライブラリの結合実体の分子の90%が結合した標的である結合条件である。
【0121】
本発明の好ましい実施形態では、「結合工程の工程(ii)(b)」におけるT構造体の濃度は、少なくとも10-15M、少なくとも10-14M、少なくとも10-13M、少なくとも10-12M、少なくとも10-11M、少なくとも10-10M、少なくとも10-9M、少なくとも10-8M、少なくとも10-7M、少なくとも10-6M、少なくとも10-5M、又は少なくとも10-4Mである。
【0122】
本明細書の実施例(以下を参照)では、「結合工程」工程(ii)(b)のT構造体の濃度は約200x10-9Mであった。
【0123】
あるいは、会合速度に基づく選択は、結合工程の工程(ii)(b)を可能とする時間を制御することによって達成され、したがって、「結合工程」は、結合平衡条件に達するのに必要な時間よりも短い期間実行され得る。
【0124】
[第1の態様の工程(iii)]
上で説明されたように、工程(iii)は、
「(iii):(ii)の細胞を溶解して、細胞膜を破壊し、
(A):細胞から(ii)のBBoundToT構造体を取り出し、それによってBBoundToT構造体を含む溶液を得ること、そして当該BBoundToT構造体は細胞内にはないこと、又は、
(B):工程(ii)で標的に結合し且つ工程(iii)の前に標識されたB構造体を、工程(ii)で標的に結合しなかったB構造体から当該標識されたB構造体を区別することを可能にするような方法で細胞から取り出し、それにより、結合剤標識されたB構造体を含む溶液を得ること、そして当該結合剤標識されたB構造体は細胞内にはないこと」
を示す。
【0125】
工程(iii)は、「(ii)の細胞を溶解して、細胞膜を破壊する」ことに言及し、本質的に、この工程は、例えば機械破砕(例えば、遠心分離又はピペット操作)又は化学的溶解(例えば、SDSを使用して膜を溶解することによって)等の従来技術の既知の技術に基づいて行うことができる。
【0126】
当業者に共通の一般知識及び本明細書の技術的教示(以下を参照されたい)を考慮して、当業者は、多くの異なる好適な方法で工程(iii)を実行することができる。
【0127】
当業者によって理解され、本明細書で論じられるように、選択的な工程(iii)(A)を使用するか工程(iii)(B)を使用するかは、同定工程(iv)をどのように行うことが好ましいかに関連すると見なし得る。
【0128】
工程(iii)は工程(iii)(A)であることが好ましい場合がある。
【0129】
本願の図1に示すように、工程(iii)が工程(iii)(A)である状況では、例えば、工程(iv)は、
- BBoundToT構造体の標的を固体支持体に結合させることを介して、溶液(iii)(A)のBBoundToT構造体を固体支持体に結合させ、標的に結合せずそれによって固体支持体に結合しないB構造体を除去すること、及び、
- 固体支持体に結合したBBoundToT構造体の結合実体を同定することを可能にする特異的核酸配列情報の使用を介して、(ii)の細胞内で少なくとも1つの目的の標的に結合する少なくとも1つの個々の結合実体を同定すること、
によって行われる。
【0130】
本願の図2及び本明細書の実施例に表されるように、工程(iii)が工程(iii)(A)である状況において、本明細書に記載の方法は、好ましくは、以下の方法によって行われる。即ち、
- 第1の態様の(i)のT構造体はプレイ(例えば、標的-プレイ融合タンパク質)を含み、第1の態様の工程(ii)では、核酸分子に結合した導入されたベイト(例えば、B構造体の核酸分子に相補的な付着末端を有する)も存在し、核酸分子は、特定の標的を同定することを可能にする特異的核酸配列情報を含み、ベイトは工程(ii)の標的のプレイに結合することによって、ベイトが標的のプレイに結合したBBoundToT構造体を作製すること、
- 溶解工程(iii)(A)後、BBoundToT構造体の核酸分子を標的のプレイに結合したベイトと融合させることであって(例えば、リガーゼの使用によるライゲーションによって)、融合した核酸分子は結合実体及び標的を同定することを可能にする配列情報を含むこと、及び、
- 結合実体及び先行工程の融合した(例えばライゲーションした)核酸分子を、標的を同定することを可能にする特異的核酸配列情報の使用を介して、(ii)の細胞内で少なくとも1つの目的の標的に結合する少なくとも1つの個々の結合実体を同定こと、
によって行うことができる。
【0131】
「BBoundToT構造体の核酸分子を、標的のプレイに結合したベイトと融合させる(例えば、リガーゼの使用を介してライゲーションすることによって)」工程の前に、希釈工程(例えば、細胞溶解工程(iii)から得られた溶液(例えば、上清)の希釈工程)を行うことが好ましい場合がある。
【0132】
細胞溶解工程(iii)(好ましくは工程(iii)(A))から得られた溶液(例えば、上清)の希釈工程は、溶液を少なくとも10倍、例えば少なくとも10倍、少なくとも10倍又は少なくとも10倍に希釈することが好ましい場合がある。
本明細書の実施例(下記参照)では、溶液の希釈は約10倍であった。
【0133】
この希釈工程の利点は、結合していないB構造体及びT構造体(すなわち、それ自体単独のB構造体及びT構造体)が希釈後に溶液中で更に物理的に互いに離れることができ、「BBoundToT構造体の核酸分子を融合する」工程後の「偽陽性」が少なくなることである。
【0134】
「BBoundToT構造体の核酸分子を、標的のプレイに結合したベイトと融合させる(例えば、リガーゼの使用を介してライゲーションすることによって)」工程の後、例えば後に続く増幅(例えばPCRによる)工程のために、例えばより純粋な核酸分子(例えばDNA)を有するために、融合(例えば、ライゲーションされた)核酸分子の精製を行うことが好ましい場合がある。
【0135】
当業者は、限定されることなく例えば、アガロースゲル電気泳動、ポリアクリルアミドゲル電気泳動、スピンカラム等によって、目的の核酸分子(例えばDNA)を精製するために、多くの異なる戦略を日常的に同定することができる。
【0136】
「同定する」工程(iv)は、好ましくは、結合実体及び標的についての配列情報を含む融合核酸分子が(好ましくはポリメラーゼ連鎖反応(PCR)の使用によって)増幅される工程を含む。
【0137】
明らかなように、ただ1つの標的(すなわち、工程(i)においてn=1)が存在する場合、少なくとも1つの個々の結合実体の同定は、結合実体を同定することを可能にする特異的核酸配列情報の使用によって本質的に行われる。
【0138】
本明細書に関連するバイオテクノロジーの分野内の先行技術には、例えば、
-プレイ:四量体ストレプトアビジン及びベイト:ビオチン、
-プレイ:単量体ストレプトアビジン(例えば、mSA2)及びベイト:ビオチン、
-プレイ:His-タグ及びベイト:NTA、
-プレイ:SNAP-tag(登録商標)、及びベイト:ベンジルグアニン(BG)、
-プレイ:Halo-Tag(登録商標)及びベイト:官能基に結合した反応性クロロアルカンリンカー、
-プレイ:炭酸脱水酵素IX(CAIX)及びベイト:VD11-4-2、又は
-プレイ:マルトース結合タンパク質(MBP)及びベイト:マルトース又はマルトトリオース
などの多数の本明細書に好適な「プレイ-ベイト」系が記載されている。
【0139】
本明細書の実施例では、「プレイ-ベイト」系は、プレイ:炭酸脱水酵素IX(CAIX)及びベイト:VD11-4-2であり、したがって、これは好ましい「プレイ-ベイト」系である。
【0140】
「プレイ-ベイト」系、プレイ:炭酸脱水酵素IX(CAIX)及びベイト:VD11-4-2は、例えば、V.Dudutiene et al.の論文(Discovery and Characterization of Novel Selective Inhibitors of Carbonic Anhydrase IX’’;J.Med.Chem.2014,57,9435-9446)に記載されており、そこでは、VD11-4-2は、次の構造を有する小型化合物(低分子化合物)であると記載されている。
【0141】
【化1】
【0142】
好ましくは、プレイを含む第1の態様の(i)のT構造体は、標的-プレイ融合タンパク質(例えば、標的-CAIX)を細胞内で発現させることによって得られ、この例については、例えば、本明細書の実施例を参照されたい。
【0143】
目的の細胞内で標的-プレイ融合タンパク質を発現させることは、当業者にとって日常的な作業である。
【0144】
可能な実施形態は、ベイトが、結合実体(すなわちリガンド)の結合部位とは異なる標的の結合部位に実際に結合する場合であり得る。
【0145】
本文脈において、「BBoundToT構造体の核酸分子を標的のプレイに結合したベイトと融合させること(例えば、ライゲーションによって)」は、2つの遺伝子型(すなわち、結合実体に関する配列情報を有する核酸分子及び標的に関する配列情報を有する核酸分子)によって保持される遺伝情報を結合することとして理解されるものとする。
【0146】
当業者に知られているように(例えば欧州特許第2622073号B1(Vipergen)の段落[0166]を参照されたい)、この「融合」は、例えば、
a)例えばオーバーラップPCR又はオーバーラップゲノム伸長による、情報伝達;
b)例えば各核酸分子からの鎖の少なくとも1つの間にホスホジエステル結合を形成するDNAリガーゼによって、酵素が増幅可能な促進結合を形成することにより触媒される情報連結
などのいくつかの方法によって達成することができる。
【0147】
好ましくは、融合は、リガーゼの使用によるライゲーションによって行われる。
【0148】
例えばリガーゼ酵素を使用して核酸分子の融合を行う場合、核酸分子間に塩基対形成重複領域を有する必要はない。
【0149】
しかし、ベイトに結合した核酸分子が、B構造体の核酸分子に対して相補的付着末端を有する核酸分子であることが好ましく(例えばリガーゼが使用されるか否かにかかわらず独立して)、より好ましくは、B構造体の核酸分子及びベイトに結合した核酸分子の両方の核酸分子の相補的な付着末端にホスホロチオエート結合が存在することである。
【0150】
好ましくは、B構造体の核酸分子及びベイトに結合した核酸分子の相補的付着末端のリン酸骨格にホスホロチオエート結合が存在することである。ホスホロチオエート結合の数は、各核酸分子について、優先的には、少なくとも1つのホスホロチオエート結合、少なくとも2つのホスホロチオエート結合、又はより好ましくは少なくとも3つのホスホロチオエート結合であり得る。
【0151】
本明細書の実施例1では、3つのホスホロチオエート結合を使用し、本明細書の実施例2の結果は、3つのホスホロチオエート結合の使用が、未修飾DNA(すなわち、0個のホスホロチオエート結合)の使用と比較して、本状況において驚くべき有意な技術的利点を与えることを実証している。
【0152】
いくつかの場合、ホスホロチオエート結合の数は、各核酸分子に対して、優先的には少なくとも4個のホスホロチオエート結合、例えば少なくとも10個のホスホロチオエート結合又は少なくとも20個のホスホロチオエート結合であってよい。
【0153】
B構造体と同様に、ベイトに結合した核酸分子は、例えばPNA、LNA、RNA、DNA又はそれらの組み合わせであり、好ましくは、核酸分子はDNAである。
【0154】
上記のB構造体の核酸分子の他の好ましい実施形態(例えば、2本鎖核酸分子とすることができる、PCRプライミング部位を含むことができる等)もまた、ベイトに結合した核酸分子の好ましい実施形態とすることができる。
【0155】
「核酸分子を融合すること(例えば、ライゲーションによって)」は、BBoundToT構造体の標的に対する結合実体の有意な結合が存在する場合に行うことができ、この例を本願の図2及び本明細書の実施例に表す。
【0156】
しかし、例えば、欧州特許第2622073号B1(Vipergen)で論じられているように、BBoundToT構造体の標的に対する結合実体の結合が本質的に存在しない「核酸分子の融合(例えば、ライゲーションによって)」が行われてもよく、すなわち、これもまた、本明細書に記載の方法に関して可能な選択肢である。
【0157】
したがって、例えば欧州特許第2622073号B1(Vipergen)に沿って、溶解工程後に、BBoundToT構造体の核酸分子を標的のプレイに結合したベイトと融合(例えば、リガーゼの使用を介してライゲーションすることによって)する(iiiA)の工程を、欧州特許第2622073号B1(Vipergen)の請求項1の工程(iv)~(vi)に従って行うことができ、すなわち、
(A)標的分子に結合することができる結合実体を含むB構造体が、同じ標的に結合することができない結合実体を含有するB構造体よりも、対応するT構造体により効率的に結合する条件である結合条件下で、標的のプレイに結合したベイトを有する作製されたBBoundToT構造体をインビトロ区画化システムに適用することであって、好ましくは、B構造体、T構造体及びBBoundToT構造体が個々の区画に無作為に入る条件下で、工程(ii)で導入されたB構造体の数よりも、区画化システムが少なくとも2倍多い個々の区画を含むこと、及び、
(B)B構造体の核酸分子をT構造体の核酸分子に融合することであって、双方とも同じ個々の区画内に存在し、B構造体の核酸分子をT構造体の核酸分子と融合させ、この構造体は、本明細書ではBTFused構造体と呼ばれ、BTFused構造体は、結合実体を同定することを可能にする特異的核酸配列情報及び特異的標的を同定することを可能にする特異的核酸配列情報を含むこと、及び、
(C)B構造体及びT構造体の核酸分子の融合が存在しない条件下で工程(B)の個々の区画の内容物を組み合わせることであって、BTFused構造体のライブラリを得るための、いずれの新たなBTFused構造体は工程(B)で作製されず、標的及び結合実体の非結合対に由来するBTFused構造体と比較した場合、ライブラリが、標的及び結合実体の結合対に由来するBTFused構造体の種の濃縮ライブラリであり、BBoundToT構造体は、工程(A)の個々の区画内で溶液中に懸濁されたままであり、及び/又は
方法が、固体支持体への標的固定化に依存せず、
工程(C)の濃縮ライブラリに存在するBTFused構造体の核酸を増幅させること、
によって行うことができる。
【0158】
第1の態様の工程(iii)は、工程(iii)(B)であることが好ましい場合がある。
【0159】
工程(iii)が工程(iii)(B)である場合、本明細書に記載の方法は、好ましくは、
- 第1の態様の(i)のT構造体が、標的に融合した酵素を含み、この酵素は、BBoundToT構造体のB構造体に対して反応させることを可能にする第1の態様の(ii)のBBoundToT構造体の結合実体及び標的の結合によって作り出された近接性に起因し、BBoundToT構造体はB構造体を標識し、それによって、BBoundToT構造体のB構造体を、標的に結合していないB構造体と区別することを可能にする。
【0160】
一つの例は、例えば、標的に融合した酵素がリガーゼであり、第1の態様の工程(ii)において、B構造体の核酸分子に対する相補的付着末端を有する導入された核酸分子も存在し、近接に起因するリガーゼが、導入された核酸分子をB構造体の核酸分子にライゲーションし、それによってB構造体を標識することであり得る。
【0161】
別の例は、例えば、標的に融合した酵素が、近接に起因してB構造体の核酸分子を基質として使用して反応を行い、それによってB構造体を標識することができる酵素であってもよく、一例は、例えば核酸分子をビオチン化することができる酵素とすることができる。
【0162】
[第1の態様の工程(iv)]
上記のように工程(iv)は、
「(iv): (iii)の溶液及び、B構造体の結合実体を同定することを可能にする特異的核酸配列情報を含む核酸分子の使用を介して、(ii)の細胞内で少なくとも1つの目的の標的に結合する少なくとも1つの個々の結合実体を同定すること」を示す。
【0163】
当業者によって理解されるように、結合実体を同定することを可能にする特異的核酸配列情報の使用は、好ましくは、ある種の配列決定を必要とするであろう。
目的の核酸分子を配列決定することは、当業者にとって日常的な作業である。
【0164】
工程(iv)は、例えば本明細書で論じるような従来技術の既知の技術に基づいて行うことができる。
【0165】
当業者によって理解され、本明細書で論じられるように、選択的な工程(iii)(A)を使用するか工程(iii)(B)を使用するかは、同定工程(iv)をどのように行うことが好ましいかに関連すると見なすことができる。
【0166】
第1の態様の「同定する」工程(iv)は、好ましくは、B構造体の結合実体を同定することを可能にする特定の核酸配列情報を含む核酸分子を増幅させる工程を含む。
【0167】
当業者は、融合遺伝子型において核酸を増幅するために、非常に多くの異なる戦略、例えば限定されることなく、PCR(United States Patent 4,683,202;Mullis)、エマルジョンPCR(Nakano et al.,J Biotechnol.2003;102(2):117-24)、デジタルPCR(Vogelstein,B;Kinzler KW(1999).’’Digital PCR’’.Proc Natl Acad Sci U S A.96(16):9236-41)、NASBA(Compton J.Nucleic acid sequence-based amplification.Nature.1991;350(6313):91-2)、又はローリングサークル増幅(American Journal of Pathology.2001;159:63-69)などを日常的に認めることができる。
【0168】
好ましくは、核酸分子はPCRによって増幅される。
【0169】
同定工程(iv)において、(ii)の細胞内で少なくとも1つの目的の標的に結合する少なくとも2つ(例えば、少なくとも3又は少なくとも6又は少なくとも10)の異なる個々の結合実体を同定することが好ましい場合がある。
なお、本明細書の実施例(下記参照)では、同定工程(iv)において、約10の異なる個々の結合実体を同定した。
【0170】
この工程(iv)において、例えば少なくとも10個の異なる個々の結合実体を同定することができるためには、
工程(iii)(A)の溶液が、10超の異なるBBoundToT構造体を含むか、又は
工程(iii)(B)の溶液が、10超の異なる「結合剤標識B構造体」を含むこと、
が必要であることは明らかである。
【実施例
【0171】
[実施例1]
約10個の異なる結合実体を含むYoctoReactorライブラリに対するp38の細胞内スクリーニング及び比較インビトロ(すなわち、細胞内でない)スクリーニング
概要については、図1及び図2を参照されたい。
【0172】
[方法]
使用したDNAオリゴヌクレオチド
vip7460
AAAGCTGGGAGACACCA
=ホスホロチオエート化DNA塩基)
vip7461
GTGTCTCCCAGCTTTGA
=ホスホロチオエート化DNA塩基)
vip7442
ACTAAGCCTTGATGGCCACATTCCTACTTCTCCCTAAGGTGCAGTTTTGCCAAGG
=ホスホロチオエート化DNA塩基)
vip7463
xCCTTGGCAAAACTGCACCTTAGGGAGAAGTAGGAATGTGGCCATCAAGGCTTAGTGC
(x=5’-アミノ修飾因子C6、=ホスホロチオエート化DNA塩基)
【0173】
YoctoReactorライブラリ(Lib027b_TA01)の調製
YoctoReactorライブラリは、本質的に他の箇所に記載されているように(Hansen et al.J.Am.Chem.Soc.,2009,131(3),pp 1322-1327)三量体フォーマットで構築され、以下の修飾を有する:
20量体アダプタ核酸分子(オリゴヌクレオチドvip7460及びvip7461からなる)をYoctoReactorライブラリにライゲーションし、それによりアダプタ修飾ライブラリ、すなわちLib027b_TA01を作製した。
構築されたYoctoReactor DNAは、標的DNA上の重複領域(2ヌクレオチド3’-オーバーハング)に相補的な重複領域(2ヌクレオチド3’-オーバーハング)を有する。
【0174】
[材料]
独自のVipergen YoctoReactorライブラリ(batch Lib027b、約1.1x10の異なる分子)
オリゴヌクレオチドvip7460及びvip7461(100μM原料調製、Eurofins Genomics)
NaCl(4M原料調製、Sigma-Aldrich)
HEPES、pH7.5(1M、Sigma-Aldrich)
Tris-HCl、pH7.5(1M、Sigma-Aldrich)
グリコーゲン(20mg/mL、Thermo Fisher Scientific)
エタノール(96%、Honeywell)
MgCl(2M、Sigma-Aldrich)
PEG4000(50%、Thermo Fisher Scientific)
ATP(100mM原料調製、Sigma-Aldrich)
T4DNAリガーゼ(30Weiss U/μl、Thermo Fisher Scientific)
水(分子生物学グレード、Sigma-Aldrich)
20% TBE-PAGEゲル(Kem-En-Tec)
NucleoSpin Gel及びPCR Clean-up column(Macherey-Nagel)
Qubit dsDNA HS Assay Kit(Thermo Fisher Scientific)
Quant-iT PicoGreen dsDNA Assay Kit(Thermo Fisher Scientific)
【0175】
[プロトコル]
公開されているプロトコル(https://eu.idtdna.com/pages/education/decoded/article/annealing-oligonucleotides)に従って、vip7460及びvip7461をアニーリングすることによって20-merの核酸アダプタ分子を調製した。4MのNaCl20μl、グリコーゲン1μl及び氷冷エタノール1mlを300μlのアニーリング反応及び遠心分離(20000g、4℃で少なくとも30分間)に加えることによって、アニーリングしたオリゴを沈殿させた。ペレットを80%エタノールで2回洗浄し、室温で風乾し、100μMの濃度まで水に溶解した。濃度を(製造業者のプロトコルに従って)Qubitアッセイによって確認し、20-mer核酸アダプタの完全性を20%TBE-PAGE(200V、55分、20℃)で検証した。
【0176】
YoctoReactorライブラリ(Lib027b)及びアニーリングしたアダプタ(2倍モル過剰)を合計200μLの水中で混合し、続いて200μLの2Xライゲーションマスターミックス(80mMのTris-HCl、pH7.5、20mMのMgCl、4%PEG4000、2mMのATP及び60U T4 DNAリガーゼ)を添加することによって、20mer-核酸アダプタを独自のYoctoReactorライブラリ(batch Lib027b)にライゲーションした。ライゲーションを室温で一晩進行させた。氷冷エタノール1.2mL、グリコーゲン1μL及び4MのNaCl40μLを添加することによって、ライゲーションしたYoctoReactorライブラリを沈殿させた。混合物を-20℃で1時間保存した後、遠心分離(20000g、4℃で少なくとも30分間)によってペレット化し、室温で風乾した。過剰の20mer-核酸アダプタを排除するために、ライゲーションしたYoctoReactorライブラリをNucleoSpin Gel及びPCR Clean-up columnsで精製した。精製したアダプタ修飾YoctoReactorライブラリを沈殿させ(NaCl、グリコーゲン、及び氷冷エタノール)、47.9μMの濃度(製造業者のプロトコルに従ってPicoGreen Assayによって測定した)で緩衝液(5mMのTris-HCl、pH7.5、20mMのNaCl、0.001%Tween20)に溶解した。重要なことに、アダプタ修飾YoctoReactorライブラリ(すなわち、Lib027b_TA01)は、vip7442/vip7463標的DNAへのライゲーションにおいて100%の反応能を有した。
【0177】
標的DNAに結合したCAIX結合剤(すなわち、ベイト=VD11-4-2)の調製(TD_VD11-4-2)
小分子CAIX結合剤VD11-4-2を、60mer-オリゴヌクレオチド(vip7463)に共有結合させた。その後、オリゴヌクレオチドを逆相補的オリゴヌクレオチド(vip7442)と組み合わせて、ベイト化合物VD11-4-2に結合した2本鎖核酸分子(すなわち標的DNA)を形成した。構築された標的DNA(すなわち、TD_VD11-4-2)は、YoctoReactor DNA上の重複領域(2ヌクレオチド3’-オーバーハング)と相補的な重複領域(2ヌクレオチド3’-オーバーハング)を有する。
【0178】
[材料]
ペンタフルオロフェニルスルホンアミド(Fluorochem、034664)
8-メルカプトオクタン酸(Sigma-Aldrich、675075)
無水メタノール(Fisher Scientific、10499560、4超ÅMSで販売)
トリエチルアミン(Sigma-Aldrich、90340)
過酸化水素水(Sigma-Aldrich、95321)
シクロオクチルアミン(Sigma-Aldrich、C110604)
HPLCグレード水(Fisher Scientific、10221712)
酢酸トリエチルアンモニウム(Sigma-Aldrich、90358)
アセトニトリル(Fisher Scientific、10629112)
DMSO(Sigma-Aldrich、D8418)
エチル-(N’,N’-ジメチルアミノ)プロピルカルボジイミド塩酸塩(EDC、Sigma-Aldrich、E6383)
N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS、Sigma-Aldrich、130672)
N-メチルピロリドン(NMP、Sigma-Aldrich、494496)
【0179】
[プロトコル]
VD11-4-2の類似体を、V.Dudutiene et al.(’’Discovery and Characterization of Novel Selective Inhibitors of Carbonic Anhydrase IX’’;J.Med.Chem.2014,57,9435-9446)の適合した手順を用いて調製した。2-メルカプトエタノールの代わりに8-メルカプトオクタン酸を使用し、遠位カルボン酸を有する類似体を生成した。
【0180】
【化2】
【0181】
続いてHPLC精製生成物(3.3mg)を、N-メチルピロリジン(NMP、60μL)中のエチル-(N’,N’-ジメチルアミノ)プロピルカルボジイミド塩酸塩(EDC、1.2mg)及びN-ヒドロキシスクシンイミド(NHS、0.7mg)を用いて活性化した。粗製活性化混合物(50μL)を、vip7463(10nmol、100μMの100μL)、HEPBS緩衝液(100μL、1M原料)、NMP(200μL)及び水(50μL)の予め混合した溶液に添加した。
【0182】
16時間のカップリング後、DNAをEtOH沈殿させ、粗製複合物を、水/MeCN中の酢酸トリエチルアンモニウムを使用するRP-HPLCによって精製した。所望の複合物を含む画分を凍結乾燥によって濃縮し、最終生成物を水に溶解した。LCMSによるQC(ESI、negモード):obs m/z19322、計算値19324.6(以下のHPLCクロマトグラムを参照)。
【0183】
【化3】
【0184】
続いて、精製された1本鎖複合物、すなわちvip7463_VD11-4-2を、逆相補的DNAオリゴヌクレオチドvip7442にハイブリダイズさせ、これによりVD11-4-2に結合した2本鎖標的DNA(すなわち、TD_VD11-4-2)を生成した。
【0185】
卵母細胞外のDNAに共役したp38に対するインビトロスクリーニング(e1、リファレンス)
Lib027b_TA01(すなわち、細胞内スクリーニングに適用されたものと同じYoctoReactorライブラリ)に対するDNAに共役した組換えp38タンパク質におけるインビトロスクリーニング(すなわち、細胞内にない)をリファレンスのために行った。標的DNAへのp38タンパク質の共役、及びそれに続くLib027b_TA01に対するスクリーニング(標的DNAに共役した20nMのp38を、約5.6×1012ライブラリ分子/μlに対してスクリーニングした)を、以前に記載されたように実質的に行った(Petersen et al.,’’Novel p38α MAP kinase inhibitors identified from YoctoReactor DNA-encoded small molecule library’’,Med.Chem.Commun.,2016,7,1332-1339)。
【0186】
卵母細胞で発現したp38に対する細胞内スクリーニング(e2及びe3)
[アフリカツメガエル卵母細胞における標的-プレイ融合タンパク質(例えばCAIX-p38)の発現]
6アミノ酸リンカーを介してヒトCAIXの触媒ドメインにN末端融合したp38(UniProt accession code:Q16539)をコードする遺伝子を合成し、pSP64発現ベクタ(Eurofins Genomics)のHindIII部位とBamHI部位との間にサブクローニングした。ベクタをEcoRIで線状化し、Ambion mMESSAGE mMACHINE SP6 transcription kit(Thermo Fisher Scientific)を用いてmRNAを合成した。mRNAをRNeasyカラム(Qiagen)を介して精製した。
【0187】
Nanoliter2010注入器(World Precision Instruments)を使用して、約50ngのCAIX-p38mRNAを50nLの体積(水で希釈)でアフリカツメガエル卵母細胞(Ecocyte Bioscience)に注入した。実験まで、卵母細胞を修飾したBarthの培地(Modified Barth’s Medium)(mMで、88NaCl、1KCl、0.4CaCl、0.33Ca(NO、0.8MgSO、5Tris-HCl、2.4NaHCO、pH7.4)で、18℃で維持した。
【0188】
[アフリカツメガエル卵母細胞における発現した標的-プレイ融合タンパク質(例えばCAIX-p38)の定量化]
mRNA注入の4日後、ヒトCAIX DuoSet ELISA assay(Bio-techne)を使用して、アフリカツメガエル卵母細胞内のCAIX-p38タンパク質の発現を定量した。対照として、注入されていないアフリカツメガエル卵母細胞を並行して処理した。簡潔には、1つのアフリカツメガエル卵母細胞を遠心分離(20000g、4℃で2分間)によって25μlの緩衝液(PBS中の1mMのEDTA、0.5%Triton X-100、5mMのNaF)内で破砕し、CAIX捕捉抗体でコーティングしたELISAプレートに上清を移し、室温で1時間インキュベートした。全てのウェルを洗浄し(洗浄緩衝液中で3回、PBS中0.05%Tween20)、ビオチン化CAIX検出抗体を添加した。プレートを室温で1時間インキュベートし、全てのウェルを洗浄した。セイヨウワサビペルオキシダーゼに共役したストレプトアビジン(ストレプトアビジン-HRP)を添加し、プレートを暗所において室温で20分間インキュベートした。HRP基質TMB SENS(Kem-En-Tec)を添加する前に、全てのウェルを洗浄した。プレートを暗所において室温で5分間インキュベートした後、2MのHSOの添加によって反応を停止させた。450nmにおける光学密度を、DTX880マルチモード検出器(Beckman Coulter)で測定した。組換えCAIXタンパク質と並行して作製したCAIX標準曲線に基づいて、アフリカツメガエル卵母細胞内で発現されるCAIX-p38タンパク質の濃度は約200nMであると決定した。
【0189】
[アフリカツメガエル卵母細胞への標的DNA及びYoctoReactorライブラリの導入]
約1.1×10個の異なる分子(すなわち、2本鎖核酸分子に結合した潜在的な結合剤)からなる多様なYoctoReactorライブラリ(Lib027b_TA01)を、TD_VD11-4-2(すなわち、ベイト化合物VD11-4-2に共有結合した標的DNA)と混合し、混合物をCAIX-p38タンパク質を発現するアフリカツメガエル卵母細胞に注入した。YoctoReactorライブラリ及びTD_VD11-4-2の注入は、CAIX-p38をコードするmRNAの注入の4日後に行った。合計約6.6×1011個のYoctoReactorライブラリ分子及び1.5×1011個のTD_VD11-4-2分子からなる合計50nLを各卵母細胞に注入した(e2)。並行実験では、Lib027b_TA01/TD_VD11-4-2混合物に、0.1μg/mlのRNaseAを注入前に補充した(e3)。RNaseAの注入を行って、卵母細胞内の選択プロセスに潜在的に影響を及ぼし得る内因性RNAを消化した。
【0190】
アフリカツメガエル卵母細胞を18℃で2~4時間インキュベートした。この期間内に、発現したCAIX-p38タンパク質を、1)YoctoReactorライブラリリガンド(目的のタンパク質p38への結合)、及び2)TD_VD11-4-2(CAIXタグへの結合)に結合させた。
【0191】
[アフリカツメガエル卵母細胞膜の破壊及びDNAライゲーション]
アフリカツメガエル卵母細胞の膜を破壊して、細胞、すなわち、1)YoctoReactorライブラリリガンド及び2)TD_VD11-4-2に結合したCAIX-p38から結合複合体を放出した。CAIX-p38タンパク質(すなわち、それぞれ標的DNA及びYoctoReactorDNA)に結合したDNA断片は重複領域を有し、その結果、2つの断片の潜在的アッセンブリが生じて、DNAライゲーションによってその2つの断片が組み合わされる。両方のDNA断片がCAIX-p38タンパク質に会合すると、ライゲーションは近接によって促進され、したがって所望の結合活性を有するより高い割合のメンバを有する濃縮ライブラリが作製される。
【0192】
アフリカツメガエル卵母細胞膜の破壊のために、1つの卵母細胞を、ATP及びリガーゼを含まない600μlのライゲーション緩衝液中で遠心分離した(20000g、4℃で2分間)。上清(600μl)を、300Weiss unitsのT4DNAリガーゼ(Thermo Fisher Scientific)を補充した合計11 mLのライゲーション緩衝液(50mMのTris-HCl、50mMのNaCl、0.1%Triton X-100、0.75%BSA、9mMのKCl、4.5%グリセロール、1mMのDTT、5mMのMgCl、1mMのATP、pH7.4)に、2段階で希釈した。これにより、結合複合体を合計で約10倍に希釈し、ライゲーションを16℃で4分間進行させた。次いで、11mLの停止緩衝液(50mMのEDTA、0.2μg/μlプロテイナーゼK、0.2%N-ラウリルサルコシンを補充したNTI緩衝液)の添加によりT4DNAリガーゼを不活性化し、その後得られた混合物を65℃で1時間インキュベートした。室温に冷却した後、DNAをNucleoSpin Gel及びPCR Clean-up columns(Macherey-Nagel)で精製した。
【0193】
[ライゲーションしたDNAの増幅]
ライゲーション及び精製したDNA断片をラムダエキソヌクレアーゼで処理し(遊離のライゲーションされていない5’-リン酸化DNA断片を除去するため)、PCRによって増幅した。
PCR混合物(最終濃度):
25μlの精製ライゲーションDNA(PCR鋳型)
1X Vent(-exo)PCR緩衝液(New England Biolabs)
0.4mMのCleanAmp dNTP(tebu-bio)
6mMのMgCl(Sigma-Aldrich)
3%DMSO(Sigma-Aldrich)
0.25μMのフォワードPCRプライマ
0.25μMの逆方向PCRプライマ
1U Vent(-exo)ポリメラーゼ(New England Biolabs)
合計100μlの水
【0194】
PCR機において以下のプログラムを適用することによって、混合物を熱サイクルにかけた。
95℃10分、(95℃30秒、62℃30秒、72℃2分30秒)を27サイクル、72℃2分。
【0195】
得られたDNA断片のライブラリをNucleoSpin Gel及びPCR Clean-up columns(Macherey-Nagel)で精製し、2ラウンド目のPCRにかけて、Illumina配列決定のためのプライミング部位を導入した。
PCR混合物:
5μlの精製増幅DNA(PCR鋳型)
1X Vent(-exo)PCR緩衝液(New England Biolabs)
0.2mMのdNTP(Thermo Fisher Scientific)
6mMのMgCl(Sigma-Aldrich)
0.5Mのベタイン(Sigma-Aldrich)
0.25μMのフォワードIlluminaプライマ
0.25μMの逆方向Illuminaプライマ
1U Vent(-exo)ポリメラーゼ(New England Biolabs)
合計100μlの水
【0196】
混合物を、PCR機において以下のプログラムを適用することによって熱サイクルにかけた。
92℃2分、(92℃30秒、62℃30秒、72℃2分30秒)を10サイクル、72℃2分
【0197】
得られたDNA断片のライブラリをAgencourt AMPure XP(Beckman Coulter Life Sciences)及び分取10% TBE-PAGE(Kem-En-Tec)によって精製し、Illumina DNA配列決定(Fulgent Genetics)にかけた。
【0198】
[Illumina配列決定技術を用いたDNA配列決定による濃縮の分析]
DNA配列決定データを、他の箇所(Petersen et al.,’’Novel p38α MAP kinase inhibitors identified from yoctoReactor DNA-encoded small molecule library’’,Med.Chem.Commun.,2016,7,1332-1339)に記載されているようにデコードし、分析した。
【0199】
所与のライブラリメンバが配列決定サンプル内で観察された回数をカウントすることによって、ランダムライゲーション事象を超えて濃縮されたヒットを同定することができた。多数回観察されたライブラリメンバは標的結合剤(ヒット)であるが、わずか数回観察された化合物は主にランダム事象(バックグラウンド)の結果である。ランダム事象に基づく観察回数は、対数目盛り上で線形減少線(シグナルプロットでは赤色の球)を表す。したがって、減少相からシグナル相への遷移を上回る観測数を有するライブラリメンバは、数学的閾値(MT、シグナルプロットにおける緑色の球)を上回る。3つの個々の選択実験(e1~e3)から、シグナルプロットを作成した(本願の図3のパネルA~C)。シグナルプロットAは、YoctoReactorライブラリLib027b_TA01に対する標的DNAに共役したp38上のスクリーニングに由来し(e1、リファレンス)、シグナルプロットB又はCは、RNaseA共注入なしの卵母細胞で発現したp38上の細胞内スクリーニング(e2)又はRNaseA共注入した卵母細胞で発現したp38上の細胞内スクリーニング(e3)に由来する。e1~e3における約1.1×10個の異なる分子に対するスクリーニングから、本発明者らは、MT(緑色の球)を上回る合計39個のヒットを同定した。39個のヒットを合わせ、DNA配列決定からの3つのデータプールにおける観察数について注釈を付けた(図3のパネルD)。3つの実験のうちの少なくとも1つにおいて、MTを上回る39個のヒットが観察された。有意なヒット数が、リファレンス実験(e1)及び2つの細胞内スクリーニング実験(e2又はe3)の両方において見出された。ヒットID31番は、以前に検証されたp38a阻害剤(vpc00249;IC500.51 μM;Petersen et al.,’’Novel p38α MAP kinase inhibitors identified from yoctoReactor DNA-encoded small molecule library’’,Med.Chem.Commun.,2016,7,1332-1339)であった。
【0200】
[結論]
上述のように、約10個の異なる結合実体のインビトロディスプレイライブラリに基づいて、この「細胞内」スクリーニング例では、同定工程(第1の態様の同定工程(iv)に対応)において、以前に検証されたp38阻害剤といくつかの検証されていないヒットを含む、約10~30個の異なる個々の良好な結合剤化合物結合実体を同定した。本文脈において、これは、ライブラリの許容可能な代表的な多数の良好な結合剤化合物と考えられる。
【0201】
同定された多くの良好な結合剤実体が許容可能であると考えられる理由は、この標的(すなわちp38)について、上記のように、同じインビトロディスプレイライブラリの比較インビトロ(すなわち、細胞内でない)スクリーニングが行われ、約10個の異なる個々の良好な結合剤が同定され、すなわち、「細胞内」スクリーニングの同定された数が、比較インビトロスクリーニングと少なくとも同等であった、すなわち許容可能であると考えられたことに関連する。
【0202】
更に、本発明の細胞内スクリーニングで同定された個々の良好な結合剤は、比較インビトロスクリーニングで同定された良好な結合剤に対応していた。
【0203】
例えば、この例の「細胞内」スクリーニングにおいて、1つ又は2つの個々の良好な結合剤化合物結合実体のみが同定された場合、この例で実際に特定された約10個の異なる個々の良好な結合剤ほど良好であるとは考えられなかったであろう。この理由の1つは、1~2個の個々の良好な結合剤のみが同定された場合、可能性のある関連する良好な結合剤を失うリスクがあった可能性があること、すなわち貴重な良好な結合剤情報を失うリスクがあった可能性があることに関連する。
【0204】
論じられたように、「細胞内」及び比較インビトロスクリーニングのいくつかの同定された良好な結合剤は同じであり、「細胞内」スクリーニングのいくつかの良好な結合剤は比較インビトロスクリーニングでは同定されなかった。この理由は、「現実の」良好な結合剤のいくつかは、本実施例の「細胞内」スクリーニング方法、すなわち本発明の方法の天然の「細胞内」結合条件下(すなわち、第1の態様の工程(ii)(b))でのみ同定できることに関連し得る。
【0205】
[実施例2]
比較例 - 3つのホスホロチオエート結合の使用を未修飾DNA(すなわち、ホスホロチオエート結合が0である)と比較した
【0206】
[方法]
使用したDNAオリゴヌクレオチド(概略図)
【0207】
アフリカツメガエル卵母細胞に注入された2本鎖核酸分子(即ち標的DNA,TD)
【化4】

注:TD_001、TD_002及びTD_003は、下側鎖の3’末端に2-ntのオーバーハングを含み、これはライゲーションDNA(すなわちLD001)上の2-ntのオーバーハングと相補的である。
【0208】
2本鎖核酸ライゲーション分子(即ちライゲーションDNA,LD)
【化5】

注:LD_001は、上側鎖の3’末端に2-ntオーバーハングを含み、これは標的DNA(すなわち、TD_001、TD_002、TD_003)上の2-ntオーバーハングに相補的である。
【0209】
アフリカツメガエル卵母細胞への注入及びアフリカツメガエル卵母細胞からの抽出後のホスホロチオエート結合の有無による標的DNAのライゲーション能の評価
【0210】
ホスホロチオエート化DNA塩基(すなわち、TD_001、TD_002及びTD_003)を含む又は含まない標的DNAをアフリカツメガエル卵母細胞に注入した。アフリカツメガエル卵母細胞膜が破壊され、注入された標的DNAが回収される前に、時間間隔を増加させながら、標的DNAを卵母細胞内でインキュベートした。回収した標的DNAのライゲーション能を、ライゲーションDNA(すなわち、LD_001)とのDNAライゲーション反応において調べた。細胞内のインキュベーション後に標的DNAのライゲーション能を保持することは、細胞内スクリーニングの本状況において重要なパラメータであることに留意されたい。
【0211】
[アフリカツメガエル卵母細胞への標的DNAの注入]
Nanoliter 2010注入器(World Precision Instruments)を使用して、ホスホロチオエート結合を有する又は有さない、約1~2pmolの標的DNA(すなわち、TD_001、TD_002又はTD_003)を50nLの体積(水で希釈)でアフリカツメガエル卵母細胞(Ecocyte Bioscience)に注入した。卵母細胞を修飾したBarthの培地(mMで、88NaCl、1KCl、0.4CaCl、0.33Ca(NO、0.8MgSO、5Tris-HCl、2.4NaHCO、pH7.4)で、18℃で維持した。膜が破壊され、注入された標的DNAが回収される前に、時間間隔を増加させながら、卵母細胞をインキュベートした(以下に詳述する)。
【0212】
[アフリカツメガエル卵母細胞膜の破壊及び注入された標的DNAの回収]
アフリカツメガエル卵母細胞の膜を破壊して、注入された標的DNAを回収した。アフリカツメガエル卵母細胞膜の破壊のために、5つの卵母細胞を200μlの破砕緩衝液(10mMのTris-HCl、150mMのNaCl、0.01%Tween-20)中で遠心分離した(20000g、4℃で2分間)。回収した標的DNA(5つの卵母細胞に由来する)をNucleoSpin Gel及びPCR Clean-up columnsで精製した。精製した標的DNAを沈殿させ(NaCl、グリコーゲン、及び氷冷エタノール)、遠心分離(20000g、4℃で少なくとも30分間)によってペレット化した。DNAペレットを室温で風乾し、水に溶解した。
【0213】
[DNAライゲーション]
回収した標的DNAをライゲーションDNA、すなわちLD_01と共にDNAライゲーション反応に適用することによって、回収した標的DNAのライゲーション能を評価した。精製された標的DNA(5つの卵母細胞に由来する)を、約1Weiss unitT4 DNAリガーゼ(Thermo Fisher Scientific)によって補充されたライゲーション緩衝液(50mMのTris-HCl、50mMのNaCl、0.1%Triton X-100、0.75%BSA、9mMのKCl、4.5%グリセロール、2mMのDTT、10mMのMgCl、2mMのATP、pH7.4)中の約2pmolのLD_01ライゲーションDNAと混合した。ライゲーション反応を16℃で1~2時間進行させた。ライゲーション混合物をnative PAGE(10%TBE-PAGE、200V、35分、室温)に適用して、回収された標的DNAのライゲーション能を評価した。未修飾標的DNA(すなわち、TD_001)のライゲーション能は、アフリカツメガエル卵母細胞内のインキュベーション後に時間依存的に失われた。具体的には、30分間のインキュベーション後にライゲーション能の50%が失われ、卵母細胞内における1時間のインキュベーション後にライゲーション能がほぼ完全に失われた。一方の鎖にホスホロチオエート結合が組み込まれた標的DNA(すなわち、TD_002)の場合、卵母細胞内で2時間インキュベートした後、ライゲーション能の約50%が失われた。対照的に、ホスホロチオエート結合が標的DNAの両方の鎖に導入された場合(すなわち、TD_003)、卵母細胞内で2時間インキュベートした後、ライゲーション能はほとんど影響を受けなかった。
【0214】
[結論]
この実施例の結果は、3つのホスホロチオエート結合の使用が、未修飾DNA(すなわち、ホスホロチオエート結合が0である)の使用と比較して、本状況において驚くべき有意な技術的利点を与えることを実証する。
【0215】
[参考文献一覧(REFERENCE LIST)]
1:EP1809743B1(Vipergen)
2:EP1402024B1(Nuevolution)
3:EP1423400B1(David Liu)
4:Nature Chem.Biol.(2009),5:647-654(Clark)
5:WO 00/23458(Harbury)
6:Nature Methods(2006),3(7),561-570 7:2006(Miller)
7:Nat.Biotechnol.2004;22,568-574(Melkko)
8:Nature.(1990);346(6287),818-822(Ellington)
9:Proc Natl Acad Sci USA(1997).94(23):12297-302(Roberts)
10:WO2006/053571A2(Rasmussen)
11:EP2622073B1(Vipergen)
12:Lynn MM et al.(’’Identification of Ligand-Target Pairs from Combined Libraries of Small Molecules and Unpurified Protein Targets in Cell Lysates’’;J.Am.Chem.Soc.2014,136,3264-3270)
13:Zining Wu et al.(’’Cell-Based Selection Expands the Utility of DNA-Encoded Small-Molecule Library Technology to Cell Surface Drug Targets..’’;ACS Comb.Sci.2015,17,722-731)
14:M.Schurmann et al.(’’Small-Molecule Target Engagement in Cells’’;Cell Chemical Biology 23,April 21,2016)
15:Ron Milo(’’What is the total number of protein molecules per cell volume?..’’;Bioessays 35:1050-1055,2013)
16:V.Dudutiene et al.(’’Discovery and Characterization of Novel Selective Inhibitors of Carbonic Anhydrase IX’’;J.Med.Chem.2014,57,9435-9446)
17.Petersen et al.(’’Novel p38α MAP kinase inhibitors identified from yoctoReactor DNA-encoded small molecule library’’,Med.Chem.Commun.,2016,7,1332-1339)
図1
図2
図3
【配列表】
0007526498000001.app