(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-24
(45)【発行日】2024-08-01
(54)【発明の名称】衛星アンテナの指向誤差を推定するためのシステム及び方法
(51)【国際特許分類】
H04B 7/185 20060101AFI20240725BHJP
G01S 3/32 20060101ALI20240725BHJP
H04B 7/06 20060101ALI20240725BHJP
H04B 7/08 20060101ALI20240725BHJP
【FI】
H04B7/185
G01S3/32
H04B7/06 986
H04B7/08 982
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020047266
(22)【出願日】2020-03-18
【審査請求日】2023-02-22
(32)【優先日】2019-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】511148123
【氏名又は名称】タレス
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヤン・オステル
【審査官】鴨川 学
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0288753(US,A1)
【文献】特開2014-060710(JP,A)
【文献】特開平11-251821(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0022120(US,A1)
【文献】米国特許第10211508(US,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 7/185
G01S 3/32
H04B 7/06
H04B 7/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
衛星のアンテナ(ANT)の指向誤差を推定するためのシステムであって、前記衛星が、マルチチャネルアンテナ(ANT)を含むマルチチャネル送信機又は受信機と、1つのチャネルあたり1つのアナログ処理チェーンと、1組のデジタル集積回路(PN)とを含むペイロード(CU)を含む、システムであり、前記衛星上で実装されるか又は地上局で実装される
、前記アンテナの指向誤差を推定するための推定デバイス(EST)を含む、システムであり、指向誤差を推定するための前記
推定デバイスが、
-
前記衛星の前記送信
機の少なくとも2つのチャネルに対して、少なくとも2つのテスト信号を取得するステップ(202、403)であって、各テスト信号が、
前記衛星の前記アンテナによって、前記衛星の視点から異なる方向(θ
A、θ
B)に沿って送
信されている
か、または前記衛星の前記受信機の少なくとも2つのチャネルに対して、少なくとも2つのテスト信号を取得するステップ(202、403)であって、各テスト信号が、前記衛星の前記アンテナによって、前記衛星の視点から異なる方向(θ
A
、θ
B
)に沿って受信されている、ステップ(202、403)と、
-
前記少なくとも2つのテスト信号のうち少なくとも1対の取得
されたテスト信号に対して、2つの別個のチャネルにおいてそれぞれ受信又は送信された前記テスト信号間の相対複素利得を各テスト信号に対して決定するステップ(203)と、
- 前記2つの相対複素利得間の比率及び/又は前記2つの相対複素利得の位相間の差から前記2つのテスト信号間の比較測定値を決定するステップ(204)と、
- 前記比較測定値、前記テスト信号の送信又は受信
の予期方向(θ
A、θ
B)並びに各チャネルに対する及び多数の方向における前記アンテナ
の利得のモデルに基づいて、前記アンテナの指向誤差(dθ)を決定するステップ(205)と
を行うように構成される、システム。
【請求項2】
各テスト信号が、少なくとも1つのスペクトル線から構成される、請求項1に記載のアンテナの指向誤差を推定するためのシステム。
【請求項3】
指向誤差を推定するための前記推定デバイス(EST)が、異なる方向、異なる複数対の別個のチャネル又はテスト信号のいくつかの周波数において送信又は受信された複数対のテスト信号に基づいて、指向誤差の
複数の推定値を決定するように構成される、請求項1又は2に記載のアンテナの指向誤差を推定するためのシステム。
【請求項4】
指向誤差を推定するための前記推定デバイス(EST)が、
- 前記アンテナの前記利得の前記モデルに基づいて、前記アンテナの指向誤差
、周波数及び前記テスト信号の送信又は受信の前記予期方向(θ
A、θ
B)に応じて、前記2つのテスト信号間の比較測定値のモデルを決定するステップと、
- 前記比較測定値とこの値で取り入れられた前記比較測定値
の前記モデルとの差の最小化を可能にする前記指向誤差の値を探索するステップと
を行うことによって、前記アンテナの指向誤差を決定するように構成される、請求項1~3のいずれか一項に記載のアンテナの指向誤差を推定するためのシステム。
【請求項5】
前記ペイロード(CU)が、
前記マルチチャネル受信機を含み、指向誤差を推定するための前記推定デバイス(EST)が、少なくとも2つの受信チャネルに対して、少なくとも2つのテスト信号のデジタル化時間サンプルシーケンスを受信するように構成され、前記
デジタル化時間サンプルシーケンスが、前記1組のデジタル集積回路(PN)
の様々なチャネルから同時に取得される、請求項1~4のいずれか一項に記載の衛星のアンテナの指向誤差を推定するためのシステム。
【請求項6】
少なくとも2つのテスト地上局(ST
1、ST
2)をさらに含む、請求項5に記載の衛星のアンテナの指向誤差を推定するためのシステムであって、各テスト地上局が、前記衛星に向けてテスト信号を送信する(201)ように構成される、システム。
【請求項7】
各テスト地上局が、全く同一の周波数で次々と又は同じ誤差の影響を受けるほど十分に近い別個の周波数で同時に、前記テスト信号を送信するように構成される、請求項5又は6に記載の衛星のアンテナの指向誤差を推定するためのシステム。
【請求項8】
前記ペイロードが、
前記マルチチャネル送信機を含み、指向誤差を推定するための前記推定デバイス(EST)が、地上局で実装され、異なる地上局によって受信された各テスト信号が、前記アンテナによって、前記衛星の前記視点から異なる送信方向(θ
A、θ
B)に沿って送信される、請求項1~4のいずれか一項に記載の衛星のアンテナの指向誤差を推定するためのシステム。
【請求項9】
少なくとも2つのテスト地上局(ST
1、ST
2)をさらに含み、各テスト地上局が、
- 前記衛星の前記視点から異なる方向に沿って前記衛星によって送信されたテスト信号を受信するステップ(401)と、
- 前記地上で受信された前記テスト信号を前記衛星
のそれぞれの送信チャネルに対応するいくつかの信号に分離するステップ(402)と、
- 指向誤差を推定するための前記
推定デバイスに、少なくとも2つの別個の送信チャネルに対して受信された前記それぞれのテスト信号を発信するステップと
を行うように構成される、請求項8に記載の衛星のアンテナの指向誤差を推定するためのシステム。
【請求項10】
前記衛星によって送信された前記テスト信号への多元接続のための手順を適用するように構成された、請求項8又は9に記載の衛星のアンテナの指向誤差を推定するためのシステム。
【請求項11】
衛星のアンテナの指向誤差を推定するための方法であって、前記衛星が、マルチチャネルアンテナを含むマルチチャネル送信機又は受信機と、1つのチャネルあたり1つのアナログ処理チェーンと、1組のデジタル集積回路とを含むペイロードを含む、方法であり、
-
前記衛星の前記送信
機の少なくとも2つのチャネルに対して、少なくとも2つのテスト信号を取得するステップ(202、403)であって、各テスト信号が、
前記衛星の前記アンテナによって、前記衛星の視点から異なる方向(θ
A、θ
B)に沿って送
信されている
か、前記衛星の前記受信機の少なくとも2つのチャネルに対して、少なくとも2つのテスト信号を取得するステップ(202、403)であって、各テスト信号が、前記衛星の前記アンテナによって、前記衛星の視点から異なる方向(θ
A
、θ
B
)に沿って受信されている、ステップ(202、403)と、
-
前記少なくとも2つのテスト信号のうち少なくとも1対の取得
されたテスト信号に対して、2つの別個のチャネルにおいてそれぞれ受信又は送信された前記テスト信号間の相対複素利得を各テスト信号に対して決定するステップ(203)と、
- 前記2つの相対複素利得間の比率及び/又は前記2つの相対複素利得の位相間の差から前記2つのテスト信号間の比較測定値を決定するステップ(204)と、
- 前記比較測定値、前記テスト信号の送信又は受信
の予期方向並びに各チャネルに対する及び多数の方向における前記アンテナ
の利得のモデルに基づいて、前記アンテナの指向誤差(dθ)を決定するステップ(205)と
を含む、方法。
【請求項12】
前記指向誤差(dθ)に基づいて前記アンテ
ナの指向を補正するステップ(206、404)をさらに含む、請求項11に記載の衛星のアンテナの指向誤差を推定するための方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衛星通信システムの分野に関し、より正確には、衛星上に設置され、送信モード又は受信モードで動作する能動アンテナの分野に関する。
【0002】
本発明は、衛星アンテナの指向誤差を推定するためのシステム及び方法に関する。
【背景技術】
【0003】
本発明は、衛星に搭載された能動アンテナ(具体的には、反射鏡を有するアンテナの事例だが、それだけとは限らない)の指向誤差の精密な決定における問題の解決法を提案する。
【0004】
アンテナの指向誤差は、機械的に制御されるアンテナの照準方向と実際の方向との差に相当する。実際には、特に、アンテナの機械的リンクの熱弾性変形、衛星の動的変形、及び、その角度安定性又は不完全な姿勢が原因で、所望の方向と実際の方向との間に大差が存在し得る。
【0005】
現に、アンテナの指向方向は、衛星の姿勢に基づいて、衛星と関係している基準系において決定される。しかし、衛星の姿勢の決定及び維持は、非ゼロ許容誤差(典型的には、1日超で0.1°程度)でのみ可能である。この誤差の影響は、アンテナの指向精度まで尾を引き、従って、アンテナの基準系又は地上の基準系のそれぞれに相対的に、衛星のアンテナによって受信又は送信される信号の到達方向への影響をもたらす。
【0006】
この精度不足は、ある用途に対して害を及ぼし得る。特に、ペイロードの様々な処理チャネルの精密な較正を実行することを希望する際は、アンテナの指向方向を精密に知る必要がある。
【0007】
その上、限られたサイズのスポットに照射するマルチビームアンテナの事例では、アンテナ有効範囲の安定性を保証するために、アンテナの指向を精巧に制御する必要性も存在する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
衛星アンテナの指向誤差を精密に推定するための様々な解決法が存在する。
【0009】
第1の解決法は、少数の供給源からなる指向測定専用のいわゆる「RF検知」システムをアンテナに装備するか、又は、まさに特有のアンテナ及び電子処理機器を装備するものである。このシステムは、アンテナに機械的に結合しなければならない。
【0010】
この解決法の欠点は、衛星の質量及び消費量の増加を伴うことである。また、追加の供給源がアンテナの挙動を妨害しないことを保証することも必要になる。結局、かさばり、質量及び消費量に関する影響を無視できないことが分かる。
【0011】
第2の解決法は、アンテナの機械的リンクに対する熱弾性効果を無視するものである。次いで、衛星の姿勢に基づいてアンテナの指向が推定され、その推定は、星の測定を実行する光センサ(「スタートラッカ」タイプのもの)を用いて行われる。この解決法は、経済的ではあるが、アンテナの指向における予期精度を得ることはできない。
【0012】
第3の解決法は、受信モードのアンテナの事例において、様々な地理的位置にある様々な地上局から既知の周波数でいくつかの信号を送信し、次いで、ペイロードのデジタルプロセッサにおいて、アンテナの下流にある様々な無線周波数チェーンから生じた信号のコヒーレント取得を実行するものである。1組のチャネルにわたってデジタル化されたシーケンスを基に、信号の相関行列の推定及び雑音/信号固有部分空間分解に基づいて、MUSICタイプのアルゴリズムを実装することができる。これにより、地上局によって送信された信号の到達方向の推定が可能になる。
【0013】
しかし、この技法は、好ましくない信号対雑音比や、とりわけ、無線周波数チェーンの遅延、位相及び利得に関する不完全性の影響を強く受けることで知られている。
【0014】
その上、この手順は、送信モードのアンテナに対する適用が難しく、その理由は、相関行列を構築するために、地上で受信された信号内で、アンテナの多様な放射要素によって送信された(同時に送信された)信号を区別する必要があるためである。信号の分離は、大多数の放射要素が同時に送信する事例において、測定精度を低下する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、受信モード又は送信モードのアンテナの指向誤差の推定における問題の新規の解決法を提案する。
【0016】
その解決法は、2つの異なる方向に沿ってテスト信号の送信又は受信を行う少なくとも2つの地上局を採用することに基づく。信号は、衛星上で又は地上で処理され、様々な方向におけるアンテナの利得のモデルに基づいてアンテナの指向方向が精密に決定される。
【0017】
提案される解決法により、質量及び消費量に影響を及ぼす衛星搭載の特定の手段を必要とすることなく、アンテナの指向の推定精度を向上することができる。得られる精度は、ペイロードのアナログ無線周波数チェーン間の分散とは無関係である。また、得られる精度は、様々な地上局によって送信される信号間の伝播状態の変動や、地上局のアナログ無線周波数チェーン間の分散とも無関係である。また、その解決法は、衛星によって提供されるサービスに影響を及ぼすことはない。その解決法は、アンテナ誤指向の規則的な又はまさに継続的な推定を可能にする。推定の精度レベルは、より多くの地上局、様々な周波数又は衛星搭載のいくつかの受信/送信チャネルを利用することによってさらに向上することができる。
【0018】
本発明の対象は、衛星のアンテナの指向誤差を推定するためのシステムであって、衛星が、マルチチャネルアンテナを含むマルチチャネル送信機又は受信機と、1つのチャネルあたり1つのアナログ処理チェーンと、1組のデジタル集積回路とを含むペイロードを含む、システムであり、衛星上で実装されるか又は地上局で実装されるアンテナの指向誤差を推定するための推定デバイスを含む、システムであり、指向誤差を推定するためのデバイスが、
- 送信機又は受信機の少なくとも2つのチャネルに対して、少なくとも2つのテスト信号を取得するステップであって、各テスト信号が、アンテナによって、衛星の視点から異なる方向に沿って送信又は受信されている、ステップと、
- 少なくとも1対の取得テスト信号に対して、2つの別個のチャネルにおいてそれぞれ受信又は送信されたテスト信号間の相対複素利得を各テスト信号に対して決定するステップと、
- 2つの相対複素利得間の比率及び/又は2つの相対複素利得の位相間の差から2つのテスト信号間の比較測定値を決定するステップと、
- 比較測定値、テスト信号の送信又は受信の予期方向並びに各チャネルに対する及び多数の方向におけるアンテナの利得のモデルに基づいて、アンテナの指向誤差を決定するステップと
を行うように構成される、システムである。
【0019】
本発明の特定の態様によれば、各テスト信号は、少なくとも1つのスペクトル線から構成される。
【0020】
本発明の特定の態様によれば、指向誤差を推定するためのデバイスは、異なる方向、異なる複数対の別個のチャネル又はテスト信号のいくつかの周波数において送信又は受信された複数対のテスト信号に基づいて、指向誤差の多数の推定値を決定するように構成される。
【0021】
本発明の特定の態様によれば、指向誤差を推定するためのデバイスは、
- アンテナの利得のモデルに基づいて、アンテナの指向誤差、周波数及びテスト信号の送信又は受信方向(θA、θB)に応じて、2つのテスト信号間の比較測定値のモデルを決定するステップと、
- 比較測定値とこの値で取り入れられた比較測定値モデルとの差の最小化を可能にする指向誤差の値を探索するステップと
を行うことによって、アンテナの指向誤差を決定するように構成される。
【0022】
本発明の特定の態様によれば、ペイロードは、マルチチャネル受信機を含み、指向誤差を推定するためのデバイスは、少なくとも2つの受信チャネルに対して、少なくとも2つのテスト信号のデジタル化時間サンプルシーケンスを受信するように構成され、時間サンプルシーケンスは、1組のデジタル集積回路において様々なチャネルから同時に取り出される。
【0023】
本発明の特定の態様によれば、指向誤差を推定するためのシステムは、少なくとも2つのテスト地上局をさらに含み、各テスト地上局は、衛星に向けてテスト信号を送信するように構成される。
【0024】
本発明の特定の態様によれば、各テスト地上局は、全く同一の周波数で次々と又は同じ誤差の影響を受けるほど十分に近い周波数で同時に、テスト信号を送信するように構成される。
【0025】
本発明の特定の態様によれば、ペイロードは、マルチチャネル送信機を含み、指向誤差を推定するためのデバイスは、地上局で実装され、異なる地上局によって受信された各テスト信号は、アンテナによって、衛星の視点から異なる送信方向に沿って送信される。
【0026】
本発明の特定の態様によれば、指向誤差を推定するためのシステムは、少なくとも2つのテスト地上局をさらに含み、各テスト地上局は、
- 衛星の視点から異なる方向に沿って衛星によって送信されたテスト信号を受信するステップと、
- 地上で受信されたテスト信号を衛星の送信チャネルに対応するいくつかの信号に分離するステップと、
- 指向誤差を推定するためのデバイスに、少なくとも2つの別個の送信チャネルに対して受信されたテスト信号を発信するステップと
を行うように構成される。
【0027】
本発明の特定の態様によれば、システムは、衛星によって送信されたテスト信号への多元接続のための手順を適用するように構成される。
【0028】
また、本発明の対象は、衛星のアンテナの指向誤差を推定するための方法であって、衛星が、マルチチャネルアンテナを含むマルチチャネル送信機又は受信機と、1つのチャネルあたり1つのアナログ処理チェーンと、1組のデジタル集積回路とを含むペイロードを含む、方法であり、
- 送信機又は受信機の少なくとも2つのチャネルに対して、少なくとも2つのテスト信号を取得するステップであって、各テスト信号が、アンテナによって、異なる方向に沿って送信又は受信されている、ステップと、
- 少なくとも1対の取得テスト信号に対して、2つの別個のチャネルにおいてそれぞれ受信又は送信されたテスト信号間の相対複素利得を各テスト信号に対して決定するステップと、
- 2つの相対複素利得間の比率及び/又は2つの相対複素利得の位相間の差の中から2つのテスト信号間の比較測定値を決定するステップと、
- 比較測定値、テスト信号の送信又は受信の予期方向並びに各チャネルに対する及び多数の方向におけるアンテナの利得のモデルに基づいて、アンテナの指向誤差を決定するステップと
を含む、方法でもある。
【0029】
変形形態によれば、本発明による方法は、指向誤差に基づいてアンテナの指向を補正するステップをさらに含む。
【0030】
添付の図面は本発明を示す。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】本発明の第1の実施形態による、受信モードで動作している衛星のアンテナの指向誤差を推定するためのシステムの図を表す。
【
図2】
図1のシステムを用いて指向誤差を推定するための方法を実行するステップを詳述するフローチャートを表す。
【
図3】本発明の第2の実施形態による、送信モードで動作している衛星のアンテナの指向誤差を推定するためのシステムの図を表す。
【
図4】
図3のシステムを用いて指向誤差を推定するための方法を実行するステップを詳述するフローチャートを表す。
【発明を実施するための形態】
【0032】
図1及び2は、受信モードの衛星のアンテナの指向誤差を推定するためのシステム及び方法の実装形態を示す。
【0033】
図1で説明されるシステムは、軌道上の衛星のペイロードCUと、少なくとも2つの地上局ST
1、ST
2とを含む。
【0034】
各地上局ST1、ST2は、特に、衛星の方に向けられたアンテナと、衛星と通信するための送信チェーンと、デジタルアナログ変換器とを含む。本発明による方法が地上で実装される事例では、少なくとも1つの地上局ST2又は地上局ST2とインタフェースを取る他の何らかのリモート機器は、受信チェーンと、アナログデジタル変換器と、セキュアリンクLSを介して衛星と通信するための手段と、受信したデジタル化信号を格納するためのメモリと、信号を処理するための演算デバイスとを含む。リンクLSは、例えば、誤差補正コードタイプの誤差保護機構を採用することによって、安全保障されている。
【0035】
ペイロードCUは、いくつかの放射要素からなる1つ若しくは複数のアンテナANT又はアンテナアレイを含む。各放射要素は、信号を受信し、その信号は、ペイロードCUにおいて処理チャネルによって処理される。従って、ペイロードCUは、マルチチャネルオペレーションを呈する。チャネルは、アンテナANTの放射要素に相当する。
図1では、簡単にするため、2つの受信チャネルを含むペイロードを表しているが、チャネルの数は、一般に、それより多い。
【0036】
各処理チャネルは、アナログ無線周波数チェーンRF1、RF2を含み、アナログ無線周波数チェーンRF1、RF2は、受信した信号の周波数転移を実行するための1つ又は複数のフィルタ、1つ又は複数の増幅器及び任意選択により1つ又は複数の混合器からなる。
【0037】
各アナログ無線周波数受信チェーンの出力には、アナログ信号をデジタル信号に変換するために、アナログデジタル変換器ADC1、ADC2が位置付けられており、デジタル信号は、1組のデジタル集積回路PNに提供される。各デジタル集積回路は、例えば、特定の用途向けの集積回路(「特定用途向け集積回路」の英頭字語ASICでも知られている)、現場でプログラム可能なゲートアレイ(「フィールドプログラマブルゲートアレイ」の英頭字語FPGAでも知られている)、1組の論理ゲート又は信号プロセッサ若しくは汎用プロセッサである。
【0038】
1組のデジタル集積回路PNは、例えば、1つの処理チャネルあたり1つのデジタルフィルタと、1組の処理チャネルに共通のビームフォーミング機能を実行するビームフォーミング回路FFCとを含む。ビームフォーミング回路FFCの機能は、特に、有効信号を受信できるように、アンテナの基準系に関連して、所望の方向にビームを形成するために、受信信号を線形結合して特定の複素利得セット(振幅及び位相)を得ることである。複素利得を得るための受信信号の特定の結合は、結合法則又はビームフォーミング法則を構成する。
【0039】
図1の例は、単なる非限定的な例示として提供される。具体的には、1組のデジタル集積回路は、
図1のものとは異なるモジュール式アーキテクチャを呈し得る。例えば、デジタル集積回路は、各チャネルに対する幾通りものデジタル集積回路、又は、チャネルのサブグループに対して並列且つカスケード動作するいくつかのビームフォーミング集積回路を含み得る。
【0040】
すべてのアーキテクチャの事例では、1組のデジタル集積回路は、例えば、アナログデジタル変換器ADC1、ADC2の出力において、1組のチャネルのデジタル信号を全く同一の時間間隔にわたってコヒーレントに捕捉又は記録するためのメモリMEM(例えば、メモリ)を含む。本発明の一実施形態では、1組のデジタル集積回路PNは、メモリMEMによって捕捉されたデジタル信号に基づいてアンテナANTの指向誤差を推定するためのデバイスESTをさらに含む。このデバイスESTは、例えば、ソフトウェア要素及び/又はハードウェア要素を含む搭載コンピュータによって具体化される。本発明の別の実施形態では、指向誤差を推定するためのデバイスESTは、地上局ST1、ST2又は地上の他の何らかの機器に位置する。
【0041】
本発明による方法は、少なくとも2つの地上局によって、2つの異なる到達方向θA、θBに、少なくとも2つのテスト信号を発信するステップ201から始まる。本発明の範囲から逸脱することなく、2つを超える地上局を使用することができ、その各々は、異なる方向から衛星に向けてテスト信号を送信する。到達方向は、衛星の視点から異なるものでなければならない。この制約を満たすため、地上局は、例えば、異なるスポットに位置する。スポットは、マルチビームアンテナ有効範囲のビームに対応する。
【0042】
テスト信号は、例えば、有効信号との干渉を避けることができる所定の周波数のスペクトル線からなる狭帯域信号である。また、テスト信号は、別の既定の信号によって変調された搬送波からなり得る。地上局ST1、ST2は、全く同一の周波数で次々と、又は、異なる周波数だが、伝播、RFチェーン及びアンテナによって同じように影響を受けるほど十分に近い周波数で同時に、送信する。テスト信号は、前もって衛星及び地上局に知られている。
【0043】
衛星によって受信された信号は、各チャネルの無線周波数チェーンRF1、RF2によって衛星上で処理され、次いで、変換器ADC1、ADC2によってデジタル化される。
【0044】
本発明による方法の第2のステップ202では、少なくとも2つの別個のチャネルに対して全く同一の時間間隔にわたってデジタル化信号がコヒーレントに取得される。例えば、信号は、2つのチャネルのアナログデジタル変換器の出力において又は1組のデジタル集積回路の他の場所で直接取り出され、唯一の制約は、2つの別個のチャネルに対応する信号を同時に取り出され得ることである。
【0045】
少なくとも2つの別個のチャネルにおいて同時にデジタル化された信号に基づいて、2つの異なる到達方向において受信された少なくとも2つのテスト信号に対して、本発明による方法の以下のステップは、アンテナの指向誤差の推定値を決定することを目的とする。これらのステップは、衛星上で1組のデジタル集積回路PNにおいて実行することも、衛星上に設置されたコンピュータによって又はテスト信号の送信のために使用される地上の地上局ST
1、ST
2のうちの1つ若しくは他の何らかの機器に設置されたコンピュータによって実行することもできる。
図1は、1組のデジタル集積回路PNにおいて実装された推定デバイスESTによって指向誤差の演算が実行される事例を図示する。
【0046】
少なくとも2つのチャネルの各々に対して、テスト信号の有効搬送波付近の信号のデジタルフィルタリングのステップは、地上局によって送信されたスペクトル線の精密な回復を可能にする。
【0047】
その後、ステップ203では、2つの地上局ST1、ST2による送信信号に相当する受信テスト信号の各々に対して、ペイロードの2つの受信チャネル間の相対複素利得が決定される。相対複素利得は、第1のチャネルのデジタル信号と第2のチャネルのデジタル信号との間の相互相関演算を実行することによって決定される。現に、較正信号は各チャネルにおいて同様に伝播されるため、信号の相互相関の結果、相対利得を得ることができ、相対利得は、2つの処理チャネル間の相対利得及び相対位相を含む。相互相関演算は、例えば、相関演算によって時間領域において直接実行されるか、又は、当業者に知られている技法に従って、2つの直接フーリエ変換、複素共役、虚数乗法及び間接フーリエ変換によって周波数領域において間接的に実行される。
【0048】
dθをアンテナANTの指向誤差とする。
【0049】
従って、アンテナANTによってθ
A+dθの方向に観測される地上局ST
1の場合、テスト信号の周波数fに対する相対複素利得の第1の測定値は、以下のように実行される。
【数1】
【0050】
従って、アンテナANTによってθ
B+dθの方向に観測される地上局ST
2の場合、テスト信号の周波数fに対する相対複素利得の第2の測定値は、以下のように実行される。
【数2】
【0051】
相対複素利得の各測定値は、いくつかの項の積に相当する。ρk,1(Antennaf,θA+dθ)及びρk,1(Antennaf,θB+dθ)の項は、周波数fに対するθA+dθ及びθB+dθのそれぞれの方向におけるアンテナの利得に相当する。
【0052】
ρk,1(RFf)及びρk,1(DAC)の項は、これらの2つのチャネルの周波数fに対する無線周波数チェーンの挙動の差及びこれらの2つのチャネルのアナログデジタル変換器の挙動の差のそれぞれに関連する2つのチャネル間の利得比に相当する。これらの項は、2つの測定値に共通である。
【0053】
以下のステップ204では、ステップ203において決定された相対利得の2つの測定値間の比率が決定される。
【数3】
【0054】
この比率を演算することにより、2つの測定値に共通の項が互いに相殺し合い、アンテナの利得に関連する寄与のみが保持される。
【0055】
別のステップ205では、ステップ204において演算された比率は、その後、信号の到達方向及び周波数に応じて、アンテナの利得のモデルと比較される。このモデル、ステップ204において演算された比率及びテスト信号の予期到達方向の値に基づいて、指向誤差dθの推定値がそこから推測される。
【0056】
到達方向θA、θBは、地上局ST1、ST2及び衛星の既知の位置並びに衛星のアンテナの基準系に基づいて決定される。
【0057】
指向誤差dθを決定するための可能な手順は、前述のステップ204において決定された比率とθA+dθ及びθB+dθのそれぞれの方向に対するモデルに基づいて決定されたアンテナ利得の比率との誤差の最小化を可能にするdθの値を探索するものである。適切ないかなる数値解法の手順も、dθの推定値の決定を可能にする。
【0058】
最後のステップ206では、推定指向誤差を使用して、機械的に又は推定誤指向dθを積分するためにビームフォーミング法則を適応させることによって、アンテナの指向が補正される。
【0059】
本発明による方法の変形実施形態では、指向誤差dθのいくつかの推定値が決定される。
【0060】
例えば、2つを超える地上局を使用することができ、この事例では、異なる到達方向に沿って受信された様々な対のテスト信号に対して、相対利得のいくつかの比率が演算される。
【0061】
別の解決法は、ペイロードにおいて2つを超える受信チャネルを利用するものである。この事例では、様々な対の受信チャネルに対して、相対利得のいくつかの比率が演算される。
【0062】
最後に、いくつかのテスト信号を異なる周波数で順番に送信することができる。この事例では、様々な周波数に対して、相対利得のいくつかの比率が演算される。
【0063】
上記で説明される3つの変形形態(いくつかの地上局、いくつかの受信チャネル及びいくつかの周波数)は、共に組み合わせることができる。
【0064】
指向誤差のいくつかの推定値の使用における利点は、この使用により、例えば、いくつかの誤差dθの値が利得測定値の比率とアンテナ利得モデルに基づいて決定された利得値の比率との同等性を成立させる場合、潜在的な曖昧さを取り除くことが可能になることである。
【0065】
本発明による方法の別の変形実施形態では、相対複素利得の位相のみ又は振幅のみが利用される。この事例では、ステップ204において演算された複素利得の比率は、振幅比又は位相差と置き換えられる。
【0066】
図3及び4は、送信モードのアンテナに適用された本発明の別の変形実施形態を説明する。
【0067】
図3は、送信モードで動作しているアンテナANTを含む軌道上の衛星のペイロードCUを表す。ペイロードCUは、N個のチャネルにおいて送信モードでビームフォーミング機能を実行している1組のデジタル集積回路PNと、各チャネルの出力におけるデジタルアナログ変換器と、デジタルアナログ変換器の出力といくつかの放射要素からなる1つ若しくは複数のアンテナANT又はアンテナアレイとの間に接続されたRF送信チェーンとを含む。送信モードの各処理チャネルは、アナログ無線周波数チェーンRF
1、RF
2を含み、アナログ無線周波数チェーンRF
1、RF
2は、信号の周波数転移を実行するための1つ又は複数のフィルタ、1つ又は複数の増幅器及び任意選択により1つ又は複数の混合器からなる。各放射要素は、送信チャネルと関連付けられる。従って、ペイロードCUは、マルチチャネルオペレーションを呈する。
図3では、2つの送信チャネルを含むペイロードを表しているが、チャネルの数は、一般に、それより多い。
【0068】
図4は、フローチャートにおいて、アンテナANTの指向誤差を推定して補正するための方法を実行するステップを詳述する。
【0069】
第1のステップ401では、1組のデジタル集積回路PNにおいて、以前に説明されたものと同様のテスト信号が生成される。例えば、テスト信号は、メモリMEMにデジタル方式で格納し、次いで、各処理チャネルのデジタルアナログ変換器DAC1、DAC2に発信することができる。
【0070】
テスト信号が地上で受信された際に送信チャネルを分離できるようにするため、多元接続技法を使用して、様々な送信チャネルにおいてテスト信号が送信される。多元接続技法は、例えば、拡散符号分割多元接続技法(CDMAタイプのもの)であり、この事例では、生成されたデジタルテスト信号は、各送信チャネルに対して異なる拡散符号で拡散される。別の可能な多元接続技法は、周波数分割多元接続技法(FDMAタイプのもの)であり、各送信チャネルに対して異なる周波数でテスト信号を変調するものである。デジタル信号は、事前に演算し、メモリ又はレジスタMEMに格納することができる。
【0071】
従って、テスト信号は、アンテナANTの1組の送信チャネルにおいて、2つの異なる方向θA、θBで少なくとも2つの地上局ST1、ST2に発信される。
【0072】
地上局ST1、ST2の各々では、送信チャネルによって、使用される多元接続技法(例えば、CDMA、FDMA又は他のタイプのもの)に応じて信号が分離され(402)、次いで、デジタル化される(403)。
【0073】
その後、アンテナANTの指向誤差の推定値を決定するために、
図2で説明されるステップ203、204、205が同様に適用される。
【0074】
指向誤差の推定値の演算は、地上局ST1、ST2のうちの1つにおいて又は地上機器(地上局ST1、ST2に接続されても接続されなくともよい)において実行される。
【0075】
その後、アンテナの指向の補正のために、セキュアリンクLSを介して衛星に指向誤差が発信される(404)。