(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-24
(45)【発行日】2024-08-01
(54)【発明の名称】ネットワーク装置及びその制御方法、通信システム並びにプログラム
(51)【国際特許分類】
H04W 76/15 20180101AFI20240725BHJP
H04W 48/16 20090101ALI20240725BHJP
H04W 28/08 20230101ALI20240725BHJP
H04W 72/0457 20230101ALI20240725BHJP
H04W 16/28 20090101ALI20240725BHJP
【FI】
H04W76/15
H04W48/16 135
H04W28/08
H04W72/0457 110
H04W16/28 130
(21)【出願番号】P 2021141571
(22)【出願日】2021-08-31
【審査請求日】2023-07-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000208891
【氏名又は名称】KDDI株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 陽登
【審査官】▲高▼木 裕子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-022962(JP,A)
【文献】特開2019-140465(JP,A)
【文献】特開2011-223137(JP,A)
【文献】特開2014-049931(JP,A)
【文献】国際公開第2010/052988(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 7/24 - 7/26
H04W 4/00 - 99/00
3GPP TSG RAN WG1-4
SA WG1-4
CT WG1、4
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のアクセスポイント(AP)に接続可能なユーザ端末に対して、当該ユーザ端末がデータ通信用に確立する複数のベアラのそれぞれを収容するAPとゲートウェイ(GW)とを決定する、コアネットワークに配置されたネットワーク装置であって、
前記コアネットワークに配置された複数のGWのそれぞれに生じている負荷を示す負荷情報を、各GWから取得する取得手段と、
複数のベアラから成る通信セッションの確立を求める確立要求が前記ユーザ端末から行われると、前記取得手段によって取得された前記負荷情報と、前記複数のAP及び前記複数のGWに関連するネットワーク構成情報とに基づいて、1つ以上のアクティブベアラ及び1つ以上のスタンバイベアラを含む、確立するベアラの本数と、当該本数のベアラのそれぞれを収容するAP及びGWを決定する決定手段と、
前記決定手段による決定に従って、前記ユーザ端末によるデータ通信用のベアラを確立する処理の実行を、前記コアネットワークに配置されたセッション制御機能に対して要求する要求手段と、
を備えることを特徴とするネットワーク装置。
【請求項2】
前記決定手段は、確立するベアラごとに、前記セッション制御機能によって前記ユーザ端末に対して選択された収容先候補のAP及びGWのうちで当該ベアラを収容するAP及びGWを選択する
ことを特徴とする請求項1に記載のネットワーク装置。
【請求項3】
前記収容先候補のAP及びGWは、前記ユーザ端末に搭載されたアプリケーションの通信要件に基づいて決定される
ことを特徴とする請求項2に記載のネットワーク装置。
【請求項4】
前記負荷情報は、GWの空きリンク容量を示す情報を含み、
前記決定手段は、前記セッション制御機能によるベアラ確立処理の完了後の空きリンク容量が複数のGW間で均等になるように、確立する各ベアラの収容先となるAP及びGWを決定する
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のネットワーク装置。
【請求項5】
前記決定手段は、前記ユーザ端末に搭載されたアプリケーションの所望の通信速度に基づいて、確立するアクティブベアラの本数を決定する
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のネットワーク装置。
【請求項6】
前記決定手段は、オペレータポリシに従って、確立するスタンバイベアラの本数を決定する
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載のネットワーク装置。
【請求項7】
前記要求手段による要求に応じて前記セッション制御機能によりベアラの確立処理が行われた際に、ベアラの確立が失敗すると、前記ユーザ端末、前記AP及び前記GWの1つ以上から、ベアラの確立失敗の原因を示す原因値が送信され、
前記要求手段は、前記ユーザ端末、前記AP及び前記GWの1つ以上から送信された前記原因値に基づいて、前記ユーザ端末に対する新たなベアラの追加を前記セッション制御機能に対して要求する
ことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載のネットワーク装置。
【請求項8】
前記決定手段は、前記
ユーザ端末が接続可能なAPとGWとのそれぞれの組み合わせについて、確立したベアラを当該組み合わせのAP及びGWに収容した場合の、当該ベアラの通信速度期待値を導出し、各ベアラの通信速度期待値を前記ユーザ端末へ通知し、
前記要求手段は、前記ユーザ端末から、各ベアラの前記通信速度期待値に基づいて、スタンバイベアラをアクティブベアラへ切り替えることを求める切替要求が行われると、前記ユーザ端末に対して確立されている1つ以上のスタンバイベアラをアクティブベアラへ切り替える切替処理の実行を、前記セッション制御機能に対して要求する
ことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載のネットワーク装置。
【請求項9】
前記負荷情報は、GWの空きリンク容量を示す情報を含み、
前記決定手段は、前記負荷情報と各ベアラの前記通信速度期待値とに基づいて、前記ユーザ端末に対して確立されているスタンバイベアラのうちで、前記切替処理においてベアラタイプをアクティブベアラへ切り替えるベアラの本数とアクティブベアラへ切り替える対象ベアラとを決定する
ことを特徴とする請求項8に記載のネットワーク装置。
【請求項10】
前記要求手段による要求に応じて前記セッション制御機能により前記切替処理が行われた際に、ベアラタイプの切り替えが失敗すると、前記ユーザ端末、前記AP及び前記GWの1つ以上から、ベアラタイプの切り替え失敗の原因を示す原因値が送信され、
前記要求手段は、前記ユーザ端末、前記AP及び前記GWの1つ以上から送信された前記原因値に基づいて、前記ユーザ端末に対する新たなスタンバイベアラの追加を前記セッション制御機能に対して要求する
ことを特徴とする請求項8又は9に記載のネットワーク装置。
【請求項11】
前記ユーザ端末は、前記ネットワーク装置から通知された各ベアラの通信速度期待値に基づいて、前記確立されたアクティブベアラを用いて、前記ユーザ端末に搭載されたアプリケーションの所望の通信速度を達成できないと判定すると、前記切替要求を行う
ことを特徴とする請求項8又は9に記載のネットワーク装置。
【請求項12】
前記アクティブベアラは、データ伝送に使用されるベアラであり、
前記スタンバイベアラは、ベアラとして確立されているがデータ伝送に使用できないベアラであって、アクティブ化が行われることで前記アクティブベアラへの切り替えが可能なベアラである
ことを特徴とする請求項1乃至11のいずれか1項に記載のネットワーク装置。
【請求項13】
請求項1乃至12のいずれか1項に記載のネットワーク装置と、
前記コアネットワークに配置され、前記ネットワーク装置と通信可能な前記セッション制御機能と、
を備えることを特徴とする通信システム。
【請求項14】
複数のアクセスポイント(AP)に接続可能なユーザ端末に対して、当該ユーザ端末がデータ通信用に確立する複数のベアラのそれぞれを収容するAPとゲートウェイ(GW)とを決定する、コアネットワークに配置されたネットワーク装置の制御方法であって、
前記コアネットワーク上の複数のGWのそれぞれに生じている負荷を示す負荷情報を、各GWから取得する取得工程と、
複数のベアラから成る通信セッションの確立を求める確立要求が前記ユーザ端末から行われると、前記取得工程で取得された前記負荷情報と、前記複数のAP及び前記複数のGWに関連するネットワーク構成情報とに基づいて、1つ以上のアクティブベアラ及び1つ以上のスタンバイベアラを含む、確立するベアラの本数と、当該本数のベアラのそれぞれを収容するAP及びGWを決定する決定工程と、
前記決定工程における決定に従って、前記ユーザ端末によるデータ通信用のベアラを確立する処理の実行を、前記コアネットワーク上のセッション制御機能に対して要求する要求工程と、
を含むことを特徴とするネットワーク装置の制御方法。
【請求項15】
ネットワーク装置が備えるコンピュータに、請求項14に記載のネットワーク装置の制御方法の各工程を実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コアネットワークに配置されるネットワーク装置及びその制御方法、通信システム並びにプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
モバイル通信システム(移動体通信システム)において、ユーザ端末(UE)は、無線アクセスネットワーク(RAN)を経由して、コアネットワーク(モバイルコア)にアクセスする。モバイルコアは、ユーザデータの伝送を担うユーザプレーン(U-Plane)機能と、モビリティ管理やセッション管理等の制御を担う制御プレーン(C-Plane)機能を有する。モバイルコアのセッション制御機能は、ユーザセッション情報の管理、及び通信経路であるベアラの確立及び解放を行う。モバイルコアにおいて、ユーザデータの伝送はゲートウェイ(GW)によって行われる。ユーザ端末がデータ通信のために接続するGWの選択等のベアラ設定は、セッション制御機能によって行われる。なお、第5世代(5G)モバイル通信システムにおいて、GWは、「UPF(User Plane Function)」と称され、セッション制御機能は「SMF(Session Management Function)」と称される。非特許文献1及び2には、このようなモバイル通信システムが規定されている。
【0003】
将来のモバイル通信システムでは、転送されるユーザデータの大容量化が見込まれる。非特許文献3には、複数のベアラを用いて通信を行う技術が記載されている。このような技術は、大容量通信の実現のために活用されうる。また、非特許文献4には、第6世代(6G)モバイル通信システムにて実用化が期待される「Cell-free Massive MIMO」を規定している。セルフリー(Cell-free)アーキテクチャは、1つの基地局CPUと複数のアクセスポイント(AP)から成る。このようなアーキテクチャにおいて、UEは、複数のAPとベアラを確立して通信を行うことが想定される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】3GPP TS 23.501 V17.0.0, "3rd Generation Partnership Project; Technical Specification Group Services and System Aspects; System architecture for the 5G System (5GS); Stage 2 (Release 17)"
【文献】3GPP TS 23.502 V17.0.0, "3rd Generation Partnership Project; Technical Specification Group Services and System Aspects; Procedures for the 5G System (5GS); Stage 2 (Release 17)"
【文献】IEEE/ACM Transactions on Networking (Volume: 14, Issue: 6, Dec. 2006), "Multi-Path TCP: A Joint Congestion Control and Routing Scheme to Exploit Path Diversity in the Internet"
【文献】IEEE Transactions on Wireless Communications (Volume: 16, Issue: 3, March 2017), "Cell-Free Massive MIMO Versus Small Cells"
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のようなモバイル通信システムにおいて、転送されるユーザデータの容量がGWの容量を超えると、ユーザ端末によるデータ通信にデータロスが発生する可能性が高まる。また、輻輳によるデータロスが発生すると、TCPの輻輳制御により、データ通信がスロースタートフェーズから輻輳回避フェーズに移行する。輻輳回避フェーズでは、データ転送量の増加が線形になる。例えば数百Gbpsを必要とする大容量通信において、所望の速度に到達する前にデータロスが発生し、輻輳回避フェーズに移行してしまうことで、所望の通信速度を速やかに達成できない可能性がある。
【0006】
大容量通信の実現のために、上述のように複数のベアラから成る通信セッションを確立するマルチセッション技術をモバイル通信システムに適用する場合、データ通信に使用されるベアラの本数を決定する機構が必要になる。例えば、帯域の不足の検知に応じてベアラを逐次追加する場合、ベアラの確立に一定の時間を要するため、アプリケーションの通信等のデータ通信を開始するまでに時間がかかりうる。
【0007】
また、輻輳回避フェーズに移行する通信セッションは、通信中のデータロスの有無に依存するため、事前に必要以上に多数のベアラを確立しない限り、所望の通信速度を達成することは難しい。一方で、大量の通信セッションを1つのユーザ端末又はそのアプリケーションに割り当てるには、モバイルコアの処理性能が不足する可能性がある。
【0008】
そこで、本発明は、1つのユーザ端末が1つ以上のAPとの間にデータ通信用の複数のベアラを確立することが可能なモバイル通信システムにおいて、より効率的なユーザ端末の収容を可能にする技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様に係るネットワーク装置は、複数のアクセスポイント(AP)に接続可能なユーザ端末に対して、当該ユーザ端末がデータ通信用に確立する複数のベアラのそれぞれを収容するAPとゲートウェイ(GW)とを決定する、コアネットワークに配置されたネットワーク装置であって、前記コアネットワークに配置された複数のGWのそれぞれに生じている負荷を示す負荷情報を、各GWから取得する取得手段と、複数のベアラから成る通信セッションの確立を求める確立要求が前記ユーザ端末から行われると、前記取得手段によって取得された前記負荷情報と、前記複数のAP及び前記複数のGWに関連するネットワーク構成情報とに基づいて、1つ以上のアクティブベアラ及び1つ以上のスタンバイベアラを含む、確立するベアラの本数と、当該本数のベアラのそれぞれを収容するAP及びGWを決定する決定手段と、前記決定手段による決定に従って、前記ユーザ端末によるデータ通信用のベアラを確立する処理の実行を、前記コアネットワークに配置されたセッション制御機能に対して要求する要求手段と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、1つのユーザ端末が1つ以上のAPとの間にデータ通信用の複数のベアラを確立することが可能なモバイル通信システムにおいて、より効率的なユーザ端末の収容が可能になる。これにより、モバイル通信システムにおいてユーザ端末による大容量通信を実現することを可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図3】セレクタのハードウェア構成例を示すブロック図
【
図5】バルクセッション確立処理のシーケンスを示すシーケンス図
【
図6】ベアラのアクティブ化制御のシーケンスを示すシーケンス図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。なお、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また実施形態で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明に必須のものとは限らない。実施形態で説明されている複数の特徴のうち二つ以上の特徴が任意に組み合わされてもよい。また、同一若しくは同様の構成には同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0013】
本実施形態では、ユーザ端末(UE)による大容量通信(例えば、UEに搭載されたアプリケーションによる大容量通信)を実現するために、モバイル通信システムは、UEが複数のベアラを確立して使用できるように構成される。本明細書において、複数のベアラから成る通信セッションを確立することを「バルクセッション確立」と称する。
【0014】
また、本実施形態では、UEが確立できるベアラとして、2種類のベアラ(「アクティブベアラ」及び「スタンバイベアラ」)を定義する。「アクティブベアラ」は、データ伝送に使用されるベアラを示す。「スタンバイベアラ」は、ベアラとして確立されているがデータ伝送に使用できないベアラであって、アクティブ化が行われることでアクティブベアラへの切り替えが可能なベアラである。例えば、帯域が不足することが明らかになり、データ伝送用のベアラの追加が必要になった場合に、予め確立しておいたスタンバイベアラのアクティブ化が行われる。これにより、ベアラ(アクティブベアラ)を新たに確立するよりも、速やかにベアラの追加を行うことが可能である。なお、本実施形態では、同じ組み合わせのAP-GW間に複数のベアラを確立可能であるものとする。
【0015】
<モバイル通信システムの構成>
図1は、本実施形態に係るモバイル通信システムの構成例を示している。
図1に示すように、本実施形態のモバイルコア30には、移動管理機能(移動管理部)31、セッション制御機能(セッション制御部)32、及び複数のGW34に加えて、セレクタ(Selector)34が新たに導入される。本実施形態のセレクタ34は、複数のAPに接続可能なUEに対して、当該UEがデータ通信用に確立する複数のベアラのそれぞれを収容するAPとGWとを決定する、コアネットワーク(モバイルコア30)に配置されたネットワーク装置の一例である。
【0016】
モバイル通信システムは、無線基地局の機能を提供する構成として、複数のアクセスポイント(AP)20を備えている。複数のAP20は、モバイルコア30に接続される。本実施形態のモバイル通信システムには、上述のセルフリーアーキテクチャが適用されている。このため、UE10は、複数のAP20に接続し、当該接続したAP20を介してモバイルコア30にアクセスし、更にデータネットワーク40にアクセスすることが可能である。
【0017】
セッション制御部32は、ユーザセッション情報の管理、及び通信経路であるベアラの確立及び解放を行うように構成される。本実施形態では、セッション制御部32は、UE10がデータ伝送に使用するベアラを、セレクタ33によって選択されたAP20及びGW34に収容するように、ベアラの確立を行う。セレクタ33は、UE10に対して確立するベアラ(アクティブベアラ及びスタンバイベアラ)の本数の決定、確立する各ベアラの収容先の選択、及びベアラタイプの切り替えの判断を行うように構成される。
【0018】
<セレクタの構成>
図2は、セレクタ33の機能構成例を示すブロック図である。
図2に示すように、セレクタ33は、ベアラ本数決定部201、収容先選択部202、ベアラ切替判断部203、及び通信部204を有する。
【0019】
ベアラ本数決定部201は、UE10に対して確立するベアラ(アクティブベアラ及びスタンバイベアラ)の本数を決定する機能を提供する。収容先選択部202は、UE10に対して確立するベアラの収容先となるAP及びGWを選択(決定)する機能を提供する。ベアラ切替判断部203は、UE10に対して確立済みのスタンバイベアラのアクティブ化するか(アクティブベアラに切り替えるか)を判断する機能を提供する。通信部204は、モバイルコアの他のネットワーク機能(セッション制御部32及びGW34)と通信する機能を提供する。
【0020】
また、セレクタ33は、以下の情報を記憶装置304(
図3)に保持する。
‐GW負荷情報
‐NW構成(ネットワーク構成)情報
‐ユーザセッション情報
‐ベアラ確立拒否時の原因値(Cause Value)
【0021】
NW構成情報は、複数のAP及び複数のGWに関連するネットワーク構成情報の一例であり、例えば、NWトポロジ、無線リンク容量、及びAP-GW間のリンク容量を含む。なお、AP-GW間のリンク容量は静的に設定されうる。ユーザセッション情報は、例えば、各ベアラのID、通信セッションのセッションIDとそれに関連付けられたベアラIDリスト(マップ)、各ベアラの収容先AP、収容先GW、及び、通信セッションに対してユーザが要求している通信速度、を含む。GW負荷情報は、GWの空き容量(空きリンク容量)を示す情報を含みうる。
【0022】
セレクタ33は、ベアラの確立が拒否された場合の原因を示す原因値(Cause Value)を保持する。この原因値は、ベアラ切替判断部203による、スタンバイベアラのアクティブ化に関する判断に使用されうる。また、セレクタ33は、GWに生じている負荷を示すGW負荷情報を、定期的に各GWから取得して保持する。GW負荷情報の取得周期は、オペレータのポリシに従って設定される(例えば、30秒周期)。
【0023】
なお、セレクタ33の各機能は、モバイルコア30内のネットワーク機能のいずれかに包含されてもよい。
【0024】
セレクタ33は、汎用サーバとして構成される場合、一例として、
図3に示されるようなハードウェア構成を有する。具体的には、セレクタ33は、CPU301、ROM302、RAM303、HDD等の記憶装置(ストレージ)304、及び通信デバイス305を備える。
【0025】
セレクタ33では、例えばROM302、RAM303及び記憶装置304のいずれかに格納された、上述の各機能を実現するプログラムがCPU301によって実行される。なお、CPU301は、ASIC(特定用途向け集積回路)、FPGA(フィールドプログラマブルゲートアレイ)、DSP(デジタルシグナルプロセッサ)等の1つ以上のプロセッサによって置き換えられてもよい。通信デバイス305は、CPU301による制御下で、外部装置との通信を行うための通信インタフェースである。セレクタ33は、それぞれ接続先が異なる複数の通信デバイス305を有していてもよい。
【0026】
セッション制御部32及びGW34も、セレクタ33と同様のハードウェア構成を有していてもよい。また、セッション制御部32、GW34及びセレクタ33は、本明細書で説明する各機能を実行する専用のハードウェアを備えてもよいし、一部をハードウェアで実行し、プログラムを動作させるコンピュータでその他の部分を実行してもよい。また、全機能がコンピュータとプログラムにより実行されてもよい。
【0027】
<GWの構成>
図4は、GW34の機能構成例を示すブロック図である。GW34は、AP20とデータネットワーク40との間のユーザデータの伝送に関連する既存機能(図示せず)に加えて、負荷監視部401、負荷通知部402、及び通信部403を有する。負荷監視部401は、GW34に生じている負荷を監視し、負荷を示す負荷情報を出力する。負荷通知部402は、負荷監視部401から出力される負荷情報を、所定の通知頻度でセレクタ33へ通知する。この通知頻度は、オペレータのポリシに従って設定される。
【0028】
<UEの機能>
本実施形態のモバイル通信システムにおいて、UE10は下記の機能を有する。UE10は、アプリケーション(以下、「アプリ」と称する。)による通信等の大容量通信を開始する際、複数のベアラから成る通信セッションを確立するためのバルクセッション確立要求を、モバイルコア30へ送信する。UE10は、送信する要求メッセージに以下の情報を含める。
‐所望の通信速度
‐UE10が接続済みのAPのリスト
‐接続候補APとその電波強度のリスト
‐アプリ用の通信セッションのために確立可能なベアラ数の上限値
【0029】
なお、接続候補APとは、APからの電波を受信可能であるが、UEとの接続は確立されていないAPを指す。UE10は、このリストを適宜更新する能力を有する。
【0030】
本実施形態のモバイル通信システムには、上述のセルフリーアーキテクチャが適用されている。このため、UE10は、セルフリーの概念に則って、複数のAPに接続してデータ通信を行うことが可能であり、即ち、複数のAPとの間で複数のベアラを確立することができるように構成される。なお、UE10は、1つのAPとの間に複数のベアラを確立できるように構成される。
【0031】
UE10は、バルクセッション確立時に、モバイルコア30から、ベアラごとの通信速度期待値を受信し、それを保存する。UE10は、大容量通信用に確立したベアラが輻輳回避モードに入り、保存済みの通信速度期待値を達成できないと判断した場合、モバイルコア30のセッション制御部32に対して、その旨を通知する。この通知により、セッション制御部32は、(後述する
図6の手順で)UE10についての通信セッションのアクティブ化制御を開始する。
【0032】
また、UE10に搭載されているアプリ(以下、「端末アプリ」とも称する。)には、所望の通信速度が設定されている。端末アプリは、バルクセッション確立要求の送信時に、UE10と連携して、所望の通信速度を示す情報を、要求メッセージに含めて送信する機能を有する。
【0033】
<バルクセッション確立処理>
図5は、本実施形態に係るモバイル通信システムにおける、UE10のためのバルクセッション確立処理のシーケンスを示すシーケンス図である。
図5に示す処理の開始時には、UE10が以下の状態にあることを前提としている。UE10は、電源オン/機内モードオフ等をトリガとして、既に通信セッションを確立している。なお、多くの場合、1つの通信セッションに1つのベアラが設定される。これに伴い、UE10は、1つ以上のAPと接続済みの状態にある。
【0034】
まずS501で、UE10は、ユーザによる端末アプリの操作等により、複数のベアラを用いる通信(大容量通信)の開始を決定する。
【0035】
この決定に従って、S502で、端末アプリは、確立済みの通信セッションを介して、通信相手となるアプリサーバ50が、複数のベアラを用いる通信に対応しているか否か(即ち、マルチセッションに対応しているか否か)を確認する。端末アプリは、例えば、Multi-path TCPを活用する場合には3-way handshakeを行うことで、このような確認を行う。ただし、例えば、複数のベアラを用いる通信にアプリサーバ50が対応しているか否かを既に確認済みであるか、又は複数のベアラを用いる通信にアプリサーバ50が対応していることが端末アプリに予め設定されている場合には、S502の確認処理は省略されてもよい。
【0036】
次にS503で、UE10は、バルクセッションの確立要求をセッション制御部32へ送信する。この要求メッセージには、以下の情報が含められる。
‐所望の通信速度
‐UE10が接続済みのAPのリスト
‐接続候補APとその電波強度のリスト
‐最大ベアラ数
‐通信セッションに関連付けられた情報(例:セッションID、S-NSSAI(スライス決定情報)、及びDNN(出口ネットワーク))
【0037】
なお、最大ベアラ数は、予め設定されている、UE10が使用可能な最大ベアラ数から、UE10が使用中のベアラ数を差し引いた数(即ち、この通信セッションのために用意可能なベアラ数の上限値)である。また、所望の通信速度は、端末アプリに予め設定されている。
【0038】
バルクセッション確立要求を受信したセッション制御部32は、S504で、UE10の端末アプリによるバルクセッション確立の可否を確認する。この確認処理は、オペレータのポリシ(例えば、最大収容ユーザ数を超えたら受け付けない、又は、サービス提供可能APが接続候補APのリストに存在しない場合は受け付けない)及び契約者情報(サービス契約の有無)を参照することで行われる。
【0039】
セッション制御部32は、上記の確認の結果、バルクセッション確立不可と判断した場合、S505aで、バルクセッション確立拒否を示す応答メッセージをUE10へ送信し、
図5のシーケンスによる処理を終了する。一方、セッション制御部32は、バルクセッション確立可能と判断した場合、S505bで、端末アプリの通信要件(例えば、S-NSSAI及びDNN)に応じて、ベアラの収容先候補となるAP及びGWを選択(決定)する。例えば、端末アプリが専用スライスを使用する場合、そのスライスのID(S-NSSAI)に対応しているGWを、収容先候補として選択する。
【0040】
次にS506で、セッション制御部32は、セレクタ33に対して、確立するベアラの本数の決定、各ベアラの収容先となるAP及びGWの選択、及び各ベアラのタイプ(アクティブ/スタンバイ)の選択を要求するための処理要求メッセージを送信する。この処理要求メッセージには、以下の情報が含められる。
‐セッションID
‐所望の通信速度
‐UE10が接続済みのAPのリスト
‐接続候補APとその電波強度のリスト
‐最大ベアラ数
‐AP及びGWの収容先候補
【0041】
S507で、セレクタ33は、処理要求メッセージを受信すると、受信した当該メッセージに従って処理を実行する。具体的には、セレクタ33は、記憶装置304に保持している情報(例えば、GWの空き容量、AP-GW間の物理的な帯域、AP-UE間の無線区間の帯域、及び/又は当該無線区間のロス率)に基づいて、UEが接続可能なAP及びGWについてのそれぞれの組み合わせでベアラを確立した場合の、ベアラ1本当たりの通信速度期待値を導出する。例えば、通信速度期待値は、UE-AP1-GW1のベアラについては10[Gbps]、UE-AP1-GW2のベアラについては5[Gbps]等と導出される。
【0042】
通信速度期待値の導出後、セレクタ33は、S507の処理の完了後の空き容量が、複数のGW間で可能な限り均等になるように、GWの空き容量に応じて、確立するアクティブベアラの収容先となるAP及びGWを決定(選択)する。収容先AP及びGWは、受信した処理要求メッセージに含まれる収容先候補から選択される。更に、セレクタ33は、端末アプリの所望の通信速度に基づいて、確立するアクティブベアラの本数を決定する。例えば、セレクタ33は、アクティブベアラの本数を、当該所望の通信速度の達成が期待される本数に決定する。なお、セレクタ33は、オペレータのポリシに従って冗長の本数を追加して、アクティブベアラの本数を決定してもよい。
【0043】
また、セレクタ33は、確立するスタンバイベアラの本数とその収容先AP及びGWも決定する。この決定は、例えば、端末アプリの所望の通信速度と、決定されたアクティブベアラの本数と、各アクティブベアラの収容先AP及びGWとに基づいて、オペレータのポリシに従って行われうる。例えば、アクティブベアラと同じ本数のスタンバイベアラを用意し、アクティブベアラの収容先AP及びGWの組み合わせごとに、同じ本数のスタンバイベアラを配置するように、上記の決定が行われうる。
【0044】
このように、セレクタ33は、複数のベアラから成る通信セッションの確立を求める確立要求(バルクセッション確立要求)がUE10から行われると(S503)、S507において、取得された負荷情報と、NW構成情報とに基づいて、1つ以上のアクティブベアラ及び1つ以上のスタンバイベアラを含む、確立するベアラの本数と、当該本数のベアラのそれぞれを収容するAP及びGWを決定する。また、この決定は、確立するベアラごとに、S505bにおいてセッション制御機能32によってUE10に対して選択された収容先候補のAP及びGWのうちで当該ベアラを収容するAP及びGWを選択することによって行われる。
【0045】
S507の処理の完了後、S508で、セレクタ33は、受信した処理要求メッセージに対する応答メッセージをセッション制御部32へ送信する。この応答メッセージには、
セッションIDとともに、S507において決定したベアラの本数分、各ベアラに関する以下の情報が含められる。
‐ベアラID
‐ベアラタイプ(アクティブ/スタンバイ)
‐収容先GWのID
‐収容先APのID
‐ベアラの通信速度期待値
なお、セレクタ33は、新たに確立すべきベアラが無いと判断した場合、その旨の情報を含む応答メッセージを送信する。
【0046】
セッション制御部32は、新たに確立すべきベアラが無いことを示す情報を含む応答メッセージをセレクタ33から受信すると、S509aで、その旨を示すバルクセッション確立応答メッセージをUE10へ送信し、
図5のシーケンスによる処理を終了する。一方、セッション制御部32は、確立すべきベアラに関する上記の情報を含む応答メッセージを受信すると、ベアラごとに、S509b~S517の処理を実行する。なお、S509b~S517の処理は、複数のベアラについて並列に実行されてもよい。
【0047】
S509b~S514の処理は、S507におけるセレクタ33の決定(選択)に従って、UE-AP間及びAP-GW間にベアラを確立するベアラ確立処理である。
【0048】
まずS509bで、セッション制御部32は、UE-AP間のベアラの確立を求めるベアラ確立要求をAP20へ送信する。このベアラ確立要求は、セッションID、ベアラID、ベアラタイプ、GWのID、及び通信速度期待値、を含む。なお、AP20がベアラ確立要求を拒否する場合、以下のS510及びS511はスキップされる。
【0049】
S510で、AP20は、ベアラ確立要求をUE10へ送信する。このベアラ確立要求は、セッションID、ベアラID、ベアラタイプ、及び通信速度期待値、を含む。UE10は、ベアラ確立要求を受信したタイミングで、ベアラIDと通信速度期待値とを対応付けて保存する。UE10が、保存した情報に基づいて、端末アプリによる通信のために通信速度が不足していると判断した場合等に、後述する
図6に示すシーケンスによる、ベアラのアクティブ化制御が行われる。
【0050】
S511で、UE10は、受信したベアラ確立要求に従ってベアラの確立を試み、その結果を示すベアラ確立応答をAP20へ送信する。ベアラの確立に成功した場合、このベアラ確立応答は、セッションID、ベアラID、及びベアラ確立結果、を含む。なお、UE10が原因となりベアラの確立に失敗した場合、ベアラ確立応答には、その旨を示す原因値(Cause Value)も含められる。UE10からのベアラ確立応答の受信に応じて、AP20は、S512で、UE-AP間のベアラ確立結果を示すベアラ確立応答をセッション制御部32へ送信する。
【0051】
ここで、UE-AP間のベアラ確立に失敗した場合、以下のS513及びS514はスキップされる。また、S509b及びS512において、AP20が原因となりベアラの確立に失敗した場合、AP20は、その旨を示す原因値(Cause Value)もベアラ確立応答に含めてセッション制御部32へ送信する。また、S511においてUE10から原因値を受信した場合、セッション制御部32は、受信した原因値をベアラ確立応答に含めてセッション制御部32へ送信する。セッション制御部32は、AP20から受信した各原因値を、対応するセッションID及びベアラIDに関連付けて管理する。
【0052】
次にS513で、セッション制御部32は、AP-GW間のベアラの確立を求めるベアラ確立要求をGW34へ送信する。このベアラ確立要求は、セッションID、ベアラID、ベアラタイプ、及びAPのID、を含む。
【0053】
S514で、GW34は、受信したベアラ確立要求に従ってベアラの確立を試み、その結果を示すベアラ確立応答をセッション制御部32へ送信する。ベアラの確立に成功した場合、このベアラ確立応答は、セッションID、ベアラID、及びベアラ確立結果、を含む。GW34が原因となりベアラの確立に失敗した場合、ベアラ確立応答には、その旨を示す原因値(Cause Value)も含められる。
【0054】
このようにして、S509b~S514のベアラ確立処理がベアラごとに実行されることで、UE-AP-GWの区間に複数のベアラが並列に確立される。S509b~S514の処理が完了すると、S515で、セッション制御部32は、バルクセッション確立応答メッセージをUE10へ送信する。このメッセージは、セッションID、ベアラID、及びベアラの確立結果、を含む。
【0055】
ベアラの確立が成功していた場合には、このメッセージの受信をトリガとして、UE10は、S516で、確立されたベアラを用いてユーザデータの伝送を開始する。一方、ベアラの確立に失敗していた場合には、AP20及びUE10のそれぞれにおいて、AP-UE間のベアラを解放する処理が行われる。
【0056】
その後S507で、セッション制御部32は、ベアラ確立応答メッセージをセレクタ33へ送信する。このメッセージは、セッションID、ベアラID、及びベアラの確立結果、を含む。S509b~S514のベアラ確立処理において、いずれかのベアラの確立に失敗していた場合(即ち、UE10、AP20及び/又はGW34から送信された原因値(cause value)をセッション制御部32が受信していた場合)、ベアラの確立失敗の原因を示す原因値も、ベアラ確立応答メッセージに含められてセレクタ33へ送信される。セレクタ33は、セッション制御部32から受信した各原因値を、対応するセッションID及びベアラIDに関連付けて管理する。セレクタ33は、管理している原因値を、バルクセッション確立処理のリセット判断(S519)及び確立すべきベアラの追加判断(S521)に活用する。
【0057】
複数のベアラを用いた通信(ユーザデータの伝送)が行われる間に、所定のイベントの発生に応じて、S518で、セレクタ33は、バルクセッション確立のリセットの実行に関する判断を行いうる。例えば、セレクタ33は、GW34の障害等に起因して、バースト的なベアラ確立失敗が発生し、端末アプリに求められる通信速度を提供不可能であることが判明した場合、バルクセッション確立のリセットを実行すると判断する。セレクタ33は、バルクセッション確立のリセットを実行すると判断した場合にのみ、S519及びS520の処理を行う。
【0058】
S519で、セレクタ33は、バルクセッション確立リセット要求を、セッション制御部32へ送信する。この要求に応じて、S520で、セッション制御部32は、バルクセッションのリセットを求める要求をGW34、AP20及びUE10へ送信することで、UE-AP-GWの区間に確立されているベアラ(複数のベアラ)を解放する。
【0059】
また、複数のベアラを用いた通信(ユーザデータの伝送)が行われる間に、セレクタ33は、確立失敗が生じたベアラの本数が所定の本数を超えた場合等、ベアラを新たに追加する必要があると判断した場合、S521の処理を行う。S521で、セレクタ33は、S507と同様の処理により、新たに確立するベアラの本数の決定、各ベアラの収容先となるAP及びGWの選択、及び各ベアラのタイプ(アクティブ/スタンバイ)の選択を行う。なお、S521における処理では、各ベアラの収容先となるAP及びGWの選択は、セレクタ33が保持している原因値も考慮して実行される。例えば、セレクタ33は、あるAP20においてバースト的な確立失敗が生じた場合、そのAP20を除外して、各ベアラの収容先を決定してもよい。その後、セレクタ33は、S508に処理を戻し、S508以降の処理を再び行う。
【0060】
<ベアラのアクティブ化制御>
図6は、本実施形態に係るモバイル通信システムにおける、UE10のためのベアラのアクティブ化制御のシーケンスを示すシーケンス図である。
図6に示すシーケンスによる処理は、UE10が使用中のベアラの輻輳回避モードへの移行を検知したことに応じて開始される。
【0061】
UE10は、S601で、使用中のいずれかのベアラが輻輳回避モードへ移行したことを検知すると、S602へ処理を進める。S602で、UE10は、輻輳回避モードへの移行が検知されたベアラ(対象ベアラ)についてのベアラタイプの切り替えを求めるベアラタイプ切替要求メッセージを、セッション制御部32へ送信する。ベアラタイプ切替要求メッセージには、対象ベアラのベアラID及び通信速度が含められる。
【0062】
S603で、セッション制御部32は、UE10からの上記メッセージの受信に応じて、受信したメッセージから取得した情報(対象ベアラのベアラID及び通信速度)を切替判断要求メッセージに含めて、それをセレクタ33へ送信する。
【0063】
S604で、セレクタ33は、セッション制御部32からの切替判断要求メッセージの受信に応じて、対象ベアラについてのベアラタイプの切り替えが必要であるか否かを判断する処理を行う。セレクタ33は、対象ベアラについてのベアラタイプの切り替えが必要であると判断した場合、ベアラタイプを切り替えるベアラの本数及びベアラタイプ切り替えの対象とするベアラを、GWの空き容量及びベアラの通信速度期待値等の情報に基づいて決定(選択)する。
【0064】
S604の処理の完了後、S605で、セレクタ33は、受信した切替判断要求メッセージに対する応答メッセージをセッション制御部32へ送信する。この応答メッセージには、ベアラタイプの切替処理の対象となるベアラのベアラIDのリストが含められる。なお、セレクタ33は、ベアラタイプの切替処理が不要と判断した場合、その旨の情報を含む応答メッセージを送信する。
【0065】
セッション制御部32は、ベアラタイプの切替処理が不要であることを示す情報を含む応答メッセージをセレクタ33から受信すると、S606aで、その旨を示す通知をUE10へ送信し、
図6のシーケンスによる処理を終了する。一方、セッション制御部32は、ベアラタイプの切替処理の対象となるベアラのベアラIDのリストを含む応答メッセージを受信すると、対象ベアラごとに、S606b~S611の処理を実行する。なお、S606b~S611の処理は、複数のベアラについて並列に実行されてもよい。また、S605~S615の処理と、S616以降の処理とは、並列に実行可能である。
【0066】
S606b~S611の処理は、S604におけるセレクタ33の決定(選択)に従って、対象ベアラについてベアラタイプを切り替える切替処理である。なお、S606b~S611のベアラタイプ切替処理は、S509b~S514のベアラ確立処理と類似した手順で行われる。
【0067】
まずS606bで、セッション制御部32は、UE-AP間の対象ベアラについてのベアラタイプ切り替えを求めるベアラタイプ切替要求をAP20へ送信する。このベアラタイプ切替要求は、セッションID、ベアラID、ターゲットベアラタイプ(切り替え後のベアラタイプ)、を含む。なお、AP20がベアラ切替要求を拒否する場合、以下のS607及びS608はスキップされる。
【0068】
S607で、AP20は、ベアラタイプ切替要求をUE10へ送信する。このベアラタイプ切替要求は、セッションID、ベアラID、及びターゲットベアラタイプ、を含む。
【0069】
S608で、UE10は、受信したベアラタイプ切替要求に従って、対象ベアラについてのターゲットベアラタイプへのベアラタイプの切り替え(例えば、スタンバイベアラからアクティブベアラへの切り替え)を試みる。UE10は、切り替えの結果を示すベアラタイプ切替応答をAP20へ送信する。ベアラタイプ切り替えに成功した場合、このベアラタイプ切替応答は、セッションID、ベアラID、及びベアラタイプ切替結果、を含む。なお、UE10が原因となりベアラタイプ切り替えに失敗した場合、ベアラタイプ切替応答には、その旨を示す原因値(Cause Value)も含められる。UE10からのベアラタイプ切替応答の受信に応じて、AP20は、S609で、UE-AP間のベアラタイプ切り替え結果を示すベアラタイプ切替応答をセッション制御部32へ送信する。
【0070】
ここで、UE-AP間のベアラタイプ切り替えに失敗した場合、以下のS610及びS611はスキップされる。また、S606b及びS609において、AP20が原因となりベアラタイプ切り替えに失敗した場合、AP20は、その旨を示す原因値(Cause Value)もベアラタイプ切替応答に含めてセッション制御部32へ送信する。また、S608においてUE10から原因値を受信した場合、セッション制御部32は、受信した原因値をベアラタイプ切替応答に含めてセッション制御部32へ送信する。セッション制御部32は、AP20から受信した各原因値を、対応するセッションID及びベアラIDに関連付けて管理する。
【0071】
次にS610で、セッション制御部32は、AP-GW間の対象ベアラについてのベアラタイプ切り替えを求めるベアラタイプ切替要求をGW34へ送信する。このベアラタイプ切替要求は、セッションID、ベアラID、及びターゲットベアラタイプ、を含む。
【0072】
S611で、GW34は、受信したベアラタイプ切替要求に従って、対象ベアラについてのターゲットベアラタイプへのベアラタイプの切り替え(例えば、スタンバイベアラからアクティブベアラへの切り替え)を試みる。GW34は、ベアラタイプ切り替えの結果を示すベアラタイプ切替応答をセッション制御部32へ送信する。ベアラタイプ切り替えに成功した場合、このベアラタイプ切替応答は、セッションID、ベアラID、及びベアラタイプ切り替え結果、を含む。GW34が原因となりベアラタイプ切り替えに失敗した場合、ベアラタイプ切替応答には、その旨を示す原因値(Cause Value)も含められる。
【0073】
このようにして、S606b~S611のベアラタイプ切替処理が対象ベアラごとに実行されることで、UE-AP-GWの区間に確立されているベアラのベアラタイプが(スタンバイベアラからアクティブベアラ)へ切り替えられる。S606b~S611の処理が完了すると、S612で、セッション制御部32は、ベアラタイプ切替応答メッセージをUE10へ送信する。このメッセージは、セッションID、ベアラID、及びベアラタイプ切り替え結果、を含む。
【0074】
ベアラタイプ切り替えに成功していた場合、このメッセージの受信をトリガとして、UE10は、S613で、アクティブベアラへ切り替えられたベアラを用いたユーザデータ伝送を開始する。
【0075】
その後S614で、セッション制御部32は、ベアラタイプ切替通知をセレクタ33へ送信する。この通知は、セッションID、ベアラID、及びベアラタイプ切り替え結果、を含む。S606b~S611のベアラタイプ切替処理において、いずれかのベアラについてのベアラタイプ切り替えに失敗していた場合(即ち、UE10、AP20及び/又はGW34から送信された原因値(cause value)をセッション制御部32が受信していた場合)、ベアラタイプ切り替えの失敗の原因を示す原因値も、ベアラタイプ切替通知に含められてセレクタ33へ送信される。セレクタ33は、セッション制御部32から受信した各原因値を、対応するセッションID及びベアラIDに関連付けて管理する。セレクタ33は、管理している原因値を、スタンバイベアラの追加判断(S616)等に活用する。
【0076】
セレクタ33は、ベアラの切り替え失敗が生じたベアラの本数が所定の本数を超えた場合等、ベアラタイプ切り替えの対象とするベアラを追加する必要があると判断した場合、S615の処理を行う。S615で、セレクタ33は、S604と同様の処理により、ベアラタイプを切り替えるベアラの本数及びベアラタイプ切り替えの対象とするベアラを決定(選択)する。なお、S615における処理では、ベアラタイプ切り替えの対象とするベアラの選択は、セレクタ33が保持している原因値も考慮して実行される。例えば、セレクタ33は、あるAP20においてバースト的な切り替え失敗が生じた場合、そのAP20以外のAPに収容されているベアラを、ベアラタイプ切り替えの対象として選択してもよい。その後、セレクタ33は、S605に処理を戻し、S605以降の処理を再び行う。
【0077】
S616で、セレクタ33は、S604又はS615の処理をトリガとして、新たにスタンバイベアラを確立する必要があるか否かを判断する処理を行う。セレクタ33は、新たにスタンバイベアラを確立する必要があると判断した場合、新たに確立するスタンバイベアラの本数の決定と、各スタンバイベアラの収容先となるAP及びGWの選択とを、オペレータポリシに基づいて行い、S617以降の処理を行う。一方、セレクタ33は、新たにスタンバイベアラを確立する必要はないと判断された場合、S617以降の処理は行わない。
【0078】
(スタンバイベアラの確立処理)
S617で、セレクタ33は、スタンバイベアラの確立を求めるベアラ確立要求メッセージを、セッション制御部32へ送信する。このメッセージには、セッションID、ベアラID、ベアラタイプ、GWのID、APのID、及び通信速度期待値、が含められる。セッション制御部32は、受信したベアラ確立要求メッセージに従って、スタンバイベアラの確立処理を行う。
【0079】
S618の処理は、ベアラ確立要求メッセージに従って、UE-AP間及びAP-GW間にスタンバイベアラを確立するベアラ確立処理である。S618の処理は、ベアラごとに実行されるものであり、複数のベアラについて並列に実行されてもよい。ここで、S618の処理は、S509b~S514の処理と同様である。ただし、セッション制御部32からAP20及びGW34へ送信されるベアラ確立要求メッセージと、AP20からUE10へ送信されるベアラ確立要求メッセージにおいて、確立対象のベアラタイプとしてスタンバイベアラが指定される。
【0080】
S618のベアラ確立処理がベアラごとに実行されることで、UE-AP-GWの区間に、決定された本数のスタンバイベアラが並列に確立される。S618の処理が完了すると、S619で、セッション制御部32は、ベアラ確立通知をUE10へ送信する。この通知は、セッションID、ベアラID、及びスタンバイベアラの確立結果、を含む。
【0081】
更にS620で、セッション制御部32は、ベアラ確立応答メッセージをセレクタ33へ送信する。このメッセージは、セッションID、ベアラID、及びベアラの確立結果、を含む。S618のベアラ確立処理において、いずれかのスタンバイベアラの確立に失敗していた場合(即ち、UE10、AP20及び/又はGW34から送信された原因値(cause value)をセッション制御部32が受信していた場合)、スタンバイベアラの確立失敗の原因を示す原因値も、ベアラ確立応答メッセージに含められてセレクタ33へ送信される。セレクタ33は、セッション制御部32から受信した各原因値を、対応するセッションID及びベアラIDに関連付けて管理する。セレクタ33は、管理している原因値を、スタンバイベアラの追加判断(S616)等に活用する。
【0082】
セレクタ33は、確立失敗が生じたスタンバイベアラの本数が所定の本数を超えた場合等、更なるスタンバイベアラの追加が必要であると判断した場合、S621の処理を行う。S621で、セレクタ33は、S616と同様の処理により、新たに確立するスタンバイベアラの本数の決定と、各スタンバイベアラの収容先となるAP及びGWの選択とを、オペレータポリシに基づいて行う。なお、S621における処理では、各スタンバイベアラの収容先となるAP及びGWの選択は、セレクタ33が保持している原因値も考慮して実行される。例えば、セレクタ33は、あるAP20においてバースト的なスタンバイベアラの確立失敗が生じた場合、そのAP20を除外して、各スタンバイベアラの収容先を決定してもよい。その後、セレクタ33は、S617に処理を戻し、S617以降の処理を再び行う。
【0083】
以上説明したように、本実施形態のセレクタ33(ネットワーク装置)は、モバイルコア30に配置され、複数のAPに接続可能なUEに対して、当該UEがデータ通信用に確立する複数のベアラのそれぞれを収容するAPとGWとを決定する。セレクタ33は、モバイルコア30に配置された複数のGWのそれぞれに生じている負荷を示す負荷情報を、各GWから取得する。セレクタ33は、複数のベアラから成る通信セッションの確立を求める確立要求がUEから行われると、取得された負荷情報と、複数のAP及び複数のGWに関連するNW構成情報とに基づいて、1つ以上のアクティブベアラ及び1つ以上のスタンバイベアラを含む、確立するベアラの本数と、当該本数のベアラのそれぞれを収容するAP及びGWを決定する。セレクタ33は更に、当該決定に従って、UEによるデータ通信用のベアラを確立する処理の実行を、モバイルコア30に配置されたセッション制御機能32に対して要求する。
【0084】
このように、UE(ユーザ端末)に対して、アクティブベアラに加えてスタンバイベアラを確立することで、帯域不足等に起因してベアラを逐次追加するのではなく、スタンバイベアラをアクティブベアラに切り替えて使用することが可能になる。これにより、UEがベアラを新たに確立するよりも、アクティブベアラを短時間で確保してデータ通信を行うことが可能になる。また、負荷情報及びNW構成情報に基づいて、確立するベアラの本数と、当該本数のベアラのそれぞれを収容するAP及びGWを決定することで、所望の通信速度を達成しつつ、必要以上に多数のベアラを確立せずに、複数のベアラを用いて通信(大容量通信)を行うUEをより効率的に収容することが可能になる。
【0085】
[その他の実施形態]
上述の実施形態に係るネットワーク装置(セレクタ33)は、コンピュータをネットワーク装置として機能させるためのコンピュータプログラムにより実現することができる。当該コンピュータプログラムは、コンピュータが読み取り可能な記憶媒体に記憶されて配布が可能なもの、又は、ネットワーク経由で配布が可能なものである。
【0086】
なお、本発明により、例えば、セルラーネットワークにおいてより効率的なユーザ端末の収容が可能となることから、国連が主導する持続可能な開発目標(SDGs)の目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」に貢献することが可能となる。
【0087】
発明は上記の実施形態に制限されるものではなく、発明の要旨の範囲内で、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0088】
10:UE、20:AP、30:モバイルコア、31:移動管理機能、32:セッション制御機能(セッション制御部)、33:GW、34:セレクタ