(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-24
(45)【発行日】2024-08-01
(54)【発明の名称】ジクアホソルまたはその塩、ビニル系高分子およびセルロース系高分子を含有する眼科用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/7072 20060101AFI20240725BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20240725BHJP
A61K 47/38 20060101ALI20240725BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20240725BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20240725BHJP
【FI】
A61K31/7072
A61K47/32
A61K47/38
A61P27/02
A61K9/08
(21)【出願番号】P 2021502305
(86)(22)【出願日】2020-02-26
(86)【国際出願番号】 JP2020007638
(87)【国際公開番号】W WO2020175525
(87)【国際公開日】2020-09-03
【審査請求日】2023-02-22
(31)【優先権主張番号】P 2019033807
(32)【優先日】2019-02-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000177634
【氏名又は名称】参天製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100158414
【氏名又は名称】秦野 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100191710
【氏名又は名称】馬渡 洋介
(72)【発明者】
【氏名】森島 健司
(72)【発明者】
【氏名】浅田 博之
(72)【発明者】
【氏名】桃川 雄介
(72)【発明者】
【氏名】神村 明日香
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 健一
【審査官】六笠 紀子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/090994(WO,A1)
【文献】特表2003-528906(JP,A)
【文献】特開2018-168200(JP,A)
【文献】国際公開第2018/199180(WO,A1)
【文献】あたらしい眼科,2015年,32(7),pp.935-942
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/33-33/44
A61K 47/00-47/69
A61K 9/00-9/72
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジクアホソルナトリウムを唯一の有効成分として含有し、K値が17~30のポリビニルピロリドンおよび
ヒドロキシエチルセルロースを含有する眼科用組成物。
【請求項2】
K値が30のポリビニルピロリドンを含む、請求項
1に記載の眼科用組成物。
【請求項3】
前記
ポリビニルピロリドンの濃度が、0.001%(w/v)以上である、請求項1
または2に記載の眼科用組成物。
【請求項4】
前記
ヒドロキシエチルセルロースの濃度が、0.0001~5%(w/v)である、請求項1~
3のいずれか1項に記載の眼科用組成物。
【請求項5】
前記ジクアホソル
ナトリウムの濃度が、0.0001~10%(w/v)である、請求項1~
4のいずれか1項に記載の眼科用組成物。
【請求項6】
前記ジクアホソル
ナトリウムの濃度が、0.01~5%(w/v)である、請求項1~
5のいずれか1項に記載の眼科用組成物。
【請求項7】
前記ジクアホソル
ナトリウムの濃度が、1~5%(w/v)である、請求項1~
6のいずれか1項に記載の眼科用組成物。
【請求項8】
前記ジクアホソル
ナトリウムの濃度が、3%(w/v)である、請求項1~
7のいずれか1項に記載の眼科用組成物。
【請求項9】
点眼剤である、請求項1~
8のいずれか1項に記載の眼科用組成物。
【請求項10】
水性である、請求項1~
9のいずれか1項に記載の眼科用組成物。
【請求項11】
溶解型である、請求項1~
10のいずれか1項に記載の眼科用組成物。
【請求項12】
粘度が25℃において1~500mPa・sである、請求項1~
11のいずれか1項に記載の眼科用組成物。
【請求項13】
ドライアイの予防または治療のための、請求項1~
12のいずれか1項に記載の眼科用組成物。
【請求項14】
1回1~5滴、1日1~6回点眼投与されることを特徴とする、請求項1~
13のいずれか1項に記載の眼科用組成物。
【請求項15】
1回1~2滴、1日2~4回点眼投与されることを特徴とする、請求項1~
14のいずれか1項に記載の眼科用組成物。
【請求項16】
1回1~2滴、1日3回または4回点眼投与されることを特徴とする、請求項1~
15のいずれか1項に記載の眼科用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジクアホソルまたはその塩、ビニル系高分子およびセルロース系高分子を含有する眼科用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ジクアホソルはP1,P4-ジ(ウリジン-5’)四リン酸またはUp4Uとも呼ばれるプリン受容体アゴニストであり、涙液分泌促進作用を有し、その塩であるジクアホソルナトリウムは「ジクアス(登録商標)点眼液3%」(以下、「ジクアス(登録商標)点眼液」ともいう)としてドライアイの治療に使用されている(特許第3652707号公報(特許文献1)、ジクアス(登録商標)点眼液3% 添付文書(非特許文献1))。一方で、ジクアス(登録商標)点眼液の用法用量は、通常、1回1滴、1日6回点眼である(非特許文献1)。しかしながら、日常生活において、毎日規則正しく頻回点眼することが困難な状況があるため、点眼アドヒアランス不良により期待通りの効果が得られていない患者が存在している。
【0003】
より高い涙液量増加作用を有する新たなドライアイ治療剤を探索する試みとして、ジクアホソルまたはその塩と既存のドライアイ治療剤を併用することが知られている。特開2012-077080号公報(特許文献2)には、ジクアホソルまたはその塩およびドライアイ治療剤であるヒアルロン酸を併用することによって、涙液分泌が相乗的に促進されることが開示されている。特開2015-160826号公報(特許文献3)には、ジクアホソルまたはその塩およびドライアイ治療剤であるレバミピドを併用することによって、涙液分泌が相乗的に促進されることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第3652707号公報
【文献】特開2012-077080号公報
【文献】特開2015-160826号公報
【非特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
より高い涙液量増加作用を有し、点眼アドヒアランスの向上を可能とする、ジクアホソルまたはその塩を含有する新規な眼科用組成物を提供することは興味深い課題である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意研究の結果、ジクアホソルまたはその塩、ビニル系高分子およびセルロース系高分子を含有する眼科用組成物(以下、「本組成物」ともいう)が、高い涙液量増加作用を有すること、既存のジクアス(登録商標)点眼液よりも点眼回数を低減させても同等の治療効果を有することを見出した。さらには、本組成物が神経刺激性を示さず、点眼液の差し心地感をより改善し得ることを見出した。すなわち、本発明は、以下に関する。
【0008】
(1)ジクアホソルまたはその塩、ビニル系高分子およびセルロース系高分子を含有する眼科用組成物。
【0009】
(2)前記ビニル系高分子が、ポリビニルピロリドンを含む、(1)に記載の眼科用組成物。
【0010】
(3)前記セルロース系高分子が、ヒドロキシエチルセルロースおよびメチルセルロースからなる群から選択される少なくとも1種を含む、(1)または(2)に記載の眼科用組成物。
【0011】
(4)K値が17以上のポリビニルピロリドンを含む、(1)~(3)のいずれか1つに記載の眼科用組成物。
【0012】
(5)K値が17~90のポリビニルピロリドンを含む、(1)~(4)のいずれか1つに記載の眼科用組成物。
【0013】
(6)K値が30のポリビニルピロリドンを含む、(1)~(5)のいずれか1つに記載の眼科用組成物。
【0014】
(7)前記ビニル系高分子の濃度が、0.001%(w/v)以上である、(1)~(6)のいずれか1つに記載の眼科用組成物。
【0015】
(8)前記セルロース系高分子の濃度が、0.0001~5%(w/v)である、(1)~(7)のいずれか1つに記載の眼科用組成物。
【0016】
(9)前記ジクアホソルまたはその塩の濃度が、0.0001~10%(w/v)である、(1)~(8)のいずれか1つに記載の眼科用組成物。
【0017】
(10)前記ジクアホソルまたはその塩の濃度が、0.01~5%(w/v)である、(1)~(9)のいずれか1つに記載の眼科用組成物。
【0018】
(11)前記ジクアホソルまたはその塩の濃度が、1~5%(w/v)である、(1)~(10)のいずれか1つに記載の眼科用組成物。
【0019】
(12)前記ジクアホソルまたはその塩の濃度が、3%(w/v)である、(1)~(11)のいずれか1つに記載の眼科用組成物。
【0020】
(13)点眼剤である、(1)~(12)のいずれか1つに記載の眼科用組成物。
(14)水性である、(1)~(13)のいずれか1つに記載の眼科用組成物。
【0021】
(15)溶解型である、(1)~(14)のいずれか1つに記載の眼科用組成物。
(16)粘度が25℃において1~500mPa・sである、(1)~(15)のいずれか1つに記載の眼科用組成物。
【0022】
(17)前記ジクアホソルの塩が、ジクアホソルナトリウムである、(1)~(16)のいずれか1つに記載の眼科用組成物。
【0023】
(18)ドライアイの予防または治療のための、(1)~(17)のいずれか1つに記載の眼科用組成物。
【0024】
(19)1回1~5滴、1日1~6回点眼投与されることを特徴とする、(1)~(18)のいずれか1つに記載の眼科用組成物。
【0025】
(20)1回1~2滴、1日2~4回点眼投与されることを特徴とする、(1)~(19)のいずれか1つに記載の眼科用組成物。
【0026】
(21)1回1~2滴、1日3回または4回点眼投与されることを特徴とする、(1)~(20)のいずれか1つに記載の眼科用組成物。
【0027】
(22)ジクアホソルまたはその塩、ビニル系高分子およびセルロース系高分子を含有するドライアイの予防または治療剤。
【0028】
(23)1回1~2滴、1日3回または4回点眼投与されることを特徴とする、(22)に記載のドライアイの予防または治療剤。
【0029】
(24)3%(w/v)の濃度のジクアホソルナトリウム、ヒドロキシエチルセルロースおよびK値が30のポリビニルピロリドンを含有する、溶解型且つ水性のドライアイ治療用点眼剤であって、1回1~2滴、1日3回点眼投与されることを特徴とする、ドライアイ治療用点眼剤。
【0030】
(25)ジクアホソルまたはその塩、ビニル系高分子およびセルロース系高分子を含有する眼科用組成物を患者に投与することを含むドライアイの治療方法。
【0031】
(26)ドライアイの予防または治療のための医薬を製造するための、ジクアホソルまたはその塩、ビニル系高分子およびセルロース系高分子を含有する眼科用組成物の使用。
【0032】
(27)ドライアイの予防または治療に用いられる、ジクアホソルまたはその塩、ビニル系高分子およびセルロース系高分子を含有する眼科用組成物。
【発明の効果】
【0033】
後述する試験結果からも明らかなように、本組成物は、高い涙液量増加作用を有する。よって、本組成物は、既存のジクアス(登録商標)点眼液を点眼投与した場合と比較して、より強いドライアイ治療効果が期待される。また、既存のジクアス(登録商標)点眼液は1日6回点眼する必要があり、点眼アドヒアランス不良により期待通りの効果が得られない患者も存在しているが、本組成物はドライアイに対して十分な治療効果を有しつつ点眼回数を低減し、点眼アドヒアランスの向上が期待される。さらには、既存のジクアス(登録商標)点眼液は3%(w/v)の濃度のジクアホソル四ナトリウム塩を含有するが、本組成物はより低濃度で同程度またはそれ以上のドライアイ治療効果を発揮することが期待される。また、本組成物は、神経刺激性を示さず、点眼液の差し心地感を改善し得る。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】被験薬点眼投与後の角膜のフルオロセイン染色スコアを示すグラフである。
【
図2】ジクアホソルナトリウム添加後の最大蛍光強度(RFUmax)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明に関してさらに詳しく説明する。
本明細書において、「(w/v)%」は、本発明の眼科用組成物100mL中に含まれる対象成分の質量(g)を意味する。
【0036】
本明細書において、「PVP」は、ポリビニルピロリドンを意味する。
本明細書において、「HEC」は、ヒドロキシエチルセルロースを意味する。
【0037】
本明細書において、「MC」は、メチルセルロースを意味する。
本明細書において、「CMC-Na」は、カルボキシメチルセルロースナトリウムを意味する。
【0038】
本明細書において、「HPMC」は、ヒドロキシプロピルメチルセルロースを意味する。
【0039】
「ジクアホソル」は、下記化学構造式で示される化合物である。
【0040】
【0041】
「ジクアホソルの塩」としては、医薬として許容される塩であれば特に制限はなく、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、亜鉛などとの金属塩;塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硝酸、硫酸、リン酸などの無機酸との塩;酢酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、クエン酸、酒石酸、アジピン酸、グルコン酸、グルコヘプト酸、グルクロン酸、テレフタル酸、メタンスルホン酸、乳酸、馬尿酸、1,2-エタンジスルホン酸、イセチオン酸、ラクトビオン酸、オレイン酸、パモ酸、ポリガラクツロン酸、ステアリン酸、タンニン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、硫酸ラウリルエステル、硫酸メチル、ナフタレンスルホン酸、スルホサリチル酸などの有機酸との塩;臭化メチル、ヨウ化メチルなどとの四級アンモニウム塩;臭素イオン、塩素イオン、ヨウ素イオンなどのハロゲンイオンとの塩;アンモニアとの塩;トリエチレンジアミン、2-アミノエタノール、2,2-イミノビス(エタノール)、1-デオキシ-1-(メチルアミノ)-2-D-ソルビトール、2-アミノ-2-(ヒドロキシメチル)-1,3-プロパンジオール、プロカイン、N,N-ビス(フェニルメチル)-1,2-エタンジアミンなどの有機アミンとの塩などが挙げられる。
【0042】
本発明において、「ジクアホソルまたはその塩」には、ジクアホソル(フリー体)またはその塩の水和物および有機溶媒和物も含まれる。
【0043】
「ジクアホソルまたはその塩」に、結晶多形および結晶多形群(結晶多形システム)が存在する場合には、それらの結晶多形体および結晶多形群(結晶多形システム)も本発明の範囲に含まれる。ここで、結晶多形群(結晶多形システム)とは、それらの結晶の製造、晶出、保存などの条件および状態により、結晶形が変化する場合の各段階における個々の結晶形およびその過程全体を意味する。
【0044】
本発明の「ジクアホソルまたはその塩」として好ましいのはジクアホソルのナトリウム塩であり、下記化学構造式で示されるジクアホソル四ナトリウム塩(本明細書中において、単に「ジクアホソルナトリウム」ともいう)が特に好ましい。
【0045】
【0046】
ジクアホソルまたはその塩については、特表2001-510484号公報に開示された方法などにより製造することができる。
【0047】
本組成物はジクアホソルまたはその塩以外の有効成分を含有することもできるし、ジクアホソルまたはその塩を唯一の有効成分として含有することもできる。
【0048】
本発明において、ジクアホソルまたはその塩の濃度は、特に限定されるものではないが、例えば、0.0001~10%(w/v)であることが好ましく、0.001~5%(w/v)であることがより好ましく、0.01~5%(w/v)であることがさらに好ましく、0.1~5%(w/v)であることがよりさらに好ましく、1~5%(w/v)であることがもっと好ましく、3%(w/v)であることが特に好ましい。より具体的には、0.001%(w/v)、0.002%(w/v)、0.003%(w/v)、0.004%(w/v)、0.005%(w/v)、0.006%(w/v)、0.007%(w/v)、0.008%(w/v)、0.009%(w/v)、0.01%(w/v)、0.02%(w/v)、0.03%(w/v)、0.04%(w/v)、0.05%(w/v)、0.06%(w/v)、0.07%(w/v)、0.08%(w/v)、0.09%(w/v)、0.1%(w/v)、0.2%(w/v)、0.3%(w/v)、0.4%(w/v)、0.5%(w/v)、0.6%(w/v)、0.7%(w/v)、0.8%(w/v)、0.9%(w/v)、1%(w/v)、1.5%(w/v)、2%(w/v)、2.5%(w/v)、3%(w/v)、3.5%(w/v)、4%(w/v)、4.5%(w/v)または5%(w/v)が好ましい。
【0049】
本発明において、「ビニル系高分子」とは、二重結合を有するビニル化合物を重合して得られる合成高分子の1種である。ビニル系高分子は、医薬として許容されるものであれば特に限定されないが、例えば、ポリビニルアルコールなどのビニルアルコール系高分子、ポリビニルピロリドンなどのビニルピロリドン系高分子、カルボキシビニルポリマーなどを挙げることができる。中でもポリビニルピロリドンなどのビニルピロリドン系高分子が好ましい。
【0050】
また、ビニル系高分子の分子量は、特に制限されるものでないが、例えば、重量平均分子量2500~300万、好ましくは1万~150万、より好ましくは1万~50万、さらに好ましくは1万~40万程度のものを使用することができる。
【0051】
また、これらのビニル系高分子は、市販のものを用いることができ、これらの化合物の1種または2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0052】
本発明において、ビニル系高分子の濃度は、特に限定されるものではないが、例えば、0.001%(w/v)以上、好ましくは0.001~10%(w/v)、より好ましくは0.01~10%(w/v)、さらに好ましくは0.05~10%(w/v)、よりさらに好ましくは0.1~10%(w/v)、ことさら好ましくは0.1~5%(w/v)、特に好ましくは1~5%(w/v)であってもよい。
【0053】
本発明において、ポリビニルピロリドンとは、N-ビニル-2-ピロリドンが重合した高分子化合物である。本発明で使用されるポリビニルピロリドンのK値は、17以上が好ましく、17~90がより好ましく、25~90がさらに好ましく、30~90がよりさらに好ましく、30が特に好ましい。例えば、ポリビニルピロリドンK17、ポリビニルピロリドンK25、ポリビニルピロリドンK30、ポリビニルピロリドンK40、ポリビニルピロリドンK50、ポリビニルピロリドンK60、ポリビニルピロリドンK70、ポリビニルピロリドンK80、ポリビニルピロリドンK85、ポリビニルピロリドンK90、ポリビニルピロリドンK120などが挙げられる。なお、ポリビニルピロリドンのK値は、分子量と相関する粘性特性値で、毛細管粘度計により測定される相対粘度値(25℃)を下記のFikentscherの式(1)に適用して計算される数値である。
【0054】
【0055】
式(1)中、ηrelは、ポリビニルピロリドン水溶液の水に対する相対粘度、cは、ポリビニルピロリドン水溶液中のポリビニルピロリドン濃度(%)である。
【0056】
本発明において、ポリビニルピロリドンは1種単独で使用してもよく、またK値の異なる2種以上のポリビニルピロリドンを任意に組み合わせて使用してもよい。
【0057】
本発明において、ポリビニルピロリドンの濃度は、特に限定されるものではないが、例えば、0.001%(w/v)以上、好ましくは0.001~10%(w/v)、より好ましくは0.01~10%(w/v)、さらに好ましくは0.05~10%(w/v)、よりさらに好ましくは0.1~10%(w/v)、ことさら好ましくは0.1~5%(w/v)、特に好ましくは1~5%(w/v)であってもよい。
【0058】
本組成物は、さらにセルロース系高分子を含有する。セルロースとは、D-グルコピラノースがβ1→4グルコシド結合で連なった繊維状の高分子である。本発明において、「セルロース系高分子」とは、セルロースまたはその誘導体を単位として構成される高分子である。
【0059】
セルロース系高分子としては、医薬として許容されるものであれば特に限定されるものではないが、例えば、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、カルボキシメチルエチルセルロース、酢酸フタル酸セルロース等が挙げられ、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロースが好ましく、ヒドロキシエチルセルロースがより好ましい。
【0060】
本発明において、セルロース系高分子は1種単独で使用してもよく、また2種以上のセルロース系高分子を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0061】
本組成物中のセルロース系高分子の濃度は、特に限定されるものではないが、例えば、0.0001~5%(w/v)であることが好ましく、0.001~3%(w/v)であることがより好ましく、0.01~2%(w/v)であることがさらに好ましく、0.1~1%(w/v)であることがよりさらに好ましい。
【0062】
本組成物に用いるビニル系高分子とセルロース系高分子の組み合わせとして好ましいのは、ポリビニルピロリドンとヒドロキシエチルセルロースの組み合わせであり、K値が30のポリビニルピロリドン(ポリビニルピロリドンK30)とヒドロキシエチルセルロースの組み合わせがより好ましい。K値が30のポリビニルピロリドンとヒドロキシエチルセルロースを組み合わせて用いる場合、K値が30のポリビニルピロリドンの濃度は、例えば、0.1~5%(w/v)であることが好ましく、ヒドロキシエチルセルロースの濃度は0.01~2%(w/v)であることが好ましい。
【0063】
また、本組成物に加えるポリビニルピロリドンおよびヒドロキシエチルセルロースの量は、本組成物の粘度が後述する好ましい範囲となるようにすることもできる。
【0064】
本組成物には、ポリビニルピロリドン、好ましくはK値が30のポリビニルピロリドンを唯一のビニル系高分子として、ヒドロキシエチルセルロースを唯一のセルロース系高分子として含有させることができる。
【0065】
本組成物には、汎用されている技術を用い、必要に応じて製薬学的に許容される添加剤をさらに添加することができる。例えば、リン酸ナトリウム、リン酸水素ナトリウム、リン酸水素ナトリウム水和物、リン酸二水素ナトリウム、酢酸ナトリウム、イプシロン-アミノカプロン酸などの緩衝化剤;塩化カルシウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、濃グリセリンなどの等張化剤;エデト酸ナトリウム、エデト酸ナトリウム水和物などの安定化剤;ポリソルベートなどの界面活性剤;アスコルビン酸などの抗酸化剤;塩化ベンザルコニウム、クロルヘキシジングルコン酸塩などの防腐剤;塩酸、水酸化ナトリウムなどのpH調節剤などを必要に応じて選択し、添加することができる。これらの添加剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0066】
上述の通り、本組成物は、塩化ベンザルコニウム、クロルヘキシジングルコン酸塩などの防腐剤を含有してもよいが、防腐剤を含有しないか、または防腐剤を実質的に含有しなくてもよい。
【0067】
本組成物のpHは、医薬として許容される範囲であれば特定の値に限定されない。しかしながら、本組成物のpHは、好ましくは8以下、より好ましくは4~8の範囲、さらに好ましくは5~8の範囲、よりさらに好ましくは6~8の範囲、特に好ましくは7の近傍である。
【0068】
本発明において、「眼科用組成物」とは、眼疾患などの予防および/または治療に使用するための組成物のことをいう。その剤型としては、例えば点眼剤、眼軟膏、注射剤、軟膏(例えば、眼瞼皮膚に投与できる)などが挙げられ、好ましくは点眼剤である。ここで点眼剤とは点眼液または点眼薬と同義であり、コンタクトレンズ用点眼剤も点眼剤の定義に含まれる。
【0069】
本組成物は、水を溶媒(基剤)とする水性の眼科用組成物であることが好ましく、水性点眼剤であることがより好ましい。
【0070】
本組成物は、有効成分や添加物の性質、含量などによって、溶解型点眼剤であってもよく、懸濁型点眼剤であってもよい。
【0071】
本組成物の粘度は、医薬として許容される範囲であれば特に限定されるものではないが、好ましくは1~500mPa・sの範囲、より好ましくは1~100mPa・sの範囲、さらに好ましくは1~50mPa・sの範囲、よりさらに好ましくは1~40mPa・sの範囲になるように調整され、回転粘度計(25℃;50s-1のせん断速度)で測定される。
【0072】
本組成物の浸透圧は、医薬として許容される範囲であれば特定の値に限定されない。しかしながら、本組成物の浸透圧は、好ましくは2以下、より好ましくは0.5~2の範囲、さらに好ましくは0.7~1.6の範囲、よりさらに好ましくは0.8~1.4の範囲、特に好ましくは0.9~1.2である。
【0073】
本組成物は、種々の素材で製造された容器に収容されて保存することができる。例えば、ポリエチレン製、ポリプロピレン製などの容器を用いることができる。本組成物が点眼剤の場合、点眼容器に収容され、より詳しくは「マルチドーズ型点眼容器」または「ユニットドーズ型点眼容器」に収容される。
【0074】
本発明において、「マルチドーズ型点眼容器」とは、容器本体と当該容器本体に装着可能なキャップを備えた点眼容器であって、キャップの開封、再封を自由に行うことができる点眼容器のことをいう。当該マルチドーズ型点眼容器には、通常一定期間使用するために複数回分の点眼液が収容されている。
【0075】
一方、「ユニットドーズ型点眼容器」とは、瓶口部にキャップが融着封止され、使用時に当該キャップと瓶形本体との融着部を破断開封して使用することを目的とした点眼容器のことをいう。当該ユニットドーズ型点眼容器には、一回または数回使用分の点眼液が収容されている。なお、ユニットドーズ型点眼容器に収容される点眼液は塩化ベンザルコニウムなどの防腐剤を含有しないまたは実質的に含有しないことが一般的である。
【0076】
本組成物の用法は、剤型、投与すべき患者の症状の軽重、年齢、体重、医師の判断などに応じて適宜変えることができるが、例えば、剤型として点眼剤を選択した場合には、1回量1~5滴、好ましくは1~3滴、より好ましくは1~2滴、特に好ましくは1滴を、1日1~6回、好ましくは1日1~4回、より好ましくは1日1~2回、毎日~1週間毎に点眼投与することができる。ここで点眼回数は、より具体的には、例えば、1日6回、1日5回、1日4回、1日3回、1日2回または1日1回が好ましく、1日6回、1日4回、1日3回または1日2回がより好ましく、1日4回または1日3回がよりさらに好ましく、1日3回が特に好ましい。
【0077】
また、本組成物中のジクアホソルまたはその塩の濃度が3%(w/v)である場合、1回量1~5滴、好ましくは1~3滴、より好ましくは1~2滴、特に好ましくは1滴を、1日6回、1日5回、1日4回、1日3回、1日2回または1日1回、好ましくは1日6回、1日4回、1日3回または1日2回、より好ましくは1日4回または1日3回、特に好ましくは1日3回点眼投与することができる。
【0078】
また、1滴は、好ましくは約0.1~30μLであり、より好ましくは約0.5~20μLであり、さらに好ましくは約1~15μLである。
【0079】
本組成物は、ドライアイの予防または治療剤として有効である。ドライアイは「様々な要因による涙液および角結膜上皮の慢性疾患であり、眼不快感や視覚異常を伴う疾患」と定義づけられ、乾性角結膜炎(KCS:keratoconjunctivitis sicca)はドライアイに含まれる。本発明においては、ソフトコンタクトレンズ装用を原因とするドライアイ症状の発生もドライアイに含まれるものとする。
【0080】
ドライアイ症状には、眼乾燥感、眼不快感、眼疲労感、鈍重感、羞明感、眼痛、霧視(かすみ目)などの自覚症状の他、充血、角結膜上皮障害などの他覚所見も含まれる。
【0081】
ドライアイの病因については不明点も多いが、シェーグレン症候群;先天性無涙腺症;サルコイドーシス;骨髄移植による移植片対宿主病(GVHD:Graft Versus Host Disease);眼類天疱瘡;スティーブンス・ジョンソン症候群;トラコーマなどを原因とする涙器閉塞;糖尿病;角膜屈折矯正手術(LASIK:Laser(-assisted) in Situ Keratomileusis)などを原因とする反射性分泌の低下;マイボーム腺機能不全;眼瞼炎などを原因とする油層減少;眼球突出、兎眼などを原因とする瞬目不全または閉瞼不全;胚細胞からのムチン分泌低下;VDT(Visual Display Terminals)作業などがその原因であると報告されている。
【0082】
また、本組成物は、ソフトコンタクトレンズが装用されたドライアイ患者の眼に点眼することができる。ここで、ソフトコンタクトレンズが装用されたドライアイ患者の眼に点眼するとは、ドライアイ患者の角膜上にソフトコンタクトレンズが装用された状態で、点眼液が点眼されることを意味する。
【実施例】
【0083】
以下に、薬理試験の結果および製剤例を示すが、これらは本発明をよりよく理解するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【0084】
[試験1]
正常雄性白色ウサギを用いて、本組成物の点眼後における涙液量の経時変化を評価した。
【0085】
(薬物調製方法)
点眼液1:
表1に示す処方表に従い、点眼液1を調製した(表1中、単位はg/100mL)。すなわち、ジクアホソルナトリウム(9g)、リン酸水素ナトリウム水和物(0.6g)、エデト酸ナトリウム水和物(0.03g)および塩化ナトリウム(1.35g)を滅菌精製水に溶解して50mLとして6倍濃厚液を得た。また、6倍濃厚液10mLと滅菌精製水5mLを混合後、PVP K30(1.2g)を溶解後、pH調節剤を適宜添加してpHを7に調整し、滅菌精製水を加えて20mLとし、3倍濃厚液を得た。ヒドロキシエチルセルロース(15g)を滅菌精製水に溶解し、全量を1500gとしたのち、高圧蒸気滅菌(121℃、20分)し、1.00%(w/w)ヒドロキシエチルセルロース溶液を得た。1.00%(w/w)ヒドロキシエチルセルロース溶液3.6gに3倍濃厚液4mLを添加し、滅菌精製水を加え全量12mLに調整後、pH調節剤を適宜添加してpHを7に調整することにより、点眼液1を調製した。
【0086】
点眼液2:
表1に示す処方表に従い、点眼液2を調製した。すなわち、ジクアホソルナトリウム(9g)、リン酸水素ナトリウム水和物(0.6g)、エデト酸ナトリウム水和物(0.03g)および塩化ナトリウム(1.35g)を滅菌精製水に溶解して50mLとして6倍濃厚液を得た。また、6倍濃厚液10mLと滅菌精製水5mLを混合後、pH調節剤を適宜添加してpHを7に調整し、滅菌精製水を加えて20mLとし、3倍濃厚液を得た。PVP K90(4g)を滅菌精製水に溶解し、全量を100gとした後に高圧蒸気滅菌(121℃20分)し、4.00%(w/w)PVP K90溶液とした。4.00%(w/w)PVP K90溶液6.0gに3倍濃厚液4mLを添加し、滅菌精製水を加え全量12mLに調整後、pH調節剤を適宜添加してpHを7に調整することにより、点眼液2を調製した。
【0087】
点眼液3:
表1に示す処方表に従い、点眼液3を調製した。すなわち、ジクアホソルナトリウム(9g)、リン酸水素ナトリウム水和物(0.6g)、エデト酸ナトリウム水和物(0.03g)および塩化ナトリウム(1.35g)を滅菌精製水に溶解して50mLとして6倍濃厚液を得た。また、6倍濃厚液10mLと滅菌精製水5mLを混合後、PVP K30(1.2g)を溶解後、pH調節剤を適宜添加してpHを7に調整し、滅菌精製水を加えて20mLとし、3倍濃厚液を得た。3倍濃厚液4mLに、滅菌精製水を加え全量12mLに調整後、pH調節剤を適宜添加してpHを7に調整することにより、点眼液3を調製した。
【0088】
点眼液4:
表1に示す処方表に従い、点眼液4を調製した。すなわち、ジクアホソルナトリウム(9g)、リン酸水素ナトリウム水和物(0.6g)、エデト酸ナトリウム水和物(0.03g)および塩化ナトリウム(1.35g)を滅菌精製水に溶解して50mLとして6倍濃厚液を得た。また、6倍濃厚液10mLと滅菌精製水5mLを混合後、pH調節剤を適宜添加してpHを7に調整し、滅菌精製水を加えて20mLとし、3倍濃厚液を得た。ヒドロキシエチルセルロース(15g)を滅菌精製水1500mLに溶解し、高圧蒸気滅菌(121℃、20分)し、1.00%(w/w)ヒドロキシエチルセルロース溶液とした。1.00%(w/w)ヒドロキシエチルセルロース溶液3.6gに3倍濃厚液4mLを添加し、滅菌精製水を加え全量12mLに調整後、pH調節剤を適宜添加してpHを7に調整することにより、点眼液4を調製した。
【0089】
点眼液5:
表1に示す処方表に従い、点眼液5を調製した。すなわち、ジクアホソルナトリウム(9g)、リン酸水素ナトリウム水和物(0.6g)、エデト酸ナトリウム水和物(0.03g)および塩化ナトリウム(1.35g)を滅菌精製水に溶解して50mLとして6倍濃厚液を得た。また、6倍濃厚液10mLと滅菌精製水5mLを混合後、pH調節剤を適宜添加してpHを7に調整し、滅菌精製水を加えて20mLとし、3倍濃厚液を得た。3倍濃厚液4mLに、滅菌精製水を加え全量12mLに調整後、pH調節剤を適宜添加してpHを7に調整することにより、点眼液5を調製した。
【0090】
点眼液6:
表2に示す処方表に従い、点眼液6を調製した(表2中、単位はg/100mL)。すなわち、ジクアホソルナトリウム(18g)、リン酸水素ナトリウム水和物(1.2g)、エデト酸ナトリウム水和物(0.06g)を滅菌精製水に溶解して100mLとして6倍濃厚液を得た。また、6倍濃厚液5mLと滅菌精製水5mLを混合後、PVP K25(0.9g)、塩化ナトリウム(0.135g)を溶解し、pH調節剤を適宜添加してpHを7に調整し、滅菌精製水を加えて15mLとし、2倍濃厚液を得た。ヒドロキシエチルセルロース(15g)を滅菌精製水に溶解し、全量を1500gとした後、高圧蒸気滅菌(121℃、20分)し、1.00%(w/w)ヒドロキシエチルセルロース溶液を得た。1.00%(w/w)ヒドロキシエチルセルロース溶液3.75gに2倍濃厚液7.5mLを添加し、滅菌精製水を加え全量15mLに調整後、pH調節剤を適宜添加してpHを7に調整することにより、点眼液6を調製した。
【0091】
点眼液7:
表2に示す処方表に従い、点眼液7を調製した。すなわち、ジクアホソルナトリウム(18g)、リン酸水素ナトリウム水和物(1.2g)、エデト酸ナトリウム水和物(0.06g)を滅菌精製水に溶解して100mLとして6倍濃厚液を得た。また、6倍濃厚液20mLと滅菌精製水20mLを混合後、PVP K30(2.4g)、塩化ナトリウム(0.54g)を溶解し、pH調節剤を適宜添加してpHを7に調整し、滅菌精製水を加えて60mLとし、2倍濃厚液を得た。ヒドロキシエチルセルロース(15g)を滅菌精製水に溶解し、全量を1500gとした後、高圧蒸気滅菌(121℃、20分)し、1.00%(w/w)ヒドロキシエチルセルロース溶液を得た。1.00%(w/w)ヒドロキシエチルセルロース溶液25gに2倍濃厚液50mLを添加し、滅菌精製水を加え全量100mLに調整後、pH調節剤を適宜添加してpHを7に調整することにより、点眼液7を調製した。
【0092】
点眼液8:
表2に示す処方表に従い、点眼液8を調製した。すなわち、ジクアホソルナトリウム(18g)、リン酸水素ナトリウム水和物(1.2g)、エデト酸ナトリウム水和物(0.06g)を滅菌精製水に溶解して100mLとして6倍濃厚液を得た。また、6倍濃厚液2.5mLと滅菌精製水5mLを混合後、PVP K60 45%水溶液(0.67g)と塩化ナトリウム(0.068g)を溶解後、pH調節剤を適宜添加してpHを7に調整し、滅菌精製水を加えて15mLとすることにより、点眼液8を調製した。
【0093】
点眼液9~11:
表3に示す処方表に従い、点眼液9を調製した(表3中、単位はg/100mL)。すなわち、ジクアホソルナトリウム(9g)、リン酸水素ナトリウム水和物(0.6g)、エデト酸ナトリウム水和物(0.03g)および塩化ナトリウム(1.35g)を滅菌精製水に溶解して50mLとして6倍濃厚液を得た。また、6倍濃厚液10mLと滅菌精製水5mLを混合後、PVP K30(1.2g)を溶解後、pH調節剤を適宜添加してpHを7に調整し、滅菌精製水を加えて20mLとし、3倍濃厚液を得た。メチルセルロース(2g)を滅菌精製水に溶解し、全量を100gとした後、高圧蒸気滅菌(121℃、20分)し、2.00%(w/w)メチルセルロース溶液を得た。2.00%(w/w)メチルセルロース溶液3.0gに3倍濃厚液4mLを添加し、滅菌精製水を加え全量12mLに調整後、pH調節剤を適宜添加してpHを7に調整することにより、点眼液9を調製した。
【0094】
点眼液10、11は点眼液9と同様の方法により調製した。
なお、調製した点眼液1~11の粘度は、回転粘度計Kinexus pro+を用いて、温度25℃、せん断速度50s-1で測定した。
【0095】
(試験方法および薬物投与方法)
正常雄性白色ウサギ(計23匹46眼)にベノキシール(登録商標)点眼液0.4%(参天製薬株式会社製)を点眼し、局所麻酔を施した。3分後に下眼瞼にシルメル試験紙(あゆみ製薬株式会社製)を挿入し、挿入1分後に抜き取り、濡れた部分の長さ(涙液量)を読み取った。これを前値とした。次に、各点眼液1~11を1回点眼した(一群4匹8眼、点眼液5のみ16匹32眼)。下眼瞼にシルメル試験紙(あゆみ製薬株式会社製)を挿入する3分前に、ベノキシール(登録商標)点眼液0.4%(参天製薬株式会社製)を点眼し、局所麻酔を施した。各点眼液点眼60分後に、下眼瞼にシルメル試験紙(あゆみ製薬株式会社製)を挿入し、挿入1分後に抜き取り、濡れた部分の長さ(涙液量)を読み取った。
【0096】
(評価方法)
点眼液点眼前後の涙液量の変化をΔ涙液量(mm/分)として算出した。
【0097】
(試験結果)
点眼後60分におけるΔ涙液量(mm/分)を表1~3に示す(各値は8眼の平均値。但し、点眼液5のみ32眼の平均値)。また、本組成物の涙液量増加作用を以下の基準に従って評価した。
【0098】
+++:点眼後60分におけるΔ涙液量(mm/分)が4mm/分以上
++:点眼後60分におけるΔ涙液量(mm/分)が1mm/分以上、4mm/分未満
+:点眼後60分におけるΔ涙液量(mm/分)が0mm/分超乃至1mm/分未満
-:点眼後60分におけるΔ涙液量(mm/分)が0mm/分以下
【0099】
【0100】
上記表1の結果に示す通り、PVP K30を含有する点眼液(点眼液3)はそれを含有しない点眼液(点眼液5)と同様に点眼後60分における涙液量増加作用は認められなかった。また、一般にHECは増粘剤としても使用されるが、HECを含有する点眼液(点眼液4)は、比較的高い粘度を有するのにも関わらず、点眼液5と同様に点眼後60分における涙液量増加作用は認められなかった。それに対し、PVP K30およびHECを含有する点眼液(点眼液1)は、驚くべきことに、点眼液3~5よりも極めて高い涙液量増加作用を示した。
【0101】
【0102】
上記表2の結果に示す通り、PVPのK値が30の他、25であっても、PVPおよびHECを含有する点眼液(点眼液6、7)は、高い涙液量増加作用を有した。
【0103】
【0104】
上記表3の結果に示す通り、PVP K30およびMCを含有する点眼液(点眼液9)は、高い涙液量増加作用を有した。一方、PVP K30およびHPMCを含有する点眼液(点眼液10)やPVP K30およびCMC-Naを含有する点眼液(点眼液11)には涙液量増加作用は認められなかった。
【0105】
[試験2]
ラット眼窩外涙腺摘出モデルは、ドライアイを原因とする角膜上皮障害の治療効果を評価するモデルとして汎用されており、また、P2Y2受容体作動薬の治療効果を評価するモデルとしても利用されている(Invest. Ophthalmol. Vis. Sci., 42(1), 96-100 (2001))。当該ドライアイモデルを用いて、本組成物を点眼投与することで角膜上皮障害の改善効果が得られるか否かを検討した。
【0106】
(ドライアイモデルの作製方法)
雄性SDラットを用い、Fujiharaらの方法(Invest. Ophthalmol. Vis. Sci., 42(1), 96-100 (2001))に準じてラット眼窩外涙腺摘出モデルを作製した。すなわち、ソムノペンチルを投与して全身麻酔を施した後、眼窩外涙腺を摘出し、角膜上皮障害を誘発した。
【0107】
(試料調製方法)
点眼液A:
表4に示す処方表に従い、点眼液Aを調製した(表4中、単位はg/100mL)。すなわち、リン酸水素ナトリウム水和物(4g)、塩化ナトリウム(9g)を滅菌精製水に溶解して全量を200mLとして10倍緩衝液を得た。また、ジクアホソルナトリウム(15g)を滅菌精製水に溶解し、全量を50gとして30%ジクアホソルナトリウム水溶液を得た。ヒドロキシエチルセルロース(2g)を滅菌精製水に溶解し、全量を200gとした後に高圧蒸気滅菌(121℃、40分)し、1.00%(w/w)ヒドロキシエチルセルロース溶液を得た。滅菌精製水50mL、10倍緩衝液20mL、30%ジクアホソルナトリウム水溶液20mL、PVP K30(4g)を混合・溶解し、pH調整剤を用いてpHを7に調整した後、全量を100mLとして2倍濃厚液を得た。1.00%(w/w)ヒドロキシエチルセルロース溶液25gに2倍濃厚液50mLを添加し、滅菌精製水を加え全量100mLに調整後、pH調節剤を適宜添加してpHを7に調整することにより、点眼液Aを調製した。
【0108】
点眼液B:
表4に示す処方表に従い、点眼液Bを調製した。すなわち、リン酸水素ナトリウム水和物(4g)、塩化ナトリウム(9g)を滅菌精製水に溶解して全量を200mLとして10倍緩衝液を得た。ヒドロキシエチルセルロース(2g)を滅菌精製水に溶解し、全量を200gとした後に高圧蒸気滅菌(121℃、40分)し、1.00%(w/w)ヒドロキシエチルセルロース溶液を得た。滅菌精製水50mL、10倍緩衝液20mL、塩化ナトリウム(0.76g)、PVP K30(4g)を混合・溶解し、pH調整剤を用いてpHを7に調整した後、全量を100mLとして2倍濃厚液を得た。1.00%(w/w)ヒドロキシエチルセルロース溶液25gに2倍濃厚液50mLを添加し、滅菌精製水を加え全量100mLに調整後、pH調節剤を適宜添加してpHを7に調整することにより、点眼液Bを調製した。なお、点眼液Bは点眼液Aの基剤である。
【0109】
点眼液X:
点眼液Xとして、ドライアイ治療薬として使用されている「ジクアス(登録商標)点眼液3%」(参天製薬株式会社製)を使用した。点眼液Xは、水1mL中、有効成分としてジクアホソルナトリウムを30mg含有し、添加物として塩化カリウム、塩化ナトリウム、クロルヘキシジングルコン酸塩液、リン酸水素ナトリウム水和物、エデト酸ナトリウム水和物、pH調節剤を含有する。
【0110】
【0111】
(試験方法および薬物投与方法)
前記角膜上皮障害を誘発されたラットに対して、点眼液A、点眼液B、点眼液Xを以下のように投与した。
【0112】
・点眼液A、1日2回投与群:点眼液Aを両眼に1日2回、4週間点眼した(一群6匹12眼)、
・点眼液A、1日3回投与群:点眼液Aを両眼に1日3回、4週間点眼した(一群6匹12眼)、
・点眼液A、1日4回投与群:点眼液Aを両眼に1日4回、4週間点眼した(一群6匹12眼)、
・点眼液X、1日6回投与群:点眼液Aを両眼に1日6回、4週間点眼した(一群6匹12眼)、
・点眼液B、1日4回投与群(基剤投与群):点眼液Bを両眼に1日4回、4週間点眼した(一群6匹12眼)。
【0113】
なお、前記角膜上皮障害を誘発されたラットのうち、4週間無点眼であったもの無点眼群とした(一群4匹8眼)。
【0114】
点眼開始4週間後、角膜の障害部分をフルオレセインにて染色し、村上らの方法(あたらしい眼科, 21(1), 87-90 (2004))に従い、角膜上皮障害を判定した。すなわち、角膜の上部、中間部および下部のそれぞれについて、フルオレセインによる染色の程度を下記の基準に従ってスコア判定し、それらのスコアの合計の平均値を算出した。なお、0、1、2および3の各スコア間に中間値として0.5を設けた。
【0115】
(判定基準)
0:染色されていない、
1:染色が疎であり、各点状の染色部分は離れている、
2:染色が中程度であり、点状の染色部分の一部が隣接している、
3:染色が密であり、各点状の染色部分は隣接している。
【0116】
(結果)
算出された各群のフルオレセイン染色スコアをグラフ化したものを
図1に示す。なお、スコアは各8または12例の平均値+標準誤差である。
【0117】
図1から明らかなように、点眼液Aの1日3回および1日4回投与群では、基剤投与群(点眼液B、1日4回投与)と比べフルオロセイン染色スコアの改善が認められ、点眼液Xの1日6回投与群と同等のフルオロセイン染色スコアの改善が認められた。点眼液Xはジクアス
(登録商標)点眼液3%としてドライアイの治療に使用され、その点眼回数は1日6回である。そのため、点眼アドヒアランス不良により期待通りの効果が得られない患者も存在しているが、本組成物はドライアイに対して十分な治療効果を有しつつ点眼回数を1日3回または1日4回に低減し、点眼アドヒアランスの向上が期待される。
【0118】
[試験3]
PVP共存下でのジクアホソルナトリウムの末梢神経に対する刺激性を検討した。
【0119】
(試料調製方法)
処方液1:
表5に示す処方表に従い、処方液1を調製した(表5中、単位はg/100mL)。すなわち、塩化ナトリウム(8.5g)、リン酸水素ナトリウム水和物(2g)を滅菌精製水に溶解してpH調節剤を添加し、pHを7.5に調整後、全量を100mLに調整し10倍緩衝液を得た。PVP K30(16g)を滅菌精製水に溶解し、全量を200mLに調整し8%PVP K30水溶液を得た。10倍緩衝液2mL、8%PVP K30水溶液5mLを量り取り、滅菌精製水で全量を20mLに調整し、pH調整剤を用いてpHを7.5に調整し、処方液1を得た。
【0120】
処方液2:
表5に示す処方表に従い、処方液2を調製した。すなわち、塩化ナトリウム(8.5g)、リン酸水素ナトリウム水和物(2g)を滅菌精製水に溶解してpH調節剤を添加し、pHを7.5に調整後、全量を100mLに調整し10倍緩衝液を得た。10倍緩衝液2mL、PVP K90(0.4g)を滅菌精製水に溶解し、pH調整剤を用いてpHを7.5に調整し、全量を20mLとして処方液2を得た。
【0121】
処方液3:
表5に示す処方表に従い、処方液3を調製した。すなわち、塩化ナトリウム(8.5g)、リン酸水素ナトリウム水和物(2g)を滅菌精製水に溶解してpH調節剤を添加し、pHを7.5に調整後、全量を100mLに調整し10倍緩衝液を得た。PVP K30(16g)を滅菌精製水に溶解し、全量を200mLに調整し8%PVP K30水溶液を得た。10倍緩衝液4mL、8%PVP K30水溶液10mLを量り取り、滅菌精製水で全量を20mLに調整し、pH調整剤を用いてpHを7.5に調整し、処方液3 2倍濃厚液を得た。ヒドロキシエチルセルロース(1g)を滅菌精製水に溶解し、全量を100gとした後に高圧蒸気滅菌(121℃、25分)し、1.00%(w/w)ヒドロキシエチルセルロース溶液を得た。1.00%(w/w)ヒドロキシエチルセルロース溶液6g、処方液3 2倍濃厚液10mLに滅菌精製水を加え、全量を20mLに調整した。
【0122】
処方液4:
表5に示す処方表に従い、処方液4を調製した。すなわち、塩化ナトリウム(8.5g)、リン酸水素ナトリウム水和物(2g)を滅菌精製水に溶解してpH調節剤を添加し、pHを7.5に調整後、全量を100mLに調整し10倍緩衝液を得た。10倍緩衝液2mL、コンドロイチン硫酸ナトリウム(0.06g)を滅菌精製水に添加し、pH調整剤を用いてpHを7.5に調整し、溶解を確認して全量を20mLに調整し処方液4を得た。
【0123】
処方液5~7:
表5に示す処方表に従い、処方液4と同様に処方液5~7を調製した。
【0124】
【0125】
(試験方法)
培養した末梢神経細胞(ラット後根神経節ニューロン、ロンザジャパンより購入)を、細胞内カルシウム指示蛍光色素を含む緩衝液(FLIPR Calcium 6 Assay Kit、Molecular Devices社)中でインキュベーションした。緩衝液全量の40%を上記の各処方液に置換した。なお、無刺激群および刺激対照群には処方液に代えて緩衝液を同様に処置した。室温下で静置した後、蛍光プレートリーダーを用いてカルシウム指示色素の経時的蛍光測定を開始した。開始から60秒後にジクアホソルナトリウム(終濃度:0.3%)を添加し、蛍光強度の測定を継続した。
【0126】
(評価方法)
ジクアホソルナトリウム添加直前の蛍光強度(RFU)を100%として、添加後の最大蛍光強度(RFUmax)を算出した。
【0127】
(試験結果)
結果を
図2に示す。刺激対照群および処方液4~7では、ジクアホソルナトリウム添加後にRFUが上昇し、103.5%以上のRFUmaxを記録した。一方、PVPを含有する処方液1~3の各群ではRFUmaxはすべて101%未満であった。
【0128】
(考察)
何らかの刺激を受容した末梢神経細胞は活動電位を発生して興奮状態となり、活動電位に変換された刺激の信号はその後、中枢神経系へと伝達される。活動電位とはカルシウムイオンを含む陽イオンの細胞内流入によって生じた細胞膜電位変化である。そのため、神経細胞内カルシウムイオン濃度の上昇は、神経細胞の興奮状態を表す指標として実験的に広く用いられている。末梢神経細胞にジクアホソルナトリウムを曝露すると速やかに細胞内カルシウムイオンの蛍光強度に上昇がみられ、神経細胞がジクアホソルナトリウムを刺激として受容し、興奮状態になったことが示された。比較例としたPVPを含まないポリマー処方液4~7の各群においても同様の刺激応答が認められ、コンドロイチン硫酸ナトリウム、HPMC、CVPおよびCMC-Naの各ポリマーは、ジクアホソルナトリウムの神経刺激性に対して何ら影響を及ぼさなかった。これに対して、PVPを含む処方液1~3の下では、ジクアホソルナトリウム添加後の神経細胞内カルシウムイオンシグナルの上昇は示されなかった。すなわち、PVPと共存下にあるジクアホソルナトリウムは神経刺激性を示さず、PVPの添加やPVPおよびHECの添加によって点眼剤の差し心地感が改善されることが示唆された。
【0129】
[製剤例]
製剤例を挙げて本発明の薬剤をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの製剤例にのみ限定されるものではない。
【0130】
(処方例1:点眼剤(3%(w/v))
100mL中
ジクアホソルナトリウム 3g
リン酸水素ナトリウム水和物 0.01~0.5g
塩化ナトリウム 0.01~1g
エデト酸ナトリウム水和物 0.0001~0.1g
ポリビニルピロリドン 0.0001~10g
ヒドロキシエチルセルロース 0.0001~5g
pH調節剤 適量
滅菌精製水にジクアホソルナトリウムおよびそれ以外の上記成分を加え、これらを十分に混合することで上記点眼剤を調製できる。
【産業上の利用可能性】
【0131】
本組成物は、高い涙液量増加作用を有する。よって、本組成物は、既存のジクアス(登録商標)点眼液を点眼投与した場合と比較して、より強いドライアイ治療効果が期待される。また、既存のジクアス(登録商標)点眼液は1日6回点眼する必要があり、点眼アドヒアランス不良により期待通りの効果が得られない患者も存在しているが、本組成物はドライアイに対して十分な治療効果を有しつつ点眼回数を低減し、点眼アドヒアランスの向上が期待される。さらには、既存のジクアス(登録商標)点眼液は3%(w/v)の濃度のジクアホソル四ナトリウム塩を含有するが、本組成物はより低濃度で同程度またはそれ以上のドライアイ治療効果を発揮することが期待される。また、本組成物は、神経刺激性を示さず、点眼液の差し心地感を改善し得る。