(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-24
(45)【発行日】2024-08-01
(54)【発明の名称】マスクブランク、モールド用マスクブランクの製造方法、及びインプリントモールドの製造方法
(51)【国際特許分類】
G03F 1/00 20120101AFI20240725BHJP
H01L 21/027 20060101ALI20240725BHJP
G03F 1/80 20120101ALI20240725BHJP
【FI】
G03F1/00 Z
H01L21/30 502D
G03F1/80
(21)【出願番号】P 2020030901
(22)【出願日】2020-02-26
【審査請求日】2022-10-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000113263
【氏名又は名称】HOYA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113343
【氏名又は名称】大塚 武史
(72)【発明者】
【氏名】谷口 和丈
(72)【発明者】
【氏名】野澤 順
(72)【発明者】
【氏名】宮垣 淳二
【審査官】植木 隆和
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-049498(JP,A)
【文献】特開2015-019077(JP,A)
【文献】国際公開第2016/129225(WO,A1)
【文献】特開2017-175056(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/027
G03F 7/20
G03F 1/00~1/86
B29C 59/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、パターン形成用の薄膜を備えるマスクブランクであって、
前記薄膜は単層構造であり、
前記薄膜は、クロムを含有しており、
前記薄膜中のクロム含有量が、60原子%以上であり、
ナノインデンテーション法を用いて前記薄膜の基板とは反対側の表面からの深さと押し込み硬さとの関係を取得して導き出される前記薄膜の押し込み硬さの最大値は、14GPa以上であることを特徴とするマスクブランク。
【請求項2】
基板上に、パターン形成用の薄膜を備えるマスクブランクであって、
前記薄膜は単層構造であり、
前記薄膜は、クロムを含有しており、
前記薄膜中のクロム含有量が、60原子%以上であり、
ナノインデンテーション法を用いて前記薄膜の基板とは反対側の表面からの深さとヤング率との関係を取得して導き出される前記薄膜のヤング率の最大値は、150GPa以上であることを特徴とするマスクブランク。
【請求項3】
前記薄膜は、窒素を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載のマスクブランク。
【請求項4】
前記基板は、ケイ素と酸素を含有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のマスクブランク。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載のマスクブランクを用いるモールド用マスクブランクの製造方法であって、
前記薄膜上に台座構造を少なくとも含む台座構造パターンを有するレジスト膜を形成し、
前記台座構造パターンを有するレジスト膜をマスクとするウェットエッチングによって、前記薄膜に前記台座構造パターンを形成し、
前記台座構造パターンを有する薄膜をマスクとするウェットエッチングによって、前記基板に前記台座構造パターンを形成し、
前記基板の少なくとも前記台座構造パターン上に、クロムを含有するハードマスク膜を形成することを特徴とするモールド用マスクブランクの製造方法。
【請求項6】
前記ハードマスク膜は、酸素を含有することを特徴とする請求項5に記載のモールド用マスクブランクの製造方法。
【請求項7】
請求項5又は6に記載のモールド用マスクブランクの製造方法により得られるモールド用マスクブランクを用いるインプリントモールドの製造方法であって、
前記基板の前記台座構造パターン上に、モールドパターンを有するレジスト膜を形成し、
前記モールドパターンを有するレジスト膜をマスクとするドライエッチングを行い、前記ハードマスク膜にモールドパターンを形成し、
前記モールドパターンを有するハードマスク膜をマスクとするドライエッチングを行い、前記基板の前記台座構造パターン上にモールドパターンを形成することを特徴とするインプリントモールドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体デバイスの微細回路パターン作製、微細パターンにより光学的機能を付加した光学部品作製等に適用するインプリントモールドの製造方法、およびこの製造に好適に用いられるマスクブランク、モールド用マスクブランクの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの微細回路パターン作製、微細パターンにより光学的機能を付加した光学部品作製等において、同じ微細パターンを大量に転写するためのインプリント法が用いられるようになってきている。
【0003】
インプリント法は、微細なモールドパターンが形成されたインプリントモールド(スタンパ)を原版として用い、転写対象物上に塗布された光硬化性樹脂等の液体樹脂に対してインプリントモールドを直接押し付けて紫外線等によって硬化させることにより、硬化した液体樹脂にモールドパターンを転写する方法である。このため、インプリント法によれば、同じ微細パターンを大量に転写することが可能である。
【0004】
このようにインプリントモールドは同じ微細パターンを大量に転写するための原版となるため、また、インプリントモールドは転写対象物上に塗布された液体樹脂に直接押し付けてパターンを転写するため、モールド上に形成されたモールドパターンの寸法精度は、作製される微細パターンの寸法精度に大きく影響する。半導体デバイス等の集積度が向上するにつれ、要求されるパターンの寸法は小さくなり、また、等倍でのパターン転写となるため、インプリントモールドの精度もより高いものが要求されるようになってきている。
【0005】
一般に、ガラス等の基板から製造されるインプリントモールドは、特許文献1に開示されているように、基板の主表面のモールドパターンが形成されている領域がその周りの主表面よりも高さが高くなっている構造、いわゆる台座構造(メサ構造)になっている場合が多い。このような台座構造を有するインプリントモールドを基板から製造するには、例えば、特許文献1に開示されているように、最初にウェットエッチングで台座構造を形成してから、台座構造の表面にドライエッチングでモールドパターンを形成する手順で行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1で開示されているように、台座構造の形成は以下の手順で行われる。
まず、クロムを含有する薄膜を主表面上に備えるガラス等の基板を準備し、その薄膜に台座構造を形成する領域を覆うパターンをウェットエッチング等で形成し、その薄膜のパターンをマスクとするウェットエッチングで基板をエッチングすることで基板の主表面上に台座構造を形成する。ウェットエッチングは、基本的に等方性のエッチングである。このため、台座構造を形成するエッチングでは、基板の深さ方向(台座構造の高さ方向)にエッチングが進行するだけでなく、基板の主表面の方向(台座構造の側壁方向)にもエッチングが進行する。基板に形成すべき台座構造の高さは例えば30μm程度と比較的高く、その深さまでウェットエッチングによるエッチングを継続する必要がある。このようなウェットエッチングを継続して行うと、台座構造の側壁方向(側壁から台座構造内部に向かって)にも30μm程度の量でエッチングが進行する。すなわち、基板に台座構造を形成するウェットエッチングを継続していくにつれて、そのエッチングマスクとなる薄膜パターンの端部が接している基板の領域がエッチングで消失していくことになる。このとき、薄膜パターンの端部は、基板の支持を失って浮いた状態になる。薄膜パターンの端部の周囲はエッチング液で満たされた状態であり、エッチング液は流動しているため、薄膜パターンの端部に外力が加わった状態になりやすい。
【0008】
台座構造を形成するときのウェットエッチング時はこのような状況下にあるため、薄膜パターンの端部が折れてしまう現象が発生しやすい。この薄膜パターンの端部が折れる位置によっては、台座構造の主表面の端部が露出し、さらに薄膜の端部が基板から浮いたりするため、この状態でウェットエッチングを継続すると、台座構造の主表面の端部が丸くなりエッジがシャープに形成されない欠陥、いわゆる「メサ欠け」が生じる。
【0009】
そして、このメサ欠けのある台座構造を有するインプリントモールドを用いてインプリントによるパターン転写を行うと次のような問題が生じる。すなわち、転写対象物上に塗布された液体樹脂量は厳密に制御されているため、メサ欠けのあるインプリントモールドを転写対象物上に塗布された液体樹脂に直接押し付けてパターンを転写すると、転写時にレジストの広がりが不均一となり、これが原因で不要なレジスト残りが生じ、作製される微細パターンの寸法精度に大きく影響する。要するに、台座構造を形成するときのウェットエッチング時に薄膜パターンの端部が折れる現象が発生することで、メサ欠けが生じ、これが原因で最終的に作製される微細パターンの寸法精度が大きく低下することが起こり問題となっていた。上記したように、半導体デバイス等の集積度が向上するにつれ、インプリントモールドの精度もより高いものが要求されるようになってきており、上述の問題は大きな問題となっていた。
【0010】
そこで、本発明の目的とするところは、第1に、基板上に備えるパターンを形成する薄膜が折れにくい物性を有するマスクブランクを提供することであり、第2に、このマスクブランクを用い、基板の主表面にウェットエッチングで台座構造を形成する工程を行うときに、台座構造のパターンを有する薄膜のパターン端部が折れる現象が発生することを抑制でき、メサ欠けの発生も抑制できるモールド用マスクブランクの製造方法を提供することであり、第3に、このモールド用マスクブランクの製造方法により得られるモールド用マスクブランクを用いて製造され、メサ欠けの発生を抑制した精度の高いインプリントモールドの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記の技術的課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、台座構造のパターンを形成する薄膜が折れにくい物性のものにすればよいという考えに至った。また、ウェットエッチング時に折れにくい薄膜を特定するには、ナノインデンテーション法による薄膜の測定結果から導き出せる薄膜の押し込み硬さ、あるいは薄膜のヤング率を採用すればよいことがわかった。しかし、押し込み硬さ、ヤング率ともに薄膜に押し込む圧子の押し込み深さが深くなるほど薄膜の直下の基板の影響を受けやすくなるパラメータである。この点を検討した結果、薄膜に対してナノインデンテーション法での測定を行い、「押し込み深さ」と「押し込み硬さ」(あるいは「押し込み深さ」と「ヤング率」)との関係を取得した結果として得られる「押し込み硬さの最大値」(あるいは「ヤング率の最大値」)を、本発明の技術的課題を解決できる薄膜を特定するパラメータに用いればよいという考えに至った。さらに研究を行った結果、その薄膜の押し込み硬さの最大値が14GPa以上、あるいは薄膜のヤング率の最大値が150GPa以上であれば、台座構造をウェットエッチングで形成するときの薄膜パターンが折れる現象を抑制できるという結論に至った。
【0012】
すなわち、上記課題を解決するため、本発明は以下の構成を有する。
(構成1)
基板上に、パターン形成用の薄膜を備えるマスクブランクであって、前記薄膜は、クロムを含有しており、ナノインデンテーション法を用いて前記薄膜の基板とは反対側の表面からの深さと押し込み硬さとの関係を取得して導き出される前記薄膜の押し込み硬さの最大値は、14GPa以上であることを特徴とするマスクブランクである。
【0013】
(構成2)
基板上に、パターン形成用の薄膜を備えるマスクブランクであって、前記薄膜は、クロムを含有しており、ナノインデンテーション法を用いて前記薄膜の基板とは反対側の表面からの深さとヤング率との関係を取得して導き出される前記薄膜のヤング率の最大値は、150GPa以上であることを特徴とするマスクブランクである。
【0014】
(構成3)
前記薄膜は、窒素を含有することを特徴とする構成1又は2に記載のマスクブランクである。
【0015】
(構成4)
前記基板は、ケイ素と酸素を含有することを特徴とする構成1乃至3のいずれかに記載のマスクブランクである。
【0016】
(構成5)
構成1乃至4のいずれかに記載のマスクブランクを用いるモールド用マスクブランクの製造方法であって、前記薄膜上に台座構造を少なくとも含む台座構造パターンを有するレジスト膜を形成し、前記台座構造パターンを有するレジスト膜をマスクとするウェットエッチングによって、前記薄膜に前記台座構造パターンを形成し、前記台座構造パターンを有する薄膜をマスクとするウェットエッチングによって、前記基板に前記台座構造パターンを形成し、前記基板の少なくとも前記台座構造パターン上に、クロムを含有するハードマスク膜を形成することを特徴とするモールド用マスクブランクの製造方法である。
【0017】
(構成6)
前記ハードマスク膜は、酸素を含有することを特徴とする構成5に記載のモールド用マスクブランクの製造方法である。
【0018】
(構成7)
構成5又は6に記載のモールド用マスクブランクの製造方法により得られるモールド用マスクブランクを用いるインプリントモールドの製造方法であって、前記基板の前記台座構造パターン上に、モールドパターンを有するレジスト膜を形成し、前記モールドパターンを有するレジスト膜をマスクとするドライエッチングを行い、前記ハードマスク膜にモールドパターンを形成し、前記モールドパターンを有するハードマスク膜をマスクとするドライエッチングを行い、前記基板の前記台座構造パターン上にモールドパターンを形成することを特徴とするインプリントモールドの製造方法である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、基板上に備えるパターンを形成する薄膜が折れにくい物性を有するマスクブランクを提供することができる。
また、本発明によれば、このマスクブランクを用い、基板の主表面にウェットエッチングで台座構造を形成する工程を行うときに、台座構造のパターンを有する薄膜のパターン端部が折れる現象が発生することを抑制でき、メサ欠けの発生も抑制できるモールド用マスクブランクの製造方法を提供することができる。
さらに、本発明によれば、このモールド用マスクブランクの製造方法により得られるモールド用マスクブランクを用いて製造され、メサ欠けの発生を抑制した精度の高いインプリントモールドの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明に係るマスクブランクの一実施の形態を示す概略断面図である。
【
図2】本発明に係るモールド用マスクブランクの製造工程の一実施の形態を説明するための概略断面図である。
【
図3】本発明に係るインプリントモールドの製造工程の一実施の形態を説明するための概略断面図である。
【
図4】インプリントモールドの使用状態を説明するための概略断面図である。
【
図5】ナノインデンテーション法を用いて取得された実施例1及び比較例1の各々の薄膜の基板とは反対側の表面からの深さと押し込み硬さとの関係を示す図である。
【
図6】ナノインデンテーション法を用いて取得された実施例1及び比較例1の各々の薄膜の基板とは反対側の表面からの深さとヤング率との関係を示す図である。
【
図7】ナノインデンテーション法を用いて取得された実施例2の薄膜の基板とは反対側の表面からの深さと押し込み硬さとの関係を示す図である。
【
図8】ナノインデンテーション法を用いて取得された実施例2の薄膜の基板とは反対側の表面からの深さとヤング率との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための形態について適宜図面を参照しながら詳述する。
【0022】
[マスクブランク]
まず、本発明に係るマスクブランクについて説明する。
本発明に係るマスクブランクは、上記構成1にあるように、基板上に、パターン形成用の薄膜を備えるマスクブランクであって、前記薄膜は、クロムを含有しており、ナノインデンテーション法を用いて前記薄膜の基板とは反対側の表面からの深さと押し込み硬さとの関係を取得して導き出される前記薄膜の押し込み硬さの最大値は、14GPa以上であることを特徴とするものである。
【0023】
また、本発明に係るマスクブランクは、上記構成2にあるように、基板上に、パターン形成用の薄膜を備えるマスクブランクであって、前記薄膜は、クロムを含有しており、ナノインデンテーション法を用いて前記薄膜の基板とは反対側の表面からの深さとヤング率との関係を取得して導き出される前記薄膜のヤング率の最大値は、150GPa以上であることを特徴とするものである。
【0024】
図1は、本発明に係るマスクブランクの一実施の形態を示す概略断面図である。
図1に示す本実施の形態のマスクブランク10は、後述のモールド用マスクブランクの製造に好ましく用いられるものであり、図示されるように2つの主表面を有する基板1の一方(上方)の主表面にパターン形成用の薄膜2を備えている。
【0025】
上記基板1の材料としては、インプリントモールドとして使用するのに要求される適度な強度や剛性を有する材料であれば特に制約はなく任意に用いることができる。例えば、石英ガラスやSiO2-TiO2系低膨張ガラス、ソーダライムガラス、アルミノシリケートガラス、CaF2ガラス等のガラス素材、シリコンなどが挙げられる。これらのうちケイ素と酸素を含有するガラス素材は特に好適である。ガラス素材は、非常に精度の高い加工が可能で、しかも平坦度及び平滑度に優れるため、本発明により得られるインプリントモールドを使用してパターン転写を行う場合、転写パターンの歪み等が生じないで高精度のパターン転写を行える。上記マスクブランク10から製造されるモールド用マスクブランクを用いて製造されるインプリントモールドが紫外線硬化樹脂等の光硬化性樹脂に対して使用される場合においては、高い光透過性を有するガラス素材で上記基板1を形成することが好ましい。
【0026】
また、
図1に示される本実施の形態においては、上記基板1は、平面視で全体が矩形状を成している。もちろん、上記基板1の外形はこのような矩形状に限定される必要はなく、インプリントモールドの用途、大きさなどに応じて適宜決定される。
また、上記基板1の大きさ(サイズ)や板厚についても特に制約される必要は無く、インプリントモールドの用途、大きさなどに応じて適宜決定される。
【0027】
上記パターン形成用の薄膜2は、モールド用マスクブランクの製造において、上記基板1の一方の主表面に台座構造パターンを形成するためのウェットエッチングを行う際のエッチングマスクとなるものである。したがって、この場合のエッチング液に対して上記基板1との間でエッチング選択性を有する材料で形成される。
【0028】
本発明においては、上記パターン形成用の薄膜2は、クロムを含有する材料で形成されることが好適である。上記基板1は好ましくはガラスからなり、この場合の基板1のウェットエッチングにはフッ酸を含有するエッチング液が好ましく用いられる。
【0029】
上記クロムを含有する材料は、フッ酸を含有するエッチング液に対して上記ガラスからなる基板1との間で良好なエッチング選択性を有するため、上記パターン形成用の薄膜2の材質として好適である。また、クロムを含有する材料で上記パターン形成用の薄膜2を形成すると、ガラスからなる基板1に台座構造を形成後に残存する上記薄膜2を除去するときにウェットエッチング、ドライエッチングのどちらを適用しても、ガラスからなる基板1との間で良好なエッチング選択性が得られるため、好ましい。
【0030】
上記クロム(Cr)を含有する材料としては、例えばCr単体、またはCrの窒化物、炭化物、炭化窒化物などのCr化合物があり、上記パターン形成用の薄膜2を単層構造とする場合はCrの窒化物(CrN)が特に好ましい。また、パターン形成用の薄膜2を多層構造とする場合においては、基板1に接する側の層はCrNで形成することが好ましい。CrNからなる膜は、基板1との密着性が高い傾向があるためである。このパターン形成用薄膜2に適用するCrNからなる材料は、クロム含有量が50原子%以上であることが好ましい。
【0031】
上記基板1の一方の主表面上に上記パターン形成用の薄膜2を形成する方法は特に制約される必要はないが、たとえばスパッタリング成膜法が好ましく挙げられる。
【0032】
上記パターン形成用の薄膜2の膜厚は、後の台座構造を形成するためのウェットエッチング条件(エッチング深さ乃至はエッチング時間等)にもよるが、通常50nm以上200nm以下の範囲であることが好適である。かかるパターン形成用の薄膜2の膜厚が50nm未満であると、上記薄膜2のパターンをマスクとして基板1をウェットエッチング加工するときに、加工が終わる前に薄膜2のパターンがエッチングされて消失してしまう恐れがある。一方、パターン形成用の薄膜2の膜厚が200nmよりも厚くなると、この薄膜2をエッチングして薄膜2のパターンを形成するときにエッチングマスクとして用いられるレジストパターンの膜厚を大幅に厚くする必要があるため、好ましくない。
【0033】
また、上記基板1の一方の主表面上に上記パターン形成用の薄膜2を成膜した後、アニール処理を行うことが好ましい。成膜後、アニール処理を行うことにより、上記パターン形成用の薄膜2の硬さを向上させることができる。アニール処理としては、例えば、120℃以上300℃以下の温度で、2分以上の加熱処理を行うことが好適である。
【0034】
一方、上記パターン形成用の薄膜2は、膜応力が0.35GPa以下であることが好ましく、0.3GPa以下であることがより好ましく、0.25GPa以下であることがさらに好ましい。上述のとおり、基板に台座構造を形成するウェットエッチング時に、薄膜2のパターンの端部が接している基板1の領域がエッチングで消失していく。このとき、薄膜2の膜応力が大きいと、それに起因して割れる現象が発生しやすい。薄膜2のパターンに割れが発生するとメサ欠けの要因になってしまう。
【0035】
上記したように本実施の形態のマスクブランク10において、上記パターン形成用の薄膜2は、ナノインデンテーション法を用いて薄膜2の基板1とは反対側の表面からの深さと押し込み硬さとの関係を取得して導き出される薄膜2の押し込み硬さの最大値は、14GPa以上であることを特徴としている。
【0036】
ここでいうナノインデンテーション法を用いて導き出される押し込み硬さ(インデンテーション硬さ)とは、測定圧子の負荷から除荷までの変位-荷重曲線から求められる値であって、ISO 14577に規定されている。
【0037】
ナノインデンテーション法を用いて、ガラス基板1上に上記パターン形成用の薄膜2を形成した測定用サンプルの薄膜2の膜厚方向(深さ方向)での押し込み硬さを以下のようにして測定する。
【0038】
本発明では、KLA社製iMicro型ナノインデンターを用いて、測定箇所における負荷開始から除荷までの全過程にわたって押し込み荷重P[mN]に対応する押し込み深さh[nm]を連続的に測定し、P-h曲線を作成する。測定条件の詳細は後述する(実施例)。作成されたP-h曲線から押し込み硬さHを、下記式により求めることができる。
H[GPa]= P/A
(ここで、P:押し込み荷重[mN]、A:圧子投影面積[μm2])
【0039】
以上のようにして測定される押し込み硬さは、膜厚方向(深さ方向)の測定箇所(測定点)での単位面積[μm2]当たりの硬さ(硬度)である。
【0040】
図5は、以上説明したナノインデンテーション法を用いて取得された後述の実施例1及び比較例1の各々の薄膜の基板とは反対側の表面からの深さと押し込み硬さとの関係を示す図である。同様に、
図7は、実施例2の薄膜の基板とは反対側の表面からの深さと押し込み硬さとの関係を示す図である。つまり、ナノインデンテーション法を用いて取得された後述の実施例1、実施例2及び比較例1の各々の薄膜に対する押し込み硬さの深さ方向のプロファイルを示している。
【0041】
本発明では、このようにして取得された薄膜2に対する押し込み硬さの深さ方向のプロファイルから導き出される薄膜2の押し込み硬さの最大値が、14GPa以上であることにより、台座構造のパターンを形成する上記薄膜2が折れにくい物性のものであることを特定することができる。したがって、上記の本発明のマスクブランクの構成とすることにより、このマスクブランクを用い、基板の主表面にウェットエッチングで台座構造を形成する工程を行うときに、台座構造のパターンを有する薄膜のパターン端部が折れる現象が発生することを抑制でき、メサ欠けの発生も抑制できる。
【0042】
また、上記したように本実施の形態のマスクブランク10において、上記パターン形成用の薄膜2は、ナノインデンテーション法を用いて薄膜2の基板1とは反対側の表面からの深さとヤング率との関係を取得して導き出される薄膜2のヤング率の最大値は、150GPa以上であることを特徴としている。つまり、薄膜2のヤング率の最大値が、150GPa以上であることにより、台座構造のパターンを形成する上記薄膜2が折れにくい物性のものであることを特定することもできる。
【0043】
ここでいうナノインデンテーション法を用いて導き出されるヤング率についても、測定圧子の負荷から除荷までの変位-荷重曲線から求められる値である。ナノインデンテーション法を用いて、ガラス基板1上に上記パターン形成用の薄膜2を形成した測定用サンプルの薄膜2の膜厚方向(深さ方向)でのヤング率は、上述の押し込み硬さの場合と同様にして測定できる。
【0044】
すなわち、上記のKLA社製iMicro型ナノインデンターを用いて、測定箇所における負荷開始から除荷までの全過程にわたって押し込み荷重P(mN)に対応する押し込み深さh(nm)を連続的に測定し、P-h曲線を作成する。作成されたP-h曲線からヤング率を、下記の2式により求めることができる。
【0045】
【0046】
【0047】
ここで、
S:P-h曲線における除荷曲線部分でのdP/dh
A:圧子投影面積[μm2]
Er:複合ヤング率
Es:測定対象物のヤング率
Ei:圧子のヤング率
νs:測定対象物のポアソン比
νi:圧子のポアソン比
【0048】
図6は、以上説明したナノインデンテーション法を用いて取得された後述の実施例1及び比較例1の各々の薄膜の基板とは反対側の表面からの深さとヤング率との関係を示す図である。同様に、
図8は、実施例2の薄膜の基板とは反対側の表面からの深さとヤング率との関係を示す図である。つまり、ナノインデンテーション法を用いて取得された後述の実施例1、実施例2及び比較例1の各々の薄膜に対するヤング率の深さ方向のプロファイルを示している。
【0049】
本発明では、このようにして取得された薄膜2に対するヤング率の深さ方向のプロファイルから導き出される薄膜2のヤング率の最大値が、150GPa以上であることにより、台座構造のパターンを形成する上記薄膜2が折れにくい物性のものであることを特定することができる。したがって、上記の本発明のマスクブランクの構成とすることにより、このマスクブランクを用い、基板の主表面にウェットエッチングで台座構造を形成する工程を行うときに、台座構造のパターンを有する薄膜のパターン端部が折れる現象が発生することを抑制でき、メサ欠けの発生も抑制できる。
【0050】
以上説明したように、上記構成のマスクブランクによれば、基板上に備えるパターンを形成する薄膜が折れにくい物性を有するマスクブランクを提供できるため、このマスクブランクを用い、基板の主表面にウェットエッチングで台座構造を形成する工程を行うときに、台座構造のパターンを有する薄膜のパターン端部が折れる現象が発生することを抑制でき、メサ欠けの発生も抑制できる。
【0051】
[モールド用マスクブランクの製造方法]
次に、上述の本発明に係るモールド用マスクブランクの製造方法について説明する。
本発明に係るモールド用マスクブランクの製造方法は、上記構成5にあるとおり、上述の本発明のマスクブランクを用いるモールド用マスクブランクの製造方法であって、前記薄膜上に台座構造を少なくとも含む台座構造パターンを有するレジスト膜を形成し、前記台座構造パターンを有するレジスト膜をマスクとするウェットエッチングによって、前記薄膜に前記台座構造パターンを形成し、前記台座構造パターンを有する薄膜をマスクとするウェットエッチングによって、前記基板に前記台座構造パターンを形成し、前記基板の少なくとも前記台座構造パターン上に、クロムを含有するハードマスク膜を形成することを特徴とするものである。
【0052】
図2は、本発明に係るモールド用マスクブランクの製造工程の一実施の形態を説明するための概略断面図である。
なお、
図2の実施形態では、上述の
図1の実施形態のマスクブランク10における基板1の一方の主表面に台座構造5を有し、他方の主表面に凹部6を備える構造のモールド用マスクブランクの製造工程を示している。
以下、各工程について説明する。
【0053】
まず、
図2(a)に示される前述のマスクブランク10を準備する。
上記基板1上にパターン形成用の薄膜2を備えるマスクブランク10の構成の詳細は前述したとおりである。
【0054】
次に、上記薄膜2上に台座構造を少なくとも含む台座構造パターンを有するレジストパターン3を形成する(
図2(b)参照)。
上記レジストパターン3を形成する方法としては、フォトリソグラフィ法が好適である。上記レジストパターン3は、ポジ型およびネガ型のいずれのレジスト材料で形成してもよい。また、上記レジストパターン3は、電子線描画露光用およびレーザー描画露光用のいずれのレジスト材料で形成してもよい。上記台座構造パターンを有するレジストパターン3は、インプリントモールドに形成されるモールドパターンに比べて疎なパターンであるため、電子線描画露光用レジストに比べて解像性は劣るが描画速度に優れるレーザー描画露光用レジストでレジストパターン3を形成する方が好ましい。また、上記レジストパターン3は、光硬化型樹脂や熱硬化型樹脂で形成してもよい。
【0055】
次に、上記台座構造パターンを有するレジストパターン3をマスクとするウェットエッチングによって、上記薄膜2に上記台座構造パターンを形成する(
図2(c)参照)。
当該レジストパターン3をマスクとして、台座構造形成領域以外の薄膜2を除去し薄膜パターン2aを形成するためのエッチングは、薄膜2の材質や、薄膜2を除去する領域の大きさによっても異なるが、基本的にはドライエッチング、ウェットエッチングのいずれを適用しても構わない。
【0056】
なお、上記エッチング後に残存する上記レジストパターン3は、そのまま残しておいてもよいし、あるいはこの段階で除去してもよい。レジストパターン3を残しておいた方が、薄膜2にピンホールや局所的に低密度の領域が存在していた場合でも、基板1をウェットエッチングするときに使用するエッチング液がそのピンホールを通過して基板1に接触し、基板1の表面をエッチングしてしまうことを抑制できるため、好ましい。
【0057】
次に、上記台座構造パターンを有する薄膜パターン2aをマスクとするウェットエッチングによって、上記基板1に上記台座構造パターンを形成する(
図2(d)参照)。
具体的には、たとえば、上記台座構造パターンを有する薄膜パターン2aが形成された基板1を適当な支持具で支持した状態で、エッチング液中に基板1を浸漬させて基板1のウェットエッチングを行うことができる。この場合のエッチング液としては、上記基板1がガラスからなる場合、フッ酸(HF)を含有するエッチング液が好ましい。エッチング液の液温は適宜設定される。また、エッチング処理中は、必要に応じて適宜エッチング液を攪拌するようにしてもよい。また、エッチング時間は、形成しようとする台座構造の段差などの条件を考慮して適宜決定される。
【0058】
上述したように、台座構造パターンを形成する薄膜2が折れにくい物性を有するマスクブランクを用いることにより、基板1の主表面にウェットエッチングで台座構造パターンを形成する工程を行うときに、台座構造のパターンを有する薄膜2のパターン端部が折れる現象が発生することを抑制でき、メサ欠けの発生も抑制できる。そのため、台座構造の主表面の端部のエッジがシャープに形成される。
【0059】
このように、上記台座構造パターンを有する薄膜パターン2aをマスクとして、基板1のウェットエッチングを行うことにより、台座構造形成領域以外の領域では上記基板1の主表面が所定深さまでエッチングされて、
図2(d)、(e)に示されるように、基板1の一方の主表面には台座構造パターン5が形成される。
【0060】
以上説明した台座構造パターン5を形成するエッチング工程の後、残存するレジストパターン3と薄膜パターン2aを除去する(
図2(e)参照)。レジストパターン3と薄膜パターン2aを除去する方法は、特に制約されないが、基板1の材質にダメージを与えない方法が望ましい。例えば、基板1がガラスで、薄膜パターン2aが上記のクロム系材料である場合は、硝酸第2セリウムアンモニウム水溶液と過塩素酸の混合液をエッチング液に用いるウェットエッチング、あるいは塩素系ガスと酸素ガスの混合ガスをエッチングガスに用いるドライエッチングが好適である。
【0061】
次に、この台座構造パターン5が形成された基板1の他方の主表面(裏側主表面)に凹部6を形成する(
図2(f)参照)。
この凹部6を形成する方法としては、機械加工などが挙げられるが、形成する凹部のサイズ、形状、深さや、基板1の材質などに応じて適宜選択すればよい。
【0062】
本発明に係るモールド用マスクブランクにおいては、
図2(f)に示すように、上記台座構造パターン5を有する主表面(表側主表面)とは反対側の主表面(裏側主表面)に凹部6を備えることが望ましい。この凹部6を備える基板1の裏側主表面は、モールドパターンの転写を行う転写装置のモールド保持部にチャックされる面であり、また、この凹部6を備えることで、転写対象物の硬化した樹脂からモールドを剥離する際においても、剥離(離型)しやすくなる。
【0063】
本実施形態では、上記凹部6を有する領域は例えば平面視で円形状を成しているが、このような円形状に限定される必要はなく、矩形状や多角形状であってもよく、インプリントモールドの用途、大きさなどに応じて適宜決定される。
【0064】
また、上記凹部6を有する裏側主表面の領域(凹部6が形成されている領域)は、上記台座構造を有する表側主表面の領域(台座構造パターン5が形成されている領域)を少なくとも含む大きさであることが好ましい。台座構造パターン5を有する領域よりも凹部6を有する領域が小さいと、インプリントモールドにおいて外側のモールドパターンにほとんど変形しない部分が発生し、外側に変形するモールドパターンと挟まれる硬化した樹脂が潰されてしまう恐れがあるからである。
【0065】
以上のようにして、基板1の一方の主表面には所定の台座構造パターン5が形成され、他方の主表面には凹部6が形成された基板1が出来上がる(
図2(f)参照)。
なお、この台座構造パターン5を有する領域は、インプリントモールドの製造時にモールドパターンが形成される領域である。この台座構造パターン5を有する領域の形状(つまり形成されている台座構造の平面視形状)は、例えば全体が矩形状である。もちろん、台座構造パターン5を有する領域の形状は、このような矩形状に限定される必要はなく、インプリントモールドの用途、大きさなどに応じて適宜決定される。
【0066】
次に、上記基板1の少なくとも上記台座構造パターン5上に、クロムを含有するハードマスク膜7を形成する(
図2(g)参照)。
【0067】
上記ハードマスク膜7は、基板1における台座構造パターン5を有する領域にモールドパターンを形成するための基板エッチング(掘り込み)加工する際のエッチングマスク膜としての機能を有する。したがって、上記ハードマスク膜7としては、後の工程のモールドパターンを形成するためのエッチング環境に対して上記基板1との間でエッチング選択性を有する材質が選択される。本発明においては、上記ハードマスク膜7は、クロムを含有する材料で形成されることが好適である。上記基板1は好ましくはガラスからなり、この場合の基板1のドライエッチングには例えばフッ素系ガスが用いられる。上記クロムを含有する材料は、フッ素系ガスに対して上記ガラスからなる基板1との間でエッチング選択性を有する。
【0068】
上記クロム(Cr)を含有する材料としては、例えばクロム金属、クロム窒化物、クロム炭化物、クロム炭化窒化物およびクロム酸化炭化窒化物などが挙げられる。上記ハードマスク膜7としては、酸素を含有するクロム化合物(例えばクロム酸化炭化物など)が特に好ましい。
【0069】
このようなハードマスク膜7は、単層でも複数層でもよい。例えば、上記ハードマスク膜7が上記クロム系材料の単層膜よりなるマスクブランクが挙げられる。また、例えば上記ハードマスク膜7が少なくとも上層と下層の積層膜よりなり、上層は上記クロム系材料で形成され、下層がタンタル(Ta)を主成分とする材料で形成されたマスクブランクなども挙げられる。この場合のタンタルを主成分とする材料としては、例えばTaHf、TaZr、TaHfZrなどのTa化合物、あるいはこれらのTa化合物をベース材料として、例えばB、Ge、Nb、Si、C、N等の副材料を加えた材料などがある。また、タンタルを主成分とする材料は、レジストパターン形成の際の電子線描画時のチャージアップ防止や、走査型電子顕微鏡(SEM)による基板パターン(モールドパターン)検査が可能となるように、必要な導電性を確保する機能を持たせることができるので好適である。
勿論、このようなハードマスク膜7の構成および材料の例示はあくまでも一例であり、本発明はこれらに制約される必要はない。
【0070】
上記ハードマスク膜7の膜厚は特に制約されないが、例えば2nm以上10nm以下の範囲であることが好適である。かかるハードマスク膜7の膜厚が2nm未満であると、モールドパターン形成時にハードマスク膜7のパターンをマスクとして基板1をエッチング加工するときに、加工が終わる前にハードマスク膜7のパターンがエッチングされて消失してしまう恐れがある。一方、上記ハードマスク膜7の膜厚が10nmよりも厚くなると、微細パターン形成の観点から好ましくない。また、基板1の材質にダメージを与えずにハードマスク膜7を最後に除去することが困難になる場合がある。
【0071】
上記基板1の少なくとも上記台座構造パターン5上に、クロムを含有するハードマスク膜7を形成する方法は特に制約される必要はないが、なかでもスパッタリング成膜法が好ましく挙げられる。スパッタリング成膜法によると、均一で膜厚の一定な膜を形成することが出来るので好適である。
本実施の形態では、上記基板1の上記台座構造パターン5を含む全面にハードマスク膜7を形成しているが、上記基板1の少なくとも上記台座構造パターン5上にハードマスク膜7を形成してもよい。
【0072】
以上のようにして、
図2(g)に示されるような本発明に係るモールド用マスクブランク20が出来上がる。
また、上記のモールド用マスクブランク20は、上記ハードマスク膜7の上に、レジスト膜を形成した形態であっても構わない。
【0073】
上記モールド用マスクブランク20は、その台座構造パターン5の転写面にモールドパターン(転写パターン)である凹凸パターンが形成されることにより、インプリントモールドとして使用される。
【0074】
以上説明したように、本発明によるモールド用マスクブランクの製造方法によれば、基板の主表面にウェットエッチングで台座構造を形成する工程を行うときに、台座構造のパターンを有する薄膜のパターン端部が折れる現象が発生することを抑制でき、メサ欠けの発生も抑制できる。
【0075】
[インプリントモールドの製造方法]
次に、本発明に係るインプリントモールドの製造方法について説明する。
本発明に係るインプリントモールドの製造方法は、上記構成7にあるとおり、上述のモールド用マスクブランクの製造方法により得られるモールド用マスクブランクを用いるインプリントモールドの製造方法であって、前記基板の前記台座構造パターン上に、モールドパターンを有するレジスト膜を形成し、前記モールドパターンを有するレジスト膜をマスクとするドライエッチングを行い、前記ハードマスク膜にモールドパターンを形成し、前記モールドパターンを有するハードマスク膜をマスクとするドライエッチングを行い、前記基板の前記台座構造パターン上にモールドパターンを形成することを特徴とするものである。
【0076】
図3は、本発明に係るインプリントモールドの製造工程の一実施の形態を説明するための概略断面図である。
以下、
図3を参照してインプリントモールドの製造工程を説明する。
【0077】
上述の本発明のモールド用マスクブランク20の上面に、レジスト膜(例えば液体状の光硬化型樹脂(または熱硬化型樹脂))21を塗布する(
図3(a)参照)。次に、上記のレジスト膜21に対し、微細パターンを備えるマスターモールドを直接押し付けた状態で光照射処理(または加熱処理)を行って樹脂を硬化させてからマスターモールドを剥離する。さらに、酸素プラズマ等を用いるアッシングによって樹脂の残膜部分を除去するデスカム処理を行うことで、マスクブランク20のハードマスク膜7上にモールドパターンを有するレジストパターン21aが形成される(
図3(b)参照)。
【0078】
次に、上記レジストパターン21aを形成したマスクブランク20を、ドライエッチング装置に導入し、エッチングガス(例えば塩素系ガス)を用いたドライエッチングを行うことにより、上記レジストパターン21aをマスクとしてハードマスク膜7をエッチング加工して、ハードマスク膜パターン7aを形成する(
図3(c)、(d)参照)。
ここで、ドライエッチング装置からマスクブランク20を一旦取り出して、残存する上記レジストパターン21aを除去してもよい(
図3(d)参照)。
なお、上記ハードマスク膜7の膜構成、材質によっては、上記エッチング加工を1段階ではなく、2段階以上で行うこともある。
【0079】
次いで、同じドライエッチング装置内で、基板1が例えばガラスの場合、フッ素系ガス(CHF
3、CF
4等)を用いたドライエッチングを行うことにより、上記ハードマスク膜パターン7aをマスクとして基板1をエッチング加工して、基板1の台座構造パターン5の転写面にモールドパターン(凹凸パターン)31を形成する(
図3(e)参照)。
【0080】
さらに残存する上記ハードマスク膜パターン7aを除去することにより、
図3(f)に示すような構造のモールドパターン31が形成されたインプリントモールド30が得られる。インプリントモールド30は、その表側主表面に有する台座構造パターン5の転写面にモールドパターン31が形成され、その裏側主表面には凹部6が形成された構造を有している。
【0081】
図4は、本発明により得られるインプリントモールドの使用状態を説明するための概略断面図である。
本発明により得られるインプリントモールド30は、被転写体(転写対象物)40における被転写体構成層(例えばシリコンウェハ)41上に塗布されたレジスト膜(例えば光硬化型樹脂や熱硬化型樹脂)42に直接押し付けてモールドパターン31を転写する。本発明により得られるインプリントモールドを用いることにより、転写対象物にモールドパターンを精度良く転写することができる。
【0082】
以上説明したように、本発明によるインプリントモールドの製造方法によれば、上述のモールド用マスクブランクを用いて製造され、メサ欠けの発生を抑制した精度の高いインプリントモールドが得られる。
【0083】
なお、上述した本発明に係るマスクブランクは、インプリントモールドを製造するための用途に限られない。本発明に係るマスクブランクは、例えば、透光性基板の表面をウェットエッチングでエッチングすることによって掘り込みパターンを形成する基板掘り込み型の位相シフトマスクを製造するためのマスクブランクとしても適用できる(例えば、特許第4139605号を参照。)。このような位相シフトマスクは、基板掘り込み部にアンダーカット部を有しており、そのアンダーカット部における遮光膜のパターンの下側は基板が存在しない状態にある。この遮光膜はクロム系材料が用いられることが多く、遮光膜のパターンの端部が折れる場合がある。本発明に係るマスクブランクを用いることで、この遮光膜のパターンの端部が折れる現象を抑制することができる。
【実施例】
【0084】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。
(実施例1)
本実施例1に使用するマスクブランクを以下のようにして作製した。
ガラス基板として合成石英基板(大きさ約152mm×152mm、厚み6.35mm)を準備した。このガラス基板の一方の主表面(後の工程で台座構造を形成する面)は、予め研磨によって、二乗平均平方根粗さRqが0.2nm以下となるように仕上げておいた。
【0085】
上記ガラス基板をクロム(Cr)ターゲットを備えるDCスパッタリング装置に導入し、アルゴン(Ar)および窒素(N2)の混合ガス(流量比 Ar:N2=3:2、圧力=0.1Pa)をスパッタリングガスとする反応性スパッタリングにより、基板の上記主表面上にパターン形成用の薄膜としてCrN膜(組成 Cr:N=60原子%:40原子%)を100nmの厚みで成膜した。なお、組成はX線光電子分光法(X-ray Photoelectron Spectroscopy:XPS)による分析で行った。
【0086】
以上のようにして作製したマスクブランクを加熱炉内に設置し、150℃で10分間のアニール処理を行った。アニール処理後、この実施例1のパターン形成用の薄膜の膜応力を測定したところ、0.22GPaであり、十分に低い膜応力であった。なお、薄膜の膜応力は、薄膜を形成する前のガラス基板の主表面の表面形状と薄膜を形成後の薄膜の表面形状との間で算出される差分形状を基に導き出したものである(以下の実施例および比較例も同様。)。
【0087】
次に、ナノインデンテーション法を用いて、ガラス基板上に上記CrN膜を形成した本実施例1のマスクブランクに対して、CrN膜の膜厚方向(深さ方向)での押し込み硬さを以下のようにして測定した。
【0088】
使用装置および測定条件等は以下のとおりである。
[使用装置]
・KLA社製iMicro型ナノインデンター(最大荷重:50mN)
・バーコビッチ圧子
[測定モード]
・連続剛性測定法(CSM/CSR)
[測定条件]
・押し込み深さ:200nm
・ひずみ速度:0.2
・最大荷重保持時間:2秒
・サンプルのポアソン比:0.3を使用
・測定点数:基板1枚当たり12点
【0089】
以上のようにして、測定箇所における負荷開始から除荷までの全過程にわたって押し込み荷重P[mN]に対応する押し込み深さh[nm]を連続的に測定し、P-h曲線を作成し、作成されたP-h曲線から押し込み硬さを前記の関係式により求めた。また、作成されたP-h曲線からヤング率についても求めた。
【0090】
以上の結果を
図5および
図6に示した。
図5は、以上説明したナノインデンテーション法を用いて取得された実施例1及び後述の比較例1の各々の薄膜の基板とは反対側の表面からの深さと押し込み硬さとの関係を示す図である。つまり、ナノインデンテーション法を用いて取得された実施例1及び後述の比較例1の各々の薄膜に対する押し込み硬さの深さ方向のプロファイルを示している。また、
図6は、以上説明したナノインデンテーション法を用いて取得された実施例1及び後述の比較例1の各々の薄膜の基板とは反対側の表面からの深さとヤング率との関係を示す図である。つまり、ナノインデンテーション法を用いて取得された実施例1及び後述の比較例1の各々の薄膜に対するヤング率の深さ方向のプロファイルを示している。なお、各測定値は12点の平均値とした。
【0091】
図5の結果から、このようにして取得された本実施例1のマスクブランクにおける上記CrN膜に対する押し込み硬さの深さ方向のプロファイルから導き出される押し込み硬さの最大値は、16.3GPaであった。
また、
図6の結果から、このようにして取得された本実施例1のマスクブランクにおける上記CrN膜に対するヤング率の深さ方向のプロファイルから導き出されるヤング率の最大値は、166GPaであった。
【0092】
次に、上記と同様にして新たに作製した本実施例1のマスクブランクを用いて、モールド用マスクブランクを作製した。作製は前述の
図2に示す工程にしたがった。
まず、上記CrN膜の上面にフォトレジスト(東京応化社製 THMR-iP3500)を460nmの厚さに塗布し、大きさが28mm×36mmの矩形(台座構造の形成領域)の外側エリアに対して紫外光による露光と現像を行い、台座構造用のレジストパターンを形成した。
【0093】
次に、上記台座構造用のレジストパターンを形成したガラス基板について、ウェットエッチングにより、台座構造用のレジストパターンで保護されている部分以外のCrN膜を除去して、台座構造用のCrN膜パターンを形成した。エッチング液としては、硝酸第2セリウムアンモニウム水溶液と過塩素酸の混合液を用いた。
【0094】
次に、上記CrN膜パターンを形成したガラス基板を所定のエッチング液中に浸漬させた。エッチング液としては、フッ化水素酸とフッ化アンモニウムの混合液(HF濃度6wt%、NH
4F濃度20wt%)を用い、ガラス基板にウェットエッチングを行った。さらに、残存する上記レジストパターンを硫酸過水により除去し、残存する上記CrN膜パターンを硝酸第2セリウムアンモニウム水溶液と過塩素酸の混合液により除去することで、前述の
図2(e)に示すようなガラス基板の一方の主表面に深さが30μm程度の台座構造パターンを作製した。
【0095】
上記のようにして作製した台座構造の主表面の端部を顕微鏡観察によって詳細に検査した。その結果、台座構造の主表面の端部のエッジがシャープに形成されており、メサ欠けの発生箇所はなかった。これは、本実施例1のマスクブランクを用いたことにより、基板の主表面にウェットエッチングで台座構造を形成する工程を行うときに、台座構造のパターンを有するCrN膜のパターン端部が折れる現象が発生することを抑制できたことによるものと考えられる。
【0096】
次に、ガラス基板の上記台座構造パターンを作製した主表面とは反対側の主表面に、機械加工で所定の大きさの凹部を作製した。凹部の大きさは上記台座構造領域を含む大きさとなるように、直径が64mmの真円形状で、深さは5.2mmとした。
【0097】
次に、上記台座構造パターンおよび凹部を作製した基板をDCスパッタリング装置に導入し、クロム(Cr)ターゲットを用い、アルゴン(Ar)および二酸化炭素(CO
2)の混合ガスをスパッタリングガスとする反応性スパッタリングにより、上記基板の台座構造パターンを形成した主表面上の全面にCrOC膜からなるハードマスク膜を5nmの厚みで成膜し、前述の
図2(g)に示すようなモールド用マスクブランクを作製した。
以上のようにして、本実施例1のモールド用マスクブランクを作製した。
【0098】
次に、このモールド用マスクブランクを用いて、前述の
図3に示す工程にしたがってインプリントモールドを作製した。
まず、上記のようにCrOC膜からなるハードマスク膜を成膜したマスクブランクの上面に、液体状の光硬化型樹脂を塗布した。次に、上記の液体状の光硬化性樹脂に対し、微細パターンを備えるマスターモールドを直接押し付けた状態で光照射処理を行って樹脂を硬化させてからマスターモールドを剥離した。さらに、酸素プラズマ等を用いるアッシングによって樹脂の残膜部分を除去するデスカム処理を行うことにより、上記ハードマスク膜上にモールドパターンを有するレジストパターンを形成した。
【0099】
次に、上記レジストパターンを形成したマスクブランクを、ドライエッチング装置に導入し、塩素ガスと酸素ガスの混合ガスを用いたドライエッチングを行うことにより、上記レジストパターンをマスクとして上記ハードマスク膜をエッチング加工して、モールドパターンを有するハードマスク膜パターンを形成した。この時のエッチング終点は、プラズマ発光検出方式の終点検出器を用いることで判別した。
ここで、上記マスクブランクを一旦ドライエッチング装置から取り出して、残存するレジストパターンを酸素プラズマアッシングによって除去した。
【0100】
続いて、同じドライエッチング装置内で、フッ素系(CHF3)ガスを用いたドライエッチングを行うことにより、上記モールドパターンを有するハードマスク膜パターンをマスクとしてガラス基板をエッチング加工することにより、所定のモールドパターン(凹凸パターン)を形成した。この時、モールドパターンの深さが100nmになるようエッチング時間を調整した。
ここで、走査型電子顕微鏡(SEM)によるパターン検査を行ったところ、モールドパターンの幅、深さの寸法、精度において良好なパターンが形成されていることを確認した。
【0101】
さらに、残存する上記ハードマスク膜パターンを硝酸第2セリウムアンモニウム水溶液と過塩素酸の混合液によって除去することで、前述の
図3(f)に示すような構造のインプリントモールドを得た。
【0102】
次に、得られたインプリントモールドを転写装置に固定し、前述の
図4に示すように、被転写体(転写対象物)における例えばシリコンウェハ上に塗布されたレジスト膜(例えば光硬化型樹脂)に直接押し付けてパターンを転写する工程を実施したところ、転写対象物にモールドパターンを精度良く転写することができた。
【0103】
(実施例2)
本実施例2に使用するマスクブランクを以下のようにして作製した。
ガラス基板として実施例1と同様の合成石英基板(大きさ約152mm×152mm、厚み6.35mm)を準備した。このガラス基板の一方の主表面(後の工程で台座構造を形成する面)は、予め研磨によって、二乗平均平方根粗さRqが0.2nm以下となるように仕上げておいた。
【0104】
次に、上記のガラス基板上に、パターン形成用の薄膜を以下の手順で形成した。上記ガラス基板をクロム(Cr)ターゲットを備えるDCスパッタリング装置に導入し、アルゴン(Ar)、ヘリウム(He)および二酸化炭素(CO2)の混合ガス(流量比 Ar:He:CO2=2:4:3、圧力=0.1Pa)をスパッタリングガスとする反応性スパッタリングにより、基板の上記主表面上にパターン形成用の薄膜としてCrOC膜(組成 Cr:O:C=70原子%:15原子%:15原子%)を100nmの厚みで成膜した。なお、組成はX線光電子分光法(X-ray Photoelectron Spectroscopy:XPS)による分析で行った。
【0105】
以上のようにして作製したマスクブランクを加熱炉内に設置し、150℃で10分間のアニール処理を行った。アニール処理後、この実施例2のパターン形成用の薄膜の膜応力を測定したところ、0.19GPaであり、十分に低い膜応力であった。
【0106】
次に、ナノインデンテーション法を用いて、ガラス基板上に上記薄膜を形成した本実施例2のマスクブランクに対して、薄膜の膜厚方向(深さ方向)での押し込み硬さ及びヤング率を実施例1の場合と同様の方法で測定した。
【0107】
その結果を前述の
図7および
図8に示した。
図7の結果から、本実施例2のマスクブランクにおける上記薄膜に対する押し込み硬さの深さ方向のプロファイルから導き出される押し込み硬さの最大値は、14.2GPaであった。
また、
図8の結果から、本実施例2のマスクブランクにおける上記薄膜に対するヤング率の深さ方向のプロファイルから導き出されるヤング率の最大値は、152GPaであった。
【0108】
次に、上記と同様にして新たに作製した本実施例2のマスクブランクを用いて、モールド用マスクブランクを作製した。作製は前述の
図2に示す工程にしたがった。
まず、上記薄膜の上面にフォトレジスト(東京応化社製 THMR-iP3500)を460nmの厚さに塗布し、大きさが28mm×36mmの矩形(台座構造の形成領域)の外側エリアに対して紫外光による露光と現像を行い、台座構造用のレジストパターンを形成した。
【0109】
次に、上記台座構造用のレジストパターンを形成したガラス基板について、ウェットエッチングにより、台座構造用のレジストパターンで保護されている部分以外の薄膜を除去して、台座構造用の薄膜パターンを形成した。エッチング液としては、硝酸第2セリウムアンモニウム水溶液と過塩素酸の混合液を用いた。
【0110】
次に、上記薄膜パターンを形成したガラス基板を所定のエッチング液中に浸漬させた。エッチング液としては、フッ化水素酸とフッ化アンモニウムの混合液(HF濃度6wt%、NH
4F濃度20wt%)を用い、ガラス基板にウェットエッチングを行った。さらに、残存する上記レジストパターンを硫酸過水により除去し、残存する上記薄膜パターンを硝酸第2セリウムアンモニウム水溶液と過塩素酸の混合液により除去することで、前述の
図2(e)に示すようなガラス基板の一方の主表面に深さが30μm程度の台座構造パターンを作製した。
【0111】
上記のようにして作製した台座構造の主表面の端部を顕微鏡観察によって詳細に検査した。その結果、台座構造の主表面の端部のエッジがシャープに形成されており、メサ欠けの発生箇所はなかった。これは、本実施例2のマスクブランクを用いたことにより、基板の主表面にウェットエッチングで台座構造を形成する工程を行うときに、台座構造のパターンを有するCrOC膜のパターン端部が折れる現象が発生することを抑制できたことによるものと考えられる。
【0112】
次に、ガラス基板の上記台座構造パターンを作製した主表面とは反対側の主表面に、機械加工で所定の大きさの凹部を作製した。凹部の大きさは上記台座構造領域を含む大きさとなるように、直径が64mmの真円形状で、深さは5.2mmとした。
【0113】
次に、上記台座構造パターンおよび凹部を作製した基板をDCスパッタリング装置に導入し、クロム(Cr)ターゲットを用い、アルゴン(Ar)、二酸化炭素(CO
2)および窒素(N
2)の混合ガスをスパッタリングガスとする反応性スパッタリングにより、上記基板の台座構造パターンを形成した主表面上の全面にCrOCN膜からなるハードマスク膜を5nmの厚みで成膜し、前述の
図2(g)に示すようなモールド用マスクブランクを作製した。
以上のようにして、本実施例2のモールド用マスクブランクを作製した。
【0114】
次に、この実施例2のモールド用マスクブランクを用いて、前述の実施例1と同様の手順で、前述の
図3(f)に示すような構造のインプリントモールドを作製した。ここで、走査型電子顕微鏡(SEM)によるパターン検査を行ったところ、モールドパターンの幅、深さの寸法、精度において良好なパターンが形成されていることを確認した。
【0115】
次に、得られたインプリントモールドを転写装置に固定し、前述の
図4に示すように、被転写体(転写対象物)における例えばシリコンウェハ上に塗布されたレジスト膜(例えば光硬化型樹脂)に直接押し付けてパターンを転写する工程を実施したところ、転写対象物にモールドパターンを精度良く転写することができた。
【0116】
(比較例1)
本比較例1に使用するマスクブランクを以下のようにして作製した。
ガラス基板として実施例1と同様の合成石英基板(大きさ約152mm×152mm、厚み6.35mm)を準備した。このガラス基板の一方の主表面(後の工程で台座構造を形成する面)は、予め研磨によって、二乗平均平方根粗さRqが0.2nm以下となるように仕上げておいた。
【0117】
次に、上記のガラス基板上に、下部領域、中部領域および上部領域の3つの領域からなるパターン形成用の薄膜を以下の手順で形成した。
まず、スパッタ室に、ガラス基板の搬送方向に複数のクロム(Cr)ターゲットを設置したインラインスパッタ装置を準備した。そのスパッタ室内でガラス基板を搬送させつつ、アルゴン(Ar)及び窒素(N2)の混合ガスの雰囲気で、反応性スパッタリング(DCスパッタリング)を行うことにより、上記ガラス基板上にCrNを主成分とする上記薄膜の下部領域を16nmの厚さで形成した。
【0118】
引き続き、そのスパッタ室内で、アルゴン(Ar)及びメタン(CH4)の混合ガスの雰囲気で、反応性スパッタリング(DCスパッタリング)を行うことにより、上記下部領域に接してCrCを主成分とする上記薄膜の中部領域を63nmの厚さで形成した。
【0119】
引き続き、そのスパッタ室内で、アルゴン(Ar)及び一酸化窒素(NO)の混合ガスの雰囲気で、反応性スパッタリング(DCスパッタリング)を行うことにより、上記中部領域に接してCrONを主成分とする上記薄膜の上部領域を24nmの厚さで形成した。以上の手順で、上記ガラス基板上に、下部領域、中部領域および上部領域の3つの領域からなる厚さ103nmのパターン形成用の薄膜を備えた比較例1のマスクブランクを作製した。
【0120】
このマスクブランクの上記薄膜に対してX線光電子分光法(X-ray Photoelectron Spectroscopy:XPS)による分析を行った。その結果、各領域の組成は、下部領域(組成 Cr:N:C=60原子%:34原子%:6原子%)、中部領域(組成 Cr:C:N=70原子%:10原子%:20原子%)、上部領域(組成 Cr:O:N:C=36原子%:40原子%:22原子%:2原子%)であった。なお、この比較例1のパターン形成用の薄膜の膜応力を測定したところ、0.19GPaであり、十分に低い膜応力であった。
【0121】
次に、ナノインデンテーション法を用いて、ガラス基板上に上記薄膜を形成した本比較例1のマスクブランクに対して、薄膜の膜厚方向(深さ方向)での押し込み硬さ及びヤング率を実施例1の場合と同様の方法で測定した。
【0122】
その結果を前述の
図5および
図6に示した。
図5の結果から、本比較例1のマスクブランクにおける上記薄膜に対する押し込み硬さの深さ方向のプロファイルから導き出される押し込み硬さの最大値は、13GPaであった。
また、
図6の結果から、本比較例1のマスクブランクにおける上記薄膜に対するヤング率の深さ方向のプロファイルから導き出されるヤング率の最大値は、146GPaであった。
【0123】
次に、上記と同様にして新たに作製した本比較例1のマスクブランクを用いて、モールド用マスクブランクを作製した。作製は前述の
図2に示す工程にしたがった。
まず、上記薄膜の上面にフォトレジスト(東京応化社製 THMR-iP3500)を460nmの厚さに塗布し、大きさが28mm×36mmの矩形(台座構造の形成領域)の外側エリアに対して紫外光による露光と現像を行い、台座構造用のレジストパターンを形成した。
【0124】
次に、上記台座構造用のレジストパターンを形成したガラス基板について、ウェットエッチングにより、台座構造用のレジストパターンで保護されている部分以外の薄膜を除去して、台座構造用の薄膜パターンを形成した。エッチング液としては、硝酸第2セリウムアンモニウム水溶液と過塩素酸の混合液を用いた。
【0125】
次に、上記薄膜パターンを形成したガラス基板を所定のエッチング液中に浸漬させた。エッチング液としては、フッ化水素酸とフッ化アンモニウムの混合液(HF濃度6wt%、NH
4F濃度20wt%)を用い、ガラス基板にウェットエッチングを行った。さらに、残存する上記レジストパターンを硫酸過水により除去し、残存する上記薄膜パターンを硝酸第2セリウムアンモニウム水溶液と過塩素酸の混合液により除去することで、前述の
図2(e)に示すようなガラス基板の一方の主表面に深さが30μm程度の台座構造パターンを作製した。
【0126】
上記のようにして作製した台座構造の主表面の端部を顕微鏡観察によって詳細に検査した。その結果、台座構造の主表面の端部にメサ欠けの発生箇所が発見された。同様にして作製した10枚の基板につき同様の検査を行ったが、基板1枚につき平均3.5箇所のメサ欠けが発見された。これは、本比較例1のマスクブランクを用いたことにより、基板の主表面にウェットエッチングで台座構造を形成する工程を行うときに、台座構造のパターンを有する薄膜のパターン端部が折れる現象が発生したことによるものと考えられる。
【0127】
次に、ガラス基板の上記台座構造パターンを作製した主表面とは反対側の主表面に、機械加工で所定の大きさの凹部を作製した。凹部の大きさは上記台座構造領域を含む大きさとなるように、直径が64mmの真円形状で、深さは5.2mmとした。
【0128】
次に、上記台座構造パターンおよび凹部を作製した基板をDCスパッタリング装置に導入し、クロム(Cr)ターゲットを用い、アルゴン(Ar)、二酸化炭素(CO
2)および窒素(N
2)の混合ガスをスパッタリングガスとする反応性スパッタリングにより、上記基板の台座構造パターンを形成した主表面上の全面にCrOCN膜からなるハードマスク膜を5nmの厚みで成膜し、前述の
図2(g)に示すようなモールド用マスクブランクを作製した。
以上のようにして、本比較例1のモールド用マスクブランクを作製した。
【0129】
次に、この比較例1のモールド用マスクブランクを用いて、前述の実施例1と同様の手順で、前述の
図3(f)に示すような構造のインプリントモールドを作製した。
【0130】
次に、得られたインプリントモールドを転写装置に固定し、前述の
図4に示すように、被転写体(転写対象物)における例えばシリコンウェハ上に塗布されたレジスト膜(例えば光硬化型樹脂)に直接押し付けてパターンを転写する工程を実施したところ、転写対象物にパターンの欠陥が多数確認された。これは、本比較例1のインプリントモールドに存在している前述のメサ欠けに起因するものと推察される。
【符号の説明】
【0131】
1 基板
2 パターン形成用の薄膜
3 レジストパターン
5 台座構造パターン
6 凹部
7 ハードマスク膜
10 マスクブランク
20 モールド用マスクブランク
21 レジスト膜
30 インプリントモールド
31 モールドパターン
40 被転写体
41 被転写体構成層
42 レジスト膜