(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-24
(45)【発行日】2024-08-01
(54)【発明の名称】がん治療剤
(51)【国際特許分類】
A61K 47/36 20060101AFI20240725BHJP
A61K 39/00 20060101ALI20240725BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240725BHJP
A61K 9/51 20060101ALI20240725BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20240725BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240725BHJP
B82Y 5/00 20110101ALI20240725BHJP
【FI】
A61K47/36
A61K39/00 G
A61K39/395 D
A61K9/51
A61K45/00
A61P35/00
B82Y5/00
(21)【出願番号】P 2023534246
(86)(22)【出願日】2022-08-16
(86)【国際出願番号】 JP2022030928
(87)【国際公開番号】W WO2023022141
(87)【国際公開日】2023-02-23
【審査請求日】2023-06-05
(31)【優先権主張番号】P 2021132504
(32)【優先日】2021-08-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2022109018
(32)【優先日】2022-07-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】518309345
【氏名又は名称】ユナイテッド・イミュニティ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】原田 直純
(72)【発明者】
【氏名】秋吉 一成
(72)【発明者】
【氏名】澤田 晋一
(72)【発明者】
【氏名】村岡 大輔
【審査官】石井 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/138557(WO,A1)
【文献】WANG, Y. et al.,M2 Macrophage Co-Experssion Factors Correlate With Immune Phenotype and Predict Prognosis of Bladder,Frontiers in Oncology,2021年03月,Vol.11,Article No.609334
【文献】FRAFJORD, A. et al,Antibody combinations for optimized staining of macrophages in human lung tumours,Scand J Immunol,2020年,Vol.92,e12889
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
A61K 39/00-39/44
A61K 45/00
A61P 1/00-43/00
B82Y 5/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
疎水性基を含む修飾多糖類を含有するナノゲル粒子を含有し、
前記修飾多糖類を構成する多糖類の糖残基がグルコース、マンノース、ガラクトース、及びフコースからなる群より選択される少なくとも1種であり、
前記糖残基がグルコースを含み、且つ
前記疎水性基がステロール骨格を有する疎水性基及び/又は炭素原子数8~50の鎖状アルキル基である、
CD209陽性細胞を含有するがん組織に対するがん治療剤。
【請求項2】
前記修飾多糖類の構成多糖類がプルラン、マンナン、及びデキストランからなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項1に記載のがん治療剤。
【請求項3】
前記修飾多糖類の構成多糖類がプルランを含む、請求項1に記載のがん治療剤。
【請求項4】
前記疎水性基がステロール骨格を有する疎水性基を含む、請求項1に記載のがん治療剤。
【請求項5】
前記修飾多糖類の重量平均分子量が5000~2,000,000である、請求項1~4のいずれかに記載のがん治療剤。
【請求項6】
前記ゲル粒子の重量平均粒子径が20~200nmである、請求項1~4のいずれかに記載のがん治療剤。
【請求項7】
前記ゲル粒子が薬剤を含有する、請求項1~4のいずれかに記載のがん治療剤。
【請求項8】
前記薬剤がアジュバント、がん抗原、抗がん剤、及び核酸医薬からなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項7に記載のがん治療剤。
【請求項9】
前記CD209陽性細胞がマクロファージである、請求項1~4のいずれかに記載のがん治療剤。
【請求項10】
がん組織を有する患者から選別された、CD209陽性細胞を含有するがん組織を有する患者に投与するように用いるための、請求項1~4のいずれかに記載のがん治療剤。
【請求項11】
薬剤との併用に用いられる、請求項1~4のいずれかに記載のがん治療剤。
【請求項12】
疎水性基を含む修飾多糖類を含有するナノゲル粒子を含有し、
前記修飾多糖類を構成する多糖類の糖残基がグルコース、マンノース、ガラクトース、及びフコースからなる群より選択される少なくとも1種であり、
前記糖残基がグルコースを含み、且つ
前記疎水性基がステロール骨格を有する疎水性基及び/又は炭素原子数8~50の鎖状アルキル基である、
CD209陽性細胞への送達用担体。
【請求項13】
CD209陽性細胞ががん組織に存在する、請求項12に記載の送達用担体。
【請求項14】
請求項12又は13に記載の送達用担体及び造影剤を含有する、CD209陽性細胞を含有する組織の検出剤。
【請求項15】
CD209結合性分子及びCD209 mRNA検出用PCRプライマーからなる群より選択される少なくとも1種を含有し、且つ
前記CD209結合性分子がイムノグロブリン、Fab、F(ab’)2、ミニボディ、scFv‐Fc、Fv、scFv、ディアボディ、トリアボディ、テトラボディ、
及びモノボデ
ィからなる群より選択される少なくとも1種である、
請求項1~4のいずれかに記載のがん治療剤に対するコンパニオン診断薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、がん治療剤等に関する。
【背景技術】
【0002】
がんの悪性度を左右する因子として、がん組織中に存在する免疫細胞、特にマクロファージ(腫瘍随伴マクロファージ、略称TAM)の重要性が指摘されている。TAMの機能を阻害するか調節することでがん治療効果を発揮する薬剤が開発されている。しかし選択性に限界があり、有効性や安全性の面で実用的なものはいまだ存在しない。このため、TAMに選択的に薬剤をデリバリーできる技術が希求されている。
【0003】
免疫多糖結合受容体蛋白(レクチン)の一種であるCD209(別名:DC-SIGN)は、一部のTAMに選択的に発現し、がんのステージや予後とも良く相関することが知られている。CD209は、TAMに対する薬剤デリバリーの良い標的となると考えられる。
【0004】
コレステリルプルラン等の疎水化多糖類は、自己組織化してナノゲルを構成することができ、高い生体適合性、タンパク質キャリアとして機能、内包タンパク質の分解及び凝集抑制能を有するので、タンパク質と複合体化して抗原キャリアとして使用することが報告されている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Muraoka, D. et al., ACS Nano, 8 (9), 9209-9218, 2014
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、CD209陽性細胞を含有するがん組織に対するがん治療剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は上記課題に鑑みて鋭意研究を進めた結果、疎水性基を含む修飾多糖類を含有するゲル粒子が、CD209陽性細胞に選択的に結合し、取り込まれることを見出した。本発明者はこの知見に基づいてさらに研究を進めた結果、本発明を完成させた。即ち、本発明は、下記の態様を包含する。
【0008】
項1. 疎水性基を含む修飾多糖類を含有するゲル粒子を含有する、CD209陽性細胞を含有するがん組織に対するがん治療剤。
【0009】
項2. 前記ゲル粒子がナノゲル粒子である、項1に記載のがん治療剤。
【0010】
項3. 前記修飾多糖類の構成多糖類がプルラン、マンナン、及びデキストランからなる群より選択される少なくとも1種を含む、項1又は2に記載のがん治療剤。
【0011】
項4. 前記修飾多糖類の構成多糖類がプルランを含む、項1~3のいずれかに記載のがん治療剤。
【0012】
項5. 前記疎水性基がステロール骨格を有する疎水性基を含む、項1~4のいずれかに記載のがん治療剤。
【0013】
項6. 前記修飾多糖類の重量平均分子量が5000~2,000,000である、項1~5のいずれかに記載のがん治療剤。
【0014】
項7. 前記ゲル粒子の重量平均粒子径が20~200nmである、項1~6のいずれかに記載のがん治療剤。
【0015】
項8. 前記ゲル粒子が薬剤を含有する、項1~7のいずれかに記載のがん治療剤。
【0016】
項9. 前記薬剤がアジュバント、がん抗原、抗がん剤、及び核酸医薬からなる群より選択される少なくとも1種を含む、項8に記載のがん治療剤。
【0017】
項10. 前記CD209陽性細胞がマクロファージである、項1~9のいずれかに記載のがん治療剤。
【0018】
項11. がん組織を有する患者から選別された、CD209陽性細胞を含有するがん組織を有する患者に投与するように用いるための、項1~10のいずれかに記載のがん治療剤。
【0019】
項12. 薬剤との併用に用いられる、項1~11のいずれかに記載のがん治療剤。
【0020】
項13. 疎水性基を含む修飾多糖類を含有するゲル粒子を含有する、CD209陽性細胞への送達用担体。
【0021】
項14. CD209陽性細胞ががん組織に存在する、項13に記載の送達用担体。
【0022】
項15. 項13又は14に記載の送達用担体及び造影剤を含有する、CD209陽性細胞を含有する組織の検出剤。
【0023】
項15. CD209結合性分子を含有する、項1~12のいずれかに記載のがん治療剤に対するコンパニオン診断薬。
【0024】
項1A. CD209陽性細胞を含有するがん組織を有する患者に、疎水性基を含む修飾多糖類を含有するゲル粒子を投与することを含む、がんを治療する方法。
【0025】
項1B. がん組織を有する患者から、CD209陽性細胞を含有するがん組織を有する患者を選別すること、並びに選別された患者に、疎水性基を含む修飾多糖類を含有するゲル粒子を投与することを含む、項1Aに記載の方法。
【0026】
項1C. CD209陽性細胞を含有するがん組織に対するがん治療剤としての使用のための、疎水性基を含む修飾多糖類を含有するゲル粒子又は前記ゲル粒子を含有する製剤。
【0027】
項1D. 疎水性基を含む修飾多糖類を含有するゲル粒子又は前記ゲル粒子を含有する製剤の、CD209陽性細胞を含有するがん組織に対するがん治療剤の製造のための使用。
【0028】
項1E. 疎水性基を含む修飾多糖類を含有するゲル粒子又は前記ゲル粒子を含有する製剤の、CD209陽性細胞を含有するがん組織に対するがん治療剤としての使用。
【0029】
項2A. 薬剤又は造影剤を、疎水性基を含む修飾多糖類に含有するゲル粒子に搭載させて投与することを特徴とする、薬剤又は造影剤をCD209陽性細胞に送達する方法。
【0030】
項2B. CD209陽性細胞ががん組織に存在する、項2Aに記載の送達する方法。
【0031】
項2C. CD209陽性細胞への送達用担体としての使用のための、疎水性基を含む修飾多糖類を含有するゲル粒子又は前記ゲル粒子を含有する製剤。
【0032】
項2D. 疎水性基を含む修飾多糖類を含有するゲル粒子又は前記ゲル粒子を含有する製剤の、CD209陽性細胞への送達用担体の製造のための使用。
【0033】
項2E. 疎水性基を含む修飾多糖類を含有するゲル粒子又は前記ゲル粒子を含有する製剤の、CD209陽性細胞への送達用担体としての使用。
【0034】
項3A.項13又は14に記載の送達用担体及び造影剤或いはこれらを含有する製剤を、CD209陽性細胞を含有する組織を有する対象に投与することを含む、CD209陽性細胞を含有する組織の検出方法。
【0035】
項3B.CD209陽性細胞を含有する組織の検出剤としての使用のための、項13又は14に記載の送達用担体及び造影剤或いはこれらを含有する製剤。
【0036】
項3C. 項13又は14に記載の送達用担体及び造影剤或いはこれらを含有する製剤の、CD209陽性細胞を含有する組織の検出剤の製造のための使用。
【0037】
項3D. 項13又は14に記載の送達用担体及び造影剤或いはこれらを含有する製剤の、CD209陽性細胞を含有する組織の検出剤としての使用。
【発明の効果】
【0038】
本発明によれば、CD209陽性細胞を含有するがん組織に対するがん治療剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図1】試験例1において、フローサイトメトリーで各細胞へのローダミン標識プルランナノゲルの取り込み率を測定した結果を示す。
【
図2】試験例2において、フローサイトメトリーで各細胞へのローダミン標識プルランナノゲルの取り込み率を測定した結果を示す。
【
図3】試験例3において、蛍光顕微鏡で各細胞へのローダミン標識プルランナノゲルの取り込み(赤色)を観察した結果を示す。
【
図4】試験例4において、フローサイトメトリーで各細胞へのローダミン標識プルランナノゲルの取り込み強度(蛍光強度)を測定した結果を示す。
【
図5】試験例5において、フローサイトメトリーで各細胞へのローダミン標識プルランナノゲルの取り込み強度(蛍光強度)を測定した結果を示す。
【
図6】試験例6において、蛍光顕微鏡観察とフローサイトメトリーで各細胞へのローダミン標識プルランナノゲルの取り込みを評価した結果を示す。
【
図7】試験例7において、フローサイトメトリーで表示の細胞集団へのローダミン標識プルランナノゲルの取り込みを評価した結果を示す。
【
図8】試験例8において、蛍光顕微鏡で観察してローダミン標識プルランナノゲルの取り込みを評価した結果を示す。
【
図9】試験例9において、フローサイトメトリーで表示の細胞集団へのローダミン標識プルランナノゲルの取り込みを評価した結果を示す。
【
図10】試験例10において、Cell Counting Kit-8にて細胞活性を評価した結果を示す。縦軸は生細胞数の相対割合を示し、横軸はプルランナノゲルPE複合体もしくはPEの投与濃度を示す。凡例中、5aはCMS5a細胞を用いた場合を示し、209bはCMS5a細胞にマウスSIGNR1/CD209bを発現させた細胞を用いた場合を示す。
【
図11】試験例11において、腫瘍サイズを経時的に測定した結果を示す。縦軸は腫瘍サイズ(単位:mm
3)を示し、横軸は投与からの経過日数を示す。
【発明を実施するための形態】
【0040】
本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0041】
本発明は、その一態様において、疎水性基を含む修飾多糖類を含有するゲル粒子を含有する、CD209陽性細胞を含有するがん組織に対するがん治療剤(本明細書において、「本発明のがん治療剤」と示すこともある。)に関する。以下、これについて説明する。
【0042】
修飾多糖類は、多糖類が修飾してなる化合物であって、修飾基として疎水性基を含む限り、特に制限されない。
【0043】
修飾多糖類を構成する多糖類(すなわち、修飾前の多糖類)としては、糖残基がグリコシド結合した高分子であれば特に限定されることはない。多糖類を構成する糖残基としては、例えば、グルコース、マンノース、ガラクトース、フコース等の単糖類、または二糖類またはオリゴ糖類などの糖類に由来する残基を採用することができる。糖残基は1,2-、1,3-、1,4-又は1,6-グリコシド結合していてもよく、その結合はα-またはβ-型結合のいずれであってもよい。また、多糖類は直鎖状でも分枝鎖状のいずれでもよい。糖残基としてはグルコース残基が好ましく、多糖類としては、例えば天然または合成由来のプルラン、マンナン、デキストラン、アミロース、アミロペクチン等、好ましくはプルラン、マンナン、デキストラン等、より好ましくはプルラン、マンナン等、特に好ましくはプルラン等が用いられる。
【0044】
多糖類の重量平均分子量は、修飾多糖類がゲル粒子を構成可能な限り特に制限されないが、例えば5,000~2,000,000である。該重量平均分子量は、好ましくは10,000~1,000,000、より好ましくは20,000~500,000、さらに好ましくは40,000~250,000、よりさらに好ましくは80,000~125,000である。
【0045】
多糖類としては、市販品を使用することができ、或いは公知の製造方法に従って得られたものを使用することができる。
【0046】
疎水性基は、疎水性を有する基であり、修飾多糖類がゲル粒子を構成可能な限り限り特に制限されない。疎水性基としては、好ましくはステロール骨格を有する疎水性基、炭化水素基等が挙げられ、特に好ましくはステロール骨格を有する疎水性基が挙げられる。
【0047】
ステロール骨格は、式(I)に示すシクロペンタヒドロフェナントレン環にヒドロキシ基が結合したアルコールである。式(I)のA~Dの記号は、シクロペンタヒドロフェナントレン環を構成する各環を表す。
【0048】
【0049】
ステロール骨格においては、シクロペンタヒドロフェナントレン環に二重結合を有していてもよく、水酸基の結合する位置も特段限定されない。好ましくは、C-3位の位置にヒドロキシ基が結合し、B環に二重結合を有するステロール類、又は、C-3位の位置にヒドロキシ基が結合し、飽和環で構成されたスタノール類である。ステロール骨格を有する疎水性基は、ステロール骨格が修飾されてなる、例えば、環構成炭素において炭化水素基(例えば炭素原子数1~20の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基等)に置換されてなる化合物に由来する基が挙げられる。ここで、「由来する基」とは、ある化合物において、水素原子、又は水酸基等の官能基が除かれてなる基を示す。
【0050】
ステロール骨格を有する疎水性基としては、例えばコレステロール由来の基、コレスタノール由来の基、ラノステロール由来の基、エルゴステロール由来の基、β-シトステロール由来の基、カンペステロール由来の基、スティグマステロール由来の基、ブラシカステロール由来の基等が挙げられる。これらの中でも、好ましくはコレステロール由来の基、コレスタノール由来の基、ラノステロール由来の基、エルゴステロール由来の基等のステロール由来の基が挙げられ、より好ましくはコレステロール由来の基が挙げられる。
【0051】
疎水性基としての炭化水素基としては、特に制限されず、例えば炭素原子数8~50(好ましくは10~30、より好ましくは12~20)の鎖状(好ましくは直鎖状)炭化水素基(好ましくはアルキル基)が挙げられる。
【0052】
修飾多糖類の重量平均分子量は、修飾多糖類がゲル粒子を構成可能な限り特に制限されないが、例えば5,000~2,000,000である。該重量平均分子量は、好ましくは10,000~1,000,000、より好ましくは20,000~500,000、さらに好ましくは40,000~250,000、よりさらに好ましくは80,000~125,000である。
【0053】
修飾多糖類が含む疎水性基の数は、修飾多糖類がゲル粒子を構成可能な限り特に制限されず、例えば多糖類を構成する糖残基100個当たり、例えば1~10個、好ましくは1~5個である。
【0054】
疎水性基は、多糖類に、直接又は間接的に(例えばリンカーを介して)連結することができる。
【0055】
修飾多糖類としては、例えば、多糖類を構成する糖残基100個当たり例えば1~10個(好ましくは1~5個)の糖単位の1級水酸基が、式(II):-O-(CH2)mCONH(CH2)nNH-CO-O-R (II)(式中、Rはステロール骨格を有する疎水性基又は炭化水素基を示し;mは0又は1を示し;nは任意の正の整数を示す)で表されるものが好ましい。nは好ましくは1~8である。
【0056】
修飾多糖類は、公知の方法(例えば国際公開第WO00/12564号)に従って又は準じて、合成することができる。一例として次の方法は挙げられる。最初に、炭素数12~50の水酸基含有炭化水素又はステロールと、OCN-R1 NCO(式中、R1は炭素数1~50の炭化水素基である。)で表されるジイソシアナート化合物を反応させて、炭素数12~50の水酸基含有炭化水素又はステロールが1分子反応したイソシアナート基含有疎水性化合物を製造する。次いで、得られたイソシアナート基含有疎水性化合物と多糖類とをさらに反応させて、疎水性基として炭素数12~50の炭化水素基又はステリル基を含有する疎水性基含有多糖類を製造する。得られた反応生成物をケトン系溶媒で精製して高純度疎水性基含有多糖類の製造が可能である。
【0057】
修飾多糖類は、1種単独であることもできるし、2種以上の組合せであることもできる。
【0058】
ゲル粒子は、修飾多糖類を含有する。「ゲル粒子」とはヒドロゲル構造を有する高分子ゲル粒子をいう。ヒドロゲルとは、親水性のポリマーが架橋されて形成される3次元の網目構造が水を含んで膨潤したものである。ゲル粒子においては、修飾多糖類が、疎水性基による疎水性相互作用に基づいて形成される物理的架橋部を介して自己組織化し、3次元の網目構造を形成している。
【0059】
ゲル粒子の形状は、特に制限されるものではないが、通常、球状である。
【0060】
ゲル粒子は、ナノサイズである(すなわちナノゲル粒子である)ことが好ましく、その重量平均粒子径は、例えば200nm以下、好ましくは10~200nm、より好ましくは15~200nm、さらに好ましくは20~200nmである。当該重量平均粒子径の上限は、好ましくは100nm、より好ましくは70nm、さらに好ましくは50nmである。該粒子径は、動的光散乱法により測定することができる。
【0061】
ゲル粒子は、修飾多糖類以外の、他の物質を含有することができる。他の物質としては、例えばタンパク質、ペプチド、核酸、糖類、低分子化合物、高分子化合物、無機物等、さらにはこれらの複合体等が挙げられる。より具体的には、他の物質としては、例えばアジュバント、がん抗原、抗がん剤、核酸医薬等の薬剤、造影剤等が挙げられる。
【0062】
アジュバントとしては、不活性化菌体や菌体抽出物、核酸リポ多糖、リポペプチド、合成低分子化合物などから選択することができ、好ましくはイミダゾキノリン(例えばR848やイミキモドなど)、サポニン(例えばQuilAやQS21など)、STINGアゴニスト(例えばサイクリックdi-GMPなど)、モノホスホリルリピッドやリポペプチドなどが用いられる。また、上記以外にも、アジュバントとしては、例えば、タキサン系の薬物、アントラサイクリン系の薬物、JAK/STATの阻害物質、インドールデオキシゲナーゼ(IDO)の阻害物質、トリプトファンデオキシゲナーゼ(TDO)の阻害物質などが挙げられる。これらの阻害物質には、当該因子に対して拮抗作用を持つ化合物の他、当該因子の中和抗体も含まれる。
【0063】
がん抗原は、抗原ポリペプチドが挙げられ、好ましくは抗原ポリペプチドである。抗原ポリペプチドは、がん細胞に多く発現する抗原又はその部分ペプチドであり、いくつかの場合には、がん細胞によってのみ発現する。抗原ポリペプチドは、がん細胞内、またはがん細胞の表面上に発現し得る。
【0064】
抗原ポリペプチドとしては、限定されないが、ERK1、ERK2、MART-1/Melan-A、gp100、アデノシンデアミナーゼ結合タンパク質(ADAbp)、FAP、シクロフィリンb、結腸直腸関連抗原(CRC)-C017-1A/GA733、がん胎児性抗原(CEA)、CAP-1、CAP-2、etv6、AML1、前立腺特異的抗原(PSA)、P SA-1、PSA-2、PSA-3、前立腺特異的膜抗原(PSMA)、T細胞受容体/CD3-ゼータ鎖、CD20、MAGE-A1、MAGE-A2、MAGE-A3、MAGE-A4、MAGE-A5、MAGE-A6、MAGE-A7、MAGE-A8、MAGE-A9、MAGE-A10、MAGE-A11、MAGE-A12、MAGE-Xp2(MAGE-B2)、MAGE-Xp3(MAGE-B3)、MAGE-Xp4(MAGE-B4)、MAGE-C1、MAGE-C2、MAGE-C3、MAGE-C4、MAGE-C5、GAGE-1、GAGE-2、GAGE-3、GAGE-4、GAGE-5、GAGE-6、GAGE-7、GAGE-8およびGAGE-9、BAGE、RAGE、LAGE-1、NAG、GnT-V、MUM-1、CDK4、チロシナーゼ、p53、MUCファミリー、HER2/neu、p21ras、RCAS1、α-フェトプロテイン、E-カドヘリン、α-カテニン、β-カテニン、γ-カテニン、p120ctn、gp100Pmel117、PRAME、NY-ESO-1、cdc27、大腸腺腫症タンパク質(APC)、フォドリン、コネキシン37、Igイディオタイプ、p15、gp75、GM2ガングリオシド、GD2ガングリオシド、ヒトパピローマウイルスタンパク質、腫瘍抗原のSmadファミリー、lmp-1、P1A、EBVがコードする核抗原(EBNA)-1、脳グリコーゲンホスホリラーゼ、SSX-1、SSX-2(HOM-MEL-40)、SSX-1、SSX-4、SSX-5、SCP-1、CT-7、CD20、c-erbB-2、これらの部分ペプチドから選択され得る。
【0065】
抗がん剤としては、例えばアルキル化剤、代謝拮抗剤、微小管阻害剤、抗生物質抗がん剤、トポイソメラーゼ阻害剤、白金製剤、分子標的薬、ホルモン剤、生物製剤などが挙げられる。
【0066】
アルキル化剤としては、例えばシクロホスファミド、イホスファミド、ニトロソウレア、ダカルバジン、テモゾロミド、ニムスチン、ブスルファン、メルファラン、プロカルバジン、ラニムスチンなどが挙げられる。
【0067】
代謝拮抗剤としては、例えば、エノシタビン、カルモフール、カペシタビン、テガフール、テガフール・ウラシル、テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム、ゲムシタビン、シタラビン、シタラビンオクホスファート、ネララビン、フルオロウラシル、フルダラビン、ペメトレキセド、ペントスタチン、メトトレキサート、クラドリビン、ドキシフルリジン、ヒドロキシカルバミド、メルカプトプリンなどが挙げられる。
【0068】
微小管阻害剤としては、例えば、ビンクリスチンなどのアルカロイド系抗がん剤、ドセタキセル、パクリタキセルなどのタキサン系抗がん剤が挙げられる。
【0069】
抗生物質抗がん剤としては、例えば、マイトマイシンC、ドキソルビシン、エピルビシン、ダウノルビシン、ブレオマイシン、アクチノマイシンD、アクラルビシン、イダルビシン、ピラルビシン、ペプロマイシン、ミトキサントロン、アムルビシン、ジノスタチンスチマラマーなどが挙げられる。
【0070】
トポイソメラーゼ阻害剤としてはトポイソメラーゼI阻害作用を有するCPT-11、イリノテカン、ノギテカン、トポイソメラーゼII阻害作用をもつエトポシド、ソブゾキサンが挙げられる。
【0071】
白金製剤としては、例えば、シスプラチン、ネダプラチン、オキサリプラチン、カルボプラチンなどが挙げられる。
【0072】
ホルモン剤としては、例えば、デキサメタゾン、フィナステリド、タモキシフェン、アストロゾール、エキセメスタン、エチニルエストラジオール、クロルマジノン、ゴセレリン、ビカルタミド、フルタミド、ブレドニゾロン、リュープロレリン、レトロゾール、エストラムスチン、トレミフェン、ホスフェストロール、ミトタン、メチルテストステロン、メドロキシプロゲステロン、メピチオスタンなどが挙げられる。
【0073】
生物製剤としては、例えば、インターフェロンα、βおよびγ、インターロイキン2、ウベニメクス、乾燥BCG、細胞外毒素などが挙げられる。細胞外毒素として具体的には、Pseudomonas Exotoxin(PE)というバクテリアが産生する外毒素(タンパク質)が挙げられ、PEにはNAD+-diphthamide-ADP-ribosyl transferaseという酵素活性があり、タンパク合成を阻害して強い毒性を発揮する。 これまでに、PEをCD22抗体という抗体にコンジュゲートしたものが、抗がん剤として承認されている。
【0074】
分子標的薬としては、例えば、リツキシマブ、アレムツズマブ、トラスツズマブ、セツキシマブ、パニツムマブ、イマチニブ、ダサチニブ、ニロチニブ、ゲフィチニブ、エルロチニブ、テムシロリムス、ベバシズマブ、VEGF trap、スニチニブ、ソラフェニブ、トシツズマブ、ボルテゾミブ、ゲムツズマブ・オゾガマイシン、イブリツモマブ・オゾガマイシン、イブリツモマブチウキセタン、タミバロテン、トレチノインなどが挙げられる。ここに特定する分子標的薬以外にも、ヒト上皮性増殖因子受容体2阻害剤、上皮性増殖因子受容体阻害剤、Bcr-Ablチロシンキナーゼ阻害剤、上皮性増殖因子チロシンキナーゼ阻害剤、mTOR阻害剤、血管内皮増殖因子受容体2阻害剤(α-VEGFR-2抗体)などの血管新生を標的にした阻害剤、MAPキナーゼ阻害剤などの各種チロシンキナーゼ阻害剤、サイトカインを標的とした阻害剤、プロテアソーム阻害剤、抗体-抗がん剤配合体などの分子標的薬なども含めることができる。これら阻害剤には抗体も含む。
【0075】
核酸医薬は、核酸である医薬有効成分であり、その限りにおいて特に制限されない。
【0076】
造影剤は、その存在場所を可視化することが可能な物質である限り、特に制限されない。造影剤としては、例えば硫酸バリウム、次炭酸ビスマス、酸化ビスマス、酸化ジルコニウム、フッ化イッテルビウム、ヨードホルム、バリウムアパタイト、チタン酸バリウム、ランタンガラス、バリウムガラス、ストロンチウムガラス等のX線造影剤;ヨード造影剤等のComputed Tomography(CT)用造影剤;ガドリニウム製剤、超常磁性酸化鉄製剤(Super Paramagnetic Iron Oxide、SPIO)等のMRI用造影剤;テクネチウム99m(99mTc)、モリブデン99(99Mo)等のSingle photon emission computed tomography(SPECT)用放射性同位体、その他各種放射性同位体又はそれを含む物質等が挙げられる。
【0077】
他の物質の含有量は、修飾多糖類の含有量100質量部に対して、例えば0~10000質量部、0~1000質量部、0~500質量部、0~100質量部、0~50質量部、又は0~10質量部である。
【0078】
ゲル粒子は、公知の方法に従って製造することができる。例えば、修飾多糖類含有溶液を超音波処理する、或いは当該溶液に尿素、DMSO、界面活性剤等の変性剤を添加後に透析により変性剤を除去することにより製造することができる。簡便性の観点から、前者の方法がより好ましい。後者の方法は、公知の方法に従って又は準じて行うことができる。
【0079】
修飾多糖類含有溶液は、修飾多糖類を溶媒に溶解することにより調製することができる。溶媒としては、例えば水や、DMSO等の有機溶媒を使用することができる。修飾多糖類溶液は、通常、溶媒として水を使用して、調製することができる。この際、水に代えて、PBS等の緩衝液を使用することが好ましい。
【0080】
修飾多糖類含有溶液中の修飾多糖類の濃度は、特に制限されないが、ゲル粒子の形成効率等の観点から、例えば5~100uM、好ましくは5~80uM、より好ましくは8~50uMである。
【0081】
超音波処理は、例えば、修飾多糖類含有溶液が入ったプラスチックチューブをバス型超音波槽内の水上に固定し、超音波照射することにより行うことができる。超音波処理の条件は、特に制限されないが、例えば10~40℃(好ましくは20~35℃)、10~50kHz(好ましくは20~40kHz)、30~200W(好ましくは70~150W)、2~30分間(好ましくは5~15分間)である。
【0082】
ゲル粒子の用途は、一態様において、CD209陽性細胞を含有するがん組織に対するがん治療剤である。ゲル粒子は、CD209を標的としてこれを発現する細胞に結合し、取り込まれる。このため、ゲル粒子に含まれる成分を、CD209陽性細胞を含有するがん組織に選択的に輸送することができる。具体的には、例えばゲル粒子に含まれる薬剤(アジュバント、がん抗原、抗がん剤、核酸医薬等)を、CD209陽性細胞を含有するがん組織に選択的に輸送し、免疫賦活作用、抗がん作用等を発揮させ、がんを治療することができる。具体的には、例えばゲル粒子に含まれるがん抗原をCD209陽性細胞(好適にはマクロファージ、腫瘍随伴マクロファージ)に取り込ませ、当該細胞に抗原提示させ、T細胞等のリンパ球を活性化して、がんを治療することができる。
【0083】
ゲル粒子は、CD209を標的としてこれを細胞膜上に発現する細胞に結合し、取り込まれるので、CD209陽性細胞への送達用担体(本発明の送達用担体)として用いることが可能である。CD209陽性細胞は、がん組織に存在することが好ましい。本発明の送達用担体を送達させる物質(上述したゲル粒子が含み得る他の物質(例えばアジュバント、がん抗原、抗がん剤、核酸医薬等の薬剤、造影剤等))と共に投与することにより(好ましくは、他の物質をゲル粒子に搭載(例えば結合、保持)させて投与することにより)、他の物質をCD209陽性細胞(好ましくは、CD209陽性細胞を含有するがん組織)に送達することができる。送達用担体の一態様として、例えばドラッグデリバリー担体が挙げられる。
【0084】
本発明の送達用担体を造影剤と共に使用する場合(好ましくは造影剤がゲル粒子に搭載されている(例えば結合している、保持している)場合、CD209陽性細胞を含有する組織(好ましくはCD209陽性細胞を含有するがん組織)の検出剤として使用することができる。このため、本発明は、その一態様において、本発明の送達用担体及び造影剤を含有する、CD209陽性細胞を含有する組織の検出剤、に関する。当該検出剤は、造影剤の種類に応じて、例えばMRI、PET、CT等で用いる検出剤として用いることができる。当該検出剤により、CD209陽性細胞を含有する組織を可視化することが可能である。
【0085】
CD209は、ヒトであればDC-SIGNとも表示されるCタイプのレクチン受容体であり、細胞表面上に発現する。他の動物におけるCD209は、ヒトCD209/DC-SIGNとの配列同一性に基づいて、決定することができる。例えば、マウスにおけるCD209の機能的ホモログはCD209bであり、これはSIGNR1とも表示されるものである。
【0086】
CD209陽性細胞を含有するがん組織は、例えばがん組織中の特定の細胞群(好ましくはマクロファージ)を選別し、当該がん組織中にCD209陽性細胞がどの程度含まれるか否かを判定することにより、決定することができる。前記選別及び判定は、公知の方法に従って行うことができる。例えば、免疫組織染色法が挙げられる。この方法ではがん組織中のCD209陽性細胞を抗ヒトCD209抗体染色し(蛍光法または発色法)、染色された細胞が発する色素量(例えば、蛍光量又は可視光量)に基づき陽性又は陰性を判断することにより行われる。当該染色は、代表的にはCD209結合性分子を利用して行うことができる。このため、本発明は、その一態様において、CD209結合性分子を含有する、本発明のがん治療剤に対するコンパニオン診断薬(本発明の診断薬)、に関する。CD209結合性分子と、被検体のがん組織中の細胞とを接触させる工程を含む方法により、本発明のがん治療剤に対する有効性を予測することができる。
【0087】
CD209結合性分子は、CD209に対して結合可能な(好ましくは特異的に結合可能な)分子である限り、特に制限されない。CD209結合性分子としては、例えば抗体、より具体的には例えばイムノグロブリン、Fab、F(ab’)2、ミニボディ(minibody)、scFv‐Fc、Fv、scFv、ディアボディ(diabody)、トリアボディ(triabody)、テトラボディ(tetrabody)、モノボディ等が挙げられる。
【0088】
上記選別及び判定の一連の作業は、例えば顕微鏡観察を用いて行うことができる。陽性又は陰性の判定は、公知の方法に従って、染色された細胞が発する色素量に基づいて行われる。この判断は、公知の手法に従って行うことができる。例えば、ネガティブコントロール細胞(具体的には、例えばアイソタイプコントロール抗体で染色された細胞)が発する色素量をバックグラウンドの色素量とし、バックグラウンドに対して十分に高い色素量を基準に、該基準よりも色素量が低い細胞を陰性細胞と判断し、該基準よりも蛍光量が高い細胞を陽性細胞と判断する。より簡便な方法として、がん組織から抽出したmRNAを対象としてCD209の逆転写定量PCRを実施し、CD209 mRNA量の多寡で判定する方法も考えられる。
【0089】
がん組織を有する患者から、CD209陽性細胞を含有するがん組織を有する患者を選別し、当該選別された患者に対して本発明のがん治療剤又は本発明の送達用担体を投与することが好ましい。このため、本発明のがん治療剤又は本発明の送達用担体は、がん組織を有する患者から選別された、CD209陽性細胞を含有するがん組織を有する患者に投与するように用いることが好ましい。
【0090】
本発明のがん治療剤又は本発明の送達用担体は、ゲル粒子を含有する限りにおいて特に制限されず、必要に応じてさらに他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、薬学的に許容される成分であれば特に限定されるものではない。他の成分としては、薬理作用を有する成分のほか、添加剤も含まれる。添加剤としては、例えば基剤、担体、溶剤、分散剤、乳化剤、緩衝剤、安定剤、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、増粘剤、保湿剤、着色料、香料、キレート剤等が挙げられる。
【0091】
本発明のがん治療剤又は本発明の送達用担体は、ゲル粒子に加えて、上述したゲル粒子が含み得る他の物質(例えばアジュバント、がん抗原、抗がん剤、核酸医薬等の薬剤、造影剤等)を含むことができる。また、本発明のがん治療剤又は本発明の送達用担体は、上述したゲル粒子が含み得る他の物質(例えばアジュバント、がん抗原、抗がん剤、核酸医薬等の薬剤、造影剤等)と併用することができる。
【0092】
本発明のがん治療剤又は本発明の送達用担体の適用対象は特に限定されないが、哺乳動物では、例えば、ヒト、サル、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウサギ、ブタ、ウマ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、シカ等が挙げられる。また、細胞としては、動物細胞等が挙げられる。細胞の種類も特に制限されず、例えば血液細胞、造血幹細胞・前駆細胞、配偶子(精子、卵子)、線維芽細胞、上皮細胞、血管内皮細胞、神経細胞、肝細胞、ケラチン生成細胞、筋細胞、表皮細胞、内分泌細胞、ES細胞、iPS細胞、組織幹細胞、がん細胞等が挙げられる。
【0093】
本発明のがん治療剤又は本発明の送達用担体の対象がんとしては、特に制限されず、例えば白血病(慢性リンパ性白血病、急性リンパ性白血病を含む)、リンパ腫(非ホジキンリンパ腫、ホジキンリンパ腫、T細胞系リンパ腫、B細胞系リンパ腫、バーキットリンパ腫、悪性リンパ腫、びまん性リンパ腫、濾胞性リンパ腫を含む)、骨髄腫(多発性骨髄腫を含む)、乳がん、大腸がん、腎臓がん、胃がん、卵巣がん、膵臓がん、子宮頚がん、子宮内膜がん、食道がん、肝臓がん、頭頚部扁平上皮がん、皮膚がん、悪性黒色腫、尿路がん、前立腺がん、絨毛がん、咽頭がん、喉頭がん、きょう膜腫、男性胚腫、子宮内膜過形成、子宮内膜症、胚芽腫、線維肉腫、カポジ肉腫、血管腫、海綿状血管腫、血管芽腫、網膜芽腫、星状細胞腫、神経線維腫、稀突起謬腫、髄芽腫、神経芽腫、神経膠腫、横紋筋肉腫、謬芽腫、骨原性肉腫、平滑筋肉腫、甲状肉腫及びウィルムス腫瘍等が挙げられる。
【0094】
本発明のがん治療剤又は本発明の送達用担体は、任意の剤形、例えば錠剤(口腔内側崩壊錠、咀嚼可能錠、発泡錠、トローチ剤、ゼリー状ドロップ剤などを含む)、丸剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、硬カプセル剤、軟カプセル剤、ドライシロップ剤、液剤(ドリンク剤、懸濁剤、シロップ剤を含む)、ゼリー剤などの経口製剤形態、注射用製剤(例えば、点滴注射剤(例えば点滴静注用製剤等)、静脈注射剤、筋肉注射剤、皮下注射剤、皮内注射剤)、外用剤(例えば、軟膏剤、パップ剤、ローション剤)、坐剤吸入剤、眼剤、眼軟膏剤、点鼻剤、点耳剤、リポソーム剤等の非経口製剤形態を採ることができる。
【0095】
本発明のがん治療剤又は本発明の送達用担体の投与経路としては、所望の効果が得られる限り特に制限されず、経口投与、経管栄養、注腸投与等の経腸投与; 経静脈投与、経動脈投与、筋肉内投与、心臓内投与、皮下投与、皮内投与、腹腔内投与等の非経口投与等が挙げられる。
【0096】
本発明のがん治療剤又は本発明の送達用担体中の有効成分の含有量は、使用態様、適用対象、適用対象の状態等に左右されるものであり、限定はされないが、例えば0.0001~100重量%、好ましくは0.001~50重量%とすることができる。
【0097】
本発明のがん治療剤又は本発明の送達用担体の投与量は、薬効を発現する有効量であれば特に限定されず、通常は、有効成分の重量として、一般に経口投与の場合には一日あたり0.1~1000 mg/kg体重、好ましくは一日あたり0.5~500 mg/kg体重であり、非経口投与の場合には一日あたり0.01~100 mg/kg体重、好ましくは0.05~50 mg/kg体重である。上記投与量は、年齢、病態、症状等により適宜増減することもできる。
【実施例】
【0098】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0099】
調製例1.プルランナノゲルの調製
既報(Macromolecules 1993, 23, 3062-3068)の記載に従って、重量平均分子量100,000のプルランに100単糖あたりコレステロールが1.2個導入されたコレステロール修飾プルラン(CHP)を作製した。
【0100】
CHPをPBSに1mg/mLとなるように加え、スターラーにより25℃で15時間攪拌溶解させた後、プローブ型超音波照射機により超音波を6分間間欠照射した。この溶液を25℃、20000gで30分間遠心分離処理した後、上清を0.22umフィルターに通して濾過滅菌を行って、プルランナノゲル(ナノゲル重量平均分子量450,000)を得た。
【0101】
動的光散乱計(DLS)によるキュムラント法解析により、得られたプルランナノゲルの平均粒子径の測定を行った。その結果、プルランナノゲルの平均粒子径は32.2±2.1 nm、多分散指数は0.26±0.01であった。
【0102】
試験例1.プルランナノゲルのマウスCD209への結合
HEK293細胞にマウスSIGNR1/CD209bまたはマウスDC-SIGN/CD209aのcDNAをコードする発現ベクターをリポフェクション法で一過性導入した。コントロールとしてcDNAを含まない発現ベクターを用いて同様に行った(Vector control)。48時間後に、各細胞にローダミン標識プルランナノゲルを
図1に表示の濃度で投与し、37℃で3時間インキュベートした。細胞を冷PBSで洗浄し、EDTA含有冷PBSで剥離してシングルセルとなるように懸濁した。フローサイトメトリーで各細胞へのローダミン標識プルランナノゲルの取り込み率を測定した。
【0103】
結果を
図1に示す。マウスSIGNR1/CD209b発現細胞では48.9%(2 μg プルランナノゲル/mLの時)又は67.8%(10 μg プルランナノゲル/mLの時)の細胞でローダミン標識プルランナノゲルの取り込みが認められたのに対し、マウスDC-SIGN/CD209a発現細胞では5.5%(2 μg プルランナノゲル/mLの時)又は16.6%(10 μg プルランナノゲル/mLの時)と低値であった。マウスSIGNR1/CD209bはヒトDC-SIGN/CD209と機能的に近い。なお、このときGreen fluorescent protein (GFP) cDNAをコードする発現ベクターの一過性発現で評価した導入効率は約40%であった。
【0104】
試験例2.プルランナノゲルのヒトCD209への結合
試験例1と同様にして、HEK293細胞にマウスSIGNR1/CD209b、マウスDC-SIGN/CD209a、またはヒトDC-SIGN/CD209のcDNAをコードする発現ベクターをリポフェクション法で一過性導入した。コントロールとしてcDNAを含まない発現ベクターを用いて同様に行った(Vector control)。48時間後に、各細胞にローダミン標識プルランナノゲルを
図2に表示の濃度で投与し、37℃で2時間インキュベートした。細胞を冷PBSで洗浄し、EDTA含有冷PBSで剥離してシングルセルとなるように懸濁した。フローサイトメトリーで各細胞へのローダミン標識プルランナノゲルの取り込み率を測定した。
【0105】
結果を
図2に示す。マウスDC-SIGN/CD209a発現細胞、マウスSIGNR1/CD209b発現細胞、ヒトDC-SIGN/CD209発現細胞でそれぞれ3.1%、22.3%、31.4%の細胞でローダミン標識プルランナノゲルの取り込みが認められた。このときGreen fluorescent protein (GFP) cDNAをコードする発現ベクターの一過性発現で評価した導入効率は約29%であった。
【0106】
試験例3.プルランナノゲルのCD209への特異的結合
COS7細胞に表示のC型レクチンのcDNAをコードする発現ベクターをリポフェクション法で一過性導入した。コントロールとしてcDNAを含まない発現ベクターを用いて同様に行った(Vector control)。48時間後に、各細胞にローダミン標識プルランナノゲルを2 μg/mLの濃度で投与し、37℃で2時間インキュベートした。細胞を冷PBSで洗浄し、TryPLE (Thermo Scientific)で剥離してシングルセルとなるように懸濁した。蛍光顕微鏡で各細胞へのローダミン標識プルランナノゲルの取り込み(赤色)を観察した。
【0107】
ヒトC型レクチン発現細胞の結果を
図3-1に示し、マウスC型レクチン発現細胞の結果を
図3-2に示す。ローダミン標識プルランナノゲルの取り込みはヒトDC-SIGN/CD209、ヒトL-SIGN、マウスSIGNR1/CD209bを発現する細胞でのみ観察され、他のC型レクチンを発現する細胞では認められなかった。
【0108】
試験例4.多糖ナノゲルと直鎖状多糖のCD209への結合
マウスSIGNR1/CD209b遺伝子を安定発現するマウスRAW264.7細胞(
図4中RAW SR-1)に、ローダミン標識プルランナノゲル(
図4中 CHP)またはローダミン標識プルラン(直鎖状、ユニマー)(
図4中 Pullulan 400K)を
図4に表示の各濃度で投与し、37℃で3時間インキュベートした。細胞をスクレーパーで剥離してシングルセルとなるように懸濁した。フローサイトメトリーで各細胞へのローダミン標識プルランナノゲルの取り込み強度(蛍光強度)を測定した。また、マンナン(直鎖状、ユニマー)とマンナンナノゲルを用いて、同様に試験した。
【0109】
結果を
図4に示す。プルランナノゲルとプルランのいずれも濃度依存的にRAW SR-1細胞に取り込まれた。取り込みはプルラン(ユニマー、直鎖状)よりもプルランナノゲル(ナノ粒子状)の方が高かった。
【0110】
試験例5.RAW SR-1細胞へのプルランナノゲルの結合のSIGNR1依存性 試験例4と同様の実験を行った。ただし、ローダミン標識プルランナノゲルを添加する前に細胞をSIGNR1特異的抗体(クローン22D1(IgG)またはクローンERTR9(IgM))で1時間処理した。
【0111】
結果を
図5に示す。22D1抗体(IgG)で処理した細胞ではプルランナノゲルの取り込みの有意な低下が認められた。22D1はSIGNR1/CD209bの糖鎖認識部位に結合することから、SIGNR1/CD209bとプルランナノゲルの結合を22D1が妨害することでプルランナノゲルの取り込みが阻害されたと考えられる。ERTR9はSIGNR1/CD209bの糖鎖認識部位には結合しないため、プルランナノゲルの取り込みの阻害が生じなかったと考えられる。この結果から、プルランナノゲルとSIGNR1が特異的に結合することが支持された。
【0112】
試験例6.プルランナノゲルのCD209への特異的結合
マウス繊維肉腫細胞株CMS5a細胞にマウスSIGNR1/CD209bのcDNAをコードする発現ベクターをエレクトロポレーション法で一過性導入した。翌日に、各細胞にローダミン標識プルランナノゲルを2 μg/mLの濃度で、また抗SIGNR1抗体(22D1)を
図6に表示の濃度で投与し、37℃で2時間インキュベートした。細胞をトリプシンで剥離してシングルセルとなるように懸濁した。蛍光顕微鏡観察とフローサイトメトリーで各細胞へのローダミン標識プルランナノゲルの取り込みを評価した。
【0113】
結果を
図6に示す。SIGNR1/CD209b発現細胞(
図6中 Control)でローダミン標識プルランナノゲルの取り込みが明確に認められた。これに対し22D1抗体の添加により、その濃度依存的にローダミン標識プルランナノゲルの取り込みが減弱した。
図5と同様に、プルランナノゲルとSIGNR1/CD209bが特異的に結合することが支持された。
【0114】
試験例7.プルランナノゲルの腫瘍随伴マクロファージ(TAM)への選択的取込み マウス大腸がん細胞株CT26細胞を正常BALB/cマウス(7週令、雌)の皮下に移植し、8日後に腫瘍を回収してジェントルマックス(ミルテニー)で破砕して細胞懸濁液としたあと、培養プレート上で10%ウシ胎児血清含有RPMI1640培地で培養した。これに対しローダミン標識プルランナノゲルを2 μg/mLの濃度で投与し、37℃で2時間インキュベートした。その後、細胞をトリプシンで剥離してシングルセルとなるように懸濁した。これを抗CD45抗体、CD11b抗体、Gr1抗体、SIGNR1/CD209b抗体、MHCクラスII抗体で染色し、フローサイトメトリーで表示の細胞集団へのローダミン標識プルランナノゲルの取り込みを評価した。
【0115】
結果を
図7に示す。ミエロイド細胞のうち、CD11b+Gr1-CD209b+細胞(CD209b陽性TAM)にローダミン標識プルランナノゲルの高い取り込みが明確に認められた(
図7右)。
【0116】
試験例8.プルランナノゲルの腫瘍随伴マクロファージ(TAM)への選択的取込み マウス大腸がん細胞株CT26細胞を正常BALB/cマウス(7週令、雌)の皮下に移植し、8日後に腫瘍を回収してジェントルマックス(ミルテニー)で破砕して細胞懸濁液としたあと、培養プレート上で10%ウシ胎児血清含有RPMI1640培地で培養した。これに対しローダミン標識プルランナノゲルを2 μg/mLの濃度で投与し、37℃で2時間インキュベートした。このとき、SIGNR1抗体(22D1)を
図8に表示の濃度で同時添加した。その後、蛍光顕微鏡で観察してローダミン標識プルランナノゲルの取り込みを評価した。×400の視野で強く発光している細胞数を、取り込み細胞数とした。
【0117】
結果を
図8に示す。22D1抗体の存在下では、ローダミン標識プルランナノゲルの取り込みが著しく阻害された。
【0118】
試験例9.プルランナノゲルの腫瘍随伴マクロファージ(TAM)への選択的取込み マウス大腸がん細胞株CT26細胞を正常BALB/cマウス(7週令、雌)の皮下に移植し、8日後にローダミン標識プルランナノゲル(600μg)を静脈内投与した。このときSIGNR1抗体(22D1)を表示の濃度で同時投与した。6時間後に腫瘍を回収し、ジェントルマックス(ミルテニー)で破砕して細胞懸濁液としたあと、抗CD45抗体、CD11b抗体、Gr1抗体、CD209b抗体、CD206抗体、MHCクラスII抗体で染色し、フローサイトメトリーで表示の細胞集団へのローダミン標識プルランナノゲルの取り込みを評価した。
【0119】
結果を
図9に示す。CD11b+Gr1-CD209b+細胞(CD209陽性TAM)にローダミン標識プルランナノゲルの高い取り込みが明確に認められた(
図9左)。これに対し、SIGNR1抗体は濃度依存的に同細胞へのプルランナノゲルの取り込みを阻害した。
【0120】
試験例10.プルランナノゲル緑膿菌外毒素(Pseudomonas Exotoxin、PE)複合体による細胞障害
マウス繊維肉腫細胞株CMS5a細胞にマウスSIGNR1/CD209bのcDNAをコードする発現ベクターをエレクトロポレーション法で一過性導入した。翌日に、各細胞にプルランナノゲルPE複合体もしくはPEを0.3, 1, 3, 9, 10, 30, 90μg/mLの濃度で投与し、37℃で1時間インキュベートした。1時間後に10%FCS RPMIにて洗浄した後、10%FCS RPMIで24時間培養、その後、Cell Counting Kit-8にて細胞活性を評価した。
【0121】
結果を
図10に示す。PE単独では、SIGNR1/CD209b発現に関係なく濃度依存的に細胞障害活性が観察されるのに対し、プルランナノゲルPE複合体ではSIGNR1/CD209b発現細胞で優位に細胞障害活性が認められた。
【0122】
試験例11.プルランナノゲルPE複合体による細胞障害
マウス大腸がん細胞株CMS5a細胞を正常BALB/cマウス(8週令、雌)の皮下に移植し、8, 10, 12日後にプルランナノゲルPE複合体およびPEを(0.1 μg)をCpG(50ug)と共に静脈内投与した。腫瘍サイズを経時的に測定した。
【0123】
結果を
図11に示す。CpG単独投与群およびプルランナノゲルPE 単独投与群に比して、プルランナノゲルPE複合体とCpGの併用投与により優位に腫瘍増殖抑制効果が観察された。PE投与マウスについては、投与24時間で死亡した。