(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-24
(45)【発行日】2024-08-01
(54)【発明の名称】接合部材の製造方法、接合装置、及び接合部品
(51)【国際特許分類】
B23K 20/12 20060101AFI20240725BHJP
【FI】
B23K20/12 344
B23K20/12 360
(21)【出願番号】P 2024015458
(22)【出願日】2024-02-05
【審査請求日】2024-02-09
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2023/039467
(32)【優先日】2023-11-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】WO
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】506263882
【氏名又は名称】京浜ラムテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001531
【氏名又は名称】弁理士法人タス・マイスター
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 一平
(72)【発明者】
【氏名】根津 敏幸
(72)【発明者】
【氏名】高堰 義由
【審査官】山内 隆平
(56)【参考文献】
【文献】特開2023-069372(JP,A)
【文献】特開2021-186855(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第02255918(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 20/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
接合部品の製造方法であって、
前記製造方法は、
生産ラインの前工程設備から供給される半製品を前記生産ライン内の接合装置に受け入れる受入工程と、前記受入工程により受け入れられた前記半製品と被接合部材との摩擦撹拌接合を前記接合装置により行うことにより前記接合部品を得る接合工程と、
前記接合工程により得られた前記接合部品を前記生産ラインの後工程設備へ向けて排出する排出工程と
を含み、
前記接合装置は、
出力軸と、
前記出力軸を回転させるように構成された駆動機構と、
前記駆動機構から伝達される回転により回転するように前記出力軸に設けられる摩擦撹拌用回転部材と
を備え、
前記摩擦撹拌用回転部材は、
前記出力軸に設けられた状態において、前記出力軸と、摩擦撹拌時に前記被接合部材に挿入されるピン部との間に、前記出力軸に対する前記ピン部の振動を可能とする遊びを生じさせ、
前記遊びは、空隙又は実質的に空隙であり、当該遊びにより、前記ピン部が、前記遊びの範囲内において、前記出力軸に対して、フリー又は実質的にフリーになるように構成された、
製造方法。
【請求項2】
前記摩擦撹拌用回転部材は、
前記遊びにより、摩擦撹拌時に前記ピン部の振動が、前記出力軸の振動よりも大きい振幅及び/又は周波数を有するように構成された、
請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記空隙は、前記出力軸と前記ピン部との間の空間であり、
前記実質的に空隙である、とは、摩擦撹拌時における前記ピン部の振動の振幅及び/又は周波数を、前記出力軸の振動よりも大きくすることができる程度において、内部に液体又は弾性体を有していてもよいことを意味する、
請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記フリーとは、物理的乃至機械的な拘束を受けていない状態をいい、
前記実質的にフリーとは、摩擦撹拌時における前記ピン部の振動の振幅及び/又は周波数が前記出力軸の振動よりも大きくなる程度にフリーであり、その範囲であれば、出力軸に対する先端部の拘束が許容されることをいう、
請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
接合部品の製造方法であって、
前記製造方法は、
生産ラインの前工程設備から供給される半製品を前記生産ライン内の接合装置に受け入れる受入工程と、前記受入工程により受け入れられた前記半製品と被接合部材との摩擦撹拌接合を前記接合装置により行うことにより前記接合部品を得る接合工程と、
前記接合工程により得られた前記接合部品を前記生産ラインの後工程設備へ向けて排出する排出工程と
を含み、
前記接合装置は、
出力軸と、
前記出力軸を回転させるように構成された駆動機構と、
前記駆動機構から伝達される回転により回転するように前記出力軸に設けられる摩擦撹拌用回転部材と
を備え、
前記摩擦撹拌用回転部材は、
前記出力軸に設けられた状態において、前記出力軸と、摩擦撹拌時に前記被接合部材に挿入されるピン部との間に、前記出力軸に対する前記ピン部の振動を可能とする遊びを生じさせ、前記遊びにより、摩擦撹拌時に前記ピン部の振動が、前記出力軸の振動よりも大きい振幅及び/又は周波数を有するように構成された、
製造方法。
【請求項6】
前記摩擦撹拌用回転部材は、
前記出力軸に設けられる回転軸部と、
前記回転軸部から伝達される回転により回転するように構成され、前記回転軸部よりも先端側に位置する先端部とを備え、
前記先端部は、
前記ピン部と、前記ピン部の基端側に設けられた基端側部を有するか、又は
前記ピン部を有さないが、前記ピン部が着脱可能に取り付けられるように構成された基端側部を有し、
前記遊びは、前記回転軸部と前記先端部との間に、前記回転軸部に対する前記ピン部の振動を可能とするように設けられ、
前記摩擦撹拌用回転部材は、
前記遊びにより、摩擦撹拌時に前記ピン部の振動が、前記回転軸部の振動よりも大きい振幅及び/又は周波数を有するように構成された、
請求項1
~5のいずれか1に記載の製造方法。
【請求項7】
前記ピン部は、前記被接合部材の表面と接する高さに表面接触部を有し、
前記表面接触部よりも先端寄りで前記表面接触部と隣接する前記ピン部の直径に対する前記表面接触部の直径の比率は、1.8以下であり、これにより、前記ピン部は、前記比率を満たす程度に幅の小さいショルダを有するか、又はショルダを有さないように構成される、
請求項
6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記摩擦撹拌用回転部材は、
前記ピン部の振動が、前記遊びの範囲内において、塑性流動する前記被接合部材との接触によって受動的に生じるように構成されている、
請求項1
~5のいずれか1に記載の製造方法。
【請求項9】
前記摩擦撹拌用回転部材は、
前記ピン部の振動が、前記遊びにより、前記ピン部の軸線方向、周方向及び径方向の少なくとも一方に生じるように構成されている、
請求項1
~5のいずれか1に記載の製造方法。
【請求項10】
接合部品の製造方法であって、
前記製造方法は、
生産ラインの前工程設備から供給される半製品を前記生産ライン内の接合装置に受け入れる受入工程と、
前記受入工程により受け入れられた前記半製品と被接合部材との摩擦撹拌接合を前記接合装置により行うことにより前記接合部品を得る接合工程と、
前記接合工程により得られた前記接合部品を前記生産ラインの後工程設備へ向けて排出する排出工程と
を含み、
前記接合装置は、
出力軸を備え、前記出力軸を回転させるように構成された駆動機構と、
前記駆動機構から伝達される回転により回転するように構成され、摩擦撹拌時の前記被接合部材に挿入されるピン部と
を備え、
前記ピン部は、
前記出力軸と前記ピン部との間に、前記出力軸に対する前記ピン部の振動を可能とするよ
うに設けられた遊びを有し、
前記遊びは、空隙又は実質的に空隙であり、当該遊びにより、前記ピン部が、前記遊びの範囲内において、前記出力軸に対して、フリー又は実質的にフリーになるように構成された、
製造方法。
【請求項11】
前記ピン部は、前記遊びにより、摩擦撹拌時に前記ピン部の振動が、前記出力軸の振動よりも大きい振幅及び/又は周波数を有するように構成された、
請求項9に記載の製造方法。
【請求項12】
接合部品の製造方法であって、
前記製造方法は、
生産ラインの前工程設備から供給される半製品を前記生産ライン内の接合装置に受け入れる受入工程と、
前記受入工程により受け入れられた前記半製品と被接合部材との摩擦撹拌接合を前記接合装置により行うことにより前記接合部品を得る接合工程と、
前記接合工程により得られた前記接合部品を前記生産ラインの後工程設備へ向けて排出する排出工程と
を含み、
前記接合装置は、
出力軸を備え、前記出力軸を回転させるように構成された駆動機構と、
前記駆動機構から伝達される回転により回転するように構成され、摩擦撹拌時の前記被接合部材に挿入されるピン部と
を備え、
前記ピン部は、
前記出力軸と前記ピン部との間に、前記出力軸に対する前記ピン部の振動を可能とするように設けられた遊びを有し、前記遊びにより、摩擦撹拌時に前記ピン部の振動が、前記出力軸の振動よりも大きい振幅及び/又は周波数を有するように構成された、
製造方法。
【請求項13】
前記ピン部のチルト角が0度である、
請求項1
、5、10又は
12に記載の製造方
法。
【請求項14】
前記接合部品は、自動車、鉄道車両、航空機、船舶及びロケットのうち、いずれか1つのビークルに適用される、請求項
1、5、10又は12に記載の
製造方法。
【請求項15】
前記接合部品は、電極部品、空調機器、水冷若しくは空冷のパワーコントロールユニット、水冷若しくは空冷のバッテリケース、ドアパネル、ショックアブソーバ、サスペンションリンク、導波管、アンテナ、モーターカバー、酒造タンク、真空装置部品、スパッタリングターゲット材及び埋め込みヒータのうち、いずれか1つに適用される、請求
項1、5、10又は12に記載の
製造方法。
【請求項16】
前記接合部品は、
厚さの異なる複数枚の板材が摩擦撹拌接合されることにより製造された部品、又は
異なる材質からなる複数の部材が摩擦撹拌接合されることにより製造された部品
である、請求項
1、5、10又は12に記載の
製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦撹拌接合(FSW,Friction Stir Welding)に係る接合部材の製造方法、接合装置、及び接合部品に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1では、撹拌ピンは、本体部からの回転力を受けて回転可能に且つ回転軸の軸線方向に対して移動可能に本体部に配設される。さらに、回転軸の軸線方向に対して撹拌ピンを先端側へ向けて付勢する第一弾性部材(例えばコイルバネ)が設けられる。また、ショルダは、本体部からの回転力を受けず回転軸の軸線方向に撹拌ピンとは個別に移動可能に本体部に配設される。さらに、回転軸の軸線方向に対してショルダを先端側へ向けて付勢する第二弾性部材が設けられる。被接合部材に対して一定の高さで撹拌ピンを押し込んでいる状況下で被接合部材の高さが変化しても、被接合部材の変化に合わせて第一弾性部材が変形するので、撹拌ピンの挿入量が一定に保たれる([0041])。第一弾性部材の作用によって、撹拌ピンが被接合部材に対して一定の深さで挿入されるので、塑性化領域が一定の深さで形成される([0071])。このように、特許文献1の技術では、第一弾性部材が、撹拌ピンを被接合部材へ向けて付勢し、撹拌ピンを被接合部材に対して一定の深さで挿入する。
【0003】
特許文献2では、撹拌ピンとショルダとがアセンブリを構成する。アセンブリは、相対回転可能であるとともに一体的に回転軸の軸線方向に対して移動可能である。さらに、回転軸の軸線方向に対して、アセンブリを撹拌ピンの先端側に向けて付勢する第一弾性部材(例えばコイルばね)が設けられる。特許文献2の技術においても、第一弾性部材によって、撹拌ピンの挿入量が一定に保たれ、塑性化領域が一定の深さで形成される([0033]、[0052])。
【0004】
特許文献3では、回転ツールは、本体部と、撹拌部材とを有している。本体部は、接合装置に取り付けられて固定される固定部と、接合装置からの回転力を伝達する回転軸とを有する。撹拌部材は、撹拌ピンを有し、回転軸からの回転力を受けて回転可能に設けられるとともに、回転軸の軸線方向に対して移動可能に本体部に設けられる。さらに、回転軸の軸線方向に撹拌部材を先端側へ向けて付勢する弾性部材(コイルばね)が設けられる。特許文献3の技術においても、弾性部材によって、撹拌ピンの挿入量が一定に保たれ、塑性化領域が一定の深さで形成される([0035]、[0051])。
【0005】
特許文献1~3のいずれにおいても、撹拌ピンは、弾性部材(コイルばね)によって、被接合部材に向けて付勢され、被接合部材に対して押圧され、撹拌ピンの挿入量が一定に保たれ、塑性化領域が一定の深さで形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2023-069370号公報
【文献】特開2023-069371号公報
【文献】特開2023-069372号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
摩擦撹拌接合に関して、接合欠陥の発生を抑えつつ高強度な接合を可能とする接合部材の製造方法、接合装置及び接合部品が提供されることが望まれている。
【0008】
本発明は、摩擦撹拌接合に関して、接合欠陥の発生を抑えつつ高強度な接合を可能とする接合部材の製造方法、接合装置及び接合部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上述の課題に鑑みて鋭意検討を行い、以下の知見を得た。
【0010】
従来、摩擦撹拌接合においては、撹拌ピンを如何に安定した状態で摩擦撹拌を行うか、という設計思想で撹拌ピンの支持構造が設計されていた。そのために、撹拌ピンを如何に被接合部材に向けて付勢して安定的に被接合部材を押し当てて挿入するか、というように、強制的に外的な力を加えることも行われてきた。特許文献1~3においても、弾性部材は、撹拌ピンの挿入量を一定に保ち、塑性化領域を一定の深さで形成するために設けられている。特許文献1~3は、従来の設計思想の範囲に属するものである。
【0011】
これに対して、本発明者らは、従来の設計思想から発想を転換し、被接合部材に挿入されるピン部を、敢えて、塑性流動する被接合部材との接触によって受動的に、ベース振動よりも大きな振幅及び/又は周波数で振動させることにより、接合欠陥の発生を抑えつつ高強度な接合を行うことができることを見出し、本発明を完成させた。この知見は、上述した従来の摩擦撹拌接合と全く異なる。よって、たとえ当業者であっても、従来の摩擦撹拌接合技術から、この知見に容易に想到するはずがない。本発明においては、以下の構成が採用され得る。
【0012】
(1) 被接合部材の摩擦撹拌接合を行う接合装置に設けられる摩擦撹拌用回転部材であって、
前記摩擦撹拌用回転部材は、
前記接合装置が備える駆動機構から出力される回転により回転するように前記駆動機構の出力軸に設けられた状態において、前記出力軸と、摩擦撹拌時に前記被接合部材に挿入されるピン部との間に、前記出力軸に対する前記ピン部の振動を可能とする遊びを生じさせ、前記遊びにより、摩擦撹拌時に前記ピン部の振動が、前記出力軸の振動よりも大きい振幅及び/又は周波数を有するように構成されている。
【0013】
(1)の摩擦撹拌用回転部材は、出力軸とピン部との間に、出力軸に対する前記ピン部の振動を可能とする遊びを有する。摩擦撹拌用回転部材は、遊びにより、摩擦撹拌時にピン部の振動が、出力軸の振動よりも大きい振幅及び/又は周波数を有するように構成されている。駆動機構の出力軸は、摩擦撹拌時に駆動機構からの回転の伝達に伴って振動する。この振動を、ベース振動とも称する。ベース振動は、摩擦撹拌時に不可避的に生じる振動である。摩擦撹拌時において、ピン部の振動は、ベース振動よりも大きい振幅及び/又は周波数を有する。摩擦撹拌時に、ピン部は、遊びの範囲内において、塑性流動する被接合部材に抗うよりも、塑性流動する被接合部材を受け流すように動きながら、回転する。その動きによって、ピン部の振動が生じる。即ち、ピン部の振動は、遊びによって生じる。ピン部の振動は、駆動機構以外の駆動源からの出力によって生じる振動ではない。ピン部の振動は、被接合部材の塑性流動を妨げ難い。さらに、ピン部の振動は、被接合部材の塑性流動と同期することが可能である。これにより、ピン部の振動は、被接合部材の塑性流動を増幅できる。このピン部の振動は、よって、接合欠陥の発生を抑えつつ高強度な接合を行うことができる。加えて、摩擦撹拌用回転部材及び出力軸のチルト角(先進角)は、0度であってもよい。チルト角が0度であっても、良好な摩擦撹拌接合を実現可能である。上述のピン部の振動は、遊びによって実現可能であるため、複雑な主軸機構は不要である。過度な摩擦熱の発生が抑制され得る。ピン部に加わる過度な摩擦の発生が抑制され得る。ピン部が振動することにより、駆動機構からピン部への動力伝達経路における遊びの下流側から上流側への振動の伝達が抑制され得る。出力軸へ加わる負荷が低減され得る。
【0014】
遊びは、摩擦撹拌用回転部材自体が、摩擦撹拌用回転部材内に有していてもよい。摩擦撹拌用回転部材は、摩擦撹拌用回転部材が出力軸に取り付けられることにより、摩擦撹拌用回転部材と出力軸との間に遊びが生じるように構成されていてもよい。摩擦撹拌用回転部材は、ピン部を有しておらず、摩擦撹拌用回転部材にピン部が取り付けられることにより、摩擦撹拌用回転部材とピン部との間に遊びが生じるように構成されていてもよい。接合装置は、摩擦撹拌接合の専用装置に限らず、例えば、マシニングセンタ、ロボット、フライス機、複合加工機、汎用機、ユーザが手に持って摩擦撹拌接合を行うことが可能なサイズを有する可搬型装置などであってもよく、特に限定されない。接合装置又はその付属機構などの制御条件(位置、荷重、主軸負荷、熱、押圧など)も、特に限定されない。接合条件(送り速度、回転速度、接合温度、前進角度)も、特に限定されない。被接合部材の材質は特に限定されない。被接合部材は同種材料であっても異種材料であってもよい。遊びは、後述の実施形態では、キー(嵌合キー又は固定キー)により設けられているが、この例に限定されない。遊びを設けるための構造は、特に限定されず、従来公知の構造を採用可能である。遊びを設けるための部材としては、キー以外に、ボルト、ピン、球状体などの部材を採用可能である。また、摩擦撹拌用回転部材自体の形状により、遊び自体が設けられてもよい。摩擦撹拌用回転部材が複数(例えば2つ)の部材に分割され、隣り合う部材間の嵌め合いにより、遊びが形成されてもよい。振動の振幅及び周波数は、特に限定されず、遊びの量や、駆動機構からピン部への動力伝達経路における遊びの下流側の部材の重さを変更することにより、調整可能である。例えば、ウェイトの設置などにより、重さの変更は可能である。接合装置において、駆動機構は、回転機を備える。回転機は、例えば、回転電機であってもよく、内燃機関であってもよい。駆動機構は、回転機から出力される回転の速度を変更して出力する変速機を備えてもよい。変速機は、減速機であってもよく、増速機であってもよい。駆動機構が変速機を備える場合、変速機の出力軸が、駆動機構の出力軸に相当する。駆動機構が変速機を備えない場合、回転機の出力軸が、駆動機構の出力軸に相当する。一実施形態において、駆動機構内のバックラッシュもマージンも、遊びに該当しない。一実施形態において、遊びは、駆動機構からピン部への動力伝達経路における駆動機構の出力軸の上流側縁よりも下流に設けられる。
【0015】
(2) (1)の摩擦撹拌用回転部材であって、
前記摩擦撹拌用回転部材は、
前記出力軸に設けられる回転軸部と、
前記回転軸部から伝達される回転により回転するように構成され、前記回転軸部よりも先端側に位置する先端部とを備え、
前記先端部は、
前記ピン部と、前記ピン部の基端側に設けられた基端側部を有するか、又は
前記ピン部を有さないが、前記ピン部が着脱可能に取り付けられるように構成された基端側部を有し、
前記遊びは、前記回転軸部と前記先端部との間に、前記回転軸部に対する前記ピン部の振動を可能とするように設けられ、
前記摩擦撹拌用回転部材は、
前記遊びにより、摩擦撹拌時に前記ピン部の振動が、前記回転軸部の振動よりも大きい振幅及び/又は周波数を有するように構成されている。
【0016】
(2)の摩擦撹拌用回転部材は、回転軸部と先端部との間に遊びを有する。この遊びにより、摩擦撹拌時にピン部の振動は、出力軸の振動よりも大きい振幅及び/又は周波数を有する。この振動は、駆動機構以外の駆動源からの出力によって生じる振動ではない。この振動は、被接合部材の塑性流動を妨げ難い。さらに、この振動は、被接合部材の塑性流動を増幅できる。よって、接合欠陥の発生を抑えつつ高強度な接合を行うことができる。
【0017】
ピン部と基端側部とが一体的に構成されている場合、ピン部は、被接合部材内に入る部分であり、基端側部は、ピン部の基端側に設けられる部分であるとして、ピン部と、基端側部とは区別され得る。一方、例えば、ピン部が基端側部に対して着脱可能であるというように、ピン部と基端側部とが分離可能である場合、ピン部と基端側部とは物理的に区別され得る。例えば、ピン部が、ツールに相当し、基端側部が、コレットに相当する。先端部が、ピン部を有さない場合、先端部は、ピン部が着脱可能に取り付けられるように構成された基端側部自体であってもよい。
【0018】
(3) (2)の摩擦撹拌用回転部材であって、
前記先端部は、前記ピン部の基端側において、前記被接合部材の表面と接する高さに表面接触部を有し、
前記表面接触部よりも先端寄りで前記表面接触部と隣接する前記ピン部の直径に対する前記表面接触部の直径の比率は、1.8以下であり、これにより、前記先端部は、前記比率を満たす程度に幅の小さいショルダを有するか、又はショルダを有さないように構成される。
【0019】
遊びによってピン部に生じる振動は、上述の通り、被接合部材の塑性流動を妨げ難く、被接合部材の塑性流動を増幅できる。(3)の摩擦撹拌用回転部材は、幅の小さいショルダを有するか又はショルダを有さないので、塑性流動する被接合部材を覆うように被接合部材の表面と接触するショルダの面積が減少する。ショルダによって塑性流動が妨げられる事態が生じ難くなる。その結果、塑性流動を妨げ難く且つ増幅できるというピン部の振動による効果を、より効果的に得ることが可能となる。さらに、回転するショルダの幅が小さいか、又は回転するショルダを有さない場合、回転するショルダによる被接合部材への加熱量が低下するが、ピン部の振動の効果によって、効果的な塑性流動が実現可能となる。結果的に、より低い温度で摩擦撹拌接合を行うことが可能となる。低温での摩擦撹拌接合は、被接合部材への温度の影響を抑えることができる。そのため、熱による変形や応力の発生を抑制でき、従来の摩擦撹拌接合後の被接合部材と比べて、被接合部材の機械的性質などが向上する可能性がある。さらに、摩擦撹拌接合の低温化によって、エネルギ消費を抑制できる。高温での接合が困難な材料を被接合部材として適用可能となる可能性もある。
【0020】
上記比率は、特に限定されないが、上記(3)において、1.8以下である。さらに、上記比率は、1.5以下であることがより好ましく、1.3以下であることがさらに好ましく、1.1以下であることが特に好ましい。ショルダによって塑性流動が妨げられる事態の発生を抑制できるからである。上記比率が1.0である場合、摩擦撹拌用回転部材は、ショルダを有さない。ショルダを有さない態様も、摩擦撹拌用回転部材の好ましい実施態様の一つである。上記比率は、例えば、2、0未満であってもよい。従来の摩擦撹拌接合における上記比率は、例えば、2以上である。なお、上記比率は、2以上であってもよい。ピン部とともにショルダも振動することにより、塑性流動を妨げ難く且つ増幅できるという効果を得ることができる。なお、ショルダは、ピン部とともに回転しないように構成されてもよい。ショルダがピン部とともに回転しない態様で実施される摩擦撹拌接合は、Stationary Shoulder Friction Stir Welding(SSFSW)と称される。SSFSWは、塑性流動部(ジョイント)への低い熱入力を可能とし、これにより、塑性流動部の機械的特性、微細構造および表面仕上げを向上させることが可能である。上述のように、ショルダの幅が小さいか、又はショルダを有さない態様は、より低い温度での摩擦撹拌接合を行うことを可能とするので、SSFSWに好適に適用され得る。即ち、摩擦撹拌用回転部材がショルダを有する場合、ショルダは、ピン部とともに回転するように構成されてもよく、ピン部とともに回転しないように構成されてもよい。摩擦撹拌用回転部材とは別体として、ピン部とともに回転しないショルダが、摩擦撹拌用回転部材又は接合装置に設置されてもよい。ピン部とともに回転しないショルダは、全く回転しない態様で摩擦撹拌用回転部材又は接合装置に固定されていてもよく、ピン部とは別体で回転可能に構成されていてもよい。
【0021】
(4) (1)~(3)のいずれか1の摩擦撹拌用回転部材であって、
前記摩擦撹拌用回転部材は、
前記ピン部の振動が、前記遊びの範囲内において、塑性流動する前記被接合部材との接触によって受動的に生じるように構成されている。
【0022】
(4)の摩擦撹拌用回転部材において、ピン部は、遊びの範囲内において、塑性流動する被接合部材との接触によって受動的に振動する。摩擦撹拌時に、ピン部は、遊びの範囲内において、塑性流動する被接合部材に抗うよりも受け流すように動きながら回転する。この動きによって、ピン部に、受動的に振動が生じる。そのため、ピン部の振動は、被接合部材の塑性流動を妨げ難い。さらに、この振動は、被接合部材の塑性流動を増幅できる。よって、接合欠陥の発生を抑えつつ高強度な接合を行うことができる。
【0023】
(5) (1)~(4)のいずれか1の摩擦撹拌用回転部材であって、
前記摩擦撹拌用回転部材は、
前記ピン部の振動が、前記遊びにより、前記ピン部の軸線方向、周方向及び径方向の少なくとも一方に生じるように構成されている。
【0024】
(5)の摩擦撹拌用回転部材は、少なくともいずれか一方へのピン部の振動により、接合欠陥の発生を抑えつつ高強度な接合を行うことができる。
【0025】
出力軸とピン部との間において、軸線方向に遊びが設けられている場合、ピン部は、軸線方向に振動可能である。周方向に遊びが設けられている場合、ピン部は、周方向に振動可能である。径方向に遊びが設けられている場合、ピン部は、径方向に振動可能である。遊びは、ピン部の軸線方向、周方向及び径方向の少なくとも一方向に設けられる。出力軸とピン部との間には、例えば、以下の遊びが設けられることができる。
(A) 軸線方向のみの遊び、
(B) 周方向のみの遊び、
(C) 径方向のみの遊び、
(D) 軸線方向の遊びと、周方向の遊びとの組合せ、
(E) 軸線方向の遊びと、径方向の遊びとの組合せ、
(F) 周方向の遊びと、径方向の遊びとの組合せ、又は、
(G) 周方向の遊びと、周方向の遊びと、径方向の遊びとの組合せ。
上記(A)の場合、ピン部は、少なくとも軸線方向に振動可能である。
上記(B)の場合、ピン部は、少なくとも周方向に振動可能である。
上記(C)の場合、ピン部は、少なくとも径方向に振動可能である。
上記(D)の場合、ピン部は、少なくとも軸線方向及び周方向に振動可能である。
上記(E)の場合、ピン部は、少なくとも軸線方向及び径方向に振動可能である。
上記(F)の場合、ピン部は、少なくとも周方向及び径方向に振動可能である。
上記(G)の場合、ピン部は、軸線方向、周方向及び径方向に振動可能である。
なお、本段落は、出力軸とピン部との間に設けられる遊びについての説明であるが、遊びが、回転軸部と先端部との間に設けられる場合、本段落における「出力軸」を「回転軸部」に置き換えて読むことが可能である。いずれか一方向における遊びの量は、特に限定されず、接合装置の大きさなどによって異なるが、例えば、0.0001mm~1mmであることが好ましく、0.001mm~0.8mmであることがより好ましく、0.01mm~0.5mmであることがさらに好ましい。なお、軸線方向は、必ずしも、上下方向に限定されず、被接合部材とピン部との配置によって定められることが可能である。
【0026】
(6) (1)~(5)のいずれか1の摩擦撹拌用回転部材であって、
前記摩擦撹拌用回転部材は、
前記ピン部が、前記遊びの範囲内において、前記出力軸に対して、フリー又は実質的にフリーになるように構成されている。
【0027】
(6)の摩擦撹拌用回転部材において、ピン部は、遊びの範囲内において、フリー又は実質的にフリーであるため、ピン部の振動は、塑性流動する被接合部材との接触によって受動的に生じ、且つベース振動よりも大きい振幅及び/又は周波数を有する。この振動は、被接合部材の塑性流動を妨げ難い。さらに、この振動は、被接合部材の塑性流動を増幅できる。この振動によって、接合欠陥の発生を抑えつつ高強度な接合を行うことができる。
【0028】
フリーとは、物理的乃至機械的な拘束を受けていない状態をいう。また、実質的にフリーとは、摩擦撹拌時における前記ピン部の振動の振幅及び/又は周波数が前記出力軸の振動よりも大きくなる程度にフリーであり、その範囲であれば、出力軸に対する先端部の拘束が許容されるこという。当該拘束とは、例えば、出力軸とピン部との間において隣り合う部材間の摩擦や、後述する弾性体や液体などに起因する外的応力である。
【0029】
(7) (1)~(6)のいずれか1の摩擦撹拌用回転部材であって、
前記遊びは、
空隙又は実質的に空隙である。
【0030】
(7)の摩擦撹拌用回転部材において、遊びは、空隙又は実質的に空隙であるため、ピン部の振動は、塑性流動する被接合部材との接触によって受動的に生じ、且つベース振動よりも大きい振幅及び/又は周波数を有する。この振動は、被接合部材の塑性流動を妨げ難い。さらに、この振動は、被接合部材の塑性流動を増幅できる。この振動によって、接合欠陥の発生を抑えつつ高強度な接合を行うことができる。
【0031】
空隙は、出力軸とピン部との間の空間である。実質的に空隙にある、とは、摩擦撹拌時における前記ピン部の振動の振幅及び/又は周波数を、前記出力軸の振動よりも大きくすることができる程度において、内部に液体又は弾性体を有していてもよいことを意味する。
【0032】
(8) 被接合部材の摩擦撹拌接合を行う接合装置であって、
前記接合装置は、
出力軸を備え、前記出力軸を回転させるように構成された駆動機構と、
前記駆動機構から伝達される回転により回転するように構成され、摩擦撹拌時の前記被接合部材に挿入されるピン部と
を備え、
前記ピン部は、
前記出力軸と前記ピン部との間に、前記出力軸に対する前記ピン部の振動を可能とするよに設けられた遊びを有し、前記遊びにより、摩擦撹拌時に前記ピン部の振動が、前記出力軸の振動よりも大きい振幅及び/又は周波数を有するように構成されている。
【0033】
(8)の接合装置は、出力軸とピン部との間に、出力軸に対するピン部の振動を可能とする遊びを有する。接合装置は、遊びにより、摩擦撹拌時にピン部の振動が、出力軸の振動よりも大きい振幅及び/又は周波数を有するように構成されている。出力軸は、摩擦撹拌時に駆動機構からの回転の伝達に伴って振動する。この振動も、上述のベース振動と同様である。摩擦撹拌時において、ピン部の振動は、ベース振動よりも大きい振幅及び/又は周波数を有する。この振動は、遊びによって生じる。この振動は、駆動機構以外の駆動源からの出力によって生じる振動ではない。この振動は、被接合部材の塑性流動を妨げ難い。さらに、この振動は、被接合部材の塑性流動を増幅できる。よって、接合欠陥の発生を抑えつつ高強度な接合を行うことができる。
【0034】
(9) 駆動機構から出力される回転によりピン部を回転させ、前記ピン部が被接合部材に挿入されることにより、前記被接合部材の摩擦撹拌接合を行う接合方法であって、
摩擦撹拌時に、前記駆動機構の回転により前記駆動機構から前記ピン部に伝達されるベース振動よりも振幅及び/又は周波数が大きい振動を、塑性流動する前記被接合部材との接触によって受動的に前記ピン部に生じさせた状態で、前記被接合部材に対する摩擦撹拌を行う。
【0035】
(9)の接合方法によれば、ピン部の振動は、塑性流動する被接合部材との接触によって受動的に生じ、且つベース振動よりも大きい振動及び/又は周波数を有する。この振動は、被接合部材の塑性流動を妨げ難い。さらに、この振動は、被接合部材の塑性流動を増幅できる。この振動によって、接合欠陥の発生を抑えつつ高強度な接合を行うことができる。
【0036】
(10) 駆動機構から出力される回転によりピン部を回転させつつ、前記ピン部が被接合部材に挿入されることにより、前記被接合部材の摩擦撹拌接合を行う接合方法であって、
塑性流動する前記被接合部材との接触によって受動的に生じる前記ピン部の回転変動に同期又は追従して前記駆動機構の出力が変化するように、前記駆動機構のフィードバック制御を行いながら、前記被接合部材に対する摩擦撹拌を行う。
【0037】
(10)の接合方法によれば、ピン部の振動によって被接合部材の塑性流動が妨げられることを抑制乃至防止するようにピン部の振動が駆動機構によって制御される。これにより、よりフリーな塑性流動が実現可能である。よって、接合欠陥の発生を抑えつつ高強度な接合を行うことができる。
【0038】
上記(1)~(10)の事項、及び上記(1)~(10)の欄に記載された事項は、後述する(B1)~(B15)及び(D1)~(D12)に適用及び/又は組み込まれることが可能である。
【0039】
(B1) 接合部品の製造方法であって、
前記製造方法は、
生産ラインの前工程設備から供給される半製品を前記生産ライン内の接合装置に受け入れる受入工程と、前記受入工程により受け入れられた前記半製品と被接合部材との摩擦撹拌接合を前記接合装置により行うことにより前記接合部品を得る接合工程と、
前記接合工程により得られた前記接合部品を前記生産ラインの後工程設備へ向けて排出する排出工程と
を含み、
前記接合装置は、
出力軸と、
前記出力軸を回転させるように構成された駆動機構と、
前記駆動機構から伝達される回転により回転するように前記出力軸に設けられる摩擦撹拌用回転部材と
を備え、
前記摩擦撹拌用回転部材は、
前記出力軸に設けられた状態において、前記出力軸と、摩擦撹拌時に前記被接合部材に挿入されるピン部との間に、前記出力軸に対する前記ピン部の振動を可能とする遊びを生じさせるように構成された、
製造方法。
【0040】
(B1)の製造方法は、接合工程において、上述の接合装置が用いられる点に特徴を有する。(B1)によれば、上記(1)と同様、接合欠陥の発生を抑えつつ、高強度な接合を実現可能である。バリの除去など、接合欠陥への対応に要する時間や手間を軽減できるので、生産ラインの効率を向上させることができる。生産ライン、前工程設備、及び後工程設備は、特に限定されない。(B1)の製造方法は、特に、後述する接合部品のための生産ラインに好適に採用され得る。
【0041】
(B2) 前記摩擦撹拌用回転部材は、
前記遊びにより、摩擦撹拌時に前記ピン部の振動が、前記出力軸の振動よりも大きい振幅及び/又は周波数を有するように構成された、
B1の製造方法。(B2)によれば、接合欠陥の発生を抑えつつ、高強度な接合を実現可能である。
【0042】
(B3) 前記摩擦撹拌用回転部材は、
前記出力軸に設けられる回転軸部と、
前記回転軸部から伝達される回転により回転するように構成され、前記回転軸部よりも先端側に位置する先端部とを備え、
前記先端部は、
前記ピン部と、前記ピン部の基端側に設けられた基端側部を有するか、又は
前記ピン部を有さないが、前記ピン部が着脱可能に取り付けられるように構成された基端側部を有し、
前記遊びは、前記回転軸部と前記先端部との間に、前記回転軸部に対する前記ピン部の振動を可能とするように設けられ、
前記摩擦撹拌用回転部材は、
前記遊びにより、摩擦撹拌時に前記ピン部の振動が、前記回転軸部の振動よりも大きい振幅及び/又は周波数を有するように構成された、
B1又は2の製造方法。
【0043】
(B4) 前記ピン部は、前記被接合部材の表面と接する高さに表面接触部を有し、
前記表面接触部よりも先端寄りで前記表面接触部と隣接する前記ピン部の直径に対する前記表面接触部の直径の比率は、1.8以下であり、これにより、前記ピン部は、前記比率を満たす程度に幅の小さいショルダを有するか、又はショルダを有さないように構成される、
B3の製造方法。
【0044】
(B5) 前記摩擦撹拌用回転部材は、
前記ピン部の振動が、前記遊びの範囲内において、塑性流動する前記被接合部材との接触によって受動的に生じるように構成されている、
B1~4のいずれか1の製造方法。
【0045】
(B6) 前記摩擦撹拌用回転部材は、
前記ピン部の振動が、前記遊びにより、前記ピン部の軸線方向、周方向及び径方向の少なくとも一方に生じるように構成されている、
B1~5のいずれか1の製造方法。
【0046】
(B7) 前記摩擦撹拌用回転部材は、
前記ピン部が、前記遊びの範囲内において、前記出力軸に対して、フリー又は実質的にフリーになるように構成されている、
B1~6のいずれか1の製造方法。
【0047】
(B8) 前記遊びは、
空隙又は実質的に空隙である、
B1~7のいずれか1の製造方法。
(B3)~(B8)によれば、上記(2)~(7)と同様に優れた効果が得られる。
【0048】
(B9) 接合部品の製造方法であって、
前記製造方法は、
生産ラインの前工程設備から供給される半製品を前記生産ライン内の接合装置に受け入れる受入工程と、
前記受入工程により受け入れられた前記半製品と被接合部材との摩擦撹拌接合を前記接合装置により行うことにより前記接合部品を得る接合工程と、
前記接合工程により得られた前記接合部品を前記生産ラインの後工程設備へ向けて排出する排出工程と
を含み、
前記接合装置は、
出力軸を備え、前記出力軸を回転させるように構成された駆動機構と、
前記駆動機構から伝達される回転により回転するように構成され、摩擦撹拌時の前記被接合部材に挿入されるピン部と
を備え、
前記ピン部は、
前記出力軸と前記ピン部との間に、前記出力軸に対する前記ピン部の振動を可能とするよに設けられた遊びを有するように構成された、
製造方法。
【0049】
(B10) 前記ピン部は、前記遊びにより、摩擦撹拌時に前記ピン部の振動が、前記出力軸の振動よりも大きい振幅及び/又は周波数を有するように構成された、
B9の製造方法。
【0050】
(B11)
接合部品の製造方法であって、
前記製造方法は、
生産ラインの前工程設備から供給される半製品を前記生産ライン内の接合装置に受け入れる受入工程と、
前記受入工程により受け入れられた前記半製品と被接合部材との摩擦撹拌接合を前記接合装置により行うことにより前記接合部品を得る接合工程と、
前記接合工程により得られた前記接合部品を前記生産ラインの後工程設備へ向けて排出する排出工程と
を含み、
前記接合装置は、
出力軸を備え、前記出力軸を回転させるように構成された駆動機構と、
前記駆動機構から伝達される回転により回転するように構成され、摩擦撹拌時に前記被接合部材に挿入されるピン部と、
前記駆動機構から出力される回転により前記ピン部を回転させつつ、前記ピン部が前記被接合部材に挿入されることにより、前記被接合部材の摩擦撹拌接合を行うように、前記駆動機構を制御する制御部と、
前記ピン部の回転状態を検出する検出部と
を備え、
前記制御部は、塑性流動する前記被接合部材との接触によって受動的に生じる前記ピン部の回転変動に同期又は追従して前記駆動機構の出力が変化するように、前記検出部により検出された前記ピン部の回転状態に基づいて前記駆動機構のフィードバック制御を行いながら、前記被接合部材に対する摩擦撹拌を行う、
製造方法。
【0051】
(B12) B1~11のいずれか1に記載の製造方法で製造された接合部品。
【0052】
(B13) 前記接合部品は、自動車、鉄道車両、航空機、船舶及びロケットのうち、いずれか1つのビークルに適用される、B12の接合部品。
【0053】
摩擦撹拌用回転部材によれば、接合欠陥の発生が抑制されるとともに、高強度な接合が可能である。従って、得られる接合部材は、ビークルに好適に適用され得る。特に、ビークルのボディを構成する好適に適用され得る。
【0054】
(B14) 前記接合部品は、電極部品、空調機器、水冷若しくは空冷のパワーコントロールユニット、水冷若しくは空冷のバッテリケース、ドアパネル、ショックアブソーバ、サスペンションリンク、導波管、アンテナ、モーターカバー、酒造タンク、真空装置部品、スパッタリングターゲット材及び埋め込みヒータのうち、いずれか1つに適用される、B12の接合部品。
【0055】
(B15) 前記接合部品は、
厚さの異なる複数枚の板材が摩擦撹拌接合されることにより製造された部品、又は
異種材料が摩擦撹拌接合されることにより製造された部品
である、B12~14のいずれか1の接合部品。
【0056】
摩擦撹拌用回転部材によれば、接合欠陥の発生が抑制されるとともに、高強度な接合が可能である。よって、厚さの異なる複数枚の板材や、異種材料に対しても、質の高い摩擦撹拌接合を行うことができる。得られた接合部品は、質の高い摩擦撹拌接合により製造されている。異種材料は、次の組合せであってもよい。例えば、異種金属の組合せ、樹脂と金属との組合せ、金属鋳造物と金属展伸材との組合せ、セラミックと金属との組合せ。また、異種材料のうち、少なくとも一方の材料は、次の材料であってもよい。例えば、銅アルミ異種薄膜材、Ti系材料、鉄系材料、クロム系材料、レアメタル接合。ここでいうレアメタルは、Ag及びAuを含んでもよく、含まなくてもよい。
【0057】
(D1) 摩擦撹拌用回転部材が設けられた接合装置を用いて被接合部材の摩擦撹拌接合を行うことにより接合部材を製造する、接合部材の製造方法であって、
前記摩擦撹拌用回転部材は、前記接合装置が備える駆動機構から出力される回転により回転するように前記駆動機構の出力軸に設けられた状態において、前記出力軸と、摩擦撹拌時に前記被接合部材に挿入されるピン部との間に、前記出力軸に対する前記ピン部の振動を可能とする遊びを生じさせるように構成され、摩擦撹拌接合に起因する塑性流動部の温度が前記遊びの無いツールによる摩擦撹拌接合の適正接合温度の下限よりも低いこと、及び、接合速度が前記遊びの無いツールによる摩擦撹拌接合の適正接合速度の上限よりも高いことのうち、少なくとも一方の条件を満たすように、前記ピン部を回転させながら移動させることにより前記被接合部材に摩擦撹拌接合を行う接合工程を有する、
接合部材の製造方法。
【0058】
(D1)によれば、高速及び/又は低温で、接合欠陥の発生を抑えつつ、高強度な接合を実現可能である。高速での高強度及び高品質の接合は、接合部材の製造効率を向上可能である。低温での高強度及び高品質の接合は、高温での摩擦撹拌接合が回避されるような材質の被接合部材への接合を可能とする。その結果、当該製造方法が適用される接合部材や被接合部材の材質の選択自由度を高めることが可能である。
【0059】
「摩擦撹拌接合に起因する塑性流動部の温度」とは、外的要因の影響を受けた温度ではなく、摩擦撹拌接合自体に起因する塑性流動部の温度をいう。外的要因は、人工的な変温が挙げられる。変温は、加熱又は冷却のいずれであってもよい。人工的な変温は、例えば、被接合部材への流体又は固体の接触による変温が挙げられる。流体は、水などの液体や、空気などの気体のいずれであってもよい。固体は、ヒータなどの加熱素子であってもよく、冷却素子であってもよい。このような外的要因の影響を受けていない温度が、摩擦撹拌接合に起因する温度である。当該温度は、被接合部材の表面温度ではなく、被接合部材の内部において塑性流動部と接触乃至近接する位置で計測される。当該温度は、被接合部材の内部に挿入された熱電対により計測可能である。当該温度は、熱電対の先端位置の深さが被接合部材の表面から2.5mmに設定され、且つ、ピン部の径方向において熱電対の先端が塑性流動部と接触乃至近接するように設定された状態で、計測可能である。
【0060】
「遊びの無いツール」とは、上記(D1)における摩擦撹拌用回転部材と比べて、従来の摩擦撹拌接合に係る接合ツールをいう。なお、「遊びの無いツール」による摩擦撹拌接合は、後述の(D12)でいう「前記フォードバック制御」無しで実施される。
【0061】
(D2) 前記摩擦撹拌用回転部材は、前記遊びにより、摩擦撹拌時に前記ピン部の振動が、前記出力軸よりも大きい振幅及び/又は周波数を有するように構成されている、
D1の接合部材の製造方法。
【0062】
(D2)によれば、上記(D1)と同様、高速及び/又は低温で、接合欠陥の発生を抑えつつ、高強度な接合を実現可能である。
【0063】
(D3) 前記摩擦撹拌用回転部材は、
前記出力軸に設けられる回転軸部と、
前記回転軸部から伝達される回転により回転するように構成され、前記回転軸部よりも先端側に位置する先端部とを備え、
前記先端部は、
前記ピン部と、前記ピン部の基端側に設けられた基端側部を有するか、又は
前記ピン部を有さないが、前記ピン部が着脱可能に取り付けられるように構成された基端側部を有し、
前記遊びは、前記回転軸部と前記先端部との間に、前記回転軸部に対する前記ピン部の振動を可能とするように設けられ、
前記摩擦撹拌用回転部材は、
前記遊びにより、摩擦撹拌時に前記ピン部の振動が、前記回転軸部の振動よりも大きい振幅及び/又は周波数を有するように構成された、
D1又は2の接合部材の製造方法。
【0064】
(D4) 前記ピン部は、前記被接合部材の表面と接する高さに表面接触部を有し、
前記表面接触部よりも先端寄りで前記表面接触部と隣接する前記ピン部の直径に対する前記表面接触部の直径の比率は、1.8以下であり、これにより、前記ピン部は、前記比率を満たす程度に幅の小さいショルダを有するか、又はショルダを有さないように構成される、
D3の接合部材の製造方法。
【0065】
(D5) 前記摩擦撹拌用回転部材は、
前記ピン部の振動が、前記遊びの範囲内において、塑性流動する前記被接合部材との接触によって受動的に生じるように構成されている、
D1~4のいずれか1の接合部材の製造方法。
【0066】
(D6) 前記摩擦撹拌用回転部材は、
前記ピン部の振動が、前記遊びにより、前記ピン部の軸線方向、周方向及び径方向の少なくとも一方に生じるように構成されている、
D1~5のいずれか1の接合部材の製造方法。
【0067】
(D7) 前記摩擦撹拌用回転部材は、
前記ピン部が、前記遊びの範囲内において、前記出力軸に対して、フリー又は実質的にフリーになるように構成されている、
D1~6のいずれか1の接合部材の製造方法。
【0068】
(D8) 前記遊びは、
空隙又は実質的に空隙である、
D1~7のいずれか1の接合部材の製造方法。
【0069】
(D3)~(D8)によれば、高速及び/又は低温での接合を実現できるとともに、上記(2)~(7)と同様に優れた効果が得られる。
【0070】
(D9) 被接合部材の摩擦撹拌接合を行う接合装置であって、
前記接合装置は、
出力軸を備え、前記出力軸を回転させるように構成された駆動機構と、
前記駆動機構から伝達される回転により回転するように構成され、摩擦撹拌時の前記被接合部材に挿入されるピン部と
を備え、
前記ピン部は、前記出力軸と前記ピン部との間に、前記出力軸に対する前記ピン部の振動を可能とするように設けられた遊びを有するように構成され、
前記駆動機構は、
摩擦撹拌接合に起因する塑性流動部の温度が前記遊びの無いツールによる摩擦撹拌接合の適正接合温度の下限よりも低いこと、及び、接合速度が前記遊びの無いツールによる摩擦撹拌接合の適正接合速度の上限よりも高いことのうち、少なくとも一方の条件を満たすように、前記ピン部を回転させながら移動させることにより摩擦撹拌接合を行うように構成されている、
接合装置。
【0071】
(D10) 前記ピン部は、前記遊びにより、摩擦撹拌時に前記ピン部の振動が、前記出力軸の振動よりも大きい振幅及び/又は周波数を有するように構成された、
D9の接合装置。
【0072】
(D11) 駆動機構から出力される回転により、出力軸と、前記出力軸の先端に設けられたピン部とを回転させつつ、前記ピン部が被接合部材に挿入されることにより、前記被接合部材の摩擦撹拌接合を行い、これにより、接合部材を製造する、接合部材の製造方法であって、
前記ピン部は、前記出力軸と前記ピン部との間に、前記出力軸に対する前記ピン部の振動を可能とするように設けられた遊びを有するように構成され、
摩擦撹拌接合に起因する塑性流動部の温度が前記遊びの無いツールによる摩擦撹拌接合の適正接合温度の下限よりも低いこと、及び、接合速度が前記遊びの無いツールによる摩擦撹拌接合の適正接合速度の上限よりも高いことのうち、少なくとも一方の条件を満たすように、前記ピン部を回転させながら移動させることにより前記被接合部材に摩擦撹拌接合を行う接合工程を有する、
接合部材の製造方法。
【0073】
(D9)~(D11)によれば、高速及び/又は低温で、接合欠陥の発生を抑えつつ、高強度な接合を実現可能である。
【0074】
(D12) 駆動機構から出力される回転によりピン部を回転させつつ、前記ピン部が被接合部材に挿入されることにより、前記被接合部材の摩擦撹拌接合を行う接合部材の製造方法であって、
塑性流動する前記被接合部材との接触によって受動的に生じる前記ピン部の回転変動に同期又は追従して前記駆動機構の出力が変化するように、前記駆動機構のフィードバック制御を行うとともに、摩擦撹拌接合に起因する塑性流動部の温度が前記フォードバック制御が行われない摩擦撹拌接合の適正接合温度の下限よりも低いこと、及び、接合速度が前記遊びの無いツールによる摩擦撹拌接合の適正接合速度の上限よりも高いことのうち、少なくとも一方の条件を満たすように、前記ピン部を回転させながら移動させることにより摩擦撹拌接合を行う、
接合部材の製造方法。
【0075】
(D12)によれば、高速及び/又は低温で、接合欠陥の発生を抑えつつ、高強度な接合を実現可能である。
【0076】
「前記フィードバック制御が行われない摩擦撹拌接合」は、従来の摩擦撹拌接合と比べて、従来の摩擦撹拌接合をいう。なお、「前記フィードバック制御が行われない摩擦撹拌接合」は、上記(D1)でいう「遊びの無いツール」で行われる。
【0077】
(D13) D1~8、11又は12のいずれか1に記載の製造方法で製造された接合部品。
【0078】
(D14) 前記接合部品は、自動車、鉄道車両、航空機、船舶及びロケットのうち、いずれか1つのビークルに適用される、D13の接合部品。
【0079】
摩擦撹拌用回転部材によれば、接合欠陥の発生が抑制されるとともに、高強度な接合が可能である。従って、得られる接合部材は、ビークルに好適に適用され得る。特に、ビークルのボディを構成する好適に適用され得る。
【0080】
(D15) 前記接合部品は、電極部品、空調機器、水冷若しくは空冷のパワーコントロールユニット、水冷若しくは空冷のバッテリケース、ドアパネル、ショックアブソーバ、サスペンションリンク、導波管、アンテナ、モーターカバー、酒造タンク、真空装置部品、スパッタリングターゲット材及び埋め込みヒータのうち、いずれか1つに適用される、D13の接合部品。
【0081】
(D16) 前記接合部品は、
厚さの異なる複数枚の板材が摩擦撹拌接合されることにより製造された部品、又は
異種材料が摩擦撹拌接合されることにより製造された部品
である、D13~15のいずれか1の接合部品。
【0082】
摩擦撹拌用回転部材によれば、接合欠陥の発生が抑制されるとともに、高強度な接合が可能である。よって、厚さの異なる複数枚の板材や、異種材料に対しても、質の高い摩擦撹拌接合を行うことができる。得られた接合部品は、質の高い摩擦撹拌接合により製造されている。異種材料は、次の組合せであってもよい。例えば、異種金属の組合せ、樹脂と金属との組合せ、金属鋳造物と金属展伸材との組合せ、セラミックと金属との組合せ。また、異種材料のうち、少なくとも一方の材料は、次の材料であってもよい。例えば、銅アルミ異種薄膜材、Ti系材料、鉄系材料、クロム系材料、レアメタル接合。ここでいうレアメタルは、Ag及びAuを含んでもよく、含まなくてもよい。
【発明の効果】
【0083】
本発明によれば、接合欠陥の発生を抑えつつ高強度な接合を可能とする接合部材の製造方法、接合装置及び接合部品を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【
図1】
図1(a)は、第一実施形態に係る摩擦撹拌用回転部材を概略的に示す断面図であり、
図1(b)は、そのA-A線断面図である。
【
図2】
図2(a)は、
図1(a)に示す摩擦撹拌用回転部材のピン部及びその近傍を概略的に示す断面図であり、
図2(b)は、比較例に係る回転ツールのピン部及びその近傍を概略的に示す断面図である。
【
図3】
図3(a)~(t)は、それぞれ、変形例に係る摩擦撹拌用回転部材を概略的に断面図である。
【
図4】
図4(a)は、第二実施形態に係る接合部材の製造方法を説明するための概略図であり、
図4(b)は、
図4(a)に示す製造方法に用いられるロボット型接合装置を概略的に示す側面図であり、
図4(c)は、その部分拡大図である。
【
図5】
図5(a)は、遊びの無いツールによる摩擦撹拌接合の適正接合温度について説明するためのグラフであり、
図5(b)は、遊びの無いツールによる摩擦撹拌接合の適正接合速度について説明するためのグラフである。
【
図6】
図6(a)は、実施例及び比較例の接合温度を示すブラフであり、
図6(b)は、実施例及び比較例の接合速度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0085】
<第一実施形態>
図1(a)は、第一実施形態に係る摩擦撹拌用回転部材1を概略的に示す断面図である。
図1(b)は、そのA-A線断面図である。図中、H、C、Tは、それぞれ、ホルダ、コレット、ツールを示す。AD、CD、RDは、それぞれ、軸線方向、周方向、径方向を示す。他の図面では、これらの符号が省略される場合があるが、本図と同様に解釈される。また、各図では、摩擦撹拌用回転部材1において、互いに隣り合う部材同士に同じハッチングが施されている場合、それは、当該部材同士が互いに固定されている関係を有することを示す。一方、互いに異なる部材同士に異なるハッチングが施されている場合、それは、当該部材同士が互いに固定されていない関係を有することを示す。また、各図では、同じ構成には、同じ符号が付されている。
【0086】
摩擦撹拌用回転部材1は、接合装置3に設けられる。接合装置3は、被接合部材2の摩擦撹拌接合を行う装置である。接合装置3は、駆動機構4を有する。摩擦撹拌用回転部材1は、駆動機構4の出力軸5に着脱可能に取り付けられる。摩擦撹拌用回転部材1は、出力軸5と相対変位しないように出力軸5と共に回転する。
【0087】
摩擦撹拌用回転部材1は、金属製の回転軸部10と、金属製の先端部20とを備える。回転軸部10は、ホルダHに相当する。回転軸部10は、軸線方向ADに延びる略円柱形状を有する。回転軸部10は、回転軸部10の上面側において、出力軸5に固定される。回転軸部10は、回転軸部10の下面に、先端部20を受け入れるための有底孔を有する。有底孔は、下に向かって開口している。有底孔内には、先端部20が設けられている。
【0088】
先端部20は、ピン部21と、ピン部21の基端側に設けられた基端側部22とを有する。ピン部21は、ツールTに相当する。基端側部22は、コレットCに相当する。基端側部22は、軸線方向ADに延びる略円柱形状を有する。基端側部22は、基端側部22の下面に、ピン部21を受け入れるための有底孔を有する。有底孔は、下に向かって開口している。有底孔内には、ピン部21が設けられている。ピン部21は、基端側部22と相対変位しないように、基端側部22に固定されている。ピン部21の先端は、摩擦撹拌時に、
図1(a)に示すように、被接合部材2に挿入される。図中、PFは、摩擦撹拌時における被接合部材2の塑性流動部を概略的に示している。
【0089】
先端部20の外周面には、
図1(b)に示すように、周方向CDに間隔を空けて、複数の溝25が形成されている。溝25は、
図1(a)に示すように、軸線方向ADに延在するように形成されている。各溝25には、棒状の金属製の嵌合キー30が設けられている。嵌合キー30の径方向RDの内側部分は、溝25に入り込んでいる。嵌合キー30の径方向RDの外側部分は、溝25の径方向RDの外側に露出している。回転軸部10の内周面には、各嵌合キー30の露出した部分と対応する位置に、溝15が形成されている。溝15の周方向CDの長さは、嵌合キー30の周方向CDの長さよりも大きい。そのため、溝15内には、周方向CDの遊びCPが生じている。遊びCPは、回転軸部10と先端部20との間に設けられている。回転軸部10は、出力軸5に固定されており、先端部20は、ピン部21を含む。よって、遊びCPは、出力軸5とピン部21との間に設けられている。遊びCPは、空隙又は実質的に空隙である。ピン部21は、遊びCPの範囲内において、出力軸5に対して、フリー又は実質的にフリーである。先端部20は、
図1(b)に示すように、遊びCPによって、摩擦撹拌時、回転軸部10に対して周方向CDに振動CVが生じるように構成されている。
【0090】
さらに、摩擦撹拌用回転部材1は、回転軸部10と先端部20との間に、軸線方向ADの遊びAPを有する。言い換えれば、遊びAPは、出力軸5とピン部21との間に設けられている。遊びAPは、空隙又は実質的に空隙である。ピン部21は、遊びAPの範囲内において、出力軸5に対して、フリー又は実質的にフリーである。ピン部21は、
図1(a)に示すように、遊びAPによって、摩擦撹拌時、出力軸5に対して軸線方向ADに振動AVが生じるように構成されている。
なお、遊びAPは、ピン部21が脱落しない程度の公差でピン部21と出力軸5との間に設けられるよりも、ピン部21を含むツールTがコレットCとともに回転軸部10から脱落し得る程度で設けられる方が、接合の質の観点から見て好ましい。
【0091】
図2(a)は、
図1(a)に示す摩擦撹拌用回転部材1のピン部21及びその近傍を概略的に示す断面図である。
【0092】
ピン部21の振動AV、CVは、出力軸5(
図1(a)参照)よりも大きい振幅及び/又は周波数を有する。
図2(a)の二点鎖線は、塑性流動部PF内において振動AV、CVが生じている時のピン部21を示している。
【0093】
領域Qは、被接合部材2内においてピン部21の振動AV、CVが及ぶ領域である。即ち、領域Qでは、ピン部21の回転によって、被接合部材2の塑性流動が生じている。そして、ピン部21は、遊びAP、CPの範囲内において、塑性流動する被接合部材2との接触する。ピン部21は、遊びAP、CPの範囲内においてフリー又は実質的にフリーである。そのため、ピン部21には、受動的な振動AV、CVが生じる。ピン部21の振動AV、CVは、受動的であるため、被接合部材2の塑性流動を妨げ難いだけではなく、塑性流動と同期し、増幅させることが可能である。
【0094】
ピン部21は、被接合部材2の表面と接する高さに、表面接触部24を有する。表面接触部24の直下に位置するピン部21(表面接触部24よりも先端寄りで表面接触部24と隣接するピン部21)の直径PDに対する表面接触部24の直径SDの比率(直径SD/直径PD)は、1.8以下である。これにより、ピン部21は、比率(直径SD/直径PD)≦1.8を満たす程度に幅の小さいショルダ23を有する。
【0095】
領域Pは、被接合部材2の表面近傍の領域である。ピン部21は、幅の小さいショルダ23を有するので、ショルダ23によって塑性流動が妨げられる事態が生じ難くなる。ピン部21の振動AV,CVによる効果(塑性流動を妨げ難く且つ増幅できる効果)を、より効果的に得ることができる。ショルダ23の幅が小さいので、摩擦撹拌時に生じさせる発熱量が低下するが、ピン部21の振動AV、CVの効果によって、効果的な塑性流動が実現可能である。結果的に、より低い温度での摩擦撹拌接合を行うことが可能となる。即ち、ショルダ23の幅が小さいので、ショルダ23によって塑性流動がより妨げられ難く、領域Pでは、より増幅された塑性流動が実現可能である。
【0096】
図2(b)は、比較例(従来技術)に係る回転ツール1´のピン部及びその近傍を概略的に示す断面図である。特許文献1~3に開示された技術は、この比較例(従来技術)に該当する。
【0097】
回転ツール1´は、摩擦撹拌時に、弾性部材(図示せず)によって、下方に付勢されている。図中、Fは、付勢力を示している。付勢力Fによって回転ツール1´が被接合部材2´に押し当てられることにより、塑性流動部PF´内において、被接合部材2´への回転ツール1´の挿入量は一定に保たれる。ピン部21´には、
図2(a)に示すような振動AV、CVは生じない。領域Q´は、
図2(a)の領域Qに相当する。領域Q´では、ピン部21´の周囲で被接合部材2´が塑性流動するにも関わらず、付勢力Fによって下方に付勢され、ピン部21´は、その位置にとどまる。結果的に、静止するピン部21´によって、被接合部材2の塑性流動が妨げられることがある。また、静止するピン部21´によっては、被接合部材2の塑性流動の増幅効果は得られない。
【0098】
回転ツール1´では、比率(直径SD´/PD´)は、2以上である。ピン部21´は、幅の大きいショルダ23´を有する。加えて、ショルダ23´は、付勢力Fによって下方に付勢され、被接合部材2´に押し当てられている。そのため、領域P´では、ショルダ23´によって塑性流動が妨げられてしまう。さらに、ショルダ23´の幅が大きいので、摩擦撹拌時に得られる発熱量が大きく、低温での摩擦撹拌接合を行うことは困難である。
【0099】
図3(a)~(t)は、それぞれ、変形例に係る摩擦撹拌用回転部材1を概略的に断面図である。
図3(a)、(s)、(t)に付したH、C、Tは、それぞれ、ホルダ、コレット、ツールを示す。便宜上、
図3(b)~(r)では、H、C、Tの表記が省略されているが、
図3(a)、(s)、(t)と同様である。
【0100】
[
図3(a)]
図3(a)に示す摩擦撹拌用回転部材1は、全体として、ツールTに相当し、回転軸部10が、ツールTの一部に相当し、先端部20が、ツールTの一部に相当する。
先端部20は、一体的に構成された基端側部22とピン部21とを有する。先端部20は、回転軸部10の下面に設けられた有底孔に挿入されることにより、回転軸部10に取り付けられる。回転軸部10の下面は、ショルダ23を構成している。回転軸部10と先端部20との間には、
図1(a)及び
図1(b)に示すように、嵌合キー30が設けられている。これにより、摩擦撹拌用回転部材1は、回転軸部10と先端部20との間には、遊びAP、CPを有する。摩擦撹拌用回転部材1は、コレットCに取り付けられる。出力軸5には、ホルダH及びコレットCが固定的に設けられているので、摩擦撹拌用回転部材1は、ホルダH及びコレットCを介して、出力軸5に設けられている。
【0101】
[
図3(b)]
図3(b)に示す摩擦撹拌用回転部材1は、コレットC及びツールTに相当し、回転軸部10は、コレットCとツールTの一部とに相当し、先端部20は、ツールTの一部に相当する。摩擦撹拌用回転部材1は、ホルダHを介して、出力軸5に設けられている。この点を除いて、
図3(b)の態様は、
図3(a)と同じである。
【0102】
[
図3(c)]
図3(c)に示す摩擦撹拌用回転部材1は、ホルダH、コレットC及びツールTに相当し、回転軸部10は、ホルダHとコレットCとツールTの一部とに相当し、先端部20は、ツールTの一部に相当する。摩擦撹拌用回転部材1は、出力軸5に設けられている。この点を除いて、
図3(c)の態様は、
図3(a)及び
図3(b)と同じである。
【0103】
[
図3(d)]
図3(d)に示す摩擦撹拌用回転部材1は、回転軸部10と、中間体40と、先端部20とを有する。摩擦撹拌用回転部材1は、コレットC及びツールTに相当する。回転軸部10は、コレットCに相当する。中間体40は、ツールTの一部に相当する。先端部20は、ツールTの一部に相当する。先端部20は、略円柱形状の中間体40の下面に設けられた有底孔に挿入されることにより、中間体40に取り付けられる。中間体40の下面は、ショルダ23を構成している。中間体40と先端部20との間には、嵌合キー30が設けられている。但し、
図3(d)に示す例では、嵌合キー30により、遊びCPが設けられているが、遊びAPは設けられていない。先端部20は、中間体40に対して周方向CD(
図1参照)に振動可能である。中間体40は、回転軸部10の下面に設けられた有底孔に挿入されることにより、回転軸部10に取り付けられる。これにより、回転軸部10と中間体40との間には、遊びAPが設けられている。中間体40は、回転軸部10に対して軸線方向AD(
図1参照)に振動可能である。このように、回転軸部10と先端部20との間に設けられる遊びAP、CPは、必ずしも、回転軸部10と先端部20とによって構成される必要はない。回転軸部10と先端部20との間に、回転軸部10及び先端部20の各々と個別に相対変位可能な中間体40が介在していてもよい。このように、摩擦撹拌用回転部材1は、全体として、回転軸部10と先端部20との間に、遊びAP、CPを有している。
【0104】
[
図3(e)]
図3(e)に示す摩擦撹拌用回転部材1は、
図3(d)と同様に、回転軸部10と、中間体40と、先端部20とを有する。摩擦撹拌用回転部材1は、ホルダH、コレットC及びツールTに相当する。回転軸部10は、ホルダHに相当する。中間体40は、コレットC及びツールTの一部に相当する。先端部20は、ツールTの一部に相当する。
図3(e)の態様では、遊びAPの位置が、
図3(d)と異なっている。
【0105】
[
図3(f)]
図3(f)の態様では、摩擦撹拌用回転部材1は、ホルダH、コレットC及びツールTに相当する。回転軸部10は、ホルダHに相当する。中間体40は、コレットCに相当する。先端部20は、ツールTに相当する。中間体40と先端部20との間に、嵌合キー30が設けられ、これにより、遊びCPは、中間体40と先端部20との間に設けられている。遊びAPは、回転軸部10と中間体40との間に設けられている。
【0106】
[
図3(g)]
図3(g)の態様では、
図3(f)と異なり、回転軸部10と中間体40との間に、嵌合キー30が設けられ、これにより、遊びCPは、回転軸部10と中間体40との間に設けられている。遊びAPは、中間体40と先端部20との間に設けられている。
【0107】
[
図3(h)]
図3(h)の態様では、
図1と比べて、ショルダ23の幅が広い。上記比率は、2以上である。ショルダ23は、ピン部21と一体的であるため、ショルダ23にも、ピン部21と同様の振動が生じる。従って、ショルダ23の幅が広くても、被接合部材2の塑性流動を妨げ難く、塑性流動を増幅可能である。この点において、
図3(h)の態様は、
図2(b)に示す比較例と異なる。なお、上述のように、ショルダ23は、ピン部21と別体で、ピン部21とともに回転しないように構成されていてもよい。
【0108】
[
図3(i)、
図3(j)]
図3(i)及び
図3(j)の態様では、
図1と比べて、ピン部21の先端の形状が異なる。
図1のピン部21の先端は、先細りの円錐台形状(先端側が基端側より細い円錐台形状)を有するが、
図3(i)のピン部21の先端は、先太りの逆円錐台形状(先端側が基端側より太い円錐台形状)を有する。
図3(j)のピン部21の先端は、円柱形状を有する。このように、ピン部21の先端形状は、特に限定されない。ピン部21の形状として、種々の形状が採用可能である。
【0109】
[
図3(k)]
図3(k)の態様では、上記比率は、1.0であり、摩擦撹拌用回転部材1は、ショルダを有さない。この摩擦撹拌用回転部材1は、回転するショルダを有さないので、より低温での摩擦撹拌接合を実現可能である。
【0110】
[
図3(l)、
図3(m)]
図3(l)の態様では、
図1と異なり、摩擦撹拌用回転部材1は、軸線方向AD(
図1参照)における遊びAPのみを有している。また、
図3(m)の態様では、摩擦撹拌用回転部材1は、周方向CD(
図1参照)における遊びCPのみを有している。このように、摩擦撹拌用回転部材1は、軸線方向AD、周方向CD及び径方向RDのうち、いずれか一方向のみの遊びのみを有していてもよい。
【0111】
[
図3(n)]
図3(n)の態様では、摩擦撹拌用回転部材1は、コレットC及びツールTに相当する。回転軸部10は、コレットCに相当する。先端部20は、ツールTに相当する。先端部20は、互いに一体的に構成されたピン部21と基端側部22とを有する。先端部20は、回転軸部10の下面に設けられた大径有底孔17に遊嵌されることにより、回転軸部10に取り付けられる。大径有底孔17の直径は、基端側部22の直径よりも大きいので、基端側部22の周囲には、径方向RD(
図1参照)への遊びRPが設けられる。基端側部22の外側面には、固定キー31が固定されている。回転軸部10における固定キー31に対応する位置には、側方貫通孔16が設けられている。側方貫通孔16によって、遊びRPと共に、遊びCPが設けられる。即ち、先端部20は、回転軸部10との間に、遊びCP及び遊びRPを有する。先端部20は、回転軸部10に対して、周方向CD及び径方向RDに振動可能である。
【0112】
[
図3(o)]
図3(o)の態様では、摩擦撹拌用回転部材1は、回転軸部10と、中間体40と、先端部20とを有する。摩擦撹拌用回転部材1は、ホルダH、コレットC及びツールTに相当する。回転軸部10は、ホルダHに相当する。中間体40は、コレットCに相当する。先端部20は、ツールTに相当する。先端部20は、互いに一体的に構成されたピン部21と基端側部22とを有する。先端部20は、中間体40の下面に設けられた大径有底孔17に遊嵌されることにより、中間体40に取り付けられる。大径有底孔17の直径は、基端側部22の直径よりも大きいので、基端側部22の周囲には、径方向RD(
図1参照)への遊びRPが設けられる。基端側部22の外側面には、固定キー31が固定されている。中間体40における固定キー31に対応する位置には、側方貫通孔16が設けられている。側方貫通孔16によって、遊びRPと共に、遊びCPが設けられる。即ち、先端部20は、中間体40との間に、遊びCP及び遊びRPを有する。先端部20は、中間体40に対して、周方向CD及び径方向RDに振動可能である。中間体40は、回転軸部10の下面に設けられた有底孔に挿入されることにより、回転軸部10に取り付けられる。これにより、回転軸部10と中間体40との間には、遊びAPが設けられている。中間体40は、回転軸部10に対して軸線方向AD(
図1参照)に振動可能である。以上のように、摩擦撹拌用回転部材1は、回転軸部10と先端部20との間には、遊びAP、CP、RPを有する。よって、先端部20は、回転軸部10に対して、軸線方向AD、周方向CD及び径方向RDの全方向に振動可能である。
【0113】
[
図3(p)]
図3(p)の態様では、
図1の態様と比べて、遊びAP、CPが、空隙ではなく、遊びAP、CPには、液体41(例えば潤滑油)が充填されている。このような摩擦撹拌用回転部材1も、
図2(a)を用いて説明したようなピン部21の振動を実現でき、
図2(b)の態様とは明らかに異なる。即ち、遊びAP、CPは、実質的に空隙である。先端部20は、遊びAP、CPの範囲において、実質的にフリーである。
【0114】
[
図3(q)]
図3(q)の態様では、
図1の態様と比べて、回転軸部10と先端部20との間の遊びAP内に、弾性体42(例えばOリング)が設けられている。このような摩擦撹拌用回転部材1も、
図2(a)を用いて説明したようなピン部21の振動を実現でき、
図2(b)の態様とは明らかに異なる。即ち、遊びAP、CPは、実質的に空隙である。先端部20は、遊びAP、CPの範囲において、実質的にフリーである。
【0115】
以上の例では、摩擦撹拌用回転部材1が、回転軸部10と先端部20とを有し、回転軸部10と先端部20との間に遊びが設けられ、先端部20が、ピン部21を含んでいる場合について説明した。しかし、摩擦撹拌用回転部材1は、以上の例に限定されず、例えば、以下の態様を採用可能である。
【0116】
[
図3(r)]
図3(r)の態様では、摩擦撹拌用回転部材1は、コレットC及びツールTに相当する。摩擦撹拌用回転部材1は、全体として、一体的に構成されており、ピン部21と、ショルダ23とを有する。摩擦撹拌用回転部材1は、ホルダHに取り付けられることにより、摩擦撹拌用回転部材1とホルダHとの間に、遊びAPを生じさせるように構成されている。遊びAPにより、摩擦撹拌時に、ピン部21を含む摩擦撹拌用回転部材1は、出力軸5に対して、軸線方向ADに振動する。
【0117】
[
図3(s)]
図3(s)の態様では、摩擦撹拌用回転部材1は、ホルダHに相当する。摩擦撹拌用回転部材1は、下面に、コレットC及びツールTが挿入される有底孔を有している。コレットC及びツールTが有底孔に挿入されることにより、コレットC及びツールTが、摩擦撹拌用回転部材1に、着脱可能に設けられる。摩擦撹拌用回転部材1は、ピン部を有していない。ピン部は、ツールTに含まれている。摩擦撹拌用回転部材1は、上面に、出力軸5を受け入れるための有底孔を有しており、出力軸5が有底孔に挿入されることにより、摩擦撹拌用回転部材1は、出力軸5に取り付けられる。摩擦撹拌用回転部材1は、出力軸5に取り付けられた時に、出力軸5と摩擦撹拌用回転部材1との間に、遊びAPを生じさせるように構成されている。結果的に、摩擦撹拌時には、遊びAPは、出力軸5と、ツールTのピン部との間に生じる。遊びAPは、出力軸5に対するピン部の振動を可能とする。
【0118】
[
図3(t)]
図3(t)の態様では、摩擦撹拌用回転部材1は、回転軸部10と、先端部20とを有する。摩擦撹拌用回転部材1は、ホルダHに相当する。回転軸部10は、ホルダHの上側部分であり、出力軸5に取り付けられる。先端部20は、ホルダHの下側部分であり、回転軸部10から伝達される回転により回転するように構成され、回転軸部10よりも先端側に位置する。先端部20には、コレットC及びツールTが着脱可能に取り付けられるように構成されている。即ち、先端部20は、ピン部を有さないが、ピン部が着脱可能に取り付けられるように構成された基端側部22を有する。遊びAP、CPは、回転軸部10と先端部20との間に、回転軸部10に対するピン部の振動を可能とするように設けられる。
なお、摩擦撹拌用回転部材1は、上述の例に限定されない。摩擦撹拌用回転部材1は、出力軸5に取り付けられた時に出力軸5とピン部21との間に遊びを生じさせるように構成されていればよく、必ずしも、ホルダH、コレットC及びツールTという部品の区別に基づいている必要はない。
【0119】
<接合装置>
第一実施形態に係る接合装置は、
図1(a)及び(b)に示す、摩擦撹拌用回転部材1を備える接合装置3である。接合装置3は、出力軸5を備える駆動機構4と、ピン部21とを備える。ピン部21は、出力軸5とピン部21との間に、出力軸5に対するピン部21の振動AV、CVを可能とする遊びAP、CPを有する。接合装置3は、遊びAP、CPにより、摩擦撹拌時にピン部21の振動AV、CVが、出力軸5の振動(ベース振動)よりも大きい振幅及び/又は周波数を有する。本実施形態の接合装置3は、遊びAP、CPを有する摩擦撹拌用回転部材1を備えているが、接合装置3は、出力軸5とピン部21との間に遊びを有していればよく、必ずしも、摩擦撹拌用回転部材1を備える必要は無い。
【0120】
<接合方法>
第一実施形態に係る接合方法は、
図1(a)及び(b)に示す、上述の接合装置3によって実行され得る。当該接合方法では、駆動機構4から出力される回転によりピン部21を回転させ、ピン部21が被接合部材2に挿入されることにより、被接合部材2の摩擦撹拌接合を行う。当該接合方法では、摩擦撹拌時に、駆動機構4の回転により駆動機構4からピン部21に伝達されるベース振動よりも振幅及び/又は周波数が大きい振動を、塑性流動する被接合部材2との接触によって受動的にピン部21に生じさせた状態で、被接合部材2に対する摩擦撹拌を行う。
【0121】
別実施形態に係る接合方法では、駆動機構4から出力される回転によりピン部21を回転させつつ、ピン部21が被接合部材2に挿入されることにより、被接合部材2の摩擦撹拌接合を行う。当該接合方法では、塑性流動する被接合部材2との接触によって受動的に生じるピン部21の回転変動に同期又は追従して駆動機構4の出力が変化するように、駆動機構4のフィードバック制御を行いながら、被接合部材2に対する摩擦撹拌を行う。回転変動は、レゾルバやエンコーダなど、従来公知の回転速度センサにより検出可能である。
【0122】
また、上述の実施形態において挙げた数値、材料、構造、形状などはあくまでも例に過ぎず、必要に応じて、これらと異なる数値、材料、構造、形状などを用いてもよい。また、以上の実施形態では、摩擦撹拌用回転部材1が上に位置し、被接合部材2が下に位置し、摩擦撹拌用回転部材1と被接合部材2とが上下方向に向かい合っている。即ち、軸線方向は、上下方向と同じである。しかし、軸線方向は、必ずしも、上下方向と同じである必要はない。軸線方向は、特に限定されず、例えば、水平方向であってもよい。また、軸線方向が上下方向である場合において、摩擦撹拌用回転部材が下に位置し、被接合部材が上に位置してもよい。さらに、軸線方向は、必ずしも固定される必要はない。上述の可搬型装置に摩擦撹拌用回転部材が設置されることにより、接合装置が構成される場合、作業時に軸線方向が変化してもよい。
【0123】
<第二実施形態>
図4(a)は、第二実施形態に係る接合部材の製造方法を説明するための概略図である。
第二実施形態に係る接合部品の製造方法は、生産ラインPLにおいて実行される。生産ラインPLは、前工程設備UEと、ロボット型接合装置A1と、後工程設備DEとを、この順に含む。当該製造方法は、受入工程S1と、接合工程S2と、排出工程S3とを含む。受入工程S1では、生産ラインPLの前工程設備UEから供給される半製品(図示せず)が、生産ラインPL内のロボット型接合装置A1に受け入れられる。接合工程S2では、受入工程S1により受け入れられた半製品と被接合部材2との摩擦撹拌接合が、ロボット型接合装置A1により行われ、これにより、接合部品(図示せず)が得られる。排出工程S3では、接合工程S2により得られた接合部品が、生産ラインPLの後工程設備DEへ向けて排出される。
【0124】
図4(b)は、
図4(a)に示す製造方法に用いられるロボット型接合装置A1を概略的に示す側面図であり、
図4(c)は、ロボット型接合装置A1の摩擦撹拌用回転部材1の近傍を示す部分拡大図である。ロボット型接合装置A1は、ロボットアームA2を備える。本実施形態におけるロボットアームA2は、複数の関節を有する多関節ロボットアームである。しかし、ロボットアームは、この例に限定されず、少なくとも1つの関節を有していればよい。ロボットアームA2は、ロボットアームA2の先端側に設けられた接合装置3を含む。接合装置3は、ロボットアームA2の先端側に設けられた出力軸5と、出力軸5を回転させるように構成された駆動機構4とを備える。出力軸5の先端側には、摩擦撹拌用回転部材1が設けられている。上述の各実施形態に係る摩擦撹拌用回転部材1が採用され得る。また、本実施形態では、摩擦撹拌用回転部材1が出力軸5と別体であり、摩擦撹拌用回転部材1が出力軸5に取り付けられる。しかし、ロボット型接合装置A1は、この例に限定されない。ロボット型接合装置A1は、摩擦撹拌用回転部材1を備える必要はなく、出力軸5とピン部21との間に遊びを有していればよい。ピン部21は、遊びにより、摩擦撹拌時にピン部21の振動が、出力軸5の振動よりも大きい振幅及び/又は周波数を有する。摩擦撹拌用回転部材1を備えるロボット型接合装置A1では、出力軸5の先端側に摩擦撹拌用回転部材1が設けられることにより、出力軸5の先端側にピン部21が設けられることになる。ロボットアームA2と出力軸5との間には、位置調整機構3aが設けられている。位置調整機構3aは、ステージA6上に載置された被接合部材2と、ピン部21との対向方向における被接合部材2に対するピン部21の挿入深さを調整するように構成されている。本実施形態では、被接合部材2が、鉛直方向で上からピン部21にアプローチされるように、ステージA6上に載置され、治具等の固定機構(図示せず)でステージA6上に固定されているが、被接合部材2の固定態様は、この例に限定されない。ピン部21によるアプローチ方向は、鉛直上方に限定されず、他の方向であってもよい。本実施形態に係るロボットアームA2は、多関節構造とサーボモータ(図示せず)とによって、摩擦撹拌用回転部材1を三次元空間内で自在に移動乃至動作させることが可能である。ロボットアームA2は、台座部A2-1上に、脚部A2-2と、下腕部A2-3と、上腕部A2-4と、手首部A2-5及びA2-6とを有する。間接数は任意である。間接数が増えるにつれて、多様な動作が可能となる。ロボットアームA2では、手首部A2-6の先端側に、位置調整機構3a及び接合装置3がこの順で接続されている。位置調整機構3aは、正逆転可能な位置制御用モータ3a-1と、位置制御用モータ3a-1と直結された回転軸3a-2と、回転軸3a-2に設けられたスライダ3a-3とを有する。位置制御用モータ3a-1の回転によって、回転軸3a-2が回転する。スライダ3a-3は、回転軸3a-2の回転に伴って、回転軸3a―2に沿って移動するように構成されている。位置制御用モータ3a-1が正転すると、スライダ3a-3は、回転軸3a-2の一端に向けて移動する。位置制御用モータ3a-1が逆転すると、スライダ3a-3は、回転軸3a-2の他端に向けて移動する。即ち、スライダ3a―3は、回転軸3a-2に沿って往復動可能である。スライダ3a-3には、接合装置3が設けられており、スライダ3a-3の往復動に伴って、接合装置3も、回転軸3a-2に沿った往復動が可能である。接合装置3の往復動により、被接合部材2に対するピン部21の挿入深さの調整が可能である。駆動機構4は、駆動モータ4aと、第1プーリ4bと、回転伝達ベルト4cと、第2プーリ4dとを備えている。駆動機構4は、駆動モータ4aから出力された回転力が、第1プーリ4b、回転伝達ベルト4c及び第2プーリと、出力軸5とを介して、出力軸5の先端側に設けられた摩擦撹拌用回転部材1に伝達されるように構成されている。さらに、ロボット型接合装置A1は、制御部A5(制御装置)を備えている。制御部A5からの指令により、ロボットアームA2による接合装置3の移動と、接合装置3の接合動作とが制御される。制御部A5は、記憶部(図示せず)を備えている。記憶部には、接合装置3の移動と、接合装置3の接合動作とに関するパラメータ等のデータが記憶される。また、ロボット型接合装置A1は、ピン部21の回転状態を検出する検出部(図示せず)を備えていてもよい。検出部としては、ピン部21の回転状態に関する少なくとも1つのパラメータを検出可能なセンサであれば、特に限定されない。そのようなパラメータとしては、例えば、回転速度、回転角、回転トルク等が挙げられる。これにより、上述のフィードバック制御が行われてもよい。
【0125】
<接合温度及び速度>
本実施形態に係る接合部材の製造方法は、出力軸5に対するピン部21の振動を可能とする遊びが出力軸5とピン部21との間に生じる摩擦撹拌用回転部材1を用いて、(A)摩擦撹拌接合に起因する塑性流動部の温度が遊びの無いツールによる摩擦撹拌接合の適正接合温度の下限よりも低いこと、及び、(B)接合速度が遊びの無いツールによる摩擦撹拌接合の適正接合速度の上限よりも高いことのうち、少なくとも一方の条件を満たすように、ピン部21を回転させながら移動させることにより被接合部材2に摩擦撹拌接合を行う接合工程を有する。なお、当該接合工程は、上述した任意の実施形態又は発明に組み込むこと乃至適用することが可能である。言い換えると、上述の実施形態又は発明のいずれにおいても、摩擦撹拌接合が、上記条件(A)及び(B)のうち、少なくとも一方の条件を満たすように実施可能である。
【0126】
先ず、上記条件(A)について説明する。上記条件(A)は、2種類の摩擦撹拌接合の接合温度の対比に関する。出力軸5に対するピン部21の振動を可能とする遊びが出力軸5とピン部21との間に生じる摩擦撹拌用回転部材1が用いられる摩擦撹拌接合は、本発明の摩擦撹拌接合に相当する。一方、遊びの無いツールが用いられる摩擦撹拌接合は、従来の摩擦撹拌接合に相当する。簡単に言えば、上記条件(A)は、本発明の摩擦撹拌接合の接合温度が、従来の摩擦撹拌接合の適正接合温度の下限よりも低い温度であること、を意味する。上記(A)における2種類の摩擦撹拌接合の接合温度の対比は、当該接合温度以外の条件に関して、本発明の摩擦撹拌接合が、従来の摩擦撹拌接合の接合条件と同じ又はより厳しい条件で行われることが前提となっている。同条件での対比に加え、本発明の摩擦撹拌接合がより厳しい条件で行われる場合の対比も含まれている。本発明の摩擦撹拌接合がより厳しい条件で行われるので、この対比も、同条件での対比と同様、適切である。ここでいう「より厳しい条件」とは、本発明の摩擦撹拌接合が、従来の摩擦撹拌接合と比べて、良質な接合を行い難い接合条件で行われることを意味する。この「より厳しい条件」の一例としては、ピン部21(ツール)のチルト角(先進角)が挙げられる。一般的に、従来の摩擦撹拌接合は、ツールに0度超(例えば1~3度)のチルト角(先進角)が設定された状態で行われる。これに対して、本発明の摩擦撹拌接合は、ピン部21にチルト角が設定されていなくても良好な接合が可能であるから、チルト角の設定ができない接合装置で行われることがある。このような場合、同条件での対比が困難であるから、同条件での対比に代えて、本発明の摩擦撹拌接合がより厳しい条件で行われる状況での対比が許容され得る。
【0127】
図5(a)は、遊びの無いツールによる摩擦撹拌接合、即ち従来の摩擦撹拌接合の適正接合温度について説明するためのグラフである。摩擦撹拌接合は、被接合部材2の塑性流動部の温度が適正接合温度AWTの範囲内(言い換えれば、適正接合温度AWTの下限LL以上)である状況下で行われることにより、良質の接合SWが可能となる。良質な接合SWは、例えば、被接合部材2における巣又はバリの発生が抑制され、且つ、ツール(即ち、摩擦撹拌用回転部材)の破損が抑制された接合である。なお、ツールの破損の抑制は、ツールの摩耗の抑制を含む概念である。その一方で、摩擦撹拌接合が非適正接合温度IWTで行われると、不良な接合FWとなってしまう。非適正接合温度IWTは、適正接合温度AWTの下限LL未満である。不良な接合FWは、被接合部材2に巣若しくはバリが発生するか、又はツールの破損が生じてしまう接合である。従来の摩擦撹拌接合の適正接合温度AWTの下限LLよりも低い温度、即ち、非適正接合温度IWTで、本発明の摩擦撹拌接合が行われる場合、上記条件(A)は満たされたことになる。なお、適正接合温度AWT及びその下限LLは、接合条件によって変化する。しかし、摩擦撹拌接合の接合温度が、適正接合温度AWTと非適正接合温度IWTとに分けられ、それらの間に境界(即ち適正接合温度AWTの下限LL)が存在することは、摩擦撹拌接合に共通する特性である。接合条件に関わらず当該特性は存在する。ここでいう接合条件は、主に、ピン部21(及びツール)の回転速度、ピン部21の挿入深さ、及び被接合部材の材質である。チルト角(先進角)も、接合条件に含まれ得る。なお、接合の評価に関して、巣は、接合断面目視(エンドミル切断仕上げ加工)により評価される。これは、エンドミルを使用して切断され仕上げ加工された断面が肉眼で評価されることをいう。必要に応じて浸透探傷検査(PT)により断面が更に評価される。バリは、外観目視により評価される。
【0128】
次に、上記(B)について説明する。上記(B)は、2種類の摩擦撹拌接合の接合速度の対比に関する。2種類の摩擦撹拌接合は、上記条件(A)と同様で、本発明の摩擦撹拌接合及び従来の摩擦撹拌接合に相当する。簡単に言えば、上記条件(A)は、本発明の摩擦撹拌接合の接合速度が、従来の摩擦撹拌接合の適正接合速度の上限よりも高い速度であること、を意味する。上記(B)における2種類の摩擦撹拌接合の接合速度の対比は、当該接合速度以外の条件に関して、本発明の摩擦撹拌接合が、従来の摩擦撹拌接合の接合条件と同じ又はより厳しい条件で行われることが前提となっている。この点について、上記条件(B)は、上記条件(A)と同様である。
【0129】
図5(b)は、遊びの無いツールによる摩擦撹拌接合、即ち従来の摩擦撹拌接合の適正接合速度について説明するためのグラフである。摩擦撹拌接合は、被接合部材2の塑性流動部の速度が適正接合速度AWSの範囲内(言い換えれば、適正接合速度AWSの上限UL以下)である状況下で行われることにより、良質の接合SWが可能となる。その一方で、摩擦撹拌接合が非適正接合速度IWSで行われると、不良な接合FWとなってしまう。非適正接合温度IWTは、適正接合温度AWSの上限UL未満である。良質な接合SW及び不良な接合FWについては、上記条件(A)と同様である。従来の摩擦撹拌接合の適正接合速度AWSの上限ULよりも高い速度、即ち、非適正接合速度IWSで、本発明の摩擦撹拌接合が行われる場合、上記条件(B)は満たされたことになる。なお、適正接合速度AWS及びその上限ULは、接合条件によって変化する。しかし、摩擦撹拌接合の接合速度が、適正接合速度AWSと非適正接合速度IWSとに分けられ、それらの間に境界(即ち適正接合速度AWSの上限UL)が存在することは、摩擦撹拌接合に共通する特性である。接合条件に関わらず当該特性は存在する。ここでいう接合条件についても、上記(B)と同様である。
図5(a)及び(b)を用いて説明した適正接合温度AWT及び適正接合速度AWSは、接合条件(例えば被接合部材2の材質)によって異なるが、適正条件と非適正条件との間に境界が存在するという点については、接合条件によらずに成立する。本発明の摩擦撹拌接合によれば、従来の摩擦撹拌接合と比べて、高速及び/又は低温での良質な接合が可能であることは、接合条件によらずに成立する。
【0130】
<実施例>
図6(a)は、実施例及び比較例の接合温度を示すブラフである。先ず、比較例について説明する。比較例のデータは、以下のCE1~CE6である。
・CE1:接合温度=395.4℃、接合の質=良質SW
・CE2:接合温度=347.6℃、接合の質=良質SW
・CE3:接合温度=301.1℃、接合の質=良質SW
・CE4:接合温度=252.4℃、接合の質=不良FW
・CE5:接合温度=249.8℃、接合の質=不良FW
・CE6:接合温度=201.9℃、接合の質=不良FW
従って、比較例CE1~CE3は、適正接合温度AWTに相当し、比較例CE4~CE6は、非適正接合温度IWTに相当する。適正接合温度AWWTの下限LLは、比較例CE3と比較例CE4との間に位置する。なお、比較例CE4の不良FWの程度が軽微であったことに基づいて、図中では、下限LLが、比較例CE3及びCE4のうち、比較例CE4に、より近い位置に示されている。
【0131】
比較例の実験条件は、以下の通りであった。被接合部材2として、アルミ合金板(縦320mm×横50mm×厚さ10mm、A6061(T6))が用いられた。摩擦撹拌接合は、遊びの無いツールで行われた。ツール先端は、ショルダ径-ピン根本側径-ピン先端側径がφ12-φ5-φ3の形状を有しており、先進角が3度に設定されていた。摩擦撹拌接合は、室温20℃で、摩擦撹拌接合の専用機により、ツール回転速度1800rpmで且つ接合深さ5mmで、アルミ合金板の縦方向に、接合速度が1mm/minから次第に1500mm/minへ向けて上昇するように、行われた。接合温度は、複数の熱電対(アズワン社製、品番:2-8107-02、型番:KTO-16100C)及びデータロガー(キーエンス社製NR-TH08P)により計測された。複数の熱電対は、アルミ合金板の縦方向に沿って、互いに間隔(30mm)を空けて、各熱電対の先端が、被接合部材2の内部の深さ2.5mmで、塑性流動部に接触乃至近接する位置(ピン径方向においてピン中心から2.5mmの位置)に位置するように設置された。これにより、ツールが熱電対先端の近傍を通過する時の接合温度が測定された。各熱電対の計測結果がCE1~CE6の順に示されている。接合速度が上がるにつれて、CE1~CE6の結果が示すように、接合温度が低下し、CE4以降では、良質な接合SWが行われなかった。適正接合温度AWTの下限LLは、250℃近傍、より具体的には、250℃を若干超えた値であると解される。
【0132】
実施例のデータは、以下のPE1~PE6である。
・PE1:接合温度=357.8℃、接合の質=良質SW
・PE2:接合温度=307.3℃、接合の質=良質SW
・PE3:接合温度=271℃、接合の質=良質SW
・PE4:接合温度=219.3℃、接合の質=良質SW
・PE5:接合温度=208.2℃、接合の質=良質SW
・PE6:接合温度=144℃、接合の質=良質SW
【0133】
実施例の実験条件は、以下の通りであった。被接合部材2は、比較例と同じであった。ツールとしては、周方向及び軸方向に遊びを有する摩擦撹拌用回転部材1が用いられた(
図1参照)。ピン部21は、比較例のツールと同様に、ショルダ径-ピン根本側径-ピン先端側径がφ12-φ5-φ3の形状を有していたが、先進角は0度に設定されていた。実施例と比較例とで先進角が異なるが、実施例が、比較例よりも厳しい条件で行われたため、適切な対比が可能である。摩擦撹拌接合は、室温20℃で、NCフライス機により、ツール回転速度1800rpmで且つ接合深さ5mmで、アルミ合金板の縦方向に、接合速度が1mm/minから次第に1500mm/minへ向けて上昇するように、行われた。接合温度は、比較例と同様の方法で計測された。これにより、ピン部21が熱電対先端の近傍を通過する時の接合温度が測定された。各熱電対の計測結果がPE1~PE6の順に示されている。接合速度が上がるにつれて、PE1~PE6の結果が示すように、接合温度が低下したが、比較例の非適正接合温度IWTに至っても、PE4~PE6に示すように、良質な接合SWを実現できた。
【0134】
図6(b)は、実施例及び比較例の接合速度を示すグラフである。
比較例の摩擦撹拌接合においては、良質な接合SW(図中、黒丸)は、比較的、低接合速度及び低回転速度で得られた。接合速度の上限は、2000mm/minであった。回転速度の上限は、4500rpmであった。これは、比較例の摩擦撹拌接合の適正接合速度AWSに対応している。
図6(b)では、更に、不良な接合FW(図示せず)の結果に基づいて、適正接合速度AWSの上限ULが特定されている。適正接合速度AWSの上限ULを超えた領域は、非適正接合速度IWSである。その一方で、実施例の摩擦撹拌接合においては、良質な接合SW(図中、白丸)は、適正接合速度AWSの範囲内だけではなく、適正接合速度AWSの上限を超えて、非適正接合速度IWSにおいても得られている。
【0135】
比較例の実験条件は、以下の通りであった。被接合部材2として、アルミ合金板(縦500mm×横200mm×厚さ10mm、A6061(T6))が用いられた。摩擦撹拌接合は、遊びの無いツールで行われた。ツール先端は、ショルダ径-ピン根本側径-ピン先端側径がφ10-φ5-φ3の形状を有しており、先進角が3度に設定されていた。摩擦撹拌接合は、室温で、摩擦撹拌接合の専用機により、
図5(b)に示す回転速度及び接合速度の組合せ毎に、互いに平行に間隔を空けて、アルミ合金板の縦方向に沿って、接合深さ4mmで行われた。なお、摩擦撹拌接合は、図中の回転速度及び接合速度の組合せの全てについて実施されたのではなく、その一部について実施された。
図6(b)では、良質な接合SWが得られた組合せに黒丸印が付されている。また、不良な接合FWが得られた結果に基づいて、適正接合速度AWSの上限ULが特定されている。
【0136】
実施例の実験条件は、以下の通りであった。被接合部材2としては、比較例と同じものが用いられた。ツールとしては、周方向及び軸方向に遊びを有する摩擦撹拌用回転部材1が用いられた(
図1参照)。ピン部21は、比較例のツールと同様に、ショルダ径-ピン根本側径-ピン先端側径がφ10-φ5-φ3の形状を有していたが、先進角が0度に設定されていた。実施例と比較例とで先進角が異なるが、実施例が、比較例よりも厳しい条件で行われたため、適切な対比が可能である。摩擦撹拌接合は、室温で、マシニングセンタにより、
図5(b)に示す回転速度及び接合速度の組合せ毎に、互いに平行に間隔を空けて、アルミ合金板の縦方向に沿って、接合深さ4mmで行われた。なお、摩擦撹拌接合は、図中の回転速度及び接合速度の組合せの全てについて実施されたのではなく、その一部について実施された。
図6(b)では、良質な接合SWが得られた組合せに白丸印が付されている。実施例及び比較例の両方で良好な接合SWが得られた組合せには白丸及び黒丸の両方の印が付されている。
【符号の説明】
【0137】
摩擦撹拌用回転部材 :1
被接合部材 :2
接合装置 :3
駆動機構 :4
(駆動機構の)出力軸 :5
回転軸部 :10
溝 :15
側方貫通孔 :16
大径有底孔 :17
先端部 :20
ピン部 :21
基端側部 :22
ショルダ :23
表面接触部 :24
溝 :25
嵌合キー :30
固定キー :31
中間体 :40
液体 :41
弾性体 :42
【要約】
【課題】 摩擦撹拌接合に関して、接合欠陥の発生を抑えつつ高強度な接合を可能とする摩擦撹拌用回転部材を提供すること。
【解決手段】
接合部品の製造方法であって、製造方法は、生産ラインの前工程設備から供給される半製品を生産ライン内の接合装置に受け入れる受入工程と、受入工程により受け入れられた半製品と被接合部材との摩擦撹拌接合を接合装置により行うことにより接合部品を得る接合工程と、接合工程により得られた接合部品を生産ラインの後工程設備へ向けて排出する排出工程とを含み、接合装置は、出力軸と、出力軸を回転させるように構成された駆動機構と、駆動機構から伝達される回転により回転するように出力軸に設けられる摩擦撹拌用回転部材とを備え、摩擦撹拌用回転部材は、出力軸に設けられた状態において、出力軸と、摩擦撹拌時に被接合部材に挿入されるピン部との間に、出力軸に対するピン部の振動を可能とする遊びを生じさせるように構成された、製造方法。
【選択図】
図1