(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-24
(45)【発行日】2024-08-01
(54)【発明の名称】誘電体層応答に基づく電界効果トランジスタ光検出器
(51)【国際特許分類】
H01L 31/10 20060101AFI20240725BHJP
H10K 30/40 20230101ALI20240725BHJP
H10K 30/65 20230101ALI20240725BHJP
【FI】
H01L31/10 E
H10K30/40
H10K30/65
(21)【出願番号】P 2023529127
(86)(22)【出願日】2021-12-03
(86)【国際出願番号】 CN2021135265
(87)【国際公開番号】W WO2022151862
(87)【国際公開日】2022-07-21
【審査請求日】2023-05-16
(31)【優先権主張番号】202110062343.0
(32)【優先日】2021-01-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】510268554
【氏名又は名称】▲華▼中科技大学
【氏名又は名称原語表記】HUAZHONG UNIVERSITY OF SCIENCE & TECHNOLOGY
【住所又は居所原語表記】No. 1037, Luoyu Road, Wuhan, Hubei 430074, China
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】梅安意
(72)【発明者】
【氏名】韓宏偉
【審査官】井上 徹
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第105895729(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0008726(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0090437(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/00-31/02
H01L 31/08-31/119
H01L 31/18
H10K 30/00-30/89
H10K 39/30
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体層応答に基づく電界効果トランジスタ光検出器であって、
ゲート、光電応答複合誘電体層、キャリア輸送層、ソース及びドレインを含み、前記光電応答複合誘電体層は、光電応答媒体と電荷阻止絶縁媒体とから構成され、
前記キャリア輸送層は、電子又は正孔を輸送するものであり、前記光電応答媒体は、光照射下で光を吸収して電子、正孔又は励起子を生成するものであり、前記電荷阻止絶縁媒体は、電子、正孔、励起子の通過を制限するものであり、
前記光電応答複合誘電体層における光生成電子、正孔又は励起子の生成及び光電応答媒体内に制限される光生成電子、正孔又は励起子の移動により、光電応答複合誘電体層の等価誘電率の変化が引き起こされ、ひいてはキャリア輸送層のキャリア濃度の変化及び導電性の変化が引き起こされ、光照射前後のソースとドレイン間の電流の変化により光電検出が実現され
、
前記ゲート、前記光電応答複合誘電体層及び前記キャリア輸送層は、順に積層され、前記ソースと前記ドレインは、間隔をあけて前記キャリア輸送層の表面に設けられ、又は前記ソースと前記ドレインは、間隔をあけて前記誘電体層の表面に設けられ、前記キャリア輸送層は、前記ソース及び前記ドレインの周囲に設けられ
前記光電応答複合誘電体層の構造は、電荷阻止絶縁媒体層/光電応答媒体層/電荷阻止絶縁媒体層のサンドイッチ構造、又は前記サンドイッチ構造から構成される積層構造であり、
前記ゲートは、前記光電応答複合誘電体層における電荷阻止絶縁媒体層に隣接して積層されることを特徴とする、誘電体層応答に基づく電界効果トランジスタ光検出器。
【請求項2】
前記光電応答媒体層は、光電応答媒体と電荷阻止絶縁媒体を含み、前記光電応答媒体
のクラスターが前記電荷阻止絶縁媒体中にランダムに分散
することを特徴とする、請求項1に記載の誘電体層応答に基づく電界効果トランジスタ光検出器。
【請求項3】
前記光電応答媒体は、シリコン、ゲルマニウム、セレンを含む単体半導体材料、ヒ化ガリウムGaAs、硫化鉛PbS、セシウム鉛臭素CsPbBr
3ペロブスカイト化合物を含む半導体材料、メチルアミンヨウ化鉛MAPbI
3ペロブスカイト、ホルムアミジンヨウ化スズFASnI
3ペロブスカイト、ジテトラブチルアンモニウムビス(イソチオシアナト)ビス(2,2'-ビピリジン-4,4'ジカルボキシ)ルテニウムを含む有機無機ハイブリッド材料、フラーレン及びその誘導体、ポリ-3-ヘキシルチオフェン、アントラセン、トリフェニルアミンを含む有機材料から選択されることを特徴とする、請求項1
又は2に記載の誘電体層応答に基づく電界効果トランジスタ光検出器。
【請求項4】
前記電荷阻止絶縁媒体は、シリカ、酸化アルミニウム、ジルコニア、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリエチレングリコール、及びポリビニルピロリドンから選択されることを特徴とする、請求項1
又は2に記載の誘電体層応答に基づく電界効果トランジスタ光検出器。
【請求項5】
前記キャリア輸送層は、シリコン、ヒ化ガリウム、窒化ガリウム、酸化亜鉛、ハライドペロブスカイト、フラーレン誘導体、ポリトリアリールアミン、Spiro-MeOTADから選択されることを特徴とする、請求項1
又は2に記載の誘電体層応答に基づく電界効果トランジスタ光検出器。
【請求項6】
前記ゲート、前記ソース及び前記ドレインは、それぞれ独立して金属材料、高濃度ドープ高導電性半導体材料、及び炭素材料から選択されることを特徴とする、請求項1
又は2に記載の誘電体層応答に基づく電界効果トランジスタ光検出器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光検出器の分野に属し、より具体的には、誘電体層応答に基づく電界効果トランジスタ光検出器に関する。
【背景技術】
【0002】
光信号には多くの有効な情報が含まれており、光子の有効な検出はこれらの情報を取得して情報の収集と伝達を実現するのに役立ち、光子の有効な検出は、情報化とインテリジェント技術の発展にとって非常に重要である。光子の検出技術は、主に光検出器によるものであり、即ち、デバイス設計により光信号を電気信号に変換することで情報に対するさらなる処理を実現する。
【0003】
現在、直接光検出器は、主に光電導(photo-conductive)原理又は光起電力原理に基づくものである。光電導原理は、主に光の照射下で半導体材料の伝導度が変化する特性を利用し、その本質は、光照射が半導体内の電子、正孔および他のキャリアの濃度を変化させることである。キャリアの濃度が変化すると、半導体の導電性が変化し、抵抗が顕著に変化する。光照射前後の半導体を流れる電流の変化を検出することにより光信号の検出を実現することができる。光電導原理に基づく光検出器は、電極/光電応答半導体/電極のような簡単なデバイス構造であってもよく、光電応答半導体材料を電界効果トランジスタのソースとドレインとの間の活性層として使用するデバイス構造であってもよい。光起電力原理は、pn接合の光起電力効果を利用し、太陽電池と同様に、適切なデバイス設計により光電応答半導体材料に基づくpn接合デバイスを構築し、光照射前後のデバイスの出力電圧の変化または電流の変化を測定することによっても光信号の検出を実現することができる。直接光検出器技術に加え、間接光検出器技術(例えば、熱検出器)がある。熱検出器は、光信号の熱効果を利用し、検出素子の温度を変化させ、さらに温度変化による検出素子の物性の変化を測定することにより光の検出を実現する。
【0004】
現在、光検出器の開発は非常に成熟しているが、先行技術には早急に解決すべき一連の問題がある。光電導型光検出器では、光電応答半導体材料は、光を吸収して光生成キャリアを生成し、キャリアを伝導する役割を担っている。しかし、光吸収能力の高い半導体材料が必ずしもキャリア輸送能力に優れているとは限らず、また、比較的高い検出精度を得るために、活性層半導体の欠陥状態等に起因する暗電流をできるだけ小さくする必要がある。そのため、半導体材料に対する要求が高くなり、半導体の選択と製造は大幅に制限されている。光起電力型光検出器では、太陽電池面と同様に、デバイス内部の接合によりデバイスの感度などの性能が大幅に制限されている。動作原理の制限により、熱硬化に基づく光検出器にも感度の問題が存在する。現在、デバイスの動作環境を変化させ、デバイス内の高質量材料を効果的に制御することにより性能に優れた光検出器が得られたが、これらの技術により光検出器のコストが大幅に増加した。如何にデバイスの光電検出能力を向上させながらデバイスの製造コストを削減するかは、依然として当該技術分野の課題である。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、高性能光検出器の柔軟な設計及び低コストの製造を実現する誘電体層応答に基づく電界効果トランジスタ光検出器を提供する。
【0006】
上記の課題を解決する技術手段は、以下の通りである。
【0007】
誘電体層応答に基づく電界効果トランジスタ光検出器であって、
ゲート、光電応答複合誘電体層、キャリア輸送層、ソース及びドレインを含み、前記光電応答複合誘電体層は、光電応答媒体と電荷阻止絶縁媒体とから構成され、
前記キャリア輸送層は、電子又は正孔を輸送するものであり、前記光電応答媒体は、光照射下で光を吸収して電子、正孔又は励起子を生成するものであり、前記電荷阻止絶縁媒体は、電子、正孔、励起子の通過を制限するものであり、前記光電応答複合誘電体層における光生成電子、正孔又は励起子の生成及び光電応答媒体内に制限される光生成電子、正孔又は励起子の移動により、光電応答複合誘電体層の等価誘電率の変化が引き起こされ、ひいてはキャリア輸送層のキャリア濃度の変化及び導電性の変化が引き起こされ、光照射前後のソースとドレイン間の電流の変化により光電検出が実現される誘電体層応答に基づく電界効果トランジスタ光検出器。
【0008】
本発明の有益な効果は、以下の通りである。
本発明で開示される誘電体層応答に基づく電界効果トランジスタ光検出器において、光電応答複合誘電体層にある光電応答媒体は、光信号と相互作用する作用を担い、光電応答媒体は、光を吸収して電子、正孔、励起子などを生成する。光電応答複合誘電体層にある電荷阻止絶縁媒体は、光生成電子、正孔、励起子などを光電応答媒体の内部に制限する。ソースとゲート間に加えるバイアス電圧の作用下で電子、正孔、励起子は光電応答媒体の内部で配向移動し、外部回路と導電路を構成せず、誘電体層の誘電率の変化に相当し、誘電体層の誘電率の変化は、ソース、誘電体層、ゲートによって構成されるコンデンサの変化を直接引き起こし、ひいてはキャリア輸送層のキャリア濃度の変化を引き起こす。ソースとドレインのバイアス電圧が一定である場合、ソースとドレイン間の電流の変化などを測定すれば、光電検出を実現することができる。したがって、本発明の誘電体層応答に基づく電界効果トランジスタ光検出器において、光電応答媒体は良好な光吸収能力を有すればよく、良好なキャリア輸送特性を必要としない。ソースとドレインとの間のキャリア輸送層は、良好なキャリア輸送能力及び低い欠陥状態密度などを有すればよく、良好な光吸収能力を必要としない。キャリア輸送層及び光電応答複合誘電体層中の光電応答媒体は、それぞれキャリア輸送及び光電応答の作用を担う。このような構造設計により、光検出デバイスの設計の柔軟性が顕著に改善され、高性能で低コストの光検出器をさらに実現するのに有利である。
【0009】
上記の技術的手段をもとに、本発明を下記のように改良することができる。
【0010】
さらに、前記ゲート、前記光電応答複合誘電体層及び前記キャリア輸送層は、順に積層され、前記ソースと前記ドレインは、間隔をあけて前記キャリア輸送層の表面に設けられる。
【0011】
さらに、前記ゲート及び前記誘電体層は、積層して設けられ、前記ソースと前記ドレインは、間隔をあけて前記誘電体層の表面に設けられ、前記キャリア輸送層は、前記ソース及び前記ドレインの周囲に設けられる。
【0012】
さらに、前記光電応答複合誘電体層の構造は、電荷阻止絶縁媒体層/光電応答媒体層/電荷阻止絶縁媒体層のサンドイッチ構造、又は前記サンドイッチ構造から構成される積層構造である。
【0013】
さらに、前記光電応答複合誘電体層の構造は、前記光電応答媒体クラスターが前記電荷阻止絶縁媒体中にランダムに分散したランダム分散構造である。
【0014】
さらに、前記光電応答複合誘電体層の構造は、サンドイッチ構造とランダム分散構造との組み合わせ構造であり、前記サンドイッチ構造は、電荷阻止絶縁媒体層/光電応答媒体層/電荷阻止絶縁媒体層のサンドイッチ構造であり、前記ランダム分散構造は、前記光電応答媒体クラスターが前記電荷阻止絶縁媒体中に分散したランダム分散構造である。
【0015】
本発明の別の有益な効果は、以下の通りである。
電極間に光電応答複合誘電体層及びキャリア輸送層を設けた上、具体的に、キャリア輸送層の設置位置及び複合誘電体層の内部構造については、材料選択、プロセスの面で具体的な構造を設計することができる。そのため、本発明のデバイスの構造は、実際の必要に応じて柔軟に設計することができる。
【0016】
さらに、前記光電応答媒体は、シリコン、ゲルマニウム、セレンを含む単体半導体材料、ヒ化ガリウムGaAs、硫化鉛PbS、セシウム鉛臭素CsPbBr3ペロブスカイト化合物を含む半導体材料、メチルアミンヨウ化鉛MAPbI3ペロブスカイト、ホルムアミジンヨウ化スズFASnI3ペロブスカイト、ジテトラブチルアンモニウムビス(イソチオシアナト)ビス(2,2'-ビピリジン-4,4'ジカルボキシ)ルテニウムを含む有機無機ハイブリッド材料、フラーレン及びその誘導体、ポリ-3-ヘキシルチオフェン、アントラセン、トリフェニルアミンを含む有機材料から選択される。
【0017】
さらに、前記電荷阻止絶縁媒体は、シリカ、酸化アルミニウム、ジルコニア、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリエチレングリコール、及びポリビニルピロリドンから選択される。
【0018】
さらに、前記キャリア輸送層は、シリコン、ヒ化ガリウム、窒化ガリウム、酸化亜鉛、ハライドペロブスカイト、フラーレン誘導体、ポリトリアリールアミン、Spiro-MeOTADから選択される。
【0019】
さらに、前記ゲート、前記ソース及び前記ドレインは、それぞれ独立して金属材料、高濃度ドープ高導電性半導体材料、及び炭素材料から選択される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の実施例で提供される誘電体層応答に基づく電界効果トランジスタ光検出器の原理構造図である。
【
図2】本発明の実施例で提供される誘電体層応答に基づく電界効果トランジスタ光検出器の構造模式図である。
【
図3】本発明の実施例で提供される別の誘電体層応答に基づく電界効果トランジスタ光検出器の構造模式図である。
【
図4】本発明の実施例で提供される別の誘電体層応答に基づく電界効果トランジスタ光検出器の構造模式図である。
【
図5】本発明の実施例で提供される別の誘電体層応答に基づく電界効果トランジスタ光検出器の構造模式図である。
【
図6】本発明の実施例で提供される別の誘電体層応答に基づく電界効果トランジスタ光検出器の構造模式図である。
【
図7】本発明の実施例で提供される別の誘電体層応答に基づく電界効果トランジスタ光検出器の構造模式図である。
【
図8】本発明の実施例で提供される電界効果トランジスタ光検出器の光電応答特性図である。
【
図9】本発明の実施例で提供される別の電界効果トランジスタ光検出器の光電応答特性図である。
【
図10】本発明の実施例で提供される別の電界効果トランジスタ光検出器の光電応答特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の目的、技術的手段及び利点をより明確にするために、以下、図面及び実施例により本発明をさらに詳しく説明する。以下の実施例は、本発明を解釈するものに過ぎず、本発明を制限するものではない。また、下記の本発明の各実施形態に係る技術特徴は、互いに矛盾しない限り、互いに組み合わせることができる。
【0022】
実施例1
誘電体層応答に基づく電界効果トランジスタ光検出器は、
図1に示すように、ゲート、光電応答複合誘電体層、キャリア輸送層、ソース及びドレインを含む。光電応答複合誘電体層は、光電応答媒体と電荷阻止絶縁媒体で構成される。
前記キャリア輸送層は、電子又は正孔を輸送するものであり、前記光電応答媒体は、光照射下で光を吸収して電子、正孔又は励起子を生成するものであり、前記電荷阻止絶縁媒体は、電子、正孔、励起子の通過を制限するものである。前記光電応答複合誘電体層における光生成電子、正孔又は励起子の発生、及び光電応答媒体内に制限される移動は、光電応答複合誘電体層の等価誘電率の変化を引き起こすことで、キャリア輸送層のキャリア濃度の変化及び導電性の変化を引き起こす。光照射前後のソースとドレインの間の電流の変化によって光検出を実現する。
【0023】
電界効果トランジスタは、ソースとゲート間の電圧を調整することによりソースとドレイン間の電流の制御を実現できる電圧変調半導体デバイスであると考えられている。その基本的な動作原理について、簡単に言えば、デバイス内のソース、誘電体層及びゲートはコンデンサを構成し、ソースとドレインとの間に電圧を加えると、コンデンサの基本的な特性から分かるように、ソース及びドレインの近傍にそれぞれ電荷蓄積が発生し、蓄積する電荷のタイプは電圧の方向に関係がある。例えば、ソースの電位がゲートよりも高い場合、ソース近傍には正電荷が蓄積し、ソースの電位がゲートよりも低い場合、ソース近傍には負電荷が蓄積する。蓄積する電荷の数はソースとゲートとの間に加える電圧の大きさに直接関係する。ソースはキャリア輸送層に直接接触する。ソース近傍に電荷が蓄積するときに、ここの電荷は、キャリア輸送層中のキャリア濃度の変化を直接引き起こす。簡単に言えば、キャリア輸送層が真性半導体であるか、又は大部分のキャリアが電子でありかつソース近傍に負電荷が蓄積する場合、キャリア輸送層中のキャリア濃度は増加し、キャリア輸送層の導電性は向上し、ソースとドレインの電圧が一定である場合、ソースとドレイン間の電流も増加する。この場合、特定の範囲内で増加するソースとゲート間の電圧は、ソース近傍に蓄積する電荷の数を増加させ、これによって、キャリア輸送層のキャリア濃度及び導電性が向上し、ソースとドレイン間の電流が増加する。キャリア輸送層中の大部分のキャリアが正孔であり、ソース近傍に負電荷が蓄積する場合、特定の範囲内(反転層が形成されない)でキャリア輸送層中のキャリア濃度が減少し、キャリア輸送層の導電性も低下し、ソースとドレインとの電圧が一定である場合、ソースとドレイン間の電流も減少する。この場合、特定の範囲内でソースとゲート間の電圧差を増加させると、ソース近傍に蓄積する負電荷がさらに増加し、これによって、キャリア輸送層のキャリア濃度及び導電性が低下し、ソースとドレイン間の電流が減少する。他の場合でも同様の基本法則を有する。つまり、ソースとドレイン間の電流の大きさは、ソースとゲート間の電圧の大きさによって調整することができる。ソースとゲート間の電圧を調整することにより電界効果トランジスタのソースとドレイン間の電流を調整することは、電界効果トランジスタの基本的な動作状態である。
【0024】
上記のことから分かるように、電界効果トランジスタにおいて、ソース近傍に蓄積する電荷の数の調整は、キャリア輸送層のキャリア濃度及び導電性を調整するカギであり、ソースとドレイン間の電流を調整する基礎である。基本的な原理から見て、ソース近傍に蓄積する電荷の数はソースとゲートとの間に加える電圧の大きさのみならず、ソース、誘電体層及びゲートによって構成されるコンデンサの大きさにも直接関係する。コンデンサの増大又は減少もソース近傍に蓄積する電荷の増加又は減少に影響を与える。本実施例では、光電応答能力を有する複合誘電体層が開示され、それを電界効果トランジスタに適用して電界効果トランジスタ光検出器を構成する。このデバイスにおいて、複合誘電体層中の光電応答媒体は、光を吸収して電子、正孔又は励起子などを生成することができ、ソースとゲート間にバイアス電圧を加えると、光電応答媒体が光を吸収して生成する電子、正孔又は励起子は配向移動又はシフトし、ソースとゲート間に電荷移動が発生する。この過程において、複合誘電体層中の電荷阻止絶縁媒体は、光電応答媒体が光を吸収して生成した電子、正孔又は励起子を光電応答媒体膜層又はクラスター内に制限し、ソースとゲート間で移動する電荷はソースと複合誘電体層の界面又はゲートと複合誘電体層の界面などに蓄積することで、ソース近傍に蓄積する電荷の数が増加する。つまり、この過程において、複合誘電体層に電荷阻止絶縁媒体が存在するため、光電応答媒体が光を吸収して生成した電子、正孔又は励起子はソース及びゲートと導電路を構成して連続電流を形成することがなく、ソース及びゲートでの電荷の蓄積のみを引き起こし、複合誘電体層の誘電率の増加に相当する。簡単に言えば、本実施例の誘電体層応答に基づく電界効果トランジスタ光検出器では、光照射後に複合誘電体層が光を吸収して電子、正孔又は励起子を生成することで複合誘電体層の等価誘電率の増加を引き起こし、この増加した誘電率はソース、複合誘電体層、ゲートで形成されたコンデンサの増加を引き起こす。ソースとゲート間の電圧が一定である場合、この増加したコンデンサは、ソース近傍に蓄積する電荷の数の増加を直接引き起こし、キャリア輸送層のキャリア濃度の変化及び導電性の変化を引き起こす。ソースとドレイン間の電圧が一定である場合、キャリア輸送層の導電性の変化は、ソースとドレイン間の電流の変化を引き起こし、これによって、光電検出功能が実現される。
【0025】
本実施例の目的は、高性能の光検出器を開発し、従来の光検出器技術に存在する問題を解決することにある。本実施例で開示される誘電体層応答に基づく電界効果トランジスタ光検出器の動作原理は、前記光電導、光起電力、光熱などの光検出器と異なっている。本実施例の誘電体層応答に基づく電界効果トランジスタ光検出器において、ソースとドレイン間のキャリア輸送層半導体は、キャリア輸送作用のみを担い、光信号と相互作用して光応答を生成する必要がない。そのため、本実施例の誘電体層応答に基づく電界効果トランジスタ光検出器は、使用の必要に応じてキャリア輸送性能に優れた半導体材料を柔軟に選択することができる。本実施例の誘電体層応答に基づく電界効果トランジスタ光検出器において、誘電体層にある光電応答媒体は、光信号と相互作用するものである。光電応答媒体は、光を吸収して電子、正孔、励起子などを生成する。ソースとゲート間に加えたバイアス電圧の作用及び電荷阻止絶縁媒体の阻止により、複合誘電体層に生成した電子、正孔又は励起子は、光電応答媒体内にのみ配向移動し、光電応答複合誘電体層の誘電率の変化を引き起こすことによりソース近傍に蓄積する電荷の数が変化し、キャリア輸送層のキャリア濃度及び導電性が変化し、ソースとドレイン間のバイアス電圧が一定である場合、キャリア輸送層導電性の変化によりソースとドレイン間の電流が変化し、ソースとドレイン間の電流の変化により光電検出が実現される。上記から分かるように、本発明の誘電体層応答に基づく電界効果トランジスタ光検出器において、光電応答媒体は良好な光吸収能力を有すればよく、良好なキャリア輸送特性を必要としない。以上のことから、本発明の誘電体層応答に基づく電界効果トランジスタ光検出器において、ソースとドレイン間のキャリア輸送層及び誘電体層中の光電応答媒体は、それぞれキャリア輸送及び光電応答の作用を担う。このような構造設計により、光検出デバイスの設計の柔軟性が顕著に改善され、高性能で低コストの光検出器をさらに実現するのに有利である。
【0026】
好ましくは、ゲート、誘電体層及びキャリア輸送層は、順に積層され、ソースとドレインは、間隔をあけてキャリア輸送層の表面に設けられる(
図2)。
【0027】
好ましくは、ゲート及び誘電体層は積層して設けられ、ソースとドレインは間隔をあけて誘電体層の表面に設けられ、キャリア輸送層はソース及びドレインの周囲に設けられる(
図3)。
【0028】
好ましくは、
図4、
図5に示すように、誘電体層の構造は、電荷阻止絶縁媒体層/光電応答媒体層/電荷阻止絶縁媒体層のようなサンドイッチ構造、又は前記三明治構造で構成される積層構造である。
【0029】
好ましくは、
図6に示すように、誘電体層の構造は、光電応答媒体クラスターが電荷阻止絶縁媒体にランダムに分散した構造である。
【0030】
好ましくは、
図7に示すように、誘電体層の構造は、サンドイッチ構造とランダム分散構造との組み合わせ構造である。サンドイッチ構造は、電荷阻止絶縁媒体層/光電応答媒体層/電荷阻止絶縁媒体層のサンドイッチ構造であり、ランダム分散構造は、前記光電応答媒体クラスターが前記電荷阻止絶縁媒体にランダムに分散した構造である。
【0031】
本実施例の誘電体層応答に基づく電界効果トランジスタ光検出器は、従来の光電導、光起電力、光熱などの光検出器と比較して、デバイスの構造及び動作原理においても顕著に異なっている。従来の光電導効果に基づく電界効果光検出器と比較しても、本実施例の誘電体層応答に基づく電界効果トランジスタ光検出器は顕著に異なっている。これによって、デバイスは、柔軟な設計及び調整の優位性を有する。具体的には、光電導効果に基づく電界効果光検出器において、そのキャリア輸送層は、良好な光吸収能力と、良好なキャリア輸送能力と、少ない欠陥状態などの一連の要求を同時に満たす必要がある。そうすると、デバイス材料の選択が大幅に制限されている。例えば、一部の材料は良好な光吸収特性を有するが、キャリア移動度が非常に低いか又は欠陥状態が非常に多いことで、製造された光検出器の感度が制限される一方、一部の材料は良好なキャリア移動度及び少ない欠陥状態を有するが、その光吸収能力が限られており、光と効果的に相互作用できないことで製造された光検出器の実用性が制限される。本実施例の誘電体層応答に基づく電界効果トランジスタ光検出器では、移動度が高く、欠陥状態が少なく、光吸収能力が限られている材料をキャリア輸送層として使用し、光吸収能力が高く、電荷輸送能力が限られている材料を複合誘電体層中の光電応答媒体として使用することにより、効果的な光電検出が実現される。例えば、一部の低分子光吸収材料は、非常に高い光吸收能力を有するが、光を吸収した後に励起子を生成するが、自由キャリアを生成しない。このような低分子は、光電導効果に基づく電界効果トランジスタ光検出器において適用するのが困難であるのに対し、誘電体層応答に基づく電界効果トランジスタにおいて柔軟に使用することができる。誘電体層応答に基づく電界効果トランジスタ光検出器は、デバイスの設計及び材料の選択に直接な優位性を有するだけでなく、デバイスの性能においても一連の潜在的な優位性を有する。従来の光電導効果に基づく電界効果トランジスタ光検出器の光電応答媒体はキャリア輸送層材料自体であり、通常、単一であるのに対し、本実施例の誘電体層応答に基づく電界効果トランジスタ光検出器は、その光電応答媒体が使用の必要に応じて柔軟に組み合わせることができる。例えば、多層積層構造において、異なる光電応答媒体層は異なる光電応答材料を使用することができ、又は光電応答媒体クラスター/電荷阻止絶縁媒体複合体に異なる光電応答特性を有する複数種類の光電応答媒体クラスターを使用することができ、これらの光電応答媒体のそれぞれの光電応答特性を組み合わせることにより光応答波長の選択及び拡張などが実現される。一方、従来の光電導応答に基づく電界効果トランジスタ光検出器において、光吸収能力を有するキャリア輸送層はそれ自体の結晶性に制限されるため、比較的多い欠陥状態が存在する場合が多い。これらの欠陥状態の存在により、ソースとドレイン間に比較的大きい暗電流が発生し、デバイスの感度が制限される。本実施例の誘電体層応答に基づく電界効果トランジスタ光検出器において、キャリア輸送層が光吸収の作用を担う必要がないため、結晶性が高く、欠陥が少ない材料をキャリア輸送層として使用することができる。これによって、暗電流の発生が抑制され、デバイスの感度が向上する。さらに、従来の光電導効果に基づく電界効果トランジスタ光検出器において、キャリア輸送層が光を吸収した後、キャリアの生成、輸送及び再結合速度は光検出器の時間スケールでの感度に直接影響を与える。本実施例の誘電体層応答に基づく光検出器において、キャリア輸送層は光生成キャリアを生成する必要がなく、デバイスの時間分解能は複合誘電体層中の光電応答媒体が光を吸収して電子、正孔又は励起子を生成すること、及び電子、正孔、励起子の再結合に大きく関係し、光吸収能力が高く、キャリアの生成と消滅が速い材料を選択することにより、キャリア輸送の制限を考慮する必要がない。例えば、有機分子又はナノ結晶を使用することにより、誘電体層応答に基づく電界効果トランジスタ光検出器の光電応答の時間分解能特性を効果的に調整することができる。さらに、電荷阻止絶縁媒体と光電応答媒体との柔軟な組み合わせにより、光電応答媒体の一部の次元のサイズの調整を実現することができ、光電応答媒体はある程度の量子効果を有し、その光電応答特性に影響を与え、対応するデバイスの光電検出能力を調整することができる。明らかなように、デバイスの動作原理の直接な違いにより、誘電体層応答に基づく電界効果トランジスタ光検出器は、性能では一連の優位性を有するが、上記の優位性に限定されない。
【0032】
好ましくは、光電応答媒体と電荷阻止絶縁媒体とを複合した誘電体層において、光電応答媒体は、光を吸収して電子、正孔、励起子などを生成(光電応答行為)することができる材料から構成され、好ましくは、シリコン、ゲルマニウム、セレンなどの単体半導体材料、ヒ化ガリウムGaAs、硫化鉛PbS、セシウム鉛臭素CsPbBr3ペロブスカイト等化合物半導体材料,メチルアミンヨウ化鉛MAPbI3ペロブスカイト、ホルムアミジンヨウ化スズFASnI3ペロブスカイト、ジテトラブチルアンモニウムビス(イソチオシアナト)ビス(2,2'-ビピリジン-4,4'ジカルボキシ)ルテニウムなどの有機無機ハイブリッド材料、フラーレン及びその誘導体、ポリ-3-ヘキシルチオフェン、アントラセン、トリフェニルアミンなどの有機材料などである。
【0033】
好ましくは、光電応答媒体と電荷阻止絶縁媒体とを複合した誘電体層において、電荷阻止絶縁媒体は、電子及び正孔の不良導体から構成され、好ましくは、シリカ、酸化アルミニウム、ジルコニア、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドンなどである。
【0034】
好ましくは、キャリア輸送層は、キャリア輸送能力を有する半導体材料から構成され、好ましくは、シリコン、ヒ化ガリウム、窒化ガリウム、酸化亜鉛、ハライドペロブスカイト、フラーレン誘導体、ポリトリアリールアミン、Spiro-MeOTADなどである。
【0035】
好ましくは、ゲート、ソース、ドレインは、それぞれ独立して金、アルミニウムなどの金属材料、スズドープ酸化インジウム、高濃度ドープシリコンなどの高導電性半導体材料、又はグラフェンなどの炭素材料から構成される。
【0036】
本発明をより明確に説明するために、以下、例示を挙げる。
例示1
スズドープ酸化インジウム透明導電ガラスをゲートとして使用し、その上にスピンコーティングにより20nmポリメチルメタクリレート薄膜を作成して電荷阻止絶縁媒体として使用し、ポリメチルメタクリレート薄膜上に100nmのFASnI
3ハライドペロブスカイト層を電応答媒体として堆積させ、原子堆積技術によりFASnI
3薄膜上に10nmのアルミナ薄膜を電荷阻止絶縁媒体として堆積させ、その上にスピンコーティングによりSpiro-OMeTAD薄膜を作成してキャリア輸送層として使用し、Spiro-OMeTAD薄膜上に蒸着により金属ソース及びドレインを形成し、ソースとゲート及びドレイン間にそれぞれバイアス電圧を加え、デバイスに800nmの光を照射し、光照射前後のソースとドレイン間の電流変化を測定した。
図8に示すように、光照射前後、デバイスにおけるソースとドレイン間の電流は顕著に変化し、デバイスは光電応答特性を示した。
【0037】
例示2
窒化ガリウムが堆積したアルミナ基板を取り、窒化ガリウムをキャリア輸送層として使用し、その上にアルミニウム電極をソース及びドレインとして蒸着し、キャリア輸送層上に10nmのアルミナを電荷阻止絶縁媒体として堆積させ、次に、順次40nmのセレンを光電応答媒体として堆積させ、10nmのアルミナを電荷阻止絶縁媒体として堆積させ、3回繰り返した。次に、アルミニウム電極をゲートとして堆積させ、ソースとゲート及びドレイン間にそれぞれバイアス電圧を加え、デバイスに500nmの光を照射し、光照射前後のソースとドレイン間の電流変化を測定した。
図9に示すように、光照射前後、デバイスにおけるソースとドレイン間の電流は顕著に変化し、デバイスは光電応答特性を示した。
【0038】
例示3
スズドープ酸化インジウム透明導電ガラスを取り、レーザーエッチングによりソース及びゲートを形成し、その上にMAPbI3ハライドペロブスカイト層をキャリア輸送層として堆積させ、次に10nmアルミナを電荷阻止絶縁媒体として堆積させ、アルミナ上に硫化鉛ナノ結晶、ポリスチレンがエチレングリコールモノ-n-ブチルエーテルアセテートに分散した分散液をスピンコーティングし、100nm薄膜(ランダム分散構造)を作成し、次に10nmアルミナを電荷阻止絶縁媒体として堆積させ、さらにアルミニウム電極をゲートとして堆積させ、ソースとゲート及びドレイン間にそれぞれバイアス電圧を加え、デバイスに950nmの光を照射し、光照射前後のソースとドレイン間の電流変化を測定した。
図10に示すように、光照射前後、デバイスにおけるソースとドレイン間の電流は顕著に変化し、デバイスは光電応答特性を示した。
【0039】
当業者に理解できるように、以上の説明は本発明の好ましい実施例に過ぎず、本発明を制限するものではなく、本発明の思想及び原則内でなされた如何なる修正、同等置換及び改良などは、いずれも本発明の保護範囲に含まれる。