(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-24
(45)【発行日】2024-08-01
(54)【発明の名称】条鋼線材コイルの製造方法
(51)【国際特許分類】
B21B 45/02 20060101AFI20240725BHJP
B21B 1/16 20060101ALI20240725BHJP
B21B 39/00 20060101ALI20240725BHJP
B21B 45/00 20060101ALI20240725BHJP
【FI】
B21B45/02 320M
B21B1/16 B
B21B39/00 B
B21B45/00 D
(21)【出願番号】P 2020134528
(22)【出願日】2020-08-07
【審査請求日】2023-06-30
(31)【優先権主張番号】P 2019154670
(32)【優先日】2019-08-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000110251
【氏名又は名称】トピー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085556
【氏名又は名称】渡辺 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100115211
【氏名又は名称】原田 三十義
(74)【代理人】
【識別番号】100153800
【氏名又は名称】青野 哲巳
(72)【発明者】
【氏名】劉 金山
(72)【発明者】
【氏名】山本 智巳
(72)【発明者】
【氏名】清水 良太
(72)【発明者】
【氏名】北川 義大
【審査官】池田 安希子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-196903(JP,A)
【文献】特開2005-118806(JP,A)
【文献】特開2009-233718(JP,A)
【文献】特開昭48-020708(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21B 1/00 - 11/00
B21B 45/00 - 45/08
B21B 39/00 - 41/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧延ラインで連続圧延することにより得られた条鋼線材を、上記圧延ラインの下流側に上記圧延ラインの延長線に沿って延びる冷却ラインにより冷却した後、上記冷却ラインの下流側の巻取りステージに配置された巻取り機のスプールに整列状態で密巻きに巻き取ることにより、条鋼線材コイルを得、
さらに、上記巻取りステージから保管ヤードへの搬送ラインにおいて、上記搬送ラインに沿って配置された冷却手段により、上記条鋼線材コイルを冷却
し、
上記巻き取り時の上記条鋼線材の表面温度が600~700 ℃ であり、上記搬送ラインでの条鋼線材コイルの冷却により、上記条鋼線材コイルの外周層の表面温度を、56分以内に500℃以下に低下させることを特徴とする条鋼線材コイルの製造方法。
【請求項2】
上記搬送ラインでの条鋼線材コイルの冷却により、上記外周層の表面温度を
56分以内に400℃ 以下に低下させることを特徴とする請求項
1に記載の条鋼線材コイルの製造方法。
【請求項3】
上記冷却手段は、上記搬送ラインに沿って配置された複数の送風手段により構成され、送風により上記条鋼線材コイルを冷却することを特徴とする請求項
1または2に記載の条鋼線材コイルの製造方法。
【請求項4】
上記冷却手段による冷却能力は、上記搬送ラインの上流部が下流部より高いことを特徴とする請求項
1~3のいずれかに記載の条鋼線材コイルの製造方法。
【請求項5】
上記搬送ラインの上流部の冷却手段が、水を含む冷却媒体を上記条鋼線材コイルに供給する装置を有し、下流部の冷却手段が送風手段により構成されていることを特徴とする請求項
1または2に記載の条鋼線材コイルの製造方法。
【請求項6】
上記搬送ラインに続いて上記保管ヤードでも、他の冷却手段としての送風手段により上記条鋼線材コイルを冷却することを特徴とする請求項
1~5のいずれかに記載の条鋼線材コイルの製造方法。
【請求項7】
上記条鋼線材コイルが2トン以下であることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の条鋼鋼線コイルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧延により得られた条鋼線材を冷却した後、密巻きに巻き取って条鋼線材コイルにする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
加熱されたビレットやブルーム等の鋼材を圧延ラインにおいて連続圧延して条鋼線材を得、この条鋼線材を、圧延ラインの下流側において圧延ラインの延長線に沿って延びる冷却ラインで冷却した後、冷却ラインの下流側に配置された巻取りステージで巻き取って条鋼線材コイルにする方法は公知である。
【0003】
特許文献1に開示されている方法では、圧延ラインの最終仕上げ圧延機から送られてくる約950℃の条鋼線材を、冷却ラインの複数段の冷却装置で水を掛けることにより段階的に冷却してから、巻取り機で密巻きに巻き取るようになっている。巻取り機はスプールとスプールの手前の整列機構を備え、整列機構により条鋼線材を整列させながらスプールを回転させることにより、条鋼線材に張力を加えながら、条鋼線材をスプールに幾重にも密に巻き取る。
上記のように密巻きに巻き取られた条鋼線材は、嵩張らないので、保管、運搬の効率を上げることができる。
【0004】
特許文献1では、巻取り時の条鋼線材の表面温度をA1変態点以下、例えば700℃以下にすることにより、巻取り後の条鋼線材の断面変形を抑制している。また、冷却ラインの長大化を回避するため、巻取り時の条鋼線材の表面温度を例えば600℃以上としている。
【0005】
特許文献2では、圧延された条鋼線材のホットコイルを保管ヤードにおいて冷却する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2018-196903号公報
【文献】特開昭63-216926号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1のように600~700℃で条鋼線材を密巻きにして自然冷却させると、条鋼線材表面に赤スケール(Fe2O3)が生じるため、美観を損なうばかりか作業環境を悪化させる。
特許文献2でも条鋼線材表面に赤スケールが発生し易い。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は上記課題を解決するためになされたもので、圧延ラインで連続圧延することにより得られた条鋼線材を、上記圧延ラインの下流側に上記圧延ラインの延長線に沿って延びる冷却ラインにより冷却した後、上記冷却ラインの下流側の巻取りステージに配置された巻取り機のスプールに整列状態で密巻きに巻き取ることにより、条鋼線材コイルを得、さらに、上記巻取りステージから保管ヤードへの搬送ラインにおいて、上記搬送ラインに沿って配置された冷却手段により、上記条鋼線材コイルを冷却することを特徴とする。
上記方法によれば、搬送ラインで条鋼線材コイルを冷却することにより、条鋼線材コイルを高温状態で放置せずに早期に冷却することができ、赤スケールの発生を抑制できる。
【0009】
好ましくは、上記巻き取り時の上記条鋼線材の表面温度が600~700℃であり、上記搬送ラインでの条鋼線材コイルの冷却により、上記条鋼線材コイルの外周層の表面温度を、500℃以下に低下させる。
上記方法によれば、巻取り温度がA1変態点以下であるので密巻きにしても条鋼線材の断面変形を抑制することができる。また、600℃以上であるので冷却ラインの長大化を防ぐことができる。巻取り温度が600~700℃と比較的高い状態で放置すると、赤スケールが発生し易いが、搬送ラインにおいて条鋼線材コイルの外周層の表面温度を500℃以下に冷却することにより、条鋼線材の表面での赤スケールの発生を自然冷却させる場合に比べて著しく少なくすることができる。
【0010】
さらに好ましくは、上記搬送ラインでの条鋼線材コイルの冷却により、上記外周層の表面温度を400℃以下に低下させる。
上記方法によれば、条鋼線材コイルの外周層、内周層のみならず内部に至るまで条鋼線材の表面での赤スケールの発生を、目視困難なレベルかそれに近いレベルまで抑えることができる。
【0011】
好ましくは、上記冷却手段は、上記搬送ラインに沿って配置された複数の送風手段により構成され、送風により上記条鋼線材コイルを冷却する。
上記方法によれば、搬送ラインでの環境を良好に維持しながら冷却を行なうことができる。
【0012】
好ましくは、上記冷却手段による冷却能力は、上記搬送ラインの上流部が下流部より高い。
上記方法によれば、条鋼線材コイルの表面温度を効率よく下げることができる。
【0013】
他の態様では、上記搬送ラインの上流部の冷却手段が、水を含む冷却媒体を上記条鋼線材コイルに供給する装置を有し、下流部の冷却手段が送風手段により構成されている。
上記方法によれば、冷却媒体が水を含むので搬送ラインの上流側での冷却能力を高めることができる。また下流側では送風だけで冷却を行なうので、水分が条鋼線材コイルに残らず、この水分に起因した赤さび発生を回避できる。
【0014】
好ましくは、上記搬送ラインに続いて上記保管ヤードでも、他の冷却手段としての送風手段により上記条鋼線材コイルを冷却する。
上記方法によれば、条鋼線材コイルの重量が大きく、搬送ラインでの条鋼線材コイルの冷却が十分でない場合には、保管ヤードでの条鋼線材コイルの冷却により、赤スケールの発生を抑制することができる。また、搬送ラインでの冷却で赤スケールを抑制できる場合でも、保管ヤードでの冷却により、保管ヤードから条鋼線材コイルを搬出するまでの保管時間を短くすることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、圧延、冷却を経て密巻きされた条鋼線材コイルの赤スケール発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態に係る条鋼線材コイルの製造システムの概略構成を示す平面図である。
【
図2】上記製造システムの巻取り機の概略構成を示す平面図である。
【
図3】上記巻取り機のスプールに密巻きされた条鋼線材コイルを模式的に示す平断面図である。
【
図4】条鋼線材コイルでの隣接する条鋼線材を示す拡大図である。
【
図5】搬送ライン上での条鋼線材コイルの冷却工程の一例を示す概略側面図である。
【
図7】搬送ライン上での条鋼線材コイルの冷却工程の他の例を示す概略側面図である。
【
図8】保管ヤードでの条鋼線材コイルの冷却工程の一例を示す概略側面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照しながら説明する。
図1に示すように、条鋼線材コイルを製造する製造システムは、圧延方向に沿って直線状に配置された圧延ライン10と、圧延ライン10の下流側において圧延ライン10の延長線に沿って延びる冷却ライン20と、冷却ライン20の下流側の巻取りステージに配置された巻取り機30とを備えるとともに、搬送ライン40と、保管ヤード50を備えている。
【0018】
圧延ライン10は上流側から下流側に向かって順に配置された加熱炉11、粗列圧延機12、中間列圧延機13、仕上げ圧延機14、最終仕上げ圧延機15を有している。加熱炉11で加熱されたビレットまたはブルームは、粗列圧延機12、中間列圧延機13、仕上げ圧延機14、最終仕上げ圧延機15で連続圧延されて、段階的にその断面が減径され、最終仕上げ圧延機15から所望寸法の条鋼線材1となって出てくる。
【0019】
冷却ライン20は、最終仕上げ圧延機15の出側(下流側)に配置され、冷却ライン20に沿って間隔をおいて配置された複数例えば7つの冷却部21~27を有している。これら冷却部21~27により最終仕上げ圧延機15から出てきた約950℃の条鋼線材1は段階的に冷却され、巻取り機30に送られる。
【0020】
各冷却部21~27の間の区間および最も下流側の冷却部27と巻取り機30との間の区間は、条鋼線材1の表面温度が内部の熱により上昇する復熱部を提供する。
【0021】
冷却ライン20での条鋼線材1の冷却工程を概略的に説明する。条鋼線材1は冷却部21~27を通過する度に水を掛けられて段階的に冷却される。条鋼線材1の表面温度は、上記復熱部を通過する過程では、中心部からの伝熱により温度が上昇する(回復する)。このように、条鋼線材1の表面温度は冷却ライン20において変動しながら低下していく。
条鋼線材1の中心部の温度の低下は緩やかである。条鋼線材1の平均温度は、表面温度の影響を受けて段階的に低下する。
【0022】
最も下流側の7番目の復熱部では、7番目の水冷部27を出て直ぐに条鋼線材1の表面温度が急激に上昇してからその後は緩やかに上昇を続け条鋼線材1の中心温度と平均温度は緩やかに低下する。その結果、条鋼線材1が巻き取られる際には、中心温度と表面温度の差は30℃以下、好ましくは10℃以下となっている。
【0023】
巻取り機30のスプール31で巻き取られる際の条鋼線材1の表面温度は700℃以下とするのが好ましい。A1変態点(727℃)以下であるので、条鋼線材1の巻取り時には少なくとも表面では[オーステナイト]から [フェライト+パーライト]への組織の変態が終了しており、後述するように条鋼線材1に張力を作用させてスプール31に密巻きにしても条鋼線材1の断面変形を抑制することができる。
【0024】
上述したように巻取り時の条鋼線材1の表面温度が700℃以下であり一般的な条鋼線材の圧延の場合より低いが、冷却ライン20において上流側の水冷部で下流側より高めの能力で冷却するとともに充分に復熱させて、下流側の水冷部で緩冷却することにより、ベイナイトやマルテンサイトへの変態を伴わずに、冷却ライン20の長大化を回避している。
【0025】
好ましくは、スプール31で巻き取られる際の条鋼線材1の表面温度を、600℃以上にする。600℃では既に上記組織の変態は完全に終了しており、600℃からの冷却は、冷却ライン20の長大化を招くからである。
【0026】
図2に示すように巻取り機30は、回転軸線が圧延方向と直角をなすスプール31と、このスプール31の直前に配置された整列機構32とを備えている。整列機構32の手前には、ピンチローラ35が配置されている。
図3に示すように、スプール31は、円筒部31aと円筒部31aの一端に固定された鍔31bと、他端に着脱可能に取り付けられた鍔31cとを有している。
【0027】
条鋼線材1がピンチローラ35に挟まれた状態で、スプール31が図示しない駆動モータにより回転される。スプール31の回転は、条鋼線材1にピンチローラ35とスプール31との間で張力が作用するように制御される。整列機構32はスプール31の回転に伴い、スプール31の軸方向に往復移動し、条鋼線材1を整列させる。これにより、条鋼線材1は
図3に示すように層をなして密に巻かれ、条鋼線材コイル2が得られる。
図4に示すように条鋼線材1は、外周に節1aを有するため、密巻きの条鋼線材コイル2において、条鋼線材1間には、空隙2aが形成されている。条鋼線材コイル2における空隙率は10~20%程度である。
【0028】
次に、巻取り機30の近傍において、
図3に示すようにして条鋼線材コイル2を巻き取ったスプール31を、一方の鍔31cを取り外し、他方の鍔31bを下にして巻取り軸を垂直に立て、スプール31から条鋼線材コイル2を取り出す。取り出された条鋼線材コイル2をバンド等で縛って密巻き状態を維持し、巻取り軸を立てた状態で搬送ライン40に乗せる。なお、条鋼線材コイル2の変形等の問題が無ければ、巻取り軸を水平にして搬送ライン40に乗せてもよい。
【0029】
図1に示すように、搬送ライン40は巻取り機30から圧延方向と直角に延びているが、これに限らず圧延方向に沿って延びるようにしてもよい。
図5、
図6に示すように、本実施形態の搬送ライン40は、所謂ウォーキングビーム式搬送装置により構成されており、その長手方向に沿って間隔をおいて配置された多数の受け渡し機41と、この受け渡し機41の両側に配置された細長い支持台42とを備えている。支持台42は固定されていて動かない。
【0030】
図5に示すように、条鋼線材コイル2は、搬送ライン40において巻取り機30に最も近い受け渡し機41と2番目の受け渡し機41に架け渡されるようにして載せられる。多数の受け渡し機41は同時に、条鋼線材コイル2を支持台42から持ち上げて送り方向に移動させた後、下降させて両側の支持台42に乗せる。その後で条鋼線材コイル2の送り方向と逆方向に移動して元の位置に戻る。これを繰り返すことにより条鋼線材コイル2を搬送する。
【0031】
このようにして、条鋼線材コイル2が搬送ライン40の終端に達すると、磁石式リフト装置(図示しない)が条鋼線材コイル2を吸着し、保管ヤード50まで搬送する。
【0032】
図5に概略的に示すように、搬送ライン40に沿って複数のブロア45(冷却手段;送風手段)が配置されており、これらブロア45から条鋼線材コイル2に向けて送風することにより、条鋼線材コイル2を冷却する。前述したように条鋼線材コイル2は密に巻かれているが空隙2a(
図4参照)が形成されているため、送風により少なくとも条鋼線材コイル2の露出面(外周面、内周面、頂面、底面)から複数層にわたり内部の条鋼線材1へ空気が供給され、冷却された複数層の条鋼線材1がさらに内部の条鋼線材1の熱を奪うので、効率的に冷却を行なえる。冷却手段としてのブロア45は、搬送ライン40の作業環境に負荷をかけずに冷却することができる。
【0033】
図5に示すように、搬送ライン40では、条鋼線材コイル2の上方および下方にブロア45が配置されている。条鋼線材コイル2が受け渡し機41間に架け渡されているため、下方からの送風によっても条鋼線材コイル2の冷却を行なうことができる。なお、上側のブロア45は、真上から垂直に送風してもよいし、真横から水平に送風してもよく、その位置及び数に制約はない。ブロアの設置間隔を上流側で狭く、下流側で広くすることにより、搬送ライン40の上流側の冷却能力を下流側に比べて高くすれば、早期に効率良く条鋼線材コイル2の冷却を行なうことができる。
【0034】
条鋼線材1の表面温度が巻取り時の600~700℃から自然冷却により緩やかに低下すると、赤スケールが発生するが、上記搬送ライン40での送風冷却により、条鋼線材コイル2の表面温度を急速に低下させることができるので、赤スケールの発生を抑制することできる。
【0035】
第1実施例
D10(呼び径10mm)の条鋼線材を約670℃で巻き取って、2トンの密巻きの条鋼線材コイルを得る。この条鋼線材コイルは全体として筒形状をなし、その外径が1169mm、内径が900mm、縦寸法(軸方向寸法)が800mmである。
搬送ラインは、長さ24mであり、搬送装置としてのウォーキングビームは2mの送りピッチで配置され、条鋼線材コイルを縦置き状態で56分かけてその終端まで搬送する。
搬送ラインに沿って10台の下側ブロア(冷却手段)がウォーキングビームの送りピッチに合わせて配置されており、条鋼線材コイルを下側から送風して冷却する。また、搬送ラインに沿って5台の上側ブロアが間隔を置いて配置されており、条鋼線材コイルを上側から送風して冷却する。上側ブロアの間隔は搬送ラインの上流側が狭く、下流側が広くなっている。これらブロアの送風能力は約500m3/minである。
【0036】
上記第1実施例において、下記の実験を行った。
(実験1)
上記搬送ラインの終端での条鋼線材コイルの外周層の表面温度を最も高い箇所で400℃になるように冷却した。その結果、条鋼線材コイルの外周層、内周層および内部のいずれに位置する条鋼線材でも、その表面に赤スケールを目視できなかった。
ちなみに、条鋼線材コイルの外周層の最も高い箇所の表面温度が400℃の場合、条鋼線材コイルの内周層の表面温度は最も高い箇所で480℃、内部温度は最も高い箇所で570℃と推測される。
【0037】
(実験2)
冷却条件を緩めて、搬送ラインの終端での条鋼線材コイルの外周層温度を高めると、条鋼線材コイルの内部に位置する条鋼線材コイルの表面に赤スケールの発生量が増加していく。条鋼線材コイルの外周層の表面温度を最も高い箇所で500℃になるように冷却すると、条鋼線材コイルの外周層、内周層に位置する条鋼線材の表面に赤スケールは殆ど発生しないものの、内部の条鋼線材の表面に赤スケールの発生が見られた。しかし、自然冷却に比べれば赤スケールの発生は顕著に少なく、許容レベルであった。
【0038】
(実験3)
条鋼線材コイルの外周層の表面温度を最も高い箇所で530℃になるように(巻取り温度より140℃低下させるように)冷却すると、赤スケールの発生量は増えるものの、自然冷却の場合に比べて有意に少なかった。
【0039】
第2実施例
D10(呼び径10mm)の条鋼線材を約670℃で巻き取って、1トンの密巻きの条鋼線材コイルを得る。この条鋼線材コイルは全体として筒形状をなし、その外径1120mm、内径が900mm、縦寸法(軸方向寸法)が500mmである。
巻取り温度は第1実施例と同様に670℃であり、条鋼線材コイルを同様の搬送ラインで26分かけてその終端まで搬送する。
【0040】
(実験4)
上記搬送ラインの終端での条鋼線材コイルの外周層の表面温度を最も高い箇所で430℃になるように冷却した。その結果、条鋼線材コイルの外周層、内周層および内部のいずれに位置する条鋼線材でも、その表面に赤スケールは殆ど発生しなかった。
第2実施例の1トンの条鋼線材コイルは、第1実施例の2トンの条鋼線材コイルに比べて径方向の厚みが薄く、熱容量が小さいため、第1実施例の実験1より外周層の温度が高くても同様の結果が得られたものと考えられる。
【0041】
(実験5)
冷却条件を緩めて、搬送ラインの終端での条鋼線材コイルの外周層温度を高めると、条鋼線材コイルの内部に位置する条鋼線材コイルの表面に赤スケールの発生量が増加していく。条鋼線材コイルの外周層の表面温度を最も高い箇所で500℃になるように冷却すると、条鋼線材コイルの外周層、内周層に位置する条鋼線材の表面に赤スケールは殆ど発生しないものの、内部の条鋼線材の表面に赤スケールの発生が見られた。しかし、自然冷却に比べれば赤スケールの発生は顕著に少なく、第1実施例の実験2に比べても少なく、許容レベルであった。
【0042】
(追加実験)
条鋼線材の径が増大してD13(呼び径13mm)になると、条鋼線材コイルの重量が同じでも送風による冷却効果が高まる。これは、D10に比べて条鋼線材コイルの長さが短くなり密巻の層の数が減じられ、条鋼線材コイルの内部の冷却が促進されるためであると考えられる。さらに条鋼線材の径が増大してD16(呼び径16mm)になると、条鋼線材コイルの重量が同じでも送風による冷却効果が低下する。これは、条鋼線材の単位質量に対する表面積が減少するためであると考えられる。
その結果、条鋼線材の赤スケールの発生の抑制効果は、D13が最も高く、D16が最も低く、D10が中間である。
条鋼線材コイルが1トン、巻取り温度約670℃、条鋼線材D13,D16、搬送ラインでの冷却温度400℃以下で行ったが、赤スケールの発生は目視できなかった。
条鋼線材コイルが2トン、巻取り温度約670℃、条鋼線材D13,D16、搬送ライン終端での冷却温度400℃以下で行ったところ、D13では赤スケールの発生は目視できなかった。D16でも条鋼線材コイルの内部に位置する条鋼線材コイルに赤スケールの発生が目視できなかった。
巻取り温度が670℃より低い場合には、赤スケール発生の抑制効果は上記実験よりさらに高くなった。巻取り温度が670℃より高い場合には、赤スケール発生の抑制効果は上記実験より低くなるが、700℃までであればその差異は僅かであった。
【0043】
赤スケールの発生のメカニズム
上記実験結果を、赤スケールの発生のメカニズムの観点から考察する。
条鋼線材コイルの表層では、Fe3O4とその下のFeOが層をなしている。冷却過程において、Fe3O4とFeOのヤング率、熱膨張係数の差異に起因して境界面に引張あるいは圧縮の応力が生じ、Fe3O4層に座屈亀裂(表面亀裂)が生じる。この座屈亀裂が異質核生成サイトとなり、そこでFe3O4がさらに酸化されることによって、赤スケール(Fe2O3)が生じる。
【0044】
FeOとFe3O4の線膨張係数の差は、500℃以下では10%程度であるが、温度が上昇するにしたがって徐々に拡大し、700℃以上では20%程度となる。
またFeOとFe3O4のヤング率の差は、550℃未満では15%以下であるが、温度上昇につれて徐々に拡大し、750℃付近では50%程度となる。
したがって、Fe3O4層に座屈亀裂(異質核生成サイト)の発生頻度は、500℃以下では非常に少なく、500~550℃では少なく抑えられ、550℃を超えると徐々に増加することが理解できる。この赤スケール発生のメカニズムは、上記実験1~5により裏付けることができる。
【0045】
密巻の条鋼線材コイルの重量は上述したように1トン~2トンが一般的であるが、重量を増大させることも可能である。この場合には、条鋼線材コイルの外周層の表面温度が300~350℃になるまで送風冷却することにより、2トンの条鋼線材コイルで400℃以下に冷却したのと同等の結果を得ることができる。
【0046】
図7に示す例では、搬送ライン40の上流側で、霧吹き付け装置46(冷却手段)により霧(水と空気を含む冷却媒体)を吹き付けて条鋼線材コイル2の冷却を行ない、下流側でブロア45により送風冷却している。
上流側では冷却媒体として水を含むので冷却効果をさらに上げることができる。また、冷却媒体には空気も含まれるので、単に水を掛ける場合のように急冷されることがなく、マルテンサイト変態の発生を確実に回避できる。下流側では送風冷却のみを行なうので、水分が残るのを確実に回避でき、残留水分に起因する赤さびの発生を防止することができる。他の温度条件は上述の実施例と同様であるので、説明を省略する。
【0047】
図5,
図7の例に制約されず、冷却手段は種々採用可能である。例えば、急冷によるマルテンサイト変態を回避できる範囲で、より強力な冷却手段を特に搬送ラインの上流側において用いてもよい。例えば霧吹き付け装置46の代わりにシャワー等の散水により冷却してもよいし、断続的に水を掛けてもよい。
【0048】
搬送ライン40で条鋼線材コイル2の冷却が不足する場合には、
図8に示すように、保管ヤード50でもブロア55(冷却手段)で冷却を継続してもよい。搬送ライン40で十分冷却できる場合でも、保管ヤード50での冷却により、トラック等で搬出するまでの待ち時間を短縮することができる。
【0049】
本発明は上記実施形態に制約されず、種々の形態を採用可能である。例えば冷却手段は搬送ラインの全長にわたってほぼ同等の冷却能力を有するようにしてもよい。
搬送ラインでは、受け渡し機41と支持台42の代わりにコンベアを用いてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、熱間圧延された条鋼線材を密巻きした条鋼線材コイルの製造方法に適用することができる。
【符号の説明】
【0051】
1 条鋼線材
2 条鋼線材コイル
10 圧延ライン
20 冷却ライン
30 巻取り機
31 スプール
32 整列機構
40 搬送ライン
45 ブロア(冷却手段;送風手段)
46 霧吹き付け装置(冷却手段)
50 保管ヤード
55 ブロア(冷却手段;送風手段)