IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ イフォクレール ヴィヴァデント アクチェンゲゼルシャフトの特許一覧

特許7526686環化重合可能なクロスリンカーベースの歯科材料
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-24
(45)【発行日】2024-08-01
(54)【発明の名称】環化重合可能なクロスリンカーベースの歯科材料
(51)【国際特許分類】
   A61K 6/60 20200101AFI20240725BHJP
   A61K 6/80 20200101ALI20240725BHJP
   A61K 6/62 20200101ALI20240725BHJP
   A61K 6/64 20200101ALI20240725BHJP
   A61K 6/61 20200101ALI20240725BHJP
   A61K 6/71 20200101ALI20240725BHJP
   A61K 6/20 20200101ALI20240725BHJP
   A61C 13/00 20060101ALI20240725BHJP
【FI】
A61K6/60
A61K6/80
A61K6/62
A61K6/64
A61K6/61
A61K6/71
A61K6/20
A61C13/00
【請求項の数】 22
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021015477
(22)【出願日】2021-02-03
(65)【公開番号】P2021123593
(43)【公開日】2021-08-30
【審査請求日】2024-02-02
(31)【優先権主張番号】20155585
(32)【優先日】2020-02-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】501151539
【氏名又は名称】イフォクレール ヴィヴァデント アクチェンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Ivoclar Vivadent AG
【住所又は居所原語表記】Bendererstr.2 FL-9494 Schaan Liechtenstein
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】イーリス ランパルト
(72)【発明者】
【氏名】ノルベルト モスツナー
(72)【発明者】
【氏名】ロベルト リスカ
(72)【発明者】
【氏名】クリスティアン ゴルシェ
(72)【発明者】
【氏名】ヨハン カテル
(72)【発明者】
【氏名】ゲルノート ペール
【審査官】高橋 樹理
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2012/0082958(US,A1)
【文献】国際公開第2014/040729(WO,A1)
【文献】米国特許第05145374(US,A)
【文献】国際公開第2018/109041(WO,A1)
【文献】Macromolecules,2020年09月,Vol.53,p.8374-8381
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 6/00- 6/90
A61C 13/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式I
【化20】

の少なくとも1つの化合物を含む、歯科材料
[式中、
は、飽和の直鎖、分岐もしくは環式C ~C 12 炭化水素ラジカルであり
X、Y、Zは、各場合において互いに独立に、-COOR あり、
は、直もしくは岐C ~C 炭化水素ラジカルであり、
mは、である]。
【請求項2】
、エチルである、請求項1に記載の歯科材料。
【請求項3】
なくとも1つのラジカル重合可能な単官能性または多官能性(メタ)アクリレートをさらに含む、請求項1または2に記載の歯科材料。
【請求項4】
メタクリレートをさらに含む、請求項3に記載の歯科材料。
【請求項5】
さらなるモノマーとして、ビスフェノールAジメタクリレート、2,2-ビス[4-(2-ヒドロキシ-3-メタクリロイルオキシプロピル)フェニル]プロパン(ビス-GMA)、エトキシ化もしくはプロポキシ化ビスフェノールAジメタクリレート、2-[4-(2-メタクリロイルオキシエトキシエトキシ)フェニル]-2-[4-(2-メタクリロイルオキシエトキシ)フェニル]プロパン)(SR-348c;3個のエトキシ基を含有する)、2,2-ビス[4-(2-メタクリロイルオキシプロポキシ)フェニル]プロパン、1,6-ビス-[2-メタクリロイルオキシ-エトキシカルボニルアミノ]-2,2,4-トリメチルヘキサン(UDMA)、ジ-、トリ-もしくはテトラエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、グリセロールジ-もしくはグリセロールトリメタクリレート、1,4-ブタンジオールジメタクリレート、1,10-デカンジオールジメタクリレート(DMA)、1,12-ドデカンジオールジメタクリレート、ビス(メタクリロイルオキシメチル)トリシクロ-[5.2.1.02,6]デカン(DCP)、またはそれらの混合物から選択される1つまたは複数の多官能性モノマーを含む、請求項に記載の歯科材料。
【請求項6】
ンジルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、イソボルニルメタクリレート、p-クミル-フェノキシエチレングリコールメタクリレート(CMP-1E)、2-(2-ビフェニルオキシ)-エチルメタクリレート、またはそれらの混合物から選択される1つまたは複数の単官能性モノマーを含む、請求項3~5のいずれか一項に記載の歯科材料。
【請求項7】
各場合、前記材料の総質量に対して、
0.5~70wt.%の式Iの少なくとも1つの化合物、および/または
合計で最大70wt.%の多官能性メタクリレート、および/または
合計で最大10wt.%の単官能性メタクリレート
を含む、請求項から6のいずれか一項に記載の歯科材料。
【請求項8】
各場合、前記材料の総質量に対して、
1~60wt.%の式Iの少なくとも1つの化合物、および/または
合計で最大1.5~60wt.%の多官能性メタクリレート、および/または
合計で最大0~10wt.%の単官能性メタクリレート
を含む、請求項3から6のいずれか一項に記載の歯科材料。
【請求項9】
各場合、前記材料の総質量に対して、
3~50wt.%の式Iの少なくとも1つの化合物、および/または
合計で最大2~50wt.%の多官能性メタクリレート、および/または
合計で最大0~5wt.%の単官能性メタクリレート
を含む、請求項3から6のいずれか一項に記載の歯科材料。
【請求項10】
さらなるモノマーとして、エチレングリコールジアクリレート、ヘキサンジオールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジアクリレート、ポリエチレングリコール200ジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、またはそれらの混合物から選択される1つまたは複数の多官能性アクリレートを含む、請求項3から9のいずれか一項に記載の歯科材料。
【請求項11】
UV光、可視光によるラジカル重合のための少なくとも1つの開始剤、熱開始剤および/または酸化還元開始剤をさらに含む、請求項1から10いずれか一項に記載の歯科材料。
【請求項12】
少なくとも1つの無機フィラーをさらに含む、請求項1から11のいずれか一項に記載の歯科材料。
【請求項13】
各場合、前記材料の総質量に対して、
a)0.5~70wt.%の式Iの少なくとも1つの化合物、
b)0.01~5wt.%の少なくとも1つの開始剤
c)1~70wt.%の少なくとも1つのラジカル重合可能なコモノマー、
d)0~85wt.%の少なくとも1つのフィラー
を含む、請求項3から12のいずれか一項に記載の歯科材料。
【請求項14】
各場合、前記材料の総質量に対して、
a)1~60wt.%の式Iの少なくとも1つの化合物、
b)0.1~3.0wt.%の少なくとも1つの光開始剤、
c)1.5~60wt.%の少なくとも1つのラジカル重合可能なコモノマー、
d)0~85wt.%の少なくとも1つのフィラー
を含む、請求項3から12のいずれか一項に記載の歯科材料。
【請求項15】
各場合、前記材料の総質量に対して、
a)3~50wt.%の式Iの少なくとも1つの化合物、
b)0.1~1.0wt.%の少なくとも1つの光開始剤、
c)2~50wt.%の少なくとも1つのラジカル重合可能なコモノマー、
d)0~85wt.%の少なくとも1つのフィラー
を含む、請求項3から12のいずれか一項に記載の歯科材料。
【請求項16】
50~85wt.%のフィラーを含む、請求項13から15のいずれか一項に記載の歯科材料。
【請求項17】
70~80wt.%のフィラーを含む、請求項13から15のいずれか一項に記載の歯科材料。
【請求項18】
10~70wt.%のフィラーを含む、請求項13から15のいずれか一項に記載の歯科材料。
【請求項19】
60~70wt.%のフィラーを含む、請求項13から15のいずれか一項に記載の歯科材料。
【請求項20】
歯科用セメント、充填複合物、コーティングまたはベニア材料としての治療的な使用のための、請求項1から19のいずれか一項に記載の歯科材料。
【請求項21】
歯科用補綴、インレー、アンレー、クラウンまたはブリッジの生成または修復のための、請求項1から19のいずれか一項に記載の歯科材料の、非治療的な使用。
【請求項22】
医療用材料の調製のための、請求項1に記載の式Iによる化合物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばセメント、充填複合物、ベニア材料、ならびにインレー、アンレー、クラウンおよびブリッジを生成するための材料などの歯科材料として特に適している、ラジカル重合可能な組成物に関する。その組成物は、式Iの環化重合可能なクロスリンカーを含有し、低い重合収縮によって特徴付けられる。
【背景技術】
【0002】
例えば、ビニル化合物または(メタ)アクリレートの重合は、各場合、ポリマー鎖の形成中に、各モノマー分子における1個の二重結合および1個のファンデルワールス結合が、連鎖成長ステップ1つにつき2個の単結合に変換され、すなわちポリマー鎖中のモノマー構成要素が一緒になって、モノマー相と比較してより近接するので、明らかな体積縮みをもたらすことが公知である。この重合収縮は、不利な収縮応力、ギャップの形成または基材接着の低減、および成形体の寸法安定性の障害をもたらすおそれがある。重合中の密度変化は、モノマーのモル質量およびモル体積に決定的に依存する。より高分子量のモノマーは、低モル質量を有するモノマーよりも低い体積縮みを示す。
【0003】
歯科分野では、より高分子量のジメタクリレートである、それぞれ重合収縮ΔV6.0(ビス-GMA)および6.1vol.%を示すビス-GMA(モル質量=512.6g/mol)およびUDMA(モル質量=470.6g/mol)は、相対的に低収縮のモノマーとして広く使用されている。しかし、これらのモノマーは、非常に高い粘度(ビス-GMA:η=800~1000Pa・s、UDMA:η=10Pa・s)を有するので、希釈剤として働く、より低いモル質量を有する低粘度のジメタクリレートとの混合物において主に使用される。しかし、例えばトリエチレングリコールジメタクリレート(モル質量=286.3g/mol)などの低モル質量を有するモノマーは、重合収縮が増大し(ΔV=14.5vol.%)、そのことは、材料の重合収縮に対して不利な効果を有する。
【0004】
低収縮重合体の調製のために、例えば、環式モノマーの開環重合またはチオール-エン樹脂の使用などの様々な方法が行われてきた。
【0005】
環式モノマーの開環重合の場合の体積縮みは、ここで各場合、成長ステップ1つにつき1個の共有結合が開き、1個の共有結合が形成されるので、線状モノマーと比較してかなり低い。したがって、環式モノマーは、低収縮マトリックス系として大きな関心を集めてきた。しかし、環式モノマー、例えばスピロオルトカーボネート、環式ケテンアセタールまたはビニルシクロプロパンは、メタクリレートよりもかなり高価であり、時として限定的な貯蔵安定性しかない。
【0006】
架橋チオール-エン重付加は、ほぼ完全な二重結合変換、および多官能性メタクリレートのラジカル重合よりもかなり低い重合収縮によって特徴付けられる。したがって、重合化(メタ)アクリレートの二重結合1個当たりの体積縮みは、およそ22~23cm/molであるが、一方、チオール-エン反応の場合、体積縮みは、変換された二重結合1モル当たりわずか12~15cmである。さらに、架橋チオール-エン重付加は、段階的成長機序に従って進行し、したがって、ジメタクリレートの重合と比較して、前ゲル相が著しく延長され、それによって重合縮み応力がさらに低減される。残念ながら、チオール-エン樹脂の使用は、チオールの非常に不快な匂い、チオール-エンポリマーの固有の可撓性、およびチオール-エン樹脂の限定的な貯蔵安定性に起因して制限される。
【0007】
環化重合可能なモノマーも、重合収縮の低減と関連して言及されてきた。環化重合可能なモノマーは、その重合中に、それらの特定のモノマー構造により、分子間連鎖成長反応に加えて5員または6員環の形成を伴う分子内反応が生じる、二官能性または多官能性モノマーである(D. Pasini, D. Takeuchi, Chem. Rev. 118 (2018) 8993-9057の概要を参照されたい)。環化重合は、1957年にButlerによって初めて、第四級ジアリルアンモニウム塩について説明された。簡単な環化重合可能なモノマーのさらなる例は、アクリル酸およびメタクリル酸無水物、メチルアリルマレエートおよびメチルアリルフマレート、ジアリルフタレート、ならびにジエチレングリコールビス(アリルカーボネート)である。
【化1】
【0008】
US5,145,374およびUS5,380,901は、環化重合可能なビス-アクリレート(I)またはオリゴマー(II)を含有する歯科用接着剤および複合物を開示している。その材料は、低い重合収縮を有することが企図される。
【化2】
【0009】
EP3 335 688A1は、例えば、1,6-ジエン-2-カルボン酸(エステル)および1,5-ジエン-2-カルボン酸(エステル)モノマーなどの環化重合可能なモノマーを含有する歯科材料を開示している。具体的には、中でも、α-アリルオキシメタクリル酸シクロヘキシルエステルおよびメチルα-アリルオキシメチルメタクリレートの名前が挙げられている。その材料は、硬化前の歯科目的に適した流動性、および環化重合中の環形成に起因する硬化後の高い機械強度を有することが企図される。
【0010】
WO2014/040729A1は、N-アリル置換(メタ)アクリルアミド、例えば、N,N-ジ(アリルアクリルアミド)プロパンなどを含有する歯科材料を開示している。N-アリル置換(メタ)アクリルアミドは、高い加水分解安定性、従来の(メタ)アクリレートとの良好な共重合性、低粘度および優れた生体適合性によって特徴付けられることが企図される。
WO2018/109041A1は、リン酸エステル基を有するN-アリル置換(メタ)アクリルアミド、例えば、N-アクリル-8-アリルアミノオクチルリン酸エステルなどを含有する歯科材料を開示している。(メタ)アクリルアミドは、リン酸二水素10-メタクリロイルオキシデシルと比較して、高い化学的純度および高い重合熱によって特徴付けられることが企図される。さらに、(メタ)アクリルアミドは、硬化後に有利な機械特性をもたらすことが企図される。
公知の環化重合可能なモノマーの不利益は、歯科材料の調製のために通常使用される(メタ)アクリレートと比較して、ラジカル重合中の反応性がかなり低いことであり、これは連鎖移動の分解機序に起因しているはずである。さらに、それらの機械特性は不十分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】米国特許第5,145,374号明細書
【文献】米国特許第5,380,901号明細書
【文献】欧州特許出願公開第3335688号明細書
【文献】国際公開第2014/040729号
【文献】国際公開第2018/109041号
【非特許文献】
【0012】
【文献】D. Pasini, D. Takeuchi, Chem. Rev. 118 (2018) 8993-9057
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0013】
本開示は、式I
【化3】
の少なくとも1つの化合物を含む、歯科材料
[式中、
は、直鎖、分岐もしくは環式脂肪族C~C30炭化水素ラジカル、または芳香族C~C30炭化水素ラジカルであり、前記脂肪族または芳香族炭化水素ラジカルは、置換または非置換であってよく、脂肪族炭化水素ラジカルは、1個または複数のウレタン基、エステル基、酸素原子および/または硫黄原子によって中断されていてよく、
X、Y、Zは、各場合において互いに独立に、-COOR、-CON(R)、芳香族C~C10炭化水素ラジカルまたは-CNであり、
、R、Rは、各場合において互いに独立に、水素、直鎖、分岐もしくは環式脂肪族C~C30炭化水素ラジカル、または芳香族C~C30炭化水素ラジカルであり、前記脂肪族または芳香族炭化水素ラジカルは、置換または非置換であってよく、脂肪族炭化水素ラジカルは、1個または複数の酸素原子によって中断されていてよく、mは、2または3である]を提供する。
本発明の目的は、ラジカル重合中、特に光重合中の低い重合収縮、良好な機械特性および高い反応性によって特徴付けられる歯科材料を提供することである。
【0014】
目的は、式I
【化4】
の少なくとも1つの化合物を含む、歯科材料
[式中、
は、m価の直鎖、分岐もしくは環式脂肪族C~C30炭化水素ラジカル、または芳香族C~C30炭化水素ラジカルであり、前記脂肪族または芳香族炭化水素ラジカルは、非置換であっても1個または複数の置換基によって置換されていてもよく、脂肪族炭化水素ラジカルは、1個または複数、好ましくは1~3個のウレタン基、エステル基、酸素原子および/または硫黄原子によって中断されていてよく、
X、Y、Zは、各場合において互いに独立に、-COOR、-CON(R)、芳香族C~C10炭化水素ラジカルまたは-CNであり、
、R、Rは、各場合において互いに独立に、水素、直鎖、分岐もしくは環式脂肪族C~C30炭化水素ラジカル、好ましくはC~C10炭化水素ラジカル、または芳香族C~C30炭化水素ラジカル、好ましくはC~C10炭化水素ラジカルであり、前記脂肪族または芳香族炭化水素ラジカルは、非置換であっても1個または複数の置換基によって置換されていてもよく、脂肪族炭化水素ラジカルは、1個または複数、好ましくは1~3個の酸素原子によって中断されていてよく、
mは、2または3である]によって本発明に従って達成される。
【0015】
ラジカルR~R中に必要に応じて存在する置換基は、好ましくは、塩素、ヒドロキシおよびメトキシから選択され、そのラジカルは、必要に応じて、好ましくは1~3個の置換基によって置換されている。ラジカルR~Rは、好ましくは、酸基によって置換されておらず、特に好ましくは非置換である。
【0016】
mが2に等しい化合物は、式Iaによって表すことができ、mが3に等しい化合物は、式Ibによって表すことができる。
【化5】
【0017】
式Iは、化学原子価の理論と適合性がある化合物だけに及ぶ。ラジカルが、例えば1個または複数のO原子によって中断されているという指示は、これらの原子または基が、各場合、ラジカルの炭素鎖に挿入されることを意味すると理解されるべきである。したがって、これらの原子または基は、両側がC原子に隣接しており、末端にはあり得ない。Cラジカルは、中断されず、分岐でも環式でもあり得ない。また、芳香族炭化水素ラジカルとは、通常の命名法に対応して、芳香族基および非芳香族基を含有するラジカルを意味する。好ましい芳香族ラジカルは、例えば、ジフェニルプロパンラジカルである。
【0018】
X、YおよびZ基は、同一であっても異なっていてもよい。好ましくは、XおよびYは、同じ意味を有し、X、YおよびZが同一である化合物が、特に好ましい。
【0019】
変数は、好ましくは以下の意味:
が、1個または複数の、好ましくは1~3個のウレタン基、エステル基および/または酸素原子によって中断されていてよい、直鎖、分岐または環式脂肪族C~C20炭化水素ラジカルであり、
X、Y、Zが、各場合において互いに独立に、-COOR、芳香族C~C10炭化水素ラジカルまたは-CNであり、
が、1個または複数の、好ましくは1~3個の酸素原子によって中断されていてよい、直鎖、分岐または環式脂肪族C~C10炭化水素ラジカルであり、
mが、2または3である
という意味を有する。
【0020】
変数が、以下の意味:
が、1個または複数の、好ましくは1~3個の酸素原子によって中断されていてよく、好ましくは中断されていない、直鎖、分岐または環式脂肪族C~C12炭化水素ラジカル、好ましくは飽和、分岐または好ましくは直鎖C~C炭化水素ラジカルであり、
X、Y、Zが、各場合において互いに独立に、-COORまたはフェニル、好ましくは-COORであり、
が、直鎖または分岐C~C炭化水素ラジカル、好ましくはエチルであり、
mが、2または3、好ましくは2である
という意味を有する、式Iの化合物が特に好ましい。
【0021】
個々の変数について与えられる、好ましい、特に好ましい、および特に非常に好ましい定義は、各場合において互いに独立に選択することができる。すべての変数が、好ましい、特に好ましい、および特に非常に好ましい定義を有する化合物は、特に、本発明に従って必然的に適している。
【0022】
炭化水素ラジカルは、すべての場合、好ましくは飽和炭化水素ラジカルである。このことは、一般的定義と、式Iの好ましい化合物、とりわけ、また特に好ましい化合物との両方に適用される。
【0023】
環化重合可能な式Iの化合物は、公知でないが、類似の化合物と同様に調製することができる(Bourgeois, J.-P.; Echegoyen, L.; Fibbioli, M.; Pretsch, E.; Diederich, F., Angewandte Chemie International Edition 1998, 37 (15), 2118-2121およびGregg, Z. R.; Griffiths, J. R.; Diver, S. T., Organometallics 2018, 37 (10), 1526-1533を参照されたい)。第1のステップでは、多官能アルコールが、塩基条件下において酸塩化物でエステル化される。第2のステップでは、それが、脱プロトン化後に2-クロロメチルアルケンに基づくビニル供給源と反応する。
第1のステップ
【化6】
第2のステップ
【化7】
【0024】
具体例は、
【化8】
である。
【0025】
本発明による式Iの好ましい化合物は、
【化9-1】
【化9-2】
である。
【0026】
式Iaの特に好ましい化合物は、以下の物質である。
【化10】
【0027】
式Ibの好ましい化合物は、
【化11】
である。
【0028】
本発明による式Iの化合物は、4個または6個の重合可能な基を含有し、架橋特性を有する。それらの化合物は、ラジカル重合中の、環化重合可能な基の高い反応性によって特徴付けられ、従来の歯科用モノマー、特にジ(メタ)アクリレートと十分に共重合することができる。それらの化合物は反応性が高いので、例えば、公知の環化重合可能なN,N-二置換メタクリルアミドとは異なり、単独重合することもできる。本発明による式Iの化合物の単独重合および共重合中に、歯科適用に有利な良好な機械特性を有するポリマーネットワークが得られる。
【0029】
さらに、本発明による式Iの化合物は、環化重合の結果としての重合収縮応力の低減および低い重合収縮によって特徴付けられる。したがって、それらの化合物により、特に機械特性などの歯科目的に同様に必須の他の特性も損なうことなく、歯科適用にこれらの利点を利用することが可能になる。
【0030】
式Iの化合物は、歯科材料の調製に、例えば、コーティングまたはベニア材料、歯科用セメント、特に充填複合物の調製に、特に適している。それらの化合物は、その上、歯科用補綴、インレー、アンレー、クラウンまたはブリッジの生成または修復のための材料の調製にも適している。しかし、それらの化合物は、他の目的でのラジカル重合可能な材料および熱硬化性樹脂の調製にも適している。本発明による(歯科)材料は、材料の総質量に対して、好ましくは0.5~70wt.%、特に好ましくは1~60wt.%、特に非常に好ましくは3~50wt.%の式Iの少なくとも1つの化合物を含有する。
【0031】
本発明による式Iの化合物は、好ましくは、1つまたは複数の重合可能な単官能性または多官能性モノマー(コモノマー)と組み合わせて使用される。単官能性モノマーとは、1個のラジカル重合可能な基を有する化合物を意味し、多官能性モノマーとは、2個またはそれよりも多い、好ましくは2~4個のラジカル重合可能な基を有する化合物を意味する。好ましいコモノマーは、ラジカル重合可能なモノマーである。
【0032】
本発明によれば、ラジカル重合可能なコモノマーとして、少なくとも1つの単官能性または多官能性(メタ)アクリレートを含有する歯科材料が好ましい。口腔内で硬化するべき材料は、好ましくは、ラジカル重合可能なモノマーとして単官能性および/または多官能性メタクリレートを含有する。したがって、メタクリレートは、コモノマーとして特に好ましい。驚くべきことに、本発明による式Iの化合物は、従来の(メタ)アクリレートと十分に共重合できることが見出された。
【0033】
好ましい多官能性メタクリレートは、ジメタクリレート、特にビスフェノールAジメタクリレート、2,2-ビス[4-(2-ヒドロキシ-3-メタクリロイルオキシプロピル)フェニル]プロパン(ビス-GMA;メタクリル酸およびビスフェノールAジグリシジルエーテルの付加生成物)、エトキシ化またはプロポキシ化ビスフェノールAジメタクリレート、例えば、2-[4-(2-メタクリロイルオキシエトキシエトキシ)フェニル]-2-[4-(2-メタクリロイルオキシエトキシ)フェニル]プロパン)(SR-348c;3個のエトキシ基を含有する)、2,2-ビス[4-(2-メタクリロイルオキシプロポキシ)フェニル]プロパン、1,6-ビス-[2-メタクリロイルオキシ-エトキシカルボニルアミノ]-2,2,4-トリメチルヘキサン(UDMA;2-ヒドロキシエチルメタクリレートおよび2,2,4-トリメチルヘキサメチレン-1,6-ジイソシアネートの付加生成物)、ジ-、トリ-およびテトラエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、グリセロールジ-およびグリセロールトリメタクリレート、1,4-ブタンジオールジメタクリレート、1,10-デカンジオールジメタクリレート(DMA)、1,12-ドデカンジオールジメタクリレート、ビス(メタクリロイルオキシメチル)トリシクロ-[5.2.1.02,6]デカン(DCP)など、ならびにそれらの混合物である。特に好ましい多官能性メタクリレートは、ビス-GMA、SR-348c、UDMA、DMA、DCP、トリエチレングリコールジメタクリレート、およびそれらの混合物である。
【0034】
多官能性モノマー、特にメタクリレートは、材料の総質量に対して、好ましくは最大で70wt.%、特に好ましくは1.5~60wt.%、特に非常に好ましくは2~50wt.%の総量で使用される。
【0035】
本発明に従って好ましい単官能性モノマーは、モノメタクリレートである。特に好ましいモノメタクリレートは、ベンジルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、イソボルニルメタクリレート、p-クミル-フェノキシエチレングリコールメタクリレート(CMP-1E)、2-(2-ビフェニルオキシ)-エチルメタクリレートおよびそれらの混合物である。
【0036】
単官能性モノマー、特にメタクリレートは、材料の総質量に対して、好ましくは最大で10wt.%、特に好ましくは0~10wt.%、特に非常に好ましくは0~5wt.%の総量で使用される。
【0037】
さらにコモノマーとして、単官能性および多官能性アクリレートも適している。好ましい多官能性アクリレートは、エチレングリコールジアクリレート、ヘキサンジオールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジアクリレート、ポリエチレングリコール200ジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレートおよびそれらの混合物である。
【0038】
単官能性および多官能性アクリレートは、歯科材料の総質量に対して、好ましくは最大で50wt.%、好ましくは0~50wt.%、特に好ましくは0~30wt.%の総量で使用される。
【0039】
コモノマーの総量は、材料の総質量に対して、好ましくは最大で70wt.%、特に好ましくは1.5~60wt.%、特に非常に好ましくは2~50wt.%である。
【0040】
本発明による組成物は、好ましくは、ラジカル重合のため、例えばUV光、可視光による重合のための開始剤、熱開始剤および/または酸化還元開始剤を含有する。光開始剤が特に好ましく、可視光によって活性化される光開始剤が、特に非常に好ましい。
【0041】
ノリッシュI型開始剤、例えば、ベンジルジメチルケタール、ベンゾインエーテル、ヒドロキシフェニルケトン、ジアルコキシアセトフェノン、ベンゾイルシクロヘキサノール、トリメチルベンゾイルホスフィンオキシドおよびモルホリノフェニルアミノケトンなどが、UV光開始剤として好ましい。好ましいノリッシュII型UV開始剤は、例えば、ベンゾフェノンまたはチオキサントン誘導体と、Hドナー、例えばアルコールもしくはチオール、または電子供与体、例えばアミンとの混合物である。
【0042】
可視域について好ましい二分子光開始剤は、α-ジケトンおよびその誘導体、例えば9,10-フェナントレンキノン、1-フェニル-プロパン-1,2-ジオン、ジアセチルまたは4,4’-ジクロロベンジル、ならびにそれらの混合物である。カンファーキノン(CQ)および2,2-ジメトキシ-2-フェニル-アセトフェノンが、特に好ましく、α-ジケトンと還元剤としてのアミン、例えば、4-(ジメチルアミノ)-安息香酸エチルエステル(EDMAB)、N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N-ジメチル-sym.-キシリジンまたはトリエタノールアミンなどとの組合せが、特に非常に好ましい。可視域について好ましいノリッシュI型光開始剤は、ビスアシルホスフィンオキシドである。モノアシルトリアルキルゲルマニウム、ジアシルジアルキルゲルマニウムおよびテトラアシルゲルマニウム化合物、例えばベンゾイルトリメチルゲルマン、ジベンゾイルジエチルゲルマン、ビス(4-メトキシベンゾイル)ジエチルゲルマン(Ivocerin(登録商標))、テトラベンゾイルゲルマンまたはテトラキス(o-メチルベンゾイル)ゲルマンなどが、特に好ましい。
【0043】
さらに、様々な光開始剤の混合物、例えば、ビス(4-メトキシベンゾイル)ジエチルゲルマンまたはテトラキス(o-メチルベンゾイル)ゲルマンと、カンファーキノンおよび4-ジメチルアミノ安息香酸エチルエステルとの組合せなども、有利に使用することができる。
【0044】
好ましい熱開始剤は、アゾ化合物、例えば2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)(AIBN)、アゾビス-(4-シアノ吉草酸)など、またはペルオキシド、例えばジベンゾイルペルオキシド、ジラウロイルペルオキシド、tert-ブチルペルオクトエート、tert-ブチルペルベンゾエートもしくはジ-(tert-ブチル)ペルオキシドなどである。ペルオキシドを用いることによって開始を促進するために、ペルオキシドと芳香族アミンとの組合せを使用することもできる。好ましい組合せは、ジベンゾイルペルオキシドとアミン、好ましくは、p位で置換されているN,N-ジアルキル置換芳香族アミン、例えば、N,N-ジメチル-p-トルイジン、N,N-ジヒドロキシエチル-p-トルイジン、p-ジメチルアミノ安息香酸エチルエステルとの組合せである。
【0045】
光開始剤と熱開始剤、または好ましくは酸化還元開始剤との組合せは、二重硬化に適している。二重硬化に好ましい酸化還元開始剤は、ペルオキシドおよび還元剤、例えばアスコルビン酸、バルビツレートもしくはスルフィン酸などを含有するか、またはヒドロペルオキシドと還元剤および必要に応じて触媒量の金属イオンとの組合せ、例えばクメンヒドロペルオキシド、チオ尿素誘導体および銅(II)アセチルアセトネートの混合物などを含有する系である。
【0046】
本発明による組成物は、さらに有利には、1つまたは複数の有機または好ましくは無機フィラーを含有することができる。繊維状フィラー、特に微粒子フィラーが好ましい。フィラーを含有する組成物は、歯科用固定セメントまたは充填複合物として、特に適している。
【0047】
ガラス繊維、炭素繊維、セラミックおよびアラミド繊維、ならびにナノファイバーまたはウィスカーが、繊維状フィラーとして好ましい。繊維状フィラーは、特に、複合材料の調製に適している。ナノファイバーとは、100nm未満の長さの繊維を意味し、ウィスカーとは、好ましくは酸化アルミニウムまたは炭化ケイ素から作製された針状単結晶を意味する。ウィスカーは、典型的に、数μmの直径および1mmまでの長さを有する。
【0048】
好ましい微粒子フィラーは、オキシド、例えばSiO、ZrOおよびTiO、またはSiO、ZrO、ZnOおよび/もしくはTiOの混合オキシド、ナノ微粒子もしくはマイクロ微粒子フィラー、例えば発熱性シリカもしくは沈殿シリカ、ガラス粉末、例えば石英、ガラスセラミック、ボロシリケートもしくは放射線不透過性ガラス粉末、好ましくはバリウムもしくはストロンチウムアルミニウムシリケートガラス、ならびに放射線不透過性フィラー、例えば三フッ化イッテルビウム、酸化タンタル(V)、硫酸バリウム、またはSiOと酸化イッテルビウム(III)もしくは酸化タンタル(V)との混合オキシドである。
【0049】
好ましくは、オキシドは、0.010~15μmの粒径を有し、ナノ微粒子またはマイクロ微粒子フィラーは、10~300nmの粒径を有し、ガラス粉末は、0.01~15μm、好ましくは0.2~1.5μmの粒径を有し、放射線不透過性フィラーは、0.2~5μmの粒径を有する。
【0050】
特に好ましいフィラーは、10~300nmの粒径を有するSiOおよびZrOの混合オキシド、0.2~1.5μmの粒径を有するガラス粉末、特に、例えばバリウムまたはストロンチウムアルミニウムシリケートガラスの放射線不透過性ガラス粉末、ならびに0.2~5μmの粒径を有する放射線不透過性フィラー、特に三フッ化イッテルビウムおよび/またはSiOと酸化イッテルビウム(III)との混合オキシドである。
【0051】
別段指定されない限り、すべての粒径は、重量平均粒径(D50値)であり、0.1μm~1000μmの範囲の粒径の決定は、好ましくは、静的光散乱を用いることによって、例えばLA-960静的レーザー散乱粒径分析器(Horiba、日本)を使用して行われる。ここで、655nmの波長を用いるレーザーダイオードおよび405nmの波長を用いるLEDが、光源として使用される。異なる波長を有する2つの光源を使用することにより、被験物の粒径分布全体を、わずか1回の測定に通過させて測定することが可能になり、その測定は、湿式測定として行われる。この目的では、フィラーの0.1~0.5%水性分散液が調製され、その散乱光が、フローセル中で測定される。粒径および粒径分布を算出するためには、散乱光の分析が、Mie理論に従ってDIN/ISO13320により行われる。5nm~0.1μmの範囲の粒径の測定は、好ましくは水性粒子分散液の動的光散乱(DLS)によって、好ましくは633nmの波長を用いるHe-Neレーザーを使用して、散乱角度90°で25℃において、例えばMalvern Zetasizer Nano ZS(Malvern Instruments、Malvern UK)を使用して行われる。
【0052】
0.1μmよりも小さい粒径も、SEMまたはTEM顕微鏡写真を用いることによって決定することができる。透過型電子顕微鏡検査(TEM)は、好ましくは、Philips CM30 TEMを使用して、加速電圧300kVで行われる。被験物を調製するために、粒子分散液の液滴を、炭素でコーティングされている50Åの厚さの銅格子(メッシュサイズ300メッシュ)に適用し、次に溶媒を蒸発させる。粒子を計測し、算術平均を算出する。
【0053】
フィラーは、それらの粒径に従って、マクロフィラーおよびマイクロフィラーに分けられ、0.2~15μmの平均粒径を有するフィラーは、マクロフィラーと呼ばれ、およそ5~100nmの平均粒径を有するフィラーは、マイクロフィラーと呼ばれる。マクロフィラーは、例えば石英、放射線不透過性ガラス、ボロシリケートまたはセラミックを、例えば粉砕することによって得られ、通常、破片状の粒子からなる。混合オキシドなどのマイクロフィラーは、例えば、金属アルコキシドの加水分解性共縮合によって調製することができる。
【0054】
フィラー粒子と架橋重合マトリックスとの間の結合を改善するために、フィラーは、好ましくは表面修飾される。SiOベースのフィラーは、好ましくは、メタクリレート官能化シラン、特に好ましくは3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランで表面修飾される。例えばZrOまたはTiOの非シリケートフィラーの表面修飾では、官能化酸性ホスフェート、例えば、リン酸二水素10-メタクリロイルオキシデシルなどを使用することもできる。
【0055】
さらに、本発明による歯科材料は、1つまたは複数のさらなる添加剤、とりわけ、安定剤、着色剤、殺菌活性成分、フッ化物イオン放出添加剤、噴射剤、光学的増白剤、可塑剤および/またはUV吸収剤を含有することができる。
【0056】
本発明による材料は、好ましくは、
a)0.5~70wt.%、好ましくは1~60wt.%、特に好ましくは3~50wt.%の式Iの少なくとも1つの化合物、
b)0.01~5wt.%、好ましくは0.1~3.0wt.%、特に好ましくは0.1~1.0wt.%の少なくとも1つのラジカル重合のための開始剤、好ましくは光開始剤、
c)1~70wt.%、好ましくは1.5~60wt.%、特に好ましくは2~50wt.%の少なくとも1つのラジカル重合可能なコモノマー、
d)0~85wt.%の少なくとも1つのフィラー
を含む。
【0057】
本明細書に特定されるすべての量は、別段指定されない限り、組成物の総質量に対する量である。
【0058】
充填レベルは、材料の所望の適用に応じて変わる。充填複合物は、好ましくは50~85wt.%、特に好ましくは70~80wt.%のフィラー含量を有し、歯科用セメントは、10~70wt.%、特に好ましくは60~70wt.%のフィラー含量を有する。
【0059】
名前が挙げられている構成成分からなる歯科材料が特に好ましく、個々の構成成分は、好ましくは各場合、前述の名前が挙げられている好ましい物質および特に好ましい物質から選択される。
【0060】
本発明による組成物は、特に、歯科材料として、特に歯科用セメント、充填複合物およびベニア材料として適しており、補綴、人工歯、インレー、アンレー、クラウンおよびブリッジを生成するための材料としても適している。その組成物は、主に歯科医が、損傷した歯を修復するために口腔内適用するのに適しており、すなわち治療適用のために、例えば歯科用セメント、充填複合物およびベニア材料として適している。しかしその組成物は、非治療的に(口腔外で)、例えば歯科修復物、例えば補綴、人工歯、インレー、アンレー、クラウンおよびブリッジの生成または修復において使用することもできる。
【0061】
本発明による組成物は、歯科用の成形体の生成にさらに適しているが、非歯科目的にも適しており、その成形体は、例えば、キャスティング、圧縮成型を用いることによって、特に3D印刷などの追加過程によって生成することができる。
【0062】
本発明の別の主題は、ラジカル重合可能な材料、好ましくは医療用材料、特に歯科材料の調製のための、式Iによる化合物の使用である。
【0063】
本発明を、実施形態の例を参照しながら、以下により詳細に説明する。
【実施例
【0064】
実施形態の例
(実施例1)
2,2’,4,4’,6,6’-ヘキサエチル-O’4,O4-(ヘキサン-1,6-ジイル)ビス(ヘプタ-1,6-ジエン-2,4,4,6-テトラカルボキシレート)(1)の合成
【化12】
第1の段階:ジエチル-O,O’-(ヘキサン-1,6-ジイル)ジマロネート(ZP-1)の合成
【化13】
【0065】
1,6-ヘキサンジオール(42.3mmol、5.00g)を、乾燥ジクロロメタン(DCM、150ml)に溶解させ、装置をアルゴンでフラッシュした。溶液を氷水で冷却し、その後、最初にピリジン(105.8mmol、8.37g)を添加し、次にエチルマロニルクロリド(105.8mmol、15.93g)を添加した。溶液を室温で4時間撹拌し、その後、1NのHCl(150ml)でクエンチした。水相を、DCM(150ml)で3回抽出し、合わせた有機相を飽和NaHCO溶液(150ml)で洗浄し、無水NaSO上で乾燥させた。溶媒を留去し、有色の粗製生成物を、シリカゲル(溶離剤PE:EA 4:1)で濾過し、したがって、純粋な生成物ZP1を、無色の油状物として12.35gの収量(理論収率84%)で得た。
【0066】
H-NMR: (400 MHz, CDCl) δ (ppm): 4.10 (8H, m, O-CH-), 3.29 (4H, s, C-CH-C), 1.59 (4H, m, CH), 1.32 (4H, m, CH), 1.28 (6H, m, -CH).
【0067】
第2の段階:2,2’,4,4’,6,6’-ヘキサエチル-O’4,O4-(ヘキサン-1,6-ジイル)ビス(ヘプタ-1,6-ジエン-2,4,4,6-テトラカルボキシレート)(1)の合成
水素化ナトリウム(鉱油中60wt.%懸濁液、178.3mmol、4.28g)を、三つ口フラスコに入れ、装置をアルゴンでフラッシュした。乾燥テトラヒドロフラン(THF)(100ml)を添加し、反応溶液を氷浴で冷却した。段階1からのZP1(35.7mmol、12.35g)を、ゆっくり滴下添加し、反応溶液を室温で2時間撹拌した。エチルクロロメチルアクリレート(146.2mmol、21.72g)を添加した後、それを一晩撹拌し、次に飽和NHCl溶液(100ml)でクエンチした。水相を、ジエチルエーテル(100ml)で3回抽出し、合わせた有機相を無水硫酸ナトリウム上で乾燥させた。溶媒を蒸発させた後、粗製生成物を、カラムクロマトグラフィー(PE:EA 4:1)を用いることによって精製し、純粋な生成物を、粘性の液体として、21.95gの収量(理論収率77%)で得た。
【0068】
H-NMR: (400 MHz, CDCl) δ (ppm): 6.25 (4H, s, C=CH), 5.68 (4H, s, C=CH), 4.22-3.96 (16H, m, O-CH-), 2.95 (8H, s, C-CH-C), 1.57 (4H, m), 1.26 (22H, m).
13C-NMR: (100 MHz, CDCl) δ (ppm): 170.5 (C=O), 170.4 (C=O), 167.1 (C=O), 136.3 (C4), 128.7 (C2), 65.4 (C2), 61.5 (C2), 61.0 (C2), 57.6 (C4), 34.9 (C2), 28.4 (C2), 25.6 (C2), 14.3 (C1), 14.0 (C1).
【0069】
(実施例2)(比較例)
ジエチル-2,2’-(オキシビス(メチレン))ジアクリレート(2)の合成
【化14】
化合物2の合成を、Tsuda et al., Polymer, 35 (1994), 3317-3328に基づいて行った。
【0070】
エチルアクリレート(149.8mmol、15.0g)、パラホルムアルデヒド(149.8mmol、4.5g)および1,4-ジアザビシクロ(2.2.2)オクタン(1g)を、三つ口フラスコに入れ、この溶液を95℃で3日間撹拌した。溶液を冷却した後、石油エーテル200mlを添加し、溶液を3%HCl 100mlで3回洗浄し、水100mlで1回洗浄した。有機相を無水硫酸ナトリウム上で乾燥させ、溶媒を除去した。粗製生成物を、カラムクロマトグラフィーを用いることによって精製し、無色の油状物として11.7gの収量(理論収率65%)で得た。
【0071】
H-NMR: (400 MHz, CDCl) δ (ppm): 6.30 (2H, s, C=CH), 5.88 (2H, s, C=CH), 4.31-4.13 (8H, m, O-CH-), 1.29 (6H, t).
13C-NMR: (100 MHz, CDCl) δ (ppm): 165.9 (C=O), 137.4 (C4, 125.7 (C2), 69.0 (C2), 60.9 (C2), 14.3 (C1).
【0072】
(実施例3)
2,2’,4,4’,6,6’-ヘキサエチル-O’,O-{[(プロパン-2,2-ジイルビス(4,1-フェニレン))ビスオキシ]ビス-(プロパン-1,2-ジイル)}-ビス(ヘプタ-1,6-ジエン-2,4,4,6-テトラカルボキシレート)、異性体混合物(3)
【化15】
第1の段階:O,O’-{[(プロパン-2,2-ジイルビス-4,1-フェニレン)-ビスオキシ]ビス(プロパン-1,2-ジイル)}-ジマロン酸ジエチルエステル、異性体混合物(ZP-2)
【化16】
【0073】
ピリジン(9.89g、0.125mol)およびその後、氷冷を伴って、エチルマロニルクロリド(18.82g、0.125mol)を、1,1’-{[プロパン-2,2-ジイルビス(4,1-フェニレン)]ビス(オキシ)}ビス(プロパン-2-オール)(異性体混合物、17.22g、50.0mmol)のDCM(100ml)溶液に滴下添加し、反応混合物を周囲温度で撹拌した。4時間後、塩酸(1N、100ml)を添加し、相を分離した。水相を、DCM(3×50ml)で抽出した。合わせた有機相を、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(100ml)および飽和塩化ナトリウム水溶液(100ml)で洗浄し、無水硫酸ナトリウム上で乾燥させ、濾過し、ロータリーエバポレーターで濃縮した。カラムクロマトグラフィー(SiO、n-ヘプタン/酢酸エチル3:1)を用いることによって粗製生成物を精製した後、黄色がかった油状物21.30g(37.2mmol、理論収率74%)を得た。
【0074】
H-NMR (CDCl, 400 MHz): δ (主な異性体) = 7.12 (4H, m; Ar-H), 6.79 (4H, m; Ar-H), 5.29 (2H, m; O-CH), 4.18 (4H, m; O-CH), 3.98 (4H, m; O-CH), 3.36 (4H, s; CH), 1.62 (6H, s; CH), 1.37 (6H, d; CH-C 3; J = 6.5 Hz), 1.25 (6H, t; CH; J = 7.1 Hz).
13C-NMR (CDCl, 100.6 MHz): δ (主な異性体) = 166.3 (C=O), 166.0 (C=O), 156.2 (Ar-C), 143.4 (Ar-C), 127.6 (Ar-CH), 113.8 (Ar-CH), 70.0 (O-CH), 69.6 (O-CH), 61.4 (O-CH), 41.6 (CH), 41.5 (C), 30.9 (CH), 16.4 (CH), 13.9 (CH).
【0075】
第2の段階:2,2’,4,4’,6,6’-ヘキサエチルO’,O-{[(プロパン-2,2-ジイルビス(4,1-フェニレン))ビスオキシ]ビス-(プロパン-1,2-ジイル)}-ビス(ヘプタ-1,6-ジエン-2,4,4,6-テトラカルボキシレート)、異性体混合物(3)
ZP-2(21.05g、36.8mmol)のTHF(50ml)溶液を、THF(100ml)中水素化ナトリウム(4.42g、0.184mol)の懸濁液に0℃で滴下添加し、反応混合物を周囲温度で撹拌した。3時間後、2-クロロメチルアクリル酸エチルエステル(22.39g、0.151mol)のTHF(50ml)溶液を、氷冷を伴って滴下添加した。反応混合物を周囲温度で24時間撹拌し、次に飽和塩化アンモニウム水溶液(100ml)を滴下添加した。水(100ml)および酢酸エチル(250ml)を添加し、相を分離した。水相を、酢酸エチル(2×80ml)で抽出した。合わせた有機相を、飽和塩化ナトリウム水溶液(2×80ml)で洗浄し、無水硫酸ナトリウム上で乾燥させ、濾過した。濾液をロータリーエバポレーターで濃縮した。カラムクロマトグラフィー(SiO、n-ヘプタン/酢酸エチル3:1)を用いることによって粗製生成物を精製した後、高粘性の無色の油状物30.82g(30.2mmol、理論収率82%)を得た。
【0076】
H-NMR (CDCl, 400 MHz): δ (主な異性体) = 7.11 (4H, m; Ar-H), 6.77 (4H, m; Ar-H), 6.27 (4H, m; =CH), 5.74 (4H, m; =CH), 5.20 (2H, m; O-CH), 4.15 (8H, m; O-CH), 4.11 - 3.88 (8H, m; O-CH), 3.07 - 2.91 (8H, m; CH), 1.62 (6H, s; CH), 1.34 (6H, d; CH-C 3; J = 6.5 Hz), 1.28 (6H, t; CH; J = 7.1 Hz), 1.18 (6H, t; CH; J = 7.1 Hz).
13C-NMR (CDCl, 100.6 MHz): δ (主な異性体) = 170.1 (C=O), 169.7 (C=O), 166.9 (C=O), 156.2 (Ar-C), 143.3 (Ar-C), 136.0 (=C), 135.8 (=C), 128.6 (=CH), 128.3 (=CH), 127.6 (Ar-CH), 113.7 (Ar-CH), 70.1 (O-CH), 69.3 (O-CH), 61.3 (O-CH), 60.8 (O-CH), 60.7 (O-CH), 57.4 (C), 41.5 (C), 34.3 (CH), 34.1 (CH), 30.9 (CH), 16.2 (CH), 14.0 (CH), 13.7 (CH).
【0077】
(実施例4)
2,2’,4,4’,6,6’-ヘキサエチル-O’,O-[(オクタヒドロ-1H-4,7-メタノインデン-2,5-ジイル)ビス(メチレン)]-ビス(ヘプタ-1,6-ジエン-2,4,4,6-テトラカルボキシレート)、異性体混合物(4)
【化17】
第1の段階:O,O’-[(オクタヒドロ-1H-4,7-メタノインデン-2,5-ジイル)ビス(メチレン)]-ジマロン酸ジエチルエステル、異性体混合物(ZP-3)
【化18】
ピリジン(9.89g、0.125mol)およびその後、氷冷を伴って、エチルマロニルクロリド(18.82g、0.125mol)を、4,8-ビス(ヒドロキシメチル)トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン、異性体混合物(9.81g、50.0mmol)のDCM(100ml)溶液に滴下添加し、反応混合物を周囲温度で撹拌した。4時間後、塩酸(1N、100ml)を添加し、相を分離した。水相を、ジクロロメタン(3×50ml)で抽出した。合わせた有機相を、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(100ml)および飽和塩化ナトリウム水溶液(100ml)で洗浄し、無水硫酸ナトリウム上で乾燥させ、濾過し、ロータリーエバポレーターで濃縮した。カラムクロマトグラフィー(SiO、n-ヘプタン/酢酸エチル1:1)を用いることによって粗製生成物を精製した後、黄色がかった油状物20.75g(48.9mmol、理論収率98%)を得た。
【0078】
H-NMR (CDCl, 400 MHz): δ = 4.25 - 4.16 (4H, m; O-CH), 4.04 - 3.87 (4H, m; O-CH), 3.40 - 3.34 (4H, m; CH), 2.56 - 1.32 (14H, m), 1.29 (6H, t; CH; J = 7.2 Hz).
13C-NMR (CDCl, 100.6 MHz): δ = 166.5 (C=O), 166.4 (C=O), 166.3 (C=O), 69.6 (O-CH), 69.0 (O-CH), 68.6 (O-CH), 68.6 (O-CH), 61.3 (O-CH), 49.1 (CH), 48.6 (CH), 45.3 (CH), 44.7 (CH), 44.6 (CH), 44.3 (CH), 43.5 (CH), 42.8 (CH), 42.5 (CH), 41.5 (CH), 41.3 (CH), 40.8 (CH), 40.5 (CH), 40.2 (CH), 40.0 (C), 39.2 (CH), 38.5 (CH), 37.9 (CH), 33.9 (CH), 33.8 (CH), 33.0 (CH), 32.3 (CH), 32.1 (CH), 30.5 (CH), 30.1 (CH), 27.9 (CH), 27.5 (CH), 25.0 (CH), 24.2 (CH), 13.9 (CH).
【0079】
第2の段階:2,2’,4,4’,6,6’-ヘキサエチル-O’,O-[(オクタヒドロ-1H-4,7-メタノインデン-2,5-ジイル)ビス(メチレン)]-ビス(ヘプタ-1,6-ジエン-2,4,4,6-テトラカルボキシレート)、異性体混合物(4)
ZP-3、異性体混合物(20.45g、48.2mmol)のTHF(50ml)溶液を、テトラヒドロフラン(100ml)中水素化ナトリウム(5.78g、0.241mol)の懸濁液に0℃で滴下添加し、反応混合物を周囲温度で撹拌した。3時間後、2-クロロメチルアクリル酸エチルエステル(29.35g、0.198mol)のTHF(50ml)溶液を、氷冷を伴って滴下添加した。反応混合物を周囲温度で24時間撹拌し、次に飽和塩化アンモニウム水溶液(100ml)を滴下添加した。水(100ml)および酢酸エチル(250ml)を添加し、相を分離した。水相を酢酸エチル(2×80ml)で抽出した。合わせた有機相を、飽和塩化ナトリウム水溶液(2×80ml)で洗浄し、無水硫酸ナトリウム上で乾燥させ、濾過した。濾液をロータリーエバポレーターで濃縮した。カラムクロマトグラフィー(SiO、n-ヘプタン/酢酸エチル3:1)を用いることによって粗製生成物を精製した後、高粘性の黄色がかった油状物30.30g(34.7mmol、理論収率72%)を得た。
【0080】
H-NMR (CDCl, 400 MHz): δ = 6.31 - 6.19 (4H, m; =CH), 5.74 - 5.61 (4H, m; =CH), 4.23 - 4.07 (12H, m; O-CH), 3.91 - 3.73 (4H, m; O-CH), 3.04 - 2.82 (8H, m; CH), 2.56 - 1.34 (14H, m), 1.33 - 1.21 (18H, m; CH).
13C-NMR (CDCl, 100.6 MHz): δ = 170.3 (C=O), 170.2 (C=O), 170.1 (C=O), 168.7 (C=O), 168.6 (C=O), 166.8 (C=O), 166.1 (C=O), 136.6 (=C), 136.0 (=C), 135.9 (=C), 128.4 (=CH), 127.5 (=CH), 69.1 (O-CH), 68.9 (O-CH), 68.6 (O-CH), 68.5 (O-CH), 61.3 (O-CH), 60.7 (O-CH), 57.3 (C), 50.8 (CH), 50.7 (CH), 48.8 (CH), 45.4 (CH), 44.7 (CH), 44.4 (CH), 43.5 (CH), 42.9 (CH), 42.8 (CH), 41.2 (CH), 40.9 (CH), 40.8 (CH), 40.2 (CH), 40.1 (CH), 39.2 (CH), 38.3 (CH), 38.0 (CH), 34.7 (CH), 34.6 (CH), 33.8 (CH), 33.6 (CH), 32.9 (CH), 32.4 (CH), 31.3 (CH), 30.5 (CH), 27.9 (CH), 27.4 (CH), 24.3 (CH), 14.0 (CH), 13.9 (CH), 13.8 (CH).
【0081】
(実施例5)
光重合および体積縮みの決定
実施例1からの本発明によるモノマー1(実施例5、B1)の重合中の体積縮み(重合収縮)ΔVを、重合前および重合後に密度測定を用いることによって測定し、商業的に入手可能な参照モノマー1,10-デカンジオールジメタクリレート(DMA、CAS:6701-13-9)(実施例5:比較例V1)と比較した。DMAは、重合可能な基の間にアルキレンスペーサーを同様に有しており、原子間距離が同じ1であるため、参照として使用した。さらに、既に公知の(US5,145,374を参照されたい)、実施例2からの環化重合可能なモノマー2を、参照モノマーとして使用した(実施例5:比較例V2)。モノマーの密度は、1mlの比重瓶を用いることによって決定し、一方、硬化したポリマーの密度は、アルキメデスの原理を用いることによって決定した。光開始剤としての1mol%のBMDG(ビス(4-メトキシベンゾイル)-ジエチルゲルマニウム)をモノマーに添加し、それをシリコーン型(15×10×4mm)に注ぎ、各場合、片側ごとに10分間、光加熱炉(Lumamat 100モデル、Ivoclar AG、400~500nm、20mWcm-2)を使用して硬化させた。
表1:本発明によるモノマー1、ならびに比較化合物D3MAaおよびモノマー2の重合収縮ΔV
【表1】
【0082】
表1の結果は、本発明によるモノマー1が、驚くべきことに、類似のジメタクリレートモノマーDMAおよび現況技術から公知の環化重合可能なモノマー2よりもかなり低い重合収縮を示し、したがって、可能な限りそれらの形状を維持するべき寸法的に正確な適用に対して、明確な利点となることを証明している。
【0083】
(実施例6)
RT-NIRフォトレオメトリー(photorheometry)を用いることによる反応性測定
本発明によるモノマー1の光反応性、およびとりわけ重合誘発性収縮力を研究するために、実施例5からの調製した配合物B1、V1およびV2を、変換をモニタリングするためのBruker Vertex 80 IR分光計に接続した、Anton PaarのMCR302 WESPリアルタイム近赤外(RT-NIR)フォトレオメーターを使用して測定した。PP-25測定系を使用し、測定ギャップを0.2mmに設定した。硬化前および硬化中(被験物表面上に10mW・cm-2、400~500nm、Omnicure 2000)、被験物の貯蔵弾性率および損失弾性率を、振動モードで測定した(1%偏向、1Hz)。同時に、被験物のIRスペクトルを、約4Hzの周波数での測定中に記録した。ゲル点(貯蔵弾性率および損失弾性率の交差)への到達および最終的な二重結合変換の95%に到達するまでにかかる時間(t95%)を、光反応性の尺度として使用した。さらに、ゲル点における変換(DBC)、全変換(DBC)および光重合誘発性収縮応力(F)を決定した。得られた結果を、表2にまとめる。
表2:モノマー1、ならびに参照モノマー2およびD3MAを用いる反応性測定の結果
【表2】
【0084】
モノマーのゲル点が考慮される場合、モノマー1は、参照化合物であるDMAおよびモノマー2よりもかなり急速な4.1秒でゲル点に到達することが分かる。このことは、モノマー1の高い反応性を実証している。それに対して、ゲル点における変換は、DMAおよびモノマー1の場合には、同様に12~13%と低い。環化重合可能な参照モノマー2は、ゲル点においてかなり高い変換(23%)を示しているが、これは、部分的な環化重合、したがって架橋の欠如によって説明することができる。最終的な変換は、モノマー1、ならびに比較化合物2およびDMAの両方の場合においておよそ約80%で変わるが、DMAは、それよりもわずかに高いDBCに到達する。このことは、長いアルキレン鎖のより高い可撓性に起因しているはずであり、一方、モノマー1およびある程度までは参照化合物2も、重合中に剛性環構造を形成し、したがって、特に重合の開始時には明らかに有利である。本発明によるモノマー1の場合、重合中に生じる収縮力は、-21Nで、-36Nにおける参照物質DMAの場合の3分の1未満である。これは、従来のジメタクリレートと比較して、モノマー1に明らかな利点があることを示している。結果は、驚くべきことに、同様に環化重合可能な比較モノマー2も非常に高い収縮力を有していることを示しており、それによって、本発明による化合物1は、公知の比較化合物と比較して実質的な利点を有することが明らかになる。
【0085】
(実施例7)
モノマー1とジメタクリレートコモノマーとの共重合
本発明によるモノマー1の共重合能を実証するために、各場合、塩基性樹脂配合物(商業的に入手可能なジメタクリレートウレタンジメタクリレート(UDMA、異性体混合物、CAS:72869-86-4)および1,10-デカンジオールジメタクリレート(DMA)の等モル混合物)の1つの構成成分を、等モル量のモノマー1または参照モノマー2によって置き換え、反応性および生じる収縮力を、RT-NIRフォトレオメトリーを用いることによって研究した。各場合、1mol%のBMDG(ビス(4-メトキシベンゾイル)-ジエチルゲルマニウム)を、光開始剤として混合物に添加し、RT-NIRフォトレオメトリー測定を、実施例6と同様に行った。
表3:コポリマーの反応性測定の結果
【表3】
【0086】
表3の結果は、モノマー1と、低粘度のDMAおよび粘性UDMAの両方との良好な共重合を証明している。DMAとの共重合は、1.7秒後にゲル点をもたらすが、参照モノマー2とDMAとの共重合(9.3秒)よりもかなり速い。UDMAとの共重合のゲル化は、モノマー1および2の場合には同じ範囲内であるが、モノマー2のゲル化の方が0.6秒速い。5つすべての配合物の場合において、最終的な変換(約80%)およびt95%(約90秒)は、共に同じ範囲内にある。生じる収縮力を考慮する場合、再び、モノマー1の利点が大きいことが分かる。参照混合物V3は-32Nの収縮力を有するが、一方、DMAをモノマー1で置換すると、収縮力はわずか-23Nになる。それに対して、参照モノマー2を使用すると、UDMAとの共重合の場合、収縮力は低減せず、DMAとの共重合の場合には、-42Nへの収縮力の増大も観察される。したがって、モノマー1とジメタクリレートとの共重合は、反応性はほとんど低減しないが、収縮力が著しく低減するという利点を示すことを実証できた。環化重合可能なモノマーとしての参照モノマー2は、ジメタクリレートとの高い反応性を同様に示したが、生じる収縮力が増大し、したがって、モノマー1と比較して明らかに不利である。
例えば、本発明は以下を提供する。
(項目1)
式I
【化19】
の少なくとも1つの化合物を含む、歯科材料
[式中、
は、m価の直鎖、分岐もしくは環式脂肪族C~C30炭化水素ラジカル、または芳香族C~C30炭化水素ラジカルであり、前記脂肪族または芳香族炭化水素ラジカルは、置換または非置換であってよく、脂肪族炭化水素ラジカルは、1個または複数のウレタン基、エステル基、酸素原子および/または硫黄原子によって中断されていてよく、
X、Y、Zは、各場合において互いに独立に、-COOR、-CON(R)、芳香族C~C10炭化水素ラジカルまたは-CNであり、
、R、Rは、各場合において互いに独立に、水素、直鎖、分岐もしくは環式脂肪族C~C30炭化水素ラジカル、または芳香族C~C30炭化水素ラジカルであり、前記脂肪族または芳香族炭化水素ラジカルは、置換または非置換であってよく、脂肪族炭化水素ラジカルは、1個または複数の酸素原子によって中断されていてよく、
mは、2または3である]。
(項目2)
変数が、以下の意味:
が、1個または複数の、好ましくは1~3個のウレタン基、エステル基および/または酸素原子によって中断されていてよい、直鎖、分岐または環式脂肪族C~C20炭化水素ラジカルであり、
X、Y、Zが、各場合において互いに独立に、-COOR、芳香族C~C10炭化水素ラジカルまたは-CNであり、
が、1個または複数の、好ましくは1~3個の酸素原子によって中断されていてよい、直鎖、分岐または環式脂肪族C~C10炭化水素ラジカルであり、
mが、2または3である
という意味を有する、項目1に記載の歯科材料。
(項目3)
変数が、以下の意味:
が、1個または複数の、好ましくは1~3個の酸素原子によって中断されていてよく、好ましくは中断されていない、直鎖、分岐または環式脂肪族C~C12炭化水素ラジカル、好ましくは飽和、分岐または好ましくは直鎖C~C炭化水素ラジカルであり、
X、Y、Zが、各場合において互いに独立に、-COORまたはフェニル、好ましくは-COORであり、
が、直鎖または分岐C~C炭化水素ラジカル、好ましくはエチルであり、
mが、2または3、好ましくは2である
という意味を有する、項目1に記載の歯科材料。
(項目4)
少なくとも1つのさらなる重合可能なモノマー、好ましくは少なくとも1つのラジカル重合可能な単官能性または多官能性(メタ)アクリレート、特に好ましくはメタクリレートをさらに含む、項目1から3のいずれか一項に記載の歯科材料。
(項目5)
さらなるモノマーとして、1つまたは複数の多官能性モノマー、好ましくはビスフェノールAジメタクリレート、2,2-ビス[4-(2-ヒドロキシ-3-メタクリロイルオキシプロピル)フェニル]プロパン(ビス-GMA)、エトキシ化もしくはプロポキシ化ビスフェノールAジメタクリレート、好ましくは2-[4-(2-メタクリロイルオキシエトキシエトキシ)フェニル]-2-[4-(2-メタクリロイルオキシエトキシ)フェニル]プロパン)(SR-348c;3個のエトキシ基を含有する)、2,2-ビス[4-(2-メタクリロイルオキシプロポキシ)フェニル]プロパン、1,6-ビス-[2-メタクリロイルオキシ-エトキシカルボニルアミノ]-2,2,4-トリメチルヘキサン(UDMA)、ジ-、トリ-もしくはテトラエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、グリセロールジ-もしくはグリセロールトリメタクリレート、1,4-ブタンジオールジメタクリレート、1,10-デカンジオールジメタクリレート(DMA)、1,12-ドデカンジオールジメタクリレート、ビス(メタクリロイルオキシメチル)トリシクロ-[5.2.1.02,6]デカン(DCP)、またはそれらの混合物を含む、項目4に記載の歯科材料。
(項目6)
さらなるモノマーとして、1つまたは複数の単官能性モノマー、好ましくは1つまたは複数のモノメタクリレート、特に好ましくはベンジルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、イソボルニルメタクリレート、p-クミル-フェノキシエチレングリコールメタクリレート(CMP-1E)、2-(2-ビフェニルオキシ)-エチルメタクリレート、またはそれらの混合物を含む、項目4または5に記載の歯科材料。
(項目7)
各場合、前記材料の総質量に対して、
0.5~70wt.%、好ましくは1~60wt.%、特に好ましくは3~50wt.%の式Iの少なくとも1つの化合物、および/または
合計で最大70wt.%、好ましくは1.5~60wt.%、特に好ましくは2~50wt.%の多官能性コモノマー、好ましくはメタクリレート、および/または
合計で最大10wt.%、好ましくは0~10wt.%、特に好ましくは0~5wt.%の単官能性コモノマー、好ましくはメタクリレート
を含む、項目4から6のいずれか一項に記載の歯科材料。
(項目8)
さらなるモノマーとして、1つまたは複数の多官能性アクリレート、好ましくはエチレングリコールジアクリレート、ヘキサンジオールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジアクリレート、ポリエチレングリコール200ジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、またはそれらの混合物を含む、項目4から7のいずれか一項に記載の歯科材料。
(項目9)
UV光、可視光によるラジカル重合のための少なくとも1つの開始剤、熱開始剤および/または酸化還元開始剤をさらに含む、項目1から8の一項に記載の歯科材料。
(項目10)
少なくとも1つの無機フィラーをさらに含む、項目1から9のいずれか一項に記載の歯科材料。
(項目11)
各場合、前記材料の総質量に対して、
a)0.5~70wt.%、好ましくは1~60wt.%、特に好ましくは3~50wt.%の式Iの少なくとも1つの化合物、
b)0.01~5wt.%、好ましくは0.1~3.0wt.%、特に好ましくは0.1~1.0wt.%の少なくとも1つの開始剤、特に光開始剤、
c)1~70wt.%、好ましくは1.5~60wt.%、特に好ましくは2~50wt.%の少なくとも1つのラジカル重合可能なコモノマー、
d)0~85wt.%の少なくとも1つのフィラー
を含む、項目4から10のいずれか一項に記載の歯科材料。
(項目12)
50~85wt.%、特に好ましくは70~80wt.%、または10~70wt.%、特に好ましくは60~70wt.%のフィラーを含む、項目11に記載の歯科材料。
(項目13)
歯科用セメント、充填複合物、コーティングまたはベニア材料としての治療的な使用のための、項目1から12のいずれか一項に記載の歯科材料。
(項目14)
歯科用補綴、インレー、アンレー、クラウンまたはブリッジの生成または修復のための、項目1から12のいずれか一項に記載の歯科材料の、非治療的な使用。
(項目15)
医療用材料の調製のための、項目1に記載の式Iによる化合物の使用。