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特許7526725水溶性材料への可溶化、乳化または分散による真菌材料のための仕上げの改善された浸透および接着、ならびに界面活性剤の使用
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  • 特許-水溶性材料への可溶化、乳化または分散による真菌材料のための仕上げの改善された浸透および接着、ならびに界面活性剤の使用 図1A
  • 特許-水溶性材料への可溶化、乳化または分散による真菌材料のための仕上げの改善された浸透および接着、ならびに界面活性剤の使用 図1B
  • 特許-水溶性材料への可溶化、乳化または分散による真菌材料のための仕上げの改善された浸透および接着、ならびに界面活性剤の使用 図2A
  • 特許-水溶性材料への可溶化、乳化または分散による真菌材料のための仕上げの改善された浸透および接着、ならびに界面活性剤の使用 図2B
  • 特許-水溶性材料への可溶化、乳化または分散による真菌材料のための仕上げの改善された浸透および接着、ならびに界面活性剤の使用 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-24
(45)【発行日】2024-08-01
(54)【発明の名称】水溶性材料への可溶化、乳化または分散による真菌材料のための仕上げの改善された浸透および接着、ならびに界面活性剤の使用
(51)【国際特許分類】
   C14C 11/00 20060101AFI20240725BHJP
   C09D 167/08 20060101ALI20240725BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20240725BHJP
   C12N 1/14 20060101ALI20240725BHJP
【FI】
C14C11/00
C09D167/08
C09D7/63
C12N1/14 A
【請求項の数】 21
(21)【出願番号】P 2021521760
(86)(22)【出願日】2019-10-25
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-14
(86)【国際出願番号】 US2019058203
(87)【国際公開番号】W WO2020087033
(87)【国際公開日】2020-04-30
【審査請求日】2022-10-25
(31)【優先権主張番号】62/750,358
(32)【優先日】2018-10-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】520032516
【氏名又は名称】マイコワークス, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100215670
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 直毅
(72)【発明者】
【氏名】スカリン マット
(72)【発明者】
【氏名】ウエナー ニコラス
(72)【発明者】
【氏名】チェイス ジョーダン
(72)【発明者】
【氏名】ミラー クイン
(72)【発明者】
【氏名】ロス フィリップ
【審査官】長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特表2020-515692(JP,A)
【文献】特開平02-018500(JP,A)
【文献】特開2004-204038(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0146627(US,A1)
【文献】国際公開第2018/183735(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B68F1/00-3/04
C12N1/00-7/08
C14B1/00-99/00
C14C1/00-99/00
D06N1/00-7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
布地又は皮革に用いるための真菌材料耐摩耗仕上げを付与する方法における(a)水中に分散された生分解性ポリマーを含む混合物と(b)少なくとも1種の界面活性剤の使用であって、
前記少なくとも1種の界面活性剤が、ポリウレタンバインダー、イソプロピルアルコールおよび2-ブトキシエタノールを含み、
前記方法が、前記混合物を真菌材料表面上に適用して、前記混合物が真菌材料に適用される時に、水が生分解性ポリマーを真菌の菌糸のマトリックス中に、真菌材料の厚さの少なくとも1%の深さまで運び込み、真菌材料上に改善された耐摩耗性および耐水性を有する生分解性ポリマーのコーティングを作出することと、生分解性ポリマーでコーティングされた真菌材料に、前記少なくとも1種の界面活性剤を添加して、低下させた表面張力及び改善された真菌材料への浸透を有する耐摩耗仕上を作出することを含む前記使用
【請求項2】
生分解性ポリマーの最適量が、真菌材料に適用される生分解性ポリマーのコーティングの厚さ、および真菌材料の表面密度に依存する、請求項1に記載の使用
【請求項3】
水中に分散される生分解性ポリマーの濃度が、0.1%~50.0%の範囲である、請求項1に記載の使用
【請求項4】
少なくとも1種の界面活性剤の添加が、生分解性ポリマーコーティングの表面張力を低下させ、真菌材料表面の濡れを改善し、かつ生分解性ポリマーを真菌材料に吸い込む働きをする、請求項1に記載の使用
【請求項5】
前記深さが、少なくとも1%、および最大で10%である、請求項1に記載の使用
【請求項6】
前記生分解性ポリマーが、ポリエステルである、請求項1に記載の使用
【請求項7】
布地又は皮革に用いるための真菌材料耐摩耗仕上げを付与する方法における(a)水中に分散された生分解性ポリマーを含む混合物と(b)少なくとも1種の界面活性剤の使用であって、
前記少なくとも1種の界面活性剤が、ポリウレタンバインダー、イソプロピルアルコールおよび2-ブトキシエタノールを含み、
前記方法が、前記混合物を真菌材料表面上に適用して、混合物が真菌材料に適用される時に、水が生分解性ポリマーを真菌の菌糸のマトリックス中に、少なくとも20マイクロメートルの真菌材料の深さまで運び込み、真菌材料上に改善された耐摩耗性および耐水性を有する生分解性ポリマーのコーティングを作出することと、生分解性ポリマーでコーティングされた真菌材料に、前記少なくとも1種の界面活性剤を添加して、低下させた表面張力及び改善された真菌材料への浸透を有する耐摩耗仕上を作出することを含む前記使用
【請求項8】
生分解性ポリマーの最適量が、真菌材料に適用される生分解性ポリマーのコーティングの厚さ、および真菌材料の表面密度に依存する、請求項7に記載の使用
【請求項9】
水中に分散される生分解性ポリマーの濃度が、0.1%~50.0%の範囲である、請求項7に記載の使用
【請求項10】
少なくとも1種の界面活性剤の添加が、生分解性ポリマーコーティングの表面張力を低下させ、真菌材料表面の濡れを改善し、かつ生分解性ポリマーを真菌材料に吸い込む働きをする、請求項7に記載の使用
【請求項11】
前記深さが、少なくとも1%、および最大で10%である、請求項7に記載の使用
【請求項12】
前記生分解性ポリマーが、ポリエステルである、請求項7に記載の使用
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項の使用により耐摩耗仕上げがされた菌糸塊であって、ISO 11644:2009に従って少なくとも2N/10mmの仕上げ接着を有する表面を有する菌糸塊。
【請求項14】
前記表面の仕上げ接着が、ISO 11644:2009に従って少なくとも3N/10mmである、請求項13に記載の菌糸塊。
【請求項15】
前記混合物が、前記表面に、少なくとも20マイクロメートルの深さまで浸透する、請求項13に記載の菌糸塊。
【請求項16】
前記混合物が、前記表面に、少なくとも40マイクロメートルの深さまで浸透する、請求項15に記載の菌糸塊。
【請求項17】
布地又は皮革に用いるための、耐摩耗仕上げがされた真菌材料を作出するための方法であって、
a.最適量の生分解性ポリマーを準備する工程;
b.最適量の生分解性ポリマーを水に分散させて、混合物を生成する工程;
c.水が生分解性ポリマーを真菌マトリックス中に運び込むように、前記混合物を真菌材料表面上に適用する工程;
d.真菌材料を乾燥させることによって水を蒸発させて、それによって真菌材料上に改善された耐摩耗性および耐水性を有する生分解性ポリマーのコーティングを作出する工程;
e.生分解性ポリマーでコーティングされた真菌材料に、高温で圧力をかけて、より高い耐水性および水分の存在下での分解に対するより低い感受性をもたらす架橋を促進する工程;ならびに
f.少なくとも1種の界面活性剤を、前記生分解性ポリマーでコーティングされた真菌材料に添加して、前記生分解性ポリマーのコーティングの有効性を改善する工程
を含み、
前記少なくとも1種の界面活性剤が、ポリウレタンバインダー、イソプロピルアルコールおよび2-ブトキシエタノールを含む、方法。
【請求項18】
水中に分散される前記生分解性ポリマーの濃度が、0.1%~50.0%の範囲である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記混合物が、いくつかのコート中に適用され、20℃と80℃の間で乾燥させる、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記混合物が、真菌材料上への適用前に振とうされる、請求項17に記載の方法。
【請求項21】
接着を促進するためのポリウレタンまたはアクリル系を含有する層、続いて、着色顔料、他のアクリル系、シリコーンまたは樹脂を含有する追加層をさらに形成する工程を含む、請求項17に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2018年10月25日に出願された米国仮特許出願第62/750358号の利益を主張し、その開示は、その全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、一般に、真菌材料に適用される仕上げに関し、より詳細には、真菌材料への改善された接着および浸透を有する仕上げに関する。
【背景技術】
【0003】
真菌材料が、種々の機械的および物理的用途を有する多用途の生体材料として台頭してきた。真菌材料のこのような顕在化は1つには、布地として、すなわち靴、バッグおよび衣類などの製品の製造において使用される薄いシートにおいて、ならびに柔軟な織物が利用される任意の使用事例においてみられる。これらの適用において真菌材料が有用であるためには、それらは、限定されるものではないが、引張強度、引裂強度、縫製性、耐摩耗性、染色堅ろう度、染料移動、屈曲耐久性、層接着、表面接着および仕上げ接着を含む、適切な機械的性質を具体化するように処理されなければならない。
【0004】
皮革および他の布地などの柔らかく、柔軟な織物様材料のための典型的な機械的性質プロファイルは、高い強度および耐引裂性を示し得るが、前記材料を布地として望ましいものにする非常な柔らかさに起因して、摩耗下では性能も劣り得る。つまり、布地が高い引張強度に耐え得るとしても、この材料の表面層は、摩擦下で摩耗する場合があり、さらにまた、染色されると、材料は、着用している人のブラウスにこすり付けられるハンドバッグなどの日常使用の間中ずっとこすり付けて他の物体に色を移す場合がある。
【0005】
真菌材料は、吸水性が高く、生きているまたは成長している場合に、天然の水分含量は、通常、85%超である。材料のスポンジ様の性質は、これに寄与し、それによって、個々の菌糸の間の間質空間、これらの菌糸が作る材料、および一般に菌糸体全体にわたる空所は、大量の水を吸収する。コーティング材料が、水に可溶化、乳化もしくは分散されると、またはこのようなコーティング材料が、ミセルに封入され、コロイド溶液に分散され、その後真菌材料に適用されると、水は、真菌材料のミクロおよびマクロ構造の両方に奥深く吸収され、それと一緒にコーティング材料を運ぶ。
【0006】
真菌材料のための水ベースの仕上げは、他の方法によって得られない環境および性能の利点の両方を提供する。例えば、それらは、より高い浸透およびより大きな接着を有する仕上げを生成しながら、毒性溶媒に基づく仕上げを置き換えることができる。同様に、菌糸体は、自然に、大分子潤滑剤および油などの高分子量材料による浸透に対して耐性であるが、菌糸体は、非常に親水性であり、それによって、水ベースの溶液、乳液および分散液を吸収する。さらにまた、界面活性剤の使用はまた、材料を吸収する代わりに吸着する傾向を克服することができ、それにより、浸透するために必要な分子は、イオン力を使用して、コーティング材料および他の化学物質の吸収を促進することができるように、異なるpHのパッケージ(したがって、カチオンまたはアニオン電荷)に封入される。
【0007】
真菌材料に仕上げを適用する従来の方法は、ポリエステルのポリ(L-乳酸)(本明細書の以下において、「PLA」)または他のポリヒドロキシ酸などの生分解性ポリマーを、熱および圧力で、または毒性溶媒を介して、適用することを含む。例えば、PLAの薄膜は、ロールラミネーターのような機械を用いて、熱および圧力を使用して、真菌材料上に積層され得る。さらに、PLAまたは他の生分解性ポリマーはまた、塩化メチレンなどの塩素化有機溶媒にそれを溶解すること、および溶液をブラシまたは噴霧を用いて表面に適用することによって、適用され得る。溶媒が蒸発すると、PLAまたは他の生分解性ポリマーの層が残って、材料をコーティングする。しかしながら、どちらの方法も、強く接着した層または奥深くに浸透した層を生成せず、つまり、コーティングは、単に吸着されて、菌糸体およびコーティングの相互浸透なく、別の分子の層をもたらす。また、溶媒法は、重要な環境および職場の安全上の課題を作り出す。
【0008】
そのため、真菌材料のための改善された耐摩耗仕上げおよび耐摩耗仕上げを作出するための方法に対する必要性が存在する。このような耐摩耗仕上げは、真菌材料への改善された接着および浸透を提供するであろう。このような仕上げは、任意の毒性化学物質を使用せず、有害な副作用を引き起こさないであろう。さらに、このような仕上げは、耐摩耗性、クロッキングに対する染色堅ろう度、染料移動、および真菌材料の耐水性を改善するであろう。また、このような改善された耐摩耗仕上げは、真菌材料上に仕上げを適用するための熱、圧力または任意の毒性溶媒のような特定の条件を必要としないであろう。さらにまた、このような耐摩耗仕上げは、任意の環境および職場の課題を引き起こさないであろう。本実施形態は、これらの重要な目的を成し遂げることによって、本分野における欠点を克服する。
【発明の概要】
【0009】
既存のシステムおよび方法において見出される限界を最小化するため、および本明細書を読む際に明らかになる他の限界を最小化するために、本発明の好ましい実施形態は、真菌材料のための耐摩耗仕上げ、ならびに耐摩耗仕上げを真菌材料上に作成および適用するための方法を提供する。
【0010】
本発明の好ましい実施形態の耐摩耗仕上げは、混合物を生成するための水中に分散された最適量の生分解性ポリマーを含む。1つの実施形態において、ポリマーは、PLAであり、これは、ここでは例示目的でのみ使用される。この例において、水中に分散されたPLAの濃度は、0.1%~50%の範囲である。PLA混合物が真菌材料に適用される時に、水は、PLAを真菌の菌糸のマトリックス中に奥深く運び込み、水が蒸発するにつれて菌糸構造を強化し、改善された耐摩耗性および耐水性を有する真菌材料上のコーティングを作出する。環境に関する懸念は、PLAを水中に分散させることによって、大幅に最小化される。
【0011】
真菌材料のための耐摩耗仕上げを作出するための方法は、最適量の生分解性ポリ乳酸(PLA)を準備する工程、最適量の生分解性PLAを水に分散させて、PLA混合物を生成する工程、および水がPLAを真菌マトリックス中に奥深くに運び込むように、PLA混合物を真菌材料上に適用する工程を含む。次に、プロセスは、真菌材料を乾燥させることによって水を蒸発させて、それによって、改善された耐摩耗性および耐水性を有する真菌材料上のPLAのコーティングを作出する。本明細書において、多くの工程をPLAに関して記載するが、他の生分解性ポリマーがその場所で置換され得ることが理解されるべきである。
【0012】
本実施形態の第1の目的は、真菌材料のための改善された耐摩耗仕上げおよび耐摩耗仕上げを作出するための方法を提供することである。
【0013】
本実施形態の第2の目的は、真菌材料への改善された接着および浸透を提供する耐摩耗仕上げを提供することである。
【0014】
本実施形態の第3の目的は、任意の毒性化学物質を使用せず、したがって有害な副作用を最小化する耐摩耗仕上げを提供することである。
【0015】
本実施形態の第4の目的は、改善された耐摩耗性、クロッキングに対する染色堅ろう度、低減された染料移動、および真菌材料の耐水性を提供する仕上げを提供することである。
【0016】
本実施形態の第5の目的は、真菌材料上に仕上げを適用するための熱、圧力または任意の毒性溶媒のような特定の条件を必要としない改善された耐摩耗仕上げを提供することである。
【0017】
本実施形態の別の目的は、環境および関連する職場の課題を最小化または除去する耐摩耗仕上げを提供することである。
【0018】
本発明のこれらおよび他の利点ならびに特徴は、本発明を当業者に理解可能にするために、具体的に記載される。
【0019】
それらの明瞭さを増強し、さまざまな要素および実施形態の理解を改善するために、図面は、必ずしも、一定の縮尺で描かれるわけではない。さらにまた、一般に公知であり、かつ当業者に十分に理解される要素は、必ずしも表されず、このようにして、本発明のさまざまな実施形態の明確な図を提供する。そのため、図は、明瞭さおよび簡潔さの利益のために形式上一般化される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1A】真菌材料に適用された水不溶性PLAコーティングの従来技術の画像を示す図である。
図1B】別の真菌材料に適用された水不溶性PLAコーティングの従来技術の画像を示す図である。
図2A】本発明の好ましい実施形態による真菌材料に適用された耐摩耗仕上げの画像を示す図である。
図2B】本発明の好ましい実施形態による別の真菌材料に適用された耐摩耗仕上げの画像を示す図である。
図3】本発明の好ましい実施形態による真菌材料上に耐摩耗性のコーティングを生成および適用するための方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の多くの実施形態および適用に対処する以下の議論において、本明細書の一部を形成し、本発明が実施され得る特定の実施形態を例として示す添付の図面を参照する。他の実施形態が利用されてもよいこと、および本発明の範囲から逸脱することなく変更を行ってもよいことが理解されるべきである。
【0022】
互いに独立して、または他の特徴と組み合わせて、それぞれ使用することができるさまざまな発明特徴を下記に記載する。しかしながら、任意の単一の発明特徴は、上記で議論された課題のいずれかに対処しない場合があり、または上記で議論された課題の1つのみに対処する場合がある。さらに、上記で議論された1つまたは複数の課題は、下記に記載の特徴のいずれかによって、完全に対処されない場合がある。
【0023】
本明細書で使用される場合、単数形の「a」、「an」および「the」は、文脈が明確に他を指示しない限り、複数形を含む。「および」は、本明細書で使用される場合、他に明示的に言及されない限り、「または」と互換可能に使用される。本明細書で使用される場合、「約」という用語は、列挙されたパラメーターの+/-5%を意味する。本発明のすべての実施形態の任意の態様は、文脈が明確に他を指示しない限り、組み合わせて使用することができる。
【0024】
文脈が明確に他を必要としない限り、本明細書および特許請求の範囲全体を通して、「含む(comprise)」、「含むこと(comprising)」などの語は、排他的または網羅的な意味とは対照的に、包括的な意味、すなわち、「含むが、それに限定されない」という意味で解釈されるべきである。単数または複数で使用される語は、それぞれ、複数および単数も含む。加えて、「本明細書において」、「ここで」、「である一方で」、「上記」および「下記」という語、ならびに同様の意味の語は、本出願において使用される場合、本出願の任意の特定の部分ではなく、全体として、本出願に言及するものとする。最後に、多くの例は、本明細書において、生分解性ポリマーのPLAを記載するが、方法および組成物は、他のポリヒドロキシ酸、またはさらに言うなら、任意のポリエステルまたは任意の生分解性ポリマーを等しく含み得る。
【0025】
本開示の実施形態の記載は、網羅的であること、または本開示を開示された正確な形態に限定することを意図するものではない。本開示の特定の実施形態および例が、例示的な目的のために本明細書に記載されるが、関連する技術の当業者が認識するように、さまざまな等価な改変が、本開示の範囲内で可能である。
【0026】
本発明は、耐摩耗性、クロッキングに対する染色堅ろう度、染料移動、耐水性および他の特質を改善するための真菌材料のための水ベースの仕上げに関連する。水ベースの仕上げによって付与される利点は、一部分において、従来の方法と比較して、仕上げのより大きな浸透および接着によってもたらされる。
【0027】
図1Aおよび1Bを参照すると、水不溶性PLAコーティングでコーティングされた真菌材料の従来技術の画像が図示される。他の生分解性ポリマーで置換され得ることが理解されるべきである。PLAは、水不溶性塩素化溶媒を介して、真菌材料に適用される。得られたPLAの層は、低浸透および低接着の両方を有し、図1Aおよび1Bに図示されるように配合の際にPLAと真菌基材との間の剥離をもたらす。
【0028】
図2A~2Bは、本発明の好ましい実施形態による真菌材料100に適用された耐摩耗仕上げ102の画像を図示する。好ましい実施形態は、真菌材料100上に適用される時に、高浸透および高接着を有する耐摩耗仕上げ102を提供する。真菌材料100は、好ましくは、菌糸体である。耐摩耗仕上げ102は、PLA混合物を生成するための水中に分散された最適量の生分解性ポリ乳酸プラスチック(PLA)を含む。生分解性PLAの最適量は、真菌材料100に適用されるPLAコーティングの厚さ、および真菌材料100の表面密度に依存する。水中に分散されたPLAの濃度は、0.1%~50%の範囲であり得る。追加の水分も、適用されるPLAの水分含量に応じて、真菌材料100の表面への浸透を促進するために、PLA分散液に含まれていてもよい。
【0029】
PLAが水に分散されてPLA混合物を生成する場合、環境に関する懸念は、大幅に最小化される。真菌材料100に適用される時に、水は、PLAを親水性真菌材料100のミクロおよびマクロ構造により奥深く運び込む。PLAは、少なくとも20マイクロメートルの深さ、または真菌材料100の少なくとも1%の厚さのより小さい方まで、運ばれる。材料の厚さが少なくとも0.5~5mmである実施形態において、少なくとも1%の深さは、少なくとも5ミクロン~50ミクロンの浸透を生じる。PLAは、真菌材料100に、奥深くに浸透し、菌糸構造を強化し、改善された耐摩耗性および耐水性を有する真菌材料100の上部に接着した複合PLAコーティングを作出する。PLAが、水中の分散液を介して、真菌材料100に適用される場合、得られるPLAコーティングの層は、高浸透および高接着の両方を有し、図2Aおよび2Bに図示されるように、配合の際に、PLAコーティングおよび真菌材料100の間の強い密着をもたらす。得られた真菌材料は、材料の厚さの少なくとも1%または20マイクロメートルの深さのより小さい方まで、その仕上げの浸透を有し、ISO 11644:2009に従って>2N/10mmの仕上げ接着を有する。
【0030】
本発明の別の実施形態において、PLAコーティングは、ポリウレタン、アクリル系、樹脂またはシリコーンを含み、改善された耐摩耗性、耐水性、色移り、耐光性、手触りおよび色を達成するために、真菌材料100に適用される。このようなPLAコーティングは、イソプロピルアルコール、グリコールもしくはグリセロール、または溶解度増強剤を含む、水溶性溶媒および界面活性剤を使用して、適用され得る。これらのコーティングは、接着を促進するためのポリウレタンまたはアクリル系を含有する層、続いて、着色顔料、他のアクリル系、シリコーン、樹脂またはポリウレタンなどを含有する追加層などの、所望の性質の組み合わせを達成するために、噴霧またはロール移動を介して、複数の工程において適用され、層の適用の間に乾燥させ、適用後に加熱ローラーなどを介して加熱および圧力がかけられる。このようにして、PLAコーティングは、ポリウレタン、アクリル系、樹脂またはシリコーンに富む層が、ISO 11644:2009に従って10mmあたり2ニュートンより大きい接着強度で真菌材料100の表面に接着されることによって、構造を生成する。
【0031】
本発明の1つの実施形態において、少なくとも1つの界面活性剤は、耐摩耗仕上げ102の有効性を改善するために、耐摩耗仕上げ102に添加される。少なくとも1つの界面活性剤は、接着PLAコーティングの有効性を改善するために、3部からなる皮革の噴霧コーティングプロセスにおいて、水ベースの接着PLAコーティングに添加される。好ましい実施形態において、200~800部の水、200~400部のポリウレタンバインダー、200~800部のイソプロピルアルコールおよび10~150部の2-ブトキシエタノールが混合され、真菌材料100上に噴霧される。界面活性剤の添加は、PLAコーティングの表面張力を低下させ、真菌表面の濡れを改善し、かつ水ベースの仕上げ120を真菌材料100の奥深くに吸い込む働きをする。
【0032】
この実施形態において、界面活性剤の添加は、仕上げ102の表面張力を低下させ、浸透をさらに改善する。PLAコーティングは、下層の真菌材料100、次いで、着色コートを与える着色顔料、および耐摩耗性および他の望ましい品質を与えるトップコートへの接着を提供する。界面活性剤を水ベースのPLAベースコートに添加することで、表面張力を低下させ、他の2層の浸透および接着を改善する。
【0033】
界面活性剤は、通常、疎水性基および親水性基の両方を有する、両親媒性である有機化合物である。水不溶性成分および水溶性成分の両方により、界面活性剤は、水中に拡散し、界面で吸着する。水不溶性の疎水性基は、バルク水相から空気中に広がるが、水溶性の頭部基は、水相に残ったままである。
【0034】
濡れは、固体表面との接触を維持するための液体の能力であり、2つが一緒にされる時の分子間相互作用から生じる。濡れ(濡れ性)の程度は、接着力および凝集力の間の力のバランスによって決定される。液体および固体の間の接着力は、液滴を、表面に広がらせる。液体内の凝集力は、液滴を丸くさせ、表面との接触を回避させる。界面活性剤は、濡れを促進するための接着力および凝集力のバランスを改変するために使用することができる。
【0035】
接触角(θ)は、液体-蒸気の界面が固体-液体の界面と接触する角度である。接触角は、接着力および凝集力の間のバランスによって決定される。液滴が平らな固体表面に広がる傾向が増加するにつれて、接触角は減少する。そのため、接触角は、濡れ性の逆測定値を提供する。
【0036】
90°未満の接触角(低い接触角)は、通常、表面の濡れが非常に好都合であり、流体が、表面の広い面積に広がることを示す。90°より大きい接触角(高い接触角)は、一般に、表面の濡れが不都合であり、流体が、表面との接触を最小化し、小型の液滴を形成することを意味する。
【0037】
界面活性剤の濡れ特性を理解するための1つのモデルは、過剰自由エネルギーとして公知である。系の過剰自由エネルギーは、等温等圧の熱力学系から得られ得る有用な仕事である。固体基材上に配置された液滴の過剰自由エネルギーΦは、以下の通り与えられる。
Φ=γS+PV+πR2(γsl-γsv) (式1)
【0038】
式中、Sは、液体-蒸気の界面の面積であり;P=Pa-P1は、液体内部の過剰圧力であり、PaおよびP1は、それぞれ、周囲空気の圧力および液体内部の圧力であり;Rは、液滴の底面半径であり;γ、γslおよびγsvは、それぞれ、液体-蒸気、固体-液体および固体-蒸気の界面張力である。式(1)の右側の最後の条項は、液滴によって覆われる表面のエネルギーおよび液滴なしの同じ固体表面のエネルギーの間の差を提供する。式(1)は、(a)液体-蒸気の界面張力が減少する場合、(b)固体-液体の界面張力が減少する場合、および(c)固体-蒸気の界面張力が増加する場合に、過剰自由エネルギーが減少することを示す。
【0039】
界面活性剤の存在下において、以下の3つの移動プロセスが、液体から3つすべての界面上で起こる:(i)内部の固体-液体の界面、および(ii)液体-蒸気の界面の両方での界面活性剤の吸着、ならびに(iii)むき出しの基材上の液滴の前の固体-蒸気の界面上での液滴からの界面活性剤分子の移動。吸着プロセス(i)および(ii)は、対応する界面張力γslおよびγの減少をもたらす。液滴の前の固体-蒸気の界面上での界面活性剤分子の移動は、局所自由エネルギーの増加をもたらす。正味では、プロセスは、系の過剰自由エネルギーの減少をもたらし、接触角の減少および増加された濡れをもたらす。この方法において、真菌材料100のための水ベースの耐摩耗仕上げ102の接着および浸透は、濡れ角を減少させ、かつ真菌材料100における濡れを改善する界面活性剤を添加することによって改善することができる。
【0040】
図3は、真菌材料のための耐摩耗仕上げを作出するための方法のフローチャートを図示する。方法は、ブロック202で指示されるように、最適量の生分解性ポリ乳酸(PLA)を準備する工程を含む。ブロック204で指示されるように、最適量の生分解性PLAを水に分散させて、PLA混合物を生成する。次いで、ブロック206で指示されるように、PLA混合物を振とうまたはかき混ぜて、PLA成分が水中で分離または沈降するのを防止する。ブロック208で指示されるように、水がPLAを真菌マトリックス中に奥深く運び込むように、PLA混合物を真菌材料上に適用し、ブロック210で指示されるように、真菌材料を乾燥させることによって水を蒸発させて、それによって、改善された耐摩耗性および耐水性を有する真菌材料上のPLAコーティングを作出する。ブロック212で指示されるように、PLAでコーティングされた真菌材料を、高温で圧力をかけて、より高い耐水性および水分の存在下での分解に対するより低い感受性をもたらす架橋を促進する。
【0041】
方法は、少なくとも1種の界面活性剤をPLAでコーティングされた真菌材料100に添加して、耐摩耗仕上げ102の有効性を改善する工程をさらに含む。少なくとも1種の界面活性剤は、ポリウレタンバインダー、イソプロピルアルコールおよび2-ブトキシエタノールのうちの少なくとも1種を含んでいてもよい。少なくとも1種の界面活性剤の添加は、接着を促進するためのポリウレタンまたはアクリル系を含有する層、続いて、着色顔料、他のアクリル系、シリコーンまたは樹脂を含有する追加層を提供する。
【0042】
1つの実施形態において、耐摩耗仕上げを作出するための方法は、最適量の生分解性ポリマーを準備する工程;最適量の生分解性ポリマーを水に分散させて、混合物を生成する工程;混合物を振とうして、生分解性ポリマー成分が水中で分離または沈降するのを防止する工程;水が生分解性ポリマーを真菌マトリックス中に奥深く運び込むように、混合物を真菌材料表面上に適用する工程;真菌材料を乾燥させることによって水を蒸発させて、それによって、改善された耐摩耗性および耐水性を有する真菌材料上の生分解性ポリマーのコーティングを作出する工程;ならびに生分解性ポリマーでコーティングされた真菌材料を、高温で圧力をかけて、より高い耐水性および水分の存在下での分解に対するより低い感受性をもたらす架橋を促進する工程を含む。
【0043】
いくつかの実施形態において、水中に分散される生分解性ポリマーの濃度は、0.1%~50.0%の範囲であり得る。いくつかの実施形態において、方法は、少なくとも1種の界面活性剤を、生分解性ポリマーでコーティングされた真菌材料に添加して、耐摩耗仕上げの有効性を改善する工程をさらに含む。いくつかの実施形態において、方法は、ポリウレタンバインダー、イソプロピルアルコールおよび2-ブトキシエタノールを含む少なくとも1種の界面活性剤をさらに含む。いくつかの実施形態において、方法は、接着を促進するためのポリウレタンまたはアクリル系を含有する層、続いて、着色顔料、他のアクリル系、シリコーンまたは樹脂を含有する追加層を提供する、少なくとも1種の界面活性剤の添加を含む。いくつかの実施形態において、混合物は、所望の仕上げ品質に応じて、いくつかのコート中に適用され、20℃と80℃の間で乾燥させる。いくつかの実施形態において、低減された局所の気圧の使用は、コーティング混合物中の水成分の浸透および蒸発を改善する。いくつかの実施形態において、生分解性ポリマーは、ポリエステルであり、よりさらなる実施形態において、ポリエステルは、ポリ乳酸である。
【0044】
耐摩耗仕上げ102の浸透は、ゼロ圧縮下で測定された場合に、皮革に適用される表面コーティングの厚さを決定するための方法を述べる、ISO 17186:2011(表面コーティングの厚さの決定)を含む方法を用いて測定されてもよい。
【0045】
耐摩耗仕上げ102の接着は、ISO 11644:2009(皮革-仕上げの接着のための試験)などの標準的な方法を用いて測定されてもよく、ここで、接着は、皮革をその表面の仕上げ層から引き離すために必要な力として定義され、その力は、皮革の仕上げ側が最小限の浸透接着で結合されている剛性の接着性プレートに、約90°の角度で着実に加えられる。
【0046】
いくつかの実施形態において、菌糸塊は、少なくとも2N/10mm、他の実施形態では、少なくとも3N/10mmの仕上げ接着を有する表面を有する。いくつかの実施形態において、これらの測定は、ISO 11644:2009に従う。いくつかの実施形態において、菌糸塊は、少なくとも2N/10mm、他の実施形態では、少なくとも3N/10mmの仕上げ接着を有する表面を有する。いくつかの実施形態において、これらの測定は、ISO 11644:2009に従う。いくつかの実施形態において、生分解性混合物は、少なくとも20マイクロメートル、他では少なくとも40マイクロメートルの深さまで、前記表面に浸透する。いくつかの実施形態において、これらの測定は、ISO 11644:2009に従う。よりさらなる実施形態において、浸透は、少なくとも1%であるが、10%以下である。
【0047】
前述の本発明の好ましい実施形態の説明は、例示および説明の目的で提示される。網羅的であること、または本発明を開示された正確な形態に限定することを意図するものではない。多くの改変および変形は、上記の教示を考慮して可能である。本発明の範囲が、この詳細な説明によって限定されるべきではないが、本明細書に添付される特許請求の範囲および特許請求の範囲に対する均等物によって限定されることが意図される。
図1A
図1B
図2A
図2B
図3