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特許7526708ガスセンサ制御装置、ガスセンサ制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-24
(45)【発行日】2024-08-01
(54)【発明の名称】ガスセンサ制御装置、ガスセンサ制御方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/419 20060101AFI20240725BHJP
   G01N 27/41 20060101ALI20240725BHJP
   G01N 27/409 20060101ALI20240725BHJP
   G01N 27/416 20060101ALI20240725BHJP
【FI】
G01N27/419 327Q
G01N27/41 325Q
G01N27/409 100
G01N27/416 331
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021064737
(22)【出願日】2021-04-06
(65)【公開番号】P2022160157
(43)【公開日】2022-10-19
【審査請求日】2023-11-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001036
【氏名又は名称】弁理士法人暁合同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 哲哉
【審査官】小澤 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-002678(JP,A)
【文献】特開2007-086090(JP,A)
【文献】特開2009-058501(JP,A)
【文献】特開2003-166966(JP,A)
【文献】特開2009-014652(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0241361(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/419
G01N 27/41
G01N 27/409
G01N 27/416
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒータを有するガスセンサの昇温を制御するガスセンサ制御装置であって、
前記ヒータに電圧を印加する電圧印加部と、
前記ヒータに流れるヒータ電流を計測する電流計測部と、
制御部と、を含み、
前記電圧印加部は、所定の始動電圧を前記ヒータに印加し、
前記制御部は、前記始動電圧が印加されたときの前記ヒータ電流に基づき、前記ヒータに印加されるヒータ電力が所定の目標電力となるようにヒータ電圧を設定し、
前記電流計測部は、定期的に前記ヒータ電流の計測を実行し、
前記制御部は、前記ヒータの昇温中における前記ヒータ電流に基づいて、前記ヒータ電力が前記目標電力を維持するように、前記ヒータ電圧を設定する、ガスセンサ制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のガスセンサ制御装置であって、
前記ガスセンサの温度を計測する温度計測部を含み、
前記ヒータ電力が前記目標電力となる前記ヒータ電圧を突入電圧と定義し、
前記制御部は、前記ガスセンサの温度が所定の設定温度に到達した場合、前記ヒータ電圧を前記突入電圧に設定する制御を停止する、ガスセンサ制御装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のガスセンサ制御装置であって、
前記電圧印加部は、前記始動電圧および前記ヒータ電圧をPWM制御により変化させ、
前記始動電圧のデューティー比は、前記ヒータ電圧のデューティー比よりも小さい、ガスセンサ制御装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のガスセンサ制御装置であって、
前記制御部は、2以上の前記ガスセンサについて、前記ヒータ電圧をそれぞれ設定する、ガスセンサ制御装置。
【請求項5】
ヒータを有するガスセンサの昇温を制御するガスセンサ制御方法であって、
前記ヒータに所定の始動電圧を印加し、
前記始動電圧が印加されたときのヒータ電流に基づいて、前記ヒータに印加されるヒータ電力が所定の目標電力となるように、ヒータ電圧を設定し、
定期的に前記ヒータ電流の計測を実行し、
前記ヒータの昇温中における前記ヒータ電流に基づいて、前記ヒータ電力が前記目標電力を維持するように、前記ヒータ電圧を設定する、ガスセンサ制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスセンサ制御装置、及びガスセンサ制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に示すように、特定ガスの濃度を検出するガスセンサを制御する、ガスセンサ制御装置が知られている。ガスセンサは、特定ガスの濃度を検出する検出素子及び通電加熱するヒータを有している。ガスセンサは、ヒータにより検出素子を活性化温度まで昇温させた後に、特定ガスの高精度な検出が可能になる。検出素子を昇温させる際には、急激な温度変化による熱衝撃で検出素子が破損することを防ぐために、ヒータへの印加電圧が適宜制御される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-205089号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば内燃機関で使用される酸素センサでは、内燃機関の始動後、短時間で特定ガスの検出を開始することが望まれている。本発明の目的は、ガスセンサの昇温速度を高めて検出素子を短時間のうちに活性化温度まで昇温させ、早期に特定ガスの検出を開始できるガスセンサの制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するための手段は、以下の通りである。
【0006】
ヒータを有するガスセンサの昇温を制御するガスセンサ制御装置は、前記ヒータに電圧を印加する電圧印加部と、前記ヒータに流れるヒータ電流を計測する電流計測部と、制御部と、を含み、前記電圧印加部は、所定の始動電圧を前記ヒータに印加し、前記制御部は、前記始動電圧が印加されたときの前記ヒータ電流に基づき、前記ヒータに印加されるヒータ電力が所定の目標電力となるように前記ヒータ電圧を設定する。
【0007】
ヒータが発する熱は、ヒータ電力に依存する。過大なヒータ電力が印加されると、ヒータの昇温速度は速くなるものの、熱衝撃によってガスセンサが破損するおそれがある。また、ヒータ電圧が一定の場合は、ヒータの昇温に伴ってヒータ抵抗が増大するため、W=V^2/Rより、ヒータ電力が低下してヒータの昇温速度が遅くなる。
【0008】
そこで、ガスセンサが破損しない範囲内における最大のヒータ電力の値として、目標電力を予め設定しておき、所定の始動電圧を印加したときのヒータ電流と、目標電力と、から求まるヒータ電圧を、ヒータに印加する。これにより、ヒータには目標電力が印加され、ヒータが発する熱は、ガスセンサが破損しない範囲内において最大になる。この結果、熱衝撃によるガスセンサの破損を抑制できるとともに、ガスセンサを短時間で昇温させることができる。
【0009】
ガスセンサ制御装置は、前記ガスセンサの温度を計測する温度計測部を含み、前記制御部は、前記ガスセンサの温度が所定の設定温度に到達した場合、前記ヒータ電力が前記目標電力となるように前記ヒータ電圧を設定する制御を停止してもよい。
【0010】
このようにすると、ガスセンサの温度が所定の設定温度に到達すると昇温が停止するため、過熱によるガスセンサの破損やヒータの焼損を抑制できる。
【0011】
前記電流計測部は、定期的に前記ヒータ電流の計測を実行し、前記制御部は、前記ヒータの昇温中における前記ヒータ電流に基づいて、前記ヒータ電力が前記目標電力を維持するように、前記ヒータ電圧を設定してもよい。
【0012】
このようにすると、ヒータ電圧の印加後に、ヒータの昇温に伴ってヒータ抵抗が上昇しても、定期的に実行されるヒータ電流の計測の度に、ヒータ電力が目標電力となるように、ヒータ電圧が設定される。これにより、ヒータ抵抗の上昇に関わらず、ヒータには継続的に目標電力が印加されるため、熱衝撃によるガスセンサの破損を抑制しつつ、ガスセンサの昇温速度の低下を抑制して短時間で昇温させることができる。
【0013】
前記電圧印加部は、ヒータ電圧をPWM制御により変化させ、前記始動電圧のデューティー比は、前記ヒータ電圧のデューティー比よりも小さくてもよい。
【0014】
ヒータへの電圧の印加によってヒータ温度とヒータ抵抗は上昇する。始動電圧のデューティー比をヒータ電圧より小さくすると、始動電圧の印加に起因するヒータ温度とヒータ抵抗の上昇幅が小さくなるため、始動電圧を印加したときのヒータ抵抗をより正確に測定できる。これにより、精度よくヒータ電圧を算出できる。
【0015】
前記制御部は、2以上の前記ガスセンサについて、前記ヒータ電圧をそれぞれ設定してもよい。
【0016】
このようにすると、2以上のガスセンサについて、目標電力を印加するときのヒータ電圧をガスセンサごとに設定できる。つまり、いずれのガスセンサにも目標電力を印加できる。これにより、各ガスセンサ間でヒータ抵抗が異なっていても、昇温速度を早く、かつ、同じにできる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ガスセンサの昇温速度を速め、始動後短時間で特定ガスの検出が可能になるガスセンサ制御装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】ガスセンサ制御装置の概略構成を示すブロック図
図2】複数のガスセンサが接続されたガスセンサ制御装置を示す説明図
図3】軸線方向に沿って切断されたガスセンサの断面図
図4】検出素子を先端側から見た斜視図
図5】軸線方向に直交する方向で切断された検出素子の先端側の断面図
図6】(実施形態1)ヒータ電力を設定する処理のフローチャート
図7】(実施形態1)ヒータ電力の時間変化を示すグラフ
図8】(実施形態1)ヒータ電圧の時間変化を示すグラフ
図9】(実施形態1)素子温度の時間変化を示すグラフ
図10】(実施形態2)ヒータ電力を設定する処理のフローチャート
図11】(実施形態2)ヒータ電力の時間変化を示すグラフ
図12】(実施形態2)ヒータ電圧の時間変化を示すグラフ
図13】(実施形態2)素子温度の時間変化を示すグラフ
図14】素子温度Tsと抵抗値Rpvsの関係を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本明細書によって開示されるガスセンサ制御装置の具体例を、図面を参照しつつ説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0020】
<実施形態1>
1.ガスセンサ制御装置の構成
1.1 全体構成
本発明の実施形態1を、図1図9を参照しつつ説明する。図1は、実施形態1に係るガスセンサ制御装置2及びその周辺の概略構成を示すブロック図である。ガスセンサ制御装置2に接続されるガスセンサ1は、酸素濃度に応じてセンサ電流がリニアに変化する全領域空燃比センサ(リニアラムダセンサ)であり、エンジンの吸気側又は排気側の少なくとも一方に設置されて、吸排気管内を流通するガス中の酸素濃度を検出する。
【0021】
ガスセンサ1は、ガスセンサ1から離れた位置に配設されるガスセンサ制御装置2とハーネスを介して電気的に接続されており、ガスセンサ制御装置2によって通電制御されて酸素濃度を検出する。ガスセンサ1を用いて検出された酸素濃度に応じた検出信号は、ガスセンサ制御装置2において、例えば排気ガス中の空燃比(空気過剰率)を取得するために利用される。
【0022】
ECU(Electronic Control Unit)5は、自動車のエンジンの駆動等を電子的に制御するための装置であり、CPU9a、ROM9b、RAM9c等を搭載したマイコンチップにより構成される。ECU5では、CPU9aがROM9bに記憶された各種プログラムを実行し、ガスセンサ1や、図示しない他のセンサとの間で電気信号の入出力を行う。
【0023】
なお、本実施形態では、ガスセンサ1とECU5との間に、ガスセンサ制御装置2が配設されると共に、ガスセンサ1及びガスセンサ制御装置2によってガスセンサユニット3が構成される場合について例示する。
【0024】
次に、図1図5等を参照しつつ、ガスセンサ1及びガスセンサ制御装置2の詳細を説明する。図1は、ガスセンサ1及びガスセンサ制御装置2を備えるガスセンサユニット3の概略構成を示す説明図であり、図3は、ガスセンサ1を軸方向に沿って切断した断面図であり、図4は、ガスセンサ1が有する検出素子10を先端側から見た斜視図であり、図5は、検出素子10の先端側を軸線方向に直交する方向で切断した場合の断面図である。
【0025】
図2に示すように、ガスセンサ制御装置2には、複数のガスセンサ1が並列に接続されており、ガスセンサ制御装置2はそれぞれのガスセンサ1を独立して制御できるようになっている。なお、図1では、2つ目以降のガスセンサ1は図示省略している。
【0026】
1.2 ガスセンサの構成
ガスセンサ1は、図3に示すように、検出素子10と、その検出素子10等を内部に収容する形で保持する主体金具30と、その主体金具30の先端部に装着されるプロテクタ37と、を備えている。検出素子10は、全体的には、細長く延びた板状をなしており(図4参照)、その長手方向が、軸線Lの方向に沿うように配置されている。なお、後述するように、検出素子10の先端側には、保護層25が形成されている。
【0027】
主体金具30は、SUS430製であり、ガスセンサ1を排気管に取り付けるための雄ねじ部31と、取り付け時に取り付け工具をあてがう六角部32とを備えている。また、主体金具30には、径方向内側に向かって突出する金具側段部33が設けられており、その金具側段部33は検出素子10を保持するための金属ホルダ34を支持している。そしてこの金属ホルダ34の内側にはセラミックホルダ35、滑石36が先端側から順に配置されている。金属ホルダ34及び主体金具30内で滑石36が圧縮充填されることによって、検出素子10が金属ホルダ34に対して固定されるとともに、検出素子10の外面と主体金具30の内面との間のシール性が確保される。そして滑石36の後端側には、アルミナ製のスリーブ39が配置されている。そして、主体金具30の後端側にあるかしめ部30aが内側に折り曲げられており、そのようなかしめ部30aにより、スリーブ39がステンレス製のリング部材40を介して主体金具30の先端側に押圧されている。
【0028】
また、主体金具30の先端側外周には、金属製のプロテクタ37が溶接によって取り付けられている。プロテクタ37は、二重構造をなしており、外側には一様な外径を有する有底円筒状の外側プロテクタ41が配置され、内側には後端部42aの外径が先端部42bの外径よりも大きく形成された有底円筒状の内側プロテクタ42が配置されている。このようなプロテクタ37は、主体金具30の先端から突出する検出素子10の先端部を覆うと共に、複数のガス取り入れ孔37aを有する。
【0029】
主体金具30の後端側には、SUS430製の外筒38の先端側が挿入されている。外筒38は、先端側が拡径した先端部38aを備えており、その先端部38aが、主体金具30にレーザ溶接等で固定されている。外筒38の後端側の内部には、セパレータ50が配置されており、そのセパレータ50と外筒38との間で形成される隙間に、保持部材51が介在されている。保持部材51は、セパレータ50の周面から外側に盛り上がった突出部50aに係合しつつ、かしめられた外筒38とセパレータ50との間で固定されている。
【0030】
また、セパレータ50には、検出素子10と電気的に接続される各種のリード線43を挿入するための通孔50bが先端側から後端側に亘って貫通する形で設けられている。なお、図3には、説明の便宜上、リード線43は3本のみ示され、それら以外のリード線の図示は省略している。各リード線43等は、外部において、図示されないコネクタに接続可能な構成となっており、そのようなコネクタを介してECU5等の外部機器と各リード線43等との間で、電気信号の入出力が行われる。
【0031】
さらに、セパレータ50の後端側には、外筒38の後端側の開口部38bを閉塞するための略円柱状のゴムキャップ52が配置されている。このゴムキャップ52は、外筒38の後端内に収容された状態で、外筒38が径方向内側に向かって加締められることにより、外筒38に固着される。また、ゴムキャップ52にも、リード線43等をそれぞれ挿入するための通孔52aが先端側から後端側に亘って貫通する形で設けられている。
【0032】
1.3 検出素子10の構成
ここで、検出素子10の構造について説明する。検出素子10は、図4に示すように、全体的には細長の板状をなしており、その先端側に、被検出ガス中の酸素濃度を検出する検出部が設けられている。本実施形態の検出素子10は、2セル式であり、後述するように、酸素ポンプセル60と、酸素濃度検出セル61とを備えている。検出素子10の先端側は、多孔質体からなる保護層25によって覆われている。なお、保護層25は、説明の便宜上、図5等において適宜省略されている。
【0033】
図1及び図5の断面図に示すように、検出素子10は、ジルコニアを主体とする固体電解質体11、13と、アルミナを主体とする絶縁基体12、17、18、24とを備える。それらは、いずれも細長い板状に形成されており、絶縁基体18、絶縁基体17、固体電解質体13、絶縁基体12、固体電解質体11、及び絶縁基体24の順に積層された構造となっている。
【0034】
固体電解質体11の両面に、白金を主体とする一対の電極19、20がそれぞれ形成されている。また、同様に、固体電解質体13の両面にも一対の電極21、22がそれぞれ形成されている。電極22は、固体電解質体13と絶縁基体17との間で挟まれた状態で埋設されている。
【0035】
絶縁基体12の長手方向の一端側には、固体電解質体11、13をそれぞれ一壁面としつつ、被検出ガス(排気ガス)を導入可能な中空のガス検出室23が形成されている。なお、ガス検出室23は、固体電解質体13と、固体電解質体11との間に形成される。
【0036】
図1に示すように、絶縁基体17、18の間には、白金を主体とする発熱抵抗体26がそれらに挟まれた状態で埋設されている。絶縁基体17、18及び発熱抵抗体26は、固体電解質体11、13を加熱して活性化温度Taまで昇温させるためのヒータ27として機能する。
【0037】
固体電解質体11上の電極19は、その表面がセラミックス(例えば、アルミナ)からなる多孔質性の保護層25によって覆われている。電極19は、排気ガスに含まれるシリコン等の被毒成分によって劣化しないように、保護層25によって保護されている。固体電解質体11上に積層された絶縁基体24は、電極19を覆わないように開口24aが設けられており、その開口24a内に保護層25が配設されている。
【0038】
このように構成された検出素子10において、固体電解質体11とその両面に設けられた一対の電極19、20は、外部からガス検出室23内に酸素を汲み入れ、或いはガス検出室23から外部へ酸素を汲み出す酸素ポンプセル60として機能する。
【0039】
また、固体電解質体13とその両面に設けられた一対の電極21、22は、両電極間の酸素濃度に応じて起電力Veを発生させる酸素濃度検出セル61として機能する。電極22は、ガス検出室23内の酸素濃度の検出のための基準となる酸素濃度を維持する酸素基準電極として機能する。一対の電極21、22は、固体電解質体13を挟む形で配置される。一方の電極21は、ガス検出室23に配置され、他方の電極22は、後述する基準雰囲気に晒される。
【0040】
1.4 ガスセンサ制御装置
次に、ガスセンサ1の検出素子10に接続されるガスセンサ制御装置2について、図1を用いて説明する。ガスセンサ制御装置2は、制御部9及び電気回路部70を構成主体としている。制御部9は、CPU9a、ROM9b、RAM9c等を搭載した公知の構成のマイコンチップからなる。なお、ROM9bには、CPU9aに各処理を実行させるための制御プログラムや、後述する基準電圧等が記憶されている。
【0041】
電気回路部70は、ヒータ通電制御回路(「電圧印加部」の一例)71、ポンプ電流駆動回路72、電圧出力回路73、微小電流供給回路74、基準電圧比較回路75、及びポンプ電流検出回路76を備えている。
【0042】
微小電流供給回路74は、酸素濃度検出セル61の一方の電極22から他方の電極21側へ微小電流Icpを流し、電極22側に酸素イオンを移動させて基準となる基準雰囲気を生成する。これにより、電極22は、被検出ガス中の酸素濃度を検出するための基準となる酸素基準電極として機能する。
【0043】
電圧出力回路73は、ガス検出室23内の酸素濃度と、上記基準雰囲気の酸素濃度との差異に応じて、酸素濃度検出セル61の電極21、22間に生じる起電力Ve、及び電極21、22間の抵抗Rpvsを検出する。
【0044】
また、電圧出力回路73は、ガスセンサ1の温度(素子温度Tsともいう)を制御部9に送信する。ここで、素子温度Tsとは、具体的には、酸素濃度検出セル61が有する固体電解質体13の温度である。図14に示すように、固体電解質体13は、温度が上昇するにつれて電極21、22間の抵抗Rpvsが低下する特性を有しており、抵抗Rpvsと素子温度Tsは相関関係にある。したがって、電力出力回路73は、抵抗Rpvsから、固体電解質体13の温度、すなわち素子温度Tsを求めることができる。電圧出力回路73は、「温度計測部」の一例である。
【0045】
基準電圧比較回路75は、予め定められた基準電圧と、電圧出力回路73が検出した起電力Veとの比較を行い、比較結果をポンプ電流駆動回路72にフィードバックする。
【0046】
ポンプ電流駆動回路72は、基準電圧比較回路75から得られた比較結果に基づいて、酸素ポンプセル60の電極19、20間に、大きさや向きが制御されたポンプ電流Ipを印加する(流す)。これにより、酸素ポンプセル60によるガス検出室23内への酸素の汲み入れやガス検出室23からの酸素の汲み出しが行われる。
【0047】
ポンプ電流検出回路76は、酸素ポンプセル60の電極19、20間に流れるポンプ電流Ipを電圧変換し、検出信号として制御部9に出力する。
【0048】
ヒータ通電制御回路71は、ヒータ27が有する発熱抵抗体26の両端に、ヒータ電圧Vhを印加することで、発熱抵抗体26を発熱させ、酸素濃度検出セル61の加熱を行う。ヒータ27へ供給する電力は、一定の電圧を通電する時間によって制御される。すなわち、所定の周期におけるオン時間の割合であるデューティー比によって調整される。この制御にはPWM(パルス幅変調)制御を利用可能である。
【0049】
本明細書では、特に断りのない限り、ヒータ通電制御回路71とヒータ27がなす回路における各部の電圧及び電流は、それぞれ実効値を意味するものとする。例えば、ヒータ電圧Vhは実際にはパルス波であるが、パルス波のピーク値と実効値Vhは異なる値である。ヒータ通電制御回路71によってデューティー比を変更することにより、ヒータ電圧Vhを、任意の範囲で変更することができるものとする。
【0050】
電流計測部77は、ヒータ通電制御回路71と発熱抵抗体26の一方の電極との間に直列に挿入され、発熱抵抗体26に流れるヒータ電流Ihを計測する。電流計測部77は、その内部にシャント抵抗Rsh、及びシャント抵抗Rshの両端におけるシャント電圧Vshを測定する電圧計77aを有している。電流計測部77は、シャント電圧Vshをシャント抵抗Rshで除することによりヒータ電流Ihを求め、その結果を制御部9に出力する。
【0051】
2.ヒータ電圧Vhの設定について
実施形態1に係るガスセンサ制御装置2及びこれに接続されるガスセンサ1の構成は上記の通りである。続いて、ガスセンサ制御装置2におけるヒータ電圧Vh(突入電圧Vr)の設定について、フローチャートを用いて説明する。なお、後述するように、ガスセンサ制御装置2の始動後にはヒータ27に始動電圧Vsが印加され、さらにその後、ヒータ27を加熱するために最初にヒータ電圧Vhが印加される。このヒータ電圧Vhを、特に突入電圧Vrと記載する。
【0052】
はじめに、ガスセンサ制御装置2を始動する(図6、スタート)。始動時点において、ガスセンサ1の素子温度Tsは常温(例えば25℃)であるとする。まず、ガスセンサ制御装置2を始動したときのヒータ抵抗Rhを求めるために、制御部9はS10~S40に示す以下の処理を行う。
【0053】
ヒータ通電制御回路71が、デューティー比を最小にして、始動電圧Vsをヒータ27に印加する(S10)。始動電圧Vsは、ヒータ27を発熱させるためではなく、ヒータ抵抗Rhを算出することを目的として、1パルス分のみが印加される。また、始動電圧Vsの大きさ(絶対値)は、例えば電源電圧の大きさとする。なお、デューティー比は最小であり、1パルスというごく短時間の電圧印加であるため、始動電圧Vsとして電源電圧を印加したとしても、ヒータ27の昇温はごくわずかであり、素子温度Tsには影響しない。始動電圧Vsが印加される時間は、例えばPWM制御の周波数が100Hz、デューティー比Dの最小値が0.7%である場合を考えると、1/100[sec]×0.7[%]=0.00007[sec]=70[μs]となる。
【0054】
次に、電流計測部77の電圧計77aは、ヒータ27に直列に挿入してあるシャント抵抗Rshの両端のシャント電圧Vshを測定する。制御部9は、下記(1)式に基づきヒータ電流Ihを算出する(S20、S30)。
Ih=Vsh/Rsh・・・(1)
【0055】
始動直後にヒータ通電制御回路71が出力する電圧は始動電圧Vsであるが、ヒータ27に印加される電圧は、始動電圧Vsからシャント抵抗Rshにおける電圧降下分であるシャント電圧Vshを減じた値となる。つまり、ヒータ27に印加されるヒータ電圧Vhは、下記(2)式で表される。また、制御部9は、ヒータ電圧Vhとヒータ電流Ihから、下記(3)式によりヒータ抵抗Rhを求める(S40)。
Vh=VB-Vsh・・・(2)
Rh=(VB-Vsh)/Ih・・・(3)
【0056】
以上のようにして、制御部9はS10~S40の各ステップの処理を実行し、ガスセンサ制御装置2の始動時におけるヒータ抵抗Rhを求める。
【0057】
次に、制御部9は、ヒータ27に印加されるヒータ電力Whが目標電力Wh1になる場合のヒータ電圧Vhを求める。なお、ヒータ電圧Vhは、ヒータ通電制御回路71においてPWM制御された電圧信号の実効値を表している。
【0058】
ここで、目標電力Wh1とは、検出素子10が熱衝撃により破損しない範囲内において、最も速い昇温速度で検出素子10を昇温させることができるヒータ電力Whである。目標電力Wh1は、実際にガスセンサ1のヒータ27に様々な値の電力を印加して、印加中の検出素子10の温度変化及び熱衝撃による破損の有無を観察し、ワイブル分布等の確率分布にあてはめることにより、実験的・統計的に求められた値である。
【0059】
制御部9は、ヒータ27に印加されるヒータ電力Whが、予め求められた目標電力Wh1になるように、ヒータ電圧Vhを算出する(S50)。具体的には、ヒータ電力Whは下記(4)式で表され、これを変形してヒータ電力Whに目標電力Wh1を代入した下記(5)式から、ヒータ電圧Vhを求める。このときのヒータ電圧Vhは、突入時の電圧であるため、突入電圧Vrともいう。
Wh=Vh^2/Rh・・・(4)
Vh=√(Rh・Wh1)・・・(5)
【0060】
次に、制御部9は、ヒータ27に印加される電圧の実効値がヒータ電圧Vh(突入電圧Vr)となるときの、ヒータ通電制御回路71でPWM制御を行う際のデューティー比Dを求める(S60)。具体的には、実効値を求める下記(6)式を変形した下記(7)式から、デューティー比Dを求める。
Vh=Vs・√D・・・(6)
D=(Vh/Vs)^2・・・(7)
【0061】
このようにして求めたデューティー比Dを用いて、ヒータ通電制御回路71のPWM制御を実行し、ヒータ27にヒータ電圧Vh(突入電圧Vr)が印加される(S70)。このときヒータ27に印加されるヒータ電力Whは、目標電力Wh1になる。これにより、ヒータ27が発熱して検出素子10の素子温度Tsが上昇する。そして、制御部9は、電圧出力回路73から送信された素子温度Tsと活性化温度Ta(「所定の設定温度」の一例)を比較する(S80)。
【0062】
素子温度Tsが活性化温度Ta未満のとき(S80:NO)、S70に戻り、ヒータ27には、突入電圧Vrがそのまま継続して印加される。素子温度Tsが活性化温度Ta以上になるまでヒータ27には一定の突入電圧Vrが継続的に印加される。制御部9は、素子温度Tsが活性化温度Ta以上になると(S80:YES)、ヒータ電圧Vhを突入電圧Vrにする制御を停止する(S90)。そして、制御部9は、素子温度Tsが目標温度Ttを維持する制御(例えばPID制御)を開始する(S100)。なお、目標温度Ttは活性化温度Taよりも高い温度である。
【0063】
3.本発明の効果
ガスセンサ1による酸素の検出を早期に開始するためには、ガスセンサ制御装置2の始動後は、検出素子10を短時間で活性化温度Taまで昇温させる必要がある。ヒータ27が発する熱は、ヒータ通電制御回路71からヒータ27に印加されるヒータ電力Whに依存する。ヒータ電力Whが大きければ、ヒータ27の発熱量が増加し、検出素子10の昇温速度を速めることができる。しかし、昇温速度が速すぎると、熱衝撃によって、検出素子10が破損するおそれがある。そのため、ヒータ電力Whは大きければ大きいほどよいのではなく、検出素子10が破損しない範囲内において大きな値でなければならない。
【0064】
そこで、上述したように、検出素子10が破損しない範囲内において最大のヒータ電力Whとして、目標電力Wh1を予め統計的に求めている。
【0065】
一方、製造時の寸法バラツキ等に起因して、素子温度Tsが同じときのヒータ抵抗Rhは検出素子10ごとに異なり、ある範囲内の値をとる。例えば、基準となる温度(一例として25°C)におけるヒータ抵抗Rhは下限値Rminから上限値Rmaxの範囲に含まれる値とする。なお、ヒータ抵抗Rhが上記範囲外である検出素子10は、規格外品のため考慮しない。
【0066】
様々なヒータ抵抗Rhのヒータ27を有する検出素子10を昇温させ、かつ、熱衝撃による破損を防止するためのヒータ27の制御として、従来はヒータ電圧Vhの値を一定にする制御を行っていた。このときのヒータ電圧Vhは、次のようにして求めていた。
【0067】
以下、ヒータ抵抗Rhが異なる2つのガスセンサ1(ガスセンサG1及びガスセンサG2とする)に一定のヒータ電圧Vhを印加して昇温させた場合を、図7図9を用いて説明する。ここで、ガスセンサG1のヒータ抵抗R1は下限値Rminと等しく、ガスセンサG2のヒータ抵抗R2は下限値Rminより大きいが上限値Rmaxよりも小さいとする。つまりR1<R2である。また、図7図9のL11、L12、L13は、ガスセンサG1のヒータ電圧Vh等の時間変化を表したものであり、L21、L22、L23は、ガスセンサG2ヒータ電圧Vh等の時間変化を表している。
【0068】
上記(4)式より、ヒータ電圧Vhが一定の場合は、ヒータ抵抗Rhが小さいほどヒータ電力Whが大きくなる。そこで、(5)式に基づき、ヒータ抵抗R1(=Rmin)のガスセンサG1に対し、始動時に目標電力Wh1が印加されるときの印加電圧を算出する。このときの印加電圧が、上限電圧Vbとなる(L22、L21)。仮にガスセンサG1に上限電圧Vbより大きな電圧が印加されると、ヒータ27に印加される電力が目標電力Wh1を上回り、熱衝撃によってガスセンサG1(ヒータ抵抗Rmin)が破損するおそれがある。言い換えると、印加される電圧が上限電圧Vb以下であれば、ガスセンサG1は破損しない。
【0069】
つまり、ヒータ抵抗Rhが下限値Rmin以上のガスセンサ1に対して一定の電圧を印加しても、熱衝撃による破損が生じないときの電圧値が、上限電圧Vbである。
【0070】
このようにして算出した上限電圧Vbを、ヒータ抵抗がR2(>Rmin)であるガスセンサG2の始動時に印加しても(L22)、目標電力Wh1より小さな電力Wh2しか印加されない(L21)。したがって、ガスセンサG1及びG2それぞれに印加される電圧が同じ上限電圧Vbであっても、印加される電力がWh1とWh2で異なるため、ガスセンサG1よりもガスセンサG2の方が、検出素子10の昇温速度が遅い(L13、L23)。なお、ヒータ電圧Vhが一定の上限電圧Vbで変化していなくても、ヒータ27の温度上昇に伴ってヒータ抵抗Rhは上昇する。そのため、時間の経過とともにヒータ電力Whは低下して(L11、L21)、昇温速度が次第に遅くなる(L13、L23)。
【0071】
図9に示すように、始動から活性化温度Taに達するまでの時間(到達時間)は、ガスセンサG1(ヒータ抵抗R1=Rmin)の場合はt1であるのに対し(L13)、ガスセンサG2(ヒータ抵抗R2>Rmin)の場合はt2となり(L23)、t1<t2となっている。つまり、ガスセンサG2は目標電力Wh1を印加できるヒータ27を有しているにも関わらず、印加電圧がVbで一定であるため、小さい電力Wh2しか印加できない。この結果、ガスセンサG2(ヒータ抵抗R2>Rmin)の昇温速度は、ガスセンサG1(ヒータ抵抗R1=Rmin)よりも遅くなり、活性化温度Taに到達するまで、ガスセンサG1よりも長い時間を要する。
【0072】
実施形態1に係るガスセンサ制御装置2は、ヒータ27を有するガスセンサ1の昇温を制御するガスセンサ制御装置2であって、ヒータ27にヒータ電圧Vhを印加するヒータ通電制御回路71と、ヒータ27に流れるヒータ電流Ihを計測する電流計測部77と、制御部9と、を含み、ヒータ通電制御回路71は、所定の始動電圧Vsをヒータ27に印加し、制御部9は、始動電圧Vsが印加されたときのヒータ電流Ihに基づき、ヒータ27に印加されるヒータ電力Whが所定の目標電力Wh1となるようにヒータ電圧を設定する。
【0073】
図7図9のL31、L32、L33において、上述したガスセンサG2を、実施形態1に係るガスセンサ制御装置2で制御した場合におけるヒータ電力Wh等の時間変化を示す。なお、上述の通り、ガスセンサG2のヒータ抵抗R2は下限値Rminより大きい(R2>Rmin)。
【0074】
ガスセンサ制御装置2では、図6のS10~S60において、始動電圧Vsを印加したときのヒータ抵抗Rhに基づいて、ヒータ電圧Vh(突入電圧Vr)を算出している。突入電圧Vrは、始動電圧Vsの印加後に印加されるヒータ電圧Vhであり、ヒータ27に目標電力Wh1を印加できるヒータ電圧Vhとして上記(5)式から算出される(L31、L32)。
【0075】
そして、S70~S80において、素子温度Tsが活性化温度Ta以上に昇温するまで(L33)、ヒータ電圧Vhとして突入電圧Vrを印加する(L32)。図9に示すように、ガスセンサ制御装置2によると、活性化温度Taまで到達するのに要する到達時間はt3となる(L33)。これは、ガスセンサG1(R1=Rmin)に上限電圧Vbを印加したときの到達時間t1(L13)と同じであり、昇温速度も同じである。また、同一のガスセンサG2に対して、上限電圧Vbを印加したときの到達時間t2と比較すると(L23)、到達時間が短くなっている。
【0076】
すなわち、ガスセンサ制御装置2によると、ガスセンサ制御装置2の始動後に測定したヒータ抵抗Rhを基にして、突入電圧Vrを算出し、ヒータ27に突入電圧Vrを印加する。このとき、ヒータ27には目標電力Wh1が印加される(L31)。これにより、ヒータ抵抗Rhのバラツキに関わらず、検出素子10を短い到達時間t1(=t3)で昇温させることができるため、ヒータ抵抗Rhが大きなガスセンサG2であっても昇温速度が遅くならず、到達時間の遅延を抑制できる。また、ECU5で昇温速度のバラツキを考慮した制御をする必要がなくなるため、制御システムの自由度が増したり、制御システムのロバスト性を高めたりできる。
【0077】
また、ガスセンサ制御装置2が、昇温のためにヒータ27に印加する突入電圧Vrを算出するのは、ガスセンサ1の始動後に一度だけである(S60)。このようにすると、従来のガスセンサ制御装置から装置を変更する箇所が少なくなり、本発明の適用が容易である。
【0078】
また、ガスセンサ制御装置2では、ヒータ27に目標電力Wh1よりも大きな電力が印加されることはないため、熱衝撃に起因する検出素子10の破損が抑制される。
【0079】
さらに、ガスセンサ制御装置2には、図2に示すように2以上のガスセンサ1が接続されている。各ガスセンサ1のヒータ抵抗Rhは一定の範囲内でばらついているが、本実施形態に係るガスセンサ制御装置2では、ヒータ抵抗Rhが異なるガスセンサ1であっても、同じ到達時間t1で昇温させることができる(図9、L13、L33参照)。つまり、製造時の寸法誤差に基づくヒータ抵抗Rhのバラツキや、ヒータ27の劣化によるヒータ抵抗Rhの上昇等に起因する到達時間の遅延をキャンセルして、全てのガスセンサ1を、同じ到達時間t1で昇温させることができる。
【0080】
また、ガスセンサ制御装置2は、素子温度Tsを測定する温度計測部(電気回路部70)を含み、制御部9は、素子温度Tsが所定の設定温度(活性化温度Ta)に到達した場合、ヒータ電力Whが目標電力Wh1となるようなヒータ電圧Vhを設定する制御を停止する。そして、素子温度Tsが目標温度Ttを維持する制御(例えばPID制御)を開始する。
【0081】
このようにすると、ガスセンサ1の素子温度Tsが活性化温度Taに到達した後は、目標温度Ttを維持することができる。これにより、過熱によるガスセンサ1の破損やヒータ27の焼損を抑制できる。
【0082】
また、ガスセンサ制御装置2において、ヒータ通電制御回路71は、ヒータ電圧Vhの設定をPWM制御により行い、始動電圧Vsのデューティー比は、ヒータ電圧Vhのデューティー比Dよりも小さい。
【0083】
このようにすると、始動電圧Vsの印加に起因するヒータ27の昇温を抑制できるため、始動電圧Vsが印加されたときのヒータ抵抗Rhを、より正確に算出することができる。これにより、正確なヒータ抵抗Rhに基づいて、ヒータ電圧Vh(突入電圧Vr)を精度よく算出できる。また、デューティー比の小さい始動電圧Vsの印加は短時間で終了するため、その後のヒータ電圧Vh(突入電圧Vr)の算出を早期に実行できる。
【0084】
また、この発明は、ガスセンサ制御方法に適用することができる。
【0085】
<実施形態2>
次に、実施形態2について、図10図13を参照して説明する。実施形態2では、制御部109において行われるフローチャートの処理(図10参照)が、実施形態1の場合(図6参照)と一部異なる。実施形態1と共通する構成、作用、及び効果については重複するため、その説明を省略する。また、実施形態1と同じ構成については、同一の符号を用いるものとする。
【0086】
図11図13のL41~L43は、実施形態1の制御(ガスセンサ1に印加されるヒータ電圧Vhを、突入電圧Vrで一定にする)をした場合の、ヒータ電力Wh等の時間変化を表している。これに対し、L41~L43とヒータ抵抗Rhが同一のガスセンサ1について、後述する実施形態2に係る制御を行った場合の、ヒータ電力Wh等の時間変化を表したものが、L51~L53である。
【0087】
実施形態1に係るガスセンサ制御装置2では、始動後に突入電圧Vrを算出してヒータ27に印加する(S70)。その後、素子温度Tsが活性化温度Taより低い場合は(S80:NO)、S70に戻り、素子温度Tsが活性化温度Ta以上になるまで、ヒータ電圧Vhとして同じ突入電圧Vrを印加し続ける(図6参照)。このときのヒータ電圧Vhを図12、L42に示す。
【0088】
ヒータ27への通電によりヒータ27の温度が上昇すると、ヒータ抵抗Rhも上昇するため、ヒータ電圧VhがVrで一定であっても、ヒータ電力Whは目標電力Wh1から次第に低下する(図11、L41、及び上記(4)式参照)。したがって、図13のL43に示すように、素子温度Tsの昇温速度は次第に低下してしまう。
【0089】
実施形態2に係るガスセンサ制御装置102は、図1に示す実施形態1に係るガスセンサ制御装置2とほぼ同一の構成であるが、制御部109において行われるフローチャートの処理(図10)が実施形態1とは異なる。実施形態2では、スタート後、S170までは、実施形態1のS70までと同じ処理を実行し、S170において突入電圧Vrをヒータ27に印加する(図12、L52)。しかし、実施形態2では、素子温度Tsが活性化温度Taに到達していないと判断したときに(S180:NO)、S120まで戻るようになっている。つまり、実施形態2では、突入電圧Vrの印加後であっても、素子温度Tsが活性化温度Taに達するまでは、S180でNOと判断されるたびにヒータ抵抗Rh及びこれに基づくヒータ電圧Vhの値を新たに算出する。そして、新たに算出したヒータ電圧Vhをヒータ27に印加する。以下、S180以降のフローを詳細に説明する。
【0090】
図10のフローチャートに示すように、素子温度Tsが活性化温度Taよりも低い場合は(S180:NO)、S120に戻るようになっている(一度目のループ)。このとき、突入電圧Vrの印加によって始動時よりもヒータ27の温度は上昇しているため、ヒータ抵抗Rhは、始動時のヒータ抵抗Rh0より上昇している。
【0091】
次に、制御部109は、S120~S170の処理を再度行い、一度目のループにおけるヒータ抵抗Rh1を算出し、Rh1に基づいて、ヒータ電力Whが目標電力Wh1となるときのヒータ電圧Vh1を算出する。そして、ヒータ通電制御回路71からヒータ27に対して、新たに算出されたヒータ電圧Vh1が印加される(S170)。このとき、ヒータ27に印加される電力は、目標電力Wh1である。
【0092】
以降、素子温度Tsが活性化温度Taに達するまで、S120~S180のループが繰り返され、その都度、制御部109により新たに算出されたヒータ電圧Vh1、Vh2・・・が順次ヒータ27に印加される。ヒータ抵抗Rhは次第に上昇するため、ヒータ電圧Vhも次第に上昇する(図12、L52)。一方、ヒータ電力Whは、常に目標電力Wh1で一定である(図11、L51)。
【0093】
ここで、S180における素子温度Tsと活性化温度Taの比較は、定期的(例えば0.1[sec]ごと)に実行され、その都度、制御部109で新たに算出されたヒータ電圧Vhがヒータ27に印加されてヒータ27が発熱し、素子温度Tsが上昇する(図13、L53)。
【0094】
素子温度Tsが活性化温度Ta以上になると(S180:YES)、制御部109は、素子温度Tsがこれ以上上昇しないように、ヒータ電圧Vhの制御を停止する(S190)。そして、制御部109は、素子温度Tsが目標温度Ttを維持するように、他の制御(例えばPID制御)を開始する(S200)。
【0095】
以上説明したように、実施形態2に係るガスセンサ制御装置102では、突入電圧Vrの印加後に、電流計測部77が定期的(例えば0.1[sec]ごと)にヒータ電流Ihの計測を実行し、制御部109は、突入電圧Vrの印加後に電流計測部77で計測されるヒータ電流Ihに基づいて、ヒータ電力Whが目標電力Wh1を維持するように、ヒータ電圧Vhを設定する。
【0096】
このようにすると、突入電圧Vrが印加された後に、ヒータ27の温度及びヒータ抵抗Rhが上昇しても、制御部109は、ヒータ抵抗Rhの上昇後に計測されたヒータ電流Ihに基づいて、上昇後のヒータ抵抗Rh(Rh1)を算出する。さらに、制御部109は、ヒータ抵抗Rh1に基づいて、ヒータ電力Whが目標電力Wh1となるときのヒータ電圧Vh1及びデューティー比Dを算出して、これらをヒータ27に印加する(S170)。これにより、ヒータ電力Whは目標電力Wh1で維持される。つまり、検出素子10には、破損しない範囲における上限の電力が常に印加されるため、昇温速度の低下が抑制される。
【0097】
図13のグラフにおいて、ヒータ電圧Vhが突入電圧Vrで一定の場合(L43)と、ヒータ電力Whが目標電力Wh1で一定である場合(L53)の、素子温度Tsの時間変化を示す。L43では時間の経過とともに昇温速度(グラフにおける傾き)が低下しているのに対し、L53では昇温速度はほとんど低下していない。素子温度Tsが活性化温度Taに到達するまでの所要時間(到達時間)は、図13に示すようにL43ではt4、L53(本実施形態)ではt5となっている。t5<t4であることから、本実施形態の構成では、より短時間でガスセンサ1を昇温できる。
【0098】
また、図11、L51に示すようにヒータ27に目標電力Wh1以上の電力が印加されることはない。これにより、熱衝撃による検出素子10の破損を抑制できる。
【0099】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
【0100】
(1)上述した各実施形態では、固体電解質体13の抵抗Rpvsから素子温度Tsを求めたが、熱電対やサーミスタ、プラチナ温度センサ等の温度センサを用いて素子温度Tsの測定を行ってもよい。
【0101】
(2)上述した各実施形態では、ガスセンサとして酸素濃度を検出する全領域空燃比センサを例示したが、これに限らず、理論空燃比を境に出力が急峻に変化する酸素センサ(λセンサ)や、他のガス、例えばNOxの濃度を検出するガスセンサであってもよい。
【0102】
(3)上述した各実施形態では、1つのガスセンサ制御装置に1又は2以上のガスセンサを接続した場合について例示している。しかし、2以上のガスセンサ制御装置のそれぞれに、1又は2以上のガスセンサを接続して、全てのガスセンサを制御してもよい。
【0103】
(4)上述した各実施形態では、ガスセンサ制御装置2、102の始動後に、ヒータ27に始動電圧Vsを印加した。始動電圧Vsの印加は、ガスセンサ制御装置2、102の始動と同時であってもよい。
【符号の説明】
【0104】
1…ガスセンサ、2、102…ガスセンサ制御装置、3…ガスセンサユニット、9、109…制御部、10…検出素子、11、13…固体電解質体、12、17、18、24…絶縁基体、15…拡散律速部、19~22…電極、23…ガス検出室、24a…開口、25…保護層、26…発熱抵抗体、27…ヒータ、60…酸素ポンプセル、61…酸素濃度検出セル、70…電気回路部、71…ヒータ通電制御回路(電圧印加部の一例)、72…ポンプ電流駆動回路、73…電圧出力回路(温度計測部の一例)、74…微小電流供給回路、75…基準電圧比較回路、76…ポンプ電流検出回路、77…電流計測部、77a…電圧計、Vh…ヒータ電圧、Ve…起電力、Icp…微小電流、Ip…ポンプ電流、Ih…ヒータ電流、Rsh…シャント抵抗
図1
図2
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図4
図5
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図10
図11
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