(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-24
(45)【発行日】2024-08-01
(54)【発明の名称】新規ガンマ線照射処理物
(51)【国際特許分類】
C08B 37/00 20060101AFI20240725BHJP
C12P 19/04 20060101ALI20240725BHJP
A23L 33/10 20160101ALI20240725BHJP
A61K 41/00 20200101ALI20240725BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240725BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20240725BHJP
A61K 8/9722 20170101ALI20240725BHJP
A61K 8/73 20060101ALI20240725BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20240725BHJP
A61Q 19/08 20060101ALI20240725BHJP
A61K 31/736 20060101ALI20240725BHJP
A61K 36/05 20060101ALN20240725BHJP
【FI】
C08B37/00 P
C12P19/04 Z
A23L33/10
A61K41/00
A61P43/00 111
A61P17/00
A61K8/9722
A61K8/73
A61Q19/00
A61Q19/08
A61K31/736
A61K36/05
(21)【出願番号】P 2020060276
(22)【出願日】2020-03-30
【審査請求日】2022-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】591145335
【氏名又は名称】パナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112874
【氏名又は名称】渡邊 薫
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 剛毅
(72)【発明者】
【氏名】大木 利哉
(72)【発明者】
【氏名】小出 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】安部 覚
(72)【発明者】
【氏名】木下 八州子
(72)【発明者】
【氏名】竹村 美香
【審査官】澤田 浩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-193446(JP,A)
【文献】特開2016-216750(JP,A)
【文献】特開2014-105202(JP,A)
【文献】特開2014-025035(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L,A61K,A61P,A61Q,
C08B,C12P
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パラクロレラ属単細胞緑藻類由来多糖体のガンマ線照射処理物。
【請求項2】
前記多糖体のガンマ線照射処理物が、重量平均分子量10,000未満の分子量分布を有し、当該分布領域の割合が50%以上である、請求項1記載のガンマ線照射処理物。
【請求項3】
前記多糖体のガンマ線照射処理物が、重量分子量1,000以上10,000未満と、重量分子量1,000未満の分子量分布とを少なくとも有し、それぞれの分布領域の割合が45~65%と10~30%とである、請求項1又は2記載のガンマ線照射処理物。
【請求項4】
前記ガンマ線照射が、照射強度1~1000kGyでの照射である、請求項1~3の何れか一項に記載のガンマ線照射処理物。
【請求項5】
前記パラクロレラ属単細胞緑藻類由来多糖体が、多糖の基本構造の糖残基が少なくともガラクトースとマンノースとで構成されており、当該ガラクトースにフラノース型が存在する多糖体である、請求項1~4の何れか一項に記載のガンマ線照射処理物。
【請求項6】
前記パラクロレラ属単細胞緑藻類が、パラクロレラ属ケッセリである、請求項1~5の何れか一項に記載のガンマ線照射処理物。
【請求項7】
請求項1~6の何れか一項に記載のパラクロレラ属単細胞緑藻類由来多糖体のガンマ線照射処理物を含む、組成物。
【請求項8】
前記組成物が、ヒアルロン酸産生促進用組成物又は皮膚外用剤である、請求項7記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、新規ガンマ線照射処理物、及びこれを含む組成物などに関する。
【背景技術】
【0002】
ヒアルロン酸は、体組織への親和性を保つ多糖体の一種であり、グリコサミノグリカンに分類され、N-アセチルグルコサミンとD-グルクロン酸(-3)GlcNAcβ(1-4)GlcAβ(1-)が直鎖上に連結している酸性多糖体である。このヒアルロン酸は、例えば、眼の硝子体、ヘソの緒、皮膚、関節液などの結合組織に広く存在し、血管浸透性にも関与している。特に、ヒアルロン酸は、皮膚に多く存在し、細胞外マトリックスとして重要な役割を果たしている。このため、ヒアルロン酸は、肌のハリや弾力性、潤いなどに深く関与し、ヒアルロン酸の産生量が加齢や日焼けなどによって減少した場合には、乾燥肌、肌荒れ、シミ、シワなどの症状につながる。
【0003】
例えば、特許文献1では、レバン組成物を有効成分とする、ヒアルロン酸産生促進用組成物が提案されている。このレバンは、イネ科やユリ科植物の根などに含まれる多糖体であり、D-フラクトフラノース残基のみからできているホモ多糖体である。
例えば、特許文献2では、ヒネソールを有効成分とするヒアルロン酸産生促進用組成物が提案されている。このヒネソールは植物に含まれている精油成分(セスキテルペノイド)であり、従来抗コリン作用が知られている。
例えば、特許文献3では、トマトの搾汁液を乳酸菌によって発酵させた乳酸菌発酵物を有効成分とするヒアルロン酸産生促進用組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-006725号公報
【文献】特開2018-52843号公報
【文献】特開2017-128537号公報
【文献】特開2014-25035号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本技術は、ヒアルロン酸産生促進作用を有する新たな素材を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、パラクロレラ属単細胞緑藻類由来の多糖体に着目し、この多糖体のヒアルロン酸産生促進作用について検討を行った。
パラクロレラ属単細胞緑藻類を培養して得られた多糖体には、ヒアルロン酸産生促進作用が認められず、この酸加水分解物にもヒアルロン酸産生促進作用が認められなかった。
【0007】
しかしながら、本発明者は、さらに鋭意検討した結果、パラクロレラ属単細胞緑藻類由来多糖体に対してガンマ線照射処理を行うことで、パラクロレラ属単細胞緑藻類由来多糖体の新規なガンマ線照射処理物を得、当該ガンマ線照射処理物に、ヒアルロン酸産生促進作用が発現することを、新たに見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明は、以下のとおりである。
【0008】
本技術は、パラクロレラ属単細胞緑藻類由来多糖体のガンマ線照射処理物を提供する。
本技術は、パラクロレラ属単細胞緑藻類由来多糖体のガンマ線照射処理物を含む、組成物を提供する。
前記多糖体のガンマ線照射処理物が、重量平均分子量10,000未満の分子量分布を有し、当該分布領域の割合が50%以上であってもよい。
前記多糖体のガンマ線照射処理物が、重量分子量1,000以上10,000未満と、重量分子量1,000未満の分子量分布とを少なくとも有し、それぞれの分布領域の割合が45~65%と10~30%とであってもよい。
前記ガンマ線照射が、照射強度1~1000kGyでの照射であってもよい。
前記パラクロレラ属単細胞緑藻類由来多糖体が、多糖の基本構造の糖残基が少なくともガラクトースとマンノースとで構成されており、当該ガラクトースにフラノース型が存在する多糖体であってもよい
前記パラクロレラ属単細胞緑藻類が、パラクロレラ属ケッセリであってもよい。
前記組成物が、ヒアルロン酸産生促進用組成物又は皮膚外用剤であってもよい。
【発明の効果】
【0009】
本技術は、ヒアルロン酸産生促進作用を有する新たな素材を提供することができる。なお、ここに記載された効果は、必ずしも限定されるものではなく、本明細書に記載されたいずれかの効果であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】パラクロレラ属単細胞緑藻類由来多糖体のガンマ線照射処理物におけるGPC分析の測定結果の図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本技術を実施するための好適な実施形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本技術の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本技術の範囲が狭く解釈されることはない。なお、本明細書において百分率は特に断りのない限り質量による表示である。また、各数値範囲の上限値と下限値は、所望により、任意に組み合わせることができる。
【0012】
<1.本技術におけるパラクロレラ属単細胞緑藻類由来多糖体のガンマ線照射処理物>
本技術におけるパラクロレラ属単細胞緑藻類由来多糖体は、以下、「本技術のパラクロレラ多糖体」ともいう。
本技術におけるパラクロレラ属単細胞緑藻類由来多糖体のガンマ線照射処理物は、「本技術のガンマ線照射処理物」ともいう。
【0013】
本技術におけるパラクロレラ属単細胞緑藻類由来多糖体のガンマ線照射処理物は、食してもよい単細胞緑藻類を利用した処理物である。このことから、本技術のガンマ線照射処理物は、安全性に優れ、長期間、連続的に投与しても副作用を心配する必要性も少ないため、非常に有用である。さらに、他の成分や他の組成物との併用においても安全性が高い。
本技術の処理物の形態は、液状、流動状、固形状、粉末状などが挙げられるが、特に限定されない。
【0014】
本技術におけるパラクロレラ多糖体のガンマ線照射処理物は、GPC分析(標品プルラン)において、重量平均分子量10,000以上の分子量分布を有し、当該分布領域の割合は特に限定されないが、その好適な下限値は好ましくは1%以上、より好ましくは5%以上、さらに好ましくは10%以上であり、高分子多糖体によって皮膚表面を保護する観点から、好適である。また、その好適な上限値は、好ましくは50%以下、より好ましくは20%以下、さらに好ましくは10%以下、より好ましくは5%以下であり、浸透作用やヒアルロン酸産生促進作用の観点から、好適である。
【0015】
本技術におけるパラクロレラ多糖体のガンマ線照射処理物は、GPC分析(標品プルラン)において、重量平均分子量10,000未満の分子量分布を有し、当該分布領域の割合は特に限定されないが、その好適な下限値は50%以上であることが好ましく、より好ましくは60%以上、さらに好ましくは70%以上、より好ましくは75%以上、さらに好ましくは80%以上であり、またその好適な上限値は、好ましくは95%以下、より好ましくは90%以下、さらに好ましくは85%以下である。これにより、皮膚浸透作用やヒアルロン酸産生促進作用が発揮しやすく、本技術の効能を発揮することができる。
【0016】
また、本技術におけるパラクロレラ多糖体のガンマ線照射処理物は、GPC分析(標品プルラン)において、重量平均分子量3,000未満の分子量分布を有し、当該分布領域の割合は特に限定されないが、その好適な下限値が、20%以上であることが好ましく、より好ましくは30%以上、さらに好ましくは40%以上、より好ましくは45%以上であり、また、その好適な上限値が、好ましくは70%以下、より好ましくは65%以下、さらに好ましくは60%以下である。
【0017】
また、本技術におけるパラクロレラ多糖体のガンマ線照射処理物は、GPC分析(標品プルラン)において、重量平均分子量1,000未満の分子量分布を有し、当該分布領域の割合は特に限定されないが、その好適な下限値が、5%以上であることが好ましく、より好ましくは10%以上、さらに好ましくは15%以上、より好ましくは20%以上であり、また、その好適な上限値が、好ましくは40%以下、より好ましくは35%以下、さらに好ましくは30%以下である。
【0018】
また、本技術におけるパラクロレラ多糖体のガンマ線照射処理物は、GPC分析(標品プルラン)において、重量平均分子量500未満の分子量分布を有し、当該分布領域の割合は特に限定されないが、その好適な下限値が、1%以上であることが好ましく、より好ましくは3%以上、さらに好ましくは5%以上、より好ましくは8%以上であり、また、その好適な上限値が、好ましくは25%以下、より好ましくは20%以下、さらに好ましくは15%以下である。
【0019】
また、本技術におけるパラクロレラ多糖体のガンマ線照射処理物は、GPC分析(標品プルラン)において、重量平均分子量3,000以上10,000未満の分子量分布を有し、当該分布領域の割合は特に限定されないが、その好適な下限値が、5%以上であることが好ましく、より好ましくは10%以上、さらに好ましくは15%以上、より好ましくは20%以上であり、また、その好適な上限値が、好ましくは45%以下、より好ましくは40%以下、さらに好ましくは35%以下である。
【0020】
また、本技術におけるパラクロレラ多糖体のガンマ線照射処理物は、GPC分析(標品プルラン)において、重量平均分子量1,000以上3,000未満の分子量分布を有し、当該分布領域の割合は特に限定されないが、その好適な下限値が、5%以上であることが好ましく、より好ましくは10%以上、さらに好ましくは15%以上、より好ましくは20%以上であり、また、その好適な上限値が、好ましくは45%以下、より好ましくは40%以下、さらに好ましくは35%以下である。
【0021】
また、本技術におけるパラクロレラ多糖体のガンマ線照射処理物は、GPC分析(標品プルラン)において、重量平均分子量500以上1,000未満の分子量分布を有し、当該分布領域の割合は特に限定されないが、その好適な下限値が、1%以上であることが好ましく、より好ましくは3%以上、さらに好ましくは5%以上、より好ましくは8%以上であり、また、その好適な上限値が、好ましくは25%以下、より好ましくは20%以下、さらに好ましくは15%以下である。
【0022】
本技術において、上述した各重量平均分子量の分布領域の割合と各重量平均分子量の分布領域の割合とを、適宜組み合わせることができる。
前記多糖体のガンマ線照射処理物が、GPC分析(標品プルラン)において、重量分子量1,000以上10,000未満と、重量分子量1,000未満の分子量分布とを少なくとも有し、それぞれの分布領域の割合が40~70%と10~30%とであることが好適であり、より好適には55~65%と15~25%とである。本技術における重量分子量1,000未満の分布領域の処理物は、経皮吸収がされやすい傾向にあり、さらに真皮領域にまで浸透しやすい利点がある。
【0023】
<2.本技術におけるパラクロレラ多糖体のガンマ線照射処理物の製造方法>
本技術におけるパラクロレラ属単細胞緑藻類由来多糖体のガンマ線照射処理物の製造方法として、以下に一例を示すが、本技術は以下の製造方法に限定されない。
本技術のガンマ線照射処理物は、本技術のパラクロレラ多糖体に対して、ガンマ線照射処理を行うことにより、得ることができる。これによりパラクロレラ多糖体の低分子化が可能である。さらに、これにより、ヒアルロン酸産生促進作用や経皮吸収性向上作用を得ることができる。
【0024】
<2-1.本技術のパラクロレラ多糖体に対するガンマ線照射処理>
【0025】
<2-1-1.本技術のガンマ線照射処理に用いられるパラクロレラ多糖体>
本技術に用いられるパラクロレラ多糖体は、パラクロレラ属単細胞緑藻類由来の多糖体であれば特に限定されない。例えば、後述する製造方法(例えば、特許文献4:特開2014-25035号公報参照)にて得ることができ、また、市販品のパラクロレラエキス(パナック社製)などを用いてもよい。
【0026】
パラクロレラ多糖体の形態は、特に限定されず、溶液又は粉末の何れでもよいが、溶液であることが好適であり、当該溶液は、水溶液がより好適である。
【0027】
当該溶液の溶媒は、特に限定されないが、有機溶媒及び/又は水溶媒が好ましく、さらに好ましくは水溶性有機溶媒、水溶媒である。当該水溶性有機溶媒として、例えば低級アルコール(炭素数1~3程度)、多価アルコール類、アセトンなどが挙げられる。当該低級アルコールとして、メタノール、エタノール、n-ブタノールなどが挙げられる。当該多価アルコールとして、1,3-ブチレングリコール、エチレングリコールなどの二価アルコール;グリセリンなどの三価アルコールなどが挙げられる。当該溶媒のうち、これらからなる群から選択される1種又は2種以上を使用することができる。当該溶媒中の水の含有量は、好適には95質量%以上、より好適には99質量%以上、さらに好適には100質量%(すなわち水のみ)である。
【0028】
パラクロレラ多糖体の溶液中の濃度として、特に限定されないが、その好適な下限値として、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上、さらに好ましくは0.1質量%以上であり、また、その好適な上限値として、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは3質量%以下である。当該好適な数値範囲として、より好ましくは0.05~5質量%、さらに好ましくは0.1~1.0質量%である。
【0029】
<2-1-2.本技術のガンマ線照射処理条件>
本技術におけるガンマ線照射処理条件は特に限定されず、ガンマ線照射量(例えば、ガンマ線照射強度、ガンマ線照射線量率、照射時間など)、温度などを適宜調整しながら、多糖体の低分子化を行うことができる。このようにして、本技術のパラクロレラ多糖体に対して、ガンマ線照射を行うことで、本技術のガンマ線照射処理物を得ることができる。
【0030】
本技術のガンマ線照射強度(kGy)として、特に限定されないが、その好適な下限値として、好ましくは1kGy以上、より好ましくは10kGy以上、さらに好ましくは30kGy以上、より好ましくは50kGy以上、より好ましくは60kGy以上であり、また、その好適な上限値として、好ましくは1000kGy以下、より好ましくは500kGy以下、さらに好ましくは200kGy以下、より好ましくは150kGy以下、より好ましくは100kGy以下、より好ましくは90kGy以下、より好ましくは85kGy以下、より好ましくは80kGy以下である。当該数値範囲として、より好ましくは1~1000kGy、さらに好ましくは10~500kGy、より好ましくは60~100kGy、より好ましくは50~90kGyである。
【0031】
本技術のガンマ線照射線量率(kGy/hr)として、特に限定されないが、その好適な下限値として、好ましくは0.1(kGy/hr)以上、より好ましくは1(kGy/hr)以上、さらに好ましくは3(kGy/hr)以上、より好ましくは5(kGy/hr)以上であり、また、その好適な上限値として、好ましくは50(kGy/hr)以下、より好ましくは30(kGy/hr)以下、さらに好ましくは20(kGy/hr)以下、より好ましくは15(kGy/hr)以下である。当該数値範囲として、より好ましくは0.1~50(kGy/hr)、さらに好ましくは1~30(kGy/hr)、よりさらに好ましくは5~15(kGy/hr)である。
【0032】
本技術のガンマ線照射時間(hr)として、特に限定されないが、その好適な下限値として、好ましくは1時間以上、より好ましくは3時間以上、さらに好ましくは5時間以上であり、また、その好適な上限値として、好ましくは100時間以下、好ましくは50時間以下、好ましくは40時間以下、好ましくは20時間以下、より好ましくは15時間以下、さらに好ましくは10時間以下である。当該数値範囲として、より好ましくは1~20時間、さらに好ましくは5~10時間、よりさらに好ましくは7~8時間である。
【0033】
本技術のガンマ線照射する際の雰囲気の種類として、特に限定されないが、窒素、希ガスなどの不活性ガス;空気、二酸化炭素などが挙げられる。
本技術のガンマ線照射する際の雰囲気の温度として、特に限定されないが、常温(20~30℃程度)が好ましく、溶液の場合には水温が20~30℃程度の常温が好ましい。
【0034】
本技術のパラクロレラ多糖体のガンマ線照射処理物は、適宜、公知の分離・精製技術、例えば液々分液、固液分液、ろ過膜、活性炭、吸着樹脂、イオン交換樹脂などを用いてもよい。これによって、当該ガンマ線照射処理物から不活性な不純物を除去したり、当該ガンマ線照射処理物を更に所望とする分子量範囲の画分になるように分離・精製してもよい。
【0035】
<2-2.本技術のパラクロレラ多糖体>
本技術のガンマ線照射処理に用いられるパラクロレラ多糖体は、パラクロレラ属単細胞緑藻類由来の多糖体であれば特に限定されない。当該パラクロレラ多糖体は、多糖の基本構造の糖残基が少なくともガラクトース(以下「Gal」ともいう)とマンノース(以下「Man」ともいう)とを主体として構成されるものが好適である。当該ガラクトースはD-Galが好ましく、また、当該マンノースはD-マンノースが好ましい。当該ガラクトースは、少なくともフラノース型が存在するのがより好適であり、当該多糖体のガラクトースの主体(9割以上)は、D-ガラクトフラノースであることが好ましい。当該多糖体は、1,5-β-D-ガラクトフラノースの構造を有することがより好適である。
【0036】
前記マンノースとガラクトースとの糖残基の比率は、特に限定されないが、好適には、マンノースを1としたときに、好ましくはMan 1:Gal 2~4、より好ましくはMan 1:Gal 2.5~3.5である。
【0037】
前記ガラクトースの含有量は、多糖体の中性単糖組成の全量を100質量%としたとき(以下、「全中性糖中」とする)に、好ましくは50~79質量%であり、より好ましくは60~79質量%である。
本開示の多糖体の中性単糖組成は、マンノース及びガラクトースの他に、アラビノース(以下、「Ara」ともいう)、ラムノース(以下、「Rha」ともいう)及びキシロース(以下、「Xyl」ともいう)が含まれてもよい。
【0038】
これらの含有量は、多糖体の中性単糖組成の全量を100質量%としたとき(以下、「全中性糖中」とする)に、好ましくは0~16質量%、より好ましくは5~16質量%である。さらに、アラビノース、ラムノース及びキシロースの含有量は、全中性糖中、それぞれ、アラビノース 3~7質量%、ラムノース 2~6質量%、キシロース 0~3質量%であるのが好適である。
このときマンノース及びガラクトースのこれら含有量は、全中性糖中、好ましくは84~100質量%である。このマンノースの含有量は、全中性糖中、好ましくは19~25質量%であり、またガラクトースの含有量は、全中性糖中、好ましくは65~75質量%である。
【0039】
本技術のパラクロレラ多糖体の分子量は、特に限定されないが、GPC測定において、好ましくは104~106であり、より好ましくは3~50×104、より好ましくは4~20×104である。
また、本技術のパラクロレラ多糖体は水溶性のものが、様々な分野の用途で利用しやすいので、好適である。
また、本技術のパラクロレラ多糖体は、酸性多糖体の分類に属さいない多糖体(例えば、中性多糖体)であることが好適である。
【0040】
本技術のパラクロレラ多糖体は、パラクロレラ属単細胞藻類を用いることにより得ることができる。
より好適には、パラクロレラ属単細胞緑藻類を炭素源含有培養培地で好気的な条件下で従属培養し、多糖体を生産することが好適であり、さらに当該多糖体を回収することがより好適であり、当該緑藻類は改変したものでもよい。
前記培養の溶存酸素濃度が、3~13ppmであることが好適である。
前記培養後、遠心分離及びろ過を単独で又は2種組み合わせて藻体を除去した後に凍結乾燥し、さらに水溶液に溶解後、水溶性画分を回収することが好適である。
【0041】
<2-3.本技術のパラクロレラ多糖体の製造方法>
本技術のパラクロレラ多糖体の製造方法は、パラクロレラ多糖体を産生することが可能であれば、その手段は特に限定されないが、細菌や藻類などの微生物又はこの改変体を用いることが好適である。当該改変体とは、本技術のパラクロレラ多糖体を産生することが可能な機能を有する微生物の遺伝子組み換え体、突然変異体などであり、必要に応じて生産性や耐久性などを向上させてもよい。
【0042】
前記パラクロレラ属単細胞緑藻類は特に限定されないが、このパラクロレラ属のなかで、好ましくはパラクロレラ属ケッセリ(Parachlorella kessreli)である。
当該パラクロレラ属ケッセリは特に限定されないが、このケッセリのなかで、より好ましくはParachlorella kessleri-PNC1株(FERM BP-11493)が好適である。
本技術において、使用する藻株と実質的に同質の藻株であればよい。実質的に同質の藻株とは、その18SrRNA遺伝子の塩基配列が、それぞれ99.5%以上(好適には99.8%以上、さらに好適には100%)一致し、かつ好ましくは上述した藻株と同一の藻類学的性質(形態観察及び細胞外多糖体産生)を有する。さらに本技術の藻株は、本技術の効果(特に本技術のパラクロレラ多糖体の産生能)を同など程度以上に有する限り、上述した藻株又はそれと実質的に同質の藻株から、変異処理、遺伝子組換え、自然変異株の選択などによって育種された藻株であってもよい。
【0043】
前記パラクロレラ属単細胞緑藻類を培養して多糖体を製造させる際に用いる培地として、一般的な単細胞緑藻類が培養可能な基礎培地に、グルコースなどの炭素源を含有させた炭素源含有の培養培地が好適である。単細胞緑藻類が培養可能な基礎培地とは、例えば、〔Appl Microbiol Biotechnol. 2011 Jul;91(1):31-46. Best practices in heterotrophic high-cell-density microalgal processes: achievements, potential and possible limitations.Bumbak F, Cook S, Zachleder V, Hauser S, Kovar K〕に記載されている培地が挙げられる。
【0044】
基礎培地中の無機塩としてKH2PO4、MgSO4などの微量無機成分が挙げられ、窒素源としては硫酸アンモニウム、尿素などが挙げられる。この基礎培地として、本技術のパラクロレラ属単細胞緑藻類を培養する際に好適なものとしては表1に示す培地の組成が挙げられ、各成分の含有量は±10%の範囲であることが好ましい。
前記炭素源として、グルコース、果糖などの単糖類;ショ糖などのオリゴ糖などが挙げられる。これらからなる群から選択される1種又は2種以上を使用して基礎培地に添加してもよい。
前記炭素源の濃度は、特に限定されないが、培養培地中、好ましくは0.1~30質量%、より好ましくは1~10質量%とするのが好適である。
【0045】
本技術のパラクロレラ多糖体を製造するための培養に際し、好気的な条件下で培養することが、当該多糖体を安定的に生産させることができるので好適である。通気培養することが、多糖体の生産性を向上させる点で、好ましい。通気手段として、例えば、撹拌、振盪、通気、及びバブリングなどが挙げられる。これらからなる群から選択される1種又は2種以上を使用することが可能である。これにより、培養培地中に適度な気体が混合されるようになる。
培養培地中の溶存酸素(DO)は、好気的な条件になるように調整すればよく、好ましくは3ppm以上、より好ましくは5~13ppmとするのが好適である。
【0046】
培養温度は、特に限定されないが、5~40℃の常温程度であればよい。
また、培養培地中のpH(20℃)は、好ましくは4~9、より好ましくは5~8とするのが好適である。
培養期間は、特に限定されないが、4日~2週間程度を1サイクルとするのが、多糖体を産出させるのが好適である。また、前培養及び本培養を行う際には、本培養の期間は、4日~1週間程度であればよい。この際、光照射を行なってもよいが、光照射を行わなくとも、多糖体を生産することが可能である。
また、独立栄養培養条件下にて藻体数を多くする場合、太陽光;植物栽培用ランプ、LEDなどの人工光源などの光を用いることが可能であり、炭酸ガスの補給と撹拌をすることが好ましい。
【0047】
また、本技術のパラクロレラ多糖の生産方法は、バッチ式、連続式の何れでもよいが、連続式が生産性向上のため好ましい。また、開放系培養及び閉鎖系培養の何れでもよく、例えば、培養タンク内の密閉培養及び開放系の露天培養などが挙げられる。培養条件管理の点で、閉鎖系培養が好ましい。
【0048】
本技術のパラクロレラ多糖体を前記単細胞緑藻類に産生させた後に、水溶液洗浄、超音波、遠心分離、ろ過などの物理的手段及び化学的手段にて、藻体から多糖体を分離し、本技術のパラクロレラ多糖体が含まれる上清液を得るのが好適である。
得られた本技術のパラクロレラ多糖体は、希釈液、濃縮液又は乾燥物などの状態に適宜調整してもよい。乾燥手段として凍結乾燥が好ましい。
【0049】
本技術のパラクロレラ多糖体は、適宜公知の分離・精製技術、例えば液々分液、固液分液、濾過膜、活性炭、吸着樹脂、イオン交換樹脂などの方法によって不活性な不純物を除去し、さらに精製してもよい。
【0050】
<2.本技術におけるパラクロレラ属単細胞緑藻類由来多糖体のガンマ線照射処理物の用途>
後記実施例に示すように、本技術におけるパラクロレラ属単細胞緑藻類由来多糖体のガンマ線照射処理物又はこれを含む組成物は、ヒアルロン酸産生促進作用や皮膚浸透作用などを有し、当該ヒアルロン酸産生促進作用や皮膚浸透作用などを発揮することで予防、改善、又は治療できる症状又は疾患に対して有効である。当該症状又は疾患としては、加齢、紫外線暴露などに起因するヒアルロン酸産生能の低下;乾燥肌、肌荒れ、シミ、シワなどの症状からなる群から選択される1種又は2種以上が挙げられる。また、本技術のガンマ線照射処理物は、細胞や組織に注入するようなインジェクションの投与剤や経口摂取する経口剤でもよいが、皮膚浸透作用を有することから、皮膚や粘膜に、噴霧、塗布や付着などを用いて接触させるような皮膚外用剤などが好ましい。
従って、本技術の組成物、ヒアルロン酸産生促進用組成物又は皮膚外用剤などは、パラクロレラ属単細胞緑藻類由来多糖体のガンマ線照射処理物を少なくとも含有する。本技術におけるパラクロレラ属単細胞緑藻類由来多糖体のガンマ線照射処理物は、組成物、ヒアルロン酸産生促進用組成物又は皮膚外用剤に、有効成分として、含有させて、用いることができる。
【0051】
本技術におけるパラクロレラ属単細胞緑藻類由来多糖体のガンマ線照射処理物は、各成分自体を単独としてそのままの状態で用いることが可能であり、又は生理的若しくは薬学的に許容される通常の単体若しくは希釈剤などと共に混合して用いることもできる。
【0052】
また、本技術は、パラクロレラ属単細胞緑藻類由来多糖体のガンマ線照射処理物が発揮しうる作用又は目的のために用いる、パラクロレラ属単細胞緑藻類由来多糖体のガンマ線照射処理物若しくはこれを含む組成物、又はその使用を提供することができる。
また、本技術におけるパラクロレラ属単細胞緑藻類由来多糖体のガンマ線照射処理物又はこれを含む組成物は、当該処理物が発揮しうる方法の有効成分として用いることができる。
また、本技術におけるパラクロレラ属単細胞緑藻類由来多糖体のガンマ線照射処理物又はこれを含む組成物は、当該処理物が発揮しうる作用を有する又は使用目的のために各種製剤又は各種組成物などの製造のために使用することができる。
前記ガンマ線照射処理物が発揮しうる作用又は目的としては、例えば、ヒアルロン酸産生促進作用;皮膚浸透作用;加齢、紫外線暴露などに起因するヒアルロン酸産生能の低下の予防、改善、抑制又は治療;乾燥肌、肌荒れ、シミ、シワなどの症状の予防、改善、抑制又は治療などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0053】
また、本技術におけるラパラクロレラ属単細胞緑藻類由来多糖体のガンマ線照射処理物又はこれを含む組成物は、皮膚外用剤、化粧品、医薬品、医薬部外品、食品や機能性食品(例えば特定保健用食品など)などの種々の用途及び種々の組成物に使用できる。また、当該用途又は組成物の形態は、特に限定されず、液状、ペースト状、ゲル状、固形状、粉末状などの何れの形態でもよい。
本技術において、皮膚への高い浸透作用、及び/又はヒアルロン酸産生作用の観点から、皮膚外用剤、化粧品、医薬部外品に用いるのが好ましく、皮膚に塗布などに接触させる製剤が好適である。
【0054】
本技術におけるパラクロレラ属単細胞緑藻類由来多糖体のガンマ線照射処理物又はこれを含む組成物は、適宜、任意成分を組み合わせて使用してもよい。任意成分として、医薬品、皮膚外用剤、飲食品又は飼料などにおいて許容される成分を適宜使用すればよい。任意成分として、例えば、細胞賦活剤、抗酸化剤、保湿剤、紫外線防止剤、溶剤(水、アルコール類など)、油剤、界面活性剤、増粘剤、粉体、キレート剤、pH調整剤、乳化剤、安定化剤、着色剤、光沢剤、矯味剤、矯臭剤、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、希釈剤、浸透圧調整剤、香料などが挙げられ、これらを目的とする製剤や組成物に応じて配合すればよい。
【0055】
なお、本技術のパラクロレラ属単細胞緑藻類由来多糖体のガンマ線照射処理物は、適用対象であるヒト若しくは非ヒト動物(好適には霊長類)に使用してもよく、ヒト及びペットが好ましく、より好ましくはヒトである。
【0056】
また、本技術は、治療目的使用であっても、非治療目的使用であってもよい。
「非治療目的」とは、医療行為、すなわち、医師による人体への処置行為を含まない概念である。非治療目的として、例えば、健康増進、生活習慣病予防(例えば、境界領域の予備軍)などが挙げられる。
「予防」とは、適用対象における疾患若しくは症状の発症の防止や遅延、又は適用対象の疾患若しくは症状の危険性の低下をいう。
「改善」とは、疾患、症状又は状態の好転;悪化の防止又は遅延;進行の逆転、防止又は遅延をいう。
【0057】
本技術の組成物に含まれるパラクロレラ属単細胞緑藻類由来多糖体のガンマ線照射処理物の量は、特に制限されないが、好ましくは0.0001~50質量%、より好ましくは0.001~1質量%、さらに好ましくは0.001~0.01質量%である。
【0058】
本技術の組成物における本技術のパラクロレラ属単細胞緑藻類由来多糖体のガンマ線照射処理物の使用量は、適宜決定すればよい。
なお、1回当たりの本技術のパラクロレラ属単細胞緑藻類由来多糖体のガンマ線照射処理物の量は、投与対象者又は摂取対象者の性別、年齢、状態、患者であれば疾患の重篤度などに応じて適宜決定すればよい。
本技術のパラクロレラ属単細胞緑藻類由来多糖体のガンマ線照射処理物の使用量が、例えば、0.1~10000mg/日とすることが好ましく、1~2000mg/日とすることがより好ましく、10~1000mg/日とすることがさらにより好ましい。体重1kg当たりの換算量としては、0.01~1000mg/kg体重/日とすることが好ましく、0.1~200mg/kg体重/日とすることがより好ましく、1~100mg/kg体重/日とすることがよりさらに好ましい。
【0059】
また、本技術のパラクロレラ属単細胞緑藻類由来多糖体のガンマ線照射処理物の用法(投与又は摂取方法、この回数及び期間)は特に限定されない。本技術が、医薬品用、飲食品用、飼料用の場合でも、当該本技術の用法と同様にして行うことが好ましい。
本技術のパラクロレラ属単細胞緑藻類由来多糖体のガンマ線照射処理物の1日当たりの投与又は摂取回数は特に制限されず、1日当たりの本技術のパラクロレラ属単細胞緑藻類由来多糖体のガンマ線照射処理物の投与量又は摂取量に応じて適宜決定することが可能である。
【0060】
また、本技術は、以下の構成を採用することも可能である。
〔1〕 パラクロレラ属単細胞緑藻類由来多糖体のガンマ線照射処理物、又は当該処理物を含む組成物。当該ガンマ線照射処理物又は当該組成物は、好適には、ヒアルロン酸産生促進用、皮膚浸透用、又は皮膚外用である。
〔2〕 前記多糖体のガンマ線照射処理物が、重量平均分子量10,000未満の分子量分布を有し、当該分布領域の割合が50%以上である、前記〔1〕記載のガンマ線照射処理物、又は当該処理物を含む組成物。
〔3〕 前記多糖体のガンマ線照射処理物が、重量分子量1,000以上10,000未満と、重量分子量1,000未満の分子量分布とを少なくとも有し、それぞれの分布領域の割合が45~65%と10~30%とである、前記〔1〕又は〔2〕記載のガンマ線照射処理物、又は当該処理物を含む組成物。
〔4〕 前記ガンマ線照射が、1~1000kGy照射である、前記〔1〕~〔3〕の何れか1つ記載のガンマ線照射処理物、又は当該処理物を含む組成物。
〔5〕 前記パラクロレラ属単細胞緑藻類由来多糖体が、多糖の基本構造の糖残基が少なくともガラクトースとマンノースで構成されており、当該ガラクトースにフラノース型が存在する多糖体である、前記〔1〕~〔4〕の何れか1つ記載のガンマ線照射処理物、又は当該処理物を含む組成物。
〔6〕 前記パラクロレラ属単細胞緑藻類が、パラクロレラ属ケッセリである、前記〔1〕~〔5〕の何れか1つ記載のガンマ線照射処理物、又は当該処理物を含む組成物。
【0061】
〔7〕 前記〔1〕~〔6〕の何れか1つ記載のパラクロレラ属単細胞緑藻類由来多糖体が、多糖の基本構造の糖残基が少なくともガラクトースとマンノースとで構成されており、当該ガラクトースにフラノース型が存在する多糖体であることが好適である。
当該ガラクトースの含有量が、全中性糖中、50~79質量%であることがより好適である。
〔8〕 前記〔1〕~〔7〕の何れか1つ記載の前記多糖体の重量分子量が、10の4乗から8乗のオーダーであることが好適である。
〔9〕 前記〔1〕~〔8〕の何れか1つ記載の前記多糖体が有するガラクトースとマンノースの糖残基の比率が2.5~3.5:1であることが好適である。
〔10〕 前記〔1〕~〔9〕の何れか1つ記載の前記多糖体は、パラクロレラ属ケッセリ(Parachlorella kessreli)由来の多糖体であり、より好適には前記多糖体は水溶性である。
【0062】
〔11〕 前記〔1〕~〔10〕の何れか1つ記載の前記多糖体は、パラクロレラ属単細胞藻類又は改変体を炭素源含有培養培地で好気的な条件下で従属培養し、生産される多糖体を回収する多糖体の製造方法にて得られたものが好適である。
〔12〕 前記〔1〕~〔11〕の何れか1つ記載の多糖体は、パラクロレラ属単細胞藻類のうちパラクロレラ属ケッセリ(Parachlorella kessreli)を用いる多糖体の製造方法にて得られたものが好適である。
【0063】
〔13〕 前記〔1〕~〔12〕の何れか1つ記載のパラクロレラ属単細胞緑藻類由来多糖体のガンマ線照射処理物、又は当該処理物を含む組成物。
〔14〕 前記ガンマ線照射処理物、又は当該処理物を含む組成物が、ヒアルロン酸産生促進用、皮膚浸透用、又は皮膚外用である、前記〔1〕~〔13〕の何れか1つ記載の前記ガンマ線照射処理物、又は当該処理物を含む組成物。
【0064】
〔15〕 前記〔1〕~〔14〕の何れか1つ記載の前記ガンマ線照射処理物、又は当該処理物を含む組成物を投与する、ヒアルロン酸産生促進方法、皮膚浸透促進方法、又は皮膚塗布方法。
〔16〕 医薬、飲食、給餌、皮膚外用剤、ヒアルロン酸産生促進、皮膚浸透促進、又は皮膚塗布のために用いる、前記〔1〕~〔14〕の何れか1つ記載の前記ガンマ線照射処理物若しくは当該処理物を含む組成物、又はその使用。非治療目的の使用であってもよい。
〔17〕 組成物、医薬品、飲食品、飼料、皮膚外用剤、ヒアルロン酸産生促進用組成物、皮膚浸透促進用組成物、又は皮膚塗布用組成物を製造するための、前記〔1〕~〔14〕の何れか1つ記載の前記ガンマ線照射処理物若しくは当該処理物を含む組成物、又はその使用。非治療目的の使用であってもよい。
【実施例】
【0065】
以下、試験例、実施例などに基づいて本技術をさらに詳細に説明する。なお、以下に説明する試験例、実施例などは、本技術の代表的な実施例などの一例を示したものであり、これにより本技術の範囲が狭く解釈されることはない。
【0066】
<試験例1:パラクロレラ属単細胞緑藻類由来の多糖体の製造方法>
パラクロレラ属単細胞緑藻類として、Parachlorella kessleri-PNC1株(FERM BP-11493)を用いて、パラクロレラ属単細胞緑藻類由来の多糖体を製造した。
本試験例における多糖体の製造方法、多糖体の解析方法(加水分解、メチル化分析、NMR解析、ウロン酸定量など)は、特許文献4:特開2014-25035号公報を参照して行った。
(1)Parachlorella kessleri-PNC1株(FERM BP-11493)(受託日:2012年 7月19日) 寄託先:〒305-8566 茨城県つくば市東1-1-1 つくばセンター中央第6、独立行政法人 製品評価技術基盤機構 特許生物寄託センター(NITE-IPOD)。
【0067】
Parachlorella kessleri-PNC1株(FERM BP-11493)を含むスラント状培地(50mL)を、グルコース含有培養培地250mLを含む3L容バッフル付き三角フラスコに添加し、照度8000~10000lux、28℃で、160rpmにて4日間前培養した。なお、前培養前に、予備的に藻体数を増やしてもよい。
なお、グルコース含有培養培地は、表1の基礎培地1L当たりにグルコース10gを含有させたものである。
【0068】
【0069】
前培養物240mLを30L容のジャーファメンターに移して12日間本培養を行い、これを本培養物とした。このときの培養条件は、30℃、230rpm、通気0.56vvm、内圧0.3kgf/cm2、pH7.2の好気的な条件下であり、光照射は行わなかった。
本培養物を、遠心分離(7000rpm(6500G)、25℃)し、目的とする多糖体を含有する上清液と藻体とに分離した。さらに分画分子量6000のUF膜(SIP1013)を用いて、原液を2Lまで濃縮した。濃縮物(2L)に、陰イオン交換樹脂200mLを添加し、ブリックス0.1まで回収し、UF膜ろ過にて、500mL濃縮し、凍結乾燥して、パラクロレラ由来の多糖体(以下、「パラクロレラ多糖体」ともいう)を得た。収率は、培養液1L当たり、0.2~0.4gであった。
【0070】
さらに、パラクロレラ由来の多糖体1gに蒸留水40mLを添加して混合撹拌し、懸濁液を得た。この懸濁液を4℃にて一晩放置し、この懸濁液を遠心分離(7000rpm、6500g、5分間)し、上清と沈殿部とに分け、上清について凍結乾燥し、易水溶性のパラクロレラ多糖体(以下、「水溶性パラクロレラ多糖体」ともいう)を得た(0.4~0.5g)。
【0071】
<試験例2:パラクロレラ多糖体の構造解析>
水溶性パラクロレラ多糖体を、2M-TFA(トリフルオロ酢酸)、120℃、2時間で加水分解した。この加水分解物を、室温、NaBH4にて還元し、さらに(無水酢酸:1-メチルイミダゾール 9:1)にてアセテート化し、アルジトールアセテート誘導体を得た。アルジトールアセテート誘導体は、GCで分析を行った。
GC測定は、GL Science GC-353ガスクロマトグラフ(カラム SP-2330 (Spelco);検出器 FID;220 ℃の恒温分析)にて、行った。
このGC結果、水溶性パラクロレラ多糖体には、アラビノース(4.7%)、ラムノース(4.0%)、キシロース(1.7%)、マンノース(22.5%)、ガラクトース(67.1%)が認められた。
【0072】
また、水溶性パラクロレラ多糖体について、メチル化分析を行った。多糖試料をメチル化してメチル化多糖を得た。メチル化多糖を、2M-TFA中120℃で2時間加水分解し、NaBD4で還元後、無水酢酸と1-メチルイミダゾールでアセチル化した。得られた誘導体はGC-MSで分析した。
GC-MSは、Shimadzu QP-5000 GC-MS ガスクロマトグラフ質量分析装置〔カラム:SPB-50(0.32 x 30 m)〕を行った。
本多糖体のマンノース残基として、非還元末端、1,2-結合、1,3-結合した残基が認められた。また、本多糖体のガラクトース残基の大部分はフラノースであり、また、本多糖体のガラクトース残基として、非還元末端、1,2-結合フラノース、1,5-結合フラノース、1,6-結合フラノース、1,2,6-結合フラノース、そして1,3-結合ピラノースが認められた。
【0073】
また、1H-NMR分析(Varian Unity plus 500、1H:500MHz,13C:125MHz、〔溶媒:重水(D2O)、測定温度は30℃、内部標準:DSS〕)により、水溶性パラクロレラ多糖体のガラクトース残基の多くは、フラノース型で存在することが認められた。
また、水溶性パラクロレラ多糖体のタンパク質含量(ローリー法)及びウロン酸含量(カルバゾール-硫酸法)にて測定を行った結果、タンパク質及びウロン酸の存在は、ほとんど認められなかった。
【0074】
酸性多糖体を回収する際に第4級アンモニウム塩沈殿法を一般的に使用している。これを利用して、第4級アンモニウム塩の一種である塩化セチルピリジニウムを用いて多糖体の沈殿の有無を確認した。試験管に0.2%多糖体を含む水溶液(W/V)20mLを入れ、この水溶液に対しCPC10gを添加し、混合したのち12時間放置し、遠心分離後に、目視にて沈殿の有無を確認した。その結果、水溶性パラクロレラ多糖体は第4級アンモニウム塩に沈殿しなかった。このことより、水溶性パラクロレラ多糖体は、ウロン酸やエステル硫酸を多く含むような酸性多糖には該当しないと考えた。
【0075】
水溶性パラクロレラ多糖体に存在するガラクトース及びマンノースのDLを、加水分解、トリメチルシリル化し得られた誘導体をGCで分析し、調べた。その結果、D-ガラクトース及びD-マンノースが認められた。
【0076】
このことから、パラクロレラ由来における多糖の基本構造の糖残基は、少なくともガラクトースとマンノースを主体として構成されており、当該ガラクトースのほとんどがフラノース型で存在するものと推定した。また、本多糖体は、1,5-β-D-ガラクトフラノースの構造を有すると推定した。
【0077】
<試験例3:パラクロレラ属単細胞緑藻類由来多糖体のガンマ線照射処理物>
〔製造例1:パラクロレラ多糖体の製造方法及び重量平均分子量〕
本培養における培養期間を4日間から1週間にした以外は試験例1の製造方法と同様にして、多糖体を得た。
【0078】
製造例1で得られたパラクロレラ多糖体及び水溶性パラクロレラ多糖体について、GPC分析にて多糖体の重量平均分子量(Mw)を測定した。GPC分析の結果、パラクロレラ多糖体は、保持時間27.2分に最も高いピークがあり、保持時間26.2分にショルダーピークがあり、これらの保持時間(ピーク)及び標品(プルラン)から、それぞれの重量平均分子量を求めた。重量平均分子量(Mw)は、それぞれ49,000~54,000と170,000~190,000であり、全体として約5~20×104の重量平均分子量(Mw)であった。重量平均分子量100,000未満の領域には、ピークが認められなかった。
ガンマ線照射前のパラクロレラ多糖体は、GPC分析において、重量平均分子量が10の4~5乗オーダーの範囲であった。超音波処理で、パラクロレラ多糖体をより溶解させた場合には、重量平均分子量が10の4乗オーダーの範囲であった。
【0079】
<GPC分析>
測定カラム:TSKgel GMPWXL(7.8mmID x 300 mm:東ソー株式会社)の2本直列
測定温度:50℃
移動相:0.1 M NaNO3
HPLCシステム:島津 Shodex GPC-101システム
検出器:示差屈折計 RI-71S
標準物質:プルラン(昭和電工 Shodex standard P-82)
使用ソフト(GPC計算):システム・インスツルメンツ 480IIデータステーションGPCプログラム
プルラン(P-82)による基点分子量及び溶出時間:100,000/12.2分、30,000/13.7分、10,000/15.0分、3,000/16.4分、1,000/17.7分、500/18.6分
【0080】
〔製造例2:ガンマ線照射処理物及びその製造方法〕
前記〔製造例1〕にて、得られたパラクロレラ多糖体をイオン交換水に溶解し、0.1質量%水溶液及び1.0質量%水溶液を得た。当該0.1質量%水溶液に対して、線量率10kGy/hr、照射時間7~8hr、照射強度70kGyにて、ガンマ線を照射したγ線照射処理物1を得た。また、当該1.0質量%水溶液(20~30℃)に対しても、0.1質量%水溶液のときと同様の条件(照射強度70kGy)にて、ガンマ線を照射し、ガンマ線照射分解物2を得た。
【0081】
パラクロレラ多糖体(0.1質量%水溶液)のガンマ線照射処理物1について、上記<GPC分析>を用いて、測定した(
図1の下段参照)。このときの各分子量分布の結果を表2に示す。
図1及び表2に示すように、パラクロレラ多糖体をガンマ線照射処理することで、パラクロレラ多糖体は分解され、低分子化された。
【0082】
【0083】
<試験例4:ヒアルロン酸の産生促進試験(実施例1及び比較例1~2)>
各試料のヒアルロン酸の産生促進試験は、線維芽細胞を用い、定量的PCR法により行った。試料として、ガンマ線照射処理前の製造例1の多糖体(比較例1)、製造例2のガンマ線照射処理物1(実施例1)、製造例1の多糖体の酸加水分解物(比較例2)を用いた。
表3に、多糖体のガンマ線照射分解物(実施例1)、多糖体の酸加水分解後の酸分解物(比較例2)における、それぞれのヒアルロン酸合成酵素HAS2の相対発現量を示した。ネガティブコントロールを1としたときの、各相対発現量を示した。
なお、酸加水分解は、製造例1のパラクロレラ多糖体(0.1質量%水溶液)を、2M-TFA(トリフルオロ酢酸)、3時間、100℃で加水分解したものである。
試験例4のヒアルロン酸の産生促進試験について、以下により具体的に説明し、この結果を表3に示した。
【0084】
<HAS2mRNA発現促進作用評価試験>
以下のようにして、試料のヒアルロン酸合成酵素mRNA発現促進作用を試験した。
【0085】
(1)細胞培養と試料の添加
10%FBS(ウシ胎児血清(Fetal bovine serum)、SIGMA社製)、及び1%ペニシリン-ストレプトマイシン(ペニシリン-ストレプトマイシン-L-グルタミン溶液(×100)、富士フイルム和光純薬株式会社製)を含むD-MEM(Dulbecco's minimal essential medium(低グルコース、L-グルタミン、フェノールレッド含有)、富士フイルム和光純薬株式会社製)培地を用いて、コラーゲンコートされた12ウェルプレートに、正常ヒト皮膚線維芽細胞(NHDF、倉敷紡績株式会社製)を、それぞれ2×105個/ウェルとなるように播種し、37℃、5%CO2の下で24時間培養した。
【0086】
また、ガンマ線処理物1を、各0.01及び0.1mg/mLの濃度になるように、1%FBS及び1%ペニシリン-ストレプトマイシンを含むD-MEM培地に溶解し、これらをそれぞれ実施例1~2の被験試料(被験試料1~2)とした。また、対照例1として、10%FBS及び1%ペニシリン-ストレプトマイシンを含むD-MEM培地(対照試料1)を準備した。
【0087】
正常ヒト皮膚線維芽細胞の播種から24時間後、被験試料1、被験試料2、対照試料1を、それぞれ上記の正常ヒト皮膚線維芽細胞を播種したウェルに、1mLずつ置換し、37℃で、5%CO2の下でさらに72時間培養した。
【0088】
培養終了後、総RNAを抽出した。総RNAの抽出は、ウェルから培地を吸引除去した後、RNeasy Mini Kit(QIAGEN製)を用いて、当該キットの操作マニュアルに従って行った。
【0089】
(2)cDNAの合成
cDNAの合成は、cDNA合成キット(PrimeScriptTM RT reagent Kit、タカラバイオ株式会社製)及びマスターサイクラー(TaKaRa PCR Thermal Cycler DiceR Touch、タカラバイオ株式会社製)を使用して行った。具体的には、上記抽出により得られた、被験試料1~2及び対照試料1の総RNA(約250ng/μL)をそれぞれ用い、cDNA合成キットの使用マニュアルに従って反応液を調製し、マスターサイクラーにより37℃で15分間、85℃で5秒間反応させ、HAS2mRNA発現量を測定するリアルタイムPCRの鋳型に使用するcDNAを合成した。
【0090】
(3)インターカレーション法を用いたリアルタイムPCR反応
HAS2遺伝子増幅用プライマーとして、下記の配列を有するセンスプライマー及びアンチセンスプライマーを使用した。
センスプライマー:5’-ACCGGGGTAAAATTTGGAAC- 3’(配列番号1)
アンチセンスプライマー:5’-TAAGGCAGCTGGCAAAAGAT- 3’(配列番号2)
また、内部標準としてのGAPDH遺伝子増幅用プライマーとして、下記の配列を有するセンスプライマー及びアンチセンスプライマーを使用した。
センスプライマー:5’-CAGCCTCAAGATCATCAGCA- 3’(配列番号3)
アンチセンスプライマー:5’-TGTGGTCATGAGTCCTTCCA- 3’(配列番号4)
【0091】
被験試料(実施例1、比較例1~2)のそれぞれについて、培養細胞から調製したcDNAについて、上記プライマーセットを使用して、リアルタイムPCR装置(EcoTMリアルタイムPCRシステム、アズワン株式会社製)及びリアルタイムPCRキット(TB Green(R) Premix Ex TaqTMII(Tli RNaseH Plus)及びその説明書、タカラバイオ株式会社製)により、リアルタイムPCR反応を行った。反応は、95℃で30秒間保温の後、95℃で5秒間、60℃で30秒間の反応を40サイクル繰り返し、1サイクルごとのTB Greenの発光量を測定した。
【0092】
(4)解析
各サイクルごとのTB Greenの発光量に基づいて、HAS2及びGAPDHのそれぞれをコードするDNA断片の増幅曲線を作成し、GAPDHを内部標準遺伝子として、比較Ct法(ΔΔCt法)を用いて上記発光量を相対的に定量した。
【0093】
【0094】
<試験例4の結果>
比較例1におけるパラクロレラ多糖体では、ヒアルロン酸合成酵素HAS2の発現量は増加しなかった。このようにパラクロレラ多糖体は、ヒアルロン酸産生促進効果を発揮できなかった。
パラクロレラ多糖体を酸加水分解した比較例2の酸加水分解物(酸分解物)では、低分子化したにもかかわらず、ヒアルロン酸合成酵素HAS2の発現量は増加しなかった。このように、パラクロレラ多糖体を酸加水分解で低分子化しても、ヒアルロン酸産生促進効果は発揮できなかった。
【0095】
これに対し、パラクロレラ多糖体をガンマ線照射によって低分子化させた場合(実施例1)には、ヒアルロン酸合成酵素HAS2の発現量が約1.4~1.5倍も際立って増加した。このように、パラクロレラ多糖体に対してガンマ線照射を用いて低分子化することによって、パラクロレラ多糖体では発揮できなかったヒアルロン酸産生促進効果が新たに発揮できるようになった。このように、パラクロレラ多糖体の新規なガンマ線分解物は、顕著なヒアルロン酸産生促進効果を新たに発揮できることを見出した。
【0096】
<試験例5:ブタ皮膚を用いたin-vitro 皮膚透過試験>
皮膚透過試験は、ブタ皮膚を用いたin-vitro皮膚透過試験により、行った。検体として、前記製造例2のγ線処理物1を1質量%水溶液になるように調製したγ線処理物1水溶液を用いた。試験例5の皮膚透過試験について、以下により具体的に説明し、この結果を表3に示した。
【0097】
ブタ皮膚を直径3.0cmの円形にカットし、フランツ型拡散セル(開口部直径2.0cm、レセプター容積 約2.4mL)に角質層をdonor側に向け装着した。装着後、donor 側とreceptor側をPBS(pH7.4)で満たし電気抵抗値を測定して皮膚損傷の有無を確認した。正常な皮膚状態であることを確認した後、コットンで角質層側の余分な水分を軽くふき取り、検体1mLを角質層側に投与した。検体投与後、receptor側緩衝液の温度は32℃に保った状態で皮膚透過試験を行った。試験を開始して6時間後レセプター溶液を1mLサンプリングし、多糖定量を行った。
【0098】
多糖定量値(mg/mL)は、フェノール硫酸法(標準Glc水溶液、測定吸光度490nm)を用いて測定した。
透過濃度算出方法は、アクティブからブランクの数値を引いた値を、透過濃度(mg/mL)とした。
透過率算出方法は、「透過率(%)=(透過濃度÷処理前の1質量%γ線処理物の多糖定量値)×100」にて算出した。例として、(アクティブの表皮・真皮抽出液の透過濃度「0.037mg/mL」÷処理前のγ線処理物の多糖定量値「0.63mg/mL」)×100=5.87%であった。
【0099】
〔6時間後における角質層浸透量〕
上記透過試験終了後、皮膚表面の残存液を除去し、濡れたコットンで皮膚表面をふき取り、セルから皮膚を取り出し、セロハンテープで角質層を15回剥離した(1回目の剥離テープは皮膚表面に付着した検体が含まれている可能性があるため廃棄した)。14枚のセロハンテープを50mL遠心管に入れ、純水:エタノール=1:1(v/v)混合液を15mL加え超音波処理による抽出を1時間行った。抽出液を100mLビーカーに移し、70℃恒温槽にて蒸発させ、1mLの純水を加え再溶解し、遠心分離操作(12,000rpm,5分)を行った。上清液をマイクロチューブに回収し、多糖定量を行った。
【0100】
〔6時間後における表皮・真皮浸透量〕
角質層を除いた表皮・真皮層を細かくカットし、破砕用チューブ2本に分けて入れ、各チューブに純水を0.5mL加え、破砕機で20分間破砕した。その後、2本のチューブから50mLの遠心管に回収し、さらに破砕用チューブ1本につき0.5mLで3回洗浄した洗液も加え、中にエタノール10mLを加えた後、よく混合し、遠心分離(5000rpm、5分)を行った。遠心後、上清液を100mLのビーカーに移し、70℃恒温槽にて蒸散させた。蒸散後、残留物に純水1mLを加え再溶解し、遠心分離操作(12,000rpm,5分)を行った。上清液をマイクロチューブに回収し、多糖定量を行った。
【0101】
【0102】
<試験例5の結果>
毛乳頭細胞が存在する真皮領域まで、パラクロレラ多糖体のガンマ線照射処理物が浸透していることを確認できた。これにより、ガンマ線照射処理によって低分子化することで、経皮浸透性を向上することができる。さらに、パラクロレラ多糖体のガンマ線照射処理物が線維芽細胞の存在する真皮領域まで浸透していることが確認できたため、本技術のパラクロレラ多糖体のガンマ線照射処理物を実際の皮膚に塗布した場合、本技術のパラクロレラ多糖体のガンマ線照射処理物はヒアルロン酸産生の促進をすることが期待できる。
【0103】
一般的に皮膚バリアによって細菌などの侵入を防いでいるが、逆にこの皮膚バリアによって効能成分を浸透させにくい状態になっている。このため、通常インビトロ試験で有益な効能成分でも、皮膚浸透性が低い場合には、皮膚外用剤として適していないことがある。
これに対し、本技術のガンマ線照射処理物は、高い皮膚浸透性を有し、かつ、上述のように、ヒアルロン酸産生促進作用をも有する。このように本技術であれば経皮投与によっても、ヒアルロン酸産生促進に関与する各種効能を効率よく発揮させることができるという非常に優れた利点を有する。また、本技術は低分子化されているので、経口摂取や注射投与でも、効率よく効能を発揮させることができると考える。
【配列表】