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特許7526527フェライト粒子、電子写真現像剤用キャリア、電子写真現像剤及びフェライト粒子の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-24
(45)【発行日】2024-08-01
(54)【発明の名称】フェライト粒子、電子写真現像剤用キャリア、電子写真現像剤及びフェライト粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 49/00 20060101AFI20240725BHJP
   G03G 9/08 20060101ALI20240725BHJP
   G03G 9/107 20060101ALI20240725BHJP
   G03G 9/113 20060101ALI20240725BHJP
【FI】
C01G49/00 A
G03G9/08 381
G03G9/107 321
G03G9/113 351
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2023524255
(86)(22)【出願日】2022-05-27
(86)【国際出願番号】 JP2022021792
(87)【国際公開番号】W WO2022250150
(87)【国際公開日】2022-12-01
【審査請求日】2023-11-08
(31)【優先権主張番号】P 2021089756
(32)【優先日】2021-05-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000231970
【氏名又は名称】パウダーテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002505
【氏名又は名称】弁理士法人航栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 謙
(72)【発明者】
【氏名】石川 誠
(72)【発明者】
【氏名】植村 哲也
【審査官】篠原 法子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-097252(JP,A)
【文献】特開2013-178414(JP,A)
【文献】特開2018-163196(JP,A)
【文献】国際公開第2016/143646(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 49/00
G03G 9/107
G03G 9/113
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
空間群Fd-3mに帰属するスピネル型結晶構造を有し、そのスピネル組成が下記式(1)で表されるフェライト粒子本体と、
空間群Fd-3mに帰属するスピネル型結晶構造を有し、前記フェライト粒子本体の表面を被覆する被覆層と、
を備え
末X線回折パターンをリートベルト解析することにより求めた、当該フェライト粒子における前記被覆層の含有割合が5質量%以上35質量%以下であり、
下記式(2)を満足するフェライト粒子。
MgMn(1-x)Fe ・・・(1)
0.040Å ≦ DLC ≦ 0.070Å ・・・(2)
但し、
前記式(1)において、0.001≦x<0.300であり、
前記式(2)において、DLC=(前記フェライト粒子本体の格子定数)-(前記被覆層の格子定数)である。
【請求項2】
当該フェライト粒子の粉末X線回折パターンにおける(311)面の半値幅が0.25°以上0.35°以下である請求項1に記載のフェライト粒子。
【請求項3】
当該フェライト粒子に含まれるFe、Mn、Mgの総物質量を100molとしたときに、これらのスピネル型結晶構成元素とは別にSr元素を0.4mol以上1.2mol以下含有する請求項1に記載のフェライト粒子。
【請求項4】
3K・1000/4π・A/mの磁場をかけたときのB-H測定による飽和磁化が50Am/kg以上75Am/kg以下である請求項1に記載のフェライト粒子。
【請求項5】
見掛密度が2.23g/cm以上2.35g/cm以下であり、表面粗さRzが2.5μm以上3.5μm以下である請求項1に記載のフェライト粒子。
【請求項6】
BET比表面積が0.070m/g以上0.150m/g以下である請求項1に記載のフェライト粒子。
【請求項7】
請求項1~請求項6のいずれか一項に記載のフェライト粒子と、当該フェライト粒子の表面を被覆する樹脂被覆層とを備える電子写真現像剤用キャリア。
【請求項8】
請求項7に記載の電子写真現像剤用キャリアとトナーとを含む電子写真現像剤。
【請求項9】
補給用現像剤として用いられる請求項8に記載の電子写真現像剤。
【請求項10】
請求項1~請求項6のいずれか一項に記載のフェライト粒子を製造するためのフェライト粒子の製造方法であって、
Feを含むFe原料と、Mnを含むMn原料と、Mgを含むMg原料とを所定量混合した混合物を得る工程と、
前記混合物を用いて造粒物を得る工程と、
焼成雰囲気を制御可能な密閉式熱処理室と、冷却雰囲気を前記焼成雰囲気とは異なる雰囲気に制御可能な冷却室とを有する密閉式雰囲気熱処理炉を用い、前記密閉式熱処理室で前記造粒物を焼成して焼成物を得る工程と、
前記焼成物を外気に接触させることなく、雰囲気酸素濃度が0.3体積%未満に制御された前記冷却室において250℃以下になるまで冷却する冷却工程と、
前記冷却工程を経た後の前記焼成物に対して、表面熱処理を施す工程と、
を備えるフェライト粒子の製造方法。
【請求項11】
前記表面熱処理は回転炉を用いて行い、
前記回転炉の回転焼却室の内径をL(m)、回転数をX(rpm)、表面熱処理時間をt(min)としたとき、下記式(3)を満たす請求項10に記載のフェライト粒子の製造方法。
20 ≦ LπXt ≦ 60・・・(3)
【請求項12】
前記混合物中の前記Fe原料、前記Mn原料及び前記Mg原料の配合割合が下記式(4)を満たす請求項10に記載のフェライト粒子の製造方法。
0.80≦nFe/(nMn+nMg)<2.00・・・(4)
但し、
Fe:前記Fe原料中のFe元素の物質量(mol%)
Mn:前記Mn原料中のMn元素の物質量(mol%)
Mg:前記Mg原料中のMg元素の物質量(mol%)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェライト粒子、電子写真現像剤用キャリア、電子写真現像剤及びフェライト粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真現像方法は、現像剤中のトナーを感光体上に形成された静電潜像に付着させて現像する方法をいう。この方法で使用される現像剤は、トナーとキャリアからなる二成分系現像剤と、トナーのみを用いる一成分系現像剤とに分けられる。二成分系現像剤を用いた現像方法としては、古くはカスケード法等が採用されていたが、現在では、マグネットロールを用いる磁気ブラシ法が主流である。
【0003】
磁気ブラシ法では、現像剤が充填されている現像ボックス内においてトナーとキャリアとを攪拌、混合することによって、トナーに電荷を付与する。そして、マグネットを保持する現像ロールによりキャリアを感光体の表面に搬送する。その際、キャリアにより、電荷を帯びたトナーが感光体の表面に搬送される。感光体上で静電的な作用によりトナー像が形成された後、現像ロール上に残ったキャリアは再び現像ボックス内に回収され、新たなトナーと撹拌、混合され、一定期間繰り返して使用される。
【0004】
近年、静電潜像を高精細に現像するためトナーの小粒径化が進められている。トナーの小粒径化に伴いキャリアも小粒径化されている。キャリアを小粒径化することで、キャリアとトナーとが撹拌、混合される際の機械的ストレスが軽減し、トナースペント等の発生を抑制することができる。そのため、従来と比較すると現像剤は長寿命化している。しかしながら、キャリアを小粒径化するとキャリア飛散が生じやすくなり、白斑等の画像欠陥が生じやすくなる。
【0005】
例えば、特許文献1には、Mnを15~22重量%、Mgを0.5~3.0重量%、Feを45~55重量%、Srを0.1~3.0重量%含有し、格子定数が8.430~8.475であり、表面酸化被膜が形成されたキャリア芯材が開示されている。当該特許文献1に開示のキャリア芯材によれば、表面酸化皮膜を設けることで、小粒径であるにもかかわらず、粒子抵抗が高く、粒子間の抵抗のバラツキを小さくすることができる。そのため、当該キャリア芯材を電子写真現像剤に用いれば、キャリア付着を抑制し、細線再現性に優れる良好な印刷物を得ることができる。
【0006】
また、特許文献2には、組成式MFe3-X(但し、Mは、Mn,Mg,Ca,Sr,Ti,Cu,Zn,Niからなる群より選ばれる少なくとも1種以上の金属である,0<X≦1)で表されるキャリア芯材であって、粉末X線回折パターンにおける面指数(311)のピークから算出される半値幅が0.15°以上0.20°未満であり、キャリア芯材の粉砕を経て、粉砕前後での、粉末X線回折パターンにおける面指数(311)のピークから算出される格子定数の差が絶対値で0.005Å以下であるキャリア芯材が開示されている。当該キャリア芯材は粒子表面だけでなく、粒子の内部まで酸化が進行し、高抵抗化することができるとし、当該キャリア芯材を電子写真現像剤に用いれば、感光体などへのキャリア付着が抑制されるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】日本国特開2013-178414号公報
【文献】日本国特開2017-21195号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、二成分系現像剤では電子写真現像剤が用いられる現像装置の特性や、トナーの特性に応じて、キャリア芯材の磁化や抵抗が所定の初期設定値となるように製造条件が精密に制御される。しかしながら、従来のキャリア芯材は、一般に抵抗値が雰囲気中の湿度等により変動する。つまり、抵抗値が環境依存性を示す。上記従来のキャリア芯材は抵抗等のバラツキの小さい粒子から構成される。そのため、粉体の抵抗変化は、個々の粒子の抵抗変化と略同じ挙動を示す。従って、所定の雰囲気条件下においては、極めて高画質に画像印刷を行うことができる。しかしながら、急激な雰囲気温度の変化や湿度の変化等環境の変化が生じると、抵抗値やトナー帯電量が変動し、トナーとキャリアとを良好に攪拌、混合することができなくなる場合がある。そのような場合、帯電立ち上がりが遅くなり、印刷初期においてトナー帯電量のばらつきによる濃度ムラが生じることがある。
【0009】
また、特許文献1及び特許文献2に記載のキャリア芯材のように、フェライト粒子の表面等が酸化されている場合、酸化が不十分な部分があると、その部分が経時的に酸化されて、キャリア芯材の抵抗が経時変化することがある。
【0010】
さらに、現像装置では印刷物の画像濃度を検知し、トナー帯電量が適正な値となるようにトナー濃度の制御を行う。ここで、トナー帯電量は低温低湿環境下では高く、高温多湿下では低くなる傾向にある。また、トナーとキャリアとを含む二成分現像剤では、トナーとキャリアの混合比率においてトナー濃度が高いとトナー帯電量が低く、トナー濃度が低いとトナー帯電量が高くなる傾向にある。従って、低温低湿環境下で画像等を印刷するとトナー帯電量が高い傾向にあるため、画像濃度が低下する。そのため、現像装置ではトナー帯電量を下げるため、トナーを現像剤ボックスに補給して、トナー濃度が高くなるように制御が行われる。一方、高温高湿下で画像等を印刷すると、上述のとおりトナー帯電量が低くなる傾向にあるため画像濃度が高くなる。そのため、現像装置では、トナー帯電量が適正な範囲内になるまでトナーの補給を停止するなどの制御を行う。
【0011】
しかしながら、低温低湿環境下においてトナー濃度が高くなるように制御された状態で現像装置が長期間にわたって使用されない期間があり、次に、画像等の印刷を行おうとしたときに雰囲気が低温低湿環から高温高湿環境に変化している場合がある。その場合、トナー帯電量が大きく変動し、トナーとキャリアとを良好に攪拌、混合することができない場合がある。その結果、トナー帯電量の立ち上がりが遅くなり、トナー帯電量のばらつきが生じ、印刷物に濃度ムラが生じるなどの画像欠陥が生じる場合がある。
【0012】
また、上記特許文献1及び特許文献2に開示のキャリア芯材は磁化のバラツキが小さく、同程度の磁化を有する粒子からなる粉体であることが想定される。現像装置が長期間使用されない間にキャリア粒子が磁力により凝集する場合がある。そのため、長期の不使用期間を経た後に印刷を行うと、印刷初期ではトナーとキャリアとを攪拌、混合する際にまずキャリア粒子の凝集をほぐす必要がある。特に、磁化の分布が狭く磁化が高くなるほど、キャリア粒子が凝集しやすくなり、粒子間の磁気的な結合力も強くなる。例えば、連続画像形成速度が100枚/分以上等の高速印刷が可能な現像装置では、トナーとキャリアとの攪拌速度、混合速度も速く、粒子同士の磁気的な結合をほぐすために必要なトルクは小さくなる。しかし、連続画像形成速度が40枚/分以下の中低速の現像装置では、攪拌速度、混合速度が遅くなるため、粒子同士の磁気的な結合をほぐすために必要なトルクが大きくなり、トナーとキャリアとを良好に混合することが困難なため、印刷初期において十分な画像濃度等を実現することが困難な場合があった。
【0013】
そこで、本件発明は、トナーとキャリアとの攪拌性、混合性に優れ、環境が変化したときも印刷初期における画像欠陥の発生を抑制することのできる電子写真現像剤用キャリア芯材に好適なフェライト粒子、電子写真現像剤用キャリア、電子写真現像剤、及びフェライト粒子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、下記の態様を包含する。
【0015】
[1]
空間群Fd-3mに帰属するスピネル型結晶構造を有し、そのスピネル組成が下記式(1)で表されるフェライト粒子本体と、
空間群Fd-3mに帰属するスピネル型結晶構造を有し、前記フェライト粒子本体の表面を被覆する被覆層と、
を備え、
前記被覆層は、前記下記式(1)で表されるフェライトを熱処理することにより得られた層であり、粉末X線回折パターンをリートベルト解析することにより求めた、当該フェライト粒子における前記被覆層の含有割合が5質量%以上35質量%以下であり、
下記式(2)を満足するフェライト粒子。
MgMn(1-x)Fe ・・・(1)
0.040Å ≦ DLC ≦ 0.070Å ・・・(2)
但し、
前記式(1)において、0.001≦x<0.300であり、
前記式(2)において、DLC=(前記フェライト粒子本体の格子定数)-(前記被覆層の格子定数)である。
【0016】
[2]
当該フェライト粒子の粉末X線回折パターンにおける(311)面の半値幅が0.25°以上0.35°以下である[1]に記載のフェライト粒子。
【0017】
[3]
当該フェライト粒子に含まれるFe、Mn、Mgの総物質量を100molとしたときに、これらのスピネル型結晶構成元素とは別にSr元素を0.4mol以上1.2mol以下含有する[1]又は[2]に記載のフェライト粒子。
【0018】
[4]
3K・1000/4π・A/mの磁場をかけたときのB-H測定による飽和磁化が50Am/kg以上75Am/kg以下である[1]~[3]のいずれか一項に記載のフェライト粒子。
【0019】
[5]
見掛密度が2.23g/cm以上2.35g/cm以下であり、表面粗さRzが2.5μm以上3.5μm以下である[1]~[4]のいずれか一項に記載のフェライト粒子。
【0020】
[6]
BET比表面積が0.070m/g以上0.150m/g以下である[1]~[5]のいずれか一項に記載のフェライト粒子。
【0021】
[7]
[1]~[6]のいずれか一項に記載のフェライト粒子と、当該フェライト粒子の表面を被覆する樹脂被覆層とを備える電子写真現像剤用キャリア。
【0022】
[8]
[7]に記載の電子写真現像剤用キャリアとトナーとを含む電子写真現像剤。
【0023】
[9]
補給用現像剤として用いられる[8]に記載の電子写真現像剤。
【0024】
[10]
[1]~[6]のいずれか一項に記載のフェライト粒子を製造するためのフェライト粒子の製造方法であって、
Feを含むFe原料と、Mnを含むMn原料と、Mgを含むMg原料とを所定量混合した混合物を得る工程と、
前記混合物を用いて造粒物を得る工程と、
焼成雰囲気を制御可能な密閉式熱処理室と、冷却雰囲気を前記焼成雰囲気とは異なる雰囲気に制御可能な冷却室とを有する密閉式雰囲気熱処理炉を用い、前記密閉式熱処理室で前記造粒物を焼成して焼成物を得る工程と、
前記焼成物を外気に接触させることなく、雰囲気酸素濃度が0.3体積%未満に制御された前記冷却室において250℃以下になるまで冷却する冷却工程と、
前記冷却工程を経た後の前記焼成物に対して、表面熱処理を施す工程と、
を備えるフェライト粒子の製造方法。
【0025】
[11]
前記表面熱処理は回転炉を用いて行い、
前記回転炉の回転焼却室の内径をL(m)、回転数をX(rpm)、表面熱処理時間をt(min)としたとき、下記式(3)を満たす[10]に記載のフェライト粒子の製造方法。
20 ≦ LπXt ≦ 60・・・(3)
【0026】
[12]
前記混合物中の前記Fe原料、前記Mn原料及び前記Mg原料の配合割合が下記式(4)を満たす[10]又は[11]に記載のフェライト粒子の製造方法。
0.80≦nFe/(nMn+nMg)<2.00・・・(4)
但し、
Fe:前記Fe原料中のFe元素の物質量(mol%)
Mn:前記Mn原料中のMn元素の物質量(mol%)
Mg:前記Mg原料中のMg元素の物質量(mol%)
【発明の効果】
【0027】
本件発明によれば中低速印刷に適した磁気分布を有し、良好な画像特性を実現することのできる電子写真用現像剤のキャリア芯材に好適なフェライト粒子、電子写真現像剤用キャリア、電子写真現像剤及びフェライト粒子の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本件発明に係るフェライト粒子、電子写真現像剤用キャリア芯材、電子写真現像剤用キャリア及び電子写真現像剤の実施の形態を説明する。まず、フェライト粒子及び電子写真現像剤用キャリア芯材の実施の形態を説明する。なお、本明細書において、フェライト粒子、電子写真現像剤用キャリア芯材、電子写真現像剤用キャリア及び電子写真現像剤は、特記しない限り、それぞれ個々の粒子の集合体、つまり粉体を意味するものとする。
【0029】
また、以下では、本実施の形態のフェライト粒子は電子写真現像剤用キャリア芯材として用いられるものとして説明するが、本件発明に係るフェライト粒子は磁性インク、磁性流体、磁性フィラー、ボンド磁石用フィラー及び電磁波シールド材用フィラー等の各種機能性フィラー、電子部品材料等の各種用途に用いることができ、当該フェライト粒子の用途は電子写真現像剤用キャリア芯材に限定されるものではない。
【0030】
1.フェライト粒子
まず、フェライト粒子について説明する。当該フェライト粒子は、空間群Fd-3mに帰属するスピネル型結晶構造を有し、そのスピネル組成が前記下記式(1)で表されるフェライト粒子本体と、空間群Fd-3mに帰属するスピネル型結晶構造を有し、前記フェライト粒子本体の表面を被覆する被覆層とを備え、前記被覆層は、前記下記式(1)で表されるフェライトを熱処理することにより得られた層であり、粉末X線回折パターンをリートベルト解析することにより求めた、当該フェライト粒子における前記被覆層の含有割合が5質量%以上35質量%以下であり、下記式(2)を満足することを特徴とする。
MgMn(1-x)Fe ・・・(1)
0.040Å ≦ DLC ≦ 0.070Å ・・・(2)
但し、
式(1)において、0.001≦x<0.300であり、
式(2)において、DLC=(前記フェライト粒子本体の格子定数)-(前記被覆層の格子定数)である。
【0031】
空間群Fd-3mに帰属するスピネル型結晶構造は立方晶系に属し、その単位格子は8(AB)で表される。ここで「AB」における「A」は4個の酸素が構成する四面体の中心位置である8b位置(Aサイト)に配置される元素(金属イオン)を表し、「B」は6個の酸素が構成する六面体の中心位置である16c位置(Bサイト)に配置される元素を表す。
【0032】
上記式(1)で表されるスピネル組成を有するフェライトでは、この各格子点には、Mg、Mn、Feがそれぞれ2価又は3価のイオンとして配置され、各格子点におけるFe3+の占有率が高くなるほど強磁化になる。一方、各格子点におけるMn占有率が高くなると、その分だけ各格子点におけるFe3+の占有率が低くなり、低磁化になる。なお、後述する方法で格子定数を測定したときに、Fe3+の占有率が高くなるほど格子定数は小さい値を示し、各格子点におけるMn占有率が増加してくると、格子定数は大きい値を示す。
【0033】
ここで一般式「AB」表されるフェライトを製造する際に、当該組成式に応じた化学量論に対してAサイト原子についての原料(以下、Aサイト原料)配合量が多い状態で原料を混合すると、つまりAサイト原料を化学量論よりもリッチな状態で配合すると、各格子点におけるAサイト原子の占有率の高いフェライトが得られる。例えば、本発明において、Aサイト原子であるMnについて後述する式(4)を満たすようにして各原料を混合すると、式(1)で表される組成式に応じた化学量論よりもMn原料の配合量が多いMnリッチなフェライトが得られる。このとき、各格子点におけるMn占有率は高くなり、その分だけ各格子点におけるFe3+の占有率の低いフェライトが得られる。当該方法で製造したフェライトの格子定数は概ね8.500Å以上になる。そこで、本件明細書では式(1)で表されるスピネル組成を有するフェライトであって、格子定数の値が8.500Å以上のフェライトを便宜的にAリッチフェライトと称する。また、式(1)で表されるスピネル組成を有するフェライトであって、格子定数が8.500Å未満のフェライトを便宜的にBリッチフェライトと称する。なお、Bリッチフェライトは、上記式(1)に応じた化学量論に対して、Fe原料の配合量が多い状態で、つまり後述する式(4)の値が2.00以上となるようにして、フェライトを製造することにより得られる。なお、式(4)は後述のとおりである。
【0034】
式(1)で表されるスピネル組成を有するフェライトに対して熱処理を施すと、以下のような反応が生じると考えられる。
3(Mg,Mn(1-x))Fe
(1-x)Mn+3xMgFe+2(1-x)Fe
【0035】
ここで、上記反応式中の化合物の格子定数を以下に示す。以下に示す格子定数はそれぞれ各文献に記載された値である。
MnFe:8.510Å
(出所:Phys. Status Solidi A,1993,139,,K109―K112,Latha K., Ravinder D.)
MgFe:8.374Å
(出所:J. Magn. Magn. Mater.,1992,110,,147―150,Patil S.H., Patil S.I., Kadam S.M., Chougule B.K.)
Mn:8.565Å
(出所:Russ. J. Inorg. Chem.,1990,35,,877―881,Zinovik M.A.)
Fe:8.395Å
(出所:J. Phys. Soc. Jpn.,1995,64,,3484―3495,Okamura A., Nakamura S., Tanaka M., Siratori K.)
【0036】
被覆層がMn、MgFe、及びFeの複合物であると仮定すると、例えばx=0.001の場合における、被覆層の格子定数は8.451Å程度となる。
【0037】
従って、Aリッチフェライトでは熱処理により分解反応が生じた場合、その前後における格子定数の変化が大きくなる。一方、Bリッチフェライトでは熱処理により分解反応が生じても、Mnの生成量が少なくなり、又は、ほとんど生成されず、Feの生成量が多くなる。熱処理前のフェライトの格子定数と、熱処理により生成したFeの格子定数との差は小さいため、Bリッチフェライトでは、熱処理の前後における格子定数の変化は小さくなる。
【0038】
従って、フェライト粒子本体がAリッチフェライトである場合、式(2)の値は表面における熱処理の程度を示す指標となる。すなわち、フェライト粒子本体と被覆層との格子定数差DLCが上記式(2)の範囲内であるとき、Mn、MgFe及びFeの複合物により覆われ、フェライト粒子の表面が十分に熱処理された状態にあることを表す。
【0039】
一方、フェライト粒子本体がBリッチフェライトである場合、熱処理の前後における格子定数の変化は少ないため、式(2)の値は表面における熱処理の有無や程度を示す指標とはならない。また、フェライト粒子本体がBリッチフェライトである場合、表面に十分に熱処理が施されており、表面が上記のように分解していたとしてもフェライト粒子本体と被覆層との格子定数差が小さいため、式(2)を満たすことは困難である。
以上より、式(2)を満たす場合、そのフェライト粒子本体はAリッチフェライトであって、表面が十分に熱処理されて均一な厚みの被覆層が設けられていることを表す。
【0040】
そして、式(1)及び式(2)を満たすフェライト粒子において、粉末X線回折パターンをリートベルト解析することにより求めた、当該フェライト粒子における前記被覆層の含有割合が5質量%以上35質量%以下である場合、次のような効果が得られることを見出した。
【0041】
まず、フェライト粒子本体がAリッチフェライトであるとき、上述のとおり各格子点におけるMn占有率が比較的高く、低磁化傾向のフェライトとなる。従って、フェライト粒子本体がBリッチフェライト、つまり各格子点におけるFe3+占有率の高いフェライトと比較すると、粉体としてみたときにフェライト粒子の磁化が高くなり過ぎるのを抑制することができる。従って、本発明に係るフェライト粒子によれば、中低速の現像装置用の電子写真現像剤のキャリア芯材に採用したときに好適な磁性を示す。また、Aリッチフェライトの場合、Bリッチフェライトと比較すると各格子点の占有状態にバリエーションが生じることから、粉体を構成する各粒子の磁化にバラツキが生じる。そのため、粉体内において同程度の磁化を有する粒子同士が磁気的に結合する可能性よりも、磁化の異なる粒子同士が磁気的に結合する可能性が高くなる。同程度の磁化を有する粒子同士の磁気的な結合をほぐす場合よりも、磁化の異なる粒子同士の磁気的な結合をほぐす方が容易である。その結果、当該フェライト粒子をキャリア芯材として用いることで、キャリア同士の磁気的な結合をほぐすことが容易であり、トナーとキャリアとの混合・攪拌を速やかに行うことができ、印刷初期においても十分な画像濃度等を実現可能な画像即応性の高いキャリアが得られる。
【0042】
さらに、粉末X線回折パターンをリートベルト解析することにより求めたときの当該フェライト粒子における被覆層の含有割合が5質量%以上35質量%以下である場合、フェライト粒子本体の表面が被覆層により十分な厚みで全面的に覆われていると解される。スピネル型フェライト(AB)を焼成により生成する際、低酸素雰囲気下であると、酸素欠損型のスピネル型結晶構造(AB4-α)が生じ得る。酸素欠損型のスピネル型結晶が生じると、そのフェライトは大気中の酸素と触れると経時的に酸化し、表面抵抗値が経時的に高くなる。当該フェライト粒子における被覆層の含有割合が上記範囲内であると、フェライト粒子本体の表面が被覆層により十分に覆われているため、フェライト粒子本体の露出を抑制することができる。そのため、フェライト粒子本体の表面が酸化されやすいような状態であったとしても、被覆層によりフェライト粒子本体と大気中の酸素との接触を抑制し、フェライト粒子本体の酸化を防ぐことができる。そのため、表面抵抗の経時変化を防ぐことができる。
以下、本発明に係るフェライト粒子についてより詳細に説明する。
【0043】
(1)格子定数差(DLC
フェライト粒子本体及び被覆層の格子定数差(DLC)は上記のとおりである。ここで各格子定数は粉末X線回折法により以下のようにして測定して得た粉末X線回折パターンを以下のようにしてリートベルト解析することにより特定した値とする。
【0044】
(粉末X線回折)
X線回折装置として、パナリティカル社製「X’PertPRO MPD」を用いることができる。X線源としてCo管球(CoKα線)を用いることができる。光学系として集中光学系及び高速検出器「X‘Celarator」を用いることができる。測定条件は以下のとおりとする。
【0045】
スキャンスピード :0.08°/秒
発散スリット :1.0°
散乱スリット :1.0°
受光スリット :0.15mm
封入管の電圧及び電流値:40kV/40mA
測定範囲 :2θ=15°~90°
積算回数 :5回
【0046】
(結晶構造解析及び定性分析)
上記のようにして得た粉末X線回折パターンを元に、「国立研究開発法人物質・材料研究機構、”AtomWork”、インターネット<URL:http://crystdb.nims.go.jp/>」に開示の構造より結晶構造を以下の通り仮定し、各結晶構造から格子定数を特定する。
【0047】
フェライト粒子本体:マンガンフェライト(スピネル型結晶)からなる結晶相
結晶構造: 空間群 Fd-3m(No.227)
<原子座標>
Mn:8b 3/8 3/8 3/8
Fe:16c 0 0 0
O :32e x x x
被覆層:マンガンフェライト(スピネル型結晶)からなる結晶相
結晶構造: 空間群 Fd-3m(No.227)
<原子座標>
Mn:8b 3/8 3/8 3/8
Fe:16c 0 0 0
O :32e x x x
【0048】
以上のようにフェライト粒子本体及び被覆層の結晶構造を仮定した後、解析用ソフト「RIETAN-FP u2.83」を用いて下記のパラメータの最適化を行う。プロファイル関数はThompson,Cox,Hastingの擬Voigt関数を使用しHowardの方法で非対称化する。また、フィッティングの正確さを表すRwp値,S値が各々Rwp:2%以下,S値:1.5以下となるように以下のパラメータの精密化を行う。
【0049】
(精密化するパラメータ)
・シフト因子
・スケール因子
・バックグラウンドパラメータ
・ガウス関数 U,V,W
・ローレンツ関数 X,Y
・非対称パラメータ As
・格子定数・酸素原子座標
【0050】
以上のようにして求めたフェライト粒子本体及び被覆層の格子定数から算出した格子定数差(DLC)が上記範囲内であるとき、上述の効果が得られる。当該効果を得る上で、格子定数差(DLC)の上限値は0.070Å未満であることが好ましく、0.065Åであることが好ましく、0.060Åであることがより好ましく、0.055Åであることがさらに好ましい。
【0051】
(2)被覆層の含有割合(リートベルト解析)
上記のようにして得た粉末X線回折パターンを上記と同様にしてリートベルト解析を行い、それぞれの結晶相の質量換算の存在比率から、フェライト粒子本体とは異なる格子定数を有する化合物が占める割合を被覆層の含有割合とした。
【0052】
以上のようにして求めた被覆層の含有割合が上記範囲内であると、上述したとおり当該フェライト粒子を電子写真現像剤のキャリア芯材として用いたときに、キャリアの表面抵抗値の経年変化を抑制することができる。当該効果を得る上で、被覆層の含有割合の下限値は10質量%であることがより好ましい。また、上限値は35質量%未満であることが好ましく、30質量%であることがより好ましく、25質量%であることがさらに好ましく、20質量%であることが一層好ましい。
【0053】
(3)半値幅
当該フェライト粒子の(311)面の半値幅が0.25°以上0.35°以下であることが好ましい。ここで、半値幅は、上記のようにして得た粉末X線回折パターンを上記と同様にしてリートベルト解析を行い、解析結果(**.lst)に記載される(311)面におけるKα1線の回折に起因する半値幅(FWHM)とする。従来、キャリア芯材に用いるフェライト粒子として、結晶構造が均一であり、磁化分布の狭いフェライト粒子が求められていた。しかしながら、上述のとおり、Aリッチフェライトを採用しつつ、結晶構造にバラツキのあるフェライト粒子をキャリア芯材とすることで、各粒子の磁化にバラツキが生じ、上述の効果が得られる。画像濃度即応性の高い電子写真現像剤を実現する上で、半値幅は上記範囲内であることが好ましい。
【0054】
当該効果を得る上で、半値幅の下限値は0.25°より大きいことがより好ましく、0.27°であることがさらに好ましく、0.29°であることが一層好ましい。また、半値幅の上限値は0.35°より小さいことがより好ましく、0.33°であることがさらに好ましく、0.31°であることが一層好ましい。
【0055】
(4)x
上記式(1)における「x」はICP発光分析法によりフェライト粒子に含まれる元素を定量することにより得られた値である。この「x」の値は以下のようにして求める。
(ICP)
まず測定対象とするフェライト粒子を0.2g秤量する。そして、純水60mlに1Nの塩酸20ml及び1Nの硝酸20mlを加えたて加熱し、その中に、フェライト粒子を添加し、フェライト粒子を溶解させた水溶液を準備する。この水溶液を試料とし、ICP発光分析装置(島津製作所製ICPS-1000IV)を用いて、Fe、Mn及びMgの含有量を測定し、これらの値に基づいて上記式(1)における「x」の値を求めることができる。
【0056】
ここで、上述のとおり0.001≦x<0.300である。「x」の下限値は0.050であることがより好ましい。また、「x」の上限値は0.200であることがより好ましい。
【0057】
(5)Sr含有量
当該フェライト粒子に含まれるFe、Mn、Mgの総物質量を100molとしたときに、これらのスピネル型結晶構成元素とは別にSr元素を0.4mol以上1.2mol以下含有することが好ましい。Sr含有量は、上記「x」の値と同様の方法で測定することができる。
【0058】
具体的には次のようにして測定する。「x」の値を上記ICP発光分析法を用いて測定する際に調製する上記水溶液にはSrが溶け込む。そこで、当該水溶液を用いてFe、Mn及びMgの含有量を測定する際に、Sr元素の含有量についても同時に測定し、「Fe」、「Mn」、「Mg」の総物質量(mol)を100としたときの「Sr」の物質量(mol)を求め、その値をSrの含有量(mol)とする。
【0059】
Srを当該範囲で含むことで、当該フェライト粒子の表面の凹凸を適度な大きさにすることができると共に、凹凸のバラツキを抑制することができ、キャリア同士が衝突した際の樹脂被膜層の剥がれ等を抑制することができる。また、当該フェライト粒子の表面の凹凸が適度な大きさとなり、表面を樹脂で被覆してキャリアにしたときに、抵抗が高くなり過ぎるのを抑制することができる。一方、Sr含有量が上記範囲を超えて大きくなると、焼成時等にFe原料等から放出された塩素が、芯材表面に析出したSr化合物に吸着し、当該フェライト粒子の帯電特性が雰囲気湿度の影響を受けやすくなる。そのため、高温高湿環境下では当該フェライト粒子の表面抵抗が低下し、帯電性も低くなるおそれがある。なお、「スピネル型結晶構成元素とは別にSr元素」を含有するとは、Sr元素は当該スピネル型結晶構造を構成する元素ではなく、さらにSrフェライトのように他の結晶構造を有するフェライトを構成する元素でもなく、粒子内に存在することを意味する。
【0060】
当該効果を得る上で、「Sr」の含有量の下限値は0.4molより大きいことがより好ましく、0.5molであることがさらに好ましく、0.6molであることが一層好ましい。また、上限値は1.2molより小さいことがより好ましく、1.1molであることがさらに好ましく、1.0molであることが一層好ましい。
【0061】
(6)磁気特性
次に、当該フェライト粒子の磁気特性について説明する。当該フェライト粒子は、3K・1000/4π・A/mの磁場をかけたときのB-H測定による飽和磁化が50Am/kg以上75Am/kg以下であることが好ましい。当該フェライト粒子の飽和磁化が当該範囲内であると、例えば、画像形成速度が40枚/分以下の中低速の現像装置においても、粒子同士の磁気的な結合をほぐすことが容易になり、長期の不使用期間があった場合も、その間の雰囲気温度や湿度の変化によらず、トナーとキャリアとの攪拌を良好に行うことができ、トナー帯電量の立ち上がりを速やかにすることができる。
【0062】
これに対して、飽和磁化が50Am/kg未満になると、磁化が低くなりすぎ、磁気ブラシの穂立ちが不十分となる、又は、低磁化に起因するキャリアが現像ロールから飛散が発生しやすくなり、低磁化に起因した画像欠陥が生じるおそれがある。また、飽和磁化が75Am/kgを超えると、粒子間の磁気的な結合が強くなって流動性が低下するため、上記のような中低速の現像装置では、トナーとキャリアとの攪拌を良好に行うことが困難になり、トナー帯電量の立ち上がりが遅くなる場合がある。
【0063】
当該観点から、飽和磁化の下限値は50Am/kgより大きいことがより好ましく、55Am/kgであることがさらに好ましく、60Am/kgであることが一層好ましい。
【0064】
飽和磁化は、積分型B-HトレーサーBHU-60型(株式会社理研電子製)を用いて測定することができる。具体的には、試料を4πIコイルに入れ、当該装置の電磁石間に磁場測定用Hコイル及び磁化測定用4πIコイルを配置し、電磁石の電流を変化させ磁場Hを変化させたHコイル及び4πIコイルの出力をそれぞれ積分し、H出力をX軸に、4πIコイルの出力をY軸に、ヒステリシスループを記録紙に描く。このヒステリシスカーブにおいて、印加磁場が3K・1000/4π・A/mであるときの磁化を求め、飽和磁化とした。なお、測定条件は以下のとおりである。
試料充填量 :約1g
試料充填セル:内径7mmφ±0.02mm、高さ10mm±0.1mm
4πIコイル:巻数30回
【0065】
(7)見掛密度(AD)
当該フェライト粒子の見掛密度(AD)は2.23g/cm以上2.35g/cm以下であることが好ましい。ここでいう見掛密度は、JIS Z 2504:2012に準拠して測定した値という。当該フェライト粒子の見掛密度が当該範囲内であると中低速印刷を行う際に要求される流動性を満足することができ、当該フェライト粒子を電子写真現像剤用キャリア芯材としたとき、現像ボックス内でキャリアとトナーとを良好に攪拌することができ、良好な画像濃度を安定的に得ることができる。
【0066】
これに対して、当該フェライト粒子の見掛密度(AD)が2.23g/cm未満になると、キャリア付着の原因となるおそれがある。一方、当該フェライト粒子の見掛密度(AD)が2.35g/cmを超えると、現像ボックス内での攪拌ストレスにより、後述する樹脂被覆層が剥離するなどにより帯電特性が劣化し、画像濃度の安定性が低下する場合がある。
【0067】
これらの効果を得る上で、当該フェライト粒子の見掛密度の上限値は2.35g/cmより小さいことが好ましく、2.32g/cmであることがさらに好ましく、2.30g/cmであることが一層好ましい。
【0068】
見掛密度は、粉末見掛密度計を用いて以下のようにして測定することができる。粉末見掛密度計として、漏斗、コップ、漏斗支持器、支持棒及び支持台から構成されるものを用いる。天秤は、秤量200gで感量50mgのものを用いる。そして、以下の手順で測定し、以下のようにして算出して得た値をここでいう見掛密度とする。
【0069】
i)測定方法
(a)試料は、少なくとも150g以上とする。
(b)試料は孔径2.5+0.2/-0mmのオリフィスを持つ漏斗に注ぎ流れ出た試料が、コップ一杯になってあふれ出るまで流し込む。
(c)あふれ始めたら直ちに試料の流入をやめ、振動を与えないようにコップの上に盛り上がった試料をへらでコップの上端に沿って平らにかきとる。
(d)コップの側面を軽く叩いて、試料を沈ませコップの外側に付着した試料を除去して、コップ内の試料の重量を0.05gの精度で秤量する。
【0070】
ii)計算
上記(d)で得られた測定値に0.04を乗じた数値をJIS-Z8401(数値の丸め方)によって小数点以下第2位に丸め、「g/cm」の単位の見掛け密度とする。
【0071】
(8)表面粗さRz
当該フェライト粒子の表面粗さRzが2.5μm以上3.5μm以下であることが好ましい。フェライト粒子の表面粗さRzが当該範囲内であると、当該フェライト粒子を電子写真現像剤用キャリア芯材としたとき、キャリアの表面の凹凸が適度な状態となり、トナーとの帯電に寄与する有効帯電面積を確保することができ、良好な画像濃度を安定的に得ることができる。
【0072】
当該観点から表面粗さRzの下限値は2.5μmより大きいことがより好ましく、2.7μmであることがさらに好ましく、3.0μmであることが一層好ましい。
【0073】
表面粗さRzは、レーザーテック社製レーザ顕微鏡OPTELICSを用い、次のようにして測定することができる。まず、測定条件として、レンズ倍率100倍、光学ズーム3.0倍、測定ピッチを0.02μm、カットオフフィルタλs=2.5μm、λf=0.08mmを採用した。当該測定条件に基づき、フェライト粒子表面の凹凸を測定する。そして、得られたフェライト粒子の表面形状のデータを用い、10μm四方の範囲を指定し、フェライト粒子を真球状とみなして球面から平面にデータ補正した上で、JIS B0601-2001に準じて算出した値を上記表面粗さRzとした。
【0074】
なお、当該フェライト粒子は、見掛密度が2.23g/cm以上2.35g/cm以下であり、且つ、表面粗さRzが2.5μm以上3.5μm以下であることが好ましい。
【0075】
(9)BET比表面積
当該フェライト粒子のBET比表面積は0.070m/g以上0.150m/g以下であることが好ましい。BET比表面積が当該範囲内であると、当該フェライト粒子を電子写真現像剤用キャリア芯材としたとき、トナーとの帯電に寄与するキャリアの有効帯電面積を確保することができ、良好な画像濃度を安定的に得ることができる。
【0076】
これらの効果を得る上で、当該フェライト粒子のBET比表面積の下限値は0.070m/gより大きいことが好ましく、0.080m/gであることがより好ましい。また上限値は0.150m/gより小さいことが好ましく、0.130m/gであることがさらに好ましく、0.120m/gであることが一層好ましい。
【0077】
BET比表面積は、「自動比表面積測定装置GEMINI2360」(島津製作所社製)を用いて、吸着ガスであるNを吸着させて測定したキャリア粒子のN吸着量から求めることができる。ここでは、このN吸着量を測定する際に用いられる測定管は、測定前に、減圧状態にて50℃で2時間の空焼きを行った。さらに、この測定管にキャリア粒子5gを充填し、減圧状態で30℃の温度で2時間前処理を行った後に、25℃下でNガスをそれぞれ吸着させてその吸着量を測定した。それらの吸着量は、吸着等温線を描き、BET式から算出される値である。
【0078】
(10)平均体積粒径(D50
当該フェライト粒子の平均体積粒径(D50)は20μm以上80μm以下であることが好ましい。フェライト粒子の体積平均粒径(D50)が当該範囲内であると、種々の用途に好適なフェライト粒子とすることができる。
【0079】
また、当該フェライト粒子を電子写真現像剤用キャリア芯材として用いる場合、当該フェライト粒子の体積平均粒径(D50)は25μm以上50μm以下であることが好ましい。当該範囲内とすることで、キャリア付着を抑制しつつ、画像現像量バラツキが生じるのを防ぐことができる。
【0080】
ここでいう平均体積粒径(D50)は、レーザ回折・散乱法によりJIS Z 8825:2013に準拠して測定した値をいう。具体的には、日機装株式会社製マイクロトラック粒度分析計(Model9320-X100)を用い、次のようにして測定することができる。まず、測定対象とするフェライト粒子を試料とし、試料10gと水80mlを100mlのビーカーに入れ、分散剤(ヘキサメタリン酸ナトリウム)を2滴~3滴添加し、超音波ホモジナイザー(SMT.Co.LTD.製UH-150型)を用い、出力レベル4に設定し、20秒間分散を行い、ビーカー表面にできた泡を取り除くことによりサンプルを調製し、当該サンプルを用いて、上記マイクロトラック粒度分析計により測定したサンプルの体積平均粒径を試料の平均体積粒径(D50)とする。
【0081】
2.電子写真現像剤用キャリア
次に、本件発明に係る電子写真現像剤用キャリアについて説明する。本発明に係る電子写真現像剤用キャリアは、上記フェライト粒子と、当該フェライト粒子の表面を被覆する樹脂被覆層とを備える。すなわち、上記フェライト粒子は、電子写真現像剤用キャリア芯材として用いられる。電子写真現像剤用キャリア芯材としてのフェライト粒子については上述したとおりであるため、ここでは主として樹脂被覆層について説明する。
【0082】
(1)被覆樹脂の種類
樹脂被覆層を構成する樹脂(被覆樹脂)の種類は、特に限定されるものではない。例えば、フッ素樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキッド樹脂、フェノール樹脂、フッ素アクリル樹脂、アクリル-スチレン樹脂、シリコーン樹脂等を用いることができる。また、シリコーン樹脂等をアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、アルキッド樹脂、ウレタン樹脂、フッ素樹脂等の各樹脂で変性した変成シリコーン樹脂等を用いてもよい。例えば、トナーとの撹拌混合時に受ける機械的ストレスによる樹脂剥離を抑制するという観点からは、被覆樹脂は熱硬化性樹脂であることが好ましい。当該被覆樹脂に好適な熱硬化性樹脂として、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキッド樹脂及びそれらを含有する樹脂等が挙げられる。但し、上述のとおり、被覆樹脂の種類は特に限定されるものではなく、組み合わせるトナーの種類や使用環境等に応じて、適宜適切なものを選択することができる。
【0083】
また、1種類の樹脂を用いて樹脂被覆層を構成してもよいし、2種類以上の樹脂を用いて樹脂被覆層を構成してもよい。2種類以上の樹脂を用いる場合は、2種類以上の樹脂を混合して1層の樹脂被覆層を形成してもよいし、複数層の樹脂被覆層を形成してもよい。例えば、当該フェライト粒子の表面に、当該フェライト粒子と密着性の良好な第一の樹脂被覆層を設け、当該第一の樹脂被覆層の表面に、当該キャリアに所望の帯電付与性能を付与するための第二の樹脂被覆層を設けることなども好ましい。
【0084】
(2)樹脂被覆量
フェライト粒子の表面を被覆する樹脂量(樹脂被膜量)は、芯材として用いるフェライト粒子に対して0.1質量%以上10質量%以下であることが好ましい。当該樹脂被覆量が0.1質量%未満であると、フェライト粒子の表面を樹脂で十分被覆することが困難になり、所望の帯電付与能力を得ることが困難になるおそれがある。また、当該樹脂被覆量が10質量%を超えると、製造時にキャリア粒子同士の凝集が発生してしまい、歩留まり低下等の生産性の低下と共に、実機内での現像剤の流動性或いは、トナーに対する帯電付与性等の現像剤特性が変動するおそれがある。
【0085】
(3)添加剤
樹脂被覆層には、導電剤や帯電制御剤等のキャリアの電気抵抗や帯電量、帯電速度をコントロールすることを目的とした添加剤が含まれていてもよい。導電剤としては、例えば、導電性カーボン、酸化チタンや酸化スズ等の酸化物、又は、各種の有機系導電剤を挙げることができる。但し、導電剤の電気抵抗は低いため、導電剤の添加量が多くなりすぎると、電荷リークを引き起こしやすくなる。そのため、導電剤の含有量は、被覆樹脂の固形分に対して0.25質量%以上20.0質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上15.0質量%以下であることがより好ましく、1.0質量%以上10.0質量%以下であることがさらに好ましい。
【0086】
帯電制御剤としては、トナー用に一般的に用いられる各種の帯電制御剤や、シランカップリング剤が挙げられる。これらの帯電制御剤やカップリング剤の種類は特に限定されないが、ニグロシン系染料、4級アンモニウム塩、有機金属錯体、含金属モノアゾ染料等の帯電制御剤や、アミノシランカップリング剤やフッ素系シランカップリング剤等を好ましく用いることができる。帯電制御剤の含有量は、被覆樹脂の固形分に対して好ましくは0.25質量%以上20.0質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上15.0質量%以下であることがより好ましく、1.0質量%以上10.0質量%以下であることがさらに好ましい。
【0087】
3.電子写真現像剤
次に、本件発明に係る電子写真現像剤の実施の形態について説明する。当該電子写真現像剤は、上記電子写真現像剤用キャリアとトナーとを含む。
【0088】
当該電子写真現像剤を構成するトナーとして、例えば、重合法により製造される重合トナー及び粉砕法によって製造される粉砕トナーのいずれも好ましく用いることができる。これらのトナーは各種の添加剤を含んでいてもよく、上記キャリアと組み合わせて電子写真現像剤として使用することができる限り、どのようなものであってもよい。
【0089】
トナーの体積平均粒径(D50)は2μm以上15μm以下であることが好ましく、3μm以上10μm以下であることがより好ましい。トナーの体積平均粒径(D50)が当該範囲内であると、高画質な電子写真印刷を行うことができる電子写真現像剤を得ることができる。
【0090】
キャリアとトナーとの混合比、すなわちトナー濃度は、3質量%以上15質量%以下であることが好ましい。トナーを当該濃度で含む電子写真現像剤は、所望の画像濃度が得られやすく、カブリやトナー飛散をより良好に抑制することができる。
【0091】
本件発明に係る電子写真現像剤は、補給用現像剤としても用いることができる。
当該電子写真現像剤を補給用現像剤として用いる場合には、キャリアとトナーとの混合比は、キャリア1質量部に対してトナー2質量部以上50質量部以下であることが好ましい。
【0092】
当該電子写真現像剤は、磁気ドラム等にキャリアを磁力により吸引付着させてブラシ状にしてトナーを搬送し、バイアス電界を付与しながら、感光体上等に形成された静電潜像にトナーを付着させて可視像を形成する磁気ブラシ現像法を適用した各種電子写真現像装置に好適に用いることができる。当該電子写真現像剤は、バイアス電界を付与する際に、直流バイアス電界を用いる電子写真現像装置だけでなく、直流バイアス電界に交流バイアス電界を重畳した交番バイアス電界を用いる電子写真現像装置にも用いることができる。
【0093】
4.製造方法
以下では、本件発明に係るフェライト粒子、電子写真現像剤用キャリア芯材、電子写真現像剤用キャリア及び電子写真現像剤の製造方法について説明する。
【0094】
4-1.フェライト粒子及び電子写真現像剤用キャリア芯材
本件発明に係るフェライト粒子及び電子写真現像剤用キャリア芯材は焼成工程及び冷却工程を後述する方法で行う点を除いて、電子写真現像剤キャリア芯材などの用途に用いられるフェライト粒子の一般的な製造方法を採用することができる。またその際、原料混合工程、表面熱処理工程を後述する方法で行うことが好ましい。
なお、本件発明に係るフェライト粒子の製造方法は、上述のフェライト粒子を製造するためのフェライト粒子の製造方法であって、
Feを含むFe原料と、Mnを含むMn原料と、Mgを含むMg原料とを所定量混合した混合物を得る工程と、
前記混合物を用いて造粒物を得る工程と、
焼成雰囲気を制御可能な密閉式熱処理室と、冷却雰囲気を前記焼成雰囲気とは異なる雰囲気に制御可能な冷却室とを有する密閉式雰囲気熱処理炉を用い、前記密閉式熱処理室で前記造粒物を焼成して焼成物を得る工程と、
前記焼成物を外気に接触させることなく、雰囲気酸素濃度が0.3体積%未満に制御された前記冷却室において250℃以下になるまで冷却する冷却工程と、
前記冷却工程を経た後の前記焼成物に対して、表面熱処理を施す工程と、を備える。
【0095】
以下、原料混合工程、造粒物作製工程、焼成工程、冷却工程、冷却後工程、表面熱処理工程の順に説明する。
【0096】
4-1-1.原料混合工程
原料混合工程では、上記式(1)で表されるフェライト粒子本体を得るべく、焼成後のスピネル組成が所望の組成となるようにFe原料、Mn原料及びMg原料を秤量して混合する。Fe原料としては、Fe等の酸化鉄を用いることができる。Mn原料としては、MnO、Mn、Mn、MnCO等を用いることができる。Mg原料としては、MgO,Mg(OH)、MgCO等を用いることができる。さらに、Sr元素を含むフェライト粒子を得る場合には、Srの酸化物又は炭酸塩等を原料とすることができる。
【0097】
ここで、本発明に係るフェライト粒子を得る上で、原料の配合割合が下記式(4)を満たすことが好ましい。
【0098】
0.80≦nFe/(nMn+nMg)<2.00・・・(4)
但し、
Fe:前記Fe原料中のFe元素の物質量(mol%)
Mn:前記Mn原料中のMn元素の物質量(mol%)
Mg:前記Mg原料中のMg元素の物質量(mol%)
【0099】
上記式(4)において、「(nMn+nMg)」は上記一般式「AB」におけるAサイト原料の配合量を表し、「nFe」はBサイト原料の配合量を表す。上記式(4)を満たすように原料を配合することで、上述のとおり上記式(1)に応じた化学量論に対して、Aサイト原料の配合量が多い状態で原料が混合され、製造されるフェライトの格子定数が概ね8.500Å以上となる。すなわち、上記定義したAリッチフェライトが製造される。そのため、上記式(1)及び式(2)を満たす本発明に係るフェライト粒子を良好に製造することができる。下記式(4)の値が2.00以上になると上記式(1)に応じた化学量論に対して、Fe原料の配合量が同等又は多い状態で原料が混合され、製造されるフェライトの格子定数が8.500Å未満となるおそれがある。すなわち、上記定義したBリッチフェライトが製造されるおそれがある。そのため、式(1)及び式(2)を満たすフェライト粒子が得られにくい場合がある。一方、下記式(4)の値が0.80未満になると、Fe原料が少なくなり過ぎて、所望の飽和磁化が得られずキャリア付着が生じやすくなる場合がある。
【0100】
そして、原料を所定量秤量した後、湿式あるいは乾式で、ボールミル、サンドミル又は振動ミル等で1時間以上、好ましくは1~20時間粉砕混合する。
【0101】
4-1-2.造粒物作製工程
次に、上記のように原料を粉砕混合した混合物に水を加えてビーズミル等を用いて微粉砕し、スラリーを得る。メディアとして使用するビーズの径、組成、粉砕時間を調整することによって、粉砕度合いをコントロールすることができる。原料を均一に分散させる上で、1mm以下の粒径を持つ微粒なビーズをメディアとして使用することが好ましい。また、原料を均一に分散させる上で、粉砕物の体積平均粒径(D50)が2.5μm以下になるように粉砕することが好ましく、2.0μm以下になるように粉砕することがより好ましい。また、異常粒成長を抑制するため、粒度分布の粗目側の粒径(D90)は3.5μm以下になるように粉砕することが好ましい。このようにして得られたスラリーに、必要に応じて分散剤、バインダー等を添加し、2ポイズ以上4ポイズ以下に粘度調整することが好ましい。この際、バインダーとしてポリビニルアルコールやポリビニルピロリドンを用いることができる。
【0102】
上記のように調製されたスラリーを、スプレードライヤーを用いてスラリーを噴霧し、乾燥させることで造粒物を得る。
【0103】
次に、上記造粒物を焼成する前に分級し、当該造粒物に含まれる微細粒子を除去することが粒度の揃ったフェライト粒子を得る上で好ましい。造粒物の分級は、既知の気流分級や篩等を用いて行うことができる。
【0104】
ところで、フェライト粒子の製造工程では、スラリーを調製する前に、原料の混合物を仮焼成する仮焼成工程を設けることが一般に行われている。また、造粒物を得た後、造粒物から分散剤やバインダーといった有機成分の除去を行うためのいわゆる脱バインダー工程を設けることも多い。しかしながら、本発明に係るフェライト粒子を製造するには、仮焼成工程や脱バインダー工程を行わないことが好ましい。本焼成工程の前に、これらの熱処理工程を行うと、原料の混合物が加熱されることによりフェライト化反応が一部進行する。そのため、造粒物はスピネル構造への結晶化が部分的に進んだ種結晶を含むことになる。このような造粒物を本焼成すると、種結晶が起点となって結晶成長するため、本焼成後に得られたフェライト粒子には内部空孔が発生しやすくなる。そのため、フェライト粒子の磁化の低下を招きやすい。また、この場合、本焼成工程において各粒子の結晶成長が同等になるように制御することが困難であり、粒子毎の内部空孔の大きさなどにバラツキが生じやすくなる。よって、内部空孔率が小さく、他の粒子と比較して低磁化の粒子が含まれない高速印刷に適したキャリア芯材に用いるフェライト粒子を得る上では、本焼成工程の前にフェライト化反応が進行し得る条件で、原料の混合粉や造粒物に対して仮焼成工程や脱バインダー工程等の熱処理を施すことは好ましくない。
【0105】
4-1-3.焼成工程
上記式(1)及び式(2)を満たすフェライト粒子を得る上で、焼成工程は以下のように行う。
【0106】
(1)焼成炉
焼成を行う際は、焼成雰囲気を制御可能な密閉式熱処理室と、冷却雰囲気を前記焼成雰囲気とは異なる雰囲気に制御可能な冷却室とを有する密閉式雰囲気熱処理炉を用いる。この様な密閉式雰囲気熱処理炉として、例えば、トンネルキルン、エレベータキルン等が挙げられる。また、このような連続炉では、造粒物をコウ鉢等の耐火物容器に入れて静置した状態で熱間部を通過させるため、造粒物の内部を十分に焼結させることができるため、高磁化及び高抵抗であり、スピネル型結晶相が十分に生成された焼成物を得ることが容易になる。なお、当該焼成物がフェライト粒子本体となる。
【0107】
また、炉内の雰囲気を制御可能な密閉式雰囲気焼成炉を用いることにより、密閉式熱処理室内を式(1)及び式(2)を満たすフェライト粒子を製造する上で好適な焼成雰囲気に調整することができ、耐火物容器内における個々の粒子の焼成雰囲気を同一に調整することが容易になる。なお、式(1)及び式(2)を満たすフェライト粒子を製造する上で好適な焼成雰囲気については後述する。
【0108】
(2)焼成雰囲気
本発明に係るフェライト粒子を製造する上で、焼成雰囲気中の酸素濃度は0.1体積%(1000ppm)未満の無酸素雰囲気であることが好ましい。焼成雰囲気をこのような無酸素雰囲気とすることで、上記式(1)及び式(2)を満たすフェライト粒子本体を得ることができる。
【0109】
(3)焼成温度等
焼成温度及び焼成時間は目的とするスピネル組成のフェライト粒子(フェライト粒子本体)を製造する上で好ましい条件を採用することができる。例えば、850℃以上の温度で4時間以上24時間以下保持することにより行うことが好ましい。その際、スピネル型結晶構造を有するフェライト粒子の生成に適した温度(850℃以上1280℃以下)で3時間以上保持することが好ましい。しかしながら、焼成温度や保持時間は、式(1)及び式(2)を満たすフェライト粒子が得られる限り、特に限定されるものではない。
【0110】
4-1-4.冷却工程
以上のようにして密閉式熱処理室で造粒物を焼成して焼成物を得た後、焼成物を外気に接触させることなく、雰囲気酸素濃度が0.3体積%未満に制御された冷却室において250℃以下になるまで冷却する。焼成直後は焼成物の表面温度が高く、焼成物の表面は活性が高い状態となっている。低酸素雰囲気下で焼成されたフェライトは酸素欠損型のスピネル型結晶構造が生じると考えられる。そのため、上述のとおり大気中の酸素と接触すると、焼成物の表面は酸化され、酸化皮膜が形成されて高抵抗化する。そこで、本発明では、焼成物を得た後、外気に接触させることなく、上記のように雰囲気制御された冷却室内で焼成物を冷却することで、焼成物の表面の活性を低下させた状態で焼成物を炉出させることができる。
但し、焼成工程及び冷却工程は、焼成雰囲気を上記のように制御可能な密閉式熱処理室と、冷却雰囲気を焼成雰囲気とは異なる雰囲気に制御可能な冷却室とを有する密閉式熱処理炉を用いるものとする。
【0111】
冷却室内の雰囲気酸素濃度が0.3体積%以上になると、冷却室には表面の活性が高い状態で焼成物が搬入されるため、外気と接触せずとも冷却室内の酸素と反応し、焼成物の表面に上記のように酸化皮膜が形成されてしまう。そのため、その後の表面熱処理工程において、フェライト粒子本体の格子定数との関係で式(2)を満たす格子定数を有する被覆層を形成することが困難になるため好ましくない。
【0112】
上記観点から、冷却室内の雰囲気酸素濃度は0.2体積%以下であることがより好ましく、0.1体積%以下であることがさらに好ましい。
【0113】
4-1-5.表面熱処理工程
上記のようにして冷却した焼成物を表面熱処理対象物とし、焼成物に対して表面熱処理を行う。表面熱処理は回転炉を用いる。このとき、回転炉の回転焼却室の内径をL(m)、回転数をX(rpm)、表面熱処理時間をt(min)としたとき、下記式(3)を満たすことが好ましい。
20 ≦ LπXt ≦ 60・・・(3)
【0114】
このような回転炉として、例えば、ロータリーキルンなどの回転式連続炉を用いることが好ましい。ロータリーキルンは、回転焼却室と、回転焼却室に対して表面熱処理対象物(熱処理対象物)を投入する投入口と、回転焼却室から表面熱処理(熱処理)が施された表面熱処理物が排出される排出口とを備え、投入口から回転焼却室に対して予め設定した一定の供給速度で回転焼却室内に連続的に表面熱処理対象物を供給することができる。回転焼却室は一般に略円筒形状をなし、投入口側から排出口側に向かって緩やかな下り傾斜を有する。投入口から投入された表面熱処理対象物は、回転焼却室内で回転されながら排出口側に向かって移動する。上記表面熱処理時間(t)は表面熱処理対象物が投入口から回転焼却室に投入されてから排出口を介して回転焼却室から排出されるまでの時間であり、表面熱処理対象物(各粒子)がt時間の間、回転焼却室内を回転しながら通過した時間を表す。
【0115】
このような回転炉を用いて焼成物の表面に熱処理を施すと、焼成物の表面が熱分解されて、焼成物の表層部分は上述のように、3(Mg,Mn(1-x))Fe→(1-x)Mn+3xMgFe+2(1-x)Feとなり、Mn、Fe、MgFeを含む複合物からなる被覆層となり、その内側がフェライト粒子本体となる。式(3)の値が上記範囲内となるようにして、焼成物の表面に熱処理を施すと、焼成物の表面が十分に熱分解される。その結果、フェライト粒子本体の表面に被覆層が均一の厚みで形成され、上記式(1)及び式(2)を満たすフェライト粒子を得ることができる。
【0116】
これに対して、上記式(3)の値が20未満になると、焼成物の表面に対して十分に熱処理を施すことができず、焼成物の表面に被覆層を均一な厚みで設けることができないおそれがある。この場合、式(1)で表されるフェライト粒子本体の表面に被覆層が局所的に設けられ、或いは、厚みが薄くなり、上記式(2)の値が下限値未満となるおそれがある。一方、式(3)の値が60よりも大きくなると、表面の熱分解が進みすぎ、Mnの生成量が増加し、その結果上記式(2)の値が上限値を超えるおそれがある。
【0117】
これらの観点から、上記式(3)の下限値は20より大きいことが好ましい。また、上限値は60より小さいことが好ましく、50であることがより好ましく、40であることがさらに好ましい。
【0118】
また、当該表面熱処理は、大気等の酸素含有雰囲気下で、350℃以上600℃以下、好ましくは400℃以上550℃以下で行うことが好ましい。このような表面熱処理条件で表面熱処理対象物の表面に熱処理を施すことで、式(1)及び式(2)を満たすフェライト粒子をより好適に製造することができる。
【0119】
一方、表面熱処理温度が350℃未満である場合、焼成物の表面を十分に加熱することができず、焼成物の表面に被覆層を均一な厚みで設けることができない場合がある。一方、表面熱処理温度が600℃よりも高い場合、熱分解により生じたFe、Mnの酸化反応が生じるおそれがある。具体的には、2Fe+1/2O→3Fe、2Mn+1/2O→3Mnの反応が生じ、上記式(2)の値が上限値を超えてしまうおそれがある。また、この場合、フェライト粒子の飽和磁化が低下するおそれがある。
【0120】
4-1-6.解砕、分級工程
冷却工程後、及び/又は、表面熱処理工程後、焼成物或いは表面熱処理後の焼成物を解砕、分級を行う。分級方法としては、既存の風力分級、メッシュ濾過法、沈降法等を用いて所望の粒子径に粒度調整してもよい。乾式回収を行う場合は、サイクロン等で回収することも可能である。粒度調整を行う際は前述の分級方法を2種類以上選んで実施してもよく、1種類の分級方法で条件を変更して粗粉側粒子と微粉側粒子を除去してもよい。特に冷却工程後、解砕、分級を行った後に表面熱処理工程を行えば、焼成物の表面に均一に表面熱処理を行うことができて好ましい。
【0121】
4-2.電子写真現像剤用キャリア
本件発明に係る電子写真現像剤用キャリアは、上記フェライト粒子を芯材とし、当該フェライト粒子の表面に樹脂被覆層を設けたものである。樹脂被覆層を構成する樹脂は上述したとおりである。フェライト粒子の表面に樹脂被覆層を形成する際には、公知の方法、例えば刷毛塗り法、流動床によるスプレードライ法、ロータリドライ方式、万能攪拌機による液浸乾燥法等を採用することができる。フェライト粒子の表面に対する樹脂の被覆面積の割合(樹脂被覆率)を向上させるためには、流動床によるスプレードライ法を採用することが好ましい。いずれの方法を採用する場合であっても、フェライト粒子に対して、1回又は複数回樹脂被覆処理を行うことができる。樹脂被覆層を形成する際に用いる樹脂被覆液には、上記添加剤を含んでいてもよい。また、フェライト粒子表面における樹脂被覆量は上述したとおりであるため、ここでは説明を省略する。
【0122】
フェライト粒子の表面に樹脂被覆液を塗布した後、必要に応じて、外部加熱方式又は内部加熱方式により焼き付けを行ってもよい。外部加熱方式では、固定式又は流動式の電気炉、ロータリー式電気炉、バーナー炉などを用いることができる。内部加熱方式では、マイクロウェーブ炉を用いることができる。被覆樹脂にUV硬化樹脂を用いる場合は、UV加熱器を用いる。焼き付けは、被覆樹脂の融点又はガラス転移点以上の温度で行うことが求められる。被覆樹脂として、熱硬化性樹脂又は縮合架橋型樹脂等を用いる場合は、これらの樹脂の硬化が十分進む温度で焼き付ける必要がある。
【0123】
4-3.電子写真現像剤
次に、本発明に係る電子写真現像剤の製造方法について説明する。
本発明に係る電子写真現像剤は、上記電子写真現像剤用キャリアとトナーとを含む。トナーは上述したとおり、重合トナー及び粉砕トナーのいずれも好ましく用いることができる。
【0124】
重合トナーは、懸濁重合法、乳化重合法、乳化凝集法、エステル伸長重合法、相転乳化法等の公知の方法で製造することができる。例えば、界面活性剤を用いて着色剤を水中に分散させた着色分散液と、重合性単量体、界面活性剤及び重合開始剤を水性媒体中で混合撹拌し、重合性単量体を水性媒体中に乳化分散させて、撹拌、混合しながら重合させた後、塩析剤を加えて重合体粒子を塩析させる。塩析によって得られた粒子を、濾過、洗浄、乾燥させることにより、重合トナーを得ることができる。その後、必要により乾燥されたトナー粒子に外添剤を添加してもよい。
【0125】
さらに、この重合トナー粒子を製造するに際しては、重合性単量体、界面活性剤、重合開始剤、着色剤等を含むトナー組成物を用いる。当該トナー組成物には、定着性改良剤、帯電制御剤を配合することができる。
【0126】
粉砕トナーは、例えば、バインダー樹脂、着色剤、帯電制御剤等を、例えばヘンシェルミキサー等の混合機で充分混合し、次いで二軸押出機等で溶融混練して均一分散し、冷却後に、ジェットミル等により微粉砕化し、分級後、例えば風力分級機等により分級して所望の粒径のトナーを得ることができる。必要に応じて、ワックス、磁性粉、粘度調節剤、その他の添加剤を含有させてもよい。さらに分級後に外添剤を添加することもできる。
【実施例
【0127】
次に、実施例及び比較例を示して本件発明を具体的に説明する。但し、本件発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0128】
[実施例1]
(1)フェライト粒子
実施例1では、配合比がMnO:50.0mol%、MgO:4.0mol%、Fe:46.0mol%及びSrO:0.8mol%になるようにMnO原料、MgO原料、Fe原料及びSrO原料をそれぞれ秤量した。ここで、MnO原料としては四酸化三マンガンを用い、MgO原料としては水酸化マグネシウムを用い、Fe原料として酸化第二鉄を用い、SrO原料としては炭酸ストロンチウムを用いた。また、上記式(4)に関し、nFe=46.0×2=92.0、nMn=50.0、nMg=4.0であり、nFe/(nMn+nMg)=1.70である。
【0129】
次いで、秤量した原料を乾式のメディアミル(振動ミル、1/8インチ径のステンレスビーズ)で5時間粉砕し、スラリーバインダー及び分散剤を添加した。バインダーとしてPVA(ポリビニルアルコール、20質量%溶液)を用い、これを固形分(スラリー中の原料量)に対してPVAを0.2質量%添加した。分散剤としてポリカルボン酸系分散剤を添加し、スラリーの粘度を2ポイズに調製した。そして、スプレードライヤーにより造粒、乾燥した。
【0130】
その後、密閉式雰囲気熱処理炉としてのトンネル式電気炉により、密閉式熱処理室の内部で焼成温度(保持温度)1250℃、酸素濃度0.0体積%雰囲気下で5時間保持することにより造粒物を焼成した。このとき、昇温速度を150℃/時とした。
【0131】
得られた焼成物を外気に接触させることなく、酸素濃度0.0体積%雰囲気下に制御された冷却室内で焼成物が100℃になるまで冷却した。以後、冷却工程において焼成物を冷却した際に焼成物が達するべき温度を冷却温度と称する。
なお、本実施例で用いたトンネル式電気炉は密閉式熱処理室と冷却室とが連設されており、コウ鉢に収容された焼成物をベルトコンベアで外気と接触させることなく冷却室に搬送することができる。また、密閉式熱処理室と冷却室とは独立して冷却室を密閉式熱処理室とは異なる雰囲気に制御することができる。
【0132】
所定の冷却温度(100℃)に達した焼成物を衝撃式粉砕機であるハンマークラッシャーで解砕し、さらに回分式のふるいわけ方式を用いたジャイロシフター、及び気流式分級室回転型に分類されるターボクラシファイアにて分級して粒度調整を行い、磁力選鉱により低磁力品を分別した。
そして、ロータリーキルンを用いて上記式(3)(LπXt)の値が60になるように回転焼却室の内径L(m)に対して回転数X(rpm)及び表面熱処理時間t(min)を調整し、450℃で冷却後の焼成物の表面に熱処理を施した。
以上の工程により実施例1のフェライト粒子を得た。
【0133】
(2)電子写真現像剤用キャリア
上記フェライト粒子を芯材とし、当該フェライト粒子に対して、表面に以下のように樹脂被覆層を形成して、実施例1のキャリアを得た。
【0134】
まず、T単位とD単位を主成分とする縮合架橋型シリコーン樹脂(重量平均分子量:約8000)を準備した。このシリコーン樹脂溶液2.5質量部(樹脂溶液濃度20質量%のものを用いたためシリコーン樹脂固形分としては0.5質量部、希釈溶媒:トルエン)と、上記フェライト粒子100質量部とを、万能混合撹拌機にて混合撹拌し、トルエンを揮発させながらシリコーン樹脂をフェライト粒子の表面に被覆した。トルエンが充分揮発したことを確認した後、装置内から取り出して容器に入れ、熱風加熱式のオーブンにて250℃で2時間加熱処理を行った。その後、室温まで冷却し、表面の樹脂が硬化したフェライト粒子を取り出し、200メッシュの目開きの振動篩にて粒子の凝集を解し、磁力選鉱機を用いて、非磁性物を取り除いた。その後、再度200メッシュの目開きの振動篩にて粗大粒子を取り除き、フェライト粒子を芯材とし、その表面に樹脂被覆層を備えた実施例1の電子写真現像剤用キャリアを得た。
【0135】
[実施例2]
各原料を配合比がMnO:58.0mol%、MgO:0.2mol%、Fe:41.8mol%及びSrO:1.2mol%になるようにMnO原料、MgO原料、Fe原料及びSrO原料をそれぞれ秤量し、焼成温度を1270℃、冷却工程において焼成物が達すべき冷却温度を250℃とし、表面熱処理温度を370℃、表面熱処理時に式(3)の値が「20」となるようにした点を除いて実施例1と同様にしてフェライト粒子を製造して、実施例2のフェライト粒子を製造した。なお、上記式(4)の値は、「1.44」である。そして、このフェライト粒子を用いた点を除いて、実施例1と同様にして実施例2の電子写真現像剤用キャリアを得た。
【0136】
[実施例3]
各原料を配合比がMnO:50.0mol%、MgO:0.1mol%、Fe:49.9mol%及びSrO:0.8mol%になるようにMnO原料、MgO原料、Fe原料及びSrO原料をそれぞれ秤量し、焼成温度を1270℃、表面熱処理温度を490℃、表面熱処理時に式(3)の値が「40」となるようにした点を除いて実施例1と同様にして、実施例3のフェライト粒子を製造した。なお、上記式(4)の値は、「1.99」である。そして、このフェライト粒子を用いた点を除いて、実施例1と同様にして実施例3の電子写真現像剤用キャリアを得た。
【0137】
[実施例4]
各原料を配合比がMnO:58.0mol%、MgO:5.0mol%、Fe:37.0mol%及びSrO:0.8mol%になるようにMnO原料、MgO原料、Fe原料及びSrO原料をそれぞれ秤量し、焼成温度を1230℃、表面熱処理温度を510℃、表面熱処理時に式(3)の値が「60」となるようにした点を除いて実施例1と同様にしてフェライト粒子を製造して、実施例4のフェライト粒子を製造した。なお、上記式(4)の値は、「1.17」である。そして、このフェライト粒子を用いた点を除いて、実施例1と同様にして実施例4の電子写真現像剤用キャリアを得た。
【0138】
[実施例5]
各原料を配合比がMnO:55.0mol%、MgO:6.5mol%、Fe:38.5mol%及びSrO:0.4mol%になるようにMnO原料、MgO原料、Fe原料及びSrO原料をそれぞれ秤量し、焼成温度を1240℃、表面熱処理温度を500℃、表面熱処理時に式(3)の値が「40」となるようにした点を除いて実施例1と同様にしてフェライト粒子を製造して、実施例5のフェライト粒子を製造した。なお、上記式(4)の値は、「1.25」である。そして、このフェライト粒子を用いた点を除いて、実施例1と同様にして実施例5の電子写真現像剤用キャリアを得た。
【0139】
[実施例6]
各原料を配合比がMnO:71.3mol%、MgO:0.1mol%、Fe:28.6mol%及びSrO:1.0mol%になるようにMnO原料、MgO原料、Fe原料及びSrO原料をそれぞれ秤量し、焼成温度を1260℃、冷却工程において焼成物が達すべき冷却温度を50℃とし、表面熱処理温度を450℃、表面熱処理時に式(3)の値が「45」となるようにした点を除いて実施例1と同様にしてフェライト粒子を製造して、実施例6のフェライト粒子を製造した。なお、上記式(4)の値は、「0.80」である。そして、このフェライト粒子を用いた点を除いて、実施例1と同様にして実施例6の電子写真現像剤用キャリアを得た。
【0140】
[比較例1]
各原料を配合比がMnO:40.4mol%、MgO:9.0mol%、Fe:50.6mol%及びSrO:0.3mol%になるようにMnO原料、MgO原料、Fe原料及びSrO原料をそれぞれ秤量し、焼成温度を1180℃、焼成雰囲気中の酸素濃度0.7体積%、冷却工程において焼成物が達すべき冷却温度を300℃、冷却雰囲気中の酸素濃度0.6体積%とし、表面熱処理温度を350℃、表面熱処理時に式(3)の値が「15」となるようにした点を除いて実施例1と同様にしてフェライト粒子を製造して、比較例1のフェライト粒子を製造した。なお、上記式(4)の値は、「2.05」である。そして、このフェライト粒子を用いた点を除いて、実施例1と同様にして比較例1の電子写真現像剤用キャリアを得た。
【0141】
[比較例2]
各原料を配合比がMnO:45.0mol%、MgO:2.0mol%、Fe:53.0mol%及びSrO:0.8mol%になるようにMnO原料、MgO原料、Fe原料及びSrO原料をそれぞれ秤量し、焼成温度を1200℃、焼成雰囲気中の酸素濃度0.0体積%、冷却工程において焼成物が達すべき冷却温度を250℃、冷却雰囲気中の酸素濃度0.2体積%とし、表面熱処理工程を行わなかった点を除いて実施例1と同様にしてフェライト粒子を製造して、比較例2のフェライト粒子を製造した。なお、上記式(4)の値は、「2.26」である。そして、このフェライト粒子を用いた点を除いて、実施例1と同様にして比較例2の電子写真現像剤用キャリアを得た。
【0142】
[比較例3]
各原料を配合比がMnO:46.0mol%、MgO:2.5mol%、Fe:51.5mol%及びSrO:0.8mol%になるようにMnO原料、MgO原料、Fe原料及びSrO原料をそれぞれ秤量し、焼成温度を1200℃、焼成雰囲気中の酸素濃度1.0体積%、冷却工程において焼成物が達すべき冷却温度を300℃、冷却雰囲気中の酸素濃度0.0体積%とし、表面熱処理温度を350℃、表面熱処理時に式(3)の値が「10」となるようにした点を除いて実施例1と同様にしてフェライト粒子を製造して、比較例3のフェライト粒子を製造した。なお、上記式(4)の値は、「2.12」である。そして、このフェライト粒子を用いた点を除いて、実施例1と同様にして比較例3の電子写真現像剤用キャリアを得た。
【0143】
[比較例4]
各原料を配合比がMnO:35.0mol%、MgO:6.0mol%、Fe:59.0mol%及びSrO:1.3mol%になるようにMnO原料、MgO原料、Fe原料及びSrO原料をそれぞれ秤量し、焼成温度を1150℃、焼成雰囲気中の酸素濃度0.0体積%、冷却工程において焼成物が達すべき冷却温度を250℃、冷却雰囲気中の酸素濃度0.5体積%とし、表面熱処理温度を520℃、表面熱処理時に式(3)の値が「62」となるようにした点を除いて実施例1と同様にしてフェライト粒子を製造して、比較例4のフェライト粒子を製造した。なお、上記式(4)の値は、「2.88」である。そして、このフェライト粒子を用いた点を除いて、実施例1と同様にして比較例4の電子写真現像剤用キャリアを得た。
【0144】
[比較例5]
各原料を配合比がMnO:50.0mol%、MgO:1.0mol%、Fe:49.0mol%及びSrO:1.0mol%になるようにMnO原料、MgO原料、Fe原料及びSrO原料をそれぞれ秤量し、焼成温度を1230℃、焼成雰囲気中の酸素濃度0.7体積%、冷却工程において焼成物が達すべき冷却温度を200℃、冷却雰囲気中の酸素濃度0.0体積%とし、表面熱処理工程を行わなかった点を除いて実施例1と同様にしてフェライト粒子を製造して、比較例1のフェライト粒子を製造した。なお、上記式(4)の値は、「1.92」である。そして、このフェライト粒子を用いた点を除いて、実施例1と同様にして比較例5の電子写真現像剤用キャリアを得た。
【0145】
[比較例6]
各原料を配合比がMnO:36.0mol%、MgO:2.0mol%、Fe:62.0mol%及びSrO:0.8mol%になるようにMnO原料、MgO原料、Fe原料及びSrO原料をそれぞれ秤量し、焼成温度を1200℃、焼成雰囲気中の酸素濃度1.1体積%、冷却工程において焼成物が達すべき冷却温度を300℃、冷却雰囲気中の酸素濃度0.4体積%とし、表面熱処理温度を520℃、表面熱処理時に式(3)の値が「70」となるようにした点を除いて実施例1と同様にしてフェライト粒子を製造して、比較例1のフェライト粒子を製造した。なお、上記式(4)の値は、「3.26」である。そして、このフェライト粒子を用いた点を除いて、実施例1と同様にして比較例6の電子写真現像剤用キャリアを得た。
表1に各実施例及び比較例におけるフェライト粒子の製造条件を示す。
【0146】
[評価]
1.評価方法
(1)結晶構造
上記各実施例及び比較例のフェライト粒子について、上記の方法により(a)粉末X線回折パターンにおける(311)面の半値幅、(b)フェライト粒子本体及び被覆層の格子定数を測定し、(c)フェライト粒子本体と被覆層の格子定数差DLCを算出した。
【0147】
(2)「x」の値及び「Sr含有量」
上記の方法によりICP発光分析を行い、式(1)における「x」の値及び「Sr含有量」を求めた。
【0148】
(3)基本特性
上記各実施例及び比較例のフェライト粒子について、上記の方法により(a)飽和磁化、(b)表面粗さRz、(c)見掛密度(AD)、(d)BET比表面積を測定した。
【0149】
(4)画質特性
各実施例及び比較例で製造した電子写真現像剤用キャリアを用いて、以下のようにして電子写真現像剤を調製し、(a)画像濃度即応性、(b)帯電量の経時変化率、(c)画像濃度安定性、(d)キャリア付着量、(e)トナー飛散量について評価した。
【0150】
電子写真現像剤は、次のようにして調製した。
各実施例及び比較例で製造した電子写真現像剤用キャリア18.6gと、トナー1.4gをボールミルにより10分間攪拌して混合し、トナー濃度が7.0質量%の電子写真現像剤を製造した。トナーはフルカラープリンターに使用されている市販の負極性トナー(シアントナー、富士ゼロックス株式会社製DocuPrintC3530用;平均体積粒径(D50)約5.8μm)を用いた。
【0151】
(a)画像濃度即応性
上記のようにして調製した電子写真現像剤を試料とし、帯電量測定装置を用いて、以下のような基準で画像濃度即応性を判定した。
【0152】
帯電量測定装置として、直径31mm、長さ76mmの円筒形のアルミ素管(以下、スリーブ)の内側に、N極とS極を交互に合計8極の磁石(磁束密度0.1T)を配置したマグネットロールを配置した。また、該スリーブと5.0mmのGapをもった円筒状の電極を、該スリーブの外周に配置した。そしてスリーブ上に、試料としての電子写真現像剤0.5gを均一に付着させた後、外側のアルミ素管を固定させたまま、内側のマグネットロールを80rpmで回転させながら、外側の電極とスリーブ間に、直流電圧2000Vを60秒間印加し、トナーを外側の円筒状の電極に移行させて、外側の電極に移行したトナー質量(トナー移行量)を測定した。同様にして、外側の電極とスリーブ間に、直流電圧2500Vを60秒間印加したときのトナー移行量についても測定した。外側の円筒状の電極として、エレクトロメーター(KEITHLEY社製 絶縁抵抗計model6517A)を用いた。そして、印加電圧が2000Vのときのトナー移行量をT2K、印加電圧が2500Vのときのトナー移行量をT2.5Kとし、以下の式により印加電圧が変化したときの画像濃度の再現性を画像濃度即応性として評価した。
画像濃度即応性(%)=(T2.5K-T2K)/T2.5K×100
【0153】
各試料について求めた画像濃度即応性の値に基づき、以下の判定基準によりA~Dの評価を行った。
A:5%未満
B:5%以上10%未満
C:10%以上15%未満
D:15%以上
【0154】
(b)帯電量の経時変化率
帯電量の測定は、次のようにして行った。上記のようにして調製した電子写真現像剤を試料とし、当該試料を20±5℃相対湿度50±5%の雰囲気において1日曝露した後に、画像濃度即応性を評価した際に用いた帯電量測定装置と同じ帯電量測定装置を用いて、上記と同様に直流電圧2500Vを60秒間印加し、トナーを外側の電極に移行させた。このとき、円筒状の電極にはエレクトロメーター(KEITHLEY社製 絶縁抵抗計model6517A)を接続し、外側の電極に移行したトナーの電荷量を測定した。測定された電荷量と移行したトナー質量とから、帯電量を算出した。これを攪拌前の帯電量とした。
【0155】
また、上記のようにして調製した電子写真現像剤を容量が50mlのガラス瓶に入れて浅田鉄工株式会社製のペイントシェーカーを用いて150rpmの回転数で10時間撹拌した後、現像剤を取り出し、画像濃度即応性を評価した際に用いた帯電量測定装置と同じ帯電量測定装置を用いて、上記と同様に直流電圧2500Vを60秒間印加し、トナーを外側の電極に移行させた。このとき、円筒状の電極にはエレクトロメーター(KEITHLEY社製 絶縁抵抗計model6517A)を接続し、外側の電極に移行したトナーの電荷量を測定した。測定された電荷量と移行したトナー質量とから、帯電量を算出した。これを強制攪拌後の帯電量(攪拌後の帯電量)とした。
【0156】
そして、下記式により、帯電量の経時変化率を算出し、以下の基準により評価した。
帯電量の経時変化率(%)=
|(攪拌後の帯電量)-(攪拌前の帯電量)|/(攪拌前の帯電量)×100
【0157】
A:1.5%未満
B:1.5%以上3.0%未満
C:3.0%以上5.0%未満
D:5.0%以上
【0158】
(c)画像濃度安定性
上記のようにして調製した電子写真現像剤を試料とし、当該試料を60℃相対湿度80%の雰囲気において1日曝露した後のキャリアの帯電量を上記「帯電量の経時変化率」の測定と同様にして測定し、これを帯電量C1とする。同様にして当該試料を60℃相対湿度80%の雰囲気において15日曝露した後のキャリアの帯電量を測定し、これを帯電量C15とする。
そして、下記式に基づいて帯電量の変化率を算出し、この帯電量の変化率から画像濃度安定性を以下の基準により評価した。
【0159】
帯電量の変化率(%)=|C1-C15|/C1×100
【0160】
A:5%未満
B:5%以上10%未満
C:10%以上15%未満
D:15%以上
【0161】
(d)キャリア付着量
上記のようにして調製した電子写真現像剤を試料とし、以下のようにしてキャリア付着を評価した。
【0162】
画像濃度即応性を評価する際に用いた帯電量測定装置と同じ帯電量測定装置を用い、スリーブ上に、上記電子写真現像剤1gを均一に付着させた後、外側のアルミ素管を固定させたまま、内側のマグネットロールを80rpmで回転させながら、外側の電極とスリーブ間に、直流電圧2500Vを90秒間印加し、トナーを外側の電極に移行させた。90秒経過後、印加していた電圧を切り、マグネットロールの回転を止めた後、外側の電極を取り外し、電極に移行したトナーと一緒に付着したキャリア粒子の個数を計測した。計測したキャリア粒子の数に基づいて、以下の基準によりA~Dの評価を行った。
【0163】
A:付着したキャリア粒子の数20個未満
B:付着したキャリア粒子の数20個以上40個未満
C:付着したキャリア粒子の数40個以上50個未満
D:付着したキャリア粒子の数50個以上
【0164】
(e)トナー飛散量
N極とS極を交互に合計8極の磁石(磁束密度0.1T)を配置したマグネットロールと、マグネットロールから1.0mmのGapを介して穂切板を設置し、現像剤と接触する穂切板から50mmの位置に粒子計数機の計測部を設置し、トナー飛散量計測装置とした。外気の影響によりトナー飛散が生じ測定値が変動することを抑制するため、トナー飛散量の測定は、20±5℃、50±5%のクラス1000のクリーンルーム内で行った。また、トナー飛散量の測定は、マグネットロールを80rpmで10分間回転させる間に穂切板に付着した粒子のうち、粒径5μmの粒子を計数対象として計数し、その積算粒子数から1分当りの粒子数(但し、容積1L当たりの粒子数とする)を求め、以下の基準によりA~Dの評価を行った。
【0165】
A:500個/L未満
B:500個/L以上1000個/L未満
C:1000個/L以上1600個/L未満
D:1600個/L以上
【0166】
上記評価方法は、実機(画像形成装置)により画像濃度即応性、帯電量の経時変化率、画像濃度安定性、キャリア付着量、トナー飛散量を評価する実機評価と比較すると、電子写真現像剤による画質特性の実態により近い評価を行うことができる。近年、実機や電子写真現像剤の性能が向上し、実機では実際に印刷したときには差がほとんど表れない場合がある。また、試験に用いる実機の機種や実機自体の経年劣化等によって評価結果にバラツキが生じる場合がある。一方、上記のように帯電量測定装置による代替評価によれば、測定条件を厳密に制御することができ、実機評価の場合と比較すると1つの評価帯の幅を広くすることができる。さらに、上記の代替評価では、それぞれマグネットロールの回転速度を80rpmと極めて低速にしている。そのため、40枚/分以下の中低速の連続複写速度を有する実機で印刷した際の電子写真現像剤の画質特性についてより精密な評価が可能になる。
【0167】
2.評価結果
表2に各実施例及び比較例で得た結晶構造に関する各種データを示す。表3に各実施例及び比較例のフェライト粒子の基本特性についての評価結果を示す。表4に各実施例及び比較例のフェライト粒子をキャリア芯材とした電写真現像剤による画質特性についての評価結果を示す。
【0168】
(1)結晶構造
表2に示すように、各実施例のフェライト粒子は、Fe原料、Mn原料及びMg原料の配合量が上記式(4)(nFe/(nMn+nMg))の値が0.80以上2.00未満になるように各原料を配合して造粒物を作製し、表面熱処理を行う際に式(3)(LπXt)の値が20以上60以下になるようにすることで、フェライト粒子本体の格子定数と被覆層の格子定数との差(DLC)が0.040Å~0.062Åであり、フェライト粒子本体の格子定数が8.500Å以上であり、上記定義したAリッチフェライトが得られた。また、ICP発光分析により、式(1)における「x」の値が0.001~0.106であることも確認された。よって、式(1)及び式(2)本発明に係るフェライト粒子が得られることが確認された。また、各実施例のフェライト粒子のX線回折パターンにおける(311)面の半値幅は0.26°~0.33°であり、比較例のフェライト粒子と比較すると半値幅が大きいことから、各実施例のフェライト粒子は各比較例のフェライト粒子と比較すると磁気分布が広いことも推認される。
【0169】
(2)基本特性
次に、表3から、各実施例及び各比較例の基本特性を対比する。本発明の実施例1~実施例6のフェライト粒子は飽和磁化が51Am/kg~75Am/kgであり、比較例1~比較例6のフェライト粒子は飽和磁化が69Am/kg~86Am/kgであった。各実施例のフェライト粒子本体は、各比較例のフェライト粒子と飽和磁化が同等の値を示すものもあるが、実施例のフェライト粒子ではMnの含有割合が比較例のフェライト粒子と比較すると高いため、全体的にみて実施例のフェライト粒子の方が低磁化であるといえる。
【0170】
また、見掛密度は実施例のフェライト粒子では2.26g/cm~2.35g/cmであるのに対して、比較例のフェライト粒子は1.91g/cm~2.20g/cmであり、全体的にみて実施例のフェライト粒子の方が見掛密度の値が高い傾向にあるといえる。表面粗さRzについて、実施例のフェライト粒子では2.5μm~3.5μmであるのに対して、比較例のフェライト粒子は2.0μm~2.1μmであり、全体的にみて実施例のフェライト粒子の方が表面粗さRzが大きい値を示した。BET比表面積については、実施例のフェライト粒子では0.050m/g~0.128m/gであるのに対して、比較例のフェライト粒子は0.152m/g~0.173m/gであり、実施例のフェライト粒子の方がBET比表面積が小さな値を示した。これらのことから、実施例のフェライト粒子は、比較例のフェライト粒子と比較すると、表面の凹凸が大きいことが確認される。そのため、当該フェライト粒子を芯材とし、その表面に樹脂被覆層を設けてキャリアにしたときに、実施例のフェライト粒子では芯材が露出する部分が多く、キャリアの低抵抗化が促進され、現像メモリの発生を抑制することができる。
【0171】
(3)画質特性
表4から、本実施例のフェライト粒子をキャリア芯材とした電子写真現像剤を用いたときは、「画像濃度即応性」、「帯電量の経時変化率」、「画像濃度安定性」、「キャリア付着」、「トナー飛散量」が「A」又は「B」の高い評価が得られた。特に実施例1のフェライト粒子は全ての項目が「A」の評価であり、中低速印刷に適した電子写真現像剤に極めて好適なキャリア芯材であることが確認された。一方、比較例についてみると、「トナー飛散量」については、比較例1を除くと「A」の評価が得られている。しかしながら、「画像濃度即応性」及び「画像濃度安定性」についてはいずれも「C」又は「D」の低評価であり、「帯電量の経時変化率」についても比較例4及び比較例6を除くと「C」又は「D」の低評価となった。
【0172】
このような結果となったのは以下の理由と考えられる。
まず、トナー飛散量に関しては、粒子の表面性状が影響すると考えられるが、Fe、Mn、Mgの総物質量を100molとしたときのSr含有量が0.4mol以上1.2mol以下の範囲内から大きく外れる比較例1を除いては、トナー飛散量の少ない電子写真現像剤が得られることが確認された。
【0173】
次に、帯電量の経時変化率に関しては、被覆層含有割合が影響すると考えられる。上述のとおり、フェライト粒子本体の表面に被覆層が局所的にしか設けられていないと、その露出箇所においてフェライト粒子本体が酸化し、芯材の表面抵抗が経時的に変化する。本実施例のフェライト粒子は、被覆層含有割合が5質量%以上35質量%以下の範囲内にあり、帯電量の変化率の少ない電子写真現像剤が得られたと考えられる。比較例4及び比較例6のフェライト粒子は、被覆層の含有割合が35質量%を超えている。被覆層の含有割合が35質量%を超えて多くなると、フェライト粒子の表面の熱分解が進行しすぎる結果、2Fe+1/2O→3Fe、2Mn+1/2O→3Mnの反応が生じ、それ以上酸化されなくなるため比較例4及び比較例6のように帯電量の経時率変化が小さくなる。
【0174】
画像濃度即応性及び画像濃度安定性については、次のように考えられる。各実施例のフェライト粒子は、式(1)及び式(2)を満足することから上述のとおり各格子点におけるMn占有率が高くなるAリッチフェライトであり、各格子点におけるFe3+占有率が高くなるBリッチフェライトと比較すると磁化が高くなり過ぎるのを抑制することができる。また、各実施例のフェライト粒子のX線回折パターンにおける(311)面の半値幅は比較例のフェライト粒子と比べると大きく、上述のとおりAリッチフェライトの場合、磁力分布が広くなる傾向にあることが確認される。これらのことから、各実施例のフェライト粒子は、Bリッチフェライトである比較例1~4、比較例6のフェライト粒子と比べると、粒子同士の磁気的な結合をほぐすのが容易であり、攪拌性、混合性に優れる。そのため、単位時間当たりの粒子同士の衝突頻度が高く、速やかにトナーを飽和帯電量まで帯電させることができる。その結果、画像濃度即応性の評価試験のように印加電圧が2000Vから2500Vに変化したときも、印加電圧によらず同程度の画像濃度を維持することができ、画像濃度即応性の高い電子写真現像剤を得ることができる。また各実施例のフェライト粒子では被覆層割合が5%~35%であり、被覆層によりフェライト粒子本体の表面全面が覆われていると考えられる。そのため、被覆層によりフェライト粒子本体が大気中の酸素と接触して酸化することを抑制することができ、キャリア芯材の表面抵抗が経時的に高くなるのを抑制することができる。比較例5はAリッチフェライトであるが、被覆層を備えていないため、画像濃度即応性、画像濃度安定性などの評価が低下したと考えられる。
【0175】
【表1】
【0176】
【表2】
【0177】
【表3】
【0178】
【表4】
【産業上の利用可能性】
【0179】
本件発明によれば、トナーとキャリアとの攪拌性、混合性に優れ、環境が変化したときも印刷初期における画像欠陥の発生を抑制することのできる電子写真現像剤用キャリア芯材、電子写真現像剤用キャリア及び電子写真現像剤を提供することができる。
【0180】
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。
本出願は、2021年5月28日出願の日本特許出願(特願2021-089756)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。