IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ エージーシー グラス ユーロップの特許一覧

特許7526740高い近赤外透過率及び非常に低い可視透過率を有するガラスシート
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-24
(45)【発行日】2024-08-01
(54)【発明の名称】高い近赤外透過率及び非常に低い可視透過率を有するガラスシート
(51)【国際特許分類】
   C03C 4/10 20060101AFI20240725BHJP
   C03C 3/087 20060101ALI20240725BHJP
   G02B 1/00 20060101ALI20240725BHJP
【FI】
C03C4/10
C03C3/087
G02B1/00
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021558728
(86)(22)【出願日】2020-03-24
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-05-24
(86)【国際出願番号】 EP2020058137
(87)【国際公開番号】W WO2020200912
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2023-02-28
(31)【優先権主張番号】19167078.5
(32)【優先日】2019-04-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】510191919
【氏名又は名称】エージーシー グラス ユーロップ
【氏名又は名称原語表記】AGC GLASS EUROPE
【住所又は居所原語表記】Avenue Jean Monnet 4, 1348 Louvain-la-Neuve, Belgique
(74)【代理人】
【識別番号】100103816
【弁理士】
【氏名又は名称】風早 信昭
(74)【代理人】
【識別番号】100120927
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 典子
(72)【発明者】
【氏名】ボゲルト, ミシェル
【審査官】永田 史泰
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第101643317(CN,A)
【文献】特表2018-513825(JP,A)
【文献】特表2018-517655(JP,A)
【文献】特表2018-517656(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C1/00-14/00
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイ酸塩タイプのガラスシートであって、前記ガラスシートが、
(i) ガラスの全重量による、重量パーセンテージとして表される含有量において、
全鉄(Feとして表される) 0.04~1.7%、
クロム(Crとして表される) 0.05~0.8%、
コバルト(Coとして表される) 0.03~0.175%、
を含み、且つ
(ii)
Cr<1-5.5*Co、
0.5<Cr/Fe≦1.2
の組成物を有すること、及び前記ガラスシートが80%超のT 850 を有することを特徴とする、ケイ酸塩タイプのガラスシート。
【請求項2】
前記組成物がCr/Fe≦1を含むことを特徴とする、請求項1に記載のガラスシート。
【請求項3】
前記組成物がCr/Fe≦0.8を含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載のガラスシート。
【請求項4】
前記組成物がクロム(Crとして表される)≦0.5%を含むことを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載のガラスシート。
【請求項5】
前記組成物がクロム(Crとして表される)≦0.3%を含むことを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載のガラスシート。
【請求項6】
前記組成物がクロム(Crとして表される)≧0.1%を含むことを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載のガラスシート。
【請求項7】
前記組成物が全鉄(Feとして表される)≦1.2%を含むことを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載のガラスシート。
【請求項8】
前記組成物が全鉄(Feとして表される)≧0.08%を含むことを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載のガラスシート。
【請求項9】
前記組成物が全鉄(Feとして表される)≧0.1%を含むことを特徴とする、請求項1~8のいずれか一項に記載のガラスシート。
【請求項10】
前記組成物がコバルト(Coとして表される)≦0.12%を含むことを特徴とする、請求項1~9のいずれか一項に記載のガラスシート。
【請求項11】
前記組成物が40ppm未満のFe2+含有量(FeOの形態で表される)を含むことを特徴とする、請求項1~10のいずれか一項に記載のガラスシート。
【請求項12】
前記ガラスシートが10%未満のTLD4を有することを特徴とする、請求項1~11のいずれか一項に記載のガラスシート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、近赤外域において高い透過率を有するが可視範囲において非常に低い透過率を有するケイ酸塩ガラスシートに関する。
【0002】
本発明は、自動運転車、特に、LiDARシステムを完全に統合する自動運転車の文脈内で特に適している。
【背景技術】
【0003】
一般にLiDARシステムに依拠する、自動運転車の現在の目覚ましい発展によって、特に、IR用途の需要は絶えず大きくなっている。今日では、市場の動向と要求は、(美的理由及びシステムへの損傷の防止のような多数の明瞭な理由のために)車内で完全に統合され且つ、特に、1つ又は複数のそのグレージング(リアウィンドウ/リアウインドシールド/バックウインドシールド及び/又はガラストリム)の内面の後ろに取り付けられる、それらのLIDARシステムを有することである。自動運転車のLIDAR技術の最新の発展によって、目的の2つの主波長範囲、すなわち800~1100nm(特に850、950、及び1050nm)及び1500~2000nm(特に1550nm)が使用される。
【0004】
自動車において使用されるレギュラーガラス(クリア、着色、コート等)は、ソーダ石灰ケイ酸塩タイプであり、限られたコストで、とりわけ、高度に機械的、化学的及び老化耐性であるという利点を有する。しかしながら、それらのガラスは不十分な近赤外透過率を示し、前記ガラスの吸収による高いIR信号損失を示す。そのため、前記ガラスの後ろにLIDARシステムを取り付けることは実行可能でない。
【0005】
近年、車のビジョン・グレージング(リアウィンドウ/リアウインドシールド/バックウインドシールド)のために要求される可視透過率の高いレベルを維持しながら、近IR領域、特に範囲800~1100nmのかなり高い透過(吸収係数<5m-1)を有するグレージングを得ることを可能にする特定のガラス組成物を使用することが提案されている。この解決策は、とりわけPCT国際公開第2018/015312A1号パンフレットに記載されている。しかしながら、これらの記載されたガラス組成物は高い可視透過率を示すので、LIDARシステムのような、後ろに置かれた任意の要素は車の外側から可視的であり、それによってその審美性を大幅に低下させる。
【0006】
最近、国際公開第2018/015313A1号パンフレットにおいて、前記システムの良いレベルの作動性能を確実にしながらLIDARシステムの美的でない要素を外側から隠すために公知のIR透過ガラスシートとIR透明着色/不透明色コーティングとを組み合せることが提案されている。このコーティングは、例えば、可視範囲に透過がない(又は非常に低い)が前記用途のための目的の赤外範囲に高い透過率を有する黒色インク又は黒色フィルムの層であることができる。このようなインク又はフィルムは一般的に、有機化合物から製造される。残念なことに、「クリア」又は透明なガラスシートと黒色層/フィルムとを組み合せるこの解決策は、(ガラス自体と比較して)層/フィルムの不十分な耐性のようないくつかの欠点を有しそれによって組立体を壊れやすくし、また、それはこのコートされたガラスシートに別のシートを積層することを必要とする。最後に、このような黒色層/フィルムで覆われるガラスシートを様々な形状において湾曲させる/屈曲させることは本当に難しい。
【0007】
自動運転車及びLIDAR技術の文脈から、当技術分野はまた、バルクで高度に着色~不透明色であり近IR範囲において非常に良い透過性能をも示すいくつかのガラスを提案している:
- カルコゲナイドガラスという名称の特殊ガラスは、カルコゲン(硫黄S、セレンSe又はテルルTe)をベースとしており、酸素を含有しない。カルコゲナイドガラスは、赤外域に大きい透明領域を有することで確かに知られており、いくつかの組成物は、可視線に対して不透明であることができる。しかしながら、このようなガラスは、2つの主な欠点を有する。第一に、カルコゲナイドガラスは、非常に不十分な機械抵抗を有する。例えば、カルコゲナイドガラスの報告された硬度値は、(ソーダ石灰ケイ酸塩ガラスの4.8~5.0GPaと比較して)0.39~2.35GPaの間の範囲である。第二に、カルコゲナイドガラスは、それらが非常に高価であることで知られている:非常に高価な原材料に加えて、カルコゲナイドガラスの合成中に酸素汚染が許容されず、それはガラス部品のサイズ、量及び価格に関して固有の制限を有する複雑な製造炉を必要とする。最後に、カルコゲナイドガラスはまた、いくつかのひどい環境問題を有する。これらの欠点は明らかに、慣例に従って使用されるソーダ石灰ケイ酸塩ガラスの代用品として、すなわち自動車分野においてそれらを使用するのを妨げる。
- 特殊設計されたソーダ石灰ケイ酸塩ガラス組成物は、欧州特許出願第18194808.4号明細書において同じ文脈で説明されている。それは、ソーダ石灰ケイ酸塩をベースとした母材中に、鉄、マンガン及び任意選択によりクロムを特定の量で含み、近赤外透過率に関して良い性能と共に非常に強い色~不透明度を示す。残念なことに、その近赤外透過率は限られた波長、特に1050nm及び1550nmにだけ高い値に達し、それは、より低い波長、すなわち850~950nmの高い近赤外透過率を要求するLIDAR技術に対するその使用を妨げる。
- 別の特殊設計されたソーダ石灰ケイ酸塩ガラス組成物は、国際公開第WO2015/091106号パンフレットにおいてIRタッチディスプレイの文脈で説明されている。それは、ソーダ石灰ケイ酸塩をベースとした母材中に、クロム及びコバルトを特定の量で含み、850~950nmの間の波長の近赤外透過率に関して良い性能と共に非常に強い色~不透明度を示す。特に、国際公開第WO2015/091106号パンフレットからの適した赤外透過ガラス組成物の実施例は、低量の全鉄(600ppm未満)を保持しながら不透明度に達する/近づくために高量のクロムを含む。残念なことに、このような範囲は、最終ガラス組成物/製品中にかなりの量の六価クロム又はCr6+種をもたらす。しかし、Cr6+は一般的に、主に環境及び健康上の理由のために製品中で望ましくない種である。製品中のCr6+の濃度は、規制(RoHS指令(2011/65/EU、(EU)2015/863及びELV指令(2000/53/EC、(EU)2016/774))によって制限され、Cr6+<0,1重量%に定められる。国際公開第WO2015/091106号パンフレットからの実施例6及び7の計算されたCr6+量は、それぞれ約467ppm及び339ppmに達する。これらの含有量は現在の規制によって課せられる限度を下回るが、(i)これらの限度はおそらく近い将来においていっそう制限的になり、(ii)最近、ガラス製品中にCr6+がほとんど存在しないことを要求する顧客もいる。
【0008】
したがって、最新技術は、付加的な黒色/不透明色層/フィルムを必要とせずに非常に低いか又はゼロの可視透過率と共に、850~950nmの特定範囲において高い近赤外透過率を有し且つ低いCr6+含有量(少なくとも、同等の近赤外透過率性能を有する先行技術のガラスと比べてより低い)を有する(ソーダ石灰)ケイ酸塩タイプのガラスを提供する解決策を全く提供していない。
【0009】
美意識に対する消費者の要求の高まりと共に実用可能な自動運転車の迅速な開発と市場の強い要望の文脈で、近IR範囲及び特に850~950nmにおいて高い透過率を示すが、可視範囲において本質的に非常に低いか又はゼロに近い透過率を有し(バルクで高度に着色~不透明色であることを意味する)且つ低量のCr6+を示すケイ酸塩タイプのガラスシートを有する必要が明らかにある。その場合には、車に取り付けられる(すなわちトリムとして)このようなガラスシートは、その内面の後ろにLIDARシステム(例えば、850~950nmの範囲の波長を使用する)を置くことを可能にし、同時に:
- LIDARシステムの良い性能を確実にすること、
- 前記システムの美的でない要素を車の外側から隠すこと、
- レギュラーガラスの固有の耐性(機械的、化学的、老化)のレベルを保持すること、
- 環境及び健康のリスクを抑えること、及び
- 適度なコストを達成することができる。
【0010】
その次に、その低い可視透過率のために、このようなガラスシートはまた、LIDARシステムに統合される検出器自体の性能を改良するさらに別の利点をもたらす。確かに、一般的に使用される赤外検出器はまた、いくつかの可視線に感受性であり、それによってLIDARシステムの前のガラスシート可視領域において非常に透過性である場合、望ましくないノイズバックグラウンドを受ける。
【0011】
最後に、代わりに又は前に説明した用途と組合せて、このようなガラスシートはまた、LIDARセンサー自体のカバーレンズとして非常に有用であろう。従来のカバーレンズは、適した赤外透過を提供するが耐久性に関して非常に不十分であるプラスチックから製造される。プラスチックは全く不十分な機械的及び化学的耐性を提供する。根本的に、ガラスは、その機械的特性、その耐久性、その耐引掻性の結果として且つまた、必要とされるならば、化学的に又は熱的に強化されることができるので、好ましい材料である。さらに、プラスチックと比較して、ガラスは、そのより高い融点及びより低いCTEのために、加熱されるときに、すなわち自動車用途においてデフロストシステムと組み合せられるときに、いっそう適している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明はとりわけ、先行技術の言及された欠点を克服する目的を有する。
【0013】
より正確には、本発明の1つの目的は、(i)シートの耐性特性を低下させないままで、非常に低い可視透過率と共に(ii)環境及び健康のリスクを抑えた、850~950nmの領域において高い近赤外透過率を有するケイ酸塩タイプのガラスシートを提供することである。
【0014】
特に、本発明の目的は、付加的な黒色/不透明色層/フィルムを必要とせずにそれによってその固有の特性のために、(i)非常に低い可視透過率と共に、(ii)低量の六価クロム、Cr6+を有する、850~950nmの範囲において高い近赤外透過率を有するケイ酸塩タイプのガラスシートを提供することである。
【0015】
本発明の別の目的は、製造が簡単で且つ安価である、先行技術の不利な点に対する解決策を与えることである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、ケイ酸塩タイプのガラスシートであって、
ガラスの全重量による、重量パーセンテージとして表される含有量において、
- 全鉄(Feとして表される) 0.04~1.7%、
- クロム(Crとして表される) 0.05~0.8%、
- コバルト(Coとして表される) 0.03~0.175%、
を含み、且つ:
- Cr<1-5.5*Co、
- 0.5<Cr/Fe≦1.2
の組成物を有するケイ酸塩タイプのガラスシートに関する。
【0017】
したがって、本発明は、先行技術の不利な点に対する解決策を見出すことを可能にするので、新規で創意に富んだ方法である。クロムと全鉄との比を狭い範囲で、注意深く調節しながら鉄ベースのガラス母材中に、クロム及びコバルトを特定の量において使用することによって、(i)非常に低い固有可視透過率、(ii)850~950nm領域の高い近赤外透過率及び(iii)低量のCr6+種を同時に示すガラスシートを得ることが可能であることを本発明者は確かに見出した。
【0018】
使用される出発材料の大部分において不純物となっている本質的に或る量の鉄を含有するソーダ石灰ケイ酸塩ガラスにおいて赤外域の高い透過率を得るために、ガラス中の第一鉄Fe2+イオンの量を最大に低減させることが公知である。確かに、ソーダ石灰ケイ酸塩ガラス中の第一鉄イオン(酸化物FeOとして表される場合がある)は、1050nmを中心とするそれらの幅の広い吸収バンドのために近赤外域において吸収する。公知のクロム含有低鉄ガラスにおいて、高い近赤外透過率を得るために全てのFe2+をFe3+に酸化するように適合された量でクロムを添加する。ガラスのための典型的な強力着色剤としてクロムは何年も前から知られているが、ガラスのクロム含有量を完全に酸化された鉄に必要とされる閾値よりもさらに増加させると、国際公開第2015/091106号パンフレットに記載されているように、Fe2+がゼロ量であるため高いレベルの赤外透過率を維持しながら可視透過率の著しい減少をもたらす。しかしながら、それらのガラスにおいて、組成物中のCr6+の量は高い(300ppm超)。鉄分がより豊富な母材中の比Cr/Feを注意深く調節することによって(高い近赤外透過率を維持しながら)Cr6+の量を劇的に低減させることができ、最終ガラスが、低いFe2+及びCr6+濃度の両方を有するようにできることが驚くべきことに本発明者によって発見された。
【0019】
本記載及び請求の範囲において、ガラスシートの可視透過率(視感透過率(luminous transmission)/透過率(transmittance)又はTLとも呼ばれる)を定量化するために、(標準ISO9050に従って)2°の観察立体角で4mmのシートの厚さについてD65光源を使用する可視透過率(TLD4)を考える。可視透過率(TL)は、ガラスシートを通って透過される波長380nm~780nmの間で放射される輻射束のパーセンテージを表わす。
【0020】
本記載及び請求の範囲においてまた、赤外透過率を定量化するために、(標準ISO9050に従って)2°の観察立体角で4mmのシートの厚さについてこの透過率を考え、それは、ガラスシートを通って透過される近IR範囲の特定の波長すなわち850nm(T850)、900nm(T900)、及び950nm(T950)で放射される輻射束のパーセンテージを表わす。
【0021】
本発明の他の特徴及び利点は、簡単な例示的な且つ非制限的な実施例によって与えられる好ましい実施形態の以下の説明を読むことから明らかにされるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本明細書全体にわたって、範囲が示されるとき、別の方法で明示的に示される場合を除いて、端の値が含まれる。さらに、数値の範囲の全ての整数値及びサブドメイン値は、明示的に書かれるかのように明確に含まれる。また、本明細書全体にわたって、含有量の値は、別の方法で明示的に示される場合を除いて(wt%としても言及される)ガラスの全重量に対して表わされる重量パーセンテージ単位である(すなわちppm単位)。さらに、ガラス組成物が与えられるとき、これは、ガラスのバルク組成物に関する。
【0023】
本発明の意味の範囲内で「ガラス」という用語は、完全非晶質材料であることを意味すると理解され、したがって任意の結晶材料、部分的結晶材料(例えば、ガラス-結晶材料又はガラス-セラミック材料など)さえも除外する。
【0024】
本発明のガラスシートは、ガラス原材料のバッチをガラス溶融炉/タンク内で溶融する工程から出発して、次に、フロート法、延伸法、圧延法又は溶融ガラス組成物から出発してガラスシートを製造するための公知の任意の他の方法を使用して、得られた溶融ガラスを所望の形状に形成して製造されることができる。本発明の実施形態において、ガラスシートはフロートガラスシートである。「フロートガラスシート」という用語は、公知のフロートガラス法によって形成されるガラスシートを意味すると理解される。他の形成/加工処理は製造法に従うことができる。
【0025】
本発明において「ガラスシート」とは、フラットガラス、湾曲ガラス、屈曲ガラス、レンズ等のシート状形態のガラス物品を意味する。
【0026】
本発明によるガラスシートは、小さなサイズ(例えば、カバーレンズ)から、中程度のサイズ(例えば、自動車グレージング用)、非常に大きいサイズ(「DLF」又は「PLF」サイズまで)に至るまで様々なサイズを有することができる。また、本発明によるガラスシートは、目標とする用途に応じて、0.1~25mmの厚さを有することができる。好ましくは、本発明によるガラスシートは、1~8mm、より好ましくは、1.5~5mmの厚さを有する。
【0027】
本発明によると、組成物は、全鉄(Feによって表される)を次の通り0.04~1.7wt%含む。本説明において、ガラス組成物中の全鉄含有量について言及するとき、「全鉄」及び「Fe」は同様に使用され、全鉄はFeによって表される。有利な実施形態によると、組成物は全鉄≦1.5%を含む。好ましくは、組成物は全鉄≦1.2%、又はさらにより良くは≦1%を含む。別の有利な実施形態によると、組成物は全鉄≧0.06%を含む。好ましくは、組成物は全鉄≧0.08%、又はさらにより良くは≧0.1%を含む。
【0028】
本発明の実施形態によると、ガラスシートの組成物はマンガンを含有しない。本発明によると「マンガンを含有しない」とは、組成物がマンガン(MnOとして表される)≦0.02%を含むことを意味する。より好ましくは、組成物がマンガン(MnOとして表される)≦0.01%、さらに≦0.005%を含む。
【0029】
本発明の別の実施形態によると、ガラスシートの組成物はリチウムを含有しない。本発明によると「リチウムを含有しない」とは、組成物がリチウム(LiOとして表される)≦0.1%を含むことを意味する。より好ましくは、組成物がリチウム(LiOとして表される)≦0.05%、さらに≦0.01%を含む。
【0030】
本発明の別の実施形態によると、ガラスシートの組成物はバリウムを含有しない。本発明によると「バリウムを含有しない」とは、組成物がリチウム(BaOとして表される)≦0.1%を含むことを意味する。より好ましくは、組成物がバリウム(BaOとして表される)≦0.05%、さらに≦0.01%を含む。
【0031】
本発明によると、組成物は0.5<Cr/Fe≦1.2を有する。好ましくは、組成物は0.5<Cr/Fe≦1を有する。より好ましくは、組成物はCr/Fe≦0.8を有する。
【0032】
本発明によると、組成物はクロム(Crとして表される)を次の通り0.05~0.8%含む。好ましくは、組成物はクロム(Crとして表される)≦0.5%、さらにより良くは≦0.4%を含む。より好ましくは、組成物はクロム(Crとして表される)≦0.3%、さらにさらにより良くは≦0.25%を含む。好ましくは、組成物はクロム(Crとして表される)≧0.08%、さらにより良くは≧0.1%を含む。より好ましくは、組成物はクロム(Crとして表される)≧0.15%を含む。
【0033】
本発明によると、組成物はコバルト(Coとして表される)を次の通り0.03~0.175%含む。好ましくは、組成物はコバルト(Coとして表される)≦0.15%、さらに≦0.12%を含む。より好ましくは、組成物はコバルト(Coとして表される)≦0.1%を含む。
【0034】
本発明の実施形態によると、組成物は40ppm未満の(FeOの形態で表される)Fe2+含有量を含む。この範囲の含有量は、赤外線放射の透過率に関して非常に良好な特性を得ることを可能にする。好ましくは、組成物は30ppm未満、さらに20ppm未満の(FeOの形態で表される)Fe2+含有量を含む。非常に好ましくは、組成物は10ppm未満及びさらにより良くは、5ppm未満の(FeOの形態で表される)Fe2+含有量を含む。
【0035】
本発明の実施形態によると、組成物はSO含有量を次の通り0.2~0.4%含む。
【0036】
本発明の別の実施形態によると、ガラスシートは、15%未満及び好ましくは12%未満、又はさらに10%未満の可視透過率TLD4を有する。より好ましくは、ガラスシートは、8%未満、又はさらに7%未満、より良くは6%未満、又はさらにより良くは5%未満の可視透過率TLD4を有する。不透明度は、TLD4がますますいっそう減少するときに高まる。理想的には、ガラスシートは、3%未満、さらに1%未満の可視透過率TLD4を有する。TLD4が0に近づくか又は等しいときに完全な不透明に至る。
【0037】
本発明の別の実施形態によると、ガラスシートは、80%超及び好ましくは82%超の透過率T950を有する。より好ましくは、ガラスシートは、85%超及び非常に好ましくは87%超の透過率T950を有する。非常に好ましい実施形態において、ガラスシートは、90%超の透過率T950を有する。
【0038】
本発明のさらに別の実施形態によると、ガラスシートは、80%超及び好ましくは85%超の透過率T850を有する。より好ましくは、ガラスシートは、87%超及び非常に好ましくは90%超の透過率T850を有する。
【0039】
本発明のさらに別の実施形態によると、ガラスシートは、80%超及び好ましくは85%超の透過率T850を有する。より好ましくは、ガラスシートは、87%超及び非常に好ましくは90%超の透過率T850を有する。
【0040】
本発明のさらに別の実施形態によると、組成物はCr6+含有量≦60ppmを含む。好ましくは、組成物はCr6+含有量≦50ppm、さらに≦40ppmを含む。より好ましくは、組成物はCr6+含有量≦30ppm、さらに≦10ppmを含む。最も好ましい実施形態において、組成物はCr6+を含有しない。ガラス中のCr6+含有量は、公知の方法で、透過スペクトル及びカチオンの線吸収係数に基づいて計算することができる。これらの吸収係数はBamfordデータ(Bamford,C.R.(1977). Colour generation and control in Glass. Glass Science and Technology,2,pp224,Elservier Scientific Publishing Company.)に基づいている。
【0041】
本発明によるガラスシートは、フロート法、延伸法、或いは圧延法又は溶融ガラス組成物からガラスシートを製造するための公知の任意の他の方法によって得られるガラスシートであることができる。本発明による好ましい実施形態によれば、ガラスシートはフロートガラスシートである。「フロートガラスシート」という用語は、還元条件下で、溶融スズの槽上に溶融ガラスを流し込むことに存する、フロート法によって形成されるガラスシートを意味すると理解される。フロートガラスシートは、公知の方法で、「スズ面」、すなわち、シートの表面に近いガラス体のスズが豊富な面を含む。「スズが豊富」という用語は、実質的にゼロ(スズを含有しない)であってもなくてもよい、コアのガラスの組成物に対してスズの濃度の増加を意味すると理解される。
【0042】
本発明によるケイ酸塩ガラスシートは、様々なカテゴリーに属してもよいガラスから製造される。したがってガラスはソーダ石灰ケイ酸塩、アルミノケイ酸塩又はホウケイ酸塩タイプ等のガラスであることができる。好ましくは、ガラスシートの組成物は、ガラスの全重量に対して表わされる、重量パーセントで以下のものを含む:
SiO 40~78%
Al 0~18%
0~18%
NaO 0~20%
CaO 0~15%
MgO 0~10%
O 0~10%
BaO 0~5%。
【0043】
実施形態において、ガラスシートの組成物はMgO≧0.1%及び好ましくは、MgO≧0.5%を含む。
【0044】
より好ましくは、とりわけ低い製造コストの理由のために、ガラス組成物はソーダ石灰ケイ酸塩タイプのガラスである。この実施形態によれば、「ソーダ石灰ケイ酸塩タイプのガラス」とは、組成物がガラスの全重量に対して表わされる、重量パーセントで以下のものを含むことを意味する:
SiO 60~78wt%
Al 0~8wt%
0~4wt%
CaO 0~15wt%
MgO 0~10wt%
NaO 5~20wt%
O 0~10wt%
BaO 0~5wt%。
【0045】
この実施形態によると、好ましくは、ガラス組成物は、ガラスの全重量に対して表わされる、重量パーセントで以下のものを含む:
SiO 60~78wt%
Al 0~6wt%
0~1wt%
CaO 5~15wt%
MgO 0~8wt%
NaO 10~20wt%
O 0~10wt%
BaO 0~1wt%。
【0046】
本発明の別の実施形態において、組成物は、ガラスの全重量に対して表わされる、重量パーセントで以下のものを含む:
65≦SiO≦78wt%
5≦NaO≦20wt%
0≦KO<5wt%
1≦Al<6wt%
0≦CaO<4.5wt%
4≦MgO≦12wt%
(MgO/(MgO+CaO))≧0.5。
【0047】
特に、本発明による組成物のための基礎ガラス母材の実施例は、公開PCT特許出願国際公開第2015/150207A1号パンフレット、国際公開第2015/150403A1号パンフレット、国際公開第2016/091672号パンフレット、国際公開第2016/169823号パンフレット及び国際公開第2018/001965号パンフレットに記載されている。
【0048】
ガラスシートの組成物は、特に出発材料中に存在している不純物に加えて、低い比率の、添加剤(例えばガラスの溶融又は精製を助ける薬剤)又は溶融炉を構成する耐火物の溶解により生じる成分を含むことができる。
【0049】
本発明のガラス組成物はまた、本発明に関連して記載された着色剤(すなわち鉄、コバルト及びクロム)以外のいくつかの他の着色剤を、主に特定の汚染された原材料のために、不純物として含むことができる。このような不純物の例は、モリブデン、ニッケル、銅である。
【0050】
有利には、本発明のガラスシートは機械的に又は化学的に強化されてもよい。また、それは屈曲/湾曲されるか、又は一般的な方法で、(冷間曲げ、熱成形などによって)変形されて任意の所望の形態とすることができる。また、それは積層されることができる。
【0051】
本発明の一実施形態によると、本発明のガラスシートは少なくとも1つのコーティングによって被覆されることができる。このようなコーティングの例は:
- 透明且つ電気導電性薄層(すなわちSnO:F、SnO:Sb又はITO(酸化インジウムスズ)、ZnO:Al又はまたZnO:Gaに基づいた層)、
- 反射防止層、
- 耐指紋層又は指紋が移るのを低減又は防止するように処理されている、
- 審美性及び接合の改良のための黒色エナメルの配置、
- 加熱機能のためのシルバープリントの網目構造、及び/又は
- 防汚及び/又は疎水性層である。
【0052】
望ましい目標用途及び/又は特性によれば、他の層/処理は、本発明によるガラスシートの一方の面及び/又は他方の面上に堆積/実施されることができる。
【0053】
本発明のガラスシートは有利には、自動車グレージングとして、特にトリムとして使用されることができる。このような場合、自動運転車の文脈において、LIDARシステムは車内で完全に統合されることができ(それによって美的及びシステムへの損傷の防止を確実にする)、前記グレージングの内面の後ろに取り付けられる。
【0054】
したがって、本発明はまた、
- 自動車グレージングとして、好ましくはトリム要素として、又は
- LIDARセンサー用のカバーレンズとして
本発明によるガラスシートを使用することに関する。
【0055】
本発明の背景は、車統合LIDARシステムの特定の用途に関して説明されたが、本発明のガラスシートはまた、近IR範囲において、特に850~950nmに対して非常に良い性能と共に、ガラスの非常に低い透過率又は非常に強い色を必要とする任意の他の技術において有利に使用されることができる。例えば、それは、前記シートの表面上の1つ又は複数の物体(例えば、指又はスタイラス)の位置を検出するための「平面散乱検出」(PSD)又は「漏れ全内部反射」(FTIR)光学技術において価値を高めることができ、それはそのやや強い色~不透明色のため、それの後ろ/下に見出される物体/部品を部分的に又は完全に隠すことができる。
【0056】
本発明のガラスシートはまた、以下の使用例においてさらに価値を高めることができる:
(1)輻射加熱体の前に/周りに配置され、加熱体の美しくない側を(部分的に又は完全に)隠すが赤外線放射を通過させることができ、したがって前記加熱体からの良い出力を可能にする装飾用パネルとして、
(2)建築用又は装飾用スパンドレルガラスとして、
(3)一般的に使用される高価な特殊ガラスの代用品の、クッキングプレートとして(vitroceram又はborofloat又はさらにpyrex)、
(4)赤外線を必要とする技術を使用する場合もある、(「タッチパッド」として一般的に知られている)ポータブルコンピュータのポインティングデバイスとして。この場合、ガラスシートは好ましくは非常に暗色であり、実際にはさらに不透明色であり、したがってその下に置かれる電子部品を隠す、
(5)家具の前面要素として及び特に、遠隔制御可能な電気/電子器具を備え、このような器具の美しくない面を見えなくするが遠隔制御によって発せられる信号を通過させることを可能にすることが意図される家具の前面要素として。これは、家庭用電気/電子器具(テレビ、ハイファイ、DVDプレーヤー、ゲーム機等)の大部分は、近赤外域の信号を発するハウジングを使用して遠隔制御可能であるからである。しかしながら、この遠隔制御システムは、特に2つの不利な点を示す:(i)信号はしばしば、それをより低感度にする、可視領域(太陽光、照明光)の二次放射線の存在によって乱され、及び(ii)それは電気器具が遠隔制御のIR信号によって到達可能であることを必要とし、したがって需要がやはり美的理由のためにこの方向に進んでいるとしても、これらは家具製品内に見えないようにすることができない。
【0057】
本発明の実施形態はここで、本発明によらない、いくつかの比較例と一緒に、例としてだけさらに説明される。以下の実施例は、例示目的のために提供され、本発明の範囲を限定することを意図しない。
【実施例
【0058】
異なったガラスシート/試料は、本発明又は比較例に従って、全鉄、クロム、コバルトの可変量を使用して、(i)実験室内で調製されるか(「lab」)、又は(ii)計算される/シミュレートされるか(「simu」)どちらかである。
【0059】
*ガラスシートの実験室での調製のために:出発原料を粉末形態で混合して以下の表に従って酸化処理バッチ約240gを製造し、最終組成物に目標とされる含有量の関数として可変量の全鉄、クロム及びコバルトを含む出発材料をそれに添加した(鉄はすでに、少なくとも部分的には、基礎組成物の出発材料中に不純物として存在しているということが指摘される)。
【0060】
【0061】
混合物をるつぼ内に置き、次に、電気炉内で混合物の完全な溶融を可能にする温度まで加熱した。
【0062】
最後に得られた基礎ガラス組成物は次の通りであった。
【0063】
【0064】
シートの形態に成形及び加工されたそれぞれの試料の光学的特性は、150mmの直径を有する積分球を備えたPerkin Elmer Lambda950分光光度計で決定され、特に:
- ISO9050標準に従って2°の観察立体角で4mmの厚さについて及び特定の波長、すなわち850nm(T850)、900nm(T900)、及び950nm(T950)で近赤外透過率を決定した。
- ISO9050標準に従って(D65光源を使用して)2°の観察立体角で4mmの厚さについて及び380~780nmの間の波長範囲について光透過率TLもまた決定した。
【0065】
*ガラスシートのシミュレーション/計算のために:異なったガラス着色剤の光学的特性に基づいて光学的特性を計算した(当該基礎ガラス母材について測定された線形吸収係数を使用して、完全な光学スペクトルを得て目的のパラメーターを計算する)。計算において考えられる基礎ガラス母材は、実験室調製試料の場合と同じである。
【0066】
表1は、実施例1~13の組成物の特徴及び光学的特性を示す。
【0067】
実施例1~5及び13~14は比較例に相当し、他方、実施例6~12は本発明によるガラスシートに相当する。具体的には、実施例1~2(比較例)は、国際公開第WO2015/091106号パンフレットによるクロム及びコバルトを有するガラスに相当する。
【0068】
本発明による各実施例6~12は以下に達するように最適化された:
1) 近赤外線の、特に850、900及び/又は950nmにおけるその透過率を最大化して、特に80%超及びより良くは85%超の値に達すること;
そして他方
2) その可視透過率TLを最小化して、特に、<15%の値及びより好ましくは10%未満、5%未満の値に達すること(その場合にはほとんど不透明度に達する)、及び
3) 低量の六価クロム、Cr6+(特に、30ppm未満及びより良くは20ppm未満、及びさらにより良くはゼロに近づく)。
【0069】
【0070】
本発明の目的、すなわちガラスシートにおいて1)、2)及び3)を得ることは、請求項1の特徴によって表1からの結果で示されるように達することができる。