(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-24
(45)【発行日】2024-08-01
(54)【発明の名称】レンズ系
(51)【国際特許分類】
G02B 13/04 20060101AFI20240725BHJP
G02B 13/18 20060101ALI20240725BHJP
G02B 5/20 20060101ALI20240725BHJP
【FI】
G02B13/04
G02B13/18
G02B5/20
(21)【出願番号】P 2019225343
(22)【出願日】2019-12-13
【審査請求日】2022-11-11
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002233
【氏名又は名称】ニデックインスツルメンツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097113
【氏名又は名称】堀 城之
(72)【発明者】
【氏名】神崎 陽介
【審査官】瀬戸 息吹
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-168491(JP,A)
【文献】国際公開第2019/044934(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/213110(WO,A1)
【文献】特開2017-198947(JP,A)
【文献】特開2019-066645(JP,A)
【文献】特開平04-238313(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0172963(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 9/00 - 17/08
G02B 21/02 - 21/04
G02B 25/00 - 25/04
G02B 5/20 - 5/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体側から像側にかけて光軸に沿って、最も物体側となる第1レンズを含む複数のレンズが絞りを含めて積層されて構成され、最も像側に位置する前記レンズよりも像側にある像面に撮像対象の像を結像させるレンズ系であって、
前記第1レンズ以外の前記レンズの一つでありガラス製である中間ガラスレンズにおいて、
物体側の表面である第1表面、像側の表面である第2表面のうちいずれか一方の面には、結像の対象となる光よりも長波長の光を遮断する薄膜状の赤外カットフィルターが形成され、
前記一方の面の曲率半径をRa(mm)としたとき、
2.00≦|Ra|≦4.00
の範囲とされ、
前記絞りは前記中間ガラスレンズの物体側に隣接して配され、
前記中間ガラスレンズにおける前記第1表面は物体側に向けて凸形状、及び前記中間ガラスレンズにおける前記第2表面は像側に向けて凸形状とされ、
前記中間ガラスレンズは、前記レンズ系を構成する前記複数のレンズのうち、前記第1レンズ以外かつ最も像側に位置するレンズ以外である一つのレンズであり、
前記中間ガラスレンズの前記一方の面の側で隣接する前記レンズにおける前記一方の面と対向する面の曲率半径をRb(mm)としたとき、
1.20<|Rb/Ra|<4.00
の範囲とされ
、
複数の前記レンズにおいて、
前記第1レンズは像側からみて凹形状とされた前記第2表面を有する負レンズであり、
前記第1レンズと前記中間ガラスレンズの間において、
像側からみて凹形状とされた前記第2表面を有する負レンズである第2レンズと、
正レンズである第3レンズと、
像側に向けて凸形状とされた前記第2表面を有する正レンズである第4レンズと、
を物体側から像側に向けて順次具備し、
前記中間ガラスレンズよりも像側において、
像側からみて凹形状とされた前記第2表面を有する負レンズである第6レンズと、
物体側に向けて凸形状とされた前記第1表面、及び像側に向けて凸形状とされた前記第2表面を有する第7レンズと、を順次具備し、
前記第6レンズの前記第2表面と前記第7レンズの前記第1表面とが接合された接合レンズが形成されたことを特徴とするレンズ系。
【請求項2】
前記中間ガラスレンズの前記一方の面の側で隣接する前記レンズにおける前記一方の面と対向する面は凹形状であることを特徴とする請求項1に記載のレンズ系。
【請求項3】
前記中間ガラスレンズにおける前記第1表面、前記第2表面は共に球面形状とされたことを特徴とする請求項1又は2に記載のレンズ系。
【請求項4】
前記第1レンズはガラス製であり、前記第2レンズ、第3レンズ、前記第4レンズ、前記第6レンズ、及び前記第7レンズは樹脂材料製であることを特徴とする請求項
1から請求項3までのいずれか1項に記載のレンズ系。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のレンズを含んで構成されるレンズ系に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車、監視カメラ等に搭載される撮像装置において使用される光学系として、物体側から像側(撮像素子側)に至るまでの間に複数のレンズを光軸方向に配したレンズユニット(レンズ系)が使用されている。一般的には使用される撮像装置は可視光の画像を撮像するため、上記のレンズユニットは可視光による画像を撮像素子上に良好に結像させるように設計される。しかしながら、実際には撮像素子(CMOSセンサ等)は可視光から近赤外光までの広い波長域にかけて感度を有し、かつ近赤外光もレンズユニットを透過する。一方、レンズユニットにおける各レンズの光学特性は可視光と近赤外光では異なるために、可視光用に最適化されたレンズユニットを通過した近赤外光は撮像素子上で良好な画像を形成しない。このため、近赤外光が撮像素子で可視光と同様に検出された場合には撮像素子で得られる画像は良好とはならず、レンズユニット中において、近赤外光を通過させず可視光のみを通過させる赤外(IR)カットフィルターが設けられる。
【0003】
特許文献1には、レンズユニット中におけるこのようなIRカットフィルターを、レンズユニットを構成するレンズうちの一つの表面(レンズ面)上の薄膜(コーティング)として形成することと、このレンズを設ける箇所について記載されている。IRカットコーティング層は、カットオフ波長よりも短波長の光(可視光)を透過させ、これよりも長波長の光(近赤外光)は反射させるように設定される。この場合、理想的には可視光の透過率は100%(反射率が0%)、近赤外光の透過率は0%(反射率が100%)となる。
【0004】
例えば、このIRカットコーティング層を撮像素子に近い側(像側)、例えばカバーガラスに形成した場合には、この反射した近赤外光はレンズユニットに逆向きに入射し、これが反射してから再び撮像素子側に向かうことがある。ただし、この光がIRカットコーティング層を最終的に透過しなければ、この光は撮像素子で検知されない。このため、大部分の近赤外光は撮像素子で検知されず、得られる画像は大部分の近赤外光の影響を受けない。
【0005】
ここで、特にIRカットコーティング層におけるカットオフ波長近傍の波長の光については、透過率、反射率共に無視できない値(例えば透過率50%、反射率50%)となる。この場合、この反射光がレンズユニットに逆向きに入射した後で再び反射されて撮像素子側に向かい、その後にIRカットコーティング層を透過して撮像素子で検出される成分は無視できなくなる。この場合のレンズユニットにおける光路は本来のものとは大きく異なるため、この成分に起因する画像は、撮像素子における本来の画像以外の成分となるゴーストとなる。すなわち、特にカットオフ波長に近い波長の光は、ゴーストの原因となる。
【0006】
特許文献1に記載のレンズユニットにおいては、このようなIRカットコーティング層を、レンズユニットにおいて光軸方向で中央付近に設けられた絞りの下流側において絞りに最も近い位置にあるレンズ面に設けることによって、高効率で近赤外光が除去されている。これにより、このレンズユニットにおいては、撮像素子に達する近赤外光を大きく減少させることができ、これに起因するゴーストの発生が低減される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載のレンズユニットにおいても、カットオフ波長に特に近い波長の光がIRカットコーティング層で反射し、この反射光が、レンズユニットにおけるこれよりも物体側の部分に逆向きに入射してから撮像素子側に向かい、ゴーストの原因となることは同様である。このため、特許文献1に記載の技術においては、ゴーストは低減されるものの、その低減の度合いは十分ではなかった。
【0009】
本発明は、このような状況に鑑みなされたもので、近赤外光に起因するゴーストの発生が低減されたレンズ系を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るレンズ系は、物体側から像側にかけて光軸に沿って、最も物体側となる第1レンズを含む複数のレンズが絞りを含めて積層されて構成され、最も像側に位置する前記レンズよりも像側にある像面に撮像対象の像を結像させるレンズ系であって、前記第1レンズ以外の前記レンズの一つでありガラス製である中間ガラスレンズにおいて、物体側の表面である第1表面、像側の表面である第2表面のうちいずれか一方の面には、結像の対象となる光よりも長波長の光を遮断する薄膜状の赤外カットフィルターが形成され、前記一方の面の曲率半径をRa(mm)としたとき、
2.00≦|Ra|≦4.00
の範囲とされ、前記絞りは前記中間ガラスレンズの物体側に隣接して配され、前記中間ガラスレンズにおける前記第1表面は物体側に向けて凸形状、及び前記中間ガラスレンズにおける前記第2表面は像側に向けて凸形状とされ、前記中間ガラスレンズは、前記レンズ系を構成する前記複数のレンズのうち、前記第1レンズ以外かつ最も像側に位置するレンズ以外である一つのレンズであり、前記中間ガラスレンズの前記一方の面の側で隣接する前記レンズにおける前記一方の面と対向する面の曲率半径をRb(mm)としたとき、
1.20<|Rb/Ra|<4.00
の範囲とされ、複数の前記レンズにおいて、前記第1レンズは像側からみて凹形状とされた前記第2表面を有する負レンズであり、前記第1レンズと前記中間ガラスレンズの間において、像側からみて凹形状とされた前記第2表面を有する負レンズである第2レンズと、正レンズである第3レンズと、像側に向けて凸形状とされた前記第2表面を有する正レンズである第4レンズと、を物体側から像側に向けて順次具備し、前記中間ガラスレンズよりも像側において、像側からみて凹形状とされた前記第2表面を有する負レンズである第6レンズと、物体側に向けて凸形状とされた前記第1表面、及び像側に向けて凸形状とされた前記第2表面を有する第7レンズと、を順次具備し、前記第6レンズの前記第2表面と前記第7レンズの前記第1表面とが接合された接合レンズが形成されている。
【0011】
この構成においては、赤外カットフィルターのカットオフ波長近傍の波長の光が、中間ガラスレンズのレンズ面で反射する。しかしながら、中間ガラスレンズにおけるこのレンズ面の曲率半径をこのように設定することにより、この反射光が最終的に像面に到達することが抑制される。このため、大部分の近赤外光が赤外カットフィルターで除去されると共に、この反射光に起因するゴーストの発生が抑制される。
|Rb/Ra|が1.20を超えるため、これらの面間の反射に起因するゴーストの発生を抑制することができる。また、|Rb/Ra|が4.00未満のため、レンズ系の収差の補正が容易となる。
【0014】
前記中間ガラスレンズの前記一方の面の側で隣接する前記レンズにおける前記一方の面と対向する面は凹形状であってもよい。
この場合には、赤外カットフィルターが形成された面と、対向する面とが、凸曲面、凹曲面の組み合わせとなるように構成されるため、これらの面を具備するレンズを近接させて小型のレンズ系を構成することができる。
【0015】
前記中間ガラスレンズにおける前記第1表面、前記第2表面は共に球面形状とされていてもよい。
こうした構成により、中間ガラスレンズを安価とすることができ、レンズ系全体あるいはこれを用いた撮像装置を安価とすることができる。
【0017】
前記第1レンズはガラス製であり、前記第2レンズ、第3レンズ、前記第4レンズ、前記第6レンズ、及び前記第7レンズは樹脂材料製とされていてもよい。
こうした構成により、外部に露出する第1レンズを高強度とする一方で、第1レンズと中間ガラスレンズ以外の各レンズを安価とすることができ、レンズ系の信頼性を高めると共に、これを安価とすることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、赤外カットフィルターのカットオフ波長近傍の波長の光が赤外カットフィルターで物体側に反射されてから再び像面に達することが抑制されるため、このレンズ系が用いられた撮像装置において、この反射に起因して発生するゴーストが抑制される。また、この構成を具備するレンズ系を安価で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図2】実施例1における各レンズ等の設計値である。
【
図3】実施形態に係るレンズ系における中間ガラスレンズ付近の構成を拡大して示す図である。
【
図4】実施例2における各レンズ等の設計値である。
【
図5】実施例3における各レンズ等の設計値である。
【
図6】実施例4における各レンズ等の設計値である。
【
図7】実施例5における各レンズ等の設計値である。
【
図8】実施例1において、入射角0°のスポット状の光線を入射させた場合における像面の2次元強度分布(a)、1次元強度分布(b)である。
【
図9】実施例1において、入射角30°のスポット状の光線を入射させた場合における像面の2次元強度分布(a)、1次元強度分布(b)である。
【
図10】実施例1において、入射角60°のスポット状の光線を入射させた場合における像面の2次元強度分布(a)、1次元強度分布(b)である。
【
図11】実施例1において、入射角90°のスポット状の光線を入射させた場合における像面の2次元強度分布(a)、1次元強度分布(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて詳細に説明する。
図1は本実施形態に係るレンズ系1を含む光学系全体の、光軸Aに沿った断面における構成図である。ここでは、物体側は図中上側であり、撮像素子100は図中最下部に位置する。
図1においては、後述する実施例1に対応した各構成要素における光学的に機能する部分のみが記載されている。実際には、各構成要素は、
図1に示された位置関係が維持されるように鏡筒の内部に固定されるため、この固定の際に必要な構造、あるいは各構成要素間の位置関係を固定するための構造が設けられているが、
図1においてはその記載は省略されている。
【0021】
撮像素子100は2次元CMOSイメージセンサであり、各画素は光軸Aと垂直な面内で2次元に配列されている。また、撮像素子100の物体側には、光軸Aと直交する平面状のカバーガラス110が設けられている。
図1において、第1レンズL1から第7レンズL7を備えるレンズ系1が構成される。レンズ系1は、撮像対象の画像を所望の視野、所望の形態で撮像素子100上(像面)に結像させるように構成される。実際には撮像対象からは可視光以外にも近赤外光等も発せられるが、このレンズ系1においては、可視光の場合にこの結像条件が満たされように設計される。レンズ系1における各レンズの光学的に機能する領域(
図1に示された部分)は、光軸Aの周りで対称な略円板状の外形を具備する。
【0022】
(実施例1)
図1の構成は実施例1に対応し、
図2は、実施例1で用いられる各レンズの設計値である。ここで、
図2(a)は、レンズ系の設計値として、レンズ系全体の有効焦点距離(Effective Focal Length:f0=1.011mm)、光軸Aに沿った全長(Total Track=13.404mm)、F値(F-number=2.03)、画角(Half Field of Angle=109°)を示す。
図2(b)においては、第1レンズL1~第7レンズL7以外に、絞り20、カバーガラス110についても示されている。各レンズについては、屈折率Nd(波長587nmに対応)とアッベ数νdも記載されている。また、
図2(b)でfで示された数値は、各レンズあるいは示された範囲に対応したレンズの組み合わせにおける焦点距離である。また、ここでは、レンズ表面の形状としては球面(Spherical)と非球面(Aspherical)の2種類があり、非球面とされた場合においてこの表で示された曲率半径(Radius)は中心(光軸A上)での値である。
【0023】
図1において、最も物体(Obj)側(図中上側)に設けられた第1レンズL1は、魚眼レンズであり、主にこれによって、視野等が定まる。これよりも撮像素子100側(像(Img)側)に、第2レンズL2、第3レンズL3、第4レンズL4、第5レンズL5、第6レンズL6、第7レンズL7が順次配置されている。また、結像のために用いられる光束を制限するための絞り20が第4レンズL4と第5レンズL5の間に、不要な光を除去するための遮光板30が、第2レンズL2と第3レンズL3の間に、それぞれ設けられる。絞り20に設けられた開口、遮光板30の形状は、目的に応じて設定されている。
【0024】
各レンズにおける物体側のレンズ面、像側のレンズ面は、レンズ系1が所望の結像特性をもたらすように、適宜曲面(凸曲面、凹曲面)加工されている。以下では、各レンズにおける物体側のレンズ面を第1表面R1、像側のレンズ面を第2表面R2と呼称する。また、レンズ面の形状(凸曲面又は凹曲面)としては、第1表面R1の形状については物体側からみた形状、第2表面R2の形状については像側からみた形状を、それぞれ意味するものとする。
【0025】
第1レンズL1は、その物体側の第1表面R1が凸曲面、その像側のR2が凹曲面とされた負レンズ(メニスカスレンズ)である。第2レンズL2は、その物体側の第1表面R1が凸曲面、その像側の第2表面R2が凹曲面とされた負レンズである。第3レンズL3は、その物体側の第1表面R1が凹曲面、その像側の第2表面R2が凸曲面とされた正レンズである。第4レンズL4は、その物体側の第1表面R1が凹曲面、その像側の第2表面R2が凸曲面とされた正レンズである。第5レンズL5は、その物体側の第1表面R1が凸曲面、その像側の第2表面R2が凸曲面とされた正レンズである。
【0026】
第6レンズL6は、その物体側の第1表面R1が凹曲面、その像側の第2表面R2が凹曲面とされた負レンズである。第7レンズL7は、その物体側の第1表面R1が凸曲面、その像側の第2表面R2が凸曲面とされた正レンズである。また、第6レンズL6、第7レンズL7は対向する光学面(表面同士)が嵌合することにより接合レンズを構成するように設定される。つまり、第6レンズL6の像側の第2表面R2と第7レンズL7の物体側の第1表面R1が嵌合するように構成される。以上の各レンズの物体側の第1表面R1、像側の第2表面R2は、可視光に対して、所望の結像特性が像面(撮像素子100)上で得られるように設定されている。
【0027】
また、一般的に、このような小型の撮像装置におけるレンズを構成する材料としては、ガラスと樹脂材料の2種類がある。前者は機械的強度が高いが高価であり、後者は機械的強度は低いが安価である。第1レンズL1は撮像装置1の最表面に位置しかつ最も大径となるために、傷が付きにくいガラス製のものが好ましく用いられる。これよりも小さなその他の多くのレンズとしては、安価な樹脂材料製のものを用いることができる。本実施例1においては、第1レンズL1および第5レンズがガラス製、第2レンズL2、第3レンズL3、第4レンズL4、第6レンズL6、及び第7レンズL7はプラスチック(樹脂)製とされる。
【0028】
なお、ガラスの熱膨張係数は樹脂材料より小さいために、高温時における熱膨張に起因する形状や位置の微細な変化が結像特性(焦点位置の変化)に与える影響が大きくなるレンズは、ガラス製とすることが好ましい。このため、本実施例1においては、第5レンズ(中間ガラスレンズ)L5は、第1レンズL1と同様にガラス製としている。前記の通り、第5レンズL1の像側の第2表面R2は像側に向けて凸形状、その物体側の第1表面R1は物体側に向けて凸形状とされる。また、特に絞り20と物体側、像側で隣接するレンズについては、温度変化の際の熱膨張による表面の位置の変動による焦点位置の変化が結像特性に及ぼす影響が特に大きい。このため、これらのうちの一方をガラス製とすることが好ましい。更に、絞り20と像側で隣接するレンズをガラス製とすることによって、温度変化に際する画角の変動が抑制される。このため、本実施形態においては、第5レンズL5がガラス製とされる。
【0029】
図2(b)において、ガラス製のレンズL1、L5は球面レンズ、他のプラスチック製のレンズL2~L4、L6、L7は非球面レンズとされる。非球面レンズは球面レンズと比べて製造が比較的困難であるが、プラスチック製のレンズにおいては、樹脂成型により非球面の形状を容易に製造することができる。このため、このようにレンズL2~L4、L6、L7を非球面とすることは容易である一方、非球面形状とすることが比較的困難なガラス製のレンズL1、L5は球面とされている。このため、こうした組み合わせによって、安価でありつつ、温度変化に伴う焦点位置の変化を抑えられ、かつ収差を適切に補正できるため、レンズ系1を高性能とすることができる。ここで、全てのレンズ(面)について、曲率半径は、曲率中心が像側にある場合に正、曲率中心が物体側にある場合に負となるように設定されている。このため、前記のように、曲面の形状(凸曲面、凹曲面)を、第1表面R1の形状については物体側からみた場合、第2表面R2の形状については像側からみた場合と定義すると、
図2(b)において、第1表面R1においては曲率半径が正の場合が凸曲面(負の場合が凹曲面)、第2表面R2においては曲率半径が正の場合が凹曲面(負の場合が凸曲面)である。
【0030】
また、
図2(b)に示された面が非球面の場合の形状は、以下の(1)式で表させるものとし、この各パラメータ(非球面係数)が
図2(c)の表で示されている。
【0031】
【0032】
ここで、この形状は光軸Aの周りで対称とされるため、Z(サグ量:光軸Aに沿った高さ)とr(光軸Aからの径方向の距離)との間の関係が示されている。また、cは
図2(b)の表で示された中心での曲率半径(Radius)の逆数である。
【0033】
このレンズ系1においては、IRカットコーティング層(赤外カットフィルター)40が、第5レンズL5の像側の第2表面R2に形成される。IRカットコーティング層40によって、撮像素子100側に向かう近赤外光を除去することができる。IRカットコーティング層40は、カットオフ波長よりも短波長の光を透過させ、これよりも長波長の光を透過させない(反射させる)ような多層膜として、例えば蒸着等によって薄膜状に形成される。この際、特にカットオフ波長に近い波長の光に対しては、反射率、透過率が共に無視できない値となる。このため、従来のレンズユニットにおいては、カットオフ波長に近い波長の反射光がこれよりも物体側で像側に向けて反射されてからIRカットコーティング層40を透過して撮像素子100に入射する成分が無視できず、これに起因するゴーストが発生した。これに対し、このレンズ系1においては、このようにIRカットコーティング層40で物体側に向けて反射されてから再び像側に向けて反射されて撮像素子100に入射する成分が低減され、これに起因するゴーストが低減される。この点について以下に説明する。
【0034】
図3は、これによる効果を
図1を拡大した構成において模式的に示す図である。ここでは、絞り20よりも物体側(図中上側)の構成要素は物体側光学系OA、第5レンズL5よりも像側(図中下側)の構成要素は像側光学系OBとして、それぞれ一体化されて示されている。前記の通り、IRカットコーティング層40は第5レンズL5における像側の第2表面R2に形成されている。ここでは、第5レンズL5における像側の第2表面R2の曲率半径Raを絶対値で示したとき、曲率半径Raは小さく設定されている。
【0035】
図3においては、この構成における、IRカットコーティング層40からの反射の状況が模式的に示されている。第5レンズL5における像側の第2表面R2の曲率半径(Ra)が小さく設定されることにより、特に光軸Aから離れた部分でのIRカットコーティング層40からの反射光RLの光軸Aに対する角度を大きくすることができる。これによって、物体側光学系OAに向かうこの反射光RLが絞り20で遮断されやすくなる、あるいは物体側光学系OAに像側から反射光RLが入射する確率が低減される。
【0036】
具体的には、上記の曲率半径Raは、2.00mm≦|Ra|≦4.00mmの範囲とすることが好ましい。曲率半径Raの絶対値を4.00mm以下と小さくすることで、上記のようにフレア、ゴーストの発生を抑制することができる。なお、曲率半径Raの絶対値が4.00mmを超えると第5レンズL5の像側の第2表面R2が平面に近くなるため、反射した光が結像面に届きやすくなり、フレア、ゴーストの発生の要因となってしまう。また、曲率半径Raの絶対値を2.00mm以上とすることで、IRカットコーティング層40を第5レンズL5の像側の第2表面R2に一様に形成することができる。なお、曲率半径Raの絶対値が2.00mm未満となるとレンズの曲率半径が小さすぎてしまい、像側の第2表面R2の中央部分と端部側でのIRカットコーティング層40を一様に形成し、その光学特性を一様に得ることが困難となり、画像の中央部分と周辺部分での色合いに差が出る虞がある。
【0037】
また、
図3において、第5レンズL5の像側の第2表面R2と対向する第6レンズL6の物体側の第1表面R1の曲率半径Rb、および第5レンズL5の像側の第2表面R2の曲率半径Raは、1.20<|Rb/Ra|<4.00の範囲とされている。|Rb/Ra|が1.20を超えるため、曲率半径Raと曲率半径Rbの差異を出すことができるため、これらの面間の反射に起因するゴーストの発生を抑制することができる。また、|Rb/Ra|が4.00未満となるため、レンズ系の収差の補正が容易となるため、高性能なレンズ系の提供を実現することができる。
【0038】
また、一般的に、IRカットコーティング層40は、SiO2を含む多層膜として蒸着等で形成される。この際、一般的にプラスチック(有機材料)上にこのようなIRカットコーティング層40を高い接合強度で形成することは困難であるのに対し、ガラス材料の上にこうした層を高い接合強度で形成することは容易である。また、ガラス材料の主成分もSiO2であるため、ガラス材料とIRカットコーティング層40との間の熱膨張係数の差も小さい。このため、第5レンズL5を前記のようにガラス製とすることが特に好ましい。
【0039】
また、上記の実施例1以外にも、同様にレンズ系1の他の具体的構成(実施例2~5)について、
図2と同様に
図4~7に示す。ここでは、実施例1のレンズ系とは曲率半径だけでなく一部の形状(凸曲面、凹曲面)も変更されている。なお、どの実施例においても、レンズの総数は実施例1と同様に7つであり、第6レンズL6と第7レンズL7が接合レンズとされることは同様である。また、第1レンズL1、第5レンズL5がガラス製でありこれら以外のレンズがプラスチック製であることは同様である。絞り20が第4レンズL4と第5レンズL5の間にある点も同様である。
【0040】
実施例2においては、実施例1と比べて、第2レンズL2の物体側の第1表面R1が凹曲面、第3レンズL3の物体側の第1表面R1が凸曲面、その像側の第2表面R2が凹曲面、第4レンズL4の物体側の第1表面R1が凸曲面となるように変更され、第5レンズL5の像側の第2表面R2の凸曲面の曲率半径が大きく設定されている。実施例3においては、実施例1と比べて画角が広く設定され、特に第5レンズL5の物体側の第1表面R1の凸曲面における曲率半径が大きく設定されている。
【0041】
実施例4においては、実施例1と比べて画角が広く設定され、第2レンズL2の物体側の第1表面R1の凸曲面の曲率半径、第5レンズL5の物体側の第1表面R1の凸曲面における曲率半径が大きく設定されている。実施例5においては、特に第5レンズL5の物体側の第1表面R1の凸曲面における曲率半径が大きく設定されている。実施例2~5におけるレンズ系全体の特性は
図4~7の(a)に示され、使用される非球面レンズ(第2レンズL2、第3レンズL3、第4レンズL4、第6レンズL6、第7レンズL7)における非球面係数は
図4~7の(c)に示されている。
【0042】
図2、4~7の(b)の表において、第5レンズL5の物体側の第1表面R1の曲率半径、第5レンズL5の像側の第2表面R2の曲率半径Ra、第6レンズL6の物体側の第1表面R1の曲率半径Rbはハッチングされて示されている。このように、Ra、Rbを前記の範囲として
図1の構成のレンズ系1を実現することができる。
【0043】
次に、実際に実施例1における撮像素子100上の光強度をシミュレーションにより算出し、ゴーストの発生の状況を調べた。
図8~11は、レンズ系1において、光軸Aに対して入射角をそれぞれ0°、30°、60°、90°としてスポット上の光線を入射させた場合における、撮像素子100上の強度分布を算出した結果である。各図中、(a)は2次元強度分布を示し、(b)はその上下方向中央における水平方向での1次元強度分布を示す。(b)において認識される最も高い鋭いピークがこの光源に対応し、これ以外の局所的に強度の高い部分はゴーストに対応する。(b)の特性はピーク強度を1として規格化されており、撮像素子100の感度特性より、この場合における強度が1E-6(1×10
-6)以下の場合は、実質的に強度が零とみなすことができる。すなわち、(b)において単一のピークに対応する以外の箇所で1E-6を超える強度の部分が存在すれば、この部分は撮像装置においてゴーストとして認識される。
【0044】
この結果において、入射角が0°の場合(
図8)においては、単一のピーク以外のピークは強度が1E-6以下のものも含めて、見られない。すなわち、ゴーストの発生が抑制されている。入射角が大きくなるに従って、本来のピーク以外のピークの発生が認められるが、その大部分の強度は1E-6以下となっている。すなわち、実施例においては、ゴーストの発生が抑制される。また、いずれの場合においても、本来のピークは同様の鋭い形状で認識される。
【0045】
このため、
図1のレンズ系1を用いてゴーストが低減された結像光学系を実現することができることが確認された。
【0046】
(本形態の主な特徴)
本実施形態の特徴を簡単に纏めると次の通りである。
(1)レンズ系1は、物体側から像側にかけて光軸Aに沿って、最も物体側となる第1レンズL1を含む複数のレンズが絞り20を含めて積層されて構成され、最も像側に位置する第7レンズL7よりも像側にある像面に撮像対象の像を結像させ、第1レンズL1以外の前記レンズの一つでありガラス製である中間ガラスレンズL5において、物体側の表面である第1表面R1、像側の表面である第2表面R2のうちいずれか一方の面には、結像の対象となる光よりも長波長の光を遮断する薄膜状の赤外カットフィルター40が形成され、前記一方の面の曲率半径Raとしたとき、
2.00≦|Ra|≦4.00
の範囲とされている。
【0047】
この構成においては、IRカットコーティング層40によって、そのカットオフ波長よりも長波長の光が像面(撮像素子100)に達することが抑制される。ただし、カットオフ波長に近い波長の光はその反射率、透過率が共に無視できない程度の値であるため、一般的にはこの光が像面に到達してゴーストの原因となる。これに対して、このレンズ系1では、中間ガラスレンズL5において曲率半径の絶対値Raが2.0mm以上4.0mm以下とされた一方の面である第5レンズL5の像側の第2表面R2にIRカットコーティング層40を形成することによりIRカットコーティング層40からの反射光RLと光軸Aとの間の角度を大きくすることによって、カットオフ波長に近い波長の光が像面に到達することが抑制される。
【0048】
(2)この際、絞り20は中間ガラスレンズL5の物体側に隣接して配されている。これによって、カットオフ波長に近い波長の光が第5レンズL5の像側の第2表面R2で物体側に反射した後に絞り20で除去されやすくなる。
(3)この際、中間ガラスレンズL5における第1表面R1は物体側に向けて凸形状、及び中間ガラスレンズL5における第2表面R2は像側に向けて凸形状とされている。こうした中間ガラスレンズL5を用いて良好な結像特性をもつレンズ系を構成することができることが各実施例で示された。
【0049】
(4)中間ガラスレンズL5は、第1レンズL1および最も像側にある第7レンズL7以外のレンズであり、中間ガラスレンズL5の一方の面(第2表面R2)は、凸形状であり、中間ガラスレンズL5の一方の面の側で隣接する第6レンズL6における一方の面と対向する面(第1表面R1)は凹形状であり、この面L6R1の曲率半径RbのRaに対する比の絶対値は、1.20<|Rb/Ra|<4.00の範囲とされている。
このような範囲で、IRカットコーティング層40が形成された面と、これと対向する面L6R1の曲率半径を1.20<|Rb/Ra|となるように異ならせる(L6R1をL5R2よりも平面に近い形状とする)ことで、これらの面間の反射に起因するゴーストの発生を抑制することができる。この際、赤外カットフィルターが形成された面と対向する面をRbが|Rb/Ra|<4.00の範囲となるような曲面とすることにより、レンズ系の収差の補正が容易となる。
【0050】
(5)中間ガラスレンズL5と一方の面の側で隣接する第6レンズL6における前記一方の面と対向する面L6R1は曲率半径Rbの凹曲面とされ、RbのRaに対する比は、1.20<Rb/Ra<4.00の範囲とされている。
この場合には、IRカットコーティング層40が形成された面L5R2と、これと対向する面L6R1とが、それぞれ凸曲面、凹曲面の組み合わせとなるように構成されるため、中間ガラスレンズL5と第6レンズL6を近接させてレンズ系1を小型とすることができる。特に、面L6R1の曲率半径RbをRaよりも大きくすることによって、両者を近接させることが容易となる。この際、Rb/Raを上記の範囲とすることによってゴーストの発生を抑制しつつ収差の補正を容易とできることは前記と同様である。
【0051】
(6)中間ガラスレンズL5において、L5R1、L5R2は共に球面形状とされている。これにより、中間ガラスレンズL5を安価とすることができ、レンズ系1全体を安価とすることができる。
【0052】
(7)また、第1レンズL1は像側からみて凹形状とされた第2表面R2を有する負レンズであり、第1レンズL1と中間ガラスレンズL5の間において、像側からみて凹形状とされた第2表面R2を有する負レンズである第2レンズL2と、正レンズである第3レンズL3と、像側に向けて凸形状とされた第2表面R2を有する正レンズである第4レンズL4と、を物体側から像側に向けて順次具備し、中間ガラスレンズL5よりも像側において、像側からみて凹形状とされた第2表面R2を有する負レンズである第6レンズL6と、物体側に向けて凸形状とされた第1表面R1、及び像側に向けて凸形状とされた第2表面R2を有する第7レンズL7と、を順次具備し、第6レンズL6の第2表面R2と第7レンズL7の第1表面R1とが接合された接合レンズが形成されている。
このような具体的なレンズ構成によって、ゴーストが低減されることが実施例によって確認された。
【0053】
(8)第1レンズL1はガラス製であり、第2レンズL2、第3レンズL3、第4レンズL4、第6レンズL6、及び第7レンズL7は樹脂材料製である。こうした構成により、外部に露出する第1レンズL1を高強度とする一方で、第1レンズL1と中間ガラスレンズL5以外の各レンズを安価とすることができ、レンズ系1の信頼性を高めると共に、これを安価とすることができる。
【0054】
なお、上記の例以外の構成においても、上記のような中間ガラスレンズを用いた場合には、これよりも物体側の光学系に赤外カットフィルターの反射光が入射してこれが再び像面(撮像素子)側に向かうことが抑制される。このため、例えば中間ガラスレンズよりも物体側、像側のレンズの構成は任意である。また、上記のレンズ系を収容する鏡筒や、各レンズにおける光学的に機能する部分以外の構造、例えばレンズを鏡筒に固定するための構造やレンズ間の位置関係を固定するための構造は任意である。
【0055】
本発明を、実施形態及びその変形例をもとに説明したが、この実施形態は例示であり、それらの各構成要素の組み合わせ等にいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【符号の説明】
【0056】
1 レンズ系
20 絞り
30 遮光板
40 IRカットコーティング層(赤外カットフィルター)
100 撮像素子
110 カバーガラス
A 光軸
Img 像(側)
L1 第1レンズ
L2 第2レンズ
L3 第3レンズ
L4 第4レンズ
L5 第5レンズ(中間ガラスレンズ)
L6 第6レンズ
L7 第7レンズ
OA 物体側光学系
OB 像側光学系
Obj 物体(側)
R1 第1表面
R2 第2表面
RL 反射光