(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-24
(45)【発行日】2024-08-01
(54)【発明の名称】操舵制御装置
(51)【国際特許分類】
B62D 6/00 20060101AFI20240725BHJP
B62D 5/04 20060101ALI20240725BHJP
B62D 119/00 20060101ALN20240725BHJP
B62D 101/00 20060101ALN20240725BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D5/04
B62D119:00
B62D101:00
(21)【出願番号】P 2020156287
(22)【出願日】2020-09-17
【審査請求日】2023-08-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】柿本 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】並河 勲
(72)【発明者】
【氏名】工藤 佳夫
【審査官】田邉 学
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-059392(JP,A)
【文献】特開2014-133523(JP,A)
【文献】特開2017-149358(JP,A)
【文献】特開2010-215047(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0232998(US,A1)
【文献】特開2019-209786(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 6/00
B62D 5/04
B62D 119/00
B62D 101/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者に手応えを与えるべく車両のステアリングホイー
ルに操舵反力を付与するための動力となるモータトルクを発生する反力モータを有する反力アクチュエータと車両の転舵輪を転舵させるべく転舵シャフトを移動させるための動力となるモータトルクを発生する転舵モータを有する転舵アクチュエータとを含む操舵装置の前記反力アクチュエータを少なくとも制御対象とするものであり、
前記操舵装置は、前記反力アクチュエータと、前記転舵アクチュエータとの間の動力伝達路が分離した構造を有するものであり、
前記反力アクチュエータを動作させるべく、前記反力モータへの電流の供給を制御する制御部を備え、
前記制御部は、前記反力モータへの電流の供給を制御するための制御量である反力制御量を演算する反力制御量演算部を備え、
前記反力制御量演算部は、
前記ステアリングホイールの動作に関わって演算される基本制御量を演算する基本制御量演算部と、
前記基本制御量に基づき実現される前記ステアリングホイールの動作が所望の特性を示すように補償するための補償量を演算する補償量演算部と、
前記転舵シャフトに作用する軸力に応じた軸力成分として、前記転舵モータに供給される電流に応じて定められるとともに路面情報が反映された軸力である電流軸力を含む演算上の軸力を演算する軸力演算部と、を含み、
前記反力制御量は、前記基本制御量に対して前記補償量と前記演算上の軸力とを反映させることで得られるものであり、
前記補償量演算部は、前記ステアリングホイールの動作に関わるとして選択された特性のうち、前記電流軸力にも含まれている重複した特性として演算される前記補償量である特定補償量を、
前記演算上の軸力に対する前記電流軸力の反映状態に応じて変更するように構成されている操舵制御装置。
【請求項2】
前記軸力演算部は、前記軸力成分として、前記転舵輪の転舵角に換算可能な角度に応じて定められるとともに路面情報が反映されない軸力である角度軸力を含むように演算し、前記電流軸力と、前記角度軸力とを所定の配分比率で合算することで前記演算上の軸力を得るものであり、
前記補償量演算部は、前記特定補償量を
前記電流軸力の前記配分比率に応じて変更するように構成されている請求項1に記載の操舵制御装置。
【請求項3】
前記補償量演算部は、前記特定補償量として、車両が直進しているときの前記ステアリングホイールの位置であるステアリング中立位置に戻す前記ステアリングホイールの戻り動作を補償する戻り補償量を演算する戻り補償量演算部を含む請求項1又は請求項2に記載の操舵制御装置。
【請求項4】
前記補償量演算部は、前記特定補償量として、前記ステアリングホイールの動作時の摩擦によるヒステリシス特性を最適化するように補償するヒステリシス補償量を演算するヒステリシス補償量演算部を含む請求項1~請求項3のうちいずれか一項に記載の操舵制御装置。
【請求項5】
前記補償量演算部は、前記特定補償量として、前記ステアリングホイールに生じる微振動を低減するように補償するダンピング補償量を演算するダンピング補償量演算部を含む請求項1~請求項4のうちいずれか一項に記載の操舵制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、操舵制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に用いられる操舵装置は、運転者に手応えを与える操舵アクチュエータと、モータの出力であるモータトルクを動力として転舵シャフトを移動させることに関わって車両の転舵輪を転舵させる転舵アクチュエータとを含んで構成される。特許文献1には、上記操舵アクチュエータと、上記転舵アクチュエータとの間の動力伝達路が分離した構造を有する操舵装置、所謂、ステアバイワイヤ式の操舵装置の一例が開示されている。ステアバイワイヤ式の操舵装置の場合、操舵アクチュエータはステアリングホイールに付与される操舵反力の発生源である反力モータを有し、転舵アクチュエータは転舵輪を転舵させる転舵力の発生源である転舵モータを有している。
【0003】
そして、特許文献1に記載の操舵装置を制御対象とする操舵制御装置は、反力モータの制御を通じて操舵反力を発生させるとともに、転舵モータの制御を通じて転舵力を発生させる。この操舵制御装置は、特に操舵反力について、ステアリングホイールの回転角である操舵角に基づく理想軸力と、転舵モータの電流値に基づく推定軸力とを所定の配分比率で合算されることにより得られる最終的な軸力を演算し、この最終的な軸力に基づき反力モータを制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に記載の操舵制御装置は、操舵反力について、上記理想軸力と、上記推定軸力との他、ステアリングホイールの動作が所望の特性を示すように補償するための補償量を演算し、これを反映させるようにしている。この補償量は、ステアリングホイールの動作に関わるとして選択された特性を補償するものである。この選択された特性は、転舵モータに供給される電流値に基づく推定軸力にも含まれる重複した特性である場合がある。この場合、ステアリングホイールの動作に対して、補償量に応じた動作と、当該補償量に対応する推定軸力に含まれている特性に応じた動作とが互いに打ち消しあったり、重畳的に過剰になったりする。つまり、補償量によりステアリングホイールの動作を補償するつもりが、上記重複した特性の影響で所望の特性からずれてしまうことが考えられる。これは違和感となって運転者に伝わってしまう。
【0006】
本発明の目的は、運転者に伝わる違和感を抑えられる操舵制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する操舵制御装置は、運転者に手応えを与えるべく車両のステアリングホイールに操舵反力を付与するための動力となるモータトルクを発生する反力モータを有する反力アクチュエータと車両の転舵輪を転舵させるべく転舵シャフトを移動させるための動力となるモータトルクを発生する転舵モータを有する転舵アクチュエータとを含む操舵装置の前記反力アクチュエータを少なくとも制御対象とするものであり、前記操舵装置は、前記反力アクチュエータと、前記転舵アクチュエータとの間の動力伝達路が分離した構造を有するものであり、前記反力アクチュエータを動作させるべく、前記反力モータへの電流の供給を制御する制御部を備え、前記制御部は、前記反力モータへの電流の供給を制御するための制御量である反力制御量を演算する反力制御量演算部を備え、前記反力制御量演算部は、前記ステアリングホイールの動作に関わって演算される基本制御量を演算する基本制御量演算部と、前記基本制御量に基づき実現される前記ステアリングホイールの動作が所望の特性を示すように補償するための補償量を演算する補償量演算部と、前記転舵シャフトに作用する軸力に応じた軸力成分として、前記転舵モータに供給される電流に応じて定められるとともに路面情報が反映された軸力である電流軸力を含む演算上の軸力を演算する軸力演算部と、を含み、前記反力制御量は、前記基本制御量に対して前記補償量と前記演算上の軸力とを反映させることで得られるものであり、前記補償量演算部は、前記ステアリングホイールの動作に関わるとして選択された特性のうち、前記電流軸力にも含まれている重複した特性として演算される前記補償量である特定補償量を、前記演算上の軸力に対する前記電流軸力の反映状態に応じて変更するように構成されている。
【0008】
上記構成によれば、補償量のうち特定補償量については、電流軸力の反映状態に応じた補償量となるように変更されることになる。例えば、電流軸力の反映状態が大きければ、当該電流軸力に含まれている特定補償量に対応する特性によるステアリングホイールの動作への影響が大きいことになる。この場合、特定補償量の特性についてはそのステアリングホイールへの動作への影響が大きくや小さくなるように、本来の特定補償量に対して大きくや小さくなるように変更する等の工夫を施すことができる。これにより、ステアリングホイールの動作に対して、特定補償量に応じた動作と、当該特定補償量に対応する電流軸力に含まれている特性に応じた動作とが互いに打ち消しあったり、重畳的に過剰になったりすることが抑えられる。つまり、補償量によりステアリングホイールの動作を補償するなかで、ステアリングホイールの動作を所望の特性からずれ難くすることができ、運転者に伝わる違和感を抑えることができる。
ここで、操舵反力を適正化することは、操舵アクチュエータと、転舵アクチュエータとの間の動力伝達路が分離した構造を有する操舵装置、所謂、ステアバイワイヤ式の操舵装置では特に重要である。
この点、上記構成によれば、転舵輪の状況、すなわち路面情報が操舵反力によりステアリングホイールを通じて運転者に伝達するなかで、ステアリングホイールの動作を所望の特性を満たすように最適化することができる。これは、運転者に伝わる違和感を抑えた状態で実現される。
【0009】
上記操舵制御装置において、前記軸力演算部は、前記軸力成分として、前記転舵輪の転舵角に換算可能な角度に応じて定められるとともに路面情報が反映されない軸力である角度軸力を含むように演算し、前記電流軸力と、前記角度軸力とを所定の配分比率で合算することで前記演算上の軸力を得るものであり、前記補償量演算部は、前記特定補償量を前記電流軸力の前記配分比率に応じて変更するように構成されていることが好ましい。
【0010】
上記構成によれば、電流軸力の反映状態を定量的に判断することができるようになる。この場合、ステアリングホイールの動作に対して、特定補償量に応じた動作と、当該特定補償量に対応する電流軸力に含まれている特性に応じた動作とが互いに打ち消しあったり、重畳的に過剰になったりすることを抑えるのに効果的である。
【0011】
例えば、ステアリングホイールの戻り動作については、転舵輪のセルフアライニングトルクが関わっているところ、当該セルフアライニングトルクは電流軸力に含まれる特性である。
【0012】
そこで、上記操舵制御装置において、前記補償量演算部は、前記特定補償量として、車両が直進しているときの前記ステアリングホイールの位置であるステアリング中立位置に戻す前記ステアリングホイールの戻り動作を補償する戻り補償量を演算する戻り補償量演算部を含むことが好ましい。
【0013】
上記構成によれば、ステアリングホイールの戻り動作について運転者に伝わる違和感を抑えることができる。
また、ステアリングホイールの動作時の摩擦によるヒステリシス特性については、操舵装置が搭載される車両の機械的な摩擦成分が関わっているところ、当該機械的な摩擦成分は電流軸力に含まれる特性である。
【0014】
そこで、上記操舵制御装置において、前記補償量演算部は、前記特定補償量として、前記ステアリングホイールの動作時の摩擦によるヒステリシス特性を最適化するように補償するヒステリシス補償量を演算するヒステリシス補償量演算部を含むことが好ましい。
【0015】
上記構成によれば、ステアリングホイールの動作時の摩擦によるヒステリシス特性について運転者に伝わる違和感を抑えることができる。
また、ステアリングホイールに生じる微振動を低減することについては、操舵装置の粘性成分が関わっているところ、当該粘性成分、特に転舵アクチュエータの粘性成分は電流軸力に含まれる特性である。
【0016】
そこで、上記操舵制御装置において、前記補償量演算部は、前記特定補償量として、前記ステアリングホイールに生じる微振動を低減するように補償するダンピング補償量を演算するダンピング補償量演算部を含むことが好ましい。
【0017】
上記構成によれば、ステアリングホイールに生じる微振動を低減することについて運転者に伝わる違和感を抑えることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の操舵制御装置によれば、運転者に伝わる違和感を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図3】目標操舵反力演算部の機能を示すブロック図。
【
図5】各補償量ゲインについて、配分比との関係を説明する模式図。
【
図6】第2実施形態の戻り補償量演算部の機能を示すブロック図。
【
図7】各軸力用目標操舵速度について、操舵角との関係を説明する模式図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(第1実施形態)
以下、操舵制御装置をステアバイワイヤ式の操舵装置に適用した第1実施形態を図面に従って説明する。
【0023】
図1に示すように、本実施形態の車両の操舵装置10は、ステアバイワイヤ式の操舵装置である。操舵装置10は、当該操舵装置10の作動を制御する操舵制御装置50を備えている。操舵装置10は、ステアリングホイール11を介して運転者により操舵される反力アクチュエータSAと、運転者による反力アクチュエータSAの操舵に応じて転舵輪16を転舵させる転舵アクチュエータTAとを備えている。本実施形態の操舵装置10は、反力アクチュエータSAと、転舵アクチュエータTAとの間の動力伝達路が機械的に常時分離した構造を有している。
【0024】
反力アクチュエータSAは、ステアリングホイール11に連結されたステアリングシャフト12を有している。転舵アクチュエータTAは、
図1中の左右方向である車幅方向に沿って延びる転舵シャフト14を有している。転舵シャフト14の両端には、それぞれタイロッド15を介して左右の転舵輪16が連結されている。転舵シャフト14が直線運動することにより、転舵輪16の転舵角θwが変更される。
【0025】
また、反力アクチュエータSAは、操舵反力を生成するための構成として、反力モータ31、減速機構32、回転角センサ33、及びトルクセンサ34を有している。ちなみに、操舵反力とは、運転者によるステアリングホイール11の操作方向と反対方向へ向けて作用する力をいう。操舵反力をステアリングホイール11に付与することにより、運転者に適度な手応え感を与えることが可能である。
【0026】
反力モータ31は、操舵反力の発生源である。反力モータ31としては、例えば、三相のブラシレスモータが採用される。反力モータ31、正確にはその回転軸は、減速機構32を介して、ステアリングシャフト12に連結されている。反力モータ31のトルクは、操舵反力としてステアリングシャフト12に付与される。
【0027】
回転角センサ33は反力モータ31に設けられている。回転角センサ33は、反力モータ31の回転角θaを検出する。反力モータ31の回転角θaは、操舵角θsの演算に使用される。反力モータ31と、ステアリングシャフト12とは、減速機構32を介して連動する。このため、反力モータ31の回転角θaと、ステアリングシャフト12の回転角、ひいてはステアリングホイール11の回転角である操舵角θsとの間には相関がある。したがって、反力モータ31の回転角θaに基づき操舵角θsを演算することができる。
【0028】
トルクセンサ34は、ステアリングホイール11の回転操作を通じてステアリングシャフト12に加わる操舵トルクThを検出する。トルクセンサ34は、ステアリングシャフト12における減速機構32よりもステアリングホイール11側の部分に設けられている。
【0029】
転舵アクチュエータTAは、転舵輪16を転舵させるための動力である転舵力を生成するための構成として、転舵モータ41、減速機構42、及び回転角センサ43を有している。
【0030】
転舵モータ41は転舵力の発生源である。転舵モータ41としては、例えば、三相のブラシレスモータが採用される。転舵モータ41の回転軸は、減速機構42を介してピニオンシャフト44に連結されている。ピニオンシャフト44のピニオン歯44aは、転舵シャフト14のラック歯14bに噛み合わされている。転舵モータ41のトルクは、転舵力としてピニオンシャフト44を介して転舵シャフト14に付与される。転舵モータ41の回転に応じて、転舵シャフト14は
図1中の左右方向である車幅方向に沿って移動する。
【0031】
回転角センサ43は、転舵モータ41に設けられている。回転角センサ43は、転舵モータ41の回転角θbを検出する。
ちなみに、操舵装置10は、ピニオンシャフト13を有している。ピニオンシャフト13は、転舵シャフト14に対して交わるように設けられている。ピニオンシャフト13のピニオン歯13aは、転舵シャフト14のラック歯14aに噛み合わされている。ピニオンシャフト13を設ける理由は、ピニオンシャフト44と共に転舵シャフト14を図示しないハウジングの内部に支持するためである。すなわち、操舵装置10に設けられる図示しない支持機構によって、転舵シャフト14は、その軸方向に沿って移動可能に支持されるとともに、ピニオンシャフト13,44へ向けて押圧される。これにより、転舵シャフト14はハウジングの内部に支持される。ただし、ピニオンシャフト13を使用せずに転舵シャフト14をハウジングに支持する他の支持機構を設けてもよい。
【0032】
図1に示すように、反力モータ31及び転舵モータ41には、各モータ31,41の駆動を制御する操舵制御装置50が接続されている。操舵制御装置50は、各種のセンサの検出結果に基づき、各モータ31,41の制御量である電流の供給を制御することによって、各モータ31,41の駆動を制御する。各種のセンサとしては、例えば、車速センサ501、トルクセンサ34、回転角センサ33、及び回転角センサ43がある。車速センサ501は、車両の走行速度である車速値Vを検出する。
【0033】
次に、操舵制御装置50の構成について説明する。
操舵制御装置50は、図示しない中央処理装置(CPU)やメモリを備えており、所定の演算周期ごとにメモリに記憶されたプログラムをCPUが実行する。これにより、各種の処理が実行される。
【0034】
図2に、操舵制御装置50が実行する処理の一部を示す。
図2に示す処理は、メモリに記憶されたプログラムをCPUが実行することで実現される処理の一部を、実現される処理の種類毎に記載したものである。
【0035】
操舵制御装置50は、反力モータ31に対する給電を制御する操舵側制御部50aを備えている。操舵側制御部50aは、操舵側電流センサ54を有している。操舵側電流センサ54は、操舵側制御部50aと、反力モータ31の各相のモータコイルとの間の接続線を流れる反力モータ31の各相の電流値から得られる操舵側実電流値Iaを検出する。操舵側電流センサ54は、反力モータ31に対応して設けられる図示しないインバータにおいて、スイッチング素子のそれぞれのソース側に接続されたシャント抵抗の電圧降下を電流として取得する。なお、
図2では、説明の便宜上、各相の接続線及び各相の電流センサをそれぞれ1つにまとめて図示している。
【0036】
また、操舵制御装置50は、転舵モータ41に対する給電を制御する転舵側制御部50bを備えている。転舵側制御部50bは、転舵側電流センサ65を有している。転舵側電流センサ65は、転舵側制御部50bと、転舵モータ41の各相のモータコイルとの間の接続線を流れる転舵モータ41の各相の電流値から得られる転舵側実電流値Ibを検出する。転舵側電流センサ65は、転舵モータ41に対応して設けられる図示しないインバータにおいて、スイッチング素子のそれぞれのソース側に接続されたシャント抵抗の電圧降下を電流として取得する。なお、
図2では、説明の便宜上、各相の接続線及び各相の電流センサをそれぞれ1つにまとめて図示している。
【0037】
次に、操舵側制御部50aの機能について説明する。
操舵側制御部50aには、操舵トルクTh、車速値V、回転角θa、後述の転舵側実電流値Ib、後述のピニオン角θp、及び後述の目標ピニオン角θp*が入力される。操舵側制御部50aは、操舵トルクTh、車速値V、回転角θa、後述の転舵側実電流値Ib、後述のピニオン角θp、及び後述の目標ピニオン角θp*に基づいて、反力モータ31に対する給電を制御する。なお、ピニオン角θpは、転舵モータ41の回転角θbに基づき演算される。また、目標ピニオン角θp*は、反力モータ31の回転角θaに基づき演算される。
【0038】
操舵側制御部50aは、操舵角演算部51と、反力制御量演算部52と、通電制御部53とを有している。
操舵角演算部51には、回転角θaが入力される。操舵角演算部51は、回転角θaを、例えば、車両が直進しているときのステアリングホイール11の位置であるステアリング中立位置からの反力モータ31の回転数をカウントすることにより、360°を超える範囲を含む積算角に換算する。操舵角演算部51は、換算して得られた積算角に減速機構32の回転速度比に基づく換算係数を乗算することで、操舵角θsを演算する。なお、操舵角θsは、ステアリング中立位置よりも、例えば右側の角度である場合に正、左側の角度である場合に負とする。こうして得られた操舵角θsは、転舵側制御部50bに出力される。
【0039】
反力制御量演算部52には、操舵トルクTh、車速値V、転舵側実電流値Ib、ピニオン角θp、目標ピニオン角θp*、及び操舵角θsが入力される。反力制御量演算部52は、操舵トルクTh、車速値V、転舵側実電流値Ib、ピニオン角θp、目標ピニオン角θp*、及び操舵角θsに基づいて、操舵反力の目標となる反力制御量としての操舵反力指令値Ts*を演算する。
【0040】
具体的には、反力制御量演算部52は、軸力演算部55及び目標操舵反力演算部56を有している。
軸力演算部55には、車速値V、転舵側実電流値Ib、ピニオン角θp、及び目標ピニオン角θp*が入力される。軸力演算部55は、車速値V、転舵側実電流値Ib、ピニオン角θp、及び目標ピニオン角θp*に基づいて、転舵輪16を転舵させるべく動作する転舵シャフト14に作用する軸力に応じた軸力成分Fを演算する。軸力成分Fは、転舵輪16を通じて転舵シャフト14に作用する軸力が好適に反映されるように、後述の角度軸力Fr及び電流軸力Fiをそれぞれの配分比率で配分して得られるラック軸22に作用する軸力を推定した演算上の軸力に相当する。
【0041】
図3に示すように、軸力演算部55は、角度軸力演算部101と、電流軸力演算部102と、配分比演算部103とを有している。
角度軸力演算部101には、車速値V及び目標ピニオン角θp*が入力される。角度軸力演算部101は、車速値V及び目標ピニオン角θp*に基づいて、角度軸力Frを演算する。角度軸力Frは、任意に設定する車両のモデルにより規定される軸力の理想値である。角度軸力Frは、トルクの次元(N・m)で演算される。そして、角度軸力Frは、車両の横方向への挙動に影響を与えない微小な凹凸や車両の横方向への挙動に影響を与える段差等の路面情報が反映されない軸力として演算される。例えば、角度軸力演算部101は、目標ピニオン角θp*の絶対値が大きくなるほど、角度軸力Frの絶対値が大きくなるように演算する。また、角度軸力演算部101は、車速値Vが大きくなるにつれて角度軸力Frの絶対値が大きくなるように演算する。こうして得られた角度軸力Frは、乗算器104に出力される。なお、角度軸力演算部101には、目標ピニオン角θp*の代わりに、ピニオン角θpや操舵角θsが入力されるようにしてもよい。
【0042】
電流軸力演算部102には、転舵側実電流値Ibが入力される。電流軸力演算部102は、転舵側実電流値Ibに基づいて電流軸力Fiを演算する。電流軸力Fiは、転舵輪16を転舵させるべく動作する転舵シャフト14に実際に作用する軸力、すなわち転舵シャフト14に実際に伝達される軸力の推定値である。電流軸力Fiは、トルクの次元(N・m)で演算される。そして、電流軸力Fiは、上記路面情報が反映される軸力として演算される。例えば、電流軸力演算部102は、転舵モータ41によって転舵シャフト14に加えられるトルクと、転舵輪16を通じて転舵シャフト14に加えられる力に応じたトルクとが釣り合うとして、転舵側実電流値Ibの絶対値が大きくなるほど、電流軸力Fiの絶対値が大きくなるように演算する。こうして得られた電流軸力Fiは、乗算器105に出力される。
【0043】
配分比演算部103には、車速値V及びピニオン角θpが入力される。配分比演算部103は、車速値V及びピニオン角θpに基づいて、配分比Diを演算する。配分比Diは、角度軸力Frと、電流軸力Fiとを配分して軸力成分Fを得る際の電流軸力Fiの配分比率である。つまり、配分比Diは、軸力成分Fに対する電流軸力Fiの反映状態を示し、操舵反力成分Tb*、すなわち操舵反力指令値Ts*に対する電流軸力Fiの反映状態を示す。具体的には、配分比演算部103は、車速値V及びピニオン角θpと、配分比Diとの関係を定めた配分比マップを備えており、車速値V及びピニオン角θpを入力として、配分比Diをマップ演算する。なお、配分比演算部103には、ピニオン角θpの代わりに、目標ピニオン角θp*や操舵角θsが入力されるようにしてもよい。
【0044】
配分比Diは、車速値Vが停車を含む低車速の場合に「1(100%)」となる。この場合、低車速では、軸力成分Fに対して電流軸力Fiのみが配分されること、すなわち角度軸力Frが配分されないことを示す。また、配分比Diは、ピニオン角θpが大きい場合に小さい場合よりも値が大きくなる。つまり、電流軸力Fiは、ピニオン角θpが大きくなるほど軸力成分Fにおける配分割合が大きくなる。換言すれば、角度軸力Frは、ピニオン角θpが小さくなるほど軸力成分Fにおける配分割合が大きくなる。特に配分比Diは、ピニオン角θpがラック中立位置を含むラック中立付近の場合にゼロ値となる。この場合、ラック中立付近では、軸力成分Fに対して角度軸力Frのみが配分されること、すなわち電流軸力Fiが配分されないことを示す。つまり、本実施形態の配分比率は、角度軸力Fr及び電流軸力Fiのいずれかしか軸力成分Fに配分しないゼロ値の概念を含む。
【0045】
こうして得られた配分比Diは、電流軸力演算部102で得られた電流軸力Fiに乗算して乗算器104を通じて得られる最終的な電流軸力Fimとして加算器108に出力される。ここで得られた配分比Diは、記憶部107に記憶された「1」から差し引いて減算器106を通じて得られる配分比Drとして乗算器105に出力される。配分比Drは、角度軸力Frと、電流軸力Fiとを配分して軸力成分Fを得る際の角度軸力Frの配分比率である。つまり、配分比Drは、配分比Diとの和が「1(100%)」となるように値が演算される。また、ここで得られた配分比Diは、目標操舵反力演算部56に出力される。なお、記憶部107は、図示しないメモリの所定の記憶領域のことである。
【0046】
こうして得られた配分比Drは、角度軸力演算部101で得られた角度軸力Frに乗算して乗算器105を通じて得られる最終的な角度軸力Frmとして加算器108に出力され、最終的な電流軸力Fimを加算して加算器108を通じて得られる軸力成分Fとして減算器57に出力される。
【0047】
図2の説明に戻り、目標操舵反力演算部56には、操舵トルクTh、車速値V、操舵角θs、及び配分比Diが入力される。目標操舵反力演算部56は、操舵トルクTh、車速値V、操舵角θs、及び配分比Diに基づいて、操舵反力成分Tb*を演算する。操舵反力成分Tb*は、運転者の操舵方向にステアリングホイール11を回転させるためのモータトルク、すなわち運転者のステアリングホイール11の操舵をアシストするためのアシスト力を示す。操舵反力成分Tb*については、後で詳しく説明する。こうして得られた操舵反力成分Tb*は、軸力演算部55で得られた軸力成分Fが差し引かれて減算器57を通じて得られる操舵反力指令値Ts*として通電制御部53に出力される。
【0048】
通電制御部53には、操舵反力指令値Ts*、回転角θa、及び操舵側実電流値Iaが入力される。通電制御部53は、操舵反力指令値Ts*に基づき反力モータ31に対する電流指令値を演算する。そして、通電制御部53は、電流指令値と、操舵側電流センサ54を通じて検出される操舵側実電流値Iaを回転角θaに基づき変換して得られるdq座標上の電流値との偏差を求め、当該偏差を無くすように反力モータ31に対する給電を制御する。これにより、反力モータ31は操舵反力指令値Ts*に応じたトルクを発生する。運転者に対して路面反力に応じた適度な手応え感を与えることが可能である。
【0049】
次に、転舵側制御部50bの機能について説明する。
転舵側制御部50bには、車速値V、回転角θb、及び操舵角θsが入力される。転舵側制御部50bは、車速値V、回転角θb、及び操舵角θsに基づいて、転舵モータ41に対する給電を制御する。
【0050】
転舵側制御部50bは、ピニオン角演算部61と、舵角比可変演算部62と、ピニオン角フィードバック制御部(図中「ピニオン角F/B制御部」)63と、通電制御部64とを有している。
【0051】
ピニオン角演算部61には、回転角θbが入力される。ピニオン角演算部61は、回転角θbを、例えば、車両が直進しているときの転舵シャフト14の位置であるラック中立位置からの転舵モータ41の回転数をカウントすることにより、360°を超える範囲を含む積算角に換算する。ピニオン角演算部61は、換算して得られた積算角に減速機構42の回転速度比に基づく換算係数を乗算することで、ピニオンシャフト44の実際の回転角であるピニオン角θpを演算する。なお、ピニオン角θpは、ラック中立位置よりも、例えば右側の角度である場合に正、左側の角度である場合に負とする。転舵モータ41と、ピニオンシャフト44とは、減速機構42を介して連動する。このため、転舵モータ41の回転角θbと、ピニオン角θpとの間には相関関係がある。この相関関係を利用して転舵モータ41の回転角θbからピニオン角θpを求めることができる。また、ピニオンシャフト44は、転舵シャフト14に噛合されている。このため、ピニオン角θpと転舵シャフト14の移動量との間にも相関関係がある。すなわち、ピニオン角θpは、転舵輪16の転舵角θwを反映する値である。こうして得られたピニオン角θpは、ピニオン角フィードバック制御部63及び軸力演算部55に出力される。
【0052】
舵角比可変演算部62には、車速値V及び操舵角θsが入力される。舵角比可変演算部62は、操舵角θsに調整量Δθaを加算することによって変換後角度θvgを演算する。舵角比可変演算部62は、操舵角θsに対する変換後角度θvgの比率である舵角比を可変するための調整量Δθaを、車速値Vに応じて可変させる。例えば、車速値Vが低い場合に高い場合よりも、操舵角θsの変化に対する変換後角度θvgの変化を大きくするように、調整量Δθaを可変させる。こうして得られた変換後角度θvgは、目標ピニオン角θp*としてピニオン角フィードバック制御部63及び軸力演算部55に出力される。目標ピニオン角θp*は、ピニオン角θpの目標となる目標制御量である。目標ピニオン角θp*は、変換後角度θvgに基づき演算される。また、変換後角度θvgは、操舵角θsに基づき演算される。このため、目標ピニオン角θp*と、操舵角θsとの間には相関関係がある。すなわち、操舵角θsに基づき得られる目標ピニオン角θp*は、回転角θaを反映する値である。また、ピニオン角θpは、目標ピニオン角θp*に基づき制御される。このため、ピニオン角θpと、目標ピニオン角θp*との間にも相関関係がある。
【0053】
ピニオン角フィードバック制御部63には、目標ピニオン角θp*及びピニオン角θpが入力される。ピニオン角フィードバック制御部63は、ピニオン角θpを目標ピニオン角θp*に追従させるべくピニオン角θpのフィードバック制御を通じて転舵力の目標となる目標制御量としての転舵力指令値T*を演算する。こうして得られた転舵力指令値T*は、通電制御部64に出力される。
【0054】
通電制御部64には、転舵力指令値T*、回転角θb、及び転舵側実電流値Ibが入力される。通電制御部64は、転舵力指令値T*に基づき転舵モータ41に対する電流指令値を演算する。そして、通電制御部64は、電流指令値と、転舵側電流センサ65を通じて検出される転舵側実電流値Ibを回転角θbに基づき変換して得られるdq座標上の電流値との偏差を求め、当該偏差を無くすように転舵モータ41に対する給電を制御する。これにより、転舵モータ41は転舵力指令値T*に応じた角度だけ回転する。
【0055】
以下、目標操舵反力演算部56の機能についてさらに詳しく説明する。
図4に示すように、目標操舵反力演算部56は、基本制御量演算部71と、補償量演算部72とを有している。
【0056】
基本制御量演算部71には、操舵トルクTh及び車速値Vが入力される。基本制御量演算部71は、操舵トルクTh及び車速値Vに基づいて、基本制御量I1*を演算する。基本制御量I1*は、ステアリングホイール11の操舵に関わって演算される制御量である。そして、基本制御量I1*は、操舵反力成分Tb*の基礎成分であり、ステアリングホイール11の操舵が所望の特性を示すように設定されている。例えば、基本制御量演算部71は、操舵トルクThの変化に対する基本制御量I1*の変化率であるアシスト勾配を考慮して、操舵トルクThの絶対値が大きいほど、車速値Vが小さいほど、より大きな絶対値となる基本制御量I1*を演算する。こうして得られた基本制御量I1*は、加算器73に出力される。
【0057】
補償量演算部72には、操舵トルクTh、車速値V、操舵角θs、及び配分比Diが入力される。補償量演算部72は、操舵トルクTh、車速値V、操舵角θs、及び配分比Diに基づいて、以下の戻り補償量I2*、ヒステリシス補償量I3*、ダンピング補償量I4*、慣性補償量I5*の特定補償量を含む各種補償量を演算する。なお、各種補償量には、各補償量I2*~I5*の特定補償量の他、図示しないが操舵トルクThの位相を遅らせるように位相補償する位相遅れ補償量や、基本制御量I1*の位相を進ませるように位相補償する位相進み補償量を含んでいる。位相遅れ補償量は、アシスト勾配を調整するためのものである。位相進み補償量は、共振特性を抑えてシステムを安定化させるためのものである。各種補償量は、基本制御量I1*に基づき実現されるステアリングホイール11の動作が所望の特性を示すように補償するための補償量である。
【0058】
具体的には、補償量演算部72は、戻り補償量演算部81と、ヒステリシス補償量演算部82と、ダンピング補償量演算部83と、慣性補償量演算部84とを有している。
戻り補償量演算部81には、操舵トルクTh、車速値V、及び操舵角θsと、当該操舵角θsを微分して微分器85を通じて得られる操舵速度ωsとが入力される。戻り補償量演算部81は、操舵トルクTh、車速値V、操舵角θs、及び操舵速度ωsに基づいて、戻り補償量I2b*を演算する。戻り補償量I2b*は、ステアリング中立位置に戻すステアリングホイール11の戻り動作を補償するものである。ステアリングホイールの戻り動作については、転舵輪16のセルフアライニングトルクが関わっているところ、当該セルフアライニングトルクの過不足が戻り補償量I2*によって補償される。戻り補償量I2*は、ステアリングホイール11をステアリング中立位置に戻す方向へ向けたトルクを発生させるためのものである。こうして得られた戻り補償量I2b*は、戻り補償用ゲインKaを乗算してゲイン乗算部91を通じて得られる最終的な戻り補償量I2*として加算器73に出力される。
【0059】
ヒステリシス補償量演算部82には、車速値V及び操舵角θsが入力される。ヒステリシス補償量演算部82は、車速値V及び操舵角θsに基づいて、ヒステリシス補償量I3b*を演算する。ヒステリシス補償量I3b*は、ステアリングホイール11の動作時の摩擦によるヒステリシス特性を最適化するように補償するものである。ステアリングホイール11の動作時の摩擦によるヒステリシス特性については、操舵装置10が搭載される車両の機械的な摩擦成分が関わっているところ、当該機械的な摩擦成分によるヒステリシス特性の最適化がヒステリシス補償量I3b*によって補償される。ヒステリシス補償量I3b*は、操舵角θsの変化に対してヒステリシス特性を有する。こうして得られたヒステリシス補償量I3b*は、ヒステリシス補償用ゲインKbを乗算してゲイン乗算部92を通じて得られる最終的なヒステリシス補償量I3*として加算器73に出力される。
【0060】
ダンピング補償量演算部83には、車速値V及び操舵速度ωsが入力される。ダンピング補償量演算部83は、車速値V及び操舵速度ωsに基づいて、ダンピング補償量I4b*を演算する。ダンピング補償量I4b*は、ステアリングホイール11に生じる微振動を低減するように補償するものである。ステアリングホイール11に生じる微振動を低減することについては、操舵装置10の粘性成分、特に転舵アクチュエータTAの粘性成分が関わっているところ、ステアリングホイール11に生じる微振動を低減することがダンピング補償量I4b*によって補償される。ダンピング補償量I4b*は、その時の操舵速度ωsの発生方向とは反対方向のトルクを発生させるためのものである。こうして得られたダンピング補償量I4b*は、ダンピング補償用ゲインKcを乗算してゲイン乗算部93を通じて得られる最終的なダンピング補償量I4*として加算器73に出力される。
【0061】
慣性補償量演算部84には、車速値Vと、操舵速度ωsを微分して微分器86を通じて得られる操舵加速度αsとが入力される。慣性補償量演算部84は、車速値V及び操舵加速度αsに基づいて、慣性補償量I5b*を演算する。慣性補償量I5b*は、ステアリングホイール11の操舵し始め時の引っ掛かり感や操舵終わり時の流れ感を抑制するように補償するものである。ステアリングホイール11の操舵し始め時の引っ掛かり感や操舵終わり時の流れ感を抑制することについては、操舵装置10の慣性成分が関わっているところ、ステアリングホイール11の操舵し始め時の引っ掛かり感や操舵終わり時の流れ感を抑制することが慣性補償量I5b*によって補償される。慣性補償量I5b*は、ステアリングホイール11の操舵し始め時等の操舵加速度αsの絶対値が増加する場合に当該操舵加速度αsの発生方向のトルクを発生させるとともに、ステアリングホイール11の操舵終わり時等の操舵加速度αsの絶対値が減少する場合に当該操舵加速度αsの発生方向とは反対方向のトルクを発生させるためのものである。こうして得られた慣性補償量I5b*は、慣性補償用ゲインKdを乗算してゲイン乗算部94を通じて得られる最終的な慣性補償量I5*として加算器73に出力される。
【0062】
そして、基本制御量I1*は、各補償量I2*~I5*を加算して加算器73を通じて得られる操舵反力成分Tb*として加算器73に出力される。なお、基本制御量I1*には、各補償量I2*~I5*の他、位相遅れ補償量や、位相進み補償量も合わせて加算等されて反映される。
【0063】
次に、各ゲイン乗算部91~94の機能についてさらに詳しく説明する。
各ゲイン乗算部91~94には、配分比Diが入力される。各ゲイン乗算部91~94は、配分比Diに基づいて、各補償用ゲインKa、Kb、Kc、Kdを変更する。
【0064】
具体的には、
図5中、「Ka」で示すように、ゲイン乗算部91は、配分比Diがゼロ値から「1」の範囲で大きくなるほど、戻り補償用ゲインKaが比例して大きくなる変化特性を示すように変更する。この場合、戻り補償量I2*は、操舵反力指令値Ts*に対する電流軸力Fiの反映状態を考慮して、電流軸力Fiの反映状態が大きいほど、大きい補償量となる。これは、操舵反力指令値Ts*に対する電流軸力Fiの反映状態が大きくなるほど、セルフアライニングトルクの過不足が助長されるからである。つまり、基本制御量I1*は、操舵反力指令値Ts*に対する電流軸力Fiの反映状態が大きいほど、ステアリングホイール11をステアリング中立位置に戻す方向へ向けたトルクが大きくなるように補償される。
【0065】
また、
図5中、「Kb」で示すように、ゲイン乗算部92は、配分比Diがゼロ値から「1」の範囲で大きくなるほど、ヒステリシス補償用ゲインKbが小さくなるなかでその変化割合が徐々に大きくなる変化特性を示すように変更する。この場合、ヒステリシス補償量I3*は、操舵反力指令値Ts*に対する電流軸力Fiの反映状態を考慮して、電流軸力Fiの反映状態が大きいほど、小さい補償量となる。これは、操舵反力指令値Ts*に対する電流軸力Fiの反映状態が大きくなるほど、当該電流軸力Fiに含まれる操舵装置10が搭載される車両の機械的な摩擦成分が大きくなるからである。つまり、基本制御量I1*は、操舵反力指令値Ts*に対する電流軸力Fiの反映状態が大きいほど、ヒステリシス補償量I3*によるヒステリシス特性が小さくなるように補償される。
【0066】
また、
図5中、「Kc」で示すように、ゲイン乗算部93は、配分比Diがゼロ値から「1」の範囲で大きくなるほど、ダンピング補償用ゲインKcが小さくなるなかでその変化割合が徐々に大きくなる変化特性を示すように変更する。この場合、ダンピング補償量I4*は、操舵反力指令値Ts*に対する電流軸力Fiの反映状態を考慮して、電流軸力Fiの反映状態が大きいほど、小さい補償量となる。これは、操舵反力指令値Ts*に対する電流軸力Fiの反映状態が大きくなるほど、当該電流軸力Fiに含まれる操舵装置10の粘性成分が大きくなるからである。つまり、基本制御量I1*は、操舵反力指令値Ts*に対する電流軸力Fiの反映状態が大きいほど、その時の操舵速度ωsの発生方向とは反対方向のトルクが小さくなるように補償される。
【0067】
また、
図5中、「Kd」で示すように、ゲイン乗算部94は、配分比Diがゼロ値から「1」の範囲で大きくなるほど、慣性補償用ゲインKdが小さくなるなかでその変化割合が徐々に大きくなる変化特性を示すように変更する。この場合、慣性補償量I5*は、操舵反力指令値Ts*に対する電流軸力Fiの反映状態を考慮して、電流軸力Fiの反映状態が大きいほど、小さい補償量となる。これは、操舵反力指令値Ts*に対する電流軸力Fiの反映状態が大きくなるほど、当該電流軸力Fiに含まれる操舵装置10の慣性成分が大きくなるからである。つまり、基本制御量I1*は、操舵反力指令値Ts*に対する電流軸力Fiの反映状態が大きいほど、操舵加速度αsの発生方向のトルクや、操舵加速度αsの発生方向とは反対方向のトルクが小さくなるように補償される。
【0068】
以下、本実施形態の作用を説明する。
ここで、各種補償量は、ステアリングホイール11の動作に関わるとして選択された特性を補償するものである。この選択された特性は、電流軸力Fiにも含まれる重複した特性である場合がある。この場合、ステアリングホイール11の動作に対して、各種補償量に応じた動作と、当該各種補償量に対応する電流軸力Fiに含まれている特性に応じた動作とが互いに打ち消しあったり、重畳的に過剰になったりする。
【0069】
この点、本実施形態によれば、各種補償量のうち各補償量I2*~I5*については、配分比Diに応じた補償量となるように変更されることになる。例えば、配分比Diが大きければ、電流軸力Fiに含まれている各補償量I2*~I5*に対応する特性によるステアリングホイールの動作への影響が大きいことになる。この場合、各補償量I2*~I5*の特性についてはそのステアリングホイール11への動作への影響が大きくや小さくなるように、本来の各補償量I2*~I5*に対して大きくや小さくなるように変更する等の工夫を施すことができる。これにより、ステアリングホイール11の動作に対して、各補償量I2*~I5*に応じた動作と、当該各補償量I2*~I5*に対応する電流軸力Fiに含まれている特性に応じた動作とが互いに打ち消しあったり、重畳的に過剰になったりすることが抑えられる。
【0070】
以下、本実施形態の効果を説明する。
(1)本実施形態では、各補償量I2*~I5*によりステアリングホイール11の動作を補償するなかで、ステアリングホイール11の動作を所望の特性からずれ難くすることができ、運転者に伝わる違和感を抑えることができる。
【0071】
(2)本実施形態では、操舵反力指令値Ts*に対する電流軸力Fiの反映状態として、配分比Diを用いるようにしている。
本実施形態によれば、電流軸力Fiの反映状態を定量的に判断することができるようになる。この場合、ステアリングホイール11の動作に対して、各補償量I2*~I5*に応じた動作と、当該各補償量I2*~I5*に対応する電流軸力Fiに含まれている特性に応じた動作とが互いに打ち消しあったり、重畳的に過剰になったりすることを抑えるのに効果的である。
【0072】
(3)ここで、ステアリングホイール11の戻り動作については、転舵輪16のセルフアライニングトルクが関わっているところ、当該セルフアライニングトルクは電流軸力Fiに含まれる特性である。
【0073】
そこで、本実施形態では、
図5中、「Ka」で示すように、戻り補償量I2*について、配分比Diが大きいほど、大きい補償量となるように変更するようにしている。したがって、ステアリングホイール11の戻り動作について運転者に伝わる違和感を抑えることができる。
【0074】
(4)また、ステアリングホイール11の動作時の摩擦によるヒステリシス特性については、操舵装置10が搭載される車両の機械的な摩擦成分が関わっているところ、当該機械的な摩擦成分は電流軸力Fiに含まれる特性である。
【0075】
そこで、本実施形態では、
図5中、「Kb」で示すように、ヒステリシス補償量I3*について、配分比Diが大きいほど、小さい補償量となるように変更するようにしている。したがって、ステアリングホイール11の動作時の摩擦によるヒステリシス特性について運転者に伝わる違和感を抑えることができる。
【0076】
(5)また、ステアリングホイール11に生じる微振動を低減することについては、操舵装置10の粘性成分が関わっているところ、当該粘性成分、特に転舵アクチュエータTAの粘性成分は電流軸力Fiに含まれる特性である。
【0077】
そこで、本実施形態では、
図5中、「Kc」で示すように、ダンピング補償量I4*について、配分比Diが大きいほど、小さい補償量となるように変更するようにしている。したがって、ステアリングホイール11に生じる微振動を低減することについて運転者に伝わる違和感を抑えることができる。
【0078】
(6)また、ステアリングホイール11の操舵し始め時の引っ掛かり感や操舵終わり時の流れ感を抑制することについては、操舵装置10の慣性成分が関わっているところ、当該慣性成分、特に転舵アクチュエータTAの慣性成分は電流軸力Fiに含まれる特性である。
【0079】
そこで、本実施形態では、
図5中、「Kd」に示すように、慣性補償量I5*について、配分比Diが大きいほど、小さい補償量となるように変更するようにしている。したがって、ステアリングホイール11の操舵し始め時の引っ掛かり感や操舵終わり時の流れ感を抑制することについて運転者に伝わる違和感を抑えることができる。
【0080】
(7)ここで、操舵反力を適正化することは、反力アクチュエータSAと、転舵アクチュエータTAとの間の動力伝達路が分離した構造を有する操舵装置、所謂、ステアバイワイヤ式の操舵装置では特に重要である。
【0081】
この点、本実施形態によれば、転舵輪16の状況、すなわち路面情報が操舵反力によりステアリングホイール11を通じて運転者に伝達するなかで、ステアリングホイール11の動作を所望の特性を満たすように最適化することができる。これは、運転者に伝わる違和感を抑えた状態で実現される。
【0082】
(第2実施形態)
次に、操舵制御装置の第2実施形態について説明する。なお、既に説明した実施形態と同一構成等は、同一の符号を付す等して、その重複する説明を省略する。
【0083】
本実施形態では、補償量演算部72について、ゲイン乗算部91を削除し、当該ゲイン乗算部91に対応する機能を戻り補償量演算部81に付加するようにしている。
具体的には、
図6に示すように、本実施形態の戻り補償量演算部81は、角度軸力用目標操舵速度演算部111と、電流軸力用目標操舵速度演算部112とを有している。
【0084】
角度軸力用目標操舵速度演算部111には、車速値V及び操舵角θsが入力される。角度軸力用目標操舵速度演算部111は、車速値V及び操舵角θsと、角度軸力用目標操舵速度ωr*との関係を定めたマップを備えており、車速値V及び操舵角θsを入力とし、角度軸力用目標操舵速度ωr*をマップ演算する。角度軸力用目標操舵速度ωr*は、角度軸力Frを考慮して、その時の操舵角θsに対してステアリングホイール11の戻り動作を最適化するための操舵速度の目標値である。
【0085】
図7中、実線で示すように、角度軸力用目標操舵速度ωr*は、操舵角θsがゼロ値から大きくなるほど、絶対値が大きくなった後、途中から変化割合が小さくなってあまり変化しなくなるように設定されている。なお、
図7中、縦軸は、目標操舵速度がその時の操舵速度ωsの発生方向とは反対方向であることから負値を示している。
【0086】
こうして得られた角度軸力用目標操舵速度ωr*は、乗算器113に出力される。
電流軸力用目標操舵速度演算部112には、車速値V及び操舵角θsが入力される。電流軸力用目標操舵速度演算部112は、車速値V及び操舵角θsに基づいて、電流軸力用目標操舵速度ωi*を演算する。電流軸力用目標操舵速度ωi*は、電流軸力Fiを考慮して、その時の操舵角θsに対してステアリングホイール11の戻り動作を最適化するための操舵速度の目標値である。
【0087】
図7中、破線で示すように、電流軸力用目標操舵速度ωi*は、操舵角θsがゼロ値から大きくなるほど、絶対値が大きくなった後、途中から変化割合が小さくなってあまり変化しなくなるように設定されている。また、電流軸力用目標操舵速度ωi*は、操舵角θsの全範囲で角度軸力用目標操舵速度ωr*に対して、絶対値が大きくなるように設定されている。
【0088】
こうして得られた電流軸力用目標操舵速度ωi*は、配分比Diを乗算して乗算器114を通じて得られる最終的な電流軸力用目標操舵速度ωim*として加算器117に出力される。また、乗算器114で乗算される配分比Diは、記憶部116に記憶された「1」から差し引いて減算器115を通じて得られる配分比Drとして乗算器113に出力される。
【0089】
こうして得られた配分比Drは、角度軸力用目標操舵速度演算部111で得られた角度軸力用目標操舵速度ωr*に乗算して乗算器113を通じて得られる最終的な角度軸力用目標操舵速度ωrm*として加算器117に出力され、最終的な電流軸力用目標操舵速度ωim*を加算して加算器117を通じて得られる目標操舵速度ωs*として得られる。目標操舵速度ωs*は、角度軸力用目標操舵速度ωr*及び電流軸力用目標操舵速度ωi*をそれぞれの配分比率で配分して得られるものである。つまり、配分比Diは、電流軸力用目標操舵速度ωi*の配分比率を示す。また、配分比Drは、角度軸力用目標操舵速度ωr*の配分比率を示す。なお、記憶部116は、図示しないメモリの所定の記憶領域のことであり、記憶部107であってもよい。
【0090】
こうして得られた目標操舵速度ωs*は、操舵速度ωsを差し引いて減算器118を通じて得られる操舵速度偏差Δωsとしてゲイン乗算部119に出力され、トルクゲインKeを乗算してゲイン乗算部119を通じて得られる最終的な戻り補償量I2*として加算器73に出力される。つまり、戻り補償量I2*は、操舵速度ωsを目標操舵速度ωs*に追従させるべく操舵速度ωsのフィードバック制御を通じて操舵速度ωsの目標値として演算される。なお、ゲイン乗算部119は、操舵トルクThに基づいて、トルクゲインKeを変更する。
【0091】
本実施形態によれば、戻り補償量演算部81は、配分比Diがゼロ値から「1」の範囲で大きくなるほど、目標操舵速度ωs*に対する電流軸力用目標操舵速度ωi*の反映状態が大きくなるように変更する。この場合、戻り補償量I2*は、操舵反力指令値Ts*に対する電流軸力Fiの反映状態を考慮して、電流軸力Fiの反映状態が大きいほど、大きい補償量となる。つまり、本実施形態では、上記第1実施形態と同様の作用及び効果を奏する。
【0092】
上記各実施形態は次のように変更してもよい。また、以下の他の実施形態は、技術的に矛盾しない範囲において、互いに組み合わせることができる。
・上記各実施形態において、補償量演算部72は、各補償量I2*~I5*の少なくともいずれかを演算する機能を有していればよい。例えば、補償量演算部72では、慣性補償量演算部84及びゲイン乗算部94を削除し、慣性補償量I5*を演算する機能を削除してもよい。
【0093】
・上記各実施形態において、補償量演算部72は、各補償量I2*~I5*の少なくともいずれかを配分比Diに応じて変更する機能を有していればよい。例えば、補償量演算部72では、ゲイン乗算部94を削除し、慣性補償量I5*を配分比Diに応じて変更する機能を削除してもよい。
【0094】
・上記各実施形態において、戻り補償量演算部81は、戻り補償量I2*を演算する際、操舵角θs及び操舵速度ωsを少なくとも用いていればよく、車速値Vや操舵トルクThを用いなくてもよいし、他の要素を組み合わせて用いるようにしてもよい。
【0095】
・上記各実施形態において、ヒステリシス補償量演算部82は、ヒステリシス補償量I3*を演算する際、操舵角θsを少なくとも用いていればよく、車速値Vを用いなくてもよいし、操舵トルクTh等の他の要素を組み合わせて用いるようにしてもよい。また、ヒステリシス補償量演算部82は、操舵速度ωsに対するヒステリシス特性を考慮するのであれば、ヒステリシス補償量I3*を演算する際、操舵角θsの代わりに操舵速度ωsを用いればよい。
【0096】
・上記各実施形態において、ダンピング補償量演算部83は、ダンピング補償量I4*を演算する際、操舵速度ωsを少なくとも用いていればよく、車速値Vを用いなくてもよいし、操舵トルクTh等の他の要素を組み合わせて用いるようにしてもよい。
【0097】
・上記各実施形態において、慣性補償量演算部84は、慣性補償量I5*を演算する際、操舵加速度αsを少なくとも用いていればよく、車速値Vを用いなくてもよいし、操舵トルクTh等の他の要素を組み合わせて用いるようにしてもよい。
【0098】
・上記第1実施形態において、各ゲイン乗算部91~94では、配分比Diに対する各ゲインKa、Kb、Kc、Kdの変化特性を適宜変更してもよい。例えば、ゲイン乗算部91は、配分比Diがゼロ値から「1」の範囲で大きくなるほど、戻り補償用ゲインKaが大きくなるなかでその変化割合が徐々に大きくなる変化特性を実現してもよいし、戻り補償用ゲインKaが小さくなる変化特性を実現してもよい。また、ゲイン乗算部92は、配分比Diがゼロ値から「1」の範囲で大きくなるほど、ヒステリシス補償用ゲインKbが比例して小さくなる変化特性を実現してもよいし、ヒステリシス補償用ゲインKbが大きくなる変化特性を実現してもよい。これは、ゲイン乗算部93、94についても同様である。本変形例の各ゲイン乗算部92~94の構成は、上記第2実施形態についても同様に適用することができる。
【0099】
・上記第1実施形態において、各ゲイン乗算部91~94は、各補償量演算部81~84の機能として付加してもよい。本変形例の各ゲイン乗算部92~94の構成は、上記第2実施形態についても同様に適用することができる。
【0100】
・上記第1実施形態において、各ゲイン乗算部91~94は、各ゲインKa、Kb、Kc、Kdを演算する際、配分比Diを少なくとも用いていればよく、他の要素を組み合わせて用いるようにしてもよい。なお、各ゲイン乗算部91~94は、配分比Diの代わりに、配分比Drを用いるようにしてもよい。これは、配分比Drを用いることが配分比Diを用いることと同等の概念であるからである。この場合、各ゲイン乗算部91~94は、配分比Drに対する各ゲインKa、Kb、Kc、Kdの変化特性について、配分比Diを用いる場合の大小を逆転させた変化特性を実現すればよい。本変形例の各ゲイン乗算部92~94の構成は、上記第2実施形態についても同様に適用することができる。
【0101】
・上記第2実施形態において、戻り補償量演算部81は、目標操舵速度ωs*を演算する際、配分比Diや配分比Drを少なくとも用いていればよく、他の要素を組み合わせて用いるようにしてもよい。
【0102】
・上記第2実施形態において、戻り補償量演算部81は、配分比Diの代わりに配分比Drが入力される構成としてもよい。この場合、配分比Drは、乗算器113に入力されるとともに、記憶部116に記憶された「1」から差し引いて減算器115を通じて得られる配分比Diとして乗算器114に出力される。その他、戻り補償量演算部81は、配分比Di及び配分比Drのいずれも入力される構成としてもよい。この場合、配分比Diは乗算器114に入力され、配分比Drは乗算器113に入力される。
【0103】
・上記第2実施形態において、ゲイン乗算部119は、操舵トルクThに応じて可変しない固定値を乗算するものでもよい。
・上記各実施形態において、角度軸力演算部101は、角度軸力Frを演算する際、目標ピニオン角θp*を少なくとも用いていればよく、車速値Vを用いなくてもよいし、他の要素を組み合わせて用いるようにしてもよい。なお、角度軸力演算部101は、目標ピニオン角θp*の代わりに、ピニオン角θpを用いるようにしてもよい。これは、ピニオン角θpを用いることが目標ピニオン角θp*を用いることと同等の概念であるからである。
【0104】
・上記各実施形態において、電流軸力演算部102は、電流軸力Fiを演算する際、転舵側実電流値Ibを少なくとも用いていればよく、車速値V等の他の要素を組み合わせて用いるようにしてもよい。なお、電流軸力演算部102は、転舵側実電流値Ibの代わりに、転舵側実電流値Ibを回転角θbに基づき変換して得られるdq座標上の電流値との偏差を無くすようにするために得られる電流指令値を用いるようにしてもよい。これは、上記電流指令値を用いることが転舵側実電流値Ibを用いることと同等の概念であるからである。
【0105】
・上記各実施形態において、配分比演算部103は、配分比Diを演算する際、ピニオン角θpを少なくとも用いていればよく、車速値Vを用いなくてもよいし、ピニオン角θpを微分して得られる転舵速度等の他の要素を組み合わせて用いるようにしてもよい。なお、配分比演算部103は、ピニオン角θpの代わりに、目標ピニオン角θp*を用いるようにしてもよい。これは、目標ピニオン角θp*を用いることがピニオン角θpを用いることと同等の概念であるからである。
【0106】
・上記各実施形態において、基本制御量演算部71では、基本制御量I1*を演算する際、ステアリングホイール11の動作に関わる状態変数を少なくとも用いていればよく、車速値Vを用いなくてもよいし、他の要素を組み合わせて用いるようにしてもよい。ステアリングホイール11の動作に関わる状態変数としては、上記各実施形態で例示した操舵トルクThの代わりに、操舵角θsを用いたり他の要素を用いたりしてもよい。
【0107】
・上記各実施形態では、舵角比を固定としてもよい。この場合、舵角比可変演算部62を削除することができる。
・上記各実施形態では、転舵側制御部50bは、操舵側制御部50aの機能として付加してもよい。
【0108】
・上記各実施形態において、転舵モータ41は、例えば、転舵シャフト14の同軸上に転舵モータ41を配置するものや、ボールねじ機構を用いたベルト式減速機を介して転舵シャフト14に連結するものを採用してもよい。
【0109】
・上記各実施形態において、操舵制御装置50を構成するCPUは、コンピュータプログラムを実行する1つ以上のプロセッサ、あるいは各種処理のうち少なくとも一部の処理を実行する特定用途向け集積回路等の1つ以上の専用ハードウェア回路、あるいは上記プロセッサ及び上記専用ハードウェア回路の組み合わせを含む回路として実現してもよい。また、メモリには、汎用または専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体によって構成してもよい。
【0110】
・上記各実施形態は、操舵装置10を、反力アクチュエータSAと転舵アクチュエータTAとの間が機械的に常時分離したリンクレスの構造としたが、これに限らず、
図1に二点鎖線で示すように、クラッチ21により反力アクチュエータSAと転舵アクチュエータTAとの間が機械的に分離可能な構造としてもよい。また、操舵装置10は、ステアリングホイール11の操舵を補助するための力であるアシスト力を付与する電動パワーステアリング装置としてもよい。この場合、ステアリングホイール11は、ステアリングシャフト12を介してピニオンシャフト13が機械的に接続される。
【符号の説明】
【0111】
10…操舵装置
11…ステアリングホイール
14…転舵シャフト
16…転舵輪
31…反力モータ
41…転舵モータ
50a…操舵側制御部(制御部)
52…反力制御量演算部
55…軸力演算部
56…目標操舵反力演算部
71…基本制御量演算部
72…補償量演算部
81…戻り補償量演算部
82…ヒステリシス補償量演算部
83…ダンピング補償量演算部
84…慣性補償量演算部
91…ゲイン乗算部
92…ゲイン乗算部
93…ゲイン乗算部
94…ゲイン乗算部
101…角度軸力演算部
102…電流軸力演算部
103…配分比演算部
111…角度軸力用目標操舵速度演算部
112…電流軸力用目標操舵速度演算部
SA…反力アクチュエータ
TA…転舵アクチュエータ