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特許7526701コンプレッサケーシング、過給機及び過給機の運転方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-24
(45)【発行日】2024-08-01
(54)【発明の名称】コンプレッサケーシング、過給機及び過給機の運転方法
(51)【国際特許分類】
   F02B 37/10 20060101AFI20240725BHJP
   F04D 29/44 20060101ALI20240725BHJP
   F02B 39/00 20060101ALI20240725BHJP
【FI】
F02B37/10 A
F04D29/44 P
F02B39/00 G
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021050932
(22)【出願日】2021-03-25
(65)【公開番号】P2022149016
(43)【公開日】2022-10-06
【審査請求日】2023-11-20
(73)【特許権者】
【識別番号】518131296
【氏名又は名称】三菱重工マリンマシナリ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】川嶋 光将
(72)【発明者】
【氏名】西村 英高
(72)【発明者】
【氏名】平谷 文人
【審査官】津田 真吾
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2008/0133110(US,A1)
【文献】米国特許第9567942(US,B1)
【文献】米国特許出願公開第2005/0022526(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0150698(US,A1)
【文献】米国特許第3887295(US,A)
【文献】特開昭55-35173(JP,A)
【文献】特開平6-108991(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 37/00
F02B 39/00
F04D 29/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
過給機のコンプレッサインペラを収容するコンプレッサケーシングであって、
前記コンプレッサインペラのインペラ翼に向けて圧縮ガスを噴射するための複数の噴射穴を備え、
前記複数の噴射穴は、
少なくとも1つの第1噴射穴と、
前記コンプレッサインペラの軸方向において前記第1噴射穴の出口とは異なる位置に出口を有する少なくとも1つの第2噴射穴と、を含み、
前記コンプレッサケーシングは、
前記少なくとも1つの第1噴射穴からの前記圧縮ガスの噴射を制御するための少なくとも1つの第1バルブと、前記少なくとも1つの第2噴射穴からの前記圧縮ガスの噴射を制御するための少なくとも1つの第2バルブとを更に備える、コンプレッサケーシング。
【請求項2】
過給機のコンプレッサインペラを収容するコンプレッサケーシングであって、
前記コンプレッサインペラのインペラ翼に向けて圧縮ガスを噴射するための複数の噴射穴を備え、
前記複数の噴射穴は、
少なくとも1つの第1噴射穴と、
前記コンプレッサインペラの軸方向において前記第1噴射穴の出口とは異なる位置に出口を有する少なくとも1つの第2噴射穴と、を含み、
前記コンプレッサケーシングは、
前記第1噴射穴と前記第2噴射穴のうち一方を塞ぐ塞ぎ部材を更に備える、コンプレッサケーシング。
【請求項3】
過給機のコンプレッサインペラを収容するコンプレッサケーシングであって、
前記コンプレッサインペラのインペラ翼に向けて圧縮ガスを噴射するための複数の噴射穴を備え、
前記複数の噴射穴は、
少なくとも1つの第1噴射穴と、
前記コンプレッサインペラの軸方向において前記第1噴射穴の出口とは異なる位置に出口を有する少なくとも1つの第2噴射穴と、を含み、
前記少なくとも1つの第1噴射穴は、周方向に間隔を空けて配置された複数の第1噴射穴を含み、
前記複数の第1噴射穴の出口は、周方向に不均等な間隔を有する、コンプレッサケーシング。
【請求項4】
前記複数の噴射穴は、前記インペラ翼の翼面に垂直な方向に沿って前記インペラ翼に圧縮ガスを噴射するように形成された、請求項1~3の何れか1項に記載のコンプレッサケーシング。
【請求項5】
請求項に記載のコンプレッサケーシングと、
前記過給機及びエンジンの少なくとも一方の運転状態に応じて前記少なくとも1つの第1バルブ及び前記少なくとも1つの第2バルブを制御するように構成されたバルブ制御装置と、
を備える、過給機。
【請求項6】
前記第2噴射穴の出口は前記第1噴射穴の出口よりも前記軸方向における下流側に位置し、
前記バルブ制御装置は、前記第1噴射穴から前記コンプレッサインペラの前記インペラ翼に向けて圧縮ガスを噴射する第1噴射穴噴射モードと、前記第2噴射穴から前記コンプレッサインペラの前記インペラ翼に向けて圧縮ガスを噴射する第2噴射穴噴射モードと、を実行可能に構成されており、
前記バルブ制御装置は、前記過給機の回転数が第1回転数域にある場合に前記第2噴射穴噴射モードを実行し、前記過給機の回転数が前記第1回転数域よりも高い回転数域である第2回転数域にあるときに前記第1噴射穴噴射モードを実行するように構成された、請求項に記載の過給機。
【請求項7】
過給機のコンプレッサケーシングに設けられた第1噴射穴からコンプレッサインペラのインペラ翼に向けて圧縮ガスを噴射する第1噴射穴噴射ステップと、
前記コンプレッサインペラの軸方向における前記第1噴射穴よりも下流側にて前記コンプレッサケーシングに設けられた第2噴射穴から前記インペラ翼に向けて圧縮ガスを噴射する第2噴射穴噴射ステップと、
を備え、
前記過給機の回転数が第1回転数域にある場合に前記第2噴射穴噴射ステップを実行し、前記過給機の回転数が前記第1回転数域よりも高い回転数域である第2回転数域にある場合に前記第1噴射穴噴射ステップを実行する、過給機の運転方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、コンプレッサケーシング、過給機及び過給機の運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンの起動時にはエンジンから過給機に流れる排ガスが少なく、また、過給機の回
転体の慣性により、過給機が行う仕事が少なく、過給機からエンジンへ送られる圧縮空気
の量が少ないため、エンジンから黒煙が排出されることがある。このような黒煙排出の抑
制や、エンジン起動時の過給機の負荷応答性(増速性)の改善による過給機効率の改善の
ために、コンプレッサケーシングの空気案内筒に設けた噴射穴からコンプレッサインペラ
のインペラ翼に圧縮ガスを噴射する方法がある。
【0003】
特許文献1には、エンジンの負荷を上昇させる際に、過給機におけるコンプレッサイン
ペラの外周部全域に多数設けられた噴射穴からコンプレッサインペラのインペラ翼に向け
て圧縮空気(圧縮ガス)を供給することで、目標とする過給空気圧を得ることが記載され
ている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭61-132721号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本願発明者の知見によれば、特許文献1に記載の構成のように、コンプレッサインペラ
の出口近傍(コンプレッサインペラの外周部)に圧縮ガスを噴射する場合、エンジンの起
動時等のエンジンの負荷が比較的小さい場合にはコンプレッサインペラの回転をアシスト
するための大きなモーメントが得られるものの、エンジンの負荷が大きくなるにつれて(
過給機の回転数が大きくなるにつれて)コンプレッサインペラの回転を圧縮ガスによって
アシストする効果が限定的になりやすいことが明らかとなった。このため、特許文献1に
記載の構成では、コンプレッサインペラの回転を圧縮ガスの噴射によってアシストできる
過給機の回転数の範囲は限定的であった。
【0006】
上述の事情に鑑みて、本開示の少なくとも一実施形態は、過給機の広範囲の回転数に亘
ってコンプレッサインペラの回転を圧縮ガスによって良好にアシストすることを可能とす
るコンプレッサケーシング及びこれを備える過給機並びに過給機の運転方法を提供するこ
とを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本開示の少なくとも一実施形態に係るコンプレッサケーシン
グは、
過給機のコンプレッサインペラを収容するコンプレッサケーシングであって、
前記コンプレッサインペラのインペラ翼に向けて圧縮ガスを噴射するための複数の噴射
穴を備え、
前記複数の噴射穴は、
少なくとも1つの第1噴射穴と、
前記コンプレッサインペラの軸方向において前記第1噴射穴の出口とは異なる位置に
出口を有する少なくとも1つの第2噴射穴と、
を含む。
【0008】
上記目的を達成するため、本開示の少なくとも一実施形態に係る過給機は、
上記コンプレッサケーシングと、
前記過給機及びエンジンの少なくとも一方の運転状態に応じて前記少なくとも1つの第
1バルブ及び前記少なくとも1つの第2バルブを制御するように構成されたバルブ制御装
置と、
を備える。
【0009】
上記目的を達成するため、本開示の少なくとも一実施形態に係る過給機の運転方法は、
過給機のコンプレッサケーシングに設けられた第1噴射穴からコンプレッサインペラの
インペラ翼に向けて圧縮ガスを噴射する第1噴射穴噴射ステップと、
前記コンプレッサインペラの軸方向における前記第1噴射穴よりも下流側にて前記コン
プレッサケーシングに設けられた第2噴射穴から前記インペラ翼に向けて圧縮ガスを噴射
する第2噴射穴噴射ステップと、
を備え、
前記過給機の回転数が第1回転数域にある場合に前記第2噴射穴噴射ステップを実行し
、前記過給機の回転数が前記第1回転数域よりも高い回転数域である第2回転数域にある
場合に前記第1噴射穴噴射ステップを実行する。
【発明の効果】
【0010】
本開示の少なくとも一実施形態によれば、過給機の広範囲の回転数に亘ってコンプレッ
サインペラの回転を圧縮ガスによって良好にアシストすることを可能とするコンプレッサ
ケーシング及びこれを備える過給機並びに過給機の運転方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】一実施形態に係る過給機2の概略断面を模式的に示す図である。
図2図1に示した過給機2に適用可能な遠心圧縮機4の断面構成の一例を示す図である。
図3図2に示した遠心圧縮機4における噴射穴28近傍の拡大図である。
図4】圧縮空気の投入時における過給機2の回転数と圧縮空気の投入による過給機2の回転数の増加量との関係を示す図である。
図5】インペラ翼18の前縁18LEから後縁18TEまでの子午面方向距離における静圧分布の例を示す図である。
図6】複数の噴射穴28の出口28a2の周方向の配置の一例を示す図である。
図7】複数の噴射穴28の出口28a2の周方向の配置の他の一例を示す図である。
図8】バルブ36a~36c及びバルブ制御装置38を備えた過給機2における遠心圧縮機4の断面構成の一例を模式的に示す図であり、噴射穴28近傍の拡大図である。
図9】バルブ制御装置38によって実行する噴射モードを決定するための判定フローを示す図である。
図10】過給機2の回転数、バルブ36a~36cの開度及び圧縮空気の噴射量の時系列変化を示す図である。
図11】塞ぎ部材42を備える過給機2の一例を説明するための図である。
図12】塞ぎ部材42を備える過給機2の他の一例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して本開示の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施
形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相
対的配置等は、発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
例えば、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「
同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配
置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相
対的に変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表
現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の
差が存在している状態も表すものとする。
例えば、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形
状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部
等を含む形状も表すものとする。
一方、一の構成要素を「備える」、「具える」、「具備する」、「含む」、又は、「有
する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
【0013】
図1は、一実施形態に係る過給機2の概略断面を模式的に示す図である。
図1に示すように、過給機2は、遠心圧縮機4及びタービン6を備える。
遠心圧縮機4は、コンプレッサインペラ8及びコンプレッサインペラ8を収容するコン
プレッサケーシング10を含む。タービン6は、タービンホイール12及びタービンホイ
ール12を収容するタービンケーシング14を含む。
【0014】
コンプレッサインペラ8は、ハブ16及びハブ16の外周面に周方向に間隔を空けて設
けられた複数のインペラ翼18を含む。コンプレッサインペラ8とタービンホイール12
とは回転軸20を介して連結されており、一体的に回転するように構成されている。回転
軸20は、軸受22によって回転可能に支持されている。軸受22は、軸受ケーシング2
4に収容されている。軸受ケーシング24は、軸方向における一端側にてコンプレッサケ
ーシング10に連結されており、軸方向における他端側にてタービンケーシング14に連
結されている。
【0015】
不図示のエンジンの排ガスによってタービンホイール12が回転することにより、ター
ビンホイール12に回転軸20を介して連結されたコンプレッサインペラ8が回転して空
気が圧縮され、遠心圧縮機4から吐出された圧縮空気がエンジンに供給される。
【0016】
なお、本明細書では、コンプレッサインペラ8の軸方向すなわち回転軸20の軸方向を
単に「軸方向」と記載し、コンプレッサインペラ8の径方向すなわち回転軸20の径方向
を単に「径方向」と記載し、コンプレッサインペラ8の周方向すなわち回転軸20の周方
向を単に「周方向」と記載することとする。
【0017】
図2は、図1に示した過給機2に適用可能な遠心圧縮機4の詳細構成の一例を示す図で
ある。
図2に示す例示的な形態では、コンプレッサケーシング10は、コンプレッサインペラ
8に空気を案内する空気案内筒30と、コンプレッサインペラ8の外周側に渦状のスクロ
ール流路32を形成するスクロールケーシング34とを含む。空気案内筒30は、コンプ
レッサインペラ8を囲繞するように筒状に構成されている。空気案内筒30の内径及び外
径は、インペラ翼18の前縁18LEの位置よりも空気の流れにおける下流側では、軸方
向において下流側に向かうにつれて拡大する。なお、本明細書では、空気の流れにおける
上流側及び下流側をそれぞれ単に「上流側」及び「下流側」と記載することとする。
【0018】
図2に示すように、コンプレッサケーシング10の空気案内筒30は、コンプレッサイ
ンペラ8のインペラ翼18の負圧面26(翼面)に向けて圧縮空気を噴射するための複数
の噴射穴28を備える。複数の噴射穴28の各々は、空気案内筒30の外周面から内周面
に貫通する貫通孔であり、図示する例では空気案内筒30を直線状に貫通している。噴射
穴28の各々は、インペラ翼18の負圧面26に垂直な方向に沿って、圧縮ガスとしての
圧縮空気を負圧面26噴射するように形成されていてもよい。すなわち、各噴射穴28の
中心軸線とインペラ翼18の負圧面26とのなす角度は90度程度であってもよい。
【0019】
また、図示する例では、空気案内筒30の外周面とスクロールケーシング34との間に
圧縮空気が通る環状の空間31が形成されており、スクロールケーシング34は、環状の
空間31に圧縮空気を供給するように径方向に沿って延在する圧縮空気通路35を含む。
圧縮空気通路35は圧縮空気の供給源としての圧縮空気タンク46に圧縮空気ライン44
を介して接続されている。圧縮空気ライン44には、圧縮空気タンク46からの圧縮空気
の供給を制御するためのバルブ45が設けられている。圧縮空気タンク46から圧縮空気
ライン44、圧縮空気通路35及び空間31を順に通った圧縮空気は、噴射穴28からイ
ンペラ翼18の負圧面26に向けて噴射されて、コンプレッサインペラ8の回転をアシス
トするアシスト空気として機能する。
【0020】
複数の噴射穴28は、以下に詳述するように、複数の噴射穴28aと、複数の噴射穴2
8bと、複数の噴射穴28cとを含む。
【0021】
図3は、図2に示した遠心圧縮機4における噴射穴28近傍の拡大図である。
図3に示すように、複数の噴射穴28aは、複数の噴射穴28のなかで、最もインペラ
翼18の前縁18LEに近い位置に形成されている。
【0022】
噴射穴28aの出口28a2は、軸方向において、インペラ翼18の前縁18LEの翼
先端18LE1と、噴射穴28bの出口28b2との間に位置する。したがって、噴射穴
28aの出口28a2は、噴射穴28bの出口28b2及び噴射穴28cの出口28c2
の各々よりも径方向における内側に位置する。すなわち、噴射穴28aの出口28a2は
、噴射穴28bの出口28b2及び噴射穴28cの出口28c2の各々よりも内周側に位
置する。噴射穴28aは、コンプレッサインペラ8の入口側の部分(コンプレッサインペ
ラ8の内周部)すなわちインペラ翼18における前縁18LE側の部分18iに圧縮空気
を噴射するように構成されている。複数の噴射穴28aは、軸方向における同一の位置に
て周方向に間隔を空けて設けられている。複数の噴射穴28aの入口28a1は、軸方向
における同一の位置にて周方向に間隔を空けて設けられている。複数の噴射穴28aの出
口28a2は、軸方向における同一の位置にて周方向に間隔を空けて設けられている。
【0023】
複数の噴射穴28bは、軸方向において、複数の噴射穴28aと複数の噴射穴28cと
の間の位置に形成されている。
【0024】
噴射穴28bの出口28b2は、軸方向において、噴射穴28aの出口28a2と噴射
穴28cの出口28c2との間に位置する。すなわち、噴射穴28bの出口28b2は、
軸方向において、噴射穴28aの出口28a2よりも下流側且つ噴射穴28cの出口28
c2よりも上流側に位置する。したがって、噴射穴28bの出口28b2は、噴射穴28
aの出口28a2よりも径方向における外側、且つ、噴射穴28cの出口28c2よりも
径方向における内側に位置する。すなわち、噴射穴28bの出口28b2は、噴射穴28
aの出口28a2よりも外周側、且つ、噴射穴28bの出口28c2よりも内周側に位置
する。噴射穴28bは、コンプレッサインペラ8の入口側の部分(コンプレッサインペラ
8の内周部)と出口側の部分(コンプレッサインペラ8の外周部)との間の中間部分すな
わちインペラ翼18における前縁18LE側の部分18iと後縁18TE側の部分18o
との間の中間部分18mに圧縮空気を噴射するように構成されている。複数の噴射穴28
bは、軸方向における同一の位置にて周方向に間隔を空けて設けられている。複数の噴射
穴28bの入口28b1は、軸方向における同一の位置にて周方向に間隔を空けて設けら
れている。複数の噴射穴28bの出口28b2は、軸方向における同一の位置にて周方向
に間隔を空けて設けられている。
【0025】
複数の噴射穴28cは、複数の噴射穴28のなかで、最もインペラ翼18の後縁18T
Eに近い位置に形成されている。
【0026】
噴射穴28cの出口28c2は、軸方向において、噴射穴28bの出口28b2と、イ
ンペラ翼18の後縁18TEの翼先端18TE1と、の間に位置する。このため、噴射穴
28cの出口28c2は、軸方向において、噴射穴28aの出口28a2よりも下流側且
つ噴射穴28bの出口28b2よりも下流側に位置する。また、噴射穴28cの出口28
c2は、噴射穴28aの出口28a2及び噴射穴28bの出口28b2の各々よりも径方
向における外側に位置する。すなわち、噴射穴28cの出口28c2は、噴射穴28aの
出口28a2及び噴射穴28bの出口28b2の各々よりも外周側に位置する。噴射穴2
8cは、コンプレッサインペラ8の出口側の部分(コンプレッサインペラ8の外周部)す
なわちインペラ翼18における後縁18TE側の部分18oに圧縮空気を噴射するように
構成されている。複数の噴射穴28cは、軸方向における同一の位置にて周方向に間隔を
空けて設けられている。複数の噴射穴28cの入口28c1は、軸方向における同一の位
置にて周方向に間隔を空けて設けられている。複数の噴射穴28cの出口28c2は、軸
方向における同一の位置にて周方向に間隔を空けて設けられている。
【0027】
ここで、上記のように軸方向において異なる位置に出口28a2,28b2,28c2
をそれぞれ有する噴射穴28a,28b,8cをコンプレッサケーシング10に設けるこ
との技術的意義について説明する。
【0028】
本願発明者の知見によれば、従来の過給機において試験を行ったところ、図4に示すよ
うに、圧縮空気の投入時(噴射穴からインペラ翼への圧縮空気の噴射時)における過給機
の回転数が大きいほど、圧縮空気による過給機の回転数の増速効果が小さく、また圧縮空
気の投入圧力を変化させてもその傾向は同じであった。このように、コンプレッサインペ
ラの出口側の部分に圧縮空気を噴射する場合、不図示のエンジンの起動時等のエンジンの
負荷が比較的小さい場合にはコンプレッサインペラの回転をアシストするための大きなモ
ーメントが得られるものの、エンジンの負荷が大きくなるにつれて(過給機の回転数が大
きくなるにつれて)コンプレッサインペラの回転を圧縮空気によってアシストする効果が
限定的になりやすい。
【0029】
これは、エンジンの負荷が大きくなるにつれて過給機の回転数が大きくなり、図5に示
すようにコンプレッサインペラの出口近傍では圧力が高くなるため、投入できる圧縮空気
の量が減少するためと考えられる。一方、図5から分かるように過給機の運転中において
もコンプレッサインペラの入口近傍では圧力が低いため、入口側から圧縮空気を投入すれ
ばコンプレッサインペラの回転を効果的にアシストして過給機の回転数の増速効果を見込
むことができる。
【0030】
したがって、軸方向において異なる位置に出口28a2,28b2,28c2をそれぞ
れ有する噴射穴28a,28b,28cをコンプレッサケーシング10に設けることによ
り、例えば過給機2の回転数が低回転数域にある場合(コンプレッサインペラ8の出口側
における圧力が比較的低い場合)等には軸方向において相対的に下流側に位置する噴射穴
28c2から圧縮空気を噴射し、過給機2の回転数が中回転数域にある場合等には軸方向
において中間に位置する噴射穴28b2から圧縮空気を噴射し、過給機の回転数が高回転
数域にある場合(コンプレッサインペラ8における出口側の圧力が比較的高い場合)等に
は、軸方向において相対的に上流側に位置する噴射穴28aから圧縮空気を噴射する、と
いった具合に過給機2の運転状態(例えば過給機2の回転数又は過給機2の吐出圧等)に
応じて噴射穴28a~28cからの圧縮空気の噴射を適切に使い分けることが可能となる

したがって、過給機2の広範囲の回転数に亘ってコンプレッサインペラ8の回転を圧縮
空気によって良好にアシストすることが可能となる。
【0031】
幾つかの実施形態では、複数の噴射穴28aの出口28a2は、例えば図6に示すよう
に、周方向に均等な間隔dを有していてもよいし、例えば図7に示すように、周方向に不
均等な間隔d(d1,d2,d3)を有していてもよい。図6に示す例では、6つの噴射
穴28aの出口28a2が周方向において60度の間隔で設けられている。図7に示す例
では、6つの噴射穴28aにおける周方向の6つの間隔は、4つの等しい間隔d1と、間
隔d1よりも小さな間隔d2と、間隔d1よりも大きな間隔d3とを含む。なお、複数の
噴射穴28aの出口28a2が周方向に不均等な間隔(不等ピッチ)を有する場合には、
複数の噴射穴28aの出口28a2の間隔は、1つだけ異なっていてもよいし、図7に示
すように3種類以上の間隔を含んでいてもよい。
【0032】
複数の噴射穴28aの個数及び複数の噴射穴28aの間隔は、コンプレッサインペラ8
のインペラ翼18の翼振動に影響を及ぼす。仮に複数の噴射穴28aの出口が均等な間隔
(当ピッチ)で並んでいる場合、複数の噴射穴28aの個数に対応するハーモニクスが増
加することが考えられる。これに対し、複数の噴射穴28aの出口28a2が周方向に不
均等な間隔を有する場合には、周方向に均等な間隔を有する場合と比較して、噴射穴28
aの個数に対応するハーモニクスが他のハーモニクスへと分散されるため、インペラ翼1
8の翼振動を低減することができる。なお、複数の噴射穴28aの穴径、個数及び間隔は
、コンプレッサインペラ8の回転をアシストする効果とコンプレッサインペラ8及びター
ビンホイール12を含む回転体の強度を考慮して決定してもよい。例えば、複数の噴射穴
28aの穴径を小さくすると圧縮空気の流速が増加してコンプレッサインペラ8の回転を
アシストする効果が増加することが期待される一方、回転体にかかる荷重は増加する。
【0033】
また、噴射穴28bについても同様に、複数の噴射穴28bの出口28b2は、周方向
に均等な間隔を有していてもよいし、周方向に不均等な間隔を有していてもよい。なお、
複数の噴射穴28bの出口28b2が周方向に不均等な間隔(不等ピッチ)を有する場合
には、複数の噴射穴28bの出口28b2の間隔は、1つだけ異なっていてもよいし、3
種類以上の間隔を含んでいてもよい。複数の噴射穴28bの出口28b2が周方向に不均
等な間隔を有する場合には、周方向に均等な間隔を有する場合と比較して、噴射穴28b
の個数に対応するハーモニクスが他のハーモニクスへと分散される。このため、インペラ
翼18の翼振動を低減することができる。なお、複数の噴射穴28bの穴径、個数及び間
隔は、コンプレッサインペラ8の回転をアシストする効果とコンプレッサインペラ8及び
タービンホイール12を含む回転体の強度を考慮して決定してもよい。
【0034】
また、噴射穴28cについても同様に、複数の噴射穴28cの出口28c2は、周方向
に均等な間隔を有していてもよいし、周方向に不均等な間隔を有していてもよい。なお、
複数の噴射穴28cの出口28c2が周方向に不均等な間隔(不等ピッチ)を有する場合
には、複数の噴射穴28cの出口28c2の間隔は、1つだけ異なっていてもよいし、3
種類以上の間隔を含んでいてもよい。複数の噴射穴28cの出口28c2が周方向に不均
等な間隔を有する場合には、周方向に均等な間隔を有する場合と比較して、噴射穴28c
の個数に対応するハーモニクスが他のハーモニクスへと分散される。このため、インペラ
翼18の翼振動を低減することができる。なお、複数の噴射穴28cの穴径、個数及び間
隔は、コンプレッサインペラ8の回転をアシストする効果とコンプレッサインペラ8及び
タービンホイール12を含む回転体の強度を考慮して決定してもよい。
【0035】
幾つかの実施形態では、図1図7を用いて説明した過給機2の遠心圧縮機4は、図8
に示すように、噴射穴28aからの圧縮空気の噴射を制御するためのバルブ36aと、噴
射穴28bからの圧縮空気の噴射を制御するためのバルブ36bと、噴射穴28cからの
圧縮空気の噴射を制御するためのバルブ36cと、過給機2の運転状態に応じてこれらの
バルブ36a、バルブ36b、バルブ36cの各々及びバルブ45を制御するように構成
されたバルブ制御装置38と、過給機2の回転数(回転軸20の回転数)を計測する回転
数計40を更に備えていてもよい。バルブ36aは、周方向に間隔を空けて設けられた複
数の噴射穴28a毎に設けられていてもよく、バルブ36bは周方向に間隔を空けて設け
られた複数の噴射穴28b毎に設けられていてもよく、バルブ36cは、周方向に間隔を
空けて設けられた複数の噴射穴28c毎に設けられていてもよい。
【0036】
バルブ制御装置38は、電気回路によって構成されてもよいし、コンピュータによって
構成されてもよい。バルブ制御装置38は、コンピュータから構成される場合、RAM(
Random Access Memory)、ROM(Read Only Memo
ry)等の記憶装置と、CPU(Central Processing Unit)等
のプロセッサとを備え、プロセッサが、記憶装置に記憶されているプログラムを実行する
ことにより、その機能を実現する。
【0037】
バルブ制御装置38は、噴射穴28a噴射モード、噴射穴28b噴射モード及び噴射穴
28c噴射モードを実行可能に構成されている。
【0038】
噴射穴28a噴射モードは、複数の噴射穴28aからインペラ翼18の負圧面26に向
けて圧縮空気を噴射し、複数の噴射穴28b及び複数の噴射穴28cから圧縮空気を噴射
しないモードである。バルブ制御装置38は、噴射穴28a噴射モードでは、バルブ36
aを開状態に制御しつつバルブ36b及びバルブ36cの各々を閉状態に制御する。
【0039】
噴射穴28b噴射モードは、複数の噴射穴28bからインペラ翼18の負圧面26に向
けて圧縮空気を噴射し、複数の噴射穴28a及び複数の噴射穴28cから圧縮空気を噴射
しないモードである。バルブ制御装置38は、噴射穴28b噴射モードでは、バルブ36
bを開状態に制御しつつバルブ36a及びバルブ36cの各々を閉状態に制御する。
【0040】
噴射穴28c噴射モードは、複数の噴射穴28cからインペラ翼18の負圧面26に向
けて圧縮空気を噴射し、複数の噴射穴28a及び複数の噴射穴28bから圧縮空気を噴射
しないモードである。バルブ制御装置38は、噴射穴28c噴射モードでは、バルブ36
cを開状態に制御しつつバルブ36a及びバルブ36bの各々を閉状態に制御する。バル
ブ制御装置38は、噴射穴28a噴射モード、噴射穴28b噴射モード及び噴射穴28c
噴射モードの各々の実行時においてバルブ45を開状態に制御する。
【0041】
バルブ制御装置38は、回転数計40によって計測した過給機2の回転数が低回転数域
(不図示のエンジンの起動時又はエンジンのアイドリング時に相当する回転数域)にある
場合に噴射穴28c噴射モードを実行する。バルブ制御装置38は、回転数計40によっ
て計測した過給機2の回転数が低回転数域よりも高い回転数域である中回転数域にある場
合に噴射穴28b噴射モードを実行する。バルブ制御装置38は、回転数計40によって
計測した過給機2の回転数が中回転数域よりも高い回転数域である高回転数域にある場合
に噴射穴28a噴射モードを実行する。低回転数域、中回転数域及び高回転数域とは、例
えば、それぞれ、エンジンが定格負荷に対する30%以下の負荷で運転している場合に相
当する過給機2の回転数域、エンジンが定格負荷に対して30%~60%の負荷で運転し
ている場合に相当する過給機2の回転数域、及び、エンジンが定格負荷に対して60%以
上の負荷で運転している場合に相当する過給機2の回転数域であってもよい。
【0042】
ここで、図9及び図10を用いてバルブ制御装置38の制御フローの一例を説明する。
例えば図9に示すように、バルブ制御装置38は、S11において、回転数計40によ
って計測した過給機2の回転数が過給機2の回転数が第1閾値N1(例えばエンジンが定
格負荷に対する30%の負荷で運転している場合に相当する過給機2の回転数)以下であ
るか否かを判定する。
【0043】
S11において、過給機2の回転数が第1閾値N1以下である場合(過給機2の回転数
が低回転数域にある場合)には、S12において、バルブ制御装置38は、図10に示す
ようにバルブ36cを開状態に制御するとともにバルブ36a及びバルブ36bを閉状態
に制御して、過給機2の回転数の上昇時にバルブ45を開状態に制御することで噴射穴2
8c噴射モードを実行する。
【0044】
S11において過給機2の回転数が第1閾値N1以下でない場合には、S13において
、回転数計40によって計測した過給機2の回転数が第2閾値N2(例えばエンジンが定
格負荷に対する60%の負荷で運転している場合に相当する過給機2の回転数)以下であ
るか否かを判定する。
【0045】
S13において過給機2の回転数が第2閾値N2以下である場合(過給機2の回転数が
中回転数域にある場合)には、S14において、バルブ制御装置38は、図10に示すよ
うにバルブ36bを開状態に制御するとともにバルブ36a及びバルブ36cを閉状態に
制御して、過給機2の回転数の上昇時にバルブ45を開状態に制御することで噴射穴28
b噴射モードを実行する。
【0046】
S13において過給機2の回転数が第2閾値N2以下でない場合(過給機2の回転数が
高回転数域にある場合)には、S15において、バルブ制御装置38は、図10に示すよ
うにバルブ36aを開状態に制御するとともにバルブ36b及びバルブ36cを閉状態に
制御して、過給機2の回転数の上昇時にバルブ45を開状態に制御することで噴射穴28
a噴射モードを実行する。
【0047】
このようなバルブ制御を行うことにより、過給機2の回転数が低回転数域にある場合(
コンプレッサインペラ8の出口側の圧力が比較的低い場合)には複数の噴射穴28の出口
28a2,28b2,28c2のうち軸方向における最も下流側にある噴射穴28cの出
口28c2から圧縮空気が噴射されるため、コンプレッサインペラ8の回転をアシストす
るための大きなモーメントを得ることができる。このため、過給機2の回転数が低回転数
域にあるときの過給機効率の改善や黒煙の発生を抑制することができる。
【0048】
また、過給機2の回転数が中回転数域にある場合には、複数の噴射穴28の出口28a
2,28b2,28c2のうち軸方向における中間に位置する噴射穴28bの出口28b
2から圧縮空気が噴射される。このため、コンプレッサインペラ8の回転をアシストして
過給機2の回転数が中回転数域にあるときの過給機効率を改善することができる。
【0049】
また、過給機2の回転数が高回転数域にある場合(コンプレッサインペラ8の出口側の
圧力が高くなっている場合)には、複数の噴射穴28の出口28a2,28b2,28c
2のうち軸方向における最も上流側にある噴射穴28aの出口28a2から圧縮空気が噴
射されるため、コンプレッサインペラ8の出口近傍の圧力が高くなっている場合であって
も、インペラ翼18の負圧面26に圧縮空気を適切に噴射してコンプレッサインペラ8の
回転を効果的にアシストすることができる。
【0050】
このように、過給機2の低回転数域から高回転数域までの広範囲の回転数域に亘ってコ
ンプレッサインペラ8の回転を圧縮空気を用いて良好にアシストすることが可能となる。
したがって、過給機2の回転数が低回転数域にあるときの黒煙の発生を抑制しつつ、過給
機2の全ての回転数域に亘って高い過給機効率を実現することができる。
【0051】
なお、図8等に示した例では、回転数計40によって計測した過給機2の回転数に基づ
いて噴射穴28a噴射モード、噴射穴28b噴射モード及び噴射穴28c噴射モードの何
れを実行するかを決定したが、他の実施形態では、回転数計40は必ずしも必要ない。例
えば、エンジンの負荷又は回転数と過給機2の回転数との関係を予めに求めておき、その
関係を用いてエンジンの負荷又は回転数を過給機2の回転数に変換し、その結果を用いて
図9に示すフローを実行してもよい。すなわち、バルブ制御装置38は、エンジンの運転
状態(例えばエンジンの負荷又は回転数)に応じてこれらのバルブ36a、バルブ36b
、バルブ36cの各々及びバルブ45を制御するように構成されていてもよく、過給機の
運転状態及びエンジンの運転状態のうち少なくとも一方に応じてこれらのバルブ36a、
バルブ36b、バルブ36cの各々及びバルブ45を制御するように構成されていてもよ
い。
【0052】
また、図9を用いて説明した第1閾値N1及び第2閾値N2は、必ずしも固定値である
必要はなく、過給機2の運転状態、環境条件等に基づいて調整されてもよい。
【0053】
本開示は上述した実施形態に限定されることはなく、上述した実施形態に変形を加えた
形態や、これらの形態を適宜組み合わせた形態も含む。
例えば、図8に示した例では、バルブ36a~36cの開度をバルブ制御装置38によ
って自動で変更する場合について説明したが、バルブ36a~36cの開度は手動で変更
されてもよい。
【0054】
幾つかの実施形態では、過給機2は、図8に示すバルブ36a~36c及びバルブ制御
装置38に代えて、図11及び図12に示すように、複数の噴射穴28のうち少なくとも
1つの噴射穴28を塞ぐ塞ぎ部材42を備えていてもよい。
【0055】
図11及び図12の各々に示す例示的形態では、過給機2は、複数の噴射穴28aを塞
ぐ複数の塞ぎ部材42a及び複数の噴射穴28bを塞ぐ複数の塞ぎ部材42bを備える。
【0056】
図11に示す例では、塞ぎ部材42a及び塞ぎ部材42bの各々はフランジ状の蓋部材
として構成されており、空気案内筒30の外周面に不図示のボルト等の固定具を用いて固
定される。図12に示す例では、噴射穴28の各々の内周面は雌ねじ状に加工されており
、塞ぎ部材42aは噴射穴28aの内周面の雌ねじに螺合できるように雄ねじ状に加工さ
れており、塞ぎ部材42bは噴射穴28bの内周面の雌ねじに螺合できるように雄ねじ状
に加工されている。この場合、塞ぎ部材42a,42bは、それぞれ、噴射穴28a,2
8bを塞ぐことが可能な栓部材(プラグ)として機能する。
【0057】
このような塞ぎ部材42を備える構成によれば、過給機2の使用環境や仕様に応じて使
用する噴射穴28(図示する例では噴射穴28c)を選択し、使用する噴射穴28以外の
噴射穴28を塞ぐことができる。これにより、過給機2の出荷後に塞ぎ部材42を設ける
位置を変更することができるため、過給機2の使用環境や仕様に応じてコンプレッサイン
ペラ8の回転を圧縮ガスを用いて良好にアシストすることが可能となる。
【0058】
また、上述した実施形態では、軸方向における空気案内筒30の3つの位置の各々に周
方向に間隔を空けて設けられた複数の噴射穴28が設けられたが、軸方向における空気案
内筒30の3つの位置の各々に周方向において1つの噴射穴28のみが設けられてもよい
【0059】
また、空気案内筒30には、軸方向における2つの位置の各々に少なくとも1つの噴射
穴28が設けられていてもよいし、4つ以上の位置の各々に少なくとも1つの噴射穴28
が設けられていてもよい。
【0060】
また、図1に示した過給機2では、タービン6としてラジアルタービンを例示したが、
タービン6は軸流タービンであってもよい。
【0061】
また、上述した実施形態では噴射穴28から噴射する圧縮ガスとして圧縮空気を用いた
が、他の実施形態では圧縮空気以外の圧縮ガスを用いてもよい。
【0062】
また、バルブ36aは、複数の噴射穴28aにおける噴射穴28a毎に設けられていて
もよいし、複数の噴射穴28aに対して1つのバルブ36aが設けられていてもよい。バ
ルブ36bは、複数の噴射穴28bにおける噴射穴28b毎に設けられていてもよいし、
複数の噴射穴28bに対して1つのバルブ36bが設けられていてもよい。バルブ36c
は、複数の噴射穴28cにおける噴射穴28c毎に設けられていてもよいし、複数の噴射
穴28cに対して1つのバルブ36aが設けられていてもよい。複数の噴射穴28aにお
ける噴射穴28a毎にバルブ36aが設けられる場合には、それらの複数のバルブ36a
の開閉タイミングは同一であってもよい。複数の噴射穴28bにおける噴射穴28b毎に
バルブ36bが設けられる場合には、それらの複数のバルブ36bの開閉タイミングは同
一であってもよい。複数の噴射穴28cにおける噴射穴28c毎にバルブ36cが設けら
れる場合には、それらの複数のバルブ36cの開閉タイミングは同一であってもよい。
【0063】
上記各実施形態に記載の内容は、例えば以下のように把握される。
【0064】
(1)本開示の少なくとも一実施形態に係るコンプレッサケーシング(例えば上述のコ
ンプレッサケーシング10)は、
過給機(例えば上述の過給機2)のコンプレッサインペラ(例えば上述のコンプレッサ
インペラ8)を収容するコンプレッサケーシングであって、
前記コンプレッサインペラのインペラ翼(例えば上述のインペラ翼18)に向けて圧縮
ガス(例えば上述の圧縮空気)を噴射するための複数の噴射穴(例えば上述の噴射穴28
(28a~28c)を備え、
前記複数の噴射穴は、
少なくとも1つの第1噴射穴(例えば上述の複数の噴射穴28a、複数の噴射穴28
b又は複数の噴射穴28c)と、
前記コンプレッサインペラの軸方向において前記第1噴射穴の出口(例えば上述の出
口28a2、出口28b2又は出口28c2)とは異なる位置に出口(例えば上述の出口
28a2、出口28b2及び出口28c2のうち、第1噴射穴の出口に対応する出口以外
の何れかの出口)を有する少なくとも1つの第2噴射穴(例えば上述の複数の噴射穴28
a、複数の噴射穴28b及び複数の噴射穴28cのうち、第1噴射穴に対応する噴射穴以
外の何れかの噴射穴)と、
を含む。
【0065】
従来の過給機において試験を行ったところ、圧縮空気の投入時(噴射穴からインペラ翼
への圧縮空気の噴射時)における過給機の回転数が大きいほど、圧縮空気による過給機の
回転数の増速効果が小さく、また圧縮空気の投入圧力を変化させてもその傾向は同じであ
った。このように、コンプレッサインペラの出口側(インペラ翼の後縁側)の部分に圧縮
空気を噴射する場合、不図示のエンジンの起動時やエンジンの負荷が比較的小さい場合に
はコンプレッサインペラの回転をアシストするための大きなモーメントが得られるものの
、エンジンの負荷が大きくなるにつれて(過給機の回転数が大きくなるにつれて)コンプ
レッサインペラの回転を圧縮空気によってアシストする効果が限定的になりやすい。
これは、エンジンの負荷が大きくなるにつれて過給機の回転数が大きくなり、コンプレ
ッサインペラの出口近傍では圧力が高くなるため、投入できる圧縮空気の量が減少するた
めと考えられる。一方、過給機の運転中においてもコンプレッサインペラの入口近傍では
圧力が低いため、入口側から圧縮空気を投入すればコンプレッサインペラの回転を効果的
にアシストして過給機の回転数の増速効果を見込むことができる。
そこで、上記(1)に記載のコンプレッサケーシングは、インペラ翼に圧縮ガスを噴射
するための噴射穴として、少なくとも1つの第1噴射穴と、コンプレッサインペラの軸方
向において第1噴射穴の出口とは異なる位置に出口を有する少なくとも1つの第2噴射穴
と、を含んでいる。過給機のコンプレッサケーシングは、コンプレッサインペラの軸方向
において下流側に向かうにつれて内径が拡大するため、第1噴射穴の出口と第2噴射穴の
出口とは径方向における位置も異なる。
このため、例えば過給機の回転数が比較的小さい場合(コンプレッサインペラの出口近
傍の圧力が比較的低い場合)等には第1噴射穴の出口と第2噴射穴の出口のうち軸方向に
おける下流側の噴射穴から圧縮ガスを噴射し、過給機の回転数が比較的大きい場合(コン
プレッサインペラの出口近傍の圧力が高くなっている場合)等には、第1噴射穴の出口と
第2噴射穴の出口のうち軸方向における上流側の噴射穴から圧縮ガスを噴射する、といっ
た具合に過給機の運転状態に応じて第1噴射穴からの圧縮ガスの噴射と第2噴射穴からの
圧縮ガスの噴射とを適切に使い分けることが可能となる。
したがって、過給機の広範囲の回転数に亘ってコンプレッサインペラの回転を圧縮ガス
を用いて良好にアシストすることが可能となる。
【0066】
(2)幾つかの実施形態では、上記(1)に記載のコンプレッサケーシングにおいて、
前記少なくとも1つの第1噴射穴からの前記圧縮ガスの噴射を制御するための少なくと
も1つの第1バルブ(例えば上述のバルブ36a、バルブ36b又はバルブ36c)と、
前記少なくとも1つの第2噴射穴からの前記圧縮ガスの噴射を制御するための少なくとも
1つの第2バルブ(例えば上述のバルブ36a、バルブ36b及びバルブ36cのうち、
第1バルブに対応するバルブ以外の何れかのバルブ)とを更に備える。
【0067】
上記(2)に記載のコンプレッサケーシングによれば、例えば過給機の回転数が比較的
小さい場合(コンプレッサインペラの出口近傍の圧力が比較的低い場合)等には第1噴射
穴の出口と第2噴射穴の出口のうち軸方向における下流側の噴射穴に対応するバルブを開
状態として圧縮ガスを噴射し、過給機の回転数が比較的大きい場合(コンプレッサインペ
ラの出口近傍の圧力が高くなっている場合)等には、第1噴射穴の出口と第2噴射穴の出
口のうち軸方向における上流側の噴射穴に対応するバルブを開状態として圧縮ガスを噴射
する、といった具合に過給機の運転状態に応じて第1バルブと第2バルブを制御すること
により、過給機の運転状態に応じて第1噴射穴からの圧縮ガスの噴射と第2噴射穴からの
圧縮ガスの噴射とを適切に使い分けることが可能となる。
これにより、過給機の広範囲の回転数に亘ってコンプレッサインペラの回転を圧縮ガス
を用いて良好にアシストすることが可能となる。
【0068】
(3)幾つかの実施形態では、上記(1)に記載のコンプレッサケーシングにおいて、
前記第1噴射穴又は前記第2噴射穴を塞ぐ塞ぎ部材を更に備える。
【0069】
上記(3)に記載のコンプレッサケーシングによれば、第1噴射穴又は第2噴射穴を塞
ぎ部材で塞ぐことにより、過給機の使用環境や仕様に応じて使用する噴射穴を選択するこ
とができる。これにより、過給機の使用環境や仕様に応じてコンプレッサインペラの回転
を圧縮ガスを用いて良好にアシストすることが可能となる。
【0070】
(4)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(3)の何れか1項に記載のコンプレッ
サケーシングにおいて、
前記少なくとも1つの第1噴射穴は、周方向に間隔を空けて配置された複数の第1噴射
穴(例えば上述の複数の噴射穴28a、複数の噴射穴28b又は複数の噴射穴28c)を
含み、
前記複数の第1噴射穴の出口は、周方向に不均等な間隔を有する。
【0071】
上記(4)に記載のコンプレッサケーシングによれば、複数の第1噴射穴の出口が周方
向に均等な間隔を有する場合と比較して、第1噴射穴の個数に対応するハーモニクスが他
のハーモニクスへと分散される。このため、インペラ翼の翼振動を低減することができる
【0072】
(5)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(4)の何れかに記載のコンプレッサケ
ーシングにおいて、
前記複数の噴射穴は、前記インペラ翼の翼面に垂直な方向に沿って前記インペラ翼に圧
縮ガスを噴射するように形成される。
【0073】
上記(5)に記載のコンプレッサケーシングによれば、圧縮ガスのエネルギーを効率的
にコンプレッサインペラの回転エネルギーに変換することができ、コンプレッサインペラ
の回転を効果的にアシストすることが可能となる。
【0074】
(6)本開示の少なくとも一実施形態に係る過給機は、
上記(2)に記載のコンプレッサケーシングと、
前記過給機及びエンジンの少なくとも一方の運転状態に応じて前記少なくとも1つの第
1バルブ及び前記少なくとも1つの第2バルブを制御するように構成されたバルブ制御装
置(例えば上述のバルブ制御装置)と、
を備える。
【0075】
上記(6)に記載の過給機によれば、過給機の運転状態に応じて第1バルブと第2バル
ブとをバルブ制御装置によって適切に開閉することにより、過給機の運転状態に応じて第
1噴射穴からの圧縮ガスの噴射と第2噴射穴からの圧縮ガスの噴射とを適切に制御してコ
ンプレッサインペラの回転を良好にアシストすることが可能となる。
【0076】
(7)幾つかの実施形態では、上記(6)に記載の過給機において、
前記第2噴射穴の出口は前記第1噴射穴の出口よりも前記軸方向における下流側に位置
し、
前記バルブ制御装置は、前記第1噴射穴から前記コンプレッサインペラの前記インペラ
翼に向けて圧縮ガスを噴射する第1噴射穴噴射モード(例えば上述の噴射穴28b噴射モ
ード又は噴射穴28c噴射モード)と、前記第2噴射穴から前記コンプレッサインペラの
前記インペラ翼に向けて圧縮ガスを噴射する第2噴射穴噴射モード(例えば上述の噴射穴
28a噴射モード及び噴射穴28b噴射モードのうち、第1噴射穴モードに対応する噴射
モード以外の何れかの噴射モード)と、を実行可能に構成されており、
前記バルブ制御装置は、前記過給機の回転数が第1回転数域(例えば上述の低回転数域
又は中回転数域)にある場合に前記第2噴射穴噴射モードを実行し、前記過給機の回転数
が前記第1回転数域よりも高い回転数域である第2回転数域(例えば上述の中回転数域又
は高回転数域であって、第1回転数域に対応しない回転数域)にあるときに前記第1噴射
穴噴射モードを実行するように構成される。
【0077】
上記(7)に記載の過給機によれば、過給機の回転数が比較的小さい第1回転数域にあ
る場合(コンプレッサインペラの出口近傍の圧力が比較的低い場合)には第1噴射穴の出
口と第2噴射穴の出口のうち軸方向における下流側(高圧側)にある第2噴射穴の出口か
ら圧縮ガスが噴射され、コンプレッサインペラの回転をアシストするための大きなモーメ
ントを得ることができる。このため、過給機の回転数が比較的小さい第1回転数域にある
ときの過給機効率の改善や黒煙の発生を抑制することができる。
また、過給機の回転数が比較的大きい第2回転数域にある場合(コンプレッサインペラ
の出口近傍の圧力が高くなっている場合)等には、第1噴射穴の出口と第2噴射穴の出口
のうち軸方向における上流側にある第1噴射穴の出口から圧縮ガスが噴射される。このた
め、コンプレッサインペラの出口近傍の圧力が高くなっている場合であっても、第2噴射
穴の出口よりも相対的に内周側(低圧側)に位置する第1噴射穴の出口から圧縮ガスをイ
ンペラ翼に噴射することができるため、インペラ翼に圧縮ガスを適切に噴射してコンプレ
ッサインペラの回転をアシストすることができる。
このように、過給機の広範囲の回転数に亘ってコンプレッサインペラの回転を圧縮ガス
を用いて良好にアシストすることが可能となる。
【0078】
(8)本開示の少なくとも一実施形態に係る過給機の運転方法は、
前記過給機のコンプレッサケーシング(例えば上述のコンプレッサケーシング10)に
設けられた第1噴射穴(例えば上述の噴射穴28a又は噴射穴28b)からコンプレッサ
インペラ(例えば上述のコンプレッサインペラ8)のインペラ翼(例えば上述のインペラ
翼18)に向けて圧縮ガス(例えば上述の圧縮空気)を噴射する第1噴射穴噴射ステップ
(例えば上述のS12又はS14)と、
前記コンプレッサインペラの軸方向における前記第1噴射穴よりも下流側にて前記コン
プレッサケーシングに設けられた第2噴射穴(例えば上述の噴射穴28b又は噴射穴28
c)から前記インペラ翼に向けて圧縮ガスを噴射する第2噴射穴噴射ステップ(例えば上
述のS14又はS15)と、
を備え、
前記過給機の回転数が第1回転数域(例えば上述の低回転数域又は中回転数域)にある
場合に前記第2噴射穴噴射ステップを実行し、前記過給機の回転数が前記第1回転数域よ
りも高い回転数域である第2回転数域(例えば上述の中回転数域又は高回転数域)にある
場合に前記第1噴射穴噴射ステップを実行する。
【0079】
上記(8)に記載の過給機の運転方法によれば、過給機の回転数が比較的小さい第1回
転数域にある場合(コンプレッサインペラの出口近傍の圧力が比較的低い場合)には第1
噴射穴の出口と第2噴射穴の出口のうち軸方向における下流側(高圧側)にある第2噴射
穴の出口から圧縮ガスが噴射され、コンプレッサインペラの回転をアシストするための大
きなモーメントを得ることができる。このため、過給機の回転数が比較的小さい第1回転
数域にあるときの過給機効率の改善や黒煙の発生を抑制することができる。
また、過給機の回転数が比較的大きい第2回転数域にある場合(コンプレッサインペラ
の出口近傍の圧力が高くなっている場合)等には、第1噴射穴の出口と第2噴射穴の出口
のうち軸方向における上流側(低圧側)にある第1噴射穴の出口から圧縮ガスが噴射され
る。このため、コンプレッサインペラの出口側の圧力が高くなっている場合であっても、
第2噴射穴の出口よりも相対的に内周側に位置する第1噴射穴の出口から圧縮ガスをイン
ペラ翼に噴射することができるため、インペラ翼に圧縮ガスを適切に噴射してコンプレッ
サインペラの回転をアシストすることができる。
このように、過給機の広範囲の回転数に亘ってコンプレッサインペラの回転を圧縮ガス
を用いて良好にアシストすることが可能となる。
【符号の説明】
【0080】
2 過給機
4 遠心圧縮機
6 タービン
8 コンプレッサインペラ
10 コンプレッサケーシング
12 タービンホイール
14 タービンケーシング
16 ハブ
18 インペラ翼
18LE 前縁
18LE1 翼先端
18TE 後縁
18TE1 翼先端
18i 前縁側の部分
18m 中間部分
18o 後縁側の部分
20 回転軸
22 軸受
24 軸受ケーシング
26 負圧面
28,28a,28b,28c 噴射穴
28a1,28b1,28c1 入口
28a2,28b2,28c2 出口
30 空気案内筒
31 空間
32 スクロール流路
34 スクロールケーシング
35 圧縮空気通路
36a,36b,36c バルブ
38 バルブ制御装置
40 回転数計
42,42a,42b 塞ぎ部材
44 圧縮空気ライン
45 バルブ
46 圧縮空気タンク
図1
図2
図3
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図5
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図10
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図12