IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 富士通オプティカルコンポーネンツ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-光導波路デバイス 図1
  • 特許-光導波路デバイス 図2
  • 特許-光導波路デバイス 図3
  • 特許-光導波路デバイス 図4
  • 特許-光導波路デバイス 図5
  • 特許-光導波路デバイス 図6
  • 特許-光導波路デバイス 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-24
(45)【発行日】2024-08-01
(54)【発明の名称】光導波路デバイス
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/035 20060101AFI20240725BHJP
【FI】
G02F1/035
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020075239
(22)【出願日】2020-04-21
(65)【公開番号】P2021173792
(43)【公開日】2021-11-01
【審査請求日】2022-12-28
(73)【特許権者】
【識別番号】309015134
【氏名又は名称】富士通オプティカルコンポーネンツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104190
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 昭徳
(72)【発明者】
【氏名】牧野 俊太郎
(72)【発明者】
【氏名】久保田 嘉伸
(72)【発明者】
【氏名】大森 康弘
(72)【発明者】
【氏名】土居 正治
(72)【発明者】
【氏名】倉橋 輝雄
(72)【発明者】
【氏名】竹内 信太郎
【審査官】大西 孝宣
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2007/114367(WO,A1)
【文献】特開平05-257105(JP,A)
【文献】特開平07-235095(JP,A)
【文献】米国特許第09746743(US,B1)
【文献】特開平06-043503(JP,A)
【文献】特開2016-191798(JP,A)
【文献】米国特許第06195191(US,B1)
【文献】特開平08-166565(JP,A)
【文献】特開2014-142411(JP,A)
【文献】特開2015-118371(JP,A)
【文献】特開2006-003583(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/00 - 1/125
G02F 1/21 - 7/00
G02B 6/12 - 6/14
H04B 10/00 - 10/90
H04J 14/00 - 14/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中間層、ニオブ酸リチウムの薄膜LN層、およびバッファ層が順次積層された基板と、
前記薄膜LN層内に形成された光導波路と、
前記光導波路の近傍の複数の電極と、を備え、
前記中間層および前記バッファ層は、元素の周期表の第3~第18族までのうち金属元素を含む族から任意の一つの金属の酸化物で同じ材料を含み、
前記複数の電極は、その複数の底面のそれぞれが前記バッファ層の表面の位置よりも低い位置となるように配置され、
前記中間層はその内部の、前記バッファ層の前記表面から所定深さに設けられた複数の段差部を有し、
前記複数の電極はそれぞれ、その前記複数の底面が前記複数の段差部上となるように配置されている、
ことを特徴とする光導波路デバイス。
【請求項2】
前記中間層と、前記バッファ層は、酸化シリコンとインジウムの酸化物を含むことを特徴とする請求項1に記載の光導波路デバイス。
【請求項3】
前記中間層と、前記バッファ層は、酸化シリコンとチタンの酸化物を含むことを特徴とする請求項1に記載の光導波路デバイス。
【請求項4】
前記中間層と、前記バッファ層は、酸化シリコンと錫の酸化物を含むことを特徴とする請求項1に記載の光導波路デバイス。
【請求項5】
前記中間層と、前記バッファ層は、酸化シリコンとゲルマニウムの酸化物を含むことを特徴とする請求項1に記載の光導波路デバイス。
【請求項6】
前記中間層と、前記バッファ層は、酸化シリコンと亜鉛の酸化物を含むことを特徴とする請求項1に記載の光導波路デバイス。
【請求項7】
前記中間層と、前記バッファ層は、さらに他の金属または半導体元素の酸化物を含むことを特徴とする請求項2~6のいずれか一つに記載の光導波路デバイス。
【請求項8】
前記中間層と、前記バッファ層は、元素の周期表の第3~第18族のうち金属元素を含む族から1種以上の金属の酸化物と、酸化シリコンとの混合物または化合物によりなることを特徴とする請求項1に記載の光導波路デバイス。
【請求項9】
前記中間層と、前記バッファ層は、シリコンを除く半導体元素の1種以上の酸化物と、酸化シリコンとの混合物または化合物によりなることを特徴とする請求項1に記載の光導波路デバイス。
【請求項10】
前記中間層と、前記バッファ層は、元素の周期表の第3~第18族のうち金属元素と、シリコンを除く半導体元素のそれぞれ1種以上で構成される酸化物と酸化シリコンとの混合物または化合物によりなることを特徴とする請求項1に記載の光導波路デバイス。
【請求項11】
前記薄膜LN層は、Xcutニオブ酸リチウムからなることを特徴とする請求項1~10のいずれか一つに記載の光導波路デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光変調器等の光導波路デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
光通信の高速化のためには、高性能な光デバイスが必要不可欠である。光デバイスのうち、従来のLN光変調器は、ニオブ酸リチウムLiNbO3(以下LNと称す)基板を用いることで、挿入損失や伝送特性の面で優れた特性を得ることができる。LN基板上にはチタン(Ti)拡散による光導波路が形成されている。このようなLN基板を用いる従来のLN光変調器(Bulk LN変調器)は、広く用いられているが、サイズが大型化している。
【0003】
近年、光デバイスの小型化の需要が高まっており、光送受信器に用いるLN光変調器についても小型化が検討されている。LN光変調器を小型化するものとして、薄膜LNを用いた薄膜LN光変調器がある。薄膜LN光変調器は、マッハツェンダー干渉計構造からなり、基板上に、中間層、薄膜LN、バッファ層、電極の各層を設けた構造からなる。
【0004】
Bulk LN光変調器関連の技術として、例えば、バッファ層を互いに接合する上下の2層とし、下層を酸化物もしくは酸化物でないインジウムをドーパントとして含むドーパント混合バッファ層を用いる。また、上層を周期律表の三から八族あるいは一b族と二b族(以下、元素の周期表の第3~第18族と称す)に属する金属元素もしくはその酸化物、及びSi以外の半導体元素もしくはその酸化物のいずれをも含まないドーパント非混合バッファ層を用いる。これにより、DC(Direct Current)ドリフト特性の安定化を図る技術が開示されている(例えば、下記特許文献1参照。)。また、非導電層(バッファ層相当)を、酸化シリコンとインジウムの酸化物とチタンの酸化物とを含み(元素の周期表の第3~第18族に相当)、チタン酸化物モル濃度とインジウム酸化物モル濃度との比が1.2以上である材料により構成することで、DCドリフト特性の安定化を図る技術が開示されている(例えば、下記特許文献2参照。)。また、例えば、バッファ層を、元素の周期表の第3~第18族に相当する金属元素の1種類以上の酸化物と酸化シリコンとの混合物又は化合物を用いることで、DCドリフト特性の安定化を図る技術が開示されている(例えば、下記特許文献3参照。)。また、バッファ層が二酸化ケイ素と、元素の周期表の第3~第18族に相当する金属元素およびシリコン以外の半導体元素からなる群から選択される少なくとも1つの元素酸化物の混合物から形成され、DCドリフト特性の安定化を図る技術が開示されている(例えば、下記特許文献4参照。)。
【0005】
また、薄膜LN光変調器関連技術として、例えば、電気光学効果を有する薄板(薄膜LNに相当)に光導波路を有し、薄板を挟む上下にバッファ層を介して制御電極を設けることで、インピーダンス整合等を図る技術が開示されている(例えば、下記特許文献5,6参照。)。また、単結晶Si基板上に、エピタキシャル成長によりバッファ層、クラッド層、電気光学層(薄膜LNに相当)、バッファ層、電極を積層形成することで、結晶性が良好で薄膜形成できる技術が開示されている(例えば、下記特許文献7参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2008-233513号公報
【文献】特開2016-191798号公報
【文献】米国特許第5680497号明細書
【文献】米国特許出願公開第2003/156474号明細書
【文献】特開2008-89936号公報
【文献】米国特許出願公開第2010/232736号明細書
【文献】特開2014-106397号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
光変調器は、電極から光導波路に印加される電圧を正確に制御する必要がある。LN光変調器では電圧を印加した瞬間と、十分に時間が経過した後とで光導波路に印加される電圧が変化する、所謂DCドリフトが生じる。従来技術では、Bulk LN光変調器については、DCドリフトを抑制するため、バッファ層にDCドリフト抑制用の材料を用いた構成が記載されている。しかし、薄膜LN光変調器では、基板上に、中間層、薄膜LN層、バッファ層、電極が積層された構造であり、バッファ層にDCドリフト抑制用の材料を用いただけではDCドリフトを抑制することができない。
【0008】
一つの側面では、本発明は、DCドリフトを抑制して長期信頼性が得られる薄膜LN光変調器の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一つの実施態様によれば、中間層、ニオブ酸リチウムの薄膜LN層、およびバッファ層が順次積層された基板と、前記薄膜LN層内に形成された光導波路と、前記光導波路の近傍の複数の電極と、を備え、前記中間層および前記バッファ層は、元素の周期表の第3~第18族までのうち金属元素を含む族から任意の一つの金属の酸化物で同じ材料を含み、前記複数の電極は、その複数の底面のそれぞれが前記バッファ層の表面の位置よりも低い位置となるように配置され、前記中間層はその内部の、前記バッファ層の前記表面から所定深さに設けられた複数の段差部を有し、前記複数の電極はそれぞれ、その前記複数の底面が前記複数の段差部上となるように配置されている光導波路デバイスが提案される。
【発明の効果】
【0010】
一態様によれば、DCドリフトを抑制して長期信頼性が得られる光導波路デバイスを提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、実施の形態1にかかる薄膜LN光変調器を示す図である。
図2図2は、実施の形態1にかかる薄膜LN光変調器のDCドリフト特性を示す図表である。
図3図3は、実施の形態2にかかる薄膜LN光変調器の構成例の断面図である。
図4図4は、実施の形態2にかかる薄膜LN光変調器の他の構成例の断面図である。
図5図5は、実施の形態2にかかる薄膜LN光変調器の他の構成例の断面図である。
図6図6は、実施の形態2にかかる薄膜LN光変調器の他の構成例の製造工程図である。
図7図7は、実施の形態2と対比用の薄膜LN光変調器の構成例の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、図面を参照して、本発明にかかる光導波路デバイスの実施の形態を詳細に説明する。実施の形態では、光導波路デバイスとして薄膜LN光変調器を例に説明する。薄膜LN光変調器は、光伝送の光送信部に設けられ、入力される電気信号を光信号に変換して光送信する。
【0013】
(実施の形態1-薄膜LN光変調器の構成例)
図1は、実施の形態1にかかる薄膜LN光変調器を示す図である。図1(a)は、薄膜LN光変調器100の平面図、図1(b)は、図1(a)のA-A’線断面図を示す。
【0014】
以下に説明する薄膜LN光変調器100は、マッハツェンダー形の光変調器であり、電気光学効果を有する光導波路で形成されたマッハツェンダー干渉計に電圧を印加することで、光導波路内を伝搬する光を変調する。
【0015】
図1(a)に示すように、光導波路101は、2本の光導波路102,103に分岐された後、光導波路104に結合される。分岐された光導波路102,103の近傍、例えば、光導波路102,103の側部には、それぞれ電極111(111a~111c)が設けられる。
【0016】
電極111の電圧Vが0のとき、光導波路101への入力光は2分岐されて各光導波路102,103を進み、光導波路104に結合され出力される。また、電極111に電圧Vπの印加時には光導波路102,103には逆向きの電界が発生し、光導波路102,103の屈折率変化により進行する光に位相差が生じる。位相差がπとなる電圧の場合、二つの光は干渉して打ち消し合うが、印加電圧を0-Vπで変化させることで、強度変調を行った光出力を得ることができる。
【0017】
図1(b)に示すように、薄膜LN光変調器100は、基板120上に、中間層121、薄膜LN層122、バッファ層123が積層された構造である。基板120には、例えばLN、Si、SiO2等を用いることができる。薄膜LN層122には、結晶方位がXcutのニオブ酸リチウム(LiNbO3)を用い、エッチングすることで、リッジ型光導波路を形成する。凸状のリッジ部分は、光が進行する光導波路122aとして機能する。図1(b)に示す光導波路122aは、図1(a)に示した光導波路102に相当する。
【0018】
薄膜LN層122には、例えば、ニオブ酸リチウムを用いる。薄膜LN層122は、Zcutのニオブ酸リチウム、あるいはXCutのニオブ酸リチウムを用いることができる。実施の形態1では、例えば、XCutのニオブ酸リチウムを用いる構成とする。これにより、光導波路122aの上下方向に電界を印加する必要がなく、光導波路122aの側部に電極111を配置して微小領域(光導波路122a)への光閉じ込めができる。また、光導波路122aと電極111との間隔を狭めることで電界効率を改善できる、という薄膜LNの利点を最大限活かすことができる。
【0019】
実施の形態1の薄膜LN光変調器100は、薄膜LN122に対し、下層に中間層121を設け、上層にバッファ層123を設ける。これら中間層121と、バッファ層123は、薄膜LN層122に形成される光導波路122aへの光の閉じ込めを強めるために設けられる。これら中間層121とバッファ層123は、薄膜LN層122より屈折率が小さい材質、例えばSiO2などが用いられる。
【0020】
積層構造を製作する手法としては、ウェハの直接接合を用いてもよい。この場合、張り合わせるための接着剤層が必要であれば、どの層間に接着剤層を有してもよい。
【0021】
そして、実施の形態1では、中間層121とバッファ層123に同じ材料を用いる。これら中間層121とバッファ層123に用いる材料例を実施例1~実施例8に示す。
【0022】
実施例1では、中間層121とバッファ層123が酸化シリコンとインジウムの酸化物を含む材料を用いる。実施例2では、中間層121とバッファ層123が酸化シリコンとチタンの酸化物を含む材料を用いる。実施例3では、中間層121とバッファ層123に酸化シリコンと錫の酸化物を含む材料を用いる。実施例4では、中間層121とバッファ層123に酸化シリコンとゲルマニウムの酸化物を含む材料を用いる。実施例5では、中間層121とバッファ層123に酸化シリコンと亜鉛の酸化物を含む材料を用いる。実施例6では、中間層121とバッファ層123に元素の周期表の第3~第18族の金属元素の1種以上の酸化物と酸化シリコンとの混合物または化合物を用いる。実施例7では、中間層121とバッファ層123にシリコンを除く半導体元素の1種以上の酸化物と酸化シリコンとの混合物または化合物を用いる。実施例8では、中間層121とバッファ層123に元素の周期表の第3~第18族の金属元素とシリコンを除く半導体元素のそれぞれ1種以上で構成される酸化物と酸化シリコンとの混合物または化合物を用いる。
【0023】
このように、中間層121とバッファ層123に同じ材料を用いた実施例1~8のいずれにおいても、薄膜LN光変調器100のDCドリフトを抑制することができる。
【0024】
図2は、実施の形態1にかかる薄膜LN光変調器のDCドリフト特性を示す図表である。横軸は、薄膜LN光変調器100に電圧を印加後の経過時間であり、縦軸はDCドリフト量(%)である。図中実線は実施の形態1(実施例1)のDCドリフト特性を示す。図中点線には中間層121とバッファ層123が異なる材料の場合のDCドリフト特性を示す(例えば、上記特許文献5相当の中間層121が酸化ジルコニウム、バッファ層123がシリカあるいはアルミナの場合)。
【0025】
薄膜LN光変調器100では、電極111に印加した電圧が、印加した瞬間と、十分時間が経過した後で変化するDCドリフトと呼ばれる現象が起こる。電圧の変化は、薄膜LN光変調器100が出力する出射光の変化として現れるため、DCドリフトの抑制は薄膜LN光変調器100の動作安定化に必要不可欠である。DCドリフト量は、印加電圧に比例するため、一般的に印加電圧に対するパーセントで表現されている。
【0026】
ここで、電極111に印加するDC電圧をVDC,時刻tにおける印加電圧をV(t),印加した瞬間の電圧をV(0)とすると、ドリフト量は下記式(1)で表される。
{V(t)-V(0)}/VDC …(1)
【0027】
正のドリフト100%となると、どんなに大きな電圧をかけても制御が不可能な状態になる。そのため、負のドリフトの状態が長いほど薄膜LN光変調器100の長期信頼性を確保することができる。図2において、バッファ層121と中間層123の材料を同じにした以外の条件(基板120,薄膜LN122,電極111)は同一とした。
【0028】
そして、図2には、実施の形態1で説明した、バッファ層121と中間層123に元素の周期表の第3~第18族の金属元素の同じ材料を用いることで、負のドリフトの状態を長くすることが可能になることが示されている。実施例1~実施例8に示した材料のいずれを選択するかは、材料コストおよび所望するDCドリフト特性に応じて適宜選択すればよい。実施例1~実施例8のいずれにおいても図2に示す負のドリフト状態が得られた。
【0029】
このように、実施の形態1によれば、薄膜LN光変調器100のバッファ層121と中間層123に元素の周期表の第3~第18族の金属元素の同じ材料を用いることで、負のドリフトの状態を長くすることが可能になり、DCドリフト特性を大幅に改善できる。これにより、薄膜LN光変調器100の長期信頼性を確保することができるようになる。
【0030】
(実施の形態2-薄膜LN光変調器の他の構成例)
次に、図3図7を用いて実施の形態2にかかる薄膜LN光変調器100の他の構成例を説明する。以下の構成例では、実施の形態1で説明した、バッファ層121と中間層123に元素の周期表の第3~第18族の金属元素に同じ材質を用いることを前提としている。これにより、上記説明した薄膜LN光変調器100の一つの特性であるDCドリフトの抑制に加え、散乱損失の低減および電界効率の特性向上を図る。
【0031】
ここで、散乱損失と電界効率のトレードオフについて説明しておく。薄膜LN光変調器100では、光導波路122aへの光波の閉じ込めが強いため、空気とバッファ層の境界が光導波路122aに近いと、光導波路122aの側壁荒れによる散乱損失が発生する。側壁荒れは、リッジ形状部を凸状に形成する際、この凸状部分の側壁に多数生じる微小なバリに相当する。そして、リッジ形状部を覆い形成する際、バッファ層123の側壁部分にも同様の側壁荒れが生じる。
【0032】
側壁荒れによる散乱損失を低減するためには、バッファ層123を厚くする必要がある。その一方、薄膜LN光変調器100の電界効率は、電極111と光導波路122aの距離が近いほど高くなるため、電界効率を上げて薄膜LN光変調器100を小型化するためには、バッファ層123を薄くする必要がある。このように、薄膜LN光変調器100では、バッファ層123の厚さについて、散乱損失の低減と電界効率の改善(小型化)のトレードオフが課題となっている。
【0033】
また、薄膜LN層122にZcutを用いた薄膜LN光変調器の場合、上下方向に電界を印加する必要があり、例えば、Xcutを用いた場合と比較して単純に電極間隔を狭めることで電界効率を改善することが難しい。この課題に対応して、実施の形態2においても、薄膜LN層122についてもXcutのニオブ酸リチウムを用いる。なお、実施の形態2においても各部(基板120、中間層121、薄膜LN層122、電極111)の材質等の構成は、実施の形態1と同様である。
【0034】
そして、実施の形態2の各種構成例では、光導波路122aの周辺は、バッファ層123として所定の厚さを残したまま、電極111を形成する位置を下げる。
【0035】
図3は、実施の形態2にかかる薄膜LN光変調器の構成例の断面図である。図3は、図1のA-A’線断面に相当する。図3(a)の構成例では、薄膜LN層122上に所定の厚さのバッファ層123を積層する。この際、バッファ層123は、光導波路122aのリッジ部分の凸形状に沿う形で、光導波路122aの上部および側部に一定な厚さで形成される。この際、バッファ層123のうち、光導波路122aから所定距離離れた両側部には、光導波路122aの凸形状に応じた凹部123aが形成される。
【0036】
この後、バッファ層123のうち電極111を設ける部分(凹部123a)をエッチングする。電極111は、光導波路122aを中心として所定距離離れた両側部に設けられる。バッファ層123のエッチングにより、電極111を設ける部分のバッファ層123には、段差部123bが形成される。
【0037】
そして、バッファ層123の段差部123b上に電極111を形成する。電極111は、例えば金(Au)等の蒸着により形成できる。これにより、段差部123bの高さ方向の位置は、エッチング前のバッファ層123の凹部123aの位置より高さh1分だけ低い位置となる。
【0038】
そして、バッファ層123の段差部123b部分に電極111を設けることで、光導波路122aに対して電極111を距離(幅)w1を有し、できるだけ近づけることができる。幅w1は、薄膜LN層122上にバッファ層123を積層した際の所定の厚さに対応しており、光導波路122aへの光の閉じ込めの作用を有する。
【0039】
このように、電極111を形成する部分のバッファ層123に段差部123bを形成することで、光導波路122aを中心としたバッファ層123の厚さ自体を確保しつつ、光導波路122aに対して電極111を近づけて配置できるようになる。
【0040】
これにより、バッファ層の厚さに関するトレードオフを解消して散乱損失が小さく、電界効率が高い薄膜LN光変調器100を実現できるようになる。
【0041】
図3(b),図3(c)に示す構成例では、図3(a)よりもそれぞれエッチング量を増やしている。図3(b)の構成例では、電極111を設ける部分(凹部123a)のバッファ層123全体をエッチングする。加えて、薄膜LN層122部分も所定量エッチングし、薄膜LN層122部分に段差部122bを形成している。そして、薄膜LN層122の段差部122b上に電極111を蒸着等により形成する。
【0042】
これにより、段差部122bの高さ方向の位置は、エッチング前のバッファ層123の凹部123aの位置より高さh2分だけ低い位置となる。そして、薄膜LN層122の段差部122b部分に電極111の底面111bを設けることにより、光導波路122aに対し、電極111を距離(幅)w1を有しつつ、できるだけ近づけることができる。
【0043】
図3(c)の構成例では、電極111を設ける部分(凹部123a)のバッファ層123全体をエッチングする。加えて、薄膜LN層122の全体、さらには中間層121も所定量エッチングし、中間層121部分に段差部121bを形成している。そして、中間層121の段差部121b上に電極111を形成する。
【0044】
これにより、段差部121bの高さ方向の位置は、エッチング前のバッファ層123の凹部123aの位置より高さh3分だけ低い位置となる。そして、中間層121の段差部121b部分に底面111bが位置する電極111を設けることで、光導波路122aに対し、電極111を距離(幅)w1を有しつつ、できるだけ近づけることができる。
【0045】
図3(a)の構成例よりも図3(b)の構成例の方がエッチング量が多く、図3(b)の構成例よりも図3(c)の構成例の方がエッチング量が多くなる。エッチング量が多いほど電界効率は向上するが、プロセス難度も上がるため、必要な電界効率等の特性と、製造の容易性を考慮して最適な構造を選択すればよい。
【0046】
図4は、実施の形態2にかかる薄膜LN光変調器の他の構成例の断面図である。図4においても、図1のA-A’線断面に相当する。図3を用いて説明した構成例では、電極111の側壁がバッファ層123に接している例を説明した。
【0047】
しかしながら、実際には、製造上の公差等により、電極111の側壁がバッファ層123から離れて設けられることがある。例えば、エッチング時にバッファ層123上に設けるマスクの開口、あるいは電極111の形成時にバッファ層123上に設けるマスクの開口、の配置位置のズレや開口径の誤差等により、電極111の側壁と、バッファ層123の側壁には隙間が生じることがある。図4は、電極111の側壁がバッファ層123から離れた場合の構成例を示している。
【0048】
図4(a)の構成例では、薄膜LN層122上に所定の厚さのバッファ層123を積層する。この際、バッファ層123は、光導波路122aの凸状のリッジ部分に応じて表面側に凹部123aが形成される。この後、バッファ層123のうち電極111を設ける部分(凹部123a)をエッチングする。
【0049】
このエッチング時、光導波路122a部分を中心として、段差部123bまでのバッファ層123部分(幅w2)をマスクし、段差部123b部分のマスクに開口を設ける。そして、マスクの開口部分からバッファ層123部分をエッチングする。このエッチングにより、バッファ層123には電極111を設ける部分に段差部123bが形成される。
【0050】
そして、バッファ層123の段差部123b上に電極111を形成する。電極111の形成時においても、光導波路122a部分を中心として、段差部123bまでのバッファ層123部分(幅w2)をマスクし、段差部123b部分のマスクに開口を設ける。そして、マスクの開口部分から電極111を蒸着形成する。
【0051】
ここで、エッチング時にバッファ層123上に設けるマスクの開口、あるいは電極111の形成時にバッファ層123上に設けるマスクの開口、の配置位置のズレや開口径の誤差により、電極111の側壁と、バッファ層123の側壁には隙間w3が生じる。この隙間w3は、例えば、バッファ層123のエッチング時のマスクの開口径よりも電極111形成時のマスクの開口径が広い場合に生じる。
【0052】
このように電極111の側壁と、バッファ層123の側壁に隙間w3が生じた場合においても、段差部123bの高さ方向の位置は、エッチング前のバッファ層123の凹部123aの位置より高さh1分だけ低い位置となる。そして、バッファ層123の段差部123b部分に電極111を設けることで、光導波路122aに対して電極111が距離(幅)w1を有し、できるだけ近づけることができる。幅w1は、薄膜LN層122上にバッファ層123を積層した際の所定の厚さに対応しており、光導波路122aへの光の閉じ込めの作用を有する。
【0053】
このように、電極111を形成する部分のバッファ層123に段差部123bを形成する。これにより、電極111の側壁と、バッファ層123の側壁に隙間w3を有した場合であっても、光導波路122aを中心としたバッファ層123の厚さ自体を確保しつつ、光導波路122aに対して電極111を近づけて配置できるようになる。
【0054】
これにより、バッファ層の厚さに関するトレードオフを解消して散乱損失が小さく、電界効率が高い薄膜LN光変調器100を実現できるようになる。
【0055】
図4(b),図4(c)に示す構成例では、図4(a)の構成例よりもそれぞれエッチング量を増やしている。図4(b)の構成例では、電極111を設ける部分(凹部123a)のバッファ層123全体をエッチングする。加えて、薄膜LN層122部分も所定量エッチングし、薄膜LN層122部分に段差部122bを形成している。そして、薄膜LN層122の段差部122b上に電極111を蒸着等により形成する。ここで、図4(a)と同様にマスクの位置ズレや開口径の誤差等により、電極111の側壁と、薄膜LN層122およびバッファ層123の側壁との間には、隙間w3が形成される。
【0056】
このように電極111の側壁と、薄膜LN層122およびバッファ層123の側壁との間に隙間w3が生じた場合においても、段差部122bの高さ方向の位置は、エッチング前のバッファ層123の凹部123aの位置より高さh2分だけ低い位置となる。そして、薄膜LN層122の段差部122b部分に底面111bが位置する電極111を設けることで、光導波路122aに対し、電極111を距離(幅)w1を有しつつ、できるだけ近づけることができる。
【0057】
図4(c)の構成例では、電極111を設ける部分(凹部123a)のバッファ層123全体をエッチングする。加えて、薄膜LN層122の全体、さらには中間層121も所定量エッチングし、中間層121部分に段差部121bを形成している。そして、中間層121の段差部121b上に電極111を形成する。ここで、図4(a)と同様にマスクの位置ズレや開口径の誤差等により、電極111の側壁と、中間層121、薄膜LN層122、バッファ層123の側壁と、の間には、隙間w3が形成される。
【0058】
このように、電極111の側壁と、中間層121、薄膜LN層122、バッファ層123の側壁と、の間に隙間w3が生じたとする。この場合においても、段差部121bの高さ方向の位置は、エッチング前のバッファ層123の凹部123aの位置より高さh3分だけ低い位置となる。そして、中間層121の段差部121b部分に底面111bが位置する電極111を設けることで、光導波路122aに対し、電極111を距離(幅)w1を有しつつ、できるだけ近づけることができる。
【0059】
図4(a)の構成例よりも図4(b)の構成例の方がエッチング量が多く、図4(b)の構成例よりも図4(c)の構成例の方がエッチング量が多くなる。エッチング量が多いほど電界効率は向上するが、プロセス難度も上がるため、必要な電界効率等の特性と、製造の容易性を考慮して最適な構造を選択すればよい。
【0060】
図5は、実施の形態2にかかる薄膜LN光変調器の他の構成例の断面図である。図5においても、図1のA-A’線断面に相当する。図4を用いて説明した構成例では、電極111の側壁がバッファ層123から隙間w3を有して離れる例を説明した。
【0061】
図4で説明した例とは逆に、製造上の公差等により、電極111の一部(側壁)がバッファ層123の段差部123bよりも内側に位置し、隙間w3相当がなくなることもある。例えば、エッチング時にバッファ層123上に設けるマスクの開口、あるいは電極111の形成時にバッファ層123上に設けるマスクの開口、の配置位置のズレや開口径の誤差等が生じたとする。これにより、電極111の一部(側壁)がバッファ層123の凹部123a部分に位置することがある。図5は、電極111の一部(中央側の側壁)がバッファ層123の凹部123a上に乗り上がる形で形成された場合の構成例を示している。
【0062】
図5(a)の構成例では、薄膜LN層122上に所定の厚さのバッファ層123を積層する。この際、バッファ層123は、光導波路122aの凸状のリッジ部分に応じて表面側に凹部123aが形成される。この後、バッファ層123のうち電極111を設ける部分(凹部123a)をエッチングする。このエッチング時、光導波路122a部分を中心として、段差部123bまでのバッファ層123部分(幅w2)をマスクし、段差部123b部分のマスクに開口を設ける。そして、マスクの開口部分からバッファ層123部分をエッチングする。このエッチングにより、バッファ層123には電極111を設ける部分に段差部123bが形成される。
【0063】
そして、バッファ層123の段差部123b上に電極111を形成する。電極111の形成時においても、光導波路122a部分を中心として、段差部123bまでのバッファ層123部分(幅w2)をマスクし、段差部123b部分のマスクに開口を設ける。そして、マスクの開口部分から電極111を蒸着形成する。
【0064】
ここで、エッチング時にバッファ層123上に設けるマスクの開口、あるいは電極111の形成時にバッファ層123上に設けるマスクの開口、の配置位置のズレや開口径の誤差により、電極111の側壁の一部がバッファ層123の凹部123aに位置する。電極111は凹部123a上に幅w4(重なり量に相当)を有して乗り上がる形で位置する。この幅w4は、例えば、バッファ層123のエッチング時のマスクの開口径よりも電極111形成時のマスクの開口径が狭い場合に生じる。
【0065】
このように電極111の側壁がバッファ層123の凹部123a部分に位置した場合においても、段差部123bの高さ方向の位置は、エッチング前のバッファ層123の凹部123aの位置より高さh1分だけ低い位置となる。そして、バッファ層123の段差部123b部分に電極111を設けることで、光導波路122aに対して電極111を距離(幅)w1を有し、できるだけ近づけることができる。幅w1は、薄膜LN層122上にバッファ層123を積層した際の所定の厚さに対応しており、光導波路122aへの光の閉じ込めの作用を有する。
【0066】
このように、電極111を形成する部分のバッファ層123に段差部123bを形成する。これにより、電極111の側壁がバッファ層123の凹部123a上に幅w4を有して位置した場合であっても、光導波路122aを中心としたバッファ層123の厚さ自体を確保しつつ、光導波路122aに対して電極111を近づけて配置できるようになる。
【0067】
これにより、バッファ層の厚さに関するトレードオフを解消して散乱損失が小さく、電界効率が高い薄膜LN光変調器100を実現できるようになる。
【0068】
図5(b),図5(c)に示す構成例では、図5(a)の構成例よりもそれぞれエッチング量を増やしている。図5(b)の構成例では、電極111を設ける部分(凹部123a)のバッファ層123全体をエッチングする。加えて、薄膜LN層122部分も所定量エッチングし、薄膜LN層122部分に段差部122bを形成している。そして、薄膜LN層122の段差部122b上に電極111を蒸着等により形成する。ここで、図5(a)と同様にマスクの位置ズレや開口径の誤差等により、電極111の側壁が薄膜LN層122上のバッファ層123の凹部123aに幅w4を有して乗り上がる形で位置する。
【0069】
このように電極111の側壁が薄膜LN層122上のバッファ層123の凹部123aに幅w4を有して位置した場合においても、段差部122bの高さ方向の位置は、エッチング前のバッファ層123の凹部123aの位置より高さh2分だけ低い位置となる。そして、薄膜LN層122の段差部122b部分に底面111bが位置する電極111を設けることで、光導波路122aに対し、電極111を距離(幅)w1を有しつつ、できるだけ近づけることができる。
【0070】
図5(c)の構成例では、電極111を設ける部分(凹部123a)のバッファ層123全体をエッチングする。加えて、薄膜LN層122全体、さらには中間層121も所定量エッチングし、中間層121部分に段差部121bを形成している。そして、中間層121の段差部121b上に電極111を形成する。ここで、図5(a)と同様にマスクの位置ズレや開口径の誤差等により、電極111の側壁が、中間層121および薄膜LN層122上のバッファ層123の凹部123aに幅w4を有して位置する。
【0071】
このように、電極111の側壁がバッファ層123の凹部123aに幅w4を有して位置した場合においても、段差部121bの高さ方向の位置は、エッチング前のバッファ層123の凹部123aの位置より高さh3分だけ低い位置となる。そして、中間層121の段差部121b部分に底面111bが位置する電極111を設けることで、光導波路122aに対し、電極111が距離(幅)w1を有しつつ、できるだけ近づけることができる。
【0072】
図5(a)の構成例よりも図5(b)の構成例の方がエッチング量が多く、図5(b)の構成例よりも図5(c)の構成例の方がエッチング量が多くなる。エッチング量が多いほど電界効率は向上するが、プロセス難度も上がるため、必要な電界効率等の特性と、製造の容易性を考慮して最適な構造を選択すればよい。
【0073】
図6は、実施の形態2にかかる薄膜LN光変調器の他の構成例の製造工程図である。図6の構成例では、バッファ層123に凹部123aを設けず、バッファ層123を平坦化してから電極111を形成する構成例である。
【0074】
図6(a)~(c)は、それぞれ製造工程を示す。初めに、図6(a)に示すように、基板120上に、中間層121、薄膜LN層122を積層する。薄膜LN層122は、エッチングにより、凸状(リッジ部分)の光導波路122aを形成する。この後、凸状の光導波路122aを含む薄膜LN層122の表面全面にバッファ層123を形成する。この際、バッファ層123は、光導波路122aの凸状のリッジ部分に応じて表面側に凹部123aが形成される。
【0075】
つぎに、図6(b)に示すように、バッファ層123の表面を凹部123aの高さh4分だけ削ることで、バッファ層123の表面を平坦化する。このバッファ層123の平坦化の処理は、例えば、光導波路122aに対する電界の印加状況に応じて平坦化した方が良好な電界印加となる場合に行う。
【0076】
その後、図6(c)に示すように、バッファ層123のうち電極111を設ける部分を高さh1分だけエッチングする。このエッチングにより、バッファ層123には電極111を設ける部分に段差部123bが形成される。そして、バッファ層123の段差部123b上に電極111を形成する。
【0077】
これにより、段差部123bの高さ方向の位置は、バッファ層123の表面の位置より高さh1分だけ低い位置となる。そして、バッファ層123の段差部123b部分に電極111を設けることで、光導波路122aに対して電極111が距離(幅)w1を有し、できるだけ近づけることができる。幅w1は、薄膜LN層122上にバッファ層123を積層した際の所定の厚さに対応しており、光導波路122aへの光の閉じ込めの作用を有する。
【0078】
このように、電極111を形成する部分のバッファ層123に段差部123bを形成することで、光導波路122aを中心としたバッファ層123の厚さ自体を確保しつつ、光導波路122aに対して電極111を近づけて配置できるようになる。
【0079】
これにより、バッファ層の厚さに関するトレードオフを解消して散乱損失が小さく、電界効率が高い薄膜LN光変調器100を実現できるようになる。
【0080】
また、バッファ層123の表面を平坦化処理する場合においても、上述したように、電極111を設ける部分のバッファ層123に対するエッチングの量は高さh1の位置とするに限らない。例えば、高さh2、あるいは高さh3の位置まで深くしてもよい(図3(b),(c)等参照)。
【0081】
図7は、実施の形態2と対比用の薄膜LN光変調器の構成例の断面図である。図7において、実施の形態2と同様の構成部には同じ符号を付してある。対比用の薄膜LN光変調器700では、バッファ層123の凹部123a上に電極111を配置している。
【0082】
図7(a)には、バッファ層123の厚さを比較的厚い所定の厚さh5とした場合を示す(実施の形態1の図1(b)の積層構造相当)。この場合、バッファ層123は、光導波路122aのリッジ部分の凸形状に沿う形で、光導波路122aの上部および側部にこの一定な厚さh5で形成される。この際、光導波路122aから離れた箇所のバッファ層123には、表面側に凹部123aが形成される。
【0083】
このため、光導波路122aと電極111との間の距離(幅)w11は、実施の形態2で説明したw1よりも広い(長い)距離となる。これにより、図7(a)の構造とした薄膜LN光変調器700では、実施の形態2に比べて電界効率が低くなり、光変調器が大型化する。
【0084】
一方、図7(b)に示すように、バッファ層123の厚さを比較的薄い所定の厚さh6としたとする。この場合、バッファ層123は、光導波路122aのリッジ部分の凸形状に沿う形で、光導波路122aの上部および側部にこの一定な厚さh6で形成される。
【0085】
この場合、光導波路122aの形成時に生じた側壁荒れに対応して、バッファ層123の側壁部分にも同様の側壁荒れが生じる。ここで、バッファ層123を薄く形成した場合には、光導波路122aへの光の閉じ込めが弱くなり、また、バッファ層123の側壁荒れにより散乱損失が発生する。これにより、図7(b)の構造とした薄膜LN光変調器700では、実施の形態2に比べて散乱損失が増加する。
【0086】
これに対し、実施の形態2では、光導波路122aを覆う部分のバッファ層123の厚さとして所定の厚さを確保しつつ、電極111を設ける箇所のバッファ層123に段差部123bを設けることとした。これにより、電極111を光導波路122aに近づけることができる。そして、所定厚さのバッファ層123により散乱損失を低減でき、かつ、光導波路122aに電極111を近づけて配置することで電界効率を向上できるようになる。
【0087】
このように、実施の形態2では、単純にバッファ層を厚くして側壁荒れによる散乱損失を低減するものではなく、また、単に光導波路に電極を近づけるものではない構成としている。実施の形態2のように、光導波路の上部および側壁には、所定厚さを有するバッファ層を設けることで光導波路への光の閉じ込めができ散乱損失を低減できる。加えて、電極の底面を、バッファ層の表面の位置よりも低い位置に設けることで、電極を光導波路にできるだけ近づけることができ、電界効率を向上できるようになる。このように、実施の形態2によれば、実施の形態1で説明した中間層とバッファ層に同じ材料を用いることによるDCドリフトの抑制に加えて、散乱損失の低減と電界効率の改善のトレードオフを解決し、散乱損失が小さくかつ電界効率を改善できるようになる。これにより、薄膜LN光変調器をより小型化でき総合特性を改善でき、薄膜LN光変調器の長期信頼性を確保できるようになる。
【0088】
以上説明したように、薄膜LN光変調器100は、基板上に、中間層、ニオブ酸リチウムの薄膜LN層、バッファ層が積層され、薄膜LN層に光導波路が形成され、光導波路の近傍に配置された電極を有する。そして、中間層と、バッファ層を同一の材料とする。例えば、中間層121とバッファ層123に元素の周期表の第3~第18族の金属元素を用いる。また、前記中間層と、前記バッファ層に元素の周期表の第3~第18族の金属元素の1種以上の酸化物と酸化シリコンとの混合物または化合物を用いてもよい。また、中間層121とバッファ層123にシリコンを除く半導体元素の1種以上の酸化物と酸化シリコンとの混合物または化合物を用いてもよい。また、中間層121とバッファ層123に元素の周期表の第3~第18族の金属元素とシリコンを除く半導体元素のそれぞれ1種以上で構成される酸化物と酸化シリコンとの混合物または化合物を用いてもよい。これにより、電極に電圧印加後の負のドリフトの状態を長くすることが可能になり、DCドリフト特性を大幅に改善できる。これにより、薄膜LN光変調器100の長期信頼性を確保することができるようになる。
【0089】
そして、薄膜LN光変調器100は、薄膜LN層にXcutニオブ酸リチウムからなる材料を用いてもよい。これにより、光導波路の上下方向に電界を印加する必要がなく、光導波路の側部に電極を配置して微小領域(光導波路)への光閉じ込めができる。また、光導波路と電極との間隔を狭めることで電界効率を改善できる、という薄膜LNの利点を最大限活かすことができるようになる。
【0090】
さらに、上記に加えて、薄膜LN光変調器100は、電極の底面を、バッファ層の表面の位置よりも低い位置に設けてもよい。電極の底面は、バッファ層の内部の所定深さh1位置の段差部上に設けてもよい。また、電極の底面は、バッファ層の表面から薄膜LN層の内部に達する所定深さh2位置の段差部上に設けてもよい。また、電極の底面は、バッファ層の表面から中間層の内部に達する所定深さh3位置の段差部上に設けてもよい。これら各深さ位置は、電極を設ける部分のエッチング量を変えることで容易に得ることができる。これにより、光導波路の上部および側壁に対し所定厚さを有するバッファ層により、光導波路への光の閉じ込めができ散乱損失を低減できるとともに、電極を光導波路にできるだけ近づけることができ、電界効率を向上できるようになる。
【0091】
また、薄膜LN光変調器100は、薄膜LN層に形成される光導波路のリッジ形状に対応して、薄膜LN層に積層するバッファ層に生じる凹部を平坦化してもよい。例えば、エッチングにより凹部を削り、バッファ層の表面を平坦化できる。この平坦化は、例えば、光導波路に対する電界の印加状況に応じて平坦化した方が良好な電界印加となる場合に行うことができる。
【0092】
上述した実施の形態に関し、さらに以下の付記を開示する。
【0093】
(付記1)基板上に、中間層、ニオブ酸リチウムの薄膜LN層、バッファ層が積層され、前記薄膜LN層に光導波路が形成され、前記光導波路の近傍に電極を有する光導波路デバイスにおいて、
前記中間層と、前記バッファ層は、元素の周期表の第3~第18族の金属元素の同じ材料によりなることを特徴とする光導波路デバイス。
【0094】
(付記2)前記中間層と、前記バッファ層は、酸化シリコンとインジウムの酸化物を含むことを特徴とする付記1に記載の光導波路デバイス。
【0095】
(付記3)前記中間層と、前記バッファ層は、酸化シリコンとチタンの酸化物を含むことを特徴とする付記1に記載の光導波路デバイス。
【0096】
(付記4)前記中間層と、前記バッファ層は、酸化シリコンと錫の酸化物を含むことを特徴とする付記1に記載の光導波路デバイス。
【0097】
(付記5)前記中間層と、前記バッファ層は、酸化シリコンとゲルマニウムの酸化物を含むことを特徴とする付記1に記載の光導波路デバイス。
【0098】
(付記6)前記中間層と、前記バッファ層は、酸化シリコンと亜鉛の酸化物を含むことを特徴とする付記1に記載の光導波路デバイス。
【0099】
(付記7)前記中間層と、前記バッファ層は、さらに他の金属または半導体元素の酸化物を含むことを特徴とする付記2~6のいずれか一つに記載の光導波路デバイス。
【0100】
(付記8)前記中間層と、前記バッファ層は、元素の周期表の第3~第18族の金属元素の1種以上の酸化物と、酸化シリコンとの混合物または化合物によりなることを特徴とする付記1に記載の光導波路デバイス。
【0101】
(付記9)前記中間層と、前記バッファ層は、シリコンを除く半導体元素の1種以上の酸化物と、酸化シリコンとの混合物または化合物によりなることを特徴とする付記1に記載の光導波路デバイス。
【0102】
(付記10)前記中間層と、前記バッファ層は、元素の周期表の第3~第18族の金属元素と、シリコンを除く半導体元素のそれぞれ1種以上で構成される酸化物と酸化シリコンとの混合物または化合物によりなることを特徴とする付記1に記載の光導波路デバイス。
【0103】
(付記11)前記薄膜LN層は、Xcutニオブ酸リチウムからなることを特徴とする付記1~10のいずれか一つに記載の光導波路デバイス。
【0104】
(付記12)さらに、前記電極の底面が、前記バッファ層の表面の位置よりも低い位置に設けられたことを特徴とする付記1~11のいずれか一つに記載の光導波路デバイス。
【0105】
(付記13)前記電極の底面は、前記バッファ層の内部の所定深さ位置の段差部上に設けられたことを特徴とする付記12に記載の光導波路デバイス。
【0106】
(付記14)前記電極の底面は、前記バッファ層の表面から前記薄膜LN層の内部に達する所定深さ位置の段差部上に設けられたことを特徴とする付記12に記載の光導波路デバイス。
【0107】
(付記15)前記電極の底面は、前記バッファ層の表面から前記中間層の内部に達する所定深さ位置の段差部上に設けられたことを特徴とする付記12に記載の光導波路デバイス。
【0108】
(付記16)前記薄膜LN層に形成される前記光導波路の形状に対応して、前記薄膜LN層に積層する前記バッファ層に生じる凹部が平坦化されたことを特徴とする付記12~15のいずれか一つに記載の光導波路デバイス。
【符号の説明】
【0109】
100 薄膜LN光変調器
101~104,122a 光導波路
111 電極
111b 底面(電極)
120 基板
121 中間層
121b,122b,123b 段差部
122 薄膜LN層
123 バッファ層
123a 凹部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7